説明

セラミックス成形体の脱脂方法及び脱脂装置

【課題】セラミックス粉末を含むスラリーを用いて得られたセラミックス成形体の脱脂を効率よく進める方法及びそのための脱脂装置を提供する。
【解決手段】本発明の脱脂方法は、セラミックス成形体に、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体を接触させながら、セラミックス成形体を590〜900℃の範囲の温度で熱処理する熱処理工程を備え、その条件を、温度(℃)をX軸とし、酸素ガス分圧PO2(atm)の対数値をY軸とする関係図(図1)で表したとき、関係図中のA(590,−3)、B(900,−3)、C(900,−19.5)、D(590,−24.1)及びA(590,−3)の各点を、順次、直線で結ぶことにより得られる範囲内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス粉末を含むスラリーを用いて形成されたセラミックス成形体の脱脂を効率よく進める方法及びそのための脱脂装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス製品を製造する場合、セラミックス粉末を含むスラリーを、キャスティング等に供して成形物を形成した後、焼成する方法が知られている。この成形物には、予め、スラリーに配合された、セラミックス粉末を結合させるための、有機高分子からなる結合剤(以下、「バインダー」という。)、可塑剤等が含まれている。バインダー等は、成形時には必要であるが、最終的には不要であることから、焼成の前に、これらの成分を除去する脱脂が行われる。脱脂は、熱処理によるものが一般的であり、バインダー等を含む成形物が加熱されて、分解揮発あるいは焼却除去がなされる。ここで、成形物の加熱を急激に行うと、ひび割れ、変形等を生じるため、20時間以上の長きに渡って熱処理するのが一般的である。
【0003】
成形物の脱脂方法としては、過熱水蒸気を用いる方法が知られているおり、特許文献1には、過熱水蒸気を熱媒とする加熱装置が開示されている。
また、特許文献2及び3には、過熱水蒸気を用いた、成形物用の焼成炉及びセラミックス製品の製造方法が、それぞれ、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−201606号公報
【特許文献2】特開2005−221135号公報
【特許文献3】特開2007−230796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミックス製品は、単一物質からなるものから、例えば、金属配線を含み多層構造を有する複合化製品に至るまで、広く用いられている。そして、セラミックス製品を、欠陥を発生することなく製造する際の生産効率を向上させるために、脱脂工程の短時間化が望まれている。
本発明の目的は、セラミックス粉末を含むスラリーを用いて形成されたセラミックス成形体の脱脂を、従来法よりも短時間化させ、セラミックス相における、バインダー等に由来する炭素原子の含有量を、0.010質量%未満とする方法、及び、そのための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、バインダー等を含むセラミックス成形体に、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体を接触させながら、セラミックス成形体を熱処理して脱脂するに際して、熱処理の温度及び酸素ガス分圧を特定の条件とすることにより、上記課題が解決されることを見出した。
本発明において、セラミックス成形体は、スラリーを用いて得られた物品であり、スラリーに由来する成分からなる成形体であってよいし、スラリーに由来する成分からなる層と、導電性金属材料を含む配線層とを備える積層体であってもよい。
また、本発明において、過熱水蒸気は、水を沸騰させて発生した飽和水蒸気(以下、単に「水蒸気」という。)を更に加熱して100℃を超える温度になった蒸気を意味する。
【0007】
本発明は、以下に示される。
1.酸化物からなるセラミックス粉末を含むスラリーを用いて得られたセラミックス成形体を脱脂する方法であって、セラミックス成形体に、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体を接触させながら、セラミックス成形体を590℃〜900℃の範囲の温度で熱処理する熱処理工程を備え、熱処理工程の条件は、温度(℃)をX軸とし、酸素ガス分圧PO2(atm)の対数値をY軸とする関係図で表したとき、この関係図中のA(590,−3)、B(900,−3)、C(900,−19.5)、D(590,−24.1)及び該A(590,−3)の各点を、順次、直線で結ぶことにより得られる範囲内とすることを特徴とするセラミックス成形体の脱脂方法。
2.上記気体に含まれる過熱水蒸気の割合が、上記気体を100体積%とした場合に、95体積%以上である上記1に記載のセラミックス成形体の脱脂方法。
3.上記気体が、水素ガスを含む上記1又は2に記載のセラミックス成形体の脱脂方法。
4.熱処理工程の前に、セラミックス成形体を、150℃〜250℃の範囲の温度で熱処理する予熱工程を備える上記1乃至3のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の脱脂方法。
5.セラミックス粉末を含むスラリーを用いて得られたセラミックス成形体を脱脂する装置であって、水蒸気を製造する水蒸気製造手段と、水蒸気を加熱して過熱水蒸気を製造する手段であって、水蒸気製造手段に連絡可能である過熱水蒸気製造手段と、その内部にセラミックス成形体を載置して、セラミックス成形体と、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体とを接触させる手段であって、過熱水蒸気製造手段に連絡可能である過熱水蒸気処理手段と、を備えることを特徴とするセラミックス成形体の脱脂装置。
6.酸素ガスが酸素ガス供給手段から供給され、酸素ガス供給手段が、過熱水蒸気製造手段に連絡可能に配されてなる上記5に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
7.酸素ガスが、水蒸気とともに過熱水蒸気製造手段に供給される上記5又は6に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
8.過熱水蒸気処理手段が、その内部に、セラミックス成形体を支持する支持部材を備え、支持部材が多孔質セラミックスからなる上記5乃至7のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
9.過熱水蒸気処理手段が、セラミックス成形体を保温する加熱手段を備える上記5乃至8のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
10.過熱水蒸気製造手段が、電磁誘導により発熱し、水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する発熱体と、発熱体を収容し、且つ、筒状である収容体と、収容体の外側にあって、少なくとも発熱体を包囲するように配設された励磁コイルとを備える上記5乃至9のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
11.水蒸気を製造する水蒸気製造装置と、配管を介して水蒸気製造装置に接続されており、且つ、水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する発熱体を含む過熱水蒸気製造装置と、その内部にセラミックス成形体を載置して、セラミックス成形体と、上記気体とを接触させる脱脂処理室であって、過熱水蒸気製造装置に連絡可能である脱脂処理室と、を備える上記5に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
12.発熱体が、下記一般式(1)で表される化合物を含む基部と、基部の表面に配された、下記一般式(2)で表される化合物を含む被覆部と、を備える成形物の複数が積み上げられて形成されてなり、且つ、成形物どうしの空隙により通気性を有する上記10又は11に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
La1−x3−y (1)
〔式中、Mは、Mg、Ca、Sr及びBaから選ばれた少なくとも1種の元素であり、Mは、Cr、Co及びMnから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0<x≦0.5、且つ、0≦y≦0.1である。〕
La・n(SiO) (2)
〔式中、nは、1以上2以下の数である。〕
【発明の効果】
【0008】
本発明の脱脂方法において、特定の条件で熱処理する工程を備えることから、セラミックス成形体の脱脂処理を、従来法よりも短時間化することができ、炭素除去率を向上させ、セラミックス相における、バインダー等に由来する炭素原子の含有量を、0.010質量%未満とすることができる。この効果は、加熱されたセラミックス成形体の内部を含む全体に対して、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体の浸透性が高いことによるものと推測される。また、本発明の脱脂方法を、セラミックス製品の製造方法に適用することにより、その製造時間を短縮することができる。
本発明の脱脂方法において、熱処理工程の前に予熱工程を備える場合には、熱処理工程に供され脱脂されたセラミックス成形体(以下、「セラミックス脱脂体」という。)の表面外観性に優れる。即ち、過熱水蒸気を、予熱されていないセラミックス成形体に曝した場合には、セラミックス脱脂体の表面に、水蒸気の付着痕が残ることがあるが、予熱工程を備えることにより、この不具合を抑制することができる。
【0009】
本発明の脱脂装置によれば、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体を、加熱されたセラミックス成形体に効率よく接触させることができるので、セラミックス成形体の脱脂を、従来の装置によるより短時間化することができ、炭素除去率を向上させることができる。
本発明の脱脂装置において、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)が、特定構成の発熱体を備える場合には、この発熱体を、電磁誘導により、500℃以上、好ましくは550℃〜900℃の間の所望の温度に安定発熱させることができるので、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)で製造された水蒸気から、上記温度に加熱された過熱水蒸気を安定製造することができる。過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)及び過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)が連絡可能であることから、これらが連絡している場合には、セラミックス成形体を、他の手段を用いることなく、過熱水蒸気の熱により、所望の熱処理温度に調整することができ、熱処理工程に供することができる。また、本発明の脱脂装置が、セラミックス成形体を保温する(予熱する)ための加熱手段(加熱装置)を備える場合には、上記不具合を抑制しつつ、より効率よく脱脂を行うことができる。
過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)が、その内部に、セラミックス成形体を支持する支持部材を備え、支持部材が多孔質セラミックスからなる場合には、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体と、セラミックス成形体との接触効率をより向上させることができる。更に、大量のセラミックス成形体を脱脂する場合に、好適である。
また、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)が、特定の発熱体を備える場合には、過熱水蒸気を効率よく製造して、脱脂処理に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のセラミックス成形体の脱脂方法における処理条件を示すグラフである。
【図2】本発明のセラミックス成形体の脱脂方法における好ましい処理条件を示すグラフである。
【図3】本発明の脱脂装置の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の脱脂装置の他の例を示す模式図である。
【図5】発熱体が収容体の内部に配置されており、収容体の外側に励磁コイルが配設されている、過熱水蒸気製造装置の要部を示す縦断面図である。
【図6】発熱体の一例を示す概略図であり、(a)は斜視図、(b)は上方から見た図である。
【図7】脱脂処理室において、セラミックス成形体が支持部材に載置されていることを示す縦断面図である。
【図8】セラミックス成形体の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.セラミックス成形体の脱脂方法
本発明のセラミックス成形体の脱脂方法は、酸化物からなるセラミックス粉末を含むスラリーを用いて得られたセラミックス成形体を脱脂する方法であって、セラミックス成形体に、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体を接触させながら、セラミックス成形体を590℃〜900℃の範囲の温度で熱処理する熱処理工程を備える。熱処理工程の条件は、後述される。
【0012】
本発明において、脱脂対象のセラミックス成形体は、酸化物からなるセラミックス粉末を含むスラリーを用いて得られた成形物であり、上記のように、スラリーに由来する成分からなる層と、導電性金属材料(銅、銀、金、白金、タングステン、モリブデン等の金属、又は、これらの金属と遷移金属との合金等)を含む配線層とを備える(多層)積層体とすることができる。
上記スラリーは、通常、セラミックス粉末及びバインダーを含み、必要に応じて、可塑剤、分散剤、分散媒等を含む組成物であり、各成分を混合して、調製されたものである。
【0013】
上記セラミックス粉末の構成材料は、酸化物であり、好ましくはB(ホウ素)元素を含まない酸化物である。セラミックス成形体に含まれる酸化物は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0014】
上記酸化物としては、Al、SiO、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Cr、TiO、CeO、ZrO、Y、MgAl、CaZrO、MgSiO、BaTi、ZrTiO、MgTiO、CaTiO、SrTiO、BaTiO等の各種ペロブスカイト、コージェライト、ムライト等が挙げられる。
【0015】
上記セラミックス粉末の形状は、特に限定されない。また、上記セラミックス粉末の平均粒径は、通常、10.0μm以下、好ましくは0.1〜5.0μm、より好ましくは0.1〜0.5μmである。
【0016】
上記バインダーとしては、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、でんぷん、アクリル樹脂、芳香族ビニル樹脂、マレイン酸系樹脂、ワックス、セルロース及びセルロース誘導体、ゼラチン及びゼラチン誘導体、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、クマロインデン樹脂等が挙げられる。
【0017】
上記バインダーの使用量は、上記セラミックス粉末100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部である。
【0018】
上記可塑剤としては、フタル酸系可塑剤、グリコール系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、セバシン酸系可塑剤等が挙げられる。
上記フタル酸系可塑剤としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、オクチルカプリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジドデシルフタレート、ベンジルブチルフタレート、ジメチルグリコールフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等が挙げられる。
また、上記グリコール系可塑剤としては、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブチルフタリルグリコレート、トリエチレングリコール−2−エチルブチレート、ジイソデシルグリコレート等が挙げられる。
【0019】
上記可塑剤の使用量は、上記セラミックス粉末100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部である。
【0020】
上記分散剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤、エステル等が用いられる。
【0021】
上記分散剤の使用量は、上記セラミックス粉末100質量部に対して、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは0.5〜2質量部、より好ましくは0.5〜1質量部である。
【0022】
上記分散媒としては、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、芳香族炭化水素等が挙げられる。
上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。
上記ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
上記エステルとしては、酢酸ブチル等が挙げられる。
上記エーテルとしては、ブチルカルビトール、ブチルセルソルブ等が挙げられる。
また、上記芳香族炭化水素としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0023】
上記スラリーを用いてセラミックス成形体を製造する方法は、目的、用途等により、適宜、選択されるものであり、特に限定されない。
上記セラミックス成形体が、スラリーに由来する成分からなる成形体である場合には、スリップキャスト法、遠心キャスト法、テープキャスト法、ドクターブレード法等の湿式成形法により、板状物、塊状物等を形成し、乾燥させた後、必要に応じて、所望の形状及び大きさに、切断等の加工に供されたものとすることができる。
また、上記セラミックス成形体が、スラリーに由来する成分からなる層と、導電性金属材料を含む配線層とを備える積層体である場合には、例えば、上記のようにして得られた板状物を乾燥させた後、導電性金属材料からなる粉末を含むペースト等を印刷することにより得られたものとすることができる。尚、上記積層体は、1又は2以上の配線層が、スラリーに由来する成分からなる2又は3以上の層に挟持されたサンドイッチ構造を有してもよい。
【0024】
上記セラミックス成形体の形状は、特に限定されず、板(平板、曲板等)、立方体、直方体、角錐、円錐、線状体(直線、曲線等)、環状体(円形、多角形等)、管、球等の定形体、凹凸、溝、貫通孔、角部等を有する不定形体が挙げられる。
【0025】
本発明の脱脂方法に係る熱処理工程は、セラミックス成形体に、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体を接触させながら、セラミックス成形体を590℃〜900℃の範囲の温度(以下、「処理温度T」という。)で処理する工程である。この熱処理工程は、通常、セラミックス成形体を処理温度Tで保持可能な処理室、好ましくは、後述する脱脂処理室において行われる。上記処理温度Tは、脱脂処理室において加熱されているセラミックス成形体の温度であり、熱電対等により測定することができる。
尚、セラミックス成形体を、上記処理温度Tとする方法は、特に限定されず、従来、公知の加熱装置を用いることができる。本発明においては、熱処理工程において接触させる過熱水蒸気を熱源として用いることが好ましい。
【0026】
上記セラミックス成形体に接触させる気体は、過熱水蒸気及び酸素ガスからなる混合ガスであってよいし、更に他のガスを含む混合ガスであってもよい。いずれの場合も、上記気体に含まれる過熱水蒸気の割合は、上記気体の体積を100体積%としたときに、脱脂効率の観点から、好ましくは95体積%以上、より好ましくは97〜100体積%、更に好ましくは99〜100体積%である。
【0027】
上記気体に含まれる酸素ガスの割合は、上記気体の体積を100体積%としたときに、好ましくは5体積%以下、より好ましくは0〜1.0体積%、更に好ましくは0〜0.1体積%である。
【0028】
上記気体が他のガスを含む場合、他のガスとしては、過熱水蒸気及び酸素ガスの少なくとも一方と反応して、水以外の物質を生成しないものであれば、特に限定されず、例えば、水素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等を用いることができる。他のガスを用いる場合、脱脂処理室の酸素ガス分圧及び水素ガス分圧を調整すること等を目的とするものであり、その割合は、上記気体の体積を100体積%としたときに、通常、5体積%以下である。
【0029】
上記気体をセラミックス成形体に接触させる際には、予め、各ガスを混合して調製した混合ガスを脱脂処理室に導入してよいし、各ガスを別々に脱脂処理室に導入してもよい。
【0030】
上記セラミックス成形体と接触する、上記気体の温度は、セラミックス成形体の温度が上記処理温度Tを維持する限り、特に限定されない。これは、例えば、セラミックス成形体の温度を700℃としたときに、気体の温度が400℃であっても、600℃であってもよいことを意味する。しかしながら、脱脂効率の観点から、少なくとも過熱水蒸気の温度と、セラミックス成形体の温度とを、同じとする又は近くすることが好ましく、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体の温度と、セラミックス成形体の温度とを、同じとする又は近くすることが特に好ましい。
上記気体の温度は、好ましくは600℃〜900℃、より好ましくは620℃〜850℃、更に好ましくは650℃〜800℃である。
【0031】
上記熱処理工程の条件は、温度(℃)をX軸とし、酸素ガス分圧PO2(atm)の対数値をY軸とする関係図(図1)で表したとき、この図1におけるA(590,−3.0)、B(900,−3.0)、C(900,−19.5)、D(590,−24.1)及びA(590,−3)の各点を、順次、直線で結ぶことにより得られる範囲内(以下、「特定脱脂条件」という。)である。この特定脱脂条件とすることにより、セラミックス成形体の脱脂を、従来法よりも短時間化することができ、炭素除去率を99.0%以上とすることができる。また、脱脂物のセラミックス相における、バインダー等に由来する炭素原子の含有量(以下、「炭素含有率」ともいう。)を、0.010質量%未満とすることができる。セラミックス成形体が、上記のような配線層を備える(多層)積層体である場合には、セラミックス相における脱脂効果が得られるだけでなく、配線層を構成する導電性金属材料の変質(酸化等)、配線層の剥離、断線等の不具合を抑制することができる。
上記処理温度Tは、好ましくは600℃〜900℃、より好ましくは600℃〜800℃である。また、好ましい酸素ガス分圧PO2は、図1に示される特定脱脂条件を用いて得られる、上記好ましい各温度に対応する上限及び下限の圧力とすることができる。本発明においては、図2におけるA’(600,−7.7)、B’(800,−6.3)、C’(800,−13.3)、D’(600,−18.7)及びA’(600,−7.7)の各点を、順次、直線で結ぶことにより得られる範囲内で処理を行うことが特に好ましい。
尚、熱処理工程における温度は、上記処理温度Tの範囲内であれば、適宜、昇温及び降温を含んでもよい。
【0032】
上記熱処理工程における脱脂時間(特定脱脂条件による処理時間)は、好ましくは5分以上、より好ましくは5〜30分である。
【0033】
上記熱処理工程の具体的な方法としては、例えば、セラミックス成形体を、特定脱脂条件を満たさない脱脂処理室(R1)に載置した後、過熱水蒸気及び酸素ガスを導入し、脱脂処理室(R1)を特定脱脂条件に調整し、脱脂する方法(以下、「方法(1)」という。)、予め、過熱水蒸気及び酸素ガスを含み特定脱脂条件に調整した脱脂処理室(R2)に、セラミックス成形体を載置し、脱脂する方法(以下、「方法(2)」という。)等が挙げられる。
これらの方法(1)及び(2)は、特定脱脂条件における酸素ガス分圧を容易に調整できることから、好ましい方法であるが、脱脂効果が安定しており、セラミックス脱脂体の外観性に優れることから、方法(1)が特に好ましい。尚、酸素ガス分圧は、脱脂処理室への各ガスの供給量(供給速度:単位時間あたりの体積)から算出することができる。
【0034】
上記方法(1)において用いる脱脂処理室(R1)は、好ましくは、気体の導入及び排気が可能な処理室である。この脱脂処理室(R1)において、特定脱脂条件は、過熱水蒸気及び酸素ガスの導入のみにより構築されてよいし、更に、別途、加熱手段等を配設した脱脂処理室により構築されてもよい。
【0035】
上記方法(1)の場合、処理温度Tに達していない、例えば、常温のセラミックス成形体を加熱して、処理温度Tとする際に、昇温速度を、好ましくは50℃/分以下、より好ましくは5〜30℃/分、更に好ましくは5〜20℃/分とする。これにより、セラミックス成形体における亀裂発生を抑制することができる。
本発明において、上記効果を確実に得るためには、セラミックス成形体を加熱して、常温から、150℃〜250℃の範囲の温度(以下、「温度T1」という。)とし(第1加熱)、その後、必要に応じて、この温度T1で保持し、次いで、セラミックス成形体をさらに加熱して、処理温度Tとする(第2加熱)ことが好ましい。
【0036】
第1加熱における昇温速度は、特に限定されないが、好ましくは30℃/分以下、より好ましくは5〜20℃/分、更に好ましくは5〜10℃/分である。また、第2加熱における昇温速度は、好ましくは30℃/分以下、より好ましくは5〜20℃/分、更に好ましくは5〜10℃/分である。
【0037】
上記のように、第1加熱及び第2加熱の間において、セラミックス成形体を温度T1で保持することができるが、その場合、即ち、予熱する場合(以下、「予熱工程」という。)、保持時間(予熱時間)は、セラミックス成形体の構成材料等により、適宜、選択されるが、好ましくは10分以上、より好ましくは10〜30分である。
尚、上記のような段階を経ない、例えば、常温から、50℃/分を超える高い昇温速度で、処理温度Tとした後、熱処理工程を行った場合には、セラミックス脱脂体の表面に、過熱水蒸気に由来する水蒸気の付着痕が残ることがあり、表面外観性を低下させることとなるが、予熱工程を備えることにより、この不具合を抑制することができる。
【0038】
上記処理温度Tとするまでの間、セラミックス成形体が載置された脱脂処理室(R1)の雰囲気は、特に限定されず、大気、水蒸気、過熱水蒸気、酸素ガス、不活性ガス等のいずれであってもよい。尚、セラミックス成形体が、特定脱脂条件の温度に達した時点で、特定脱脂条件が満たされることが好ましい。
【0039】
一方、上記方法(2)において用いる脱脂処理室(R2)は、予め、特定脱脂条件を満たしており、セラミックス成形体が載置されて、その温度が上記処理温度Tに達すると、脱脂が開始される。尚、このセラミックス成形体の脱脂は、脱脂処理室(R2)に、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体が含まれた状態で、密閉条件下に行われてよいし、上記気体の導入及び排気を繰り返しつつ行われてもよい。これらの場合、上記気体は、予め、混合されてなるものであってよいし、各ガスが、独立して導入されてもよい。
【0040】
本発明の脱脂方法は、熱処理工程の後、更に、セラミックス脱脂体を冷却する冷却工程を備えることができる。
この冷却工程における雰囲気及び冷却速度は、特に限定されない。脱脂処理室の好ましい雰囲気は、熱処理工程と同じ雰囲気である。また、好ましい冷却速度は、5〜20℃/分、更に好ましくは5〜10℃/分である。
【0041】
本発明の脱脂方法において、常温で、セラミックス脱脂体を回収するまでの合計の処理時間を2時間以下とすることができる。
本発明の脱脂方法によれば、得られるセラミックス脱脂体における炭素除去率を、好ましくは99.0%以上、より好ましくは99.5%以上とすることができる。尚、この炭素除去率は、セラミックス成形体の形成に用いるスラリーを調製する際の原料の使用量から算出することができる。
また、セラミックス相における、バインダー等に由来する炭素原子の含有量(炭素含有率)を、好ましくは0.100質量%未満、より好ましくは0.080質量%以下とすることができる。尚、この炭素含有率は、炭素分析装置等により計測することができる。
【0042】
2.セラミックス成形体の脱脂装置
本発明のセラミックス成形体の脱脂装置は、セラミックス粉末を含むスラリーを用いて得られたセラミックス成形体を脱脂する装置であって、水蒸気を製造する水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114と、水蒸気を加熱して過熱水蒸気を製造する手段(装置)であって、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114に連絡可能である過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120と、その内部にセラミックス成形体150を載置して、セラミックス成形体150と、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体とを接触させる手段(処理室)であって、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120に連絡可能である過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140と、を備える(図3及び図4参照)。
【0043】
本発明の脱脂装置は、上記本発明のセラミックス成形体の脱脂方法に用いるための装置である。この脱脂装置において、はじめに、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114で製造された水蒸気が、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120に送られる。その後、この水蒸気が、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120の内部において、電磁誘導、ジュール熱等の利用により加熱されて、過熱水蒸気が製造される。次いで、この過熱水蒸気が、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140に導入される。この過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140には、セラミックス成形体150が載置されるので、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140において特定脱脂条件が構築されて、セラミックス成形体150の脱脂が行われる。
【0044】
本発明の脱脂装置を、図3及び図4を参照しながら、説明する。
本発明の脱脂装置は、水蒸気の原料である水(水道水、イオン交換水、蒸留水、超純水等)又は湯(以下、両者を併せて「原料水」という。)を、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114に供給するために、通常、原料水貯蔵手段(原料水貯蔵装置)111を備える。この原料水貯蔵手段(原料水貯蔵装置)111は、日常的に入手可能な水道水、蒸留水等を収容するところであり、溶存酸素の濃度を測定する装置、曝気装置、撹拌装置、温度計等を備えることができる。また、この原料水貯蔵手段(原料水貯蔵装置)111は、図示していないが、原料水を水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114に供給するための原料水供給手段(原料水供給装置)を備えることができる。
【0045】
溶存酸素の濃度を測定する装置としては、従来、公知の酸素ガス用センサーを用いることができる。原料水に含まれる溶存酸素の濃度を把握しておくと、その後、酸素ガスを、別途、供給するしないにかかわらず、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140における酸素ガス分圧の調整が容易となる。
また、曝気装置は、従来、公知の装置を用いることができ、酸素ガスと反応しないガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等)を原料水に導入する曝気用ガス供給手段(曝気用ガス供給装置)106を備えることが好ましい。
【0046】
上記の原料水貯蔵手段(原料水貯蔵装置)111及び水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114は、連絡可能であり、図3及び図4に示すように、配管(原料水供給用配管)112を介して接続されていてよいし、この配管(原料水供給用配管)112を使用せずに、原料水貯蔵手段(原料水貯蔵装置)111における原料水排出口と、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114における原料水導入口とを接続させて、原料水が、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114に直接導入されるようにしてもよい。
【0047】
上記水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114は、原料水貯蔵手段(原料水貯蔵装置)111から送液された原料水から、水蒸気を製造するところであり、従来、公知の、ボイラー等を用いることができる。気化は、減圧下、常圧下及び加圧下のいずれで行ってもよい。原料水が溶存酸素を含む場合には、この水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114から、水蒸気、及び、溶存酸素に由来する酸素ガスを含む混合ガスが排出され、電磁誘導を利用する発熱体123等の加熱手段(加熱装置)を備える過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120に送られる。
【0048】
上記の水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114及び過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120は、連絡可能であり、図3及び図4では、両者は、配管(水蒸気供給用配管)115を介して接続されている。他の態様としては、この配管(水蒸気供給用配管)115を使用せずに、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114における水蒸気排気口と、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120における水蒸気導入口とを、直接、接続されたものである。
【0049】
上記配管(水蒸気供給用配管)115においては、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114は、製造された水蒸気を、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120に向かう気流を形成することができる。また、図3の脱脂装置1Aに示す酸素ガス供給手段(酸素ガス供給装置)116を備える場合には、導入される酸素ガスによって、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120に向かう気流を形成することもできる。従って、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120に導入された水蒸気も、その流れを維持しつつ、発熱体123により加熱されながら、過熱水蒸気を生成し、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140に供給される。
【0050】
ここで、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140においてセラミックス成形体150に接触させる、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体のうち、酸素ガスについて説明する。酸素ガスは、原料水に溶存している酸素ガス(溶存酸素)のみを利用することができ、この溶存酸素と、例えば、後述する酸素ガス供給手段(酸素ガス供給装置)116から配管(水蒸気供給用配管)115に導入した酸素ガスとを組み合わせたものとすることができる。酸素ガス供給手段(酸素ガス供給装置)116の接続場所は、配管(水蒸気供給用配管)115に限定されず、配管(原料水供給用配管)112であってもよい。
図3の脱脂装置1Aは、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120に、水蒸気及び酸素ガスを供給するために、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114で製造された水蒸気を流れる配管(水蒸気供給用配管)115に、酸素ガスを導入する酸素ガス供給手段(酸素ガス供給装置)116を備える態様である。
【0051】
新たに酸素ガスを供給する他の方法としては、過熱水蒸気を製造した後、この過熱水蒸気と合流するように酸素ガスを供給する方法がある。図4の脱脂装置1Bは、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120の内部で、過熱水蒸気と、酸素ガスとを合流させる態様であって、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120の下方から導入された水蒸気が発熱体123により加熱されて過熱水蒸気が製造された後、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120の外部に配設された酸素ガス供給装置116からの酸素ガスを、収容体125の上部の内壁に設けられた導入口から導入する態様である。
【0052】
上記酸素ガス供給手段(酸素ガス供給装置)116は、酸素ガスのみを供給する装置であってよいし、酸素ガスと他のガスとからなる混合ガスを供給する装置であってもよい。他のガスは、酸素ガスと混合してから供給するのではなく、図示していないが、独立して配設されたガス供給手段(ガス供給装置)から、導入する態様であってもよい。
他のガスとしては、上記のように、水素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられるが、水素ガスを酸素ガスと併用することにより、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140における酸素ガス分圧の調整を容易にすることができる。水素ガスを用いる場合には、例えば、図4に示す脱脂装置1Bにおける酸素ガス供給手段(酸素ガス供給装置)116を利用することができる。上記のように、この酸素ガス供給手段(酸素ガス供給装置)116を用いた併用ガスは、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120における発熱体123により製造された後の過熱水蒸気と合流するものであり、発熱体123に接触させない経路で、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140に導入する態様である。この場合には、発熱体123は、過熱水蒸気の製造のみに利用されるので、他のガスとの接触が抑制され、耐久性に優れ、そして、過熱水蒸気の供給安定性を得ることができる。これは、大量のセラミックス成形体を脱脂する際の安定性にもつながる。
【0053】
上記過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120は、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114から供給された水蒸気を加熱して過熱水蒸気を製造するところである。本発明においては、電磁誘導を利用して、水蒸気を加熱し、過熱水蒸気を製造する方法が好ましい。図3及び図4における過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120は、電磁誘導により発熱する発熱体123と、この発熱体123を収容し、且つ、筒状である収容体125と、この収容体125の外側にあって、少なくとも発熱体123を包囲するように配設された励磁コイル121とを備える。図5は、発熱体123を含む過熱水蒸気製造装置の要部を示す縦断面図である。
【0054】
上記発熱体123は、励磁コイル121への通電に伴う電磁誘導により発熱するものである。また、好ましい構成材料は、電磁誘導により、1,000℃程度までの温度に発熱することができ、発熱中に、分解、変質、脱ガス等が抑制される材料である。本発明における好ましい発熱体123は、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「特定酸化物」ともいう。)を含む基部と、この基部の表面に配された、下記一般式(2)で表される化合物を含む被覆部と、を備える成形物の複数が積み上げられて形成されてなり、これらの成形物どうしの空隙により通気性を有する発熱体である。
La1−x3−y (1)
〔式中、Mは、Mg、Ca、Sr及びBaから選ばれた少なくとも1種の元素であり、Mは、Cr、Co及びMnから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0<x≦0.5、且つ、0≦y≦0.1である。〕
La・n(SiO) (2)
〔式中、nは、1以上2以下の数である。〕
【0055】
上記基部に含まれる、上記一般式(1)で表される酸化物(特定酸化物)において、元素Mは、Mg、Ca、Sr及びBaから選ばれた少なくとも1種であり、これらのうちの1種のみであってよいし、2種以上の組合せであってもよい。元素Mは、Srを含むことが好ましく、この場合の特定酸化物は、下記一般式(3)及び(4)で表すことができる。
La1−xSr3−y (3)
La1−xSrxz11x−xz3−y (4)
〔但し、M11は、Mg、Ca及びBaから選ばれた少なくとも1種の元素であり、Mは、Cr、Co及びMnから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0<x≦0.5、0≦y≦0.1、且つ、0.5≦z<1である。〕
上記一般式(3)及び(4)で表される特定酸化物は、単独で用いてよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0056】
また、上記一般式(1)、(3)及び(4)で表される特定酸化物において、元素Mは、Cr、Co及びMnから選ばれた少なくとも1種であり、これらのうちの1種のみであってよいし、2種以上の組合せであってもよい。本発明においては、元素Mは、Mnを含むことが好ましい。
【0057】
上記一般式(1)、(3)及び(4)で表される特定酸化物において、電磁誘導により500℃以上に発熱させたときの安定性の観点から、0<x≦0.5である。また、長期及び繰り返し使用可能等の観点から、好ましくは0<x≦0.4、より好ましくは0.1≦x≦0.3である。
【0058】
本発明においては、上記特定酸化物は、上記一般式(1)において、元素MがSrである化合物、即ち、上記一般式(3)で表される化合物であって、元素MがMnであり、且つ、0.1≦x≦0.3である化合物であることが好ましい。上記基部が、この化合物を含むと、電磁誘導により、500℃以上、好ましくは600℃〜900℃といった高温域の所望の温度に発熱させやすく、この温度において過熱水蒸気を生成させる際の耐食性に特に優れる。
【0059】
上記基部は、上記特定酸化物を含むものであるが、この特定酸化物の製造に際して生成した不可避的不純物及び下記一般式(5)で表される酸化物を含有してもよい。
LaM3−y (5)
〔式中、Mは、Cr、Co及びMnから選ばれた少なくとも1種の元素であり、且つ、0≦y≦0.1である。〕
【0060】
上記基部に含まれる特定酸化物の含有割合は、すべての化合物の合計を100質量%とした場合、好ましくは80質量%以上、より好ましくは95〜100質量%である。この特定酸化物の含有割合が高いほど、500℃以上、好ましくは600℃〜900℃といった高い発熱温度に対する安定性に優れる。
【0061】
一方、上記被覆部は、上記基部の表面を覆う部分(層)であり、上記一般式(2)で表される化合物を含む。即ち、この被覆部は、上記一般式(2)で表される化合物のみからなる部分であってよいし、上記一般式(2)で表される化合物と、他の化合物とからなる部分であってもよい。上記一般式(2)で表される化合物の含有量は、発熱体の耐久性の観点から、上記被覆部を構成する化合物の全量に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65〜100質量%である。
【0062】
上記被覆部に含まれる、上記一般式(2)で表される化合物は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
上記一般式(2)において、n=1及びn=2の場合の化合物、即ち、La・SiO及びLa・2SiOは、安定化合物である。また、1<n<2の化合物の場合の被覆部を備える発熱体を電磁誘導加熱に用いると、時間とともに、n=1及び/又はn=2の化合物に変化する傾向にある。
【0063】
上記被覆部が、他の化合物を含む場合、例えば、下記一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
p(MO)・q(SiO) (6)
〔式中、MOは、Cr、Co及びMnから選ばれた少なくとも1種の元素Mの酸化物の1種又は2種以上であり、且つ、0≦p/q≦10である。〕
【0064】
上記一般式(6)で表される化合物を構成する元素Mは、上記基部に含まれる特定酸化物(上記一般式(1)で表される化合物)を構成する元素Mと同一元素を含むことが好ましい。例えば、上記特定酸化物がLa1−xSrMnOである場合には、他の化合物を表す上記一般式(6)における元素MがMnであることが好ましい。従って、他の化合物は、下記式(7)で表すことができる。
(MnO)・p(Mn)・q(SiO) (7)
上記式(7)において、p=1のとき、好ましくは0≦p≦3、0.5≦q≦1である。
【0065】
上記被覆部は、上記一般式(2)で表される化合物を含む層が積層されて形成されたものであってもよい。
【0066】
上記被覆部の厚さは、電磁誘導を利用した発熱体としての安定性、発熱体自身と被覆部との熱膨張係数差の影響を軽減する等の観点から、好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは1〜10μm、更に好ましくは2〜5μmである。
【0067】
上記被覆部の形成方法は、特に限定されないが、ポリシラザンを用いる方法、ゾルゲル法、溶射法等が挙げられる。
【0068】
上記基部及び被覆部を有する成形物の形状は、特に限定されず、定形体及び不定形体のいずれでもよい。好ましい形状は、棒体、線体、板体、球体(楕円球体を含む)、多面体等の定形体であり、特に好ましくは、棒体、板体、球体及び多面体である。尚、上記発熱体は、凸部、凹部、貫通孔等の部位を有してもよい。
【0069】
上記成形物の複数が積み上げられてなる発熱体123の一例を図6に示す。
図6の発熱体123は、上記基部及び被覆部を有する成形物122として、円板型成形物を5枚準備し、各円板の中心を結んだときに正五角形を形成するように、円板の側面を互いに接触させて配置し、一段ずつ正五角形の位置をずらしながら、上方に複数段積層した積層物であり、(a)は斜視図を、(b)は上方から見た図を示す。この発熱体123は、各段における円板が接触して、見かけ上、円柱体の中心を上下方向にくり抜いたような、略筒状を有しているので、そのくり抜かれている部分を、水蒸気の流路とすることができる。尚、円板を用いずに、多角形状、楕円形状等の板を用い、適宜、所定間隔を設けながら積層した発熱構造体とすることもできる。
【0070】
上記のように、図6の発熱体123は、全体として、各成形物の接触により連結した連続体を形成している。これにより、成形物122における被覆部の構成材料によらず、発熱体の電子伝導性を維持することができ、電磁誘導により発熱させることができる。また、複数の成形物により形成される空間が、少なくとも上下方向に連続しているので、水蒸気を、発熱体123の上方又は下方から、電磁誘導により発熱している成形物122による空隙を通気させて、効率よく加熱することができる。尚、水蒸気を、電磁誘導により発熱している発熱体の周辺を通気させて、加熱し、過熱水蒸気を製造することもできる。このように、上記特定の構成を有する成形物を積み上げてなる発熱体123を用いると、電磁誘導により、900℃程度の高い温度にまで、成形物が、分解、変質、脱ガス、変形粒成長等の不具合を被ることなく、発熱させることができる。従って、本発明においては、図6の発熱体123は、特に好ましい態様である。
【0071】
上記発熱体123は、図5に示すように、収容体125の内壁に接触しないように配設されることが好ましい。
【0072】
上記発熱体123を収容する収容体125は、筒状であり、通常、円形、楕円形、多角形等の断面形状を有する筒状体が用いられる。この収容体125は、単層型筒状体であってよいし、互いに同一の又は異なる材料が積層されてなる複層型筒状体であってもよい。尚、目的、用途等に応じて、ふくれ、くびれ、曲がり等の部分、内壁面に凹部、凸部、溝部等を有してもよい。
【0073】
上記収容体125の構成材料は、電磁誘導により発熱せず、且つ、耐火性を有するものであれば、特に限定されない。本発明においては、900℃程度までの高い温度に対して安定であることから、この収容体125の内壁面の構成材料が、AlTiO(チタン酸アルミニウム、五酸化チタン二アルミニウム)を含むことが好ましい。このAlTiOの含有割合は、好ましくは70体積%以上、より好ましくは80体積%以上、更に好ましくは90体積%以上である。また、このAlTiOを含むことにより、耐熱性、断熱性、耐衝撃性、耐水蒸気性等にも優れた収容体とすることができる。尚、AlTiOと併用可能な材料としては、コージェライト、アルミナ、ジルコニア、石英ガラス等が挙げられる。
本発明においては、この収容体125の全体がAlTiOのみからなる単層型筒状体、又は、AlTiOからなる層を、発熱体123側、即ち、内壁に備える複層型筒状体であることが特に好ましい。
【0074】
上記励磁コイル121は、収容体125の外側にあって、少なくとも発熱体123を包囲するように配設されており、通常、円状又は螺旋状に巻回されている。また、この励磁コイル121は、高周波交流電源に通電するトランス185に接続され、この電源からの電力供給により磁力線を発し、発熱体123の発熱を誘起する。
【0075】
上記励磁コイル121の周辺部には、発熱体123の発熱時に、収容体125からの輻射熱の影響を抑制するために、励磁コイル121を冷却するための冷却機181を備えることができる。
【0076】
過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120及び過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140は、連絡可能であり、配管を介して接続されていてよいし、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120に過熱水蒸気排出口を設け、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140に過熱水蒸気導入口を設け、そして、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120及び過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140を隣接させて、通気性を有するようにしてもよい。更に、両者の境界において、いずれか一方が、開閉可能な窓部等を備えてもよい。
【0077】
上記の過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120及び過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140が連絡(連通)している場合には、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140に排気手段(排気装置)等を設けることなく、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114からの水蒸気の流れ等を利用して、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120から過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140に、少なくとも過熱水蒸気を供給することができる。
【0078】
本発明の脱脂装置において、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120及び過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140の位置関係は、発熱体123の形状、更には、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120における過熱水蒸気排出口の位置、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140における過熱水蒸気導入口の位置、等により、適宜、選択され、縦、横及び斜めのいずれであってもよい。
図3及び図4に示す脱脂装置は、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120が、鉛直に配置された収容体125を備え、過熱水蒸気を、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120から、その上方に供給する態様である。即ち、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120及び過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140を、それぞれ、上方側及び下方側に配置している。図3及び図4に示す過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120及び過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140の位置関係は、熱上昇流を利用した過熱水蒸気の円滑な供給性の観点から、好ましい。
【0079】
上記過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140は、その内部にセラミックス成形体150を載置して、セラミックス成形体150と、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体とを接触させる手段(装置)である。
【0080】
上記セラミックス成形体150は、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体と接触させることができる限り、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140において、どのように載置されてもよい。上記セラミックス成形体150は、好ましくは、上記温度又は加熱された上記気体により、分解、変質、脱ガス等を発生させない材料からなる支持部材132の上に載置される。この材料は、好ましくは、Al、MgO、TiO、ZrO、Y、AlTiO等のセラミックスである。
【0081】
上記支持部材132の形状は、特に限定されず、棒体、板体、網体等とすることができ、貫通孔、凸部、凹部等の部位を有してもよい。
棒体の場合、その複数を用い、適当な間隔をもって配置し、その上に、直接、セラミックス成形体150を載置することができる。
板体又は網体の場合、その上に、直接、セラミックス成形体150を載置することができる。
【0082】
図7は、セラミックス成形体150が支持部材132の上に載置されていることを示す縦断面図である。この図において、形状が、円形、楕円形又は多角形(四角形等)である環状枠体135における突起部137の上に、板状の支持部材132が、その周縁部で支持されつつ、載置されていることを示す。尚、上記環状枠体135は、上記形状の環状枠部136と、この環状枠部136の内壁から突き出した突起部137とを備えており、環状枠部136を利用して積み重ね可能である。従って、図7に示すように、環状枠体135及び支持部材132を複数用いることで、大量のセラミックス成形体150の脱脂を行うことができる。尚、環状枠体135は、好ましくは、セラミックスからなるものであり、中実体であってよいし、通気性を有してもよい。
【0083】
また、図示していないが、図7における環状枠体135及び支持部材132が一体化した支持部材を用いて、脱脂処理に供することができる。
【0084】
上記支持部材132は、上記気体及びセラミックス成形体150の接触効率の観点から、通気性を有することが好ましく、多孔質であることが特に好ましい。
本発明においては、上記支持部材132は、多孔質セラミックスからなる部材であることが特に好ましい。
上記支持部材132が、多孔質セラミックスからなる部材である場合には、上記気体を、セラミックス成形体150におけるどの方向から接触させても、優れた脱脂効率を得ることができる。
【0085】
上記過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140は、特定脱脂条件が適用されることから、その筐体は、Al、MgO、TiO、ZrO、Y、AlTiO等の耐熱性材料からなるものが用いられる。
上記セラミックス成形体150の脱脂は、上記のように、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体が含まれた状態で、密閉条件下に行われてよいし、上記気体の導入及び排気を繰り返しつつ行われてもよいことから、上記過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140は、密閉空間であってよいし、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体をセラミックス成形体150に接触させた後、排気するための排気口を備えてもよい。
【0086】
また、上記過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140において、特定脱脂条件が維持されるように、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140の内部、あるいは、上記筐体の内部又は外部に、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体、セラミックス成形体150を保温する加熱手段(加熱装置)を備えることができる(図示せず)。
【0087】
図3及び図4に示す脱脂装置を用いた場合には、過熱水蒸気を、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140に、円滑に供給することができるが、酸素ガスを供給する他の態様として、独立した配管によって、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140に、直接、供給されるように配設した酸素ガス供給手段(酸素ガス供給装置)を備える脱脂装置とすることができる(図示せず)。
【0088】
以下、図5の過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)を備える図3の脱脂装置1Aを用いて、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140の内部に配置されたセラミックス成形体150を、特定脱脂条件で脱脂する好ましい方法を、簡単に説明する。
【0089】
原料水貯蔵手段(原料水貯蔵装置)111に収容された原料水は、必要に応じて、曝気され、溶存酸素の濃度をモニターしつつ、原料水供給用配管112を介して、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114に供給される。その後、水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114において、水蒸気が製造され、水蒸気供給用配管115を介して、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120に供給される。過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140において、特定脱脂条件とする場合には、酸素ガス供給手段(酸素ガス供給装置)116から、酸素ガスを水蒸気供給用配管115に供給してもよい。過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120において、トランス185からの高周波交流電源により所定の電力が供給された励磁コイル121により発熱体123が誘導加熱されて発熱しており、収容体125の下方側の開口部(水蒸気導入口)127から、収容体125内に供給された水蒸気は、発熱体123に接触し、又は、収容体125内の加熱空間を通気することにより、500℃以上の温度に加熱されて過熱水蒸気が製造され、過熱水蒸気排出口128から過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140に送られる。
【0090】
尚、励磁コイル121による誘導加熱条件としては、発信周波数を、20kHz〜100kHzの範囲から選択して電力を供給することが好ましい。この周波数範囲であれば、発熱体123により、500℃以上、好ましくは550℃〜900℃の間の所望の温度への発熱を効率的に進めることができる。
【0091】
水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)114により製造された水蒸気が、酸素ガスを伴って、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120に供給された場合には、この酸素ガスは、過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)120により製造された過熱水蒸気とともに、その内部にセラミックス成形体150が配置された過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140へ送られる。
【0092】
過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140では、過熱水蒸気の熱を利用するか、あるいは、別途、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140に配設した加熱手段(加熱装置)等により、処理温度T(590℃〜900℃)が構築又は維持される。尚、上記のように、高い脱脂効率を得るために、温度T1(150℃〜250℃の範囲の温度)で、セラミックス成形体150の予熱が行われる。このとき、上記加熱手段(加熱装置)を利用することができる。
【0093】
過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140におけるセラミックス成形体150の配置方法としては、図7に示すような形態で用いる。上記予熱は、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140において行ってよいし、環状枠体135、支持部材132及びセラミックス成形体150の組み合わせのまま、別室で行ってもよい。後者の場合、図示していないが、好ましくは、支持部材132に載置されたセラミックス成形体150を含む環状枠体135のまま、上記別室と、過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140との往復を可能とする態様である。
【0094】
過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)140において、セラミックス成形体150が、特定脱脂条件下に処理された後、冷却により、セラミックス脱脂体が回収される。
【0095】
本発明の脱脂装置によれば、従来の装置よりも、脱脂を短時間化することができるので、セラミックス製品の製造装置に適用することにより、その製造時間を短縮することができる。
【実施例】
【0096】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0097】
1.セラミックス成形体の作製
65%の昭和電工社製酸化アルミニウム粉末「AL−160SG−4」(商品名)と、5%のポリビニルブチラール(バインダー)と、4%のフタル酸ベンジルブチル(可塑剤)と、1%のアリルエーテルコポリマー(分散剤)と、25%のエタノールとを、ボールミルを用いて混合撹拌し、スラリーを調製した。次いで、このスラリーを用いて円形のグリーンシートを作製し、70℃で12時間乾燥させた。その後、このグリーンシートを4層重ねた状態で、80℃で熱間プレスすることにより、図8に示すようなセラミックス成形体150(直径16mm、厚さ1mm)を得た。
【0098】
2.脱脂装置
本実施例では、図3に示す脱脂装置を用いた。
図3の脱脂装置1Aは、原料水として水道水を収容する貯水槽(原料水貯蔵装置)111と、原料水供給用配管112を介して貯水槽111に接続されたボイラー(水蒸気製造装置)114と、水蒸気供給用配管115を介してボイラー114に接続された過熱水蒸気製造装置120と、過熱水蒸気製造装置120の上方側に配設された脱脂処理室140とを備える。脱脂処理室140の内部に、セラミックス成形体150を、その表面に載置するための支持部材132を支持する環状枠体135(図7参照)を配置して脱脂を行うが、環状枠体135は、脱脂処理室140から脱着可能である。
【0099】
貯水槽111は、図示していないが、原料水をボイラー114に供給するための送液ポンプを備えることができる。この貯水槽111には、原料水に含まれる溶存酸素量を測定するためのセンサー108が配設されている。貯水層111における原料水の溶存酸素量を測定したところ、8mg/Lであったので、このまま、ボイラー114及び過熱水蒸気製造装置120を経た場合には、この溶存酸素量に相当する量の酸素ガスが、少なくとも脱脂処理室140にまで送られる。従って、脱脂処理室140における酸素ガス分圧をより小さくする場合には、貯水槽111における原料水に、水及び酸素ガスと反応しないガスを導入することができる。下記の実施例では、酸素ガス分圧を小さくする一手段として、原料水11に、アルゴンガスを導入して曝気を行った(流速:5.0L/分)。脱脂処理室140における酸素ガス分圧をより高くする場合には、ボイラー114及び過熱水蒸気製造装置120を連結する水蒸気供給用配管115の途中に配設した、酸素ガス供給装置116を利用した。尚、図示していないが、この酸素ガス供給装置116と同様に、ボイラー114及び過熱水蒸気製造装置120を連結する水蒸気供給用配管115の途中には、微量の水素ガスを含むアルゴンガスを供給する装置を配設した。
【0100】
ボイラー114は、水を気化させる装置であれば、特に限定されず、公知のボイラーを用いることができる。気化条件は、減圧下、常圧下及び加圧下のいずれでもよい。
【0101】
過熱水蒸気製造装置120は、ボイラー114から供給された水蒸気を更に加熱し、脱脂処理室140に供給するための、過熱水蒸気を生成させるところである。即ち、水蒸気を、装置内に導入した後、電磁誘導を利用した加熱により、500℃以上の温度の過熱水蒸気とし、次いで、製造された過熱水蒸気を、脱脂処理室140に供給する構成である。
この過熱水蒸気製造装置120において、水蒸気の加熱に用いる発熱体123は、図5に示すように、後述する方法により製造された円板型成形物が積み上げられてなり、水蒸気導入口127及び過熱水蒸気排出口128を有する筒状の収容体125の内壁に接触しないように、且つ、励磁コイル121に包囲されるように、収容体125の内部に配設されている。
水蒸気が、酸素ガス、水素ガス等とともに過熱水蒸気製造装置120に導入された場合、過熱水蒸気製造装置120で製造された過熱水蒸気は、酸素ガス、水素ガス等とともに、脱脂処理室140に供給され、脱脂処理室140において、特定脱脂条件にてセラミックス成形体の脱脂が行われる。
尚、励磁コイル121は、トランス185及びコンデンサ183を介してインバータ187と接続されており、一方、冷却機181も配設されている。従って、過熱水蒸気は、その製造条件を、適宜、選択することにより、所望の温度とし、脱脂処理室140に供給することができる。
【0102】
脱脂処理室140は、円筒状の環状枠部136と、この環状枠部136の下端から円筒の内側に突き出して、環状枠部136よりも小さい内径を有する円筒状の突起部137とを備える環状枠体135(チタン酸アルミニウム(AlTiO)製)を、その筐体内部に備えている。そして、突起部137の上側表面を支持部として、セラミックス成形体150を載置するための板状支持部材(多孔質アルミナ製)132が配置されている(図7参照)。
環状枠体135は、その複数により、互いに積み重ね可能であり、複数の支持部材132を用いて、大量のセラミックス成形体150を脱脂できるようになっている。
尚、板状支持部材(多孔質アルミナ製)132にセラミックス成形体150を載置した状態で、環状枠体135が移設可能となっている。従って、この組み合わせで他の場所にてセラミックス成形体150を予熱した後、脱脂処理室140における所定の位置に配置することができるようにしている。
【0103】
脱脂処理室140の筐体の上端部には、取り外し可能な蓋体(図示せず)が配されており、下端部には、過熱水蒸気製造装置120からの過熱水蒸気を導入可能な、開閉可能な窓(図示せず)を有する底蓋体が配されている。従って、この脱脂処理室140の筐体の内部を密閉系とすることができる。
脱脂処理室140は、過熱水蒸気製造装置120から供給される過熱水蒸気等の温度低下を抑制するために、その内部又は外部に加熱装置を備えることができる。
【0104】
ここで、上記円板型成形物を用いた発熱体123の製造方法を示す。
第一稀元素工業社製La0.8Sr0.2MnO粉末を、プレス成形(圧力:20MPa)し、その後、CIP成形(圧力:600MPa)することにより、円板状とした。次いで、酸素気流中、温度1,500℃で5時間焼成することにより、直径24mm及び厚さ10mmの焼結体を得た。
その後、この焼結体をアセトンで超音波洗浄した。そして、焼結体を、25℃に調整した、AZエレクトロニックマテリアルズ社製ポリシラザン溶液「NN310−30」(商品名)中に、10秒間浸漬させた後、これを取り出し、酸素気流中、塗膜付き焼結体を2時間かけて450℃まで昇温加熱し、450℃で1時間保持した。その後、5時間かけて1,200℃まで昇温加熱し、1,200℃で1時間保持した。次いで、5時間かけて、室温まで降温させた。これにより、上記焼結体の表面に、Si系の酸化物被膜を形成させ、円板型成形物を得た。上記商品のポリシラザンは、−(SiHNH)−であり、n=800〜1,200の化合物である。
【0105】
上記円板型成形物について、リガク社製「RINT2000」(型式名)を用いたXRD測定、及び、PHI社製「ADEPT1010」(型式名)を用いたD−SIMS測定に供して、それぞれ、被覆部の組成分析、及び、被覆部表面からの深さ方向分析を行った。その結果、被覆部が、La9.33Si26及びMnSiO12からなることが分かった。また、これらの割合を求めたところ、La9.33Si26が65%であり、MnSiO12が35%であることが分かった。更に、円板型成形物の表面から約4μmのあたりで、Si元素の減衰が停滞していることから、被覆部の厚さが約4μmであることが分かった。
【0106】
上記のようにして得られた円板型成形物を5個単位で用い、各側面を密着させて各中心を結んだときに正五角形を形成するように配置してこれを1段とし、図6に示すように、縦方向に36度ずつずらして50段積層し、上下方向に通気可能な構造を備える発熱体123を得た。
【0107】
次に、上記発熱体123を、チタン酸アルミニウム(AlTiO)からなる円筒状体の内部空間の中央部に、その内壁面に接触しないように、アルミナ製の支持台(図示せず)上に設置した。また、この円筒状体の外壁面には、その表面を包囲するように、アルミナ製の断熱層(図示せず)を配設し、円筒状体及び断熱層により、収容体125とした。
その後、収容体125の外側であって、発熱体123を包囲するように、且つ、上記収容体125の外壁面に接触しないように、励磁コイル121を螺旋状に配設した。
【0108】
以下、市販の加熱炉を用いて、比較例1を行い、図3の脱脂装置1Aを用いて、比較例
2及び実施例1〜7を行った。
【0109】
比較例1
加熱炉内に、セラミックス成形体150を載置し、大気雰囲気中、室温(25℃)から、昇温速度2℃/分にて400℃まで加熱し、400℃で12時間保持した。その後、大気雰囲気中で、放冷した。
得られた脱脂物において、堀場製作所社製固体中炭素分析装置「EMIA−110」(型式名)による炭素含有率は0.050%、スラリーを調製する際の原料の使用量から算出した炭素除去率は99.55%であり、QUANTACHROME(カンタクローム)社製「AUTOSORB−1C」(型式名)により計測した比表面積は6.34m/gであった。
また、この脱脂物を、加熱炉の中に載置し、セラミックスと金属との複合体の焼成を想定して、0.01体積%の水素ガス及び4体積%の水蒸気を含むアルゴンガスを供給することにより、炉内の酸素分圧を4×10−14atmとして、1,500℃で3時間焼成した。そして、これにより得られた焼結物の密度(焼結密度)及び相対密度を、東洋製作所製自動比重計により測定したところ、それぞれ、3.971g/m及び99.5%であった。
【0110】
比較例2
水を収容した貯水槽111にアルゴンガスを流速5L/分で導入しながら曝気を行い、溶存酸素量を30μg/Lとした。この水を、5kg/時の流速でボイラー114に供給して水蒸気とし、更に、水蒸気を、水蒸気供給用配管115により過熱水蒸気製造装置120に供給して、200℃の過熱水蒸気を生成させた。
一方、脱脂処理室140を、過熱水蒸気製造装置120から独立させた状態で、その内部の支持部材132の表面に、セラミックス成形体150を載置し、大気雰囲気中、密閉した。その後、室温(25℃)から、昇温速度50℃/分にて200℃まで加熱した。
次に、200℃に保持されたセラミックス成形体を収容した脱脂処理室140を、過熱水蒸気製造装置120の上側に、過熱水蒸気製造装置120における過熱水蒸気排出口128と、脱脂処理室140の下方側開口部とが連通するように配設して、両者を一体化させ、過熱水蒸気製造装置120で製造している過熱水蒸気を、200℃から、20℃/分で昇温しながら、脱脂処理室140に供給した。脱脂処理室140における酸素分圧(PO2)は2×10−8atm(log(PO2)=−7.7)である。尚、供給される過熱水蒸気の温度が500℃となってから、この温度を10分間保持し、その後、大気雰囲気中で、放冷した。
得られた脱脂物における炭素含有率は0.133%であり、炭素除去率は98.78%であった。
【0111】
実施例1
脱脂処理室140に供給する過熱水蒸気の温度を500℃から600℃に代えたこと、即ち、過熱水蒸気を、200℃から600℃に、20℃/分で昇温しながら供給したこと以外は、比較例2と同様にして、セラミックス成形体150の脱脂を行った。尚、酸素分圧(PO2)は2×10−8atmである。
得られた脱脂物における炭素含有率は0.051%であり、炭素除去率は99.53%であった。
【0112】
実施例2
水を収容した貯水槽111にアルゴンガスを流速5L/分で導入しながら曝気を行い、溶存酸素量を30μg/Lとした。この水を、5kg/時の流速でボイラー114に供給して水蒸気とし、ボイラー114及び過熱水蒸気製造装置120の間の配管(水蒸気供給用配管115)の途中に配設された、他のガス供給装置116から、酸素ガスを流速0.1L/分で導入しながら、水蒸気との混合ガスを過熱水蒸気製造装置120に供給して、200℃の過熱水蒸気を生成させた。
一方、脱脂処理室140を、過熱水蒸気製造装置120から独立させた状態で、その内部の支持部材132の表面に、セラミックス成形体150を載置し、大気雰囲気中、密閉した。その後、室温(25℃)から、昇温速度50℃/分にて200℃まで加熱した。
次に、200℃に保持されたセラミックス成形体を収容した脱脂処理室140を、過熱水蒸気製造装置120の上側に、過熱水蒸気製造装置120における過熱水蒸気排出口128と、脱脂処理室140の下方側開口部とが連通するように配設して、両者を一体化させ、過熱水蒸気製造装置120で製造している過熱水蒸気を、200℃から、20℃/分で昇温しながら、脱脂処理室140に供給した。脱脂処理室140における酸素分圧(PO2)は1×10−3atm(log(PO2)=−3.0)である。尚、供給される過熱水蒸気の温度が600℃となってから、この温度を10分間保持し、その後、大気雰囲気中で、放冷した。
得られた脱脂物における炭素含有率は0.047%であり、炭素除去率は99.57%であり、比表面積は6.10m/gであった。また、この脱脂物を、上記と同様にして焼成した後、焼結物の焼結密度及び相対密度を測定したところ、それぞれ、3.92g/m及び98.4%であった。
【0113】
実施例3
脱脂処理室140に供給する過熱水蒸気の温度を600℃から700℃に代えた以外は、実施例2と同様にして、セラミックス成形体150の脱脂を行った。尚、脱脂処理室140における酸素分圧(PO2)は1×10−3atm(log(PO2)=−3.0)である。
得られた脱脂物における炭素含有率は0.031%であり、炭素除去率は99.72%であり、比表面積は5.57m/gであった。また、この脱脂物を、上記と同様にして焼成した後、焼結物の焼結密度及び相対密度を測定したところ、それぞれ、3.92g/m及び98.2%であった。
【0114】
実施例4
脱脂処理室140に供給する過熱水蒸気の温度を600℃から800℃に代えた以外は、実施例2と同様にして、セラミックス成形体150の脱脂を行った。尚、脱脂処理室140における酸素分圧(PO2)は1×10−3atm(log(PO2)=−3.0)である。
得られた脱脂物における炭素含有率は0.018%であり、炭素除去率は99.83%であり、比表面積は5.22m/gであった。また、この脱脂物を、上記と同様にして焼成した後、焼結物の焼結密度及び相対密度を測定したところ、それぞれ、3.93g/m及び98.4%であった。
【0115】
実施例5
水を収容した貯水槽111にアルゴンガスを流速5L/分で導入しながら曝気を行い、溶存酸素量を30μg/Lとした。この水を、3kg/時の流速でボイラー114に供給して水蒸気とし、ボイラー114及び過熱水蒸気製造装置120の間の配管(水蒸気供給用配管115)の途中に配設された、他のガス供給装置116から、4体積%の水素ガスを含むアルゴンガスを、流速5L/分で導入しながら、水蒸気との混合ガスを過熱水蒸気製造装置120に供給して、200℃の過熱水蒸気を生成させた。
一方、脱脂処理室140を、過熱水蒸気製造装置120から独立させた状態で、その内部の支持部材132の表面に、セラミックス成形体150を載置し、大気雰囲気中、密閉した。その後、室温(25℃)から、昇温速度50℃/分にて200℃まで加熱した。
次に、200℃に保持されたセラミックス成形体を収容した脱脂処理室140を、過熱水蒸気製造装置120の上側に、過熱水蒸気製造装置120における過熱水蒸気排出口128と、脱脂処理室140の下方側開口部とが連通するように配設して、両者を一体化させ、過熱水蒸気製造装置120で製造している過熱水蒸気を、200℃から、20℃/分で昇温しながら、脱脂処理室140に供給した。脱脂処理室140における酸素分圧(PO2)は2×10−19atm(log(PO2)=−18.7)であり、水素分圧(PH2)は2.51×10−5atmである。尚、供給される過熱水蒸気の温度が600℃となってから、この温度を10分間保持し、その後、大気雰囲気中で、放冷した。
得られた脱脂物における炭素含有率は0.056%であり、炭素除去率は99.49%であり、比表面積は5.99m/gであった。また、この脱脂物を、上記と同様にして焼成した後、焼結物の焼結密度及び相対密度を測定したところ、それぞれ、3.96g/m及び99.2%であった。
【0116】
実施例6
脱脂処理室140に供給する過熱水蒸気の温度を600℃から700℃に代えた以外は、実施例5と同様にして、セラミックス成形体150の脱脂を行った。尚、脱脂処理室140における酸素分圧(PO2)は2×10−16atm(log(PO2)=−15.7)であり、水素分圧(PH2)は2.51×10−5atmである。
得られた脱脂物における炭素含有率は0.031%であり、炭素除去率は99.72%であり、比表面積は5.67m/gであった。また、この脱脂物を、上記と同様にして焼成した後、焼結物の焼結密度及び相対密度を測定したところ、それぞれ、3.94g/m及び98.7%であった。
【0117】
実施例7
脱脂処理室140に供給する過熱水蒸気の温度を600℃から800℃に代えた以外は、実施例5と同様にして、セラミックス成形体150の脱脂を行った。尚、脱脂処理室140における酸素分圧(PO2)は5×10−14atm(log(PO2)=−13.3)であり、水素分圧(PH2)は2.51×10−5atmである。
得られた脱脂物における炭素含有率は0.018%であり、炭素除去率は99.84%であり、比表面積は5.42m/gであった。また、この脱脂物を、上記と同様にして焼成した後、焼結物の焼結密度及び相対密度を測定したところ、それぞれ、3.95g/m及び99.0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のセラミックス成形体の脱脂方法及び脱脂装置は、酸化物からなるスラリーを用いて得られたセラミックス成形体であって、スラリーに由来する成分からなる成形体、又は、スラリーに由来する成分からなる層と、導電性金属材料を含む配線層とを備える積層体、の効率的な脱脂に好適である。従って、多層セラミック回路基板や多層コンデンサ等のセラミックス製品の製造方法又は製造装置への適用に好適である。
【符号の説明】
【0119】
1A及び1B:脱脂装置
106:曝気用ガス供給手段(曝気用ガス供給装置)
108:溶存酸素ガスのセンサー
110:原料水
111:原料水貯蔵手段(原料水貯蔵装置)
112:原料水供給用配管
114:水蒸気製造手段(水蒸気製造装置)
115:水蒸気供給用配管
116:酸素ガス供給手段(酸素ガス供給装置)
120:過熱水蒸気製造手段(過熱水蒸気製造装置)
121:励磁コイル
122:発熱体を構成する成形物
123:発熱体
125:収容体
127:水蒸気導入口
128:過熱水蒸気排出口
132:支持部材
135:枠体
136:環状枠部
137:突起部
140:過熱水蒸気処理手段(脱脂処理室)
150:セラミックス成形体
181:冷却機
183:コンデンサ
185:トランス
187:インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物からなるセラミックス粉末を含むスラリーを用いて得られたセラミックス成形体を脱脂する方法であって、
上記セラミックス成形体に、過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体を接触させながら、該セラミックス成形体を590℃〜900℃の範囲の温度で熱処理する熱処理工程を備え、
上記熱処理工程の条件は、温度(℃)をX軸とし、酸素ガス分圧PO2(atm)の対数値をY軸とする関係図で表したとき、該関係図中のA(590,−3)、B(900,−3)、C(900,−19.5)、D(590,−24.1)及び該A(590,−3)の各点を、順次、直線で結ぶことにより得られる範囲内とすることを特徴とするセラミックス成形体の脱脂方法。
【請求項2】
上記気体に含まれる上記過熱水蒸気の割合が、上記気体を100体積%とした場合に、95体積%以上である請求項1に記載のセラミックス成形体の脱脂方法。
【請求項3】
上記気体が、水素ガスを含む請求項1又は2に記載のセラミックス成形体の脱脂方法。
【請求項4】
上記熱処理工程の前に、上記セラミックス成形体を、150℃〜250℃の範囲の温度で熱処理する予熱工程を備える請求項1乃至3のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の脱脂方法。
【請求項5】
セラミックス粉末を含むスラリーを用いて得られたセラミックス成形体を脱脂する装置であって、
水蒸気を製造する水蒸気製造手段と、
上記水蒸気を加熱して過熱水蒸気を製造する手段であって、上記水蒸気製造手段に連絡可能である過熱水蒸気製造手段と、
その内部に上記セラミックス成形体を載置して、該セラミックス成形体と、上記過熱水蒸気及び酸素ガスを含む気体とを接触させる手段であって、上記過熱水蒸気製造手段に連絡可能である過熱水蒸気処理手段と、
を備えることを特徴とするセラミックス成形体の脱脂装置。
【請求項6】
上記酸素ガスが酸素ガス供給手段から供給され、該酸素ガス供給手段が、上記過熱水蒸気製造手段に連絡可能に配されてなる請求項5に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
【請求項7】
更に、上記過熱水蒸気製造手段に連絡可能であり、且つ、水素ガスを該過熱水蒸気製造手段に供給する水素ガス供給手段を備える請求項5又は6に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
【請求項8】
上記過熱水蒸気処理手段が、その内部に、上記セラミックス成形体を支持する支持部材を備え、該支持部材が多孔質セラミックスからなる請求項5乃至7のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
【請求項9】
上記過熱水蒸気処理手段が、上記セラミックス成形体を保温する加熱手段を備える請求項5乃至8のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
【請求項10】
上記過熱水蒸気製造手段が、電磁誘導により発熱し、上記水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する発熱体と、該発熱体を収容し、且つ、筒状である収容体と、該収容体の外側にあって、少なくとも上記発熱体を包囲するように配設された励磁コイルとを備える請求項5乃至9のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
【請求項11】
上記水蒸気を製造する水蒸気製造装置と、
配管を介して上記水蒸気製造装置に接続されており、且つ、上記水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する発熱体を含む過熱水蒸気製造装置と、
その内部に上記セラミックス成形体を載置して、該セラミックス成形体と、上記気体とを接触させる脱脂処理室であって、上記過熱水蒸気製造装置に連絡可能である脱脂処理室と、
を備える請求項5に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
【請求項12】
上記発熱体が、下記一般式(1)で表される化合物を含む基部と、該基部の表面に配された、下記一般式(2)で表される化合物を含む被覆部と、を備える成形物の複数が積み上げられて形成されてなり、且つ、該成形物どうしの空隙により通気性を有する請求項10又は11に記載のセラミックス成形体の脱脂装置。
La1−x3−y (1)
〔式中、Mは、Mg、Ca、Sr及びBaから選ばれた少なくとも1種の元素であり、Mは、Cr、Co及びMnから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0<x≦0.5、且つ、0≦y≦0.1である。〕
La・n(SiO) (2)
〔式中、nは、1以上2以下の数である。〕

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−148941(P2012−148941A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10236(P2011−10236)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000173522)一般財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【出願人】(505374358)株式会社大同 (6)
【Fターム(参考)】