説明

センサ装置

【課題】電極が本来意図していない方向に湾曲することに起因して、感度がばらつくのを抑制することが可能なセンサ装置を提供する。
【解決手段】このサーモセンサ100(センサ装置)は、熱膨張率の異なる複数の層を有し、一方端側が絶縁膜23に支持されているカンチレバー電極24と、カンチレバー電極24に対向するように配置される下部電極22とを含み、カンチレバー電極24から延びる方向であるX方向と交差するY方向を軸にして、カンチレバー電極24が下部電極22と離間する方向に湾曲することによって熱を測定することにより電子を供給する電荷供給部28を備え、カンチレバー電極24の表面上には、カンチレバー電極24がY方向とは異なる方向を軸にして湾曲するのを抑制するための湾曲抑制部材27が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ装置に関し、特に、一対の電極を備えるセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の電極を備えるセンサ装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、線膨張係数(熱膨張率)の異なる2種類の金属電極が積層された板状電極と、板状電極と対向するように配置される対向電極と、板状電極を支持する支持部とを備える赤外線センサ(センサ装置)が開示されている。上記特許文献1に開示されたセンサ装置では、板状電極が熱(赤外線)を検知した場合、板状電極の2種類の金属電極の線膨張係数が異なることにより、板状電極が支持部から延びる方向と交差する方向を軸にして、かつ、対向電極から離れる方向に湾曲する。これにより、板状電極と対向電極との間の静電容量が変化する。そして、この静電容量の変化を検知することにより、熱が検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3229984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された赤外線センサでは、板状電極が対向電極から離れる方向に湾曲するのとは別に、たとえば板状電極が支持部から延びる方向を軸にして、本来意図していない方向に湾曲する(反る)場合があると考えられる。このため、赤外線センサが複数の板状電極を有する場合には、板状電極毎に本来意図していない方向への湾曲量が異なって、板状電極毎の感度が異なる場合があるという不都合がある。また、赤外線センサが1つの板状電極を有する場合でも、赤外線センサ毎の板状電極の本来意図していない方向への湾曲量が異なって、赤外線センサ毎の感度が異なる場合があるという不都合がある。このように、電極が本来意図していない方向に湾曲することに起因して、感度がばらつくという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、電極が本来意図していない方向に湾曲することに起因して、感度がばらつくのを抑制することが可能なセンサ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるセンサ装置は、熱膨張率の異なる複数の層を有し、一方端側が支持部に支持されている第1電極と、第1電極に対向するように配置される第2電極とを含み、第1電極が支持部から延びる方向である第1の方向と交差する第2の方向を軸にして、第1電極が第2電極と離間する方向に湾曲することによって測定対象を測定することにより信号電荷を供給する電荷供給部を備え、第1電極の表面上には、第1電極が第2の方向とは異なる方向を軸にして湾曲するのを抑制するための湾曲抑制部材が設けられている。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成により、電極が本来意図していない方向に湾曲することに起因して、感度がばらつくのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態によるサーモセンサの平面図である。
【図2】図1の200−200線に沿った断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態によるサーモセンサのカンチレバー電極の平面図である。
【図4】本発明の第1実施形態によるサーモセンサのカンチレバー電極が湾曲した状態を示す図である。
【図5】比較例によるサーモセンサのカンチレバー電極の断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態によるカンチレバー電極の下部電極側への湾曲について行ったシミュレーションの結果を示す図である。
【図7】本発明の第1実施形態によるカンチレバー電極の静電容量の温度変化について行ったシミュレーションの結果を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態によるサーモセンサのカンチレバー電極の平面図である。
【図9】図8の300−300線に沿った断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態によるカンチレバー電極の平面図である。
【図11】図10の400−400線に沿った断面図である。
【図12】本発明の第1〜第3実施形態の第1変形例によるカンチレバー電極の平面図である。
【図13】本発明の第1〜第3実施形態の第2変形例によるカンチレバー電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1〜図3を参照して、本発明の第1実施形態による熱(赤外線)を検知するサーモセンサ100の構成について説明する。なお、第1実施形態では、本発明のセンサ装置をサーモセンサ100に適用した例について説明する。
【0012】
図1に示すように、サーモセンサ100は、マトリクス状(行列状)に配置された複数のサーモセンサ部1を備えている。また、サーモセンサ100は、静電容量の変化を測定するための読出し用のトランジスタおよび蓄積した電荷を逃がすためのリセット用のトランジスタを少なくとも有している。たとえば、図2に示すように、サーモセンサ部1では、n型シリコン基板2の表面上に形成されたp型ウェル領域3の表面に、各サーモセンサ部1をそれぞれ分離するための素子分離領域4が形成されている。また、p型ウェル領域3の表面には、素子分離領域4に隣接するように、n型の不純物領域からなるn型ウェル領域5が形成されている。n型ウェル領域5の表面の後述する接続配線11と接触する領域には、n型ウェル領域5の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有するn拡散層6が形成されている。n拡散層6は、n型ウェル領域5と接続配線11とのコンタクト抵抗を小さくする機能を有する。
【0013】
n型ウェル領域5の表面には、n拡散層6の周囲を取り囲むように、p拡散層7が形成されている。p拡散層7は、n型シリコン基板2の表面近傍の界面準位において発生した暗電流(ノイズ)を捕獲して、暗電流の発生を抑制する機能を有する。また、p型ウェル領域3の表面には、n型ウェル領域5と所定の間隔を隔ててn型不純物領域8が形成されている。
【0014】
n型シリコン基板2の表面上には、n型シリコン基板2の表面を熱酸化することにより形成されたシリコン熱酸化膜(SiO膜)からなる絶縁膜9が形成されている。絶縁膜9の表面上のn型ウェル領域5とn型不純物領域8との間に対応する領域には、転送ゲート電極10が形成されている。そして、n型ウェル領域5、n型不純物領域8および転送ゲート電極10により、読出し用のnチャネルトランジスタが形成されている。なお、図示しないリセット用のトランジスタもnチャネルトランジスタにより形成されている。
【0015】
拡散層6の表面上には、金属層からなる接続配線11が形成されている。また、絶縁膜9の表面上には、絶縁膜12を介して3層の配線層13が形成されている。また、配線層13の表面上には、絶縁膜12を介して金属層からなる遮光層14が形成されている。
【0016】
また、遮光層14(n型シリコン基板2)の表面上の全面を覆うように、シリコン窒化膜(SiN)などからなる絶縁膜15が形成されている。なお、接続配線11は、絶縁膜12および絶縁膜15にそれぞれ設けられるコンタクトホール12aおよび15aを介して、絶縁膜15の表面に露出するように形成されている。また、絶縁膜15の表面上には、接続配線11と接続するようにパッド層21が形成されている。また、絶縁膜15の表面上には、後述する上部電極25と対向するように、パッド層21と同一の層からなる下部電極22が形成されている。なお、パッド層21と下部電極22とは、ニッケル(Ni)などの金属からなる。また、下部電極22には、電圧が印加されるように構成されている。なお、下部電極22は、本発明の「第2電極」の一例である。
【0017】
また、絶縁膜15およびパッド層21の表面上には、シリコン酸化膜(SiO)などからなる絶縁膜23が形成されている。絶縁膜23は、約500nm(約0.5μm)以上約2μm以下の厚みを有する。なお、絶縁膜23は、本発明の「支持部」の一例である。また、絶縁膜23に形成されるコンタクトホール23aを介して、パッド層21と接続するように、カンチレバー電極24が形成されている。なお、カンチレバー電極24は、本発明の「第1電極」の一例である。カンチレバー電極24は、Niなどの金属からなる上部電極25と、シリコン窒化膜(SiN)などからなる絶縁膜26とが積層された熱膨張率の異なる2つの層から構成されている。なお、絶縁膜26の熱膨張率は、上部電極25の熱膨張率よりも小さい。また、SiNなどからなる絶縁膜26は、赤外線を吸収する機能を有する。これにより、外部の熱が絶縁膜26を介して上部電極25に伝達されやすくなる。なお、カンチレバー電極24と下部電極22とによって、電荷供給部28が構成されている。
【0018】
図3に示すように、カンチレバー電極24は、平面的に見て、n型シリコン基板2の表面に沿った水平方向(X方向)に延びるように形成される一対の湾曲部241と、一対の湾曲部241に挟まれるように配置され、平面的に見て略矩形形状を有する受光部242とを有する。なお、受光部242は、本発明の「センサ部」の一例である。なお、図1および図2に示すように、湾曲部241は、隣接する2つのサーモセンサ部1の一方の上方に配置されるとともに、受光部242は、他方の上方に配置されている。
【0019】
また、図2に示すように、湾曲部241の上部電極25の厚みt1は、約50nm以上150nm以下である。また、湾曲部241の絶縁膜26の厚みt2は、約30nm以上約70nm以下である。そして、図4に示すように、湾曲部241の温度が上昇することにより、湾曲部241が絶縁膜23から延びる方向であるX方向に直交する水平面内のY方向を軸にして、湾曲部241が下部電極22と離間する方向(矢印Z1方向)に湾曲するように構成されている。なお、X方向は、本発明の「第1の方向」の一例であるとともに、Y方向は、本発明の「第2の方向」の一例である。
【0020】
また、図2に示すように、受光部242の上部電極25の厚みt3は、湾曲部241と同様に約50nm以上150nm以下である。ここで、第1実施形態では、受光部242の上部電極25の表面上には、受光部242の絶縁膜26の厚みt4を、湾曲部241の絶縁膜26の厚みt2よりも大きい約1μmにすることにより形成された湾曲抑制部材27が設けられている。湾曲抑制部材27は、X方向(上部電極25が絶縁膜23から延びる方向)を軸(直線A:図3参照)にして、受光部242が本来意図していない方向(たとえばZ方向)に湾曲するのを抑制する機能を有する。また、図3に示すように、湾曲抑制部材27は、平面的に見て、受光部242の略全域にわたって形成されている。つまり、湾曲抑制部材27は、受光部242のY方向に沿った方向の一方端側(矢印Y1方向側)から他方端側(矢印Y2方向側)にわたって形成されている。
【0021】
また、図3に示すように、受光部242の上部電極25には、スリット25aがX方向に延びるように、かつ、複数設けられている。また、受光部242の湾曲抑制部材27(絶縁膜26)にも、上部電極25のスリット25aに対応する領域にスリット27aが設けられている。つまり、受光部242には、スリット25aおよびスリット27aからなる貫通孔が形成されている。
【0022】
次に、図2および図4を参照して、サーモセンサ部1が熱を検知する動作について説明する。
【0023】
まず、図2に示す状態において、上部電極25と下部電極22との間に、所定の電位差を生じさせる。たとえば、上部電極25と下部電極22との間に、約3Vの電位差を生じさせる。その結果、上部電極25には、約3Vの電位差に対応する電子が蓄積される。
【0024】
次に、カンチレバー電極24が熱を検知する。これにより、カンチレバー電極24の温度が上昇した場合、図4に示すように、上部電極25と絶縁膜26との熱膨張率が異なることに起因して、カンチレバー電極24が上方(矢印Z1方向)に向かって徐々に湾曲する。その結果、上部電極25と下部電極22との間の静電容量が減少する。これにより、上部電極25に蓄積される電子の量が減少し、余剰となった電子が、上部電極25から、接続配線11、n拡散層6を介してn型ウェル領域5に供給される。そして、転送ゲート電極10をオン状態にして、n型ウェル領域5に蓄積された電子をn型不純物領域8に読み出して、電流値として検出することにより、熱を検知する。
【0025】
次に、図5〜図7を参照して、受光部242の本来意図していない方向への湾曲について行ったシミュレーションについて説明する。
【0026】
まず、比較例による電荷供給部128のカンチレバー電極124の構成について説明する。カンチレバー電極124は、図5に示すように、上記第1実施形態のカンチレバー電極24と同様に、Niなどの金属からなる上部電極25と、SiNなどからなる絶縁膜126とが積層された熱膨張率の異なる2つの層から構成されている。一方、カンチレバー電極124は、上記受光部242の表面上に湾曲抑制部材27が形成されていた第1実施形態と異なり、湾曲抑制部材27は形成されていない。つまり、湾曲部141の絶縁膜126の厚みt2と、受光部142の絶縁膜126の厚みt5とは等しい。
【0027】
図6を参照して、第1実施形態によるカンチレバー電極24の温度を25℃にした場合についての受光部242の先端部242aの湾曲について行ったシミュレーションの結果について説明する。なお、受光部242の先端部242aとは、図3に示す受光部242の矢印X1方向側の端辺を意味する。また、図6のx軸は、先端部242aのY方向に沿った方向の中心点(図3に示すB点)からのY方向に沿った距離を示しているとともに、y軸は、受光部242の湾曲量を示している。
【0028】
図6に示すように、受光部242の湾曲量は、先端部242aのY方向に沿った方向の中心点(図3に示すB点、図6のx軸の0点)から矢印Y1方向および矢印Y2方向に遠ざかるにしたがって大きくなることが判明した。そして、第1実施形態による受光部242は、Y方向に沿った方向の中心点に対して最大で約0.09μmZ方向に湾曲することが判明した。一方、比較例による受光部142は、Y方向に沿った方向の中心点に対して最大で約0.21μmZ方向に湾曲することが判明した。つまり、湾曲抑制部材27を設けることにより、本来意図していない方向(カンチレバー電極24が延びるX方向を軸にしたZ方向)への湾曲量が小さくなることが確認された。
【0029】
次に、図7を参照して、カンチレバー電極24(124)の温度を変化させた場合の電荷供給部28(128)の静電容量の変化率について行ったシミュレーションについて説明する。なお、図7のx軸は、基準温度(25℃)からの温度の変化量を示すとともに、y軸は、第1実施形態による電荷供給部28の静電容量の変化率から、比較例による電荷供給部128の静電容量の変化率を差分した変化率を示している。
【0030】
図7に示すように、第1実施形態による電荷供給部28の静電容量の変化率から比較例による電荷供給部128の静電容量の変化率を差分した変化率は、基準温度(25℃)からカンチレバー電極24の温度を上昇させた場合、正の値になることが判明した。たとえば、基準温度からカンチレバー電極24の温度を5℃上昇させた(つまりカンチレバー電極24の温度を30℃にした)場合では、比較例による電荷供給部128の静電容量の変化率よりも、第1実施形態の電荷供給部28の静電容量の変化率の方が2%高くなることが判明した。つまり、第1実施形態による電荷供給部28の静電容量の変化率は、比較例の電荷供給部128の静電容量の変化率よりも大きくなることが判明した。すなわち、第1実施形態による電荷供給部28の感度は、比較例による電荷供給部128の感度よりも高くなることが確認された。また、第1実施形態による電荷供給部28の静電容量の変化率と比較例による電荷供給部128の静電容量の変化率との差は、カンチレバー電極24(124)の温度の上昇とともに徐々に増加することが確認された。
【0031】
第1実施形態によるサーモセンサ100では、以下の効果を得ることができる。
【0032】
(1)カンチレバー電極24の表面上に、カンチレバー電極24がY方向(カンチレバー電極24が絶縁膜23から延びる方向であるX方向と交差する方向)と異なる方向を軸にして湾曲するのを抑制するための湾曲抑制部材27を設けた。これにより、サーモセンサ100が複数のカンチレバー電極24を有する場合には、カンチレバー電極24が本来意図していない方向(カンチレバー電極24がX方向を軸にしてZ方向)に湾曲することに起因して、カンチレバー電極24毎の感度がばらつくのを抑制することができる。
【0033】
(2)カンチレバー電極24が熱を検知することによりY方向を軸にして湾曲する方向とは異なる本来意図していない方向(カンチレバー電極24がX方向を軸にしてZ方向)に湾曲する(反る)ことが抑制されるので、サーモセンサ100の感度が低下するのを抑制することができる。
【0034】
(3)湾曲抑制部材27を、カンチレバー電極24のY方向に沿った方向の一方端側から他方端側にわたって設けた。これにより、湾曲抑制部材27がカンチレバー電極24の湾曲(反り)を抑制する梁として機能するので、カンチレバー電極24が、X方向を軸にして本来意図していない方向(Z方向)に湾曲するのを抑制することができる。
【0035】
(4)カンチレバー電極24が、絶縁膜23に接続される湾曲部241と、湾曲部241の絶縁膜23とは反対側に設けられる受光部242とを含み、湾曲抑制部材27を、受光部242に設けた。これにより、カンチレバー電極24を構成する湾曲部241には、湾曲抑制部材27が設けられていないので、湾曲部241は、熱により湾曲する。その結果、受光部242と下部電極22との間の静電容量が変化する。そして、静電容量の変化を検知することにより、熱を検知することができる。また、湾曲抑制部材27を、受光部242に設けることにより、受光部242が熱を検知することにより湾曲する方向とは異なる本来意図していない方向(カンチレバー電極24がX方向を軸にしてZ方向)に湾曲する(反る)ことが抑制されるので、サーモセンサ100の感度が低下するのを抑制することができる。
【0036】
(5)湾曲部241および受光部242は、熱膨張率の異なる複数の層(上部電極25、絶縁膜26)を含み、受光部242の熱膨張率の小さい層(絶縁膜26)の厚みt4を、湾曲部241の熱膨張率の小さい層(絶縁膜26)の厚みt2よりも大きくすることにより湾曲抑制部材27を形成した。これにより、湾曲抑制部材27を別途設ける場合と異なり、湾曲抑制部材27を容易に形成することができる。
【0037】
(6)受光部242の熱膨張率の小さい層(絶縁膜26)の厚みt4を、湾曲部241の熱膨張率の小さい層(絶縁膜26)の厚みt2よりも大きくした。これにより、受光部242の熱膨張率の小さい層の厚みが湾曲部241の熱膨張率の小さい層の厚みと同じ場合と比べて、受光部242の熱膨張率の小さい層の厚みが大きい分、熱の吸収が大きくなるので、湾曲部241に熱をより伝達することができる。その結果、湾曲部241をより湾曲させることができるので、サーモセンサ100の感度を向上させることができる。
【0038】
(7)湾曲抑制部材27を、受光部242の略全域にわたって設けた。これにより、受光部242が本来意図していない方向に湾曲する(反る)のをより抑制することができるので、カンチレバー電極24毎の感度のばらつき、および、サーモセンサ100の感度の低下をより抑制することができる。
【0039】
(8)湾曲抑制部材27を、受光部242の略全域にわたって設けた。これにより、湾曲抑制部材27が受光部242の一部分に設けられる場合と比べて、受光部242の熱膨張率の小さい層の厚みが、湾曲部241の熱膨張率の小さい層の厚みよりも大きい領域が広くなるので、湾曲部241に熱をさらに伝達することができる。その結果、湾曲部241をさらに湾曲させることができるので、サーモセンサ100の感度をさらに向上させることができる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、図8および図9を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態では、上記湾曲抑制部材27が受光部242の矢印Y1方向側の端部から矢印Y2方向側の端部にわたって形成される第1実施形態と異なり、湾曲抑制部材37が受光部242の矢印Y1方向側の端部近傍から矢印Y2方向側の端部近傍にわたって形成される。
【0041】
図8および図9に示すように、本発明の第2実施形態によるカンチレバー電極34では、湾曲抑制部材37が受光部242の略全域に形成されている。また、湾曲抑制部材37では、絶縁膜23(図2参照)をエッチングによって除去する際に、SiNからなる湾曲抑制部材37の表面も部分的に除去されることにより、湾曲抑制部材37に形成されるスリット37aの面積は、上部電極25に形成されるスリット25aの面積よりも大きくなるように形成されている。これにより、上部電極25の表面積が大きくなる分、上部電極25の熱の変化による反応が敏感になる。また、湾曲抑制部材37は、受光部242の矢印Y1方向側の端部の内側から矢印Y2方向側の端部の内側にわたって形成される。なお、第2実施形態のその他の構成および効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0042】
(第3実施形態)
次に、図10および図11を参照して、第3実施形態について説明する。この第3実施形態では、上記湾曲抑制部材27、37が受光部242の略全域に形成されていた第1および第2実施形態と異なり、湾曲抑制部材47が受光部242に部分的に形成されている。
【0043】
図10および図11に示すように、第3実施形態によるカンチレバー電極34の湾曲抑制部材47は、受光部242の湾曲部241側の辺に沿って設けられている。また、湾曲抑制部材47は、受光部242の絶縁膜26の厚みt6を、湾曲部241の絶縁膜26の厚みt2よりも大きくすることにより形成されている。なお、第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0044】
第3実施形態によるサーモセンサ100では、以下の効果を得ることができる。
【0045】
(9)湾曲抑制部材47を、受光部242の湾曲部241側に設けた。受光部242の静電容量の変化には、受光部242の湾曲部241と反対側よりも受光部242の湾曲部241側の方が大きく寄与する。したがって、湾曲抑制部材47を、受光部242の湾曲部241側に設けることにより、湾曲抑制部材47を受光部242の湾曲部241と反対側に設ける場合と異なり、静電容量の変化に大きく寄与する受光部242の湾曲部241側の意図しない方向への湾曲を抑制することができる。これにより、カンチレバー電極47毎の感度のばらつき、および、サーモセンサ100の感度の低下をより抑制することができる。なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態の(1)〜(5)の効果と同様である。
【0046】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0047】
たとえば、上記第1〜第3実施形態では、本発明のセンサ装置をサーモセンサに適用する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、測定対象を測定することによりカンチレバー電極が湾曲するセンサであれば、サーモセンサ以外のセンサに本発明を適用してもよい。
【0048】
また、上記第1および第2実施形態では、カンチレバー電極の受光部の略全域にわたって湾曲抑制部材が形成される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、図12に示す第1変形例のように、受光部242の外周部に沿うように湾曲抑制部材57を設けてもよい。
【0049】
また、上記第1〜第3実施形態では、上部電極にスリットが設けられる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、図12に示す第1変形例のように、上部電極にスリットを設けなくてもよい。また、本発明では、上部電極および湾曲抑制部材にマトリクス状に複数の貫通孔を設けてもよい。
【0050】
また、上記第1〜第3実施形態では、受光部の絶縁膜の厚みを湾曲部の絶縁膜の厚みよりも大きくすることにより、湾曲抑制部材を形成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、図13に示す第2変形例のように、受光部242および湾曲部241における厚みを均一にした絶縁膜26aの表面上の受光部242に対応する領域に、たとえばSiOからなる湾曲抑制部材67を別途設けてもよい。なお、湾曲抑制部材67は、赤外線を吸収する材料であることが好ましい。
【0051】
また、上記第1〜第3実施形態では、カンチレバー電極が熱膨張率の異なる2つの層(上部電極、絶縁膜)を含む例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、カンチレバー電極が3つ以上の層を含んでいてもよい。
【0052】
また、上記第1〜第3実施形態では、カンチレバー電極がNiからなる上部電極と、SiNからなる絶縁膜とから構成される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、カンチレバー電極が熱膨張率の異なる複数の金属層から構成されていてもよい。
【0053】
また、上記第1〜第3実施形態では、電荷供給部から供給される電子が、n型ウェル領域を介してn型不純物領域に読み出される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、電荷供給部から供給される電子をn型ウェル領域に供給した後、高い電圧を印加して衝突電離により電子を増加させてからn型不純物領域に読み出してもよい。これにより、サーモセンサの感度をより高くすることができる。
【0054】
また、上記第1〜第3実施形態では、湾曲抑制部材が、上部電極がX方向を軸にして本来意図していない方向に湾曲するのを抑制する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、湾曲抑制部材は、Y方向とは異なる方向であれば、上部電極がX方向以外の方向を軸にして上部電極が本来意図しない方向に湾曲するのを抑制するように構成されていればよい。
【0055】
また、上記第1〜第3実施形態では、サーモセンサが複数のカンチレバー電極を有する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、サーモセンサが1つのカンチレバー電極を有するように構成してもよい。この場合、カンチレバー電極に湾曲抑制部材を設けることにより、サーモセンサ毎の感度がばらつくのを抑制することができるとともに、サーモセンサの感度が低下するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0056】
22 下部電極(第2電極)
23 絶縁膜(支持部)
24、34、44 カンチレバー電極(第1電極)
27、37、47、57、67 湾曲抑制部材
28 電荷供給部
241 湾曲部
242 受光部(センサ部)
100 サーモセンサ(センサ装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張率の異なる複数の層を有し、一方端側が支持部に支持されている第1電極と、前記第1電極に対向するように配置される第2電極とを含み、前記第1電極が前記支持部から延びる方向である第1の方向と交差する第2の方向を軸にして、前記第1電極が前記第2電極と離間する方向に湾曲することによって測定対象を測定することにより信号電荷を供給する電荷供給部を備え、
前記第1電極の表面上には、前記第1電極が前記第2の方向とは異なる方向を軸にして湾曲するのを抑制するための湾曲抑制部材が設けられている、センサ装置。
【請求項2】
前記湾曲抑制部材は、前記第1電極の前記第2の方向に沿った方向の一方端近傍から他方端近傍にわたって設けられている、請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項3】
前記第1電極は、前記支持部に接続される湾曲部と、前記湾曲部の前記支持部とは反対側に設けられるセンサ部とを含み、
前記湾曲抑制部材は、前記センサ部に設けられている、請求項1または2に記載のセンサ装置。
【請求項4】
前記湾曲部および前記センサ部は、熱膨張率の異なる複数の層を含み、
前記湾曲抑制部材は、前記センサ部の熱膨張率の小さい層の少なくとも一部の厚みを、前記湾曲部の熱膨張率の小さい層の厚みよりも大きくすることにより形成されている、請求項3に記載のセンサ装置。
【請求項5】
前記湾曲抑制部材は、少なくとも、前記センサ部の前記湾曲部側に設けられている、請求項3または4に記載のセンサ装置。
【請求項6】
前記湾曲抑制部材は、前記センサ部の略全域にわたって設けられている、請求項5に記載のセンサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−203154(P2011−203154A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71580(P2010−71580)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】