説明

セラミックスと金属のろう付け構造体

【課題】セラミックスと金属とのろう付け接合において、セラミックス表面のろう材反応性を阻害することなく、ろう付け後における接合部の残留応力を大幅に低減することができ、接合部の厚さが薄く、しかも製造安定性及び耐ガスリーク性に優れ、繰り返し熱衝撃に強いセラミックスと金属のろう付け構造体を提供する。
【解決手段】セラミックスと金属のろう付け構造体におけるろう付け接合層にNi、Si、Fe、Cr、Co、Mn、Ag、Au、Pd、In及びSnから成る群より選ばれた少なくとも1種の添加元素を添加し、このような添加元素の含有量のピーク位置が接合層の中心よりも金属側となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスと金属のろう付け技術に係わり、特にセラミックス材料から成る薄板と金属材料から成る薄板とを薄いろう付け接合層を介して接合したろう付け構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックスと金属を接合する場合、セラミックス側のの接合部に活性金属(例えばMn−MoやTi、Zr、Al、Hfなど)をメタライズ(金属被覆)処理した後、ろう付けを行う方法や、TiやAlなどの活性金属入りのろう材を用いて直接ろう付けを行う方法がある。活性金属は、ろう材接合層内のセラミックス側界面に偏析し、セラミックスとろう材の反応を促進することにより接合する。しかしながら、一般的にセラミックスと金属は熱膨張係数が異なるため、ろう材が凝固する冷却過程において、熱応力が発生し、セラミックス側の接合界面近傍において、クラックなどが発生することにより、ガスシール性や熱伝導性が良好な接合を得ることが難しい。
【0003】
セラミックス−金属の接合部の残留応力を低減させる方法としては、例えば、セラミックスと金属の間のろう付け接合部に応力緩和材として、接合しようとする金属よりも軟質で変形しやすい金属(例えば、純Cuや純Ni等)や合金、あるいは膨張係数がセラミックスと金属の中間に位置するような金属や合金を挟み込んでろう付けすることもなされている。
また、活性金属を含むAg−Cu系金属ろうから成る接合層中に、アルミナなどのセラミックス微粉末を体積比率で5〜20%含有させることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。これは、セラミックス微粉末を配合して接合部に微小欠陥を導入し、残留応力を開放することによって耐熱衝撃性が向上したセラミックスと金属のろう付けによる接合体を得ようとするものである。
【特許文献1】特開平5−163078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したセラミックスと金属の接合部に応力緩和材を挟むものでは、ろう付け後の応力が減少するものの、少なからず残存するため、構造物を300℃以上の温度域で使用する場合や、熱サイクルが負荷される環境下で使用した場合には、接合部の膨張係数差によって、セラミックスやろう層内に割れが生じ、ろう付け部の気密性に対する信頼性や寿命等に問題がある。また、特に応力緩和材を使用したろう付けでは、接合構造物の大きさ、すなわち接合部分の厚さに制約があり、接合部の厚さが薄い構造物の製作が難しいという問題がある。
また、ろう付け接合部にセラミックス微粉末を配合した場合は、セラミックス微粉末の比表面積が大きく、反応性が高いため、活性金属元素がセラミックス微粉末とろう材の界面に偏析しやすくなってしまい、被接合材であるセラミックスとろう材の界面の接合反応が阻害され、このために接合強度や接合部のガスシール性などの接合特性にばらつきが生じてしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、従来のセラミックスと金属とのろう付け接合における上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、セラミックスと金属との接合構造物において、セラミックス表面のろう材反応性を阻害することなく、ろう付け後における接合部の残留応力を大幅に低減することができ、接合部の厚さが薄く、しかも製造安定性及び耐ガスリーク性に優れ、繰り返し熱衝撃に強いセラミックスと金属のろう付け構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、セラミックス薄板と金属薄板の接合部について、接合層内のセラミックス側界面近傍のみならず、金属側界面近傍部の元素分布にも着目し、種々検討を重ねた結果、応力緩和作用を有する種々の元素を金属側界面近傍に重点的に含有させ、その組成比のピークの大きさ(組成比の大きさ)を変化させることにより、熱応力緩和効果が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
本発明は上記知見に基づくものであって、本発明のセラミックスと金属のろう付け構造体においては、ろう付け接合層がNi、Si、Fe、Cr、Co、Mn、Ag、Au、Pd、In及びSnから成る群、好ましくはNi、Si、Mn、Ag、Au、Pd、In及びSnから成る群、さらに好ましくはNi、Si、Mn、In及びSnから成る群より選ばれた少なくとも1種の添加元素を含有しており、このような添加元素の含有量のピーク位置が上記接合層の中心よりも金属側にあることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ろう付け接合層を構成するろう材金属中に、上記金属群から選ばれ多1種以上の添加元素を含み、このような添加元素が粒状となって接合層の金属側界面近傍に分散したり、添加元素が互いにあるいはろう材成分や母材金属の成分元素と低熱膨張率の合金相や変形し易い合金相となって金属側界面近傍に層状に分布したりしており、これらが応力緩和相として機能することから、接合層内の割れ発生を防止することができ、厚さが薄くても耐ガスリーク性に優れ、繰り返し熱衝撃に強い接合層を備えたセラミックスと金属のろう付け構造体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のセラミックスと金属のろう付け構造体について、製造方法と共に詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は、特記しない限り質量百分率を意味するものとする。
【0010】
本発明のセラミックスと金属のろう付け構造体は、これらセラミックスと金属から成る被接合材がろう付け接合層を介して接合されており、この接合層がNi、Si、Fe、Cr、Co、Mn、Ag、Au、Pd、In及びSnのいずれか又はこれらの任意の組合わせから成る添加元素を含み、添加元素の含有量のピークがろう付け接合層の中心よりも金属側に位置しているものであるが、耐熱衝撃性の観点からは、上記添加元素をNi、Si、Mn、Ag、Au、Pd、In及びSnから成る群より選ばれた少なくとも1種とすることが望ましく、さらに、Ni、Si、Mn、In及びSnから成る群より選ばれた少なくとも1種とすることが望ましい。
【0011】
すなわち、本発明において、上記した各種添加元素は、被接合材(母材)である金属における成分元素のろう付け接合層内の拡散を促進させる作用があり、この結果、接合層内において、金属成分元素と添加元素を含むろう材主成分元素が冶金学的に反応し、低熱膨張合金相や応力緩和合金相(合金相自体が変形し易く、ひずみ変形によって応力を緩和する合金相)を形成することにより、応力緩和効果を発現させるものと、応力緩和に好適な低熱膨張合金相や応力緩和合金相を形成する元素があり、上記添加元素のほとんどは上記両方の機能を有している。
【0012】
応力緩和機構としては、これら合金相の形成が、応力緩和に直接的に寄与する要因になる以外に、間接的な要因として、接合層内において、これら合金相が層状(クラッド構造型)あるいは粒状相(粒子分散型)として存在し、これらの合金相とろう材金属相との界面で応力を緩和する効果が生じて、ろう付け接合層全体の応力が緩和されるものと考えられる。
【0013】
ここで、Fe、Ni、Cr、Co等は、応力緩和促進作用を有し、上記添加元素に含まれる元素であるが、母材金属の成分元素でもあり、一般的なろう付け方法においても、ろう材層中にこれら成分元素が拡散する場合がある。しかし、一般的に母材金属の成分元素の拡散量はろう付け温度とその保持時間で決定されるため、これら合金相の生成量や分布状態をろう付け条件(温度、保持時間)で制御することは、製造工程が長期となり、接合構造体の製作上の生産性(歩留まりや量産性)の面から限界がある。
すなわち、本発明においては、上記添加元素を直接ろう材中へ添加したり、セラミックス表面、金属表面へ成膜処理した状態でろう付けしたりすることによって、熱応力緩和に適した低熱膨張合金相(例えば、Fe−Ni−Cr−Si合金、Fe−Ni−Cr−Mn−Si合金)や応力緩和合金相(例えば、Cr−Fe−(Si)合金、Ag−In−Sn−Fe合金、Cu−In−Sn−Fe合金、Cu−In−Sn−Ni合金等)の生成量や分布状態が制御しやすく、応力緩和作用がより有効に発揮されることになる。
【0014】
ろう材の主成分であるAgやCuの接合層内における分布状態としては、母材セラミックス側からCu合金(応力緩和効果を発揮する元素、活性金属を含む合金) /Ag合金/ Cu合金(金属側の拡散元素、応力緩和効果を発揮する元素を含む)/ 母材金属、すなわち、Cu合金/Ag合金/Cu合金等のクラッド構造をなし、Cu合金に各々母材元素(応力緩和効果を発揮する元素を含む)が固溶し、傾斜組織的な様相を示した構造が望ましい。なお、母材としてのセラミックス側あるいは金属側におけるCu合金、中央部におけるAg合金は、完全な層状ではなく粒状に分散していてもよい。
【0015】
ろう付け接合層内において、上記添加元素の組成比を制御してろう付けする方法としては、ろう材に上記元素を添加した箔、線材、粉末、ペースト状ろう材を使用することができる。
例えば、Tiなどの活性金属を含み、セラミックス表面で接合反応するろう材箔と金属界面側で応力緩和効果を発揮する上記のような添加元素を含有するろう材箔を積層させるか、張り合わせたろう材箔を使用することができる。
【0016】
また、セラミックス表面にTi含有の活性金属ろう材を反応させてメタライズした後、金属界面側で応力緩和効果を発揮する元素であるAg、Au、Pdを含有するろう材や母材金属から接合層中への拡散を促進してろう材層金属側に応力緩和相を形成したり、低膨張合金層の形成を促進したりする元素であるMn、Si、In、Sn、Ni、Fe、Cr、Coを含有するろう材を用いてろう付けするようになすこともできる。
さらに、金属表面にめっき法や蒸着法のようなPVD法などを用いることによって、応力緩和効果を有する上記添加元素を成膜した後、公知の活性金属ろう付け法によりろう付けすることもできる。活性金属及び上記添加元素をそれぞれセラミックス表面及び金属表面に成膜した上に、ろう材成分を成膜し、これを合わせてろう付けすることもできる。
【0017】
本発明に使用するろう材としては、銀ろう、金ろう、パラジウムろう、ニッケルろう、チタンろうなどを用いることができる。また、セラミックスとの反応性を高める目的で、Ti、Zr、Hf、Alなどの活性金属をろう材中に予め添加したり、セラミックス側に積層した状態でろう付けしたりすることも可能である。
【0018】
Cuを成分とするろう材を使用する場合、一般的なCuの含有量は、0.05〜50%の範囲であるが、好ましくは20〜35%程度が良い。さらに、セラミックスとの反応性を高める目的でTiやAlなどを0.1〜15%含有させても良い。
【0019】
一方、ろう材としてAg−Cu系ろう材を使用する場合、応力緩和効果を有する添加元素として、Ni、Si、Mn、In及びSnから成る群より選ばれた少なくとも1種の元素を層全体の組成比で、Ni:0.1〜80%、Si:0.1〜20%、Mn:0.1〜40%、In:0.1〜30%、Sn:0.1〜30%の範囲内で含有させた接合層を形成することによって、耐熱衝撃性およびガスシール性に優れた接合層が得られる。
また、このとき、ステンレス鋼やNi基合金を接合するという観点からは、添加元素としてNiを必須成分とし、Niと他の元素のうちの1種以上とを併用するようになすことが、ステンレス鋼やインコネルなどの耐熱Ni基合金とセラミックスを接合する場合、耐熱性、耐熱ショック性が向上するために望ましい。
【0020】
なお、上記元素の添加量が0.1%以下では、応力緩和機能を発揮することができず、また、各元素の上限値を超えて添加した場合には、事実上、応力緩和能力が低下すると共に、ろう付け後の接合層内部にこれら添加元素と金属元素との金属間化合物や合金が多量に形成されて、接合層が脆くなり構造物(接合体)の強度低下を招く傾向がある。また、これら化合物が多量に形成されることにより、ろう付け接合層中にボイドや引け巣、クラック(微少割れ)が発生しやすくなって、耐リーク性にも問題が生じる傾向がある。
【0021】
また、ろう材としてNiを主成分とするものを使用する場合、応力緩和効果を有する添加元素として、Fe、Cr、Si、Mn及びCoから成る群より選ばれた少なくとも1種の元素をFe:0.1〜20%、Cr:0.1〜20%、Si:0.1〜5%、Mn:0.1〜10%、Co:0.1〜10%の範囲内で含有させた接合層を形成することによって、ステンレス鋼やインコネルなどのNi基合金とセラミックスを接合する場合、接合層の酸化劣化を抑制することにより耐熱性を向上させることができる。
【0022】
本発明のろう付け構造体に用いる母材金属としては、Fe(鉄)及びNi(ニッケル)のいずれか一方を主成分として含有する金属であることが望ましく、具体的には、後述するような用途を考慮すると、ステレンス鋼(SUS430,SUS304,SUS316Lなど)、耐熱鋼(SUH330,SUH446など)、超合金(インコロイ,インコネルなど)などから成る構造材料を使用することができる。
【0023】
一方、母材セラミックスとしては、イットリア、酸化スカンジウム、酸化サマリウム、酸化ネオジウム、酸化ガドリウム、酸化カルシウムなどを添加した安定化ジルコニアや、セリア、マグネシア、酸化ビスマス、アルミナを主成分とする酸化物系セラミックス、炭化珪素、炭化チタン、炭化タングステンなどを主成分とする炭化物系セラミックス、窒化アルミニウム、窒化珪素などの窒化物系セラミックスなどを使用することができる。
【0024】
本発明のセラミックスと金属のろう付け構造体においては、セラミックスとろう付け接合層と金属の厚さを合計した接合部全体の厚さを3mm以下とすることが好ましく、当該接合部の厚さが3mmより厚くなる場合には、ろう付け後の冷却時の熱応力によって、セラミックスと接合層の間にマイクロクラックが発生し易くなり、ガスリーク性や熱伝導性が良好な構造体の製造歩留まりが低下する可能性があるので好ましくない。
また、母材金属の厚さについては、2mm以下が好ましく、これより厚い場合は、金属の伸びが大きく、セラミックスが破断し易くなって、同様にガスリーク性や熱伝導性が良好な構造体の製造歩留まりが低下する傾向があるので好ましくない。
なお、セラミックス、ろう付け接合層及び金属それぞれの厚さとしては、後述するような用途を考慮すると、被接合母材としてのセラミックス及び金属については0.05〜1mm、ろう付け接合層については0.001〜0.3mm程度の厚さとすることがより望ましい。
【0025】
本発明のセラミックスと金属のろう付け構造体の用途としては、例えば、固体酸化物形燃料電池や酸素センサー、NOxセンサー等におけるイオン伝導性セラミックスとこれを保持する金属部材との接合部や、炭酸溶融塩形や高分子電解質形燃料電池、ナトリウム硫黄電池やリチウムバッテリーなどの電力取り出し端子部における絶縁性セラミックスとの接合部、大電流インバーターなどにおける絶縁層の接合部などへの適用が考えられる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されることはない。
【0027】
(実験1)
図1に示すように、被接合母材として、厚さ0.1mm、直径30mmの円板状をなし、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、92%Al、SiC、Siから成る4種類のセラミックス薄板2と、厚さ0.1mm、外径60mm、内径26mmのドーナツ形をなし、フェライト系ステンレス鋼SUS430(Fe−16%Cr)、コバール合金(Fe−29%Ni−17%Co)、鉄−ニッケル合金(Fe−42%Ni)から成る3種類の金属薄板3を使用し、後述するような方法、条件によって、金属3の穴部分(直径26mm)の直上位置に上記セラミックス2(直径30mm)をろう付け接合層となる添加元素層4及びろう材5を介してろう付けし、ろう付け接合に及ぼす各種添加元素の影響について調査した。
【0028】
<ろう付け接合方法>
ろう付け条件としては、5×10−1Torr 程度の真空中において、キャリアガスとしてArガスを流し、さらにろう付け部の垂直方向から3×10−3kgf/mm程度の荷重を負荷し、ろう材の固相線以下の温度で予熱した後、ろう材の液相線以上の温度でろう付けを実施した。昇温速度および冷却速度は10℃/minとした。
【0029】
応力緩和作用を有する各種添加元素の添加については、被接合材それぞれの組合せにおいて、あらかじめ金属側のろう付け部に、添加元素(Ni、Fe、Ag、Pd、In、Sn)が使用するろう材に対して所定の含有量となるように厚さを制御したものをコーティングして添加元素リッチな層4を形成したのち、セラミックス2との間にろう材5を挿入した状態でろう付を行った。
また、Ti、Mn、Coの添加については、粉末あるいは箔の形態の純金属4をろう材5と金属薄板3の間に挿入することによって行なった。ろう付けに使用したろう材5は、活性金属Tiを含む銀−銅ろう、Ni基ろう、パラジウムろう、金ろう、Cuろう、Ti基ろう材の6種類とし、厚さが0.05mmの箔、又は粒径が100μm以下の合金粉末のものを使用した。粉末状のものは専用のバインダーと混合させペースト状のろう材とした。また、比較材としてこれらの元素を添加することなくろう付けを行った。
【0030】
<接合評価方法>
ろう付け後の各接合体について、公知のガスリークディテクターを使用しHeリーク検査を行った後、接合部の断面組織を観察し、応力緩和元素の分布状態を調べた。また、熱サイクル試験として、大気雰囲気電気炉を使用し、各接合体を室温から300℃程度の温度域で熱負荷を10回与えた後、Heリーク試験を再度実施した。これらの結果を被接合母材、ろう材、添加元素の組合せと共に、表1に示す。
なお、Heリーク試験の判定基準として、その結果が1.0×1010Pa・m/sec以下のものを「◎」、1.0×10Pa・m/sec以下のものを「○」、○レベルの接合ができないものを「×」として表わした。なお、概ね良好であるものの、○レベルの接合ができたり、できなかったりして再現性が若干劣るものを「△」と評価した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果から明らかなように、添加元素を加えることなくろう付けを行なった比較例の接合体においては、安定した耐リーク性が得られなかったのに対し、応力緩和作用を有する各種添加元素を金属側に添加することによって、ろう付け後及び熱サイクル試験後のリーク検査において良好な結果が得られることが確認された。また、ろう付け後に、500℃×1時間の拡散処理を施すことによって耐リーク性が向上することも確認された。
なお、接合層内のセラミックス側あるいは中央部から金属側界面への添加元素の分布状態は、使用する金属の種類やろう材の主成分元素、添加元素の組合せによって異なっている(増加→減少→増加あるいは単純増加)が、いずれの場合もこれら添加元素の含有量ピークがろう付け接合層の中央よりも金属側に位置しており、これら添加元素を含む低熱膨張合金相や応力緩和合金相が層状あるいは粒状に形成され、同等の応力緩和効果が得られている。
【0033】
図2は、上記実施例の代表例として、実施例1(ZrO(YSZ)とSUS430をAg−26%Cu−2%Tiろう材を使用し、添加元素に5%Ni−2.5%Mnを添加)における接合層断面の元素組成分析結果を示したものである。
図2に示すように、ろう材主成分であるAg−Cuが二相(Ag合金、Cu合金)に分離し、添加元素であるNi、MnがCu合金に固溶する形態で、その組成比がろう付け接合層内のセラミックス側から金属側界面に増加→減少→増加して分布しており、これらの含有量のピークが接合層の中心位置よりも金属側に位置していることが確認される。さらに、金属側界面にはNiが濃化しており、Ni元素の添加が母材金属の成分元素であるCr、Feの接合層中への拡散(Ni−Fe−Cr合金の形成)を促進する効果があるものと考えられる。
【0034】
すなわち、ろう付け接合層の構造として、セラミックス側からCu合金(応力緩和効果を発揮する元素、活性金属を含む合金)/Ag合金/Cu合金(金属側の拡散元素、応力緩和効果を発揮する元素を含む)/母材金属、となるクラッド材に近い層構造で、Cu合金に各々母材元素(応力緩和効果を発揮する元素を含む)が固溶し、傾斜組織的な層構造となることによって、ろう付け後の残留応力が低減され、耐ガスリーク性に優れ、繰り返しの熱衝撃に強いろう付け構造体を得ることができる。
なお、接合層内のセラミックス側および金属側のCu合金は、完全な層状ではなく、層が部分的に途切れて配置されるか、あるいは接合層内全体に分散しても同等の効果が得られている(例えば、実施例6)。
【0035】
(実験2)
被接合母材として、上記実施例と同様に直径30mmの円板状をなし、4種類の厚さ(0.1mm、1.0mm、1.5mm、2.0mm)を備えたZrO(YSZ)からなるセラミックス板2と、上記実施例と同様のドーナツ状(外径:60mm、内径:26mm)をなし、5種類の厚さ(0.1mm、0.5mm、1.5mm、2.0mm、2.5mm)を有するフェライト系ステンレス鋼(SUS430)、コバール合金及び鉄−ニッケル合金(Fe−42%Ni)から成る金属板3を使用し、ろう付け性におよぼすセラミックス板および金属板の厚さの影響について調査を行った。使用したろう材はAg−26%Cu−2%Tiであり、添加元素としてNi及びMnを添加した。
なお、ろう付けは、10℃/minの速度で昇温しながら、ろう材の固相線以下の温度で予熱した後、液相線以上の温度で約20min保持し、10℃/minの速度で冷却した。また、添加方法や得られた接合体の評価方法については、実施例1と同様である。その結果を表2にまとめて示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示した結果から明らかなように、セラミックス−金属のろう付け構造体における接合部の厚さ(接合後の構造物全体の厚さ)は3mm以下が好ましく、3mmより厚くなる場合には、ろう付け冷却時の熱応力により、ガスリーク性や熱伝導性が良好な接合体の製造歩留まりが低下する傾向があるので好ましくない。また、金属板の厚さは2mm以下が好ましく、2mmより厚い場合には、同様にガスリーク性や熱伝導性が良好な接合体の製造歩留まりが低下しやすくなるので好ましくない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のセラミックスと金属のろう付け接合構造の一例を示す断面図である。
【図2】本発明のセラミックスと金属のろう付け接合構造におけるろう付け接合層内の成分元素の分布の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1 セラミックスと金属のろう付け接合構造体
2 セラミックス
3 金属
5 ろう材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスと金属がろう付け接合層を介して接合されたろう付け構造体において、上記接合層がNi、Si、Fe、Cr、Co、Mn、Ag、Au、Pd、In及びSnから成る群より選ばれた少なくとも1種の添加元素を含み、該添加元素の含有量のピーク位置が接合層の中心よりも金属側にあることを特徴とするセラミックスと金属のろう付け構造体。
【請求項2】
セラミックスと金属がろう付け接合層を介して接合されたろう付け構造体において、上記接合層がNi、Si、Mn、Ag、Au、Pd、In及びSnから成る群より選ばれた少なくとも1種の添加元素を含み、該添加元素の含有量のピーク位置が接合層の中心よりも金属側にあることを特徴とするセラミックスと金属のろう付け構造体。
【請求項3】
セラミックスと金属がろう付け接合層を介して接合されたろう付け構造体において、上記接合層がNi、Si、Mn、In及びSnから成る群より選ばれた少なくとも1種の添加元素を含み、該添加元素の含有量のピーク位置が接合層の中心よりも金属側にあることを特徴とするセラミックスと金属のろう付け構造体。
【請求項4】
上記ろう付け接合層がCuを含有するろう材を用いて形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のセラミックスと金属のろう付け構造体。
【請求項5】
上記ろう付け接合層がAg−Cu系ろう材を用いて形成されていることを特徴とする請求項3に記載のセラミックスと金属のろう付け構造体。
【請求項6】
上記添加元素がNiと、Si、Mn、In及びSnから成る群より選ばれた少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項5に記載のセラミックスと金属のろう付け構造体。
【請求項7】
上記ろう付け接合層がNiを主成分として含有するろう材を用いて形成され、上記添加元素がFe、Cr、Si、Mn及びCoから成る群より選ばれた少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックスと金属のろう付け構造体。
【請求項8】
上記金属がFe又はNiを主成分として含有する金属であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載のセラミックスと金属のろう付け構造体。
【請求項9】
セラミックスとろう付け接合層と金属から成る接合部全体の厚さが3mm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載のセラミックスと金属のろう付け構造体。
【請求項10】
上記金属の厚さが2mm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つの項に記載のセラミックスと金属のろう付け構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−327888(P2006−327888A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155041(P2005−155041)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(591056569)ナイス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】