説明

セルロースアシレートフィルム、その製造方法、偏光板および液晶表示装置

【課題】薄膜状態においても、所望の光学発現性があり、かつ、内部ヘイズが小さく、偏光板に実装した際のカールが改良でき、かつ、液晶表示装置に実装した際に色味変化およびコーナー近傍に現れるムラが顕著に改良できるセルロースアシレートフィルムの提供。
【解決手段】総置換度2.1〜2.3のセルロースアシレートと、非リン酸エステル系の化合物を含有し、下記式(1)および式(2)を満たし、膜厚が10μmから45μmであることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(1) 40nm≦Re(550)≦60nm
(式(1)中、Re(550)は波長550nmにおける面内方向のレターデーションを表す。)
式(2) 100nm≦Rth(550)≦300nm
(式(2)中、Rth(550)は波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースアシレートフィルム、その製造方法、および該セルロースアシレートフィルムを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。特に、偏光板保護フィルムや光学補償フィルムなどの光学フィルムとして好ましく用いることができるセルロースアシレートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置のTV用途が進行し、画面サイズの大型化に伴う高画質化と低価格化が益々求められている。特にVAモードの液晶表示装置は比較的コントラストが高く、比較的製造の歩留まりが高いことからTV用の液晶表示装置として最も一般的なものとなっている。
【0003】
しかしながら、VAモードの液晶表示装置を黒表示した場合には、液晶表示画面の法線方向においてはある程度良好な黒色表示ができるものの、液晶表示画面の視野角方向(斜め方向)から黒表示した画面を観察すると光漏れが発生して背景の黒表示ができないために視野角が狭くなるという問題があった。そのため、このような視野角補償ができる程度にレターデーションが発現している位相差フィルムが求められてきていた。
さらに近年では、液晶表示画面の中間調での黄色味付きを改良するため、液晶層の厚さ、即ちセルギャップを色毎に変えたマルチギャップ(MG)セルが用いられるようになってきている。しかしながら、マルチギャップセルは従来の液晶表示画面に比べ、さらに視野角方向の黒表示時の色味変化が大きくなり、さらに液晶表示画面の視野角方向の黒色味変化を改善する必要が高まってきている。
【0004】
これに対し、特許文献1には、液晶表示装置に組み込んだときのコントラストと色味変化を改善できる、ある程度の膜厚のセルロースアシレートフィルムが記載されている。
【0005】
一方、液晶表示装置を様々な環境で使用したいとの要求も高まってきており、特に屋外のような湿熱環境下で好適に使用したいとの要求が高まってきている。湿熱環境下で液晶表示装置を用いる場合、偏光板のカールが発生したり、液晶表示画面のコーナー近傍にむらが発生したりしてしまうため、改善することができるフィルムも求められている。
【0006】
また、近年、スレートPCなどの需要が高まり、より薄く軽いディスプレーが要求されるようになり、位相差フィルムについてもより薄いものが要求されるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US公開公報2010−0271574A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが特許文献1に記載のフィルムについて検討したところ、液晶表示装置に実装した際にコーナー近傍にムラが現れる問題があることがわかった。また、同文献の実施例に記載のフィルムは、薄膜化の観点からは依然として改良が求められることが分かった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、薄膜状態においても、所望の光学発現性があり、かつ、内部ヘイズが小さく、偏光板に実装した際のカールが改良でき、かつ、液晶表示装置に実装した際に色味変化およびコーナー近傍に現れるムラが顕著に改良できるセルロースアシレートフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題のもと、本発明者らが鋭意検討を行った結果、特定範囲の総アシル置換度のセルロースアシレートに特定の添加剤を添加し、膜厚を薄膜化させて、特定の範囲に光学発現性を制御したセルロースアシレートフィルムにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、以下の手段により上記課題を解決した。
【0011】
[1] 総置換度2.1〜2.3のセルロースアシレートと、非リン酸エステル系の化合物を含有し、下記式(1)および式(2)を満たし、膜厚が10μmから45μmであることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(1) 40nm≦Re(550)≦60nm
(式(1)中、Re(550)は波長550nmにおける面内方向のレターデーションを表す。)
式(2) 100nm≦Rth(550)≦300nm
(式(2)中、Rth(550)は波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションを表す。)
[2] 膜厚が15μmから30μmであることを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[3] 寸度変化率の絶対値が下記式(3)を満たすことを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(3) |{(L'−L0)/L0}×100%|≦0.5%
(式(3)中、L0は60℃相対湿度90%で24時間経過させる前のフィルム長さ(単位:mm)を表し、L'は60℃相対湿度90%で24時間経過させ、さらに2時間調湿した後のフィルム長さ(単位:mm)を表す。)
[4] 前記セルロースアシレートのSP値と前記非リン酸エステル系の化合物のSP値との差の絶対値が1.5MPa1/2以下であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム(但し、前記SP値は、Hoy法で測定した溶解度パラメーターの値を表す。)。
[5] 前記非リン酸エステル系の化合物として、疎水化剤を含有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[6] 前記疎水化剤として、糖類、重縮合エステル化合物および含窒素化合物から選択される少なくとも一種の添加剤を含むことを特徴とする[5]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[7] 前記セルロースアシレートが、セルロースアセテートであることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[8] 延伸温度130〜195℃で延伸されてなることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[9] 延伸倍率が15%を超えて35%未満の範囲で延伸されてなることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[10] 湿熱処理温度80〜120℃、絶対湿度150〜380g/m3で湿熱処理をされてなることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[11] 偏光子と、該偏光子の少なくとも片側に[1]〜[10]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを有することを特徴とする偏光板。
[12] [11]に記載の偏光板を少なくとも1枚含むことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薄膜状態においても、所望の光学発現性があり、かつ、内部ヘイズが小さく、偏光板に実装した際のカールが改良でき、かつ、液晶表示装置に実装した際に色味変化およびコーナー近傍に現れるムラが顕著に改良できるセルロースアシレートフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のVA型液晶表示装置の一例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本明細書では、「フロント側」とは表示面側を意味し、「リア側」とはバックライト側を意味する。また、本明細書で「正面」とは、表示面に対する法線方向を意味し、「正面コントラスト(以下、コントラストをCRとも言う)」は、表示面の法線方向において測定される白輝度及び黒輝度から算出されるコントラストをいうものとする。
【0015】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、総置換度2.1〜2.3のセルロースアシレートと、非リン酸エステル系の化合物を含有し、下記式(1)および式(2)を満たし、膜厚が10μmから45μmであることを特徴とする。
式(1) 40nm≦Re(550)≦60nm
(式(1)中、Re(550)は波長550nmにおける面内方向のレターデーションを表す。)
式(2) 100nm≦Rth(550)≦300nm
(式(2)中、Rth(550)は波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションを表す。)。
以下、本発明のフィルムについて説明する。
【0016】
<セルロースアシレート>
本発明のフィルムは、総置換度2.1〜2.3のセルロースアシレートを含む。以下、本発明に用いられるセルロースアシレートについて説明する。
【0017】
本発明に用いられるセルロースアシレートの原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明のセルロースアシレート積層フィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0018】
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりアシル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がアシル化している割合(各位における100%のアシル化は置換度1)の合計を意味する。
【0019】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。
本発明におけるセルロースアシレートのアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはアセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基(アシル基が炭素原子数2〜4である場合)であり、より特に好ましくはアセチル基(セルロースアシレートが、セルロースアセテートである場合)である。
【0020】
すなわち、前記セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース(DAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートフタレート等が挙げられる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記セルロースアシレートのアシル基が全てアセチル基であることがレターデーション発現性やコストの観点から好ましい。
【0021】
本発明のフィルムは、総置換度2.1〜2.3のセルロースアシレートを含む。前記セルロースアシレートの総アシル置換度が2.13〜2.28を満たすことが好ましく、2.15〜2.25であることがより好ましい。
なお、アシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することができる。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。
【0022】
本発明では、アシル置換度が低いセルロースアシレートを含むセルロースアシレートフィルムであっても湿熱条件下での寸度変化率の改善ができ、該アシル置換度が低いセルロースアシレートを含むセルロースアシレートフィルムを製造することができる。
【0023】
これらのセルロースアシレートは公知の方法で合成することができ、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0024】
セルロ−スのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0025】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0026】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0027】
前記セルロースアシレートの分子量は数平均分子量(Mn)で40000〜200000のものが好ましく、100000〜200000のものが更に好ましい。本発明で用いられるセルロースアシレートはMw/Mn比が4.0以下であることが好ましく、更に好ましくは1.4〜2.3である。
本発明において、セルロースアシレート等の平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、国際公開WO2008−126535号公報に記載の方法により、その比を計算することができる。
【0028】
<非リン酸エステル系の化合物>
本発明のフィルムは、レターデーション発現と低ヘイズ化の両立の観点などから、非リン酸エステル系の化合物を含む。
前記非リン酸エステル系の化合物としては、疎水化剤が好ましい。前記疎水化剤としては、前記疎水化剤としては、フィルムのガラス転移温度をできるだけ下げずに含水率を低減できるものが好ましい。本発明に用いられる前記疎水化剤としては、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコール系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、糖類(糖エステル化合物が好ましい)、ポリエステル系可塑剤(脂肪酸末端ポリエステル系可塑剤、芳香環含有ポリエステル系可塑剤などの重縮合エステル化合物)、カルボン酸エステル系可塑剤、アクリル系ポリマー、含窒素化合物(含窒素芳香環化合物が好ましい)などを好ましく用いることができる。前記疎水化剤として、糖類、重縮合エステル化合物および含窒素化合物から選択される少なくとも一種の添加剤を含むことがより好ましい。
【0029】
また、前記非リン酸エステル系の化合物は、低分子化合物であっても、ポリマー(高分子化合物)であってもよい。以下、ポリマー(高分子化合物)である非リン酸エステル系の化合物のことを、非リン酸エステル系ポリマーとも言う。
以下、本発明に用いられる非リン酸エステル系の化合物について説明する。
【0030】
前記非リン酸エステル系の化合物としては、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の高分子量添加剤および低分子量添加剤を広く採用することができる。
前記非リン酸エステル系の化合物の含量は、前記セルロースアシレートに対して、0〜35質量%であることが好ましく、0〜18質量%であることがより好ましく、0〜15質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明のフィルムに非リン酸エステル系の化合物として用いられる高分子量添加剤は、その化合物中に繰り返し単位を有するものであり、数平均分子量が700〜10000のものが好ましい。高分子量添加剤は、溶液流延法において、溶媒の揮発速度を速める機能や、残留溶媒量を低減する機能も有する。さらに、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示す。
【0032】
ここで、本発明における非リン酸エステル系の化合物である高分子量添加剤の数平均分子量は、より好ましくは数平均分子量700〜8000であり、さらに好ましくは数平均分子量700〜5000であり、特に好ましくは数平均分子量1000〜5000である。
以下、本発明に用いられる非リン酸エステル系の化合物である高分子量添加剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明するが、本発明で用いられる非リン酸エステル系の化合物である高分子量添加剤がこれらのものに限定されるわけでないことは言うまでもない。
また、前記非リン酸エステル系の化合物は、非リン酸エステル系のエステル系化合物であることが好ましい。
【0033】
非リン酸エステル系の化合物である高分子系添加剤としては、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)、ポリエステル系成分と他の成分の共重合体などが挙げられ、脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とアクリル系ポリマーの共重合体およびポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とスチレン系ポリマーの共重合体が好ましく、少なくとも共重合成分の1つとして芳香族環を含有するポリエステル化合物であることがより好ましい。
【0034】
本発明に用いられる前記非リン酸エステル系の化合物としては、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発させたりしないように、重縮合エステル化合物を使用することが好ましく、数平均分子量が300以上2000未満のポリエステル系可塑剤を使用することがより好ましい。
【0035】
前記ポリエステル系可塑剤は特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系可塑剤を好ましく用いることができる。
例えば、下記一般式(2)で表せる芳香族末端ポリエステル系可塑剤が好ましい。
【0036】
一般式(2) B1−(G1−A1)n−G1−B1
(式中、B1はベンゼンモノカルボン酸残基、G1は炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、A1は炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
【0037】
一般式(2)中、B1で示されるベンゼンモノカルボン酸残基とG1で示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、A1で示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものである。
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0038】
本発明で好ましく用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースアシレートとの相溶性に優れているため好ましい。
【0039】
好ましいアルキレングリコールとしては、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール)、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールであり、より好ましくはエチレングリコール(1,2−エタンジオール)、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール)、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールであり、特に好ましくはエチレングリコール(1,2−エタンジオール)およびプロピレングリコール(1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール)である。
【0040】
また、本発明で用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0041】
本発明で用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。
炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
これらの中でも好ましいアルキレンジカルボン酸成分としては、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であり、アリーレンジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸である。特に好ましくは、アルキレンジカルボン酸成分としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸であり、アリーレンジカルボン酸としてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、である。
【0042】
《ΔSP値》
本発明では、前記セルロースアシレートのSP値と前記非リン酸エステル系の化合物のSP値との差の絶対値(以下、ΔSP値とも言う)が1.5MPa1/2以下であることが好ましい(但し、前記SP値は、Hoy法で測定した溶解度パラメーターの値を表す。)
前記セルロースアシレートと前記非リン酸エステル系の化合物のΔSP値が1.5以下であれば、セルロースアシレートと添加剤の相溶性が良化し、白化、泣き出しが生じにくくなる。前記セルロースアシレートと前記非リン酸エステル系の化合物のΔSP値は、より好ましくは1.3以下であり、特に好ましくは1.3未満であり、より特に好ましくは1.0未満である。
なお、前記セルロースアシレートフィルムに添加する添加剤が2種類以上の場合、前記非リン酸エステル系の化合物以外の添加剤と前記セルロースアシレートとのΔSP値が、上記範囲を満たすことが好ましい。
また、前記セルロースアシレートフィルムに添加剤を2種類以上添加する場合、各添加剤とセルロースアシレート間に加え、添加剤同士のΔSP値も上記範囲を満たすことが好ましい。例えば、添加剤2種を添加する場合、前記非リン酸エステル系の化合物のSP値とセルロースアシレートのSP値の差、2つ目の添加剤SP値とセルロースアシレートのSP値の差、および前記非リン酸エステル系の化合物のSP値と2つ目の添加剤のSP値の差の3者が上記範囲を満たすことが好ましい。すなわち、Hoy法で測定した3者それぞれの溶解度のパラメーター(SP値)の最大値と最小値の差が下記式(2')を満たすことが好ましい。
式(2'):|SP値(最大値)−SP値(最小値)|≦1.5MPa1/2
さらに、前記式(2')におけるΔSP値の好ましい範囲は、前記前記セルロースアシレートと前記非リン酸エステル系の化合物のΔSP値の好ましい範囲と同様である。
尚、本発明におけるSP値は、Hoy法によって算出した値であり、Hoy法は、POLYMER HANDBOOK FOURTH EDITIONに記載がある。
【0043】
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。
また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものが好適である。
【0044】
また、本発明で用いられる前記ポリエステル系可塑剤としては、特開2010−46834号公報の[0141]〜[0156]に記載されている重合体も好ましく用いることができる。
【0045】
前記ポリエステル系可塑剤の重縮合は常法によって行われる。例えば、(i)上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、或いは(ii)これら酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により容易に合成し得るが、本発明で用いられるポリエステル系可塑剤は直接反応によるのが好ましい。
低分子量側に分布が高くあるポリエステル系可塑剤はセルロースアシレートとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0046】
分子量の調節方法は、特に制限なく従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価の化合物を添加する量によりコントロールできる。
この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して反応系外にこのような1価の酸を系外に除去するときに溜去し易いものが選ばれるが、これらを混合使用してもよい。
また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることによっても数平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることによってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
本発明で用いられるポリエステル系可塑剤の分子量は、前述のGPCによる測定方法、末端基定量法(水酸基価)を使用して測定することができる。
【0047】
本発明で用いられるポリエステル系可塑剤などの前記非リン酸エステル系の化合物は、セルロースアシレートに対し1〜40質量%含有することが好ましい。特に5〜15質量%含有することが好ましい。
【0048】
(糖類)
本発明のフィルムは、前記非リン酸エステル系化合物として、糖類を含有することが好ましく、糖エステル化合物を含有することがより好ましい。
前記糖エステル化合物をセルロースアシレートフィルムに添加することにより、光学特性の発現性を損なわず、延伸後に湿熱処理を行ったときの内部ヘイズを悪化させない。さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムを液晶表示装置に用いることにより、正面コントラストを大幅に改良できる。
【0049】
−糖残基−
前記糖エステル化合物とは、該化合物を構成する単糖または多糖中の置換可能な基(例えば、水酸基、カルボキシル基)の少なくとも1つと、少なくとも1種の置換基とがエステル結合されている化合物のことを言う。すなわち、ここで言う糖エステル化合物には広義の糖誘導体類も含まれ、例えばグルコン酸のような糖残基を構造として含む化合物も含まれる。すなわち、前記糖エステル化合物には、グルコースとカルボン酸のエステル体も、グルコン酸とアルコールのエステル体も含まれる。
前記糖エステル化合物を構成する単糖または多糖中の置換可能な基は、ヒドロキシル基であることが好ましい。
【0050】
前記糖エステル化合物中には、糖エステル化合物を構成する単糖または多糖由来の構造(以下、糖残基とも言う)が含まれる。前記糖残基の単糖当たりの構造を、糖エステル化合物の構造単位と言う。前記糖エステル化合物の構造単位は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位を含むことが好ましく、全ての糖残基がピラノース構造単位またはフラノース構造単位であることがより好ましい。また、前記糖エステルが多糖から構成される場合は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位をともに含むことが好ましい。
【0051】
前記糖エステル化合物の糖残基は、5単糖由来であっても6単糖由来であってもよいが、6単糖由来であることが好ましい。
【0052】
前記糖エステル化合物中に含まれる構造単位の数は、1〜12であることが好ましく、1〜6であることがより好ましく、1または2であることが特に好ましい。
【0053】
本発明では、前記糖エステル化合物はヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を1個〜12個含む糖エステル化合物であることがより好ましく、ヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を1または2個含む糖エステル化合物であることがより好ましい。
【0054】
前記単糖または2〜12個の単糖単位を含む糖類の例としては、例えば、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、フルクトース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、トレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロース、トレハロサミン、コウジビオース、ニゲロース、マルトース、マルチトール、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、ラクトサミン、ラクチトール、ラクツロース、メリビオース、プリメベロース、ルチノース、シラビオース、スクロース、スクラロース、ツラノース、ビシアノース、セロトリオース、カコトリオース、ゲンチアノース、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マンニノトリオース、メレジトース、パノース、プランテオース、ラフィノース、ソラトリオース、ウンベリフェロース、リコテトラオース、マルトテトラオース、スタキオース、バルトペンタオース、ベルバルコース、マルトヘキサオース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0055】
好ましくは、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、トレハロース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、スクラロース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールであり、さらに好ましくは、アラビノース、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンであり、特に好ましくは、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、キシリトール、ソルビトールである。前記糖エステル化合物は、グルコース骨格またはスクロース骨格を有することが、特開2009−1696号公報の[0059]に化合物5として記載されていて同文献の実施例で用いられているマルトース骨格を有する糖エステル化合物などと比較して、ポリマーとの相溶性の観点からより特に好ましい。
【0056】
−置換基の構造−
本発明に用いられる前記糖エステル化合物は、用いられる置換基を含め、下記一般式(1)で表される構造を有することがより好ましい。
一般式(1) (OH)p−G−(L1−R11q(O−R12r
一般式(1)中、Gは糖残基を表し、L1は−O−、−CO−、−NR13−のいずれか一つを表し、R11は水素原子または一価の置換基を表し、R12はエステル結合で結合した一価の置換基を表す。p、qおよびrはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しい。
【0057】
前記Gの好ましい範囲は、前記糖残基の好ましい範囲と同様である。
【0058】
前記L1は、−O−または−CO−であることが好ましく、−O−であることがより好ましい。前記L1が−O−である場合は、エーテル結合またはエステル結合由来の連結基であることが特に好ましく、エステル結合由来の連結基であることがより特に好ましい。
また、前記L1が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0059】
11およびR12の少なくとも一方は芳香環を有することが好ましい。
【0060】
特に、前記L1が−O−である場合(すなわち前記糖エステル化合物中のヒドロキシル基にR11、R12が置換している場合)、前記R11、R12およびR13は置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアミノ基の中から選択されることが好ましく、置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、あるいは置換または無置換のアリール基であることがより好ましく、無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、あるいは、無置換のアリール基であることが特に好ましい。
また、前記R11、R12およびR13がそれぞれ複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0061】
前記pは0以上の整数を表し、好ましい範囲は後述する単糖ユニット当たりのヒドロキシル基の数の好ましい範囲と同様であるが、本発明において前記pはゼロであることが好ましい。
前記rは前記Gに含まれるピラノース構造単位またはフラノース構造単位の数よりも大きい数を表すことが好ましい。
前記qは0であることが好ましい。
また、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しいため、前記p、qおよびrの上限値は前記Gの構造に応じて一意に決定される。
【0062】
前記糖エステル化合物の置換基の好ましい例としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、2−シアノエチル基、ベンジル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜24、より好ましくは6〜18、特に好ましくは6〜12のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基)、アシル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアシル基、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、トルイル基、フタリル基など)、アミド基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアミド、例えばホルムアミド基、アセトアミド基など)、イミド基(好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数4〜12、特に好ましくは炭素数4〜8のアミド基、例えば、スクシイミド基、フタルイミド基など)、アリールアルキル基(好ましくは、炭素数7〜25、より好ましくは7〜19、特に好ましくは7〜13のアリール基、例えば、ベンジル基)を挙げることができる。その中でも、アルキル基またはアシル基がより好ましく、メチル基、アセチル基、ベンゾイル基、ベンジル基がより好ましく、アセチル基とベンジル基が特に好ましい。さらにその中でも前記糖エステル化合物の構成糖がスクロース骨格である場合は、アセチル基とベンジル基を置換基として有する糖エステル化合物が、特開2009−1696号公報の[0058]に化合物3として記載されていて同文献の実施例で用いられているベンゾイル基を有する糖エステル化合物と比較して、ポリマーとの相溶性の観点からより特に好ましい。
【0063】
また、前記糖エステル化合物中の構造単位当たりのヒドロキシル基の数(以下、ヒドロキシル基含率とも言う)は、3以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、ゼロであることが特に好ましい。ヒドロキシル基含率を前記範囲に制御することにより、高温高湿経時における糖エステル化合物の偏光子層への移動およびPVA−ヨウ素錯体の破壊を抑制でき、高温高湿経時における偏光子性能の劣化を抑制する点から好ましい。
【0064】
本発明のフィルムに用いられる前記糖エステル化合物は、無置換のヒドロキシル基が存在せず、かつ、置換基がアセチル基および/またはベンジル基のみからなることが好ましい。
また、前記糖エステル化合物におけるアセチル基とベンジル基の比率としては、ベンジル基の比率がある程度少ない方が、得られるセルロースアシレートフィルムの波長分散ΔReおよびΔRe/Re(550)の値が大きくなる傾向にあり、液晶表示装置に組み込んだときの黒色味変化が小さくなるため好ましい。具体的には、前記糖エステル化合物における全ての無置換のヒドロキシル基と全ての置換基の和に対する、ベンジル基の比率が60%以下であることが好ましく、40%以下であることが好ましい。
【0065】
前記糖エステル化合物の入手方法としては、市販品として(株)東京化成製、アルドリッチ製等から商業的に入手可能であり、もしくは市販の炭水化物に対して既知のエステル誘導体化法(例えば、特開平8−245678号公報に記載の方法)を行うことにより合成可能である。
【0066】
前記糖エステル化合物は、数平均分子量が、好ましくは200〜3500、より好ましくは200〜3000、特に好ましくは250〜2000の範囲が好適である。
【0067】
以下に、本発明で好ましく用いることができる前記糖エステル化合物の具体例を挙げるが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
以下の構造式中、Rはそれぞれ独立に任意の置換基を表し、複数のRは同一であっても、異なっていてもよい。
【0068】
【化1】

【0069】
【表1】

【0070】
【化2】

【0071】
【表2】

【0072】
【化3】

【0073】
【表3】

【0074】
【化4】

【0075】
【表4】

【0076】
前記糖エステル化合物は、セルロースアシレートに対し2〜30質量%含有することが好ましく、5〜20質量%含有することがより好ましく、5〜15質量%含有することが特に好ましい。
なお、前記糖エステル化合物は、単独で用いても、二種類以上を併用してもよい。
【0077】
(含窒素化合物)
本発明の光学フィルムは前記非リン酸エステル系化合物として、含窒素化合物を含むことが好ましく、含窒素芳香族化合物を含むことがより好ましい。
前記含窒素芳香族化合物は、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、プリンのいずれかを母核とし、該母核の置換可能ないずれかの位置にアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アミド基(アミド結合を介して、任意のアシル基が結合している構造を意味する)、アリール基、アルコキシ基、チオアルコキシ基、アルキルもしくはアリールチオ基(硫黄原子を解してアルキル基もしくはアリール基が連結した基)、または複素環基を置換基として有するものである。但し、これらの前記含窒素芳香族化合物の母核の置換基はさらに別の置換基で置換されていてもよく、前記別の置換基としては特に制限はない。例えば前記母核がアミノ基で置換されている場合、該アミノ基はアルキル基(さらにアルキル基どうしが連結して環を形成していてもよい)や−SO2R'(R'は任意の置換基を表す)で置換されていてもよい。
【0078】
本発明のフィルムは、前記含窒素芳香族化合物として、後述のいわゆるレターデーション発現剤を含んでいてもよい。
【0079】
以下に含窒素芳香族化合物の具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例によって限定されるものではない。
【0080】
【化5】

【0081】
【化6】

【0082】
【化7】

【0083】
【化8】

(上記式中におけるR1〜R3はそれぞれ下記化合物C−101〜C−180におけるR1〜R3を表す)
【0084】
【化9】

【0085】
【化10】

【0086】
【化11】

(上記式中におけるR2〜R3はそれぞれ下記化合物C−181〜C−190におけるR2〜R3を表す)
【化12】

【0087】
【化13】

(上記式中におけるR3は下記化合物D−101〜D−110におけるR3を表す)
【0088】
【化14】

【0089】
【化15】

【0090】
【化16】

【0091】
【化17】

【0092】
【化18】

【0093】
【化19】

【0094】
【化20】

【0095】
【化21】

【0096】
【化22】

【0097】
【化23】

【0098】
【化24】

【0099】
【化25】

【0100】
<前記非リン酸エステル系の化合物以外のその他の添加剤>
本発明で用いられるセルロースアシレートフィルムには、前記非リン酸エステル系の化合物の他、通常のセルロースアシレートフィルムに添加することのできる添加剤を含有させることができる。
これらの添加剤としては、例えば、前記非リン酸エステル系の化合物以外の可塑剤、微粒子、レターデーション発現剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤等を挙げることができる。
前記その他の添加剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0101】
(1) 微粒子
本発明に使用される微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。
微粒子は珪素を含むものが、ヘイズが低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、更に好ましいのは7〜20nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されることが好ましい。
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600,NAX50(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vがセルロース誘導体フィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。
【0102】
本発明のセルロースフィルム中の前記セルロースアシレートに対するこれらの微粒子の含有量は0.05〜1質量%であることが好ましく、特に0.1〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成のセルロース誘導体フィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
【0103】
(2)レターデーション発現剤
本発明のフィルムは、レターデーション発現剤を含んでいてもよい。レターデーション発現剤を採用することにより、低延伸倍率で高いレターデーション発現性を得られる。一方、本発明のフィルムは、後述する前記セルロースアシレートフィルムの製造方法で製造されることにより、これらのレターデーション発現剤を含まない場合であっても、レターデーション発現性が良好である。
前記レターデーション発現剤としては、特に制限はないが、棒状化合物からなるものや、シクロアルカンまたは芳香族環といった環状構造を有する化合物からなるものや、前記非リン酸エステル系の化合物のうちレターデーション発現性を示す化合物を挙げることができる。環状構造を有する化合物としては、円盤状化合物が好ましい。上記棒状化合物あるいは円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。
なお、二種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0104】
レターデーション発現材としては、例えば特開2004−50516号公報、特開2007−86748号公報に記載されている化合物、特開2010−46834号公報に記載されている化合物を用いることができるが、本発明はこれらに限定されない。
円盤状化合物としては、例えば欧州特許出願公開第0911656A2号明細書に記載の化合物、特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2008−150592号公報[0097]〜[0108]に記載されるトリフェニレン化合物も好ましく用いることもできる。
【0105】
円盤状化合物は、例えば特開2003−344655号公報に記載の方法、特開2005−134884号公報に記載の方法等、公知の方法により合成することができる。
【0106】
前述の円盤状化合物の他に直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができ、例えば特開2008−150592号公報[0110]〜[0127]に記載される棒状化合物を好ましく用いることができる。
【0107】
(3) 酸化防止剤、熱劣化防止剤
本発明では、酸化防止剤、熱劣化防止剤としては、通常知られているものを使用することができる。特に、ラクトン系、イオウ系、フェノール系、二重結合系、ヒンダードアミン系、リン系化合物のものを好ましく用いることができる。前記酸化防止剤、熱劣化防止剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0108】
(4) 着色剤
本発明においては、着色剤を使用してもよい。着色剤と言うのは染料や顔料を意味するが、本発明では、液晶画面の色調を青色調にする効果またはイエローインデックスの調整、ヘイズの低減を有するものを指す。前記着色剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0109】
<セルロースアシレートフィルムの特性>
(Re、Rth)
本発明のフィルムは、波長550nmにおける面内および膜厚方向のレターデーションが下記式(1)および(2)を満たす。
式(1) 40nm≦Re(550)≦60nm
(式(1)中、Re(550)は波長550nmにおける面内方向のレターデーションを表す。)
式(2) 100nm≦Rth(550)≦300nm
(式(2)中、Rth(550)は波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションを表す。)
このような範囲でレターデーションを発現していることが、液晶表示装置のコントラストや黒色味変化改善の観点から好ましい。
前記Re(550)は45〜60nmであることが好ましく、48〜60nmであることがより好ましい。
前記Rth(550)は105〜280nmであることが好ましく、110〜250nmであることがより好ましい。
【0110】
本発明のフィルムは、下記式(6)を満たすことが、フィルムの薄膜化および十分なRth発現の両立をし、かつフィルムの原料コストを下げる観点から好ましい。
式(6) 3.0×10-3 < Rth(550)/d
(式(6)中、Rth(550)は波長550nmにおける膜厚方向のレターデーション(単位:nm)を表し、dはフィルム膜厚(単位:mm)を表す。)
前記Rth(550)/dは3.0 〜10.0×10-3であることが好ましく、3.4〜9.0×10-3であることがより好ましい。
【0111】
また本発明のフィルムは2軸性の光学補償フィルムであることが好ましい。
ここで光学補償フィルムが2軸性であるとは光学補償フィルムのnx、nyおよびnz(nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。)がそれぞれ全て異なる場合であり、本発明の場合にはnx>ny>nzであることがさらに好ましい。
本発明のフィルムが2軸性の光学特性を示すということは液晶表示装置、特にVAモード液晶表示装置における斜め方向から観察した場合のカラーシフトの問題を低減する上で好ましい特性である。
【0112】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、550nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)及び式(B)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0113】
【数1】

【0114】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(B)
なおこの際、パラメーターとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
【0115】
(膜厚)
本発明のフィルムは、スレートPCなどの需要に対し、より薄く軽いディスプレーを提供するために、膜厚が10μmから45μmであることを特徴とする。本発明のフィルムは膜厚が15〜30μmであることがより好ましく、18〜28μmであることが特に好ましい。本発明のフィルムが積層フィルムである場合、フィルムの合計膜厚の範囲が上記好ましい範囲であることが好ましい。
【0116】
(寸度変化率)
本発明のフィルムは、寸度変化率の絶対値が下記式(3)を満たすことが好ましい。
式(3) |{(L'−L0)/L0}×100%|≦0.5%
(式(3)中、L0は60℃相対湿度90%で24時間経過させる前のフィルム長さ(単位:mm)を表し、L'は60℃相対湿度90%で24時間経過させ、さらに2時間調湿した後のフィルム長さ(単位:mm)を表す。)
本発明のフィルムは、寸度変化率の絶対値がフィルム搬送方向およびそれに直交する方向において前記式(3)を満たすことが好ましい。
本発明のフィルムは、60℃相対湿度90%で24時間経過前後の寸度変化率の絶対値がフィルム搬送方向において0.3%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが特に好ましい。
本発明のフィルムは、60℃相対湿度90%で24時間経過前後の寸度変化率の絶対値がフィルム搬送方向に直交する方向において0.4%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましく、0.2%以下であることが特に好ましい。
【0117】
(内部ヘイズ)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、内部ヘイズが0.1%以下であることが好ましい。
ヘイズはJIS K7136に準じて測定されたヘイズ値(%)を表す。
本発明のフィルムの内部ヘイズは、得られたセルロースアシレートフィルムの両面にグリセリン数滴を滴下し、厚さ1.3mmのガラス板(MICRO SLIDE GLASS品番S9213、MATSUNAMI製)2枚で両側から挟んだ状態で測定したヘイズ
値(%)から、ガラス2枚の間にグリセリンを数滴滴下した状態で測定したヘイズを引いた値(%)を表す。
本発明のセルロースアシレートフィルムのヘイズは、濁度計(NDH2000、日本電色工業(株))を用いて、23℃、相対湿度55%の環境下24時間放置したフィルムにおいて、同環境下で測定した。
【0118】
本発明のセルロースアシレートフィルムの内部ヘイズは、0.1%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがより好ましく、0.02%以下であることが更にこのましい。
ヘイズは、低い方が一般的には好ましいとされている。また単に、全へイズが低いだけでは、正面コントラスト改善には不十分であり、本発明者らは内部へイズを上記範囲に調整し、液晶表示装置の正面コントラストの改善に至った。
【0119】
(セルロースアシレートフィルムの層構造)
本発明のフィルムは単層フィルムであっても、2層以上の積層構造を有していてもよいが、単層フィルムであることが好ましい。
【0120】
(フィルム幅)
本発明のフィルムは、フィルム幅が1000mm以上であることが好ましく、1500mm以上であることがより好ましく、1800mm以上であることが特に好ましい。
【0121】
[セルロースアシレートフィルムの製造方法]
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法(以下、前記セルロースアシレートフィルムの製造方法とも言う)は、特に制限されるものではない。
【0122】
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法は、前記セルロースアシレートを含むフィルムを溶液流延製膜法または溶融製膜法を利用して製膜することができる。フィルムの面状を改善する観点から、前記セルロースアシレートフィルムの製造方法は、前記セルロースアシレートを含むフィルムを溶液流涎製膜により製膜する工程を含むことが好ましい。
以下、前記セルロースアシレートフィルムの製造方法を、溶液流延製膜法を用いる場合を例に説明するが、前記セルロースアシレートフィルムの製造方法は溶液流延製膜法に限定されるものではない。なお、前記セルロースアシレートフィルムの製造方法として前記溶融製膜法を用いる場合については、公知の方法を用いることができる。
【0123】
<ポリマー溶液>
溶液流延製膜方法では、前記セルロースアシレートや必要に応じて各種添加剤を含有するポリマー溶液(セルロースアシレート溶液)を用いてウェブを形成する。以下において、溶液流延製膜方法に用いることができるポリマー溶液(以下、適宜セルロースアシレート溶液またはドープと称する場合もある)について説明する。
【0124】
(溶媒)
本発明で用いられるセルロースアシレートは溶媒に溶解させてドープを形成し、これを基材上に流延しフィルムを形成させる。この際に押し出しあるいは流延後に溶媒を蒸発させる必要性があるため、揮発性の溶媒を用いることが好ましい。
更に、反応性金属化合物や触媒等と反応せず、かつ流延用基材を溶解しないものである。又、2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
また、セルロースアシレートと加水分解重縮合可能な反応性金属化合物を各々別の溶媒に溶解し後に混合してもよい。
ここで、上記セルロースアシレートに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0125】
前記良溶媒の例としてはアセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ-ブチロラクトン等のエステル類の他、メチ
ルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチルおよび塩化メチレンが好ましい。
【0126】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。
これらは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることでウェブ(支持体上にセルロースアシレートのドープを流延した以降のドー
プ膜の呼び方をウェブとする)をゲル化させ、金属支持体から剥離することを容易にする
ゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースアシレートの溶解を促進したりする役割もあり、反応性金属化合物のゲル化、析出、粘度上昇を抑える役割もある。
【0127】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。
これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、且つ毒性がないこと等からエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロースアシレートに対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0128】
本発明においてセルロースアシレートフィルムを構成するセルロースアシレートは、水酸基やエステル、ケトン等の水素結合性の官能基を含むため、全溶媒中に5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することが流延支持体からの剥離荷重低減の観点から好ましい。
アルコール含有量を調整することによって、前記セルロースアシレートフィルムの製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの発現性を調整しやすくすることができる。具体的には、アルコール含有量を上げることや、後述の前記セルロースアシレートフィルムの製造方法における延伸前の乾燥温度(熱処理温度)を比較的低く設定することで、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。
また、本発明においては、水を少量含有させることも溶液粘度や乾燥時のウェットフィルム状態の膜強度を高めたり、ドラム法流延時のドープ強度を高めたりするのに有効であり、例えば溶液全体に対して0.1〜5質量%含有させてもよく、より好ましくは0.1〜3質量%含有させてもよく、特には0.2〜2質量%含有させてもよい。
【0129】
本発明におけるポリマー溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合せの例については、特開2009−262551号公報に挙げられている。
【0130】
また、必要に応じて、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とすることもでき、詳細な記載は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載がある。
【0131】
本発明におけるポリマー溶液中のセルロースアシレート濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。
前記セルロースアシレート濃度は、セルロースアシレートを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜14質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。また、添加剤を添加することで、セルロースアシレートの濃度を低下させることもできる。
【0132】
添加剤を添加する時期は、添加剤の種類に応じて適宜決定することができる。
【0133】
このような条件を満たし好ましい高分子化合物であるセルロースアシレートを高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
【0134】
<各工程の詳細>
(1)溶解工程
セルロースアシレートに対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で該セルロースアシレート、添加剤を攪拌しながら溶解しドープを形成する工程、あるいはセルロースアシレート溶液に添加剤溶液を混合してドープを形成する工程である。
セルロースアシレートの溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、または特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができるが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
ドープ中のセルロースアシレートの濃度は10〜35質量%が好ましい。溶解中または
後のドープに添加剤を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
【0135】
(2)流延工程
ドープを、送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイに送液し、無限に移送する無端の金属ベルト、例えばステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。
ダイの口金部分のスリット形状を調整出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、何れも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。あるいは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
【0136】
(3)溶媒蒸発工程
ウェブ(セルロースアシレートフィルムの完成品となる前の状態であって、まだ溶媒を多く含むものをこう呼ぶ)を金属支持体上で加熱し、金属支持体からウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程である。
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体の裏面
から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が、乾燥効率がよく好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。裏面液体伝熱の場合は、ドープ使用有機溶媒の主溶媒または最も低い沸点を有する有機溶媒の沸点以下で加熱するのが好ましい。
【0137】
(4)剥離工程
金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。なお、剥離する時点でのウェブの残留溶媒量(下記式)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で充分に乾燥させ過ぎてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
ここで、製膜速度を上げる方法(残留溶媒量ができるだけ多いうちに剥離することで製膜速度を上げることができる)としてゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。例えば、ドープ中にセルロースアシレートに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体上でゲル化させ剥離時の膜の強度を上げておくことによって、剥離を早め製膜速度を上げることができる。
金属支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、金属支持体の長さ等により5〜150質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃とするのが好ましく、10〜40℃がより好ましく、15〜30℃とするのが最も好ましい。
【0138】
また、該剥離位置におけるウェブの残留溶媒量を10〜150質量%とすることが好ましく、更に10〜120質量%とすることが好ましい。
残留溶媒量は下記の式で表すことができる。
残留溶媒量(質量%)=[(M−N)/N]×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、Nは質量Mのものを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0139】
(5)乾燥または熱処理工程、延伸工程
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法では、130〜185℃の温度で前記延伸工程を行うことが、得られるセルロースアシレートフィルムの膜厚に対する光学発現性、すなわちRth(550)/dを高める観点から、好ましい。
前記剥離工程後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置、および/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて、ウェブを乾燥することが好ましい。
【0140】
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法では、延伸する前にウェブを熱処理しても、熱処理しなくてもよい。
【0141】
また、乾燥または熱処理温度は、30分以下であることが好ましく、20分以下であることがより好ましく、10分程度であることが特に好ましい。
【0142】
乾燥および熱処理の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。使用する溶媒によって、温度、風量及び時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて条件を適宜選べばよい。
【0143】
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法では、フィルム搬送方向(以下、縦方向とも言う)とフィルム搬送方向に直交する方向(以下、横方向とも言う)のいずれの方向に延伸してもよいが、少なくとも横方向に延伸することが、所望のレターデーションを発現させる観点から好ましい。さらに好ましくは縦及び横方向に2軸延伸されたものである。延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。
【0144】
フィルム搬送方向への延伸における延伸倍率は、0〜20%であることが好ましく、0〜15%であることがより好ましく、0〜10%であることが特に好ましい。前記延伸の際のセルロースアシレートウェブの延伸倍率(伸び)は、金属支持体速度と剥ぎ取り速度(剥ぎ取りロールドロー)との周速差により達成することができる。例えば、2つのニップロールを有する装置を用いた場合、入口側のニップロールの回転速度よりも、出口側のニップロールの回転速度を速くすることにより、搬送方向(縦方向)にセルロースアシレートフィルムを好ましく延伸することができる。このような延伸を行うことによって、レターデーションの発現性を調整することができる。
なお、ここでいう「延伸倍率(%)」とは、以下の式により求められるものを意味する。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0145】
フィルム搬送方向に直交する方向への延伸における延伸倍率は、15%を超えて35%未満であることが好ましく、16〜34%であることがより好ましく、17〜33%であることが特に好ましい。
なお、本発明においては、フィルム搬送方向に直交する方向に延伸する方法として、テンター装置を用いて延伸することが好ましい。
【0146】
2軸延伸の際に縦方向に、例えば0.8〜1.0倍に緩和させて所望のリターデーション値を得ることもできる。延伸倍率は目的の光学特性に応じて設定される。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する場合、長尺方向に一軸延伸することもできる。
【0147】
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法では、130〜185℃の温度で前記延伸工程を行うことが好ましいが、延伸温度がTg−5℃以下であることも好ましい。以下、このような温度範囲での延伸を低温延伸とも言う。フィルム状に形成されたフィルムを低温延伸することにより、本発明のフィルムの膜厚を厚くせずにRth発現性を高めることができ、すなわちRth(550)/dをより高めることができ、好ましい。いかなる理論に拘泥するものでもないが、前記低温延伸では延伸中のポリマーや添加剤の配向が高温延伸時よりもおきにくいため、Rthを低下させずに、Reを発現することができる。
一方、一般的な公知のセルロースアシレートフィルムを低温延伸した場合、その弊害として湿熱環境下での寸法変化が悪化しやすく、ヘイズも発現しやすい傾向にある。いかなる理論に拘泥するものでもないが、低温延伸後に残留ひずみが残りやすく、低温延伸時にはクレイズが生じやすいことに起因すると予想される。
【0148】
これに対し、前記セルロースアシレートフィルムの製造方法では、延伸工程後に後述する特定の条件での湿熱処理工程を行うことにより、低温延伸時に生じた残留ひずみを解放する効果を得ることができるため、低温延伸工程を含めた場合にも本発明の効果を十分に保ちつつ、さらに低温延伸に起因するRthの発現性改善の効果を得ることができる。
【0149】
また、前記セルロースアシレートフィルムの製造方法のより好ましい態様では、低アシル置換度のセルロースアセテート(特にアセチル置換度2.0〜2.3のセルロースアセテート)を用い、かつ、低温延伸することで、上記低温延伸に起因するヘイズも抑制することができる。いかなる理論に拘泥するものでもないが、前記セルロースアシレートとして低アセチル置換度のセルロースアセテートを用いると、該低アセチル置換度のセルロースアセテートは前記糖エステル化合物との相溶性が高いため、均一に両者が分散し、低温延伸中に添加剤が相分離しにくくなると予想される。そのため、延伸応力がウェブ全体に均一にかかるように制御でき、低温延伸時に生じやすい上記クレイズの発生を抑制することができる。その結果、前記セルロースアシレートフィルムの製造方法で得られるフィルムの内部ヘイズを前記好ましい範囲に制御することができる。
【0150】
前記延伸温度は、130〜195℃であることがより好ましく、135℃〜190℃であることが特に好ましく、135℃〜185℃であることがより特に好ましく、140℃〜185℃であることがさらにより特に好ましい。
【0151】
なお、延伸工程後から後述する湿熱処理工程の前に乾燥してもよい。延伸工程後から後述する湿熱処理工程の前に乾燥する場合、使用する溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。本発明では、延伸工程後から後述する湿熱処理工程の前の乾燥温度は、延伸工程の延伸温度よりも低い方が、本発明のフィルムを液晶表示装置に組み込んだときの正面コントラストを上昇させる観点から好ましい。
【0152】
(6)湿熱処理工程
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法は、湿熱処理温度80〜120℃、絶対湿度150〜250g/m3で湿熱処理をする工程を含むことが好ましい。
いかなる理論に拘泥するものでもないが、寸度変化率が大きいフィルムを液晶表示装置に組み込んだ際、問題となるのは例えば60℃、相対湿度90%の条件下に長時間おいた際にフィルム寸度が不可逆変化をしてしまうことに起因する。前記条件で湿熱処理を施すことで、積極的にフィルム製膜中に不可逆変化を発生させることで、得られたセルロースアシレートフィルムを液晶表示装置に実装した際に、液晶表示パネルななめ方向のコーナームラ(湿熱処理を行ったときに発生してしまう表示ムラ)の発生をより抑えることができる。
【0153】
また、前記セルロースアシレートフィルムの製造方法のより好ましい態様では、低アセチル置換度のセルロースアセテート(特にアセチル置換度2.0〜2.3のセルロースアセテート)を用い、光学発現性や逆波長分散性発現性を高めるものである。このような低アセチル置換度のセルロースアセテートは、同程度のアシル置換度であるセルロースアセテートプロピオネート(以下、CAPとも言う)や、同程度のアシル置換度であるその他のアセチル基以外のアシル基を置換基として有するセルロースアシレート(例えば、特開2009−1696号公報に記載のセルロースアセテートフタレートなど)よりも、光学発現性や逆波長分散性発現性の観点からは有利である。本発明のフィルムは、特定の条件下で湿熱処理されてなることで、寸法変化を十分に低減させることができる。その結果、前記セルロースアシレートフィルムの製造方法のより好ましい態様で得られたセルロースアシレートフィルムを液晶表示装置に実装した際にも、液晶表示装置のコントラストおよび色味変化をさらに改善しつつ、液晶表示パネルななめ方向のコーナームラ(湿熱処理を行ったときに発生してしまう表示ムラ)の発生を十分に抑えることができる。
【0154】
前記湿熱処理温度は、90〜110℃であることが特に好ましい。なお、ここで言う湿熱処理温度とは、接触気体との接触させた後のセルロースアシレートフィルムの温度のことを言う。
【0155】
前記湿熱処理絶対湿度量は、180〜380g/m3であることが好ましく、200〜350g/m3であることがより好ましく、220〜340g/m3であることが特に好ましい。
【0156】
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法は、低置換度のセルロースアシレートフィルム(具体的には、アシル置換度2.0〜2.3のセルロースアシレートフィルム、特に好ましくはアセチル置換度2.0〜2.3のセルロースアセテートフィルム)に対して湿熱処理を行う際に絶対湿度量を上記範囲に制御することが好ましい。例えば、アシル置換度が2.9前後のセルロースアシレートフィルムで最適とされていた絶対湿度量を低置換度セルロースアシレートフィルムに照射すると、湿熱処理工程において大きく搬送方向に延伸されることもある。
【0157】
湿熱処理工程におけるセルロースアシレートフィルムに接触される気体(接触気体)は水蒸気を含む気体であり、水蒸気を主たる成分として含む気体であることがより好ましく、水蒸気であることがさらに好ましい。ここで、主たる成分として含む気体とは、単一の気体からなる場合には、その気体のことを示し、複数の気体からなる場合には、構成する気体のうち、最も質量分率の高い気体のことを示す。
【0158】
前記接触気体は、湿潤気体供給装置によって生成される気体であることが好ましい。具体的には、液体状態の溶媒をボイラで加熱して気体状態とした後、ブロアによって送られるものであり、接触気体には、適宜空気を混合させてもよく、ブロアによって送られた後に加熱装置を経由させてさらに加熱してもよい。ここで、該空気は加熱されたものであることが好ましい。このようにして生成された接触気体の温度は、70〜200℃であることが好ましく、80〜160℃であることがより好ましく、100〜140℃であることが最も好ましい。上限温度以下であればフィルムのカールが強くなり過ぎず好ましく、下限温度以上であれば十分な効果が得られる。
【0159】
接触気体の相対湿度は、10%〜100%であることが好ましく、15〜100%であることがより好ましく、20〜100%であることが特に好ましい。
【0160】
湿熱処理工程におけるセルロースアシレートフィルムと前述の接触気体との接触方法としては、前記接触気体をセルロースアシレートフィルムに当てる方法、接触気体で満たされた空間にセルロースアシレートフィルムを配置する方法、または接触気体で満たされた空間を通過させる方法を用いることができ、接触気体をセルロースアシレートフィルムに当てる方法、または接触気体で満たされた空間を通過させる方法が好ましい。また、セルロースアシレートフィルムと接触気体との接触は、セルロースアシレートフィルムを千鳥状に配置された複数のローラで案内しながら実施されることが好ましい。
【0161】
接触気体との接触時間は、特に限定されないが、本発明の効果が発揮される範囲内であれば、生産効率の点から出来るだけ短いほうが好ましい。処理時間の上限値として、例えば、60分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましい。一方、処理時間の下限値として、例えば、10秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましい。
接触気体との接触する前のセルロースアシレートフィルムの温度は特に限定されないが、80〜130℃であることが好ましい。
【0162】
また、前記湿熱処理前のセルロースアシレートフィルムの残留溶媒量は特に限定されないが、セルロースアシレート分子の流動性がほとんど消失していることが好ましく、0〜5質量%であることが好ましく、0〜0.3質量%であることがより好ましい。
セルロースアシレートフィルムと接触した接触気体は、冷却装置が接続された凝縮装置に送られ、加熱気体と凝縮液とに分けられてもよい。
【0163】
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法では、前記湿熱処理する工程のタイミングは延伸工程の直後であっても、延伸工程後に乾燥工程を行った直後であってもよく、さらに、延伸工程後に一度ロール状に巻き取った後で行ってもよい。一度ロール状に巻き取った後で前記湿熱処理を行う場合は、ロール状のままで行っても、再度フィルム状に巻出してから行ってもよい。
【0164】
(7)湿熱処理後の乾燥工程
このようにして接触気体と接触したセルロースアシレートフィルムは、そのまま略室温まで冷却してもよいし、フィルム中に残存した接触気体分子の量を調整するために、続いて乾燥ゾーンへ搬送してもよい。乾燥ゾーンへ搬送する場合、ロール群で搬送されているセルロースアシレートフィルムやテンターで両端をクリップされながら搬送されているセルロースアシレートフィルムに対し、熱風もしくは温風や、ガス濃度の低い風をあてる方法、熱線を照射する方法、昇温されたロールに接触させる方法等があるが、熱風もしくは温風や、ガス濃度の低い風をあてる方法が好ましい。なお、水蒸気接触工程が熱処理工程の前に実施される場合には、熱処理工程を乾燥工程とすることもできる。
【0165】
(8)湿熱処理後の熱処理工程
本発明のフィルムの製造方法湿熱処理工程終了後に前述のような熱処理工程を設けることも好ましい。本発明では湿熱処理工程後から乾燥工程前までの間に行ってもよく、湿熱処理工程後に熱処理工程を乾燥工程と兼ねて行ってもよく、あるいは湿熱処理工程と乾燥工程終了後に後述する方法で一旦巻き取った後に、熱処理工程だけを別途設けてもよい。本発明においては湿熱処理工程後から乾燥工程前までの間に前記熱処理工程を設けることが好ましい。これは熱寸法安定性のより優れたフィルムを得られる点で有利であるからである。
このような処理によりフィルムの収縮率を小さくできる理由は明確ではないが、延伸工程にて延伸される処理を経たフィルムにおいては、延伸方向の残留応力が大きいため、熱処理によって前記残留応力が解消されることにより、熱処理温度以下の領域での収縮力が低減されるものと推定される。
【0166】
熱処理は、搬送中のフィルムに所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法により行われる。
熱処理乾燥時は絶対湿度量が0g/m3であることが好ましい。熱処理工程における熱処理温度も前記湿熱処理工程と同じ温度とすることが結露防止およびフィルム収縮の観点から好ましい。
【0167】
なお前記熱処理工程において、フィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。この収縮を可能な限り抑制しながら熱処理することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましく、幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンター方式)が好ましい。さらに、フィルムの幅方向および搬送方向に、それぞれ0.9倍〜1.5倍に延伸することが好ましい。
【0168】
(9)巻き取り
得られたフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロ−ル法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。以上の様にして得られた光学フィルムロールは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲であることが好ましい。または、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±0.1度以内であることが好ましい。あるいはフィルムの幅手方向に対して±0.1度以内であることが好ましい。
【0169】
以上のようにして得られた、フィルムの長さは、1ロール当たり100〜10000mで巻き取るのが好ましく、より好ましくは500〜7000mであり、さらに好ましくは1000〜6000mである。フィルムの幅は、0.5〜5.0mが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0mであり、さらに好ましくは1.0〜2.5mである。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mm、高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
【0170】
本発明のフィルムは、特に大画面液晶表示装置に用いるのに適している。大画面用液晶表示装置用の光学補償フィルムとして用いる場合は、例えば、フィルム幅を1470mm以上として成形するのが好ましい。また、本発明の光学補償フィルムには、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様のフィルムのみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様のフィルムも含まれる。後者の態様の光学補償フィルムは、その状態で保管・搬送等され、実際に液晶表示装置に組み込む際や偏光子等と貼り合わされる際に、所望の大きさに切断されて用いられる。また、同様に長尺状に作製されたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子等と、長尺状のまま貼り合わされた後に、実際に液晶表示装置に組み込む際に、所望の大きさに切断されて用いられる。ロール状に巻き上げられた光学補償フィルムの一態様としては、ロール長が2500m以上のロール状に巻き上げられた態様が挙げられる。
【0171】
このようにして得られたウェブを巻き取り、最終完成物であるセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0172】
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法では、延伸後のフィルムの膜厚が、本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚の範囲となるように製膜することが好ましい。10μm以上であると機械的強度が不足し生産時の破断等の故障が起こり難く、フィルム面状が悪くなり難い。また、湿熱処理の効果は15
〜45μmの範囲において顕著である。
【0173】
フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0174】
[偏光板]
本発明の偏光板は、偏光子と、該偏光子の少なくとも片側に本発明のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚含む。本発明の偏光板は、本発明のセルロースアシレートフィルムを含むことで、カールの発生が抑制されている。以下、本発明の偏光板について説明する。
【0175】
本発明のフィルムと同様、本発明の偏光板の態様は、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様の偏光板のみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様(例えば、ロール長2500m以上や3900m以上の態様)の偏光板も含まれる。大画面液晶表示装置用とするためには、上記した通り、偏光板の幅は1470mm以上とすることが好ましい。
本発明の偏光板の具体的な構成については、特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば、特開2008−262161号公報の図6に記載の構成を採用することができる。
【0176】
[液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は、本発明の偏光板を少なくとも1枚含む。本発明の液晶表示装置は、本発明のセルロースアシレートフィルムを含む本発明の偏光板を含むことで、色味変化が抑制されており、コーナームラの発生が抑制されている。さらに、本発明の液晶表示装置は、正面方向から観察したときのコントラストも改善されていることが好ましい。
本発明の液晶表示装置は液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が本発明の偏光板であることを特徴とするIPS、OCBまたはVAモードの液晶表示装置であることが好ましい。
本発明の液晶表示装置の具体的な構成としては特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば図1に記載の構成とした例を採用することができる。また、特開2008−262161号公報の図2に記載の構成も好ましく採用することができる。
【実施例】
【0177】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0178】
《測定法》
本発明では、下記の測定方法によりフィルム特性の測定を行った。
【0179】
(光学発現性)
KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)で上記の方法によりReおよびRthを波長550nmで計測した。それらの結果を下記表6に記載した。
【0180】
(内部ヘイズ)
得られたセルロースアシレートフィルム試料40mm×80mmの両面にグリセリン数滴を滴下し、厚さ1.3mmのガラス板(MICRO SLIDE GLASS品番S9213、MATSUNAMI製)2枚で両側から挟んだ状態で25℃、相対湿度60%で、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−6714に従って測定したヘイズ値から、ガラス2枚の間にグリセリンを数滴滴下した状態で測定したヘイズを引いた値(%)を、内部ヘイズとした。その結果を下記表6に示す。
【0181】
(寸度変化量)
60℃相対湿度90%で24時間経過前後の寸度変化率、すなわち(L'−L0)/L0}×100%の値を、フィルム搬送方向およびそれに直交する方向において求めた。ここで、前記L0は60℃相対湿度90%で24時間経過させる前のフィルム長さ(単位:mm)を表し、前記L'は60℃相対湿度90%で24時間経過させた後さらに2時間調湿した後のフィルム長さ(単位:mm)を表す。また、用いたサンプルフィルムは30mm×120mmのものを用い、その他の条件は以下のとおりとした。
25℃、相対湿度60%の雰囲気下で2時間以上調湿後、自動ピンゲージ(新束科学(株)製)にて、フィルムの120mm辺に平行になるように6mmφの穴を100mm間隔に開け、間隔の原寸(L0)を最小目盛り1/1000mmまで測定する。そして60℃相対湿度90%で24時間経過した後に、25℃、相対湿度60%の雰囲気下で2時間調湿後、パンチの間隔の寸法L'を測定する。
得られた結果を下記表6に示した。
【0182】
[実施例1〜20および比較例1〜10]
(1)合成によるセルロースアシレートの調製
表6に記載のアシル置換度のセルロースアシレートを調製した。触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、各カルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。その後、硫酸触媒量、水分量および熟成時間を調整することで全置換度と6位置換度を調整した。熟成温度は40℃で行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0183】
(2)ドープ調製
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、さらに90℃に約10分間加熱した後、平均孔径34μmのろ紙および平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液
――――――――――――――――――――――――――――――――――
下記表6に記載のセルロースアシレート 合計100.0質量部
下記表6に記載の添加剤1 (下記表6に記載の量 単位:質量部)
下記表6に記載の添加剤2 (下記表6に記載の量 単位:質量部)
メチレンクロライド 403.0質量部
メタノール 60.2質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0184】
また、各添加剤の構造を以下に記載する。
【0185】
【表5】

【0186】
【化26】

【0187】
【化27】

【0188】
<1−2> マット剤分散液
次に上記方法で作成したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、マット剤分散液を調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤分散液
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・マット剤(アエロジルR972) 0.2質量部
・メチレンクロライド 72.4質量部
・メタノール 10.8質量部
・セルロースアシレート溶液 10.3質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
上記セルロースアシレート溶液を100質量部、マット剤分散液をセルロースアシレートに対して無機微粒子が0.02質量部となる量を混合し、製膜用ドープを調製した。
【0189】
(3)流延
上述のドープを、バンド流延機を用いて流延した。なお、バンドはSUS製であった。
【0190】
(4)乾燥
流延されて得られたウェブ(フィルム)を、バンドから剥離後、クリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて該テンター装置内で20分間乾燥した。
【0191】
(5)延伸
得られたウェブ(フィルム)をバンドから剥離し、クリップに挟み、フィルム全体の質量に対する残留溶媒量が0〜40%の状態のときに固定端一軸延伸の条件で、下記表6に記載の延伸温度および延伸倍率でテンターを用いてフィルム搬送方向に直交する方向(横方向)に延伸した。
その後にフィルムからクリップを外して110℃で30分間乾燥させた。このとき、延伸後の膜厚が表6に記載の膜厚(単位:μm)になるように、流延膜厚を調整した。
【0192】
(6)湿熱処理
延伸処理を経た各フィルムに、結露防止処理、湿熱処理(水蒸気接触処理)及び熱処理を順次行った。
結露防止処理では、各フィルムに乾燥空気をあてて、フィルム温度(100℃)Tf0を調節した。
湿熱処理(水蒸気接触処理)では、湿潤気体接触室内の湿潤気体の絶対湿度(湿熱処理絶対湿度)が表6に示す値となるように、そして、湿潤気体の露点は、各フィルムの温度Tf0よりも10℃以上高い温度となるように調節し、各フィルムの温度(湿熱処理温度)が表6に示す値となる状態を、処理時間(60秒)だけ維持しながら、各フィルムを搬送した。
【0193】
(7)乾燥および(8)湿熱処理後の熱処理
熱処理では、熱処理室内の気体の絶対湿度(熱処理絶対湿度)を0g/m3とし、各フィルムの温度(熱処理温度)を湿熱処理温度と同じ温度に設定して、処理時間(2分)だけ維持した。フィルム表面温度は、テープ型熱電対表面温度センサー(安立計器(株)製STシリーズ)をフィルムに3点貼り付け、それぞれの平均値から求めた。
【0194】
(9)巻き取り
その後、室温まで冷却した後で各フィルムを巻き取り、その製造適性を判断する目的で、ロール幅1280mm、ロール長2600mmのロールを上記条件で最低24ロール作製した。連続で製造した24ロールの中の1ロールについて100m間隔で長手1mのサンプル(幅1280mm)を切り出して各実施例および比較例のフィルムとし、各測定を行った。
【0195】
(偏光板試料の作製)
上記で作製した各実施例および比較例のフィルムの表面をアルカリ鹸化処理した。1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に55℃で2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。続いて、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光子を得た。ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、前記のアルカリ鹸化処理した各実施例および比較例のフィルムと、同様のアルカリ鹸化処理したフジタックTD80UL(富士フイルム社製)を用意し、これらの鹸化した面が偏光子側となるようにして偏光子を間に挟んで貼り合わせ、各実施例および比較例のフィルム、偏光子、TD80ULがこの順に貼り合わせてある偏光板をそれぞれ得た。この際、各フィルムのMD方向およびTD80ULの遅相軸が、偏光子の吸収軸と平行になるように貼り付けた。
【0196】
(偏光板のカール評価)
上記で作製した各実施例および比較例の偏光板のカールを以下の基準で測定した。
46インチサイズに偏光板を打ち抜き、平坦な机上に設置した際の偏光板の最大浮き高さを測定した。
測定した結果を、以下の基準にしたがって評価した。
○:0〜5mm。
△:5〜20mm。
×:20〜mm。
その結果を下記表6に記載した。
【0197】
(液晶表示装置の作製)
VAモードの液晶TV(LC−46LX1、SHARP社製)の表裏の偏光板および位相差板を剥がして、液晶セルとして用いた。図1(上方がフロント側)の構成のように、外側保護フィルム(不図示)、偏光子11、下記表に記載の各実施例および比較例のフィルム14(リア側のセルロースアシレートフィルム)、液晶セル13(上記のVA液晶セル)、下記表に記載の各実施例および比較例のフィルム15(フロント側のセルロースアシレートフィルム)、偏光子12および外側保護フィルム(不図示)をこの順に粘着剤を用いて貼り合わせ、各実施例および比較例の液晶表示装置を作製した。この際、上下の偏光板の吸収軸が直交するように貼り合わせた。
【0198】
正面コントラスト)
測定器(BM5A、TOPCON社製)を用いて、暗室において、パネル正面方向の黒表示および白表示の輝度値を測定し、正面コントラスト(白輝度/黒輝度)を算出した。
観測したコントラストを下記基準にしたがって評価した。
○:6500以上。
△:5000〜6500。
×:5000以下。
その結果を下記表6に記載した。
【0199】
(色味変化(カラーシフト))
(視野角(極角)方向のカラーシフト)
黒表示時において、液晶セルの法線方向から一対の偏光板の透過軸の中心線方向(方位角45度)に視角を倒した場合の色度の変化Δxθ、Δyθを、極角0〜80度の間で測定した。ここで、Δxθ=xθ−xθ0、Δyθ=yθ−yθ0であり、(xθ0、yθ0)は黒表示における液晶セル法線方向で測定した色度であり、(xθ、yθ)は黒表示における液晶セル法線方向から一対の偏光板の透過軸の中心線方向に極角θ度まで視角を倒した方向で測定した色度である。
結果を以下の基準で評価した。得られた評価を下記表8に示した。
○:Δxθ、Δyθがともに0.03以下である。
△:Δxθ、Δyθがともに0.05以下である。
×:Δxθ、Δyθがともに0.1より大である。
【0200】
(コーナームラ)
液晶表示装置の表示性能評価として、以下の条件でコーナームラを観測した。
作製した液晶表示装置を、60℃相対湿度90%で240時間放置した後、25℃相対湿度60%で24時間調湿し黒表示したときのコーナームラを目視で観測した。
観測したコーナームラレベルを下記基準にしたがって評価した。
○:良好。
△:わずかに発生。
×:著しく発生。
得られた結果を下記表6に記載した。
【0201】
【表6】

【0202】
【化28】

【0203】
上記表6より、実施例のフィルムはいずれも薄膜状態においても、所望の光学発現性があり、偏光板に実装した際のカールが改良され、かつ、液晶表示装置に実装した際に色味変化およびコーナー近傍に現れるムラが顕著に改良されていたことがわかった。
一方、比較例1のフィルムはセルロースアシレートの総アシル置換度が本発明の下限値を下回るものであり、偏光板に実装した際にカールが生じてしまうことがわかった。比較例2のフィルムはセルロースアシレートの総アシル置換度が本発明の上限値を上回るものであり、Rthが小さく、液晶表示装置に実装した際に色味変化およびコーナー近傍に現れるムラが劣ることがわかった。比較例3は膜厚が本発明の下限値を下回るようにフィルムを製造した態様であり、フィルムを形成することができず、破断してしまうことがわかった。比較例4のフィルムは膜厚が本発明の上限値を上回るものであり、液晶表示装置に実装した際に色味変化およびコーナー近傍に現れるムラが劣ることがわかった。比較例5および6のフィルムはそれぞれReが本発明の範囲外であるものであり、液晶表示装置に実装した際に色味変化が劣ることがわかった。比較例7および8のフィルムはそれぞれRthが本発明の範囲外であるものであり、液晶表示装置に実装した際に色味変化が劣ることがわかった。
比較例9は可塑剤を含まない系であり、延伸時に破断を発生した。
比較例10は非リン酸エステルを添加剤として用いていないものであり、フィルムが白化することがわかった。
【符号の説明】
【0204】
11 偏光子
12 偏光子
13 液晶セル
14 各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム
15 各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総置換度2.1〜2.3のセルロースアシレートと、非リン酸エステル系の化合物を含有し、
下記式(1)および式(2)を満たし、
膜厚が10μmから45μmであることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(1) 40nm≦Re(550)≦60nm
(式(1)中、Re(550)は波長550nmにおける面内方向のレターデーションを表す。)
式(2) 100nm≦Rth(550)≦300nm
(式(2)中、Rth(550)は波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションを表す。)
【請求項2】
膜厚が15μmから30μmであることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
寸度変化率の絶対値が下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(3) |{(L'−L0)/L0}×100%|≦0.5%
(式(3)中、L0は60℃相対湿度90%で24時間経過させる前のフィルム長さ(単位:mm)を表し、L'は60℃相対湿度90%で24時間経過させ、さらに2時間調湿した後のフィルム長さ(単位:mm)を表す。)
【請求項4】
前記セルロースアシレートのSP値と前記非リン酸エステル系の化合物のSP値との差の絶対値が1.5MPa1/2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム(但し、前記SP値は、Hoy法で測定した溶解度パラメーターの値を表す。)。
【請求項5】
前記非リン酸エステル系の化合物として、疎水化剤を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
前記疎水化剤として、糖類、重縮合エステル化合物および含窒素化合物から選択される少なくとも一種の添加剤を含むことを特徴とする、請求項5に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
前記セルロースアシレートが、セルロースアセテートであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
延伸温度130〜185℃で延伸されてなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項9】
延伸倍率が15%を超えて35%未満の範囲で延伸されてなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項10】
湿熱処理温度80〜120℃、絶対湿度150〜250g/m3で湿熱処理をされてなることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項11】
偏光子と、該偏光子の少なくとも片側に請求項1〜10のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを有することを特徴とする偏光板。
【請求項12】
請求項11に記載の偏光板を少なくとも1枚含むことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−226226(P2012−226226A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95486(P2011−95486)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】