説明

タイヤのフェアリング装置

【課題】 車両が横風を受けた場合にも横風によって車体の斜め前方より車体下面をタイヤに向かって流れるタイヤまわりの気流を弱めてタイヤに当たるようにガイドし横風安定性を向上することができるタイヤのフェアリング装置を提供すること。
【解決手段】 左右のフェアリング体11の気流受け面13、13は、板状に垂下するようにバンパーフェイシャー側下面部26、26から車体下方へ突出されているとともに、左右のタイヤ40、40の前面41、41の夫々に近接かつ、対面して設けられ、前記気流受け面13、13が平面視において、左右のタイヤ40、40の前面41、41と平行を成す仮想平行線LAに対し角度θを有し、前記左右のタイヤ40、40の夫々の前面41、41に対し夫々の気流受け面13、13が傾斜して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤよりも車体前方に設けられ、車体下面をタイヤに向って流れるタイヤまわりの気流をガイドするタイヤのフェアリング装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤが受ける風圧およびホィールハウスへの気流の巻き込みを軽減し、高速走行時の直進安定性、操縦安定性を向上させるため車体下面をタイヤの前面に向って流れる気流を整える等、タイヤまわりの気流をガイドするタイヤのフェアリング装置が提案されている。
【0003】
この従来のタイヤまわりの気流をガイドするタイヤのフェアリング装置としては、次のような揚力低減装置に形成されたものが知られている。
この揚力低減装置は、エンジンルームの前側下部を覆うアンダーカバーの主部を成す平板と、この平板よりも下方に突出形成されるとともに平面視においてV字状に形成されたV型突起とから成り、V型突起は車両中心線上に位置するV字の頂点部分と、この頂点部分よりも斜め後方に直状に延びる一対の左右突起部とを備えるものである。
【0004】
また、このV型突起と左右のタイヤとの関係は、前記左右突起部の左右端末部からの延長線に対し、車両内側領域に左右のタイヤが位置するように設定されているものである。
そして、この揚力低減装置は、空気抵抗低減化を図れるとともに揚力低減効果を得られるように成されたものであるが、加えてV型突起に形成された左右突起部の左右端末部よりも車体側方側に流動する気流をタイヤの外側に流れるようにガイドでき、タイヤに巻き込まれる気流量を低減できるというものである。
(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−142929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来の技術にあっては、以下に述べるような問題があった。即ち、上述の従来技術にあっては、左右のタイヤがV型突起に形成された左右突起部の左右端末部からの延長線に対し、車両内側領域に位置するものである。したがって、前記左右端末部は、タイヤの前面と対面する位置まで延在されていないものである。加えて、前記左右端末部がタイヤと近接して配置されると前記左右突起部を流動する気流が左右端末部から直接タイヤに当たるようにガイドされてしまう。
【0006】
このため、前記左右端末部よりも車体側方側に流動する気流がタイヤに巻き込まれずにタイヤの外側へ流れるようにガイドするには左右端末部がタイヤよりも車両前方に離間した位置に配置されなければならないものである。したがって、車両走行時に車両斜め前方からタイヤに向かう気流を受けることになる横風に対しては、前記左右端末部とタイヤの間の離間した空間で横風を受けて車両中心側に曲げられた気流および前記左右突起部を乗り越えた気流がタイヤの前面に当たるため車両が横風を受けた場合にタイヤのフェアリング装置としての効果を奏することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、車両が横風を受けた場合にも横風によって車体の斜め前方よりも車体下面をタイヤに向かって流れるタイヤまわりの気流を弱めてタイヤに当たるようにガイドし横風安定性を向上することができるタイヤのフェアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、
タイヤよりも車体前方に設けられ、車体下面をタイヤに向って流れるタイヤまわりの気流をガイドする左右一対のフェアリング体を有するタイヤのフェアリング装置であって、
前記フェアリング体は、車体下面をタイヤに向かって流れる気流を受ける気流受け面が形成され、
該気流受け面は、気流受け面の車体中心側端が気流受け面の車体側方側端よりもタイヤに近くなるように、車体幅方向に対し角度を有して傾斜し、かつ、タイヤの前面に近接するとともに、対面して設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、フェアリング体の気流受け面が、車体中心側端が車体側方側端よりもタイヤに近くなるように平面視、傾斜するように配置されている。すなわち、フェアリング体の気流受け面が車体斜め前方からの気流の流れに対し、タイヤの前面に向かって流れる気流をより幅広く当てる方向を向いており、気流受け面に対して広い範囲のタイヤ前面に向かって流れる気流を効率よく当てることができる。よって、タイヤの横力を弱めることができ、また、タイヤの空気抵抗を低減し、横風安定性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のタイヤのフェアリング装置を実施するための最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、実施例1の構成を説明する。
図1はこの実施例1のタイヤのフェアリング装置が適用された車両の前端に設けられたフロントのバンパーフェイシャーを示し、中央に縦断面を描いた車体の前方斜め下方から見た全体の斜視図、図2は実施例1のタイヤのフェアリング装置のフェアリング体を示す斜視図、図3は実施例1のタイヤのフェアリング装置のフェアリング体を示す図1のA−A断面図、図4は実施例1のタイヤのフェアリング装置の作用説明図である。
【0012】
実施例1のタイヤのフェアリング装置10は、図1に示すように、フロントのバンパーフェイシャー20の左右側端部24、24の左右下面25、25がバンパーフェイシャー20の車体後方に設けられる図外のホィールハウスの前端部まで延在し形成された左右のバンパーフェイシャー側下面部26、26に図外のビス等の固定具で取り付けられている。
【0013】
また、バンパーフェイシャー20の中央下面22には、該中央下面22が車体後方に延在し形成されたバンパーフェイシャー主体下面部23が形成され、該主体下面部23の後端部27が車体下方へ突出され、主体下面部23と一体にチンスポイラー30が形成されている。このチンスポイラー30は、高速走行中、車体下面への空気の流入を抑え揚力の発生を低減するものである。
【0014】
前記タイヤのフェアリング装置10は、図2、図3に示すように、車体側の部品であるバンパーフェイシャー20の左右のバンパーフェイシャー側下面部26、26に取り付け固定される取り付け面12と、該取り付け面12から下方に一体に延在された気流受け面13とから成るフェアリング体11により構成されている。
【0015】
前記気流受け面13は、車体下面をタイヤに向かって流れる気流aを受ける面であって、左右の該気流受け面13、13は、図1、図3、図4に示すように、板状に垂下するようにバンパーフェイシャー側下面部26、26から車体下方へ突出されているとともに、左右のタイヤ40、40の前面41、41の夫々に近接かつ、対面して設けられ、前記気流受け面13、13が平面視において、左右のタイヤ40、40の前面41、41と平行を成す仮想平行線LAに対し角度θを有し、前記左右のタイヤ40、40の夫々の前面41、41に対し夫々の気流受け面13、13が傾斜して設けられている。
【0016】
さらに、前記気流受け面13の車体中心側端131が気流受け面13の車体側方側端132よりもタイヤ40に近くなるように平面視において傾斜して設けられるようにフェアリング体11がバンパーフェイシャー側下面部26に取り付けられている。また、前記傾斜の角度は、20°に設定されている。傾斜の角度を20°に設定したときの実験値では、条件、風速15〜20m/secのとき、横風安定性(CYM)値が0.1〜0.14となり0.012程度下げることができた。
【0017】
この傾斜の角度θは、15°〜35°の範囲で車体のデザイン、外形形状、タイヤ位置・サイズ等に応じて選択されるものである。
また、フェアリング体11の気流受け面13の車体幅方向長さ(気流受け面13の幅)は、タイヤ40の幅と同じ長さに設定され、垂下する高さ(気流受け面13の上下方向長さ)は、車体中心側で75mmに設定されている。この気流受け面13の車体幅方向長さは、タイヤ40の幅よりも小さく設定されても気流受け面13に当たった気流が車体中心側端131と車体側方側端132から車体中心側および車体側方側に膨らんで馬蹄形状のように車体後方へ流れるためタイヤの前面41から外れ、タイヤ40の側面側に回り込む流れとなる。
よって、気流受け面13は、タイヤ40に対面していること、すなわちタイヤ40の幅と同じ、あるいはタイヤ40の幅よりも大きいことが望ましいが、必ずしも大きく設定されなければならないというものではない。
【0018】
また、フェアリング体11の気流受け面13は、車体中心側端131よりも車体側方側端132側に行くに従って垂下する高さが徐々に短くなるようにアール形状に形成されている。これは、バンパーフェイシャー20が、左右下面25、25に行くに従って車体中心側に向かってすぼめられている形状に合わせたものであって、見栄えを良くしたものである。
また、フェアリング体11の気流受け面13は、タイヤ40の前面に最も近い車体中心側端131でタイヤ40の前面41から70mm程度に近接して配設されているが、50mm〜110mmの範囲でも良い。
【0019】
前記取り付け面12には、フェアリング体11をバンパーフェイシャー側下面部26に固定するビス261が挿通される取り付け穴121と、フェアリング体11を前記バンパーフェイシャー側下面部26に取り付ける際の作業性を良くするために設けられたフェアリング体11を位置決めおよび仮保持する仮止め用穴122と、フェアリング体11の背面111側にフェアリング体11を位置決めする位置決め用凸部112(図2参照)が設けられている。
【0020】
また、バンパーフェイシャー側下面部26には、前記仮止め用穴122に対応して図外の仮止め用突起と、前記位置決め用凸部112に対応して図外の位置決め用溝が夫々設けられている。
なお、前記仮止め用穴122と仮止め用突起は、嵌合関係に設けられている。
【0021】
また、バンパーフェイシャー側下面部26から下方に垂下された突起は、前記フェアリング体11の背面111と接し、フェアリング体11の背面111を支えるとともに位置決めをする位置決め用突起262である。(図3参照)
【0022】
これらの仮止め用穴、仮止め用突起、位置決め用凸部、位置決め用溝、位置決め用突起により、フェアリング体11は、バンパーフェイシャー側下面部26に対し、正確かつ、容易に取り付けできる。
【0023】
次に、作用・効果を説明する。
車両走行中横風を受けて車体下面を車体斜め前方からタイヤの前面に向かって流れる気流aが生じるが、フェアリング体11の気流受け面13が車体斜め前方からの気流aの流れと略直交する方向を向いており、該気流受け面13に気流aを効率よく当てることができ、気流受け面13に当たって弱められた気流bがタイヤ40の前面41に当たる。これにより、タイヤ40の横力が弱まり、また、タイヤ40の空気抵抗を低減し、横風安定性が向上するという効果が得られる。
【0024】
また、横風を受けていない状態の車両走行においては、走行により車体下面を車体前方からタイヤ40の前面41に真直ぐに向かって流れる気流が生じるが、この流れに対しても該気流受け面13に気流を当てることができ、気流受け面13に当たって弱められた気流がタイヤ40の前面41に当たる。
これにより、タイヤ40の空気抵抗を低減し、走行安定性が向上するという効果が得られる。
【0025】
また、前記気流受け面13の車体中心側端131が気流受け面13の車体側方側端132よりもタイヤ40に近くなるように平面視、傾斜するようにフェアリング体11が配設される構成としたことにより、フェアリング体11の気流受け面13が車体斜め前方からの気流aの流れに対し、タイヤ40の前面41に向かって流れる気流をより幅広く当てる方向を向いており、該気流受け面13に対しさらに広い範囲のタイヤ40の前面41に向かって流れる気流を効率よく当てることができる。これにより、タイヤ40の横力をさらに弱めることができ、また、タイヤ40の空気抵抗をさらに低減し、横風安定性がより向上するという効果が得られる。
【実施例2】
【0026】
まず、実施例2の構成を説明する。
図5はこの実施例2のタイヤのフェアリング装置が適用された車両の前端に設けられたフロントのバンパーフェイシャーを示し、中央に縦断面を描いた車体の前方斜め下方から見た全体の斜視図、図6は実施例2のタイヤのフェアリング装置の作用説明図である。
【0027】
実施例2のタイヤのフェアリング装置50は、図5、図6に示すように、フロントのバンパーフェイシャー20の左右側端部24、24の左右下面25、25がバンパーフェイシャー20の車体後方に設けられる図外のホィールハウスの前端部まで延在し形成された左右のバンパーフェイシャー側下面部26、26に図外のビス等の固定具で取り付けられている。
また、バンパーフェイシャー20の中央下面22には、該中央下面22が車体後方に延在し形成されたバンパーフェイシャー主体下面部23が形成され、該主体下面部23の後端部27に一体にチンスポイラー30が形成されている。
【0028】
前記チンスポイラー30の車体後方には、平板状に成し、エンジンルームの前側下部を覆い車体後方に延在されるアンダーカバー60が配設されている。
前記アンダーカバー60の後部端61に、該アンダーカバー60の後部端61から車体下方へ一体に突出され、車体下面を車体後方に向かって流れる気流cを受けるリップスポイラー70が設けられている。
該リップスポイラー70は、左右のタイヤ40、40の前方に設けられた前記左右のフェアリング体11、11の間に配設され車体幅方向に延在するとともに、長板状を呈して垂下するように車体下方へ突出されている。
【0029】
このリップスポイラー70は、高速走行中、車体下への空気の流入を抑え揚力の発生を低減するものである。
なお、他の構成は実施例1と同様であるので対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0030】
実施例2のタイヤのフェアリング装置にあっては、リップスポイラー70を左右のタイヤ40、40の前方に設けられた左右のフェアリング体11、11の間に配設して車体幅方向に延在するとともに、長板状を呈して垂下するように車体下方へ突出させているため、左右のタイヤ40、40間の車体下面を車体後方に向かって流れる気流cを受けることができ、この気流cが弱められた状態の気流dとしてタイヤ40の内側側面42に当てることができる。
これにより、実施例1の効果に加えて、さらにタイヤ40の横力が弱まり、また、タイヤ40の空気抵抗を低減し、横風安定性をより向上させることができるという効果が得られる。
【0031】
なお、図4、図6中、符号Y1,Y2,Y3,Y4で示されている矢印は、タイヤの横力の大きさを感覚的に示すもので、Y1とY2、Y3とY4の大きさの差は、図示のように左前方からの気流に対しては、右側のフェアリング体が左側のフェアリング体より気流に直交するため、右側のタイヤが左側のタイヤよりも横力が小さくなることを示したものである。
【0032】
以上、本発明のタイヤのフェアリング装置を実施例1、実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これら実施例1、実施例2に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0033】
実施例1、実施例2では、フェアリング体11がバンパーフェイシャー側下面部26に取り付けられている例を示したが、例えば、フェアリング体11がバンパーフェイシャー側下面部26等の車体部品と一体に形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1のタイヤのフェアリング装置が適用されたフロントバンパーフェイシャーを示す全体の斜視図である。
【図2】実施例1のタイヤのフェアリング装置のフェアリング体を示す斜視図である。
【図3】実施例1のタイヤのフェアリング装置のフェアリング体を示す図1のA−A断面図である。
【図4】実施例1のタイヤのフェアリング装置の作用説明図である。
【図5】実施例2のタイヤのフェアリング装置が適用されたフロントバンパーフェイシャーを示す全体の斜視図である。
【図6】実施例2のタイヤのフェアリング装置の作用説明図である。
【符号の説明】
【0035】
10 フェアリング装置
11 フェアリング体
12 取り付け面
13 気流受け面
20 バンパーフェイシャー
22 中央下面
23 バンパーフェイシャー主体下面部
24、24 左右側端部
25、25 左右下面
26、26 バンパーフェイシャー側下面部
27 後端部
30 チンスポイラー
40 タイヤ
41 前面
50 タイヤのフェアリング装置
60 アンダーカバー
61 後端部
70 リップスポイラー
131 車体中心側端
132 車体側方側端
LA 仮想平行線
a,b,c,d 気流
θ 角度
LC 車体中心線
Y1,Y2,Y3,Y4 横力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤよりも車体前方に設けられ、車体下面をタイヤに向って流れるタイヤまわりの気流をガイドする左右一対のフェアリング体を有するタイヤのフェアリング装置であって、
前記フェアリング体は、車体下面をタイヤに向かって流れる気流を受ける気流受け面が形成され、
該気流受け面は、気流受け面の車体中心側端が気流受け面の車体側方側端よりもタイヤに近くなるように、車体幅方向に対し角度を有して傾斜し、かつ、タイヤの前面に近接するとともに、対面して設けられたことを特徴とするタイヤのフェアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたタイヤのフェアリング装置において、
前記フェアリング体の間に、車体幅方向に延在するとともに、長板状に垂下するように車体下方へ突出され車体下面を車体後方に向かって流れる気流を受けるリップスポイラーを設けたことを特徴とするタイヤのフェアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−327281(P2006−327281A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150256(P2005−150256)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】