説明

センサの検出出力の較正方法

【課題】センサ出力を複数項を持つ高次の補正式を用いて較正するセンサにおいて、補正式における各項の係数値の丸め誤差による出力への影響が少なくなるようにする。
【解決手段】
被測定対象の物理量の複数の相異なる量における、検出素子の各出力信号値をデータとして求める第1の工程と、第1工程で求めた測定データに基づいて、検出素子の出力信号を補正するための高次の補正式の各項の補正係数を算出する第2の工程と、第2の工程で算出された各項の補正係数を予め定められた有効桁数になるように有効桁数未満の値を四捨五入により有効桁数に丸める丸め処理を行い、この丸め処理済みの補正係数を補正式の補正係数に置換する第3の工程と、第3の工程で置換された補正係数のうち、最も高次の項の補正係数を除く他の補正係数の少なくとも1つについて補正係数を調整することによって、補正式の量子化誤差を小さくできるか否かを調べる第4の工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ出力の温度依存性や非線形性を補正するセンサ出力の較正技術に関する。
【背景技術】
【0002】
センサは測定対象の物理量に応じた電気信号を検出出力として発生する。センサには各種のものがある。例えば、特開平6−294664号公報(文献1)の図6には容量センサの例が示されている。また、同文献の図7には抵抗センサの例が示されている。このようなセンサは温度の影響を受ける。そこで、予めセンサの温度特性を調べてこの温度特性を補償するための補正式を求め、センサの出力に補正値を掛けることによってセンサ出力を較正する。それによって、温度変化にかかわらず測定対象の物量が高精度で求められるようになる。また、センサが測定する物理量のレンジによって検出出力の変化の程度を異にする非線形特性を持つ場合がある。この場合も、予めセンサの検出出力の非線形特性を調べ、この非直線性を補償するための補正値を検出出力に掛けて較正することで物理量のレンジにかかわらず測定対象を高精度で求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−294664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
センサの検出出力の較正には、高次式を用いる場合が多い。その各項の係数は近似的に求められるが、各係数の有効桁数は演算処理部の分解能や記憶部の容量によって制限があるので有効桁数以下の数値に対して四捨五入を行っている。この数値の丸め処理によって量子化誤差が発生する。
【0005】
しかしながら、高次式の各項の係数間で四捨五入による丸め処理の時に、切り捨て若しくは切り上げのどちらかに偏ると量子化誤差が拡大して測定精度が低下する。すなわち、切り捨てが偏ると物量センサの較正値は、実際に必要な較正値よりも過小となる。切り上げが偏るとセンサの較正値は実際に必要な較正値よりも過大となる。
【0006】
よって、本発明はセンサ出力を複数項を持つ高次の補正式を用いて較正するセンサにおいて、補正式における各項係数の丸め誤差による較正出力への影響が少なくなるセンサ出力の較正方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成する本発明の一態様は、被測定対象の物量を検出し、その物理量に応じた出力信号を出力する検出素子を有し、この検出素子の出力信号に対して高次の補正式による補正処理を施したうえで、この補正処理を施された検出素子の出力信号を検出信号として電気信号に変換し出力するセンサの検出出力の較正方法であって、被測定対象の物理量の複数の相異なる量における、上記検出素子の各出力信号値をデータとして求める第1の工程と、上記第1工程で求めた測定データに基づいて、上記検出素子の出力信号を補正するための高次の補正式の各項の補正係数を算出する第2の工程と、上記第2の工程で算出された各項の補正係数を予め定められた有効桁数になるように有効桁数未満の値を四捨五入により有効桁数に丸める丸め処理を行い、この丸め処理済みの補正係数を上記補正式の補正係数に置換する第3の工程と、上記第3の工程で置換された補正係数のうち、最も高次の項の補正係数を除く他の補正係数の少なくとも1つについて補正係数を調整することによって、上記補正式の量子化誤差を小さくできるか否かを調べる第4の工程と、上記第4の工程で補正係数を調整することによって、上記補正式の量子化誤差を小さくできる場合に、その補正係数を調整された補正係数に置換する第5の工程と、上記第5の工程で得られた補正式を上記センサの検出素子の出力信号に対して補正演算を行う補正式として決定する第6の工程と、を有する。
【0008】
かかる構成によれば、第1乃至第3の工程で補正式の係数を設定した後、更に第4の工程で補正式の各項の係数を調整することで量子化誤差を軽減するので補正式の精度を高めることが可能となる。
【0009】
望ましくは、上記第3の工程において上記補正式の最も高次の補正係数を調整し、上記第4の工程において、上記補正式の2番目に高次の補正係数から0次の補正係数に対して、次数の降順に各補正係数を調整することによって、上記補正式の量子化誤差を小さくできるか否かを順次調べる。
【0010】
それにより、補正式の量子化誤差は高次の補正係数ほど大きく影響するので、高次の補正係数から次数の降順に各補正係数を調整することで、量子化誤差を効率的に低減する効果が得られる。
【0011】
望ましくは、更に、上記第3の工程に後続して、当該第3の工程で得られた補正式の近似直線を求め、この近似直線と予め設定された上記センサの理想的な出力特性を示す出力特性直線との差を各測定ポイント毎に算出する第7の工程を有し、上記第4の工程において、上記第7の工程で算出した上記出力特性直線との各測定ポイントにおける差に基づいて上記補正式の1次以上の項の補正係数を調整することによって、上記補正式の量子化誤差を小さくできるか否かを調べる。
【0012】
それにより、上記補正式の1次以上の項の補正係数に対して、補正係数を調整することによって上記補正式の量子化誤差を小さくできるか否かを調べる際に、第7の工程で算出した出力特性直線との各測定ポイント毎の差が小さくできるように調整すれば量子化誤差を小さくできるので、正しい補正係数の調整の方向(増減)や量が簡単に決められ、補正係数の調整が容易になる。
【0013】
望ましくは、上記第4の工程において、上記補正式の1次以上の項の補正係数に対して補正係数の調整が終了した後、上記1次以上の項の補正係数の調整が終了した補正式と上記センサの検出出力の理想的出力特性直線との差に基づいて上記1次以上の項の補正係数の調整が終了した補正式での0次の補正係数の調整を行う。
【0014】
それにより、1次以上の項の補正係数の調整が終了することによって量子化誤差の改善が終了し、残るのは理想的な出力特性直線との全体的なずれなので、そのずれ量が最小になるように0次の補正係数(オフセット補正係数)をきめるのに、1次以上の項の補正係数の調整が終了した補正式と、センサの検出出力の理想的出力特性直線との差に基づけば容易に適切な値が求められる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、センサの出力を複数項を持つ補正式によって較正する場合、補正式の各項の係数値の決定に際して、回帰分析などによって補正式の各項の係数値を一旦決定した後、更に、目標値と補正出力との誤差が減少するように補正式のいずれかの項の係数を調整する。好ましくは、項の係数の調整は次数の高い項から低い項に向かって行う。このようにすることによって、補正式の係数値の丸め誤差による影響が可及的に少ない較正が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】物理量センサ装置の構成例(圧力センサ)を説明する説明図である。
【図2】物理量センサの出力の較正例を説明する説明図である。
【図3】実施例の補正式の各項の係数を較正する例を説明するフローチャートである。
【図4】補正式による補正計算値と補正式の係数を丸め処理した場合の補正計算値の各誤差を説明するグラフである。
【図5】補正式のゲイン調整における誤差傾向(直線近似)を説明するグラフである。
【図6】オフセット調整例における誤差特性を説明するグラフである。
【図7】比較例を説明するフローチャートである。
【図8】比較例の較正と実施例の較正との精度を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。まず、図1及び図2を参照して物理量のセンサ装置の構成について説明する。
同図は物理量として圧力を検出する圧力センサの構成例を示している。圧力センサは、大別して圧力センサ部10と補正回路部20によって構成されている。この例では圧力センサ部10は抵抗R1〜R4の抵抗ブリッジによって構成されている。抵抗R1〜R4のうちいずれか(又は全部)がセンサとして、図示しない圧力によって変位するダイヤフラムに取り付けられている。抵抗は温度係数が0でないため、出力電圧の感度が温度によって変化する。このブリッジの上下端子間には所定の電圧(+5[V],GND)が印加され、ブリッジの左右端子間にはセンサ出力が得られる。このセンサの入出力特性が非線形である場合、必要な精度を得るために補正回路部(ASIC)20によって入出力特性が直線的になるように補正する。
【0018】
補正回路20は、圧力センサの起電力を増幅するプリゲインアンプ21、レベル増幅されたセンサ出力をデジタル化するA/D変換器22、デジタル化されたセンサ出力を所定の補正式で補正する補正計算部23等によって構成される。補正回路部20の機能はマイクロプロセッサ(ASIC)によって実現される。
【0019】
図2は、各部の入出力特性を示している。例えば、図2(A)に示すように、圧力センサ部10の出力yが、y=ax2+bx+cで表される場合、圧力センサ部10の出力yはプリゲインアンプ21で増幅され、A/D変換器22でデジタル化されて図2(B)に示すように、y=a’x2+b’x+c’となって補正計算部23に入力される。補正計算部23では、例えば、図2(C)に示すように、センサのデジタル出力y=a’x2+b’x+c’(補正前デジタル出力)を補正式y’によって補正して入出力特性を直線化する。例えば、y=a’x2+b’x+c’の直線化に適当な平方根特性(y’=dx1/2+ex+f)を2次式で近似したy’=gx2+hx+i を補正式とする。なお、補正式は種々用意され、より高次式のy’=lx3+mx2+nx+o 等の式であってもよい。ここで、a,b,c,a’,b',c’,d,e,f,h,i,l,m,n,oは係数である。
【0020】
更に、補正前デジタル出力の入出力特性(図2(B))に対して相補的な入出力特性を持つ補正式(図2(C))によってデジタル出力を補正すると、図2(D)に示すように入出力特性がY=jxで表される直線的な圧力出力をなすセンサ装置が得られる。ここで、jは係数である。
このようにしてセンサ出力の較正が行われ、センサに印加される圧力レベルに応じて出力レベルが直線的に変化する圧力センサ装置が得られる。
【0021】
次に、図3のフローチャートを参照して補正計算部20における補正式の係数値の設定の工程について説明する。図3には、説明の便宜のため請求項に対応して工程番号が付されている。各手順における実行の主体は特に矛盾しない限り、オペレータによって操作されるパーソナルコンピュータ(あるいはマイクロプロセッサ)であるが、これに限定されるものではなく、センサ装置内蔵のASICやプロセスのコンピュータなどで実行することも可能である。また、コンピュータシミュレーション上で各手順を実行して補正式の各計数値を検討しても良い。
【0022】
(工程1:補正前のセンサ出力を測定する。;ステップS12)
センサの補正式の係数を補正する前にセンサの出力測定を行う。例えば、6個のセンサ出力を目標値の数値(0、20、40、60、80、100)に補正する例について説明する。説明の便宜のため、既述補正式y’をy=ax2+bx+cとする。
【0023】
【表1】

【0024】
まず、表1に示すように、各目標値に対応して6個のセンサ出力が測定される。センサ出力には、センサ部10の生の出力に対して補正回路部(ASIC)20の設定で増幅されデジタル化されたデジタル出力が測定される。この時点では、補正式の係数にはデフォルト値が入っている。
【0025】
(工程2:測定データより補正係数を算出する;ステップS14)
次に、測定データから補正係数を算出する。まず、上記測定結果(図4)より、センサ出力を2次曲線に近似する。補正式をy=ax2+bx+cとすると、補正係数は下記表2となる。補正係数は、工程1の出力結果をもとに最小二乗法と回帰分析等を用いてパーソナルコンピュータ(PC)のプログラム等で計算されている。PCは適当と判断した複数の補正係数a,b,cを出力する。
【0026】
(工程3:分解能に応じて補正係数を4捨5入する。;ステップS16)
各補正係数は補正回路20のROM(ASIC)等に所定のビット数(分解能)で書き込むためにある桁数で4捨5入される。この例では、5桁である。この結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
上記の計算結果の値をそのまま補正係数として使用した場合の計算結果のフルスケール誤差と、計算結果の値を丸め処理した値を補正係数として使用した場合の計算結果のフルスケール誤差を表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
表3において、計算値欄の補正出力は補正式y(丸めなし)による計算結果を示す。差[%FS]はフルスケール誤差を表しており、(補正出力−目標値)/(フルスケール100)×100%で表される。分解能(丸め)欄の補正出力は計数値の丸めありによる補正式yの計算結果を示す。分解能(丸め)欄の差[%FS]はフルスケール誤差を表しており、(丸め係数使用の補正出力−目標値)/(フルスケール100)×100%で表される。
【0031】
図4は、上記表3の目標値に対する計算値のフルスケール誤差と所定の分解能(丸め)である補正係数のフルスケール誤差を示すグラフである。同グラフに示されるように、出力が大きくなる程分解能の丸め誤差のため精度が悪くなっている。今回補正係数は、a=0.01116→0.0112で切り上げられている。また、b=33.6725→33.673でどちらの係数値も切り上げられている。その為、出力が大きくなる程補正結果が大きくなってしまう結果となっている。
なお、上記の結果は、既述した本願の「発明が解決しようとする課題」に相当する。
【0032】
(工程4:ゲインの補正係数を更に調整する。)
次に、本実施例においては、上述したゲインの補正を行う補正係数を求めて丸める処理に加えて、更に、補正係数のチューニングを行う。チューニングには、例えば、求めた補正係数から補正出力を計算し、その結果(例えば、フルスケール誤差特性)の近似直線を求め、係数選定の判定に利用する。
(工程4に含まれる工程7:ステップS18,S20)
工程7では、丸められた補正係数の少なくとも1つについて補正係数を調整することによって量子化誤差を小さくできるか否かを調べる。
【0033】
例えば、上記第1回目の補正係数(表2)を計算する回帰分析のアルゴリズムでは、第1番に高い次数の項の係数aについて最適化されるように計算される場合が多いので、表4に示すように第2番目の次数の項の補正係数bを最適化することを考える。
【表4】

【0034】
表4に示す、分解能、調整1、調整2の補正係数によって補正出力及び%誤差を計算する(ステップS18)。この結果を表5に示す。
【表5】

表5における近似直線ゲインは、当該出力におけるフルスケール誤差を直線近似した場合の直線の傾きを示している。
【0035】
図5は、表5の目標値に対する各調整出力のフルスケール誤差のグラフと、フルスケール誤差のグラフを直線近似した近似直線を示している。同図の横軸が出力の目標値、縦軸がフルスケール誤差[%FS]を表している。図中、分解能出力は実線で示されている。調整1出力は一点鎖線で示されている。調整出力2は二点鎖線で示されている。
【0036】
図5は、求めた補正係数を使用して、測定したセンサの生データの補正結果を計算し補正結果を評価するために、補正結果から出力目標値を引いた差の近似直線を求めたものである。これは、補正結果の近似直線を求め目標出力直線(グラフの横軸)とのゲインの差を求めると同じである(ステップS20)。
分解能出力と目標出力の差の近似直線は下記式(1)となる。
y= 0.000466201287 x + 0.000451155942 ……(1)
【0037】
(工程4:ゲインを増減して調整する。;ステップ22)
(1)式でゲインが「0.000466…」とプラスであるので補正係数bを一つ小さくする(調整1)。
b=33.673 → 33.672 に調整する(表4の調整1の欄参照)。
調整した補正係数33.672を使用して測定したセンサの生データを用いて補正出力を計算する(表5の調整1出力の欄参照)。この補正結果を評価するために、補正結果から出力目標値を引いた差の近似直線(%誤差の近似直線)を求める。
調整1の出力と目標出力の差の近似直線(図5中の一点鎖線)は下記式となる。
y= -0.000126290141 x − 0.001205257391 ……(2)
【0038】
(工程4:ゲインの差を比較する。;ステップS24)
(2)式でゲインが「-0.0001262…」とマイナスであるので(1)式と(2)式のゲインの絶対値をとって目標値との差の大小を判断する。
0.000126…<0.000466…
となり調整1の補正係数の方が目標値に近づいていることが確認できる。分解能出力の方が差が大きく、調整1の補正係数の方が差が小さくなっている場合には、調整2の補正係数によって更に差が小さくなることが考えられる(ステップS24;No)。そこで、ステップS22及びS24を繰り返し、補正係数bのチューニングを行う。
【0039】
(工程4:更にゲインを増減して調整する。;ステップ22)
(2)式でゲインが「-0.0001262…」とマイナスであるが、次の調整でゲインの差が大きくなるか確認するために b=33.672 → 33.671 に調整する(表4の調整2の欄参照)。
調整した補正係数を使用して、測定したセンサの生データの補正出力を計算する。補正結果を評価するために、補正結果から出力目標値を引いた差の近似直線を求める。
調整2の出力と目標出力の差の近似直線(図5中の二点鎖線)は下記式となる
y= -0.000718781570 x - 0.002861670724 ……(3)
(3)式でゲインが「-0.00071878…」となる(2)式と(3)式のゲインの絶対値をとって目標値との差の大小を判断する。
0.000126…<0.00071878…
となり調整1の補正係数bの方が差が小さく、調整2の補正係数bの方が差が大きくなっていることが確認される(ステップS24;Yes)。
【0040】
(工程5:ゲインの差が一番小さい補正係数を選択する。;S26)
このように、目標値との誤差がより少ない調整1の補正係数値bを選択することによって精度のよい補正式を形成することができる(ステップS26)。
上記実施例では、絶対値でゲインの大きさを比較する方法を採用したためゲインの差が少ない状態から大きくなるまで(ゲインの差が最も小さい状態を判別できるように)計算する必要があるが、ゲインの符号と大きさを利用して判断しても良い。この場合は、判断基準が増えるが計算が1回少なくて済む。
【0041】
(工程4:オフセットの補正係数を調整する。;S28−S36)
ゲインの調整が終わったので、引き続きオフセットの調整(ゼロ調整)を行う。
オフセットは、最少二乗法で誤差が最少となるオフセット値に調整を行う。
最初に、選択した補正係数を設定した補正式により計算した補正出力と目標値の差の総和を求め、オフセットを正負のどちらに調整するか求め、その後、差の2乗が最少となるオフセット調整を行う。オフセット調整(オフ調整1〜3)の係数値cの例を表6に示す。
【表6】

【0042】
(工程4:補正出力と目標出力の差の2乗合計を求める。)
係数bにゲイン(G)調整した係数値を使用した「G調整1」の欄の各補正係数を使用して生データによる補正出力を計算する。目標値との差と、差の2乗合計を求める。この例を表7に示す(ステップS28)。
【0043】
【表7】

【0044】
次に、オフセットの移動方向を求める。表6に示すように、「G調整1」:a=0.0112 / b==33.672 / c=-75.770 では、差の和=「-0.0098836」、差の2乗和=「0.0000212」となり、差の和がマイナスであるのでオフセットをプラス方向にする調整を行う(ステップS30)。
【0045】
(工程4:オフセット調整1)
表6のゼロ調整1の欄に示すように、補正式の係数c=-75.770 → -75.769 に調整して生データにより補正計算を行う。
同様に、G調整1による補正結果を計算し目標値との差と、差の2乗合計を求める(ステップS32)。この結果を表8に示す。
【0046】
【表8】

【0047】
上記計算結果において、ゼロ調整1では、差の和=「-0.0038836…」、差の2乗和=「0.0000074…」となり、前回の差の和と2乗和を比較すると、
0.0000074…<0.0000212…
となりオフセット調整1の方が2乗和の差が小さくなり目標値に近くなっている(ステップS34;No)。
【0048】
(工程4:オフセット調整2)
更に、オフセット調整2を行う。係数c=-75.769 → -75.768 に調整して(表6参照)、生データにより補正計算を行う。オフセット調整2による補正出力と目標値との差と、差の2乗合計を求める。表8のオフセット調整2の欄に示されるように、差の和=「0.0021163…」、差の2乗和=「0.00000563…」となる。これを前回の差の2乗和と比較すると、
0.00000563…<0.0000074…
であり、オフセット調整2の方が2乗和の差が小さくなり目標値に近くなっている(ステップS34;No)。
【0049】
(工程4:オフセット調整3)
更に、ゼロ調整3を行う。係数c=-75.768 → -75.767 に調整して(表6参照)、生データにより補正計算を行う。オフセット調整3による補正出力と目標値との差と、差の2乗合計を求める(ステップS32)。
差の和=「0.0081163…」、差の2乗和=「0.00001586…」となる。これを前回の差の2乗和と比較すると、
0.00000563…<0.00001586…
でオフセット調整3の方が2乗和の差が大きくなるので(ステップS34;Yes)、オフセット調整2が一番目標直線に近くなっていることが確認された。
このようにオフセット調整を繰り返して誤差が最小となる係数cを求める(ステップS32,S34)。
【0050】
図6に、各オフセット調整を行った場合の出力対誤差特性のグラフを示す。
補正計算の結果、同グラフのように、オフセット調整2が一番目標値との差の2乗が少なくなり係数の丸めを行わない計算値の結果に一番近い形となった。このような調整を行った結果、補正係数は「a=0.0112」、「B=33.672」、「c=-75.768」となった。これ等の各計数値は補正回路部(ASIC)20内のROMに書き込まれる(ステップS38)。
【0051】
以上説明したように、実施例の方法で調整を行うことにより、補正係数が同じ分解能でもより目標値に近い補正が行えることが確認された。
実施例の較正方法は、補正係数を調整することで分解能による量子化の誤差を修正し、ゲインとオフセットの調整に近似直線を用いることにより補正係数の精度を上げる。
【0052】
(比較例)
図7は、比較例による補正係数の構成例を示しすフローチャートである。同図のステップS52〜S56は上述した実施例のステップS12〜S16に対応している。また、ステップS58はステップS38に対応している。比較例における較正は実施例のステップS12〜S16の較正、ステップS3の係数データの書込と同じであるのでその説明を省略する。
【0053】
また、図8は、実施例の較正(オフセット調整2の例)による誤差特性と比較例の較正による誤差特性とを示す。図8示されるように、比較例のグラフ(回帰分析によって得られた各係数値を丸めた例、図4参照)に比べて実施例のグラフは誤差(目標値との差)が減少している。また、図4に示す補正計算式の丸めを行わない場合のグラフに近いものとなっている。
このように、本発明の構成方法によれば、量子化誤差を軽減した計算結果を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の較正方法によれば、補正式における係数の丸め誤差を可及的に減少することが出来るので、センサ本体と補正回路とを組み合わせた形式の物理量センサ装置における入力対出力特性の直線性をより改善することが可能となって好都合である。実施例では、物理量センサとして圧力センサの例を示したが、これに限定されるものではなく、温度センサ、電流センサ、電圧センサ、流量センサ、熱量センサ等の各種の物理量センサに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 圧力センサ部、20 補正回路部、21 プリゲインアンプ、22 A/D変換器、23 補正計算部(マイクロプロセッサ,ASIC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象の物量を検出し、その物理量に応じた出力信号を出力する検出素子を有し、この検出素子の出力信号に対して高次の補正式による補正処理を施したうえで、この補正処理を施された検出素子の出力信号を検出信号として電気信号に変換し出力するセンサの検出出力の較正方法であって、
被測定対象の物理量の複数の相異なる量における、前記検出素子の各出力信号値をデータとして求める第1の工程と、
前記第1工程で求めた測定データに基づいて、前記検出素子の出力信号を補正するための高次の補正式の各項の補正係数を算出する第2の工程と、
前記第2の工程で算出された各項の補正係数を予め定められた有効桁数になるように有効桁数未満の値を四捨五入により有効桁数に丸める丸め処理を行い、この丸め処理済みの補正係数を前記補正式の補正係数に置換する第3の工程と、
前記第3の工程で置換された補正係数のうち、最も高次の項の補正係数を除く他の補正係数の少なくとも1つについて補正係数を調整することによって、前記補正式の量子化誤差を小さくできるか否かを調べる第4の工程と、
前記第4の工程で補正係数を調整することによって、前記補正式の量子化誤差を小さくできる場合に、その補正係数を調整された補正係数に置換する第5の工程と、
前記第5の工程で得られた補正式を前記センサの検出素子の出力信号に対して補正演算を行う補正式として決定する第6の工程と、
を有することを特徴とするセンサの検出出力較正方法。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサの検出出力の較正方法であって、
前記第4の工程において、前記補正式の2番目に高次の補正係数から0次の補正係数に対して、次の降順に各補正係数を調整することによって、前記補正式の量子化誤差を小さくできるか否かを順次調べる、ことを特徴とするセンサ出力の検出出力の較正方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセンサの検出出力の較正方法であって、
更に、前記第3の工程に後続して、当該第3の工程で得られた補正式の近似直線を求め、この近似直線と予め設定された前記センサの理想的な出力特性を示す出力特性直線との差を各測定ポイント毎に算出する第7の工程を有し、
前記第4の工程において、前記第7の工程で算出した前記出力特性直線との各測定ポイントにおける差に基づいて前記補正式の1次以上の項の補正係数を調整することによって、前記補正式の量子化誤差を小さくできるか否かを調べる、ことを特徴とするセンサの検出出力の較正方法。
【請求項4】
請求項3に記載のセンサの検出出力の較正方法であって、
前記第4の工程において、補正式の1次以上の項の補正係数に対して補正係数の調整が終了した後、前記1次以上の項の補正係数の調整が終了した補正式と前記センサの検出出力の理想的出力特性直線との差に基づいて前記1次以上の項の補正係数の調整が終了した補正式での0次の補正係数の調整を行う、ことを特徴とするセンサの検出出力の較正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−101027(P2013−101027A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244400(P2011−244400)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】