説明

セルラーゼCel5H関連試薬及び微生物におけるそれらの使用

本発明は、組み換え微生物、より具体的には溶剤生産微生物、より具体的にはクロストリジウム・アセトブチリカムに関して、サッカロファガス・デグラダンスのセルラーゼCel5H及びその相同体、その機能的断片及び/又は変異体並びにその改変形態の適用に関する。本発明は、推定上のセルロース結合モジュール機能を有するCel5Hセルラーゼの新規のドメイン、及びセルロース含有基質の脱重合のためのキメラタンパク質におけるそのドメインの使用も特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオテクノロジー及び遺伝子工学の分野に関し、特に好適な酵素物質及びそれを発現する微生物を用いて、セルロース系材料及びリグノセルロース系材料を利用する戦略に関する。より具体的には、本発明は溶剤生産微生物に関して、サッカロファガス・デグラダンス(Saccharophagus degradans)のセルラーゼCel5H及びその相同体、機能的断片及び/又は変異体の適用に加えて、新規ドメイン、並びにCel5H及びその相同体に由来する試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系材料及びリグノセルロース系材料は植物バイオマスの主成分であり、その中に見られるセルロースポリマーは、グルコース又は他の発酵性単糖類及びオリゴ糖類(エタノール、アセトン又はブタノール等の有用な溶剤を産生する溶剤生産微生物によって代謝することができる)の重要な供給源をもたらすことができる。
【0003】
セルロースポリマーは、一般にセルロース分解性酵素又はセルラーゼとして知られるセルロース脱重合酵素によって加水分解することができる。例えば、天然セルロースの加水分解は主に以下の4つのセルラーゼ型が関与する:セロビオヒドロラーゼ(1,4−β−D−グルカンセロビオヒドロラーゼ、EC 3.2.1.91)、エンド−β−1,4−グルカナーゼ(エンド−1,4−β−D−グルカン4−グルカノヒドロラーゼ、EC 3.2.1.4)、エンド−プロセッシブセルラーゼ(EC 3.2.1.4./3.2.1.91)及びβ−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)。セルラーゼ及び関連酵素は、食品産業、ビール産業、ワイン産業、動物飼料産業、織物の生産及び洗浄産業、紙パルプ工業、農産業等を含む様々なバイオテクノロジーの領域で広く利用されている(概要については、非特許文献1を参照されたい)。
【0004】
セルラーゼは、その特性の点で異なる場合がある(例えば特に、エンドグルカナーゼとして働く場合も又はプロセッシブエキソグルカナーゼとして働く場合もあり、様々な長さのモノマー又はオリゴマーを生成することがあり、結晶性セルロース、半結晶性セルロース、非結晶性セルロース又はヘミセルロース等といった異なるセルロース形態を加水分解する点で対照的な能力を有することがあり、セルロース基質に対する異なる結合強度、異なる動態パラメータ等を示すことがある)。したがって、これらの酵素の興味深い特性を根底に持つ機能的部分又はそのドメインを同定するように、セルラーゼのさらなる特徴づけを大幅な努力をして行う必要がある。かかる機能的ドメインは、有利には、他のセルラーゼ又はそのドメインと組み合わせて所望の活性を有するキメラ酵素を生成することができる。
【0005】
さらに、溶剤生産微生物におけるセルラーゼの組み換え発現(直接セルロース含有材料からこれらの微生物によって、とりわけエタノールを含む有用な溶剤の産生を可能にすること)は、まだ満足に進歩していない。さらなる改善を達成するために、かかる適用に特に適切な又は有利なセルラーゼを、認知し特徴づけて選択する必要がある。
【0006】
ミクロビフルバー・デグラダンス(Microbifulber degradans)2−40株として従来より既知であり、アクセッション番号ATCC 43961下でアメリカンタイプカルチャーコレクションに寄託された、サッカロファガス・デグラダンス2−40株は、とりわけセルロースを含む少なくとも10の異なる複合多糖類を分解することができる海洋性γ−プロテオバクテリアである(非特許文献2、非特許文献3)。
【0007】
サッカロファガス・デグラダンスのゲノムは配列決定され、そのセルラーゼシステムは同定され、多くのものの中でもCel5Hと称されるセルラーゼを含む(非特許文献4)。さらに、特許文献1は、サッカロファガス・デグラダンスからのセルロース分解タンパク質を発現するエタノール生産細菌を含む組み換え微生物を一般的に企図する。しかしながら、サッカロファガス・デグラダンスによって発現された酵素の活性のみが実証されており、エタノール生産細菌において発現させた場合、これらの酵素のいずれかが適切に機能するかどうかは明らかではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0292929号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Bhat 2000. Biotechnical Advances 18: 355-383
【非特許文献2】Andrykovitch & Marx 1988. Appl Environ Microbiol 54: 3-4
【非特許文献3】Ensor et al. 1999. J IndMicrobiol Biotechnol 23: 123-126
【非特許文献4】Taylor et al. 2006. J Bacteriol 188: 3849-61
【発明の概要】
【0010】
本発明者は、サッカロファガス・デグラダンス2−40株のCel5Hセルラーゼの構造及び活性の広範囲な特徴づけを行い、Cel5Hが結晶性セルロースに対して上昇した活性を示すことを最終的に決定した。したがって、Cel5Hは、溶剤を産生する(溶剤生産)微生物における、より具体的にはクロストリジウム・アセトブチリカム(C. acetobutylicum)を含むクロストリジウム種のエタノール生産細菌等のエタノール生産微生物における異種生産のために有利である。したがって、これらの微生物におけるCel5Hの発現(及び任意で分泌)は、結晶性セルロース、半結晶性セルロース又は非結晶性セルロースを含んでいるか、又はそれについて濃縮されているセルロース基質上でのそれらの増殖を可能にし、それによってセルロース含有基質からのエタノール等の有用な溶剤の直接的な産生を可能にする。
【0011】
本発明者によって出されたさらなるデータから、Cel5Hは、そのグリコシドヒドロラーゼファミリー5(GH5)の触媒ドメインから期待されるように、エンドグルカナーゼではなく、エキソグルカナーゼ又はエンドプロセッシブセルラーゼとして作用する可能性が指摘された。さらに、Cel5Hは、セルロースから主としてグルコース、セロビオース及びセロトリオースを遊離すると考えられる。Cel5Hの一見したところプロセッシブな性質及び低複雑度のセルロース誘導体の生成を考慮すると、それによって、溶剤生産細菌におけるCel5Hの組み換え発現は非常に有利になり得る。例えば、Cel5H作用の産物は、溶剤生産微生物によって直接利用されるか、又はさらなる非相同セルラーゼ(複数可)による最小限の作用を必要とし、それによって、組み換え微生物の設計は単純化され、プロセスの有効性は増加する。
【0012】
本発明は、その様々な態様において、上述したことの意外な実現を組み込む。
【0013】
したがって、1つの態様は、サッカロファガス・デグラダンス2−40株のCel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体を発現する組み換え微生物を提供する。より具体的には、本発明は上記発現されたCel5Hポリペプチドによってセルロース又はセルロース含有材料を分解可能なこのような組み換え微生物を提供する。
【0014】
特定の実施の形態によれば、微生物は、細菌、より具体的には溶剤生産細菌である。
【0015】
特定の実施の形態では、組み換え微生物は、上記微生物中での発現を可能にする調節配列に操作可能に結合した、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体をコードする組み換えか、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体をコードする組み換え核酸分子を含む。
【0016】
さらなる特定の実施の形態では、組み換え微生物は、1つ又は複数の溶剤、燃料及び/又は化学中間体、より具体的にはエタノール、アセトン、ブタノール、プロピオン酸、酪酸、エーテル及びグリセリンから選択された溶剤を産生する。
【0017】
さらなる実施の形態では、組み換え溶剤生産微生物は、少なくとも又は主にエタノールを産生するものであっても、又は産生するように改変されていてもよい。エタノールの工業的重要性は、主に環境的に許容可能な燃料としてのその有用性のために急増している。
【0018】
したがって、一実施の形態では、組み換え溶剤生産微生物はエタノール生産微生物であり得る。
【0019】
特定の実施の形態では、組み換え微生物は細菌であり得る。一実施の形態では、組み換え溶剤生産細菌はエタノール生産細菌であり得る。代替的には、組み換え溶剤生産微生物は酵母、より具体的にはエタノール生産酵母であり得る。
【0020】
例えば、上記細菌は、グラム陽性細菌、例えば、クロストリジウム種の細菌等であり得る。したがって、本発明には、以前は提案されていなかった、グラム陰性細菌に由来するセルラーゼをグラム陽性細菌に導入することも含まれる。代替的には、上記細菌はグラム陰性細菌であり得る。
【0021】
特定の実施の形態では、組み換え溶剤生産微生物(好ましくはエタノール生産)微生物は、クロストリジウム種、好ましくはクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)である。これらの細菌は、溶剤(特にエタノール)を産生する細菌として秀でている。
【0022】
一実施の形態では、上記微生物によって、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体を分泌することができる。このように分泌されたポリペプチドは、有利なことには、微生物が曝露されるセルロースポリマーに対して直接作用することができ、それによってこのセルロースポリマーを脱重合するか、又はそうでなければ、このセルロースポリマーと相互作用若しくはこのセルロースポリマーを変化させることができる。しかしながら、ポリペプチドを細胞内で発現させる実施の形態も企図される。例えば、そのように発現されたポリペプチドは、そうでなければ微生物によって内面化されるセルロースポリマーに対して作用することができるか、又は少なくとも微生物のごく一部分の溶解に際して放出することができる。
【0023】
本明細書において意図される組み換え微生物は、分泌シグナル配列に操作可能に結合し、任意で1つ又は複数の追加モジュール(該微生物における分泌を可能にする)と組み合わせ、該微生物中での発現を可能にする調節配列に操作可能に結合した、Cel5Hポリペプチド若しくはそのホモログをコードする組み換えか、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体をコードする組み換え核酸分子を含むことができる。
【0024】
前述のように、本発明はCel5Hの相同体並びに該相同体の機能的断片及び/又は変異体、並びに組み換え微生物、より具体的には溶剤生産微生物におけるそれらの使用も教示する。好ましくは、本明細書において企図されるようなCel5H相同体は、Cel5HのDZドメインに相同なドメインを含むことができる。
【0025】
特定の実施の形態は本明細書において教示されるような組み換え微生物を提供し、そこではCel5Hポリペプチドの上記相同体がシュードモナス種ND137のACLAポリペプチドである。
【0026】
さらに、本発明者らによって実現されたように、天然のCel5Hポリペプチドのドメイン構造はGH5−PSL−CBM6−EPR−DZとして略述することができ、ここで、GH5はそのグリコシドヒドロラーゼファミリー5ドメインを、PSLはポリセリンリンカーを、CBM6は炭水化物結合モジュールファミリー6ドメインを、EPRはグルタミン酸−プロリンリッチ領域を表し(この解釈に限定されない)、DZは、推定上の炭水化物結合モジュールとして本発明者らによって同定されたC末端ドメインを表す。
【0027】
したがって、特定の実施の形態では、本明細書において教示されるような組み換え微生物は、Cel5HのGH5ドメイン、CBM6ドメイン及びDZドメインから選択されるか、又はそれらに対応する1つ又は複数のドメインを含む、機能的断片を発現することができる。断片中に1つ又は複数の上記ドメインが存在することによって、それぞれのドメインに起因する機能性が断片に与えられ得る。
【0028】
本発明は、さらに炭水化物ポリマー代謝、特にセルロース代謝において有用なさらなる機能及び活性(セルロース脱重合活性、セルロース結合活性、セルロソーム形成活性又は他の活性等)を与えることのできる1つ又は複数の非相同ドメインと融合した、Cel5Hポリペプチド、その相同体、断片及び/又は変異体の改変形態を企図する。したがって、特定の実施の形態は、組み換えCel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体が、Cel5Hポリペプチド又はその相同体に対して非相同の1つ又は複数のドメイン(グリコシドヒドロラーゼ(GH)触媒ドメイン、炭水化物結合モジュール(CBM)ドメイン、ドッケリンドメイン等のコヒーシン結合ドメイン、及びセルロソームのスキャフォルディンタンパク質の親水性(Xモジュール)ドメインから選択される)と誘導した、本明細書中で教示されるような組み換え溶剤生産微生物を提供する。付加的又は代替的には、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体が、非相同シグナルペプチド又はその天然シグナルペプチドと融合する。
【0029】
さらに、本発明によって、Cel5H又は関連ポリペプチドを、炭水化物ポリマー代謝、特にセルロース代謝において有用な他のポリペプチド又は酵素、好ましくは組み換えポリペプチド又は酵素、例えばセルロース脱重合ポリペプチド、セルロース結合ポリペプチド、セルロソーム形成ポリペプチド(例えばスキャフォルディン等)又は他のポリペプチドと共発現させることの利点も企図される。かかる共発現(及び任意で、具体的には共分泌)によって相加的又は相補的な活性及び機能を提供され、本発明の微生物によるセルロースの脱重合及び利用がより効率的となる。
【0030】
したがって、さらなる実施の形態は、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体を、1つ又は複数のポリペプチド(本明細書中で「共発現ポリペプチド」とも称される)、好ましくは炭水化物ポリマー代謝(特にセルロース代謝)に関与する組み換えポリペプチド、具体的にはリグノセルロース系材料を分解することが可能な1つ又は複数の酵素、より具体的には1つ又は複数のグリコシドヒドロラーゼ、さらにより具体的には1つ又は複数のセルラーゼと共発現し、任意で共分泌する、本明細書中で教示されるような組み換え微生物を提供する。
【0031】
特定の実施の形態では、上記1つ又は複数の共発現ポリペプチド、例えば共発現酵素、より具体的には共発現セルラーゼの触媒作用が、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体の酵素活性に相加的又は相補的、好ましくは相補的である。例としては限定するものではないが、第1及び第2のセルラーゼが異なる基質(例えば、結晶性セルロース、半結晶性セルロース、非結晶性セルロース又はヘミセルロース等)に選択的に作用するか、又は第1及び第2のセルラーゼが異なる産物(例えば糖モノマー及び/又はオリゴマーの異なる集団)を産生するか、又は第1のセルラーゼが第2のセルラーゼの反応産物に選択的に作用するか、若しくはその逆である等といった場合、第1のセルラーゼが第2のセルラーゼに対して相補的な活性を有するとみなされ得る。
【0032】
さらなる実施の形態では、1つ又は複数の共発現セルラーゼは、ファミリー5、6、8、9及び48セルラーゼから選択することができる。さらなる特定の実施の形態では、1つ又は複数の共発現セルラーゼは、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyticum)のセルラーゼのCel48F、Cel9G、Cel9R、Cel9P、Cel9E、Cel9H、Cel9J、Cel9M、Cel8C、Cel5N及びCel5A、並びにサッカロファガス・デグラダンス2−40株のセルラーゼCel9A、Cel9B、Cel5J、Cel5l、Cel5F、Cel5D、Cel5B、Cel9G、Cel5E、Cel5A、Cel5C及びCel6A、並びに上記セルラーゼのいずれか1つの機能的断片及び/又は変異体から選択され得る。
【0033】
さらなる実施の形態は、組み換え組み換えCel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体、並びに任意で1つ又は複数の共発現ポリペプチド、より具体的には上記で教示されるような1つ又は複数の共発現セルラーゼが、ハイブリッド及び/又は共有結合セルロソーム、又はミニセルロソーム(どちらも本明細書全体を通して「セルロソーム」総称表現に包含される)に含まれる、本明細書中で教示されるような組み換え微生物、より具体的には溶剤生産組み換え微生物を提供する。セルロソームは、特にセルロース結合活性及びセルロース脱重合活性の超分子構成をもたらすことができ、それにより炭水化物ポリマー代謝、特にセルロース代謝の効率の向上を達成する。
【0034】
さらなる態様において、本発明は、リグノセルロース系材料若しくはセルロース系材料又はバイオマス等のセルロースを含む物質を分解する方法であって、本明細書において教示されるような組み換え微生物と上記物質を接触させることを含む、方法を提供する。特定の実施の形態では、該物質は結晶性セルロースを含んでいるか又はそれについて濃縮されている。
【0035】
関連した態様は、リグノセルロース系材料若しくはセルロース系材料又はバイオマス等のセルロースを含む物質から溶剤、燃料又は化学中間体を生産する方法であって、本明細書において教示されるような1つ又は複数の微生物で上記物質を処理することを含む、方法を提供する。特定の実施の形態では、該物質は結晶性セルロースを含んでいるか又はそれについて濃縮されている。大部分の特定の実施の形態では、溶剤はエタノールであり、微生物はエタノール生産微生物である。
【0036】
特定の実施の形態では、本発明の方法は、本明細書において記載されるような組み換え微生物を、結晶性セルロース、半結晶性セルロース又は非結晶性セルロースを含んでいるか、又はそれについて濃縮されているセルロース基質上で組み換え増殖させることを含み、それによりセルロース含有基質からのエタノール等の有用な溶剤の直接産生が確実となる。
【0037】
上述の態様及び実施の形態は、主に組み換え微生物に関連して開示されているが、組み換え微生物を得るのに有用な組み換え手段及び試薬、かかる組み換え手段及び試薬を用いて組み換え微生物を得る方法、組み換え微生物において所望のポリペプチドを発現させる方法、並びに発現させたポリペプチド及びそれ自体の組み合わせ、及びそれを調製する方法に関する態様も本発明に包含されることも認識されよう。
【0038】
したがって、さらなる態様は、サッカロファガス・デグラダンス2−40株の単離Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体を提供する。別の態様は、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体をコードする組み換えか、又は上記Cel5H若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体をコードする組み換え核酸分子を提供する。
【0039】
本発明のこの態様のさらなる実施の形態は、対象となる宿主微生物中での発現を可能にする調節配列に操作可能に結合した、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体をコードする組み換えか、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体をコードする組み換え核酸分子を提供する。特定の実施の形態では、上記宿主は溶剤生産微生物である。さらに特定の実施の形態では、上記宿主はこの明細書の他の部分で教示されるようなエタノール生産微生物である。本明細書において提供される組み換え核酸分子の特定の実施の形態では、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体をコードするか、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体をコードする核酸配列は、宿主微生物のコドンバイアスに適合している。
【0040】
さらなる実施の形態は、対象となる宿主微生物における、特に組み換え微生物における、より具体的には溶剤生産微生物における、より好ましくは本明細書の他の部分で教示されるようなエタノール生産微生物における分泌を可能にする分泌シグナル配列に操作可能に結合した、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体をコードする組み換えか、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体をコードする組み換え核酸分子を提供する。
【0041】
さらなる実施の形態は、対象となる宿主微生物における分泌を可能にする分泌シグナル配列に操作可能に結合し、対象となる宿主微生物における、特に溶剤生産微生物における、より具体的には本明細書の他の部分で教示されるようなエタノール生産微生物中での発現を可能にする調節配列に操作可能に結合した、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体をコードする組み換えか、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体をコードする組み換え核酸分子を提供する。
【0042】
さらなる態様は、上記で開示されるような1つ又は複数の組み換え核酸を含む、例えば、クローニングベクター、シャトルベクター及び/又は発現ベクター等のベクターである。
【0043】
さらなる態様は、1つ又は複数の組み換え核酸又は上記されるようなベクターで形質転換した対象となる宿主微生物を提供する。一実施の形態では、微生物は、細菌、より具体的には大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ・ティムフィムリウム(Salmonella tymphimurium)、霊菌(Serratiamarcescens)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)及び枯草菌(Bacillussubtilis)から選択された細菌であり得る。かかる細菌は、例えば精製を目的とした組み換えポリペプチドの過剰産生に特に適切である。特定の実施の形態では、宿主微生物は溶剤生産微生物、好ましくは本明細書の他の部分で教示されるようなエタノール生産微生物である。さらなる態様は、そのように形質転換した微生物から直接得られるか、又は得ることが可能な細胞溶解物又は細胞抽出液を提供する。
【0044】
したがって、本発明による組み換え微生物、好ましくは溶剤生産微生物、より好ましくは本明細書の他の部分で教示されるようなエタノール生産微生物を得る方法であって、本明細書において教示されるような組み換え核酸又はベクターで宿主微生物を形質転換することを含む、方法も提供される。
【0045】
1つ又は複数のCel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体を産生させる(及び任意で、最も具体的にはを分泌させる)方法であって、本明細書において教示されるような1つ又は複数のそれぞれの組み換え核酸又はベクターで宿主微生物を形質転換すること、及びそれぞれのポリペプチドの発現を引き起こすのに効果的な条件下でそのように形質転換した微生物を培養又は維持することを含む、方法がさらに提供される。有利なことには、それぞれのポリペプチドは生物学的に活性のある形態で産生される。任意で、該方法はそれぞれのポリペプチドを単離する工程を含むことができる。
【0046】
したがって、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体の産生(及び任意で、具体的には分泌させる)に対する、本明細書において開示されるような組み換え核酸、ベクター、又は宿主細胞の使用も企図される。好ましくは、それぞれのポリペプチドは生物学的に活性のある形態で産生される。
【0047】
上述のポリペプチドの特定の実施の形態では、組み換え核酸、ベクター、形質転換した宿主微生物、方法及び使用法は、1つ又は複数の以下の特徴によって特徴づけられる。
Cel5H相同体はCel5HのDZドメインに相同なドメインを含む、及び/又は
Cel5H相同体はシュードモナス種ND137のACLAポリペプチドである、及び/又は
機能的断片は、Cel5HのGH5ドメイン、CBM6ドメイン及びDZドメインから選択されるか、又はそれらに対応する1つ又は複数のドメインを含む、及び/又は
1つ又は複数のCel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は1つ又は複数のCel5Hポリペプチド若しくは上記ホモログ相同体の機能的断片及び/若しくは変異体は、GH触媒ドメイン、CBMドメイン、ドッケリンドメイン等のコヒーシン結合ドメイン、及びセルロソームのスキャフォルディンタンパク質のXモジュールドメインから選択された、Cel5Hポリペプチド又はその相同体に対して非相同である1つ又は複数のドメインと融合する、及び/又は
1つ又は複数のCel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記1つ又は複数のCel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体は、炭水化物ポリマー代謝、特にセルロース代謝に関与する1つ又は複数のポリペプチド、好ましくは組み換えポリペプチド又は酵素、好ましくはリグノセルロース系材料を分解可能な1つ又は複数の酵素、より好ましくは本明細書において教示されるような1つ又は複数の非相同セルラーゼと共発現、及び任意で共分泌され得る、及び/又は
1つ又は複数のCel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体、並びに任意で1つ又は複数の共発現させたポリペプチド、より具体的には上で教示されるような共発現させたセルラーゼは、ハイブリッド及び/又は共有結合セルロソームに含まれる。
【0048】
したがって、1つの態様は、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は上記Cel5Hポリペプチド若しくは上記相同体の機能的断片及び/又は変異体を含み、炭水化物ポリマー代謝、特にセルロース代謝に関与する1つ又は複数のポリペプチド、好ましくはリグノセルロース系材料を分解可能な1つ又は複数の酵素、より好ましくは本明細書において教示されるような1つ又は複数の非相同セルラーゼをさらに含む単離組成物を提供する。上記組成物の特定の実施の形態では、列挙されたコンポーネントは、個別の又は遊離したポリペプチドとして存在する。他の実施の形態では、列挙されたポリペプチドは、ハイブリッド及び/又は共有結合セルロソームに含まれる。
【0049】
本発明者らは、Cel5Hポリペプチドの構造及び構成の徹底解析をさらに行い、Cel5HポリペプチドのC末端付近に、これまでにそれ自体は同定されていない新たなドメイン(以下で「ドメインDZ」と称される)の存在を同定した。限定されるものではないが、本発明者のデータから、DZドメインに対する推定上の炭水化物結合モジュール(及び/又はオリゴマー化モジュール機能)が示唆され、その存在が少なくとも部分的に、結晶性セルロースを脱重合するCel5Hの優れた能力に関与し得ることが示される。したがって、結晶性セルロースを消化及び分解する能力を改善するために様々な酵素系においてDZドメイン又はDZドメインを含むCel5Hポリペプチドの一部分を用いることができることは、本発明のさらなる実現例である。
【0050】
したがって、さらなる態様は、サッカロファガス・デグラダンス2−40株のCel5Hポリペプチドの単離ドメイン(上記Cel5Hポリペプチドのアミノ酸496〜アミノ酸596)(DZドメイン)(例えば、例示的に図1Cにおいて示される成熟Cel5Hポリペプチド配列番号3等)若しくはそれに相同な単離ドメイン、又は上記DZドメイン又は上記相同なドメインの機能的断片及び/若しくは変異体である。
【0051】
特定の実施の形態では、Cel5H DZに相同なドメインは、シュードモナス種ND137のACLAポリペプチドのアミノ酸463〜アミノ酸558のドメインストレッチである(例えば、例示的に図1Eにおいて示される成熟ACLAポリペプチド配列番号5等)。
【0052】
特定の実施の形態は、EPR−DZ、CBM6−EPR−DZ又はPSL−CBM6−EPR−DZ(ここでEPR、CBM6及びPSLは本明細書の他の部分で説明されるような意味を有する)という構造をを有するCel5Hポリペプチド又はその相同体若しくは変異体の単離断片を提供する。かかる断片は有利な機能を提供するDZドメインを含み、任意で、かかる断片は結晶性セルロース又はヘミセルロース基質を分解する能力をさらに刺激し得るCel5H炭水化物結合モジュールCBM6を含んでいてもよい。さらに、内在性リンカー配列は、他のポリペプチドにDZドメイン及び任意でCBM6ドメインを、これらのドメインの構造及び機能を保持しながら、融合させるための有利な手段を提供することができる。
【0053】
したがって、特定の実施の形態は、Cel5HのDZドメインに相同なドメインを含むACLAポリペプチドの単離断片を提供する。
【0054】
さらに、単離DZドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体、又は上で教示されるような単離断片の炭水化物結合モジュールとしての使用が企図される。かかる使用によって、様々な酵素系に対して新規の炭水化物結合特性又はセルロース結合特性が与えられ得る。
【0055】
別の態様は、最も具体的にはCel5Hの単離DZドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体を含むか、又はDZドメインを含むCel5Hの単離断片を含み、GH触媒ドメイン、CBMドメイン、ドッケリンドメイン等のコヒーシン結合ドメイン、及びセルロソームのスキャフォルディンタンパク質のXモジュールドメインから選択された、Cel5Hポリペプチド又はその相同体に対して非相同である1つ又は複数のドメインをさらに含むキメラポリペプチドに関する。かかるモジュールの組み合わせは、結晶性セルロース又はヘミセルロース基質に向けて有用な活性を有する新規のセルロース分解酵素の生成を可能にする。
【0056】
他の態様は、炭水化物ポリマー代謝、特にセルロース代謝に関与する1つ又は複数のポリペプチド、好ましくはリグノセルロース系材料を分解可能な1つ又は複数の酵素、より好ましくは1つ又は複数のグリコシドヒドロラーゼ、さらにより好ましくは1つ又は複数のセルラーゼ(このポリペプチド(複数可)はCel5Hポリペプチド又はその相同体に対して非相同である)に融合した、単離DZドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体、又はDZドメインを含むCel5Hの単離断片を含むキメラポリペプチドを提供する。しかしながら、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は本明細書において記載されるようなその断片及び/若しくは変異体との追加のDZドメイン(複数可)の融合も企図される。
【0057】
さらなる態様は、単離DZドメイン若しくはそれに相同な単離ドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体をコードする組み換えか、又はDZドメイン若しくはその相同体を含むCel5Hの単離断片をコードする組み換えか、又は上記されるようなキメラポリペプチドをコードする組み換え核酸分子を提供する。
【0058】
本態様の特定の実施の形態は、対象となる宿主微生物における、好ましくは溶剤生産微生物における、及びより好ましくは本明細書の他の部分で教示されるようなエタノール生産微生物中での発現を可能にする調節配列に操作可能に結合した、単離DZドメイン若しくはそれに相同な単離ドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体をコードする組み換えか、又はDZドメイン若しくはその相同体を含むCel5Hの単離断片をコードす組み換えか、又は上記されるようなキメラポリペプチドをコードする組み換え核酸分子を提供する。
【0059】
さらなる実施の形態は、対象となる宿主微生物における、好ましくは溶剤生産微生物における、より好ましくは本明細書の他の部分で教示されるようなエタノール生産微生物における分泌を可能にする分泌シグナル配列に操作可能に結合した、単離DZドメイン若しくはそれに相同な単離ドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体をコードする組み換えか、又はDZドメイン若しくはその相同体を含むCel5Hの単離断片をコードする組み換えか、又は上記されるようなキメラポリペプチドをコードする組み換え核酸分子を提供する。
【0060】
本態様のいっそうさらなる実施の形態は、対象となる宿主微生物における分泌を可能にする分泌シグナル配列に操作可能に結合し、対象となる宿主微生物における、好ましくは溶剤生産微生物における、より好ましくは本明細書の他の部分で教示されるようなエタノール生産微生物中での発現を可能にする調節配列に操作可能に結合した、単離DZドメイン若しくはそれに相同な単離ドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体をコードする組み換えか、又はDZドメインもしくその相同体を含むCel5Hの単離断片をコードする組み換えか、又は上記されるようなキメラポリペプチドをコードする組み換え核酸分子を提供する。
【0061】
さらなる態様は、上述の組み換え核酸分子のいずれかを含む、例えば、クローニングベクター、シャトルベクター及び/又は発現ベクター等のベクターを提供する。
【0062】
さらなる態様は、上記の組み換え核酸分子又はベクターで形質転換した対象となる宿主微生物を提供する。特定の実施の形態では、微生物は、細菌、より好ましくは大腸菌、サルモネラ・ティムフィムリウム、霊菌、ネズミチフス菌及び枯草菌から選択された細菌である。特定の実施の形態では、微生物は溶剤生産微生物、好ましくは本明細書の他の部分で教示されるようなエタノール生産微生物であり得る。さらなる態様は、そのように形質転換した微生物から直接得られるか又は得ることが可能な細胞溶解物又は細胞抽出液を提供する。
【0063】
特定の実施の形態では、単離DZドメイン若しくはそれに相同な単離ドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体、又はDZドメイン若しくはその相同体を含むCel5Hの単離断片、又は上記されるようなキメラポリペプチド、及び任意で炭水化物ポリマー代謝、特にセルロース代謝に関与する1つ又は複数の共発現ポリペプチドは、ハイブリッド及び/又は共有結合セルロソームに含まれ得る。
【0064】
さらなる態様において、本発明は、リグノセルロース系材料若しくはセルロース系材料又はバイオマス等のセルロースを含む物質を分解する方法であって、単離DZドメイン若しくはそれに相同な単離ドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体と、又はDZドメイン若しくはその相同体を含むCel5Hの単離断片と、又は上記されるようなキメラポリペプチドと、又はそれを発現する組み換え微生物と、上記物質を接触させることを含む、方法を提供する。一実施の形態では、該物質は結晶性セルロース又は半結晶性セルロース又は非結晶性セルロースを含んでいても、又はそれについて濃縮されていてもよい。
【0065】
関連した態様は、リグノセルロース系材料若しくはセルロース系材料又はバイオマス等のセルロースを含む物質から溶剤、燃料又は化学中間体を生産する方法であって、上記物質を単離DZドメイン若しくはそれに相同な単離ドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体により、又はDZドメイン若しくはその相同体を含むCel5Hの単離断片により、又は上記されるようなキメラポリペプチドにより、又はそれを発現する組み換え溶剤生産微生物で、処理することを含む、方法を提供する。一実施の形態では、該物質は結晶性セルロースを含んでいても、又はそれについて濃縮されていてもよい。特定の実施の形態では、溶剤、より具体的にはエタノールを生産する方法が提供され、微生物はエタノール生産微生物であり得る。
【0066】
さらなる態様は、本明細書において記載された方法によって得られるか又は得ることが可能なセルロース分解産物及び/又は溶剤、より具体的にはエタノールを含む組成物を提供する。かかる組成物は、粗製培養培地であり得るか、又はCel5Hポリペプチド(又はその相同体若しくは断片)の産物について(少なくとも)部分的に濃縮及び/又は精製され得るか、又は溶剤、燃料若しくは化学中間体について部分的に濃縮及び/又は精製され得る。特定の実施の形態では、かかる組成物は、グルコース及びセロビオース及びセロトリオース含有量の増加を特徴とする。さらなる特定の実施の形態では、グルコース、セロビオース及び/又はセロトリオースの含有量が、10wt%超、20wt%超、30wt%超、40wt%超、50wt%超、60wt%超、70wt%超、80wt%超、90wt%超、又はそれ以上であることを組成物が提供される。
【0067】
さらに特定の実施の形態では、かかる組成物は、対象となる溶剤、燃料又は化学中間体中の高含有量を特徴とする。さらに特定の実施の形態では、溶剤、燃料又は化学中間体の含有量が、10wt%超、20wt%超、30wt%超、40wt%超、50wt%超、60wt%超、70wt%超、80wt%超、90wt%超、95wt%超、又は96wt%〜99.9wt%である組成物が提供される。特定の実施の形態では、組成物中の溶剤、燃料又は化学中間体の濃度は、約10g/L超、好ましくは約15g/L超である。
【0068】
本発明のこれらの及び他の態様及び実施形態は、本明細書において以下に、及び添付された特許請求の範囲においてさらに説明され、加えて非限定的な実施例によって例証される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図I−1】図1Aを示す。例示的なコード領域の核酸配列を示した図である。
【図I−2】図1B,C,Dを示す。Bは、N末端分泌シグナル配列を含有するサッカロファガス・デグラダンス2−40株の天然のCel5Hポリペプチドの例示的なアミノ酸配列を示した図である。Cは、N末端分泌シグナル配列を含有しないサッカロファガス・デグラダンス2−40株の天然のCel5Hポリペプチドの例示的なアミノ酸配列を示した図である。Dは、N末端分泌シグナル配列を含有するシュードモナス種ND137の天然のACLAタンパク質の例示的なアミノ酸配列を示した図である。
【図I−3】図1E、Fを示す。Eは、N末端分泌シグナル配列を含有しないシュードモナス種ND137の天然のACLAタンパク質の例示的なアミノ酸配列を示した図である。Fは、クロストリジウム・アセトブチリカムのコドンバイアスに適合し、3’末端に6×Hisコドンを含有する、例示的な改変したCel5Hをコードする核酸配列を示した図である。
【図I−4】図1Gを示す。クロストリジウム・アセトブチリカムのコドンバイアスに適合し、C末端に6×Hisタグを含有する、例示的な改変したCel5Hアミノ酸配列を示した図である。
【図II】図2を示す。本発明の特定の実施形態による、発現のために改変した又は改変するCel5Hの様々な断片及び派生物を概略的に示した図である。Cwl5H-doc:Cel5H−ドッケリンCat.Module GH5:触媒モジュールGH5Legend:凡例Dockerin module from clostridia:クロストリジウムからのドッケリンモジュールFamily 3a CBM from clostridial scaffoldin:クロストリジウムのスキャフォルディンからのファミリー3a CBMHis tag:HisタグX module of the scaffoldin CipA from C.acetobutylicum:クロストリジウム・アセトブチリカムからのスキャフォルディンCipAのXモジュール
【図III】図3と4を示す。図3は、本発明の特定の実施形態による、CMCに対するCel5Hの様々な形態の37℃での活性を示した図である。図4は、本発明の特定の実施形態による、リン酸膨潤セルロースに対するCel5Hの様々な形態の37℃での活性を示した図である。図3縦軸:放出された還元糖(μM)横軸:時刻(分)図4縦軸:放出された可溶性糖(μM)横軸:時刻(分)
【図IV】図5と6を示す。図5は、本発明の特定の実施形態による、Avicel PH101に対するCel5Hの様々な形態の37℃での活性を示した図である。図6は、本発明の特定の実施形態による、Cel5Hアビセラーゼ活性の比較をクロストリジウム・セルロリティカムからの野生型セルラーゼ及び改変セルラーゼで例証した図である。図5縦軸:放出された可溶性糖(μM)横軸:時刻(分)図6縦軸:37℃でのインキュベーションの24時間後に放出された可溶性糖(μM)covalent cellulosome:共有結合セルロソーム
【図V】図7と8を示す。図7は、本発明の特定の実施形態による、Cel5Hの追加ドメインを含むクロストリジウム・セルロリティカムからのCel5Aの改変形態を示した概略図である。凡例については図2を参照。図8は、本発明の特定の実施形態による、Cel5Hの追加ドメインを含むクロストリジウム・セルロリティカムからのCel5Aの異なる改変形態によるAvicel(20mMトリス−マレイン酸塩pH6及び1mM CaClで3.5g/L)の分解を示した図である。凡例については図2を参照。図7Cat.Module GH5:触媒モジュールGH5dockerine:ドッケリン図8縦軸:遊離された可溶性糖(μM)横軸:時刻(時間)
【図VI】図9と10を示す。図9は、本発明の特定の実施形態による、Cel5H及び少なくとも1つの他のセルラーゼ酵素によるAvicelの分解を示した図である。図10は、本発明の特定の実施形態による、Cel5Hを含むハイブリッドミニセルロソームを示した概略図である。図9縦軸:Avicel分解の24時間後に遊離された糖(μM)theo:理論値mesure:測定値図10Cel5H-doc:Cel5H−ドッケリンCatalytic module:触媒モジュールdockerin:ドッケリンcohesin:コヒーシンHybrid scaffoldin:ハイブリッドスキャフォルディン
【図VII】図11と12を示す。図11は、本発明の特定の実施形態による、3g/Lの2YT−PASC(pH5.5)を含む発酵槽中のクロストリジウム・アセトブチリカムの、PASCの分解、残存セロビオースの完了状態、及び細菌増殖を示した図である。クロストリジウム・アセトブチリカムのCel5Hシグナルペプチド配列はクロストリジウム・セルロリティカムのCel5Hシグナルペプチド配列によって置換された。図12は、本発明の特定の実施形態による、pH5.5の2YT(ただし、いかなるPASCも含有しない)の存在する発酵槽中の残存するセロビオースの完了状態、及びクロストリジウム・アセトブチリカムの細菌増殖を示した図である。クロストリジウム・アセトブチリカムのCel5Hシグナルペプチド配列はクロストリジウム・セルロリティカムのCel5Hシグナルペプチド配列によって置換された。図11縦軸:残存する糖(g/L)Celleobiose:セロビオースOD equivalent:OD相当横軸:時刻(時間) 図12縦軸:残存する糖(g/L)Celleobiose:セロビオースOD equivalent:OD相当横軸:時刻(時間)
【図VIII】図13を示す。図13は、本発明の特定の実施形態による異なる構築物の概略図である。構築物は、キャリアードメイン及びシグナル配列に融合した対象となるポリペプチド(セルラーゼ「Cel5H」)を含む。キャリアードメインは、1つ又は2つのXモジュール(Xa)に融合した、セルロソームのスキャフォールドタンパク質からの炭水化物結合モジュール(CBM3a)を含む。セルラーゼCel5Hは、グリコシドヒドロラーゼファミリー5ドメイン(「5」)、ポリセリンリンカー(「sss」)、炭水化物結合モジュールファミリー6ドメイン(「6」)、グルタミン酸−プロリンリッチ領域(「eppv」)、及び推定上の炭水化物結合モジュールとして本発明者によって同定されたC末端ドメイン(「DZ」)を含む。Cel5H Wild-type:Cel5H野生型
【図IX】図14は、対照株と比較した、野生型Cel5H及びキャリアードメインに融合したCel5Hの分泌を示した図である。キャリアードメインは、2つの親水性ドメイン(Xa)に融合した、セルロソームのスキャフォールドタンパク質からの炭水化物結合モジュール(CBM3a)を包含する。培養上清の活性を可溶性基質パラ−ニトロフェニル−セロビオースに対して測定した。縦軸:加水分解されたpNP−セロビオース(μmol/L)横軸:時刻(秒)Cel5H Wild-type:Cel5H野生型Control strain:対照株
【図X】図15aを示す。異なるセルロース基質に対する、本発明の特定の実施形態による融合タンパク質を含む異なるタンパク質の活性を示した図である。可溶性基質パラ−ニトロフェニル−セロビオースに対するCel5Hを含むタンパク質の活性である。野生型Cel5H(実線)、1つのXモジュールと融合したタンパク質(CBM−Xa−5H;点線)、2つのXモジュールと融合したタンパク質(CBM−Xa−Xa−5H、破線)である。縦軸:加水分解されたpNP−セロビオース(μmol/L)横軸:時刻(秒)Cel5H Wild-type:Cel5H野生型
【図XI】図15bを示す。異なるセルロース基質に対する、本発明の特定の実施形態による融合タンパク質を含む異なるタンパク質の活性を示した図である。結晶性セルロースAvicelに対する、cel5Hを含むタンパク質の活性である。線)である。縦軸:放出された可溶性糖(μM)横軸:時刻(時間)Cel5H Wild-type:Cel5H野生型
【図XII】図16を示す。本発明の特定の実施形態による、Cel5H及びACLAのドメインの比較を示した概略図である。S.degradans:サッカロファガス・デグラダンスP.sp ND137:シュードモナス種ND137
【発明を実施するための形態】
【0070】
本明細書において使用される時、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈上明らかに他の指示がない限り、単数及び複数の指示対象の両方を含む。
【0071】
「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「から構成される(comprised of)」という用語は、本明細書中で使用される場合、「含む(including)」、「含む(includes)」又は「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的又はオープンエンドであり、追加の列挙されなかった成員、エレメント又は方法工程を除外しない。
【0072】
端点による数値範囲の列挙は、列挙された端点に加えて、それぞれの範囲内に含まれる全ての数及び端数を含む。
【0073】
本明細書において使用される「約」という用語は、パラメータ、量、期間等といった測定可能な値を指す場合、所定値の及びその所定値から、±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらにより好ましくは±0.1%以下の変動を包含することを、かかる変動が開示された発明の実行に適切である限りにおいて意味する。修飾語「約」が表す値自体も、具体的かつ好適に開示されることが理解される。
【0074】
本明細書に引用された全ての文献は、それら全体が参照により本明細書に援用される。
【0075】
特別に定義されない限り、専門用語及び科学用語を含む本発明の開示に使用される全ての用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術を有する者(当業者)によって一般に理解される意味を有する。さらなる指針によって、用語の定義は、本発明の教示をさらに認識するために含まれる。
【0076】
本明細書中で使用される場合、「Cel5H」、「Cel5Hポリペプチド」又は「Cel5Hタンパク質」という用語は、当該技術分野におけるこれらの名称の下で一般に知られるサッカロファガス・デグラダンス2−40株のポリペプチド又はタンパク質を表す(特に非特許文献4を参照)。上述の名称は特に、天然の配列を有するかかるポリペプチド(すなわち、一次配列が、サッカロファガス・デグラダンス2−40株のCel5Hタンパク質の天然に見出される又は天然に由来する一次配列と同じポリペプチド)を指す。当業者は、遺伝的多様性又は自然突然変異(複数可)に起因して、サッカロファガス・デグラダンス2−40株の異なる亜株又は継代培養株の間でCel5Hの天然の配列が異なるかもしれないことを理解する。Cel5Hの天然の配列は、転写後修飾又は翻訳後修飾に起因してさらに多様性を有し得る。したがって、天然に見出されるか又は天然に由来する全てのCel5H配列は、「天然」と判断される。
【0077】
上述の名称は、生物体、微生物又は細胞の一部を形成する場合の、加えてかかる源から少なくとも部分的に単離された場合のCel5Hポリペプチドを包含する。この用語は、組み換え手段又は合成手段によって産生された場合のCel5Hポリペプチドも包含する。
【0078】
Cel5Hポリペプチドは通常分泌性であり、切断可能なN末端分泌シグナル配列を含む前駆体形態で、又は上記シグナル配列を欠損する成熟形態で存在することができる。当業者によって容易に理解される文脈に応じて、Cel5Hポリペプチドに対する本明細書における参照は、上記成熟形態及び/又は上記前駆体形態を包含することができる。
【0079】
例示的なCel5Hポリペプチドは、NCBI Entrez Geneデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=gene)遺伝子座タグSde_3237(遺伝子番号3965710)の下で、及びNCBI Genbank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/index.html)アクセッション番号NC007912(配列バージョン1、データベースエントリーは2008年7月20日にアップデート)の下で、注釈され、図1Aにおいても転載されるような核酸コード配列(配列番号1)によってコードされたポリペプチド;並びにNCBI Genbankアクセッション番号YP528706(配列バージョン1、データベースエントリーは2008年7月20日にアップデート)及びUniprot/Swissprot(http://www.expasy.org/)アクセッション番号Q21FN5(配列バージョン1は2006年4月18日に登録)の下で注釈され、図1Bにおいて典型的に転載されるようなCel5Hポリペプチド(配列番号2)を含むが、これらに限定されない。
【0080】
この配列はシグナル配列を含むCel5H前駆体に対応する。図1Cにおいて典型的に転載されるように(配列番号3)、例示的な成熟Cel5Hポリペプチド(すなわち、シグナル配列がプロセシングされて除かれた)は、上記前駆体配列のアミノ酸の位置35〜630によって表される。
【0081】
図1Bにおいて示されるような前駆体Cel5Hのアミノ酸34と35との間の予測される切断部位近傍のペプチド結合で、シグナルペプチターゼによる実際の切断が潜在的に起こり得ることが理解されるであろう。例えば、実際の切断は、図1Bにおいて示されるような前駆体Cel5Hの位置30〜40、好ましくは31〜39、より好ましくは32〜38、なおより好ましくは32〜37、さらにより好ましくは33〜36のアミノ酸領域内のペプチド結合のいずれかで起こり得る。
【0082】
さらに、明らかに又は文脈による特別の指示のない限り、本明細書においてCel5Hのドメイン又は他のモチーフがアミノ酸位置に対する言及によって同定される場合は常に、かかる言及は、特に配列番号3において示されるもの等のCel5Hの成熟形態に対するものである。
【0083】
本明細書において使用される時、「相同性」という用語は、同じ分類群又は異なる分類群からの、2つのマクロ分子間の、特に2つのポリペプチド又はポリヌクレオチド間の構造類似性(該類似性は共通祖先に起因する)を意味する。したがって、「相同体」という用語は、上記構造類似性を有する非常に関連したマクロ分子を意味する。好ましくは、本明細書において意図されるCel5Hポリペプチドの相同体は、天然の配列を有する上記相同体を包含する。
【0084】
Cel5Hポリペプチドのポリペプチド相同体は、本明細書の他の部分でCel5Hポリペプチドに対して定義したように、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも40%、なおより好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、いっそうより好ましくは少なくとも70%、例えば非常に好ましくは少なくとも80%若しくは少なくとも90%、又は少なくとも95%の配列同一性を示し得る。代替的に又は付加的に好ましくは、Cel5Hポリペプチドのポリペプチド相同体は、本明細書の他の部分でCel5Hポリペプチドに対して定義したように、少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも60%、なおより好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、いっそうより好ましくは少なくとも90%、例えば非常に好ましくは少なくとも95%の配列類似性を示し得る。さらに好ましくは、Cel5Hポリペプチドのポリペプチド相同体は、Cel5Hポリペプチドのドメインに対応する1つ又は複数の機能的ドメイン、並びに好ましくは1つ又は複数のGHファミリー5触媒ドメイン、CBMファミリー6ドメイン及びDZドメインを含むことができる。好ましくは、上記ドメインは、通常はリンカーを介して、Cel5Hに類似の構成、特にGH5−CBM6−DZを有することができる。
【0085】
前述のように、Cel5Hポリペプチドの好ましい相同体はシュードモナス種ND137のACLAポリペプチドである。例示的なACLAポリペプチドは、Uniprot/Swissprotアクセッション番号Q8VUT3(配列バージョン1は2002年3月1日に登録)の下で注釈され、図1Dにおいても転載されるような配列(配列番号4)を含むが、これに限定されない。この配列はシグナル配列を含むACLA前駆体に対応する。図1Eにおいて例示として転載されるように(配列番号5)、例示的な成熟ACLAポリペプチド(すなわち、シグナル配列がプロセシングされて除かれた)は、それぞれの前駆体のアミノ酸の位置28〜585によって表される。
【0086】
図1D(配列番号4)において示されるような前駆体ACLAのアミノ酸27と28との間の予測される切断部位近傍のペプチド結合で、シグナルペプチターゼによる実際の切断が潜在的に起こり得ることが理解されるであろう。例えば、実際の切断は、図1Dにおいて示されるような前駆体ACLAの位置23〜32、好ましくは24〜31、より好ましくは25〜30、なおより好ましくは26〜29のアミノ酸領域内のペプチド結合のいずれかで起こり得る。
【0087】
当業者によって容易に理解される文脈に応じて、ACLAポリペプチドに対する本明細書における言及は、上記成熟形態及び/又は上記前駆体形態を包含することができる。さらに、明らかに又は文脈による特別の指示のない限り、本明細書においてACLAのドメイン又は他のモチーフがアミノ酸位置に対する言及によって同定される場合は常に、かかる言及は、特に配列番号5において示されるもの等のACLAの成熟形態に対するものである。
【0088】
Cel5H若しくはその相同体等の既定のポリペプチドに関して、又はCel5H若しくはその相同体のDZドメイン等の既定のドメインに関して、「断片」という用語は、上記Cel5H若しくは相同体又は上記ドメイン等の上記ポリペプチドと比較して、1つ又は複数のアミノ酸残基のN末端欠失及び/又はC末端欠失を有するが、残存する断片の一次配列が上記Cel5H若しくは相同体又は上記ドメイン等の上記ポリペプチドのアミノ酸配列中の対応する位置に同一である、上記ポリペプチドの短縮形態を一般的に指す。
【0089】
例えば、Cel5H又はその相同体等の既定のポリペプチドの断片は、上記Cel5H又は相同体等の上記ポリペプチドの約5以上の連続するアミノ酸、好ましくは10以上の連続するアミノ酸、より好ましくは20以上の連続するアミノ酸、なおより好ましくは30以上の連続するアミノ酸、例えば、40以上の連続するアミノ酸、及び最も好ましくは50以上の連続するアミノ酸、例えば、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上、200以上、又は500以上の連続するアミノ酸の配列を含むことができる。
【0090】
例えば、Cel5H又はその相同体のDZドメインの断片は、上記DZドメイン又はその相同体の約5以上の連続するアミノ酸、好ましくは10以上の連続するアミノ酸、より好ましくは20以上の連続するアミノ酸、なおより好ましくは30以上の連続するアミノ酸、例えば40以上の連続するアミノ酸、及び最も好ましくは50以上の連続するアミノ酸、例えば、60以上、70以上、80以上、又は90以上の連続するアミノ酸の配列を含むことができる。
【0091】
さらに、Cel5H若しくはその相同体又はDZドメイン等の既定のポリペプチドの断片は、上記Cel5H若しくは相同体又はDZドメイン等の上記ポリペプチドのアミノ酸配列の、少なくとも約30%、例えば、少なくとも50%若しくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、及びいっそうより好ましくは少なくとも95%又はさらには約99%を表すことができる。
【0092】
Cel5H若しくはその相同体等の既定のポリペプチド、又はDZドメインの「変異体」という用語は、上記Cel5H若しくはその相同体又はDZドメイン等の上記ポリペプチドの天然の配列に対して、そのアミノ酸配列が実質的に同一である(すなわち、大部分は同一であるが完全に同一ではない)ポリペプチドを指す。「実質的に同一の」は、少なくとも約85%同一、例えば、好ましくは少なくとも90%同一、例えば、少なくとも91%同一、92%同一、より好ましくは少なくとも93%同一、例えば、94%同一、なおより好ましくは少なくとも95%同一、例えば、少なくとも96%同一、いっそうより好ましくは少なくとも97%同一、例えば、少なくとも98%同一、及び最も好ましくは少なくとも99%同一であることを指す。
【0093】
2つのポリペプチド間の配列同一性は、ポリペプチドのアミノ酸配列を至適にアライメントさせること(2つのタンパク質配列の至適アライメントは、導入したギャップについての任意のペナルティをより少なくしてペア−スコアの合計を最大限にするアライメントであり、好ましくはNeedleman and Wunsch 1970 (J Mol Biol 48: 443-453)のアルゴリズムを使用する「Gap」、又は、例えば、Accelrys社からのGCG(商標)v.11.1.2パッケージにおいて利用可能なものとして、Smith and Waterman 1981 (J Mol Biol 147: 195-197)のアルゴリズムを使用する「Bestfit」等のアルゴリズムのコンピューター化した実装によって行うことができる)、並びに一方ではポリペプチドが同じアミノ酸残基を含有するアライメント中の位置の数及び他方では2つのポリペプチドの配列が異なるアライメント中の位置の数をスコアリングすることによって決定することができる。ポリペプチドがその位置で異なるアミノ酸残基を含有する場合(アミノ酸置換)、又はポリペプチドの1つはその位置でアミノ酸残基を含有するが他のポリペプチドはそこでアミノ酸残基を含有しないか、若しくはその逆の場合(アミノ酸の挿入又は欠失)、2つのポリペプチドはアライメント中の既定の位置でそれらの配列が異なる。配列同一性は、アライメント中の位置の総数に対するポリペプチドが同じアミノ酸残基を含有するアライメント中の位置の比率(パーセンテージ)として計算される。配列アライメントを行うため及び配列同一性の決定のためにさらに適切なアルゴリズムは、Tatusova and Madden 1999 (FEMS Microbiol Lett 174: 247-250)によって記載された「Blast 2配列」アルゴリズム(そのデフォルト設定を使用するような)等の、Altschul et al. 1990 (J Mol Biol 215: 403-10)によって初めに記載されたベーシックローカルアライメントサーチツール(BLAST)に基づくものを含む。
【0094】
Cel5H若しくはその相同体又はDZドメイン等の既定のポリペプチドの変異体は、本明細書において使用される場合、上記Cel5H若しくはその相同体又はDZドメイン等の上記ポリペプチドに対する一定の程度の類似性を有するポリペプチドも特異的に包含する。好ましくは、かかる変異体は少なくとも約90%類似、例えば、好ましくは少なくとも91%類似、例えば、少なくとも92%類似、93%類似、より好ましくは少なくとも94%類似、例えば、95%類似、なおより好ましくは少なくとも96%類似、例えば、少なくとも97%類似、いっそうより好ましくは少なくとも98%類似、例えば、少なくとも99%類似し得る。
【0095】
2つのポリペプチド間の配列類似性は、ポリペプチドのアミノ酸配列を至適にアライメントさせること(上を参照)、並びに一方ではポリペプチドが同じか又は類似した(すなわち、保存的に置換された)アミノ酸残基を含有するアライメント中の位置の数、及び他方ではそうでなければ2つのポリペプチドの配列が異なるアライメント中の位置の数をスコアリングすることによって決定することができる。そうでなければ、ポリペプチドがその位置で非保存的アミノ酸残基を含有する場合、又はポリペプチドの1つはその位置でアミノ酸残基を含有するが、他のポリペプチドはそこでアミノ酸残基を含有しないか、若しくはその逆の場合(アミノ酸の挿入又は欠失)、2つのポリペプチドはアライメント中の既定の位置でそれらの配列が異なる。配列類似性は、アライメント中の位置の総数に対するポリペプチドが同じか又は類似したアミノ酸残基を含有するアライメント中の位置の比率(パーセンテージ)として計算される。
【0096】
断片及び/又は変異体に対する参照の下では、本明細書は、Cel5H若しくはその相同体又はDZドメイン等の既定のポリペプチドの変異体の断片、かかるポリペプチドの断片の変異体も広範囲に企図することが理解されるだろう。
【0097】
Cel5H若しくはその相同体又はDZドメイン等の既定のポリペプチドの断片及び/又は変異体に関して、「機能的である」という用語は、かかる断片及び変異体が、少なくとも部分的に上記Cel5H若しくはその相同体又はDZドメイン等の対応するポリペプチドの生物学的な活性又は機能性を保持することを意味する。好ましくは、かかる機能的断片及び/又は変異体は、上記Cel5H若しくはその相同体又はDZドメイン等の対応するポリペプチドの活性の、少なくとも約20%、例えば、少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、例えば、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、例えば、少なくとも80%、いっそうより好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、及び最も好ましくは少なくとも95%又はさらには100%保持することができる。潜在的に、かかる機能的断片及び/又は変異体は、上記Cel5H若しくは相同体又はDZドメイン等の対応するポリペプチドより高い活性でさえも有することができる。
【0098】
Cel5H若しくはその相同体又はDZドメイン等の既定のポリペプチドの機能的断片及び/又は変異体は、その生物学的な活性又は機能のうちの少なくとも1つ及び好ましくはより多くの又は全ての態様において、上記ポリペプチドに機能的に同等であってもよい。上記Cel5H又はその相同体の生物学的機能に関連する態様は、セルロース脱重合活性又はセルラーゼ活性、異なるセルロース基質(例えば、結晶性セルロース、半結晶性セルロース若しくは非結晶性セルロース、又はヘミセルロース)に関する活性プロファイル、結晶性セルロース基質を分解する能力又は優先性、及びセルロース基質に相互作用又は結合する能力を特に含むが、これらに限定されない。Cel5H又はその相同体の上記DZドメインの生物学的機能の関連態様は、セルロース結合活性、並びに特に結晶性セルロース結合活性及び/又はオリゴマー化活性を特に含むが、これらに限定されない。かかる活性の上述の態様を含む、Cel5Hの既定の断片及び/若しくは変異体又はその相同体の既定の断片及び/若しくは変異体又はDZドメインの既定の断片及び/若しくは変異体の生物学的活性は、例えば、実施例セクションにおいて示される酵素活性試験等の標準試験によって決定することができる。
【0099】
「溶剤生産」又は「溶剤を産生する」という用語は、当該技術分野で確立された意味を有しており、例えば、ヘキソース、ペントース又はオリゴ糖類等の炭水化物源から、とりわけエタノール、アセトン、ブタノール、プロピオン酸、酪酸、エーテル又はグリセリン等の1つ又は複数の非ガスの有機液体又は溶剤を産生する細菌(すなわち溶剤生産細菌)等の微生物の能力を特に意味する。特に、この用語は、天然に存在する溶剤生産生物、天然に存在する変異又は誘導された変異を有する溶剤生産生物、及び遺伝的に修飾された溶剤生産生物を包含する。
【0100】
「エタノール生産」又は「エタノールを産生する」という用語は、例えば、ヘキソース、ペントース又はオリゴ糖類等の炭水化物源から、少なくとも又は好ましくは主としてエタノールを産生する、好ましくは炭水化物から最も多量にある非ガスの発酵産物としてエタノールを産生する細菌(すなわちエタノール生産細菌)等の微生物の能力を意味することが意図される。特に、この用語は、天然に存在するエタノール生産生物、天然に存在する変異又は誘導された変異を有するエタノール生産生物、及び遺伝的に修飾されたエタノール生産生物を包含する。適切な溶剤生産微生物の例は、本明細書において例示されたもの等であるがこれらに限定されないクロストリジウム属及びザイモモナス属の株を含むが、これらに限定されない。
【0101】
特定のコンポーネントに関して、「単離すること」という用語は、そのコンポーネントを組成物の少なくとも1つの他のコンポーネントから分離し、それによって他のコンポーネントから前者のコンポーネントが「単離される」ことを一般的に意味する。特に、「単離すること」及び「単離される」という用語は、本明細書において試料中の所望のタンパク質(複数可)又はポリペプチド(複数可)の量の増加を指すことができる。相対量は、単離される所望のタンパク質(複数可)又はポリペプチド(複数可)の濃度又は量と試料中の全タンパク質の濃度又は量との比として表現することができる。加えて、この用語は、非タンパク質の細胞性のコンポーネント(例えば、細胞壁、脂質及び核酸等)から所望のタンパク質(複数可)又はポリペプチド(複数可)を分離することを包含することができる。
【0102】
本明細書において使用される場合、「組み換え核酸」又は「組み換え核酸分子」という用語は、例えば、分子クローニング及び核酸増幅等の組み換えDNA技術を使用して、生成されたセグメント及び/又はともに連結されたセグメントを含む核酸分子(例えば、DNA、cDNA又はRNA分子等)を一般的に指す。通常、組み換え核酸分子は、1つ又は複数の天然に存在しない配列を含むことができる、及び/又は修飾されていない供給源のゲノムにおいて位置するように位置していない天然に存在する配列に対応するセグメントを含むことができる。組み換え核酸分子が導入された宿主生物において複製する場合、子孫の核酸分子(複数可)も「組み換え核酸分子」という用語の内に包含される。
【0103】
特定の実施形態では、組み換え核酸分子は安定的に宿主生物のゲノムの中へ組込むことができる(例えば1つ又は複数のランダムな位置等で組込まれるか、又は例えば相同組み換えを用いた標的化様式等で組込まれる)か、又は組み換え核酸分子は染色体外エレメントとして存在するか若しくは染色体外エレメント内に含めることができ、後者の場合は自己複製することができる。
【0104】
組み換えDNA技術の一般原則を説明する標準的な参考資料は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、1〜3巻、Sambrook el al.編、Cold Spring HarborLaboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989;CurrentProtocols in Molecular Biology、Ausubel et al.編、Greene Publishing and Wiley-Interscience, New York, 1992(定期的な改訂あり);Innis et al., PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications、Academic Press: San Diego, 1990を含む。微生物学の一般原則は、例えば、Davis, B. D. et al., Microbiology、第3版、Harper& Row, publishers、Philadelphia, Pa(1980)中で説明される。
【0105】
本明細書中で使用される場合、「組み換えポリペプチド」という用語は、組み換え核酸分子の発現を介して宿主生物によって産生されたポリペプチド又はタンパク質を指し、組み換え核酸分子は上記宿主生物又はその祖先の中へ導入されており、上記ポリペプチド又はタンパク質をコードする配列を含む。
【0106】
さらに、宿主生物、微生物又は細胞に関連する「組み換え」又は「形質転換した」という用語は、本明細書中で使用される場合、組み換え核酸分子を導入したかかる宿主生物、微生物又は細胞、及びかかる宿主生物、微生物又は細胞の組み換え子孫を包含する。
【0107】
したがって、「形質転換」という用語は、宿主生物、微生物又は細胞への組み換え核酸等の外来核酸の導入又は移入を包含する。そのように導入した核酸は、好ましくは上記宿主生物、微生物又は細胞のさらなる増殖及び細胞分裂を通じて維持することができる。エレクトロポレーション、エレクトロパーミエーション、化学的形質転換、リポフェクション、ウイルス又はバクテリオファージ媒介性トランスフェクション等の(これらに限定されない)任意の従来の遺伝子移入方法を使用して、形質転換を達成することができる。
【0108】
「コードする」とは、核酸配列又はその一部分(複数可)が、当該生物の遺伝子コードに基づいて、特定のアミノ酸配列、例えば、所望のポリペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列に対応することを意味する。例としては、特定のポリペプチド又はタンパク質を「コードする」核酸は、ゲノム核酸、hnRNA、pre−mRNA、mRNA、cDNA、組み換え核酸又は合成核酸を包含し得る。
【0109】
好ましくは、特定のポリペプチド又はタンパク質をコードする核酸は、上記ポリペプチド又はタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含み得る。「オープンリーディングフレーム」すなわち「ORF」とは、翻訳開始コドンから開始して、それ自体既知の翻訳終止コドンで終了し、いかなる内部インフレーム翻訳終止コドンも含有せず、潜在的にポリペプチドをコードすることが可能な一連のコードヌクレオチドトリプレット(コドン)を指す。したがって、この用語は当該技術分野で使用される「コード配列」と同義であり得る。
【0110】
一実施形態では、本発明のポリペプチド(複数可)をコードする核酸配列又はORFは、対象となる特定の生物、例えば微生物、より具体的には細菌中での発現についてそれ自体が既知であるように最適化されたコドンであり得る。様々な生物からのコドン使用バイアス及びコドン頻度が、例えばNakamura et al. 2000 (Nucl Acids Res 28: 292)によって記載されるコドン使用データベース(http://www.kazusa.or.jp/codon/)を介して利用可能である。
【0111】
本明細書中で教示されるような組み換え微生物中での対象となるポリペプチドの発現は、上記ポリペプチドをコードする核酸配列又はORF(複数可)を、上記微生物中での発現を可能とする調節配列と操作可能に結合することによって達成することができる。これに関し、組み換え生物に言及する場合のポリペプチドを「発現する」という用語は、例えば好適な培養条件下で、又は(例えば誘導性の調節配列を使用する場合)誘導因子の添加によってポリペプチドを発現することが可能な組み換え生物を包含する。
【0112】
「操作可能な結合」とは、調節核酸配列と発現させることが求められる配列とが上記発現が可能となるように結合した結合である。例えば、配列、例えばプロモーター及びORF等は、上記配列間の結合の性質が、(1)フレームシフト突然変異の導入を引き起こさない、(2)ORFの転写を指示するプロモーターの能力を妨げない、(3)プロモーター配列から転写されるORFの能力を妨げない場合に操作可能に結合すると言うことができる。
【0113】
発現に必要とされる調節配列又は調節要素の正確な性質は生物間で異なり得るが、典型的にはプロモーター及び転写ターミネーター、任意でエンハンサーを含むことができる。
【0114】
「プロモーター」又は「エンハンサー」への言及は、その最も広い文脈で解釈され、正確な転写開始、並びに適用可能な場合、遺伝子発現の正確な空間的及び/又は時間的制御、又は例えば内的若しくは外的(例えば、外因性)刺激への応答に必要とされる転写調節配列を含む。より具体的には、「プロモーター」は、RNAポリメラーゼが結合し、転写を開始する核酸分子、好ましくはDNA分子上の領域を表す場合がある。プロモーターは必ずではないが、それが転写を制御する配列の上流(すなわち5’)に位置するのが好ましい。典型的には、原核生物では、プロモーター領域はプロモーター自体、及びRNAへと転写された場合にタンパク質合成の開始を合図する配列(例えばシャイン・ダルガノ配列)の両方を含有し得る。
【0115】
実施形態では、本明細書中で企図されるプロモーターは、構成的又は誘導性であり得る。
【0116】
例としては、クロストリジウム・アセトブチリカム等のクロストリジウム種中での発現のために好適な構成的プロモーターとしては、クロストリジウム・アセトブチリカムのチオラーゼ遺伝子のプロモーター(Pthlプロモーター)、アセトアセテートデカルボキシラーゼ遺伝子のプロモーター(Padcプロモーター)、ホスホトランスブチリラーゼ遺伝子のプロモーター(Pptbプロモーター)、スタフィロコッカス・キシローサス(Staphylococcus xylosus)キシロースオペロンのキシロース誘導性プロモーター(Pxylプロモーター)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
したがって、特定の実施形態では、オペレーターによって制御されるプロモーターであるプロモーターが提供される。本明細書中で使用される場合、「オペレーター」という用語は、プロモーターからの配列の転写の開始及び/又は維持を制御するヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列を指す。典型的には、オペレーターは概して、プロモーターと、プロモーターが転写を制御する下流の配列との間に位置し得る。通常、オペレーターはリプレッサーポリペプチドに結合することが可能であり、それにより上記プロモーターからの転写を低減する。有用なリプレッサーは、オペレーターに結合している状態と、結合していない状態とを繰り返すことができ、かかる交替は外的条件、例えば、外部物質又は特定の代謝産物によって有利に制御され得る。したがって、適合するリプレッサーを含む宿主細胞では、オペレーターを本発明の核酸に組み入れることによって、プロモーターの活性及びプロモータからの発現を制御することが可能となり得る。オペレーター配列は概して、細菌染色体に由来し得る。
【0118】
本発明の核酸が、対象となる1つ又は2つ以上のポリペプチドをコードし得ることも理解されよう。さらに、2つ以上のポリペプチドの発現が意図される場合、上記発現は、独立した発現単位に由来するものであっても、又は共通の調節要素によって制御される2つ以上の連続ORFを含む単一発現単位(すなわち多シストロン性(multi-cistronic)発現)に由来するものであってもよい。例としては、2つ以上のポリペプチドをコードする発現単位は、それぞれのORFの翻訳開始コドンを、翻訳開始を制御する配列(例えばリボソーム侵入配列)と結合させることによって生成され得る。
【0119】
「ターミネーター」又は「転写ターミネーター」という用語は概して、転写単位の終わりにある、転写の終止を合図する配列要素を指す。例えば、ターミネーターは通常、対象となるポリペプチドをコードするORF(複数可)の下流、すなわち、3’の下流に位置している。例えば、組み換え核酸が、例えば連続して並んだ、一緒に多シストロン性転写単位を形成する2つ以上のORFを含有する場合、転写ターミネーターは有利には最も下流のORFの3’に位置し得る。
【0120】
好ましい実施形態では、本明細書中で教示されるようなポリペプチド(複数可)の発現を制御する調節配列が、有利には、本発明の微生物を形質転換するのに使用される組み換え核酸上に与えられ得る。しかしながら、組み換え核酸が1つ又は複数の調節配列を欠いたコード配列(複数可)を与える一方で、必要とされる調節配列は形質転換した微生物によって与えられる実施形態(例えば、組み換え核酸が、好適な調節配列を含む染色体領域又はエピソーム領域に挿入される場合)も企図される。
【0121】
「クロストリジウム」及び「クロストリジウム・アセトブチリカム」は、本明細書中で使用される場合、当該技術分野においてそれ自体既知の細菌分類群を指し、特に上記分類群に属する細菌、細菌種、株、亜種及び培養株、並びに修飾又は改変した、例えば突然変異又は遺伝子操作した天然又は野生型の標本の誘導体を包含する。指針としては、限定するものではないが、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から入手可能なクロストリジウムの単離株を、特にクロストリジウム・アセトブチリカムについてはアクセッション番号ATCC 824、ATCC 4259、ATCC 39236又はATCC 43084で注文することができる。クロストリジウム・ベエイジェリンキー(Clostridium beijerinckii)の単離株は、例えば特にアクセッション番号ATCC 858及びATCC 25752で注文することができる。
【0122】
先述のように、本発明の溶剤生産微生物によって発現させたポリペプチドを分泌の標的とすることができる。分泌を達成するために、ポリペプチドをコードする核酸配列を、分泌シグナル配列をコードする配列に操作可能に結合することができる。これに関連して、「操作可能に結合する」とは、シグナル配列をコードする配列と、分泌されるポリペプチドをコードする配列とがインフレーム又はインフェーズ(in phase)で結合している(これにより、発現時にシグナルペプチドがシグナルペプチドにそのように結合したポリペプチドの分泌を促進する)ことを表す。
【0123】
好適なシグナル配列は、分泌が所望される微生物の種類によって異なり得ることが理解されよう。例えば、グラム陽性細菌とグラム陰性細菌とで異なるシグナル配列が必要とされ得る。
【0124】
例としては、限定するものではないが、グラム陽性細菌、特にクロストリジウム・アセトブチリカム等のクロストリジウムにおける分泌は、クロストリジウム・セルロリティカムのCel5A前駆体ポリペプチドのシグナル配列(例示的な配列:Genbankアクセッション番号AAA51444、1994年10月31日に改訂された配列バージョン1)、又はクロストリジウム・セルロリティカムのCipC前駆体足場タンパク質のシグナル配列(例示的な配列:Genbankアクセッション番号AAC28899、2005年12月5日に改訂された配列バージョン2)、又はクロストリジウム・アセトブチリカムのCipA前駆体足場タンパク質のシグナル配列(例示的な配列:Genbankアクセッション番号AAK78886、2006年1月19日に改訂された配列バージョン1)を用いて達成することができる。
【0125】
さらに、限定するものではないが、グラム陰性細菌における分泌は、例えばザイモモナス・モビリスのグルコノラクトナーゼ前駆体ポリペプチドのシグナル配列(例示的な配列:Genbankアクセッション番号CAA47637、2006年10月19日に改訂された配列バージョン1)、若しくは炭水化物選択的ポリン(porine)OprBのシグナル配列(例示的な配列:Genbankアクセッション番号AAV88688、2005年1月25日に改訂された配列バージョン1)を用いて、分泌経路(Sec pathway)を介して達成することができるか、又は例えばザイモモナス・モビリスのグルコースフルクトースオキシドレダクターゼ(gluco fructose oxidoreductase)前駆体ポリペプチドのシグナル配列(例示的な配列:Genbankアクセッション番号CAB02496、2006年10月19日に改訂された配列バージョン1)を用いて、ツインアルギニン(twin-arginine)転座(Tat)経路を介して達成することができる。
【0126】
本明細書中で教示されるような微生物によって発現させるポリペプチドの天然(又は相同、内因性)シグナルペプチドを、それらが上記微生物中で機能的である限りにおいて利用してもよいことも理解されよう。したがって、例としては、Cel5H又は関連ポリペプチドの分泌を、Cel5H前駆体ポリペプチドの内因性又は相同分泌シグナル配列を用いて達成することができる。特に、サッカロファガス・デグラダンスはグラム陰性細菌であるため、Cel5Hの内因性又は相同シグナル配列は、特に他のグラム陰性細菌における分泌に適している可能性がある。他の実施形態では、Cel5H及び関連ポリペプチド等のポリペプチドを非相同シグナル配列を用いて分泌させることができる。
【0127】
天然Cel5Hポリペプチドのドメイン構造は、GH5−PSL−CBM6−EPR−DZとして略述することができ、成熟Cel5Hにおけるドメイン境界の概略は図9に示される。Cel5H又はその相同体の機能的断片は、好ましくはGH5ドメイン、CBM6ドメイン及びDZドメインの1つ又は複数、又はそれに相当するドメイン(例えば、Cel5Hの相同体及び/又は変異体中の類似ドメイン)を含有する。好ましくは、かかる断片に含まれるドメインは本明細書中で意図されるように機能的であり得る。したがって、特定の実施形態では、本発明は以下のドメイン構成に相当するもののような断片を企図する:GH5、GH5−PSL、GH5−PSL−CBM6、GH5−PSL−CBM6−EPR、PSL−CBM6、PSL−CBM6−EPR、PSL−CBM6−EPR−DZ、CBM6、CBM6−EPR、CBM6−EPR−DZ及びEPR−DZ、DZ。本発明は、EPR−DZ−EPR−DZ等(これらに限定されない)といった成熟Cel5Hのドメインの組み合わせに相当する断片をさらに想定する。
【0128】
先述のように、本発明はCel5H及び関連ポリペプチドと、有用な非相同ドメインとの様々な融合にも関する。この文脈で、「非相同」という用語は、上記ドメイン(複数可)がCel5Hポリペプチド又はその相同体以外のポリペプチドに由来することを表す。したがって、ドメインの組み合わせに言及する場合の「非相同」は、これらの種々のドメインが同じタンパク質に由来しない(又は天然に存在しない)という事実を指す。しかしながら、さらなるCel5H由来ドメイン(複数可)と、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又はその断片及び/又は変異体との融合も企図され得る。
【0129】
「融合」という用語は、特に遺伝子融合(すなわち、種々の部分を単一のオープンリーディングフレームへと融合させること)、並びに化学的及び/又は物理的手段(例えば、化学的架橋又は光カップリング)によって誘導される融合を包含することが本明細書中で広く企図される。さらに、融合には直接的融合又はリンカーを介した融合が含まれる。好適なリンカーとしては、非荷電アミノ酸(好ましくはグリシン、セリン、システイン、アスパラギン、チロシン、グルタミン、アラニン、バリン、プロリン、トレオニン、より好ましくはグリシン又はセリンから選択される)を含んでいるか、それらについて濃縮されているか、又はそれらからなる、少なくとも3、好ましくは少なくとも4又は5、より好ましくは少なくとも7、さらにより好ましくは少なくとも12アミノ酸、例えば3〜15アミノ酸のペプチド配列を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0130】
例示的なグリコシドヒドロラーゼ(GH)触媒ドメインは、それ自体が既知であるか、又は特に確立された手順を用いて将来同定及び単離されるグリコシドヒドロラーゼ(グリコシダーゼ)に由来し得る。例示的なグリコシダーゼとしては、NC−IUBMBのEC3.2.1.「グリコシダーゼ」の分類に分けられるもの、より好ましくはセルロース系基質及びリグノセルロース系(lingo-cellulosic)基質を脱重合することが可能なグリコシダーゼ、例えばセルラーゼ(EC3.2.1.4.)、セルロース1,4−β−セロビオシダーゼ(EC3.2.1.91)及びプロセッシブエンドセルラーゼ(EC3.2.1.4./EC3.2.1.91.)が挙げられる。
【0131】
「炭水化物結合モジュール(複数可)(CBM)」という用語は当該技術分野で既知であり、グリコシドヒドロラーゼ中に見られるか、又はそれに由来する全ての非触媒糖又は炭水化物結合モジュールを一般に広く包含する。本明細書中で好ましいCBMモジュールとしては、セルロース又はセルロース基質に特異的に結合するもの(代替的にはセルロース結合ドメイン(CBD)と称される)を挙げることができる。CMB並びにそれらの構造的特性及び機能的特性は、特にTomme et al. 1995 ("Cellulose-binding domains: classificationand properties", in Enzymatic Degradation of Insoluble Polysaccharides,Saddler JN & Penner M, eds., pp. 142-163, American Chemical Society,Washington)、及びBoraston et al. 2004("Carbohydrate-binding modules: fine tuning polysacchariderecognition". Biochem J 382: 769-81)において概説されている。
【0132】
「コヒーシン結合ドメイン」は、本明細書中で使用される場合、概してセルロソームスキャフォルディンサブユニットの1つ又は複数の受容体(コヒーシン)ドメインに特異的に結合することが可能な全てのポリペプチドドメインを指す。例示的なコヒーシン結合ドメインとしては、セルロソームに集合するグリコシドヒドロラーゼ中に見られるか、又はそれに由来するドッケリンドメインが挙げられる。タイプI及びタイプIIの両方のドッケリンドメインが本明細書中で企図される。ドッケリンドメインは、特にLytle et al. 2001 ("Solution structure of a type I dockerindomain, a novel prokaryotic, extracellular calcium-binding domain". J MolBiol 307: 745-753)、Adams et al. 2005 ("Structuralcharacterization of type II dockerin module from the cellulosome of Clostridiumthermocellum: calcium-induced effects on conformation and targetrecognition". Biochemistry 44: 2173-82)、及びBayer etal. 1998 ("Cellulosomes-structure and ultrastructure". J Struct Biol124: 221-234)に記載されている。本明細書中で好適なドッケリンドメインの選択の指針となるような、ドッケリン−コヒーシン相互作用を決定する好適なアッセイは、特にHaimovitz et al. 2008 ("Cohesin-dockerin microarray: Diversespecificities between two complementary families of interacting proteinmodules". Proteomics 8: 968-979)に記載されている。
【0133】
さらに、本明細書中で教示されるポリペプチドと、炭水化物ポリマー代謝、特にセルロース代謝に有用な他のポリペプチド又は酵素、好ましくは組み換えポリペプチド又は酵素との共発現、任意で共分泌が企図される。「共発現」という用語は概して、同じ微生物、特に上記微生物の同じ細胞による2つ以上のタンパク質又はポリペプチドの発現(「共発現した」と言われる)に関する。2つ以上のポリペプチドの共発現を達成するのに好適な系はそれ自体既知である。限定するものではないが、共発現ポリペプチドは、同じか又は異なる調節要素によって制御される別個のシストロンによってコードされ得るか、又は単一の多シストロン性要素によってコードされ得る。かかるシストロンは、染色体上にあっても、又は同じか若しくは異なる後成的要素上にあっても、又はその組み合わせ等であってもよい。
【0134】
「グリコシドヒドロラーゼ」又は「グリコシダーゼ」という用語は概して、グリコシド結合、より具体的にはO−、N−又はS−グリコシド結合、さらにより好ましくはオリゴ糖及び/又は多糖基質中のかかる結合を加水分解することが可能な酵素及び酵素複合体を包含する。この用語はエキソグリコシダーゼ及びエンドグリコシダーゼを包含する。この用語は、特にNC−IUBMBのEC 3.2.1.「グリコシダーゼ」の分類に分けられるグリコシダーゼを包含する。
【0135】
「セルラーゼ」という用語は概して、セルロース及びセルロース含有基質を加水分解することが可能な酵素及び酵素複合体を包含する。この用語は、以下のセルラーゼ型を包含するが、これらに限定されない:セロビオヒドロラーゼ(1,4−β−D−グルカンセロビオヒドロラーゼ、EC 3.2.1.91)、エンド−β−1,4−グルカナーゼ(エンド−1,4−β−D−グルカン4−グルカノヒドロラーゼ、EC 3.2.1.4)、プロセッシブエンドセルラーゼ(EC 3.2.1.4./EC 3.2.1.91.)及びβ−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)。セルラーゼは、エンドグルカナーゼ及び(プロセッシブ)エキソグルカナーゼをさらに包含し、様々な長さのモノマー及び/又はオリゴマーを産生する酵素を包含する。この用語は、セロビアーゼ、酸化的(oxidative)セルラーゼ、グルコシダーゼ、セルロースホスホリラーゼ、及びそれにより一般に表される他の酵素も包含し得る。この用語は、結晶性セルロース、半結晶性セルロース、非結晶性セルロース、ヘミセルロース及び/又は化学的に若しくは生物学的に修飾したセルロース形態等(これらに限定されない)の様々な形態のセルロースを分解することが可能な酵素を包含する。
【0136】
例としては、限定するものではないが、クロストリジウム・セルロリティカムのセルロース分解系は、Belaich et al. 1997 ("The cellulolytic system of Clostridiumcellulolyticum". J Biotechnol 57: 3-14)において概説されており、サッカロファガス・デグラダンスのセルロース分解系は非特許文献4(上掲)に概説されている。
【0137】
本発明は、ポリペプチド、特にCel5H及び関連ポリペプチド(例えばDZドメイン及びそれを含むポリペプチド)を含む、本明細書中で教示されるような改変セルロソームをさらに企図する。当該技術分野で既知のように、天然セルロソームは、或る特定の細菌分類群、特にクロストリジウム及びバクテロイデス等の細胞外の多酵素セルロース分解複合体を表す。天然セルロソームの基本構成には、一般に1つ又は複数の同じか又は異なる炭水化物結合モジュール(CBM)、並びにグリコシダーゼ又はセルロース分解酵素のセルロソーム複合体への組み込みを、上記酵素中の同族ドッケリンドメインとの相互作用によって促進する、1つ又は複数の同じか又は異なる受容体(コヒーシン)ドメインを含む組織化(organising)ポリペプチド(スキャフォルディン)が含まれる。
【0138】
天然セルロソームのこれらの構造的特徴を改変セルロソームにおいても利用することができ、それにより所望の炭水化物結合活性及び炭水化物脱重合活性を改変セルロソームに組み込むことができる。改変セルロソームを作製する技法は当該技術分野で確立されている(例えば、Fierobe et al. 2002 ("Degradation of cellulose substrates bycellulosome chimeras. Substrate targeting versus proximity of enzymecomponents". J Biol Chem 277: 49621-30)、Fierobe etal. 2005 ("Action of designer cellulosomes on homogeneous versus complexsubstrates: controlled incorporation of three distinct enzymes into a definedtrifunctional scaffoldin". J Biol Chem 280: 16325-34、及びPerret et al. 2004 ("Production of heterologous and chimericscaffoldins by Clostridium acetobutylicum ATCC 824". J Bacteriol 186:253-7)を参照されたい)。
【0139】
一般に、改変セルロソームは、炭水化物基質特異性が同じか又は相違する1つ又は複数のCBMモジュール、及び同じか又は相違する同族ドッケリンドメインに結合することが可能な1つ又は複数のコヒーシンドメインを含むハイブリッドスキャフォルディンポリペプチド又はキメラスキャフォルディンポリペプチドを含有し得る。特にグリコシダーゼ又はセルロース分解酵素等の酵素は、スキャフォルディンポリペプチド中に見られるコヒーシンドメインについて同族のドッケリンモジュール(通常は上記酵素中に存在する、及び/又はそれに組み込まれている)を用いて、セルロソーム中に組み入れることができる。上記酵素はCBM又は他の非触媒ドメインも含み得る。かかる改変セルロソームは、当該技術分野で「キメラ」若しくは「ハイブリッド」セルロソーム又は「ミニセルロソーム」として一般に既知である。
【0140】
代替的又は付加的には、グリコシダーゼ又はセルロース分解酵素等の1つ又は複数の酵素を、スキャフォルディン骨格と、例えば同じポリペプチド鎖の一部として発現させること(すなわち遺伝子融合)によって共有結合させることができる。かかるセルロソームは、「共有結合」セルロソームとして一般に既知である(Mingardon et al. 2007, "Exploration of new geometries incellulosome-like chimeras" Appl. Environ. Microbiol. 73: 7138-7149)。
【0141】
したがって、ハイブリッドセルロソーム、キメラセルロソーム、ミニセルロソーム、若しくは共有結合セルロソーム等の改変セルロソーム、又はこれらの形式(modalities)の任意の組み合わせ、又は任意の他の改変セルロソーム形態を、本明細書中で教示されるポリペプチドと共に使用することが企図される。
【0142】
「セルロース」という用語は当該技術分野でそれ自体既知である。限定するものではないが、さらに説明すると、この用語は、天然に存在するセルロース及び天然に存在しないセルロース形態、例えば結晶性セルロース、半結晶性セルロース、微結晶性セルロース、非結晶性セルロース、ヘミセルロース、再生セルロース、及び/又は化学的若しくは生物学的に修飾若しくは誘導体化されたセルロース形態、例えばそのエーテル若しくはエステル等といったセルロースの全ての形態を包含し得る。
【0143】
結晶性セルロースについて濃縮されている物質は、少なくとも約1%(w/w)、例えば、5%(w/w)以上、好ましくは少なくとも約10%(w/w)以上、例えば20%(w/w)以上、30%(w/w)以上又は40%(w/w)以上、より好ましくは少なくとも約50%(w/w)、例えば60%(w/w)以上又は70%(w/w)以上、さらにより好ましくは少なくとも約80%(w/w)、例えば90%(w/w)以上の当該技術分野で理解されるような結晶性セルロース、半結晶性及び/又は微結晶性セルロース)、より好ましくは結晶性セルロースを含み得るが、これらに限定されない。
【0144】
本明細書において教示されるような組み換え微生物でセルロース含有物質を処理するか、又は当該微生物と当該物質を接触させる方法及びプロセスは、当該技術分野で一般に既知であり、様々なスケールの工業的発酵プロセスを含み得るが、これに限定されない。そのように発酵させる材料は、例えば、固体、半固体、液体若しくは可溶性の形態で、又はホモジネート若しくは抽出物として、又は(水性の)分散物若しくは懸濁物として、又は(部分的に)単離若しくは精製した、及び/又は(例えば希酸前処理、水酸化ナトリウム前処理、石灰前処理、有機溶剤と水とを用いた前処理、熱水プロセス又はAFEXによって)前処理したリグノセルロース基質若しくはセルロース基質若しくはセルロースとして、又はそれ自体がセルロース系材料及びバイオマスの脱重合及び/又は発酵に使用される他の好適な形態で提供され得る。したがって、本発明は、任意で1つ又は複数の他の所望の微生物と組み合わせた、本発明の微生物を含むスターター培養物も企図する。セルロース利用のためのバイオテクノロジー的手法は、特にLynd et al. 2002 ("Microbial cellulose utilization:fundamentals and biotechnology". Microbiol Mol Biol Rev 66: 506-77)、及びHimmel et al. 2007 ("Biomass recalcitrance: engineering plantsand enzymes for biofuels production" Science 315: 804-807)において概説されている。
【0145】
上記の態様及び実施形態は、以下の非限定的な実施例によってさらに支持される。
【実施例】
【0146】
実施例1:Cel5Hの新規DZドメインの同定
サッカロファガス・デグラダンスによって産生された推定上のセルラーゼの公開された解析(非特許文献4)から、Cel5Hについての以下の構成(酵素のN末端からC末端)が示された:シグナル配列/触媒モジュール(GHファミリー5)/セリンリッチリンカー/CBMファミリー6に属する炭水化物結合モジュール/グルタミン酸及びプロリンリッチリンカー(他の表示では、シグナル配列−GH5−PSL−CBM6−EPR)。
【0147】
DZドメインと称されるCel5HのC末端での新規の約100アミノ酸長ドメイン(すなわち、配列番号2中の496番目〜596番目)の存在を明らかにするより完全な配列解析を実行した(図1B)。したがって、Cel5Hの構成は、シグナル配列−GH5−PSL−CBM6−EPR−DZとして表示することができる。DZドメインが芳香族残基(Trp、Tyr)に富んでいるので、それはおそらく新しいタイプの炭水化物結合モジュール(CBM)を表すことができる。
【0148】
非冗長DNA配列データベース中の相同ドメインについての検索により、シュードモナス細菌種ND137由来のaclA遺伝子によってコードされる推定上のセルラーゼ中の高度に相同なドメインが明らかになった(配列番号4の465番目〜558番目、図1D)。この特定のドメインを含有する他のタンパク質はサッカロファガス・デグラダンスを起源とする。
【0149】
Cel5Hの別の非定型的な特徴はGH5触媒モジュールと関連しており、この触媒モジュールの長さは300アミノ酸と推定されるが、他のファミリー5酵素は380残基〜450残基の触媒モジュールを示す。したがって、このモジュールは異常に短く、ファミリー5酵素間で高度に保存された残基の重要なストレッチを欠いている。
【0150】
実施例2:完全な(野生型)Cel5H、切断型Cel5H及びCel5Hの改変形態の大腸菌における産生
分子生物学技法を使用して、Cel5Hの成熟形態をコードするDNA(シグナル配列を有しない)を増幅し、大腸菌発現ベクター(pET22b(+)、Novagen)中にクローニングした。得られたベクターを使用して、大腸菌株BL21(DE3)(Novagen)を形質転換した。同様に、Cel5Hの切断又は改変形態をコードする修飾された遺伝子をPCRによって得てpET22b(+)にクローニングし、その後大腸菌株BL21(DE3)を形質転換した。全ての場合において、6つのHisコドンを組み換えタンパク質のC末端に移植して、ニッケル樹脂(Ni−NTA、Qiagen)での組み換えタンパク質の精製を容易にした。Cel5Hの様々な改変形態を図2に要約する。
【0151】
組み換え株をルリア・ベルターニの培地中で増殖させ、クローニングした遺伝子の発現は誘導因子としてIPTGを使用して誘導した。組み換えCel5Hの合成は、変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)によって確認した。培養物は遠心分離し、採取した細胞はフレンチプレスで破壊した。
【0152】
実施例3:Cel5Hの様々な形態の精製及び特徴づけ、並びにカルボキシメチルセルロース(CMC)、リン酸膨潤セルロース(PASC)、Avicel及び未加工の基質(毛羽立たせたワラ(hatched straw))を含む様々な基質に対する活性の評価
Cel5H、Cel5Ht及びCel5Ht−CBM3aは、Ni−NTA(Qiagen)に粗抽出物をロードし、イミダゾリウムの濃度を増加させて対象となるタンパク質を溶出することによって精製した。以下に記載されるようなFPLC Q−セファロース(Hitrap Q HP樹脂、GE Healthcare)を使用して精製を行った。
【0153】
代替的には、Cel5H構築物、同様にCel5H−CBM3a構築物及びCBM3a−Cel5H構築物も、異なる手順を使用して精製した。これらのタンパク質を含有する粗抽出物を4℃でPASCと共にインキュベーションし、遠心分離した。セルロースのペレットをリン酸バッファー中の遠心分離によって数回洗浄し、セルラーゼと特異的に結合したタンパク質を純水又は1%のトリエチルアミンを使用してマトリックスから溶出した。FPLC装置を使用し、pH8で陰イオン交換体樹脂(Hitrap Q HP、GE healthcare)上に対象となるタンパク質を含有する画分をロードすることによって、精製を行った。タンパク質はNaClの直線状勾配を使用してカラムから溶出した。全ての場合において、SDS−PAGEによって純度をチェックし、タンパク質を濃縮し、小分けにして、−80℃で保存した。
【0154】
標準条件(37℃)を使用して、CMC、PASC、Avicel、及び毛羽立たせたワラに対する精製した酵素の活性を試験した。
【0155】
CMCに対する活性の試験に関しては、酵素濃度は1nMであり、基質は8g/LのCMC(pH6.0)であった。CMCに対するCel5Hの様々な形態の37℃での活性を図3に示す。全ての場合で得られた活性パターンから、Cel5Hはエンド作用モードではなくエキソ作用モードであることが示唆される。図3に示すように、全ての酵素は反応速度の最初の数分又は数秒以内の糖の重要な放出によって特徴づけられ、次いで酵素活性は大幅に減少し(プラトーが5分後に観察される)、この減少はエキソ作用のある酵素又はプロセッシブ酵素でより典型的である。
【0156】
初速度に基づいて、Cel5Hの比活性はCMCに対して20000iu/μmolと推定された。
【0157】
PASCに対する活性の試験に関しては、酵素濃度は5nMであり、基質は3.5g/L(pH6.0)であった。PASCに対するCel5Hの様々な形態の37℃での活性を図4に示す。
【0158】
DZドメインの除去(Cel5Ht)により比活性はおよそ70%減少し、このドメインがCel5HによるPASCの加水分解の間に重要な役割を果たすことを示す。これらの反応速度に基づいて、PASCに対するCel5Hwtの比活性はおよそ1000iu/μmolである。CBM3aを、N末端で移植(CBM3a−Cel5H)、C末端で移植(Cel5H−CBM3a)、又はDZモジュールの代わりに移植(Cel5Ht−CBM3a)すると、酵素活性はさらに減少した。
【0159】
Avicelに対する活性の試験に関しては、酵素濃度は100nMであり、基質は3.5g/L(pH6.0)であった。Avicelに対するCel5Hの様々な形態の37℃での活性を図5に示す。
【0160】
2つの他の基質について観察されるように、改変形態、特にC末端DZドメインを欠く切断型形態と比較して、野生型Cel5Hの活性は高く、結晶性セルロースの分解におけるDZドメインの役割がさらに確認された。強力なCBM3aによってDZドメインを置換しても、アビセラーゼ活性は、野生型Cel5Hと比較して部分的にしか回復しない。Avicelに対するCel5Hの活性は上昇し、反応速度の最初の時間の間に得られたデータに対する計算から8.5±2iu/μmolの比活性が明らかにされる。
【0161】
Cel5Hの酵素活性は可溶性発色基質(パラ−ニトロフェニル−β−D−セロビオシド)に対しても試験された。パラ−ニトロフェニル基とセロビオースとの間の結合の酵素による切断に際して、パラ−ニトロフェノール及びセロビオースは遊離し、その濃度は分光光度分析を用いて直接求めることができる。この基質に対するCel5Hの比活性は約14ui/μmolであった。この活性は、クロストリジウム・セルロリティカム由来のCel5Aの活性よりも約13倍高く、この酵素もグリコシドヒドロラーゼのファミリー5に属する。
【0162】
実施例4:クロストリジウム・セルロリティカム由来の野生型セルラーゼ及び改変セルラーゼによるCel5Hアビセラーゼ活性の比較
実施例3中に記載されるようなアッセイデザインを使用して、Cel5Hアビセラーゼ活性を、クロストリジウム・セルロリティカム由来の野生型セルラーゼ及び改変セルラーゼで比較した。
【0163】
酵素濃度は100nMであり、基質は3.5g/L(pH6.0)であった。
【0164】
図6に示すように、Cel5Hwtは、Cel9G(Avicelに対して最も活性のあるクロストリジウム・セルロリティカム由来のセルラーゼの1つ)よりも約6倍活性が高い。CBM3a及びX2モジュールを含有するCel9Gの改変形態(CBM−X−Cel9G、Mingardon et al. 2007. Appl Environ Microbiol 73: 7138-49.)と比較しても、Cel5Hwtは結晶性セルロースに対する活性が25%高い。これに対して、共有結合セルロソーム(Cel9G及びCel48Fの触媒モジュール並びに強力なCBM3aを含む;Mingardon et al. 2007(上掲))は、Cel5Hよりも単に36%活性が高いだけである。
【0165】
Avicel上でCel5Hwtによって放出された可溶性糖のdionexによる解析から、24時間のインキュベーション後に、後者の酵素はセロビオース(67%)、セロトリオース(26.5%)及びグルコース(6.5%)(すなわち、比較的低複雑度の可溶性糖)を主として放出するが、セロテトラオースは放出しないことが示される。
【0166】
Cel5H(Cel5Hwt)の活性を毛羽立たせたワラに対しても試験した(酵素及び基質はそれぞれ100nM及び3.5g/L)。24時間のインキュベーション後に、約70μMの可溶性糖がCel5Hwtによって放出された。dionexによる可溶性糖の解析から、この未加工の基質に対してCel5Hによってグルコース(90%)が主として放出されることが示された。
【0167】
上記の全ての反応速度実験は、20mMトリスマレイン酸塩pH6.0、1mM CaCl(アジド0.01%(w/v))バッファー中で37℃で実行した。Cel5Hのアビセラーゼ活性を、同じバッファー中で1%の塩化ナトリウム(171mM NaCl)の存在下においても測定した。NaClの存在下において、Cel5Hは10%活性が高いことが見出された。
【0168】
酵素活性は、おそらく50℃での酵素の変性のために、37℃と比較して50℃では大幅に減少する。
【0169】
結論として、Cel5Hは結晶性セルロースに対して上昇した活性を示し、したがってクロストリジウム・アセトブチリカム等の溶剤産生細菌における非相同産生に好適な候補であり、結晶性セルロース又は非結晶性セルロース上でのこの株の増殖を可能にする。この結果は、DZモジュールがセルロース結合モジュール(CBM)として働き、基質の表面にセルラーゼを有利にアンカーさせることを示唆する。これまでに得られたデータは、この酵素が、エキソグルカナーゼ又はエンドプロセッシブセルラーゼである可能性が高いこと(及びエンドグルカナーゼではない)を示す。通常ファミリー5セルラーゼはエンドグルカナーゼとして記載されることは注目に値する。Cel5Hは、純粋なセルロースからセロテトラオースを放出しないが、セロビオース、グルコース及びセロトリオースを産生する。
【0170】
実施例5:他の酵素(複数可)へのCel5Hのアクセサリードメイン及び/又はリンカーの4つの移植
サッカロファガス・デグラダンスのDZモジュールは、単独で、又は上流のCBM6と共に、及び任意でリンカー(図1におけるCel5Hwtを参照)を、分子遺伝学的技法を使用して、かかるモジュールを欠損する他の酵素(複数可)に隣接させた。
【0171】
これらの実験のために選択されたセルラーゼは、クロストリジウム・セルロリティカムからのCel5A(Cel5Hに類似してこれもN末端でファミリー5触媒モジュールを示す)であった。Cel5AはAvicelに対して中等度の活性を有する真のエンドグルカナーゼである(Fierobe et al. 1991. J Bacteriol 173: 7956-62)。構築されたハイブリッド酵素を図7において示す。
【0172】
Cel5Aの様々な改変形態を精製し、それらの活性をAvicelに対して試験し、Cel5Awt及びCel5Atと比較した(図8)。DZ
【0173】
観察された活性プロファイルから、DZドメインの存在はCel5A活性(すなわち、Cel5AによるAvicelの加水分解)を改善することが示された。特に、24時間のインキュベーション後に、Cel5At−DZ又はCel5At−DZ2によって遊離される糖の量は、Cel5Atによって遊離される糖の量よりも3倍高い。これらの結果は、酵素がDZドメインによってセルロース上へ固定又は付着されることを示唆する。したがって、DZドメインが新規タイプの固定ドメインであることが示唆される。
【0174】
しかしながら、観察された活性は、Cel5At−CBM3の活性よりも20%低い。したがってスキャフォルディンCBMドメインは、結晶性セルロースに対するCel5A活性の改善にも関連すると思われる。
【0175】
DZドメインを2つ追加しても、1つのみDZドメインを有する酵素構築物と比較して、酵素活性は有意に増加しない。
【0176】
1つ又は複数の追加のDZドメインを有するCel5A構築物は、結晶性セルロースに対して野生型Cel5Hセルラーゼよりもまだ4倍活性が低いことも示される。
【0177】
したがって、Cel5HからのCBMドメイン(CBM6)及びDZドメインの両方を含むCel5A構築物を作製する。触媒Cel5AドメインとCel5H DZドメインとの間へのCBM6ドメインの導入は、結晶性セルロースの分解に関して酵素活性を増加させる。
【0178】
実施例6:Cel5H活性は、遊離状態において、又はハイブリッドセルロソームの中へ取り込まれて、結晶性セルロースに対する他のセルラーゼの活性に相補的又は相加的である
反応速度実験を行って、Cel5H活性が純粋な結晶性セルロースの分解において、他のセルラーゼ酵素の活性に相補的か又は相加的かどうかを調べる。
【0179】
これらの実験において、以下の酵素を試験した。
クロストリジウム・セルロリティカムからの野生型酵素:Cel5A(エンド)、Cel9G(エンド)、Cel9M(エンド)、Cel9P(エンド)、Cel48F(プロセッシブ)及びCel9E(プロセッシブ);
クロストリジウム・セルロリティカムからの修飾された酵素:Cip0−G(エンド);
クロストリジウム・セルロリティカム以外の生物から単離された酵素:ネオカリマスチクス・パトリシアラム(Neocallimastix patriciarum)(真菌(muschroom))に由来するCel6A(エキソ)。
【0180】
Avicel結晶性セルロース(3.5g/Lタンポン、20mMトリスマレイン酸塩pH6、1mM CaCl 1)に対する24時間のインキュベーション後に、酵素によって遊離された可溶性糖の量を、図9において示す。酵素の各組み合わせについては、第1のバーは両方の酵素の個別の活性の合計を示すが、第2のバーは両方の酵素(0.1mMの濃度で存在する各酵素)の混合物の活性を示す。
【0181】
これらの結果は、大部分の事例において、他のセルロースの活性がCel5Hセルロースの活性に相補的か又は相加的であることを示す。
【0182】
追加実験は、適切なドッケリンモジュールが添付されたCel5H(例えば図2におけるような)、同族のドッケリンを保持し、省略可能なCBM3aモジュールを示すハイブリッドスキャフォルディンに結合された1つ又は2つの他の相補的なセルラーゼを含むハイブリッドのミニセルロソームによるAvicelの分解を含む(図10を参照)。Cel5H又は他のセルラーゼ単独と比較して、基質の分解が増加したことが実証される。
【0183】
実施例7:Cel5H(修飾されたシグナル配列により改変された野生型)単独の、又は他のセルラーゼ(及び/又はスキャフォルディン)との、クロストリジウム・アセトブチリカムによる産生及び分泌
Cel5Hをコードする野生型遺伝子を、株サッカロファガス・デグラダンスからPCRによって増幅し、大腸菌−クロストリジウム・アセトブチリカムpSOS952シャトルベクター中にクローン化した。このプラスミドはクロストリジウム・アセトブチリカムのための発現ベクターである(Perret et al. 2004. J Bacteriol 186: 253-7)。対象となる遺伝子の発現は、チオラーゼ酵素をコードする遺伝子の強い構成的プロモーター(pthl)下で制御される。2つのlacオペレーターをpthlの上流及び下流に導入して、大腸菌における遺伝子の発現を防止した。ベクターは続いてメチル化し(in vivoでは株ER2275[pAN1]を使用して、及びin vitroではメチラーゼCpGを使用して)、このベクターを使用して前に記載されるようにクロストリジウム・アセトブチリカム株を電気的に形質転換した。組み換えクローンを得てコロニーのPCR試験を行い、ベクターが溶剤生産クロストリジウム属において無傷のままであることが示された。複数のクローンを2YTC培地において増殖させたが、追加のCMCase活性は、「空の」pSOS952を保持する対照株と比較して、培養上清において検出されなかった(プレート上のCMCase試験)。
【0184】
サッカロファガス・デグラダンスのGC含量が約46%であり、一方でクロストリジウム・アセトブチリカムが31%のGC含量を示すので、Cel5Hをコードする野生型遺伝子がクロストリジウム・アセトブチリカムコドンバイアスに適合しない可能性があると予測した。野生型Cel5Hをコードするが、クロストリジウム・アセトブチリカムのコドンバイアスに適合した合成遺伝子を作製し、上記されるようにpSOS952中にクローン化した。
【0185】
Cel5Hコード配列がクロストリジウム・アセトブチリカムについて最適化されたコドンを図1Fにおいて示し(配列番号6)、対応するポリペプチド配列を図1Gにおいて示す(配列番号7)。この配列は、検出及び/又は単離を容易にする改変されたC末端6×Hisタグを含有する。
【0186】
(メチル化後に)この新規ベクターでクロストリジウム・アセトブチリカムを形質転換して、組み換えコロニーを生成した。2YTC中で増殖後の上清の解析から、CMCase活性の改善が明らかになり、したがって活性のあるCel5Hが組み換え株によって分泌されたことを示す。分泌収量は、現時点で1mg/L未満のままであるように思われる。
【0187】
サッカロファガス・デグラダンスは2つの膜(外膜及び細胞膜)を提示するグラム陰性細菌であるが、クロストリジウム・アセトブチリカム(グラム陽性細菌)は細胞膜のみを有する。したがって、Cel5Hの天然のシグナル配列は2つの膜を横切る分泌に対処するように設計されているが、クロストリジウム・アセトブチリカムによる効率的な分泌には適切ではない可能性がある。この理由のために、クロストリジウム・セルロリティカムからCel5Aのシグナル配列はクロストリジウム・アセトブチリカムによってよく分泌されるので(最大5mg/L)、分子生物学技法を使用して、Cel5Hの天然のシグナル配列をクロストリジウム・セルロリティカムからのCel5Aのシグナル配列によって置換した。ハイブリッド遺伝子を含有するベクターでクロストリジウム・アセトブチリカムを形質転換した。Cel5Aシグナル配列を使用するCel5Hの分泌収量を調べた。クロストリジウム・セルロリティカムからCel5Aのシグナル配列によるCel5Hの天然のシグナル配列の置換によって、分泌レベルが増加したことが示された。pNP−セロビオシドに対する強いCel5H活性に起因して、約0.5mg/Lの分泌レベルを測定することができた。
【0188】
組み換え細菌株の培養物を、pH5.5に固定した3g/Lの2YT−PASCの環境の発酵槽中で増殖させた。PASCの分解、残留セロビオースの消費及び細菌増殖を測定した。結果を図11及び図12において示す。
【0189】
0.45のOD値が到達されるまでの最初の40時間の間に、有意な細菌増殖が観察された。続いて、細胞溶解が起こった。同時に、PASCの分解の増加が観察された。117時間後に、68%のPASCは消費されたが、単糖類又はオリゴ糖類を検出することができなかった。これは、PASCの加水分解でCel5Hによって遊離される糖が細菌によって直ちに消費されることを示唆した。これらの結果は、PASC補給培地上で増殖可能な株の構築に成功したことを示した。
【0190】
組み換え細菌株の第2の培養物を、pH5.5に固定した2YT(しかしながらPASCを含有しない)の環境の発酵槽中で増殖させた。この実験の目的は、細菌増殖とPASCの消費との間の相関関係をチェックすることであった。結果を図12において示す。期待されるように、この事例において細菌増殖を観察することができなかった。
【0191】
したがって、観察された細菌増殖は、PASCの分解、及び続いて起こる遊離糖質の消費に起因すると結論を下すことができる。
【0192】
さらに、第3の培養物を設定して、観察された細菌増殖が、クロストリジウム・アセトブチリカムの内在性の酵素システムの活性に起因するのではなく、Cel5Hの活性に起因するかどうかをチェックした。したがって、空ベクター(pSOS)を含有する株の培養物を、pH5.5に固定した3g/Lの2YT−PASCの環境の発酵槽中で増殖させた。
【0193】
最終的に、第4の培養物をpH5.5に固定した5g/Lの2YT−PASCの環境の発酵槽中で増殖させて、PASC濃度が細菌増殖のための限定因子かどうかをチェックした。したがって、PASCのより高い濃度はより高いOD値をもたらす可能性がある(すなわち、以前の実験において観察された最大のOD値0.45よりも高い)。
【0194】
Cel5Hをコードする遺伝子は、他のセルラーゼ(遊離状態でCel5Hから独立して作用する)をコードする遺伝子と組み合わせてクローン化されている。代替的には、Cel5H(ドッケリンが添付された)、スキャフォルディン、及び適切なドッケリンを保有する1つ又は2つの他のセルラーゼからなる効率的なミニセルロソームをコードする遺伝子をクローン化し、クロストリジウム・アセトブチリカムにおいて発現させた。
【0195】
3又は4の異なる遺伝子をクローン化する場合、pMTLと称される第2の発現ベクターも使用する。このベクターは、クロストリジウム・アセトブチリカムにおいてpSOS952と適合することが示された。代替的には、遺伝子は、特異的部位(特に、国際出願PCT/EP2006/066997号における教示等)で、又はランダムに、染色体中に組込まれる。
【0196】
さらに、Cel5Hの追加モジュールを有するセルラーゼ(特にDZ、及び任意でCBM6、実施例4を参照)をクローン化して、クロストリジウム・アセトブチリカムにおいて発現させ、結晶性セルロースの分解及び利用の増加を達成する。
【0197】
クロストリジウム・アセトブチリカムの野生型及び様々な改変株(例えば、修飾された分泌機構を有する株、非相同タンパク質の分泌について最適化された株、及び/又は、エタノール(又はブタノール)の最適化された産生のために修飾された代謝を有する株等)の両方を使用する。
【0198】
対応する組み換えクロストリジウム・アセトブチリカムは、改変酵素を産生及び分泌し、1つ又は複数のセルロース基質上で増殖及び/又は分解する能力を提示することが示される。
【0199】
実施例8:クロストリジウム・アセトブチリカムによるCel5Hの分泌の改善
異なるスキャフォールドタンパク質から得られたモジュールを使用する様々な構造を作製し、図13で概略的に表す。
【0200】
第1の構築物において、クロストリジウム・アセトブチリカムのコドンバイアスに適合し、サッカロファガス・デグラダンスからのセルラーゼCel5Hをコードする合成ポリ核酸を、キャリアードメインをコードし、CBM3aモジュール、クロストリジウム・アセトブチリカムのCipAタンパク質から得られた第1(Xa)及び第2(Xa’)のXモジュール、並びにクロストリジウム・セルロリティカムのCipCスキャフォールドタンパク質のシグナルペプチドを含むポリ核酸に融合した。適切なリンカー配列を使用して異なるモジュールを互いに連結する。
【0201】
天然のCel5Hポリペプチドのドメイン構造はGH5−PSL−CBM6−EPR−DZと略述することができる(GH5はグリコシドヒドロラーゼファミリー5ドメイン、PSLはポリセリンリンカー、CBM6は炭水化物結合モジュールファミリー6ドメイン、EPRはグルタミン酸−プロリンリッチ領域を表し、この解釈に限定されずに、DZは、本発明者によって推定上の炭水化物結合モジュールとして同定されたC末端ドメインを表す)。
【0202】
この構築物はオーバーラップ伸長PCR技法を使用して構築し、シャトル発現ベクターpSOS952(抗生物質エリスロマイシンに対する耐性を付与する)中にクローン化し、それによってプラスミドpSOS952−CBM−Xa−Xa’−5Hを生成した。構築物を配列決定によってチェックし、in vivo及びin vitroでメチル化した。続いてメチル化されたベクターを使用して、クロストリジウム・アセトブチリカム株ATTC824を電気的に形質転換した。
【0203】
クロストリジウム・セルロリティカムからのスキャフォルディンCipCのシグナルペプチドが添付された野生型Cel5Hタンパク質のクロストリジウム・アセトブチリカムによる分泌は、0.5〜0.9mg/L(パラ−ニトロフェニル−セロビオシドに対する培養上清の活性に基づく値)であった。しかしながら、キャリアードメインに連結したCel5Hタンパク質を含む融合タンパク質をコードする2つの構築物を保有するクロストリジウム・アセトブチリカム株は、有意により高い量で、より具体的には最大6.1mg/Lで(パラ−ニトロフェニル−セロビオシドに対する培養上清の活性に基づいた値、図14(3)を参照)、セルラーゼ5Hを含有する融合タンパク質を増殖培地中に分泌した。これらの結果は、クロストリジウム・アセトブチリカムによるCel5Hの産生及び分泌を実証する。
【0204】
実施例9:セルロースに対する本発明による融合タンパク質の活性の実証。
分子生物学技法を使用して、実施例8において記載される異なるタンパク質構築物をコードするDNAを増幅し、大腸菌発現ベクター(pET22b(+)、Novagen社)中でクローン化した。もたらされたベクターを使用して、大腸菌株BL21(DE3)(Novagen社)を形質転換した。全ての事例において、6つのHisコドンを組み換えタンパク質のC末端に移植して、ニッケル樹脂(Ni−NTA、Qiagen社)上での精製を容易にした。
【0205】
組み換え株をルリア・ベルターニの培地中で増殖させ、クローン化された遺伝子の発現は誘発物質としてIPTGを使用して誘導した。組み換えタンパク質の合成は、変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)によって確認した。培養物を遠心分離し、採取した細胞はフレンチプレスで破壊した。
【0206】
組み換えタンパク質は、Ni−NTA(Qiagen社)に粗抽出物をロードし、イミダゾリウムの濃度を増加させて対象となるタンパク質を溶出することによって精製した。FPLC Qセファロース(Hitrap Q HP樹脂、GE Healthcare社)を使用して精製を行った。
【0207】
精製されたcel5H酵素の活性をパラ−ニトロフェニル−セロビオシドに対して試験し、結果を図15aにおいて示す。代替的に、標準条件(37℃)を使用して、Avicel(微結晶性セルロース)に対する活性を測定した。結果を図15bにおいて図示する。
【0208】
実施例10:実施例2〜7において記載されるようなクローニング及び発現の戦略は、Cel5H相同体で、特に遺伝子aclAによってコードされたシュードモナス種ND137からのACLAで使用される。
同じ戦略は、サッカロファガス・デグラダンスからのCel5Hと重要な全体的相同性を示し、特にDZドメインを保持する酵素に適用される。
【0209】
これは、シュードモナス種ND137からの遺伝子aclAによってコードされた酵素(ACLA)によって例証される。図16は、ACLAの一般的な構成をCel5Hの構成と比較する。ACLAをコードする遺伝子は既にクローン化され、大腸菌において過剰発現されたが、対応する酵素は完全には特徴づけられなかった(Aoki & Kamei 2006. European Journal of Phycology 41 : 321-328)。
【0210】
これらの2つの酵素間の高度な相同性(リンカーを例外として)に関して、2つの酵素が類似した特性/活性を共有することが予想される。したがって、実施例2〜7において記載されたクローニング及び発現の戦略はACLAに適用され、特にクロストリジウム・アセトブチリカムにおいてさらなるセルロース分解システムをもたらす。
【0211】
実施例11:パラ−ニトロフェニル−β−D−セロビオシド(pNPC)、リン酸膨潤セルロース(PASC)及びAvicelを含む様々な基質に対するACLAの活性の評価
精製されたACLA酵素の活性を標準条件(37℃)を使用して様々な基質に対して試験し、精製された組み換えCel5Hの同じ基質に対する活性と比較した。
【0212】
ACLAの酵素活性を可溶性発色基質(パラ−ニトロフェニル−β−D−セロビオシド(pNPC))に対して試験し、Cel5H(95%純度)の活性と比較した。パラ−ニトロフェニル基とセロビオースとの間の連結の酵素による切断に際して、パラ−ニトロフェノール及びセロビオースは遊離し、その濃度は分光光度分析を用いて直接決定することができる。パラ−ニトロフェニル−β−D−セロビオシドに対するACLAの酵素活性は17.9ui/μmolであったが、同じ基質に対するCel5Hの酵素活性は18.2ui/μmolであった。したがって、ACLAは、Cel5Hと比較して、パラ−ニトロフェニル−β−D−セロビオシド基質に対する98%の酵素活性を示した。
【0213】
PASC(非結晶性セルロース)に対する活性の試験に関しては、使用される酵素濃度は5nMであり、基質濃度は3.5g/L(pH6.0)であった。PASCに対するACLAの酵素活性は780ui/μmolであったが、同じ基質に対するCel5Hの酵素活性は1600ui/μmolであった。したがって、ACLAは、Cel5Hと比較して、PASCに対する49%の酵素活性を示した。
【0214】
Avicel(結晶性セルロース)に対する活性の試験に関しては、酵素濃度は100nMであり、基質は3.5g/L(pH6.0)であった。Avicelに対するACLAの酵素活性は56μM/24時間であったが、同じ基質に対するCel5Hの酵素活性は140μM/24時間であった。したがって、ACLAは、Cel5Hと比較して、Avicelに対する40%の酵素活性を示した。
【図I−1】

【図I−2】

【図I−3】

【図I−4】

【図II】

【図III】

【図IV】

【図VII】

【図VIII】

【図IX】

【図X】

【図XI】

【図XII】

【図V】

【図VI】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースの分解が可能である、サッカロファガス・デグラダンス2−40株のCel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は前記Cel5Hポリペプチド若しくは前記相同体の機能的断片及び/又は変異体を発現する組み換え細菌。
【請求項2】
微生物中での発現を可能にする調節配列に操作可能に結合した、Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体をコードする組み換え核酸分子、又は前記Cel5Hポリペプチド若しくは前記相同体の機能的断片及び/又は変異体をコードする組み換え核酸分子を含む、請求項1に記載の組み換え細菌。
【請求項3】
溶剤生産細菌、より具体的にはエタノール生産細菌である、請求項1又は2に記載の組み換え細菌。
【請求項4】
クロストリジウム・アセトブチリカムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組み換え細菌。
【請求項5】
Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は前記Cel5Hポリペプチド若しくは前記相同体の機能的断片及び/又は変異体が、グリコシドヒドロラーゼ(GH)触媒ドメイン、炭水化物結合モジュール(CBM)ドメイン、ドッケリンドメイン等のコヒーシン結合ドメイン、及びセルロソームのスキャフォルディンタンパク質の親水性(Xモジュール)ドメインから選択された、該Cel5Hポリペプチド又はその相同体に対して非相同の1つ又は複数のドメインと融合した、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組み換え細菌。
【請求項6】
Cel5Hポリペプチド若しくはその相同体、又は前記Cel5Hポリペプチド若しくは前記相同体の機能的断片及び/又は変異体、並びに任意でセルロースを含有する物質を分解可能な1つ又は複数の酵素が、ハイブリッドセルロソーム及び/若しくは共有結合セルロソーム又はミニセルロソーム中に含まれる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組み換え細菌。
【請求項7】
サッカロファガス・デグラダンス2−40株のCel5Hポリペプチドの単離ドメイン(DZドメイン)(前記Cel5Hポリペプチドのアミノ酸496〜アミノ酸596)若しくはそれに相同な単離ドメイン、又は前記DZドメイン若しくは前記相同ドメインの機能的断片及び/又は変異体。
【請求項8】
構造EPR−DZ、構造CBM6−EPR−DZ又は構造PSL−CBM6−EPR−DZ(ここで、EPRはグルタミン酸−プロリンリッチ領域を表し、PSLはポリセリンリンカーを表す)を有するCel5Hポリペプチドの単離断片、又はその相同体若しくは変異体の単離断片。
【請求項9】
請求項7に記載の単離ドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体、又はCel5Hポリペプチドの請求項8に記載の単離断片を含み、並びにGH触媒ドメイン、CBMドメイン、ドッケリンドメイン等のコヒーシン結合ドメイン及びセルロソームのスキャフォルディンタンパク質の親水性(Xモジュール)ドメインから選択された、Cel5Hポリペプチド又はその相同体に対して非相同の1つ又は複数のドメインをさらに含む、キメラポリペプチド。
【請求項10】
請求項7に記載の単離ドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体、又はCel5Hポリペプチドの請求項8に記載の単離断片、又は請求項9に記載のキメラポリペプチドをコードする組み換え核酸。
【請求項11】
宿主細菌中での発現を可能にする調節配列をさらに含む、請求項10に記載の組み換え核酸。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の組み換え核酸で形質転換した宿主細菌。
【請求項13】
クロストリジウム・アセトブチリカムである請求項12に記載の宿主細菌。
【請求項14】
セルロースを含む物質を分解する方法であって、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組み換え細菌によって又は請求項7に記載の単離ドメイン又はその機能的断片及び/若しくは変異体によって、又はCel5Hポリペプチドの請求項8に記載の単離断片によって、又は請求項9に記載のキメラポリペプチドによって、又は請求項9に記載のキメラポリペプチドによって、又は請求項12又は13に記載の宿主細菌と前記物質を接触させることを含む、方法。
【請求項15】
セルロースを含む物質から溶剤、燃料又は化学中間体を生産する方法であって、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組み換え微生物又は請求項11若しくは12に記載の宿主細菌で前記物質を処理することを含む、方法。
【請求項16】
前記物質が結晶性セルロースを含んでいるか、又はそれについて濃縮されている、請求項14又は15に記載の方法。

【公表番号】特表2012−510262(P2012−510262A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537979(P2011−537979)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065922
【国際公開番号】WO2010/060964
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(511026946)
【出願人】(311016455)ル サントル ナシオナル ドゥ ルシェルシェ シアンティフィク (1)
【出願人】(503285612)ユニヴェルシテ・ドゥ・ラ・メディテラネ (15)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LA MEDITERRANEE
【出願人】(506243312)ユニヴェルシテ ドゥ プロヴァンス (4)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE PROVENCE
【出願人】(511130391)
【Fターム(参考)】