説明

タイヤ加硫装置及びタイヤ製造方法

【課題】未加硫タイヤを加硫するときに、加硫モールドと加硫リングの間に隙間が生じるのを防止する。
【解決手段】加硫リング21は、未加硫タイヤ90のビード部91に装着される。加硫モールド10は、未加硫タイヤ90と加硫リング21を収容する。嵌合部15は、加硫モールド10の内周に設けられて加硫リング21が嵌合する。嵌合部15は、加硫モールド10内に向かって次第に拡がる環状の傾斜面15Aを有する。加硫リング21は、嵌合部15よりも温度が低いときに、傾斜面15Aに隙間なく嵌合する傾斜した外周面21Aを有する。加硫リング21は、温度の上昇に伴う熱膨張により傾斜面15Aに沿って変位する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫モールド内で未加硫タイヤを加硫するタイヤ加硫装置とタイヤ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤを製造するときには、未加硫タイヤを加硫モールド内で加熱して加硫する。従来、未加硫タイヤにシェーピング機構をセットした後、未加硫タイヤとシェーピング機構を加硫モールド内に収容するタイヤ加硫装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図7は、このような従来のタイヤ加硫装置の例を示す断面図である。図7では、タイヤ加硫装置100の一部と未加硫タイヤ90のビード部91を示している。
タイヤ加硫装置100は、図示のように、加硫モールド101と、加硫リング102とを備えている。加硫リング102は、未加硫タイヤ90のビード部91に予め装着される。加硫モールド101は、未加硫タイヤ90と加硫リング102を収容する。タイヤ加硫装置100は、加硫モールド101内で未加硫タイヤ90を加熱して加硫する。
【0004】
加硫モールド101と加硫リング102は、一般に、同じ温度で隙間なく嵌合するように形成される。ところが、加硫リング102は、冷却された状態で、加硫モールド101へ収容する前の未加硫タイヤ90に装着される。そのため、加硫初期では、加硫リング102の温度は、加硫モールド101の温度よりも低くなる。この温度差に応じて、加硫リング102の熱膨張量が相対的に小さくなり、加硫モールド101と加硫リング102の間に隙間Sが発生する(図7A参照)。例えば、加硫モールド101の温度が160℃、加硫リング102の温度が80℃のときには、隙間Sは、0.13〜0.18mmになる。加硫モールド101と加硫リング102が同じ温度になると、加硫リング102が熱膨張して、隙間Sが消滅する(図7B参照)。
【0005】
このように、従来のタイヤ加硫装置100では、未加硫タイヤ90の加硫時に、隙間Sが生じる。そのため、未加硫タイヤ90のゴムが、隙間Sからはみ出すことがある。ゴムがはみ出したときには、加硫済みタイヤのバリを除去する作業や、加硫モールド101を清掃する作業が必要になるため、ゴムのはみ出しを防止することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−30254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、ビード部に加硫リングを装着した未加硫タイヤを加硫するときに、加硫モールドと加硫リングの間に隙間を生じさせずに、ゴムのはみ出しを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、未加硫タイヤのビード部に装着される加硫リングと、未加硫タイヤと加硫リングを収容する加硫モールドと、加硫モールドの内周に設けられて加硫リングが嵌合する嵌合部と、加硫モールド内の未加硫タイヤを加熱する加熱手段とを備え、加硫リングが加硫済みタイヤとともに加硫モールドから取り出されるタイヤ加硫装置であって、嵌合部が、加硫モールド内に向かって次第に拡がる環状の傾斜面を有し、加硫リングが、嵌合部よりも温度が低いときに、嵌合部の傾斜面に隙間なく嵌合する傾斜した外周面を有し、温度の上昇に伴う熱膨張により嵌合部の傾斜面に沿って変位するタイヤ加硫装置である。
また、本発明は、ビード部に加硫リングを装着した未加硫タイヤを加硫モールドに収容する工程と、加硫モールドの内周に設けられた嵌合部に加硫リングを配置する工程と、加硫モールド内の未加硫タイヤを加熱して加硫する工程と、加硫済みタイヤと加硫リングを加硫モールドから取り出す工程とを有するタイヤ製造方法であって、加硫リングの温度が嵌合部の温度よりも低いときに、加硫リングの傾斜した外周面を、嵌合部が有する環状の傾斜面に隙間なく嵌合させる工程と、加硫リングの温度の上昇に伴う熱膨張により、加硫リングを嵌合部の傾斜面に沿って加硫モールド内に次第に変位させる工程と、を有するタイヤ製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ビード部に加硫リングを装着した未加硫タイヤを加硫するときに、加硫モールドと加硫リングの間に隙間を生じさせずに、ゴムのはみ出しを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態のタイヤ加硫装置を示す断面図である。
【図2】シェーピング機構を示す断面図である。
【図3】加硫開始時の加硫リングと嵌合部を示す断面図である。
【図4】嵌合部と熱膨張した加硫リングを示す断面図である。
【図5】加硫リングと嵌合部を模式的に示す断面図である。
【図6】摩擦係数と傾斜角度の関係を示すグラフである。
【図7】従来のタイヤ加硫装置の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤ加硫装置とタイヤ製造方法の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のタイヤ加硫装置を示す断面図である。図1では、切断したタイヤ加硫装置1の左半分を示している。タイヤ加硫装置1は、加硫モールド10の中心線CLに対して、対称に構成されている。
【0012】
なお、本発明では、タイヤ加硫装置1内の未加硫タイヤ90に基づいて、方向を表す。また、未加硫タイヤ90の幅方向(図1では上下方向)、周方向、半径方向(図1では左右方向)は、それぞれタイヤ幅方向、タイヤ周方向、タイヤ半径方向という。
【0013】
未加硫タイヤ90は、タイヤ構成部材により所定構造に成形される。未加硫タイヤ90は、図示のように、一対のビード部91と、一対のサイドウォール部92と、トレッド部93とを有する。サイドウォール部92は、ビード部91のタイヤ半径方向外側に位置する。トレッド部93は、一対のサイドウォール部92の間に設けられる。未加硫タイヤ90は、ビードコア、カーカスプライ、ベルト、及び、トレッドゴム(図示せず)を有する。
【0014】
タイヤ加硫装置1は、加硫モールド10と、シェーピング機構20とを備えている。加硫モールド10は、未加硫体タイヤ90の外面を成形する外型である。加硫モールド10は、一対のサイドモールド12、13と、トレッドモールド14とを有する。加硫モールド10内には、キャビティ11が形成される。未加硫タイヤ90は、キャビティ11内に収容される。
【0015】
一対のサイドモールド12、13は、環状をなし、タイヤ幅方向に移動して接近及び離間する。サイドモールド12、13は、未加硫タイヤ90の側面に接し、サイドウォール部92の外面を成形する。トレッドモールド14は、タイヤ周方向に分割された複数のセクターモールドからなる。トレッドモールド14は、タイヤ半径方向に移動して、拡大及び縮小する。トレッドモールド14は、タイヤ周方向に組み合わされて環状モールドを形成する。トレッドモールド14は、未加硫タイヤ90の外周に接し、トレッド部93の外面を成形する。
【0016】
タイヤ加硫装置1は、モールド12、13、14を移動手段(図示せず)により移動させる。モールド12、13、14は、組み合わされた閉位置(図1に示す位置)と、互いに離間した開位置(図示せず)との間で移動する。未加硫タイヤ90は、モールド12、13、14を開いた加硫モールド10内に配置される。タイヤ加硫装置1は、モールド12、13、14を閉じて、未加硫タイヤ90を加硫モールド10(キャビティ11)内に収容する。未加硫タイヤ90は、加硫モールド10内で加硫及び成形される。また、加硫モールド10内には、シェーピング機構20も配置される。
【0017】
図2は、シェーピング機構20を示す断面図である。図2では、図1に示すシェーピング機構20の全体を示している。また、シェーピング機構20に保持された未加硫タイヤ90も示している。
シェーピング機構20は、図示のように、一対の加硫リング21と、連結機構22と、ブラダ23とを有する。シェーピング機構20は、加硫前の未加硫タイヤ90に予めセットされる。シェーピング機構20は、未加硫タイヤ90と一体に移動して、加硫モールド10内の所定位置に配置される。
【0018】
一対の加硫リング21は、環状をなし、連結機構22により同芯状に連結されている。加硫リング21は、一対のビード部91に、それぞれタイヤ幅方向外側から装着される。未加硫タイヤ90は、一対の加硫リング21により挟み込まれる。一対の加硫リング21は、ビード部91をタイヤ幅方向外側とタイヤ半径方向内側から支持して、未加硫タイヤ90を保持する。加硫リング21は、ビード部91を成形する成形リングであり、ビード部91の側面から内周面までの部分に接する。ビード部91の外面は、加硫時に、加硫リング21により成形される。
【0019】
ブラダ23は、膨張及び収縮可能な袋体であり、未加硫タイヤ90内で膨張する。ブラダ23の両端は、連結機構22に気密状に固定される。これにより、ブラダ23は、一対のビード部91に装着される一対の加硫リング21の間に取り付けられる。ブラダ23内には、加圧媒体(例えば、気体)の供給手段(図示せず)から、加圧媒体が供給される。ブラダ23は、加圧媒体により膨張して、未加硫タイヤ90の内面に密着する。加硫時には、ブラダ23は、未加硫タイヤ90に圧力を加える。未加硫タイヤ90は、加硫モールド10の内面に押し付けられて、加硫モールド10により成形される。加硫完了後には、ブラダ23内の加圧媒体が排出されて、ブラダ23が収縮する。
【0020】
加硫モールド10(図1参照)内には、未加硫タイヤ90とシェーピング機構20が収容される。その際、加硫リング21は、加硫モールド10に収容され、嵌合部15に配置される。嵌合部15は、加硫モールド10の内周に設けられて、加硫リング21が嵌合する。嵌合部15は、一対のサイドモールド12、13の内周面に環状に形成され、一対の加硫リング21と嵌合する。加硫時には、タイヤ加硫装置1が備える加熱手段(図示せず)により、未加硫タイヤ90を加熱して加硫する。加熱手段は、加熱媒体(例えば、スチーム)により加硫モールド10を加熱する。また、加熱手段は、ブラダ23内に加熱媒体を供給する。これにより、加熱手段は、加硫モールド10内の未加硫タイヤ90を内外から加熱する。
【0021】
未加硫タイヤ90は、加熱手段により、所定の加硫温度に加熱されて加硫が進行する。加硫モールド10は、主に、サイドウォール部92とトレッド部93を成形する。加硫リング21は、主に、ビード部91を成形する。未加硫タイヤ90の加硫と成形が完了した後、モールド12、13、14を開いて、加硫済みタイヤ95とシェーピング機構20が取り出される。加硫リング21は、加硫済みタイヤ95とともに加硫モールド10から取り出される。
【0022】
加硫リング21は、冷却された状態で、加硫モールド10へ収容する前の未加硫タイヤ90に装着される。そのため、未加硫タイヤ90の加硫開始から加硫が所定段階に達するまでの間(加硫初期)では、加硫リング21の温度が加硫モールド10(嵌合部15)の温度よりも低くなる。加硫リング21の温度は、加熱手段の熱により次第に上昇して、加硫リング21と嵌合部15の間の温度差が小さくなる。加硫が所定段階に達すると、加硫リング21の温度は、嵌合部15の温度と同じ温度になる。即ち、加硫リング21と嵌合部15の間には、加硫初期に温度差が生じ、加硫中に温度差がなくなる。本実施形態では、温度差の有無によらずに、加硫リング21と嵌合部15の間に隙間が発生するのを防止する。
【0023】
図3は、加硫開始時の加硫リング21と嵌合部15を示す断面図である。図3では、下方のサイドモールド13に設けた嵌合部15付近を示している。図3Aでは、未加硫タイヤ90の一部も断面図で示している。図3Bでは、図3AのX領域を拡大して示している。
【0024】
嵌合部15は、図示のように、加硫モールド10内(キャビティ11)に向かって次第に拡がる環状の傾斜面15Aを有する。傾斜面15Aは、加硫モールド10の内周面に形成される。傾斜面15Aの直径は、タイヤ幅方向の外側から内側に向かって連続して変化する。傾斜面15Aの直径は、タイヤ幅方向外側で小さくなり、タイヤ幅方向内側で大きくなる。また、傾斜面15Aは、タイヤ幅方向(図3では上下方向)に対して所定角度で傾斜する。
【0025】
加硫リング21は、嵌合部15の傾斜面15Aに対応した形状の外周面21Aを有する。外周面21Aは、傾斜面15Aと同一勾配で傾斜し、傾斜面15Aに変位可能に接する。加硫リング21は、嵌合部15と同じ温度のときに、嵌合部15よりも大きくなるように形成される。即ち、加硫リング21と嵌合部15の間に温度差がないときに、加硫リング21の外周面21Aの直径(外径)は、嵌合部15の傾斜面15Aの直径(内径)よりも大きくなる。加硫リング21が加硫モールド10の嵌合部15よりも温度が低いときに、加硫リング21の外周面21Aは、嵌合部15の傾斜面15Aに隙間なく嵌合する。
【0026】
嵌合部15と加硫リング21は、熱膨張係数と加硫初期に生じる温度差に基づいて、加硫初期に隙間が生じない寸法及び形状に形成される。また、傾斜面15Aと外周面21Aの直径は、加硫初期の温度差があるときに等しくなるように設定される。加硫リング21は、温度差に伴う熱膨張量の差に応じて、嵌合部15よりも大きく形成される。外周面21Aの外径は、傾斜面15Aの内径よりも大きく形成される。加硫初期には、加硫リング21の熱膨張量に比べて、嵌合部15の熱膨張量は大きくなる。その結果、外周面21Aと傾斜面15Aが合致して、加硫リング21が嵌合部15に隙間なく嵌合する。
【0027】
嵌合部15の傾斜面15Aと加硫リング21の外周面21Aは、傾斜角度αを同一角度にして形成される。本発明では、傾斜角度αは、加硫モールド10の中心線CLを含む断面において、タイヤ幅方向に対する傾斜面15Aと外周面21Aの角度のことをいう。後述するように、傾斜角度αは、熱膨張する加硫リング21が嵌合部15内で変位できるように、所定角度に設定される。
【0028】
加硫中に加硫リング21の温度が上昇すると、加硫リング21が熱膨張して、外周面21Aが大きくなる。これに対し、嵌合部15では、加硫中の温度変化が小さいため、傾斜面15Aは、ほぼ同じ大きさを維持する。その結果、傾斜面15Aに対して、外周面21Aが相対的に大きくなり、傾斜面15Aと外周面21Aの直径に差が生じる。外周面21Aが傾斜面15Aから受ける抗力により、加硫リング21は、嵌合部15の傾斜面15Aをスライドして、嵌合部15から抜ける方向に変位(図3Bの矢印R)する。加硫リング21は、温度の上昇に伴う熱膨張により、傾斜面15Aに沿って変位する。
【0029】
図4は、嵌合部15と熱膨張した加硫リング21を示す断面図である。図4Bでは、図4AのY領域を拡大して示している。
図示のように、加硫リング21と嵌合部15の間の温度差が小さくなるのに伴い、嵌合部15内の加硫リング21は、加硫モールド10内(キャビティ11)に向かって徐々に変位する。その際、加硫リング21の外周面21Aは、嵌合部15の傾斜面15Aに接しつつ、傾斜面15Aをスライドする。外周面21Aと傾斜面15Aは、傾斜方向にずれていく。加硫リング21と嵌合部15が同じ温度になっても、外周面21Aは、傾斜面15Aに接する。従って、未加硫タイヤ90の加硫中に、外周面21Aは、傾斜面15Aに隙間なく嵌合した状態に維持される。
【0030】
変位後の加硫リング21(図4A参照)は、サイドモールド13の内面よりもキャビティ11側の位置に配置される。加硫リング21(図4B参照)は、変位前の位置P1から変位後の位置P2まで、所定距離Hだけ変位する。未加硫タイヤ90のビード部91は、加硫リング21とサイドモールド13の表面形状に合わせて成形される。加硫リング21とサイドモールド13の境界は、ビード部2のリムライン端に位置する。サイドモールド13の縁には窪みが設けられており、加硫リング21とサイドモールド13の間には、環状の溝16が形成される。ビード部91には、溝16により、環状の凸条が形成される。この凸条により、加硫リング21が変位しても、ビード部91の外観の変化は殆ど分からない。
【0031】
次に、加硫リング21の変位について詳しく説明する。
図5は、加硫リング21と嵌合部15を模式的に示す断面図である。
加硫リング21が熱膨張する際には、加硫リング21に、嵌合部15から力Fが働く。力Fは、加硫リング21を変位させる力、及び、加硫リング21を嵌合部15から抜く力である。図5に示すαは、嵌合部15の傾斜面15Aと加硫リング21の外周面21Aの傾斜角度である。Nは、加硫リング21に働く垂直抗力である。力Fは、下記の式(1)により算出される。また、嵌合部15の傾斜面15Aと加硫リング21の外周面21Aの間の摩擦係数(静止摩擦係数)をμとするとき、摩擦係数μは、下記の式(2)により算出される。式(1)(2)のλは、加硫リング21の静止摩擦角度である。
【0032】
【数1】

【0033】
式(1)より、力Fがゼロ(F=0)になるのは、傾斜角度αと静止摩擦角度λが等しいときである(α=λ)。その状態では、式(2)より、摩擦係数μがtanαに等しくなる(μ=tanα)。例えば、傾斜角度αが20°のときには、摩擦係数μは0.36である。また、tanαが摩擦係数μよりも大きいときに(μ<tanα)、加硫リング21は、熱膨張により嵌合部15の傾斜面15Aに沿って変位する。加硫リング21は、嵌合部15に嵌り込まずに、傾斜面15Aをスライドする。
【0034】
図6は、摩擦係数μと傾斜角度αの関係を示すグラフである。図6に示すグラフでは、横軸が摩擦係数μであり、縦軸が傾斜角度αである。
図6のZ領域では、tanαが摩擦係数μよりも大きくなる。本実施形態では、摩擦係数μと傾斜角度αをZ領域内の値に設定する。即ち、tanαを摩擦係数μよりも大きくする(μ<tanα)。例えば、摩擦係数μが0.36のときには、傾斜角度αを20°よりも大きくする。傾斜角度αが20°のときには、摩擦係数μを0.36よりも小さくする。
【0035】
このようにして、加硫リング21が熱膨張したときに、加硫リング21を嵌合部15の傾斜面15Aに沿って変位させる。加硫リング21の外周面21Aは、傾斜面15Aをスライドする。これにより、加硫リング21と嵌合部15に変形が生じるのを防止する。外周面21Aと傾斜面15Aに傷が発生するのも防止する。加硫リング21は、嵌合部15から円滑に外れる。
【0036】
外周面21Aと傾斜面15Aの表面粗さを設定して、摩擦係数μを所定値にする。外周面21Aと傾斜面15Aは、所定の表面粗さに加工される。表面粗さは、外周面21Aと傾斜面15Aを切削した後、両面21A、15Aを研磨することで調整する。摩擦係数μに基づいて、傾斜面15Aと外周面21Aの傾斜角度αを決定する。摩擦係数μと傾斜角度αを調整することで、熱膨張時の加硫リング21に、嵌合部15から抜ける方向の力を加える。これにより、加硫リング21を、嵌合部15から外れるように変位させる。また、摩擦係数μは、0.26以上0.57以下の値にする。傾斜角度αは、15°以上30°以下の角度にする。
【0037】
加硫リング21と加硫モールド10の使用前には、外周面21Aと傾斜面15Aを清掃する。また、外周面21Aと傾斜面15Aにグリスを塗布して、外周面21Aと傾斜面15Aを乾燥させる。両面21A、15Aには、例えば、耐熱性を有するフッ素グリスを塗布する。その後、加硫リング21と加硫モールド10を使用することで、外周面21Aと傾斜面1Aに傷が発生するのを、より確実に防止する。加硫リング21と嵌合部15に変形が発生するのも、より確実に防止する。
【0038】
上方のサイドモールド12(図1参照)でも、加硫リング21が嵌合部15に嵌合する。加硫リング21は、上記と同様に、熱膨張により、嵌合部15の傾斜面15Aに沿って変位する。その際、上方の加硫リング21は、重力の影響で、下方の加硫リング21よりも、嵌合部15から抜けやすくなっている。
【0039】
次に、タイヤ加硫装置1によりタイヤを製造する手順と、タイヤ製造方法について説明する(図1、図2参照)。
まず、シェーピング機構20を未加硫タイヤ90にセットする。シェーピング機構20は、冷却されている。加硫リング21は、未加硫タイヤ90のビード部91に装着する。次に、加硫モールド10を開いて、未加硫タイヤ90とシェーピング機構20を加硫モールド10内に配置する。加硫モールド10を閉じて、加硫リング21を装着した未加硫タイヤ90を加硫モールド10に収容する。
【0040】
加硫リング21は、加硫モールド10の内周に設けられた嵌合部15に配置する。その際、温度が高い加硫モールド10の嵌合部15に比べて、加硫リング21の温度は低い。加硫リング21の温度をT1とするとき、T1は、50℃以上130℃以下(50℃≦T1≦130℃)である。嵌合部15の温度をT2とするとき、T2は、120℃以上190℃以下(120℃≦T2≦190℃)である。また、T1はT2よりも低い温度(T1<T2)である。このように、加硫リング21の温度が嵌合部15の温度よりも低いときに、上記したように、加硫リング21の傾斜した外周面21Aを、嵌合部15が有する環状の傾斜面15Aに隙間なく嵌合させる。
【0041】
続いて、加熱手段により、加硫モールド10内の未加硫タイヤ90を加熱して加硫する。同時に、ブラダ23により未加硫タイヤ90を加圧し、加硫モールド10により未加硫タイヤ90を成形する。加熱により、加硫リング21の温度が上昇して、加硫リング21と嵌合部15の間の温度差が減少する。加硫リング21の温度の上昇に伴う熱膨張により、加硫リング21を、嵌合部15の傾斜面15Aに沿って加硫モールド10内に次第に変位させる。
【0042】
加硫完了後、加硫モールド10を開いて、加硫済みタイヤ95とシェーピング機構20を加硫モールド10から取り出す。加硫リング21は、加硫済みタイヤ95と一体に加硫モールド10から取り出される。また、加硫済みタイヤ95をシェーピング機構20とともに冷却装置(図示せず)へセットして、加硫済みタイヤ95とシェーピング機構20を冷却する。加硫リング21は、未加硫タイヤ90へ装着する前の温度T1まで冷却される。次に、シェーピング機構20を、加硫済みタイヤ95から取り外す。これにより、タイヤが製造される。その後、シェーピング機構20を、新たな未加硫タイヤ90へセットして、次のタイヤを製造する。
【0043】
以上説明したように、本実施形態では、加硫リング21と嵌合部15に温度差が生じるときでも、加硫リング21と嵌合部15の間に隙間が発生するのを防止できる。そのため、未加硫タイヤ90を加硫するときに、未加硫タイヤ90のゴムが、加硫リング21と嵌合部15の間からはみ出すのを防止できる。温度差の有無によらずに、未加硫タイヤ90を安定して加硫することができる。
【0044】
また、加硫リング21が熱膨張により嵌合部15の傾斜面15Aに沿って変位するため、加硫リング21が嵌合部15へ嵌り込むのを防止できる。その結果、加硫リング21を、加硫モールド10から容易かつ円滑に外すことができる。これにより、加硫リング21と嵌合部15の変形を防止できる。傾斜面15Aと外周面21Aに傷が発生するのも防止できる。摩擦係数μをtanαよりも小さくすることで、加硫リング21を、より確実に嵌合部15から外すことができる。
【0045】
なお、本実施形態では、加硫リング21は、シェーピング機構20に設けられている。これに対し、加硫リング21は、他の機構に設けられて、ビード部91へ装着される部材であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1・・・タイヤ加硫装置、10・・・加硫モールド、11・・・キャビティ、12・・・サイドモールド、13・・・サイドモールド、14・・・トレッドモールド、15・・・嵌合部、15A・・・傾斜面、16・・・溝、20・・・シェーピング機構、21・・・加硫リング、21A・・・外周面、22・・・連結機構、23・・・ブラダ、90・・・未加硫タイヤ、91・・・ビード部、92・・・サイドウォール部、93・・・トレッド部、95・・・加硫済みタイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫タイヤのビード部に装着される加硫リングと、未加硫タイヤと加硫リングを収容する加硫モールドと、加硫モールドの内周に設けられて加硫リングが嵌合する嵌合部と、加硫モールド内の未加硫タイヤを加熱する加熱手段とを備え、加硫リングが加硫済みタイヤとともに加硫モールドから取り出されるタイヤ加硫装置であって、
嵌合部が、加硫モールド内に向かって次第に拡がる環状の傾斜面を有し、
加硫リングが、嵌合部よりも温度が低いときに、嵌合部の傾斜面に隙間なく嵌合する傾斜した外周面を有し、温度の上昇に伴う熱膨張により嵌合部の傾斜面に沿って変位するタイヤ加硫装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたタイヤ加硫装置において、
嵌合部の傾斜面と加硫リングの外周面の間の摩擦係数をμ、嵌合部の傾斜面と加硫リングの外周面の傾斜角度をαとするとき、μ<tanαであるタイヤ加硫装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたタイヤ加硫装置において、
一対のビード部に装着される一対の加硫リングの間に取り付けられて、未加硫タイヤ内で膨張するブラダを備えたタイヤ加硫装置。
【請求項4】
ビード部に加硫リングを装着した未加硫タイヤを加硫モールドに収容する工程と、加硫モールドの内周に設けられた嵌合部に加硫リングを配置する工程と、加硫モールド内の未加硫タイヤを加熱して加硫する工程と、加硫済みタイヤと加硫リングを加硫モールドから取り出す工程とを有するタイヤ製造方法であって、
加硫リングの温度が嵌合部の温度よりも低いときに、加硫リングの傾斜した外周面を、嵌合部が有する環状の傾斜面に隙間なく嵌合させる工程と、
加硫リングの温度の上昇に伴う熱膨張により、加硫リングを嵌合部の傾斜面に沿って加硫モールド内に次第に変位させる工程と、
を有するタイヤ製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載されたタイヤ製造方法において、
前記嵌合させる工程では、加硫リングの温度をT1、嵌合部の温度をT2とするとき、50℃≦T1≦130℃、120℃≦T2≦190℃、かつ、T1<T2であるタイヤ製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載されたタイヤ製造方法において、
嵌合部の傾斜面と加硫リングの外周面の間の摩擦係数をμ、嵌合部の傾斜面と加硫リングの外周面の傾斜角度をαとするとき、μ<tanαであるタイヤ製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−232471(P2012−232471A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102233(P2011−102233)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】