説明

ソイルセメント地中壁の構築方法

【課題】地下構造物の建設中であっても、地下水の流動を阻害することのないソイルセメント地中壁の構築方法を提供する。
【解決手段】地下構造物の建設予定部の周りを囲むように、地盤に連続的に築造した各ソイルセメント柱11にそれぞれH形鋼材12を建て込んでソイルセメント築造部を造成した後、ソイルセメントが硬化する前に、H形鋼材12間に、幅がソイルセメント築造部の幅よりも大きな箱状の部材(ロッキングボックス)20を建て込み、ソイルセメントが硬化してからロッキングボックス20を引き抜き、引き抜かれてできた空隙部Sに、透水材料を充填して透水層部15を構築し、この透水層部15の上部に不透水層部14を構築するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメント地中壁の構築方法に関するもので、特に、地下水が通過可能な透水層部を備えたソイルセメント地中壁の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下構造物の建設予定部に構築される山留め壁の1つにソイルセメント地中壁がある。このソイルセメント地中壁は、地下構造物の建設予定部の周りを囲むように築造したソイルセメント柱に芯材としてH形鋼材を建て込んだもので、地盤中に地下水の流れがある場合には、その流動を阻止する遮水壁の役割を果たす。
しかしながら、地下水の流れを阻止した場合には、地下水流の上流側においては、地下水位が上昇して隣接する建造物に浮き上がりが生じる恐れがあり、下流側においては、地下水位の低下による地盤沈下が生じるなどの弊害が起こる可能性があった。
【0003】
そこで、上記の問題点を解決するため、図5(a),(b)に示すように、地下構造物50の建設予定部の両側にソイルセメント地中壁51を構築した後に地下構造物50を建設し、しかる後に、ソイルセメント柱52,52中に建て込まれたH形鋼材53,53の間の地盤を掘削して溝孔54を形成し、この溝孔54に砂礫等の透水性の良い材料を埋め込むことにより、ソイルセメント地中壁51の一部に地下水が通過可能な透水層部55を設ける方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、芯材のうち、透水層部を設ける予定の位置に建て込む芯材を、円筒状の外管とこの外管の内部に挿入される先端にビットを設けた内管とから成る二重管とし、地下構造物の建設後に、内管を軸回りに回転させながら引き揚げることにより、内管内のソイルセメントを除去し、しかる後に、外管内に砂礫等の透水性の良い材料を埋め込むことにより、ソイルセメント地中壁の一部に地下水が通過可能な透水層部を設ける方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、図6(a)〜(c)に示すように、ソイルセメント柱61に建て込む芯材として円筒状の鋼管62を用いるとともに、透水層部64を設ける予定の位置に建て込む鋼管62kを引き抜き可能な鋼管とし、地下構造物(図示せず)を建設した後に鋼管62kを引き抜き、この引抜かれた鋼管62kの周りを掘削・破砕してソイルセメントを除去し、しかる後に、このソイルセメントを除去した溝孔63に砂礫等の透水性の良い材料を埋め込むことにより、ソイルセメント地中壁60の一部に地下水が通過可能な透水層部64を設ける方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−102485号公報
【特許文献2】特開2000−234331号公報
【特許文献3】特開2000−220136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記引用文献1〜3に記載の方法では、いずれも、地下構造物を建設した後に透水層部を構築するので、地下構造物の建設中は地下水の流動を阻止することになる。そのため、工事期間が長期に及ぶ場合には、地下水流の上流側での地下水位の上昇による隣接建造物の浮き上がりや、下流側での地下水位の低下による地盤沈下が生じる可能性が高くなるといった問題点がある。
その上、前記引用文献1,2に記載の方法では、透水層部を構築する箇所のソイルセメント柱を全て掘削・破砕して取り除く必要があるため、工期がかかってしまうといった問題点がある。また、前記引用文献3に記載の方法では、ソイルセメント柱の取り除き作業は改善されるものの、引抜かれた鋼管の周りのソイルセメントを掘削・破砕する作業が省けないので、工期を大幅に短縮することが困難であった。
【0007】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、地下構造物の建設中であっても、地下水の流動を阻害することのないソイルセメント地中壁の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、地下構造物の建設予定部の周りを囲むように、地盤に複数のソイルセメント柱を連続的に築造してソイルセメント築造部を構築した後、ソイルセメントが硬化する前に前記ソイルセメント柱に芯材を建て込んで成るソイルセメント地中壁を構築するソイルセメント地中壁の構築方法において、前記芯材の建て込み後で、かつ、前記ソイルセメントが硬化する前に、前記芯材間に箱状の部材を建て込み、前記ソイルセメントが硬化してから前記箱状の部材を引き抜き、前記箱状の部材が引き抜かれてできた空隙部に、当該地盤の透水係数よりも高い透水係数を有する透水材料を投入して透水層部を構築することを特徴とする。
これにより、ソイルセメント地中壁の構築時に、同時に、透水層部を構築できるので、ソイルセメント地中壁が地下水の流動を阻害することがない。したがって、地下構造物の建設時における隣接建造物の浮き上がりや地盤沈下等の問題を解決することができる。
また、透水層部を構築する際に、ソイルセメント柱を掘削・破砕する作業がないので、透水層を備えたソイルセメント地中壁を効率良くかつ短期間で構築することができる。
【0009】
また、前記空隙部の下側に透水層部を形成し、この透水層部の上部にソイルセメントから成る不透水層部を構築し、この不透水層部を地下構造物の根切り時における山留め壁としたので、強固な山留め壁を設けることができるとともに、地下水を確実に地下構造物の下側を通るように流すことができる。
また、前記箱状の部材の幅を前記ソイルセメント築造部の幅よりも大きくして、前記箱状の部材の幅方向の両端側が前記ソイルセメント築造部よりも外側にはみ出るようにしたので、地下水を確実に地下構造物の下側に導くことができる。
更に、芯材をH形鋼材とするとともに、前記箱状の部材を、前記H形鋼材をガイド部材として、前記ソイルセメント築造部に建て込むようにしたので、箱状の部材を芯材となるH形鋼材の間に確実に建て込むことができる。
また、前記箱状の部材の底部を開閉可能とし、前記箱状の部材の引き抜き時に透水材料を前記箱状の部材内に投入することで、前記透水材料の重さにより前記箱状の部材の底部を開き、前記箱状の部材の底部から前記空隙部に前記透水材料を投入することにより、箱状の部材の引き抜きと透水層部の構築とを同時に行うことができるようにしたので、作業効率を更に向上させることができる。
【0010】
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係るソイルセメント地中壁の構成を示す図である。
【図2】本実施の形態に係るソイルセメント地中壁の構築方法を示す図である。
【図3】ロッキングボックスの構成を示す図である。
【図4】本実施の形態に係るソイルセメント地中壁の構築方法を示す図である。
【図5】従来のソイルセメント地中壁の構築方法を示す図である。
【図6】従来のソイルセメント地中壁の他の構築方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また、実施の形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
図1(a),(b)は、本発明の実施の形態に係るソイルセメント地中壁10の構成を示す図で、各図において、11は地下構造物30の建設予定部の周りを囲むように、地盤31に連続的に築造されたソイルセメント柱、12は各ソイルセメント柱11のほぼ中心に建て込まれてソイルセメント柱11の芯材となるH形鋼材である。なお、H形鋼材12の下端部の位置は、ソイルセメント柱11の下端部よりも浅い位置にある。
この地下構造物30の建設予定部の周りを囲むように造成された、H形鋼材12を芯材とした複数のソイルセメント柱11により構築された地中壁を、以下、ソイルセメント築造部13という。
ここでは、ソイルセメント築造部13の形状を長方形枠状とし、地下水の流れる方向を長方形の1辺に平行な方向とした。
【0014】
本例では、ソイルセメント築造部13の地下水流32の流路に位置するH形鋼材12のうちの隣接する2つのH形鋼材12,12間に、地盤31の表面側に構築された不透水層部14とこの不透水層部14の下部に構築された透水層部15とを備えた透水層部付壁部材16を設けて、ソイルセメント築造部13の一部を地下水が通過可能としている。
透水層部15は、地盤31の透水係数よりも高い透水係数を有する透水材料から成る。例えば、地盤31の透水係数が1×10-3 cm/sec.程度である場合、透水層部15の透水係数を0.1〜1cm/sec.になるように透水材料を選択する。このような透水係数を有する透水層部15は、例えば、礫等の粒径の大きな粒状体を用いれば、容易に実現できる。
一方、不透水層部14は、ソイルセメントから構成される。この不透水層部14の透水係数は1×10-6 cm/sec.程度である。
【0015】
透水層部付壁部材16の幅(ソイルセメント築造部13の延長方向と直交する方向の長さ)は、透水層部付壁部材16が設けられているソイルセメント築造部13の幅よりも広く、かつ、下端部の位置は、ソイルセメント柱11の下端部位置かそれよりも若干深い位置にある。
また、不透水層部14と透水層部15との境界の位置は、図1(b)の一点鎖線Kで示す地下構造物30の下端部よりも深い位置に設定されている。これは、不透水層部14を地下構造物30の根切り時における山留め壁として機能させるためで、これにより、地下水を地下構造物30の下側を通るように流すことができる。
【0016】
次に、本発明によるソイルセメント地中壁10の構築方法について説明する。
まず、図2(a)に示すように、地下構造物30が建設される予定の地盤31の周りを囲むようにソイルセメント柱11を、隣接するソイルセメント柱11同士が連続するように造成する。具体的には、オーガースクリュー等の地盤の掘削と攪拌とを行う掘削機により、地盤31を所定の深さに掘削して削孔を形成するとともに、掘削機を引き上げながら、この削孔にミルクセメントを注入・攪拌してソイルセメント柱11を造成する。
次に、図2(b)に示すように、各ソイルセメント柱11に芯材となるH形鋼材12を各ソイルセメント柱11の中心に建て込んでソイルセメント築造部13を造成した後、図2(c)に示すように、ソイルセメント築造部13の図示しない地下水流の流路に位置する2つのH形鋼材12,12間に、透水層部付壁部材16を構築するためのロッキングボックス20を建て込む。
【0017】
ロッキングボックス20は、図3(a)に示すように、幅Wが建て込み位置のソイルセメント築造部13の幅wよりも大きく、厚さTがH形鋼材12,12間の距離に等しく、長さLがソイルセメント柱11の深さにほぼ等しい、地盤31の表面側に開口部を有する箱状の部材である。このロッキングボックス20を構成する材料は、鉄等の鋼材が用いられ、かつ、その表面には、引き抜きを容易にするために、滑油等の剥離剤を塗布するとか、滑材となる樹脂層をコーティングするなどの引き抜き用の表面処理が施されている。
このロッキングボックス20は、詳細には、開口部側から見たときに、ソイルセメント築造部13の延長方向に直交する方向に延長する互いに対向する2つの主壁21aと、これら主壁21aの両側からソイルセメント築造部13の幅方向外側にそれぞれ斜め方向に突出する4つの斜壁21cからなる六角柱状の部材で、その底部が、地盤31の深さ方向に鋭角に突出する推進部22となっている。
【0018】
前記推進部22は、ロッキングボックス20の建て込みを容易にするために設けたもので、詳細には、2つの主壁21aの下端から地盤31の深さ方向でかつロッキングボックス20の中心方向に傾いて突出する主推進片22mと4つの斜壁21cの下端から地盤31の深さ方向でかつロッキングボックス20の中心方向に傾いて突出する4つの側面推進片22nとから成る。主推進片22mは台形状の板であり、側面推進片22nは三角形状の板で、これらの推進片22m,22nを、ロッキングボックス20の底部を閉じるように結合することで推進部22を形成する。
【0019】
図3(b)は、図3(a)の矢印の方向から見たときのロッキングボックス20の主壁21aと主推進片22mとの関係を示す図で、斜壁21cについては省略している。
本例では、主推進片22mを主壁21aに、ヒンジ等の開閉具23jにより、地盤31の深方向に開閉可能に取付けるとともに、主壁21aから主推進片22mに延長する抑え部材23kを設けて、主推進片22mが主壁21a側に回転しないようにしている。このとき、抑え部材23kの主推進片22m側にピン23pを設け、主推進片22m側にゴム部材からなるピン穴22qを設けるようにすれば、このピン穴22qにピン23pを差し込むようにすれば、ロッキングボックス20の底部を確実に閉じることができる。
なお、図3(c)に示すように、バネ23sを用いた開閉機構など、他の開閉機構を用いてもよい。
これにより、ロッキングボックス20の引き抜き時に、透水材料kをロッキングボックス20内に投入すれば、透水材料kの重さGで主推進片22mが主壁21a側とは反対側に回転するので、透水材料kをロッキングボックス20の底部から排出することができる。なお、ピン23pを設けた場合でも、透水材料kの重さGで主推進片22mは主壁21a側とは反対側に回転する。
すなわち、主推進片22mは、推進部22の構成要素であるとともに、当該ロッキングボックス20の底部に設けられた開閉部材でもある。
なお、側面推進片22nは斜壁21cの下端に固定してもよいし、主推進片22mと同様に、開閉部材として使用してもよい。
【0020】
H形鋼材12の建て込みとロッキングボックス20の建て込みとは、ソイルセメント柱11を構成するソイルセメントが硬化する前、例えば、ソイルセメント柱11を造成してから2時間〜3時間経過する前に行う。
このとき、隣接するH形鋼材12をガイドとしてロッキングボックス20を建て込むようにすれば、ロッキングボックス20をH形鋼材12の延長方向にほぼ平行に建て込むことができるので、ロッキングボックス20をH形鋼材12間に確実に建て込むことができる。具体的には、主壁21aをH形鋼材12のフランジ部の両端部に沿うようにして建て込むようにすればよい。なお、ロッキングボックス20の引き抜きを容易にするため、ロッキングボックス20の上端部を地盤31から20cm程度突出させておくことが好ましい。
また、ロッキングボックス20の幅方向の両端側が、ソイルセメント築造部13の幅方向外側にはみ出しているが、ソイルセメント柱11の周囲の地盤は掘削機による削孔により柔らかくなっていること、はみ出し部は斜壁21cから成ること、及び、推進部22が設けられていることから、ソイルセメント柱11の周囲の地盤を掘削しなくても、ロッキングボックス20を容易に地盤31中に建て込むことができる。
【0021】
次に、図4(a)に示すように、ソイルセメントが硬化してからロッキングボックス20を引き抜き、柱状の空隙部Sを形成した後、図4(b)に示すように、この空隙部Sに、砕石等の当該地盤31の透水係数よりも高い透水係数を有する透水材料kを充填して透水層部15を構築する。本例では、図4(c)に示すように、更に、この透水層部15の上部にソイルセメントを流し込んでソイルセメントから成る不透水層部14を構築することで、不透水層部14を地下構造物30の根切り時における山留め壁として機能させるようにしている。
ロッキングボックス20の表面には引き抜き用の表面処理が施されているので、ロッキングボックス20をソイルセメント柱11から容易に引抜くことができる。また、ロッキングボックス20の建て込み後、ソイルセメントが完全に固化する前(例えば、12〜18時間前)にクレーン等でロッキングボックス20を上下に数cm程度移動させて周囲のソイルセメントと縁切りしておけば、ロッキングボックス20の引き抜きは更に容易となる。
【0022】
本例のロッキングボックス20の底部は開閉可能なので、ロッキングボックス20の引き抜きと透水層部15の構築とを同時に行なうことができる。
ロッキングボックス20をソイルセメント柱11内に建て込むときには、推進部22の主推進片22mが閉じている状態にある。すなわち、ロッキングボックス20の建て込み時には、図3(b)に示すように、主推進片22mが周囲のソイルセメントからロッキングボックス20の内部側に回転させようとする力R(ソイルセメントからの反力)を受けるが、抑え部材23kがつっかえ棒となって、主推進片22mは回転しないからである。
一方、ロッキングボックス20の引き抜き時に、ロッキングボックス20中に透水材料kを投入すると、図3(b)に示すように、主推進片22mは透水材料kの重さGにより、地盤31の深さ方向に開く方向に回転力を受ける。これにより、ロッキングボックス20の底部の2つの主推進片22m,22mが開放されるので、透水材料kをロッキングボックス20が引抜かれた部分の空隙部S内に収納することができる。
なお、透水材料kの投入は、ロッキングボックス20の建て込み終了直後に行ってもよいし、建て込み終了後から引き抜き時の間の適当な時に行ってもよい。
【0023】
このように、本実施の形態では、地下構造物30の建設予定部の周りを囲むように、地盤に連続的に築造した各ソイルセメント柱11にそれぞれH形鋼材12を建て込んでソイルセメント築造部13を造成した後、ソイルセメントが硬化する前に、H形鋼材12間に、幅Wがソイルセメント築造部13の幅wよりも大きな箱状の部材(ロッキングボックス)20を建て込み、ソイルセメントが硬化してからロッキングボックス20を引き抜き、引き抜かれてできた空隙部Sに、透水材料kを充填して透水層部15を構築し、この透水層部15の上部に不透水層部14を構築するようにしたのでソイルセメント地中壁10を、地下建造物30の建設前に構築することができる。したがって、地下水の流れを阻害することなく、地下建造物30を建設することができるとともに、地下建造物30の建設後にソイルセメント地中壁10を改造する必要がないので、工期を大幅に短縮できる。
また、ロッキングボックス20の底部に、投入される透水材料kの重さGにより地盤31の深さ方向に開放される主推進片22mを設けて、ロッキングボックス20の引き抜きと透水層部15の構築とを同時に行うことができるようにしたので、作業効率を向上させることができる。
【0024】
なお、前記実施の形態では、地下水流32の方向が、長方形枠状のソイルセメント地中壁10の1辺に平行な方向の例を示したが、地下水流32の方向がソイルセメント地中壁10の1辺に交差している場合には、ロッキングボックス20を、地下水流32の方向にあわせて、ソイルセメント築造部13の4つの辺に設ければよい。
また、上記例では、ロッキングボックス20の引き抜きと透水層部15の構築とを同時に行ったが、ロッキングボックス20を引き抜いて柱状の空隙部Sを形成し、しかる後に、この空隙部Sに透水材料kを投入して透水層部15を形成してもよい。
また、不透水層部14は必ずしも必要ではないが、地下水位が建設予定の地下構造物30の底面よりも高い場合や地盤31の透水係数が高い場合などには、本例のように、透水層部15の上部に不透水層部14を設ける方が好ましい。
また、透水層部15の上部に不透水層部14を形成する際に、透水層部15の上部に鉄板やコンクリートから成る板を設けてからソイルセメントを流し込んで不透水層部14を形成してもよい。これにより、透水層部15の体積を一定にできるとともに、ソイルセメントの染み込みによる透水層部15の透水係数のバラつきをなくすことができる。
【0025】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、地下水の流れを阻害することなく、地下建造物を建設できるとともに、地中壁を有する地下建造物の工期を大幅に短縮できる。
【符号の説明】
【0027】
10 ソイルセメント地中壁、11 ソイルセメント柱、12 H形鋼材、
13 ソイルセメント築造部、14 不透水層部、15 透水層部、
20 ロッキングボックス、21a 主壁、21c 斜壁、22 推進部、
30 建設予定の地下構造物、31 地盤、32 地下水流。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造物の建設予定部の周りを囲むように、地盤に複数のソイルセメント柱を連続的に築造してソイルセメント築造部を構築した後、ソイルセメントが硬化する前に前記ソイルセメント柱に芯材を建て込んで成るソイルセメント地中壁を構築するソイルセメント地中壁の構築方法において、
前記芯材の建て込み後で、かつ、前記ソイルセメントが硬化する前に、前記芯材間に箱状の部材を建て込み、
前記ソイルセメントが硬化してから前記箱状の部材を引き抜き、
前記箱状の部材が引き抜かれてできた空隙部に、当該地盤の透水係数よりも高い透水係数を有する透水材料を投入して透水層部を構築することを特徴とするソイルセメント地中壁の構築方法。
【請求項2】
前記空隙部の下側に透水層部を形成し、この透水層部の上部にソイルセメントから成る不透水層部を構築したことを特徴とする請求項1に記載のソイルセメント地中壁の構築方法。
【請求項3】
前記箱状の部材の幅を前記ソイルセメント築造部の幅よりも大きくして、前記箱状の部材の幅方向の両端側が前記ソイルセメント築造部よりも外側にはみ出るようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のソイルセメント地中壁の構築方法。
【請求項4】
前記芯材をH形鋼材とするとともに、前記箱状の部材を、前記H形鋼材をガイド部材として、前記ソイルセメント築造部に建て込むようにしたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のソイルセメント地中壁の構築方法。
【請求項5】
前記箱状の部材の底部を開閉可能とし、前記箱状の部材の引き抜き時に透水材料を前記箱状の部材内に投入することで、前記透水材料の重さにより前記箱状の部材の底部を開き、前記箱状の部材の底部から前記空隙部に前記透水材料を投入するようにしたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のソイルセメント地中壁の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−94317(P2011−94317A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246601(P2009−246601)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】