説明

セレンを高濃度含有した無臭ニンニク

【課題】
高濃度にセレン化合物を含有した無臭のニンニクを提供すること。
【解決手段】
第一の手段として、セレンを高濃度含有した無臭ニンニクとする。
第二の手段として、培地に無機セレン化合物を散布し、無機セレン化合物を散布した培地に無臭ニンニクの種球根をばらした種片の少なくとも一方を植え付け、無臭ニンニクを育成することによりセレンを高濃度含有した無臭ニンニクを製造する方法とする。
第三の手段として、培地に無臭ニンニクの種を蒔き、無臭ニンニクを育成する過程において培地に無機セレン化合物を散布することにより、セレンを高濃度含有した無臭ニンニクを製造する方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセレンを高濃度含有した無臭ニンニクに関する。
【背景技術】
【0002】
ニンニクなどのある種のユリ科の植物は、セレンを植物体内に高濃度に蓄積することが知られている(下記非特許文献1参照)。
【0003】
ニンニクなどに蓄積されたセレン化合物は、動物にとって毒性が低く、利用しやすい化学形であるセレン含有アミノ酸(セレノアミノ酸)として存在しており(下記特許文献2参照)、また一部のセレノアミノ酸には抗がん作用が認められており(下記特許文献3及び4参照)、セレンを高濃度に蓄積したニンニクは、生体必須元素であるセレンの栄養補助食品として利用されるだけでなく、がんの予防効果や抗がん作用を期待して摂取されている。
【0004】
【非特許文献1】J.Am.Col.Nutr.、2002年、21巻、223−232頁
【非特許文献2】J.Agric.Food Chem.、2000年、48巻、2062−2070頁
【非特許文献3】Cancer Res.、2003年、2003年、63巻、52−59頁
【非特許文献4】Cancer Metas.Rev.、2002年、21巻、281−289頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ニンニクは特有の不快臭気を有し、摂取後の口臭残存や汗中への臭気成分の分布があり、摂取が控えられる場合が多い。更に、不快臭気の原因物質である揮発性のアリシンは、摂取後に胃部不快感や貧血を惹起する場合もある。即ち、ニンニク特有の臭気のために、ニンニクの有する有用なセレン化合物の摂取が妨げられてしまうという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、高濃度にセレン化合物を含有した無臭のニンニクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために具体的には下記いずれかの手段を採用することができる。
【0008】
まず第一の手段として、セレンを高濃度含有した無臭ニンニクとする。
またこの場合においてセレンは、セレノアミノ酸として含有されていること、セレンは、10μg/g以上、望ましくは120μg/g以上含有されていることが望ましい。即ち、本明細書でいう「高濃度」とは、10μg/g以上セレンを含有している場合をいう。またセレンは、ガンマグルタミルメチルセレノシステインであることが望ましい。本発明では、後述の実施例においてガンマグルタミルメチルセレノシステインによる抗がん作用を確認できている。
【0009】
また、第二の手段として、培地に無機セレン化合物を散布し、無機セレン化合物を散布した培地に無臭ニンニクの種球根をばらした種片の少なくとも一方を植え付け、無臭ニンニクを育成することによりセレンを高濃度含有した無臭ニンニクを製造する方法とする。
【0010】
また、第三の手段として、培地に無臭ニンニクの種を蒔き、無臭ニンニクを育成する過程において培地に無機セレン化合物を散布することにより、セレンを高濃度含有した無臭ニンニクを製造する方法とする。
【0011】
なおこの手段において、無機セレン化合物を散布する工程は、単回であっても複数回行ってもよい。
【0012】
また、上記第二又は第三の手段において、無機セレン化合物は、セレン換算で100mg/m〜1000mg/mの範囲で散布されることも望ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上により、高濃度にセレン化合物を含有した無臭のニンニクを得ることができ、有用なセレン化合物を摂取しやすくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態に係る無臭ニンニクはセレンを高濃度、例えば95μg/g以上、より望ましくは120μg/g以上含有しており、またガンマグルタミルメチルセレノシステインとして含有されている。実施例として後述するが、本実施形態に係る無臭ニンニクでは抗がん作用を確認できており、この無臭ニンニクを摂取することにより抗がん作用を得ることができると期待できる。
【0016】
本実施形態にかかるセレンを高濃度含有した無臭ニンニクは、公知の無臭ニンニクを栽培する際に無機セレン化合物、例えばセレン酸バリウム、亜セレン酸バリウム、セレン酸ナトリウム又は亜セレン酸ナトリウムの少なくともいずれかを培地に散布することによってセレンを高濃度含有させるようにしたものである。
【0017】
ここで無臭ニンニクとしては、有臭ニンニクの臭気成分を化学的或いは酵素化学的に分解した無臭ニンニク、原種の品種改良を重ねて無臭化した無臭ニンニクが挙げられるが、後者の方が化学的或いは酵素化学的な処理によってセレン化合物が変質するおそれがないため好ましい。
【0018】
また無臭ニンニクの栽培方法としては、通常の作物の栽培と同様に圃場において栽培することもできるし、プランターなどを用いて栽培することもできる。
【0019】
無機セレン化合物は無臭ニンニクを栽培する際に加えるものであるが、加え方としては種球根を植え付ける前に予め土等の培地にセレン酸化合物を散布しておく方法、種球根を植え付けてから4〜6ヶ月程度経過しある程度育った後で無機セレン化合物を散布する方法など様々な段階で加えることが有用であるが、種球根を植え付ける前に予め土等の培地に散布しておく方がより効率的に無臭ニンニクにセレンを含有させることができる。散布するセレン化合物の量としては、100mg/m〜1000mg/m、望ましくは200mg/m〜500mg/mであって、種球根を植え付ける前に予め散布する場合は難溶性の無機セレン化合物を500mg/m〜1000mg/mが望ましく、有る程度育った段階で散布する場合は可溶性の無機セレン化合物を200mg/m〜5000mg/mが望ましい。またある程度育った段階で散布する場合は数ヶ月程度の期間をおいて複数回散布することがより望ましい。
【0020】
これにより、有機セレン化合物を高濃度含有する無臭ニンニクを得ることができる。特に、無臭ニンニクに含有されるセレン化合物の主要なものとしてはガンマグルタミルメチルセレノシステインであって、これは消化器官内において消化酵素の一種であるトランスペプチダーゼより消化された後、吸収され各臓器に運搬されると考えられる。これは有臭ニンニク中で一般に見出されるメチルセレノシステインの消化過程と異なり、有臭ニンニクはこのような消化過程を経ない。従って、無臭ニンニクに含まれるセレン化合物を摂取することにより有臭ニンニクに含まれるセレン化合物と異なる薬理効果を得ることが期待できる。
【0021】
以下、本実施形態のより具体的な例について実施例を用いて説明する。
【0022】
(実施例1)
縦10m、横15m、深さ1mのコンクリート駆体に小石、砂、黒土を順に入れ、栽培槽とした。この栽培槽と地下水槽とをパイプでつなぎ浸透水を貯蔵した。更に、栽培槽中の土の表面にセレン酸バリウム及び亜セレン酸バリウムを夫々500mg/mを散布し肥料とともによく混和した。そしてここに幅90cm、高さ15cmの畝をたて、表面を黒フィルムでマルチングした。無臭ニンニク(Allium sativum L.Shiro)の種子10kgをこの畝に4列植えつけた。雑草の除去、とう摘みなどを行い8ヶ月後に、無臭ニンニク40kgを収穫した。なお、誘導結合プラズマ質量分析法により測定したところ、地下タンク中浸透水のセレン濃度は3回の測定の平均で1μg/g以下であり、得られたニンニクのセレン濃度は3回の測定の平均で約120μg/gであった。この結果高濃度のセレンを含有する無臭ニンニクを得ることができた。
【0023】
(セレン化合物の確認試験)
次に、収穫された無臭ニンニク(6g)をおろし金ですりおろし、4倍重量の精製水を加えた後、ホモジナイザーを用いて十分にホモジナイズした。これを沸騰水浴中で20分間で抽出した後、超遠心法により105000gの上清を得た(以下これを「無臭ニンニク抽出液」という。)
【0024】
この抽出液20μlを高性能液体クロマトグラフ用カラム(Shodex Asahipak GS−320 HQ、昭和電工社製)に入れ、溶出バッファーとして50mM酢酸アンモニウム(pH6.5)を用いて流速0.5ml/分の条件下で溶出した。なお溶出物は直接、コリジョンセルを有する誘導結合プラズマ質量分析装置(Agilent7500、アジレントテクノロジー社製)に導入し、m/z34及び82で硫黄及びセレンをそれぞれ検出した。
【0025】
この結果、保持時間19分付近に主要なセレン化合物の溶出を観測した(図1参照)。なお、ニンニク特有の臭気成分の前駆体であるアリインは、存在すれば本溶出条件下で21.5分に溶出するが、本無臭ニンニク中にその存在は認められなかった。
【0026】
次にここで検出された主要なセレン化合物を同定するため、先ほど取得した無臭ニンニク抽出液2.0mlを分取用高性能クロマトグラフ用カラム(Shodex Asahipak GS−520P、昭和電工社製)に入れ、溶出バッファーとして50mM酢酸アンモニウム(pH6.5)を用いて流速3.0ml/分の条件下で溶出した。
【0027】
溶出液を10倍に濃縮した後、エレクトロスプレーイオン化質量分析装置(API3000、アプライドバイオシステムズ社製)により測定を行った。その結果、一段目の質量分析計で検出された親イオンのマススペクトルにおいて、m/z=313付近にのみセレンの同位体比に相当するマスパターンが検出された(図2参照)。更に、タンデムマス法により検出されるフラグメントイオンのマススペクトルは、全てガンマグルタミルメチルセレノシステインに由来するものと帰結でき、無臭セレンニンニク中に存在する主要なセレン化合物がこのガンマグルタミルメチルセレノシステインであると同定できた(図3参照)。
【0028】
(抗がん作用の評価)
上記得られたニンニク抽出液を用いて人白血病細胞に対する抗がん作用の評価を行った。
【0029】
ヒト白血病細胞HL60を10%の牛胎児血清を含むRPMI−1640培地中で24時間培養し、セレン濃度として5〜630μMとなるように無臭ニンニク抽出液を添加し、更に24時間培養を行った。
【0030】
この結果、無臭ニンニク抽出液には、白血病細胞の増殖抑制効果が認められた。本実験結果より計算された白血病細胞の増殖を半分に抑制する濃度は、抽出液中のセレン濃度として406μMであった。
【0031】
以上、無臭ニンニクにセレン化合物を高濃度に含有させることにより、これまで懸念されていたニンニク特有の臭気のないセレノアミノ酸の供給源となる食品素材を開発できた。また無臭ニンニクには抗がん作用も認められ、栄養学的な重要性に加え、医学及び薬学分野においても重要な素材となることが期待できた。
【0032】
(実施例2)
本実施例は、無臭ニンニクの栽培方法が異なる以外はほぼ実施例1と同様に行った。
【0033】
栽培方法としては、縦40cm、横100cm、深さ10cmのプラスチック製プランターに腐葉土1、黒土1、赤玉土2の比で8分ほど入れ栽培槽とした。ここに無臭ニンニクの種子を4株植えつけた。植え付け後約4ヶ月後肥料とともにセレン酸ナトリウム及びセレン酸バリウムをそれぞれ400mg/mを散布した。更にその1月後、セレン酸ナトリウムを200mg/mを追加的に散布した。この結果無臭ニンニクを500g得ることができた。なお収穫された無臭ニンニク中のセレン含有量は95μg/gであった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】高性能液体クロマトグラフによるセレン溶出の結果を示す図
【図2】エレクトロスプレーイオン化質量分析装置によるセレン化合物の検出結果を示す図。
【図3】エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析法によるセレン化合物の同定について示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレンを高濃度含有した無臭ニンニク。
【請求項2】
前記セレンは、セレノアミノ酸として含有されていることを特徴とする請求項1記載の無臭ニンニク。
【請求項3】
前記セレンは、10μg/g以上含有されていることを特徴とする請求項1記載の無臭ニンニク。
【請求項4】
前記セレンは、120μg/g以上含有されていることを特徴とする請求項1記載の無臭ニンニク。
【請求項5】
前記セレンは、ガンマグルタミルメチルセレノシステインとして含有されていることを特徴とする請求項1記載の無臭ニンニク。
【請求項6】
培地に無機セレン化合物を散布し、
該無機セレン化合物を散布した培地に無臭ニンニクの種球根の一片を植えつけ、
該無臭ニンニクを育成することによりセレンを高濃度含有した無臭ニンニクを製造する方法。
【請求項7】
培地に無臭ニンニクの種球根の一片を植えつけ、
該無臭ニンニクが成育する過程において培地に無機セレン化合物を散布することにより、セレンを高濃度含有した無臭ニンニクを製造する方法。
【請求項8】
前記無機セレン化合物を散布する工程は、難溶性無機セレン化合物塩を用いて単回散布するを特徴とする請求項7記載のセレンを高濃度含有した無臭ニンニクを製造する方法。
【請求項9】
前記無機セレン化合物は、100mg/m〜1000mg/mの範囲で散布されることを特徴とする請求項6又は7記載のセレンを高濃度含有した無臭ニンニクを製造する方法。
【請求項10】
上記無臭ニンニクを他の物質と混合或いは製剤化して得られる製品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−191875(P2006−191875A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7936(P2005−7936)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】