説明

セルロースアシレートフィルムとそのけん化方法

【課題】偏光子との貼合性に優れ、湿度によるレターデーションの変化が小さいセルロースアシレートフィルムを提供すること。
【解決手段】少なくとも一方の表面の水の接触角が55°未満であり、セルロースの水酸基の一部または全部が炭素数3以上のアシル基で置換されていることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子との貼合性に優れ、レターデーションの湿度変化が小さいセルロースアシレートフィルムおよびそれを用いた信頼性の高い偏光板および液晶表示装置に関するものである。また本発明は、セルロースアシレートフィルムのアルカリけん化方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムは、ハロゲン化写真感光材料の支持体、位相差板、位相差板の支持体、偏光板の保護フィルムや液晶表示装置に使用されている。セルロースアシレートフィルムの中でも、セルロースアシレートフィルムは、画像表示装置等の光学用途に最も一般的に用いられているフィルムである。セルロースアセテートフィルムは、適度な透湿度を有するため、特許文献1〜4に記載されるように表面をアルカリ水溶液に浸漬処理してけん化し親水化することにより、ポリビニルアルコールを主成分とする偏光子に直接貼合することができる。このため、偏光子の保護フィルムとして利用されている。
【0003】
保護フィルムを貼合した偏光子は、液晶表示装置を製造する際に液晶セルとともに組み込まれる。このとき、保護フィルムは偏光子と液晶セルの間に配置されるため、保護フィルムの光学特性が液晶表示装置の視認性に大きな影響を及ぼす。このため、保護フィルムは湿度変化などの環境変化に対して安定な光学特性を示すものであることが必要とされる。しかしながら、セルロースアセテートフィルムは、湿度変化に対してレターデーションが変動しやすいという問題を有している。近年では、液晶表示装置の広視野角化や高画質化に伴って、位相差の補償性向上が一段と求められるようになっており、改善が求められていた。
【0004】
湿度変化に対する安定性を改善するために、より疎水的なポリカーボネートやシクロオフレフィンポリマーからなるフィルムが提案されている(例えば特許文献5参照)。このようなフィルムは、ZEONOR(日本ゼオン社製)や、ARTON(JSR社製)として販売もされている。しかしながら、これらのフィルムでは、湿度に対する変化は改良されているが、ポリビニルアルコールを主成分とする偏光子と接着することが困難であるという問題がある。このため、さらなる改良が求められていた。
【特許文献1】特開平7−151914号公報
【特許文献2】特開平8−94838号公報
【特許文献3】特開2001−166146号公報
【特許文献4】特開2001−188130号公報
【特許文献5】特開2001−318233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、偏光子と直接貼合するフィルムにおいては、偏光子との貼合性と湿度変化に対するレターデーションの安定性とはトレードオフの関係となっていた。
そこで本発明は、偏光子との貼合性に優れ、湿度によるレターデーションの変化が小さいセルロースアシレートフィルムおよびそれを用いた信頼性の高い偏光板および液晶表示装置を提供することを目的とした。また本発明は、水の接触角が低いセルロースアシレートフィルムを提供することも目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、下記[1]〜[8]および[20]のセルロースアシレートフィルム、下記[9]〜[11]の偏光板、下記[12]の液晶表示装置および下記[13]〜[19]のけん化方法によって目的が達成されることを見いだした。
【0007】
[1] 少なくとも一方の表面の水の接触角が55°未満であり、セルロースの水酸基の一部または全部が炭素数3以上のアシル基で置換されていることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[2] セルロースの水酸基の一部または全部が、アセチル基と、プロピオニル基および/またはブチリル基で置換されている[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[3] フィルム面内のレターデーション値(Re)および膜厚方向のレターデーション値(Rth)に関し、双方とも相対湿度10%にて測定した値と相対湿度80%にて測定した値との差が30nm以下である[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[4] セルロースアシレートが下記式(1a)を満足する[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(1a): 0.5≦SP≦3.0
(式中、SPはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基の置換度を表す。)
[5] セルロースアシレートが下記式(2a)を満足する[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(2a): 0.5≦SB≦3.0
(式中、SBはセルロースの水酸基に対するブチリル基の置換度を表す。)
[6] セルロースアシレートが下記式(1b)を満足する[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(1b): 1.5≦SP≦3.0
(式中、SPはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基の置換度を表す。)
[7] セルロースアシレートが下記式(2b)を満足する[1]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(2b): 1.0≦SB≦3.0
(式中、SBはセルロースの水酸基に対するブチリル基の置換度を表す。)
[8] フィルム中に含まれるポリマーに対して0〜15質量%の疎水性化合物を含有する[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【0008】
[9] [1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚以上有する偏光板。
[10] 水の接触角が55°未満の面を偏光子と貼合させたことを特徴とする[9]に記載の偏光板。
[11] 60℃・相対湿度90%にて1000時間保持した後の偏光度低下が0.1%以下であることを特徴とする[9]または[10]に記載の偏光板。
[12] [1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚以上有する液晶表示装置。
【0009】
[13] 下記式(1a)および/または(2a)を満足するセルロースアシレートフィルムを、けん化液として濃度が3mol/L以上のアルカリ溶液を用いてけん化することを特徴とする、セルロースアシレートフィルムのけん化方法。
式(1a): 0.5≦SP≦3.0
式(2a): 0.5≦SB≦3.0
(式中、SPはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基の置換度を表し、SBはセルロースの水酸基に対するブチリル基の置換度を表す。)
[14] 1m/分以上の線速度で対流するけん化液の中にセルロースアシレートフィルムを浸漬することによりけん化を行う[13]に記載のけん化方法。
[15] セルロースアシレートフィルムに対するけん化開始時のけん化液の温度とけん化終了時のけん化液の温度との差が0.1℃以上である[13]または[14]に記載のセルロースアシレートフィルムのけん化方法。
[16] けん化液が有機溶媒を含有する[13]〜[15]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムのけん化方法。
[17] 有機溶媒がグリコール類である[16]に記載のセルロースアシレートフィルムのけん化方法。
[18] セルロースアシレートフィルムが式(1a)を満足する[13]〜[17]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムのけん化方法。
[19] セルロースアシレートフィルムが式(1b)を満足する[13]〜[17]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムのけん化方法。
[20] [13]〜[19]のいずれか一項に記載のけん化方法によりけん化されたセルロースアシレートフィルム。
[21] 溶融製膜されたフィルムからなる[1]〜[8]、[20]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[22] タッチロールを用いて溶融製膜されたフィルムからなる[1]〜[8]、[20]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[23] 残留溶媒量が0.01質量%以下である[1]〜[8]、[20]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[24] セルロースアシレートフィルムが溶融製膜されたフィルムである[13]〜[17]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムのけん化方法。
[25] セルロースアシレートフィルムがタッチロールを用いて溶融製膜されたフィルムである[13]〜[17]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムのけん化方法。
[26] セルロースアシレートフィルムの残留溶媒量が0.01質量%以下である[13]〜[17]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムのけん化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、水の接触角が小さくて、湿度変化によるレターデーションの変動が小さい。このため、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いれば、ポリビニルアルコールを主成分とする偏光子とオンラインで貼合することができ、信頼性の高い偏光板および液晶表示装置を生産性良く製造することが可能になる。また、本発明のけん化方法によれば、このような良好な性能を有するセルロースアシレートフィルムを容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムおよびそのけん化方法等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[水の接触角]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、水の接触角が55°未満であることを特徴とする。非常に親水的な偏光子との貼合性の観点から、水の接触角は50°未満であることがより好ましく、40°未満であることがさらに好ましく、30°未満であることが特に好ましい。水の接触角は、フィルムを25℃・相対湿度60%で3時間以上調湿した後、表面に直径3mmの純水の液滴を落とし、フィルム表面と水滴のなす角から求める。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、少なくとも一方の表面の水の接触角が55°未満であればよい。このため、両面の水の接触角がともに55°未満であるセルロースアシレートフィルムも本発明の範囲内に含まれる。
【0013】
[セルロースアシレート]
本発明のフィルムを構成するセルロースアシレート(以下、本発明のセルロースアシレートという)について説明する。
セルロースを構成する、β−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をエステル化した重合体(ポリマー)である。水酸基のエステル化の割合を示すために、本願では置換度を用いる。置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについて水酸基がエステル化している割合(100%エステル化しているときは置換度1)を合計したものである。2位、3位および6位のすべての水酸基がエステル化しているときは置換度は3となる。
【0014】
本発明のセルロースアシレートが有するアシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基のいずれであってもよい。好ましいアシル基の例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、イソブチリル基、tert−ブチリル基、シクロヘキサンカルボニル基、ベンゾイル基などの炭素数2〜7のアシル基である。これらの中でも、さらに好ましいものは、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基である。
【0015】
本発明のセルロースアシレートは、1分子中に複数種のエステルを有する混合エステルであってもよい。好ましい混合エステルの例として、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロパノエートブチレート、セルロースアセテートヘキサノエート、セルロースアセテートシクロヘキサノエートなどを挙げることができる。好ましいセルロースアシレートは、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートであり、特に好ましいセルロースアシレートは、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートである。
【0016】
本発明のセルロースアシレートは、セルロースの水酸基に対するプロピオニル基の置換度をSPとし、セルロースの水酸基に対するブチリル基の置換度をSBとしたときに、下記式(1a)および/または(2a)を満たすことが好ましい。
式(1a): 0.5≦SP≦3.0
式(2a): 0.5≦SB≦3.0
本発明のセルロースアシレートは、下記式(1b)および/または(2b)を満たすことがより好ましい。
式(1b): 1.5≦SP≦3.0
式(2b): 1.0≦SB≦3.0
本発明のセルロースアシレートは、下記式(1c)および/または(2c)を満たすことがより好ましい。
式(1c): 2.0≦SP≦3.0
式(2c): 1.2≦SB≦2.0
【0017】
[セルロースアシレートの製造方法]
次に、本発明のセルロースアシレートの製造方法について説明する。
本発明のセルロースアシレートの原料綿やその合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁に詳細に記載されている。
【0018】
(セルロースアシレートの原料および前処理)
セルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。セルロース原料としては、α−セルロース含量が92質量%〜99.9質量%の高純度のものを用いることが好ましい。セルロース原料がシート状や塊状である場合は、あらかじめ解砕しておくことが好ましく、セルロースの形態は微細粉末から羽毛状になるまで解砕が進行していることが好ましい。
【0019】
(セルロース原料の活性化)
セルロース原料はアシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行うことが好ましい。活性化剤としては、カルボン酸または水を用いることができるが、水を用いた場合には、活性化の後に酸無水物を過剰に添加して脱水を行ったり、水を置換するためにカルボン酸で洗浄したり、アシル化の条件を調節したりするといった工程を含むことが好ましい。活性化剤はいかなる温度に調節して添加してもよく、添加方法としては噴霧、滴下、浸漬などの方法から選択することができる。
活性化剤として好ましいカルボン酸は、炭素数2〜7のカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸、ヘプタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸など)であり、より好ましくは、酢酸、プロピオン酸、または酪酸であり、特に好ましくは酢酸である。活性化の際は、必要に応じてさらに硫酸などのブレンステッド酸を加えることもできる。しかし、硫酸のような強酸を添加すると、解重合が促進されることがあるため、その添加量はセルロースに対して0.1質量%〜10質量%程度に留めることが好ましい。また、2種類以上の活性化剤を併用したり、炭素数2〜7のカルボン酸の酸無水物を添加したりしてもよい。
【0020】
活性化剤の添加量は、セルロースに対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。活性化剤の量が5質量%以上であれば、セルロースの活性化の程度が低下するなどの不具合が生じないので好ましい。活性化剤の添加量の上限は生産性を低下させない限りにおいて特に制限はないが、セルロースに対して質量で100倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることが特に好ましい。活性化剤をセルロースに対して大過剰加えて活性化を行い、その後、ろ過、送風乾燥、加熱乾燥、減圧留去、溶媒置換などの操作を行って活性剤の量を減少させてもよい。
【0021】
活性化の時間は20分以上であることが好ましく、上限については生産性に影響を及ぼさない範囲であれば特に制限はないが、好ましくは72時間以下、さらに好ましくは24時間以下、特に好ましくは12時間以下である。また、活性化の温度は0℃〜90℃が好ましく、15℃〜80℃がさらに好ましく、20℃〜60℃が特に好ましい。セルロースの活性化の工程は加圧または減圧条件下で行うこともできる。また、加熱の手段として、マイクロ波や赤外線などの電磁波を用いてもよい。
【0022】
(セルロースのアシル化)
本発明におけるセルロースアシレートを製造する方法においては、セルロースにカルボン酸の酸無水物を加え、ブレンステッド酸またはルイス酸を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をアシル化することが好ましい。6位置換度の大きいセルロースアシレートの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号や特開2002−338601号の各公報などに記載がある。
セルロースアシレートの他の合成法としては、塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、tert−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)の存在下に、カルボン酸無水物やカルボン酸ハライドと反応させる方法、アシル化剤として混合酸無水物(カルボン酸・トリフルオロ酢酸混合無水物、カルボン酸・メタンスルホン酸混合無水物など)を用いる方法も用いることができ、特に後者の方法は、炭素数の多いアシル基や、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒による液相アシル化法が困難なアシル基を導入する際には有効である。
本発明のセルロースアシレートを得る方法としては、アシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースアシレートを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて残存する水酸基をさらにアシル化する方法などを用いることができる。
【0023】
(アシル化に使用する酸無水物)
カルボン酸の酸無水物として、好ましくはカルボン酸としての炭素数が2〜7であり、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、2−メチルプロピオン酸無水物、吉草酸無水物、3−メチル酪酸無水物、2−メチル酪酸無水物、2,2−ジメチルプロピオン酸無水物(ピバル酸無水物)、ヘキサン酸無水物、2−メチル吉草酸無水物、3−メチル吉草酸無水物、4−メチル吉草酸無水物、2,2−ジメチル酪酸無水物、2,3−ジメチル酪酸無水物、3,3−ジメチル酪酸無水物、シクロペンタンカルボン酸無水物、ヘプタン酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、安息香酸無水物などを挙げることができる。より好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物などの無水物であり、特に好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物である。
セルロースアシレートを調製する目的で、これらの酸無水物を併用して使用することが好ましく行われる。その混合比は目的とするセルロースアシレートの置換比に応じて決定することが好ましい。酸無水物は、セルロースに対して、通常は過剰当量を添加することが好ましく、セルロースの水酸基に対して1.2〜50当量添加することが好ましく、1.5〜30当量添加することがより好ましく、2〜10当量添加することが特に好ましい。
【0024】
(アシル化反応の触媒)
本発明におけるセルロースアシレートの製造に用いるアシル化の触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましい。ブレンステッド酸およびルイス酸の定義については、例えば、「理化学辞典」第五版(2000年)に記載されている。好ましいブレンステッド酸の例としては、硫酸、過塩素酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などを挙げることができる。好ましいルイス酸の例としては、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化マグネシウムなどを挙げることができる。触媒としては、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。触媒の好ましい添加量は、セルロースに対して0.1〜30質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、特に好ましくは3〜12質量%である。
【0025】
(アシル化時の溶媒)
アシル化を行う際には、粘度、反応速度、攪拌性、アシル置換比などを調整する目的で、溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、カルボン酸、アセトン、エチルメチルケトン、トルエン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどを用いることもできるが、好ましくはカルボン酸であり、例えば、炭素数2〜7のカルボン酸{例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸}などを挙げることができる。さらに好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを挙げることができる。これらの溶媒は混合して用いてもよい。
【0026】
(アシル化の反応条件)
アシル化を行う際には、酸無水物と触媒、さらに、必要に応じて溶媒を混合してからセルロースと混合してもよく、またこれらを別々に逐次セルロースと混合してもよいが、通常は、酸無水物と触媒との混合物、または、酸無水物と触媒と溶媒との混合物をアシル化剤として調整してからセルロースと反応させることが好ましい。アシル化の際の反応熱による反応容器内の温度上昇を抑制するために、アシル化剤は予め冷却しておくことが好ましい。冷却温度としては、−50℃〜20℃が好ましく、−35℃〜10℃がより好ましく、−25℃〜5℃が特に好ましい。アシル化剤は液状で添加しても、凍結させて結晶、フレーク、またはブロック状の固体として添加してもよい。
【0027】
アシル化剤はさらに、セルロースに対して一度に添加しても、分割して添加してもよい。また、アシル化剤に対してセルロースを一度に添加しても、分割して添加してもよい。アシル化剤を分割して添加する場合は、同一組成のアシル化剤を用いても、複数の組成の異なるアシル化剤を用いても良い。好ましい例として、1)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒を添加する、2)酸無水物、溶媒と触媒の一部の混合物をまず添加し、次いで、触媒の残りと溶媒の混合物を添加する、3)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒と溶媒の混合物を添加する、4)溶媒をまず添加し、酸無水物と触媒との混合物あるいは酸無水物と触媒と溶媒との混合物を添加する、などの方法を挙げることができる。
【0028】
セルロースのアシル化は発熱反応であるが、本発明のセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化の際の最高到達温度が50℃以下であることが好ましい。反応温度がこの温度以下であれば、解重合が進行して本発明の用途に適した重合度のセルロースアシレートを得難くなるなどの不都合が生じないため好ましい。アシル化の際の最高到達温度は、好ましくは45℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、特に好ましくは35℃以下である。反応温度は温度調節装置を用いて制御しても、アシル化剤の初期温度で制御してもよい。反応容器を減圧して、反応系中の液体成分の気化熱で反応温度を制御することもできる。アシル化の際の発熱は反応初期が大きいため、反応初期には冷却し、その後は加熱するなどの制御を行うこともできる。アシル化の終点は、光線透過率、溶液粘度、反応系の温度変化、反応物の有機溶媒に対する溶解性、偏光顕微鏡観察などの手段により決定することができる。
【0029】
反応の最低温度は−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましく、−20℃以上が特に好ましい。好ましいアシル化時間は0.5時間〜24時間であり、1時間〜12時間がより好ましく、1.5時間〜6時間が特に好ましい。0.5時間では通常の反応条件では反応が十分に進行せず、24時間を越えると、工業的な製造のために好ましくない。
【0030】
(アシル化の反応停止剤)
本発明に用いられるセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。
反応停止剤としては、酸無水物を分解するものであればいかなるものでもよく、好ましい例として、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)またはこれらを含有する組成物などを挙げることができる。反応停止剤の添加に際しては、反応装置の冷却能力を超える大きな発熱が生じて、セルロースアシレートの重合度を低下させる原因となったり、セルロースアシレートが望まない形態で沈殿したりする場合があるなどの不都合を避けるため、水やアルコールを直接添加するよりも、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸と水との混合物を添加することが好ましく、カルボン酸としては酢酸が特に好ましい。カルボン酸と水の組成比は任意の割合で用いることができるが、水の含有量が5質量%〜80質量%、さらには10質量%〜60質量%、特には15質量%〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0031】
反応停止剤は、アシル化の反応容器に添加しても、反応停止剤の容器に反応物を添加してもよい。反応停止剤は3分〜3時間かけて添加することが好ましい。反応停止剤の添加時間が3分以上であれば、発熱が大きくなりすぎて重合度低下の原因となったり、酸無水物の加水分解が不十分になったり、セルロースアシレートの安定性を低下させたりするなどの不都合が生じないので好ましい。また反応停止剤の添加時間が3時間以下であれば、工業的な生産性の低下などの問題も生じないので好ましい。反応停止剤の添加時間として、好ましくは4分〜2時間であり、より好ましくは5分〜1時間であり、特に好ましくは10分〜45分である。反応停止剤を添加する際には反応容器を冷却しても冷却しなくてもよいが、解重合を抑制する目的から、反応容器を冷却して温度上昇を抑制することが好ましい。また、反応停止剤を冷却しておくことも好ましい。
【0032】
(アシル化時の反応中和剤)
アシル化の停止後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解およびアシル化触媒の一部または全部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)またはその溶液を添加してもよい。中和剤の溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなど)、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒、およびこれらの混合溶媒を好ましい例として挙げることができる。
【0033】
(セルロースアシレートの部分加水分解)
このようにして得られるセルロースアシレートは、セルロース水酸基の置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、所望のアシル置換度を有するセルロースアシレートまで変化させること(いわゆる熟成)が一般的に行われる。部分加水分解の過程でセルロースの硫酸エステルも加水分解されることから、加水分解の条件を調節することにより、セルロースに結合した硫酸エステルの量を削減することができる。
【0034】
(セルロースアシレート部分加水分解の停止)
所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を、前記のような中和剤またはその溶液を用いて完全に中和し、部分加水分解を停止させることが好ましい。反応溶液に対して溶解性が低い塩を生成する中和剤(例えば、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなど)を添加することにより、溶液中あるいはセルロースに結合した触媒(例えば、硫酸エステル)を効果的に除去することも好ましい。
【0035】
(セルロースアシレートのろ過)
セルロースアシレート中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的として、アシル化後の反応混合物のろ過を行うことが好ましい。ろ過は、アシル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。ろ過圧や取り扱い性の制御の目的から、ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。ろ過の際には、そのろ材は特に限定されず、布、ガラスフィルター、セルロース系ろ紙、セルロース系布フィルター、金属フィルター、ポリマー系フィルター(例えば、ポリプロピレン製フィルター、ポリエチレンフィルター、ポリアミド系フィルター、フッ素系フィルターなど)を挙げることができる。そのフィルター口径サイズは、0.1〜500μmが好ましく、より好ましくは2〜200μmであり、さらには3〜60μmである。
【0036】
(セルロースアシレートの再沈殿)
得られたセルロースアシレート溶液を、水またはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)水溶液のような貧溶媒中に混合するか、セルロースアシレート反応溶液中に、貧溶媒を混合することにより、セルロースアシレートを再沈殿させ、洗浄および安定化処理により目的のセルロースアシレートを得ることができる。再沈殿は連続的に行っても、一定量ずつバッチ式で行ってもよい。セルロースアシレート溶液の濃度および貧溶媒の組成をセルロースアシレートの置換様式あるいは重合度により調整することで、再沈殿したセルロースアシレートの形態や分子量分布を制御することも好ましい。
また、精製効果の向上、分子量分布や見かけ密度の調節などの目的から、一旦再沈殿させたセルロースアシレートをその良溶媒(例えば、酢酸やアセトンなど)に再度溶解し、これに貧溶媒(例えば、水など)を作用させることにより再沈殿を行う操作を、必要に応じて1回ないし複数回行ってもよい。
【0037】
(セルロースアシレートの洗浄)
生成したセルロースアシレートは洗浄処理することが好ましい。洗浄溶媒はセルロースアシレートを溶解せず、かつ、不純物を除去することができるものであればいかなるものでも良いが、通常は水または温水が用いられる。洗浄水の温度は、好ましくは5℃〜100℃であり、さらに好ましくは15℃〜90℃であり、特に好ましくは30℃〜80℃である。洗浄処理はろ過と洗浄液の交換を繰り返すいわゆるバッチ式で行っても、連続洗浄装置を用いて行ってもよい。再沈殿および洗浄の工程で発生した廃液を再沈殿の貧溶媒として再利用したり、蒸留などの手段によりカルボン酸などの溶媒を回収して再利用することも好ましい。
洗浄の進行はいかなる手段で追跡を行ってよいが、水素イオン濃度、イオンクロマトグラフィー、電気伝導度、ICP、元素分析、原子吸光スペクトルなどの方法を好ましい例として挙げることができる。
処理により、セルロースアシレート中のブレンステッド酸(硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸など)、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)、中和剤と触媒との反応物、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、中和剤とカルボン酸との反応物などを除去することができ、セルロースアシレートの安定性(特に高温高湿度によるエステル結合の分解)を高めるために有効である。
【0038】
(安定化)
温水処理による洗浄後のセルロースアシレートは、安定性をさらに向上させたり、カルボン酸臭を低下させるために、弱アルカリ(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物など)の水溶液などで処理することも好ましい。
残存不純物の量は、洗浄液の量、洗浄の温度、時間、攪拌方法、洗浄容器の形態、安定化剤の組成や濃度により制御できる。
【0039】
(乾燥)
本発明においてセルロースアシレートの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースアシレートを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されないが、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい。乾燥温度として好ましくは0〜200℃であり、さらに好ましくは40〜180℃であり、特に好ましくは50〜160℃である。この時、セルロースアシレートのガラス転移点(Tg)よりも低い温度で乾燥することが好ましく、(Tg−10)℃以下の乾燥温度がさらに好ましい。
乾燥によって得られる本発明のセルロースアシレートは、その含水率が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.7質量%以下であることが特には好ましい。
【0040】
(形態)
セルロースアシレートをフィルム製造の原料として用いる場合、粒子状または粉末状であることが好ましい。乾燥後のセルロースアシレートは、粒子サイズの均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行っても良い。セルロースアシレートが粒子状であるとき、使用する粒子の90質量%以上は、0.5〜5mmの粒子サイズを有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子サイズを有することが好ましい。セルロースアシレート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。
【0041】
(重合度)
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、セルロースエステルを溶液流延製膜する場合には、粘度平均重合度で150〜500が好ましく、200〜400がより好ましく、220〜350がさらに好ましい。また、セルロースエステルを溶融製膜する場合には、粘度平均重合度で100〜300が好ましく、120〜250がより好ましく、130〜200がさらに好ましい。前記粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)の記載に従って測定することができる。前記粘度平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも記載がある。
【0042】
[添加剤]
本発明のセルロースアシレートフィルムにおいては、レターデーションの湿度変化低減の観点から、疎水性添加剤の添加量を多くしたほうが好ましいが、添加量の増大に伴い、ポリマーフィルムのTg低下や、フィルムの製造工程における添加剤の揮散問題を引き起こしやすくなってしまう。したがって、本発明のセルロースアシレートフィルムでは、疎水性添加剤をポリマーに対して好ましくは0〜15質量%、より好ましくは3〜10%、さらに好ましくは4〜8%含有させる。
疎水性添加剤とは、水への溶解性が低い分子量3000以下の有機化合物を指し、例えば可塑剤、紫外線防止剤、光学異方性コントロール剤、微粒子、剥離剤、赤外吸収剤、レターデーション上昇剤などが挙げられる。これらの化合物はセルロースアシレートへの親和性が高く、製膜過程でブリードアウトしないものが好ましく、具体的な化合物例として、特開2001−151901号公報、特開平2001−194522号公報、公開技報2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)16頁〜22頁などに記載されるものを挙げることができる。
【0043】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、1種類のみの前記セルロースアシレートから形成してもよいし、2種類以上を混合して形成してもよい。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合して形成したものであってもよい。混合される高分子成分はセルロースアシレートとの相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上であることが好ましい。
本発明のフィルムは、前記セルロースアシレートおよび添加剤から溶液流延製膜法で製膜してもよいし、溶融製膜法で製膜してもよい。セルロースアシレートの溶液製膜については、公開技報2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)、特開2005−99097号公報、特開2005−104011号公報、特開2005−104148号公報、特開2005−104149号公報、特開2005−105066号公報、特開2005−138358号公報、特開2005−154631号公報、特開2005−219444号公報、特開2005−232328号公報、特開2005−232329号公報、特開2005−263941号公報、特開2005−272485号公報、特開2005−272800号公報、特開2005−330411号公報などに記載があり、溶媒は塩素系溶媒でも非塩素系溶媒でもよく、溶解法は室温溶解法、冷却溶解法、高温溶解法のいずれでもよく、それらを組み合わせてもよい。セルロースアシレートの溶融製膜については、特開2000−352620号公報などに記載がある。また、セルロースアシレートの溶融製膜については、特開2005−178194号公報、特開2005−301225号公報、特開2005−330411号公報、国際公開第2005/103122号パンフレットなどに記載があり、これらを適宜適用することができる。さらに、溶融製膜の場合、下記に示すタッチロール製膜も好ましく適用することもできる。
【0044】
(タッチロール製膜)
本発明では、溶融後ダイから押出した後、キャスティングドラム上でタッチロールを用いて製膜することがより好ましい。この方法はダイから出たメルトをキャスティングドラムとタッチロールで挟み込んで冷却固化するものである。これを用いることで、フィルムに形成された微細凹凸を平滑にすることができ、液晶表示装置でのボケを軽減できる。
このようなタッチロールは、ダイから出たメルトをロール間で挟む時に生じる残留歪を低減するために、弾性を有するものであることが好ましい。ロールに弾性を付与するためには、ロールの外筒厚みを通常のロールよりも薄くすることが必要であり、外筒の肉厚Zは、0.05〜7.0mmが好ましく、より好ましくは0.2〜5.0mmであり、更に好ましくは0.3〜2.0mmである。例えば、外筒厚みを薄くすることにより、弾性を付与したタイプや、金属シャフトの上に弾性体層を設け、その上に外筒を被せ、弾性体層と外筒の間に液状媒体層を満たすことにより極薄の外筒によりタッチロール製膜を可能にしたものが挙げられる。キャスティングロール、タッチロールは、表面が鏡面であることが好ましく、算術平均高さRaが100nm以下、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下である。具体的には例えば特開平11−314263号公報、特開2002−36332号公報、特開平11−235747号公報、特開2004−216717号公報、特開2003−145609号公報、国際公開第97/28950号パンフレット記載のものを利用できる。
【0045】
このようにタッチロールは薄い外筒の内側を流体が満たされているため、キャスティングロールと接触させるとその押圧で凹状に弾性変形する。従って、タッチロールとキャスティングロールは冷却ロールと面接触するため押圧が分散され、低い面圧を達成できる。このためこの間に挟まれたフィルムに残留歪を残すことなく、表面の微細凹凸を矯正できる。好ましいタッチロールの線圧は3〜100kg/cm、より好ましくは5〜80kg/cm、さらに好ましくは7〜60kg/cmである。ここでいう線圧とはタッチロールに加える力をダイの吐出口の幅で割った値である。線圧が3kg/cm以上であれば、タッチロールの押し付けによる微細凹凸低減効果が得られやすい。一方、線圧が100kg/cm以下であれば、タッチロールが歪みにくく、キャスティングロール全域にわたってより均一にタッチしやすくなるため、全幅にわたって微細凹凸を軽減しやすい。
タッチロールの温度は、好ましくは60〜160℃、より好ましくは70〜150℃、さらに好ましくは80〜140℃に設定する。このような温度制御はこれらのロール内部に温調した液体、気体を通すことで達成できる。
【0046】
また、本発明のフィルムは、流延後に積極的に延伸したものであってもよいし、延伸していないものであってもよい。
【0047】
[アルカリ溶液]
本発明のフィルムは、けん化することができる。けん化は、本発明のけん化方法にしたがって、濃度が3mol/L以上のアルカリ溶液をけん化液として用いてけん化処理することが好ましい。けん化液はアルカリ剤と水からなり、場合により界面活性剤および相溶化剤が含有されていても良い。
アルカリ溶液の濃度(アルカリ溶液中のアルカリ剤の含有量)は、セルロースアシレートのアシル置換度に応じて決定する必要がある。すなわち、セルロースアシレートにおいては、アシル基の炭素数増大に伴って、けん化効率が著しく低下するため、アシル基の炭素数が大きくなるほどアルカリ濃度は高くする必要があるが、アルカリ濃度が高すぎるとアルカリ溶液の安定性が損なわれ、長時間塗布において析出する場合もあるため、セルロースアシレートの一次構造に応じて適切にアルカリ溶液を選定することがポイントとなる。そのため、本発明で用いられるアルカリ溶液は3mol/L以上であることが好ましく、3〜15mol/Lであることがより好ましく、4〜10mol/Lであることがさらに好ましく、5〜8mol/Lであることが最も好ましい。また、アルカリ溶液の濃度は、この範囲内で、使用するアルカリ剤の種類、反応温度および反応時間に応じて調整することもできる。
【0048】
アルカリ剤としては、第3リン酸ナトリウム、第3リン酸カリウム、第3リン酸アンモニウム、第二リン酸ナトリウム、第二リン酸カリウム、第二リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、ほう酸ナトリウム、ほう酸カリウム、ほう酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウムなどの無機アルカリ剤が挙げられる。また、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルブチルアンモニウムヒドロキシドなどの有機アルカリ剤も用いられる。これらのアルカリ剤は単独または2種以上を組み合わせて併用することもでき、一部を例えばハロゲン化したような塩の形で添加してもよい。
これらのアルカリ剤の中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。その理由は、これらの量を調整することにより広いpH領域でのpH調整が可能となるためである。
【0049】
アルカリ溶液の溶媒は、水の単独溶媒、または水と有機溶媒との混合溶媒である。好ましい有機溶媒は、アルコール類、アルカノール類、グリコール化合物のモノエーテル類、ケトン類、アミド類、スルホキシド類、エーテル類が挙げられ、より好ましくは、分子量61以上のアルコール類であり、さらに好ましくは分子量61以上のグリコール類であり、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリンモノメチルエーテル、グリセリンモノエチルエーテル、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。水と併用される有機溶媒は、単独または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0050】
有機溶媒を単独或いは2種以上を混合する場合の少なくとも1種の有機溶媒は、水への溶解性が大きなものが好ましい。有機溶媒の水の溶解度は、50質量%以上が好ましく、水と自由に混合するものがより好ましい。アルカリ剤、けん化処理で副生する脂肪酸の塩、空気中の二酸化炭素を吸収して生じた炭酸の塩等への溶解性が充分なアルカリ溶液を調製できる。
有機溶媒の溶媒中の使用割合は、溶媒の種類、水との混和性(溶解性)、反応温度および反応時間に応じて決定する。短い時間でけん化反応を完了するためには、高い濃度に溶液を調製することが好ましい。ただし、溶媒濃度が高すぎるとアシレートフィルム中の成分(可塑剤など)が抽出されたり、フィルムの過度の膨潤が起こる場合があり、適切に選択する必要がある。
水と有機溶媒の混合比は、3/97〜85/15質量比が好ましい。より好ましくは5/95〜60/40質量比であり、さらに好ましくは15/85〜40/60質量比である。この範囲において、アシレートフィルムの光学特性を損なうことなく容易にフィルム全面が均一にけん化処理される。
【0051】
本発明で好ましく用いられるアルカリ溶液の如く、高濃度のアルカリ溶液は環境雰囲気のCO2を吸収して溶液中で炭酸となりpHを下げるとともに、炭酸塩の沈殿物を発生させやすくなるため、環境雰囲気のCO2濃度は5000ppm以下が好ましい。環境雰囲気のCO2の吸収を抑制するために、アルカリ溶液の塗布コーターを半密閉構造としたり、乾燥空気、不活性ガスやアルカリ溶液の有機溶剤飽和蒸気で覆うようにすることがより好ましい。
【0052】
(界面活性剤)
本発明で用いられるアルカリ溶液には、界面活性剤を含有させることもできる。界面活性剤を添加することによって、たとえ有機溶媒がフィルム含有物質を抽出したとしてもアルカリ溶液中に安定に存在させ、後の水洗工程においても抽出物質が析出、固体化しない。好ましく用いられる界面活性剤については、例えば、特開2003−313326号公報などに記載されている。
【0053】
(消泡剤)
本発明で用いられるアルカリ溶液には、消泡剤を含有させることもでき、好ましく用いられる消泡剤については、例えば、特開2003−313326号公報などに記載されている。
【0054】
(防黴剤/防菌剤)
本発明で用いられるアルカリ溶液には、防黴剤および/または防菌剤を含有させることもでき、好ましく用いられる防黴剤/防菌剤については、例えば、特開2003−313326号公報などに記載されている。
【0055】
(水)
また、アルカリ溶液に用いる水としては、日本国水道法(昭和32年法律第177号)およびそれに基づく水質基準に関する省令(昭和53年8月31日厚生省令第56号)、同国温泉法(昭和23年7月10日法律第125号およびその別表)、および、WHO規定水道水基準によって規定される水中の混入の状態における各元素やミネラル等への影響、等に基づくものが好ましい。
本発明の効果の達成をより確実にするために、上述した水を用いることが好ましく、アルカリ溶液のカルシウム濃度は、0.001〜400mg/Lであるのが好ましく、0.001〜150mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜10mg/Lであるのが特に好ましい。マグネシウム濃度は、0.001〜400mg/Lであるのが好ましく、0.001〜150mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜10mg/Lであるのが特に好ましい。カルシウムやマグネシウム以外の他の多価の金属イオンも含まれないことが好ましい。多価金属イオンの濃度は0.002〜1000mg/Lであることが好ましい。一方、アルカリ溶液に塩化物イオンや炭酸イオンなどのアニオンも含まないことが好ましい。塩化物イオン濃度は0.001〜500mg/Lであることが好ましく、0.001〜300mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜100mg/Lであるのが特に好ましい。また、炭酸イオンも含まれないことが好ましい。炭酸イオン濃度は0.001〜3500mg/Lであることが好ましく、0.001〜1000mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜200mg/Lであるのが特に好ましい。これらの濃度範囲において、溶液中の不溶解物の生成が抑えられる。
【0056】
[アルカリけん化処理]
本発明のフィルムは、フィルムを前記アルカリ溶液でけん化処理する工程、アルカリ溶液をフィルムから洗い落とす工程によりアルカリけん化処理を実施することができる。その後、アルカリ溶液を中和する工程、および中和液をフィルムから洗い落とす工程を含んでもよい。これらの工程は、フィルムを搬送しながら実施することが好ましく、特開2001−188130号公報に記載されるようなアルカリ溶液に浸漬する方法を用いてもよく、特開2004−203965号公報に記載されるようなアルカリ溶液を塗布する方法を用いてもよい。
けん化時間は1〜10分であることが好ましく、2〜8分であることが好ましく、3〜6分であることがさらに好ましい。けん化時間が長すぎると、後述する偏光板耐久性に悪影響を及ぼしてしまう。
アルカリ溶液に浸漬するけん化工程の場合、けん化液は、けん化溶液槽の中で対流させることが好ましい。対流速度は、溶液に紐をつけた溶液と同等の比重を有するフロートを入れ、単位時間あたりに紐が繰り出された量から測定することができ、線速度が1m/分以上であることが好ましく、10〜1000m/分であることがより好ましく、30〜500m/分であることがさらに好ましく、50〜300m/分であることが最も好ましい。けん化液の対流は、溶液槽中に撹拌羽により実施することができる。
【0057】
セルロースアシレートフィルムに対するけん化開始時のけん化液の温度とけん化終了時のけん化液の温度との差は0.1℃以上であることが好ましく、0.5〜20℃であることがより好ましく、3〜10℃であることがさらに好ましい。このような温度差を実現するためには、けん化溶液槽中、フィルムが浸漬される入り口付近のけん化液温度と、フィルムがけん化液から取り出される出口付近のけん化液温度との差を好ましくは0.1℃以上、より好ましくは0.5〜20℃、さらに好ましくは3〜10℃に設定すればよい。具体的には、アルカリ溶液槽中に仕切り板を設けて溶液の流れを妨げ、昇温用のヒーターを追加するなどの方法を用いて設定することができる。このとき、けん化終了時の温度(出口付近の温度)のほうが高いほうが好ましい。このことにより、フィルム中の添加剤の析出を抑え、効率的にフィルムの接触角を低下させることができる。
液中に溶け出したセルロースアシレートフィルムの添加剤は、セルロースアシレートフィルム上に付着して輝点故障(異物欠陥)の発生原因となることがある。このため、活性炭を用いて、溶出成分を吸着、除去する方法を好ましく利用することができる。活性炭は、けん化溶液中の着色成分を除去する機能を有すれば良く、その形態、材質等に制限はない。具体的には、活性炭を直接アルカリけん化溶液槽に入れる方法を採用してもよいし、けん化溶液槽と活性炭を充填した浄化装置間にけん化溶液を循環させる方法を採用してもよい。
【0058】
[レターデーション]
本発明のセルロースアシレートフィルムの面内レターデーション値(Re)および膜厚方向のレターデーション値(Rth)の湿度依存性(ΔRe、ΔRth)は、双方とも30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましく、10nm以下であることが最も好ましい。
【0059】
本願におけるレターデーション値は、幅方向3点(中央、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置))を長手方向に10mごとに3回サンプリングし、3cm角の大きさのサンプルを9枚取り出し、下記の方法にしたがって求めた各点の平均値から求める。
サンプルフィルムを25℃・相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%において、フィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面法線から+50°から−50°まで10°刻みで傾斜させた方向から波長590nmにおける位相差を測定することから、面内レターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出する。
レターデーション値の湿度に伴う変化については、フィルムを25℃・相対湿度10%にて調湿、測定して算出した上記Re、Rth(それぞれRe(10%)、Rth(10%))、および25℃・相対湿度80%にて調湿、測定して算出したRe、Rth(それぞれRe(80%)、Rth(80%))から、Reの湿度依存性(ΔRe=Re(10%)−Re(80%))とRthの湿度依存性(ΔRth=Rth(10%)−Rth(80%))とを算出する。
【0060】
[偏光板]
偏光板は、偏光子とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルムからなる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができ、前記けん化処理したセルロースアシレートフィルムを好ましく用いることができる。例えば特開平2001−141926号公報のように、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸することによって作製した偏光子と、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスなどの接着剤を用いて貼合することにより、偏光板を作製することができる。この際、セルロースアシレートフィルムの水の接触角が55°未満の面を接着面として用いることが好ましく、より水の接触角が低い面を接着面として用いることがより好ましい。
本発明の偏光板を製造するに際しては、上記のアルカリけん化処理以外の表面処理を併用して実施してもよい。例えば、特開平6−94915号、同6−118232号の各公報に記載される表面処理を行うことができる。
このようにして作製した偏光板は、60℃・相対湿度90%にて1000時間保持した後の偏光度低下が小さいほうが信頼性の高い偏光板であるために好ましい。60℃・相対湿度90%にて1000時間保持することによりサーモ処理した後の偏光板の偏光度低下は0.1%以下であることが好ましく、0.08%以下であることがより好ましい。
【0061】
[用途]
本発明のフィルムは、前記偏光板用途で好ましく用いることができ、これらのフィルムや偏光板は、下記のような液晶表示装置に好ましく用いることができる。
【0062】
(一般的な液晶表示装置の構成)
セルロースアシレートフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合は、偏光素子の透過軸と、セルロースアシレートフィルムからなる光学補償フィルムの遅相軸とをどのような角度で配置しても構わない。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償フィルムを配置した構成を有している。
液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層(下塗り層)を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、一般に50μm〜2mmの厚さを有する。
【0063】
(液晶表示装置の種類)
本発明に従うセルロースアシレートフィルム、およびそれを用いた位相差板、光学補償シートおよび偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。表示モードには、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti-ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Super Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)、およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)が含まれる。また、上記表示モードを配向分割した表示モードも含まれる。液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0064】
(TN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムを、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置については、古くから良く知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号、特開平9−26572号の各公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn. J. Appl. Phys. Vol.36 (1997) p.143や、Jpn. J. Appl. Phys. Vol.36 (1997) p.1068)に記載がある。
【0065】
(STN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムを、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0066】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートのReレターデーション値を0〜150nmとし、Rthレターデーション値を70〜400nmとすることが好ましい。Reレターデーション値は、20〜70nmであることがさらに好ましい。VA型液晶表示装置に二枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRthレターデーション値は70〜250nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置に一枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRthレターデーション値は150〜400nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。
【0067】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の光学補償シートの支持体、または偏光板の保護膜としても特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は色味の改善、視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。この態様においては、液晶セルの上下の前記偏光板の保護膜のうち、液晶セルと偏光板との間に配置された保護膜(セル側の保護膜)に本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板を少なくとも片側一方に用いることが好ましい。さらに好ましくは、偏光板の保護膜と液晶セルの間に光学異方性層を配置し、配置された光学異方性層のリターデーションの値を、液晶層のΔn・dの値の2倍以下に設定するのが好ましい。
【0068】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償シートの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平9−197397号公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn. J. Appl. Phys. Vol.38 (1999) p.2837)に記載がある。
【0069】
(反射型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest-Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償シートとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くから良く知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号公報、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0070】
(その他の液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)他の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。
【0071】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、またハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへの適用が好ましく実施できる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明のセルロースアシレートフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れかあるいは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースアシレートフィルムを好ましく用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0073】
《測定法》
本実施例において、水の接触角、レターデーション、偏光度変化は、全て前述の方法により測定した。その他の測定法は以下のとおりである。
【0074】
(1)セルロースアシレートの置換度
セルロースアシレートのアシル置換度は、Carbohydr.Res.273 (1995) 83-91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
【0075】
(2)セルロースアシレートの重合度
絶乾したポリマー約0.2gを精秤し、ジクロロメタン:エタノール=9:1(質量比)の混合溶剤100mLに溶解した。オストワルド粘度計を用いて25℃での落下秒数を測定し、重合度DPを以下の式により求めた。
ηrel =T/T0 T :測定試料の落下秒数
[η]=ln(ηrel )/C T0 :溶剤単独の落下秒数
DP=[η]/Km C :濃度(g/L)
Km:6×10-4
【0076】
(3)Tg
DSCの測定パンにサンプルを20mg入れ、窒素気流中にて10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却した。この後、再度30℃から250℃まで昇温して、ベースラインが低温側から偏奇し始める温度をTgとした。
【0077】
《セルロースアシレートフィルムの作製と評価》
[セルロースアシレート]
(フィルム101〜116用)
セルロース(広葉樹パルプ)200重量部に酢酸200重量部を噴霧し、還流装置を付けた反応容器に取り、40℃に調節したオイルバスにて加熱しながら1時間攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、フラッフ状を呈した。内容物を室温以下に冷却した。
別途、アシル化剤として表1記載の組成になるように酢酸量、無水酢酸量、無水プロピオン酸を添加し、さらに触媒として硫酸14重量部を加え、これらの混合物を作製し、−25℃に冷却した後に、前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に一度に加えた。1.5時間経過後、内温を22℃まで上昇させ、5.5時間反応させた。反応容器を−20℃に冷却し、約5℃に冷却した酢酸1099重量部と水366重量部との混合物を1時間かけて添加した。内温を80℃まで上昇させ、攪拌し熟成した。この熟成時間を変えることで表1記載の重合度のセルロースアシレートを得た。
次いで反応容器に、酢酸マグネシウム4水和物61重量部、酢酸61重量部、水61重量部の混合溶液を添加し(中和)、60℃で2時間攪拌した。酢酸と水の混合物を徐々に水の比率を上昇させながら、合計で酢酸:水=1:1の混合液を加えてセルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートプロピオネートの沈殿は75℃の温水にて十分洗浄を行った。洗浄後、0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、さらに、洗浄液のpHが7になるまで水で洗浄を行った後、90℃で真空乾燥させ、セルロースアセシレートを得た。
【0078】
(フィルム151〜153用)
イーストマンケミカルジャパン(株)製のCAP482−20(アセチル置換度0.18、プロピオニル置換度2.49、重合度240)を購入して使用した。購入したセルロースアシレートは120℃に加熱して乾燥し、含水率を0.5質量%以下とした後、30質量部を使用した。
【0079】
(フィルム154用)
イーストマンケミカルジャパン(株)製のCAB171−15(アセチル置換度2.02、ブチル置換度0.70、重合度220)を購入して使用した。購入したセルロースアシレートは120℃に加熱して乾燥し、含水率を0.5質量%以下とした後、30質量部を使用した。
【0080】
(フィルム155〜166用)
イーストマンケミカルジャパン(株)製のCAB381−20(アセチル置換度1.00、ブチル置換度1.66、重合度220)を購入して使用した。購入したセルロースアシレートは120℃に加熱して乾燥し、含水率を0.5質量%以下とした後、30質量部を使用した。
【0081】
[溶媒]
セルロースアシレートフィルムの作製にあたって、ジクロロメタン/メタノール/ブタノール(68/13/3質量部)の混合溶媒を用いた。なお、使用した各溶媒の含水率は、いずれも0.2質量%以下であった。
【0082】
[添加剤]
下記添加剤A〜Eの中から表1に記載されるものを選択して使用した。
(添加剤A)
下記構造のレターデーション上昇剤A 0.9質量部
【0083】
【化1】

二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度 約7) 0.08質量部
【0084】
(添加剤B)
トリフェニルホスフェート 0.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 0.4質量部
レターデーション上昇剤A 0.9質量部
二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度 約7) 0.08質量部
【0085】
(添加剤C)
トリフェニルホスフェート 0.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 0.4質量部
Sumisorb130(住友化学工業(株)製) 0.6質量部
二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度 約7) 0.08質量部
【0086】
(添加剤D)
下記構造のレターデーション上昇剤B 0.9質量部
【0087】
【化2】

二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度 約7) 0.08質量部
【0088】
(添加剤E)
下記構造のレターデーション上昇剤C 0.9質量部
【0089】
【化3】

二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度 約7) 0.08質量部
【0090】
(添加剤F)
ポリエチレングリコール(分子量600) 1.2質量部
スミライザーGP(住友化学工業社製) 0.09質量部
アデカスタイプLA−31(旭電化工業社製) 0.33質量部
二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度 約7) 0.08質量部
【0091】
(添加剤G)
グリセリンジアセテートオレート 1.2質量部
スミライザーGP(住友化学工業社製) 0.09質量部
アデカスタイプLA−31(旭電化工業社製) 0.33質量部
二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度 約7) 0.08質量部
【0092】
(添加剤H)
Sumisorb130(住友化学工業(株)製) 0.6質量部
スミライザーGP(住友化学工業社製) 0.09質量部
アデカスタイプLA−31(旭電化工業社製) 0.33質量部
二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度 約7) 0.08質量部
【0093】
[膨潤、溶解]
攪拌羽根を有し外周を冷却水が循環する400リットルのステンレス製溶解タンクに、上記溶媒、添加剤を投入して撹拌、分散させながら、上記セルロースアシレートを徐々に添加した。投入完了後、室温にて1時間撹拌し、1時間膨潤させた後に再度撹拌を実施し、セルロースアシレート溶液を得た。
なお、攪拌には、15m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2)で攪拌する攪拌軸を用いた。膨潤は、高速攪拌軸を停止し、アンカー翼を有する攪拌軸の周速を0.5m/secとして実施した。
【0094】
[ろ過]
得られたセルロースアシレート溶液を、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(#63、東洋濾紙(株)製)で濾過し、さらに絶対濾過精度2.5μmの濾紙(FH025、ポール社製)にて濾過してセルロースアシレート溶液を得た。
【0095】
[溶液流延製膜]
(フィルム101〜111、151〜166の製膜)
上記セルロースアシレート溶液を25℃に加温し、20℃に設定した流延ギーサー(特開平11−314233号公報に記載)を通して15℃に設定したバンド長60mの鏡面ステンレス支持体上に流延した。流延スピードは15m/分、塗布幅は200cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたポリマーフィルムをバンドから剥ぎ取り、100℃で10分、さらに105℃で20分乾燥した後、10秒でフィルムを室温まで冷却し、100μmの厚みのセルロースアシレートフィルムを得た。得られたフィルムは両端を3cm裁断し、さらに端から2〜10mmの部分に高さ125μmのナーリングを付与し、1000mロール状に巻き取った。
【0096】
[溶融製膜]
(フィルム112〜114の製膜)
1)ペレット化
各実施例において、真空排気付き2軸混練押出し機に、表1記載のセルロースアセテートと添加剤を投入し、スクリュー回転数300rpm、混練時間40秒、押出し量200kg/時間でダイから押出し、60℃の水中で固化した後に裁断して、直径2mm、長さ3mmの円柱状のペレットを得た。
2)ろ過、溶融押出し
上記方法で調製したペレットを、露点温度−40℃の脱湿風を用いて100℃で5時間乾燥し含水率を0.01質量%以下にした。これを80℃のホッパーに投入し、溶融押出し機の入り口温度(T1)を190℃、出口温度(T2)を210℃、ダイの温度(T3)を220℃に調整した。なお、これに用いたスクリューの直径(出口側)は60mm、L/D=50、圧縮比4であった。スクリューの入り口側はスクリュー内部にペレットの(Tg−5℃)のオイルを循環し冷却した。樹脂のバレル内の滞留時間は5分であった。バレル内の温度は、バレル入口が最低温度となり、バレル出口が最高温度となるように設定した。押出機から押出された樹脂はギアポンプで一定量計量され送り出されるが、この時ギアポンプ前の樹脂圧力が10MPaの一定圧力で制御できるように、押出機の回転数を変更させた。ギアポンプから送り出されたメルト樹脂は濾過精度5μmmのリーフディスクフィルターにて濾過し、スタティックミキサーを経由してスリット間隔0.8mmのハンガーコートダイから押出し、(Tg−10℃)のキャスティングドラムで固化した。この時、各水準静電印加法(10kVのワイヤーをメルトのキャスティングドラムへの着地点から10cmのところに設置)を用い両端10cmずつ静電印加を行った。固化したメルトをキャスティングドラムから剥ぎ取り、巻き取り直前に両端を7.5cm裁断し、両端に幅10mm、高さ50μmのナーリングをつけた後、30m/分で3000m巻き取った。フィルムの幅は1.5mであった。
【0097】
(フィルム115の製膜)
特開平11−235747号公報の実施例1に記載のタッチロール(二重抑えロールと記載のあるもの、但し薄肉金属外筒厚みは3mmとした)を用いてタッチロール製膜を実施した以外は、全て上記の「ペレット化」および「ろ過、溶融押出し」工程と同様に実施した。タッチロール製膜によりフィルムの微細凹凸、LCDでのぼけ幅が改良された。
【0098】
(フィルム116の製膜)
国際公開第97/28950号パンフレットの第1の実施例と同様のタッチロール(シート成形用ロールと記載のあるもの、但し金属製外筒に用いた冷却水は温度18℃から120℃のオイルに変更)を用いてタッチロール製膜を実施した以外は、全て上記のフィルム112〜114の製膜における「ペレット化」および「ろ過、溶融押出し」工程と同様に実施した。タッチロール製膜によりフィルムの微細凹凸、液晶表示装置でのぼけ幅が改良された。
【0099】
[延伸]
(フィルム101〜116、151〜155、157〜166の延伸)
上記製膜したフィルムを、それぞれのセルロースアシレートフィルムのTgより10℃高い温度で20%/秒でTD方向に30%延伸した。
【0100】
[フィルム191〜194の準備]
以上の製造工程とは別に、セルロースアセテートフィルムとして、富士写真フイルム(株)製のフジタック(TD80UL)フィルムを購入して、フィルム191〜194としてそのまま以下で使用した。
【0101】
[けん化処理]
下記条件11〜15、21〜22の中から表1に記載されるものを選択してけん化を行った。
(条件11:浸漬処理)
水酸化ナトリウム400質量部を水3000質量部に溶解させてアルカリ水溶液を調製し、アルカリ溶液槽に移した。けん化液の対流速度は50m/分とし、液温を54℃に調整し、仕切り板を設けてフィルムの出口近傍の液温のみ58℃とした。フィルムを2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、さらに水洗浴を通した。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、ケン化処理したフィルムを作製した。
【0102】
(条件12:浸漬処理)
水酸化ナトリウム400質量部を水1500質量部に溶解させた後、プロピレングリコール1500質量部を加えてアルカリ水溶液を調製した以外は条件11と同じ方法によりケン化処理したフィルムを作製した。
【0103】
(条件13:浸漬処理)
けん化液の対流速度を0.5m/分とした以外は条件11と同じ方法によりケン化処理したフィルムを作製した。
【0104】
(条件14:浸漬処理)
液温を58℃に調整し、フィルムの出口近傍の液温を50℃とした以外は条件11と同じ方法によりケン化処理したフィルムを作製した。
【0105】
(条件15:浸漬処理)
水酸化ナトリウム120質量部を水3000質量部に溶解させてアルカリ水溶液を調製した以外は条件11と同じ方法によりケン化処理したフィルムを作製した。
【0106】
(条件21:塗布処理)
水酸化ナトリウム400質量部を水3000質量部に溶解させた後、下記の非イオン性界面活性剤A100質量部、消泡剤サーフィノールDF110D(日信化学工業(株)製)2質量部を加えてアルカリ水溶液を調製した。また、プロピレングリコール300質量部、消泡剤サーフィノールDF110D(日信化学工業(株)製)1質量部、および水9700質量部から、アルカリ希釈液を調製した。
非イオン性界面活性剤A C1429O−(CH2CH2O)10−H
セルロースアシレートフィルムを60℃に加熱した誘電式加熱ロールを通過させ、30℃まで昇温した後に、30℃に保温した上記アルカリ水溶液をロッドコーターを用いて15mL/m2塗布した。110℃に加熱した(株)ノリタケカンパニーリミテッド製のスチーム式遠赤外線ヒーターの下に10秒滞留させた(フィルムの温度は30〜50℃)後に、同じくロッドコーターを用いて上記アルカリ希釈液を20mL/m2塗布し、アルカリを洗い落とした。このとき、フィルム温度は40〜55℃に維持されていた。次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返し、アルカリ剤を洗い落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、ケン化処理したフィルムを作製した。
【0107】
(条件22)
特開2004−203965号公報の実施例1の条件に従って、けん化処理を実施した。
アルカリ水溶液は、水酸化カリウム560質量部を水1578質量部に溶解させた後、イソプロパノール6080質量部、ジエチレングリコール1680質量部、非イオン性界面活性剤A100質量部、消泡剤サーフィノールDF110D(日信化学工業(株)製)2質量部を加えて調製した。また、アルカリ希釈液は、イソプロパノール500質量部、ジエチレングリコール200質量部、消泡剤サーフィノールDF110D(日信化学工業(株)製)1質量部、純水9299質量部から調製した。
【0108】
[フィルムの評価]
ケン化液を新しいものに交換して、前述のけん化方法にしたがってフィルムを10kmけん化処理した。10kmけん化処理した時点でのフィルムをサンプリングし、水の接触角およびレターデーションの湿度変化を求め、表1に記載した。なお、表1に記載される水の接触角は、より接触角の低い面の数値である。
【0109】
【表1】

【0110】
[けん化方法の評価]
濃度が低いアルカリ溶液を用いた条件15の浸漬処理法は、従来のセルロースアシレートフィルムのけん化に好ましく用いられている方法であるが、上記試験ではけん化を十分に行うことができなかった。また、濃度が低いアルカリ溶液を用いた条件22の塗布処理法では、フィルムが白化して表面の平滑性が失われるものもあった。これに対して、本発明の要件を満たす条件11〜14および21のけん化方法によれば、けん化を一段と進行させて水の接触角をより小さくすることができることが確認された。
また、本発明の要件を満たす条件の中でも、さらに好ましい条件があることが裏付けられた。すなわち、レターデーションの湿度依存性が小さなセルロースアシレートフィルムについては、条件13のようにけん化液を対流させない方法に比べて、条件11や条件12のようにけん化液を対流させる方法を採用した方が、けん化をより十分に進行させることができることが確認された。また、条件14のように出口付近の液温を低くするよりも、条件11や条件12のように出口付近の液温を高くした方が、けん化をより十分に進行させることができることが確認された。さらに、けん化液に有機溶媒を含有させることによって一段とけん化を進行させることができる場合があることも確認された(条件12)。
【0111】
《偏光板の作製と評価》
[偏光子の作成]
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与えて長手方向に延伸して、厚み20μmの偏光子を調製した。
【0112】
[貼り合わせ]
(偏光板101〜116、偏光板151〜161、偏光板163〜166、偏光板191〜194、偏光板201〜202)
得られた偏光層と、前記けん化処理したフィルムのうちから2枚選び(それぞれフィルムA、フィルムBとし、表2に記載した)、フィルムのけん化面を偏光子側に配置し、これらで偏光層を挟んだ後、PVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とフィルムの長手方向が直交するように貼り合わせた。なお、表2中、ポリカーボネートとは、パンライトC1400(帝人化成(株)製)を使用したものであり、COCとは、アートンフィルム(膜厚80μm、JSR(株)製)を使用したものである。
【0113】
(偏光板203〜204)
得られた偏光層と、前記けん化処理したフィルムのうちから2枚選び(それぞれフィルムA、フィルムBとし、表2に記載した)、フィルムの未けん化面を偏光子側に配置し、これらで偏光層を挟んだ後、PVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とフィルムの長手方向が直交するように貼り合わせた。
【0114】
[偏光板の評価]
(貼合性)
フィルムの偏光子への貼合性を、下記の基準で目視にて評価した。結果を表2に記載した。
○: 優れた貼合性を有しており、下記のサーモ処理後もフィルムが偏光子から
剥がれることはなかった。
△: 優れた貼合性を有していたが、下記のサーモ処理後にフィルムの端部が偏
光子から剥がれてしまった。
×: 偏光子と貼り合わせた直後にフィルムが剥がれてしまった。もしくは、偏
光子にフィルムが貼りつかなかった。
【0115】
(偏光度変化)
上記偏光板のフィルムA側を粘着剤でガラス板に貼り合わせ、60℃・相対湿度90%の条件にて1000時間保持するサーモ処理を行い、その後のフィルムと偏光子との貼合性を目視にて評価した。また、サーモ処理前後の偏光度変化(サーモ処理前の偏光度[%]−サーモ処理後の偏光度[%])を求め、表2に記載した。
【0116】
【表2】

【0117】
本発明による水の接触角が低いセルロースアシレートフィルムは、偏光子への貼合性に優れることが分かった。また、本発明のフィルムよりも水の接触角が高いフィルムでは、偏光子への貼合性に劣るか、もし、貼りあわせることができたとしても、サーモ処理後に一部または全部の剥離が見られたり、偏光度低下が大きいことが分かった。さらに、従来から一般的に用いられているセルロースアセテートを本発明の製造方法でけん化した場合、接触角は低下するものの、偏光度低下が大きくなってしまうことが分かり、フィルムに応じたけん化条件の選択が重要であることが分かった。
【0118】
《液晶表示装置の作製》
本発明のセルロースアシレートフィルムおよび偏光板を用いて、液晶表示装置へ実装評価することにより、その光学性能が十分であるかの確認を実施した。なお、ここではVA型液晶セルを用いるが、本発明のセルロースアシレートフィルムおよび偏光板の用途は液晶表示装置の動作モードに限定されることはない。
【0119】
[VA型液晶表示装置への実装評価]
前記偏光板のフィルムA側が液晶セル側となるように、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載のVA型液晶表示装置へ粘着剤で貼り合せた。製造した液晶表示装置について、以下の評価を行い、結果を表3に示した。
【0120】
(色味変化)
相対湿度10%にて2週間保持したパネルと相対湿度80%にて2週間保持したパネルとを並べ、色味の違いを目視にて確認し、以下の基準で評価した。
◎: 湿度変化による色味変化が全く観測されず、高画質なパネルであった。
○: 湿度変化による色味変化がほとんど観測されず、高画質が要求されない用
途のパネルとしては、十分な特性を有するものであった。
△: 湿度変化による色味変化が若干確認されるが、調温調湿された環境下のみ
で使用するパネルとしては、十分な特性を有するものであった。
×: 湿度変化による色味変化が目視にて十分に確認でき、性能の劣るパネルで
あった。
【0121】
【表3】

【0122】
貼合性が良好で、レターデーションの湿度依存性が小さい本発明のフィルムを用いた液晶表示装置は、色味変化が小さくて信頼性が高いものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、水の接触角が小さくて、湿度変化によるレターデーションの変動が小さい。このため、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いれば、ポリビニルアルコールを主成分とする偏光子とオンラインで貼合することができ、信頼性の高い偏光板および液晶表示装置を生産性良く製造することが可能になる。また、本発明のけん化方法によれば、このような良好な性能を有するセルロースアシレートフィルムを容易に得ることができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面の水の接触角が55°未満であり、セルロースの水酸基の一部または全部が炭素数3以上のアシル基で置換されていることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項2】
セルロースの水酸基の一部または全部が、アセチル基と、プロピオニル基および/またはブチリル基で置換されている請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
フィルム面内のレターデーション値(Re)および膜厚方向のレターデーション値(Rth)に関し、双方とも相対湿度10%にて測定した値と相対湿度80%にて測定した値との差が30nm以下である請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
セルロースアシレートが下記式(1a)および/または(2a)を満足する請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(1a): 0.5≦SP≦3.0
式(2a): 0.5≦SB≦3.0
(式中、SPはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基の置換度を表し、SBはセルロースの水酸基に対するブチリル基の置換度を表す。)
【請求項5】
セルロースアシレートが下記式(1b)および/または(2b)を満足する請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(1b): 1.5≦SP≦3.0
式(2b): 1.0≦SB≦3.0
(式中、SPはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基の置換度を表し、SBはセルロースの水酸基に対するブチリル基の置換度を表す。)
【請求項6】
フィルム中に含まれるポリマーに対して0〜15質量%の疎水性化合物を含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚以上有する偏光板。
【請求項8】
水の接触角が55°未満の面を偏光子と貼合させたことを特徴とする請求項7に記載の偏光板。
【請求項9】
60℃・相対湿度90%にて1000時間保持した後の偏光度低下が0.1%以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の偏光板。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚以上有する液晶表示装置。
【請求項11】
下記式(1a)および/または(2a)を満足するセルロースアシレートフィルムを、けん化液として濃度が3mol/L以上のアルカリ溶液を用いてけん化することを特徴とする、セルロースアシレートフィルムのけん化方法。
式(1a): 0.5≦SP≦3.0
式(2a): 0.5≦SB≦3.0
(式中、SPはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基の置換度を表し、SBはセルロースの水酸基に対するブチリル基の置換度を表す。)
【請求項12】
1m/分以上の線速度で対流するけん化液の中にセルロースアシレートフィルムを浸漬することによりけん化を行う請求項11に記載のけん化方法。
【請求項13】
セルロースアシレートフィルムに対するけん化開始時のけん化液の温度とけん化終了時のけん化液の温度との差が0.1℃以上である請求項11または12に記載のセルロースアシレートフィルムのけん化方法。
【請求項14】
けん化液が有機溶媒を含有する請求項10〜13のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムのけん化方法。
【請求項15】
有機溶媒がグリコール類である請求項14に記載のセルロースアシレートフィルムのけん化方法。

【公開番号】特開2006−215535(P2006−215535A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369177(P2005−369177)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】