説明

セルロースアシレートフィルム、及びその製造方法

【課題】薄型化VAモード液晶表示装置の光学補償に寄与するセルロースアシレートフィルム、及びその製造方法の提供。
【解決手段】2.1≦A+B≦2.4及び0.8≦B≦1.1(但しAはアセチル基の置換度、及びBはプロピオニル基の置換度)を満たすセルロースアシレートを含み、膜厚が30〜50μm、ヘイズが0.2%以下、Re(590)が40〜80nm、及びRth(590)が100〜300nmであることを特徴とするセルロースアシレートフィルム;及び長尺のセルロースアシレート原反フィルムの長手方向と平行な両端部を保持した状態で、温度T1℃(但し190≦T1≦240)℃で加熱する加熱工程;及び前記加熱工程の後、長尺のセルロースアシレート原反フィルムをT2℃(但し、T2<T1)とし、T2℃に保持した状態で、長手方向と直交する方向(幅方向)の長さ(幅)を1.3〜1.6倍にする拡幅工程を含む前記セルロースアシレートフィルムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の部材等として有用なセルロースアシレートフィルム、及びその製造方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースアシレートフィルムは、偏光板の保護フィルム、光学補償フィルム等として、表示装置に種々用いられている。光学補償フィルムの用途では、可視光域において高い透明性を有することともに、光学補償に必要な光学特性、具体的には面内レタデーションRe及び厚み方向レタデーションRth、を示すことが要求される。ところで、液晶表示装置については、近年、応答速度の向上等を目的として、液晶セルの薄型化が検討されている。しかし、液晶セルを薄型すると、それに伴い、その光学補償に用いられる位相差膜に要求される光学特性が変化し、従前の位相差膜では達成するのが困難な特性を示す位相差膜が必要になる場合がある。例えば、液晶表示装置VAモードの液晶表示装置では、光学的に2軸性の位相差膜を液晶セルの上下に配置することにより、広い視野角が実現できること、即ち、表示特性を向上できることが知られている(例えば、特許文献1)が、薄型化の要請に応えるためには、該特許文献に記載の2軸性の位相差膜では達成し得ない特性が必要になる。
【0003】
一方、セルロースアシレートフィルムの原料であるセルロースアシレートのアシル基置換度やその種類を調整することで、所望の特性のフィルムを製造することが提案されている(例えば、特許文献2〜4等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3330574号公報
【特許文献2】特開2003−240948号公報
【特許文献3】特開2003−270442号公報
【特許文献4】特開2007−3679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が鋭意検討した結果、VAモード液晶セルのセル厚みを薄くした場合、上記特許文献1に記載の光学補償機構を利用して光学補償するためには、従来用いられていた光学的に2軸性の位相差膜と比較して、面内レタデーションReを高く、且つ厚み方向レタデーションRthを低くする必要があるとの知見を得た。上記した通り、セルロースアシレートフィルムのレタデーションは、原料として含まれるセルロースアシレートのアシル置換度やアシル置換基の種類によって調整することができるが、セルロースアシレートのアシル置換度及びアシル置換基の種類は、フィルムのヘイズ、及びフィルムの光学特性の湿度依存性にも影響を与えるため、これらの諸特性について、実用上満足できる範囲としたまま、上記所望の光学特性を示すセルロースアシレートフィルムを提供することは困難である。
【0006】
本発明は、VAモード液晶表示装置の薄型化に寄与する新規なセルロースアシレートフィルム、及びその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、薄型化したVAモード液晶表示装置の光学補償に寄与するとともに、透明性に優れ、及び湿度に依存した光学特性の変動が小さい、セルロースアシレートフィルム、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため種々検討した結果、所定のアシル基を所定の置換度で有するセルロースアシレートを用いて、フィルム厚みを所定の範囲とすることで、薄型化されたVAモード液晶表示装置の光学補償に寄与し得るセルロースアシレートフィルムを提供し得るとの知見を得た。また、上記セルロースアシレートを原料として用いて製膜した後に、所定の温度範囲まで加熱した後に幅方向に所定の延伸倍率で拡幅することで、薄型化されたVAモード液晶表示装置の光学補償に寄与し得るセルロースアシレートフィルムを、安定的に製造し得るとの知見を得、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 下記式を満たすセルロースアシレートを含み、膜厚が30〜50μm、ヘイズが0.2%以下、波長590nmにおける面内レタデーションRe(590)が40〜80nm、及び波長590nmにおける厚み方向レタデーションRth(590)が100〜300nmであることを特徴とするセルロースアシレートフィルム:
2.1≦A+B≦2.4
0.8≦B≦1.1
上記式中、Aはアセチル基の置換度、及びBはプロピオニル基の置換度を意味する。
[2] マット剤をさらに含み、該マット剤の質量が、前記セルロースアシレートの質量に対して0.03〜0.1質量%であることを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[3] [1]又は[2]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法であって、
下記条件
2.1≦A+B≦2.4
0.8≦B≦1.1
(上記式中、Aはアセチル基の置換度、及びBはプロピオニル基の置換度を意味する)
を満足するセルロースアシレートを含む組成物から長尺のセルロースアシレート原反フィルムを得る製膜工程;
長尺のセルロースアシレート原反フィルムの長手方向と平行な両端部を保持した状態で、温度T1℃(但し190≦T1≦240)で加熱する加熱工程;及び
前記加熱工程の後、セルロースアシレート原反フィルムをT2℃(但し、T2<T1)とし、T2℃に保持した状態で、長手方向と直交する方向(幅方向)の長さ(幅)を1.3〜1.6倍にする拡幅工程、
を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[4] 前記製膜工程が、溶液製膜法に従ってセルロースアシレート原反フィルム得る工程であり、前記加熱工程前に、残留溶媒量が10〜60質量%である長尺のセルロースアシレート原反フィルムを、乾燥しつつ幅を1.1倍以上にする乾燥拡幅工程、及び乾燥拡幅工程中に又は乾燥拡幅工程後に、セルロースアシレート原反フィルム中の残留溶媒量を2質量%未満にすることを特徴とする[3]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、VAモード液晶表示装置の薄型化に寄与する新規なセルロースアシレートフィルム、及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、薄型化したVAモード液晶表示装置の光学補償に寄与するとともに、透明性に優れ、及び湿度に依存した光学特性の変動が小さい、セルロースアシレートフィルム、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の製造方法を実施したセルロースアシレートフィルム製造設備の概略図である。
【図2】クリップテンタにおけるセルロースアシレートフィルムの保持状態を示す説明図である。
【図3】溶液製膜部を含む位相差フィルム製造設備の概略図である。
【図4】溶液製膜部のクリップテンタにおける湿潤フィルムの保持状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
また、本明細書において、Re(λ)は、測定対象フィルムの、波長λ(nm)における面内のレタデーション値(単位:nm)を表し、及びRth(λ)は、測定対象フィルムの、波長λ(nm)における厚み方向のレタデーション値(単位:nm)を表す。
Re(λ)は、KOBRA 21ADH、又はWR(王子計測機器(株)製)において、波長λnmの光を、測定対象フィルムの法線方向に入射させて測定される。
測定波長λnmを変更する方法としては、波長選択フィルターをマニュアルで交換する方法、測定値をプログラム等で変換して測定する方法がある。
測定対象フィルムが1軸、又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合、以下の方法により、Rth(λ)が算出される。
Rth(λ)は、前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH、又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合には、測定対象フィルムの面内の任意の方向を回転軸とする)の測定対象フィルムの法線方向に対して、法線方向から片側50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレタデーション値と、平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH、又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレタデーションの値がゼロとなる方向をもつ測定対象フィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレタデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH、又はWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合には測定対象フィルムの面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレタデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)、及び式(B)よりRthを算出することもできる。
【0013】
【数1】

【0014】
なお、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタデーション値を表す。
また、式(A)におけるnxは、面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは、面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzは、nx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dは膜厚を表す。
【0015】
測定される測定対象フィルムが1軸、又は2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optical axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)が算出される。
Rth(λ)は、前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH、又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50°から+50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH、又はWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用できる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定できる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示すると、セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH、又はWRは、nx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
なお、本明細書において、Re、Rth及び屈折率について特に測定波長が付記されていない場合は、測定波長590nmであるものとする。また、特に測定環境について記載がない場合は、温度25℃相対湿度60%RHの環境下で測定した値であるものとする。
【0016】
また、本明細書において、光学部材の光学的軸の角度(例えば「45°」等の角度)、及びその関係(例えば「直交」もしくは「平行」)については、液晶表示装置の技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、厳密な角度±5°未満の範囲内であることなどを意味し、厳密な角度との誤差は、4°未満であることが好ましく、3°未満であることがより好ましい。
【0017】
1.セルロースアシレートフィルム
1.−1 セルロースアシレートフィルムの諸特性
本発明は、膜厚が30〜50μm、ヘイズが0.2%以下、Re(590)が40〜80nm、及びRth(590)が100〜300nmのセルロースアシレートフィルムに関する。本発明では、後述する所定のセルロースアシレートを用いることで、前記範囲のRe及びRthを、ヘイズを上昇させることなく達成している。また、所定のセルロースアシレートを用いることで、Re及びRthが湿度に依存して過度に変動することはがないセルロースアシレートフィルムを提供している。
【0018】
(Re及びRth)
本発明のセルロースアシレートフィルムのRe(590)及びRth(590)は、薄型化したVAモード液晶表示装置(例えば、電圧無印加時のΔndが280〜370nm程度の液晶セルを有するVAモード液晶表示装置)の、黒表示時に斜め方向に生じる光漏れを軽減するのに有用である。この用途においては、Re(590)が40〜80nmであるのが好ましく、45〜60nmであるのがより好ましい。また、Rth(590)が100〜300nmであるのが好ましく、110〜240nmであるのがより好ましい。本発明のセルロースアシレートフィルムは、例えば、偏光板保護フィルムとしてVAモード液晶表示装置に用いられる。当該態様では、液晶セル側に配置される保護フィルムとして用いられるのが好ましい。
【0019】
(ヘイズ)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ヘイズが0.2%以下である。ヘイズが前記範囲であると、液晶表示装置の正面(表示面に対して法線方向)のコントラストを低下させないので好ましい。従来のセルロースアシレートフィルムは、Re及びRthを上記範囲とするために、添加剤を多く含んでいたり、もしくは膜厚が厚い等により、ヘイズ0.2%以下を達成するのは困難であった。液晶表示装置の正面コントラストの観点では、ヘイズは、0.15%以下であるのがより好ましく、0.1%以下であるのがさらに好ましい。液晶表示装置の正面コントラストの観点では、ヘイズは小さいほど好ましいが、一般的には、フィルムのヘイズの下限値は、0.01%程度になる。
なお、本明細書において、フィルムのヘイズの測定方法は以下の通りである。フィルム試料40mm×80mmを準備し、25℃,60%RHの環境下、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)により、JIS K−6714に従って測定する。
【0020】
(膜厚)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、膜厚が30〜50μmであり、好ましくは、35〜45μmである。薄型化の観点では、膜厚は薄いほどよいが、薄すぎると、取り扱い性が損なわれ、またRe及びRthが低下し、所望の光学特性を満足しない場合がある。
【0021】
(Re及びRthの波長分散性)
また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、Re及びRthの可視光域における波長分散性が、順分散性(即ち、短波長なほどRe及びRthが小さくなる特性)、逆波長分散性(即ち、短波長なほどRe及びRthが小さくなる特性)、及び波長によらず一定のいずれの特性を満足する態様であってもよい。VAモード液晶表示装置の光学補償用には、Re及びRthが逆分散性を示すフィルムが好ましい。
【0022】
(Reの湿度依存性)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、環境に依存した光学特性の変動が小さいほうが、液晶表示装置の部材としての用途に好ましい。一般的に、セルロースアシレートフィルムは透湿性があるので、環境湿度に依存したReの変動(ΔRe)が懸念される。本発明のセルロースアシレートフィルムは、所定のアシル置換度のセルロースアシレートを材料として利用しているので、環境湿度に依存したΔReが小さいという特徴がある。具体的には、本発明のセルロースアシレートフィルムは、25℃10%RHで測定したRe(590)と、25℃80%RHで測定したRe(590)との差の絶対値|ΔRe|が、15nm未満を満足し、|ΔRe|が8nm以下を達成し得る。
なお、本明細書において、一定の温度及び相対湿度環境下におけるReは、フィルム試料を当該環境下に2時間放置した後、同環境下で測定した値から得られるReである。
【0023】
1.−2 セルロースアシレートの材料
1.−2−1セルロースアシレート
本発明のセルロースアシレートフィルムは、1種又は2種以上のセルロースアシレートを主成分として含有する。ここで「主成分として含有する」とは、セルロースアシレートフィルムの材料として用いられているセルロースアシレートが1種である場合は、当該セルロースアシレートをいい、複数種である場合は、最も高い割合で含有されるセルロースアシレートをいう。セルロースには、β−1,4結合しているグルコース単位当り、2位、3位及び6位に遊離の水酸基がある。グルコース単位中の1つの水酸基のエステル化(アシル基による置換)が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートのグルコース単位中の2位、3位及び6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると、置換度は3となる。本発明では、下記条件を満足するセルロースアシレートを用いる。
2.1≦A+B≦2.4
0.8≦B≦1.1
上記式中、Aはアセチル基の置換度、及びBはプロピオニル基の置換度を意味する。
【0024】
A+Bは、2.3〜2.4であるのがより好ましい。また、Aは1.4〜1.7であるのがより好ましく、Bは0.85〜1.0であるのがより好ましい。本発明に用いるセルロースアシレートは、アセチル基及びプロピオニル基以外のアシル基を有していないのが好ましい。即ち、本発明のセルロースアシレートフィルムの材料には、置換度が上記条件を満足する、セルロースアセテート・プロピオネートを用いるのが好ましい。A+Bが上記範囲より大きいセルロースアシレートを原料として用いると、前記範囲のRe、Rth及びヘイズを示すセルロースアシレートフィルムを製造するのが困難になり、一方、A+B又はBが上記範囲より小さいセルロースアシレートを用いると、高湿度条件下での安定性が悪化する。
なお、本明細書では、セルロースアシレートのアシル基置換度は、セルロースの構成単位質量当りの結合脂肪酸量を測定して算出することができる。測定方法は、「ASTM D817−91」に準じて実施する。
【0025】
セルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、前記セルロースアシレートフィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0026】
前記セルロースアシレートは、350〜800の質量平均重合度を有することが好ましく、370〜600の質量平均重合度を有することがさらに好ましい。また本発明に用いるセルロースアシレートは、70000〜230000の数平均分子量を有することが好ましく、75000〜230000の数平均分子量を有することがさらに好ましく、78000〜120000の数平均分子量を有することがよりさらに好ましい。
【0027】
前記セルロースアシレートは、アシル化剤として酸無水物や酸塩化物を用いて合成できる。工業的に最も一般的な合成方法としては、以下の通りである。綿花リンタや木材パルプなどから得たセルロースをアセチル基並びにプロピオニル基及び/又はブチリル基に対応する有機酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)又はそれらの酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)を含む混合有機酸成分でエステル化し、目的のセルロースアシレートを合成することができる。
【0028】
1.−2−2 添加剤
本発明のセルロースアシレートフィルムは、種々の目的により、添加剤の少なくとも1種を含有していてもよい。これらの添加剤は、当該セルロースアシレートフィルムを溶液製膜法で製造する場合は、セルロースアシレートドープ中に添加することができる。添加のタイミングについては特に制限はない。添加剤は、セルロースアシレートと相溶(溶液製膜法ではセルロースアシレートドープ中に可溶)な剤から選択する。添加剤は、製膜性の改善、光学特性の調整及びその他の特性の調整等、種々の目的で添加される。
【0029】
(可塑剤)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、可塑剤を含有しているのが、製膜性などが改善されるので好ましい。可塑剤として、糖類及びその誘導体からなる化合物群から選択される糖類系可塑剤、又はオリゴマー類から選択されるオリゴマー系可塑剤を使用すると、セルロースアシレートフィルムの環境湿度耐性が改善されるので好ましい。具体的には、湿度に依存したReの変動|ΔRe|を軽減することができ、上記条件で測定した|ΔRe|について8nm以下を達成することができる。
【0030】
(糖類系可塑剤)
上記した通り、本発明のセルロースアシレートフィルムは、糖類及びその誘導体からなる化合物群から選択される少なくとも1種の化合物を、含有しているのが好ましい。中でも、1〜10量体の糖類及びその誘導体からなる化合物群から選択される化合物は、可塑剤として好ましい。その例には、国際公開WO2007/125764号パンフレットの[0042]〜[0065]に記載のグルコース等の糖のOHの一部又は全部の水素原子がアシル基に置換された糖誘導体が含まれる。糖類系可塑剤の添加量は、主成分であるセルロースアシレートに対して、0.1質量%以上20質量%未満であるのが好ましく、0.1質量%以上10質量%未満であるのがより好ましく、0.1質量%以上7質量%未満であるのがさらに好ましい。
【0031】
(オリゴマー系可塑剤)
上記した通り、本発明のセルロースアシレートフィルムは、オリゴマー類から選択されるオリゴマー系可塑剤を含有しているのが好ましい。オリゴマー系可塑剤の好ましい例には、ジオール成分とジカルボン酸成分との重縮合エステル及びその誘導体(以下、「重縮合エステル系可塑剤」という場合がある)、並びにメチルアクリレート(MA)のオリゴマー及びその誘導体(以下、「MAオリゴマー系可塑剤」という場合がある)が含まれる。
【0032】
前記重縮合エステルは、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合エステルである。ジカルボン酸成分は、1種のジカルボン酸のみからなっていても、又は2種以上のジカルボン酸の混合物であってもよい。中でも、ジカルボン酸成分として、少なくとも1種の芳香族性ジカルボン酸及び少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸成分を用いるのが好ましい。一方、ジオール成分についても1種のジオール成分のみであっても、又は2種以上のジオールの混合物であってもよい。中でも、ジオール成分として、エチレングリコール及び/又は平均炭素原子数が2.0より大きく3.0以下の脂肪族ジオールを用いるのが好ましい。
【0033】
前記時カルボン酸成分中の前記芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との比率は、芳香族ジカルボン酸が5〜70モル%であることが好ましい。上記範囲であると、フィルムの光学特性の環境湿度依存性を低減できるとともに、製膜過程でブリードアウトの発生を抑制できる。前記ジカルボン酸成分中の芳香族ジカルボン酸は、より好ましくは10〜60モル%であり、20〜50モル%であることがさらに好ましい。
芳香族ジカルボン酸の例には、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等が含まれ、フタル酸、及びテレフタル酸が好ましい。脂肪族ジカルボン酸の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が含まれ、中でも、コハク酸、及びアジピン酸が好ましい。
【0034】
前記ジオール成分は、エチレングリコール及び/又は平均炭素数が2.0より大きく3.0以下のジオールである。前記ジオール成分中、エチレングリコールが50モル%であることが好ましく、75モル%であることがより好ましい。脂肪族ジオールとしては、アルキルジオール又は脂環式ジオール類を挙げることができ、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール等があり、これらはエチレングリコールとともに1種又は2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0035】
前記ジオール成分は、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンジオールであるのが好ましく、特に好ましくはエチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールである。
【0036】
また、前記重縮合エステル系可塑剤としては、前記重縮合エステルの末端のOHがモノカルボン酸とエステルを形成している重縮合エステルの誘導体であるのが好ましい。両末端OH基の封止に用いるモノカルボン酸類としては、脂肪族モノカルボン酸が好ましく、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸及びその誘導体等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。重縮合エステルの両末端に使用するモノカルボン酸類の炭素数が3以下であると、化合物の加熱減量が大きくならず、面状故障の発生を低減することが可能である。また、封止に用いるモノカルボン酸は2種以上のモノカルボン酸の混合物であってもよい。前記重縮合エステルの両末端は酢酸又はプロピオン酸による封止されているのが好ましく、酢酸封止により両末端がアセチルエステル残基となっている重縮合エステルの誘導体が特に好ましい。
【0037】
前記重縮合エステル及びその誘導体は、数平均分子量は700〜2000程度のオリゴマーであることが好ましく、800〜1500程度がより好ましく、900〜1200程度がさらに好ましい。なお、重縮合エステルの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定、評価することができる。
【0038】
以下の表1に、重縮合エステル系可塑剤の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0039】
【表1】

【0040】
前記重縮合エステルは、常法により、ジカルボン酸成分とジオール成分とのポリエステル化反応もしくはエステル交換反応による熱溶融縮合法、又はジカルボン酸成分の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。また、本発明に係る重縮合エステルについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0041】
前記重縮合エステル系可塑剤の添加量は、主成分であるセルロースアシレートの量に対し0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることがよりさらに好ましい。
【0042】
なお、重縮合エステル系可塑剤が含有する原料及び副生成物、具体的には、脂肪族ジオール、ジカルボン酸エステル、及びジオールエステル等、のフィルム中の含有量は、1%未満が好ましく、0.5%未満がより好ましい。ジカルボン酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、アジピン酸ジ(ヒドロキシエチル)、コハク酸ジ(ヒドロキシエチル)等が挙げられる。ジオールエステルとしては、エチレンジアセテート、プロピレンジアセテート等が挙げられる。
【0043】
本発明のセルロースアシレートフィルムの可塑剤としては、メチルメタクリレート(MA)オリゴマー系可塑剤も好ましい。MAオリゴマー系可塑剤と前記糖類系可塑剤との併用も好ましい。併用の態様では、MAオリゴマー系可塑剤と糖類型可塑剤とを質量比で1:2〜1:5の割合で使用するのが好ましく、1:3〜1:4の割合で使用するのがより好ましい。MAオリゴマー系可塑剤の一例は、下記繰り返し単位を含むオリゴマーである。
【0044】
【化1】

【0045】
重量平均分子量は、500〜2000程度が好ましく、700〜1500程度がより好ましく、800〜1200程度であるのがさらに好ましい。
【0046】
また、MAオリゴマー系可塑剤は、MA単独のオリゴマーの他、MAから誘導体される上記繰り返し単位とともに、他のモノマーから誘導される繰り返し単位の少なくとも1種を有するオリゴマーであってもよい。前記他のモノマーの例には、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、ならびに上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルにかえたモノマーが含まれる。また、スチレン、メチルスチレン、ヒドロキシスチレンなどの芳香環を有するモノマーを利用することもできる。前記他のモノマーとしては、芳香環を持たない、アクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーが好ましい。
また、MAオリゴマー系可塑剤が、2種以上の繰り返し単位を有するオリゴマーである場合は、X(親水基を有するモノマー成分)及びY(親水基を持たないモノマー成分)からなり、X:Y(モル比)が1:1〜1:99のオリゴマーが好ましい。
【0047】
これらのMA系オリゴマーは、特開2003−12859号公報に記載されている方法を参考にして合成することができる。
【0048】
(リン酸エステル系可塑剤)
リン酸エステル系可塑剤の例には、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、及びビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)が含まれる。
リン酸エステル系可塑剤の添加量は、セルロースアシレートの総質量に対して、0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることがよりさらに好ましい。
【0049】
(高分子可塑剤)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、前述した糖類系可塑剤、重縮合エステル系可塑剤、及びMMAオリゴマー系可塑剤のいずれか少なくとも1種とともに、又はそれに代えて、他の高分子系可塑剤を含有していてもよい。他の高分子系可塑剤としては、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、フェノール−ホルムアルデヒド縮合物、尿素−ホルムアルデヒド縮合物、ポリ酢酸ビニル、等が挙げられる。
【0050】
(少なくとも2つの芳香環を有する化合物)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、少なくとも2つの芳香環を有する化合物を含有していてもよい。当該化合物は、セルロースアシレートフィルムの光学特性を調整する作用がある。例えば、本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合、光学特性、特にReを好ましい値に制御するには、延伸が有効である。Reの上昇にはフィルム面内の屈折率異方性を大きくすることが必要であり、その一つの方法が、延伸による主鎖配向の向上である。また、延伸処理を施すとともに、屈折率異方性の大きな化合物を添加剤として用いることで、フィルムの屈折率異方性をさらに上昇させることが可能である。例えば、上記少なくともの2つの芳香環を有する化合物を添加剤として添加したフィルムに延伸処理を施すと、ポリマーの主鎖が配向し、それに伴い、該化合物の配向性も向上し、所望の光学特性に制御することが容易となる。
【0051】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物としては、例えば特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2002−363343号公報に記載の棒状化合物、特開2005−134884及び特開2007−119737号公報に記載の液晶性化合物等が挙げられる。より好ましくは、上記トリアジン化合物又は棒状化合物である。少なくとも2つの芳香族環を有する化合物は2種以上を併用して用いることもできる。なお、少なくとも2つの芳香環を有する化合物の分子量は、300〜1200程度であることが好ましく、400〜1000であることがより好ましい。
【0052】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物の添加量は、セルロースアシレートに対して質量比で0.05%〜10%が好ましく、0.5%〜8%がより好ましく、1%〜5%がさらに好ましい。
【0053】
(光学異方性調整剤)
前記セルロースアシレートフィルムには、光学異方性調整剤を添加することができる。例えば、特開2006−30937号公報の23〜72頁に記載の「Rthを低減させる化合物」が例に挙げられる。
【0054】
(波長分散調整剤)
また、前記セルロースアシレートフィルムには、波長分散性を低下させる化合物(以下「波長分散調整剤」ともいう)を添加することができる。波長分散調整剤は、波長200〜400nmの紫外領域に吸収を持ち、フィルムの|Re(400)−Re(700)|及び|Rth(400)−Rth(700)|を低下させる化合物である。セルロースアシレートの固形分に対して0.01〜30質量%含むことによってセルロースアシレートフィルムのRe及びRthの波長分散を低下させることができる。
【0055】
例えば、セルロースアシレートフィルムのRe及びRthは、一般的に、短波長側よりも長波長側が大きくなるという波長分散特性を示す。従って、可視光域において相対的に小さい短波長側のRe及びRthを大きくすることによって、波長分散を平滑にすることができる。一方、波長200〜400nmの紫外領域に吸収を持つ化合物は、短波長側よりも長波長側の吸光度が大きいという波長分散特性を示す。この化合物自身がフィルム内部で等方的に存在していれば、当該化合物自身の複屈折性、ひいてはフィルムのRe及びRthの波長分散は、吸光度の波長分散と同様に短波長側が大きいと想定される。従って、波長200〜400nmの紫外領域に吸収を持ち、当該化合物を等方的に含むフィルムのRe及びRthの波長分散が短波長側が大きいと想定される化合物を用いることによって、セルロースアシレートフィルムのRe及びRthの波長分散を、平坦化することができる。波長分散調整剤として用いられる化合物は、上記特性を示すとともに、セルロースアシレートに十分均一に相溶することが要求される。なお、波長分散調整剤として用いられる化合物の紫外領域の吸収帯範囲は、200〜400nmが好ましく、220〜395nmがより好ましく、240〜390nmがさらに好ましい。
【0056】
また、近年テレビやノートパソコン、モバイル型携帯端末などの液晶表示装置ではより少ない電力で輝度を高めるために、液晶表示装置に用いられる光学部材の透過率が優れたものが要求されている。その観点では、波長分散調整剤として用いられる化合物には、フィルムの分光透過率を低下させないという特性も求められる。かかる用途では、本発明のセルロースアシレートフィルムは、波長380nmにおける分光透過率が45%〜95%であり、且つ波長350nmにおける分光透過率が10%以下であることが望ましい。
【0057】
また、前記波長分散調整剤はフィルムの製膜過程で揮散してしまわないように、分子量が250以上であることが好ましい。より好ましくは260以上であり、さらに好ましくは270以上であり、特に好ましくは300以上である。これらの分子量の範囲であれば、モノマーであってもよいし、そのモノマーユニットが複数結合したオリゴマー、及びポリマーのいずれであってもよい。
【0058】
本発明に好ましく用いられる波長分散調整剤の具体例には、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノ基を含む化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが含まれるが、これらの化合物に限定されるものではない。またこれら波長分散調整剤は、一種を単独で用いても、2種以上の化合物を任意の比で混合して用いてもよい。
【0059】
上述した波長分散調整剤の添加量は、セルロースアシレートに対して0.01〜30質量%程度であることが好ましく、0.1〜20質量%程度であることがより好ましく、0.2〜10質量%程度であることがさらに好ましい。
【0060】
上記光学特性を調整するために添加される、少なくとも2つの芳香環を有する化合物、光学異方性調整剤、及び波長分散調整剤等は、ヘイズの上昇の一因になるので、透明性の観点では、添加しないほうが好ましい。一方、これらの添加剤を添加しない場合は、Re及びRthが上記範囲に調整できない場合もある。よって、前記添加剤を添加しない態様では、後述する本発明の製造方法によりセルロースアシレートフィルムを製造すると、上記条件を満足するセルロースアシレートフィルムを安定的に製造できるので好ましい。
【0061】
(マット剤微粒子)
前記セルロースアシレートフィルムには、マット剤を含有していてもよい。マット剤を添加することにより、滑り性が良好となり、連続的に長尺状のセルロースアシレートフィルムを製造する際の製造適性の点で好ましい。マット剤として使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、且つ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができ、より好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0062】
これらの微粒子は、通常、平均粒子径が0.1〜3.0μm程度の2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μm程度の凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm〜1.5μm程度が好ましく、0.4μm〜1.2μm程度がさらに好ましく、0.6μm〜1.1μm程度がさらに好ましい。1次、及び2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0063】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0064】
これらの中で、アエロジル200V及びアエロジルR972Vが1次平均粒子径が20nm以下で、且つ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0065】
2次平均粒子径の小さな粒子を有するセルロースアシレートフィルムの製造方法には、微粒子の分散液を用いることができる。微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ調製し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子が更に再凝集し難い点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースアシレートを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行い、これを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。いずれの方法を利用してもよいし、またこれらの方法に限定されるものでもない。二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散する際の二酸化珪素の濃度は、5〜30質量%程度が好ましく、10〜25質量%程度が更に好ましく、15〜20質量%程度がよりさらに好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度が低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1m2あたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gが更に好ましく、0.08〜0.16gがより好ましい。
【0066】
上記調製方法に使用される溶剤は、低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースアシレートの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0067】
本発明のセルロースアシレートに含まれるマット剤の量は、セルロースアシレートの全質量に対して0.03〜0.1質量%であることが好ましく、0.05〜0.08質量%であることがより好ましい。マット剤の含有量が多いと、ヘイズが増大するため好ましくなく、また、少な過ぎるとフィルムの滑り性が悪化し、搬送中のキシミ、スリキズの発生などが問題となる。後述する本発明の製造方法によれば、マット剤を比較的多い割合で含むセルロースアシレート組成物を用いてフィルムを製造する場合であっても、フィルムのヘイズ上昇が抑えられるので、上記条件を満足するフィルムを安定的に製造できる。
【0068】
(劣化防止剤、剥離剤)
前記セルロースアシレートフィルムには、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、劣化防止剤、剥離剤、赤外吸収剤、など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に可塑剤の混合などであり、例えば特開2001−151901号公報などに記載されている。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期は、ドープ調製工程においていずれのタイミングで添加してもよいが、ドープ調製工程の最後のタイミングで添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、セルロースアシレートフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。例えば特開2001−151902号などに記載されているが、これらは従来から知られている技術である。これらの詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて16頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0069】
1.−3 セルロースアシレートフィルムの製造方法
本発明のセルロースアシレートフィルムは、上記セルロースアシレートの1種又は2種以上、及び所望により1種以上の可塑剤等の添加剤を含有する組成物を、製膜することで製造することができる。中でも、下記工程(1)及び(2)を含む本発明の製造方法により製造されるのが好ましい。
(1)長尺のセルロースアシレート原反フィルムの長手方向と平行な両端部を保持した状態で、温度T1℃(但し190≦T1≦240)で加熱する加熱工程。
(2)前記加熱工程(1)の後、長尺のセルロースアシレート原反フィルムをT2℃(但し、T2<T1)とし、T2℃に保持した状態で、長手方向と直交する方向(幅方向)の長さ(幅)を1.3〜1.6倍にする拡幅工程。
【0070】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
図1は、本発明のセルロースアシレートフィルム製造設備の概略図である。製造設備10は、長尺状に製膜されたセルロースアシレート原反フィルム11を送り出す送出装置12と、この送出装置12から送られてきたセルロースアシレート原反フィルム11の両側部を保持手段としてのクリップ13により保持して搬送し、搬送されるセルロースアシレート原反フィルム11の温度制御と、幅を拡げる拡幅とを実施し、セルロースアシレートフィルム17(以下、拡幅処理前のセルロースアシレート原反フィルム11と区別するため、拡幅処理されたセルロースアシレートフィルム17を、「位相差フィルム17」と表記する)とするクリップテンタ18と、位相差フィルム17の両側部を切断除去する耳切装置21と、位相差フィルム17の温度を調整する温度調整装置22と、位相差フィルム17を巻き取る巻取装置23とを備える。
【0071】
セルロースアシレート原反フィルム11は、乾燥されたものであり、本実施形態では溶液製膜方法によってつくられて、一旦ロール状に巻き取られたものである。溶液製膜方法によりつくられたセルロースアシレートフィルムを用いる場合には、溶媒含有率が多くても2質量%、すなわち2重量%以下にされているものを用いることが好ましい。これにより、加熱工程(前記工程(1))と拡幅工程(前記工程(2))とを実施することによってもたらされるヘイズ抑制効果をより高めることができる。
【0072】
セルロースアシレート原反フィルム11のロールは送出装置12により巻き出されて、クリップテンタ18に送られる。送出装置12は、セルロースアシレート原反フィルム11のロールの回転を制御する駆動制御部(図示無し)を有し、これによりクリップテンタ18への送り速度が調整される。
【0073】
クリップテンタ18には、セルロースアシレート原反フィルム11の搬送路の両側部に、セルロースアシレート原反フィルム11の側部を把持する複数のクリップ13と、この複数のクリップ13が取り付けられ無端で走行するチェーン(図示無し)と、チェーンの軌道を決めるレール(図示無し)と、セルロースアシレート原反フィルム11の幅方向に延びているスリットを搬送方向に複数有し、これらのスリットから空気をセルロースアシレート原反フィルム11に向けて送り出す送風ダクト26と、この送風ダクト26に空気を送る送風機27とが備えられる。送風ダクト26は、内部がセルロースアシレート原反フィルム11の搬送方向で複数に区画されており、前記スリットはフィルム搬送路に対向するように各区画に形成されている。各スリットから流出される空気は、送風ダクト26に接続された送風機27により送風ダクト26に送られる。送風機27には、送風ダクト26の各区画のスリットからの空気の送り出しのオン・オフ、風量、風速、空気の温度及び湿度を制御するコントローラ(図示無し)が備えられ、このコントローラが、区画毎に、送り出す空気の温湿度と流量とを独立して制御する。レールにはシフト機構(図示無し)が備えられ、このシフト機構は、レールをセルロースアシレート原反フィルム11の幅方向に移動させ、これによりチェーンは変位する。
【0074】
セルロースアシレート原反フィルム11は、クリップテンタ18に案内されると、各側部をクリップ13で把持され、クリップ13の走行により搬送される。両側部のうち一方のクリップ13と他方のクリップ13との距離を変化させることによりセルロースアシレート原反フィルム11の幅方向に付与される張力を変化させ、これにより幅を変えることができる。クリップテンタ18における工程についての詳細は、別の図面を用いて後述する。
【0075】
クリップテンタ18によって、位相差フィルム17は、耳切装置21に案内されて両側部を連続的に切断除去される。これにより、クリップ13で把持されていた把持箇所が、製品となる中央部と分離される。切り取られた両側部は、ロータリカッタ(図示無し)を備えるクラッシャ28に送られて細かいチップ状に切断される。
【0076】
温度調整装置22には、位相差フィルム17を周面で支持してローラ31が複数備えられる。これらのローラ31の中には、周方向に回転駆動することにより位相差フィルム17を搬送する駆動ローラが含まれる。温度調整装置22の内部には、位相差フィルム17の幅方向に延びたスリット(図示せず)が搬送方向に複数設けられた送風ダクト32が備えられており、この送風ダクト32から冷風が流出することにより位相差フィルム17を冷却する。
【0077】
温度調整装置22で冷却された位相差フィルム17は、巻取装置23に送られてロール状に巻かれる。
【0078】
図2は、クリップテンタ18におけるセルロースアシレート原反フィルム11の説明図である。矢線Yは、セルロースアシレート原反フィルム11の搬送方向である。クリップテンタ18では、セルロースアシレート原反フィルム11に、矢線X1,X2で示す幅方向に張力を加える。クリップ13(図1参照)によるセルロースアシレート原反フィルム11の保持を開始する位置を保持開始位置PS、保持を解除する位置を保持解除位置PEとする。クリップテンタ18の入口は保持開始位置PSよりも上流側、出口は保持解除位置よりも下流側にあるが、図2においては図示を略す。
【0079】
セルロースアシレート原反フィルム11は、クリップテンタ18に入ると、送風ダクト26から流出される空気により加熱され、温度が上昇し、セルロースアシレート原反フィルム11は、両端部をクリップ13によって保持されたまま温度T1℃まで加熱される(前記加熱工程(1)の実施)。温度T1℃は、セルロースアシレートの結晶化温度Tc以上の温度である。従来は、ポリマーフィルムを加熱するに際してはポリマーができるだけ結晶化しないように、つまり非晶質部分ができるだけ多くなるように条件を設定し、温度条件については結晶化温度Tcよりも低い温度に抑えられてきた。これは、ポリマーが結晶化すると、通常は、透明性が落ちるからである。これに対し、本発明では、拡幅工程(前記工程(2))の前に、結晶化温度Tc以上の温度T1℃でセルロースアシレート原反フィルム11を加熱する加熱工程を実施する。すなわち、積極的、意図的に、セルロースアシレート原反フィルム11を昇温させてセルロースアシレートの結晶化温度Tc以上にする。これにより、セルロースアシレート原反フィルム11の透明性が向上、すなわちヘイズが低下する。
【0080】
なお、セルロースアシレートは非晶質ポリマーの代表的存在であるが、結晶化温度Tcが検出される場合がある。しかし、結晶化温度Tcよりも高い温度で結晶化がもし起きていたとしても、他のポリマーと比べて、結晶部の体積が非常に小さいのではないかと考えられる。このために、結晶化しても、ヘイズを上昇させるほどには結晶部が大きくならずに微結晶領域が点在したものとなると推察する。そして、この結晶部の発生及び成長により起こりうるヘイズの上昇よりも、セルロースアシレート原反フィルム11の中に通常存在している極微小なボイド(空隙)が高温加熱により消失するという加熱の効果の方が非常に大きく、このため位相差フィルム17としてのヘイズが低減する結果が得られるものと考えられる。
【0081】
ここで、前記加熱工程についてより詳細に説明する。
セルロースアシレート原反フィルム11を加熱により昇温させて結晶化温度Tc以上の温度T1℃に達した位置を温度保持開始位置P1、結晶化温度Tc以上の温度T1℃に保持することを終了する、すなわち、降温させて結晶化温度Tc未満の温度になった位置を温度保持終了位置P2と称する。本実施形態では、セルロースアシレート原反フィルム11の搬送路に沿って、非接触式の温度検知手段を複数設け、搬送されるセルロースアシレート原反フィルム11の温度を複数位置で測定し、セルロースアシレート原反フィルム11の温度がTcに達した位置を検知するが、この方法に限定されない。例えば、送風ダクト26からの空気の温度と、この空気によるセルロースアシレート原反フィルム11の単位時間あたりの上昇温度すなわち温度上昇速度との関係を予め求めておき、送風ダクト26からの空気の温度及び流量とクリップ13の走行速度との関係から温度保持開始位置P1を求めることができる。
【0082】
結晶化温度Tcには、昇温結晶と降温結晶との両温度があり、加熱工程を開始した場合の上記結晶化温度Tcは昇温結晶での温度である。昇温結晶の温度は、JIS K7121に従って示差走査熱量測定により求めることができる。温度保持開始位置P1は、送風ダクト26(図1参照)からの空気の温度や流量によって変位するが、変位させることの容易さの観点からは、温度保持終了位置P2を変位させる方が好ましい。例えば、セルロースアシレート原反フィルム11のヘイズが小さくなりにくい場合には、小さくなりやすい場合よりも、温度保持終了位置P2が下流側になるように、送風ダクト26からの空気の温度や風量を設定するとよい。
【0083】
温度保持開始時位置P1から温度保持終了位置P2までの距離は、例えば、以下の(i)〜(iii)のいずれかの方法でそれぞれ決定することができる。ただし、この方法に限られるものではない。
(i)セルロースアシレート原反フィルム11からサンプリングして、そのサンプルにつきTc以上の温度に加熱する。加熱した後、ヘイズを測定する。このようにして温度保持時間とヘイズとの関係を予め求めておき、この関係とクリップ13の移動速度とから温度保持開始時位置P1から温度保持終了位置P2までの距離を求める。この場合には、Tc以上での温度保持の後に、一方向へ延伸して広げたサンプルでヘイズと温度保持時間との関係を求めることがより好ましい。
(ii)クリップテンタ18の下流側の搬送路に、位相差フィルム17に向けて光を射出する光源と、位相差フィルム17を介してこの光源に対向するように設けられ、入射光の強度を測定する受光部とにより、位相差フィルム17の透明度を測定し、目標とする透明度との差に応じて温度保持開始時位置P1から温度保持終了位置P2までの距離を求める。目標とする透明度に至っていない場合には、両位置P1,P2の距離をさらに長く設定する。なお、この方法を用いる場合には、目標とするヘイズと上記光源及び受光部により求める透明度との関係を予め求めておくことが好ましい。
(iii)セルロースアシレート原反フィルム11からサンプリングし、このサンプルをTc以上に加熱する。加熱したサンプルにつき、示差走査熱量測定(DSC)を実施し、結晶化温度Tcが検出されるか否かを確認する。検出される場合には、他のサンプルにつき温度保持時間がさらに長くなるように加熱する。そして、結晶化温度Tcが認められない程度にまで温度保持時間を長くする。つまり結晶化温度Tcが認められない程度となる温度保持時間を求め、これとクリップ13の移動速度とにより両位置P1,P2の距離を決定する。
【0084】
セルロースアシレート原反フィルム11の温度を結晶化温度Tc以上に保持する時間は、3秒間以上3分間以下の範囲であることが好ましい。そして、この時間は連続することが好ましい。3秒間よりも短いとセルロースアシレート原反フィルム11の中に通常存在している極微小なボイド(空隙)が消失せず、そのためヘイズが0.2%以下であるような位相差フィルムが得られない場合がある。セルロースアシレート原反フィルム11の中にマット剤としてシリカ等の微粒子が含まれている場合には、3秒間以上という時間を継続して結晶化温度Tc以上に保持することでヘイズの低減効果が顕著にみられる。3分間よりも長くても、ヘイズの低減効果のさらなる上昇の見込みが極めて低いので、3分間よりも長く継続して温度保持する必要はほとんどない。また、3分間よりも長くした場合には、Reを40nm以上に大きくすることができない場合がある。
【0085】
保持すべき温度(以降、保持温度と称する)の上限値は、セルロースアシレートの熱劣化やセルロースアシレート原反フィルム11に含まれる添加剤の種類を考慮する点を除くと、特に限定されない。添加剤を同定することができない場合には、Tc+50℃を上限値にするとよく、すなわち、加熱工程でのセルロースアシレート原反フィルム11の保持温度は、Tc以上(Tc+50℃)以下の範囲にするとよい。なお、上記の時間連続してこの範囲にあるならば、保持温度は一定である必要はなく、変化していてもよい。つまり、温度保持開始位置P1から温度保持終了位置P2までの搬送区間におけるセルロースアシレート原反フィルム11の温度は上記温度範囲で変化してよい。
【0086】
セルロースアシレートの結晶化温度Tcは、アシル基の種類、アシル基置換度により異なるので、用いるセルロースアシレート原反フィルム11毎に結晶化温度Tcを実際に測定することが好ましい。しかしながら、実際に測定せずとも、一般的には、加熱工程の温度T1℃を190℃〜240℃の範囲とし、加熱すればよい。好ましい加熱条件の一例は、まず、190℃まで加熱し、その後、190℃〜240℃の範囲(より好ましくは200℃〜220℃の範囲)に保持する工程である。保持温度が190℃未満であると、例えばセルロースアシレートの種類やセルロースアシレート原反フィルム11の性状によっては、ヘイズの低減する効果が十分には得られない場合がある。一方、240℃よりも高い保持温度では、セルロースアシレート原反フィルム11に含まれる低分子化合物の添加剤が気化してしまうことがあるし、250℃よりも高い保持温度ではセルロースアシレートが分解してしまうことがある。
【0087】
また、本発明で用いるアシル基としてアセチル基とプロピオニル基との両方をもつセルロースアセテートプロピオネート(CAP)の中には、結晶化温度Tcが検出されないものもある。CAPは、TACよりも融点が低く、また部分的にでも結晶化するものか否かについては未確認である。しかし、本発明に用いるCAPが、結晶化温度Tcが検出されるとされないとに関わらず、前記温度条件(190〜240℃)を満足する温度T1℃で加熱工程(1)を実施すればよい。
【0088】
セルロースアシレート原反フィルム11の温度を上記の範囲に保持するためには、セルロースアシレート原反フィルム11の搬送路の温度が190℃〜240℃の範囲に保持されるように送風ダクト26からの空気の温度と流量とを制御することが好ましい。
【0089】
加熱工程は、セルロースアシレート原反フィルム11を拡幅せずに、すなわち非拡幅で実施することが好ましく、幅を一定に保持した状態で実施することがより好ましい。つまり、拡幅も縮幅(幅を小さくすること)もせずに、保持開始位置P2における第1幅L1を一定に保持するように、クリップ13を走行させることが最も好ましい。なお、図2において符号KLは、クリップ13で保持されるセルロースアシレート原反フィルム11の保持対象部のうち、セルロースアシレート原反フィルム11の幅方向における最も中央部側の位置を表し、セルロースアシレート原反フィルム11及び位相差フィルム17の幅とは、いずれも両側の保持対象ラインKL間の距離である。
【0090】
クリップテンタ18では、加熱工程の後を経たセルロースアシレート原反フィルム11を、T1℃よりも低い、好ましくは190℃未満の、温度T2℃に保持した状態で、フィルムの長手方向と直交する幅方向に、拡幅する拡幅工程(2)を実施する。即ち、拡幅工程では、温度は、結晶化温度Tc未満に保持されるのが好ましい。拡幅を開始する位置を拡幅開始位置P3、拡幅を終了する位置を拡幅終了位置P4と称する。この拡幅工程の前に、加熱工程を終えたセルロースアシレート原反フィルム11の温度を、T1℃よりも低い温度に下げる降温工程を実施することがより好ましい。拡幅は、セルロースアシレート原反フィルム11の温度が、Tc℃よりも低い温度になった後に開始することが好ましく、拡幅開始位置P3ができるだけ上流側になるようにすることが生産効率の上では好ましいからである。
【0091】
温度保持終了位置P2の下流の搬送路における送風ダクト26からの空気の温度を、温度保持終了位置P2の上流側におけるよりも低く設定しておくことにより、降温工程を実施することができる。
【0092】
この降温工程により、セルロースアシレート原反フィルム11の温度をTcよりも低い温度、通常は190℃未満にまで下げるのが好ましい。セルロースアシレートの結晶化温度につき、昇温結晶での温度と降温結晶での温度とが互いに異なる場合には、加熱工程の場合と同様に昇温結晶での温度をTcとみなしてよい。
【0093】
セルロースアシレート原反フィルム11に含まれるセルロースアシレートのガラス転移点をTgとするときに、前記拡幅工程では、Tgよりも高くTcよりも低い温度T2℃にセルロースアシレート原反フィルム11の温度を保持した状態で拡幅することが好ましいので、降温工程では、セルロースアシレート原反フィルム11をTgよりも高くTcよりも低い温度範囲になるように送風ダクト26からの空気により温度調整することが好ましい。Tgは、JIS K7121に従い、示差走査熱量測定により測定することができる。
【0094】
TgやTcを測定することができない場合等、これらを予め測定しない場合には、降温工程により、セルロースアシレート原反フィルム11を、150℃よりも高く190℃よりも低い温度まで低下させるのが好ましく、160℃以上180℃以下の温度まで低下させるのがより好ましい。190℃以上では、拡幅工程を実施しても、レタデーションが上記範囲を満足するのに十分な程度まで上昇しない場合があるからである。一方、150℃よりも低い温度までセルロースアシレート原反フィルム11の温度を下げてしまってそのまま拡幅工程に移行すると、拡幅工程での張力付与により、セルロースアシレート原反フィルム11が裂けてしまったり、位相差フィルム17のヘイズが高くなってしまう等、前述の加熱工程の効果が薄れることがある。そこで、降温工程でも、150℃よりも低い温度とならないように、送風ダクト26からの送風による加熱は実施してもよい。
【0095】
セルロースアシレート原反フィルム11の搬送路に沿って複数設けられる非接触式の温度検知手段により、搬送されるセルロースアシレート原反フィルム11の温度を測定し、セルロースアシレート原反フィルム11の温度がTcに達した位置を検知し、これを降温終了位置P5とすることができるが、この方法に限定されない。例えば、温度保持開始位置P1を求める場合と同様に、送風ダクト26からの空気の温度と、この空気によるセルロースアシレート原反フィルム11の単位時間あたりの下降温度すなわち温度下降速度との関係を予め求めておき、送風ダクト26からの空気の温度及び流量とクリップ13の走行速度との関係から降温終了位置P5を求めることができる。
【0096】
降温工程でも加熱工程と同様に、非拡幅とし、第1幅L1を保持することが好ましい。
【0097】
降温工程を経てT1未満の温度T2℃、好ましくは150℃より高く190℃未満の温度にされたセルロースアシレート原反フィルム11は、位相差フィルム17としてのレタデーション値を発現するための拡幅工程に供される。拡幅工程の間は、上記温度範囲にセルロースアシレート原反フィルム11の温度を保持し、好ましくは155℃〜185℃、より好ましくは160℃〜180℃の範囲に保持する。これにより、後述の拡幅率で拡幅する場合のレタデーション値の上昇とセルロースアシレート原反フィルム11が裂けないように防止することとの両効果がより向上する。
【0098】
拡幅工程により得られる位相差フィルム17の幅、すなわち拡幅終了位置P4における位相差フィルム17の幅を第2幅L2と称する。L2/L1で求める拡幅率が1.3〜1.6となるように、すなわち、1.3×L1≦L2≦1.6×L1となるように、拡幅することが好ましい。拡幅率が1.3よりも小さいと、レタデーション値、特にReが、前記範囲を満足するのに十分な程度に高くはならないことがある。一方、拡幅率が1.6よりも大きいと、セルロースアシレート原反フィルム11が裂けてしまうことを防止するためにセルロースアシレート原反フィルム11の温度をTc以上に上げなければならない場合があり、これにより、レタデーションが十分に上がらなくなることがある。
【0099】
セルロースアシレートフィルムに対して、以上のような加熱工程(1)と加熱工程後の拡幅工程(2)とを実施することにより、Reが40nm以上と高いにも関わらず、低ヘイズ(具体的には0.2%以下)のセルロースアシレートフィルムを製造することができる。得られるセルロースアシレートフィルムは、さらに、Rthも100〜300nmを示す。
【0100】
上記の方法によると、セルロースアシレート原反フィルム11が、溶液製膜工程で拡幅されているか否かに関わらず、すなわち、セルロースアシレート原反フィルム11として非拡幅のものを用いても、高いReと低いヘイズとを有する位相差フィルムを製造することができる。そして、さらに、溶液製膜工程でも所定条件の拡幅を実施する場合には、ヘイズをより低くするとともに、ヘイズ低減のための上記加熱工程を実施することにより、溶液製膜工程での拡幅により生じた歪みが緩和されるので寸法安定性が向上した、すなわち寸法変化率がより小さなセルロースアシレートフィルムを製造することができる。
【0101】
以下に溶液製膜工程と組み合わせた態様につき説明する。
セルロースアシレート原反フィルム11を溶液製膜方法で製造する場合には、原料となるセルロースアシレートを溶媒に溶解してドープを調製する。前述の可塑剤やマット剤も、このドープ中に添加しておく。
【0102】
ドープの調製に用いる溶媒成分となる液体としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが例示される。なお、添加剤の中には、これらに溶解せずに分散して使用されるものもある。
【0103】
上記溶媒の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。そして、セルロースアシレートの溶解性、流延支持体からの流延膜の剥ぎ取り性、位相差フィルムの機械的強度、位相差フィルムの光学特性等の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2質量%〜25質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましい。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0104】
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的にした場合には、ジクロロメタンを用いずにドープを調製してもよい。この場合の溶剤としては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。また、溶媒は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有するものであってもよい。
【0105】
各種添加剤及び溶剤については、特開2005−104148号公報の段落[0196]から段落[0516]に詳細に記載されており、これに記載される各種添加剤及び溶剤も本発明に適用することができる。
【0106】
流延すべきドープの製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を適用してよい。ただし、流延されたドープからなる流延膜を冷却により固化させて剥ぎ取るいわゆる冷却流延の場合には、流延膜を乾燥して剥ぎ取るいわゆる乾燥流延の場合のドープよりも、セルロースアシレート等の固形分の濃度が高くなるように、ドープを製造することが好ましい。固形分濃度が高くする方法としては、いわゆるフラッシュ濃縮法を用いることが好ましい。フラッシュ濃縮法とは、目的とする濃度よりも低い濃度のドープを一旦つくり、このドープ51を公知のフラッシュ装置で吹き出させることにより溶媒の一部を蒸発させる方法である。
【0107】
流延すべきドープは、セルロースアシレートの濃度が5質量%〜40質量%であることが好ましく、15質量%〜30質量%の範囲とすることがより好ましく、17質量%〜25質量%の範囲とすることがさらに好ましい。
【0108】
本発明の製造方法では、溶液製膜によって製膜した後、以下の工程(3)及び(4)を経た後に、上記加熱工程(1)及び拡幅工程(2)を経るのが好ましい。
(3)溶液製膜に従ってドープから長尺のセルロースアシレート原反フィルムを得た後、前記加熱工程(1)の前に、残留溶媒量が10〜60質量%である長尺のセルロースアシレート原反フィルムを、乾燥しつつ幅を1.1倍以上にする乾燥拡幅工程。
(4)、長尺のセルロースアシレート原反フィルム中の残留溶媒量を2質量%未満にする乾燥工程。
前記工程(3)及び(4)を経ることにより、ヘイズをより低減することができる。前記(4)工程は、前記(3)工程の後に行ってもいし、又は前記(3)工程を実施しているのと同時に行ってもよい。
【0109】
図3は、溶液製膜部を含む位相差フィルム17の製造設備の概略図である。図3の位相差フィルム製造設備50においては、図1の位相差フィルム製造設備10と同じ装置や部材については、図1と同じ符号を付し、説明を略す。
【0110】
位相差フィルム製造設備50は、ドープ51からセルロースアシレート原反フィルム11をつくる溶液製膜部52と、溶液製膜部52で得られたセルロースアシレート原反フィルム11を位相差フィルム17とする光学制御部53とを備える。この位相差フィルム製造設備50は、図1の位相差フィルム製造設備10の送出装置12に代えて溶液製膜部52が備えられたものとされている。すなわち、溶液製膜部52の下流側には、位相差フィルム製造設備10のクリップテンタ18が接続し、このクリップテンタ18から下流側が光学制御部53である。
【0111】
溶液製膜部52には、ドープ51を流延して流延膜56を形成し、溶媒を含んだ湿潤フィルム57とするための流延室58と、湿潤フィルム57の両側端部を保持手段としてのクリップ61により保持して湿潤フィルム57を拡幅するクリップテンタ62と、湿潤フィルム57の両側端部を切り離す耳切装置87と、湿潤フィルム57を複数のローラ66に掛け渡して搬送しながら乾燥してセルロースアシレート原反フィルム11とする乾燥室67とが上流側から順に備えられる。
【0112】
流延室58には、案内されてきたドープ51を連続的に流出する流延ダイ71と、流延ダイ71のドープ流出口に対向して備えられる無端のバンド72と、バンド72がかけ渡されこれを連続走行させるふたつのバックアップローラ73とを備える。
【0113】
流延ダイ71には、バンド72に向けて流出するドープ51の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ71の温度を制御する温度コントローラ(図示なし)が取り付けられる。ふたつのバックアップローラ73のうち、少なくともいずれか一方は、駆動手段(図示せず)により周方向へ回転する。走行するバンド72の上に流延ダイ71から連続的にドープ51を流出することにより、バンド72の上でドープ51が流延されて流延膜56が形成される。
【0114】
バックアップローラ73には、バックアップローラ73に所定の温度の伝熱媒体を供給して、バックアップローラ73の周面温度を制御する伝熱媒体循環装置76が備えられる。バックアップローラ73の内部には、伝熱媒体の流路(図示せず)が形成されており、その流路中を、伝熱媒体が通過することにより、バックアップローラ73の周面温度が所定の値に保持され、このバックアップローラ73に接触するバンド72の温度が制御される。バンド72の温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ51の濃度等に応じて適宜設定する。
【0115】
バンド72の走行方向における流延ダイ71の上流側には、空気を吸引する減圧チャンバ77が備えられる。減圧チャンバ77による空気の吸引により、ビードとして流出されたドープ51の上流側のエリアを減圧して下流側のエリアよりも低い圧力にする。
【0116】
流延室58には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置78と、ドープ51及び流延膜56から蒸発した溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)81とが設けられる。そして、凝縮液化した溶媒を回収するための回収装置82が流延室58の外部には設けられてある。
【0117】
流延室58の下流に設けられるクリップテンタ62は、光学制御部53のクリップテンタ18と同じ構成とされており、すなわち、湿潤フィルム57の搬送方向に延び、温度調整された空気を湿潤フィルム57に対して上方から吹き付けるように送り出す送風ダクト83と、この送風ダクト83に空気を送る送風機86とを備える。
【0118】
耳切装置87は、光学制御部53の耳切装置21と同じ構成とされており、湿潤フィルムの両側部を切り取る。そして、この耳切装置87は、切り取られた湿潤フィルム17の側端部屑を細かく切断処理するためのクラッシャ88を備える。
【0119】
乾燥室67には、湿潤フィルム57から蒸発した溶媒、すなわち溶媒ガスを吸着して回収する吸着回収装置91が接続する。
【0120】
次に、位相差フィルム製造設備50により位相差フィルム17を製造する方法の一例を説明する。ドープ51は、伝熱媒体により冷却されたバンド72に流延ダイ71から流延される。流延時におけるドープ51の温度は30〜35℃の範囲で一定、バンド72の表面温度は35〜40℃の範囲で一定とされることが好ましい。流延室58の温度は、温調装置78により30℃〜35℃とされることが好ましい。なお、流延室58の内部で蒸発した溶媒は回収装置82により回収された後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用される。
【0121】
流延ダイ71からバンド72にかけては流延ビードが形成され、バンド72の上には流延膜56が形成される。流延ビードの様態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアは、所定の圧力値となるように減圧チャンバ77で制御される。ビードに関して上流側のエリアの圧力は、下流側のエリアよりも2000Pa〜10Pa低くすることが好ましい。なお、減圧チャンバ77にジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。この温度は、ドープの溶媒の凝縮点以上であることが好ましい。
【0122】
流延膜56をバンド72から剥ぎ取るに十分な程度にまで乾燥する。乾燥は、バンド72の近傍に送風ダクト(図示無し)を設け、この送風ダクトから流延膜56に空気を送ることにより実施することができる。剥ぎ取りは、バンド72の下流側から湿潤フィルム57を引っ張り、この湿潤フィルム57が搬送路に備えられたローラ92に支持されることにより、なされる。剥ぎ取り時の流延膜の溶媒残留率は、20%以上100%以下であることが好ましい。本明細書において溶媒残留率(単位;%)は乾量基準の値であり、具体的には、溶媒の重量をx、流延膜56の重量をyとするときに、{x/(y−x)}×100で求める値である。
【0123】
溶媒を含んだ状態でバンド72から剥ぎ取られた湿潤フィルム57は、クリップテンタ62に案内されると、その両側端部が保持手段としてのクリップ61に把持されて下流側へ搬送される。この搬送の間に、湿潤フィルム57は送風ダクト83から送り出される空気により乾燥をすすめられる。
【0124】
なお、湿潤フィルム57の温度は、送風ダクト83から流出される空気により制御される。送風ダクト83のスリットは、湿潤フィルム57の搬送路近傍に設けられており、流出される空気の温度と湿潤フィルム57の温度とは同じ温度とみなしてよい。なお、クリップテンタ62における湿潤フィルムの温度については、別の図面を用いて後述する。
【0125】
なお、クリップテンタ62では湿潤フィルム57が下流に進むに従い湿潤フィルム57の溶媒残留率は徐々に減る。そこで、下流に進むほど湿潤フィルム57の温度が高くなるように、下流ほど高い温度の空気を送風ダクト83から送り出してもよい。そして、湿潤フィルム57は、溶媒残留率が10%に達するまではこのクリップテンタ62で乾燥を進められる。したがって、10%より低い溶媒残留率になってもこのクリップテンタ62で乾燥を続けてもよい。
【0126】
クリップテンタ62では、湿潤フィルム57を、乾燥するとともに、幅方向に引っ張る、いわゆる前記乾燥拡幅工程(3)を実施する。拡幅工程に供される際の湿潤フィルム中の残留溶媒量は、10〜60質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることがより好ましい。湿潤フィルム57は、溶媒の減少に伴い幅方向に縮む、すなわち縮幅することがあるが、このクリップテンタ62では縮幅、幅の保持、拡幅のいずれを実施してもよいが、後述のように、乾燥拡幅工程を所定条件で実施することがより好ましい。
【0127】
なお、乾燥流延に代えて冷却流延を実施する場合には、クリップテンタ62に代えて、保持手段がピンである公知のいわゆるピンテンタを用いることが好ましい。
【0128】
クリップテンタ62からの湿潤フィルム57は、ピンで保持されていた両側端部を耳切装置87により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ88に送られる。クラッシャ88により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用されるので、原料の有効利用を図ることができる。
【0129】
一方、両側端部を切断除去された湿潤フィルム57は、乾燥室67に送られて、さらに乾燥される。この乾燥は、溶媒残留率が2質量%未満に達するまで、すなわち0以上2質量%未満の範囲になるまで実施し、いわゆる前記乾燥工程(4)を実施する。この乾燥によりセルロースアシレート原反フィルム11が得られる。乾燥室67では、湿潤フィルム57はローラ66に巻き掛けられながら搬送される。乾燥室67の内部温度は、特に限定されるものではないが、50〜160℃とすることが好ましい。なお、乾燥室67は、送風温度を変えるために、湿潤フィルム57の搬送方向で複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置87と乾燥室67との間に予備乾燥室(図示せず)を設けて位相差フィルム17を予備乾燥すると、乾燥室67で位相差フィルム17の温度が急激に上昇することが防止されるので、乾燥室67での湿潤フィルム57の形状変化を抑制することができる。
【0130】
乾燥室67で蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置91により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室67の内部に乾燥風として再度送られる。
【0131】
溶媒残留率が0以上2質量%未満の範囲とされたセルロースアシレート原反フィルム11は、光学制御部のクリップテンタ18に送られる。そして、図1の位相差フィルム製造設備10を用いた場合と同様の工程を経て位相差フィルム17が製造される。
【0132】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載は本発明に適用することができる。
【0133】
図4は、クリップテンタ62のクリップ61(図3参照)での保持を開始してから解除するまでの湿潤フィルム57の説明図である。矢線Yは、湿潤フィルム57の搬送方向である。クリップテンタ62では、湿潤フィルム57を矢線X1,X2で示す幅方向に張力を加える。クリップテンタ62において、クリップ61による保持を開始する位置を保持開始位置PS、保持を解除する位置を保持解除位置PE、バンド72からの剥ぎ取り位置を剥ぎ取り位置PPとする。なお、クリップテンタ62の入口は保持開始位置PSよりも上流側、出口は保持解除位置PEよりも下流側にあるが、図4においては図示を略す。
【0134】
剥ぎ取り位置PPでバンド72から剥がされてから保持開始位置PSに至るまでも湿潤フィルム57からは徐々に溶媒が蒸発し、また、クリップテンタ62では送風ダクト83からの乾燥風の流出によりさらに蒸発が進められて湿潤フィルム57の溶媒残留率はさらに低くされる。溶媒残留率が60重量%となる位置を第11位置P11、10重量%となる位置を第12位置P12とする。
【0135】
クリップテンタ62では、湿潤フィルム57は結晶化温度Tcよりも低い温度に保持されて乾燥を進められる。クリップテンタ62における湿潤フィルム57の温度は、100℃以上160℃以下の範囲で一定であることがより好ましく、110℃以上150℃以下の範囲で一定であることがより好ましい。
【0136】
そして、前述の通り、クリップテンタでは拡幅を実施することがより好ましい。ただし、この拡幅は、溶媒残留率が10〜60質量%の範囲で実施する。つまり、第11位置P11から第12位置P12までの間の搬送路にて実施する。この工程を、以下、乾燥拡幅工程と称する。乾燥拡幅工程の開始位置である第13位置P13は、第11位置P11と同じまたは第11位置P11と第12位置P12との間であり、乾燥拡幅工程の終了位置である第14位置P14は、第12位置P12と同じまたは第13位置P11と第12位置P12との間である。
【0137】
第13位置P13における湿潤フィルム57の幅を第3幅L3、第14位置における幅を第4幅L4とする。ここで、図4では、保持開始位置PSから第13位置P13までの間は、湿潤フィルム57の幅を一定に保持しておく態様を示している。そして、乾燥拡幅工程では、L4/L3で求める拡幅率が1.1〜1.4倍となるように、すなわち、1.1×L3≦L4≦1.4×L3となるように、拡幅することが好ましい。
【0138】
光学制御部53における拡幅工程に加えてこの乾燥拡幅工程を実施することにより、得られる位相差フィルム17のヘイズはより低いものとなり、さらに寸法安定性が向上するという効果が得られる。この寸法安定性は、温度が60℃、相対湿度が90%の環境下でのものである。
【0139】
この乾燥拡幅工程を実施する場合には、光学制御部53のクリップテンタ18における拡幅工程での拡幅率をより小さくすることができる。そして、所定のReを発現するための拡幅率をRAとするときに、乾燥拡幅工程を実施せずに拡幅工程での拡幅率L2/L1をRAとする場合よりも、拡幅工程での拡幅率L2/L1と乾燥拡幅工程L4/L3とをともに1より大きくして結果的にL2/L3がRAとなるようにする場合の方が好ましい。これにより、Re値が等しくても、ヘイズの低さと寸法安定性とにおいて、より優れた位相差フィルム17をつくることができる。
【0140】
上記のようなタイミング及び拡幅率で乾燥拡幅工程を実施することにより、位相差フィルム17のヘイズをより低下させ、かつ、寸法安定性も向上させることができる。
【0141】
この実施態様では、湿潤フィルム57の乾燥を、溶媒残留率が2質量%未満となるようにクリップテンタ62と乾燥室67とで実施する。さらに、本実施形態ではふたつのクリップテンタ62,18を用いているが、これをひとつのクリップテンタとし、かつ、乾燥室67を用いずに、ひとつのクリップテンタ内で、湿潤フィルムの乾燥工程と、この乾燥工程に含まれる乾燥拡幅工程と、乾燥工程の後の加熱工程と、拡幅工程とを実施してもよい。
【0142】
また、本実施形態は、溶液製膜部52と光学制御部53とを接続し、乾燥工程と加熱工程とを連続して実施するものを挙げているが、これに限定されない。例えば、溶液製膜部52で得られるセルロースアシレート原反フィルム11を巻取装置で一旦巻きとり、このセルロースアシレート原反フィルム11をつかって図1の位相差フィルム製造設備10により位相差フィルム17を製造することができる。
【0143】
上記態様により、Reが40〜80nmの位相差フィルムをつくる場合にヘイズの抑制と寸法安定性との両効果があり、Reが40〜60nmの位相差フィルムをつくる場合により効果がある。具体的には、ヘイズを0.2%以下にまで低く抑えることができ、また、寸法安定性については、位相差フィルムの長手方向における寸法変化率を−0.3〜+0.3程度の範囲にまで、幅方向における寸法変化率を−0.2〜+0.2程度の範囲にまで、それぞれ小さく抑えることができる。また、本発明は、上記のヘイズと寸法安定性とを満足し、100〜300nmの範囲のRthをもつ位相差フィルムをつくることができ、より確実には110〜120nmのRthをもつ位相差フィルムをつくることができる。
【0144】
本発明は、幅が1400mm以上2500mm以下、中でも1800mm以上2500mm以下である位相差フィルムを製造する場合に特に効果があり、また、厚みが30〜50μmの薄い位相差フィルムを製造する場合に特に効果がある。
【0145】
製造されたセルロースアシレートフィルムは、表面処理を施すことが好ましい。具体的方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理又は紫外線照射処理が挙げられる。また、特開平7−333433号公報に記載のように、下塗り層を設けることも好ましい。
フィルムの平面性を保持する観点から、これら処理においてセルロースアシレートフィルムの温度をTg(ガラス転移温度)以下、具体的には150℃以下とすることが好ましい。
偏光板の透明保護膜として使用する場合、偏光子との接着性の観点から、酸処理又はアルカリ処理、すなわちセルロースアシレートに対するケン化処理を実施することが特に好ましい。
表面エネルギーは55mN/m以上であることが好ましく、60mN/m以上75mN/m以下であることが更に好ましい。
【0146】
以下、アルカリ鹸化処理を例に、具体的に説明する。
セルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化処理は、フィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。
アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオン濃度は0.1〜3.0モル/リットルの範囲にあることが好ましく、0.5〜2.0モル/リットルの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温〜90℃の範囲にあることが好ましく、40〜70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0147】
固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、及び吸着法により求めることができる。本発明のセルロースアシレートフィルムの場合、接触角法を用いることが好ましい。
具体的には、表面エネルギーが既知である2種の溶液をセルロースアシレートフィルムに滴下し、液滴の表面とフィルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフィルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフィルムの表面エネルギーを算出できる。
【0148】
2. セルロースアシレートフィルムの用途
本発明のセルロースアシレートフィルムは、種々の用途に用いることができる。例えば、液晶表示装置の光学補償フィルム、偏光板の保護フィルム等に利用することができる。
(光学補償フィルム)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学補償フィルムとして用いることができる。なお、「光学補償フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、光学補償フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
【0149】
また、本発明のセルロースアシレートフィルムを複数枚積層したり、本発明のセルロースアシレートフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して光学補償フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
【0150】
(偏光板)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板の一例は、偏光膜とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(透明フィルム)からなり、本発明のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして有する。本発明のセルロースアシレートフィルムが支持体として利用され、その表面に液晶組成物からなる光学異方性層を有する態様について、偏光板の保護フィルムとして利用する場合は、支持体である本発明のセルロースアシレートフィルムの裏面(光学異方性層が形成されていない側の面)を偏光膜の表面に貼り合せるのが好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明のセルロースアシレートフィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、又は、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましい。特に、本発明のセルロースアシレートフィルムを構成するセルロースアシレートがセルロースアシレートの場合には、前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
【0151】
また、前記偏光膜としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光膜を用いる場合、接着剤を用いて偏光膜の両面に本発明の透明セルロースアシレートフィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。このように、前記セルロースアシレートフィルムが偏光膜と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコール又はポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0152】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のセルロースアシレートフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明のセルロースアシレートフィルムは、液晶表示装置における偏光膜と液晶層(液晶セル)の間に配置される保護フィルムとして、特に有用である。また、前記偏光膜を挟んで本発明のセルロースアシレートフィルムの反対側に配置される保護フィルムには、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができ、特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムとして好ましく用いられる。
【0153】
(液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルム、ならびそれを利用した光学補償フィルム及び偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。中でも、本発明のセルロースアシレートフィルム、並びにそれを利用した光学補償フィルム及び偏光板は、特にVAモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型及び半透過型のいずれでもよい。
【実施例】
【0154】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0155】
1.セルロースアシレートフィルムの作製
まず、下記表に示す組成のセルロースアシレート溶液(ドープ)A〜Gをそれぞれ調製した。いずれも溶媒としては、メチレンクロライド/メタノール比率87/13の混合溶媒 を用いた。また、各ドープの固形分濃度はいずれも19質量%であった。また、下記表中の添加剤1、添加剤2及びマット剤の添加量は、セルロースアシレートの量を100質量部として算出した値である。
【0156】
【表2】

【0157】
【化2】

【0158】
上記各ドープを用いて、図3に示す製造設備50により、下記表に示す条件で、セルロースアシレートフィルム(図3中では位相差フィルム17)を製造した。製造速度は50m/分である。各条件を下記表に示す。
【0159】
【表3】

【0160】
得られた各セルロースアシレートフィルムについて、膜厚[μm]、ヘイズ[%]、Re(590)、Rth(590)及びΔReをそれぞれ、上述の方法に従って測定した。結果を下記表に示す。
【0161】
【表4】

【0162】
2.偏光板の作製
上記で作製した各セルロースアシレートフィルムの原反試料を用い、偏光板をそれぞれ作製した。
・ アルカリケン化処理
各セルロースアシレートフィルムに、以下の条件でケン化工程を実施し、その後、以下の条件の水洗、中和、水洗の工程を順次行い、次いで80℃で乾燥した。
ケン化工程 2mol/L−NaOH溶液 50℃ 90秒
水洗工程 水 30℃ 45秒
中和工程 10質量%HCl溶液 30℃ 45秒
水洗工程 水 30℃ 45秒
【0163】
・ 偏光子の作製
厚さ120μmの長尺ロール状のポリビニルアルコールフィルムを、沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で5倍に搬送方向に延伸して偏光膜を作製した。上記偏光膜の片面に、アルカリケン化処理したフジタックTD80を、反対側には上記アルカリケン化処理後の各セルロースアシレートフィルムを、完全ケン化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として、各々貼り合わせ、乾燥して各偏光板を作製した。
【0164】
3.液晶表示装置の作製と評価
・ 液晶表示装置の作製
VA型液晶表示装置である富士通製の15型ディスプレイVL−150SDの予め貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板をそれぞれ2枚準備し、液晶セル(VA型)のガラス面に同一の偏光板を貼合し、液晶表示装置をそれぞれ作製した。
その際、偏光板の貼合の向きは、予め貼合されていた偏光板と同一方向に吸収軸が向くようにした。
【0165】
・ 液晶表示装置の評価
表3中の実施例1〜4のセルロースアシレートフィルムを保護フィルムとして有する偏光板を組み込んだ液晶表示装置は、いずれも正面コントラスト(表示面に対して法線方向のコントラスト)が高く、黒表示時の斜め方向に生じる光漏れも小さかった。中でも、実施例1〜3のセルロースアシレートフィルムを保護フィルムとして有する偏光板を組み込んだ液晶表示装置は、正面コントラストが高かった。
一方、比較例1及び3〜7のセルロースアシレートフィルムを保護フィルムとして有する偏光板を組み込んだ液晶表示装置は、いずれも正面コントラストが、実施例のセルロースアシレートフィルムを有するものより、5〜10%程度低下していた。
また、比較例2及び5のセルロースアシレートフィルムを保護フィルムとして有する偏光板を組み込んだ液晶表示装置は、いずれも黒表示時の斜め方向に光漏れが生じ、斜め方向のコントラストが低下していた。
【0166】
また、25℃60%RHの環境下で、ELDIM社製のEZ−Contrast160Dを用いて液晶表示装置の視野角測定を行った。続いて25℃10%RH、さらに25℃80%RHの環境下で、作製した各液晶表示装置の視野角を測定し、下記基準にて視野角の湿度安定性を評価した。最後に25℃60%RHの環境でもう一度視野角測定を行い、前記測定の際の変化が可逆変動であることを確認した。尚、これらの測定は、液晶表示装置を当該環境に2時間置いてから測定を行った。
本発明の実施例1〜4のセルロースアシレートフィルムを保護フィルムとして有する偏光板を組み込んだ液晶表示装置はいずれも、湿度変化に伴う表示性能の変化が少なく良好であった。
一方、比較例6及び7のセルロースアシレートフィルムを保護フィルムとして有する偏光板を組み込んだ液晶表示装置は、いずれも湿度変化に伴い、表示性能が変動し、実用には適さないことがわかった。
【符号の説明】
【0167】
10 セルロースアシレートフィルム製造設備
11 セルロースアシレートフィルム原反
17 位相差フィルム(本発明のセルロースアシレートフィルム)
18 テンタ
50 セルロースアシレートフィルム製造設備
52 溶液製膜部
53 光学制御部
62 クリップテンタ
67 乾燥室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式を満たすセルロースアシレートを含み、膜厚が30〜50μm、ヘイズが0.2%以下、波長590nmにおける面内レタデーションRe(590)が40〜80nm、及び波長590nmにおける厚み方向レタデーションRth(590)が100〜300nmであることを特徴とするセルロースアシレートフィルム:
2.1≦A+B≦2.4
0.8≦B≦1.1
上記式中、Aはアセチル基の置換度、及びBはプロピオニル基の置換度を意味する。
【請求項2】
マット剤をさらに含み、該マット剤の質量が、前記セルロースアシレートの質量に対して0.03〜0.1質量%であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法であって、
下記条件
2.1≦A+B≦2.4
0.8≦B≦1.1
(上記式中、Aはアセチル基の置換度、及びBはプロピオニル基の置換度を意味する)
を満足するセルロースアシレートを含む組成物から長尺のセルロースアシレート原反フィルムを得る製膜工程;
長尺のセルロースアシレート原反フィルムの長手方向と平行な両端部を保持した状態で、温度T1℃(但し190≦T1≦240)で加熱する加熱工程;及び
前記加熱工程の後、セルロースアシレート原反フィルムをT2℃(但し、T2<T1)とし、T2℃に保持した状態で、長手方向と直交する方向(幅方向)の長さ(幅)を1.3〜1.6倍にする拡幅工程、
を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記製膜工程が、溶液製膜法に従ってセルロースアシレート原反フィルム得る工程であり、前記加熱工程前に、残留溶媒量が10〜60質量%である長尺のセルロースアシレート原反フィルムを、乾燥しつつ幅を1.1倍以上にする乾燥拡幅工程、及び乾燥拡幅工程中に又は乾燥拡幅工程後に、セルロースアシレート原反フィルム中の残留溶媒量を2質量%未満にすることを特徴とする請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−209233(P2010−209233A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57426(P2009−57426)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】