ソホロリピッドを含む経皮吸収制御剤及びその製造方法
【課題】 単成分で生分解性に優れ毒性もない界面活性剤からなり、かつ強度の機械的外力を付与することなく容易に調製可能で熱力学的に安定な経皮吸収制御剤を提供する。
【解決手段】 ソホロリピッドを含む分子集合体からなる経皮吸収制御剤とする。また、分子集合体が、ベシクル又は巨大ミセルであり、その直径を、40〜200nmとする。さらに、分子集合体に、少なくとも抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、配糖体、タンパク質、脂質、又はビタミン類のいずれかの有効成分を含ませる。この経皮吸収制御剤が皮膚に塗布されると、分子集合体が角質細胞間の間隙に入り込み、細胞間脂質からなるラメラ液晶に融解して、分子集合体の含有成分をラメラ液晶内に拡散する。
【解決手段】 ソホロリピッドを含む分子集合体からなる経皮吸収制御剤とする。また、分子集合体が、ベシクル又は巨大ミセルであり、その直径を、40〜200nmとする。さらに、分子集合体に、少なくとも抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、配糖体、タンパク質、脂質、又はビタミン類のいずれかの有効成分を含ませる。この経皮吸収制御剤が皮膚に塗布されると、分子集合体が角質細胞間の間隙に入り込み、細胞間脂質からなるラメラ液晶に融解して、分子集合体の含有成分をラメラ液晶内に拡散する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベシクルなどを用いた経皮吸収促進剤に関し、特にバイオサーファクタントの一種であるソホロリピッドを用いることで、強度の外力を必要とすることなく熱力学的に安定なベシクル又はミセル等の分子集合体を形成して得られる経皮吸収制御剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン脂質などの両親媒性物質を水に懸濁させると、このリン脂質が会合して二分子膜を形成し、水相を閉じこめたベシクルを形成することが以前より知られている。このベシクルは、リポソームとも呼ばれ、生体膜のモデルや、薬物担体として脚光を集めた。
【0003】
その後、ベシクル形成能を有する様々な両親媒性物質を見出す努力が行われ、2本の長鎖アルキル基を有する界面活性剤、例えば臭化ジドデシルジメチルアンモニウム(DDAB:didodecyldimethylammonium bromide)等が見出されており、ベシクルは内部に油溶解性と水溶性の双方の有効成分を保持できる基材として、化粧品や医薬品分野において活用されつつある。
【0004】
しかし、一般にベシクルは水溶液の状態では熱力学的に不安定であり、ベシクル粒子同士の凝集や融合、膜成分の結晶化による沈澱の生成、粒子径の増大などがおこり、効力の低下や外観変化による商品価値の損失が生じやすかった。
【0005】
一方で、近年、アニオン系の界面活性剤、例えばオクチル硫酸ナトリウム(SOS:sodium octyl sulfate)とカチオン系の界面活性剤、例えばセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB:cetyltrimethylammonium bromide)の混合により、強度の機械的外力を付与することなく、熱力学的に安定なベシクルを形成することが報告されている(K.Tsuchiya,H.Nakanishi,H.Sakai,M.Abe,Langmuir,20,2117-2122(2004))。
【0006】
この熱力学的に安定なベシクルは、ベシクル粒子同士の凝集や融合、膜成分の結晶化による沈澱の生成、粒子径の増大などが生じず、長期間分散安定であるため、実用上も極めて大きな利点を有している。
【0007】
ところが、カチオン系の界面活性剤は毒性を示すため、皮膚に塗布する経皮吸収促進剤の成分としては適していない。また、界面活性剤の成分が増える程、調整に手間がかかり、実用性が低下するという問題があった。
しかしながら、従来提供されているベシクル形成能を有する界面活性剤は、その多くが多成分系であり、一部ポリエチレングリコールとリン脂質の混合系も報告されているものの(例えば特許文献1参照)、アニオン系界面活性剤とカチオン性界面活性剤を混合するものがほとんどであった。
このため、毒性の面からもカチオン性を有さない、特に単一の成分で熱力学的に安定なベシクルを形成し得る物質を提供することが、ベシクルの利用範囲を拡充する上で必要不可欠な状況であった。
【0008】
また、皮膚を薬効成分の作用部位とする場合は、薬剤のターゲット部位である皮膚において薬剤濃度を高めるような経皮外用剤を用いることが好ましい。
このような要望を実現するため、経皮外用剤に、界面活性剤が形成する通常のベシクル(例えば、特許文献2参照)や、リン脂質が形成するリポソーム(例えば、特許文献3参照)、油分などの低分子の経皮吸収促進剤を配合したり、あるいは剤型を工夫するなどの方法が提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開2002−212106号公報
【特許文献2】特公平4−69129号公報
【特許文献3】特開2006−213699号公報
【特許文献4】特開2007−106733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、通常の合成界面活性剤を含む経皮外用剤は、上述した通り、毒性が懸念されるという問題がある。
また、これらの従来の経皮外用剤では、未だ十分な皮膚浸透効果が得られない場合が多く、さらなる改善が求められていた。
【0011】
このような状況において、数多く存在する界面活性剤の中でも、微生物によって量産されるバイオサーファクタントと呼ばれるものが近年大きく注目されている。
バイオサーファクタントは、生分解性が高く、低毒性で環境にも優しいことが知られている。このため、化粧品工業、食品工業、医薬品工業、化学工業、環境分野等にこれらのバイオサーファクタントを幅広く適用することは、持続可能社会の実現と高機能製品の提供という、両面を兼ね備えており極めて有意義である。
【0012】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、バイオサーファクタントの一種であり、同一分子内に二つの親水基を持つ界面活性剤であるソホロリピッドが、単成分において水中で熱力学的に安定なベシクル又はミセル等の分子集合体を形成することを発見し、さらにその分子集合体に有効成分を含ませることに成功し、本発明を完成させた。
【0013】
なお、ソホロリピッドに関連する技術として、本出願人は、特許文献4に記載の羅漢果抽出物及びソホロリピッドを含有する皮膚外用組成物を提案している。
しかしながら、この特許文献4に記載の発明は、羅漢果の線維芽細胞賦活作用、コラーゲン合成促進作用、紫外線保護効果を増強し、肌荒れ改善効果を発揮させるために、羅漢果抽出物及びソホロリピッドを含有する皮膚外用組成物を提供するものである。
また、特許文献4においては、単成分において水中で熱力学的に安定なベシクル又はミセル等の分子集合体を形成させることや、ソホロリピッドを経皮吸収制御剤の成分として使用することについては、考慮されていない。
【0014】
本発明は、単成分で生分解性に優れ毒性もない界面活性剤からなり、かつ強度の機械的外力を付与することなく容易に調製可能で熱力学的に安定なベシクル又は巨大ミセルの分子集合体からなる経皮吸収制御剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、皮膚への刺激がなく、角質細胞間脂質のラメラ液晶構造に溶解させることができ、ラメラ液晶形成を促進して肌荒れ改善効果を有すると同時に有効成分を効率よく皮膚に取り入れることができる経皮吸収制御剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の経皮吸収制御剤は、ソホロリピッドを含む分子集合体からなるものとしてある。また、この分子集合体が、ベシクル又は巨大ミセルであるものとしてある。
ソホロリピッドは、バイオサーファクタントの一種であり、単成分で生分解性に優れ、毒性のない界面活性剤である。
【0016】
また、ソホロリピッドは、強度の機械的外力を付与することなく、熱力学的に安定なベシクル又は巨大ミセルの分子集合体を形成することができる。
このため、経皮吸収制御剤をこのようなソホロリピッドを含む分子集合体からなるものにすることで、強度の機械的外力を付与することなく容易に調製可能で長期間にわたり安定なものにすることが可能である。
【0017】
また、このようなベシクル又は巨大ミセルの分子集合体の直径としては、40〜200nmとすることが好ましい。
分子集合体をこのようなものとすれば、これを含む経皮吸収制御剤を皮膚に塗布したときに、好適に角質細胞間の間隙に入り込み、細胞間脂質からなるラメラ液晶に溶解させることができる。
【0018】
また、分子集合体を、少なくとも酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、配糖体、タンパク質、脂質、又はビタミン類のいずれかの有効成分を含めたものとすることが好ましい。
経皮吸収制御剤をこのようにすれば、皮膚に塗布することで、分子集合体が角質細胞間の間隙に入り込み、細胞間脂質からなるラメラ液晶に融解して、分子集合体の含有成分をラメラ液晶内に拡散させることができる。
このため、本発明における分子集合体に有効成分を含有させることで、その有効成分の経皮吸収を顕著に促進させることが可能となる。
【0019】
また、ソホロリピッドは、次の式(1)で表されるラクトン型ソホロリピッド、式(2)で表される酸型ソホロリピッド、又は式(3)で表される酸型ソホロリピッド塩とすることが好ましい。
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
【0022】
【化3】
(上記各式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素(−H)又はアセチル基(−COCH3)であり、nは一般に11〜20、より通常には13〜17、さらにより通常には14〜16の数であり、飽和脂肪族炭化水素鎖または二重結合を少なくとも1個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖を構成している。Xはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルカノールアミンイオンなどである。)
【0023】
本発明におけるソホロリピッドをこれらのようなものにすれば、強度の機械的外力を付与することなく、長期間にわたり安定なベシクルや巨大ミセルを容易に形成させることができる。
【0024】
また、本発明の経皮吸収制御剤の製造方法は、微生物を用いてソホロリピッドを生産し、このソホロリピッドに水を加えて濃度が0.3mg/mL〜8000mg/mLになるように調整する方法としてある。
ソホロリピッドの濃度をこのような範囲にすれば、熱力学的に安定なベシクル又は巨大ミセルの分子集合体を形成させることができる。
【0025】
また、本発明の経皮吸収制御剤の製造方法は、上記のようにソホロリピッドの濃度を調整した後、次いで少なくとも酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、配糖体、タンパク質、脂質、又はビタミン類のいずれかの有効成分を混合する方法としてある。
【0026】
このように有効成分を混合することで、ソホロリピッドを含む分子集合体に有効成分を含有させることができ、その経皮吸収を促進することが可能となる。
また、有効成分として脂質や油分等を配合し、その配合量を調整することで、分子集合体の粘性を調整することもできる。
このため、皮膚内における有効成分の放出を制御することが可能である。
【0027】
また、本発明の経皮吸収制御剤の製造方法は、ソホロリピッドを含む水溶液のpHを4.5〜11.5に調整する方法としてある。
pHをこのような範囲にすることで、分子集合体の大きさを適切な範囲に調節することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、単成分で生分解性に優れ毒性もない界面活性剤からなり、かつ強度の機械的外力を付与することなく容易に調製可能で熱力学的に安定なベシクル又は巨大ミセル等の分子集合体からなる経皮吸収制御剤を提供することが可能となる。
また、皮膚への刺激がなく、角質細胞間脂質のラメラ液晶構造に溶解させることができ、ラメラ液晶形成を促進して肌荒れ改善効果を有すると同時に有効成分を効率よく皮膚に取り入れることができる経皮吸収制御剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。
[ソホロリピッド]
本発明で用いるバイオサーファクタントの一種であるソホロリピッド(以下、SLと称する場合がある。)は、キャンディダ属に属する微生物、例えばCandida bombicola、C.apicola、C.petrophilum、C.bogoriensisなどの酵母を培養することにより、その培地中に生産物として得ることができる。
【0030】
ソホロリピッドは、ソホロース又はヒドロキシル基が一部アセチル化したソホロースと、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質である。なお、ソホロースとはβ1→2結合した2分子のブドウ糖からなる糖であり、ヒドロキシル脂肪酸はヒドロキシル基を有する脂肪酸である。
ソホロリピッドは、以下の式(4)に示す通り、分子内のソホロースが結合したラクトン型と、ヒドロキシル脂肪酸のカルボキシル基が遊離した酸型とに大別され、ラクトン型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド塩が存在する。
【0031】
【化4】
【0032】
式(4)において、R1およびR2は、それぞれ独立して水素(−H)又はアセチル基(−COCH3)であり、nは一般に11〜20、より通常には13〜17、さらにより通常には14〜16の数であり、飽和脂肪族炭化水素鎖または二重結合を少なくとも1個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖を構成している。Xはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルカノールアミンイオンなどである。)
これらのソホロリピッドの分子長は、約1.8nmである。
【0033】
[ベシクル]
次に、本発明におけるベシクルについて説明する。
一般に、ベシクルは水溶液の状態では熱力学的に不安定であり、ベシクル粒子同士の凝集や融合、膜成分の結晶化による沈澱の生成、粒子径の増大などがおこる。
これに対して、長期間これらの現象が生じず、分散安定であるものを、熱力学的に安定なベシクルという。
【0034】
ベシクルでは、二分子膜層が形成されるが、このときベシクルの球状分子集合体の曲率半径がベシクルを生じるような大きさになるように、ベシクルの構成成分の親水基及び炭化水素鎖が構成されている。
すなわち、炭化水素鎖が親水基と比較して小さすぎる場合は、曲率半径がベシクルを生じるにはあまりに大きくなり、通常のミセルが生成されることになる。また、炭化水素鎖が、親水基と比較して大きすぎる場合も、曲率半径が小さくなりすぎて、ベシクルは生じない。
【0035】
したがって、熱力学的に安定なベシクルを形成させるためには、親水基と炭化水素鎖の適度なバランスが必要不可欠となる。
このバランスを制御するため、近年、アニオン系の界面活性剤(例えばSOS)とカチオン系の界面活性剤(例えばCTAB)を混合することで、強度の機械的外力を付与することなく、熱力学的に安定なベシクルが形成されることが報告されている。
しかしながら、このようなカチオン系の界面活性剤を含むベシクルには毒性があるため、経皮外用剤に好適なものとは言えない。
【0036】
本発明は、ソホロリピッドが熱力学的に安定なベシクル又は巨大ミセルの形成に適した親水基および炭化水素鎖のバランスを有しているという新たな知見にもとづいて、このソホロリピッドを、経皮吸収制御剤を構成するためのベシクル又は巨大ミセルの成分として用いることによりなし得たものである。
【0037】
図1は、このような本発明におけるソホロリピッドを含む球状分子集合体を示す模式図である。図1において、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)が、CACを超える濃度の場合に自発的に会合して、球状分子集合体を形成することが示されている。ソホロリピッド分子は双頭型(親水基−疎水基−親水基)の分子であり、糖/糖間の糖/カルボキシル基間の相互作用(水素結合)を考慮すると、一般的な二分子膜構造のベシクルとは異なり、同図に示すような一分子膜構造の球状分子集合体を形成すると考えられる。
【0038】
なお、ソホロリピッドにより形成される球状分子集合体がベシクルであるか、あるいは巨大ミセルであるかを明確に区別することは困難であるが、内部に水相が存在している球状分子集合体についてはベシクルと捉えることができる。ただし、ソホロリピッドにより形成される球状分子集合体を含む水溶液の熱力学的性質はミセルに非常に似ているという特徴がある。
【0039】
また、後述するように、この球状分子集合体には有効成分を含有させることが可能である。図1では、球状分子集合体に羅漢果配糖体を含有させた、酸型SL−羅漢果エキス混合分子集合体が示されている。同図に示すように、羅漢果エキスは、球状分子集合体にその膜成分として含有されるとともに、球状分子集合体の内水相にも含有されている。
【0040】
[経皮吸収制御剤の製造方法]
次に、ソホロリピッドを含む球状分子集合体と、その球状分子集合体からなる経皮吸収制御剤の製造方法について説明する。
(1)ソホロリピッドの生産
まず、キャンディダ属の酵母(Candida bombicola、C.apicola、C.petrophilum、C.bogoriensis等)を培養して、ソホロリピッドを生産させる。
【0041】
このときの培養条件は特に限定されないが、例えば、次のような条件とすることが好ましい。
まず、培養液の初発pHは、4.0〜5.5の範囲内で調整することが好ましい。一方、培養中のpH調節は行わなくても適切に培養することが可能である。
また、培養に適した温度範囲は20〜35℃であり、28〜30℃の場合に最も良く培養できる。
さらに、培養にあたって、通気攪拌することが望ましい。その通気攪拌速度としては、5L〜5KL容量の培養の場合で、通気量0.1〜2.0vvm、攪拌速度100rpm〜600rpmとすることが好ましい。
【0042】
培養液組成としては、炭素源として油脂及び糖類を用いることが好ましい。油脂全体の濃度は、50〜200g/Lの範囲とすることが好ましく、100〜150g/Lの範囲とすることがより好ましい。糖類は、グルコースなどの単糖類又はスクロースなどの二糖類を用いることが好ましい。また、その培養初発濃度としては、30〜150g/Lの範囲とすることが好ましく、90〜120g/Lの範囲とすることがより好ましい。窒素源としては、特に限定されないが、例えば2〜5g/Lの酵母エキス、0.5〜2g/Lの尿素等を用いることができる。さらに、生育に必要な各種有機物及びリン酸塩・マグネシウム塩等の無機塩類を適当量添加しても良い。
【0043】
培養時間は特に限定されないが、例えば6〜9日間くらいとすることができる。
ソホロリピッドは、このようにキャンディダ属の酵母を培養して得られた培養液中に複数分子種の混合物として蓄積される。通常、ラクトン型を50%以上含んでいる。
【0044】
(2)ソホロリピッドの抽出・精製
次に、上記のようにして得られた培養液からソホロリピッドを抽出して精製する。その抽出・精製方法としては、特に限定されないが、例えば、次のようにすることができる。
まず、培養液から、遠心分離、デカンテーション、酢酸エチル抽出などの方法でソホロリピッドを含む成分を分離後、さらにヘキサンで洗浄することで、茶褐色、粘性のある液体として、ソホロリピッド濃度約50%の含水物が得られる。なお、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)の調製法は、特に限定されないが、アルカリ還流による調製法を用いることができる。
【0045】
(3)球状分子集合体の製造
次に、得られたソホロリピッドを水に添加して懸濁し、水溶液内においてベシクル又は巨大ミセルと呼ばれる球状分子集合体を製造する。
このとき、ソホロリピッドの濃度範囲としては、0.3mg/mL〜8000mg/mLとすることが好ましく、0.3mg/mL〜1000mg/mLにすることがより好ましい。
ソホロリピッドの濃度範囲をこのようにすれば、熱力学的に安定なベシクル又は巨大ミセルを形成させることができる。
【0046】
また、ソホロリピッドを水に添加した後に行う懸濁においては、強度の機械的外力を付与する必要はなく、試験管を2、3回振る程度の攪拌により、ベシクル又は巨大ミセルを形成させることができる。
このように、ソホロリピッドを用いることによって、高速回転分散処理、超音波分散処理、高圧ホモジナイザー分散処理などを行うことなく、ベシクル又は巨大ミセルを形成させることができる。
【0047】
さらに、本発明によれば、ソホロリピッドを用いることによって、複数の界面活性剤やコサーファクタントを用いることなく、容易に均一かつ微細なベシクル又は巨大ミセル等の分子集合体を得ることが可能になっている。
このようにして得られたベシクル又は巨大ミセルの粒子径は100nm程度であり、少なくとも一年以上は安定である。
【0048】
なお、通常の界面活性剤の場合は、濃度の増加とともに、表面に吸着していき、飽和に達する濃度である臨界ミセル濃度(CMC)をむかえると、ミセルと呼ばれる、分子長の二倍程度の分子集合体を形成する。
これに対し、ソホロリピッドは、分子長が約1.8nmであるが、表面が飽和に達する濃度になると、粒子径が約100nmにも及ぶ球状分子集合体を形成した。この球状分子集合体は、電子顕微鏡観察の結果から、ソホロリピッドにより形成されたベシクル又は巨大ミセルであることが判明した。
【0049】
(4)混合分子集合体の製造
次に、ソホロリピッドを含む水溶液に、必要に応じて、以下に示す有効成分を配合し、ソホロリピッド−有効成分混合分子集合体を製造する。なお、有効成分を配合しない場合は、この工程は行わない。
また、有効成分の配合量としては、特に限定されないが、安定なベシクル又は巨大ミセルを形成させる観点から、ソホロリピッドの重量に対して1重量%〜100重量%とすることが好ましい。有効成分は、球状分子集合体の膜中及び球状分子集合体の内水相に取り込まれ、安定化される。
【0050】
後述するように、本発明のソホロリピッドを含む球状分子集合体からなる経皮吸収制御剤は、角質層の細胞間脂質(ラメラ液晶)に溶解して混合液晶を形成し、球状分子集合体における含有物を角質層内に放出する。これによって、本発明の経皮吸収制御剤は、ソホロリピッドや有効成分の経皮吸収を促進する。
また、有効成分として脂質や油分等を配合し、その配合量を調整することにより、ソホロリピッドを含むベシクル膜の粘性を調整することができ、含有物の放出をコントロールすることもできる。
【0051】
本発明の経皮吸収制御剤に配合する有効成分としては、例えば、配糖体、抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、タンパク質、脂質、ビタミン類等とすることが好ましい。
また、配糖体としては、羅漢果配糖体、ステビオサイド、グリチルリチンなどの甘味配糖体、スウェルチアマリン、セコイリドイド、ベルリンなどの苦味配糖体、サポニン、カルデノライドとブファジエノライドなどのステロイド配糖体、ヒアルロン酸などのアミノ酸配糖体、プエラリンなどのイソフラボン配糖体、アスタキサンチンなどのカロテノイドを挙げることができる。
なお、羅漢果、羅漢果配糖体を配合する場合、これらの濃度範囲としては、特に限定されるものではないが、ソホロリピッドの重量に対して当量未満とすることが好ましい。
【0052】
また、本発明の経皮吸収制御剤に配合する有効成分として、例えば、マカデミアナッツ油、アボガド油、トウモロコシ油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、ホホバ油、ヤシ油、パーム油、液状ラノリン、硬化ヤシ油、硬化油、モクロウ、硬化ヒマシ油、ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、イボタロウ、ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、ホホバロウ等のオイル、ワックス類、流動パラフィン、スクワラン、プリスタン、オゾケライト、パラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類、オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸等の高級脂肪酸類、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール、ミリスチルアルコール、セトステアリルアルコール等の高級アルコール等、イソオクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、アジピン酸ジイソプロピル、セバチン酸ジ−2−エチルヘキシル、乳酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ−2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジ−2−ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリン、トリ−2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタンエリトリット等の合成エステル油類、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等の鎖状ポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサンシロキサン等の環状ポリシロキサン、アミノ変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン等の変性ポリシロキサン等のシリコーン油等の油剤類、脂肪酸セッケン(ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等)、ラウリル硫酸カリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミンエーテル等のアニオン界面活性剤類、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ラウリルアミンオキサイド等の必須成分に分類されないカチオン界面活性剤類、イミダゾリン系両性界面活性剤(2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等)、ベタイン系界面活性剤(アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等)、アシルメチルタウリン等の両性界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノステアレート、セスキオレイン酸ソルビタン等)、グリセリン脂肪酸類(モノステアリン酸グリセリン等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル類(モノステアリン酸プロピレングリコール等)、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、POEソルビタン脂肪酸エステル類(POEソルビタンモノオレエート、モノステアリン酸ポリオキエチレンソルビタン等)、POEソルビット脂肪酸エステル類(POE−ソルビットモノラウレート等)、POEグリセリン脂肪酸エステル類(POE−グリセリンモノイソステアレート等)、POE脂肪酸エステル類(ポリエチレングリコールモノオレート、POEジステアレート等)、POEアルキルエーテル類(POE2−オクチルドデシルエーテル等)、POEアルキルフェニルエーテル類(POEノニルフェニルエーテル等)、プルロニック型類、POE・POPアルキルエーテル類(POE・POP2−デシルテトラデシルエーテル等)、テトロニック類、POEマシ油・硬化ヒマシ油誘導体(POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油等)、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の非イオン界面活性剤類、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、イソプレングリコール、1,2−ペンタンジオール、2,4−ヘキシレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール等の多価アルコール類、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム等の保湿成分類、グアガム、クインスシード、カラギーナン、ガラクタン、アラビアガム、ペクチン、マンナン、デンプン、キサンタンガム、カードラン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グリコーゲン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、トラガントガム、ケラタン硫酸、コンドロイチン、ムコイチン硫酸、ヒドロキシエチルグアガム、カルボキシメチルグアガム、デキストラン、ケラト硫酸, ローカストビーンガム,サクシノグルカン,カロニン酸,キチン,キトサン、カルボキシメチルキチン、寒天、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ベントナイト等の増粘剤、表面を処理されていても良い、マイカ、タルク、カオリン、合成雲母、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、無水ケイ酸(シリカ)、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等の粉体類、表面を処理されていても良い、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化コバルト、群青、紺青、酸化チタン、酸化亜鉛の無機顔料類、表面を処理されていても良い、雲母チタン、魚燐箔、オキシ塩化ビスマス等のパール剤類、レーキ化されていても良い赤色202号、赤色228号、赤色226号、黄色4号、青色404号、黄色5号、赤色505号、赤色230号、赤色223号、橙色201号、赤色213号、黄色204号、黄色203号、青色1号、緑色201号、紫色201号、赤色204号等の有機色素類、ポリエチレン末、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン粉末、オルガノポリシロキサンエラストマー等の有機粉体類、パラアミノ安息香酸系紫外線吸収剤、アントラニル酸系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、桂皮酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、糖系紫外線吸収剤、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4−メトキシ−4’−t−ブチルジベンゾイルメタン等の紫外線吸収剤類、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール類、ビタミンA又はその誘導体、ビタミンB6塩酸塩,ビタミンB6トリパルミテート,ビタミンB6ジオクタノエート,ビタミンB2又はその誘導体,ビタミンB12,ビタミンB15又はその誘導体等のビタミンB類、α−トコフェロール,β−トコフェロール,γ−トコフェロール,ビタミンEアセテート等のビタミンE類、ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチン、ピロロキノリンキノン等のビタミン類などが好ましい。植物由来のタンパク質、例えば小麦タンパク質及び大豆タンパク質、大豆イソフラボン;動物由来のタンパク質、例えばケラチン、ケラチン加水分解物及びスルホン系のケラチン、ラクトフェリン、コラーゲン、エラスチン及びこれらの誘導体並びにその塩類等のタンパク質などが好ましい。ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、卵黄レシチン、水添卵黄レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質類、スフィンゴエミリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロールから選ばれるスフィンゴリン脂質類、プラスマローゲン類、及び/又はこれらからなる群より選ばれる1種類、糖脂質が、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステル等のグリセロ脂質類、ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4等のスフィンゴ糖脂質類、及び/又はこれらの混合物、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、スフリンゴ脂質、テルペン、ステロイド、プロスタグランジン等の脂質などを用いることも好ましい。
【0053】
(5)経皮吸収制御剤の製造
次に、以上の工程により製造されたソホロリピッドを含む球状分子集合体を含む水溶液を用いて、経皮吸収制御剤を製造する。
このとき、経皮吸収制御剤の剤型としては、例えば、ローション類、乳液類、クリーム類、パック類、ゲル等とすることができる。
そして、この経皮吸収制御剤を化粧品や皮膚外用剤などの医薬品の成分として使用することができる。また、食品の添加剤として使用することも可能である。
【0054】
このとき、ソホロリピッドの配合量としては、化粧品や皮膚外用剤の全成分組成物において、0.01%〜20.0重量%とすることが好ましく、0.1〜10.0重量%とすることがより好ましい。ソホロリピッドの配合量をこのような範囲にすれば、ソホロリピッドを経皮吸収促進剤などの経皮吸収コントロール剤として好適に利用することが可能である。
なお、本発明の経皮吸収制御剤に、さらに保湿剤、防腐剤、界面活性剤、増粘剤、油剤、溶剤、香料、pH調整剤等を本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合してもよい。
【0055】
[ラメラ液晶形成促進作用]
次に、ソホロリピッドのラメラ液晶形成促進作用について説明する。
皮膚の角質層におけるバリア機能は、細胞間脂質により構成されるラメラ液晶が大きく関与している。例えば、乾燥して傷んだ肌においては、ラメラ液晶の構造が崩壊して、ラメラ液晶が減少していることが実証されている。
【0056】
したがって、角質層におけるラメラ構造を再生することができれば、角質層の水分保持能を回復して、皮膚にうるおいを与え、肌荒れを解消することができるものと考えられる。
また、経皮吸収においては、有効成分及び有効成分と相互作用する経皮吸収促進剤が、細胞間脂質のラメラ構造に入り込むことは重要である。
本発明の経皮吸収制御剤は、ソホロリピッドを含む球状分子集合体が角質細胞間脂質のラメラ液晶形成促進作用を有し、肌荒れ改善効果を有することが判明している。
また、本発明の経皮吸収制御剤は、ラメラ液晶形成促進に寄与していることから、ラメラ液晶に溶解して混合液晶を形成することが証明され、有効成分を角質細胞間に拡散させることが可能となっている。
【0057】
図2は、このような本発明のソホロリピッドを含む球状分子集合体からなる経皮吸収促進剤の皮膚浸透のようすを示す模式図である。
図2において、羅漢果配糖体を有効成分として含む混合球状分子集合体が示されており、これが角質細胞間の間隙に入り込んで、ラメラ液晶に溶解して混合液晶を形成するようすが示されている。また、有効成分である羅漢果配糖体が、角質層内において拡散するようすが示されている。
【0058】
以上説明したように、本発明の経皮吸収制御剤は、ソホロリピッドを用いることにより、従来技術のように複数の界面活性剤や強度の機械的外力を必要とすることなく、ベシクル又は巨大ミセルの分子集合体を形成することができる。
このため、経皮吸収制御剤の製造プロセスを簡略化することができ、大幅な製造コストの削減を期待することが可能である。
【0059】
また、ソホロリピッドは生分解性に優れるのみならず、毒性がなく、酵母により各種の再生可能資源から生産することができる。このため、ソホロリピッドを用いることは、従来の複数の界面活性剤などを用いる場合に比べ、地球環境保全の観点からも好ましい。
さらに、本発明におけるソホロリピッドを含むベシクル等は、熱力学的に安定であるため、長期間分散安定であり、かつ100nm程度の微細な粒子径を有するため、ベシクルに内包させた化粧品成分や医薬品成分、さらに食品成分の吸収促進などを期待することもできる。
【0060】
また、ソホロリピッド、又はそのベシクルや巨大ミセルなどの分子集合体は、角質細胞間の間隙に入り込んで、細胞間脂質のラメラ液晶に溶解することができ、ラメラ液晶形成を促進して肌荒れ改善効果を有する。
さらに、分子集合体に含まれた有効成分を、効率よく皮膚に取り入れることができる。また、有効成分として脂質や油分等を配合することで、分子集合体の粘性を調整でき、その分子集合体の内容物の放出をコントロールすることも可能である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)臨界会合体形成濃度の算出
まず、本発明で用いるソホロリピッドの臨界会合体形成濃度(CAC)及びその際の表面張力値(γCAC)を求めるため、ペンダントドロップ法による表面張力測定を行った。
ソホロリピッドとしては、上述した「(1)ソホロリピッドの生産」に記載した工程により生産した、酸型ソホロリピッド(SL−H)と酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)を用いた。
【0062】
表面張力の測定は、協和界面科学社製のdrop masterDM500を用いて行った。結果を図3に示す。
図3に示されるように、酸型ソホロリピッド(SL−H)のCAC及びγCACの値は、それぞれ0.30mg/mL、35.3mN/mであった。また、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)のCAC及びγCACの値は、それぞれ0.84mg/mL、32.4mN/mであった。
【0063】
この結果から、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)については、1mg/mL以上の濃度の水溶液とすれば、十分に会合体が形成されることがわかる。
そこで、以下の実施例及び試験例においては、1mg/mLの酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)及び1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)を使用した。
【0064】
(実施例2)球状分子集合体の電子顕微鏡(TEM)観察
次に、実施例1で用いた酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)10mgと、水10mLとを、500mLトールビーカーに加えて、ソホロリピッドの濃度を1mg/mLとし、トールビーカーを手で2、3回軽く震盪することにより攪拌した。
そして、この水溶液中に形成された球状分子集合体を、電子顕微鏡(TEM)で観察した。この電子顕微鏡としては、日本電子社製のJEM−1010を用いた。結果を図4に示す。
【0065】
図4に示される通り、形成された球状分子集合体は、通常のミセルではなく、粒子径100nm程度のベシクル様構造を呈していた。また、この実施例2で用いた酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)水溶液は、少なくとも一年以上安定であった。
したがって、得られたベシクル様構造が、熱力学的に安定であることが明らかになった。
このようなソホロリピッドを含む粒子径100nm程度のベシクル様構造は、新規の球状分子集合体である。
【0066】
(実施例3)球状分子集合体への有効成分の配合、及び粒子径の測定
次に、実施例2において製造された、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)からなる球状分子集合体に、有効成分として羅漢果配糖体を配合した。また、球状分子集合体の粒子径を測定した。
【0067】
このとき、羅漢果配糖体の配合割合として、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)水溶液に対し、羅漢果配糖体を0.02重量%、0.1重量%配合して得られた混合分子集合体のサンプルをそれぞれ作成した。
そして、これらのサンプルと、羅漢果配糖体を配合していないサンプルについて、動的光散乱法(DLS)を用いて、分子集合体の粒子径を測定した。この動的光散乱法には、大塚電子社製DLS−7000を用いた。結果を図5に示す。
【0068】
通常、界面活性剤が形成するミセルの粒子径は分子長の2倍程度の大きさになることが知られている。
しかしながら、図5に示される通り、酸型ソホロリピッド塩(1mg/mL)を含み、羅漢果配糖体を配合していない分子集合体の粒子径は、96.2nmであり、酸型ソホロリピッド塩の分子長約1.8nmに比較して大きな粒子径のベシクル様構造が形成されることが判明した。この結果は、実施例2において説明した電子顕微鏡(TEM)による観察結果とも良く一致していた。
【0069】
さらに、図5に示される通り、羅漢果配糖体の配合量に依存して、分子集合体の粒子径が増大することも明らかになった。
以上の結果から、希薄溶液において、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)の分子集合体に羅漢果配糖体を配合可能であることが明らかになった。
【0070】
(実施例4)球状分子集合体へのpHの影響
次に、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)からなる分子集合体(1mg/mL)へのpHの影響について、動的光散乱法(DLS)及び電子顕微鏡(TEM)観察により検討した。
すなわち、動的光散乱法(DLS)により、種々のpHにおける酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)からなる分子集合体の粒子径を測定し、分子集合体形成に対するpHの影響を調査した。なお、pHの調整は、実施例2において作成した酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)からなる球状分子集合体を含む水溶液に、pH調整剤を添加することにより行った。結果を図6に示す。
また、電子顕微鏡(TEM)を用いて、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)が形成する分子集合体を撮影した。結果を図7に示す。
【0071】
図6に示される通り、pHの上昇に伴って、球状分子集合体の粒子径が増大することが明らかになった。
また、図7に示される通り、いずれのpHにおいてもベシクル様の分子集合体が確認された。
さらに、特にpH4.5の場合に、球状分子集合体の粒子径が小さくなることが判明した。このような粒子径が小さい球状分子集合体からなる経皮吸収制御剤によれば、経皮吸収促進効果がより向上することが期待される。
【0072】
以上のことから、経皮吸収制御剤を製造するにあたっては、ソホロリピッドを含む水溶液のpHを4.5〜11.5に調整すれば、適切に球状分子集合体が形成されることがわかる。
弱酸性を含むこのようなpHの範囲でベシクル様の分子集合体を形成できることは、これを含む経皮吸収制御剤を製造するにあたり、実用上大変有効である。
【0073】
(実施例5)ラメラ液晶の形成
次に、人工的な角質細胞間脂質に、ソホロリピッドを含む球状分子集合体からなる経皮吸収制御剤等を添加し、ラメラ液晶の形成状況を、偏光板を用いて顕微鏡写真撮影により評価した(桜井 哲人、フレグランス ジャーナル、33(10)、57(2005))。
【0074】
人工的な角質細胞間脂質は、次のように作成した。まず、セラミドII、コレステロール、ステアリン酸、硫酸コレステロール、水を、12:8:8:2:70の割合で混合し、80℃で約1時間加熱して脂質成分を融解させ、10℃で10分間超音波処理を行った。さらに、再度80℃で約1時間融解混合を行った後、10℃で10分間超音波処理を行った。これにより、人工角質細胞間脂質を得た。
【0075】
また、人工角層細胞間脂質の作成にあたり、その組成中の水を、それぞれ1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)、1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)+1%羅漢果配糖体、1%レシチンに置き換えて、上記と同様の操作を行い、これらの組成を含む人工角層細胞間脂質を得た。
そして、以上の人工角質細胞間脂質について、ラメラ液晶の形成状況の撮影を行った。結果を図8に示す。
【0076】
図8に示される通り、「(a)人工角質細胞間脂質のみ」に比較して、「(b)1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)」及び「(c)1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)+1%羅漢果配糖体」を添加した場合に、ラメラ液晶の形成が顕著に増加している。また、その効果は、「(d)1%レシチン」を添加した場合よりも大きくなっている。
このことから、ソホロリピッドを含む球状分子集合体により、ラメラ液晶の形成が大きく促進されることがわかった。
【0077】
また、ソホロリピッドと羅漢果配糖体を含む球状分子集合体を人工角質細胞間脂質に添加した場合にも、ラメラ液晶の形成が顕著に増加している。
このことから、相互作用している羅漢果配糖体はソホロリピッドと一緒にラメラ液晶に入り込み、角質層内に拡散すると考えられる。
【0078】
(試験例1)経皮透過試験
ソホロリピッドを含む球状分子集合体の皮膚浸透効果を調べるため、人工皮膚を用いて、ソホロリピッドの経皮透過試験を行った。人工皮膚としては、3次元培養皮膚モデルLSE−high(東洋紡製)を用いた。
この人工皮膚の表面に、1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)からなる球状分子集合体を適用して、一定時間後に透過したソホロリピッドを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量した。結果を図9に示す。
【0079】
図9に示される通り、ソホロリピッドの経皮透過率は、時間依存的に顕著に増加した。このことから、ソホロリピッドを含む球状分子集合体は、優れた皮膚浸透効果を有することがわかる。
【0080】
(試験例2)ソホロリピッドによる羅漢果配糖体の経皮吸収促進試験
ソホロリピッドを含む球状分子集合体による有効成分の経皮吸収促進効果を調べるため、人工皮膚を用いて、ソホロリピッドによる羅漢果配糖体の経皮吸収促進試験を行った。人工皮膚としては、試験例1と同様に、3次元培養皮膚モデルLSE−high(東洋紡製)を用いた。
この人工皮膚の表面に、0.1%羅漢果配糖体と、0.1%羅漢果配糖体及び1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)からなる混合分子集合体とをそれぞれ適用して、2時間後に羅漢果配糖体の主成分であるモグロサイドVをHPLCで定量した。結果を図10に示す。
【0081】
図10に示される通り、0.1%羅漢果配糖体については、適用2時間後でもモグロサイドVがほぼ100%残存しているのに対し、0.1%羅漢果配糖体に1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)を添加したものについては、適用2時間後のモグロサイドVの残存率は88%に減少している。
【0082】
すなわち、1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)を添加することにより、羅漢果配糖体の経皮吸収率が顕著に増加している。
このことから、ソホロリピッドが羅漢果配糖体の経皮吸収促進剤として機能することがわかった。
【0083】
(試験例3)保湿試験
ソホロリピッドを皮膚外用剤に含有させた場合の、水分保持能の変化を調べるため、図11に示すように、ソホロリピッドを含まない組成物1と、ソホロリピッドを0.1%配合した組成物2を準備した。
そして、6名の被験者の皮膚に組成物1、組成物2をそれぞれ0.02g塗布し、4時間前後の水分量の変化をCorneometerCM825(Courage+Khazaka社製)で測定してその平均値を算出した。結果を図12に示す。
【0084】
図12に示す通り、皮膚の水分保持能は、ソホロリピッドを0.1%配合した組成分2を塗布した場合の方が、ソホロリピッドを含まない組成物1を塗布した場合よりも増加した。
ソホロリピッドがヒアルロン酸や羅漢果配糖体などの保湿成分の経皮吸収を促進した結果、保湿効果が増加したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のソホロリピッドを含む球状分子集合体からなる経皮吸収制御剤は、化粧品や医薬品、食品などの添加剤として、好適に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明におけるソホロリピッドを含む球状分子集合体を示す模式図である。
【図2】本発明のソホロリピッドを含む球状分子集合体からなる経皮吸収促進剤の皮膚浸透のようすを示す模式図である。
【図3】本発明の実施例1における酸型ソホロリピッド(SL−A)及び酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)の臨界会合体形成濃度(CAC)の測定結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例2における酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)が形成する分子集合体の電子顕微鏡観察(TEM)結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例3における酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)が形成する分子集合体の粒子径に及ぼす羅漢果添加の影響を示す図である。
【図6】本発明の実施例4における酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)が形成する分子集合体の粒子径に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図7】本発明の実施例4における酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)が形成する分子集合体の構造に及ぼすpHの影響を電子顕微鏡観察(TEM)した結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例5におけるソホロリピッドを含む経皮吸収促進剤による角質細胞間脂質のラメラ液晶形成促進結果を示す図である。
【図9】本発明の試験例1におけるソホロリピッドの経皮透過率を示す図である。
【図10】本発明の試験例2における羅漢果配糖体の皮膚表面残存率を示す図である。
【図11】本発明の試験例3におけるソホロリピッドを含む組成物の成分表である。
【図12】本発明の試験例3における保湿試験の結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベシクルなどを用いた経皮吸収促進剤に関し、特にバイオサーファクタントの一種であるソホロリピッドを用いることで、強度の外力を必要とすることなく熱力学的に安定なベシクル又はミセル等の分子集合体を形成して得られる経皮吸収制御剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン脂質などの両親媒性物質を水に懸濁させると、このリン脂質が会合して二分子膜を形成し、水相を閉じこめたベシクルを形成することが以前より知られている。このベシクルは、リポソームとも呼ばれ、生体膜のモデルや、薬物担体として脚光を集めた。
【0003】
その後、ベシクル形成能を有する様々な両親媒性物質を見出す努力が行われ、2本の長鎖アルキル基を有する界面活性剤、例えば臭化ジドデシルジメチルアンモニウム(DDAB:didodecyldimethylammonium bromide)等が見出されており、ベシクルは内部に油溶解性と水溶性の双方の有効成分を保持できる基材として、化粧品や医薬品分野において活用されつつある。
【0004】
しかし、一般にベシクルは水溶液の状態では熱力学的に不安定であり、ベシクル粒子同士の凝集や融合、膜成分の結晶化による沈澱の生成、粒子径の増大などがおこり、効力の低下や外観変化による商品価値の損失が生じやすかった。
【0005】
一方で、近年、アニオン系の界面活性剤、例えばオクチル硫酸ナトリウム(SOS:sodium octyl sulfate)とカチオン系の界面活性剤、例えばセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB:cetyltrimethylammonium bromide)の混合により、強度の機械的外力を付与することなく、熱力学的に安定なベシクルを形成することが報告されている(K.Tsuchiya,H.Nakanishi,H.Sakai,M.Abe,Langmuir,20,2117-2122(2004))。
【0006】
この熱力学的に安定なベシクルは、ベシクル粒子同士の凝集や融合、膜成分の結晶化による沈澱の生成、粒子径の増大などが生じず、長期間分散安定であるため、実用上も極めて大きな利点を有している。
【0007】
ところが、カチオン系の界面活性剤は毒性を示すため、皮膚に塗布する経皮吸収促進剤の成分としては適していない。また、界面活性剤の成分が増える程、調整に手間がかかり、実用性が低下するという問題があった。
しかしながら、従来提供されているベシクル形成能を有する界面活性剤は、その多くが多成分系であり、一部ポリエチレングリコールとリン脂質の混合系も報告されているものの(例えば特許文献1参照)、アニオン系界面活性剤とカチオン性界面活性剤を混合するものがほとんどであった。
このため、毒性の面からもカチオン性を有さない、特に単一の成分で熱力学的に安定なベシクルを形成し得る物質を提供することが、ベシクルの利用範囲を拡充する上で必要不可欠な状況であった。
【0008】
また、皮膚を薬効成分の作用部位とする場合は、薬剤のターゲット部位である皮膚において薬剤濃度を高めるような経皮外用剤を用いることが好ましい。
このような要望を実現するため、経皮外用剤に、界面活性剤が形成する通常のベシクル(例えば、特許文献2参照)や、リン脂質が形成するリポソーム(例えば、特許文献3参照)、油分などの低分子の経皮吸収促進剤を配合したり、あるいは剤型を工夫するなどの方法が提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開2002−212106号公報
【特許文献2】特公平4−69129号公報
【特許文献3】特開2006−213699号公報
【特許文献4】特開2007−106733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、通常の合成界面活性剤を含む経皮外用剤は、上述した通り、毒性が懸念されるという問題がある。
また、これらの従来の経皮外用剤では、未だ十分な皮膚浸透効果が得られない場合が多く、さらなる改善が求められていた。
【0011】
このような状況において、数多く存在する界面活性剤の中でも、微生物によって量産されるバイオサーファクタントと呼ばれるものが近年大きく注目されている。
バイオサーファクタントは、生分解性が高く、低毒性で環境にも優しいことが知られている。このため、化粧品工業、食品工業、医薬品工業、化学工業、環境分野等にこれらのバイオサーファクタントを幅広く適用することは、持続可能社会の実現と高機能製品の提供という、両面を兼ね備えており極めて有意義である。
【0012】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、バイオサーファクタントの一種であり、同一分子内に二つの親水基を持つ界面活性剤であるソホロリピッドが、単成分において水中で熱力学的に安定なベシクル又はミセル等の分子集合体を形成することを発見し、さらにその分子集合体に有効成分を含ませることに成功し、本発明を完成させた。
【0013】
なお、ソホロリピッドに関連する技術として、本出願人は、特許文献4に記載の羅漢果抽出物及びソホロリピッドを含有する皮膚外用組成物を提案している。
しかしながら、この特許文献4に記載の発明は、羅漢果の線維芽細胞賦活作用、コラーゲン合成促進作用、紫外線保護効果を増強し、肌荒れ改善効果を発揮させるために、羅漢果抽出物及びソホロリピッドを含有する皮膚外用組成物を提供するものである。
また、特許文献4においては、単成分において水中で熱力学的に安定なベシクル又はミセル等の分子集合体を形成させることや、ソホロリピッドを経皮吸収制御剤の成分として使用することについては、考慮されていない。
【0014】
本発明は、単成分で生分解性に優れ毒性もない界面活性剤からなり、かつ強度の機械的外力を付与することなく容易に調製可能で熱力学的に安定なベシクル又は巨大ミセルの分子集合体からなる経皮吸収制御剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、皮膚への刺激がなく、角質細胞間脂質のラメラ液晶構造に溶解させることができ、ラメラ液晶形成を促進して肌荒れ改善効果を有すると同時に有効成分を効率よく皮膚に取り入れることができる経皮吸収制御剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の経皮吸収制御剤は、ソホロリピッドを含む分子集合体からなるものとしてある。また、この分子集合体が、ベシクル又は巨大ミセルであるものとしてある。
ソホロリピッドは、バイオサーファクタントの一種であり、単成分で生分解性に優れ、毒性のない界面活性剤である。
【0016】
また、ソホロリピッドは、強度の機械的外力を付与することなく、熱力学的に安定なベシクル又は巨大ミセルの分子集合体を形成することができる。
このため、経皮吸収制御剤をこのようなソホロリピッドを含む分子集合体からなるものにすることで、強度の機械的外力を付与することなく容易に調製可能で長期間にわたり安定なものにすることが可能である。
【0017】
また、このようなベシクル又は巨大ミセルの分子集合体の直径としては、40〜200nmとすることが好ましい。
分子集合体をこのようなものとすれば、これを含む経皮吸収制御剤を皮膚に塗布したときに、好適に角質細胞間の間隙に入り込み、細胞間脂質からなるラメラ液晶に溶解させることができる。
【0018】
また、分子集合体を、少なくとも酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、配糖体、タンパク質、脂質、又はビタミン類のいずれかの有効成分を含めたものとすることが好ましい。
経皮吸収制御剤をこのようにすれば、皮膚に塗布することで、分子集合体が角質細胞間の間隙に入り込み、細胞間脂質からなるラメラ液晶に融解して、分子集合体の含有成分をラメラ液晶内に拡散させることができる。
このため、本発明における分子集合体に有効成分を含有させることで、その有効成分の経皮吸収を顕著に促進させることが可能となる。
【0019】
また、ソホロリピッドは、次の式(1)で表されるラクトン型ソホロリピッド、式(2)で表される酸型ソホロリピッド、又は式(3)で表される酸型ソホロリピッド塩とすることが好ましい。
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
【0022】
【化3】
(上記各式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素(−H)又はアセチル基(−COCH3)であり、nは一般に11〜20、より通常には13〜17、さらにより通常には14〜16の数であり、飽和脂肪族炭化水素鎖または二重結合を少なくとも1個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖を構成している。Xはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルカノールアミンイオンなどである。)
【0023】
本発明におけるソホロリピッドをこれらのようなものにすれば、強度の機械的外力を付与することなく、長期間にわたり安定なベシクルや巨大ミセルを容易に形成させることができる。
【0024】
また、本発明の経皮吸収制御剤の製造方法は、微生物を用いてソホロリピッドを生産し、このソホロリピッドに水を加えて濃度が0.3mg/mL〜8000mg/mLになるように調整する方法としてある。
ソホロリピッドの濃度をこのような範囲にすれば、熱力学的に安定なベシクル又は巨大ミセルの分子集合体を形成させることができる。
【0025】
また、本発明の経皮吸収制御剤の製造方法は、上記のようにソホロリピッドの濃度を調整した後、次いで少なくとも酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、配糖体、タンパク質、脂質、又はビタミン類のいずれかの有効成分を混合する方法としてある。
【0026】
このように有効成分を混合することで、ソホロリピッドを含む分子集合体に有効成分を含有させることができ、その経皮吸収を促進することが可能となる。
また、有効成分として脂質や油分等を配合し、その配合量を調整することで、分子集合体の粘性を調整することもできる。
このため、皮膚内における有効成分の放出を制御することが可能である。
【0027】
また、本発明の経皮吸収制御剤の製造方法は、ソホロリピッドを含む水溶液のpHを4.5〜11.5に調整する方法としてある。
pHをこのような範囲にすることで、分子集合体の大きさを適切な範囲に調節することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、単成分で生分解性に優れ毒性もない界面活性剤からなり、かつ強度の機械的外力を付与することなく容易に調製可能で熱力学的に安定なベシクル又は巨大ミセル等の分子集合体からなる経皮吸収制御剤を提供することが可能となる。
また、皮膚への刺激がなく、角質細胞間脂質のラメラ液晶構造に溶解させることができ、ラメラ液晶形成を促進して肌荒れ改善効果を有すると同時に有効成分を効率よく皮膚に取り入れることができる経皮吸収制御剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。
[ソホロリピッド]
本発明で用いるバイオサーファクタントの一種であるソホロリピッド(以下、SLと称する場合がある。)は、キャンディダ属に属する微生物、例えばCandida bombicola、C.apicola、C.petrophilum、C.bogoriensisなどの酵母を培養することにより、その培地中に生産物として得ることができる。
【0030】
ソホロリピッドは、ソホロース又はヒドロキシル基が一部アセチル化したソホロースと、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質である。なお、ソホロースとはβ1→2結合した2分子のブドウ糖からなる糖であり、ヒドロキシル脂肪酸はヒドロキシル基を有する脂肪酸である。
ソホロリピッドは、以下の式(4)に示す通り、分子内のソホロースが結合したラクトン型と、ヒドロキシル脂肪酸のカルボキシル基が遊離した酸型とに大別され、ラクトン型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド塩が存在する。
【0031】
【化4】
【0032】
式(4)において、R1およびR2は、それぞれ独立して水素(−H)又はアセチル基(−COCH3)であり、nは一般に11〜20、より通常には13〜17、さらにより通常には14〜16の数であり、飽和脂肪族炭化水素鎖または二重結合を少なくとも1個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖を構成している。Xはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルカノールアミンイオンなどである。)
これらのソホロリピッドの分子長は、約1.8nmである。
【0033】
[ベシクル]
次に、本発明におけるベシクルについて説明する。
一般に、ベシクルは水溶液の状態では熱力学的に不安定であり、ベシクル粒子同士の凝集や融合、膜成分の結晶化による沈澱の生成、粒子径の増大などがおこる。
これに対して、長期間これらの現象が生じず、分散安定であるものを、熱力学的に安定なベシクルという。
【0034】
ベシクルでは、二分子膜層が形成されるが、このときベシクルの球状分子集合体の曲率半径がベシクルを生じるような大きさになるように、ベシクルの構成成分の親水基及び炭化水素鎖が構成されている。
すなわち、炭化水素鎖が親水基と比較して小さすぎる場合は、曲率半径がベシクルを生じるにはあまりに大きくなり、通常のミセルが生成されることになる。また、炭化水素鎖が、親水基と比較して大きすぎる場合も、曲率半径が小さくなりすぎて、ベシクルは生じない。
【0035】
したがって、熱力学的に安定なベシクルを形成させるためには、親水基と炭化水素鎖の適度なバランスが必要不可欠となる。
このバランスを制御するため、近年、アニオン系の界面活性剤(例えばSOS)とカチオン系の界面活性剤(例えばCTAB)を混合することで、強度の機械的外力を付与することなく、熱力学的に安定なベシクルが形成されることが報告されている。
しかしながら、このようなカチオン系の界面活性剤を含むベシクルには毒性があるため、経皮外用剤に好適なものとは言えない。
【0036】
本発明は、ソホロリピッドが熱力学的に安定なベシクル又は巨大ミセルの形成に適した親水基および炭化水素鎖のバランスを有しているという新たな知見にもとづいて、このソホロリピッドを、経皮吸収制御剤を構成するためのベシクル又は巨大ミセルの成分として用いることによりなし得たものである。
【0037】
図1は、このような本発明におけるソホロリピッドを含む球状分子集合体を示す模式図である。図1において、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)が、CACを超える濃度の場合に自発的に会合して、球状分子集合体を形成することが示されている。ソホロリピッド分子は双頭型(親水基−疎水基−親水基)の分子であり、糖/糖間の糖/カルボキシル基間の相互作用(水素結合)を考慮すると、一般的な二分子膜構造のベシクルとは異なり、同図に示すような一分子膜構造の球状分子集合体を形成すると考えられる。
【0038】
なお、ソホロリピッドにより形成される球状分子集合体がベシクルであるか、あるいは巨大ミセルであるかを明確に区別することは困難であるが、内部に水相が存在している球状分子集合体についてはベシクルと捉えることができる。ただし、ソホロリピッドにより形成される球状分子集合体を含む水溶液の熱力学的性質はミセルに非常に似ているという特徴がある。
【0039】
また、後述するように、この球状分子集合体には有効成分を含有させることが可能である。図1では、球状分子集合体に羅漢果配糖体を含有させた、酸型SL−羅漢果エキス混合分子集合体が示されている。同図に示すように、羅漢果エキスは、球状分子集合体にその膜成分として含有されるとともに、球状分子集合体の内水相にも含有されている。
【0040】
[経皮吸収制御剤の製造方法]
次に、ソホロリピッドを含む球状分子集合体と、その球状分子集合体からなる経皮吸収制御剤の製造方法について説明する。
(1)ソホロリピッドの生産
まず、キャンディダ属の酵母(Candida bombicola、C.apicola、C.petrophilum、C.bogoriensis等)を培養して、ソホロリピッドを生産させる。
【0041】
このときの培養条件は特に限定されないが、例えば、次のような条件とすることが好ましい。
まず、培養液の初発pHは、4.0〜5.5の範囲内で調整することが好ましい。一方、培養中のpH調節は行わなくても適切に培養することが可能である。
また、培養に適した温度範囲は20〜35℃であり、28〜30℃の場合に最も良く培養できる。
さらに、培養にあたって、通気攪拌することが望ましい。その通気攪拌速度としては、5L〜5KL容量の培養の場合で、通気量0.1〜2.0vvm、攪拌速度100rpm〜600rpmとすることが好ましい。
【0042】
培養液組成としては、炭素源として油脂及び糖類を用いることが好ましい。油脂全体の濃度は、50〜200g/Lの範囲とすることが好ましく、100〜150g/Lの範囲とすることがより好ましい。糖類は、グルコースなどの単糖類又はスクロースなどの二糖類を用いることが好ましい。また、その培養初発濃度としては、30〜150g/Lの範囲とすることが好ましく、90〜120g/Lの範囲とすることがより好ましい。窒素源としては、特に限定されないが、例えば2〜5g/Lの酵母エキス、0.5〜2g/Lの尿素等を用いることができる。さらに、生育に必要な各種有機物及びリン酸塩・マグネシウム塩等の無機塩類を適当量添加しても良い。
【0043】
培養時間は特に限定されないが、例えば6〜9日間くらいとすることができる。
ソホロリピッドは、このようにキャンディダ属の酵母を培養して得られた培養液中に複数分子種の混合物として蓄積される。通常、ラクトン型を50%以上含んでいる。
【0044】
(2)ソホロリピッドの抽出・精製
次に、上記のようにして得られた培養液からソホロリピッドを抽出して精製する。その抽出・精製方法としては、特に限定されないが、例えば、次のようにすることができる。
まず、培養液から、遠心分離、デカンテーション、酢酸エチル抽出などの方法でソホロリピッドを含む成分を分離後、さらにヘキサンで洗浄することで、茶褐色、粘性のある液体として、ソホロリピッド濃度約50%の含水物が得られる。なお、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)の調製法は、特に限定されないが、アルカリ還流による調製法を用いることができる。
【0045】
(3)球状分子集合体の製造
次に、得られたソホロリピッドを水に添加して懸濁し、水溶液内においてベシクル又は巨大ミセルと呼ばれる球状分子集合体を製造する。
このとき、ソホロリピッドの濃度範囲としては、0.3mg/mL〜8000mg/mLとすることが好ましく、0.3mg/mL〜1000mg/mLにすることがより好ましい。
ソホロリピッドの濃度範囲をこのようにすれば、熱力学的に安定なベシクル又は巨大ミセルを形成させることができる。
【0046】
また、ソホロリピッドを水に添加した後に行う懸濁においては、強度の機械的外力を付与する必要はなく、試験管を2、3回振る程度の攪拌により、ベシクル又は巨大ミセルを形成させることができる。
このように、ソホロリピッドを用いることによって、高速回転分散処理、超音波分散処理、高圧ホモジナイザー分散処理などを行うことなく、ベシクル又は巨大ミセルを形成させることができる。
【0047】
さらに、本発明によれば、ソホロリピッドを用いることによって、複数の界面活性剤やコサーファクタントを用いることなく、容易に均一かつ微細なベシクル又は巨大ミセル等の分子集合体を得ることが可能になっている。
このようにして得られたベシクル又は巨大ミセルの粒子径は100nm程度であり、少なくとも一年以上は安定である。
【0048】
なお、通常の界面活性剤の場合は、濃度の増加とともに、表面に吸着していき、飽和に達する濃度である臨界ミセル濃度(CMC)をむかえると、ミセルと呼ばれる、分子長の二倍程度の分子集合体を形成する。
これに対し、ソホロリピッドは、分子長が約1.8nmであるが、表面が飽和に達する濃度になると、粒子径が約100nmにも及ぶ球状分子集合体を形成した。この球状分子集合体は、電子顕微鏡観察の結果から、ソホロリピッドにより形成されたベシクル又は巨大ミセルであることが判明した。
【0049】
(4)混合分子集合体の製造
次に、ソホロリピッドを含む水溶液に、必要に応じて、以下に示す有効成分を配合し、ソホロリピッド−有効成分混合分子集合体を製造する。なお、有効成分を配合しない場合は、この工程は行わない。
また、有効成分の配合量としては、特に限定されないが、安定なベシクル又は巨大ミセルを形成させる観点から、ソホロリピッドの重量に対して1重量%〜100重量%とすることが好ましい。有効成分は、球状分子集合体の膜中及び球状分子集合体の内水相に取り込まれ、安定化される。
【0050】
後述するように、本発明のソホロリピッドを含む球状分子集合体からなる経皮吸収制御剤は、角質層の細胞間脂質(ラメラ液晶)に溶解して混合液晶を形成し、球状分子集合体における含有物を角質層内に放出する。これによって、本発明の経皮吸収制御剤は、ソホロリピッドや有効成分の経皮吸収を促進する。
また、有効成分として脂質や油分等を配合し、その配合量を調整することにより、ソホロリピッドを含むベシクル膜の粘性を調整することができ、含有物の放出をコントロールすることもできる。
【0051】
本発明の経皮吸収制御剤に配合する有効成分としては、例えば、配糖体、抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、タンパク質、脂質、ビタミン類等とすることが好ましい。
また、配糖体としては、羅漢果配糖体、ステビオサイド、グリチルリチンなどの甘味配糖体、スウェルチアマリン、セコイリドイド、ベルリンなどの苦味配糖体、サポニン、カルデノライドとブファジエノライドなどのステロイド配糖体、ヒアルロン酸などのアミノ酸配糖体、プエラリンなどのイソフラボン配糖体、アスタキサンチンなどのカロテノイドを挙げることができる。
なお、羅漢果、羅漢果配糖体を配合する場合、これらの濃度範囲としては、特に限定されるものではないが、ソホロリピッドの重量に対して当量未満とすることが好ましい。
【0052】
また、本発明の経皮吸収制御剤に配合する有効成分として、例えば、マカデミアナッツ油、アボガド油、トウモロコシ油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、ホホバ油、ヤシ油、パーム油、液状ラノリン、硬化ヤシ油、硬化油、モクロウ、硬化ヒマシ油、ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、イボタロウ、ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、ホホバロウ等のオイル、ワックス類、流動パラフィン、スクワラン、プリスタン、オゾケライト、パラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類、オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸等の高級脂肪酸類、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール、ミリスチルアルコール、セトステアリルアルコール等の高級アルコール等、イソオクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、アジピン酸ジイソプロピル、セバチン酸ジ−2−エチルヘキシル、乳酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ−2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジ−2−ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリン、トリ−2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタンエリトリット等の合成エステル油類、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等の鎖状ポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサンシロキサン等の環状ポリシロキサン、アミノ変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン等の変性ポリシロキサン等のシリコーン油等の油剤類、脂肪酸セッケン(ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等)、ラウリル硫酸カリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミンエーテル等のアニオン界面活性剤類、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ラウリルアミンオキサイド等の必須成分に分類されないカチオン界面活性剤類、イミダゾリン系両性界面活性剤(2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等)、ベタイン系界面活性剤(アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等)、アシルメチルタウリン等の両性界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノステアレート、セスキオレイン酸ソルビタン等)、グリセリン脂肪酸類(モノステアリン酸グリセリン等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル類(モノステアリン酸プロピレングリコール等)、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、POEソルビタン脂肪酸エステル類(POEソルビタンモノオレエート、モノステアリン酸ポリオキエチレンソルビタン等)、POEソルビット脂肪酸エステル類(POE−ソルビットモノラウレート等)、POEグリセリン脂肪酸エステル類(POE−グリセリンモノイソステアレート等)、POE脂肪酸エステル類(ポリエチレングリコールモノオレート、POEジステアレート等)、POEアルキルエーテル類(POE2−オクチルドデシルエーテル等)、POEアルキルフェニルエーテル類(POEノニルフェニルエーテル等)、プルロニック型類、POE・POPアルキルエーテル類(POE・POP2−デシルテトラデシルエーテル等)、テトロニック類、POEマシ油・硬化ヒマシ油誘導体(POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油等)、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の非イオン界面活性剤類、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、イソプレングリコール、1,2−ペンタンジオール、2,4−ヘキシレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール等の多価アルコール類、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム等の保湿成分類、グアガム、クインスシード、カラギーナン、ガラクタン、アラビアガム、ペクチン、マンナン、デンプン、キサンタンガム、カードラン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グリコーゲン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、トラガントガム、ケラタン硫酸、コンドロイチン、ムコイチン硫酸、ヒドロキシエチルグアガム、カルボキシメチルグアガム、デキストラン、ケラト硫酸, ローカストビーンガム,サクシノグルカン,カロニン酸,キチン,キトサン、カルボキシメチルキチン、寒天、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ベントナイト等の増粘剤、表面を処理されていても良い、マイカ、タルク、カオリン、合成雲母、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、無水ケイ酸(シリカ)、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等の粉体類、表面を処理されていても良い、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化コバルト、群青、紺青、酸化チタン、酸化亜鉛の無機顔料類、表面を処理されていても良い、雲母チタン、魚燐箔、オキシ塩化ビスマス等のパール剤類、レーキ化されていても良い赤色202号、赤色228号、赤色226号、黄色4号、青色404号、黄色5号、赤色505号、赤色230号、赤色223号、橙色201号、赤色213号、黄色204号、黄色203号、青色1号、緑色201号、紫色201号、赤色204号等の有機色素類、ポリエチレン末、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン粉末、オルガノポリシロキサンエラストマー等の有機粉体類、パラアミノ安息香酸系紫外線吸収剤、アントラニル酸系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、桂皮酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、糖系紫外線吸収剤、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4−メトキシ−4’−t−ブチルジベンゾイルメタン等の紫外線吸収剤類、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール類、ビタミンA又はその誘導体、ビタミンB6塩酸塩,ビタミンB6トリパルミテート,ビタミンB6ジオクタノエート,ビタミンB2又はその誘導体,ビタミンB12,ビタミンB15又はその誘導体等のビタミンB類、α−トコフェロール,β−トコフェロール,γ−トコフェロール,ビタミンEアセテート等のビタミンE類、ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチン、ピロロキノリンキノン等のビタミン類などが好ましい。植物由来のタンパク質、例えば小麦タンパク質及び大豆タンパク質、大豆イソフラボン;動物由来のタンパク質、例えばケラチン、ケラチン加水分解物及びスルホン系のケラチン、ラクトフェリン、コラーゲン、エラスチン及びこれらの誘導体並びにその塩類等のタンパク質などが好ましい。ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、卵黄レシチン、水添卵黄レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質類、スフィンゴエミリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロールから選ばれるスフィンゴリン脂質類、プラスマローゲン類、及び/又はこれらからなる群より選ばれる1種類、糖脂質が、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステル等のグリセロ脂質類、ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4等のスフィンゴ糖脂質類、及び/又はこれらの混合物、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、スフリンゴ脂質、テルペン、ステロイド、プロスタグランジン等の脂質などを用いることも好ましい。
【0053】
(5)経皮吸収制御剤の製造
次に、以上の工程により製造されたソホロリピッドを含む球状分子集合体を含む水溶液を用いて、経皮吸収制御剤を製造する。
このとき、経皮吸収制御剤の剤型としては、例えば、ローション類、乳液類、クリーム類、パック類、ゲル等とすることができる。
そして、この経皮吸収制御剤を化粧品や皮膚外用剤などの医薬品の成分として使用することができる。また、食品の添加剤として使用することも可能である。
【0054】
このとき、ソホロリピッドの配合量としては、化粧品や皮膚外用剤の全成分組成物において、0.01%〜20.0重量%とすることが好ましく、0.1〜10.0重量%とすることがより好ましい。ソホロリピッドの配合量をこのような範囲にすれば、ソホロリピッドを経皮吸収促進剤などの経皮吸収コントロール剤として好適に利用することが可能である。
なお、本発明の経皮吸収制御剤に、さらに保湿剤、防腐剤、界面活性剤、増粘剤、油剤、溶剤、香料、pH調整剤等を本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合してもよい。
【0055】
[ラメラ液晶形成促進作用]
次に、ソホロリピッドのラメラ液晶形成促進作用について説明する。
皮膚の角質層におけるバリア機能は、細胞間脂質により構成されるラメラ液晶が大きく関与している。例えば、乾燥して傷んだ肌においては、ラメラ液晶の構造が崩壊して、ラメラ液晶が減少していることが実証されている。
【0056】
したがって、角質層におけるラメラ構造を再生することができれば、角質層の水分保持能を回復して、皮膚にうるおいを与え、肌荒れを解消することができるものと考えられる。
また、経皮吸収においては、有効成分及び有効成分と相互作用する経皮吸収促進剤が、細胞間脂質のラメラ構造に入り込むことは重要である。
本発明の経皮吸収制御剤は、ソホロリピッドを含む球状分子集合体が角質細胞間脂質のラメラ液晶形成促進作用を有し、肌荒れ改善効果を有することが判明している。
また、本発明の経皮吸収制御剤は、ラメラ液晶形成促進に寄与していることから、ラメラ液晶に溶解して混合液晶を形成することが証明され、有効成分を角質細胞間に拡散させることが可能となっている。
【0057】
図2は、このような本発明のソホロリピッドを含む球状分子集合体からなる経皮吸収促進剤の皮膚浸透のようすを示す模式図である。
図2において、羅漢果配糖体を有効成分として含む混合球状分子集合体が示されており、これが角質細胞間の間隙に入り込んで、ラメラ液晶に溶解して混合液晶を形成するようすが示されている。また、有効成分である羅漢果配糖体が、角質層内において拡散するようすが示されている。
【0058】
以上説明したように、本発明の経皮吸収制御剤は、ソホロリピッドを用いることにより、従来技術のように複数の界面活性剤や強度の機械的外力を必要とすることなく、ベシクル又は巨大ミセルの分子集合体を形成することができる。
このため、経皮吸収制御剤の製造プロセスを簡略化することができ、大幅な製造コストの削減を期待することが可能である。
【0059】
また、ソホロリピッドは生分解性に優れるのみならず、毒性がなく、酵母により各種の再生可能資源から生産することができる。このため、ソホロリピッドを用いることは、従来の複数の界面活性剤などを用いる場合に比べ、地球環境保全の観点からも好ましい。
さらに、本発明におけるソホロリピッドを含むベシクル等は、熱力学的に安定であるため、長期間分散安定であり、かつ100nm程度の微細な粒子径を有するため、ベシクルに内包させた化粧品成分や医薬品成分、さらに食品成分の吸収促進などを期待することもできる。
【0060】
また、ソホロリピッド、又はそのベシクルや巨大ミセルなどの分子集合体は、角質細胞間の間隙に入り込んで、細胞間脂質のラメラ液晶に溶解することができ、ラメラ液晶形成を促進して肌荒れ改善効果を有する。
さらに、分子集合体に含まれた有効成分を、効率よく皮膚に取り入れることができる。また、有効成分として脂質や油分等を配合することで、分子集合体の粘性を調整でき、その分子集合体の内容物の放出をコントロールすることも可能である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)臨界会合体形成濃度の算出
まず、本発明で用いるソホロリピッドの臨界会合体形成濃度(CAC)及びその際の表面張力値(γCAC)を求めるため、ペンダントドロップ法による表面張力測定を行った。
ソホロリピッドとしては、上述した「(1)ソホロリピッドの生産」に記載した工程により生産した、酸型ソホロリピッド(SL−H)と酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)を用いた。
【0062】
表面張力の測定は、協和界面科学社製のdrop masterDM500を用いて行った。結果を図3に示す。
図3に示されるように、酸型ソホロリピッド(SL−H)のCAC及びγCACの値は、それぞれ0.30mg/mL、35.3mN/mであった。また、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)のCAC及びγCACの値は、それぞれ0.84mg/mL、32.4mN/mであった。
【0063】
この結果から、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)については、1mg/mL以上の濃度の水溶液とすれば、十分に会合体が形成されることがわかる。
そこで、以下の実施例及び試験例においては、1mg/mLの酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)及び1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)を使用した。
【0064】
(実施例2)球状分子集合体の電子顕微鏡(TEM)観察
次に、実施例1で用いた酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)10mgと、水10mLとを、500mLトールビーカーに加えて、ソホロリピッドの濃度を1mg/mLとし、トールビーカーを手で2、3回軽く震盪することにより攪拌した。
そして、この水溶液中に形成された球状分子集合体を、電子顕微鏡(TEM)で観察した。この電子顕微鏡としては、日本電子社製のJEM−1010を用いた。結果を図4に示す。
【0065】
図4に示される通り、形成された球状分子集合体は、通常のミセルではなく、粒子径100nm程度のベシクル様構造を呈していた。また、この実施例2で用いた酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)水溶液は、少なくとも一年以上安定であった。
したがって、得られたベシクル様構造が、熱力学的に安定であることが明らかになった。
このようなソホロリピッドを含む粒子径100nm程度のベシクル様構造は、新規の球状分子集合体である。
【0066】
(実施例3)球状分子集合体への有効成分の配合、及び粒子径の測定
次に、実施例2において製造された、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)からなる球状分子集合体に、有効成分として羅漢果配糖体を配合した。また、球状分子集合体の粒子径を測定した。
【0067】
このとき、羅漢果配糖体の配合割合として、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)水溶液に対し、羅漢果配糖体を0.02重量%、0.1重量%配合して得られた混合分子集合体のサンプルをそれぞれ作成した。
そして、これらのサンプルと、羅漢果配糖体を配合していないサンプルについて、動的光散乱法(DLS)を用いて、分子集合体の粒子径を測定した。この動的光散乱法には、大塚電子社製DLS−7000を用いた。結果を図5に示す。
【0068】
通常、界面活性剤が形成するミセルの粒子径は分子長の2倍程度の大きさになることが知られている。
しかしながら、図5に示される通り、酸型ソホロリピッド塩(1mg/mL)を含み、羅漢果配糖体を配合していない分子集合体の粒子径は、96.2nmであり、酸型ソホロリピッド塩の分子長約1.8nmに比較して大きな粒子径のベシクル様構造が形成されることが判明した。この結果は、実施例2において説明した電子顕微鏡(TEM)による観察結果とも良く一致していた。
【0069】
さらに、図5に示される通り、羅漢果配糖体の配合量に依存して、分子集合体の粒子径が増大することも明らかになった。
以上の結果から、希薄溶液において、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)の分子集合体に羅漢果配糖体を配合可能であることが明らかになった。
【0070】
(実施例4)球状分子集合体へのpHの影響
次に、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)からなる分子集合体(1mg/mL)へのpHの影響について、動的光散乱法(DLS)及び電子顕微鏡(TEM)観察により検討した。
すなわち、動的光散乱法(DLS)により、種々のpHにおける酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)からなる分子集合体の粒子径を測定し、分子集合体形成に対するpHの影響を調査した。なお、pHの調整は、実施例2において作成した酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)からなる球状分子集合体を含む水溶液に、pH調整剤を添加することにより行った。結果を図6に示す。
また、電子顕微鏡(TEM)を用いて、酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)が形成する分子集合体を撮影した。結果を図7に示す。
【0071】
図6に示される通り、pHの上昇に伴って、球状分子集合体の粒子径が増大することが明らかになった。
また、図7に示される通り、いずれのpHにおいてもベシクル様の分子集合体が確認された。
さらに、特にpH4.5の場合に、球状分子集合体の粒子径が小さくなることが判明した。このような粒子径が小さい球状分子集合体からなる経皮吸収制御剤によれば、経皮吸収促進効果がより向上することが期待される。
【0072】
以上のことから、経皮吸収制御剤を製造するにあたっては、ソホロリピッドを含む水溶液のpHを4.5〜11.5に調整すれば、適切に球状分子集合体が形成されることがわかる。
弱酸性を含むこのようなpHの範囲でベシクル様の分子集合体を形成できることは、これを含む経皮吸収制御剤を製造するにあたり、実用上大変有効である。
【0073】
(実施例5)ラメラ液晶の形成
次に、人工的な角質細胞間脂質に、ソホロリピッドを含む球状分子集合体からなる経皮吸収制御剤等を添加し、ラメラ液晶の形成状況を、偏光板を用いて顕微鏡写真撮影により評価した(桜井 哲人、フレグランス ジャーナル、33(10)、57(2005))。
【0074】
人工的な角質細胞間脂質は、次のように作成した。まず、セラミドII、コレステロール、ステアリン酸、硫酸コレステロール、水を、12:8:8:2:70の割合で混合し、80℃で約1時間加熱して脂質成分を融解させ、10℃で10分間超音波処理を行った。さらに、再度80℃で約1時間融解混合を行った後、10℃で10分間超音波処理を行った。これにより、人工角質細胞間脂質を得た。
【0075】
また、人工角層細胞間脂質の作成にあたり、その組成中の水を、それぞれ1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)、1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)+1%羅漢果配糖体、1%レシチンに置き換えて、上記と同様の操作を行い、これらの組成を含む人工角層細胞間脂質を得た。
そして、以上の人工角質細胞間脂質について、ラメラ液晶の形成状況の撮影を行った。結果を図8に示す。
【0076】
図8に示される通り、「(a)人工角質細胞間脂質のみ」に比較して、「(b)1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)」及び「(c)1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)+1%羅漢果配糖体」を添加した場合に、ラメラ液晶の形成が顕著に増加している。また、その効果は、「(d)1%レシチン」を添加した場合よりも大きくなっている。
このことから、ソホロリピッドを含む球状分子集合体により、ラメラ液晶の形成が大きく促進されることがわかった。
【0077】
また、ソホロリピッドと羅漢果配糖体を含む球状分子集合体を人工角質細胞間脂質に添加した場合にも、ラメラ液晶の形成が顕著に増加している。
このことから、相互作用している羅漢果配糖体はソホロリピッドと一緒にラメラ液晶に入り込み、角質層内に拡散すると考えられる。
【0078】
(試験例1)経皮透過試験
ソホロリピッドを含む球状分子集合体の皮膚浸透効果を調べるため、人工皮膚を用いて、ソホロリピッドの経皮透過試験を行った。人工皮膚としては、3次元培養皮膚モデルLSE−high(東洋紡製)を用いた。
この人工皮膚の表面に、1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)からなる球状分子集合体を適用して、一定時間後に透過したソホロリピッドを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量した。結果を図9に示す。
【0079】
図9に示される通り、ソホロリピッドの経皮透過率は、時間依存的に顕著に増加した。このことから、ソホロリピッドを含む球状分子集合体は、優れた皮膚浸透効果を有することがわかる。
【0080】
(試験例2)ソホロリピッドによる羅漢果配糖体の経皮吸収促進試験
ソホロリピッドを含む球状分子集合体による有効成分の経皮吸収促進効果を調べるため、人工皮膚を用いて、ソホロリピッドによる羅漢果配糖体の経皮吸収促進試験を行った。人工皮膚としては、試験例1と同様に、3次元培養皮膚モデルLSE−high(東洋紡製)を用いた。
この人工皮膚の表面に、0.1%羅漢果配糖体と、0.1%羅漢果配糖体及び1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)からなる混合分子集合体とをそれぞれ適用して、2時間後に羅漢果配糖体の主成分であるモグロサイドVをHPLCで定量した。結果を図10に示す。
【0081】
図10に示される通り、0.1%羅漢果配糖体については、適用2時間後でもモグロサイドVがほぼ100%残存しているのに対し、0.1%羅漢果配糖体に1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)を添加したものについては、適用2時間後のモグロサイドVの残存率は88%に減少している。
【0082】
すなわち、1%酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)を添加することにより、羅漢果配糖体の経皮吸収率が顕著に増加している。
このことから、ソホロリピッドが羅漢果配糖体の経皮吸収促進剤として機能することがわかった。
【0083】
(試験例3)保湿試験
ソホロリピッドを皮膚外用剤に含有させた場合の、水分保持能の変化を調べるため、図11に示すように、ソホロリピッドを含まない組成物1と、ソホロリピッドを0.1%配合した組成物2を準備した。
そして、6名の被験者の皮膚に組成物1、組成物2をそれぞれ0.02g塗布し、4時間前後の水分量の変化をCorneometerCM825(Courage+Khazaka社製)で測定してその平均値を算出した。結果を図12に示す。
【0084】
図12に示す通り、皮膚の水分保持能は、ソホロリピッドを0.1%配合した組成分2を塗布した場合の方が、ソホロリピッドを含まない組成物1を塗布した場合よりも増加した。
ソホロリピッドがヒアルロン酸や羅漢果配糖体などの保湿成分の経皮吸収を促進した結果、保湿効果が増加したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のソホロリピッドを含む球状分子集合体からなる経皮吸収制御剤は、化粧品や医薬品、食品などの添加剤として、好適に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明におけるソホロリピッドを含む球状分子集合体を示す模式図である。
【図2】本発明のソホロリピッドを含む球状分子集合体からなる経皮吸収促進剤の皮膚浸透のようすを示す模式図である。
【図3】本発明の実施例1における酸型ソホロリピッド(SL−A)及び酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)の臨界会合体形成濃度(CAC)の測定結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例2における酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)が形成する分子集合体の電子顕微鏡観察(TEM)結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例3における酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)が形成する分子集合体の粒子径に及ぼす羅漢果添加の影響を示す図である。
【図6】本発明の実施例4における酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)が形成する分子集合体の粒子径に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図7】本発明の実施例4における酸型ソホロリピッド塩(SL−Na)が形成する分子集合体の構造に及ぼすpHの影響を電子顕微鏡観察(TEM)した結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例5におけるソホロリピッドを含む経皮吸収促進剤による角質細胞間脂質のラメラ液晶形成促進結果を示す図である。
【図9】本発明の試験例1におけるソホロリピッドの経皮透過率を示す図である。
【図10】本発明の試験例2における羅漢果配糖体の皮膚表面残存率を示す図である。
【図11】本発明の試験例3におけるソホロリピッドを含む組成物の成分表である。
【図12】本発明の試験例3における保湿試験の結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソホロリピッドを含む分子集合体からなることを特徴とする経皮吸収制御剤。
【請求項2】
前記分子集合体が、ベシクル又は巨大ミセルであることを特徴とする請求項1記載の経皮吸収制御剤。
【請求項3】
前記分子集合体の直径が、40〜200nmであることを特徴とする請求項1又は2記載の経皮吸収制御剤。
【請求項4】
前記分子集合体が、少なくとも酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、配糖体、タンパク質、脂質、又はビタミン類のいずれかの有効成分を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の経皮吸収制御剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の経皮吸収制御剤が皮膚に塗布されると、
前記分子集合体が角質細胞間の間隙に入り込み、細胞間脂質からなるラメラ液晶に融解して、前記分子集合体の含有成分を前記ラメラ液晶内に拡散することを特徴とする経皮吸収制御剤。
【請求項6】
前記ソホロリピッドが、次の式(1)で表されるラクトン型ソホロリピッドであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の経皮吸収制御剤。
【化1】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素(−H)又はアセチル基(−COCH3)であり、nは一般に11〜20、より通常には13〜17、さらにより通常には14〜16の数であり、飽和脂肪族炭化水素鎖または二重結合を少なくとも1個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖を構成している。)
【請求項7】
前記ソホロリピッドが、次の式(2)で表される酸型ソホロリピッドであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の経皮吸収制御剤。
【化2】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素(−H)又はアセチル基(−COCH3)であり、nは一般に11〜20、より通常には13〜17、さらにより通常には14〜16の数であり、飽和脂肪族炭化水素鎖または二重結合を少なくとも1個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖を構成している。)
【請求項8】
前記ソホロリピッドが、次の式(3)で表される酸型ソホロリピッド塩であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の経皮吸収制御剤。
【化3】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素(−H)又はアセチル基(−COCH3)であり、nは一般に11〜20、より通常には13〜17、さらにより通常には14〜16の数であり、飽和脂肪族炭化水素鎖または二重結合を少なくとも1個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖を構成している。Xはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルカノールアミンイオンなどである。)
【請求項9】
微生物を用いてソホロリピッドを生産し、このソホロリピッドに水を加えて濃度が0.3mg/mL〜8000mg/mLになるように調整することを特徴とする経皮吸収制御剤の製造方法。
【請求項10】
前記濃度に調整した後、次いで少なくとも酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、配糖体、タンパク質、脂質、又はビタミン類のいずれかの有効成分を混合することを特徴とする請求項9記載の経皮吸収制御剤の製造方法。
【請求項11】
前記ソホロリピッドを含む水溶液のpHを4.5〜11.5に調整することを特徴とする請求項9又は10記載の経皮吸収制御剤の製造方法。
【請求項1】
ソホロリピッドを含む分子集合体からなることを特徴とする経皮吸収制御剤。
【請求項2】
前記分子集合体が、ベシクル又は巨大ミセルであることを特徴とする請求項1記載の経皮吸収制御剤。
【請求項3】
前記分子集合体の直径が、40〜200nmであることを特徴とする請求項1又は2記載の経皮吸収制御剤。
【請求項4】
前記分子集合体が、少なくとも酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、配糖体、タンパク質、脂質、又はビタミン類のいずれかの有効成分を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の経皮吸収制御剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の経皮吸収制御剤が皮膚に塗布されると、
前記分子集合体が角質細胞間の間隙に入り込み、細胞間脂質からなるラメラ液晶に融解して、前記分子集合体の含有成分を前記ラメラ液晶内に拡散することを特徴とする経皮吸収制御剤。
【請求項6】
前記ソホロリピッドが、次の式(1)で表されるラクトン型ソホロリピッドであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の経皮吸収制御剤。
【化1】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素(−H)又はアセチル基(−COCH3)であり、nは一般に11〜20、より通常には13〜17、さらにより通常には14〜16の数であり、飽和脂肪族炭化水素鎖または二重結合を少なくとも1個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖を構成している。)
【請求項7】
前記ソホロリピッドが、次の式(2)で表される酸型ソホロリピッドであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の経皮吸収制御剤。
【化2】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素(−H)又はアセチル基(−COCH3)であり、nは一般に11〜20、より通常には13〜17、さらにより通常には14〜16の数であり、飽和脂肪族炭化水素鎖または二重結合を少なくとも1個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖を構成している。)
【請求項8】
前記ソホロリピッドが、次の式(3)で表される酸型ソホロリピッド塩であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の経皮吸収制御剤。
【化3】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素(−H)又はアセチル基(−COCH3)であり、nは一般に11〜20、より通常には13〜17、さらにより通常には14〜16の数であり、飽和脂肪族炭化水素鎖または二重結合を少なくとも1個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖を構成している。Xはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルカノールアミンイオンなどである。)
【請求項9】
微生物を用いてソホロリピッドを生産し、このソホロリピッドに水を加えて濃度が0.3mg/mL〜8000mg/mLになるように調整することを特徴とする経皮吸収制御剤の製造方法。
【請求項10】
前記濃度に調整した後、次いで少なくとも酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、配糖体、タンパク質、脂質、又はビタミン類のいずれかの有効成分を混合することを特徴とする請求項9記載の経皮吸収制御剤の製造方法。
【請求項11】
前記ソホロリピッドを含む水溶液のpHを4.5〜11.5に調整することを特徴とする請求項9又は10記載の経皮吸収制御剤の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2009−62288(P2009−62288A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229294(P2007−229294)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000106106)サラヤ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000106106)サラヤ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】
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