説明

タイダウンフック

【課題】フック本体を保持するブラケットを車体にボルト締結するタイダウンフックにおいて、ブラケットに設けた回り止め部周辺のシール性を容易かつ確実に確保する。
【解決手段】ブラケット3のプレート部3bは、車体側プレート5と車室側プレート6とを重ね合わせてなり、前記プレート部3bには、前記両プレート5,6をそれぞれ貫通してボルト4を挿通する貫通孔7が形成され、前記車体側プレート5の外縁部よりも内側には、前記ボルト4の締結時に前記ブラケット3の共回りを防止するべく前記車体側に形成された開口内に挿入される回り止め部8が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車室内の荷物等を固定するためのタイダウンフックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記タイダウンフックにおいて、フック本体をブラケットで揺動可能に保持し、該ブラケットのプレート部を車体にボルトにより固定するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特表2003−523879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の構成においては、ボルト締結時におけるブラケットの共回りを防止するべく、プレート部の外縁部外側に形成した突出片を折り曲げて車体側へ突出する回り止め部を形成している。
しかしながら、前記回り止め部は車体側に形成された開口内に挿入されるものであり、該開口からの排気ガスや水等の車室内への浸入を防止するには、開口を袋状に形成したり開口周辺を気密及び水密状態に覆う等の対策が必要となるため、タイダウンフック周りの構造を複雑化させるという課題がある。
そこでこの発明は、フック本体を保持するブラケットを車体にボルト締結するタイダウンフックにおいて、ブラケットに設けた回り止め部周辺のシール性を容易かつ確実に確保すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、フック本体(例えば実施例のフック本体2)をブラケット(例えば実施例のブラケット3)で揺動可能に保持し、該ブラケットのプレート部(例えば実施例のプレート部3b)を車体(例えば実施例の車体12)にボルト(例えば実施例のボルト4)により固定するタイダウンフック(例えば実施例のタイダウンフック1)において、前記プレート部は、車体側プレート(例えば実施例の車体側プレート5)と車室側プレート(例えば実施例の車室側プレート6)とを重ね合わせてなり、前記プレート部には、前記両プレートをそれぞれ貫通して前記ボルトを挿通する貫通孔(例えば実施例の貫通孔7)が形成され、前記車体側プレートの外縁部よりも内側には、前記ボルトの締結時に前記ブラケットの共回りを防止するべく前記車体側に形成された開口(例えば実施例の開口14)内に挿入される回り止め部(例えば実施例の回り止め部8)が設けられることを特徴とする。
【0005】
請求項2に記載した発明は、前記回り止め部は、前記車体側プレートの一部に略コ字状の切り込み(例えば実施例の切り込み8a)を入れて突出片(例えば実施例の突出片8b)を形成し、該突出片を折り曲げて前記車体側に突出させてなることを特徴とする。
【0006】
請求項3に記載した発明は、前記開口の周囲を囲むシール部材(例えば実施例のシール部材16)を備え、該シール部材が前記車体側プレートと車体との間に介装されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載した発明によれば、ブラケットの車体側プレートの外縁部よりも内側に回り止め部を設けることで、車体側プレートと車体との間に開口の周囲を囲むシール部材を介装することが可能となり、開口からの排気ガスや水等の車室内への浸入を容易かつ確実に防止できる。このとき、前記シール部材が車体のナット孔の周囲をも囲むことで、ボルト周辺のシール性も同様に確保することが可能となる。また、回り止め部が車体側プレートの一部を切り起こしてなるものであっても、その車室側を車室側プレートが覆うこととなり、回り止め部周辺のシール性を上記同様に確保することが可能となる。
【0008】
請求項2に記載した発明によれば、車体側プレートに切り残した突出片を折り曲げるのみで回り止め部を形成でき、ブラケットの製造工数を低減できる。また、切り込みの車室側を車室側プレートが覆うこととなり、回り止め部周辺のシール性を容易かつ確実に確保できる。
【0009】
請求項3に記載した発明によれば、開口からの排気ガスや水等の車室内への浸入を防止できると共に、シール部材が車体のナット孔の周囲をも囲むことで、ボルト周辺のシール性も同様に確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1,2に示すタイダウンフック1は、自動車の車室11の床面等に取り付けられ、荷物やチャイルドシート等を固定するタイダウンベルト等を係止するアンカーとして用いられる。タイダウンフック1は、フック本体2及び該フック本体2を揺動可能に保持するブラケット3を主になり、前記ブラケット3がフロアパネル等の車体12にボルト4を用いて固定される。
【0011】
フック本体2は、例えば断面円形の鋼材をD字状に屈曲させて閉ループ形状としたもので、U字状の湾曲部2aと、該湾曲部2aの両端部間に渡る直線部2bとを有してなる。直線部2bは、例えば前記円形鋼材の両端側を互いに同軸に向かい合わせてなる。
一方、ブラケット3は、例えば単一の帯状鋼板をその両端側が互いに重なり合うように折り曲げてなり、その折り曲げ部分には、フック本体2の直線部2bを保持する円筒状の保持部3aが形成される。換言すれば、ブラケット3は、フック本体2の直線部2bを挟み込むように帯状鋼板を折り曲げてなり、その折り曲げ部分が前記直線部2bに巻き付くように円筒状に形成されてなる。なお、保持部3a内周と直線部2b外周との間には樹脂製の緩衝材9aが介装される。
【0012】
以下、ブラケット3における互いに重なり合う両端側からなる平坦部分をプレート部3bとし、該プレート部3bの車体12側を車体側プレート5、車室11側を車室側プレート6とする。両プレート5,6は概ね同一の外縁形状を有する。詳細には、車体側プレート5の外縁形状は車室側プレート6のそれよりも一回り小さくされる。
プレート部3bには、前記両プレート5,6をそれぞれ貫通する前記ボルト4挿通用の貫通孔7が形成されると共に、車体側プレート5には、ボルト4締結時におけるブラケット3の共回り防止用の回り止め部8が形成される。
【0013】
図3を併せて参照し、回り止め部8は、車体側プレート5の外縁部よりも内側に平面視略コ字状の切り込み8aを形成し、該切り込み8a内側に切り残した突出片8bを車体12側に折り曲げることで、該突出片8bを車体側プレート5の車体側外面よりも車体12側に略垂直に突出させてなる。
車体12における前記ボルト4螺着用のナット孔13の近傍には、回り止め部8挿入用の開口14が形成される。そして、車体側プレート5の車体側外面を車体12の車室側外面に対向させ、前記貫通孔7をナット孔13に重ねると共に回り止め部8を開口14内に挿入した状態で、貫通孔7に挿通したボルト4を車体12のナット孔13に螺着し締め込むことで、ブラケット3の共回りを防止しつつタイダウンフック1を車体12に取り付けることが可能となる。なお、前記保持部3aは、車体12への取り付け時に該車体12と干渉しないように、プレート部3bに対して車室11側に変位して設けられている。
【0014】
車体側プレート5の車体側外面には、例えばバルカナイズドファイバー(JIS C 2315)からなる板状のシール部材16が設けられる。シール部材16は車体側プレート5よりも小型の外縁形状を有し、ボルト4の首下を挿通する円孔17と回り止め部8を挿通する角孔18とを有する。
円孔17の一端部は直線部17aとされ、該直線部17aを弾性変形させつつボルト4の首下を円孔17に挿通することで、円孔17からのボルト4の自然脱落が防止される。これにより、ブラケット3、ボルト4及びシール部材16を一体的に取り扱うことが可能となる。
【0015】
シール部材16は、ブラケット3の車体12への固定時には、車体側プレート5の車体側外面と車体12の車室側外面との間に挟圧される。このとき、シール部材16は車体12のナット孔13の周囲及び開口14の周囲をそれぞれ取り囲み、ナット孔13及び開口14の周囲を気密及び水密にシールする。すなわち、車体12におけるタイダウンフック1取り付け用の開口14及びナット孔13周りのシール性を容易かつ確実に確保することが可能となる。また、シール部材16に断熱性を持たせることで、車体12における比較的高温になる部位(エンジン排気系の近傍等)においても、別途断熱対策を用いることなくタイダウンフック1を設置することが可能となる。
【0016】
以上説明したように、上記実施例におけるタイダウンフック1は、フック本体2をブラケット3で揺動可能に保持し、該ブラケット3のプレート部3bを車体12にボルト4により固定するものにおいて、前記プレート部3bは、車体側プレート5と車室側プレート6とを重ね合わせてなり、前記プレート部3bには、前記両プレート5,6をそれぞれ貫通して前記ボルト4を挿通する貫通孔7が形成され、前記車体側プレート5の外縁部よりも内側には、前記ボルト4の締結時に前記ブラケット3の共回りを防止するべく前記車体12側に形成された開口14内に挿入される回り止め部が設けられるものである。
【0017】
この構成によれば、ブラケット3の車体側プレート5の外縁部よりも内側に回り止め部を設けることで、車体側プレート5と車体12との間に開口14の周囲を囲むシール部材16を介装することが可能となり、開口14からの排気ガスや水等の車室11内への浸入を容易かつ確実に防止できる。このとき、前記シール部材16が車体12のナット孔13の周囲をも囲むことで、ボルト4周辺のシール性も同様に確保することが可能となる。また、回り止め部が車体側プレート5の一部を切り起こしてなるものであっても、その車室11側を車室側プレート6が覆うこととなり、回り止め部周辺のシール性を上記同様に確保することが可能となる。
【0018】
また、上記タイダウンフック1においては、前記回り止め部が、前記車体側プレート5の一部に略コ字状の切り込み8aを入れて突出片8bを形成し、該突出片8bを折り曲げて前記車体12側に突出させてなることで、車体側プレート5に切り残した突出片8bを折り曲げるのみで回り止め部を形成でき、ブラケット3の製造工数を低減できる。また、切り込み8aの車室11側を車室側プレート6が覆うこととなり、回り止め部周辺のシール性を容易かつ確実に確保できる。
【0019】
さらに、上記タイダウンフック1においては、前記開口14の周囲を囲むシール部材16を備え、該シール部材16が前記車体側プレート5と車体12との間に介装されることで、開口14からの排気ガスや水等の車室11内への浸入を防止できると共に、シール部材16が車体12のナット孔13の周囲をも囲むことで、ボルト4周辺のシール性も同様に確保することが可能となる。
【0020】
なお、この発明は上記実施例に限られるものではなく、例えば前記フック本体2は、前記直線部2bに相当する部位を有していれば、三角又は四角形状等であってもよく、かつ閉ループ形状に限らずC字状の如く開放部を有するものであってもよい。また、ブラケット3において、両プレート5,6が互いに別体構成であってもよい。
そして、上記実施例における構成はこの発明の一例であり、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施例におけるタイダウンフックを車室側から見た斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】上記タイダウンフックを車体側から見た斜視図である。
【図4】(a)は上記タイダウンフックにシール部材を装着した状態の図3に相当する斜視図、(b)は上記シール部材の平面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 タイダウンフック
2 フック本体
3 ブラケット
3b プレート部
4 ボルト
5 車体側プレート
6 車室側プレート
7 貫通孔
8 回り止め部
8a 切り込み
8b 突出片
11 車室
12 車体
14 開口
16 シール部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フック本体をブラケットで揺動可能に保持し、該ブラケットのプレート部を車体にボルトにより固定するタイダウンフックにおいて、
前記プレート部は、車体側プレートと車室側プレートとを重ね合わせてなり、前記プレート部には、前記両プレートをそれぞれ貫通して前記ボルトを挿通する貫通孔が形成され、前記車体側プレートの外縁部よりも内側には、前記ボルトの締結時に前記ブラケットの共回りを防止するべく前記車体側に形成された開口内に挿入される回り止め部が設けられることを特徴とするタイダウンフック。
【請求項2】
前記回り止め部は、前記車体側プレートの一部に略コ字状の切り込みを入れて突出片を形成し、該突出片を折り曲げて前記車体側に突出させてなることを特徴とする請求項1に記載のタイダウンフック。
【請求項3】
前記開口の周囲を囲むシール部材を備え、該シール部材が前記車体側プレートと車体との間に介装されることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイダウンフック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−285063(P2008−285063A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132925(P2007−132925)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】