説明

タンタル粉体、その製造方法および脱酸素方法

【課題】漏れ電流の少ない電解コンデンサを製造でき、高容量化も可能なタンタル粉体、該タンタル粉体の製造に有用な製造方法および脱酸素方法を提供する。
【解決手段】マグネシウムと接触する処理を施されたタンタル粉体であって、特定の測定方法1により測定されるマグネシウム含量が20ppm以下であり、特定の測定方法2により測定されるマグネシウム含量が30ppm以下であるタンタル粉体。前記測定方法1により測定されるマグネシウム含量と前記測定方法2により測定されるマグネシウム含量との差が10ppm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンタル電解コンデンサの製造用として有用なタンタル粉体、該タンタル粉体の製造に有用な製造方法および脱酸素方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子集積回路は、より低電圧での駆動、高周波化、低ノイズ化が求められており、そこに用いられる固体電解コンデンサについても、低ESR(等価直列抵抗)化、低ESL(等価直列インダクタンス)化の要求が高まってきている。固体電解コンデンサのアノードを構成する金属としては、タンタル、ニオブ、チタン、タングステン、モリブデン等が用いられている。これらのなかでも、タンタルをアノードに用いたタンタル電解コンデンサは、小型で、低ESRかつ高容量であることから、携帯電話やパソコン等の部品として急速に普及が進んでいる。
タンタル電解コンデンサは、一般的に、タンタル粉体をプレス成形、焼結して多孔質体とした後、化成処理を行って表面に酸化物膜(誘電体膜)を形成し、さらにその表面に固体電解質層を設け、そこにカソードを接続することにより製造される。
【0003】
タンタル電解コンデンサの製造に用いられるタンタル粉体は、フッ化タンタルカリウム等のタンタル化合物を還元処理し、洗浄、乾燥することにより調製される。このタンタル粉体を構成する粒子は一次粒子が凝集した二次粒子で、そのままでは流動性や成形性等が悪いため、通常、得られたニ次粒子を凝集させて三次粒子(凝集粒子)とするための熱処理が施される。また、洗浄で残存する不純物をタンタル粉体から蒸発除去するためにも熱処理は実施される。この熱処理後のタンタル粉体は酸素含量が多く、過剰な酸素は、電解コンデンサ製造時に結晶性酸化物を形成して電解コンデンサの漏れ電流の原因になるため、熱処理後、さらに脱酸素処理が施される。
従来、脱酸素処理には、タンタル粉体に還元剤であるマグネシウムのチップを混合し、マグネシウムの融点以上の温度に加熱する方法が一般的に用いられている(たとえば特許文献1)。また、気体のマグネシウムを用いる方法も提案されている(たとえば特許文献2〜3)。
【0004】
還元剤としてマグネシウムを用いた脱酸素処理を施した場合、処理直後のタンタル粉体にはマグネシウムやその酸化物が残存している。そのため、前記脱酸素処理後には、通常、残留するマグネシウムを除去するために、酸による洗浄処理が行われる。
タンタル粉体中のマグネシウムは、酸素と同様、漏れ電流の原因になるため、電解コンデンサの製造に用いるタンタル粉体には、通常、マグネシウムの含量が20ppm以下であることが要求される。タンタル粉体に不純物として含まれるマグネシウムの含量は、従来、JIS H1699に規定されるように、所定量の試料(タンタル粉体)にポリエチレン製のビーカーに秤量し、フッ酸と硝酸との混酸を加えて溶解させて試料溶液とし、その試料溶液中のマグネシウム量をICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy(ICP−AES))により定量する方法により求められている。
また、還元剤として、マグネシウムの代わりに、カルシウム、バリウム、ランタン、イットリウムまたはセリウムを使用する脱酸素方法も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−512530号公報
【特許文献2】特表2002−544375号公報
【特許文献3】特表2008−516082号公報
【特許文献4】特表2008−512568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の脱酸素処理が施されたタンタル粉体では、電解コンデンサの漏れ電流の抑制と高容量化とを両立することは難しい。
たとえば本発明者らの検討によれば、上記マグネシウム含量は、漏れ電流との相関性が高いとはいえず、該マグネシウム含量が低くても、得られる電解コンデンサの漏れ電流が大きい場合がある。
また、特許文献4に記載される方法ではマグネシウムを使用しないためマグネシウムは問題にはならないが、使用する還元剤の融点がマグネシウムの融点(約649℃)に比べて大幅に高い(Ca:839℃,Ba:729℃,La:918℃,Y:1520℃,Ce:804℃)ため、脱酸素処理温度も高くする必要がある。脱酸素処理温度が高くなると、得られるタンタル粉体の嵩密度が高くなり易く、比表面積が小さくなり易いため、比静電容量(CV値)が17万μFV/g以上、特に20万μFV/g以上の電解コンデンサを得ることは難しい。同様に、比静電容量(CV値)と密接に関係する比表面積が4m/g以上のタンタル粉末を得ることも難しい。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、漏れ電流が少ない電解コンデンサを製造でき、高容量化も可能なタンタル粉体、該タンタル粉体の製造に有用な製造方法および脱酸素方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、JIS H1699に規定される従来法では、試料溶液に試料中のマグネシウムが完全には溶解していないこと、そしてこの溶解していないマグネシウムが漏れ電流に大きく影響することを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は、以下の態様を有する。
[1]マグネシウムと接触する処理を施されたタンタル粉体であって、
下記測定方法1により測定されるマグネシウム含量が20ppm以下であり、下記測定方法2により測定されるマグネシウム含量が30ppm以下であることを特徴とするタンタル粉体。
[測定方法1]
四フッ化エチレン製ビーカーに試料0.500gを秤量し、超純水2mL、フッ酸と硝酸との1:1(容量比)の混酸(HF49質量%、HNO61質量%)5mLを加え、大気圧下、80℃で0.5時間加熱して試料を溶解させる。放冷後、得られた溶液を50mLに定容して試料溶液とし、ICP発光分光分析を行って、試料中に含まれるマグネシウム含量を求める。
[測定方法2]
四フッ化エチレン製の中容器を備える密閉可能なステンレス製の加圧容器の前記中容器に試料0.500gを秤量し、超純水2mL、フッ酸と硝酸との混酸(前記[測定方法1]と同じ)7mLを加え、該加圧容器を密閉した後、140℃で10時間加熱して試料を溶解させる。放冷後、得られた溶液を50mLに定容して試料溶液とし、ICP発光分光分析を行って、試料中に含まれるマグネシウム含量を求める。
[2]前記測定方法1により測定されるマグネシウム含量と前記測定方法2により測定されるマグネシウム含量との差が10ppm以下である、[1]に記載のタンタル粉体。
[3]嵩密度が1.83g/cm以下である、[1]または[2]に記載のタンタル粉体。
[4]比静電容量が17万μFV/g以上の電解コンデンサ用である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のタンタル粉体。
[5]BET法により測定される測定される比表面積が4.0m/g以上である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のタンタル粉体。
[6]酸素含量が8000〜21000ppmである、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のタンタル粉体。
[7]窒素含量が800〜2500ppmである、[1]〜[6]のいずれか一項に記載のタンタル粉体。
[8]空気透過式比表面積が6000cm/g以上である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載のタンタル粉体。
[9]マグネシウムと接触する処理を施されたタンタル粉体を製造する方法であって、
タンタル化合物を還元し、タンタル粒子からなる第一の粉体を得る工程と、
前記第一の粉体に対し、前記タンタル粒子を凝集させて凝集粒子とするための熱処理を施し、該凝集粒子を含有する第二の粉体を得る工程と、
前記第二の粉体に対し、還元剤としてマグネシウムを用いた脱酸素処理を施す工程とを有し、
前記脱酸素処理を、前記第二の粉体を固体のマグネシウムと混合し、容器内にヘッドスペースを設けて充填し、650〜850℃に加熱するとともに、前記ヘッドスペースに、前記第二の粉体と混合したマグネシウムとは別のマグネシウムを気体として供給することにより行うことを特徴とするタンタル粉体の製造方法。
[10]酸素を含むタンタル粉体を固体のマグネシウムと混合し、容器内にヘッドスペースを設けて充填し、650〜850℃に加熱するとともに、前記ヘッドスペースに、前記タンタル粉体と混合したマグネシウムとは別のマグネシウムを気体として供給することを特徴とするタンタル粉体の脱酸素方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、漏れ電流が少ない電解コンデンサを製造でき、高容量化も可能なタンタル粉体、該タンタル粉体の製造に有用な製造方法および脱酸素方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のタンタル粉体の製造方法でタンタル化合物の還元に使用される反応装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明のタンタル粉体の製造方法で脱酸素処理に使用される反応装置の一例を示す概略図である。
【図3】[実施例]中、例1〜9で得たタンタル粉体についてセミソリッド法により漏れ電流(RLC)を評価した結果から、横軸に前記測定方法1により測定されるマグネシウム含量[N−Mg]、縦軸にLCをとって作成したグラフである。
【図4】[実施例]中、例1〜9で得たタンタル粉体についてセミソリッド法によりRLCを評価した結果から、横軸に前記測定方法2により測定されるマグネシウム含量[A−Mg]、縦軸にRLCをとって作成したグラフである。
【図5】[実施例]中、例1〜9で得たタンタル粉体についてセミソリッド法によりRLCを評価した結果から、横軸にΔMg([A−Mg]−[N−Mg])、縦軸にRLCをとって作成したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<タンタル粉体>
本発明のタンタル粉体は、マグネシウム(Mg)と接触する処理(以下、Mg接触処理ということがある。)が施されたものである。タンタル粉体と接触するMgは、ガス状、液状、固体状(粉末状、チップ状等)のいずれであってもよい。
Mg接触処理として具体的には、たとえば、還元剤としてMgを用いた脱酸素処理、Mgを凝集剤として用いた還元凝集処理、Mgを酸化タンタルと反応させる処理等が挙げられる。
脱酸素処理は、通常、タンタル粉体と還元剤とを、還元剤の融点以上沸点以下の温度条件下で接触させる脱酸工程と、前記脱酸工程後のタンタル粉体を酸で洗浄する酸洗工程と、前記酸洗工程後のタンタル粉体を水で洗浄する水洗工程とを含んでいる。前記脱酸工程にて、還元剤としてMgを用いることで、Mg以外の還元剤(たとえば特許文献4で用いられている金属)を用いる場合に比べて、脱酸素処理時の加熱温度を低く抑えることができる。加熱温度を低く抑えることで、得られるタンタル粉体の嵩密度を低くし、比表面積を大きくすることができる。そのため、比静電容量(CV値)が17万μFV/g以上の電解コンデンサを製造可能なタンタル粉体を容易に得ることができる。
そのため、本発明は、タンタル粉体が、還元剤としてMgを用いた脱酸素処理が施されたものである場合の有用性が高く、特に、CV値が17万μFV/g以上の電解コンデンサ用である場合の有用性が高い。
【0011】
本発明のタンタル粉体は、下記測定方法1により測定されるMg含量(以下、[N−Mg]ということがある。)が20ppm以下であり、下記測定方法2により測定されるMg含量(以下、[A−Mg]ということがある。)が30ppm以下である。
[測定方法1]
四フッ化エチレン製ビーカーに試料0.500gを秤量し、超純水2mL、フッ酸と硝酸との1:1(容量比)の混酸(HF49質量%、HNO61質量%)5mLを加え、大気圧下、80℃で0.5時間加熱して試料を溶解させる。放冷後、得られた溶液を50mLに定容して試料溶液とし、ICP発光分光分析を行って、試料中に含まれるマグネシウム含量を求める。
[測定方法2]
四フッ化エチレン製の中容器を備える密閉可能なステンレス製の加圧容器の前記中容器に試料0.500gを秤量し、超純水2mL、フッ酸と硝酸との混酸(前記[測定方法1]と同じ)7mLを加え、該加圧容器を密閉した後、140℃で10時間加熱して試料を溶解させる。放冷後、得られた溶液を50mLに定容して試料溶液とし、ICP発光分光分析を行って、試料中に含まれるマグネシウム含量を求める。
【0012】
測定方法1は、従来、タンタル粉体中のMgの定量に従来汎用されている、JIS H1699に規定されるICP発光分光分析法に準じた測定方法であり、試料であるタンタル粉体をフッ酸(フッ化水素酸ともいう。)と硝酸との混酸により溶解し、その溶液(試料濃度1%(w/v)の試料溶液)についてICP発光分光分析法により発光強度を測定し、その測定値と、別途作成した検量線から試料中の不純物(Mg等)含量を定量する方法(Ta1%標準添加法)である。
試料溶液のICP発光分光分析(試料溶液の発光強度の測定、検量線の作成等)は、JIS H1699に規定される手順に従って行うことができる。
測定方法1による測定値[N−Mg]は、JIS H1699に従って測定される値と同等である。
測定方法2は、試料の溶解を、加圧下、測定方法1よりも高温で行う以外は、測定方法1と同様の手順で行われる。
測定方法2での試料溶液の調製条件(試料の溶解条件)は測定条件1よりも過酷な条件である。そのため、測定方法2による測定値[A−Mg]は、[N−Mg]と同じかそれよりも大きい値であり、[N−Mg]よりも小さくなることはない。
[N−Mg]と[A−Mg]との間の差は、Mg接触処理を行った際に、測定方法1の溶解条件では溶解しないMg化合物が形成されることによると考えられる。すなわち、測定条件1では試料中のMgの一部が試料溶液に溶出せず、一方、測定条件2では該Mg化合物が分解し、全てのMgが試料溶液中に溶出し、その測定値に差が生じると推測される。
【0013】
ここで、本明細書および特許請求の範囲における「ppm」は、質量/質量の値であり、「mg/kg」として表すこともできる。たとえばMg含量20ppmは、タンタル粉体1kg中に含まれるMgが20mgであることを示す。
本発明のタンタル粉体の[N−Mg]は20ppm以下であり、12ppm以下が好ましく、8ppm以下がより好ましい。また、[A−Mg]は30ppm以下であり、20ppm以下が好ましく、12ppm以下がより好ましい。[N−Mg]が20ppm超および/または[A−Mg]が30ppm超の場合、該タンタル粉体を電解コンデンサとした際の漏れ電流が大きくなる。
[N−Mg]、[A−Mg]は、それぞれ、漏れ電流の観点からは低いほど好ましく、その下限は特に限定されないが、後の酸洗工程等を簡略化できるなど、実用的にMgを除去する付加的なプロセスを削減省力化できる点で、[N−Mg]も[A−Mg]も2ppm以上が好ましい。
本発明においては、さらに、[N−Mg]と[A−Mg]との差([A−Mg]−[N−Mg]、以下、ΔMgという。)が10ppm以下であることが好ましく、3ppm以下がより好ましく、1ppm以下がさらに好ましい。このΔMgは、電解コンデンサ用アノードに陰極を形成せず、希硫酸水溶液をカソードとする測定(ウェット(Wet)法)と比べ、実際のキャパシターに近い測定値が得られるセミソリッド法による漏れ電流との相関性が極めて高く、ΔMgが小さいほど漏れ電流が小さくなる。ΔMgの下限は特に限定されず、0が最も好ましい。
【0014】
[N−Mg]、[A−Mg]の値は、それぞれ、脱酸素処理条件やその後の酸洗浄処理条件等の、Mg接触処理条件を調節することにより制御できる。
たとえば[N−Mg]は、脱酸用マグネシウムの量、脱酸温度、脱酸時間、脱酸圧力、酸洗用酸の種類、酸の濃度、等により制御できる。
[A−Mg]は、上記の方法に加え、タンタル粉末に含まれる酸素量に対するMgの過剰量がタンタル粉末のいたるところで不足しないようにすることにより制御できる。
特に、後述する本発明のタンタル粉体の脱酸素方法により脱酸素処理を行うと、[A−Mg]およびΔMgが小さいタンタル粉体を安定して得ることができる。
【0015】
本発明者らの検討によれば、Mgによる脱酸素処理が施された市販のタンタル粉体、特にCV値が20万μFV/g以上の電解コンデンサ用のタンタル粉体であって、嵩密度が1.83g/cmを超えるものは、[N−Mg]が少なければ[A−Mg]やΔMgも少ないが、嵩密度が1.83g/cm以下のものは、[N−Mg]が少なくても[A−Mg]やΔMgが多い傾向がある。そのため、測定方法1で検出できない残留Mgの問題は、タンタル粉体の嵩密度が1.83g/cm以下である場合に生じやすいと考えられる。空気透過式比表面積が、6000cm/g以上である場合も同様に[N−Mg]が少なくても[A−Mg]やΔMgが多い傾向がある。
[A−Mg]やΔMgが大きくなる理由としては、脱酸素処理等のMg接触処理温度が低いことが考えられる。たとえば、電解コンデンサの高CV値化のためには後述するようにタンタル粉体の比表面積を大きくする必要があるが、脱酸素処理温度が高温になるほど、タンタル粒子の高次構造が崩れ、脱酸素処理後のタンタル粉体の嵩密度が高くなり、比表面積が小さくなる傾向がある。そのため、嵩密度が低く、比表面積の大きいタンタル粉体を得ようとする場合、脱酸素処理温度が低くなる。脱酸素処理温度が低くなると、タンタル粉体中のMgやMg化合物が充分に除去されずにタンタル粒子表面に残留すると考えられる。
また、タンタル粉体の比静電容量(CV値)が大きくなると、比表面積の増大に伴って、酸素含量も多くなるため、過剰な酸素を取り除くために必要な還元剤(Mg)量も多くなり、結果、脱酸素処理後のタンタル粉体中に、還元剤由来のMg化合物が多くなる。このことから、[A−Mg]を小さくするためには、タンタル粉末に含まれる酸素量に対するMg当量以上に必要とされるMgの過剰量が、タンタル粉末のいたるところで不足しないように制御することが重要であると考えられる。
そして上記のようにしてタンタル粉体中に残留するMgやMg化合物が、混酸に溶解しにくい不溶性のマグネシウム化合物を形成するのではないかと推測される。
【0016】
したがって、[A−Mg]およびΔMgを所定値以下とすることは、タンタル粉体の嵩密度が1.83g/cm以下である場合に特に有用である。かかる観点から、タンタル粉体の嵩密度は、1.75g/cm以下が好ましく、1.60g/cm以下がより好ましい。
また、嵩密度は、粒子強度、求められる取扱性、等を考慮すると、1.00g/cm以上が好ましく、1.20g/cm以上がより好ましい。
タンタル粉体の嵩密度は、JIS Z2504(金属粉見掛密度試験方法)により測定される。
タンタル粉体の嵩密度は、脱酸素処理時の加熱温度、熱処理時の加熱温度、造粒時の水バインダーの量、等により制御できる。たとえば脱酸素処理時の加熱温度が低いほど、または造粒時の水バインダーの量が多いほど、得られるタンタル粉体の嵩密度が低くなる。
【0017】
本発明のタンタル粉体は、上述したように、CV値が17万μFV/g以上の電解コンデンサ用である場合の有用性が高い。CV値は、18万μFV/g以上がより好ましく、19μFV/g万以上がさらに好ましく、20万μFV/g以上が特に好ましい。
CV値は、高いほど本発明の有用性が高いためその上限は特に限定されないが、製造しやすさ、現状で求められる陰極物質の含浸性、等の点から、40万μFV/g以下が好ましい。
タンタル粉体が、どのようなCV値の電解コンデンサ用であるかは、主にタンタル粉体の比表面積によって決定され、たとえばCV値5万μFV/gの電解コンデンサ用の場合、BET法により測定される比表面積(BET法比表面積)は1.0m/g程度であり、CV値17万μFV/gの電解コンデンサ用の場合、BET法比表面積は3.4m/g程度であり、CV値20万μFV/gの電解コンデンサ用の場合、BET法比表面積は4.0m/g程度である。
したがって、本発明のタンタル粉体のBET法比表面積は3.4m/g以上が好ましく、3.6m/g以上(CV値18万μFV/g以上に対応)がより好ましく、3.8m/g以上(CV値19万μFV/g以上に対応)がさらに好ましく、4.0m/g以上(CV値20万μFV/g以上に対応)が特に好ましい。
BET法比表面積は、10.0m/g以下(CV値40万μFV/g以下に対応)が好ましい。
【0018】
本発明のタンタル粉体は、空気透過式比表面積(以下、SSAと略記する。)が、6000cm/g以上であることが好ましく、7700cm/g以上がより好ましく、10000cm/g以上がさらに好ましく、12500cm/g以上が特に好ましい。SSAが6000cm/g以上であると従来のMgの制御方法だけでは[A−Mg]を充分に低下させることが困難となり、本法が顕著に効果的となる。
SSAは、粉末を球状粒子と仮定した場合に、粉末からなる試料層を透過する空気の透過性と比表面積との関係を表したコゼニー−カーマンの式(後述する式(i))を利用して測定される比表面積であり、特開2007−291487号公報の段落[0007]〜[0012]に記載の方法(空気透過式比表面積測定装置による比表面積(Sw)の測定方法)により求められる。
詳細に説明すると、まず、空気透過式比表面積測定装置は、特開2007−291487号公報の図1に示されるように、粉末の試料からなる試料層が充填される管状のセルと、前記セルが装着され、底部が有孔部材からなるセル装着部と、標線Xと標線Yが記された液面計を備え、鉛直に配置され、水が充填される水充填管と、水を排出する排出口と、前記水充填管および前記排出口を接続する可撓性の接続管と、前記接続管に設けられた開閉弁と、前記排出口から排出された水を受ける容器とを備える。このような空気透過式比表面積測定装置の例としては、(株)島津製作所製粉体比表面積測定装置SS−100形などが挙げられる。
この空気透過式比表面積測定装置を用いてSSAを求める場合、まず、前記セル内にタンタル粉末を充填し、圧縮して試料層を形成する。試料層を形成する際のタンタル粉末の充填質量Wは16.6gである。また、測定精度が高くなることから、試料層の密度が4.0〜4.5g/cmになるように圧縮することが好ましい。
また、前記開閉弁を閉じた状態で、前記液面計の標線Xより水面が上に位置するように前記水充填管に水を充填する。
次いで、前記試料層の高さLを測定した後、前記セルを前記セル装着部に装着する。
次いで、前記開閉弁を開き、前記排出口から水を排出させて、前記試料層を介して前記水充填管に空気を流入させる。これにより、前記セル内の試料層に空気を透過させ、前記液面計における水面が標線Xから標線Yに降下するまでの時間tを測定する。
そして、これらの測定結果を下記式(i)に代入することにより、SSAが求められる。
【0019】
【数1】

【0020】
式(i)において、SSAはタンタル粉末の空気透過式比表面積、ρは金属タンタルの密度(16.6g/cm)、△Pは前記試料層を透過する空気の圧力(以下、透過圧力という。)、μは空気の粘度(0.00018g/(cm・秒))、Aは前記試料層の断面積(前記セルの孔の断面積)、tは、前記排出口から水を排出した際に水面が標線Xから標線Yに降下するまでの時間、Lは前記試料層の高さ、Qは前記試料層を透過する空気の体積、εは前記試料層の空隙率であり、1−{W/(ρ・A・L)}の式で求められる値である(Wは前記試料層の質量である。)。
測定に際して、△Pは前記排出口の高さを調節して200mmHOになるように調整する。
前記試料層を透過する空気の体積Qは、水面が標線Xから標線Yに降下した際に前記水充填管から流出する水の体積に等しい。
【0021】
空気透過式比表面積測定装置を用いたSSAの測定では、タンタル粉末をセル内で圧縮している。このとき、粉末内での空気の流れの状態が反映される。そのため、SSAから求められる粒子径(以下、PDという。)は、二次粒子の構造および三次粒子の構造が反映されている。また、タンタル電解コンデンサを製造する際にはタンタル粉末を圧縮してペレット化するため、タンタル粉末をセル内で圧縮して測定して求めたPDは、タンタル電解コンデンサ製造の実情に合った粒子径である。
PDは、SSA(cm/g)を、下記式(ii)に代入することにより求められる(式(ii)中のρは金属タンタルの密度(=16.6g/cm)である。)
PD=6/(ρ・SSA) …(ii)
【0022】
本発明のタンタル粉体は、酸素含量が21000ppm以下であることが好ましく、17500ppm以下であることがより好ましく、11500ppm以下であることがさらに好ましい。酸素含量が低いほど、漏れ電流を抑制できる。
また、酸素含量は、本出願に適したBET法比表面積およびCV値の大きなタンタル粉末を大気中で安定して取り扱うために必要とされる酸化膜を成すため、8000ppm以上となる。
タンタル粉体の酸素含量は、JIS H1695(タンタル中の酸素定量方法)により測定できる。
また、本発明のタンタル粉体は、酸素含量と、当該タンタル粉体が用いられる電解コンデンサのCV値との比{酸素含量(ppm)/[CV値×10−4](μFV/g)}が、400〜600であることが好ましく、450〜550であることがより好ましい。該比が400以上であると本出願に適したBET法比表面積およびCV値の大きなタンタル粉末を大気中で安定して取り扱うために必要とされる酸化膜が充分に形成され、600以下であると漏れ電流を抑制できる。
【0023】
本発明のタンタル粉体は、酸素およびMg以外の他の元素を含んでもよい。該他の元素としては、たとえば窒素、水素、炭素、鉄、ニッケル、クロム、ナトリウム、カリウム、リン、ホウ素、ケイ素、等が挙げられる。
これらの中でも、窒素を含有することが好ましい。これにより、酸素の影響が抑えられ、漏れ電流がより抑制される。特に、高容量化のためにタンタル粉末の表面積を大きくすると、表面に吸着する酸素量も増え、漏れ電流が増加する傾向があるが、窒素原子を含有させることで、漏れ電流の増加を抑制し、電解コンデンサの信頼性を向上させることができる。
タンタル粉体の窒素含量は、500〜6000ppmが好ましく、600〜4000ppmがより好ましく、800〜2500ppmがさらに好ましい。
タンタル粉体の窒素含量は、市販の酸素/窒素分析計(たとえば堀場製作所EMGA520)を使用して、ヘリウムガス中、試料をインパルス融解加熱し、発生ガスをTCD(熱伝導度法)で定量する方法(JIS H1685)などにより測定できる。
【0024】
本発明のタンタル粉体は、電解コンデンサの製造に好適に用いられ、たとえば以下の手順で電解コンデンサとされる。
タンタル粉体に、3〜5質量%程度のバインダー(たとえばショウノウ(C1016O)等)を加えてプレス成形し、ついで、900〜1250℃で0.3〜1時間程度加熱して焼結し、多孔質焼結体を製造する。焼結温度は、タンタル粉体の比表面積等に応じて適宜設定できる。この多孔質焼結体をアノードとして使用する場合には、プレス成形する前にタンタル粉体中にリード線を埋め込み、それからプレス成形し、焼結して、リード線を一体化させることが好ましい。
そして、該多孔質焼結体に対し、酸化処理(化成酸化処理)を施す。化成酸化処理は、例えば、温度30〜90℃、濃度0.1質量%程度のリン酸、硝酸等の電解溶液中で、40〜300mA/gの電流密度で4〜15Vまで昇圧して1〜3時間処理することにより実施できる。このとき酸化された部分が誘電体酸化膜になる。
化成酸化処理後、多孔質焼結体上に、固体電解質層、グラファイト層、銀ペースト層を順次形成し、ついでその上に陰極端子をハンダ付けなどで接続した後、樹脂外被を形成することにより、固体電解コンデンサが得られる。固体電解質層等の形成は公知の方法により実施できる。たとえば固体電解質層は、固体電解質またはその前駆体の溶液または分散液を多孔質焼結体に含浸させ、加熱する等の方法により形成できる。固体電解質としては、二酸化マンガン、酸化鉛、導電性高分子等が挙げられる。
【0025】
<タンタル粉体の製造方法、脱酸素方法>
本発明のタンタル粉体の製造方法(以下、本発明の製造方法という。)は、Mg接触処理を施されたタンタル粉体を製造する方法であって、
タンタル化合物を還元し、タンタル粒子からなる第一の粉体を得る工程(以下、還元工程という。)と、
前記第一の粉体に対し、前記タンタル粒子を凝集させて凝集粒子とするための熱処理を施し、該凝集粒子を含有する第二の粉体を得る工程(以下、熱処理工程という。)と、
前記第二の粉体に対し、還元剤としてMgを用いた脱酸素処理を施す工程(以下、脱酸素処理工程という。)とを有する。
【0026】
(還元工程)
第一の粉体を得るための還元工程の一実施形態について説明する。本実施形態は、原料のタンタル化合物を、窒素雰囲気下、溶融させた希釈塩中で還元剤と反応させる方法であり、該方法により得られる第一の粉体は、窒素を含有している。
本実施形態では、図1に示す反応装置10を用いる。反応装置10は、反応器1と、反応器1の上面に設けられた原料投入口2と、還元剤投入口3と、雰囲気ガス供給口4と、反応器1の内部を撹拌する撹拌機5とを具備する。
撹拌機5は、撹拌翼5aと、撹拌翼5aを固定する回転軸5bと、回転軸5bを回転駆動させるモータ5cとを備える。本実施形態では、撹拌翼5aとして、水平方向に対して傾斜するように配置された2枚のピッチドパドル翼が用いられている。
【0027】
まず、反応器1内に希釈塩を充填する。
希釈塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、フッ化カリウム等が挙げられる。希釈塩は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
希釈塩の充填量は、原料(タンタル化合物)と還元剤との合計量に対し、5〜15質量倍が好ましい。希釈塩の充填量が原料と還元剤との合計量に対して5質量倍以上であれば、原料の濃度を適度に低くでき、反応速度を抑えて、得られる第一の粉体の粗大化を防止できる。希釈塩の充填量が原料と還元剤の合計量に対して15質量倍以下であれば、反応速度の過度な低下を防ぎ、充分な生産性を確保できる。
【0028】
次いで、雰囲気ガス供給口4からアルゴン等の希ガスを反応器に導入して空気を排除し、反応器10aを加熱して希釈塩を溶融させる(以下、溶融した希釈塩のことを「溶融塩」という。)。溶融後、撹拌翼5aを回転させて、溶融塩を撹拌する。
反応器1の加熱温度は、750〜850℃であることが好ましい。加熱温度が750℃以上であれば、希釈塩を充分に溶融でき、850℃以下であれば、エネルギーの過剰な消費を抑えることができる。
【0029】
次いで、原料投入口2から原料を反応器1の内部に投入した後、還元剤投入口3から還元剤を反応器1の内部に投入し、撹拌を継続して、反応融液を得る。この反応融液中でタンタル化合物が還元され、タンタル粒子が形成される。形成されたタンタル粒子は、反応融液中を沈降して反応器1の下部に堆積する。
原料のタンタル化合物としては、フッ化タンタルカリウム(KTaF)、タンタルのハロゲン化物(例えば、五塩化タンタル、低級塩化タンタル等)等が挙げられる。タンタル化合物としては、上記の中でも、フッ化タンタルカリウムが好ましい。
還元剤としては、ナトリウム等のアルカリ金属、アルカリ金属の水素化物、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルカリ土類金属の水素化物等が挙げられる。これらの中でも、ナトリウムが好ましい。
特に、タンタル化合物としてフッ化タンタルカリウムを使用し、還元剤としてナトリウムを使用すると、フッ化タンタルカリウム中のフッ素とナトリウムとが反応して、ナトリウムのフッ化物が生成する。このフッ化物は水溶性であるため、後の工程で容易に除去可能であることから好ましい。
還元剤の使用量は、タンタル化合物との反応当量が好ましく、タンタル化合物を残らず還元するため少し過剰に使用することも可能であるが、10質量%以上過剰に使用することは、残存する還元剤の処理が問題となるため避ける必要がある。
【0030】
原料および還元剤の投入時、雰囲気ガス供給口4から窒素含有ガスを反応器1の反応融液の上側に導入しておくと、還元反応により生じたタンタルと窒素とが固溶した固溶体からなるタンタル粒子が形成され、得られる第一の粉体が、窒素を含有するものとなる。
還元工程で使用できる窒素含有ガスとしては、例えば、窒素ガス、アンモニア等が挙げられる。
また、このとき、窒素含有ガス中の窒素濃度、窒素含有ガスの供給量、反応融液の撹拌速度等を調節することで、得られる第一の粉体の窒素含量を調節できる。たとえば窒素含有ガスの供給中、反応融液を撹拌する撹拌翼5aの回転数が多いほど、得られる第一の粉体の窒素含量が多くなる。かかる観点から、該回転数は、100〜200回転/分が好ましく、140〜170回転/分がより好ましい。該回転数が100回転/分未満であると、得られる第一の粉体の窒素含量が所望の値に満たないことがあり、200回転/分を超えると、得られる第一の粉体の窒素含量が過剰になることがある。
【0031】
反応融液中で生成したタンタル粒子は、上述したように、反応器1の下部に堆積する。この堆積量が所定量となるまで、原料および還元剤の投入を所定回数繰り返す。その後、原料および還元剤の投入を停止し、溶融塩を冷却する。
次いで、反応器1の下部に堆積した集塊を水および酸性水溶液で洗浄して溶融塩を除去し、乾燥させる。これにより、タンタル粒子からなる第一の粉体が得られる。
洗浄の際に使用する酸性水溶液としては、例えば、硝酸水溶液、塩酸、フッ酸等の鉱酸水溶液が挙げられる。該酸性水溶液は、さらに、過酸化水素水を含有してもよい。
乾燥の際の乾燥温度は80〜150℃であることが好ましい。乾燥温度が80℃以上であれば、短時間で充分に乾燥させることができ、150℃以下であれば、乾燥時のエネルギー消費量を少なくできる。
このようにして得られた第一の粉体の酸素含量は、通常、12000〜25000ppm程度である。
【0032】
なお、還元工程は上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態では、還元反応時の雰囲気ガスとして窒素含有ガスを用いたが、窒素含有ガスの代わりに、窒素を含有しないガス(例えば希ガス)を用いてもよい。
また、上記実施形態では、溶融塩中でタンタル粒子を形成させたが、気体状のタンタル化合物と気体状の還元剤とを接触させる気相法によってタンタル粒子を形成させてもよい。
気体状のタンタル化合物と気体状の還元剤とを接触させる方法としては、例えば、容器中に気体状のタンタル化合物を配置し、容器に気体状の還元剤を供給した後、容器を密閉し、加熱する方法などが挙げられる。
気体状の還元剤としては、例えば、水素、気化したナトリウム、気化したマグネシウムなどが挙げられる。
気相法における還元時の温度としては、タンタル化合物の沸点より10〜200℃高い温度であることが好ましい。還元時の温度が、タンタル化合物の沸点より10℃以上高ければ、反応を制御しやすく、タンタル化合物の沸点より200℃以下高い温度であれば、粒子の粗大化を防止できる。
【0033】
上記のようにして得られた第一の粉体は、そのまま次の熱処理工程に供してもよく、熱処理の前に予め、水を用いた凝集処理を行ってもよい。該凝集処理を行うことで、熱処理の際、より強固に凝集させることができる。
前記凝集処理は、たとえば、第一の粉体に水を添加して造粒し、乾燥することにより実施できる。造粒方法としては、撹拌造粒法、転動造粒法、スプレー造粒法、圧縮成形造粒法、含浸静置粉砕(架砕)造粒法、 等が挙げられる。
前記凝集処理において、水は、バインダーとして機能するものであり、純水であってもよいが、さらに、リンおよび/またはホウ素を添加したものであることが好ましい。これにより、高表面積を維持しながらタンタル粒子を凝集させることができる。リンおよび/またはホウ素の添加量は、第一の粉体に対して100〜500ppm程度が好ましい。
【0034】
(熱処理工程)
熱処理工程では、第一の粉体に対して熱処理を施すことで、第一の粉体中のタンタル粒子を凝集させて凝集粒子とする。
熱処理温度は800〜1250℃であることが好ましく、900〜1200℃がより好ましい。熱処理温度が800℃以上であれば、タンタル粒子を短時間で充分に凝集させることができ、1250℃以下であれば、凝集粒子の過度な粗大化を防止できる。
熱処理時間は0.1〜2時間であることが好ましい。熱処理時間が0.1時間以上であれば、充分に凝集させることができる。熱処理を2時間行うと凝集はほぼ完結しているため、それより長い時間をかけるのは無益である。
熱処理雰囲気は、例えば、真空雰囲気、希ガス雰囲気、窒素含有ガス雰囲気などにすることができる。ここでの希ガスとしては、例えばアルゴンガス、ヘリウムガス、等が使用できる。窒素含有ガスとしては、例えば、窒素ガス、アンモニアガス等が使用できる。これらのうち、窒素含有ガス雰囲気とした場合には、熱処理する粉体に窒素を導入できる。したがって、上記還元工程で得た第一の粉体の窒素含量が不足している場合には、熱処理工程でさらに窒素を含有させることにより微調整できる。
熱処理後の第一の粉体(以下、凝集粉ということがある。)の酸素含量は、熱処理前よりも増加する。たとえば熱処理前の第一の粉体の酸素含量が12000〜25000ppmの場合、その凝集粉の酸素含量は15000〜37500ppm程度となる。
【0035】
前記凝集粉は、そのまま第二の粉体として脱酸素処理工程に供してもよいが、通常、粒子径、流動性、等の調整のため、解砕、粉砕、篩い分け等の処理が施される。
本発明においては、特に、第二の粉体として、前記凝集粉を、差動ロールを供えた解砕機により解砕したものを用いることが好ましい。これにより、得られるタンタル粉体が、焼結性および流動性に優れたものとなる。差動ロールを供えた解砕機を用いて凝集粉を解砕する方法(含浸静置架砕造粒法)は、詳しくは、特開2006−336042号公報に開示されている。
【0036】
(脱酸素処理工程)
脱酸素処理工程では、前記第二の粉体に対し、還元剤としてマグネシウムを用いた脱酸素処理を施す。これにより、第二の粉体を構成する凝集粒子に含まれる酸素が、還元剤と反応することで除去される。
脱酸素処理は、通常、タンタル粉体と還元剤とを、還元剤の融点以上沸点以下の温度条件下で接触させる脱酸工程と、前記脱酸工程後のタンタル粉体を酸(酸性水溶液)で洗浄する酸洗工程と、前記酸洗工程後のタンタル粉体を水で洗浄する水洗工程とを含む。
本発明においては、前記脱酸工程を、本発明の脱酸素方法を用いて行う。すなわち、前記脱酸工程を、以下の手順で行う。
第二の粉体(酸素を含むタンタル粉体)を固体のマグネシウムと混合し、容器内にヘッドスペースを設けて充填し、650〜850℃に加熱するとともに、前記ヘッドスペースに、前記第二の粉体と混合したマグネシウムとは別のマグネシウムを気体として供給する。
【0037】
脱酸工程に使用するマグネシウムの全量を全て気体として供給した場合、ΔMgは小さい傾向はあるが、[A−Mg]が高くなる。また、脱酸工程に使用するマグネシウムの全量を第二の粉体と混合した場合、[A−Mg]およびΔMg、特にΔMgが大きくなる。これに対し、上記手順で脱酸工程を行うことで、[A−Mg]およびΔMgが小さいタンタル粉体を安定して得ることができる。
その理由は、定かではないが、処理する第二の粉体の嵩密度が低いほど、SSAが大きいほど、上記効果がより顕著に発揮されることから、Mgの分子拡散(乱流拡散)の均一性が向上することによると考えられる。すなわち、嵩密度の違いを脱酸工程時の第二の粉体内の空間率の差として捉えると、嵩密度が低い粉体は空間率が大きいため、該粉体と混合したMgが気体となったときに分子拡散(乱流拡散)し易い。空間率が大きくなるに伴って、大きい空間や小さい空間という分布が生じるため不均一な拡散になり易く、Mgが部分的に過剰に供給されたり、逆に供給されなかったりする。また、第二の粉体と混合されたMgは650℃で液状となってタンタル粉体と接触し、タンタル中の酸素がMgへと拡散し始め、Mgと接触していない酸素も拡散(表面、体積、等)してくる。このとき、第二の粉体の嵩密度が低いほどタンタル粉末中の酸素は拡散ルートが少ないために遅く不均一になり易いが、一部気体となったMgに更に別のMgを気体として供給することで、この不均一を充分に補うことが出来ていると考えられる。一方で、Mgを全て気体として供給した場合、タンタル粉末中の酸素拡散不均一は避けられるが、タンタル粉末に含まれる酸素量に対するMg当量以上に必要とされるMgの過剰量を不足しないよう供給することが難しく、液状Mgを使用しないゆえに、タンタル粉末の微細な空間まで入り込んでしまった気体のMgの除去が難しくなるために[A−Mg]が高くなると考えられる。これらが原因となって、脱酸工程で、脱酸素の程度に局所的なムラが生じたり、測定方法1で検出できないMg化合物が形成され、ΔMgや[A−Mg]の増大、ムラ等を生じさせていたと考えられる。本発明では、粉体外部からガス状のMgを供給することで、第二の粉体内のMgの不均一な拡散が押さえ込まれ、第二の粉体内での均一な拡散が達成されることで、酸素とMgとの反応が均一に生じ、上記効果が得られると考えられる。
【0038】
マグネシウムを用いた脱酸工程では、Ta+5Mg→2Ta+5MgOという反応式の反応が進行して第二の粉体から酸素が除去される。
第二の粉体と混合する固体のマグネシウム(以下、混合Mgということがある。)と気体として供給するマグネシウム(以下、ガスMgということがある。)との合計量、つまり、脱酸工程に使用するマグネシウムの総量は、上記反応式における化学量論比(Taに対して5モル倍)の1.0〜3.0モル倍であることが好ましく、1.5〜2.5モル倍であることがより好ましい。前記総量が前記化学量論比の1.0モル倍未満であると、酸素除去に必要なマグネシウム量が不足するため、第二の粉体中の酸素を充分に除去できないことがある。また、前記総量が前記化学量論比の3.0モル倍を超えても、酸素除去量が殆ど向上しないため、不経済である。
混合MgとガスMgとの比(混合Mg/ガスMg)は、0.5〜20が好ましく、1〜10がより好ましく、2〜5がさらに好ましい。該比が 20を超えると、本発明の効果が低減し、0.5未満であると、脱酸素効果が低減したり、[A−Mg]が高くなり易い。
第二の粉体と混合Mgとの混合比(質量比)は、第二の粉体/混合Mg=15〜50がより好ましく、18〜25がさらに好ましい。該混合比が50を超えると、脱酸素効果が低減することで酸素除去量が低下し、15未満であると、一次粒子の凝集が助長されることでCV値が低下するおそれがある。
混合Mgは、第二の粉体と混合性の点から、粉末状またはチップ状であることが好ましい。
【0039】
本発明における脱酸工程の一実施形態を、図面を用いて説明する。
本実施形態では、図2に示す処理装置20を用いる。
処理装置20は、タンタル製の第一のトレー21と、第一のトレーの開口を塞ぐ蓋22と、第一のトレー21および蓋22により形成された空間内に収容された第二のトレー23とを具備する。
【0040】
本実施形態では、まず、第一のトレー21内であり且つ第二のトレー23外である部分に、第二の粉体と固体のMgとの混合物31を充填し、固体のMg32のみを第二のトレー23内に充填し、第一のトレー21の上に蓋22を載せる。
処理装置20において、第一のトレー21内の混合物31の上面と蓋22の下面との間には空間(ヘッドスペース)33が設けられている。このとき、処理装置20内の空隙率(処理装置20内の総容積に対するヘッドスペース33の容積の割合)は、20〜90容積%が好ましく、30〜60容積%がより好ましい。空隙率が30容積%以上であると還元剤が充分に拡散され、60容積%以下であると容器が有効に使用できる。
第二のトレー23内のMg32は、第二のトレー23の側壁により、混合物31とは接触しないようになっている。
処理装置20は気密にはなっておらず、加熱時に処理装置20内で発生したガスが抜けるようになっている。
【0041】
次いで、処理装置20を加熱する。
加熱方法としては、たとえば処理装置20を加熱炉内に収容して加熱する方法、マイクロ波または高周波で加熱する方法、等が挙げられる。
加熱温度(脱酸素処理温度)は、650〜850℃が好ましく、700〜800℃が特に好ましい。650℃以上であれば混合物31中のMgが溶融して第二の粉体と接触するとともに、溶融したMgが揮発し、気体Mgとなって混合物31中を拡散する。また、第二のトレー23内のMgが溶融し、揮発して気体Mgとしてヘッドスペース33内に供給される。
上記温度範囲内においては、加熱温度が低いほど、タンタルの一次粒子の凝集が抑制され、より高容量の電解コンデンサが製造可能なタンタル粉体を得ることができる。
一方、加熱温度が高いほど脱酸素反応が速く進行するが、850℃を超えると、必要以上にMgと酸素との反応速度が速くなり、BET法比表面積およびCV値の大きなタンタル粉末では特に一次粒子の凝集が進行するおそれがある。
加熱時間(脱酸素処理時間)は、加熱温度、所望の酸素濃度等によっても異なるが、1 〜10時間が好ましく、4〜6時間がより好ましい。脱酸素処理時間が1時間未満であると、酸素を充分に除去できないことがあり、10時間を超えると、酸素除去量が飽和するため、無駄な時間が多くなる。
脱酸素処理において、気体Mgが供給されるヘッドスペース33内の雰囲気は、アルゴン等の希ガス雰囲気であることが好ましい。
【0042】
脱酸工程後、冷却する。その際、処理装置20内に含酸素ガス(たとえば空気)を供給してタンタル粉末の徐酸化安定化処理を行ってもよい。ただしこのとき、処理装置20内に窒素を供給しないことが好ましい。脱酸素処理後に窒素を供給すると、タンタル粉体中に窒化物の結晶が生成しやすくなる。
冷却後、酸洗工程を行う。酸洗工程では、前記タンタル粉体を酸(酸性水溶液)で洗浄する。これにより、粉体中に残留しているMgや、酸化マグネシウム等の還元剤由来の物質を除去される。
酸洗工程に使用する酸性水溶液としては、例えば、硝酸水溶液、塩酸、フッ酸等の鉱酸水溶液が挙げられる。該酸性水溶液は、さらに、過酸化水素水を含有してもよい。
酸洗後、水洗工程を行う。水洗工程では、前記タンタル粉体を水で洗浄する。これにより、残留する酸、金属水溶化物、金属水酸化物、等が除去される。水洗工程後、乾燥を行うことで、タンタル粉体が得られる。得られたタンタル粉体に対し、必要に応じて、解砕、粉砕、篩い分け等の処理を施してもよい。
【0043】
前記脱酸素処理(脱酸工程から水洗工程までの一連の工程)を行う回数は、1回であってもよいが、充分に脱酸素するためには、2回以上繰り返すことが好ましい。
たとえば脱酸素処理前の第二の粉体の酸素含量が15000〜37500ppmである場合、上記脱酸素処理を1回行った後の酸素含量は10000〜25000ppm程度であり、2回行った後の酸素含量は8000〜21000ppm(タンタル粉末がCV値20万μFV/gの電解コンデンサ用の場合、好ましくは9000〜11500ppm)程度である。
【0044】
なお、脱酸素処理工程は上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態では、処理装置20内に第二のトレー23を設置し、その中に固体のMgを配置することで、加熱時に気体のMgがヘッドスペース33内に供給されるようにしたが、第二のトレー23を設置せず、代わりにヘッドスペース33と処理装置20の外部とを連絡するガス供給手段を設置し、処理装置20の外部から気体のMgをヘッドスペース33に供給してもよい。
本発明の製造方法においては、Mg接触処理として、少なくとも、還元剤としてMgを用いた脱酸素処理が行われるが、該脱酸素処理以外のMg接触処理を行ってもよい。脱酸素処理以外のMg接触処理としては、たとえば、Mgを凝集剤として用いた還元凝集処理、Mgを酸化タンタルと反応させる処理、等が挙げられる。
【0045】
上記本発明の製造方法によれば、[A−Mg]やΔMgが小さいタンタル粉体を安定して得ることができる。
本発明者らの検討によれば、Mgによる脱酸素処理を従来の方法により施されたタンタル粉体は、嵩密度が1.83g/cm以下になったり、空気透過式比表面積が6000cm/g以上になると、[N−Mg]が少なくても、[A−Mg]やΔMgに大きなバラツキが見られるようになる。
そのため、上記本発明の製造方法は、製造しようとするタンタル粉体の嵩密度が1.83g/cm以下である場合、または空気透過式比表面積が6000cm/g以上である場合に特に有用である。
【実施例】
【0046】
以下の各例で用いた試薬および測定方法を以下に示す。
<試薬>
1)フッ酸:HF49%、半導体用(森田化学工業社製)。
2)硝酸水溶液:ELグレード(関東化学社製)、HNO61%。
3)HF(1)+HNO(1)の混酸:定容比混合。
4)原子吸光用各元素混合液:Fe、Ni、Cr、Cu、Mn、Si、Al、Ca、Mg、Mo、Ti、Nb、Wの各元素を100μg/mL含有(キャボットスーパーメタル(株)製)。
【0047】
<測定方法1(Ta1%標準添加法)によるタンタル粉体中のFe、Ni、Cr、Si、Mg([N−Mg])の定量>
[測定手順]
1)試料0.500gを100mLの四フッ化エチレン製ビーカーに秤量し、超純水2mLを加え、軽く攪拌する。
2)HF(1)+HNO(1)の混酸5mLを加え、ホットプレート上にて80℃で0.5時間加熱する。
3)加熱後放冷し、超純水で50mLに定容して試料溶液とする(不溶解物がある場合は、さらに、No.5Cの濾紙にて、濾過操作を実施する)。
4)試料溶液について、ICP−AESにて、下記の分析条件で定量測定を実施する。
【0048】
[試料溶液の分析条件]
1)分析装置:SPS−1700V、SPS−3000V(セイコー社製)
2)分析方法:各測定機器の取り扱いマニュアルによる。
3)標準液の作製:
(STD−Lo(0ppm)の作製)
標準試料(JIS分析用)5.000gをポリエチレン製ビーカー(300mL)に秤量し、HOで湿し、混酸50mLを少しずつ加えて分解し、放冷後、500mLのポリエチレン製メスフラスコに定容する。
(STD−Hi(200ppm)の作製)
標準試料(JIS分析用)2.500gをポリエチレン製ビーカー(300mL)に秤量し、HOで湿し、HF(1)+HNO(1)の混酸25mLを少しずつ加えて分解し、放冷後、250mLのポリエチレン製メスフラスコに入れ、更に、原子吸光用各元素混合液(100μg/ml)5.0mLを分注器で加え定容する。
【0049】
<測定方法2によるタンタル粉体中のMg([A−Mg])の定量>
[測定手順]
1)試料0.500gをステンレス製加圧容器(中容器は四フッ化エチレン製)の中容器に秤量する。
2)超純水2mL、HF(1)+HNO(1)の混酸7mLを加え、中容器の蓋をし、シールテープを巻きつけて固定した後、ステンレス加圧容器にセットする。
3)定温恒温器に入れ、自動切運転モード(設定温度140℃−10H)で加熱する。
4)加熱後放冷し、超純水でポリエチレン製ビーカー(100mL)に洗い移し、50mLに定容して試料溶液とする。
5)試料溶液について、ICP−AESにて、前記Ta1%標準添加法と同じ分析条件で定量測定を実施する。
【0050】
<タンタル粉体中の炭素の定量>
JIS H1681に準拠して測定した。
<タンタル粉体中の窒素の定量>
JIS H1685に準拠して測定した。
<タンタル粉体中の酸素の定量>
JIS H1695に準拠して測定した。
<タンタル粉体中の水素の定量>
JIS H1696に準拠して測定した。
<タンタル粉体中のナトリウム、カリウムの定量>
JIS H1683に準拠して原子吸光分析法により測定した。
<タンタル粉体中のリンの定量>
JIS H1699に準拠してICP発光分析法により測定した。
【0051】
<タンタル粉体のSSAおよびPD>
(株)島津製作所製粉体比表面積測定装置SS−100形を用いてSSAを測定し、該SSAを前記数式(ii)に代入してPDを算出した。
SSAの測定では、まず、セル内に16.6g(W)のタンタル粉末を充填し、試料層の密度が4.0〜4.5g/cmになるように圧縮して試料層を形成した。
また、開閉弁を閉じた状態で、液面計の標線Xより水面が上に位置するように水充填管に水を充填した。
次いで、試料層の高さLを測定した後、セルをセル装着部に装着した。
次いで、開閉弁を開き、排出口から水を排出させ、試料層を介して水充填管に空気を流入させた。これにより、セル内の試料層に空気を透過させ、液面計における水面が標線Xから標線Yに降下するまでの時間tを測定した。水面が標線Xから標線Yに降下した際に排出した水の量は20cmであり、試料層を透過した空気の体積Qは20cmであった。
【0052】
<タンタル粉体のBD>
BD(嵩密度)は、JIS Z2504(金属粉見掛密度試験方法)に準拠して測定した。
<タンタル粉体のPSD>
PSD(粒子径分布)は、篩分による粒度測定法である、JISZ8815のふるい分け試験方法通則に準拠して測定した。
【0053】
<例1〜3、7〜9、10〜20>
図1に示す構成の反応器(容量800L)にフッ化カリウムと塩化カリウムを投入し、200℃で1時間加熱して水分除去した後、800℃で溶融し、攪拌翼を用いて150回転/分で攪拌して、フッ化カリウムおよび塩化カリウムの溶融塩を得た。
次いで、攪拌翼の回転数を150回転/分に維持したまま、窒素ガスを雰囲気ガス供給口から連続的に溶融塩の液面上に導入しながら、反応器内にフッ化タンタルカリウムの投入と、ナトリウムの投入とを交互に繰り返し行った。その後、75℃まで冷却し、反応器内の沈降物を回収して水洗し、濃度5質量%のフッ酸水溶液を用いて酸洗し、120℃で乾燥して、酸素含量14890ppmの第一の粉体を得た。
次いで、この第一の粉体を1000℃で30分間熱処理して凝集粉とした。この凝集粉をチョッパーミルにより予備粉砕し、得られた粉砕粉を、全長100mmの差動ロールを3段備えたロールグラニュレータで解砕した。このとき、各差動ロールは、一段目のロール間の間隔を0.6mm、二段目のロール間の間隔を0.3mm、三段目のロール間の間隔を0.2mmとした。また、それぞれ一方のロールの周速度が他方のロールの周速度より30%速くなるように設定した。
次いで、得られた解砕粉(以下、HTということがある。)に対し、以下の手順で脱酸素処理を行った。HT(100質量%)に対して5質量%のマグネシウムチップを添加、混合して混合物を得た。図2に示す構成の処理装置20から第二のトレー23を除き、その第一のトレー21に、前記混合物を、空隙率が70容積%となるように充填し、蓋22をして加熱炉内に収納し、雰囲気をアルゴンで置換したのち、750℃で5時間加熱することにより脱酸を行った。その後、過酸化水素と硝酸を用いて酸洗し、水洗し、70℃で14時間真空乾燥して粉体(脱酸素処理を1回施したもの。以下、DXということがある。)を得た。
このDXに対し、上記と同じ脱酸素処理(脱酸、酸洗、水洗および乾燥)をもう1回繰り返してタンタル粉体(脱酸素処理を2回施したもの。以下、2DXということがある。)を得た。
【0054】
<例4〜6>
例1において、小型の実験用脱酸素装置を使用し、脱酸素処理におけるマグネシウムチップの添加量を5質量%、8質量%、4.5質量%に変更し、脱酸素処理を1回のみとした以外は、例1と同様の操作を行って、DXを得た。
【0055】
<試験例1>
例1〜9で得られた2DXまたはDXについて、前述の手順でSSA、BET、PD、BD、PSDおよび不純物(O、C、N、H、Fe、Ni、Cr、Si、Na、K、Mg([N−Mg]および[A−Mg])、P)含量を測定した。また、[N−Mg]および[A−Mg]の測定結果からΔMg([A−Mg]−[N−Mg])を算出した。
また、各例の2DXまたはDXについて、それぞれ、以下の手順で、セミソリッド法による漏れ電流(RLC)の評価を行った。例1〜3、7〜9については、1150℃および1200℃でのペレット焼結による、SD、CV、tanδ、ウェット法による漏れ電流結果を示す。
【0056】
(セミソリッド法によるRLCの評価)
例1〜9で得られた2DXまたはDXの粉末0.15gを、3.0mm径、密度4.5g/cmに成形し、1150℃で20分間焼結したペレットを徐酸化して焼結体を作製した。
焼結体を、「0.1質量%HPO,60℃,10V,120分間,90mA/g」の条件で化成した。
次に、前記焼結体に対し、「24.8質量%Mn液(硝酸マンガン(Solicond No6)、富山薬品製)に15分含浸し、大気中乾燥(105℃×15分)し、焼成(220℃×15分−50%水蒸気雰囲気下)する」操作を2回繰り返し、再化成した。
次に、前記焼結体に対し、「37.2%Mn液で15分含浸し、乾燥(105℃×15分)し、焼成(220℃×15分−50%水蒸気雰囲気下)する」操作を2回繰り返し、再化成した。
次に、前記焼結体に対し、「49.6%Mn液で15分含浸し、乾燥(105℃×15分)し、焼成(220℃×15分−50%水蒸気雰囲気下)する」操作を3回繰り返し、再化成した。
次に、前記焼結体に対し、「62.0%Mn液で15分含浸し、焼成(200℃×15分−50%水蒸気雰囲気下)する」操作を2回繰り返し、再化成した。この最後の再化成15分後の残余電流をRLCとして使用した。
【0057】
結果を表1〜3に示す。
また、各例の2DXまたはDXの[N−Mg]、[A−Mg]、ΔMgおよびRLCの測定結果を表4に示す。また、これらの結果から、[N−Mg]、[A−Mg]、ΔMgをそれぞれ横軸にとり、RLCを縦軸にとったグラフを作成するとともに、[N−Mg]、[A−Mg]またはΔMgと、RLCの測定値との相関係数を求めた。各グラフを図3〜5に示し、相関係数を表4に併記する。
表4および図3〜5に示すように、N−Mgが20ppm以下であり且つA−Mgが30ppm以下である例2〜5、7〜9の2DXまたはDX(実施例)は、N−Mgが20ppm以下であってもA−Mgが30ppmを超える例1、6の2DXまたはDX(比較例)に比べて、RLC値が低かった。
また、N−MgとRLCとの相関性は低かったが、A−MgまたはΔMgとRLCとの相関性は高かった。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
<例10〜20>
例1と同様にして得た第一の粉体を、表5に示す温度(HTT(℃))で30分間熱処理して凝集粉とした。この凝集粉を、例1と同様の手順で予備粉砕し、解砕してHTを得た。得られたHTについて、前述の手順でBD、SSA、および不純物(O、N)含量を測定した。結果を表5に示す。
次いで、このHT100質量%に対し、表5に示す添加量(質量%)のマグネシウム(混合Mg)を添加、混合し、得られた混合物について例1と同様の脱酸、酸洗、水洗および乾燥を1回行ってDXを得た。得られたDXについて、前述の手順でBD、および不純物([N−Mg]、[N−Mg]、P)含量を測定した。結果を表5に示す。また、[N−Mg]および[A−Mg]の測定結果からΔMgを算出した。結果を表5に示す。
上記脱酸素処理(脱酸、酸洗、水洗および乾燥)をもう1回繰り返して2DXを得た。得られた2DXについて、前述の手順でBD、SSA、PD、および不純物(O、N、H、C、Fe、Ni、Cr、Na、K、Mg([N−Mg]および[A−Mg])、P)含量を測定した。また、[N−Mg]および[A−Mg]の測定結果からΔMgを算出した。結果を表6に示す。
【0063】
<例21〜33>
例1と同様にして得た第一の粉体を1000℃で30分間熱処理して凝集粉とした。この凝集粉を、例1と同様の手順で予備粉砕し、解砕してHTを得た。得られたHTについて、前述の手順でBD、SSA、および不純物(O、N)含量を測定した。結果を表5に示す。
次いで、このHT100質量%に対してマグネシウム(混合Mg)を表5に示す添加量(質量%)で添加、混合して混合物を得た。図2に示す構成の処理装置20の第一のトレー21に前記混合物を充填し、第二のトレー23にマグネシウム(単独Mg)を表5に示す量充填して蓋22をした。このときの処理装置20内の空隙率は、70容積%であった。その後、処理装置20を加熱炉内に収納し、750℃で5時間加熱することにより脱酸を行った。その後、過酸化水素と硝酸を用いて酸洗し、水洗し、70℃で14時間真空乾燥してDXを得た。
このDXに対し、上記脱酸素処理(脱酸、酸洗、水洗および乾燥)をもう1回繰り返して2DXを得た。
得られたDX、2DXそれぞれについて、前述の手順でBD、SSA、PD、および不純物(O、N、H、C、Fe、Ni、Cr、Na、K、Mg([N−Mg]および[A−Mg])、P)含量を測定した。また、[N−Mg]および[A−Mg]の測定結果からΔMgを算出した。結果を表6〜7に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
例10〜20と例21〜33との対比から、マグネシウムの一部をHTと混合し、マグネシウムの一部を分離配置して加熱して脱酸素処理を行うことで、全てのマグネシウムをHTと混合するよりも、得られるDXや2DXの[A−Mg]およびΔMgが小さく、そのバラツキも少ないことが確認できた。
【符号の説明】
【0068】
1…反応器、2…原料投入口、3…還元剤投入口、4…雰囲気ガス供給口、5…撹拌機、10…反応装置、20…処理装置、21…第一のトレー、22…蓋、23…第二のトレー、31…混合物、32…マグネシウム、33…ヘッドスペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムと接触する処理を施されたタンタル粉体であって、
下記測定方法1により測定されるマグネシウム含量が20ppm以下であり、下記測定方法2により測定されるマグネシウム含量が30ppm以下であることを特徴とするタンタル粉体。
[測定方法1]
四フッ化エチレン製ビーカーに試料0.500gを秤量し、超純水2mL、フッ酸と硝酸との1:1(容量比)の混酸(HF49質量%、HNO61質量%)5mLを加え、大気圧下、80℃で0.5時間加熱して試料を溶解させる。放冷後、得られた溶液を50mLに定容して試料溶液とし、ICP発光分光分析を行って、試料中に含まれるマグネシウム含量を求める。
[測定方法2]
四フッ化エチレン製の中容器を備える密閉可能なステンレス製の加圧容器の前記中容器に試料0.500gを秤量し、超純水2mL、フッ酸と硝酸との混酸(前記[測定方法1]と同じ)7mLを加え、該加圧容器を密閉した後、140℃で10時間加熱して試料を溶解させる。放冷後、得られた溶液を50mLに定容して試料溶液とし、ICP発光分光分析を行って、試料中に含まれるマグネシウム含量を求める。
【請求項2】
前記測定方法1により測定されるマグネシウム含量と前記測定方法2により測定されるマグネシウム含量との差が10ppm以下である、請求項1に記載のタンタル粉体。
【請求項3】
嵩密度が1.83g/cm以下である、請求項1または2に記載のタンタル粉体。
【請求項4】
比静電容量が17万μFV/g以上の電解コンデンサ用である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンタル粉体。
【請求項5】
BET法により測定される測定される比表面積が4.0m/g以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のタンタル粉体。
【請求項6】
酸素含量が8000〜21000ppmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンタル粉体。
【請求項7】
窒素含量が800〜2500ppmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のタンタル粉体。
【請求項8】
空気透過式比表面積が6000cm/g以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のタンタル粉体。
【請求項9】
マグネシウムと接触する処理を施されたタンタル粉体を製造する方法であって、
タンタル化合物を還元し、タンタル粒子からなる第一の粉体を得る工程と、
前記第一の粉体に対し、前記タンタル粒子を凝集させて凝集粒子とするための熱処理を施し、該凝集粒子を含有する第二の粉体を得る工程と、
前記第二の粉体に対し、還元剤としてマグネシウムを用いた脱酸素処理を施す工程とを有し、
前記脱酸素処理を、前記第二の粉体を固体のマグネシウムと混合し、容器内にヘッドスペースを設けて充填し、650〜850℃に加熱するとともに、前記ヘッドスペースに、前記第二の粉体と混合したマグネシウムとは別のマグネシウムを気体として供給することにより行うことを特徴とするタンタル粉体の製造方法。
【請求項10】
酸素を含むタンタル粉体を固体のマグネシウムと混合し、容器内にヘッドスペースを設けて充填し、650〜850℃に加熱するとともに、前記ヘッドスペースに、前記タンタル粉体と混合したマグネシウムとは別のマグネシウムを気体として供給することを特徴とするタンタル粉体の脱酸素方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−87371(P2012−87371A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235510(P2010−235510)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000186887)キャボットスーパーメタル株式会社 (18)
【Fターム(参考)】