説明

セルロースアシレートフィルムおよびその製造方法

【課題】面内方向のレターデーションに対して、膜厚方向のレターデーションを従来よりも高く発現させたセルロースアシレートフィルムの提供。
【解決手段】セルロースアシレートと、第一の芳香環または複素芳香環と、該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している化合物、あるいは該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に原子連結基または連結鎖長1の連結基を介して結合している化合物とを含み、前記化合物の長軸の長さと該長軸に直交する方向の軸の長さを掛け合わせた値が15〜28nm2であるセルロースアシレートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面内方向のレターデーション(以下、Reとも言う)に対して、膜厚方向のレターデーション(以下、Rthとも言う)を従来よりも高く発現させたセルロースアシレートフィルムに関する。詳しくは特定の構造を有する添加剤を含有させることで、従来の添加剤を用いた場合よりもReのレターデーションの発現量に対するRthの発現量を高くした、液晶表示装置に有用なセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に液晶表示装置は、液晶セル、光学補償シート、偏光子により構成される。光学補償シートは、画像着色の解消や、視野角を拡大する目的で使用されるものであり、延伸した複屈折フィルムや透明フィルムに液晶を塗布したフィルムが挙げられる。例えば、特許文献1ではディスコティック液晶をトリアセチルセルロースフィルム上に塗布し配向させて固定化した光学補償シートをTNモードの液晶セルに適用し、視野角を広げる技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、大画面で様々な角度から見ることが想定されるテレビ用途の液晶表示装置は視野角依存性に対する要求が厳しく、前述のような手法をもってしても要求を満足することはできていない。そのため、IPS(In−Plane Switching)モード、OCB(Optically Compensatory Bend)モード、VA(Vertically Aligned)モードなど、TNモードとは異なる液晶表示装置が研究されている。特にVAモードはコントラストが高く、製造の歩留まりが比較的高いことから、TV用途の液晶表示装置として現在主流になりつつある。
【0004】
液晶表示装置に不可欠な偏光子の素材としては、一般に、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」とも記す。)が主に用いられる。PVAフィルムは、一軸延伸してからヨウ素あるいは二色性染料で染色するか、あるいは染色してから延伸し、その後ホウ素化合物で架橋することにより偏光性能が付与され、偏光子として用いられる。
【0005】
ここで、偏光板の保護フィルムのような光学的等方性が要求される用途には、単独では光学異方性が低いセルロースアシレートフィルムが通常用いられている。一方、液晶表示装置の光学補償シート(位相差フィルム)には、逆に光学的異方性(高いレターデーション値)が要求される。これに対し、特許文献2には、光学的異方性が要求される用途にも使用できる高いレターデーション値を有するセルロースアセテートフィルムが提案されている。この提案ではセルローストリアセテートで高いレターデーション値を実現するために、少なくとも2つの芳香環を有する芳香族化合物、中でも1,3,5−トリアジン環を有する化合物を添加し、延伸処理を行っている。一般にセルローストリアセテートは延伸しにくい高分子素材であり、複屈折率を大きくすることは困難であることが知られているが、添加剤を延伸処理で同時に配向させることにより複屈折率を大きくすることを可能にし、高いレターデーション値を実現している。このフィルムは偏光板の保護フィルムを兼ねることができるため、液晶表示装置に必要な部材フィルムを削減することで、安価で薄膜な液晶表示装置を提供することができる利点がある。
【0006】
また、液晶表示装置の光学補償シート、特にVA用の光学補償シートでは、ReよりもRthをある程度高く発現させた領域内で、それぞれ適切な範囲に高く発現させることが必要とされる。例えば、特許文献3には、Rth上昇剤として特定の構造の化合物を添加することで、従来2枚の光学補償フィルムを用いて達成していたレターデーションの領域を1枚の光学補償フィルムで達成できたことが開示されている。また、光学補償フィルムの枚数を削減したことにより、従来よりもコストを削減でき、さらに偏光板の厚さを薄くすることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2587398号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第911656号明細書
【特許文献3】特開2008−32267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、さらに近年では、さらなる製造コストの削減や、液晶表示装置を薄くする観点から、偏光板に光学補償フィルムとして用いられるセルロースアシレートフィルムの厚みを薄くする要求が益々高まっている。しかしながら、本発明者らが特許文献3に記載のセルロースアシレートフィルムについて検討したところ、同文献に記載の化合物を添加して製造したセルロースアシレートフィルムでは、さらに低膜厚にしたときに十分なReとRthの発現性の制御ができないことがわかった。また、このような低膜厚時の問題を解決するにあたり、添加剤の添加量を増量する方法では製造コストの観点から問題があり、さらに一般に多量に添加剤を加えると、製膜中にフィルムの表面に析出したり、鹸化処理時に粒子化したり、結晶化して析出したりして液晶表示装置の表示性能を劣化させる問題もある。すなわち、特許文献3に記載のセルロースアシレートフィルムに用いられているRth上昇剤は、近年求められるレベルの要求に対しては満足がいかない性能であり、さらなる高性能な添加剤の開発が求められていた。
【0009】
本発明の目的は、面内方向のレターデーションに対して、膜厚方向のレターデーションを従来よりも高く発現させたセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、添加剤の平面的な構造に着目し、そのサイズ(平面的(円盤状)構造の化合物であるRth剤の場合、その長軸とそれに直交する軸の長さを掛け合わせた値)を特定の範囲に制御することで、上記課題を解決することができることを見出すに至った。以上の結果、本発明者らは以下の構成の本発明を完成するに至った。
【0011】
[1] セルロースアシレートと、第一の芳香環または複素芳香環と、該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している化合物、あるいは該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に原子連結基または連結鎖長1の連結基を介して結合している化合物とを含み、前記化合物が下記式(1)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
15nm2≦A≦28nm2 式(1)
(式(1)中、Aは前記化合物の長軸の長さと、該長軸に直交する方向の軸の長さを掛け合わせた値を表す。)
[2] 前記セルロースアシレートが下記式(2)を満たすことを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
2.20<B<2.55 式(2)
(式(2)中、Bは前記セルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
[3] 前記化合物が下記式(3)を満たすことを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
4<C<27 式(3)
(式(3)中、Cは前記化合物のClogPを表す。)
[4] 前記化合物が下記一般式(1)または一般式(2)を満たすことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
一般式(1)
Ar1−(X16
(一般式(1)中、Ar1は第一の芳香環または複素芳香環と、該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している6価の縮合環基を表し、X1はそれぞれ独立に−OY1または−SY2を表し、Y1およびY2はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
一般式(2)
Ar2−(L1−Ar3−(Y3m3
(一般式(2)中、Ar2は3価の芳香環基または3価の複素芳香環基を表し、L1はそれぞれ独立に原子連結基または連結鎖長1の2価の連結基を表し、Ar3はそれぞれ独立にm+1価の芳香環基またはm+1価の複素芳香環基を表し、Y3はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、mは0以上の整数を表す。)
[5] 前記化合物が、下記一般式(I)または一般式(II)で表されることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化1】

(一般式(I)中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。)
【化2】

(一般式(II)中、R7、R8およびR9はそれぞれ独立に置換基を表し、a、bおよびcは1〜5の整数を表す。)
[6] 前記化合物が、下記一般式(I’)または一般式(II’)で表されることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化3】

(一般式(I’)中、R11、R12、R13、R14、R15およびR16はそれぞれ独立に−C(=O)−L11−Ar11−R17を表し、L11は単結合または2価の連結基を表し、Ar11はアリーレン基またはヘテロアリーレン基を表し、R17は置換または無置換のアルコキシ基を表す。)
【化4】

(一般式(II’)中、R21、R22、R23、R24、R25およびR26はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
[7] 下記式(4)を満たすことを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
20μm<D<80μm 式(4)
(式(4)中、Dは前記セルロースアシレートフィルムの膜厚を表す。)
[8] 下記式(5)を満たすことを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
50nm<Rth(550)<250nm 式(5)
(式(5)中、Rth(550)は、波長550nmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの厚さ方向のレターデーション値を表す。)
[9] 下記式(6)および(7)を共に満たすことを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
10nm<Re(550)<100nm 式(6)
100nm<Rth(550)<200nm 式(7)
(式(6)および(7)中、Re(550)は、波長550nmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの面内方向のレターデーション値を表し、Rth(550)は、波長λnmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの厚さ方向のレターデーション値を表す。)
[10] 下記式(8)および(9)を共に満たすことを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
0.5<Re(450)/Re(550)<1.0 式(8)
1.0<Re(630)/Re(550)<1.5 式(9)
(式(8)および(9)中、Re(λ)は、波長λnmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの面内方向のレターデーション値を表し、Rth(λ)は、波長λnmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの厚さ方向のレターデーション値を表す。)
[11] 下記式(10)および(11)を共に満たすことを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
1.0<Rth(450)/Rth(550)<1.5 式(10)
0.5<Rth(630)/Rth(550)<1.0 式(11)
(式(10)および(11)中、Re(λ)は、波長λnmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの面内方向のレターデーション値を表し、Rth(λ)は、波長λnmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの厚さ方向のレターデーション値を表す。)
[12] 前記セルロースアシレート100質量部に対する、前記化合物の含有量が、2質量部未満であることを特徴とする[1]〜[11]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[13] セルロースアシレートと、第一の芳香環または複素芳香環と、該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している化合物、あるいは該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に原子連結基または連結鎖長1の連結基を介して結合している化合物とを含む溶液を支持体上に流涎する工程と、該流涎工程によって得られたフィルムを乾燥し、支持体から剥離する工程と、該支持体から剥離されたフィルムを延伸する工程を含み、前記化合物が下記式(1)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
15nm2≦A≦28nm2 式(1)
(式(1)中、Aは前記化合物の長軸の長さと、該長軸に直交する方向の軸の長さを掛け合わせた値を表す。)
[14] [13]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、面内方向のレターデーションに対して、膜厚方向のレターデーションが従来よりも高く発現されている。また、面内方向および膜厚方向のレターデーションが特定の範囲であり、特にRthが高いため、TNモードおよびVAモードの液晶表示装置等に好適に用いることができる。さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムに用いられる添加剤はRth上昇効果が従来よりも高いため、本発明のセルロースアシレートフィルムが低膜厚の場合も少量の添加量で上記効果を奏するセルロースアシレートフィルムを得ることができる。そのため、フィルムの白化を生じない。そのため、偏光板用途の透明保護フィルムや光学補償フィルム、およびそれを用いた偏光板、液晶表示装置に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルム、偏光板等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、セルロースアシレートと、第一の芳香環または複素芳香環と、該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している化合物、あるいは該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に原子連結基または連結鎖長1の連結基を介して結合している化合物とを含み、前記化合物(以下、本発明に用いられるRth上昇剤とも言う)が下記式(1)を満たすことを特徴とする。
15nm2≦A≦28nm2 式(1)
(式(1)中、Aは前記化合物の長軸の長さと、該長軸に直交する方向の軸の長さを掛け合わせた値を表す。)
以下、本発明のセルロースアシレートフィルムの好ましい態様について説明する。
【0015】
(セルロースアシレート)
本発明のセルロースアシレートフィルムに用いられるセルロースアシレートは、該セルロースアシレートを構成するグルコース単位の水酸基をアシル基で置換して得られたものである。
【0016】
本発明に用いられるセルロースアシレートの原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明のセルロースアシレートフィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0017】
まず、本発明が好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
【0018】
(置換度)
本発明のフィルムは、前記セルロースアシレートが下記式(2)を満たすことが好ましい。
2.20<B<2.55 式(2)
(式(2)中、Bは前記セルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
前記セルロースアシレートの総アシル置換度Bは、より好ましくは2.30<B<2.55であり、特に好ましくは2.35<B<2.55である。このような範囲とすることにより、耐透湿性とレターデーション発現性を両立することができ、液晶表示装置に用いた場合の表示性能の安定性をより向上させることができる。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上が好ましく、より好ましくは0.322以上、特に好ましくは0.324〜0.340である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度である(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は全アシル置換度に対する6位のアシル置換度の割合であり、以下「6位のアシル置換率」とも言う。
【0019】
(アシル基)
前記セルロースアシレートのアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。本発明のセルロースアシレートフィルムは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有することが好ましい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましく、炭素数2〜4のアシル基としては、アセチル基の他、プロピオニル基またはブチリル基が好ましい。2位、3位および6位の水酸基のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位および6位の水酸基のプロピオニル基またはブチリル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.0≦DSA+DSB≦2.7であることが好ましく、2.3≦DSA+DSB≦2.65であることがより好ましく、2.4≦DSA+DSB≦2.6であることがさらに好ましい。DSAとDSBの値を上記の範囲にすることで環境湿度によるRe値、Rth値の変化の小さいフィルムが得ることができ好ましい。
さらにDSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは30%以上が6位水酸基の置換基であり、31%以上が6位水酸基の置換基であることがさらに好ましく、特には32%以上が6位水酸基の置換基であることも好ましい。
【0020】
前記セルロースアシレートのアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはアセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基であり、最も好ましくはアセチル基である。
【0021】
セルロースアシレートのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0022】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0023】
最も一般的なセルロースの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロースをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0024】
本発明に用いるセルロースアシレートは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0025】
<本発明に用いられるRth上昇剤>
本発明に用いられるRth上昇剤は、第一の芳香環または複素芳香環と;該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している化合物、あるいは該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に原子連結基または連結鎖長1の連結基を介して結合している化合物とを含み;下記式(1)を満たすことを特徴とする。
15nm2≦A≦28nm2 式(1)
(式(1)中、Aは前記化合物の長軸の長さと、該長軸に直交する方向の軸の長さを掛け合わせた値を表す。)
本発明に用いられるRth上昇剤について、以下説明する。
【0026】
(化合物のサイズ A)
前記式(1)中、Aは前記化合物の長軸の長さと、該長軸に直交する方向の軸の長さを掛け合わせた値であり、本発明では、それぞれの軸の長さは分子軌道計算ソフトWinmostarを用いて、化合物の安定構造を求めた後に算出した。このような前記Aの値は、本発明に用いられるRth上昇剤の大まかなサイズを表す。
【0027】
前記Aは、17〜28nm2であることがRthの発現性改良の観点およびヘイズを小さくする観点からより好ましく、19〜28nm2であることが特に好ましく、21〜28nm2であることがより特に好ましい。
【0028】
(ClogP値)
本発明に用いられるRth上昇剤は、下記式(3)を満たすことが、本発明のセルロースアシレートフィルムを低ヘイズ化する観点から好ましい。
4<C<27 式(3)
(式(3)中、Cは前記化合物のClogPを表す。)
【0029】
前記Cは、本発明に用いられるRth上昇剤のClogPを表し、ClogP値とは、1−オクタノールと水への分配係数Pの常用対数logPを計算によって求めた値である。ClogP値の計算に用いる方法やソフトウェアについては公知の物を用いることができるが、本発明ではDaylight Chemical Information Systems社のシステム:PCModelsに組み込まれたCLOGPプログラムを用いた。
【0030】
前記Cは、7〜25であることがより好ましく、7〜22であることが特に好ましい。
【0031】
(構造)
本発明に用いられるRth上昇剤は、第一の芳香環または複素芳香環と、該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している化合物、あるいは該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に原子連結基または連結鎖長1の連結基を介して結合している化合物である。
すなわち、本発明に用いられるRth上昇剤の構造は、以下の構造(1)または構造(2)の2通りの態様があり、前記式(1)のAの範囲を満たす限り特にその他の制限はない。
【0032】
(1) 本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)について
まず、本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)について説明する。本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)は、「第一の芳香環または複素芳香環と、該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している化合物」である。なお、本発明において本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)は、縮合した状態で少なくとも4つの芳香環または複素芳香環が存在していればよく、複数の芳香環または複素芳香環が結合する過程で新たに形成されたものも含む。すなわち、縮合後に上述の構造を形成できる限りにおいて、縮合前の状態において前記第一の芳香環または複素芳香環以外に、必ずしも3つ以上のその他の芳香環または複素芳香環を有していなくてもよい。
【0033】
前記第一の芳香環または複素芳香環は、各環を構成する原子数が4〜12であることが好ましく、5〜10であることがより好ましく、6であることが特に好ましい。
前記第一の芳香環または複素芳香環が複素芳香環である場合、その環を構成するヘテロ原子としては、窒素原子、硫黄原子、炭素原子などを挙げることができる。
前記第一の芳香環または複素芳香環は、芳香環(すなわち炭化水素系芳香環)であることが好ましい。
【0034】
前記少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環は、各環を構成する原子数が4〜8であることが好ましく、5〜7であることがより好ましく、5または6であることが特に好ましい。また、各環は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
前記その他の芳香環または複素芳香環が複素芳香環である場合、その環を構成するヘテロ原子としては、窒素原子、硫黄原子、炭素原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。また、芳香族複素環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
前記その他の芳香環または複素芳香環は、芳香環(すなわち炭化水素系芳香環)であることが好ましい。
【0035】
前記その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つは、前記第一の芳香環または複素芳香環が縮合している。本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)は、4つの芳香環または複素芳香環の縮合環を有するため、以下に例示する縮合環が単独で4つの芳香環または複素芳香環の縮合環を形成しているか、複数の縮合環同士が互いに縮合して4つの芳香環または複素芳香環の縮合環を形成している態様が好ましい。前記縮合環の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、フェナントレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
【0036】
前記縮合環は、本発明に用いられるRth上昇剤の前記サイズAの範囲を前記式(2)の範囲に制御するために置換基を有していてもよい。また、以下の置換基はさらに置換されていてもよく、そのような置換基の例としても以下の置換基が挙げられる。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、ウレイド基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基、アリール基、および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0037】
アルキル基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、2−ヒドロキシエチル基、4−カルボキシブチル基、2−メトキシエチル基および2−ジエチルアミノエチル基の各基が含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル基、アリル基および1−ヘキセニル基が含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。環状アルキニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル基、1−ブチニル基および1−ヘキシニル基が含まれる。
【0038】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル基、プロパノイル基およびブタノイル基が含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシ基が含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例えば、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基およびメトキシエトキシ基が含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノ基およびエトキシカルボニルアミノ基が含まれる。
【0039】
アルキルチオ基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ基、エチルチオ基およびオクチルチオ基が含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニル基およびエタンスルホニル基が含まれる。
脂肪族アミド基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基およびn−オクタンスルホンアミド基が含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基および2−カルボキシエチルアミノ基が含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイル基およびジエチルカルバモイル基が含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイル基およびジエチルスルファモイル基が含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、4〜30であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイド基が含まれる。
前記アリール基の炭素原子数は6〜10であることが好ましく、6であることがより好ましい。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノ基およびモルホリノ基が含まれる。
【0040】
本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)は、前記縮合環部以外に、アリール基で置換されたカルボニルオキシ基を少なくとも1つ有することが好ましい。
【0041】
本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)は、下記一般式(1)を満たすことがより好ましい。
一般式(1)
Ar1−(X16
(一般式(1)中、Ar1は第一の芳香環または複素芳香環と、該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している6価の縮合環基を表し、X1はそれぞれ独立に−OY1または−SY2を表し、Y1およびY2はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0042】
前記Ar1は芳香環のみが縮合していても、複素芳香環のみが縮合していても、芳香環および複素芳香環が混在して縮合していてもよいが、芳香環のみが縮合していることが好ましい。前記Ar1が、芳香環のみが4つ縮合している場合、縮合環の炭素数は10〜28であることが好ましく、18〜24であることがより好ましい。前記Ar1はフェナントレン環基であることがより好ましい。
【0043】
前記X1はそれぞれ独立に−OY1または−SY2を表し、−OY1であることが好ましい。
【0044】
前記Y1およびY2はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、このような置換基の例としては、前記縮合環の置換基の例として挙げた置換基を挙げることができる。
【0045】
本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)は、下記一般式(I)を満たすことが特に好ましい。
【化5】

(一般式(I)中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。)
前記R1、R2、R3、R4、R5およびR6がそれぞれ独立に表す置換基としては、アルキル基(好ましくは炭素数4〜30のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる)、アルケニル基(好ましくは、炭素数4〜30のアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる)、アルキニル基(好ましくは、炭素数4〜30のアルキニル基であり、例えば、プロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる)、アリール基(好ましくは炭素数4〜30のアリール基であり、例えば、フェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる)、置換もしくは無置換のアミノ基(好ましくは炭素数4〜30のアミノ基であり、例えば、無置換アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、アニリノ基などが挙げられる)、
【0046】
アルコキシ基(好ましくは炭素数4〜30のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数4〜30のアリールオキシ基であり、例えば、フェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる)、アシル基(好ましくは炭素数4〜30のアシル基であり、例えば、アセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数4〜30のアルコキシカルボニル基であり、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜30のアリールオキシカルボニル基であり、例えば、フェニルオキシカルボニル基などが挙げられる)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数4〜30のアシルオキシ基であり、例えば、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる)、
【0047】
アシルアミノ基(好ましくは炭素数4〜30のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数4〜30のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えば、メトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数4〜30のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えば、フェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数4〜30のスルホニルアミノ基であり、例えば、メタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる)、スルファモイル基(好ましくは炭素数4〜30のスルファモイル基であり、例えば、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基などが挙げられる)、カルバモイル基(好ましくは炭素数4〜30のカルバモイル基であり、例えば、無置換のカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基などが挙げられる)、
【0048】
アルキルチオ基(好ましくは炭素数4〜30であり、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基などが挙げられる)、アリールチオ基(好ましくは、炭素数
4〜30、例えば、フェニルチオ基などが挙げられる)、スルホニル基(好ましくは炭素数4〜30のスルホニル基であり、例えば、メシル基、トシル基などが挙げられる)、スルフィニル基(好ましくは炭素数4〜30のスルフィニル基であり、例えば、メタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる)、ウレイド基(好ましくは炭素数4〜30のウレイド基であり、例えば、無置換のウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数4〜30のリン酸アミド基であり、例えば、ジエチルリン酸アミド基、フェニルリン酸アミド基などが挙げられる)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数4〜30のヘテロ環基であり、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環基であり、例えば、イミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基、1,3,5−トリアジル基などが挙げられる)、シリル基(好ましくは、炭素数4〜30のシリル基であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる)が含まれる。これらの置換基はさらにこれらの置換基によって置換されていてもよい。また、置換基を二つ以上有する場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに結合して環を形成していてもよい。
【0049】
前記R1、R2、R3、R4、R5およびR6が各々表す置換基としては、好ましくはアルキル基、アリール基、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、置換もしくは無置換のアシル基またはハロゲン原子であり、より好ましくは置換もしくは無置換のアシル基である。
【0050】
本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)は、下記一般式(I’)で表されることがより特に好ましい。
【化6】

(一般式(I’)中、R11、R12、R13、R14、R15およびR16はそれぞれ独立に−C(=O)−L11−Ar11−R17を表し、L11は単結合または2価の連結基を表し、Ar11はアリーレン基またはヘテロアリーレン基を表し、R17は置換または無置換のアルコキシ基を表す。)
【0051】
前記L11は、単結合または2価の連結基を表し、単結合であることが好ましい。前記L11が取り得る2価の連結基としては、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルケニレン基、炭素数2〜8のアルキニレン基などが好ましく、炭素数2〜4のアルケニレン基がより好ましく、無置換のエテニレン基であることが特に好ましい。
【0052】
前記Ar11はアリーレン基またはヘテロアリーレン基を表し、炭素数6〜10のアリーレン基が好ましく、無置換のフェニレン基であることが特に好ましい。
【0053】
前記R17は置換または無置換のアルコキシ基を表し、炭素数2〜14のアルコキシ基であることが好ましく、置換基を有する炭素数2〜10のアルコキシ基であることが特に好ましく、置換基を有する4〜6の直鎖アルコキシ基であることがより特に好ましい。前記R17が有していてもよい置換基としては、メタクリロイル基、アクリロイル基または炭素数2〜14のアシル基を好ましく挙げることができ、アクリロイル基またはアセチル基がより好ましい。
【0054】
前記R11、R12、R13、R14、R15およびR16は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0055】
以下に本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明の範囲はこれらに限定されない。
【0056】
【化7】

【0057】
【化8】

【0058】
本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)の化合物は、例えば特開2005−134884号公報に記載の方法等、公知の方法により合成することができる。
【0059】
(2) 本発明に用いられるRth上昇剤の構造(2)について
次に、本発明に用いられるRth上昇剤の第2の構造について説明する。本発明に用いられるRth上昇剤の第2の構造は、「第一の芳香環または複素芳香環と、該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に原子連結基または連結鎖長1の連結基を介して結合している化合物」である。
【0060】
本発明に用いられるRth上昇剤の構造(2)における前記第一の芳香環または複素芳香環の好ましい範囲は、前記本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)の第一の芳香環または複素芳香環の好ましい範囲と同様である。
【0061】
本発明に用いられるRth上昇剤の構造(2)における前記少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環の好ましい範囲は、前記本発明に用いられるRth上昇剤の構造(1)の少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環の好ましい範囲と同様である。
また、前記少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環は、本発明に用いられるRth上昇剤の前記サイズAの範囲を前記式(2)の範囲に制御するために置換基を有していてもよい。このような置換基は、前記縮合環の置換基として取り得る置換基として例示した置換基から、適宜選択することができる。
【0062】
本発明に用いられるRth上昇剤の構造(2)では、前記その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが、前記第一の芳香環または複素芳香環に原子連結基または連結鎖長1の連結基を介して結合している。前記原子連結基としては、−O−および−S−が好ましい。前記連結鎖長1の連結基としては、−CH2−、−C(=O)−および−NH−が好ましく、−NH−であることがより好ましい。前記連結鎖長1の連結基に含まれる水素原子はさらに置換基で置換されていてもよいが、無置換であることが好ましい。
【0063】
本発明に用いられるRth上昇剤の構造(2)は、下記一般式(2)で表されることがより好ましい。
【0064】
一般式(2)
Ar2−(L1−Ar3−(Y3m3
(一般式(2)中、Ar2は3価の芳香環基または3価の複素芳香環基を表し、L1はそれぞれ独立に原子連結基または連結鎖長1の2価の連結基を表し、Ar3はそれぞれ独立にm+1価の芳香環基またはm+1価の複素芳香環基を表し、Y3はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、mは0以上の整数を表す。)
【0065】
前記Ar2は3価の芳香環基または3価の複素芳香環基を表し、3価の複素芳香環基であることが好ましく、6員環の3価の複素芳香環基であることがより好ましく、特に1,3,5−トリアジン環であることが特に好ましい。前記Ar2が芳香族基であるとき、芳香環の骨格は、フェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルであることが特に好ましい。前記Ar2はさらに置換基を有していてもよい。前記置換基の例には、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アルキル置換スルファモイル基、アルケニル置換スルファモイル基、アリール置換スルファモイル基、スルホンアミド基、カルバモイル、アルキル置換カルバモイル基、アルケニル置換カルバモイル基、アリール置換カルバモイル基、アミド基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基およびアシル基が含まれる。
【0066】
前記L1はそれぞれ独立に原子連結基または連結鎖長1の2価の連結基を表し、前記原子連結基としては、−O−および−S−が好ましい。前記連結鎖長1の連結基としては、−CH2−、−C(=O)−および−NH−が好ましく、−NH−であることがより好ましい。また、複数のL1はそれぞれ同一であっても複数であってもよいが、同一であることが好ましい。
前記連結鎖長1の連結基に含まれる水素原子はさらに置換基で置換されていてもよいが、無置換であることが好ましい。置換基を有するときは、各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、芳香環基または複素芳香環基が好ましい。前記連結鎖長1の連結基の置換基として取り得るアルキル基は、環状アルキル基であっても鎖状アルキル基であってもよいが、鎖状アルキル基が好ましく、分岐を有する鎖状アルキル基よりも、直鎖状アルキル基がより好ましい。アルキル基の炭素原子数は、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましく、1〜8がさらにまた好ましく、1〜6であることが最も好ましい。アルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)およびアシルオキシ基(例えば、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基)が含まれる。前記連結鎖長1の連結基の置換基として取り得るアルケニル基は、環状アルケニル基であっても鎖状アルケニル基であってもよいが、鎖状アルケニル基を表すのが好ましく、分岐を有する鎖状アルケニル基よりも、直鎖状アルケニル基を表すのがより好ましい。アルケニル基の炭素原子数は、2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、2〜10であることがさらに好ましく、2〜8であることがさらにまた好ましく、2〜6であることが最も好ましい。アルケニル基は置換基を有していてもよく、置換基の例には、前述のアルキル基の置換基と同様である。前記連結鎖長1の連結基の置換基として取り得る芳香環基および複素芳香環基は、後述するAr3が表す芳香環基および複素芳香環基と同様であり、好ましい範囲も同様である。前記連結鎖長1の連結基の置換基として取り得る芳香環基および複素芳香環基はさらに置換基を有していてもよく、置換基の例にはAr3が表す芳香環基および複素芳香環基の置換基と同様である。
【0067】
前記Ar3はそれぞれ独立にm+1価の芳香環基またはm+1価の複素芳香環基を表し、m+1価の芳香環基であることがより好ましく、炭素数6〜10のm+1価の芳香環基であることがより好ましく、3価の炭素数6の芳香環基であることが特に好ましい。また、複数のAr3はそれぞれ同一であっても複数であってもよいが、同一であることが好ましい。
前記Ar3が表す芳香環基はいずれかの置換位置に少なくとも一つの置換基を有してもよい。前記Ar3が複素芳香環基であるとき、好ましくは最多の二重結合を有する複素芳香環である。複素芳香環は5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、6員環であることが最も好ましい。複素芳香環のヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子または酸素原子であることが好ましく、窒素原子であることが特に好ましい。複素芳香環としては、ピリジン環(複素芳香環基としては、2−ピリジルまたは4−ピリジル)が特に好ましい。複素芳香環基は、置換基を有していてもよい。複素芳香環基の置換基の例は、上記芳香環基の置換基の例と同様である。
【0068】
前記Y3はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、前記Y3が取り得る置換基としては、アシルオキシ基が好ましい。前記Y3はさらに置換基を有していてもよい。また、複数の前記Y3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。前記Y3はさらに置換基を有していてもよいが、置換基を有さないことが好ましい。
【0069】
前記mは0以上の整数を表し、0〜5であることが好ましく、1〜4であることがより好ましく、2であることが特に好ましい。複数のmはそれぞれ同一であっても複数であってもよいが、同一であることが好ましい。
【0070】
本発明に用いられるRth上昇剤の構造(2)は、下記一般式(II)で表されることが特に好ましい。
【化9】

(一般式(II)中、R7、R8およびR9はそれぞれ独立に置換基を表し、a、bおよびcは1〜5の整数を表す。)
【0071】
前記R7、R8およびR9はそれぞれ独立に置換基を表し、好ましい範囲は、前記Y3の好ましい範囲と同様である。
【0072】
前記a、bおよびcは1〜5の整数を表し、1〜3であることがより好ましく、2であることが特に好ましい。
【0073】
本発明に用いられるRth上昇剤の構造(2)は、下記一般式(II’)で表されることが特に好ましい。
【化10】

(一般式(II’)中、R21、R22、R23、R24、R25およびR26はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0074】
前記R21、R22、R23、R24、R25およびR26はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、アルキル基、アルキニル基、アシル基などが好ましく、アシル基がより好ましい。前記R21、R22、R23、R24、R25およびR26がアシル基である場合、炭素数1〜20であることが好ましく、4〜15であることがより好ましく、8〜10であることが特に好ましい。また、複数の前記R21、R22、R23、R24、R25およびR26はそれぞれ同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0075】
以下に本発明に用いられるRth上昇剤の構造(2)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明の範囲はこれらに限定されない。
【0076】
【化11】


【0077】
本発明に用いられるRth上昇剤の構造(2)の化合物は、例えば特開2003−344655号公報に記載の方法で製造することができる。
【0078】
(分子量)
前記本発明に用いられるRth上昇剤は、その分子量は300〜3000であることが好ましく、400〜2500であることがより好ましく、500〜2500であることが特に好ましい。
分子量が300以上であることがRth剤の揮散性の観点から好ましく、分子量が3000以下であることが、ヘイズ改善の観点から好ましい。
【0079】
(添加量)
前記本発明に用いられるRth上昇剤の添加量は、セルロースアシレート樹脂100質量部に対して、2質量部未満とすることが製造コスト、ヘイズを抑える観点などから好ましい。本発明に用いられるRth上昇剤はRth発現性が高いため、このように少量の添加量でも十分なRth発現性を奏することができる。
【0080】
<その他の添加剤>
本発明のセルロースアシレートフィルムには、前記本発明に用いられるRth上昇剤のほかに、その他の添加剤を有していてもよい。その他の添加剤としては、その他のレターデーション発現剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、剥離促進剤、可塑剤などをあげることができる。
【0081】
(その他のレターデーション発現剤)
本発明では、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、前記本発明に用いられるRth上昇剤以外にその他レターデーション発現剤を用いても用いなくてもよいが、レターデーション値を好適な範囲で発現し、添加剤の添加量を低減させるため、本発明に用いられるRth上昇剤のみを用いることが好ましい。
本発明において用いることができるその他のレターデーション発現剤としては、棒状化合物、本発明に用いられるRth上昇剤以外の円盤状化合物、正の複屈折性化合物からなるものを挙げることができる。上記棒状化合物または本発明に用いられるRth上昇剤以外の円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。棒状化合物からなるレターデーション発現剤の添加量は、セルロースアシレートを含むポリマー成分100質量部に対して0.1〜30質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがさらに好ましい。
本発明に用いられるRth上昇剤以外の円盤状のレターデーション発現剤は、前記セルロースアシレート樹脂100質量部に対して、0〜20質量部の範囲で使用することが好ましく、0〜15質量部の範囲で使用することがより好ましく、0〜10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。
本発明に用いられるRth上昇剤以外の円盤状化合物はRthレターデーション発現性において棒状化合物よりも優れているため、特に大きなRthレターデーションを必要とする場合には好ましく使用される。2種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0082】
(1)本発明に用いられるRth上昇剤以外の円盤状化合物
本発明の趣旨に反しない限りにおいて、本発明に用いられるRth上昇剤以外の円盤状化合物を本発明のフィルムは含んでいてもよい。具体的には例えば特開2001−166144号公報に開示の化合物が好ましく用いられる。
【0083】
(2)棒状化合物
本発明では前述の円盤状化合物の他に直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができる。本発明に用いることができる前記棒状化合物としては、例えば、特開2007−268898号公報の[0053]〜[0095]に記載される化合物を挙げることができる。
【0084】
(3)正の複屈折性化合物
正の複屈折性化合物とは、分子が一軸性の配向をとって形成された層に光が入射したとき、前記配向方向の光の屈折率が前記配向方向に直交する方向の光の屈折率より大きくなるポリマーをいう。
このような正の複屈折性化合物としては、特に制限ないが、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミド等の固有複屈折値が正のポリマーを挙げることができ、ポリエーテルケトンおよびポリエステル系ポリマー等が好ましく、ポリエステル系ポリマーがより好ましい。
【0085】
特に末端がアルキル基あるいは芳香族基で封止された正の複屈折性化合物であることが好ましい。これは、末端を疎水性官能基で保護することにより、高温高湿での経時劣化に対して有効であり、エステル基の加水分解を遅延させる役割を示すことが要因となっている。このような化合物の両末端がカルボン酸やOH基とならないように、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することが好ましい。
この場合、モノアルコールとしては炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
【0086】
また、モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族環含有カルボン酸でもよい。好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族環含有モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−tert−アミル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。
【0087】
前記正の複屈折性化合物の合成は、常法により上記ジカルボン酸とジオールおよび/または末端封止用のモノカルボン酸またはモノアルコール、とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系添加剤については、村井孝一編者「添加剤 その理論と応用」(株式会社幸
書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0088】
(酸化防止剤)
公知の酸化防止剤、例えば、2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、4、4'−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1、1'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2、2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2、5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのフェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤を添加することができる。さらに、トリス(4−メトキシ−3、5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2、4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ビス(2、4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系酸化防止剤をすることが好ましい。酸化防止剤の添加量は、セルロース系樹脂100質量部に対して、0.05〜5.0質量部を添加する。
【0089】
(紫外線吸収剤)
偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。ヒンダードフェノール系化合物の例としては、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N'−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2、2−メチレンビス(4−(1、1、3、3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、(2、4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1、3、5−トリアジン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N'−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2(2'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、セルロースアシレートフィルム全体中に質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0090】
(剥離促進剤)
本発明のフィルムには、剥離促進剤を含んでいてもよい。剥離促進剤は、例えば、0.001〜1質量%の割合で含めることができる。剥離促進剤としては、公知のものが採用でき、例えば、クエン酸のエチルエステル類が例として挙げられる。
【0091】
(可塑剤)
本発明のフィルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。可塑剤の添加量は、セルロース系樹脂の質量の0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることが最も好ましい。
【0092】
(セルロースアシレートフィルムの構成)
また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、単層であっても複数の層からなるものであってもよい。例えば、本発明のセルロースアシレートフィルムが共流延によって製造される場合は、コア層およびスキン層の2層以上からなるものであってもよい。このとき、前記本発明に用いられるRth上昇剤は、コア層、スキン層のどちらに有していてもよいが、コア層に有していることが好ましい。
【0093】
(ヘイズ)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ヘイズが2%未満であることが好ましく、1%未満であることがより好ましい。ヘイズを2%未満とすることにより、フィルムの透明性がより高くなり、セルロースアシレートフィルムとしてより用いやすくなるという利点がある。また、低ヘイズ化することにより、セルロースアシレートフィルムを液晶表示装置に偏光板の保護フィルム等として組み込んだときにコントラストを向上させることができる。
【0094】
(レターデーション)
セルロースアシレートフィルムのレターデーション値は、その用途に応じて好ましい範囲は異なる。
【0095】
(Re、Rth)
本発明のセルロースアシレートフィルムのレターデーション値は、下記式(5)を満たすことが好ましい。
50nm<Rth(550)<250nm 式(5)
前記本発明に用いられるRth上昇剤を添加することにより、このようにRthを高く発現することができる。さらに、本発明に用いられるRth上昇剤を添加することにより、低膜厚のフィルム、例えば後述するような20μmを超えて80μm未満の膜厚のフィルムであっても前記式(5)の範囲を達成することができる。また、セルロースアシレートとして総アシル置換度が2.55〜2.95程度と高いフィルムを用いた場合であっても、低膜厚で前記式(5)の範囲を達成することができる。
なお、本明細書中において、Re(λ)は、波長λnmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの面内方向のレターデーション値を表し、Rth(λ)は、波長λnmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの厚さ方向のレターデーション値を表す。
【0096】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、下記式(6)および(7)を共に満たすことがより好ましい。
10nm<Re(550)<100nm 式(6)
100nm<Rth(550)<200nm 式(7)
本発明に用いられるRth上昇剤を添加することにより、低膜厚のフィルム、例えば後述するような20μmを超えて80μm未満の膜厚のフィルムであったも前記式(6)および(7)の範囲を達成することができる。
前記Re(550)は、20〜90nmであることがより好ましく、30〜80nmであることが特に好ましい。
前記Rth(550)は、100〜180nmであることがより好ましく、100〜160nmであることが特に好ましい。
【0097】
(ΔRth(550)−ΔRe(550))
前記本発明に用いられるRth上昇剤は、Reの上昇を抑制しつつ、Rthを高く発現させることができる。したがって、本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記本発明に用いられるRth上昇剤が添加されていることで、面内方向のレターデーションに対して、膜厚方向のレターデーションを従来よりも高く発現させることができている。すなわち、本発明のフィルムは、同じセルロースアセテート樹脂を用いた場合において、従来のRth上昇剤を用いた場合よりもΔRth(550)−ΔRe(550)が大きい。
なお、前記ΔReは、Rth上昇剤を添加したフィルムのRe(550)から、Rth上昇剤無添加のフィルムのRe(550)の値を減じた値のことを言う。また、前記ΔRthは、Rth上昇剤を添加したフィルムのRth(550)から、Rth上昇剤無添加のフィルムのRth(550)の値を減じた値のことを言う。
【0098】
(波長分散)
本発明のセルロースアシレートフィルムの好ましい態様ではReが逆分散である。また、本発明のセルロースアシレートフィルムのより好ましい態様では、さらにRthが順分散である。ここで、液晶テレビを斜めから見たときの色ずれの原因は、光学補償フィルムのReとRthの波長分散に起因することが判っており、Reが逆分散であって、Rthが順分散のフィルムを液晶表示装置に用いると、色味がニュートラルになり、視野角の角度変化による影響も少ない。本発明のセルロースアシレートフィルムは、下記式(8)および(9)を共に満たすことが好ましい。
0.5<Re(450)/Re(550)<1.0 式(8)
1.0<Re(630)/Re(550)<1.5 式(9)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、下記式(10)および(11)を共に満たすことが、好ましい。
1.0<Rth(450)/Rth(550)<1.5 式(10)
0.5<Rth(630)/Rth(550)<1.0 式(11)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記式(8)〜(11)を共に満たすことが、液晶表示装置を斜めから見たときの色ずれをより改善する観点から、より好ましい。このようなRe逆分散かつRth順分散のフィルムは、サイズAが20〜23nm2であり、ClogPが20〜26であり、シンナモイル基を含むという特徴的な構造のRth上昇剤を前記本発明のRth上昇剤の中から選択してセルロースアシレートに添加することで、達成することができる。但し、Re逆分散かつRth順分散のフィルムを達成できる範囲は、上記全ての条件を満たす場合に必ずしも限定されるものではない。
【0099】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは550nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(11)及び式(12)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0100】
式(11)
【数1】

【0101】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d ・・・式(12)
なおこの際、パラメータとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
【0102】
(膜厚)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、下記式(4)を満たすことが好ましく、30〜60μmであることがより好ましい。
20μm<D<80μm 式(4)
(式(4)中、Dは前記セルロースアシレートフィルムの膜厚を表す。)
セルロースアシレートフィルムの膜厚が20μmを超えることにより、ウェブ状のフィルムを作製する際のハンドリング性が向上し好ましい。また、80μm未満とすることが、フィルムの薄膜化の観点から好ましい。
【0103】
[セルロースアシレートフィルムの製造方法]
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、セルロースアシレートと、第一の芳香環または複素芳香環と、該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している化合物、あるいは該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に原子連結基または連結鎖長1の連結基を介して結合している化合物とを含む溶液を支持体上に流涎する工程と、該流涎工程によって得られたフィルムを乾燥し、支持体から剥離する工程と、該支持体から剥離されたフィルムを延伸する工程を含み、前記化合物が前記式(1)を満たすことを特徴とする。
ここで、前記化合物、すなわち前記本発明に用いられるRth上昇剤の好ましい範囲は、本発明のセルロースアシレートフィルムの説明に記載されている範囲と同様である。
【0104】
本発明のフィルムは、上記以外の工程については、公知のセルロースアシレートフィルムを作製する方法等を広く採用でき、ソルベントキャスト法により製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造することができる。
有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0105】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0106】
一般的な方法でセルロースアシレート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特に、メチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、少なくとも1種の負の複屈折を有する化合物や前述の任意の添加剤を添加しておくことができる。
溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0107】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0108】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもセルロースアシレートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアシレートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアシレートを撹拌しながら徐々に添加する。セルロースアシレートの量は、この混合物中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には前記本発明に用いられるRth上昇剤を添加し、さらに後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
次に、混合物を−100〜−10℃(好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースアシレートと有機溶媒の混合物は固化する。
【0109】
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を、冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
さらに、これを0〜200℃(好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは0〜120℃、最も好ましくは0〜50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアシレートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよし、温浴中で加温してもよい。加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を、加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
【0110】
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアシレート(全アセチル置換度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保存する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアシレートの全アセチル置換度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0111】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造することができる。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35質量%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0112】
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100℃から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0113】
(共流延)
本発明では得られたセルロースアシレート溶液を、金属支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に単層液として流延してもよいし、2層以上の複数のセルロースアシレート液を流延してもよい。複数のセルロースアシレート溶液を流延する場合、金属支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、特開平11−198285号の各公報などに記載の方法が適応できる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってもフィルム化することでもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、特開平6−134933号の各公報に記載の方法で実施できる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高,低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押出すセルロースアシレートフィルム流延方法でもよい。更に又、特開昭61−94724号、特開昭61−94725号の各公報に記載の外側の溶液が内側の溶液よりも貧溶媒であるアルコール成分を多く含有させることも好ましい態様である。
【0114】
あるいは、また、2個の流延口を用いて、第一の流延口により金属支持体に成型したフィルムを剥離し、金属支持体面に接していた側に第二の流延を行なうことにより、フィルムを作製することでもよく、例えば特公昭44−20235号公報に記載されている方法である。流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液でもよいし、異なるセルロースアシレート溶液でもよく特に限定されない。複数のセルロースアシレート層に機能を持たせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押出せばよい。さらの本発明のセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光層など)を同時に流延することも実施しうる。
【0115】
ドラムやベルト上で乾燥され、剥離されたウェブの乾燥方法について述べる。ドラムやベルトが1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロ−ル群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップ等で把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送される。乾燥は、搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエ−ブなどの加熱手段などを用いる方法によって行われる。急速な乾燥は、形成されるフィルムの平面性を損なう恐れがあるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。収縮は、高温度で乾燥するほど大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように、乾燥の全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンタ−方式)が好ましい。上記乾燥工程における乾燥温度は、100〜145℃であることが好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量および乾燥時間が異なるが、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。
本発明のフィルムの製造では、支持体から剥離したウェブ(フィルム)を、ウェブ中の残留溶媒量が120質量%未満の時に延伸することが好ましい。
【0116】
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。ウェブ中の残留溶媒量が多すぎると延伸の効果が得られず、また、少なすぎると延伸が著しく困難となり、ウェブの破断が発生してしまう場合がある。ウェブ中の残留溶媒量のさらに好ましい範囲は10質量%〜50質量%、特に12質量%〜35質量%が最も好ましい。また、延伸倍率が小さすぎると十分な位相差が得られず、大きすぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
本発明では、溶液流延製膜したものは、特定の範囲の残留溶媒量であれば高温に加熱しなくても延伸可能であるが、乾燥と延伸を兼ねると、工程が短くてすむので好ましい。しかし、ウェブの温度が高すぎると、可塑剤が揮散するので、室温(15℃)〜145℃以下の範囲が好ましい。また、互いに直交する2軸方向に延伸することは、フィルムの屈折率Nx、Ny、Nzを本発明の範囲に入れるために有効な方法である。例えば流延方向に延伸した場合、幅方向の収縮が大きすぎると、Nzの値が大きくなりすぎてしまう。この場合、フィルムの幅収縮を抑制あるいは、幅方向にも延伸することで改善できる。幅方向に延伸する場合、幅手で屈折率に分布が生じる場合がある。これは、例えばテンター法を用いた場合にみられることがあるが、幅方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、いわゆるボ−イング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、流延方向に延伸することで、ボ−イング現象を抑制でき、幅手の位相差の分布を少なく改善できるのである。さらに、互いに直交する2軸方向に延伸することにより得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。セルロースアシレートフィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなる。セルロースアシレートフィルムの膜厚変動は、±3%、さらに±1%の範囲とすることが好ましい。以上の様な目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ1〜2倍、0.7〜1.2倍の範囲とすることが好ましい。ここで、一方の方向に対して1.2〜2.0倍に延伸し、直交するもう一方を0.7〜1.0倍にするとは、フィルムを支持しているクリップやピンの間隔を延伸前の間隔に対して0.7〜1.0倍の範囲にすることを意味している。
【0117】
一般に、2軸延伸テンターを用いて幅手方向に1.2〜2.0倍の間隔となるように延伸する場合、その直角方向である長手方向には縮まる力が働く。
したがって、一方向のみに力を与えて続けて延伸すると直角方向の幅は縮まってしまうが、これを幅規制せずに縮まる量に対して、縮まり量を抑制していることを意味しており、その幅規制するクリップやピンの間隔を延伸前に対して0.7〜1.0倍の範囲に規制していることを意味している。このとき、長手方向には、幅手方向への延伸によってフィルムが縮まろうとする力が働いている。長手方向のクリップあるいはピンの間隔をとることによって、長手方向に必要以上の張力がかからないようにしているのである。ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸が行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0118】
<本発明のフィルムの応用>
(偏光板)
典型的な偏光板では、本発明のセルロースアシレートフィルムを偏光子の保護フィルムとして用いることができる。すなわち、偏光板は、偏光子およびその少なくとも片側、通常は両側に配置された2枚の透明保護フィルムからなるが、少なくとも一方の保護フィルムとして、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いることができる。他方の保護フィルムは、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いても、通常のセルロースアセテートフィルム等を用いてもよい。
【0119】
偏光板は前述のように、偏光子の少なくとも一方の面に偏光板用保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロ−スエステルフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコ−ル水溶液が好ましく用いられる。
また、偏光板の保護フィルムの上に、さらに、位相差膜を有していてもよい。位相差膜は、好ましくは、粘着剤によって貼り合わせる。粘着剤としては、例えば、特開2000−109771号公報、特開2003−34781号公報に記載のものを採用できる。
【0120】
偏光板の構成としては、保護フィルム/偏光子/保護フィルム/液晶セル/本発明のセルロースアシレートフィルム/偏光子/偏光板保護フィルムの構成、もしくは偏光板保護フィルム/偏光子/本発明のセルロースアシレートフィルム/液晶セル/本発明のセルロースアシレートフィルム/偏光子/偏光板保護フィルムの構成で好ましく用いることができる。特に、TN型、VA型、OCB型などの液晶セルに貼り合わせて用いることによって、さらに視野角に優れ、着色が少ない視認性に優れた表示装置を提供することができる。特に本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は湿度変化条件下での湿度安定性と、高温高湿条件下での長期間の湿熱耐久性とに優れ、高温高湿条件下において長期間安定した性能を維持することができる。また、ヘイズ値も低く、優れている。
【0121】
(液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。
【0122】
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置である。OCBモードの液晶セルは、米国特許第4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速いとの利点がある。
【0123】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。
VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(シャープ技報第80号11頁)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(月刊ディスプレイ5月号14頁(1999年))が含まれる。
VAモードの液晶表示装置は、液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。本発明における透過型液晶表示装置の一つの態様では、本発明のフィルムは、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。
【0124】
透過型液晶表示装置の別の態様では、液晶セルと偏光子との間に配置される偏光板の透明保護フィルムとして、本発明のフィルムからなる光学補償シートが用いられる。一方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)保護フィルムのみに上記の光学補償シートを用いてもよいし、あるいは双方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)二枚の保護フィルムに、上記の光学補償シートを用いてもよい。一方の偏光板のみに上記光学補償シートを使用する場合は、液晶セルのバックライト側偏光板の液晶セル側保護フィルムとして使用するのが特に好ましい。液晶セルへの張り合わせは、本発明のフィルムはVAセル側にすることが好ましい。保護フィルムは通常のセルロースエステルフィルムでも良く、本発明のフィルムより薄いことが好ましい。例えば、40〜80μmが好ましく、市販のKC4UX2M(コニカオプト株式会社製40μm)、KC5UX(コニカオプト株式会社製60μm)、TD80(富士フイルム製80μm)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0125】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0126】
[実施例1]
以下に示すセルロースアシレートドープaを用い、溶液製膜法によりフィルムを作製した。
(セルロースアシレートドープa)
セルロースアセテート樹脂:下記表1に記載の置換度のもの 100質量部
Rth上昇剤:下記表1に記載のもの 表1に記載の量(単位:質量部)
ジクロロメタン 406質量部
メタノール 61質量部
【0127】
[溶液流延]
上記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解した後、平均孔径34μmのろ紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過し、セルロースアシレートドープを調製した。ドープをバンド流延機にて流延した。残留溶剤量が約30質量%でバンドから剥ぎ取ったフィルムをテンターにより140℃の熱風を当てて乾燥した。その後テンター搬送からロール搬送に移行し、更に120℃から150℃で乾燥し巻き取った。このときのフィルム厚みは60μmであった。
【0128】
テンターを用いて延伸率37%まで拡幅した後、延伸率が35%となるように140℃で60秒間緩和させ、セルロースアシレート樹脂フィルムを得た。このときフィルムの膜厚を下記表1に記載した。
【0129】
[実施例2〜18および比較例1〜13]
セルロースアセテート樹脂の置換度、Rth上昇剤の種類と量をそれぞれ下記表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、セルロースアシレートドープを作成した。
その後、延伸温度および延伸倍率をそれぞれ下記表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様の手順で溶液流延および延伸を行い、実施例2〜18および比較例1〜13のセルロースアシレートフィルムを得た。
【0130】
以下に、比較用Rth上昇剤として用いられる化合物E、FおよびHの構造を示す。
【化12】

【0131】
[試験例]
(フィルムの物性評価)
下記の方法にしたがって実施例1〜18および比較例1〜13のセルロースアシレートフィルムの諸物性を評価した。
【0132】
[物性評価]
以下、フィルムの諸特性は以下の方法で測定して実施した。
【0133】
(Re(550)、Rth(550))
KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)で上記の方法によりRe、Rthを波長550nmで計測した。その結果を下記表1に示す。
【0134】
(ΔRth(550)−ΔRe(550))
同じセルロースアセテート樹脂を用いた系列内において、Rth上昇剤を添加したフィルムのRe(550)から、Rth上昇剤無添加のフィルムのRe(550)の値を減じて、その値をΔRe(550)とした。同様に、同じセルロースアセテート樹脂を用いた系列内において、Rth上昇剤を添加したフィルムのRth(550)から、Rth上昇剤無添加のフィルムのRth(550)の値を減じて、その値をΔRthとした。得られたΔRth(550)と得られたΔRe(550)の差を計算し、その結果を「ΔRth(550)−ΔRe(550)」として、下記表1に示す。
【0135】
(波長分散特性)
KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)で上記の方法によりフィルム作成時のReを波長630nmおよび波長450nmで測定した。波長630nmでの測定値をRe(630)、波長450nmでの測定値をRe(450)とし、Re(450)/Re(550)の値と、Re(630)/Re(550)の値を計算した。なお、Re(450)/Re(550)の値が1未満であって、Re(630)/Re(550)の値が1を超えると、いわゆるReが逆波長分散特性の光学フィルムということができる。同様に、波長630nmおよび波長450nmでRthを測定し、波長630nmでの測定値をRth(630)、波長450nmでの測定値をRth(450)とし、Rth(450)/Rth(550)の値と、Rth(630)/Rth(550)の値を計算した。Rth(450)/Rth(550)の値が1を超え、Rth(630)/Rth(550)の値が1未満であると、いわゆるRthが順波長分散特性の光学フィルムということができる。これらの結果を下記表1に示す。
【0136】
(フィルムのヘイズ)
ヘイズの測定は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料40mm×80mmを、25℃、相対湿度60%で、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−6714に従って測定した。その結果を下記表1に示す。
【0137】
【表1】

【0138】
上記表1より、実施例1〜18のセルロースアシレートフィルムは、ΔRth(550)−ΔRe(550)の値が、同じセルロースアセテートを用いた系列における比較化合物よりも大きいことがわかった。
具体的には、総アシル置換度2.44のセルロースアセテートに本発明に用いられるRth上昇剤である化合物A〜D、Gおよび化合物(2−3)をそれぞれ添加した実施例1〜6のフィルムは、それぞれ比較化合物E、FおよびHを添加した比較例1〜3のフィルムよりもΔRth(550)−ΔRe(550)の値が大きかった。
総アシル置換度2.81のセルロースアセテートに本発明に用いられるRth上昇剤である化合物A〜Dをそれぞれ添加した実施例7〜10のフィルムは、それぞれ比較化合物EおよびFを添加した比較例5および6のフィルムよりもΔRth(550)−ΔRe(550)の値が大きかった。
総アシル置換度2.16のセルロースアセテートに本発明に用いられるRth上昇剤である化合物A〜Dをそれぞれ添加した実施例11〜14のフィルムは、それぞれ比較化合物EおよびFを添加した比較例8および9のフィルムよりもΔRth(550)−ΔRe(550)の値が大きかった。
総アシル置換度2.60のセルロースアセテートに本発明に用いられるRth上昇剤である化合物A〜Dをそれぞれ添加した実施例15〜18のフィルムは、それぞれ比較化合物EおよびFを添加した比較例11および12のフィルムよりもΔRth(550)−ΔRe(550)の値が大きかった。
なお、各総アシル置換度のセルロースアセテートを用いた系列内において、実施例1〜18のフィルムは、いずれもRth上昇剤無添加である比較例4、7、10および13のフィルムよりもRthが上昇していることもわかった。
【0139】
また、実施例2、8、12および16より、Rth上昇剤として化合物Bを用いると、セルロースアシレートの総アシル置換度によらず、得られるフィルムのReが逆分散となり、かつRthが順分散となることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明によれば、面内方向のレターデーションに対して、膜厚方向のレターデーションを従来よりも高く発現させたセルロースアシレートフィルムを提供することが可能になった。すなわち、本発明のセルロースアシレートフィルムは、従来よりもRth上昇剤の添加量が少ないにもかかわらず、低膜厚とした場合にも十分なRthの発現性を達成でき、ReとRthのバランスも良好な範囲に制御することができている。そのため、低膜厚の偏光板用保護フィルム、光学補償フィルムとして好ましく提供することができる。さらに、Rth上昇剤の添加量が少ないために製造コストも低下させることができ、低膜厚の偏光板用保護フィルムの生産性を向上させることが可能になる。
さらに、本発明の好ましい態様によれば、フィルムの低ヘイズ化による、コントラストの向上した液晶表示装置を提供することが可能になる。また、本発明の別の好ましい態様によれば、フィルムの波長分散をRe逆分散、Rth順分散に制御することによる、斜めから見た時の色ずれの解消した液晶表示装置を提供することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートと、
第一の芳香環または複素芳香環と、該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している化合物、あるいは該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に原子連結基または連結鎖長1の連結基を介して結合している化合物とを含み、
前記化合物が下記式(1)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
15nm2≦A≦28nm2 式(1)
(式(1)中、Aは前記化合物の長軸の長さと、該長軸に直交する方向の軸の長さを掛け合わせた値を表す。)
【請求項2】
前記セルロースアシレートが下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
2.20<B<2.55 式(2)
(式(2)中、Bは前記セルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
【請求項3】
前記化合物が下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
4<C<27 式(3)
(式(3)中、Cは前記化合物のClogPを表す。)
【請求項4】
前記化合物が下記一般式(1)または一般式(2)を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
一般式(1)
Ar1−(X16
(一般式(1)中、Ar1は第一の芳香環または複素芳香環と該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している6価の縮合環基を表し、X1はそれぞれ独立に−OY1または−SY2を表し、Y1およびY2はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
一般式(2)
Ar2−(L1−Ar3−(Y3m3
(一般式(2)中、Ar2は3価の芳香環基または3価の複素芳香環基を表し、L1はそれぞれ独立に原子連結基または連結鎖長1の2価の連結基を表し、Ar3はそれぞれ独立にm+1価の芳香環基またはm+1価の複素芳香環基を表し、Y3はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、mは0以上の整数を表す。)
【請求項5】
前記化合物が、下記一般式(I)または一般式(II)で表されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化1】

(一般式(I)中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。)
【化2】

(一般式(II)中、R7、R8およびR9はそれぞれ独立に置換基を表し、a、bおよびcは1〜5の整数を表す。)
【請求項6】
前記化合物が、下記一般式(I’)または一般式(II’)で表されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化3】

(一般式(I’)中、R11、R12、R13、R14、R15およびR16はそれぞれ独立に−C(=O)−L11−Ar11−R17を表し、L11は単結合または2価の連結基を表し、Ar11はアリーレン基またはヘテロアリーレン基を表し、R17は置換または無置換のアルコキシ基を表す。)
【化4】

(一般式(II’)中、R21、R22、R23、R24、R25およびR26はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【請求項7】
下記式(4)を満たすことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
20μm<D<80μm 式(4)
(式(4)中、Dは前記セルロースアシレートフィルムの膜厚を表す。)
【請求項8】
下記式(5)を満たすことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
50nm<Rth(550)<250nm 式(5)
(式(5)中、Rth(550)は、波長550nmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの厚さ方向のレターデーション値を表す。)
【請求項9】
下記式(6)および(7)を共に満たすことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
10nm<Re(550)<100nm 式(6)
100nm<Rth(550)<200nm 式(7)
(式(6)および(7)中、Re(550)は、波長550nmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの面内方向のレターデーション値を表し、Rth(550)は、波長λnmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの厚さ方向のレターデーション値を表す。)
【請求項10】
下記式(8)および(9)を共に満たすことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
0.5<Re(450)/Re(550)<1.0 式(8)
1.0<Re(630)/Re(550)<1.5 式(9)
(式(8)および(9)中、Re(λ)は、波長λnmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの面内方向のレターデーション値を表し、Rth(λ)は、波長λnmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの厚さ方向のレターデーション値を表す。)
【請求項11】
下記式(10)および(11)を共に満たすことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
1.0<Rth(450)/Rth(550)<1.5 式(10)
0.5<Rth(630)/Rth(550)<1.0 式(11)
(式(10)および(11)中、Re(λ)は、波長λnmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの面内方向のレターデーション値を表し、Rth(λ)は、波長λnmの光に対する前記セルロースアシレートフィルムの厚さ方向のレターデーション値を表す。)
【請求項12】
前記セルロースアシレート100質量部に対する、前記化合物の含有量が、2質量部未満であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項13】
セルロースアシレートと、
第一の芳香環または複素芳香環と、該第一の芳香環または複素芳香環以外に少なくとも3つのその他の芳香環または複素芳香環とを有し、該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に縮合している化合物、あるいは該その他の芳香環または複素芳香環のうちの3つが該第一の芳香環または複素芳香環に原子連結基または連結鎖長1の連結基を介して結合している化合物とを含む溶液を支持体上に流涎する工程と、
該流涎工程によって得られたフィルムを乾燥し、支持体から剥離する工程と、
該支持体から剥離されたフィルムを延伸する工程を含み、
前記化合物が下記式(1)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
15nm2≦A≦28nm2 式(1)
(式(1)中、Aは前記化合物の長軸の長さと、該長軸に直交する方向の軸の長さを掛け合わせた値を表す。)
【請求項14】
請求項13に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。

【公開番号】特開2011−57927(P2011−57927A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211800(P2009−211800)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】