説明

セラミックペーストおよびセラミックグリーンシート

【課題】ポリビニルアセタールを含み、塗膜強度の向上と粘度安定性とが両立した積層セラミックコンデンサ用セラミックペーストを提供する。
【解決手段】以下の式(I)に示す部分構造を分子内に3以上有する有機ホウ素化合物を含むペーストとする。式(I)において、mは0または1、nは1〜3の整数、R1およびR2は互いに独立して、水素原子または置換されていてもよいアルキル基である。R1およびR2は、互いに結合していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサの製造に使用されるセラミックペーストと、セラミックグリーンシートとに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルブチラールに代表されるポリビニルアセタールは、基材との接着性、有機溶剤への溶解性、無機粒子の分散性などの特性に優れることから、バインダー成分として各種の用途に広く利用されている。その用途の一例に、積層セラミックコンデンサの製造に使用されるセラミックグリーンシート(以下、単に「グリーンシート」ともいう)がある。
【0003】
グリーンシートは、通常、セラミック粉末、バインダー樹脂および溶剤と、可塑剤、分散剤などの添加剤との混合物であるセラミックペーストから形成される。具体的には、セラミックペーストを支持体上に塗工し、溶剤を揮発させて塗膜とした後、得られた塗膜を支持体から剥離する。セラミック粉末およびバインダー樹脂を含む当該塗膜がグリーンシートであり、このバインダー樹脂にポリビニルアセタールが使用される。積層セラミックコンデンサは、導電性ペーストを表面に塗工したグリーンシートを積層し、得られたグリーンシート積層体を焼成してセラミック積層体とし、これに外部電極を付加して製造される。積層セラミックコンデンサには、高容量化および小型化が常に求められている。この要求に応えるためには、グリーンシートの薄膜化が必要である。グリーンシートの薄膜化を達成するためには、塗膜とした後に高い強度を示す(高い塗膜強度を示す)セラミックペーストが必要である。
【0004】
高分子量の(高重合度の)ポリビニルアセタールをバインダー樹脂として使用することによって、セラミックペーストの塗膜強度が向上する。しかし、高分子量のポリビニルアセタールは溶剤への溶解性が低い。また、最低限の溶解性を確保できた場合においても、高分子量のポリビニルアセタールを用いたセラミックペーストの粘度は高く、塗工性に劣る傾向がある。
【0005】
一方、特許文献1には、特定の分子構造を有する架橋性ポリビニルアセタール、ならびにこのポリビニルアセタールを、特定の架橋剤を用い、紫外線(UV)照射、電子線照射または熱処理によって架橋させることで塗膜強度を向上させる方法が開示されている。また特許文献2には、特定の分子構造を有する架橋性ポリビニルアセタールを含む活性エネルギー線硬化性インク組成物が開示されている。しかし、特許文献1および2に開示の技術では、ポリビニルアセタールを含む塗膜を形成後、UV照射あるいは熱処理など、何らかの後処理を塗膜に施すことによって架橋反応を進行させる必要がある。また、特許文献1および2に開示の改質ポリビニルアセタールは高い架橋反応性を有しており、上記特定の架橋剤の使用によってスラリーまたはインク組成物の状態では架橋反応が抑制されてはいるものの、一般的なポリビニルアセタールを用いた場合に比べて、当該スラリーまたはインク組成物としての粘度安定性に劣る。粘度安定性に劣るスラリー/組成物は塗工性に劣り、結果として、生産物の品質および生産性の低下につながることがある。セラミックペーストの場合、改質ポリビニルアセタールによって塗膜強度の向上は期待できるものの、薄膜化グリーンシートの安定した生産が困難となる事態が想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/143286号
【特許文献2】特開2004-269690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、バインダー樹脂としてポリビニルアセタールを含む塗膜形成組成物において、塗膜強度の向上と、当該組成物の粘度安定性とを両立させることは難しい。本発明は、ポリビニルアセタールを含む積層セラミックコンデンサ用セラミックペーストであって、塗膜強度の向上と粘度安定性とが両立したセラミックペーストの提供を目的とする。また、本発明は、高い膜強度を示す積層セラミックコンデンサ用セラミックグリーンシートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、バインダー樹脂としてポリビニルアセタールと、架橋剤として、ホウ素原子を含む特定の部分構造を3以上有する有機ホウ素化合物との組み合わせによって上記目的が達成されることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0009】
本発明の積層セラミックコンデンサ用セラミックペーストは、以下の式(I)に示される部分構造を分子内に3以上有する有機ホウ素化合物と、ポリビニルアセタールと、セラミック粉末と、溶剤と、を含む。
【0010】
【化1】

【0011】
式(I)において、mは0または1であり、nは1〜3の整数である。R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、または置換されていてもよいアルキル基である。R1およびR2は、互いに結合していてもよい。
【0012】
本発明の積層セラミックコンデンサ用セラミックグリーンシートは、本発明の積層セラミックコンデンサ用セラミックペーストを塗工して得たグリーンシートである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のセラミックペーストは、溶剤を含むペーストの状態ではポリビニルアセタールの架橋反応が抑制される一方で、溶剤が揮発し、塗膜となった後では当該架橋反応が十分に進行する性質を有している。これにより、セラミックペーストとしての良好な粘度安定性と、これと両立した高い塗膜強度とがもたらされる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[有機ホウ素化合物]
本発明のセラミックペーストは、以下の式(I)に示される部分構造(以下、単に「部分構造X」ともいう)を分子内に3以上有する有機ホウ素化合物(以下、単に「化合物(a)」ともいう)を含む。当該化合物(a)は架橋剤として機能することができる。
【0015】
【化2】

【0016】
式(I)において、mは0または1であり、nは1〜3の整数である。R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、または置換されていてもよいアルキル基である。R1およびR2は、互いに結合していてもよい。
【0017】
化合物(a)が有する部分構造Xのホウ素原子には空軌道があり、この空軌道にポリビニルアセタールの水酸基が配位結合し、代わってOR1基またはOR2基がホウ素原子から脱離することにより、架橋反応が進行する。さらに、上記のホウ素原子に新たに生じた空軌道にポリビニルアセタールの別の水酸基が配位結合し、代わって、残存したOR1基またはOR2基がホウ素原子から脱離することもある。しかし、ポリビニルアセタールに含まれる水酸基の量は、アセタール化される前のポリビニルアルコール(PVA)に比べると少なく、溶剤の存在下では、この少ない水酸基が、ポリビニルアセタール鎖の周囲に存在する当該溶剤の分子にブロックされることで架橋反応が抑制される。このため、本発明のセラミックペーストは、粘度安定性に優れると考えられる。
【0018】
一方で、溶剤が除去され塗膜となると、溶剤の分子によるブロックがなくなり、架橋反応が進行する。この架橋反応の進行においては、UV照射、電子線照射および熱処理といった架橋トリガーの塗膜への印加を省略できる。化合物(a)は有機化合物であり、溶剤によるブロックがない状態では、ポリビニルアセタールとの相溶性が高い。また、当該状態では、化合物(a)はポリビニルアセタールに対する優れた架橋性を有している。このため、本発明のセラミックペーストでは塗膜強度が向上すると考えられる。
【0019】
さらに、本発明のセラミックペーストは溶剤を含むが、化合物(a)はこのような溶剤への溶解性に優れている。このため、本発明のセラミックペーストでは、塗膜にする際の架橋反応がより均一に進行し、塗膜強度が向上する。また、本発明のセラミックペーストは塗工性に優れており、グリーンシートのさらなる薄膜化を図ることができる。
【0020】
ところで、ホウ素を含み、水酸基を介する架橋反応を進行させる架橋剤としてホウ酸(B(OH)3)が知られている。しかし、ホウ酸は無機物であり、ポリビニルアセタールとの相溶性が低い上、溶剤への溶解性が低い。このため、架橋剤にホウ酸を用いた場合、本発明のセラミックペーストのような高い塗膜強度が得られない。
【0021】
部分構造Xにおいて、R1またはR2でありうる「置換されていてもよいアルキル基」における置換される前のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基などの炭素数1〜20のアルキル基である。架橋反応に伴う配位置換後の脱離物(代表的には、R1−OHおよびR2−OH)の揮発性、より具体的には、揮発による当該脱離物の除去の容易性の観点から、炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基およびイソプロピル基がさらに好ましい。
【0022】
1またはR2でありうる「置換されていてもよいアルキル基」における置換基は、例えば、フェニル基、ナフチル基などのアリール基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子である。「置換されていてもよいアルキル基」における置換基の数は、0〜3が好ましく、0または1がより好ましく、0がさらに好ましい。置換基の数が0の場合、そのようなR1またはR2は、置換基を有さないアルキル基である。
【0023】
部分構造XにおけるR1およびR2は互いに結合していてもよい。R1およびR2が互いに結合することにより、R1およびR2がそれぞれ結合している2つの酸素原子と、当該2つの酸素原子が結合しているホウ素原子とを含む環構造を形成することができる。部分構造Xがこのような環構造を有する場合、化合物(a)の熱的安定性が向上し、本発明のセラミックペーストの取扱性が向上する。R1およびR2の具体的な結合の形態は限定されず、例えば、R1およびR2の双方が「置換されていてもよいアルキル基」であり、当該アルキル基から水素原子が各々1つずつ取り除かれており、水素原子が取り除かれた原子同士が結合している構造に相当する形態である。
【0024】
部分構造Xにおいて、mは0または1であり、nは1〜3の整数である。この条件が満たされる限り、mおよびnの組み合わせは特に限定されない。化合物(a)の合成が比較的容易であることから、m=1およびn=3の組み合わせ、m=0およびn=2の組み合わせが好ましく、m=1およびn=3の組み合わせがより好ましい。
【0025】
部分構造Xの具体例を、以下の式(I−1)〜(I−12)に示す。
【0026】
【化3】

【0027】
式(I−1)〜(I−12)に示される部分構造Xのなかでは、式(I−9)に示される部分構造および式(I−10)に示される部分構造が好ましい。この場合、化合物(a)の合成が比較的容易であるとともに、当該部分構造Xを有する化合物(a)はポリビニルアセタールに対する架橋性が特に高く、さらに、当該化合物(a)を含むセラミックペーストの安定性が特に高くなる。
【0028】
化合物(a)は、その分子内に、部分構造Xを3以上有する。分子内に有する部分構造Xの数が2以下の場合、ポリビニルアセタールに対する十分な架橋性が得られない。ポリビニルアセタールに対する架橋性の観点から、化合物(a)が分子内に有する部分構造Xの数は3〜6が好ましく、3または4がより好ましい。化合物(a)が分子内に有する部分構造Xは、全て同一の構造であっても、一部の部分構造Xが異なっていても、全ての部分構造Xが互いに異なっていてもよい。化合物(a)の合成が容易となる観点からは、全て同一の構造であることが好ましい。
【0029】
化合物(a)における部分構造X以外の部分(以下、当該部分を「母核」という)の構造は特に制限されないが、母核における部分構造Xと結合している原子に部分構造Xの代わりに水素原子を結合させたときに、置換されていてもよい脂肪族炭化水素となる母核、置換されていてもよい芳香族炭化水素となる母核が好ましい。この置換されていてもよい脂肪族炭化水素には、置換されていてもよい脂環式炭化水素が含まれる。置換されていてもよい脂肪族炭化水素となる母核および置換されていてもよい芳香族炭化水素となる母核における置換基は、例えば、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミド基、ウレタン基、ウレア基、メルカプト基である。置換基の数は、0〜3が好ましく、0または1がより好ましい。
【0030】
母核の炭素数は、1〜10が好ましく、2〜6がより好ましい。
【0031】
母核の具体例を、以下の式(II−1)〜(II−5)に示す。式(II−1)〜(II−5)におけるアステリスク(*)は、部分構造Xが結合する場所を示す。なお、式(II−1)〜(II−5)の母核におけるアステリスクの位置には原子は存在しない。化合物(a)としたときに、当該位置には、例えば、部分構造Xの酸素原子(式(I)におけるmが1の場合)が位置する。
【0032】
【化4】

【0033】
式(II−1)〜(II−5)に示す母核のなかでも、本発明の効果を得るために必要な架橋性を有する化合物(a)を比較的安価に準備できることから、式(II−1)に示す母核が好ましい。
【0034】
化合物(a)の分子量は、200〜5000が好ましく、300〜2500がより好ましく、500〜1500がさらに好ましい。化合物(a)の分子量が過度に小さい場合、当該化合物(a)の沸点が低く、セラミックペーストの塗工中に化合物(a)が揮発しやすくなり、架橋剤としての役割を果たすことが難しくなる傾向がある。なお、溶剤に低級アルコールが含まれる場合、ホウ素原子に結合したOR1基,OR2基が当該低級アルコールによって配位交換されることで、化合物(a)の沸点がより低くなる傾向があるため、比較的大きい分子量が望まれる。化合物(a)の分子量が過度に大きい場合、溶剤への溶解性およびポリビニルアセタールとの相溶性が低下する傾向がある。
【0035】
化合物(a)におけるホウ素原子の含有率(化合物(a)の質量に対する、化合物(a)が有する全てのホウ素原子の質量の割合)は、1〜15質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましく、3〜7質量%がさらに好ましい。当該含有率が過度に小さい場合、化合物(a)のポリビニルアセタールに対する架橋性が低下する傾向がある。当該含有率が過度に大きい場合、当該化合物を含むセラミックペーストの安定性が低下する傾向がある。
【0036】
化合物(a)の好ましい具体例を、以下の式(a−1)〜(a−15)に示す。
【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
【化9】

【0042】
【化10】

【0043】
【化11】

【0044】
【化12】

【0045】
【化13】

【0046】
【化14】

【0047】
【化15】

【0048】
【化16】

【0049】
【化17】

【0050】
【化18】

【0051】
【化19】

【0052】
式(a−1)〜(a−15)に示される化合物(a)のなかでも、合成が比較的容易であるとともに、架橋剤としての性能が特に高いことから、式(a−3)、(a−6)、(a−9)、(a−12)および(a−15)の各々に示される化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、式(a−3)、(a−6)、(a−9)および(a−12)の各々に示される化合物から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0053】
化合物(a)の合成方法は限定されず、公知の反応を適用して、適宜、合成できる。例えば、m=1かつn=3の部分構造Xを有する化合物(a)は、反応後に部分構造Xとなる部分が全てアリルオキシ基である合成前駆体を準備し、当該前駆体に対して、ピナコールボランなどのホウ素化合物を用いたヒドロホウ素化反応を進行させることにより、容易に合成できる。例えば、m=0かつn=2の部分構造Xを有する化合物(a)は、反応後に部分構造Xとなる部分が全てビニル基である合成前駆体を準備し、当該前駆体に対して、ピナコールボランなどのホウ素化合物を用いたヒドロホウ素化反応を進行させることにより、容易に合成できる。化合物(a)の合成後には、必要に応じて、蒸留などの手法により精製できる。
【0054】
本発明のセラミックペーストは、化合物(a)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。また、本発明のセラミックペーストは、化合物(a)以外の架橋剤を含んでいてもよい。化合物(a)以外の架橋剤は、例えば、ホウ酸およびその塩である。本発明のセラミックペーストにおける化合物(a)以外の架橋剤の含有量は、化合物(a)と化合物(a)以外の架橋剤の合計質量に基づいて50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、0質量%(すなわち、化合物(a)以外の架橋剤を含まない)が特に好ましい。本発明のセラミックペーストが化合物(a)以外の架橋剤を含む場合、当該架橋剤の種類によっては、当該架橋剤による架橋反応を進行させるために、本発明のセラミックペーストを塗工した後に架橋のトリガーを印加することが好ましいことがある。架橋のトリガーは、例えば、UV照射、電子線照射、熱処理である。
【0055】
本発明のセラミックペーストにおける化合物(a)の含有量は、ポリビニルアセタール100質量部に対して0.1〜30質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましく、1.0〜10質量部がさらに好ましい。
【0056】
[ポリビニルアセタール]
本発明のセラミックペーストは、ポリビニルアセタールを含む。ポリビニルアセタールは、セラミック粉末のバインダーとして機能することができる。ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコール(PVA)とアルデヒドとを、水および/または有機溶媒中において酸触媒の存在下で反応させて(アセタール化して)得ることができる。PVAは、ビニルアルコール単位を主たる構造単位として有する重合体であリ、PVAを構成する全構造単位の合計モル数に占めるビニルアルコール単位のモル数の割合は、例えば、50モル%以上である。
【0057】
ポリビニルアセタールの製造に使用されるPVAは特に限定されず、公知のPVAを使用できる。PVAは、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニルなどのビニルエステル系単量体の重合体をけん化して得たPVA;これらビニルエステル系単量体と、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソプロピレン、イソブチレンなどのα−オレフィン類との共重合体をけん化して得たPVA;である。ビニルエステル系単量体は、酢酸ビニルが好ましい。α−オレフィン類との共重合体をけん化して得たPVAの場合、α−オレフィン類はエチレンが好ましい。
【0058】
PVAは、上述した単量体以外の他の単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。当該他の単量体は、例えば、アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩(4級塩等)、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩(4級塩等)、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、ならびにその塩、エステルおよび酸無水物;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物である。
【0059】
PVAのアセタール化に用いるアルデヒドは特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒドである。PVAのアセタール化には、これらアルデヒドの1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらのアルデヒドの中でも、ポリビニルアセタールの製造の容易性の観点から、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、n−ブチルアルデヒドが好ましく、n−ブチルアルデヒドがより好ましい。
【0060】
ポリビニルアセタールは、例えば、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルブチラールである。
【0061】
本発明のセラミックペーストが含むポリビニルアセタールの重合度は特に限定されないが、100〜3000であることが好ましく、その下限は300以上がより好ましく、その上限は2500以下がより好ましい。ポリビニルアセタールの重合度が過度に小さいと、十分な塗膜強度が確保できず、形成したグリーンシートの強度が低下することがある。ポリビニルアセタールの重合度が過度に大きいと、セラミックペーストとしての粘度が高くなり、塗工性が低下することがある。ポリビニルアセタールの重合度はアセタール化される前のPVAの重合度と一致するため、当該PVAの重合度を求めることによりポリビニルアセタールの重合度が求められる。本明細書においてアセタール化される前のPVAの重合度とは、JIS K6726−1994の規定に準拠して測定される平均重合度であり、アセタール化される前のPVAを再けん化し、精製した後に、温度を30℃に保持した恒温水槽中で測定した極限粘度から求めることができる。
【0062】
本発明のセラミックペーストが含むポリビニルアセタールのアセタール化度は、50〜95モル%が好ましく、50〜85モル%がより好ましく、55〜80モル%がさらに好ましく、60〜75モル%が特に好ましい。アセタール化度が過度に小さい場合、溶剤への溶解性が低下し、塗膜強度が低下したり、セラミックペーストの形成が困難となることがある。アセタール化度が過度に大きい場合、ポリビニルアセタールに含まれる水酸基の密度が低下し、化合物(a)との結合点が減ることで、塗膜強度が低下することがある。また、アセタール化度が過度に大きいポリビニルアセタールは、その合成のために長時間のアセタール化が必要であることから、生産性に劣る。
【0063】
ポリビニルアセタールのアセタール化度は、アセタール単位を構成する構造単位、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位の合計モル数に対するアセタール単位を構成する構造単位のモル数の割合である。ここで、アセタール単位ならびにアセタール単位を構成する構造単位については、以下のように考える。アセタール単位は、通常、2つのビニルアルコール単位がアセタール化されて形成される。したがって、アセタール単位を構成する構造単位のモル数は、通常、当該アセタール単位のモル数の2倍となる。また、ビニルエステル単位は、例えば、ポリビニルアセタールの製造に使用されるPVAが有することのできる上記のビニルエステル系単量体に由来する構造単位に基づく。なお、本明細書において、ポリビニルアセタールを構成する全構造単位のモル数は、アセタール単位のモル数ではなく、アセタール単位を構成する構造単位のモル数に基づいて算出する。
【0064】
ポリビニルアセタールにおけるビニルアルコール単位の含有率(ポリビニルアセタールを構成する全構造単位のモル数に対するビニルアルコール単位のモル数の割合)は、ポリビニルアセタールの生産性の観点から、3〜50モル%が好ましく、5〜45モル%がより好ましく、10〜40モル%がさらに好ましい。
【0065】
本発明のセラミックペーストにおけるポリビニルアセタールの含有量は、セラミック粉末100質量部に対して1〜50質量部が好ましい。
【0066】
[セラミック粉末]
本発明のセラミックペーストが含むセラミック粉末は特に限定されない。例えば、チタン酸バリウム、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、マグネシア、サイアロン、スピネル、ムライト、ガラス、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの各種セラミックの粉末である。本発明のセラミックペーストは、1種のセラミック粉末のみ含んでいてもよいし、2種以上のセラミック粉末を含んでいてもよい。
【0067】
セラミック粉末の平均粒子径は、形成するグリーンシートの厚さに応じて適宜選択される。セラミック粉末の平均粒子径は、10μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。セラミック粉末の平均粒子径は光散乱法によって測定することができる。
【0068】
本発明のセラミックペーストにおけるセラミック粉末の含有率は特に限定されない。当該含有率は、20〜80質量%が好ましく、30〜75質量%がより好ましい。
【0069】
[溶剤]
本発明のセラミックペーストに含まれる溶剤は特に限定されず、化合物(a)およびポリビニルアセタールを溶解することのできるものを使用することができる。溶剤の具体例は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチルである。ペーストの状態において化合物(a)による架橋反応を抑制する作用が強いことから、上記溶剤のなかでもプロトン性極性溶媒が好ましく、特に、メタノール、エタノールが好ましい。本発明のセラミックペーストは、1種の溶剤のみ含んでいてもよいし、2種以上の溶剤を含んでいてもよい。溶剤の含有率は特に限定されず、溶剤を含むセラミックペースト全体の10〜80質量%が好ましく、15〜70質量%がより好ましい。
【0070】
[添加剤]
本発明のセラミックペーストは、必要に応じて、添加剤を含むことができる。添加剤は、例えば、可塑剤、分散剤、潤滑剤、帯電防止剤、消泡剤である。本発明のセラミックペーストが添加剤を含む場合、セラミックペーストにおける添加剤の含有率は、可塑剤を除き、0.1〜3質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。
【0071】
可塑剤は特に限定されず、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジ(2−エチルブチル)などのフタル酸系可塑剤;アジピン酸ジヘキシルなどのアジピン酸系可塑剤;エチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール系可塑剤;トリエチレングリコールジブチレート、トリエチレングリコールジ(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)などのグリコールエステル系可塑剤である。可塑剤は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明のセラミックペーストが可塑剤を含む場合、セラミックペーストにおける可塑剤の含有率は、0.1〜10質量%が好ましく、1〜8質量%がより好ましい。
【0072】
[セラミックペーストの形成方法]
本発明のセラミックペーストは、上述した化合物(a)、ポリビニルアセタールおよびセラミック粉末、ならびに必要に応じて添加剤を、溶剤と混合して形成できる。混合には、ボールミルなどの混合装置を使用でき、必要に応じて熱を印加しながら混合してもよい。例えば、0〜100℃の温度で1〜100時間、上述した材料を混合する。混合後、必要に応じて、脱泡処理などの各種の処理を行ってもよい。
【0073】
[グリーンシート]
本発明のグリーンシートは、本発明のセラミックペーストを塗工して製造される。塗工は、例えば、支持体上に行う。塗工により形成された本発明のセラミックペーストの塗膜では、溶剤の揮発に伴って化合物(a)によるポリビニルアセタールの架橋反応が進行し、高い膜強度を有するグリーンシートが製造される。支持体は、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル製が好ましい。ポリエステル製の支持体は、塗工により得たグリーンシートの剥離性に優れる。支持体は、例えば、シート、フィルムである。
【0074】
本発明のグリーンシートは、通常、セラミック粉末と、化合物(a)およびポリビニルアセタールの架橋反応物とを含む。このようなグリーンシートにおいて、セラミック粉末は、当該架橋反応物中に分散している。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0076】
最初に、本実施例において作製したセラミックペーストおよびグリーンシートの特性評価方法を示す。
【0077】
[粘度安定性]
作製したセラミックペーストの粘度安定性は、以下のように評価した。
【0078】
作製したセラミックペーストの粘度を、粘度計(ブルックフィールド製、LVDV−II+Pro)を用いて、当該ペーストの作製直後と、当該ペーストを25℃で二週間放置した時点と、2つの時点において測定し、放置後の粘度が作製直後の粘度に比べて3倍以上となった場合を不可(×)、3倍未満であった場合を良(○)とした。
【0079】
[膜強度]
作製したグリーンシートからサイズ8cm×1cmの試験片を切り出し、この試験片に対して、オートグラフ(島津製作所製、AG5000−B)を用いて引張試験を実施した。試験片の引張速度は8mm/分とし、試験片はその長辺方向に引っ張った。引張試験は、同一のグリーンシートに対して試験片を交換しながら5回実施し、各回で測定された引張強度の最大値の平均をグリーンシートの膜強度(N/mm2)とした。
【0080】
(合成例1)
合成例1では、以下の式(a−3)に示される有機ホウ素化合物(a)を合成した。
【0081】
【化20】

【0082】
グリセリン4.6質量部、水酸化ナトリウム20質量部、テトラブチルアンモニウムブロミド5.8質量部および水20質量部を反応器に投入し、攪拌した後、塩化アリル27.6質量部を添加し、60℃で12時間さらに攪拌した。得られた混合物に酢酸エチルおよび飽和食塩水を加えて攪拌した後、有機層を分液により取り出し、これを濃縮し、減圧蒸留してグリセリントリアリルエーテルを得た。得られたグリセリントリアリルエーテルに対するプロトン核磁気共鳴(1HーNMR、270MHz、重溶媒:重クロロホルム(CDCl3)、基準物質:テトラメチルシラン(TMS))の解析結果を以下に示す。
【0083】
化学シフトδ(ppm):3.5−3.6(4H、OCHCH*2O)、3.65−3.75(1H、OCH*CH2O)、4.0−4.1(4H、CH2OCH*2CH=CH2)、4.1−4.2(2H、CHOCH*2CH=CH2)、5.1−5.3(6H、OCH2CH=CH*2)、5.8−6.0(3H、OCH2CH*=CH2
【0084】
次に、別の反応器に塩化トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム1.75質量部、テトラヒドロフラン84質量部およびピナコールボラン8.7質量部を投入し、ここに上記作製したグリセリントリアリルエーテル4.0質量部を添加し、室温で1時間攪拌した後、さらに1時間加熱還流した。得られた混合物に酢酸エチルおよび水を加えて攪拌した後、有機層を分液により取り出し、これを濃縮し、減圧蒸留して、式(a−3)に示される有機ホウ素化合物を得た。得られた有機ホウ素化合物に対するプロトン核磁気共鳴(1H−NMR、270MHz、重溶媒:DMSO−d6、基準物質:テトラメチルシラン(TMS))の解析結果を以下に示す。
【0085】
化学シフトδ(ppm):0.9−1.0(6H、CH2CH*2B)、1.27(36H、BOCCH*3)、1.5−1.7(6H、OCH2CH*2CH2B)、3.3−3.6(11H、OCHCH*2O、OCH*CH2O、OCH*2CH2CH2B)
【0086】
(合成例2)
合成例2では、以下の式(a−12)に示される有機ホウ素化合物(a)を合成した。
【0087】
【化21】

【0088】
ペンタエリスリトールトリアリルエーテル50質量部、水酸化ナトリウム36質量部、テトラブチルアンモニウムブロミド7.0質量部および水36質量部を反応器に投入し、攪拌した後、塩化アリル27.7質量部を添加し、60℃で9時間さらに攪拌した。得られた混合物に酢酸エチルおよび飽和食塩水を加えて攪拌した後、有機層を分液により取り出し、これを濃縮し、減圧蒸留してペンタエリスリトールテトラアリルエーテルを得た。得られたペンタエリスリトールテトラアリルエーテルに対するプロトン核磁気共鳴(1H−NMR、270MHz、重溶媒:重クロロホルム(CDCl3)、基準物質:テトラメチルシラン(TMS))の解析結果を以下に示す。
【0089】
化学シフトδ(ppm):3.47(8H、CCH*2O)、3.9−4.0(8H、OCH*2CH=CH2)、5.1−5.3(8H、OCH2CH=CH*2)、5.8−6.0(4H、OCH2CH*=CH2
【0090】
次に、別の反応器に塩化トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム1.5質量部、テトラヒドロフラン88.4質量部およびピナコールボラン17.7質量部を投入し、ここに上記作製したペンタエリスリトールテトラアリルエーテル10.0質量部を添加し、室温で1時間攪拌した後、さらに1時間加熱還流した。得られた混合物に酢酸エチルおよび水を加えて攪拌した後、有機層を分液により取り出し、これを濃縮し、減圧蒸留して、式(a−12)に示される有機ホウ素化合物を得た。得られた有機ホウ素化合物に対するプロトン核磁気共鳴(1H−NMR、270MHz、重溶媒:DMSO−d6、基準物質:テトラメチルシラン(TMS))の解析結果を以下に示す。
【0091】
化学シフトδ(ppm):0.85−0.95(8H、CH2CH*2B)、1.27(48H、BOCCH*3)、1.5−1.7(8H、OCH2CH*2CH2B)、3.3−3.5(16H、CCH*2O、OCH*2CH2CH2B)
【0092】
(実施例1)
セラミック粒子としてチタン酸バリウム粒子(平均粒子径0.1μm(大塚電子株式会社製ダイナミック光散乱装置「DLS−7000」を使用し、光散乱法により測定)、堺化学工業製、BT−01)25g、溶剤としてアセトン15gおよびトルエン15g、ポリビニルブチラール(重合度300のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドによりアセタール化したもの。アセタール化度:63.5モル%、ビニルアルコール単位の含有率:35モル%、ビニルアセテート単位の含有率:1.5モル%)1g、分散剤としてマリアリムAKM(日油株式会社製)0.5g、可塑剤としてフタル酸ベンジルブチル1g、ならびに合成例1で作製した有機ホウ素化合物0.03gをボールミルに入れ、温度20℃、回転速度100rpmで20時間混合し、セラミックペースト(P1)を得た。次に、得られたセラミックペースト(P1)を、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにポリエチレンテレフタレート(PET)製の支持シート上に塗布し、全体を30℃で5時間乾燥した後、さらに120℃で2時間乾燥し、支持シート上に形成された塗膜を当該シートから剥離して、グリーンシート(G1)を得た。
【0093】
(実施例2)
合成例1で作製した有機ホウ素化合物の代わりに、合成例2で作製した有機ホウ素化合物0.03gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、セラミックペースト(P2)およびグリーンシート(G2)を得た。
【0094】
(比較例1)
有機ホウ素化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、セラミックペースト(P3)およびグリーンシート(G3)を得た。
【0095】
(比較例2)
合成例1で作製した有機ホウ素化合物の代わりにホウ酸0.03gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、セラミックペースト(P4)およびグリーンシート(G4)を得た。
【0096】
(比較例3)
合成例1で作製した有機ホウ素化合物の代わりにヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業製)0.03gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、セラミックペースト(P5)およびグリーンシート(G5)を得た。
【0097】
(比較例4)
合成例1で作製した有機ホウ素化合物の代わりにピロメリト酸二無水物(東京化成工業製)0.03gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、セラミックペースト(P6)およびグリーンシート(G6)を得た。
【0098】
このようにして作製した実施例および比較例のセラミックペースト(P1)〜(P6)の粘度安定性、およびセラミックグリーンシート(G1)〜(G6)の膜強度の評価結果を以下の表1に示す。なお、表1では、作製したセラミックペーストにおけるポリビニルアセタールの含有量を100質量部として、当該含有量に対する有機ホウ素化合物、ホウ酸、ヘキサメチレンジイソシアネートまたはピロメリト酸二無水物の含有量(質量部)を併せて示す。
【0099】
【表1】

【0100】
表1に示すように、比較例1および2のセラミックペースト(P3)および(P4)は粘度安定性に関して良好であったものの、当該セラミックペーストから得たグリーンシート(G3)および(G4)の膜強度は劣っていた。一方、比較例3および4のセラミックペースト(P5)および(P6)から得たグリーンシート(G5)および(G6)の膜強度は高かったものの、当該セラミックペーストの粘度安定性は低かった。これに対して、実施例のセラミックペースト(P1)および(P2)は、粘度安定性に優れるとともに塗膜強度が高く、双方の特性が両立しており、当該セラミックペーストから得たグリーンシート(G1)および(G2)の膜強度は高かった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の積層セラミックコンデンサ用セラミックペーストは、積層セラミックコンデンサの製造に用いるセラミックグリーンシートの形成に好適である。本発明の積層セラミックコンデンサ用セラミックグリーンシートは、積層セラミックコンデンサの製造に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)に示される部分構造を分子内に3以上有する有機ホウ素化合物と、ポリビニルアセタールと、セラミック粉末と、溶剤と、を含む積層セラミックコンデンサ用セラミックペースト。
【化1】

式(I)において、mは0または1であり、nは1〜3の整数である。R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、または置換されていてもよいアルキル基である。R1およびR2は、互いに結合していてもよい。
【請求項2】
前記有機ホウ素化合物が有する前記部分構造の数が、3以上6以下である請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ用セラミックペースト。
【請求項3】
前記式(I)におけるmが1であり、nが3である請求項1または2に記載の積層セラミックコンデンサ用セラミックペースト。
【請求項4】
前記有機ホウ素化合物が、以下の式(a−3)、(a−6)、(a−9)および(a−12)の各々に示される化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ用セラミックペースト。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【請求項5】
前記ポリビニルアセタールのアセタール化度が、50〜95モル%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサ用セラミックペースト。
【請求項6】
前記セラミックペーストが、前記ポリビニルアセタール100質量部に対して前記有機ホウ素化合物を0.1〜30質量部含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサ用セラミックペースト。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサ用セラミックペーストを塗工して得た積層セラミックコンデンサ用セラミックグリーンシート。

【公開番号】特開2013−45874(P2013−45874A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182417(P2011−182417)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】