説明

セラミックス焼結体、その製造方法及びセラミックス構造体

【課題】焼成温度をより低減すると共に、機械的特性及び共振特性をより高めたセラミックス焼結体を提供する。
【解決手段】本発明のセラミックス焼結体の製造方法は、珪酸バリウムと酸化アルミニウムとガラス材と添加酸化物とを所定の条件で配合し、配合原料を成形して850℃以上1000℃以下で焼成する工程を含む。このとき、平均粒径が0.3μm以上1μm未満の範囲であり、比表面積が5m2/g以上20m2/g以下の範囲で単斜晶珪酸バリウムを配合する。また、平均粒径が0.4μm以上10μm以下であり、比表面積が0.8m2/g以上8m2/g以下であり、珪酸バリウムに対して10体積%以上25体積%以下の範囲で酸化アルミニウムを配合する。このセラミックス焼結体は、珪酸バリウム中にガラス成分と添加酸化物の成分と酸化アルミニウム粒子とを含み、酸化アルミニウム粒子の外周に六方晶セルシアンが存在する微構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス焼結体、その製造方法及びセラミックス構造体に関し、更に詳細には、配線導体として銀や銅などの低抵抗金属との同時焼成が可能な低温焼成セラミックス焼結体、その製造方法及びセラミックス構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導体との同時焼成が可能な低温焼成セラミックス焼結体としては、クオーツ(SiO2)、セルシアン(BaAl2Si28)の六方晶(Hexagonal)及び単斜晶(Monoclinic)を結晶相に含み、クオーツの(101)面のX線強度をA、単斜晶セルシアンの(112)面のX線強度をB、六方晶セルシアンの(101)面のX線強度をCとすると、B/Aが0.2以下であり、C/Aが0.6以上であるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この焼結体では、熱膨張率をより高めると共に、耐薬品性を高めることができるとしている。また、主成分としてAl,Si,Sr,Baを含み、組織中に六方晶SrAl2Si28、(Sr,Ba)Al2Si28、BaAl2Si28の少なくとも1種及びAl23結晶を有するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この焼結体では、機械的強度、誘電特性に優れるとしている。また、ガラス粉末を25%〜34%、アルミナからなるセラミック粉末を66〜75%含有し、セラミック粉末が微粒子と粗粒子との混合物であり、ガラス粉末とセラミック粉末との平均粒径が1μm未満で焼結させたものが提案されている(例えば、特許文献3参照)この焼結体では、1000℃以下の低温焼結が可能で、緻密な焼結体を得ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−105917号公報
【特許文献2】特開2006−1755号公報
【特許文献3】特開2001−10858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1に記載されたセラミックス焼結体では、機械的強度や共振特性を示すQ値については検討されていなかった。また、特許文献2に記載されたセラミックス焼結体では、Srを添加する必要があった。セルシアンの組成にSrを添加すると、六方晶のセルシアンから単斜晶のセルシアンへ変化することがあり、機械的強度をより低下させることがあった。また、特許文献3に記載されたセラミックス焼結体では、平均粒径を調整して緻密なものとしているが、特に共振特性についてはまだ十分ではなく、Q値をより高める必要があった。このように、焼成温度をより低減しつつ、機械的特性をより高めると共に、共振特性をより高めることが望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、焼成温度をより低減すると共に、機械的特性及び共振特性をより高めることができるセラミックス焼結体及びその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した主目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、珪酸バリウムと酸化アルミニウムと所定のガラス材と所定の添加酸化物との、それぞれの平均粒径、比表面積、配合比率などの範囲を好適なものとし、酸化アルミニウム粒子の周囲に六方晶セルシアンが存在する微構造としたところ、焼成温度の低減化、機械的特性及び共振特性の向上を図ることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のセラミックス焼結体は、珪酸バリウム中にガラス成分と所定の添加酸化物の成分と酸化アルミニウム粒子とを含み、前記酸化アルミニウム粒子の外周に六方晶セルシアンが存在する構造を有するものである。
【0008】
本発明のセラミックス焼結体の製造方法は、
珪酸バリウムと酸化アルミニウムと所定のガラス材と所定の添加酸化物とを(1)〜(2)の条件で配合して配合原料を作製する原料配合工程と、
前記配合原料を成形して850℃以上1000℃以下で焼成する焼成工程と、
を含むものである。
(1)前記珪酸バリウムは、単斜晶であり、平均粒径が0.3μm以上1μm未満の範囲であり、比表面積が5m2/g以上20m2/g以下の範囲である。
(2)前記酸化アルミニウムは、平均粒径が0.4μm以上10μm以下であり、比表面積が0.8m2/g以上8m2/g以下であり、珪酸バリウムに対して10体積%以上25体積%以下の範囲で配合する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセラミックス焼結体及びその製造方法は、焼成温度をより低減すると共に、機械的特性及び共振特性をより高めることができる。この理由は定かではないが、以下のように推察される。例えば、酸化アルミニウムの粒子の存在によって、高靱性を発現すると考えられる。また、単斜晶セルシアンに比して強度の高い六方晶セルシアンが酸化アルミニウムの外周に生成するため、より高い強度を示す。また、ガラス成分及び添加酸化物によって、焼結温度をより下げることができる。そして、このような微構造を有するものとすると、高いQ値を示すものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実験例2,実験例38,43,44のSEM写真である。
【図2】実験例2及び実験例44のX線回折測定結果である。
【図3】実験例55、60,63の積層体の断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のセラミックス焼結体は、珪酸バリウム中にガラス成分と所定の添加酸化物の成分と酸化アルミニウム粒子とを含み、酸化アルミニウム粒子の外周に六方晶セルシアンが存在する構造を有する。珪酸バリウムと酸化アルミニウムとが原料に含まれていると、焼結時にセルシアンが生成し酸化アルミニウムが減少するが、構造内に酸化アルミニウムの粒子が残存していることが好ましい。こうすれば、酸化アルミニウム粒子の存在によって、高い靱性を示すことができる。また、焼結時に生成するセルシアンは、単斜晶と六方晶とがあるが、六方晶であることが好ましい。こうすれば、機械的強度をより高めることができる。また、セルシアンは含まれていればよいわけではなく、酸化アルミニウムの粒子の外周に存在していることが好ましい。こうすれば、機械的特性や共振特性などを好適なものとすることができる。また、セルシアンは、酸化アルミニウムの外周を覆うように存在していることがより好ましい。ここで、珪酸バリウムはBaSi25であり、酸化アルミニウムはAl23であり、セルシアンはBaAl2Si28である。
【0012】
本発明のセラミックス焼結体は、X線回折における酸化アルミニウムの2θ=43°近傍でのピーク強度をIAとし、X線回折における六方晶セルシアンの2θ=11°近傍でのピーク強度をIhとしたとき、ピーク強度比IA/Ihが0.2以上0.7以下の範囲であることが好ましい。このピーク強度比IA/Ihは、酸化アルミニウムの結晶性と六方晶セルシアンの結晶性の程度を示すものである。
【0013】
本発明のセラミックス焼結体において、含まれている酸化アルミニウム粒子は、平均粒径が0.4μm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。平均粒径が0.4μm以上では機械的強度をより高めることができ、平均粒径が10μm以下では焼結体の成形をより行いやすい。ここで、セラミックス焼結体における酸化アルミニウムの平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて酸化アルミニウムの粒径が測定できるような倍率(例えば、2000倍から10000倍)でセラミックス焼結体の断面を観察し、観察された範囲の酸化アルミニウム粒子の短径を測定し、この測定値を平均して求めるものとする。
【0014】
本発明のセラミックス焼結体において、含まれる所定の添加酸化物の成分は、Cu,Mg,B,Zn,Bi及びZrのうち少なくとも1以上であることが好ましい。このうち、Cu,Mg,B,Zn及びBiが好ましく、Cuが更に好ましい。添加酸化物がCuであると、より低温で焼結することができる。また、所定の添加酸化物の成分は、珪酸バリウム及び酸化アルミニウムを含む全体に対して、酸化物換算で0.5重量%以上3重量%以下の範囲で配合されていることが好ましい。添加酸化物の配合量が0.5重量%以上では焼結温度をより低くすることができ、3重量%以下では、機械的強度が低下してしまうのをより抑制することができる。
【0015】
本発明のセラミックス焼結体において、ガラス成分は、Ba,Si及びBを含んでいることが好ましい。即ち、原料として、Ba−Si−B−O系のガラスを含んでいることが好ましい。また、ガラス成分は、Ba,Si,B及びAlを含んでいることがより好ましい。即ち、原料として、Ba−Si−B−Al−O系のガラスを含んでいることがより好ましい。こうすれば、珪酸バリウム−酸化アルミニウム−セルシアン系のセラミックス焼結体の焼結温度をより好適に低下させることができる。このガラス成分は、珪酸バリウム及び酸化アルミニウムを含む全体に対して、2重量%以上10重量%以下、より好ましくは2重量%以上8重量%以下、更に好ましくは2重量%以上6重量%以下の範囲で配合されていることが好ましい。ガラス成分は焼結助剤として添加しており、その配合量が2重量%以上では焼結性の低下を防ぎ機械的強度の低下を抑制でき、10重量%以下では共振特性としてのQ値の低下を抑制できる。ガラス材の配合比率を8重量%〜10重量%とすると共振特性は低下する傾向となるが焼成温度をより低減することができる。また、ガラス材の配合比率を2重量%〜6重量%とすると焼成温度は上昇させる傾向となるが共振特性をより向上させることができる。
【0016】
本発明のセラミックス焼結体は、3点曲げ強度が250MPa以上であることが好ましく、275MPa以上であることがより好ましい。3点曲げ強度が250MPa以上であれば、回路部品などを含む電子部品に用いる部材として好適である。この3点曲げ強度は、JIS−R1601に従い、3点曲げ強度を評価した値をいうものとする。
【0017】
本発明のセラミックス焼結体は、3.0GHzにおけるQ値が2000以上であることが好ましく、2500以上であることがより好ましく、3000以上であることが更に好ましい。Q値が2000以上では、回路部品などを含む電子部品に用いる部材として好適である。高Q値を得るためには、材料内のガラス量を低減することが必要であるが、ガラス量の低減により高靭化に寄与し強度を向上させる酸化アルミニウム粒子の添加可能な体積分率が低下するという製造上の問題から、Q値と3点曲げ強度とは、一方を向上させると他方が低減するという相関関係を有すると考えられる。したがって、Q値が2000以上且つ3点曲げ強度が250MPa以上の範囲内において、用途に応じて、Q値と強度とを適宜選択すればよい。あるいは、用途に応じては、3.0GHzにおけるQ値が1000以上であるものとしてもよい。また、本発明のセラミックス焼結体において、誘電率εは、7.0以上であることが好ましく、7.2以上であることがより好ましい。こうすれば、回路部品などを含む電子部品に用いる部材として好適である。
【0018】
本発明のセラミックス焼結体は、開気孔率が0.5%以下であることが好ましく、0.25%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが更に好ましい。開気孔率が0.5%以下では機械的強度やQ値をより高めることができる。また、本発明のセラミックス焼結体は、嵩密度が、3.30g/cm3以上であることが好ましく、3.50g/cm3以上であることがより好ましく、3.60g/cm3以上であることが更に好ましい。
【0019】
本発明のセラミックス焼結体は、40℃〜800℃での熱膨張係数が10.0(1/K)以上であることが好ましく、11.0(1/K)以上であることがより好ましい。また、プリント基板上への実装などを考慮すると、熱膨張係数は、プリント基板との熱膨張差による剥離やクラックの発生を抑制するためには12.0(1/K)以下であることが好ましい。
【0020】
本発明のセラミックス焼結体は、酸化物の重量%換算で、Baが38重量%以上48重量%以下、Siが30重量%以上39重量%以下、Alが10重量%以上25重量%以下、Bが0.3重量%以上2.5重量%以下の範囲で含まれているものとしてもよい。このとき、酸化物の重量%換算で、添加酸化物の成分としてのCuが0.4重量%以上3.0重量%以下の範囲で含まれているものとしてもよい。なお、Cuに代えて又はこれに加えてMg,B,Zn,Bi及びZrのうち少なくとも1以上が含まれているものとしてもよい。また、酸化物の重量%換算で、Srの含有量が0.5重量%以下であることが好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。Srの含有量が0.5重量%以下では、単斜晶セルシアンの生成を抑制することができ、好ましい。また、本発明のセラミックス焼結体において、Srを含む結晶相がより少ないことが好ましく、含まれていないことがより好ましい。Srを含む結晶相としては、SrAl2Si28、(Sr,Ba)Al2Si28などが挙げられる。
【0021】
本発明のセラミックス焼結体は、例えば、多層回路基板に用いることができる。多層回路基板には電極を配設するが、この電極材料としては、例えば、W,Mo,Ag,Au,Cu等が挙げられ、より電気抵抗が小さいCuやAgが好ましい。CuやAgを用いる際に、焼成温度を1000℃以下、より好ましくは960℃以下、更に好ましくは920℃以下とすれば、セラミックス焼結体の焼成と、電極の焼成とを同時に行うことができ、好ましい。このため、低温焼成で高強度・高共振特性を有する本発明のセラミックス焼結体を多層回路基板に適用する意義が高い。
【0022】
次に、本発明のセラミックス焼結体の製造方法について説明する。この製造方法では、バリウム化合物と珪素化合物とを混合し単斜晶の珪酸バリウムを作製する原料作製工程と、単斜晶の珪酸バリウムと酸化アルミニウムと所定のガラス材と所定の添加酸化物とを配合して配合原料を作製する原料配合工程と、配合原料を成形して焼成する焼成工程と、を含むものとしてもよい。なお、単斜晶の珪酸バリウムを用意して、原料作製工程を省略するものとしてもよい。以下、各工程について説明する。
【0023】
(原料作製工程)
この工程では、バリウム化合物と珪素化合物とを混合しBi及びZnを添加せずに焼成して単斜晶の珪酸バリウム(BaSi25)を作製する。バリウム化合物としては例えば、バリウムの炭酸塩、塩化物、酸化物などが挙げられるが、炭酸塩が好ましい。また、珪素化合物としては、酸化珪素(SiO2)が好ましい。次に、このバリウム化合物と珪素
化合物とを珪酸バリウム(BaSi25)の組成となるように秤量して混合する。混合は、乾式混合としても湿式混合としてもよいが、湿式混合がより好ましい。このとき、焼結助剤としてのBi及びZnを添加しないものとする。こうすれば、焼成温度を低減しにくいが、斜方晶の珪酸バリウムが生成するのをより抑制することができ、好ましい。なお、単斜晶の珪酸バリウムをセラミックス焼結体の原料に用いると、六方晶セルシアンを生成しやすく、好ましい。続いて、混合した粉体を焼成する。焼成は、例えば不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、焼成温度は、例えば、1100℃以上1250℃以下とすることができる。得られた単斜晶の珪酸バリウムは、湿式粉砕などにより、後述する平均粒径、比表面積に調整することが好ましい。
【0024】
(原料配合工程)
この工程では、珪酸バリウムと酸化アルミニウムと所定のガラス材と所定の添加酸化物とを以下の(1)〜(2)の条件で原料を配合して配合原料を作製する。また、(3)の条件で原料を配合することが好ましく、(4)の条件で原料を配合することが好ましい。(1)珪酸バリウムは、単斜晶であり、平均粒径が0.3μm以上1μm未満の範囲であり、比表面積が5m2/g以上20m2/g以下の範囲である。
(2)酸化アルミニウムは、平均粒径が0.4μm以上10μm以下であり、比表面積が0.8m2/g以上8m2/g以下であり、珪酸バリウムに対して10体積%以上25体積%以下の範囲で配合する。
(3)所定のガラス材は、Ba−Si−B−O系ガラスであり、珪酸バリウム及び酸化アルミニウムを含む全体に対して2重量%以上10重量%以下、より好ましくは2重量%以上8重量%以下、更に好ましくは2重量%以上6重量%以下の範囲で配合する。
(4)所定の添加酸化物は、Cu,Mg,B,Zn,Bi及びZrのうち少なくとも1以上の酸化物であり、珪酸バリウム及び酸化アルミニウムを含む全体に対して0.5重量%以上3重量%以下の範囲で配合する。
【0025】
珪酸バリウムが単斜晶であると、六方晶セルシアンをより優位に生成することができ好ましい。なお、斜方晶の珪酸バリウムを原料としてセラミックス焼結体を作製すると、単斜晶セルシアンが生成しやすい。また、珪酸バリウムの平均粒径が0.3μm以上では珪酸バリウム粒子を作製しやすく、1μm未満では機械的強度を向上することができ、好ましい。ここで、原料粉体における平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した、50%メディアン径をいうものとする。また、珪酸バリウムの比表面積が5m2/g以上20m2/g以下の範囲では、珪酸バリウムの反応性をより好適なものとすることができる。ここで、平均粒径は、1次粒子及び1次粒子が凝集した2次粒子の粒径も含む。ここでは、珪酸バリウムの比表面積が20m2/g以下の範囲であるため、微細な1次粒子が凝集してなる2次粒子を用いて生じる弊害を抑制することができる。
【0026】
また、酸化アルミニウムの平均粒径が0.4μm以上では焼結後に酸化アルミニウムの粒子として残存しやすく、10μm以下では成形体の作製がしやすく好ましい。また、酸化アルミニウムの比表面積が0.8m2/g以上8m2/g以下であると、珪酸バリウムとの反応性が好適であり、好ましい。また、酸化アルミニウムの配合割合が、珪酸バリウムに対して10体積%以上では機械的強度をより高めることができ、25体積%以下ではより緻密な焼結体とすることができ、好ましい。また、配合する所定のガラス材は、Ba−Si−B−O系ガラスとすることが好ましく、Ba−Si−B−Al−O系ガラスとすることがより好ましい。Ba−Si−B−O系ガラスは、珪酸バリウム−酸化アルミニウム−セルシアン系のセラミックス焼結体の焼結温度をより好適に低下させることができ、好ましい。このガラス材の配合比率が2重量%以上では焼結温度をより低下させることができ、10重量%以下では焼結体が溶融してしまうのを抑制することができる。ガラス材の配合比率を8重量%〜10重量%とすると共振特性は低下する傾向となるが焼成温度をより低減することができる。また、ガラス材の配合比率を2重量%〜6重量%とすると焼成温度は上昇させる傾向となるが共振特性をより向上させることができる。このように、焼成温度、機械的強度及び共振特性のいずれかを優先するかによって、ガラス材の配合量、焼成温度などを適宜選択すればよい。また、所定の添加酸化物は、Cu,Mg,B,Zn,Bi及びZrのうち少なくとも1以上の酸化物とするのが好ましい。これらの酸化物は、珪酸バリウム−酸化アルミニウム−セルシアン系のセラミックス焼結体の焼結温度をより好適に低下させることができ、好ましい。この添加酸化物の配合比率が0.5重量%以上では焼結温度をより低下させることができ、3重量%以下では焼結体が溶融してしまうのを抑制することができる。
【0027】
また、Srを添加せずに原料を配合することが好ましい。ここで、非特許文献1(Journal of European Ceramic Society 27(2007)1181-1185)によると、Srの存在により六方晶セルシアンから単斜晶セルシアンへの相変化が促進されると報告されている。したがって、原料中のSrの含有率は、より少ない方が好ましく、酸化物換算で0.5重量%以下であることが好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
【0028】
(焼成工程)
この工程では、配合原料を成形して850℃以上1000℃以下で焼成する。成形は、金型成形、押出成形、テープ成形及び鋳込み成形などが挙げられる。また、焼成前にCIP処理を行うことがより好ましい。こうすれば、より緻密な焼結体を得ることができる。焼成温度が850℃以上ではセラミックス焼結体の機械的強度をより高めることができ、1000℃以下では焼成時の消費エネルギーをより低減することができる。この焼成温度は、960℃以下とするのが好ましく、920℃以下とするのがより好ましい。例えば、セラミックス焼結体に電極を配設する場合には、960℃以下ではCuを、920℃以下ではAgを用いた状態で、電極と共にセラミックス焼結体の焼結を行うことができる。このため、セラミックス焼結体と電極とを別々に焼成するものに比して、エネルギー効率がよく、好ましい。なお、焼成条件は、使用する分野に応じた機械的強度などの特性が得られるよう、適宜選択することができる。例えば、ガラス材の配合比率を8重量%〜10重量%とすると焼成温度を850℃以上920℃以下の範囲とすることができ、ガラス材の配合比率を2重量%〜6重量%とすると焼成温度を910℃以上960℃以下の範囲とすることができる。
【0029】
以上説明したセラミックス焼結体及びその製造方法によれば、焼成温度をより低減すると共に、機械的特性及び共振特性をより高めることができる。この理由は定かではないが、以下のように推察される。例えば、酸化アルミニウムの粒子の存在によって、高靱性を発現すると考えられる。また、単斜晶セルシアンに比して強度の高い六方晶セルシアンが酸化アルミニウムの外周に生成するため、より高い強度を示す。また、ガラス成分及び添加酸化物によって、焼結温度をより下げることができる。そして、このような構造を有するものとすると、高いQ値を示すものと推察される。
【0030】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0031】
例えば、上述した実施形態では、セラミックス焼結体として説明したが、このセラミックス焼結体よりなるセラミックス層と、比誘電率が5以上2500以下である誘電材料よりなる誘電材料層とを少なくとも積層したセラミックス構造体としてもよい。このように、他の誘電材料と複合して用いてもよい。比誘電率が5以上2500以下である誘電材料としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)や、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3 )、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸鉛(PbNb26)、ニオブ酸カドミウム(Cd2Nb27)などが挙げられる。このセラミックス層の厚さtcは、15μm以上で形成することができる。また、誘電材料層の厚さtdは、15μm以上で形成することができる。このセラミックス層及び誘電材料層は、プレス成形によって上記厚さの範囲となるように成形してもよいし、テープ成形したテープを数層にわたり重ね合わせて圧着することにより成形してもよい。
【0032】
本発明のセラミックス構造体は、上述したいずれかに記載のセラミックス焼結体よりなるセラミックス層と、比誘電率が5以上2500以下である誘電材料よりなる誘電材料層と、セラミックス層と誘電材料層との間に介在する中間層と、を備えたものとしてもよい。ここで、本発明のセラミックス焼結体では、含まれる元素などの微量成分量の調整により低温焼結・機械的特性及び共振特性の向上を図っていることから、他の材料と複合層を形成した場合、誘電材料に含まれる元素の拡散などによっては、その接合状態が好適ではない場合が生じる。例えば、誘電材料層に六方晶セルシアンを単斜晶セルシアン化する元素が含まれている場合には、この相変化に伴う体積変化などにより、界面でのクラックの発生などが生じ、セラミックス層と誘電材料層との剥離などが生じる。ここでは、セラミックス層と誘電材料層との間に中間層を介在させているため、セラミックス層と誘電材料層との接合状態をより良好なものとすることができる。中間層は、六方晶セルシアンを単斜晶セルシアン化する元素がセラミックス層へ拡散するのを抑制する材質で構成されていてもよいし、六方晶セルシアンから単斜晶セルシアンへの相変化を抑制する材質で構成されていてもよい。この中間層は、単斜晶セルシアンを含有していることが好ましい。こうすれば、相変化の生成物であり比較的安定な中間層とすることができる。また、中間層の厚さtmが3.0μm以上40μm以下であることが好ましく、3μm以上30μm以下であることが好ましい。中間層の厚さtmが3.0μmを超えると、セラミックス層への元素の拡散をより抑制することができ、40μm以下では例えば共振特性の低下などをより抑制可能であり、好ましい。また、このセラミックス層の厚さtcに対する中間層の厚さtmの比であるtm/tcは、0.005以上0.07以下であることが好ましく、0.005以上0.05以下であることがより好ましい。tm/tcが0.005以上ではセラミックス層への元素の拡散をより抑制することができ、0.07以下では例えば共振特性の低下などをより抑制可能であり、好ましい。本発明のセラミックス構造体において、誘電材料層の界面には反応層が生成しており、この反応層の厚さが3μm以下であることが好ましい。反応層は、誘電材料層と中間層との接合に寄与するものであるが、3μm以下であればセラミックス層への元素の拡散をより抑制することができ、好ましい。なお、六方晶セルシアンを単斜晶セルシアン化する元素としては、例えば、ZnやSr,Li,Na,Ca,Tiなどが挙げられる。また、この元素は、助剤として添加されるガラスに含まれるものとしてもよい。
【0033】
あるいは、本発明のセラミックス構造体は、上述したいずれかに記載のセラミックス焼結体よりなるセラミックス層と、比誘電率が5以上2500以下である誘電材料よりなり六方晶セルシアンを単斜晶セルシアン化する元素が1.5重量%未満である誘電材料層と、を備えたものとしてもよい。こうすれば、セラミックス層における六方晶セルシアンから単斜晶セルシアンへの相変化をより抑制可能であり、セラミックス層と誘電材料層との接合状態をより良好なものとすることができる。誘電材料層では、六方晶セルシアンを単斜晶セルシアン化する元素の含有量が酸化物として1.5重量%未満であることが好ましく、1.0重量%以下であることがより好ましく、0.5重量%以下であることが更に好ましい。この元素が酸化物換算で1.5重量%未満では、セラミックス層における六方晶セルシアンから単斜晶セルシアンへの相変化をより抑制することができ好ましい。本発明のセラミックス構造体において、誘電材料層の界面には反応層が生成しており、この反応層の厚さが3μm以下であることが好ましい。反応層は、誘電材料層とセラミックス層との接合に寄与するものであるが、3μm以下であればセラミックス層への元素の拡散をより抑制することができ、好ましい。なお、六方晶セルシアンを単斜晶セルシアン化する元素の含有量をより低減すると共に上述した中間層をセラミックス層と誘電材料層との間に設けるものとしてもよい。
【実施例】
【0034】
以下には、本発明のセラミックス焼結体を具体的に製造した例を実験例として説明する。
【0035】
[単斜晶珪酸バリウム(BaSi25)の作製]
セラミック組成物(焼結体)の原料である珪酸バリウム(BaSi25)を作製した。原料として、BaCO3(堺化学製、高純度炭酸バリウム99.9%),SiO2(トクヤマ製、エクセリカSE−1)をBaSi25の組成となるように秤量した。このとき焼結助剤などは添加しなかった。この秤量物を溶媒(イソプロピルアルコール;IPA)へ入れ、直径2mmのZrO2玉石を利用したボールミルにより湿式混合し、乾燥した。得られた粉体を#100篩に通したあと、乾燥し、1200℃の大気雰囲気下で6時間焼成した。得られた焼成物(単斜晶BaSi25)をメノウ乳鉢で粗粉砕したのち、IPA溶媒へ入れ、更にZrO2玉石を利用したボールミルにより湿式粉砕した。得られた粉砕物を乾燥し、単斜晶BaSi25の微粉体を得た。ここでは、得られた粉体の平均粒径(50%メディアン径)が0.3μm、0.5μm及び1.0μmとなるように粉砕条件を定め、それぞれの平均粒径の粉体を作製した。粉体の平均粒度は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製LA920)を用い、1分間の超音波分散処理を行ったのちに測定した50%メディアン径である。
【0036】
[斜方晶珪酸バリウム(BaSi25)の作製]
原料として、上記BaCO3,SiO2をBaSi25の組成となるように秤量した。この原料92.8重量部に対して、3.2重量部のBi23(高純度化学研究所製酸化ビスマス)、4.0重量部のZnO(高純度化学研究所製酸化亜鉛99.9%)を焼結助剤として加えて混合した。この混合物を、900℃で焼成した以外は、上記単斜晶BaSi25と同様の工程を行い、斜方晶BaSi25の微粉体を得た。ここでは、斜方晶BaSi25の平均粒径が0.5μmとなるように粉砕条件を定めて粉砕を行った。
【0037】
[助剤であるガラスの作製]
助剤として用いるガラスは以下のように作製した。原料にBaCO3(堺化学製高純度炭酸バリウム99.9%)、SiO2(トクヤマ製エクセリカSE−1)、Al23(岩谷化学製RA40)、H3BO3(シグマアルドリッチ製ほう酸)、MgO(協和化学工業製)、Na2CO3(関東化学製)、ZnO(高純度化学研究所製)を用いて作製した。原料を所望の組成に秤量し、30分間袋混合したあと、白金製坩堝に入れ、大気中1500℃で4時間溶融した。溶解した融体を水中へ流し出し、急冷することでガラスのカレットを得た。カレットをメノウ乳鉢で解砕し、#100篩に通したあとボールミル粉砕しスラリーを乾燥することでガラス粉末を得た。ボールミル粉砕は、IPAを溶媒とし直径5mmのZrO2玉石で24時間行った。なおガラスとしては、Ba−Si−B−O系ガラス、Mg−Ba−Si−B−O系ガラス、Ba−Si−O系ガラスを2種、及びNa−Si−Zn−O系ガラスの組成のものを作製した。
【0038】
[実験例1]
次に、セラミック組成物(焼結体)を作製した。原料として、単斜晶BaSi25と、Al23(日軽金製、AN31A)とを体積比率で85:15となるように混合した。ここでは、単斜晶BaSi25は平均粒径0.5μmのものを用いた。また、Al23は平均粒径が4.7μm、比表面積が1.1m2/gのものを用いた。なお、比表面積は、窒素吸着によりBET比表面積測定装置(島津製作所製フローソーブ2300)を用いて測定した。また、この混合原料の100重量部に対し、助剤としてBa−Si−B−O系ガラスを6重量部、及び助剤としてCuO(日本化学産業製酸化第二銅ET)を0.5重量部加え、上述と同様の条件で湿式粉砕したのち乾燥し、配合原料とした。ここで、ガラスを元素分析したところ、SiO2が34.44重量%、BaOが21.35重量%、B23が34.50重量%、Al23が9.71重量%含まれている組成であった。この組成は、ICP発光分光測定器を用いて測定した。この配合原料を15gとり、76kg/cm2のプレス圧により直径35mmの形状に金型成形した。得られた成形体を、3000kg/cm2のプレス圧、30秒の条件でCIP処理を行い、その後、大気雰囲気下、920℃、1.5時間の条件で焼成し、得られた焼結体を実験例1とした。
【0039】
[実験例2〜6]
単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で80:20とすると共に、助剤のCuOを1.0重量部加えた以外は、実験例1と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例2とした。また、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で80:20とすると共に、助剤のCuOを1.5重量部加えた以外は、実験例1と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例3とした。また、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で75:25とすると共に、助剤のCuOを1.5重量部加えた以外は、実験例1と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例4とした。また、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で75:25とすると共に、助剤のCuOを2.0重量部加えた以外は、実験例1と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例5とした。また、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で75:25とすると共に、助剤のCuOを3.0重量部加えた以外は、実験例1と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例6とした。
【0040】
[実験例7]
880℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例7とした。
【0041】
[実験例8〜10]
助剤のガラスを4.0重量部加えた以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例8とした。また、助剤のガラスを5.0重量部加えた以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例9とした。また、助剤のガラスを6.6重量部加えた以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例10とした。
【0042】
[実験例11〜14]
助剤のガラスを2.5重量部加えたものとし、960℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例11とした。また、助剤のガラスを4.0重量部加えたものとし、960℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例12とした。また、助剤のガラスを6.0重量部加えたものとし、960℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例13とした。また、助剤のガラスを7.0重量部加えたものとし、960℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例14とした。
【0043】
[実験例15〜17]
単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で90:10とした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例15とした。また、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で85:15とした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例16とした。また、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で75:25とした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例17とした。
【0044】
[実験例18〜21]
平均粒径が0.4μm、比表面積が6.6m2/gであるAl23(住友化学製AES11C)を用い、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で85:15とした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例18とした。また、平均粒径が1.0μm、比表面積が3.5m2/gであるAl23(岩谷化学製RA40)を用い、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で85:15とした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例19とした。また、平均粒径が2.6μm、比表面積が3.3m2/gであるAl23(昭和電工製A−78)を用い、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で80:20とした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例20とした。また、平均粒径が6.7μm、比表面積が0.9m2/gであるAl23(昭和電工製A−44)を用い、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で80:20とした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例21とした。
【0045】
[実験例22〜26]
助剤としてCuOに代えてMgO(協和化学工業製酸化マグネシウムT)を1.0重量部加えたものとし、960℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例22とした。また、助剤としてCuOに代えて、B23として1.0重量部となるようにH3BO3(シグマアルドリッチ製ほう酸)を加えたものとし、960℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例23とした。また、助剤としてCuOに代えてZnO(高純度化学研究所製酸化亜鉛99.9%)を1.0重量部加えたものとし、960℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例24とした。また、助剤としてCuOに代えてBi23(高純度化学研究所製酸化ビスマス)を1.0重量部加えたものとし、960℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例25とした。また、助剤としてCuOに代えてZrO2(東ソー製TZ−0)を1.0重量部加えたものとし、960℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例26とした。
【0046】
[実験例27,28]
助剤のCuOを加えないものとし、1100℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例27とした。また、助剤のCuOを加えないものとし、1300℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例28とした。
【0047】
[実験例29〜31]
助剤のガラスを加えないものとした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例29とした。また、助剤のガラスを1.0重量部加えたものとした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例30とした。また、助剤のガラスを10重量部加えたものとした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例31とした。
【0048】
[実験例32〜35]
Al23を加えないものとした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例32とした。また、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で95:5とした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例33とした。また、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で70:30とした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例34とした。また、平均粒径が0.5μm、比表面積が48m2/gであるAl23(岩谷化学製RA40)を用いた以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例35とした。
【0049】
[実験例36]
助剤としてCuOに代えてTiO2(高純度化学研究所製二酸化チタン3N)を1.0重量部加えたものとし、960℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例36とした。
【0050】
[実験例37,38]
斜方晶BaSi25を用い、斜方晶BaSi25とAl23とを体積比率で90:10とした以外は、実験例20と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例37とした。また、1000℃で焼成した以外は、実験例37と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例38とした。なお、斜方晶BaSi25には、3.2重量%のBi23と4.0重量%のZnOとが含まれている。
【0051】
[実験例39〜42]
助剤としてMg−Ba−Si−B−O系ガラスを用いた以外は、実験例16と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例39とした。実験例39のガラスを元素分析したところ、SiO2が14.00重量%、BaOが12.00重量%、B23が25.00重量%
、Al23が2.00重量%、MgOが47.00重量%含まれている組成であった。また、助剤としてBa−Si−O系ガラスを用いた以外は、実験例16と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例40とした。実験例40のガラスを元素分析したところ、SiO2が45.00重量%、BaOが51.60重量%、Al23が3.40重量%含まれている組成であった。また、助剤としてBa−Si−O系ガラスを用いた以外は、実験例16と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例41とした。実験例41のガラスを元素分析したところ、SiO2が16.40重量%、BaOが83.60重量%含まれている組成であった。また、助剤としてNa−Si−Zn−O系ガラスを用いた以外は、実験例16と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例42とした。実験例42のガラスを元素分析したところ、SiO2が40.00重量%、ZnOが40.00重量%、Na2Oが20.00重量%含まれている組成であった。
【0052】
[実験例43,44]
Al23を加えずに、六方晶(Hexagonal)セルシアン(hセルシアンとも称する)の100重量部に対して助剤のガラスを6.0重量部加え、助剤のCuOを1.0重量部加えた以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例43とした。六方晶セルシアンとしては、合成した粉末を用いた。また、Al23を加えずに、単斜晶(Monoclinic)セルシアン(mセルシアンとも称する)の100重量部に対して助剤のガラスを6.0重量部加え、助剤のCuOを1.0重量部加えた以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例44とした。単斜晶セルシアンとしては、合成した粉末を用いた。
【0053】
[六方晶(h)セルシアン及び単斜晶(m)セルシアンの作製]
実験例43,44に用いたセルシアンは以下の工程により作製した。原料にBaCO3(堺化学製高純度炭酸バリウム99.9%)、SiO2(トクヤマ製エクセリカSE−1)、Al23(岩谷化学製RA40)、焼カオリン(エンゲルハード社製Al23・2SiO2)を用いてBaAl2Si28(以下hセルシアンおよびmセルシアン)を合成した。hセルシアン合成粉は、BaO:Al23:SiO2がモル比で1:1:2となるようBaCO3、SiO2、Al23を秤量し、IPAを溶媒としたボールミルにて4時間混合しスラリーを調整した。#100篩に通したあと、窒素雰囲気110℃、16h乾燥し、得られた粉末を1500℃大気で6時間焼成した。得られた合成粉をメノウ乳鉢で解砕し#100篩に通したあと、直径5mmのZrO2玉石で20時間湿式粉砕し乾燥してhセルシアン粉末を得た。mセルシアン合成粉は、BaO:Al23:SiO2がモル比で1:1:2となるようBaCO3と焼カオリンを秤量し上記hセルシアンと同様のプロセスを経て得られた。
【0054】
[実験例45〜49]
強化粒子としてのAl23の代わりにMgAl24(昭和電工製ショウスピネルFAM)を用いた以外は実験例15と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例45とした。また、Al23の代わりに2Al23・SiO2(昭和電工製ショウムライトRM)を用いた以外は実験例15と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例46とした。また、Al23の代わりにコージェライト(2MgO・5SiO2・2Al23)を用いた以外は実験例15と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例47とした。また、Al23の代わりにZrO2(東ソー製TZ−0)を用いた以外は実験例15と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例48とした。また、Al23の代わりにMgO(協和化学工業製酸化マグネシウムT)を用いた以外は実験例15と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例49とした。
【0055】
[実験例50]
平均粒径が0.3μm、比表面積が16m2/gの単斜晶BaSi25を用い、焼成温度を880℃とした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例50とした。なお、単斜晶BaSi25の合成時の焼成温度は1200℃である。
【0056】
[実験例51]
平均粒径が1.0μm、比表面積が4.3m2/gの単斜晶BaSi25を用い、単斜晶BaSi25とAl23とを体積比率で80:20とした以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例51とした
【0057】
[実験例52〜54]
助剤のガラスを8.0重量部加え910℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例52とした。また、助剤のガラスを10.0重量部加え910℃で焼成した以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例53とした。また、助剤のガラスを8.0重量部加えた以外は、実験例2と同様の工程を経て得られた焼結体を実験例10とした。
【0058】
(密度測定、開気孔率測定)
作製した焼結体について、密度及び開気孔率を測定した。密度及び開気孔率は、JIS−R1634に従い、純水を媒体に用い、アルキメデス法により評価した。なお、密度は、嵩密度として求めた。
【0059】
(抗切強度測定)
作製した焼結体について、抗切強度測定を行った。抗切強度測定は、1.5×2×20mmの試験片を用いて、JIS−R1601に従い、強度試験器(島津製作所製S500C)を用い、3点曲げ強度試験により評価した。
【0060】
(誘電率ε、Q値測定)
誘電率ε及びQ値は、JIS−1627に従い、直径20mm×10mm円柱試験片を用いて、測定器(HewlettPackard製8720ES)により評価した。Q値は、3GHzでの値とした。
【0061】
(熱膨張係数測定)
熱膨張係数は、1.5×2×20mm角形状の試験片を用いて、横型熱膨張計により評価した。測定は、石英を参照物質として10℃/分で昇温し、40℃以上800℃以下の範囲で行った。熱膨張係数は、40℃を基準温度とし、800℃での値とした。
【0062】
(X線回折測定)
作製した焼結体について、回転対陰極型X線回折装置(理学電機製RINT)を用いてX線回折測定を行った。X線回折測定は、CuKα線源,50kV,300mA,2θ=10〜60°)の条件で行った。各焼結体から得られたX線回折パターンから結晶相を同定した。また、Al23及び単斜晶BaSi25が含まれる焼結体については、Al23の2θ=43°近傍のピーク強度IAと、単斜晶BaSi25の2θ=11°近傍のピーク強度Ihとを用い、このピーク強度比IA/Ihを求めた(後述図2参照)。このピーク強度比IA/Ihは、厳密ではないがアルミナと六方晶セルシアンとの含有比率を概念的に表す値である。
【0063】
(元素分析)
元素分析は、ICP発光分光測定器を用いて測定した。
【0064】
(電子顕微鏡撮影)
作製した焼結体を電子顕微鏡(SEM)により撮影した。SEM撮影は、各焼結体を切断した切断面を観察し、SEM(フィリップス社製XL30)を用いて行った。SEM撮影は、加速電圧15kV、スポットサイズ4.0の条件で行った。
【0065】
(測定結果)
実験例1〜26の助剤添加量(重量%)、アルミナ(Al23)の平均粒径(μm)、比表面積(m2/g)及び添加量(体積%)、焼結体の焼成温度(℃)、開気孔率(%)、嵩密度(g/cm3)、抗切強度(MPa)、誘電率ε、Q値、熱膨張係数(1/K)、X線回折のピーク強度比IA/Ih、反応結晶相をまとめたものを表1に示す。また、実験例1,6,10,11,14,15,17,24,25,26の元素分析結果を表2に示す。また、実験例27〜36の助剤添加量(重量%)、アルミナの平均粒径(μm)、比表面積(m2/g)及び添加量(体積%)、焼結体の焼成温度(℃)、開気孔率(%)、嵩密度(g/cm3)、抗切強度(MPa)、誘電率ε、Q値、熱膨張係数(1/K)、X線回折のピーク強度比IA/Ih、反応結晶相をまとめたものを表3に示す。また、実験例27,32〜34の元素分析結果を表4に示す。この表1〜4は、焼成温度、ガラス材、酸化物及びアルミナなどの条件を検討した結果である。なお、表中の空欄は未測定であり、「−」は検出限界か測定不可のいずれかを示している。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
表1〜4に示すように、単斜晶のBaSi25を原料として用いると六方晶セルシアンを生成し、好ましいことがわかった。また、強化粒子としてのAl23は、平均粒径が0.4μm以上6.7μm以下の範囲が好適であり、比表面積が0.9m2/g以上6.6m2/g以下の範囲が好適であった。このAl23は、BaSi25との全体に対して15体積%以上25体積%以下の範囲が好適であった。また、助剤としてのガラス材は、BaSi25及びAl23を含む全体に対して2.5重量%以上7重量%以下の範囲が好適であった。また、添加酸化物としては、Cu,Mg,B,Zn,Bi,Zrのうち少なくとも1以上の酸化物であれば好適であった。この添加酸化物であるCuOは、0.5重量%以上3重量%以下の範囲が好適であった。これらの条件を満たすと、960℃以下、より好ましくは920℃以下で焼成しても、250MPa以上の高強度と、2000以上の高Q値とすることができることがわかった。また、表2に示すように、元素分析を行ったものでは、すべてのセラミックス焼結体において、酸化物換算でSrの含有量が0.01重量%以下であった。Srの含有量が少なければ、六方晶セルシアンを生成しやすいと推察された。
【0071】
次に、実験例20、実験例37,38の測定結果を表5に示す。これは、原料であるBaSi25の結晶相の影響を検討した結果である。表1,5に示すように、BaSi25を単斜晶のものを用いると、960℃以下の焼成温度において、高強度と高Q値を得ることができることがわかった。また、BaSi25の合成時において、助剤であるBi25やZnOを添加して焼成すると斜方晶BaSi25が得られ、Bi25やZnOを添加せずに焼成すると、単斜晶BaSi25が得られることがわかった。なお、斜方晶BaSi25を用いて焼結体を作製すると、焼結体に含まれるセルシアンが単斜晶となり、好ましくないことがわかった。
【0072】
【表5】

【0073】
次に、実験例16、実験例39〜42の測定結果を表6に示す。これは、助剤であるガラス材の種別の影響を検討した結果である。表6に示すように、ガラス材としては、Mg−Ba−Si−B−O系,Ba−Si−O系及びNa−Si−Zn−O系,に比して、Ba−Si−B−O系ガラスがより好適であることがわかった。
【0074】
【表6】

【0075】
次に、実験例2、実験例38,43,44の測定結果を表7に示す。また、図1は、実験例2,実験例38,43,44のSEM写真である。図2は、実験例2及び実験例44のX線回折測定結果である。ここでは、焼結体に含まれるセルシアンの結晶相及び焼結体の微構造について検討した結果である。表7に示すように、Al23を含んでいてもセルシアンが単斜晶である場合(実験例38)や、六方晶セルシアンを含むがAl23を含まない場合(実験例43)、単斜晶セルシアンを含むが六方晶セルシアンもAl23をも含まない場合(実験例44)では、いずれも強度が十分でなかった。また、図1に示すように、Al23の粒子とBaSi25とが反応してセルシアンが生成することから、Al23の粒子が残存している場合は、その外周を覆うようにセルシアンが生成していることがわかった。図1及び表7より、Al23の粒子が存在し、且つその粒子の外周に六方晶セルシアンが存在する微構造、更には、Al23の粒子の外周を覆うように六方晶セルシアンが存在する微構造を有すると、920℃での焼成において、250MPa以上の高強度と、2000以上の高Q値とすることができることがわかった。
【0076】
【表7】

【0077】
次に、実験例15、実験例45〜49の測定結果を表8に示す。これは、各種の強化粒子を検討した結果である。表8に示すように、Al23が最も強度を高めるのに効果的であることがわかった。
【0078】
【表8】

【0079】
次に、実験例2,50,51の測定結果を表9に示す。これは、原料であるBaSi25の平均粒径及び比表面積の影響を検討した結果である。表9に示すように、BaSi25の平均粒径は、0.3μm以上0.5μm以下の範囲がより好ましいことがわかった。また、BaSi25の比表面積は、10m2/g以上16m2/g以下の範囲がより好ましいことがわかった。
【0080】
【表9】

【0081】
次に、実験例52〜54の測定結果を表10に示す。これは、助剤であるガラスの添加量を増加させ、焼成温度を低下させたときの影響を検討した結果である。表10に示すように、助剤であるガラス量を増加し、焼成温度を低下させた実験例52,53では、十分な強度が得られることがわかった。なお、ガラスの添加量が増加するとQ値は減少する傾向であった。
【0082】
【表10】

【0083】
次に、本発明のセラミックス焼結体と異種誘電材料との積層体を作製した。セラミックス焼結体と異種誘電材料との接合性を高めるべく、両者の間に中間層を介在した積層体と、異種誘電材料に添加する助剤量を調整した積層体とを作製した。
【0084】
[異種誘電材料(BaTiO3)の作製]
BaTiO3系粉末に市販のZnO−B23-SiO2系ガラス(ASF1939、旭硝子製)を2〜6重量%添加し、直径2mmのZrO2玉石を用い、IPAを溶媒として
12時間湿式粉砕後、乾燥し異種誘電材料の粉末を得た。
【0085】
[中間層粉末の作製]
BaSi25粉末を88重量部、mセルシアンを9重量部、市販のBaO−B23−SiO2系ガラス(ASF1780、旭硝子製)を3重量部を所望の組成となるよう混合し、IPAを溶媒とし、φ2mmZrO2玉石を用いたボールミルで粉砕した。粉砕後、窒素雰囲気、110℃×16h乾燥し中間層粉末を得た。
【0086】
[中間層を介在した積層体の作製:実験例55〜61]
上記作製した中間層の原料粉末を45重量部、有機バインダを8重量部、可塑剤を2重量部、分散剤を1重量部、有機溶媒を44重量部、添加しボールミルで10時間混合した。得たスラリーをドクターブレード装置にて0.02〜0.1mm厚さのテープを作製した。セラミックス焼結体のテープを20枚積層した上に中間層テープを1枚または2枚積層、もしくは中間層スラリーを印刷した後、異種誘電材料をさらに20枚積層した。積層体を大気中910〜930℃で大気焼成した。セラミックス焼結体の厚さは0.6mmであり、異種誘電材料の厚さは0.6mmであった。このとき、中間層の厚さを0μm,0.5μm,1.5μm,3.0μm,5.0μm,10.0μm,30.0μmとしたものをそれぞれ実験例55〜61とした。
【0087】
[助剤量を調整した積層体の作製:実験例62〜65]
上記作製した異種誘電材料の粉末を3×4×40mmの金型へ充填し、プレス圧76kg/cm2で金型成形し、その上にセラミックス焼結体の原料粉末を充填し、再度プレス圧76kg/cm2で金型成形した。その後3000kg/cm2でCIP成形し、910〜930℃で大気焼成した。後述する表12に示す組成となるようにガラス材や添加剤を混合して実験例62〜65を作製した。特に、実験例62はZnOが1.5重量%含まれ、実験例63〜65はZnOが含まれない組成となるように作製した。
【0088】
(電子顕微鏡撮影)
作製した積層体を電子顕微鏡(SEM)により撮影し、評価した。SEM撮影は、SEM(フィリップス社製XL30)を用い、各積層体を切断した切断面の反射電子像を観察して行った。セラミックス焼結体と異種誘電材料との界面で焼成により反応して生成した反応層の厚さは、SEM写真(×3000)で観察された反応層を等間隔に5箇所測定し、その平均値とした。図3は、実験例55、60,63の積層体の断面のSEM写真である。
【0089】
(実験結果)
作製した実験例55〜61の積層体の誘電率ε、中間層の厚さ(μm)、反応層の厚さ(μm)、クラックの有無、孔の有無、接合状態の判定結果をまとめて表11に示す。実験例55のように、ZnOを含む助剤を用いた異種誘電材料と本発明のセラミックス焼結体とを直接接合して焼成した積層体では、異種誘電材料層とセラミックス焼結体層とが反応して生成した反応層において、比較的大きな孔やクラックが生じ接合状態が好ましくないことがわかった。ここで、反応層を詳細に分析したところ、反応層はmセルシアンを多く含むことがわかった。この点より、焼成時に、Znの存在によってhセルシアンがmセルシアンへ相変化するなどし、体積変化などによりクラックや孔が生成したものと推察された。そこで、相変化を促進する元素が存在しても相変化が起きない材料を含む中間層を異種誘電材料層とセラミックス焼結体層との間に設けた。ここでは、中間層として相変化後の生成物であるmセルシアンを用いた。表11に示すように、この中間層の厚さが1.5μm以下では反応層の厚さが大きく、クラックや孔の発生を抑制することができないが、中間層の厚さが1.5μmを超え、3.0μm以上となると、反応層の厚さが小さくなり、クラックや孔の発生を抑制し、好適な接合状態を得ることができることがわかった。また、中間層がバリア的に機能するため、異種誘電材料を構成するガラスの成分が拡散してしまうのをより抑制し、異種誘電材料での誘電率の変化をより抑制することができる。この中間層は、1.5μmを超え、40μm以下の範囲が好ましいと推察された。なお、中間層を設ける手法は、セルシアンの相変化を促進するZn以外の他元素に対しても有効であると推察された。
【0090】
【表11】

【0091】
作製した実験例62〜65の異種誘電材料(BaTiO3系材料)の含有量、Bi,Zn,Ba,Si及びAlの酸化物に換算した含有量(重量%)、反応層の厚さ(μm)、クラックの有無、孔の有無、接合状態の判定結果をまとめて表12に示す。ここでは、異種誘電材料に含まれる相変化を促進する元素の含有量を低減した積層体について検討した。実験例62のように、Znを含む助剤を用いた異種誘電材料と本発明のセラミックス焼結体とを直接接合して焼成した積層体では、異種誘電材料層とセラミックス焼結体層とが反応して生成した反応層において、比較的大きな孔やクラックが生じ接合状態が好ましくないことがわかった。これに対して、Znの含有量を低減する、あるいはZnを含まない異種誘電材料を用いると、反応層の厚さが小さくなり、クラックや孔の発生を抑制し、好適な接合状態を得ることができることがわかった。表12に示すように、ZnOの含有量が1.5重量%未満では反応層の厚さが小さくなり、クラックや孔の発生を抑制し、好適な接合状態を得ることができることがわかった。
【0092】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、回路部品の技術分野に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸バリウム中にガラス成分と所定の添加酸化物の成分と酸化アルミニウム粒子とを含み、前記酸化アルミニウム粒子の外周に六方晶セルシアンが存在する構造を有する、
セラミックス焼結体。
【請求項2】
X線回折における前記酸化アルミニウムの2θ=43°でのピーク強度をIAとし、X線回折における前記六方晶セルシアンの2θ=11°でのピーク強度をIhとしたとき、ピーク強度比IA/Ihが0.2以上0.7以下の範囲である、請求項1に記載のセラミックス焼結体。
【請求項3】
前記酸化アルミニウム粒子は、平均粒径が0.4μm以上10μm以下の範囲である、請求項1又は2に記載のセラミックス焼結体。
【請求項4】
前記所定の添加酸化物の成分は、Cu,Mg,B,Zn,Bi,Zrのうち少なくとも1以上であり、珪酸バリウム及び酸化アルミニウムを含む全体に対して酸化物換算で0.5重量%以上3重量%以下の範囲で配合されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体。
【請求項5】
前記ガラス成分は、Ba,Si及びBを含んでいる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体。
【請求項6】
3点曲げ強度が250MPa以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体。
【請求項7】
3.0GHzにおけるQ値が2000以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体。
【請求項8】
開気孔率が0.5%以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体。
【請求項9】
前記セラミックス焼結体は、酸化物換算でSrの含有量が0.5重量%以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体よりなるセラミックス層と、
比誘電率が5以上2500以下である誘電材料よりなる誘電材料層と、
前記セラミックス層と前記誘電材料層との間に介在する中間層と、を備えたセラミックス構造体。
【請求項11】
前記中間層は、単斜晶セルシアンを含有している、請求項10に記載のセラミックス構造体。
【請求項12】
前記中間層は、厚さが3μm以上40μm以下である、請求項10又は11に記載のセラミックス構造体。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体よりなるセラミックス層と、
比誘電率が5以上2500以下である誘電材料よりなり、六方晶セルシアンを単斜晶セルシアン化する元素が1.5重量%未満である誘電材料層と、を備えたセラミックス構造体。
【請求項14】
前記誘電材料層は、前記六方晶セルシアンを単斜晶セルシアン化する元素の含有量が酸化物として1.5重量%未満である、請求項13に記載のセラミックス構造体。
【請求項15】
前記六方晶セルシアンを単斜晶セルシアン化する元素は、Zn,Sr,Li,Na,Ca,Tiのうち少なくとも1以上である、請求項13又は14に記載のセラミックス構造体。
【請求項16】
前記誘電材料層の界面には反応層が生成しており、該反応層の厚さが3μm以下である、請求項10〜15のいずれか1項に記載のセラミックス構造体。
【請求項17】
珪酸バリウムと酸化アルミニウムと所定のガラス材と所定の添加酸化物とを(1)〜(2)の条件で配合して配合原料を作製する原料配合工程と、
前記配合原料を成形して850℃以上1000℃以下で焼成する焼成工程と、
を含むセラミックス焼結体の製造方法。
(1)前記珪酸バリウムは、単斜晶であり、平均粒径が0.3μm以上1μm未満の範囲であり、比表面積が5m2/g以上20m2/g以下の範囲である。
(2)前記酸化アルミニウムは、平均粒径が0.4μm以上10μm以下であり、比表面積が0.8m2/g以上8m2/g以下であり、珪酸バリウムに対して10体積%以上25体積%以下の範囲で配合する。
【請求項18】
前記原料配合工程では、更に(3)の条件で配合して配合原料を作製する、請求項17に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
(3)前記所定のガラス材は、Ba−Si−B−O系ガラスであり、珪酸バリウム及び酸化アルミニウムを含む全体に対して2重量%以上10重量%以下の範囲で配合する。
【請求項19】
前記原料配合工程では、更に(4)の条件で配合して配合原料を作製する、請求項17又は18に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
(4)前記所定の添加酸化物は、Cu,Mg,B,Zn,Bi及びZrのうち少なくとも1以上の酸化物であり、珪酸バリウム及び酸化アルミニウムを含む全体に対して0.5重量%以上3重量%以下の範囲で配合する。
【請求項20】
前記焼成工程では、960℃以下で焼成する、請求項17〜19のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項21】
前記原料配合工程のまえに、バリウム化合物と珪素化合物とを混合しBi及びZnを添加せずに焼成して単斜晶の珪酸バリウムを作製する原料作製工程、を含む、請求項17〜20のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項22】
前記原料配合工程では、前記セラミックス焼結体において酸化物換算でSrの含有量が0.5重量%以下となるよう配合原料を作製する、請求項17〜21のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−126767(P2011−126767A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102567(P2010−102567)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】