説明

セラミックグリーンシートの製造方法および製造装置

【課題】 基材上に塗布したスラリーの開放面と外周部が優先的に乾燥する現象を抑制でき、かつ、繁雑な乾燥温度分布や雰囲気の制御を必要としない、セラミックグリーンシートの製造方法および製造装置を提供すること。
【解決手段】 無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、シート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層1を形成するスラリー成形工程と、このスラリー成形工程の後に乾燥炉27内でスラリーの揮発性分散媒を蒸発させて除去する乾燥工程と、乾燥工程の後にスラリーを基材から剥離する剥離工程を有するセラミックグリーンシートの製造方法であって、スラリー成形工程では、塗膜層1に予め定めた間隔で厚さを減じた領域を設け、乾燥工程では、乾燥炉27内での揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の製造に使用されるセラミックグリーンシートの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミックグリーンシート(以下、グリーンシートと称する)を用いて作製される、インダクタ、キャパシタ、インピーダンス素子等の電子部品の小型化、軽量化、低コスト化に対する要求が強まってきている。
【0003】
グリーンシートは、必要に応じて所望の形状に切断もしくは分割され、その後焼成を行うことによって電子部品となすが、その用途に応じて薄膜状のもの、厚膜状のもの等様々あり、いずれも、ひびや亀裂、反り、内部空孔等の欠陥のない高品質なものが要求される。
【0004】
グリーンシートは、無機粉末のセラミック原料粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を均一に攪拌混合したスラリーを、ポリエチレンテレフタレートに代表される基材上に所望の厚さとなるよう塗布して塗膜層を形成した後、乾燥により、揮発性分散媒を除去して得られる。この過程において、揮発性分散媒がスラリー中に占める体積が乾燥とともに徐々に減じる結果、乾燥の末期においては、有機バインダーとセラミック原料粉末が互いに結合した、均一でかつ緻密なグリーンシートが得られる。このように、グリーンシートは、スラリーの均質性を反映した均一さと緻密さを有するため、グリーンシートを焼成して得られるセラミックを均質な組織にすることができる利点がある。
【0005】
しかしながら、基材上に塗膜層から、揮発性分散媒を乾燥により除去する過程において、乾燥が基材とは反対側の開放面から優先的に進行するため、基材側と開放面側でグリーンシート中のセラミック原料粉末の緻密化の度合いに差が生ずるという問題がある。また同時に、塗膜層の乾燥が、塗膜層領域における外周部から優先的に進行するため、例えば基材上に帯状で塗布された塗膜層幅方向両外周部と幅方向中央部において、グリーンシート中のセラミック原料粉末の緻密化の度合いに差が生じるという問題がある。このように、グリーンシート中のセラミック原料粉末の緻密化の度合いが、グリーンシート中の場所によって異なる場合、焼成後のセラミックには反りや亀裂が生じやすくなり、品質の劣化をもたらす。
【0006】
また、揮発性分散媒の乾燥過程において、基材上の塗膜層外周部が優先的に乾燥する場合、外周部が基材上に固着して収縮を開始した時点において、基材上の塗膜層中央部は未乾燥で流動性を有したままの状態であるため、中央部のスラリーは、外周部により引きずられるように移動する傾向が生ずる。このため、乾燥後のグリーンシートにひびが生じやすくなり、品質の劣化をもたらす。
【0007】
更に、グリーンシートのひびの発生頻度と成形厚さには相関があり、厚さが増す程、ひびが生じやすい傾向にある。
【0008】
従来、このような問題点には次のように対処していた。特許文献1においては、基材上に連続的に帯状に塗布した塗膜層幅方向中央部の乾燥加熱量を、幅方向両外周部の乾燥加熱量よりも相対的に大きくするように構成した乾燥装置を用いることによって、本来塗膜層が幅方向両外周部から優先的に乾燥しようとする傾向を緩和していた。
【0009】
また、特許文献2においては、揮発性分散媒をバブリングによってグリーンシート乾燥ゾーン内に導入し、塗膜層開放面と外周部が優先的に乾燥することを抑制する技術が開示されている。
【0010】
また、特許文献3においては、乾燥を行う気流を、基材が移動する方向と反対方向に向かって流し、また、基材が移動する方向に向かうほど、グリーンシート乾燥温度を高くすることにより、乾燥を行う気流中における揮発性分散媒の含有量が乾燥初期において高くなるようにして、乾燥初期にグリーンシート表面が優先的に乾燥することを抑制する技術が開示されている。
【0011】
更に、特許文献4においては、スラリーを抵抗加熱層上の剥離性を有するフィルム上に塗布して、抵抗加熱層を発熱させて乾燥させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−271366号公報
【特許文献2】特開平5−301205号公報
【特許文献3】特開2004−90466号公報
【特許文献4】特開2010−269486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1のような乾燥加熱方法では、幅方向に不連続な加熱量の変化が生じやすいため、乾燥後のグリーンシート上に、加熱量が変化する位置に対応する縞や筋が生ずる他、幅方向の温度分布を安定化させる制御が困難であるという問題があった。特許文献2のような乾燥の不均一性を緩和する機構をもってしても、依然として塗膜層開放面と外周部が優先的に乾燥する現象が生ずるという問題があった。また、特許文献3では、揮発性分散媒の含有量を能動的かつ安定的に制御することが困難であるほか、このような乾燥の不均一性を緩和する機構をもってしても、依然として塗膜層開放面と外周部が優先的に乾燥する現象が生ずるという問題があった。特許文献4では、抵抗加熱層の発熱により乾燥を行っているので、製造装置の構造が複雑になるという問題があった。
【0014】
更に、基材上の塗膜層を乾燥させて得られるグリーンシートの製造方法においては、塗膜層基材側の面と、基材とは反対側の開放面における乾燥の進行過程を完全に同一とすることは事実上不可能である。ほとんどの場合、乾燥後のグリーンシートは、基材とは反対側の開放面に向かって凹となるように反る傾向がある。加えて、乾燥後に平坦なグリーンシートが得られた場合であっても、当該グリーンシートの開放面側の表面近くでは、セラミック粉末の充填率が相対的に低下している場合がほとんどである。以上の二つの理由により、グリーンシートを焼成したセラミックは、グリーンシート乾燥時の基材とは反対側の開放面に向かって凹となる方向に反る傾向があり、これを回避することはきわめて困難であった。
【0015】
従って、これらの従来技術の実現に際しては、塗膜層乾燥時の温度や湿度を能動的かつ安定的に制御することが困難であった。よって、グリーンシートのひびの抑制効果が十分ではなく、かつ、ひびがグリーンシートの中央部に発生しやすい、特にスラリー成形厚には相関があり、厚さが増す程、ひびが生じやすい傾向にあった。ひびが生じた場合に歩留まりの大幅な低下につながっていた。また、グリーンシートを焼成した後のセラミックシートの反りの低減効果が十分ではなかった。
【0016】
そこで本発明では、基材上の塗膜層開放面と外周部が優先的に乾燥する現象を抑制でき、かつ、繁雑な乾燥温度分布や雰囲気の制御を必要としない、セラミックグリーンシートの製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明は、スラリー成形工程で塗膜層に予め定めた間隔で厚さを減じた領域を設け、乾燥工程で乾燥炉内での揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を設けたもの、または、スラリー成形工程で塗膜層面に予め定めた間隔で乾燥防止部材を配置し、乾燥炉内での揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を設けたものである。更に、スラリーを、剥離強度が異なる部分を有するシート状の基材の上に塗布し、乾燥工程で乾燥炉内での揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を設けたものである。
【0018】
すなわち、本発明によれば、無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、シート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層を形成するスラリー成形工程と、前記スラリー成形工程の後に乾燥炉内で前記スラリーの前記揮発性分散媒を蒸発させて除去する乾燥工程と、前記乾燥工程の後に前記スラリーを基材から剥離する剥離工程を有するセラミックグリーンシートの製造方法であって、前記スラリー成形工程では、前記塗膜層に予め定めた間隔で厚さを減じた領域を設け、前記乾燥工程では、前記乾燥炉内での前記揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を設けたことを特徴とするセラミックグリーンシートの製造方法が得られる。
【0019】
また、本発明によれば、無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、シート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層を形成するスラリー成形工程と、前記スラリー成形工程の後に乾燥炉内で前記スラリーの前記揮発性分散媒を蒸発させて除去する乾燥工程と、前記乾燥工程の後に前記スラリーを基材から剥離する剥離工程を有するセラミックグリーンシートの製造方法であって、前記スラリー成形工程では、前記塗膜層面に予め定めた間隔で乾燥防止部材を配置して、前記乾燥工程では、前記乾燥炉内での前記揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を設けたことを特徴とするセラミックグリーンシートの製造方法が得られる。
【0020】
また、本発明によれば、無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、剥離強度が異なる部分を有するシート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層を形成するスラリー成形工程と、前記スラリー成形工程の後に乾燥炉内で前記スラリーの前記揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を設けて蒸発させて除去する乾燥工程と、前記乾燥工程の後に前記スラリーを基材から剥離する剥離工程を有することを特徴とするセラミックグリーンシートの製造方法が得られる。
【0021】
また、本発明によれば、前記基材は、2つの部材からなり、シート状の第一の部材の上に予め定めた間隔で四角形に打ち抜いた部分を有するシート状の第二の部材を重ね合わせて構成することを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造方法が得られる。
【0022】
また、本発明によれば、前記第一の部材の剥離強度が前記第二の部材の剥離強度より高いことを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造方法が得られる。
【0023】
また、本発明によれば、前記除去速度を調整する手段は、少なくとも一面に蒸発した前記揮発性分散媒が通過する第一の開口部を備えるとともに、塗膜層が形成された前記基材が通過する第二および第三の開口部を備える筐体からなり、予め定めた開口率を有する前記第一の開口部に除去速度調整部材を取り付けて構成したことを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造方法が得られる。
【0024】
また、本発明によれば、前記第一の開口部が、開口率20%以上50%以下であることを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造方法が得られる。
【0025】
また、本発明によれば、前記除去速度調整部材が、目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)以下10メッシュ(篩目開き=1.70mm)以上の金網であることを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造方法が得られる。
【0026】
また、本発明によれば、前記スラリー成形工程において、スラリー成形厚の最大厚さが、0.3mm以上1.5mm以下であることを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造方法が得られる。
【0027】
また、本発明によれば、前記スラリー成形工程において、前記塗膜層の表面に塗布の方向と直交する方向の段差を設けることを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造方法が得られる。
【0028】
また、本発明によれば、前記塗膜層の最大厚さは、前記塗膜層の最小厚さの2倍以下であることを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造方法が得られる。
【0029】
また、本発明によれば、無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、シート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層を形成するスラリー成形部と、前記スラリー成形部の後に前記スラリーの前記揮発性分散媒を蒸発させて除去する乾燥炉と、前記乾燥炉の後に前記スラリーを基材から剥離する剥離部を有するセラミックグリーンシートの製造装置であって、前記スラリー成形部は、前記塗膜層に予め定めた間隔で厚さを減じた領域を設け、前記乾燥炉内での前記揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を備えることを特徴とするセラミックグリーンシートの製造装置が得られる。
【0030】
また、本発明によれば、無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、シート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層を形成するスラリー成形部と、前記スラリー成形部の後に前記スラリーの前記揮発性分散媒を蒸発させて除去する乾燥炉と、前記乾燥炉の後に前記スラリーを基材から剥離する剥離部を有するセラミックグリーンシートの製造装置であって、前記スラリー成形部は、前記塗膜層面に予め定めた間隔で乾燥防止部材を配置して、前記乾燥炉内での前記揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を備えることを特徴とするセラミックグリーンシートの製造装置が得られる。
【0031】
また、本発明によれば、無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、シート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層を形成するスラリー成形部と、前記スラリー成形部の後に前記スラリーの前記揮発性分散媒を蒸発させて除去する乾燥炉と、前記乾燥炉の後に前記スラリーを基材から剥離する剥離部を有するセラミックグリーンシートの製造装置であって、前記スラリー成形部内に、前記基材として、2つのシート状の部材を重ね合わせる機構と、前記乾燥炉内での前記揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を備えることを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造装置が得られる。
【0032】
また、本発明によれば、前記除去速度を調整する手段は、少なくとも一面に蒸発した前記揮発性分散媒が通過する第一の開口部を備えるとともに、塗膜層が形成された前記基材が通過する第二および第三の開口部を備える筐体を前記乾燥炉内に配し、前記第一の開口部に予め定めた開口率を有する除去速度調整部材を取り付けて構成することを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造装置が得られる。
【0033】
また、本発明によれば、前記第一の開口部が、開口率20%以上50%以下であることを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造装置が得られる。
【0034】
また、本発明によれば、前記除去速度調整部材が、目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)以下10メッシュ(篩目開き=1.70mm)以上の金網であることを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造装置が得られる。
【0035】
また、本発明によれば、前記スラリー成形工程において、スラリー成形厚の最大厚さが、0.3mm以上1.5mm以下であることを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造装置が得られる。
【0036】
また、本発明によれば、前記スラリー成形工程において、前記塗膜層の表面に塗布の方向と直交する方向の段差を設けることを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造装置が得られる。
【0037】
また、本発明によれば、前記塗膜層の最大厚さは、前記塗膜層の最小厚さの2倍以下であることを特徴とする上記のセラミックグリーンシートの製造装置が得られる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、基材上の塗膜層開放面と外周部が優先的に乾燥する現象を抑制でき、かつ、繁雑な乾燥温度分布や雰囲気の制御を必要とせず、亀裂、ひびおよび変形の少ない高品質なグリーンシートが得られる。また、本発明によれば、前記グリーンシートを焼成することにより、焼成後に変形、反りの少ない高品質なセラミックシートの提供が可能となる。これら発明の効果について以下より詳しく説明する。
【0039】
本発明の、塗膜層に予め定めた間隔で厚さを減じた領域を設けたり、塗膜層面に予め定めた間隔で乾燥防止部材を配置したりすることにより、矩形状に形成された塗膜層中央部と、厚さを減じた領域や乾燥防止部材を配置した部分が、異なる速度で乾燥するようになる。この結果、基材面上における塗膜層の乾燥収縮に際するスラリーの移動において、矩形状に形成された塗膜層中央部のスラリーが、均一に引きつけられる傾向となる。このため、基材上の塗膜層を乾燥して得られるグリーンシートにおいて、仮にひびが入ったとしても、予め定めた箇所に発生し、グリーンシート中央部にはひびが生じなくなる。
【0040】
また、本発明の剥離強度を有する第一の部材の上に予め定めた間隔で四角形に打ち抜いた部分を有する剥離強度を有する第二の部材を重ね合わせて構成した基材とすることにより、四角形に形成された塗膜層中央部が優先的に乾燥することになる。前記第一の部材の剥離強度と前記第二の部材の剥離強度が異なり、前記第一の部材の剥離強度が前記第二の部材の剥離強度より高い値であることが好ましい。この結果、基材面上における塗膜層の乾燥収縮に際するスラリーの移動において、剥離強度の高い中央部に配置した部材と剥離強度の低い外周部に配置した部材も間において、形成された塗膜層中央部に外周部のスラリーが均一に引きつけられる傾向となる。また、乾燥収縮により剥離強度の低い基材上の外周部にある塗膜層は、固着した状態を保とうとするが引っ張られてストレスが生じ、段差や亀裂が形成される。このため、基材上の塗膜層を乾燥して得られるグリーンシートにおいて、仮にひびが入ったとしても、剥離強度の高い部材と剥離強度の低い部材の境界に発生し、グリーンシート中央部にはひびが生じなくなる。
【0041】
更に、本発明の乾燥抑制を目的とする筺体を乾燥炉内に設置することによって、塗膜層から蒸発した揮発性分散媒が塗膜層周辺に留まることになるため、塗膜層周囲の雰囲気中における揮発性分散媒の濃度を高めることができる。このことにより、形成された塗膜層の内部と表面における乾燥の度合いの差が小さくなり、当該塗膜層を乾燥して得られるグリーンシートにおいて、基材面側と開放面側における緻密化の度合いの差を減少させることができる。これにより、グリーンシートを焼成して得られるセラミックシートの反りを低減できる。
【0042】
従来、スラリー乾燥ゾーン周囲における揮発性分散媒の濃度を高めるために、バブリング等の設備がグリーンシートの製造装置において必要であったが、本発明の構成によれば、そのような設備を必要としない。
【0043】
また、基材上の塗膜層は、乾燥炉内において乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に開口部を設けることで塗膜層中央部が先に乾燥する。従って、外周部の乾燥による基材への固着の防止をより確実にすることができ、塗膜層中央部に外周部のスラリーが引きつけられる際に、塗膜層外周部においてひびが発生する傾向を抑制することができる。さらに、加工せずに最終製品のセラミックシートを得るために、塗膜層の表面に段差を設けてグリーンシートを作製した場合においても、ひびの発生が無くなり、工数、コストの削減することができる。
【0044】
従来は、塗膜層の外周部が先に乾燥することにより、外周部と中央部の成膜厚さに差が発生していた。本発明においては、塗膜層中央部と外周部が均一に乾燥、収縮されるため成膜厚さのばらつきを改善することができる。
【0045】
また、乾燥炉の雰囲気中に於ける揮発性分散媒の濃度を高めることができる結果、グリーンシートの基材面側と開放面側の緻密化の度合いの差をさらに減少させることができ、グリーンシートを焼成して得られるセラミックシートの反りはさらに低減する。
【0046】
ところで従来、基材上に塗膜層を形成し、乾燥させる方法を用いた場合、グリーンシートを焼成したセラミックシートは、グリーンシート乾燥時の基材とは反対側の開放面に向かって凹となる方向に反る傾向がある。これは、殆どの場合、グリーンシートの開放面側の表面近くで、セラミック粉末の充填率が相対的に低下しているためである。乾燥後に平坦なグリーンシートが得られた場合であっても、前記セラミック粉末の充填率の相対的な低下が内在しているため、グリーンシートを焼成して得たセラミックシートにおいて、グリーンシート乾燥時の基材とは反対側の開放面に向かって凹となる方向に反る傾向を回避することはきわめて困難であった。
【0047】
ここで、本発明の製造装置を用いて製造したグリーンシートは、乾燥後に、開放面に向かって凸となる形状とすることができる。乾燥後のグリーンシートが開放面に向かって凸となる場合の曲率は、揮発性分散媒を蒸発させる速度がより緩慢となる条件、すなわち、乾燥温度が低いほど、もしくは、塗膜層周辺の雰囲気における揮発性分散媒の濃度が高いほど強まる。
【0048】
上記のごとく、本発明においては、乾燥後のグリーンシートを開放面に向かって凸となる形状にすることが可能であり、かつ、凸となる曲率を制御できる。この性質と、焼成後のセラミックシートが開放面側に凹となる形状に反る性質を相殺させることにより、高度な平坦性を有するグリーンシート焼成をしてセラミックシートを得ることができる。
【0049】
その結果、グリーンシートを焼成して得られるセラミックシートにおいて、焼成後の反りが従来と比較して顕著に小さくなり、かつ、ひびが発生しにくいセラミックシートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明によるスラリーをシート状の基材上に矩形状に、予め定めた間隔で形成した塗布膜層を示す図、図1(a)は斜視図、図1(b)はA−A断面図。
【図2】本発明によるスラリーをシート状の基材の長手方向に予め定めた間隔で垂直な溝を設けて段差を形成した塗布膜層を示す図、図2(a)は斜視図、図2(b)はB−B断面図。
【図3】本発明によるスラリーをシート状の基材上に矩形状に形成した塗布膜層面に、予め定めた間隔で乾燥防止部材を配置した塗布膜層を示す図、図3(a)は斜視図、図3(b)はC−C断面図。
【図4】本発明によるシート状の基材の長手方向に予め定めた間隔で垂直な溝を設けて段差を形成したグリーンシートの製造に用いたドクターブレード装置によるスラリー成形部を示す説明図。
【図5】本発明によるスラリーを第一の部材の上に予め定めた間隔で四角形に打ち抜いた部分を有する第二の部材を重ね合わせて構成した基材に形成した塗膜層を示す図、図5(a)は斜視図、図5(b)はD−D断面図。
【図6】本発明による第一の部材の上に予め定めた間隔で四角形に打ち抜いた部分を有する第二の部材を重ね合わせて構成した基材を示す図。
【図7】本発明によるスラリーを第一の部材の上に予め定めた間隔で四角形に打ち抜いた部分を有する第二の部材を重ね合わせて構成した基材に形成したグリーンシートの製造に用いたドクターブレード装置によるスラリー成形部を示す説明図。
【図8】本発明によるグリーンシートの製造に用いた乾燥炉の構成図。
【図9】本発明によるグリーンシートの製造に用いた乾燥抑制用筐体上部の模式図、図9(a)は筐体上部の第一の開口部の開口率が20%の模式図、図9(b)は筐体上部の第一の開口部の開口率が60%の模式図。
【図10】本発明によるグリーンシートの製造に用いたドクターブレードの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0052】
セラミックスラリーは、以下の工程により得られる。揮発性分散媒としては、純水を用いる。主原料である無機粉末のセラミック原料粉末の質量を決定した後、所定のアクリル酸とアクリル酸エステルとノニオン性アクリレートを共重合させたアクリルバインダー、ウレタン変性ポリエーテル、ポリカルボン酸重合体のアンモニウム塩、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤および純水を混合してバインダー水溶液を得る。
【0053】
しかる後、前記決定された質量のセラミック原料粉末に、前記バインダー水溶液を添加して、減圧雰囲気とすることが可能な混合機で、混合、攪拌することにより所望のセラミックスラリーが得られる。減圧雰囲気としては、5kPa以上10kPa以下が好ましい。また、混合機としては、プラネタリーミキサーやニーダー、ボールミル、ホモジナイザー等を用いることができる。
【0054】
アクリルバインダーとしては、アクリル酸、アクリル酸エステル、ノニオン性アクリレートを共重合したものが好ましく、添加量としては、セラミック原料粉末の質量に対して、2.0質量%以上25.0質量%以下の範囲内が好ましい。
【0055】
ウレタン変性ポリエーテルの添加量としては、セラミック原料粉末の質量に対して、0.1質量%以上15.0質量%以下の範囲内が好ましい。
【0056】
ポリカルボン酸重合体のアンモニウム塩の添加量としては、セラミック原料粉末の質量に対して、0.2質量%以上8.0質量%以下の範囲内が好ましい。
【0057】
ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤の添加量としては、セラミック原料粉末の質量に対して、0.01質量%以上5.00質量%以下の範囲内が好ましい。また、純水の添加量としては、10質量%以上30質量%以下の範囲が好ましい。
【0058】
スラリーを基材上に塗布した塗膜層について、説明する。図1は、本発明によるスラリーをシート状の基材上に矩形状に、予め定めた間隔で形成した塗膜層を示す図、図1(a)は斜視図、図1(b)はA−A断面図である。図2は、本発明によるスラリーをシート状の基材の長手方向に予め定めた間隔で垂直な溝を設けて段差を形成した塗膜層を示す図、図2(a)は斜視図、図2(b)はB−B断面図である。図3は、本発明によるスラリーをシート状の基材上に矩形状に形成した塗膜層面に、予め定めた間隔で乾燥防止部材を配置した塗膜層を示す図、図3(a)は斜視図、図3(b)はC−C断面図である。
【0059】
図1に示すように塗膜層を基材上に形成する方法として、所望のスラリー塗布膜厚が得られるように、スラリー吐出口の開口部高さを1mmに調整した幅200mmのダイから、間歇的に吐出し、スラリー塗布部が一辺200mmの単一の正方形となるように基材2上に塗布する。このようなスラリー塗布方法は、ダイスロット方式とも称される。この方法により、図1に示すような、スラリーをシート状の基材上に矩形状に、予め定めた間隔で塗膜層1が形成される。
【0060】
また、図2に示すように、ドクターブレード法にて塗布幅を200mmに調整し、シート状に連続成形した後、基材2に塗布したスラリーを、中空棒に線状の開口部を加工した冶具により、塗布方向に200mmの等間隔で真空引きして、厚さの段差(凹形状)を形成する方法もある。この方法により、図2に示すような、スラリーをシート状の基材の長手方向に予め定めた間隔で垂直な溝を設けて段差を形成した塗膜層31が形成される。
【0061】
図2では、矩形状の段差として形状が明確に記載しているが、長手方向に収縮する際のひびを緩和するために設けた溝で、段差がある事が重要で形状は多少歪んでも乾燥上がりのひび緩和に寄与できれば良い。そのため、端面が荒れるが、エッジナイフ等で掻き落とす方法等でも行える。
【0062】
また、図3に示すように、ドクターブレード法にて塗布幅を200mmに調整し、シート状に連続成形した塗膜層41に、塗布方向に200mmの等間隔で、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリ塩化ビニリデン(PVDC)等を素材とする乾燥防止部材3の5mm幅のテープを配置した。この方法により、図3に示すような、スラリーをシート状の基材上に矩形状に形成した塗膜層面に、予め定めた間隔で乾燥防止部材3を配置した塗膜層41が形成される。
【0063】
ドクターブレード法によるスラリーを用いた塗膜層形成について、スラリーをシート状の基材の長手方向に予め定めた間隔で垂直な溝を設けて段差を形成した塗膜層を例に説明する。図4は、本発明によるシート状の基材の長手方向に予め定めた間隔で垂直な溝を設けて段差を形成したグリーンシートの製造に用いたドクターブレード装置によるスラリー成形部を示す説明図である。スラリー成形部4において、スラリー5は、ブレード6と基材2の間隔により厚さが制御され、基材2は、巻き出しロール7および巻き取りロール8によってコンベアベルトのように移動し、前記スラリー5は、均一な1mmの厚さに連続で吐出されながら成形されて塗膜層31となる。塗膜層31は、基材2上に乗って移動し、中空棒に線状の開口部を加工した冶具で構成された塗布スラリー吸引装置9が上下して、正方形となる200mmの等間隔で基材2に塗布したスラリー5を、真空引きして、厚さの段差(凹形状)を形成して図2に示すようにスラリーがシート状の基材の長手方向に予め定めた間隔で垂直な溝を設けて段差を形成した塗膜層31となる。
【0064】
次に、スラリーを基材上に塗布した塗膜層について、説明する。図5は、本発明によるスラリーを第一の部材の上に予め定めた間隔で四角形に打ち抜いた部分を有する第二の部材を重ね合わせて構成した基材に形成した塗膜層を示す図、図5(a)は斜視図、図5(b)はD−D断面図である。図6は、本発明による第一の部材の上に予め定めた間隔で四角形に打ち抜いた部分を有する第二の部材を重ね合わせて構成した基材を示す図である。図7は、本発明によるスラリーを第一の部材の上に予め定めた間隔で四角形に打ち抜いた部分を有する第二の部材を重ね合わせて構成した基材に形成したグリーンシートの製造に用いたドクターブレード装置によるスラリー成形部を示す説明図である。
【0065】
剥離強度が異なる部分を有するシート状の基材は、基材に剥離剤を塗布することにより作製可能であるが、2つの部材により剥離強度の異なる部分を有するシート状の基材を作製した例により説明する。図5、図6に示すように、巻き出しロール7から第一の部材11と第二の部材12を引き出して重ね合わせて構成した基材上に、スラリーをドクターブレード法にて塗布厚を調整して連続成形することにより塗膜層51が形成される。このとき、第一の部材11の剥離強度と第二の部材12の剥離強度が異なり、第一の部材11の剥離強度が第二の部材12の剥離強度より高い値であるような基材を選択する。第一の部材としては、剥離強度が100mN〜1000mN/25mmの基材を、第二の部材としては、剥離強度が100mN/25mm未満の基材を用いるのが望ましい。
【0066】
図7に示すように塗膜層を第一の部材11と第二の部材12を重ね合わせて構成した基材上に形成するスラリー成形部4は、所望のスラリー塗布膜厚が得られるように、回転ロールのバックアップロール14に成形するスラリー5を溜める為のスラリー溜まり15があり、基材を走行させ基材とコンマロール13との隙間より連続的にスラリー5を吐出する。塗布する幅の調整はスラリー溜まり15の大きさ(幅)で調整する。
【0067】
スラリー5はコンマロール13と、第一の部材11に第二の部材12を重ね合わせて構成した基材により厚さが制御され、第一の部材11と第二の部材12は、コンベアベルトのように移動し、スラリー5は、スラリー溜まり15より均一な厚さに連続で吐出されながら成形されて、第一の部材11と第二の部材12上に乗って移動し、塗膜層51が形成される。その後、乾燥炉で徐々に乾燥されて、グリーンシートになる。
【0068】
塗膜層を乾燥させて、グリーンシートを作製する乾燥炉について説明する。図8は、本発明によるグリーンシートの製造に用いた乾燥炉の構成図である。図9は、本発明によるグリーンシートの製造に用いた乾燥抑制用筐体上部の模式図、図9(a)は筐体上部の第一の開口部の開口率が20%の模式図、図9(b)は筐体上部の第一の開口部の開口率が60%の模式図である。この場合の開口率は、筐体上部の面積に対する筐体上部の第一の開口部24の面積の割合を表している。基材2上の塗膜層1は、乾燥炉27を通過し乾燥させてグリーンシート21となる。乾燥炉27内に設置された筐体22の上部には、塗布された塗膜層中央部が第一の開口部中央に来るように設定した第一の開口部24を配置している。筐体上部の第一の開口部24には、除去速度調整部材23として金網が設けられている。塗膜層1は、コンベアで乾燥炉27内に送られて、筐体22の基材が通過する第二の開口部25から第三の開口部26へと移動する間に乾燥されてグリーンシート21となる。乾燥炉の乾燥条件は、スラリーの作製条件、乾燥炉の条件により変化するので、適宜に最適化を行う必要がある。
【0069】
このような乾燥工程の後に、乾燥させたスラリー5を基材から剥離する剥離工程により、グリーンシート21を基材から剥離し、必要があれば、所望の形状、面積に切断加工する。
【0070】
例えば、筐体22は、塗膜層中央部の塗工幅方向に対して筐体上部の第一の開口部24の開口率を50%と設定して、除去速度調整部材23として#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)の金網を用いて、筐体上部の第一の開口部24を覆い、乾燥抑制を目的とする筐体の中心が塗膜層1の中心と一致するように設置する。篩目開きは、除去速度調整部材23の金網を#(メッシュ:インチあたりの本数)で規定したときの、基準の網の間隔寸法を表すものである。
【0071】
グリーンシートを焼成する雰囲気としては、大気中及び低酸素濃度の雰囲気中が望ましい。焼成炉としては、箱型炉や管状炉、昇降式バッチ炉、連続炉等の電気炉を用いる事が出来る。昇温速度50℃/時間以上200℃/時間以下、保持温度900℃以上1200℃以下の温度とし、保持時間2時間以上5時間以下、降温速度100℃/時間以上300℃/時間以下で焼成するのが望ましい。この工程により、焼成体のセラミックシートを得ることができる。
【0072】
塗膜層の表面に段差を設けるために、塗膜層を作製するドクターブレードについて説明する。図10は、本発明によるグリーンシートの製造に用いたドクターブレードの構成図である。図4に示したドクターブレード装置のスラリー成形部4のブレード6を、図10に示すような塗膜層の表面に塗布の方向と直交する方向の段差を設けるために、凹凸の段差を設けたブレードである段差ブレード62に変更することにより、基材2上に塗膜層の表面に塗布の方向と直交する方向の段差を設けた塗膜層61を形成することができる。乾燥炉27内に、図9に示すような、乾燥抑制を目的とした筐体22の上部に設けた除去速度調整部材23により、所望のグリーンシートを得ることができる。また、塗膜層の表面に塗布の方向と直交する方向の段差を設ける場合は、塗膜層の最大厚さは、塗膜層の最小厚さの2倍以下であることが望ましい。
【実施例】
【0073】
本発明を、具体的実施例により説明する。
【0074】
以下の実施例においては、図1〜図10および表1〜表14を用いて説明する。なお、表1〜表14において、本発明における好ましい範囲以外の例については、※印を付与し比較例としている。また、評価項目中、極めて良好なものには、◎を、良好なものには、○を、良好でないものには、×を記して判定をしている。また、総合評価としては、グリーンシートの状態とセラミックシートの状態の両方の判定が、極めて良好の場合に◎、片方が極めて良好で他方が良好の場合、あるいは、両方共に良好の場合に○、いずれかが良好でない場合に×とした。
【0075】
(実施例1)
本発明における実施例であるセラミックスラリーを用いたグリーンシートおよびグリーンシートを焼成して得られるセラミックシートについて説明する。ここではセラミックとしてフェライト粉末を用いる。
【0076】
化学式で27.5(NiO0.9CuO0.1)−23.0ZnO−49.5Feの組成を有するNi−Cu−Zn系フェライトの粉末を用意した後、アクリル酸とアクリル酸エステルとノニオン性アクリレートを共重合させた水溶性アクリルバインダーを5質量部、揮発性分散剤として純水を20質量部、他に少量の可塑剤、増粘剤を混合したバインダー水溶液を作製した。
【0077】
続いて、前記所定の質量のフェライト原料粉末に、前記のバインダー水溶液を添加して、減圧雰囲気とすることが可能な混合機を用いて混合、攪拌し、スラリーを作製した このようにして得たスラリーをドクターブレード法により塗布、成形して塗膜層を作製し、乾燥させることにより製造した。
【0078】
図4に示すように、スラリー5は、ブレード6と基材2の間隔により厚さが制御され、基材2は、2つの巻き出しロール7および巻き取りロール8によってコンベアベルトのように移動するスラリー5は、均一な厚さに連続で吐出されながら成形されて、基材2上に乗って移動し、塗膜層31が形成される。また、図8に示すように、乾燥炉27で徐々に乾燥されて、乾燥させたスラリー5を基材2から剥離する剥離工程により、グリーンシート21になる。乾燥炉27は、温度を40℃、60℃、80℃と段階的に昇温する部分と、徐冷する部分で構成される約25mの乾燥炉で、乾燥炉内のコンベアベルトの移動速度は1m/分として、約25分乾燥させた。
【0079】
ここで、上記基材2上のスラリー5の上方に、乾燥抑制のための治具を設置せずに乾燥炉で乾燥して得られるグリーンシートを、比較例1とした。
【0080】
また、乾燥炉において、塗膜層1の上方に乾燥抑制のための筐体22を設け、上部に開口部が無い治具を設置して、乾燥して得られるグリーンシートを、比較例2とした。
【0081】
乾燥抑制を目的とする筺体において筐体上部の第一の開口部24を設け、乾燥して得られたグリーンシートを、試料1とした。中央部の塗工幅方向に対して開口率50%として、筐体上部の第一の開口部24は除去速度調整部材23として目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)の金網で覆った。
【0082】
このようにして得られたグリーンシート21を評価した。また、グリーンシート21を焼成して得られたセラミックシートも評価した。なお、スラリー成膜条件は、グリーンシートの幅を200mm、厚さを1.0mmで作製した。グリ−ンシートの焼成条件は、箱型電気炉を用いて、大気中雰囲気において昇温速度100℃/時間、保持温度1000℃の温度とし、保持時間4時間、降温速度150℃/時間で焼成した。
【0083】
これらの結果を表1に示す。グリーンシートの判定は、グリーンシート中央部と外周部のシート厚さを測定し、設定シート厚さに対する中央部と外周部の厚さの差から変動率(厚さの差/設定シート厚さ×100)を求めた。グリーンシートの判定基準は、ひびが発生している場合には良好でない×として、ひびが発生してない場合には、グリーンシートの変動率が、2%以下の場合は極めて良好として◎、2%を超え5%以下であれば良好として○、5%を超える場合には良好でないとして×にした。
【0084】
セラミックシートの判定は、セラミックシートを定盤上に静置した際の高さをレーザー変位計により検知して、設定シート厚さに対する高さの最大値と最小値の差により反り(高さの最大値と最小値の差/設定シート厚さ×100)を求めた。セラミックシートの判定基準は、セラミックシートの反りが、2%以下の場合は極めて良好として◎、2%を超え5%以下であれば良好として○、5%を超える場合には良好でないとして×にした。以下の実施例においても、同様の判定基準とした。
【0085】
【表1】

【0086】
表1に示すように、比較例1においては、グリーンシートの変動率が約24%であり、乾燥後のひびも多数発生した。開放面側と外周部は不可避的に乾燥がし易く、塗膜層の乾燥収縮に際するスラリーの移動において、外周部が基材上に固着して収縮を開始した。この時点において、基材上に塗布したスラリーの中央部は未乾燥で流動性を有したままの状態であるため、塗膜層中央部のスラリーは外周部に引きずられるように移動する傾向が生じて、乾燥後のグリーンシートの中央部にひびが発生した。また、総合評価での不良率は、約8%程度であった。
【0087】
比較例2においては、グリーンシートの変動率が約12%であり、乾燥後のグリーンシートの幅方向に不規則なひびが発生した。ひびの原因としては、乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に第一の開口部を設けることで塗膜層中央部が優先的に乾燥するようになった。この結果、基材面上における塗膜層の乾燥収縮に際するスラリーの移動により、塗膜層中央部に外周部のスラリーが引きつけられる傾向となった。このため、進行方向において塗膜層外周部と同様の乾燥収縮をしようとするが、帯状に連続成形されているために、塗膜層幅方向に収縮引力の差が生じ、ひびが発生した。また、総合評価での不良率は、約5%程度であった。
【0088】
本発明にあたる試料1においては、グリーンシートの変動率が5%以下であり、総合評価での不良率は1%未満であった。
【0089】
また、セラミックシートにおける反りについては、比較例1、2においては5%を超えており、大きな反りが生じているが、試料1においては、反りは1.8%となっており、顕著な反りの低減が見られた。
【0090】
(実施例2)
次に、本発明の第2の実施例として、第一の開口部24の開口率を、塗膜層中央部の塗工幅方向に対して50%と設定した。さらに、前記第一の開口部24は、除去速度調整部材23として目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)の金網で覆った。塗膜層を図1に示すように矩形状に予め定めた間隔で形成した場合、図2に示すように予め定めた間隔で段差を形成した場合、図3に示すように予め定めた間隔で塗膜層面上に乾燥防止部材3として5mm幅のテープを配置した場合の3つの方式により作製したグリーンシートとセラミックシートを評価した。なお、成膜条件は実施例1と同様、グリーンシートの幅は200mm、厚さは1.0mmとした。焼成条件は、実施例1と同様で焼成した。
【0091】
ここで、上記基材2としてのPETフィルム上のスラリーを均一な厚さに連続で成形して得られるグリーンシートを、比較例3とした。
【0092】
また、ダイスロット方式にて、図1に示すように、スラリー吐出口の開口部高さを調整した幅200mmのダイから、間歇的に吐出し、スラリー塗布部が一辺200mmの単一の正方形となるように基材上に塗布して得られるグリーンシートを試料2とした。
【0093】
また、ドクターブレード法にて、図2に示すように、塗布幅を200mmに調整し、連続成形したした後、図4に示すように、基材に塗布したスラリーを等間隔で吸引し、成形厚さに段差(凹形状)を形成して200mmの正方形となるグリーンシートを試料3とした。
【0094】
また、ドクターブレード法にて、図3に示すように、塗布幅を200mmに調整し、連続成形したした後、等間隔で基材にポリ塩化ビニル(PVC)やポリ塩化ビニリデン(PVDC)テープを配置して、200mmの正方形となるグリーンシートを試料4、5とした。
【0095】
これらの結果を表2に示す。グリーンシートとセラミックシートの評価基準は、実施例1と同様とした。
【0096】
【表2】

【0097】
表2に示すように、比較例3においては、グリーンシートの変動率が5%以下ではあるが、乾燥後のグリーンシートの中央部に不規則なひびが発生した。ひびの原因として、乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に開口部を設けることで塗布された塗膜層中央部が優先的に乾燥するようになり、この結果、基材面上における塗膜層の乾燥収縮に際するスラリーの移動において、塗布された塗膜層中央部に外周部のスラリーが引きつけられる傾向となった。このため、進行方向において外周部と同様の乾燥収縮をしようとするが、帯状に連続成形されているために、幅方向に収縮引力の差が生じ、ひびが発生したものと推測される。また、総合評価での不良率は、3%未満であった。
【0098】
本発明にあたる試料2、3、4、5いずれにおいても、グリーンシートの変動率が5%以下であり、乾燥後のグリーンシートのひびは発生していない。また、セラミックシートにおける反りについては、試料2、3、4、5においては、1.5%以下となっており、顕著な反りの低減が見られた。また、総合評価での不良率は、1%未満であった。
【0099】
試料3は、ドクターブレード法にて塗布幅を200mmに調整し、連続成形したした後、基材に塗布したスラリーを等間隔で吸引し、成形厚さに段差(凹形状)を形成して200mmの正方形となるグリーンシートである。本実施例においては、ひびは発生しなかったが、仮にひびが入ったとしても、正方形の塗膜層中央部に外周部のスラリーが均一に引きつけられる傾向となり、段差部分による厚さの差がある箇所に発生し、グリーンシート中央部にはひびが生じないようになっている。
【0100】
試料4、5は、ドクターブレード法にて塗布幅を200mmに調整し、連続成形したした後、等間隔で塗膜層面上にポリ塩化ビニル(PVC)やポリ塩化ビニリデン(PVDC)テープを配置して、200mmの正方形となるグリーンシートとする事で、乾燥が阻止されて、テープが配置されていない部分との乾燥度合いの違いにより成形体に段差(凹形状)が形成される。本実施例においては、双方ともひびは発生しなかったが、仮にひびが入ったとしても、正方形に塗布された塗膜層の中央部に外周部のスラリーが均一に引きつけられる傾向となり、乾燥が遅くなる乾燥防止部材のテープ配置部分に発生し、グリーンシート中央部にはひびが生じないようになっている。
【0101】
(実施例3)
次に、本発明の第3の実施例として、塗膜層中央部の塗工幅方向に対して筐体上部の第一の開口部の開口率を50%と設定した。さらに、第一の開口部は除去速度調整部材の目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)の金網で覆った。スラリー成形厚さを変化させた場合のグリーンシートとグリーンシートを焼成して得られたセラミックシートを評価した。なお、成膜条件は実施例2の試料3と同様、グリーンシートの幅は、200mmであり、スラリー成形厚さを変化させて、連続成形した後、基材に塗布したスラリーを等間隔で吸引し、段差(凹形状)を形成して200mmの正方形となるグリーンシートとした。焼成条件は、実施例1と同様で焼成した。
【0102】
スラリー成形厚を0.15mm、0.30mm、1.00mm、1.50mm、1.60mmと変化させて行なった評価結果を示す。
【0103】
【表3】

【0104】
表3に示すように、比較例4においては、グリーンシートの変動率が5%以上あった。本発明の乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に開口部を設けることにより、スラリーから蒸発した揮発性分散媒がスラリー周辺に留まることになるが、スラリー成形厚が薄いために揮発性分散媒の濃度が低く、乾燥を促進してしまったと考えられる。その結果、均一に収縮する前に乾燥してしまったため、不規則な厚さの差が生じてしまうと推測される。また、総合評価での不良率は、約4%であった。
【0105】
比較例5においては、グリーンシートの変動率が5%以上と大きい。スラリー成形厚が厚い為に、筐体内で、スラリーから蒸発した揮発性分散媒がスラリー周辺に留まることになる。よって揮発性分散媒の濃度が高くなり過ぎ、乾燥を抑制してしまったと考えられる。その結果、炉内に設置した筐体内での乾燥不足となり、乾燥炉後半の熱風によって乾燥された為、中央部と外周部の収縮に差が生じてしまい、厚さの差が大きくなったと推測される。また、総合評価での不良率は、3%未満であった。
【0106】
試料4〜6の本発明にあたるスラリー成形厚0.3mm以上1.5mm以下では、グリーンシートの変動率が、2%以下と良好であった。
【0107】
また、グリーンシートを焼成して得られたセラミックシートの評価を行い、表3に示すように、スラリー成形厚が0.3mm以上1.5mm以下の範囲において反りが3%以下の良好な結果を得た。反りの大きな低減が見られた。その上、総合評価での不良率は1%未満であった。
【0108】
(実施例4)
次に、本発明の第4の実施例として、塗膜層中央部の塗工幅方向に対して筐体上部の第一の開口部の開口率を50%と設定した。さらに、第一の開口部は除去速度調整部材の目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)の金網で覆った。スラリー成形厚を変化させた場合のグリーンシートとグリーンシートを焼成して得られたセラミックシートを評価した。なお、成膜条件は実施例2の試料4、5と同様、グリーンシートの幅は、200mmであり、スラリー成形厚を変化させて、連続成形したした後、等間隔で、塗膜層面上5mm幅のポリ塩化ビニリデン(PVDC)テープを配置して、200mmの正方形とした。焼成条件は、実施例1と同様で焼成した。
【0109】
スラリー成形厚を0.20mm、0.30mm、1.00mm、1.50mm、1.60mmと変化させて行なった評価結果を示す。
【0110】
【表4】

【0111】
表4に示すように、比較例6においては、グリーンシートの変動率が5%以上あった。本発明の乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に第一の開口部を設けることにより、塗膜層から蒸発した揮発性分散媒が塗膜層周辺に留まることになるが、スラリー成形厚が薄いために揮発性分散媒の濃度が低く、乾燥を促進してしまったと考えられる。その結果、均一に収縮する前に乾燥してしまったため、不規則な厚さの差が生じてしまうと推測される。また、総合評価での不良率は、約4%であった。
【0112】
比較例7においては、グリーンシートの変動率が8%以上と大きい。成形厚さが厚い為に、筐体内で塗膜層から蒸発した揮発性分散媒が塗膜層周辺に留まることになる。よって、揮発性分散媒の濃度が高くなり過ぎ、乾燥を抑制してしまったと考えられる。その結果、炉内に設置した筐体内での乾燥不足となり、乾燥炉後半の熱風によって乾燥された為、中央部と外周部の収縮に差が生じてしまい、厚さの差が大きくなったと推測される。また、総合評価での不良率は、4%未満であった。
【0113】
試料9〜11の本発明にあたるスラリー成形厚0.3mm以上1.5mm以下では、グリーンシートの変動率が、2%以下と良好であった。
【0114】
また、グリーンシートを焼成して得られたセラミックシートの評価を行い、表4に示すように、スラリー成形厚が0.3mm以上1.5mm以下の範囲において反りが2%以下の良好な結果を得た。反りの大きな低減が見られた。その上、総合評価での不良率は1%未満であった。
【0115】
(実施例5)
次に、本発明の第5の実施例として、筐体上部の第一の開口部に設けられた除去速度調整部材の形状を変化させた場合のグリーンシートとグリーンシートを焼成して得られたセラミックシートを評価した。なお、スラリー成膜条件は、実施例1と同様で、グリーンシートの幅は200mm、厚さは1.0mmであり、ドクターブレード法にて塗布幅を200mmに調整し、連続成形した後、等間隔で基材に塗布したスラリーを吸引し、段差(凹形状)を形成して200mmの正方形となるグリーンシートとした。焼成条件は、実施例1と同様で焼成した。
【0116】
図8に示すように、乾燥炉27内に乾燥抑制を目的とした筐体22の上部に設けた第一の開口部24を覆っている除去速度調整部材23の金網の目開き条件を、#250メッシュ、#200メッシュ、#10メッシュ、#9メッシュと変えて行なった評価結果を示す。
【0117】
【表5】

【0118】
表5に示すように、比較例8においては、グリーンシートの変動率が5%以下で良好であるが、外周部にひびが発生した。基材上の塗膜層の乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に第一の開口部を設けることで、塗布スラリーの外周部の乾燥による基材への固着の防止をより確実にすることができるが、除去速度調整部材の目開き形状が小さい為に、塗布スラリーの外周部の乾燥による基材への固着の防止が出来ず、塗膜層中央部のスラリーが外周部の収縮に引きつけられる際に、塗膜層外周部においてひびが発生したものと推測される。
【0119】
また、比較例9においても、グリーンシートの変動率が4%以下で良好であるが、中央部にひびが発生した。除去速度調整部材の目開き形状が大きい為に、塗膜層中央部の乾燥が加速し、外周部のスラリーが乾燥し引きつけられる際に、塗膜層中央部においてひびが発生したものと推測される。
【0120】
本発明にあたる試料12、13いずれにおいても、グリーンシートの変動率が3%以下であり、総合評価での不良率も、1%未満であった。また乾燥後のグリーンシートのひびは発生していない。セラミックシートにおける反りについては、比較例8、9において反りは5%未満で良好であるが、試料12、13においては、反りは2%以下となっており、顕著な反りの低減が見られた。その上、総合評価での不良率は、1%未満であった。
【0121】
(実施例6)
次に、本発明の第6の実施例として、筐体上部の第一の開口部に設けられた除去速度調整部材の形状を変化させた場合のグリーンシートとグリーンシートを焼成して得られたセラミックシートを評価した。なお、スラリー成膜条件は実施例2の試料4、5と同様、グリーンシートの幅は200mm、厚さは1.0mmであり、ドクターブレード法にて塗布幅を200mmに調整し、連続成形した後、200mmの等間隔で、塗膜層面上5mm幅のポリ塩化ビニリデン(PVDC)テープを配置した。焼成条件は、実施例1と同様で焼成した。
【0122】
図8に示すように、乾燥炉27内に乾燥抑制を目的とした筐体22の上部に設けた第一の開口部24を覆っている除去速度調整部材23の金網の目開き条件を、#250メッシュ、#200メッシュ、#10メッシュ、#9メッシュと変えて行なった評価結果を示す。
【0123】
【表6】

【0124】
表6に示すように、比較例10においては、グリーンシートの変動率が5%以上で、外周部にひびが発生した。基材上の塗膜層の乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に第一の開口部を設けることで、塗布スラリーの外周部の乾燥による基材への固着の防止をより確実にすることができるが、除去速度調整部材の目開き形状が小さい為に、塗布スラリーの外周部の乾燥による基材への固着の防止が出来ず、塗膜層中央部のスラリーが外周部の収縮に引きつけられる際に、塗膜層外周部においてひびが発生したものと推測される。
【0125】
また、比較例11においても、グリーンシートの変動率が7%以上で中央部にひびが発生した。除去速度調整部材の目開き形状が大きい為に、塗膜層中央部の乾燥が加速し、外周部のスラリーが乾燥し引きつけられる際に、塗膜層中央部においてひびが発生したものと推測される。
【0126】
本発明にあたる試料14、15いずれにおいても、グリーンシートの変動率が2%以下であった。また、乾燥後のグリーンシートのひびは発生していない。セラミックシートにおける反りについては、比較例10、11において反りは5%以下で良好であるが、上述した様にひびが発生した。一方、試料14、15においては、反りは1%以下となって極めて良好であり、顕著な反りの低減が見られた。その上、総合評価での不良率は、1%未満であった。
【0127】
(実施例7)
次に、本発明の第7の実施例として、筐体上部の第一の開口部を基材上方と、塗布されたスラリーの、中央部に塗工幅方向に対して変化させた場合のグリーンシートとセラミックシートを評価した。第一の開口部は除去速度調整部材である目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)の金網で覆った。なお、成膜条件は、実施例2の試料3と同様に、セラミックシートの幅は200mm、厚さは1.0mmであり、ドクターブレード法にて塗布幅を200mmに調整し、連続成形したした後、等間隔で基材に塗布したスラリーを吸引し、段差(凹形状)を形成して200mmの正方形となるグリーンシートとした。焼成条件は、実施例1と同様で焼成した。
【0128】
筐体上部の第一の開口部の開口率を10%、20%、50%、60%と変えて行なった評価結果を示す。
【0129】
【表7】

【0130】
表7に示すように、比較例12においては、グリーンシートの変動率が約3%と小さく良好であるが、焼成後でのセラミックシートの反りが6%と大きい。筐体内で、スラリーから蒸発した揮発性分散媒がスラリー周辺に留まることになり、揮発性分散媒の濃度が高くなり過ぎて、乾燥を抑制しすぎたと考えられる。また、炉内に設置した筐体内では、乾燥不足となり、乾燥炉後半の熱風によって乾燥されたので、乾燥が基材とは反対側の開放面から優先的に進行し、基材側と開放面側でグリーンシート中のセラミック原料粉末の緻密化の度合いに差が生じてしまったと考えられる。このように、グリーンシート中のセラミック原料粉末の緻密化の度合いが、グリーンシート中の場所によって異なる場合、焼成後のセラミックシートには反りが生じやすくなる。
【0131】
比較例13においては、グリーンシートの変動率が5%以下で良好であるが、中央部にひびが発生した。第一の開口部の形状(開口率)が大きい為に、塗膜層中央部の乾燥が加速し、外周部のスラリーが乾燥し引きつけられる際に、塗膜層中央部においてひびが発生したものと推測される。
【0132】
本発明にあたる試料16、17いずれにおいても、グリーンシートの変動率が2%以下であり、乾燥後のグリーンシートのひびは発生していない。また、焼成したセラミックシートにおける反りについては、試料16、17においては、反りは2%以下となっており、顕著な反りの低減が見られた。その上、総合評価での不良率が、1%未満であった。
【0133】
(実施例8)
次に、本発明の第8の実施例として、筐体上部の第一の開口部を基材上方と、塗布されたスラリーの、中央部に塗工幅方向に対して変化させた場合のグリーンシートとセラミックシートを評価した。第一の開口部は除去速度調整部材である目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)の金網で覆った。なお、成膜条件は実施例2の試料5と同様、セラミックシートの幅は200mm、厚さは1.0mmであり、ドクターブレード法にて塗布幅を200mmに調整し、連続成形したした後、等間隔で塗膜層面上5mm幅のポリ塩化ビニリデン(PVDC)テープを配置して、200mmの正方形とした。焼成条件は、実施例1と同様で焼成した。
【0134】
筐体上部の第一の開口部の開口率を10%、20%、50%、60%と変えて行なった評価結果を示す。
【0135】
【表8】

【0136】
表8に示すように、比較例14においては、グリーンシートの変動率が約3%と小さく良好であるが、焼成後でのセラミックシートの反りが6%と大きい。筐体内で、スラリーから蒸発した揮発性分散媒がスラリー周辺に留まることになり、揮発性分散媒の濃度が高くなり過ぎて、乾燥を抑制しすぎたと考えられる。また、炉内に設置した筐体内では、乾燥不足となり、乾燥炉後半の熱風によって乾燥された為、乾燥が基材とは反対側の開放面から優先的に進行し、基材側と開放面側でグリーンシート中のセラミック原料粉末の緻密化の度合いに差が生じてしまったと考えられる。このように、グリーンシート中のセラミック原料粉末の緻密化の度合いが、グリーンシート中の場所によって異なる場合、焼成後のセラミックシートには反りが生じやすくなる。
【0137】
比較例15においては、グリーンシートの変動率が約7%と大きい上に、中央部にひびが発生した。第一の開口部の形状(開口率)が大きい為に、塗膜層中央部の乾燥が加速し、外周部のスラリーが乾燥し引きつけられる際に、塗膜層中央部においてひびが発生したものと推測される。
【0138】
本発明にあたる試料18、19いずれにおいても、グリーンシートの変動率が約1%以下であり、乾燥後のグリーンシートのひびは発生していない。また、焼成したセラミックシートにおける反りについては、試料18、19においては、反りは2%以下となっており、顕著な反りの低減が見られた。その上、総合評価での不良率が、1%以下であった。
【0139】
(実施例9)
次に本発明の第9の実施例として、図7に示すように、スラリー5はコンマロール13と、の剥離強度を有する第一の部材11上に、正方形または長方形の塗布面積が400cm以下となる様に等間隔で四角形に抜いた剥離強度を有する第二の部材12を重ね合わせて構成した基材を使用した。第一の部材としては、剥離強度が100mN〜1000mN/25mmの東洋紡エステルフィルム オフライン加工品 E 7002(東洋紡製)を、第二の部材としては、剥離強度が100mN/25mm未満の東洋紡エステルフィルム E5007(東洋紡製)を、用いておこなった。以降の実施例では、上記の基材を用いて行った。基材との間隔により厚さが制御され、第一の部材11と第二の部材12で構成された基材は、コンベアベルトのように移動し、前記スラリー5は、均一な厚さに連続で吐出されながら成形されて、第一の部材11と第二の部材12で構成された基材上に乗って移動し、塗膜層51が形成される。また、図8に示すように、乾燥炉27で徐々に乾燥されて、乾燥させたスラリー5を第一の部材11と第二の部材12で構成された基材から剥離する剥離工程により、グリーンシート21になる。乾燥炉27は、温度を40℃、60℃、80℃と段階的に昇温する部分と、徐冷する部分で構成される約25mの乾燥炉で、乾燥炉内の基材走行速度は1m/分として、約25分乾燥させた。
【0140】
ここで、前記基材2上のスラリー5の上方に、乾燥抑制のための治具を設置せずに乾燥炉で乾燥して得られるグリーンシートを、比較例16とした。
【0141】
また、乾燥炉において、塗膜層51の上方に、乾燥抑制のための筐体22を設け、上部に開口部が無い治具を設置して、乾燥して得られるグリーンシートを、比較例17とした。
【0142】
乾燥抑制を目的とする筺体において筐体上部の第一の開口部24を設け、乾燥され得られたグリーンシートを、試料20とした。中央部の塗工幅方向に対して開口率50%として、筐体上部の第一の開口部24は除去速度調整部材23として目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)の金網で覆った。
【0143】
このようにして得られたグリーンシート21を評価した。また、グリーンシート21を焼成して得られたセラミックシートも評価した。なお、スラリー成膜条件は、グリーンシートの幅を200mm、厚さを、0.8mmとして作製した。グリーンシートの焼成条件は、箱型電気炉を用いて、大気中雰囲気において昇温速度100℃/時間、保持温度1000℃の温度とし、保持時間4時間、降温速度150℃/時間で焼成した。
【0144】
グリーンシートの乾燥条件を変化させて行った結果を示す。
【0145】
【表9】

【0146】
表9に示すように、比較例16においては、グリーンシートの変動率が約10%もあり、乾燥後のひびも多数発生した。開放面側と外周部は不可避的に乾燥がし易く、塗膜層の乾燥収縮に際するスラリーの移動において、外周部が基材上に固着して収縮を開始した。基材上に塗布したスラリーの中央部は未乾燥で流動性を有したままの状態であるため、塗膜層中央部のスラリーは外周部から引きずられるように移動する傾向が生じ、このため、乾燥後のグリーンシートの中央部にひびが発生した。また、総合評価での不良率は、約10%程度であった。
【0147】
比較例17においては、グリーンシートの変動率が約8%もあり、乾燥後のグリーンシートの幅方向に不規則なひびが発生した。ひびの原因として、乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に第一の開口部を設けることで塗膜層中央部が優先的に乾燥するようにした。この結果、基材面上における塗膜層の乾燥収縮に際するスラリーの移動が、塗膜層中央部に外周部のスラリーが引きつけられる傾向となり、進行方向において塗膜層外周部と同様の乾燥収縮をしようとするが、帯状に連続成形されているために、塗膜層幅方向に収縮引力の差が生じ、ひびが発生した。また、総合評価での不良率は、約5%であった。
【0148】
本発明にあたる試料20においては、グリーンシートの変動率が約5%以下であり、総合評価での不良率は、1%未満であった。
【0149】
また、セラミックシートにおける反りについては、比較例16、17においては5%を超えており、大きな反りを生じているが、試料20においては、反りは1.8%となっており、顕著な反りの低減が見られた。
【0150】
(実施例10)
次に、本発明の第10の実施例として、図8において、筐体上部の第一の開口部24を塗膜層中央部の塗工幅方向に対して第一の開口部の開口率を50%と設定して、前記第一の開口部は除去速度調整部材23として目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)の金網で覆った。塗膜層を塗布する基材は、第一の部材11の上に、等間隔で正方形の塗布面積が400cm以下となる四角形に打ち抜いた第二の部材12を重ね合わせて構成した基材に、スラリーを塗布して得られたグリーンシートとそれを焼成したセラミックシートを評価した。なお、成膜条件は、グリーンシートの幅は200mm、厚さは1.0mmとした。焼成条件は、実施例9と同様で焼成した。
【0151】
ここで、第一の部材上に塗膜層51を成形し、乾燥炉で乾燥して得られるグリーンシートを、比較例18とした。
【0152】
また、第二の部材上に塗膜層51を成形し、乾燥炉で乾燥して得られるグリーンシートを、比較例19とした。
【0153】
これらの結果を表10に示す。グリーンシートとセラミックシートの評価基準は実施例1と同様とした。
【0154】
【表10】

【0155】
表10に示すように、比較例18においてはグリーンシートの変動率が5%以下で、乾燥後のひびは不規則に発生した。第一の部材上に塗膜層を成形させた際、乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に開口部を設けることで塗布されたスラリーの中央部が優先的に乾燥するようになり、基材面上におけるスラリーの乾燥収縮に際するスラリーの移動において、塗布されたスラリーの中央部に外周部のスラリーが引きつけられる傾向となる。しかし、塗膜層は厚さ方向に対して保形しようとするが、剥離強度が低い基材上ではスラリーを弾いてしまう傾向があり、形状を保つことができず、基材外周部より崩れてしまう。この傾向は、厚さが増すほど謙虚に生じ、外周部の厚さにばらつきが発生し、乾燥収縮の際の引きつけられる力が均一でない為に、厚さが薄くなってしまった箇所に、ひびが発生してしまう。また、総合評価での不良率は、約5%であった。
【0156】
また、比較例19においては、第一の部材上に塗膜層を成形させた際、乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に開口部を設けることで塗布されたスラリーの中央部が優先的に乾燥するようになり、基材面上におけるスラリーの乾燥収縮に際するスラリーの移動において、塗布されたスラリーの中央部に外周部のスラリーが引きつけられる傾向となる。しかし、塗膜層は塗膜層中央部に乾燥収縮しようとするが剥離強度が低い為に、移動することができず、基材上で固定されてしまう。よって、乾燥過程において未乾燥で流動性を有したままの状態な箇所に、ひびが発生してしまう。また、総合評価での不良率は、約12%であった。
【0157】
本発明にあたる試料21においては、グリーンシートの変動率が約3%であり、乾燥後のひびの発生は無かった。また、焼成したセラミックシートにおける反りについては、2%以下となっており、顕著な反りの低減が見られた。その上、総合評価での不良率は、1%以下であった。
【0158】
ドクターブレード法にて塗工幅を200mmに調整し、塗膜層を第一の部材11の上に等間隔で200mmの正方形に打ち抜いた部分を有する第二の部材12を重ね合わせて構成した基材上に、塗布されて得られたグリーンシートにおいては、乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に開口部を設けることで塗布されたスラリーの中央部が優先的に乾燥するようになる。基材面上におけるスラリーの乾燥収縮に際するスラリーの移動において、塗布されたスラリーの中央部に外周部のスラリーが引きつけられる傾向となる。剥離強度が低い部材の塗膜層は、自由に乾燥収縮することができるが、剥離強度の高い部材の塗膜層は基材上で固定される。本実施例においては、ひびは発生しなかったが、仮にひびが入ったとしても、剥離強度が高い部材と剥離強度が低い部材の境目部分に応力の差が生じ、ひびが発生しやすくなり、グリーンシート中央部にはひびが生じないようになっている。
【0159】
(実施例11)
次に、本発明の第11の実施例として、筐体上部の第一開口部を基材上方と、塗布されたスラリーの、中央部に塗工幅方向に対して変化させた場合のグリーンシートとセラミックシートを評価した。第一の開口部は除去速度調整部材の目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)の金網で覆った。図6、図7に示すように、塗膜層を第一の部材11の上に等間隔で200mmの正方形に打ち抜いた部分を有する第二の部材12を重ね合わせた基材上に塗膜層51を成形し、なお、成膜条件は、グリーンシートの幅は200mm、厚さは1.0mmであった。焼成条件は、実施例9と同様で焼成した。
【0160】
筐体上部の第一の開口部の開口率を、図9に示すように、10%、20%、50%、60%と変化させて行った評価を示す。
【0161】
【表11】

【0162】
表11に示すように、比較例20においては、グリーンシートの変動率が約3%と小さく良好であるが、焼成後でのセラミックシートの反りが6%と大きい。筐体内で、スラリーから蒸発した揮発性分散媒がスラリー周辺に留まることになり、揮発性分散媒の濃度が高くなり過ぎたため、乾燥を抑制しすぎたと考えられる。また、炉内に設置した筐体内での乾燥不足となり、乾燥炉後半の熱風によって乾燥された為、乾燥が基材とは反対側の開放面から優先的に進行し、基材側と開放面側でグリーンシート中のセラミック原料粉末の緻密化の度合いに差が生じてしまったと考えられる。このように、グリーンシート中のセラミック原料粉末の緻密化の度合いが、グリーンシート中の場所によって異なる場合、焼成後のセラミックシートには反りが生じやすくなる。
【0163】
比較例21においては、グリーンシートの変動率が約7%であり、中央部にひびが発生した。第一の開口部の形状(開口率)が大きい為に、塗膜層中央部の乾燥が加速し、外周部のスラリーが乾燥し引きつけられる際に、塗膜層中央部においてひびが発生したものと推測される。
【0164】
本発明にあたる試料22、23いずれにおいても、グリーンシートの変動率が約1%であり、乾燥後のグリーンシートのひびは発生していない。また、焼成したセラミックシートにおける反りについては、試料22、23においては、反りは2%以下となっており、顕著な反りの低減が見られた。その上、総合評価での不良率が、1%以下であった。
【0165】
(実施例12)
次に、本発明の第12の実施例として、筐体上部の第一開口部に設けられた除去速度調整部材の形状を変化させた場合のグリーンシートとセラミックシートを評価した。なお、成膜条件は、グリーンシートの幅は200mm、厚さは1.0mmであり第一の部材11の上に等間隔となる200mmの正方形に打ち抜いた部分を有する第二の部材12を重ね合わせた基材上に塗膜層を成形した。焼成条件は、実施例9と同様で焼成した。
【0166】
図8に示すように、乾燥炉27内に乾燥抑制を目的とした筐体22の上部に設けた第一の開口部24を覆っている除去速度調整部材の金網の目開き条件を#250メッシュ、#200メッシュ、#10メッシュ、#9メッシュと変化させて行った評価結果を示す。
【0167】
【表12】

【0168】
表12に示すように、比較例22においては、グリーンシートの変動率が5%以上あり、外周部にひびが発生した。基材上の塗膜層の乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に第一の開口部を設けることで塗布スラリーの外周部の乾燥による基材への固着の防止をより確実にすることができる。しかしながら、第一の開口部の除去速度調整部材の目開き形状が小さい為に、塗布スラリーの外周部の乾燥による基材への固着の防止が出来ず、塗膜層中央部のスラリーが外周部の収縮に引きつけられる際に、塗布スラリー外周部においてひびが発生したものと推測される。
【0169】
また、比較例23においても、グリーンシートの変動率が7%以上あり、中央部にひびが発生した。第一の開口部の除去速度調整部材の目開き形状が大きい為に、塗膜層中央部の乾燥が加速し、外周部のスラリーが乾燥し引きつけられる際に、塗膜層中央部においてひびが発生したものと推測される。
【0170】
本発明にあたる試料24、25いずれにおいても、グリーンシートの変動率が2%以下であった。また、乾燥後のグリーンシートのひびは発生していない。セラミックシートにおける反りについては比較例22、23において5%以下で良好であるが、試料24、25においては、反りは1%以下となっており、顕著な反りの低減が見られる。その上、総合評価での不良率が、1%以下であった。
【0171】
(実施例13)
次に、本発明の第13の実施例として、塗膜層中央部の塗工幅方向に対して第一の開口部の開口率を50%と設定した。さらに、前記、第一の開口部は除去速度調整部材の目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)の金網で覆った。スラリー成形厚さを変化させた場合のグリーンシートとセラミックシートを評価した。基材は、第一の部材の上に等間隔で200mmの正方形に打ち抜いた部分を有する第二の部材を重ね合わせて構成した基材上に、塗布した。なお、成膜条件は、グリーンシートの幅は200mm、厚さは1.0mmとした。焼成条件は、実施例9と同様で焼成した。
【0172】
スラリー成形厚さを0.15mm、0.30mm、1.00mm、1.50mm、1.60mmと変化させて行った評価結果を示す。
【0173】
【表13】

【0174】
表13に示すように、比較例24においては、グリーンシートの変動率が6%以上あった。本発明の乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に開口部を設けて、スラリーから蒸発した揮発性分散媒がスラリー周辺に留まることになるが、厚さが薄いために揮発性分散媒の濃度が低く、乾燥を促進してしまったと考えられる。その結果、均一に収縮する前に乾燥してしまったため、不規則な厚さの差が生じてしまうと推測される。また、総合評価での不良率が、約4%であった。
【0175】
比較例25においては、グリーンシートの変動率が5%以上あり、中央部にひびが発生した。成形厚さが厚い為に、筐体内で、スラリーから蒸発した揮発性分散媒がスラリー周辺に留まり、揮発性分散媒の濃度が高くなり過ぎ、乾燥を抑制してしまったと考えられる。その結果、炉内に設置した筐体内での乾燥不足となり、乾燥炉後半の熱風によって乾燥された為、中央部と外周部の収縮に差が生じてしまい、厚さの差が大きくなったと推測される。また、総合評価での不良率が、約3%であった。
【0176】
試料26から試料28の本発明にあたる成形厚さ0.3mm以上1.5mm以下では、評価において、変動率が、2%以下と安定性が良好であった。その上、総合評価での不良率は1%未満であった。
【0177】
また、グリーンシートを焼成して得られたセラミックシートの評価を行い、表13に示すように、スラリー成形厚さが0.3mm以上1.5mm以下の範囲において反りが2%以下の良好な結果を得た。また、反りの大きな低減が見られた。
【0178】
実施例9、10では、第一の部材11の剥離強度を100mN〜1000mN/25mm、第二の部材12の剥離強度を100mN/25mm未満としているが、その範囲内であれば剥離の程度の調整手段は拘らない。例えば、剥離材を用いる場合、一般的な粘着製品などに使用されるシリコーン系や、シリコーンが悪影響を与えやすい電子機器用途などで主に使用されている非シリコーン系のどちらでも構わない。また、2つの部材により、剥離強度に差を設けているが、基材に予め定めた間隔で剥離強度を変更する剥離剤等を塗布することによって、剥離強度が異なる構成としても良い。
【0179】
(実施例14)
次に、本発明の第14の実施例として、塗膜層中央部の塗工幅方向に対して第一の開口部の開口率を50%と設定した。さらに、前記、第一の開口部は除去速度調整部材の目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)の金網で覆った。乾燥抑制を目的とした開口部を設けた筐体において塗膜層の表面に塗布の方向と直交する方向の段差を設けて、塗膜層の厚さを変化させた場合のグリーンシートの幅方向の厚さを評価した。また、グリーンシートを焼成して得られたセラミックシートも評価した。
【0180】
塗膜層の幅は、ドクターブレード法にて塗布幅を200mmに調整した。図10に示すように、所望の塗膜層の表面に塗布の方向と直交する方向の段差が形成できるように、ブレードに凹凸を設け、塗膜層の厚さを調整した塗布スラリーを連続成形した。その後、基材に塗布したスラリーを塗布方向に200mmの等間隔で吸引し、成形厚さに段差(凹形状)を形成することにより正方形に塗布した。焼成条件は、実施例9と同様で焼成した。
【0181】
スラリーの成形厚は、塗膜層の表面に段差を設けた最大厚さが、最小厚さの2倍以下となるように、中央部を、0.50mmとして外周部を0.60mm、0.80mm、1.00mmとした場合と、中央部を1.00mmとして外周部を0.50mmとした場合の試料29、30、31、32についての評価結果を示す。さらに、比較例26として、塗膜層の表面に段差を設けた最大厚さが、最小厚さの2倍より大きくなるように、中央部が、0.50mmとして外周部を1.10mmとした場合について行った評価結果を示す。
【0182】
【表14】

【0183】
表14に示すように、比較例26においては、グリーンシートの塗膜層の表面で厚さが変化する塗布の方向と直交する方向の段差の境目にひび割れが生じた。本発明の乾燥抑制を目的とする筐体で囲み、筐体上部に開口部を設けて、スラリーから蒸発した揮発性分散媒がスラリー周辺に留まることになる。しかし、塗膜層の表面に段差を設けた最大厚さが最小厚さの2倍より大きくなると、塗膜層の厚い部分と薄い部分の収縮に差が生じてしまい、塗膜層の幅方向端部の収縮が中央部に追い付かず不均一な乾燥となる。その結果、塗膜層の表面で厚さが変化する塗布の方向と直交する方向の段差の境目にひび割れが生じてしまうと推測される。
【0184】
試料29、30、31、32の本発明にあたる塗膜層の最大厚さが、最小厚さの1.2倍(厚み差が0.1mm)〜2.0倍(厚み差が0.5mm)では、評価において、ひび割れの発生もなく良好であった。また、グリーンシートを焼成して得られたセラミックシートの評価を行ったが、表14に示すように、塗膜層の最大厚さが、最小厚さの1.2倍(厚み差が0.1mm)〜2.0倍(厚み差が0.5mm)の範囲において、反りが5%以下と低減が見られる良好な結果を得た。その上、総合評価での不良率は、1%以下であった。
【0185】
本実施例においては、塗膜層の表面に段差を、塗膜層の塗布の方向と直交する方向に2箇所設けて実施した。このような構成により、セラミックシートの製品の最終製品を例えばRFID(Radio Freqency IDentification:電波による個別識別)としたとき、RFIDのアンテナ形状に合せて塗膜層の厚さを変化させて段差を設けることができ、後工程の工数を削減することが可能となる。
【0186】
また、前記実施例では、フェライトグリーンシートの形成は、ドクターブレード法を用いる構成となっているが、矩形状に形成が可能な方法であれば、押し出し法を適用することも可能であるし、ドクターブレード法に代えて、ダイコータ、リップコータ、ディップ法等を適用しても問題はない。
【0187】
また、前記実施例では、塗膜層面上に、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリ塩化ビニリデン(PVDC)テープを配置する構成となっており、配置するテープ幅を5mmとしているが、乾燥を抑制できてひびや反りが発生しないのであれば、テープ幅5mmに拘らない。また、熱収縮せず塗膜層面上に配置することで乾燥を抑制出来るのであれば、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリ塩化ビニリデン(PVDC)以外の材質を使用しても構わない。
【0188】
更に、セラミックシートを得るための焼成条件として、雰囲気を制御し、かつ温度プロファイル、焼成時間を適宜選択することも可能である。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形や修正もまた本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0189】
1、31、41、51、61 塗膜層
2 基材
3 乾燥防止部材
4 スラリー成形部
5 スラリー
6 ブレード
7 巻き出しロール
8 巻き取りロール
9 塗布スラリー吸引装置
11 第一の部材
12 第二の部材
13 コンマロール
14 バックアップロール
15 スラリー溜まり
21 (セラミック)グリーンシート
22 筐体
23 除去速度調整部材
24 第一の開口部
25 第二の開口部
26 第三の開口部
27 乾燥炉
62 段差ブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、シート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層を形成するスラリー成形工程と、前記スラリー成形工程の後に乾燥炉内で前記スラリーの前記揮発性分散媒を蒸発させて除去する乾燥工程と、前記乾燥工程の後に前記スラリーを基材から剥離する剥離工程を有するセラミックグリーンシートの製造方法であって、前記スラリー成形工程では、前記塗膜層に予め定めた間隔で厚さを減じた領域を設け、前記乾燥工程では、前記乾燥炉内での前記揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を設けたことを特徴とするセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項2】
無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、シート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層を形成するスラリー成形工程と、前記スラリー成形工程の後に乾燥炉内で前記スラリーの前記揮発性分散媒を蒸発させて除去する乾燥工程と、前記乾燥工程の後に前記スラリーを基材から剥離する剥離工程を有するセラミックグリーンシートの製造方法であって、前記スラリー成形工程では、前記塗膜層面に予め定めた間隔で乾燥防止部材を配置して、前記乾燥工程では、前記乾燥炉内での前記揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を設けたことを特徴とするセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項3】
無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、剥離強度が異なる部分を有するシート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層を形成するスラリー成形工程と、前記スラリー成形工程の後に乾燥炉内で前記スラリーの前記揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を設けて蒸発させて除去する乾燥工程と、前記乾燥工程の後に前記スラリーを基材から剥離する剥離工程を有することを特徴とするセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項4】
前記基材は、2つの部材からなり、シート状の第一の部材の上に予め定めた間隔で四角形に打ち抜いた部分を有するシート状の第二の部材を重ね合わせて構成することを特徴とする請求項3記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項5】
前記第一の部材の剥離強度が前記第二の部材の剥離強度より高いことを特徴とする請求項4記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項6】
前記除去速度を調整する手段は、少なくとも一面に蒸発した前記揮発性分散媒が通過する第一の開口部を備えるとともに、塗膜層が形成された前記基材が通過する第二および第三の開口部を備える筐体からなり、予め定めた開口率を有する前記第一の開口部に除去速度調整部材を取り付けて構成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項7】
前記第一の開口部が、開口率20%以上50%以下であることを特徴とする請求項6記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項8】
前記除去速度調整部材が、目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)以下10メッシュ(篩目開き=1.70mm)以上の金網であることを特徴とする請求項6または7記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項9】
前記スラリー成形工程において、スラリー成形厚の最大厚さが、0.3mm以上1.5mm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項10】
前記スラリー成形工程において、前記塗膜層の表面に塗布の方向と直交する方向の段差を設けることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項11】
前記塗膜層の最大厚さは、前記塗膜層の最小厚さの2倍以下であることを特徴とする請求項10に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項12】
無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、シート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層を形成するスラリー成形部と、前記スラリー成形部の後に前記スラリーの前記揮発性分散媒を蒸発させて除去する乾燥炉と、前記乾燥炉の後に前記スラリーを基材から剥離する剥離部を有するセラミックグリーンシートの製造装置であって、前記スラリー成形部は、前記塗膜層に予め定めた間隔で厚さを減じた領域を設け、前記乾燥炉内での前記揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を備えることを特徴とするセラミックグリーンシートの製造装置。
【請求項13】
無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、シート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層を形成するスラリー成形部と、前記スラリー成形部の後に前記スラリーの前記揮発性分散媒を蒸発させて除去する乾燥炉と、前記乾燥炉の後に前記スラリーを基材から剥離する剥離部を有するセラミックグリーンシートの製造装置であって、前記スラリー成形部は、前記塗膜層面に予め定めた間隔で乾燥防止部材を配置して、前記乾燥炉内での前記揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を備えることを特徴とするセラミックグリーンシートの製造装置。
【請求項14】
無機粉末と、有機バインダーと、揮発性分散媒を混合したスラリーを、シート状の基材の上に塗布して平坦な塗膜層を形成するスラリー成形部と、前記スラリー成形部の後に前記スラリーの前記揮発性分散媒を蒸発させて除去する乾燥炉と、前記乾燥炉の後に前記スラリーを基材から剥離する剥離部を有するセラミックグリーンシートの製造装置であって、前記スラリー成形部内に、前記基材として、2つのシート状の部材を重ね合わせる機構と、前記乾燥炉内での前記揮発性分散媒の除去速度を調整する手段を備えることを特徴とするセラミックグリーンシートの製造装置。
【請求項15】
前記除去速度を調整する手段は、少なくとも一面に蒸発した前記揮発性分散媒が通過する第一の開口部を備えるとともに、塗膜層が形成された前記基材が通過する第二および第三の開口部を備える筐体を前記乾燥炉内に配し、前記第一の開口部に予め定めた開口率を有する除去速度調整部材を取り付けて構成することを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載のセラミックグリーンシートの製造装置。
【請求項16】
前記第一の開口部が、開口率20%以上50%以下であることを特徴とする請求項15記載のセラミックグリーンシートの製造装置。
【請求項17】
前記除去速度調整部材が、目開き#200メッシュ(篩目開き=0.075mm)以下10メッシュ(篩目開き=1.70mm)以上の金網であることを特徴とする請求項15または16記載のセラミックグリーンシートの製造装置。
【請求項18】
前記スラリー成形工程において、スラリー成形厚の最大厚さが、0.3mm以上1.5mm以下であることを特徴とする請求項12〜17のいずれかに記載のセラミックグリーンシートの製造装置。
【請求項19】
前記スラリー成形工程において、前記塗膜層の表面に塗布の方向と直交する方向の段差を設けることを特徴とする請求項12〜18のいずれかに記載のセラミックグリーンシートの製造装置。
【請求項20】
前記塗膜層の最大厚さは、前記塗膜層の最小厚さの2倍以下であることを特徴とする請求項19に記載のセラミックグリーンシートの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−86286(P2013−86286A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226367(P2011−226367)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】