説明

セルロースエステル樹脂用添加剤、それを用いたセルロースエステル樹脂組成物及びフィルム

【課題】セルロースエステル樹脂からなるフィルムに優れた光学性能、及び耐透湿性を付与することができ、高温多湿下での耐ブリード性に優れ、かつ製造工程で揮発しにくいエステル化合物からなるセルロースエステル樹脂用添加剤及びそれを用いたセルロースエステル樹脂組成物を提供し、さらには、当該樹脂組成物からなるフィルム又は光学フィルムを提供する。
【解決手段】ジオール(a1)と、テレフタル酸、テレフタル酸ジアルキルエステル、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステル、ビフェニルジカルボン酸及びビフェニルジカルボン酸ジアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の芳香族ジカルボン酸化合物(a2)とをエステル化反応させて得られる数平均分子量が300〜3,000の範囲であるエステル化合物(A)からなることを特徴とするセルロースエステル樹脂用添加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステル樹脂に添加することで偏光子保護フィルム等の光学フィルムに優れた光学性能を付与することができるエステル化合物からなるセルロースエステル樹脂用添加剤、それを用いたセルロースエステル樹脂組成物、及び光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、映像や文字を鮮明に表示できる液晶表示装置を備えたノートパソコンやテレビ等の情報機器が次々と市場に供給されている。これら情報機器に対する消費者の要望としては、高機能付与の他に、省スペース化、住環境の多様化等のニーズに応えるうえで薄型化や軽量化、大画面化に伴う高視野角化や高コントラストなどが求められている。
【0003】
情報機器の薄型化を実現は、前記情報機器に備えられている液晶表示装置の奥行き(幅)を薄くすることにある。前記液晶表示装置は、概略として2枚のガラス基板の間に電極からなる層と液晶物質からなる層とを有する積層構造体から構成される。前記ガラス基板は液晶層とは反対側の面には偏光子が貼付されており、この偏光子としては、通常、ポリビニルアルコール(PVA)からなる偏光子の両面に保護フィルムを貼付したものが使用されている。前記偏光子保護フィルムは、一般的に透明度が高く、適度な強度を有しており、かつPVAとの接着性に優れたセルロースエステル樹脂フィルムが使用されている。
【0004】
しかし、前記セルロースエステル樹脂フィルムでは、湿気(水分)の浸入を十分に防止することができず、その結果、偏光子の劣化や、偏光子と前記フィルムとの間で剥離を生じる問題があった。そのため、偏光子保護フィルムとしては、従来、セルロースエステル樹脂に、例えば、トリフェニルホスフェート等の可塑剤を添加したフィルムが、良好な耐透湿性を有するものとして使用されていた。
【0005】
また、前記偏光子保護フィルムとしては、液晶表示装置の構造等により異なるものの、通常、膜厚約80μm程度のものが使用されることが多い。近年は、液晶表示装置の薄型化が進行するのに伴って、保護フィルムの更なる薄膜化、目安として約30〜50μmの膜厚のフィルムの検討が進められている。
【0006】
このような薄膜化の検討が進められる中で、前記可塑剤と前記セルロースエステル樹脂とを含有する従来の偏光子保護フィルムは、その膜厚を要求レベルにまで薄くした場合、耐透湿性が著しく低下するという問題を有していた。
【0007】
また、前記可塑剤は、セルロースエステル樹脂との相溶性が十分でないため、熱と湿度の影響により、フィルム表面からの可塑剤のブリード(にじみ出し)を生じる場合があった。したがって、液晶表示装置に用いる場合、バックライトの熱等の影響によって、可塑剤がフィルム表面にブリードし、曇りを生じて映像等を鮮明に表示することができなくなるという問題を有していた。
【0008】
また、前記偏光子保護フィルムには、鮮明な映像等の表示を阻害しないレベルの優れた表面平滑性が求められている。そこで、偏光子保護フィルムは、表面平滑性を得るため、前記可塑剤を含有するセルロースエステル樹脂組成物の有機溶剤溶液をフィルム状に流延し、次いで加熱乾燥させる、いわゆる溶液流延法で製造される。しかし、前記可塑剤は低分子量の化合物であるため、前記加熱乾燥工程で揮発しやすく、揮発した前記可塑剤がフィルム製造装置を構成するウェブやロールなどに付着し装置を汚染する問題があった。
【0009】
前記可塑剤のブリード及び揮発のしやすさは、セルロースエステル樹脂が前記偏光子保護フィルム以外の用途、例えば玩具や食器具などの用途において、従来から問題視されていた。この問題を解決する可塑剤として、糖アルコールのアセチル化物を主成分とする可塑剤やフタル酸系ポリエステルが提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0010】
しかし、上記の糖アルコールのアセチル化物や、フタル酸系ポリエステルとして具体的に記載されている無水フタル酸及び1,3−ブタンジオールを反応させて得られるフタル酸系ポリエステルを可塑剤として含有する樹脂組成物を成形して得られたフィルムは、偏光子保護フィルムとして使用可能なレベルの耐透湿性を有しておらず、また、これらの可塑剤は、高温多湿下では依然としてブリードしやすいという問題を有していた。
【0011】
また、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールと安息香酸を反応させて得られるエステル化合物及びセルロース系樹脂を含有するフィルムが、耐透湿性に優れることが報告されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0012】
しかし、上記のエステル化合物及びセルロース系樹脂を含有するフィルムは、一般的に80μm程度の厚さで使用するが約40〜50μm程度まで薄膜化した場合、十分な耐透湿性を維持することができないため、実用には今一歩及ばなかった。また、このエステル化合物は、比較的低分子量の化合物であることから、フィルムの製造における加熱乾燥工程で揮発しやすく、フィルム製造装置を構成するロール等を汚染する問題があった。
【0013】
ところで、液晶表示装置を備えた情報機器には上述した薄型化の他にも用途に応じて様々な特性が求められている。とりわけ、液晶テレビでは、大画面化に伴う広視野角化が強く求められている。
【0014】
液晶表示装置の広視野角化は、以前より検討が進められており、例えば、セルロースエステル樹脂からなる偏光子保護フィルムに、広視野角化に寄与しうる光学補償機能を付与するため、レターデーション上昇剤として芳香族化合物を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0015】
ここで、光学補償フィルムとは、液晶表示装置を構成する液晶物質によって生じた位相差を補償するものであって、「広視野角化」を実現する上で重要な役割を果たすものである。位相差が補償されないと、液晶画面を斜め方向から見た場合に表示される画像等の色、形状が本来のものと異なって見える問題がある。
【0016】
ゆえに光学補償フィルムとしては、広視野角化を発現させるため、光学異方性を有するものが使用されている。ここで、本発明でいう光学性能は、光学異方性のこといい、一般に光学異方性の程度は、レターデーション値によって把握することが可能である。光学補償フィルムのレターデーション値のうち、フィルムの厚さ方向のレターデーション値(以下、「Rth値」という。)は、一般にレターデーション上昇剤といわれるものを添加することによって所望の異方度に調整することが可能である。しかし、特許文献4に記載されているような一般のレターデーション上昇剤は、セルロースエステル樹脂との相溶性が不十分なため、光学補償フィルムが高温高湿度下に放置された場合にブリードを生じ、透明性が損なわれる問題があった。
【0017】
なお、厚さ方向のRth値とは、下記式(1)で定義される値である。
【0018】
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d (nm) (1)
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚さ方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。)
【0019】
そこで、本発明者らは、偏光子保護フィルムに優れた光学性能を付与する添加剤として、両末端に芳香族基を有するジエステル化合物と、両末端及び分子鎖中に芳香族環式構造を有するポリエステル化合物との混合物からなるエステル化合物を提案した(特許文献5参照。)。
【0020】
しかし、前記光学補償フィルムは、技術レベルの高度化により、更に優れた光学性能、すなわち、高いRth値が要求されてきている。優れた位相差補償機能を有したセルロースエステル樹脂からなる光学補償フィルムが得ることができれば、通常4枚必要な前記フィルムは、さらに枚数を減らすことができ、前述したフィルムの薄膜化の実現が可能となり、安価で高品位の偏光板、ひいては液晶表示装置を提供することができるが、そのような材料は未だ存在しない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2000−351871号公報
【特許文献2】特開昭61−276836号公報
【特許文献3】特開2003−096236号公報
【特許文献4】特開2000−284124号公報
【特許文献5】特開2008−069225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明が解決しようとする課題は、セルロースエステル樹脂からなるフィルムに優れた光学性能、及び耐透湿性を付与することができ、高温多湿下での耐ブリード性に優れ、かつ製造工程で揮発しにくいエステル化合物からなるセルロースエステル樹脂用添加剤及びそれを用いたセルロースエステル樹脂組成物を提供することである。
【0023】
また、本発明は、上記セルロースエステル樹脂組成物からなるフィルム又は光学フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ジオールと特定の芳香族ジカルボン酸化合物とをエステル化反応させて得られるエステル化合物のうち、特定範囲の分子量を有するエステル化合物をセルロースエステル樹脂用添加剤として用いると、セルロースエステル樹脂からなる光学フィルムに優れた光学性能、及び耐透湿性を付与することができ、高温多湿下での耐ブリード性に優れ、かつフィルムの製造工程で揮発しにくいセルロースエステル樹脂用添加剤が得られることを見出し、発明を完成させた。
【0025】
すなわち、本発明は、ジオール(a1)とテレフタル酸、テレフタル酸ジアルキルエステル、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステル、ビフェニルジカルボン酸及びビフェニルジカルボン酸ジアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の芳香族ジカルボン酸化合物(a2)とをエステル化反応させて得られる数平均分子量が300〜3,000の範囲であるエステル化合物(A)からなるセルロースエステル樹脂用添加剤、当該添加剤を含有するセルロースエステル樹脂組成物、ならびに当該樹脂組成物からなるフィルム及び光学フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤は、セルロースエステル樹脂に添加することにより、フィルムに優れた光学性能、及び耐透湿性を付与することができる。また、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤は、高温多湿下での耐ブリード性を有し、フィルム製造工程で揮発しにくいという優れた効果を有する。さらに、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤を含有するセルロースエステル樹脂組成物からなるフィルムは、各種光学フィルムに使用することが可能であり、なかでも光学補償機能を必要とする偏光子保護フィルムに非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤であるエステル化合物(A)について説明する。
【0028】
本発明のエステル化合物(A)としては、その末端が水酸基又はアルキルエステル基であることを特徴とし、下記一般式(I)〜(VI)で表される構造を有するエステル化合物等が挙げられる。
【0029】
【化1】


(上記一般式(I)中のGはジオール(a1)の残基を表し、Tは芳香族ジカルボン酸化合物(a2)の残基を表し、Rはアルキル基を表す。また、nは繰り返し単位を表し、1以上の整数である。)
【0030】
なお、上記の「残基」は、次のことを意味する。ジオール(a1)の「残基」とは、ジオール(a1)が有する2つの水酸基を除いた残りの有機基を表す。また、芳香族ジカルボン酸化合物(a2)の「残基」とは、芳香族ジカルボン酸化合物(a2)が芳香族カルボン酸の場合は、芳香族カルボン酸が有するカルボキシル基を除いた残りの有機基を表し、芳香族ジカルボン酸化合物(a2)が芳香族カルボン酸アルキルエステルの場合は、芳香族カルボン酸アルキルエステルが有するアルコキシカルボニル基を除いた残りの有機基を表す。
【0031】
より具体的には、前記一般式(I)〜(VI)中のnは1以上の整数であればよいが、1〜15の範囲の整数であることが好ましい。前記エステル化合物(A)は、通常、n数の異なる複数のエステル化合物の混合物である。例えば、一般式(I)〜(VI)中のnが1であるエステル化合物(A1)を、エステル化合物(A)全体に対して、25〜40質量%の範囲、一般式(I)〜(VI)中のnが2であるエステル化合物(A2)を20〜40質量%の範囲、及び一般式(I)〜(VI)中のnが3以上のエステル化合物(A3)を35〜45質量%の範囲で含有するエステル化合物(A)が、セルロースエステル樹脂からなる光学フィルムに、より一層優れた光学性能、及び耐透湿性を付与することができ、高温多湿下での耐ブリード性に優れ、かつフィルムの製造工程でエステル化合物(A)が揮発しにくいため好ましい。
【0032】
本発明のエステル化合物(A)の水酸基価は0.1〜200の範囲であるものが好ましく、1〜150の範囲であるものがより好ましい。エステル化合物(A)の水酸基価がこの範囲であれば、光学フィルムの耐ブリード性及び耐透湿性が良好となる。また、光学フィルムを偏光子保護フィルムに使用した場合、偏光子の劣化をより一層抑制することができる。この水酸基価は、エステル化合物(A)の末端水酸基、及び原料として使用したジオール(a1)に由来するものである。
【0033】
本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤は、特に光学フィルムに使用する場合、耐揮発性が要求される。前記耐揮発性は、前記添加剤の加熱減量値を測定すればよく、例えば、光学フィルムの偏光子保護フィルムに使用する場合には、セルロースエステル樹脂用添加剤の加熱減量値が、1.0質量%以下、0.01〜1.0質量%の範囲であることが好ましく、0.01〜0.80質量%の範囲であることがより好ましく、0.01〜0.50質量%の範囲であることが特に好ましい。加熱減量値がこの範囲内であれば、偏光子保護フィルムの耐久性、及び成形加工性、及び溶液流延法でフィルム製造時に使用する有機溶剤のリサイクル性に優れ、製造上、及び実用上問題がないレベルとなる。なお、加熱減量値の測定条件の詳細は実施例に記載する。
【0034】
本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤であるエステル化合物(A)は耐揮発性、及びセルロースエステル樹脂(B)との相溶性及び耐ブリード性を付与するため、その数平均分子量は、300〜3,000の範囲である。また、数平均分子量が330〜2,700の範囲であることがより好ましい。この数平均分子量の範囲であるエステル化合物(A)を含有するセルロースエステル樹脂組成物からなる光学フィルムは、優れた光学性能、及び耐透湿性を有し、かつフィルム製造工程等の高温条件下でもエステル化合物(A)のブリードを抑制することができ、湿熱条件下での耐久性に優れたフィルムを得ることができる。
【0035】
前記エステル化合物(A)の数平均分子量が300以下であるとモノマー成分や低分子量体が多量に残存するため、耐揮発性が著しく悪化する。一方、前記エステル化合物(A)の数平均分子量が3,000以上であるとセルロースエステル樹脂(B)との相溶性が悪化するため、フィルムの透明性が損なわれ特に光学フィルムとしての使用が困難となる。
【0036】
なお、前記エステル化合物(A)の数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し、ゲルパーミュエ−ションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定され、標準ポリスチレンに換算した値として得ることができる。詳細な測定条件については、実施例に記載する。
【0037】
前記エステル化合物(A)は、ジオール(a1)と、テレフタル酸、テレフタル酸ジアルキルエステル、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステル、ビフェニルジカルボン酸及びビフェニルジカルボン酸ジアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の芳香族ジカルボン酸化合物(a2)とをエステル化反応させることによって製造することができる。
【0038】
本発明の前記エステル化合物(A)の反応設備は、加圧、減圧に対応した反応設備を使用して製造することができる。反応設備は、反応器、攪拌機、精留塔、冷却器、減圧するためのポンプ等を有した一般的な装置を用いることで製造することができる。
【0039】
前記エステル化合物(A)は、例えば、温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた反応器に前記ジオール(a1)と、前記芳香族ジカルボン酸化合物(a2)とを仕込み昇温させた後、昇温途中にてエステル化触媒を添加し、所定温度条件にて反応させる。反応後、未反応モノマーや低分子量成分、及び反応を促進させる目的で減圧反応を行って得ることができる。
【0040】
本発明で使用するジオール(a1)について以下に具体的に説明する。
【0041】
前記ジオール(a1)としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、3,3−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジブチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、n−ブトキシエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、ダイマージオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。これらのジオールは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0042】
また、ジオール(a1)として、芳香族ジオールも用いることができる。この芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0043】
前記ジオール(a1)の中において、最も好ましいジオールは、炭素原子数2〜12の範囲のものが挙げられる。具体的には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。これらのジオールは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0044】
さらに、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール等の分岐したアルキル鎖を有したジオールを用いて得られるエステル化合物(A)は、セルロースエステル樹脂(B)に対する相溶性に優れ、光学フィルムとして高温多湿の環境下における耐ブリード性にも優れるため、さらに好ましい。
【0045】
また、前記ジオール(a1)として、エチレングリコール(a1−1)及び1,2−プロパンジオール(a1−2)を併用すると、優れた光学性能を有した光学フィルム、すなわち偏光子保護フィルムが得られるため特に好ましい。
【0046】
エチレングリコール(a1−1)及び1,2−プロパンジオール(a1−2)を併用する場合、製造したポリエステル化合物(A)中のエチレングリコール(a1−1)及び1,2−プロパンジオール(a1−2)に由来する構造単位のモル組成比(a1−1)/(a1−2)は、85/15〜10/90(モル%)の範囲が好ましく、80/20〜15/85(モル%)の範囲がより好ましい。エチレングリコール(a1−1)と1,2−プロパンジオール(a1−2)とのモル組成比(a1−1)/(a1−2)がこの範囲であると、セルロースエステル樹脂(B)との相溶性や溶液流延法でフィルムを作製する場合、有機溶媒に対する溶解性が良好となるため、フィルムに十分な透明性を付与することができる。また、光学性能の発現が十分なものとなる。
【0047】
上記したエチレングリコール(a1−1)及び1,2−プロパンジオール(a1−2)を併用する場合、これらのジオール以外の他のアルコール類を使用してもよい。具体的には、モノアルコール類としては、メタノール、エタノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、アミルアルコール、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、乳酸メチル、乳酸エチル、ジオール類としては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、3,3−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジブチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、n−ブトキシエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、ダイマージオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。その他の多価アルコールとしては、グリセリン、ソルビトール、リビトール、ペンタエリトリトールが挙げられる。これらのアルコール類は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0048】
次に、本発明で使用するテレフタル酸、テレフタル酸ジアルキルエステル、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステル、ビフェニルジカルボン酸及びビフェニルジカルボン酸ジアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の芳香族ジカルボン酸化合物(a2)について以下に具体的に説明する。
【0049】
本発明で用いる前記芳香族ジカルボン酸化合物(a2)は、テレフタル酸、テレフタル酸ジアルキルエステル、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステル、ビフェニルジカルボン酸及びビフェニルジカルボン酸ジアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上である。
【0050】
前記テレフタル酸ジアルキルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステル及びビフェニルジカルボン酸ジアルキルエステルのアルキル基としては、炭素原子数1〜8のものが挙げられ、炭素原子数3以上のものは直鎖アルキル基であっても分岐アルキル基であってもよい。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。また、前記芳香族ジカルボン酸ジアルキルエステルが有する2つのアルキル基は同一であっても、異なるものであってもよい。前記芳香族ジカルボン酸ジアルキルエステルは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0051】
前記テレフタル酸ジアルキルエステルとしては、例えば、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジプロピル、テレフタル酸ジブチル、テレフタル酸ジペンチル、テレフタル酸ジヘキシル、テレフタル酸ジヘプチル等が挙げられる。これらのテレフタル酸ジアルキルの中でも、テレフタル酸ジメチルは、セルロースエステル樹脂組成物からなる光学フィルムに優れた光学性能を付与することができ、かつ高温多湿の環境下での耐ブリード性にも優れるため耐久性を有したフィルムを得ることができるので好ましい。
【0052】
前記ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルとしては、ナフタレンジカルボン酸ジメチル、ナフタレンジカルボン酸ジエチル、ナフタレンジカルボン酸ジプロピル、ナフタレンジカルボン酸ジブチル、ナフタレンジカルボン酸ジペンチル、ナフタレンジカルボン酸ジヘキシル、ナフタレンジカルボン酸ジへプチル等が挙げられる。また、これらのナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルには、カルボン酸アルキルエステルの置換位置は様々存在するがナフタレンの2,6位がカルボン酸アルキルエステルとなっているものが好ましく、さらにアルキル基がメチル基である2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルがより好ましい。
【0053】
前記ビフェニルジカルボン酸ジアルキルエステルとしては、ビフェニルジカルボン酸ジメチル、ビフェニルジカルボン酸ジエチル、ビフェニルジカルボン酸ジプロピル、ビフェニルジカルボン酸ジブチル、ビフェニルジカルボン酸ジペンチル、ビフェニルジカルボン酸ジヘキシル、ビフェニルジカルボン酸ジへプチル等が挙げられる。また、これらのビフェニルジカルボン酸ジアルキルエステルには、カルボン酸アルキルエステルの置換位置は様々存在するが、ビフェニルの4,4’位がカルボン酸アルキルエステルとなっているものが好ましく、さらにアルキル基がメチル基である4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジメチルがより好ましい。
【0054】
さらに、前記エステル化合物(A)の製造において、本発明を損なわない範囲であれば、その他のジカルボン酸もしくはそのアルキルエステル化合物、又はカーボネート化合物を併用することができる。前記ジカルボン酸又はそのアルキルエステル化合物としては、脂肪族ジカルボン酸もしくは芳香族ジカルボン酸、又はこれらのアルキルエステル化合物を使用することができる。前記脂肪族ジカルボン酸又はそのアルキルエステル化合物としては、例えば、コハク酸、コハク酸ジメチル、グルタル酸、グルタル酸ジメチル、アジピン酸、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジブチル、ピメリン酸、ピメリン酸ジメチル、スベリン酸、スベリン酸ジメチル、アゼライン酸、アゼライン酸ジメチル、セバシン酸、セバシン酸ジメチル、デカンジカルボン酸、デカンジカルボン酸ジメチル、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、ダイマー酸、ダイマー酸ジメチル、フマル酸、フマル酸ジメチル等が挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステル化合物としては、フタル酸、フタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル等が挙げられる。さらに、カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等が挙げられる。これらのその他のジカルボン酸もしくはそのアルキルエステル化合物、又はカーボネート化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0055】
前記ジオール(a1)と、前記芳香族ジカルボン酸化合物(a2)とをエステル化反応させる際、反応を促進させる目的で、必要に応じてエステル化触媒の存在下で反応を行うことができる。
【0056】
前記エステル化触媒としては、周期律表2族、3族、及び4族からなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属や有機金属化合物が挙げられる。より具体的には、例えば、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、ハフニウム、ゲルマニウム等の金属;チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンオキシアセチルアセトナート、オクタン酸スズ、2−エチルヘキサンスズ、アセチルアセトナート亜鉛、4塩化ジルコニウム、4塩化ジルコニウムテトラヒドロフラン錯体、4塩化ハフニウム、4塩化ハフニウムテトラヒドロフラン錯体、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム等の金属化合物などが挙げられる。これらの中でも、ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸化合物(a2)との反応性、取扱いやすさ、エステル化反応により得られたエステル化合物(A)の保存安定性が良好であるチタンアルコキサイド類、具体的にはチタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンオキシアセチルアセトナート等を用いるのが好ましい。
【0057】
また、前記エステル化触媒の使用量は、通常、前記ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸化合物(a2)との反応を制御でき、かつエステル化合物(A)の着色を抑制できる範囲の量であればよく、前記ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸化合物(a2)との合計量に対し、10〜1000ppmの範囲が好ましく、20〜500ppmの範囲がより好ましく、30〜300ppmの範囲が特に好ましい。エステル化合物(A)の着色はフィルムの透明性を低下させるため、高い透明性が求められる光学フィルム用途では、特に留意する必要がある。
【0058】
前記エステル化触媒を添加する時期は、前記ジオール(a1)と芳香族ジカルボン酸化合物(a2)とを仕込むのと同時に添加してもよく、昇温途中、減圧開始の際に添加してもよい。
【0059】
また、前記ジオール(a1)と、前記芳香族ジカルボン酸化合物(a2)とを反応させる際、本発明の効果を阻害しない範囲で前記エステル化合物(A)を分岐化、高分子量化させることを目的として、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価アルコールやカルボン酸、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネートも使用してもよい。
【0060】
前記エステル化合物(A)を製造する際のジオール(a1)と、芳香族ジカルボン酸化合物(a2)との仕込みモル比[(a1)/(a2)]は、0.5/1〜2/1の範囲であることが好ましく、0.8/1〜1.5/1の範囲であることがより好ましい。この範囲であれば、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤であるエステル化合物(A)を製造することができる。特に、仕込みモル比(a1)/(a2)が0.5/1〜1/1の範囲であると、エステル化合物(A)の末端基がアルキルエステル基となる割合が多くなるため、大気中の水分の影響の影響を受けにくく、Rth値の変動幅が小さい光学フィルムを得ることができる。
【0061】
エステル化合物(A)を製造する際の反応温度は、原料となるジオール(a1)及び芳香族ジカルボン酸化合物(a2)の沸点、反応性、昇華性、得られるエステル化合物の色相を考慮しつつ反応(脱水反応、又は脱アルコール反応)が進行する範囲であれば何ら制限はないが、120℃〜300℃の範囲が好ましく、150℃〜280℃の範囲がより好ましい。前記エステル化合物(A)を製造する際の反応時間は2時間以上であることが好ましく、4〜100時間の範囲であることがより好ましい。前記エステル化合物(A)を製造する際の減圧度は、30,000Pa以下であることが好ましく、25,000Pa以下であることがより好ましく、5,000Pa〜20,000Paの範囲が特に好ましい。この範囲内であれば、速やかに未反応モノマー及び低分子量成分が除去でき、反応を促進することができる。
【0062】
前記エステル化合物(A)は、種類の異なるものをそれぞれ別々に製造し、次いでそれらを混合して、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤としてもよい。また、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤には、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、製造時にエステル化合物(A)以外の添加剤を配合してもよい。前記エステル化合物(A)以外の添加剤の種類としては、エステル化触媒の触媒活性を失活させるための触媒失活剤、エステル化合物(A)の着色を抑制するための酸化防止剤等が挙げられる。
【0063】
前記触媒失活剤としては、例えばキレート化剤が挙げられ、有機系キレート化剤又は無機系キレート化剤を使用することができる。有機系キレート化剤としては、例えば、アミノ酸、フェノール類、ヒドロキシカルボン酸、ジケトン類、アミン類、オキシム、フェナントロリン類、ピリジン化合物、ジチオ化合物、ジアゾ化合物、チオール類、ポルフィリン類、配位原子として窒素原子を有するフェノール類やカルボン酸等が挙げられる。また、無機キレート化剤としては、例えば、リン酸、リン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸エステル等のリン化合物が挙げられる。これらは、原料となるジオール(a1)及び芳香族ジカルボン酸化合物(a2)の合計量に対して、10〜2,000ppmの範囲で添加して使用することが好ましい。
【0064】
次に、前記エステル化合物(A)を含有するセルロースエステル樹脂組成物について説明する。
【0065】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物に用いるセルロースエステル樹脂(B)は、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等から得られるセルロースの有する水酸基の一部、又は全部がエステル化されたものである。これらの中でも、綿花リンターから得られるセルロースをエステル化して得られるセルロースエステル樹脂を使用して得られるフィルムは、フィルムの製造装置を構成する金属支持体から剥離しやすく、フィルムの生産効率を向上させることが可能となるため好ましい。
【0066】
前記セルロースエステル樹脂(B)の具体例としては、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレート、セルロースアセテートフタレート及び硝酸セルロース等が挙げられる。これらのセルロースエステル樹脂は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。本発明のセルロースエステル樹脂組成物からなるフィルムを光学フィルム、特に偏光子保護フィルムとして使用する場合には、セルロースアセテートを使用することが、機械的物性及び透明性に優れたフィルムを得ることができるため好ましい。
【0067】
前記セルロースアセテートとしては、平均酢化度(結合酢酸量)が50.0〜62.5質量%の範囲であるものが好ましく、平均酢化度が52.5〜61.5質量%の範囲であるセルローストリアセテートがより好ましい。この範囲の平均酢化度であるセルロースアセテートを使用することによって、得られるセルロースエステル樹脂組成物からなる光学フィルムの耐透湿性を向上させることができる。なお、平均酢化度は、セルロースアセテートの質量を基準として、該セルロースアセテートをケン化することによって生成する酢酸の質量割合である。
【0068】
前記セルロースエステル樹脂(B)の数平均分子量は、30,000〜300,000のものが好ましく、50,000〜200,000のものがより好ましい。この範囲の数平均分子量であるセルロースアセテートを使用することによって、得られるフィルムの機械的物性を向上することができる。
【0069】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、前記セルロースエステル樹脂(B)を100質量部に対して、前記エステル化合物(A)を0.5〜50質量部の範囲で含有したものが好ましい。また、セルロースエステル樹脂(B)とエステル化合物(A)との相溶性、耐ブリード性をより向上させる場合、前記セルロースエステル樹脂(B)100質量部に対して、エステル化合物(A)を1〜40質量部の範囲で含有したものがより好ましい。この範囲でエステル化合物(A)を含有するセルロースエステル樹脂組成物を用いると、優れた光学性能、耐透湿性、及び高温多湿下における耐ブリード性を有した光学フィルムを得ることができる。
【0070】
また、本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、本発明を損なわない範囲内でエステル化合物(A)以外の各種添加剤を添加することができる。
【0071】
前記各種添加剤としては、例えば、改質剤(可塑剤も含む)、紫外線吸収剤、レターデーション上昇剤、樹脂、マット剤、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤等)、染料などの添加剤が挙げられる。また、これらの添加剤は、後述する溶液流延法において、有機溶剤中に前記セルロースエステル樹脂(B)及び前記エステル化合物(A)を溶解、混合する際に、併せて添加することもできる。
【0072】
前記改質剤(可塑剤も含む)としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル;エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、アセチルクエン酸トリブチルなどが挙げられる。
【0073】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。この紫外線吸収剤の配合量は、前記セルロースエステル樹脂(B)100質量部に対して、0.01〜2質量部の範囲であることが好ましい。
【0074】
前記レターデーション上昇剤としては、レターデーション値、すなわち、Rth値が上昇するものであれば何ら制限はないが、例えば、4−シアノ−4’−ペンチルビフェニルのような液晶化合物、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸エステル化合物、1,3,5−トリアジン環を有する化合物等が挙げられる。このレターデーション上昇剤の配合量は、前記セルロースエステル樹脂(B)100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲が好ましく、特に1〜10質量部の範囲がより好ましい。
【0075】
前記樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル等)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステルエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、トルエンスルホンアミド樹脂等が挙げられる。
【0076】
前記マット剤としては、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク等が挙げられる。このマット剤は、前記セルロースエステル樹脂(B)100質量部に対して、0.1〜0.3質量部の範囲が好ましい。
【0077】
前記染料としては、通常使用されている公知慣用のものを用いることができ、その配合量は本発明の目的を阻害しない範囲であれば、特に限定しない。
【0078】
本発明のエステル化合物(A)からなるセルロースエステル樹脂用添加剤を含有するセルロースエステル樹脂組成物は、フィルムに使用することができ、さらには光学フィルムにも使用することができる。
【0079】
本発明のフィルムは、前記セルロースエステル樹脂組成物をフィルム状に成形することにより、得ることができる。成形方法としては、例えば、前記セルロースエステル樹脂組成物を押出機等で溶融混練し、Tダイ等を用いることでフィルム状に成形する方法が挙げられる。
【0080】
また、本発明のフィルムは、前記成形方法の他に、前記セルロースエステル樹脂組成物を有機溶剤中に均一に溶解、混合して得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延し乾燥させる溶液流延法での成形によっても得ることができる。溶液流延法によりフィルムを得た場合、成形途中でのフィルム中の前記セルロースエステル樹脂(B)の配向を抑制することができるため、得られるフィルムは、実質的に光学等方性を示す。この光学等方性を示すフィルムは、光学フィルムとして液晶ディスプレイ等の部材として使用することができ、特に偏光子保護フィルムとして有用である。また、この溶液流延法により得られるフィルムは、その表面に凹凸が形成されにくく、表面平滑性に優れるという特長を有するため、溶液流延法がより好ましいフィルムの成形方法である。
【0081】
溶液流延法は、前記セルロースエステル樹脂(B)及び前記エステル化合物(A)を有機溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延させる第1の工程、流延させた前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤を乾燥させフィルムを形成する第2の工程、及び金属支持体上に形成されたフィルムを金属支持体から剥離し加熱乾燥させる第3の工程からなる。
【0082】
第1の工程で使用する金属支持体としては、無端ベルト状又はドラム状の金属、例えばステンレス製で、その表面が鏡面仕上げの施されたものを使用することができる。前記金属支持体上に、前記樹脂溶液を流延させる際には、得られるフィルムに異物が混入することを防止するために、フィルターで濾過した樹脂溶液を使用することが好ましい。
【0083】
第2の工程における乾燥方法としては、例えば30〜50℃の温度範囲の風を前記金属支持体の上面及び下面に当てることで、流延した前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤のおよそ50〜80質量%程度を蒸発させ、前記金属支持体上にフィルムを形成させる方法がある。
【0084】
第3の工程は、前記第2の工程で形成されたフィルムを金属支持体上から剥離し、前記第2の工程よりも高温で加熱乾燥させる工程である。前記加熱乾燥方法としては、例えば100〜160℃の温度範囲で段階的に温度を上昇させる方法が寸法安定性を良くするために好ましい。前記温度範囲で加熱乾燥することによって、前記第2の工程で得られたフィルム中に残存する有機溶剤をほぼ完全に除去することができる。
【0085】
前記樹脂溶液中のセルロースエステル樹脂組成物の溶液濃度としては、3〜50質量%の範囲が好ましく、5〜40質量%の範囲がより好ましい。
【0086】
前記有機溶剤としては、セルロースエステル樹脂(B)、及び前記エステル化合物(A)を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、セルロースエステル樹脂(B)としてセルロースアセテートを使用する場合は、セルロースアセテートの良溶媒として、例えばメチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類を使用することができる。また、この良溶媒に対して、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の貧溶媒を併用することが、フィルムの生産効率を向上することができるので好ましい。良溶媒と貧溶媒とを混合して使用する場合の質量割合は、良溶媒/貧溶媒=75/25〜95/5(質量%)の範囲が好ましい。
【0087】
本発明のフィルムの膜厚は、10〜1,000μmの範囲であることが好ましく、20〜500μmの範囲であることがより好ましく、30〜200μmの範囲であることがさらに好ましい。また、本発明のフィルムを光学フィルムとして用いる場合は、その膜厚は10〜150μm範囲であることが好ましい。光学フィルムの中でも偏光子保護フィルムとして使用する場合には、その膜厚が25〜100μmの範囲であれば、液晶表示装置の薄型化を図ることが可能で、かつ優れたフィルム強度、湿熱変化による寸法安定性及び耐透湿性を維持することができる。なお、本発明では、耐ブリード性及び寸法安定性を耐久性ということがある。
【0088】
また、本発明の光学フィルムは、光学補償機能を必要とする偏光子保護フィルムにも使用することができる。この偏光子保護フィルムには、TN(Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、OCB(Optically Compensatory Bend)等の液晶表示方式に応じて特定の範囲の異方性が求められる。
【0089】
本発明の光学フィルムは、Rth値が100nm以上を有していることが好ましく、100〜500nmの範囲のRth値を有していることが、液晶物質由来の位相差を効果的に補償することができるためより好ましい。
【0090】
所望の光学異方性を有する偏光子保護フィルムを得るためには、本発明の前記エステル化合物(A)からなるセルロースエステル樹脂用添加剤の配合比率等を調整することにより可能である。特に本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤は、少量添加で高いRth値を得ることができるため、比較的高いRth値が求められるVA、OCB、及びTN等の液晶表示方式を採用した液晶表示装置にも、耐ブリード性を維持したまま、所望のRth値に調整することができる。
【0091】
本発明の光学フィルムが優れた光学性能を発現する理由としては、前記エステル化合物(A)の化学構造、及びその分子間相互作用が寄与していると考える。具体的には、本発明のエステル化合物(A)からなるセルロースエステル樹脂用添加剤の原料であるジオール(a1)と、芳香族ジカルボン酸化合物(a2)とが比較的平面性の高い構造を有していること、エステル化合物中の芳香族ジカルボン酸化合物(a2)の効果によりポリエステルの分子間でのπ−π結合を形成していることが考えられるため、電子密度が高まると推察される。この平面性が高く、電子密度が高いエステル化合物(A)を屈折率楕円体として捉えた場合、エステル化合物(A)は、セルロースエステル樹脂(B)中で異方性の高い構造体を形成しているため、優れた光学性能を有するものと推測される。
【0092】
また、本発明のエステル化合物(A)からなるセルロースエステル樹脂用添加剤の原料であるジオール(a1)として、エチレングリコール(a1−1)及び1,2−プロパンジオール(a1−2)を併用した場合、1,2−プロパンジオール(a1−2)は、エステル化合物(A)とセルロースエステル樹脂(B)との相溶性、及びフィルムの作製する際の溶媒溶解性の向上に寄与していると考えられ、一方、C−C間の距離が短く、直線性の高い構造を有したエチレングリコール(a1−1)は、光学異方性、すなわち、Rth値の向上に寄与していると考える。したがって、エチレングリコール(a1−1)及び1,2−プロパンジオール(a1−2)を併用することにより、セルロースエステル樹脂(B)への相溶性、又はフィルムの作製する際の溶媒溶解性が向上できるとともに、優れた光学性能を発現するという効果を両立できたものと推測される。
【0093】
本発明の光学フィルムの透湿度について説明する。本発明の光学フィルムの膜厚が80μmであれば、セルロースエステル樹脂(B)のフィルムの透湿度が例えば、800〜900g/m・24h程度有するものであれば、セルロースエステル樹脂組成物からなるフィルムは600g/m・24h以下の透湿度を得ることができるのが好ましく、100〜600g/m・24hの範囲の透湿度を得ることがより好ましい。この範囲であれば、得られる光学フィルムの厚みを20〜60μm程度まで薄くしたとしても優れた耐透湿度を有する。
【0094】
本発明のフィルムは、光学性能のみならず、耐透湿性、透明性、非揮発性、高温多湿下における耐ブリード性などに優れることから、例えば、液晶表示装置の光学フィルムやハロゲン化銀写真感光材料の支持体等に使用できる。ここで、前記光学フィルムとは、例えば、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、反射板、視野角向上フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルム、カラーフィルター等が挙げられる。これらの光学フィルムのうち、前記したような優れた特性に加えて、高いRth値を有するフィルムは、視野角補償機能を有する偏光子保護フィルムとして使用することが可能である。
【実施例】
【0095】
以下に実施例と比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0096】
[実施例1]エステル化合物(A−1)の製造
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの四ツ口フラスコに、1,2−プロパンジオール(以下、「PG」という。)392g及びテレフタル酸ジメチル(以下、「DMT」という。)800gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が130℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートを、PG及びDMTの合計量に対して60ppmを加えて、窒素気流下で攪拌しながら185℃で生成するメタノールを留去しながら15時間反応を行った。反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約4000Paにて2時間減圧することによって、数平均分子量が400、重量平均分子量が500のエステル化合物(A−1)(酸価:0.43、水酸基価:86)を得た。
【0097】
[実施例2]エステル化合物(A−2)の製造
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの四ツ口フラスコに、PG 940g及びDMT 1,600gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が130℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートを、PG及びDMTの合計量に対して60ppmを加えて、窒素気流下で攪拌しながら185℃にて生成するメタノールを留去しながら10時間反応を行った。反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約4000Paにて2時間減圧し、更に約133Paにて1時間減圧することによって、数平均分子量が1,000、重量平均分子量が1,750のエステル化合物(A−2)(酸価:0.18、水酸基価:61)を得た。
【0098】
[実施例3]エステル化合物(A−3)の製造
内容積2リットルの四ツ口フラスコに、実施例2で得られたエステル化合物(A−2)1,500gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が190℃になった時点で約133Paにて1.5時間減圧することによって、数平均分子量が2,200、重量平均分子量が5,000のエステル化合物(A−3)(酸価:0.30、水酸基価:25)を得た。
【0099】
[実施例4]エステル化合物(A−4)の製造
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えた内容積1リットルの四ツ口フラスコに、PG 315g及び2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(以下、「NDCM」という。)300gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が130℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートを、PG及びNDCMの合計量に対して60ppmを加えて、窒素気流下で攪拌しながら185℃にて生成するメタノールを留去しながら15時間反応を行った。反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約18,000Paにて1時間減圧することによって、数平均分子量が400、重量平均分子量が455のエステル化合物(A−4)(酸価:0.34、水酸基価:65)を得た。
【0100】
[実施例5]エステル化合物(A−5)の製造
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの四ツ口フラスコに、2−メチル−1,3−プロパンジオール(以下、「2−MPD」という。)201g、1,4−ブタンジオール(以下、「1,4−BD」という。)201g及びDMT 800gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が130℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートを2−MPD、1,4−BG及びDMTの合計量に対して60ppmを加えて、窒素気流下で攪拌しながら180℃にて生成するメタノールを留去しながら15時間反応を行った。反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約133Paにて2時間減圧することによって、数平均分子量が1,600、重量平均分子量が3,600のエステル化合物(A−5)(酸価:0.62、水酸基価:20)を得た。
【0101】
[実施例6]エステル化合物(A−6)の製造
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えた内容積5リットルの加圧が可能な反応器に、PG 2,244g及びテレフタル酸(以下、「TPA」という。)3,500gを仕込み昇温した。反応器内の温度が120℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートを、PG及びTPAの合計量に対して60ppm加えて、反応器内に窒素を通気させながら、3.5MPa圧力にて生成する水を留去しながら250℃まで速やかに昇温させた。この後、徐々に圧力を抜きながら、常圧にて3時間反応させた。反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約133Paにて1時間減圧することによって、数平均分子量が740、重量平均分子量が1,250のエステル化合物(A−6)(酸価:0.75、水酸基価:70)を得た。
【0102】
[実施例7]エステル化合物(A−7)の製造
温度計、攪拌器、精留塔及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに、エチレングリコール(以下、「EG」という。)223g、PG 274g及びDMT 1,048gとを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が80℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートをEG、PG及びDMTの合計量に対して60ppm加えて、窒素気流下で攪拌しながら、昇温速度10℃/時間にて190℃まで昇温した。生成するメタノールを留去しながら7時間反応を行った。反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約18,000Paにて2時間減圧することによって、数平均分子量が730、重量平均分子量が1,220のエステル化合物(A−1)(酸価:0.21、水酸基価:145、加熱減量値:0.15質量%)を得た。NMRスペクトル測定の結果、エチレングリコール(a1−1)と1,2−プロパンジオール(a1−2)とのモル組成比(a1−1)/(a1−2)は、51/49(モル%)であった。
【0103】
[実施例8]エステル化合物(A−8)の製造
温度計、攪拌器、精留塔及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに、EG 213g、PG 261g及びDMT 1,000gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が80℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートをEG、PG及びDMTの合計量に対して60ppm加えて、窒素気流下で攪拌しながら、昇温速度10℃/時間にて190℃まで昇温した。生成するメタノールを留去しながら9時間反応を行った。反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約18,000Paにて2時間減圧下することによって、数平均分子量が1,530、重量平均分子量が3,200のエステル化合物(A−8)(酸価:0.34、水酸基価:90、加熱減量値:0.08質量%)を得た。NMRスペクトル測定の結果、エチレングリコール(a1−1)と1,2−プロパンジオール(a1−2)とのモル組成比(a1−1)/(a1−2)は、53/47(モル%)であった。
【0104】
[実施例9]エステル化合物(A−9)の製造
温度計、攪拌器、精留塔及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに、EG 233g、PG 285g及びDMT 1,165gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が80℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートをEG、PG及びDMTの合計量に対して60ppm加えて、窒素気流下で攪拌しながら、昇温速度10℃/時間にて190℃まで昇温した。生成するメタノールを留去しながら15時間反応を行った。反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約18,000Paにて2時間減圧することによって、数平均分子量が2,650、重量平均分子量が5,580のエステル化合物(A−9)(酸価:0.24、水酸基価:59、加熱減量値:0.03質量%)を得た。NMRスペクトル測定の結果、エチレングリコール(a1−1)と1,2−プロパンジオール(a1−2)とのモル組成比(a1−1)/(a1−2)は、52/48(モル%)であった。
【0105】
[実施例10]エステル化合物(A−10)の製造
温度計、攪拌器、精留塔及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに、EG 140g、PG 57g及びDMT 874gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が80℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートをEG、PG及びDMTの合計量に対して60ppm加えて、窒素気流下で攪拌しながら、昇温速度10℃/時間にて190℃まで昇温した。生成するメタノールを留去しながら10時間反応を行った。反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約18,000Paにて2時間減圧することによって、数平均分子量が730、重量平均分子量が1,220のエステル化合物(A−10)(酸価:0.43、水酸基価:121、加熱減量値:0.22質量%)を得た。NMRスペクトル測定の結果、エチレングリコール(a1−1)と1,2−プロパンジオール(a1−2)とのモル組成比(a1−1)/(a1−2)は、78/22(モル%)であった。
【0106】
[実施例11]エステル化合物(A−11)の製造
温度計、攪拌器、精留塔及び還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに、EG 248g、PG 912g及びDMT 1,243gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が80℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートをEG、PG及びDMTの合計量に対して60ppm加えて、窒素気流下で攪拌しながら、昇温速度10℃/時間にて190℃まで昇温した。生成するメタノールを留去しながら10時間反応を行った。反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約18,000Paにて2時間減圧することによって、数平均分子量が1,500、重量平均分子量が3,150のエステル化合物(A−11)(酸価:0.43、水酸基価:121、加熱減量値:0.22質量%)を得た。NMRスペクトル測定の結果、エチレングリコール(a1−1)と1,2−プロパンジオール(a1−2)とのモル組成比(a1−1)/(a1−2)は、21/79(モル%)であった。
【0107】
[実施例12]エステル化合物(A−12)の製造
温度計、攪拌器、精留塔及び還流冷却器、加圧調節弁を付した内容積1リットルのオートクレーブに、EG 158g、PG 194g及びTPA 498gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が80℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートをEG、PG及びTPAの合計量に対して60ppm加えて、3.5MPaの加圧状態にし、窒素気流通気下で攪拌しながら、昇温速度100℃/時間にて250℃まで昇温した。生成する水を留去しながら3時間反応を行った。反応後、徐々に常圧に戻し、フラスコ内温が190℃になった時点で約18,000Paにて2時間減圧することによって、数平均分子量が1,250、重量平均分子量が2,400のエステル化合物(A−12)(酸価:0.20、水酸基価:83、加熱減量値:0.18質量%)を得た。NMRスペクトル測定の結果、エチレングリコール(a1−1)と1,2−プロパンジオール(a1−2)とのモル組成比(a1−1)/(a1−2)は、42/58(モル%)であった。
【0108】
[実施例13]エステル化合物(A−13)の製造
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに、EG 155g、PG 190g及びNDCM 610gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が80℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートをEG、PG及びNDCMの合計量に対して60ppm加えて、窒素気流下で攪拌しながら、昇温速度10℃/時間にて190℃まで昇温した。生成するメタノールを留去しながら10時間反応を行った。反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約18,000Paにて2時間減圧することによって、数平均分子量が360、重量平均分子量が390のエステル化合物(A−13)(酸価:0.43、水酸基価:118、加熱減量値:0.34質量%)を得た。NMRスペクトル測定の結果、エチレングリコール(a1−1)と1,2−プロパンジオール(a1−2)とのモル組成比(a1−1)/(a1−2)は、50/50(モル%)であった。
【0109】
[比較例1]エステル化合物(A−14)の製造
内容積1リットルの四ツ口フラスコに、実施例3で得られたエステル化合物(A−3)700gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が190℃になった時点で約133Paにて2時間減圧することによって、数平均分子量が3,300、重量平均分子量が9,600のエステル化合物(A−14)(酸価:0.45、水酸基価:15)を得た。
【0110】
[比較例2]エステル化合物(A−15)の製造
温度計、攪拌器、精留塔及び還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに、EG 186g、PG 228g及びDMT 970gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が80℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートをEG、PG及びDMTの合計量に対して60ppm加えて、窒素気流下で攪拌しながら、昇温速度10℃/時間にて190℃まで昇温した。生成するメタノールを留去しながら10時間反応を行った。反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約18,000Paにて3時間減圧することによって、数平均分子量が3,150、重量平均分子量が8,200のエステル化合物(A−15)(酸価:0.65、水酸基価:15、加熱減量値:0.08質量%)を得た。NMRスペクトル測定の結果、エチレングリコール(a1−1)と1,2−プロパンジオール(a1−2)とのモル組成比(a1−1)/(a1−2)は、51/49(モル%)であった。
【0111】
[比較例3]エステル化合物(A−16)の製造
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの四ツ口フラスコに、PG 468g、DMT 524g及び安息香酸(以下、「BzA」という。)733gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が130℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートを、PG、DMT及びBzAの合計量に対して60ppm加えて、窒素気流下で攪拌しながら170℃から1時間に10℃の昇温速度にて生成する水、メタノールを留去しながら220℃まで昇温させた。10時間反応後、フラスコ内温が190℃になった時点で約133Paにて4時間減圧することによって、数平均分子量が450、重量平均分子量が800のエステル化合物(A−16)(酸価:0.32、水酸基価:7)を得た。
【0112】
[比較例4]エステル化合物(A−17)の製造
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの四ツ口フラスコに、EG 670g及びアジピン酸(以下、「AA」という。)1461gを仕込み昇温をした。フラスコ内の温度が70℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートを、EG及びAAの合計量に対して60ppm加えて、窒素気流下で攪拌しながら150℃から1時間に15℃の昇温速度にて生成する水を留去しながら220℃まで昇温させた。7時間反応後、フラスコ内温が195℃になった時点で約1330Paにて3時間減圧することによって、数平均分子量が1,000、重量平均分子量が1,850のエステル化合物(A−17)(酸価:0.55、水酸基価:113)を得た。
【0113】
[比較例5] エステル化合物(A−18)の製造
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの四ツ口フラスコに、1,3−ブタンジオール(以下、「1,3−BD」という。)670g及び無水フタル酸(以下、「PA」という。)1461gを仕込み昇温した。フラスコ内の温度が70℃になった時点でエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートを、1,3−BGとPAとの合計量に対して60ppm加えて、窒素気流下で攪拌しながら150℃から1時間に15℃の昇温速度にて生成する水を留去しながら220℃まで昇温させた。7時間反応後、フラスコ内温が195℃になった時点で約1330Paにて3時間減圧することによって、数平均分子量が710、重量平均分子量が1,350のエステル化合物(A−18)(酸価:0.55、水酸基価:123)を得た。
【0114】
上記の実施例1〜13及び比較例1〜5で得られたエステル化合物(A−1)〜(A−18)の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、酸価、水酸基価、及び加熱減量を下記の方法により測定した。なお、水酸基価は、JIS K 0070−1992に準じて測定した。
【0115】
[エステル化合物の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定方法]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置(東ソー株式会社製「HLC−8330」)を用いて、下記の測定条件で、エステル化合物の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定した。
カラム:「TSK gel SuperHZM−M」×2本及び
「TSK gel SuperHZ−2000」×2本
ガードカラム:「TSK SuperH−H」
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
【0116】
[エチレングリコール(a−1)と1,2−プロパンジオール(a−2)とのモル組成比(a−1)/(a−2)の測定方法]
H−NMR装置(日本電子株式会社製、JNM−LA300)を用いて、エステル化合物のクロロホルム−d(CDCl)溶液を分析することで、前記エステル化合物を構成する中のエチレングリコール(a−1)単位と1,2−プロパンジオール(a−2)単位とのモル組成比(a−1)/(a−2)(単位:モル%)を算出した。
【0117】
[加熱減量の測定条件]
ギア老化試験機(株式会社東洋精機製作所製の型式「SB−P」、内容積45×45×50cm)中に約50gのエステル化合物を入れ、窒素雰囲気下、140℃で60分間加熱後の質量を測定し、加熱前後の質量減少率にて加熱減量値を測定した。なお、偏光子保護フィルムに使用する場合、エステル化合物の加熱減量値が概ね0.5質量%以下であれば揮発性に格段に優れているといえる。
【0118】
上記の実施例1〜13及び比較例1〜5で得られたエステル化合物(A−1)〜(A−18)の特性値を表1〜3に示す。
【0119】
[セルロースエステル樹脂組成物からなる評価用フィルムの作製]
上記の実施例1〜13及び比較例1〜5で得られたエステル化合物(A−1)〜(A−18)1g及びセルローストリアセテート(酢化度61質量%、重合度265)10gを、塩化メチレン81g及びメタノール9gからなる混合溶剤に混合して均一に撹拌し、ドープ液を調製した。これらの各ドープ液をガラス板上に約1mmの厚さになるようにそれぞれ流延し、室温で16時間乾燥させた後、50℃で30分間乾燥させ、さらに120℃で30分乾燥させることで、膜厚約80μmの評価用フィルム(F−1)〜(F−18)を得た。
【0120】
また、比較例6として、上記エステル化合物に代えて、トリフェニルホスフェート(以下、「TPP」という。)1gを用いて同様に操作し、膜厚約80μmの評価用フィルム(F−19)を得た。さらに、比較例7として、セルローストリアセテートのみで同様に操作し、膜厚約80μmの評価用フィルム(F−20)を得た。
【0121】
[フィルムの耐ブリード性の評価方法]
得られた前記フィルムを30mm×40mmの大きさに切り取り、温度85℃、相対湿度90%の恒温恒湿中に120時間放置した。その後、前記フィルム表面を目視で観察し、エステル化合物等のブリードの有無を以下の基準に従い評価した。
A:フィルムの表面上にブリード物が観察されなかった。
B:フィルムの表面上にブリード物が観察された。
ブリード物等が観察されないフィルムは耐久性に優れ、特に偏光子保護フィルムとして用いた場合、偏光子保護フィルムの湿熱耐久性に優れたフィルムといえる。
【0122】
また、上記フィルムの耐ブリード性試験評価後のフィルムを用いて、セルロースエステル樹脂とエステル化物との相溶性を判断する目的で前記フィルムの透明性を濁度計(日本電色工業株式会社製の型式「ND−1001DP」)を用いて、JIS K 7105に準じて、フィルムのヘーズ値を測定した。なお、ヘーズ値は偏光子保護フィルムに使用する場合、1%以下であることが実用上好ましく、0.5%以下であることが実用上より好ましい。
【0123】
[フィルムの厚さ方向のレターデーション値(Rth値)の測定方法]
自動複屈折率計(王子計測機器株式会社製「KOBRA−WR」)を用いて、前記フィルムの厚さ方向のレターデーション値(Rth値)を測定した。測定条件は、温度23℃、相対湿度20%の環境下で12時間以上調湿した後、同環境下で測定を行った。前記フィルムのRth値は、その用途によって異なるものの、概ね130nm以上であれば、光学補償機能を有する偏光子保護フィルムとして使用することが可能である。
【0124】
[フィルムの透湿度の測定方法]
JIS Z 0208に記載の方法に従い、前記フィルムの透湿度を測定し、80μmの厚さに換算した。測定条件は、温度25℃、相対湿度90%とした。なお、本実施例で用いたセルローストリアセテートのみのフィルムの透湿度は800g/m・24h程度(表2中の比較例9参照。)であるので、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤を配合したフィルムの透湿度がこの値以下であれば、偏光子保護フィルムとして優れた耐透湿性を有するといえる。
【0125】
実施例1〜13で得られた本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤を用いたフィルム(F−1)〜(F−13)の評価結果を表1及び2に示す。また、比較例1〜5で得られたエステル化合物を用いたフィルム(F−14)〜(F−18)、エステル化合物の代わりにTPPを用いたフィルム(F−19;比較例6)及び何も配合しなかったフィルム(F−20;比較例7)の評価結果を表3に示す。
【0126】
【表1】

【0127】
【表2】

【0128】
【表3】

【0129】
表1及び2に示した結果から、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤であるエステル化合物は、加熱減量値が0.03〜0.45質量%と非常に低いことが分かった。また、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤を用いたフィルム(F−1)〜(F−13)は耐ブリード性及び耐透湿性に優れ、高温高湿環境下に保存しても高い透明性を維持することが分かった。さらに、フィルムのRth値は115〜291nmと非常に高い値であり、光学フィルムとして極めて有用であることが分かった。
【0130】
また、表3に示した結果から、以下のことが分かった。
【0131】
比較例1及び2は、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤であるエステル化合物の数平均分子量の上限である3,000を超えるエステル化合物を用いた例である。このエステル化合物を配合したフィルム(F−14)及び(F−15)は、セルロースエステル樹脂とエステル化合物との相溶性が非常に悪いため、フィルムが白濁する問題があり、耐ブリード性も不良であった。なお、フィルム(F−14)のヘーズ値、フィルム(F−14)及び(F−15)のRth値は、フィルムが白濁しているため測定不能であった。また、これらの値が測定不能だったため、透湿度は測定しなかった。
【0132】
比較例3は、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤であるエステル化合物の原料として芳香族ジカルボン酸化合物に加えて、芳香族モノカルボン酸である安息香酸を用いて、末端水酸基を封止した例である。このエステル化合物を配合したフィルム(F−16)は、耐ブリード及び耐透湿度は良好であったが、Rth値の向上は認められなかった。
【0133】
比較例4は、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤であるエステル化合物の原料として本発明で用いる芳香族ジカルボン酸化合物の代わりに脂肪族ジカルボン酸を用いたエステル化合物の例である。このエステル化合物を配合したフィルム(F−17)は、耐ブリード及び耐透湿度は良好であったが、Rth値の向上は認められなかった。
【0134】
比較例5は、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤であるエステル化合物の原料として本発明で規定した芳香族ジカルボン酸化合物と異なる芳香族ジカルボン酸化合物を用いたエステル化合物の例である。このエステル化合物を配合したフィルム(F−18)は、耐ブリード及び耐透湿度は良好であったが、Rth値の向上は認められなかった。
【0135】
比較例6は、本発明のセルロースエステル樹脂用添加剤であるエステル化合物の代わりにTPPを用いた例である。このTPPを配合したフィルム(F−19)は、TPPが室温でもフィルム表面に多量にブリードする問題があることが分かった。また、フィルムのRth値の向上は認められなかった。
【0136】
比較例7は、エステル化合物等を何も配合しなかったフィルム(F−20)の評価例である。このセルロースエステル樹脂のみのフィルムは透明性に優れるが、Rth値は非常に低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール(a1)と、テレフタル酸、テレフタル酸ジアルキルエステル、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステル、ビフェニルジカルボン酸及びビフェニルジカルボン酸ジアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の芳香族ジカルボン酸化合物(a2)とをエステル化反応させて得られる数平均分子量が300〜3,000の範囲であるエステル化合物(A)からなることを特徴とするセルロースエステル樹脂用添加剤。
【請求項2】
前記ジオール(a1)が、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6−ヘキサンジオールからなる群から選ばれる1種以上のジオールである請求項1記載のセルロースエステル樹脂用添加剤。
【請求項3】
前記ジオール(a1)が、エチレングリコール(a1−1)及び1,2−プロパンジオール(a1−2)である請求項1記載のセルロースエステル樹脂用添加剤。
【請求項4】
エチレングリコール(a1−1)と1,2−プロパンジオール(a1−2)とのモル組成比(a−1)/(a−2)が85/15〜10/90の範囲である請求項3記載のセルロースエステル樹脂用添加剤。
【請求項5】
前記セルロースエステル樹脂(B)100質量部に対して、請求項1記載のエステル化合物(A)を3〜50質量部含有することを特徴とするセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5記載のセルロースエステル樹脂組成物からなることを特徴とするフィルム。
【請求項7】
請求項5記載のセルロースエステル樹脂組成物からなることを特徴とする光学フィルム。

【公開番号】特開2010−138379(P2010−138379A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233341(P2009−233341)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】