説明

タンデムアーク溶接用トーチとそれを備えた溶接装置

【課題】 ノズル内面の清掃が容易に行えるタンデムアーク溶接用トーチを提供すること。
【解決手段】 トーチ本体1に備えられた2つの電極を1つのノズル2に収納するタンデムアーク溶接用トーチ18であり、前記ノズル2は、先端部を外向きに開放して前記電極を露出させることが可能な複数のノズル体6を有し、前記トーチ本体1は、前記各ノズル体6の先端部を外向きに開放させる開閉機構11を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンデムアーク溶接用トーチに関し、詳しくは、ノズルの内面を清掃できるタンデムアーク溶接用トーチと、それを備えた溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の板材の溶接にアーク溶接が用いられているが、近年、建設機械や橋梁などの厚板溶接を行う分野では、溶接の高能率化・自動化をさらに進めてさらなる低コスト化を図るために、溶接ロボットを用いたガスシールド溶接法によるタンデムアーク溶接が行われている。
【0003】
このタンデムアーク溶接は、溶接用ソリッドワイヤからなる先行電極及び後行電極を溶接方向に所定電極間距離を隔てて配置し、シールドガスをノズルから供給しながら各々の電極からアークを発生させて2つのアークで1つの溶融プールを形成して溶接するものであり、単電極によるアーク溶接に比較して溶着量が大幅に多く、高能率な溶接を可能とする。
【0004】
このタンデムアーク溶接用トーチのノズルとしては、通常、使用電流域が500A以上で使用される電極のアーク近傍に位置するので高温となるため、通常、水冷ノズルが採用されている。この水冷ノズルは、ノズルとトーチ本体との間に水ホース等の水通路が形成され、カップリング等で接続されている。
【0005】
また、このノズルは、アーク近傍に位置して高温となるため、飛散したスパッタがノズル内面に強力に付着する傾向がある。このようにノズル内面に付着したスパッタはシールドガスの流れを乱すので、十分なシールド性能を確保するためにはノズル内面を清掃してスパッタを除去する必要がある。
【0006】
なお、この種のタンデムアーク溶接に関する従来技術として、先行電極の溶接電流密度と後行電極の溶接電流密度との和や、各電極の電極突出し長さ等を規定することにより、スパッタ発生量が少なく、溶融プールの安定性が良く、ビード形状が良好となるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、この種のタンデムアーク溶接用トーチに関する従来技術として、トーチ本体を交換することなく、適宜、MIG溶接用またはTIG溶接用のトーチとして用いることができるようにした溶接トーチアッセンブリがある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−53545号公報
【特許文献2】特開2007−237247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記したようにノズルの内面に付着したスパッタを除去するための自動清掃装置としては、円筒状の刃を回転させてノズル内面に当ててスパッタを除去するノズル清掃方式が主に採用されている。
【0009】
しかしながら、上記タンデムアーク溶接用トーチのノズルとしては、先行電極と後行電極との2つの電極を収納するために長円形状の筒体となっていると共に、ノズル開口部が大きいので、安定したシールドガス流を得るべくノズル内部は先端に比べて大きく広がっている。その上、ノズル内面には平面状の部位が存在している。そのため、上記円筒状の刃をノズル内面に沿って正確に移動させるのは難しく、ノズル内面の円形部分のスパッタは除去できるが、平面部分のスパッタは残ってしまい、ノズル内面のスパッタを完全に除去することができない。
【0010】
また、他の清掃方法として、小電流を用いて溶接する薄板溶接等のトーチ清掃に用いられている磁気吸引式のノズルクリーナ又は圧縮空気吹出し式のノズルクリーナを用いる方法がある。しかし、大電流を用いて溶接する高温のタンデムアーク溶接用トーチのノズルの場合にはスパッタが強固に付着しているため、磁気吸引式や圧縮空気吹出し式のノズルクリーナでは十分な清掃効果は得られない。
【0011】
従って、従来のスパッタ清掃方法ではノズル内面の十分な清掃効果を得ることができず、ノズル内面に残ったスパッタによりシールドガスの流れが乱れて溶接品質の悪化等を招く場合がある。
【0012】
一方、上記したような溶接作業途中におけるノズルの清掃を行わないように、ノズルの清掃が必要になった時点で清掃済みのノズルと交換するノズル交換方式も考えられる。しかしながら、上記したようにタンデムアーク溶接用トーチのノズルは水冷構造となっているため、ノズル交換方式を採用するためには、ノズルとトーチ本体との間に形成されるカップリング等の水路を着脱する必要があり、容易に交換することはできない。しかも、水冷ノズルは非常に高価であり、長時間の無人運転のためには、非常に多くの交換ノズルを用意する必要があり(例えば、30分毎に交換を要する自動化工場等)、多大なコストが必要になって実現化は難しい。
【0013】
そこで、本発明は、ノズル内面の清掃が容易に行えるタンデムアーク溶接用トーチと、それを備えた溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明のタンデムアーク溶接用トーチは、トーチ本体に備えられた2つの電極を1つのノズルに収納するタンデムアーク溶接用トーチであって、前記ノズルは、先端部を外向きに開放して前記電極を露出させることが可能な複数のノズル体を有し、前記トーチ本体は、前記各ノズル体の先端部を外向きに開放させる開閉機構を具備していることを特徴とする。このような溶接用トーチによれば、ノズル体の内面に付着したスパッタ等を除去する際に、ノズル体先端部を外向きに開放することによって、ノズル体の内面を外方向に露出させることができるので、ノズル体内面を回転ブラシ等の清掃具で容易に清掃することができ、付着したスパッタを除去してシールドガスの整流が保たれるように清掃することが安定してできる。
【0015】
また、前記ノズル体は、上端部が前記トーチ本体に回動可能に支持され、前記開閉機構は、前記トーチ本体の軸方向に移動するロッドと、該ロッドの移動によって前記ノズル体の先端部を外向きに回動させて開放するリンクとを有していてもよい。このようにすれば、トーチ本体に回動可能に支持されたノズル体をロッドとリンクとを組合わせた開閉機構によって安定して開閉させることができる。
【0016】
さらに、前記ノズル体は、上端部が前記トーチ本体に回動可能に支持され、前記開閉機構は、前記トーチ本体の軸方向に移動するラックと、該ラックの移動によって前記ノズル体の支持部を回動させて外向きに開放するピニオンとを有していてもよい。このようにすれば、トーチ本体に回動可能に支持されたノズル体をラック&ピニオンの開閉機構によって安定して開閉させることができる。
【0017】
また、前記ノズル体の開放角度を所定角度で制限する係止部を具備させてもよい。このようにすれば、ノズル体を所定角度開放した状態で係止できるので、ノズル体内面の清掃時の反力を構造的に支持した状態で安定して清掃することができる。
【0018】
さらに、前記ノズル体の内部及び前記トーチ本体に冷却水通路を具備させ、該ノズル体の支持部をヒンジ構造とし、該ヒンジ構造に前記トーチ本体の冷却水通路とノズル体の冷却水通路とを連通させるスイベルジョイントを内蔵させてもよい。このようにすれば、ヒンジ構造に内蔵したスイベルジョイントを利用して、開閉可能なノズル体の冷却水通路に冷却水を給排することができる。
【0019】
また、前記ヒンジ構造は、ノズル体の上端部を支持する複数のヒンジ部を有し、該複数のヒンジ部のいずれかに、前記ノズル体の冷却水通路入口と連通する入口側スイベルジョイント又は冷却水通路出口と連通する出口側スイベルジョイントを具備させて冷却水の流れ方向を規定してもよい。このようにすれば、ノズル体を支持する一部のヒンジ部から冷却水通路に冷却水が供給され、この冷却水は他の冷却水通路から他のヒンジ部へと排出されるので、冷却水の流れを規定してノズル体の冷却効果を向上させることができる。
【0020】
一方、本発明のタンデムアーク溶接装置は、上記のいずれかのタンデムアーク溶接用トーチを備えたタンデムアーク溶接装置であって、前記ノズル体の内面を清掃するブラシと、該ブラシを清掃運動させる駆動機と、を有する清掃装置を備え、前記ノズル体を外向きに開放させた状態で、前記清掃装置のブラシ位置に該ノズル体の内面を移動させて該ノズル体内面を清掃する制御装置を具備させたことを特徴とする。このような溶接装置によれば、例えば、円盤状ブラシとそれを回転させる駆動機(電気モータ等)を有する清掃装置をタンデムアーク溶接装置の周辺に配置し、溶接装置の制御プログラム動作によりトーチのノズル体を外向きに開放して、ノズル内面を何回かに分けて清掃装置のブラシに当てることでスパッタを完全に除去することが自動的にできる。しかも、手作業をなくして作業者の溶接装置周辺での作業を削減することが可能になると共に、無人運転時間を長くすることで製造コストを下げることができる。このような溶接装置としては、溶接ロボットを採用することにより、ノズル内面を多様な動作で清掃装置のブラシに対向させて清掃することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、以上説明したような手段により、ノズル先端部を外向きに開放させることによってノズル内面を外方向に露出させて付着したスパッタ等を容易に除去することができるので、ノズル内面によるシールドガスの整流を安定させて溶接品質の安定化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第1実施の形態に係るタンデムアーク溶接用トーチを示す斜視図であり、図2は、図1に示すノズルの中間開放状態を示す斜視図、図3は、図1に示すノズルの最開放状態を示す斜視図、図4は、図3に示すノズルの最開放状態を示す側面図である。図1に示す状態が溶接時の状態であり、図3に示す状態が清掃時の状態である。なお、この明細書及び特許請求の範囲の書類中では、図示する矢視Iから見た状態を正面とし、この正面に向った状態で、上下方向、左右方向、前後方向といい、矢印Sの方向を軸方向という。また、タンデムアーク溶接用トーチ18の先端部分をトーチ本体1と呼び、このトーチ本体部分を図示して説明する。
【0023】
図1に示すように、トーチ本体1の先端部分にノズル2が設けられており、このノズル2から2本の給電チップ3(電極)の先端が突出している。このノズル2は、2本の給電チップ3を内装するように略長円形断面で形成されており、このノズル2で2本の給電チップ3の周囲を覆うことにより、給電チップ3の周囲に向けてノズル2内に供給される炭酸ガスや、アルゴンと二酸化炭素の混合ガス等のシールドガスによるアーク溶接部の安定したシールを図っている。このノズル2の内面は、安定したシールドガス流を得るべく滑らかな表面に形成され、このノズル2の先端と給電チップ3との隙間から給電チップ3の先端周囲に向けて噴出されるように先端が狭くなるように形成されている。また、上記トーチ本体1の上部には、上記2本の給電チップ3に対して別々に溶接電流及び溶接ワイヤを供給するトーチネック部4が連結されている。
【0024】
そして、この実施の形態では、上記トーチ本体1に設けられたノズル2が、前後方向の中央部に合せ面5が設けられた2分割構造のノズル体6の組合わせで構成されている。これらのノズル体6は、上端部がヒンジ構造のヒンジ部7によってトーチ本体1に支持されている。このヒンジ部7は、トーチ本体1の下端部に固定された上ヒンジ部材8と、ノズル体6の上端部に固定された下ヒンジ部材9と、これらのヒンジ部材8,9の間に設けられた回動中心となる支持軸10とを有している。
【0025】
また、上記ノズル体6を外向きに開放させる開閉機構11が、上記トーチ本体1側に設けられている。この実施の形態の開閉機構11は、ロッド12とリンク13とを用いた構成となっている。ロッド12は、上方から下向きに延び、トーチ本体1の上方で前後方向に分岐して前後のヒンジ部7に向けて下方へ延びている。このロッド12は、トーチ本体1の上方に設けられたエアシリンダ等のアクチュエータで構成される駆動機(図示略)によって上下方向に移動させられるようになっている。
【0026】
さらに、上記ロッド12の下端と上記下ヒンジ部材9との間に上記リンク13が設けられている。このリンク13の端部は、ロッド12の下端と、下ヒンジ部材9に設けられたブラケット14とにピン15で連結されている。
【0027】
また、下ヒンジ部材9の側部には、ノズル体6の開放角度を規制する係止材16(ストッパ)が設けられている、この係止材16は、ノズル体6を外向きに開放させると上ヒンジ部材8に当接して、ノズル体6の開放角度を所定角度で制限している。
【0028】
このような開閉機構11によれば、ロッド12を下向きに押圧して両ノズル体6を内向きに閉じると、これらのノズル体6の合せ面5が密着して一体的なノズル2を形成することができる。
【0029】
図2に示すように、上記開閉機構11によれば、ロッド12を上方へ移動させると、この下端に連結されたリンク13によって下ヒンジ部材9のブラケット14に上向きの力が作用し、下ヒンジ部材9が支持軸10を中心に回動してノズル体6が外向きに開放させられる。図2は、ノズル体6の開放途中の状態を示している。
【0030】
図3に示すように、上記図2に示す状態から更にロッド12を上向きに移動させると、上記下ヒンジ部材9の側部に設けられた係止材16が上ヒンジ部材8に当接して、ノズル体6を外向きに開放させる回動が停止する。この状態が、ノズル体6を所定角度で保持した状態である。図4にも示すように、この例では、両ノズル体6の開放角度がそれぞれ約150°程度で開放した状態で保たれる。この状態までノズル体6を外向きに開放させると、ノズル内面17を外方向に向けて露出させることができる。
【0031】
このように、ノズル内面17を外向きに露出させ、その開放角度を係止材16で保つことにより、後のノズル内面クリーニング時のノズル体押圧力を構造的に安定して支持し、ノズル体6の内面清掃を安定して確実に行うことができるようにしている。
【0032】
以上のように構成されたタンデムアーク溶接用トーチ18によれば、所定時間のタンデムアーク溶接後、ノズル体6を外向きに開放させれば、円盤状ブラシ等の清掃具によってノズル内面17を容易に清掃することができるので、ノズル内面17に付着したスパッタ等を確実に除去することができる。
【0033】
つまり、上記タンデムアーク溶接用トーチ18は、ノズル2を先端部が開閉する分割構造のノズル体6で形成し、それらのノズル体6を開閉させる開閉機構11を設けて、ノズル清掃時にノズル先端部を外向きに開放させることでノズル内面17を外向きに露出させることができるので、そのノズル内面17をブラシで清掃したり、外部に設置した円盤状ブラシ等を駆動機(電動モータ等)で回転させるノズル清掃装置を用いて清掃することが容易にでき、強固に付着しているスパッタ等を機械的な清掃で確実に除去することができる。しかも、ノズル内面17の全体を外向きに露出させるので、ノズル内面全体にわたり十分な清掃効果が得られる。なお、このノズル内面17の自動清掃に関しては、後述する図7によって説明する。
【0034】
そして、スパッタ等を除去する清掃終了後は、上記ロッド12を下向きに移動させることにより、リンク13を介してノズル体6の先端部が内向きに回動して合せ面5を密着させ、一体的なノズル2を形成することができる。
【0035】
このように、上記タンデムアーク溶接用トーチ18によれば、ノズル内面17を外向きに露出させて、従来十分除去されなかったスパッタ等も容易に除去する清掃作業が行えるので、その清掃したノズル2によれば、シールドガスが安定して整流されて溶接金属の品質安定化を図ることができる。
【0036】
図5は、本発明の第2実施の形態に係るタンデムアーク溶接用トーチを示す斜視図である。上記第1実施の形態と同一の構成には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。この実施の形態は、上記第1実施の形態とは異なった開閉機構21が備えられており、この実施の形態の開閉機構21は、上下動させられるラック22と、ノズル体6に設けられたピニオン23とを有するラック&ピニオン機構となっている。なお、この実施の形態では、給電チップ(電極)等の記載を省略し、トーチ本体1の上部を簡略化して示す。
【0037】
図示するように、トーチ本体1には、このトーチ本体1の上方に設けられた図示しない駆動機(エアシリンダ等)によって上下方向(軸方向S)に移動するラック22が設けられている。このラック22は、トーチ本体1の一側方(右側)の前後方向中央部で上下方向に移動するように設けられている。このラック22には、前後に同一ピッチの歯部24が形成されている。
【0038】
一方、上記ノズル体6を回動可能に支持するヒンジ部7の支持軸26は、上記ラック22が設けられたトーチ本体1の一側方まで延設され、その端部に、上記ラック22の歯部24と噛合する歯部25を有するピニオン23が設けられている。このピニオン23は、支持軸26と一体的に回動するように結合されている。また、支持軸26は、下ヒンジ部材9と一体的に回動するように結合されている。従って、上記ラック22を下向きに移動させることによりピニオン23が回動して、支持軸26を回動中心として下ヒンジ部材9を介して2つのノズル体6が共に外向きに開放されるようになっている。
【0039】
この第2実施の形態のタンデムアーク溶接用トーチ28によっても、清掃時にラック22を下向きに移動させるとノズル体6が約150度程度の角度で開放した状態で係止材16がトーチ本体1の上ヒンジ部材8に当接し、その状態で保持することができる(図4と同様の開放状態)。そして、その状態のノズル内面17(図4)を、ブラシ等の機械的手段で清掃することにより、容易にスパッタ等を除去することができる。
【0040】
図6は、本発明の第3実施の形態に係るタンデムアーク溶接用トーチを示す図面であり、(a) は斜視図、(b) は(a) に示すVI−VI矢視の断面図である。(b) の断面図は、スイベルジョイント部分の断面を示している。この実施の形態は、水冷構造のノズル32と、このノズル32に冷却水Wを供給する構成がトーチ本体31に付加されている。なお、ノズル32の開閉機構は上述した第1実施の形態又は第2実施の形態と同一、もしくは異なっていてもよく、限定されるものではないので図示は省略する。また、この実施の形態でも、給電チップ(電極)等の記載を省略し、トーチ本体31の上部を簡略化して示す。
【0041】
図示するように、このノズル32も前後方向中央部に合せ面33が設けられた2分割構造のノズル体34によって構成されており、それぞれのノズル体34は、上端部がトーチ本体31の下端部に2つのヒンジ部38で支持されている。この実施の形態のヒンジ部38は、左右に分かれて設けられている。この実施の形態では、ヒンジ部38の一方に開放角度を規制する係止材44が設けられている。
【0042】
また、上記2つのノズル体34の内部には、上記左右に分かれた2つのヒンジ部38からノズル体先端部に連なる冷却水通路37が設けられている。この実施の形態では、ノズル体34を、内側部材35と外側部材36とを一体的に結合することにより、これら内側部材35と外側部材36との間に冷却水通路37が形成されるようにしている。この冷却水通路37は、内側部材35の外側に外側部材36と同形状の凹状部を形成し、その凹状部が冷却水通路37となるように外側面を外側部材36で覆って一体化することにより形成されている。このようにして形成された冷却水通路37は、外側部材36の形状と同様の形状であり、ノズル体34の先端近傍までの広い範囲に通水することができるような通路となっている。
【0043】
この冷却水通路37の両端は、それぞれ上記ヒンジ部38のノズル体34側に設けられた水通路39と連通している。図では右側が冷却水通路入口で、左側が冷却水通路出口となっており、冷却水の流れ方向が規定されている。また、図では前側のノズル体34のみを示しているが、後側のノズル体34にも同様の冷却水通路37が設けられている。
【0044】
また、トーチ本体31には、図の上方から延びる給水管40が接続されると共に、図の前側から後側に向けて設けられたバイパス管41と、後側から上方に延びる排水管42とが設けられている。これら給水管40、バイパス管41、及び排水管42は、ヒンジ部38のトーチ本体31側に設けられた水通路45と連通している。
【0045】
そして、ヒンジ部38には、トーチ本体31側の水通路45と、上記ノズル体34側の水通路39とを連通させるスイベルジョイント46が設けられている。このスイベルジョイント46は、ヒンジ部38の支持軸43に設けられており、ノズル体34と一体的に回動する支持軸43の回動時も水通路45と水通路39との連通状態を保つようになっている。このスイベルジョイント46は、支持軸43を介して固定側と回動側とに連なる水通路を形成する一般的な構造が採用されており、詳細な説明は省略する。
【0046】
この実施の形態では、図示しない冷却水供給機から供給された冷却水Wは、給水管40から水通路45と右側のヒンジ部38とを介して前側のノズル体34に設けられた冷却水通路37を通り、左側のヒンジ部38から出た冷却水Wは水通路45を介してバイパス管41から後側の左側ヒンジ部(図示略)へと流れ、その後側のヒンジ部から後側のノズル体34の冷却水通路37(図示略)を通って右側ヒンジ部(図示略)から排水管42に出て冷却水供給機へと戻るようになっている。この冷却水Wの流れを、図では点線で示している。
【0047】
このように、ノズル体34を回動可能に支持するヒンジ部38の内部にスイベルジョイント46を設けることにより、外向きに開放するノズル体34の開閉が、冷却水通路37とトーチ本体1の給水管40、バイパス管41、及び排水管42との間で冷却水Wを供給/排出する水通路の連通状態に影響しないようにしている。しかも、ノズル体34を支持するヒンジ部38にスイベルジョイントを内蔵することで、ノズル体34を開閉させる構成をコンパクトな構成として、トーチとワークが干渉しないようにしている。その上、ノズル体34の内面の清掃時等に水冷ノズル自体を脱着する必要がないので、装置全体の構造が複雑にならず安価に構成することを可能としている。
【0048】
図7は、図3に示すノズルの最開放状態におけるノズル内面清掃状態の斜視図である。この図では、上記第1実施の形態に係るタンデムアーク溶接用トーチ18を例に説明する。このタンデムアーク溶接用トーチ18を備えるタンデムアーク溶接装置としては、例えば、溶接ロボットのように、ロボットプログラムによって自動運転が可能な溶接装置が好ましい。図7は、この溶接ロボットのアーム先端に設けられたタンデムアーク溶接用トーチ18のトーチ本体部分を図示しており、上記第1実施の形態の符号を付して説明する。
【0049】
図示するように、このタンデムアーク溶接装置には、トーチ本体1の下部に設けられたノズル体6の内面17を清掃する清掃装置51が所定位置に設けられている。この清掃装置51は、上記ノズル体6の内面17を清掃する円盤状のブラシ52と、このブラシ52を回転させる駆動機53(例えば、電動モータ等(図示略))とを有している。この駆動機53は、清掃装置本体54の内部に設けられており、清掃装置本体54の上部から上方向に立設された支柱55の上部に上記ブラシ52が回転可能に設けられている。上記支柱55の内部には、上記駆動機53の駆動力を伝達する駆動軸56が設けられており、この支柱55の上端部には、縦方向に配設された駆動軸56の動力を横方向の軸中心で回転する上記ブラシ52に動力伝達する歯車(図示略)が設けられている。
【0050】
上記ブラシ52の形状としては、円盤状以外にノズル内面の形状に沿うような形状が好ましい。また、ブラシ52の材質としては、金属ブラシのように、強固に付着したスパッタ等を除去できるものが利用される。
【0051】
以上のようなタンデムアーク溶接装置によれば、ノズルの清掃が必要になった時点で、ロボットプログラムからの指令によってトーチ本体1を清掃装置51の近傍に移動させ、上記ノズル体6を外向きに開放させて内面17を外向きに露出させた状態で係止材16により所定の開放角度を保ち、前記清掃装置51のブラシ52を回転させ、このブラシ52の位置にノズル体6を移動させて、ノズル体6の内面17をブラシ52によって清掃する清掃工程を行うことができる。このノズル体6の内面清掃は、溶接後のノズルクリーニングを行う際に、ロボットプログラムからの指令により、上述した図2,3に示すようにノズル開閉機構11を動作させてノズル体6を外向きに開放した後、ロボットプログラムによってノズル体6の内面17が清掃装置51のブラシ52に当接させられて清掃される。
【0052】
この清掃装置51のブラシ52を当てるノズル体6の位置としては、ロボットプログラムからの指令により、トーチ本体1の位置を移動させることで調整し、ノズル内面17を満遍なく清掃する。例えば、ロボットプログラム動作によってノズル内面17を何回かに分けてブラシ52に当てることで、ノズル内面17のブラシ当たり面を任意に移動させることができるため、ノズル内面17の全体にわたり十分な清掃効果を得るようにできる。また、トーチ本体1の軸方向Sを水平にしたり、任意の角度にしてブラシ52に当てるようにしてもよい。しかも、ブラシ52に金属ブラシのように強力なスパッタ除去手段を適用することで、ノズル内面17の清掃時にスパッタ除去効果の高い清掃を行うことができる。また、ノズル内面17だけでなく、給電チップ3に付着したスパッタも同時に除去することができる。このようにして、ノズル2の内面17に付着したスパッタ等を除去して清掃することができる。
【0053】
そして、所定の清掃工程によってノズル内面17のスパッタ等が除去されて清掃されると、トーチ本体1がロボットプログラムからの指令によって清掃装置51から離され、ロボットプログラムからの指令でノズル体6が内向きに閉じられる。このようにして閉じられたノズル体6は、内面17のスパッタ等が除去されて滑らかな表面となっているので、シールドガスが設計通りに整流されて、溶接品質の安定したタンデムアーク溶接を行うことができる。
【0054】
また、上記したようにノズル体6の内面17を外向きに露出させて清掃する作業は、ロボットプログラムや作業に応じて制御装置(図示略)によって制御して自動的に行うことができるので、作業者が介在することなく長時間のタンデムアーク溶接を無人で行うことが可能となり、大幅なコスト削減を図ることもできる。
【0055】
なお、上記実施の形態では、2分割構造のノズル体6を例に説明したが、3分割構造等であってもよく、ノズル2の分割数は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0056】
また、開閉機構11,21として、ロッド12とリンク13との組合わせと、ラック22とピニオン23との組合わせを例に説明したが、これらの開閉機構11,21も他の構成であってもよく、上述した実施の形態に限定されるものではない。
【0057】
さらに、上述した実施の形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係るタンデムアーク溶接用トーチは、ロボットプログラムによってタンデムアーク溶接を行う自動溶接ロボット等に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施の形態に係るタンデムアーク溶接用トーチを示す斜視図である。
【図2】図1に示すノズルの中間開放状態を示す斜視図である。
【図3】図1に示すノズルの最開放状態を示す斜視図である。
【図4】図3に示すノズルの最開放状態を示す側面図である。
【図5】本発明の第2実施の形態に係るタンデムアーク溶接用トーチを示す斜視図である。
【図6】本発明の第3実施の形態に係るタンデムアーク溶接用トーチを示す図面であり、(a) は斜視図、(b) は(a) に示すVI−VI矢視の断面図である。
【図7】図3に示すノズルの最開放状態におけるノズル内面清掃状態の斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1…トーチ本体
2…ノズル
5…合せ面
6…ノズル体
7…ヒンジ部
8…上ヒンジ部材
9…下ヒンジ部材
10…支持軸
11…開閉機構
12…ロッド
13…リンク
16…係止材
17…ノズル内面
18…タンデムアーク溶接用トーチ
21…開閉機構
22…ラック
23…ピニオン
28…タンデムアーク溶接用トーチ
31…トーチ本体
32…ノズル
34…ノズル体
35…内側部材
36…外側部材
37…冷却水通路
38…ヒンジ部
39…水通路
40…給水管
41…バイパス管
42…排水管
45…水通路
46…スイベルジョイント
51…清掃装置
52…ブラシ
53…駆動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチ本体に備えられた2つの電極を1つのノズルに収納するタンデムアーク溶接用トーチであって、
前記ノズルは、先端部を外向きに開放して前記電極を露出させることが可能な複数のノズル体を有し、
前記トーチ本体は、前記各ノズル体の先端部を外向きに開放させる開閉機構を具備していることを特徴とするタンデムアーク溶接用トーチ。
【請求項2】
前記ノズル体は、上端部が前記トーチ本体に回動可能に支持され、
前記開閉機構は、前記トーチ本体の軸方向に移動するロッドと、該ロッドの移動によって前記ノズル体の先端部を外向きに回動させて開放するリンクとを有している請求項1に記載のタンデムアーク溶接用トーチ。
【請求項3】
前記ノズル体は、上端部が前記トーチ本体に回動可能に支持され、
前記開閉機構は、前記トーチ本体の軸方向に移動するラックと、該ラックの移動によって前記ノズル体の支持部を回動させて外向きに開放するピニオンとを有している請求項1に記載のタンデムアーク溶接用トーチ。
【請求項4】
前記ノズル体の開放角度を所定角度で制限する係止部を具備させた請求項2又は請求項3に記載のタンデムアーク溶接用トーチ。
【請求項5】
前記ノズル体の内部及び前記トーチ本体に冷却水通路を具備させ、
該ノズル体の支持部をヒンジ構造とし、該ヒンジ構造に前記トーチ本体の冷却水通路とノズル体の冷却水通路とを連通させるスイベルジョイントを内蔵させた請求項2〜4のいずれか1項に記載のタンデムアーク溶接用トーチ。
【請求項6】
前記ヒンジ構造は、ノズル体の上端部を支持する複数のヒンジ部を有し、
該複数のヒンジ部のいずれかに、前記ノズル体の冷却水通路入口と連通する入口側スイベルジョイント又は冷却水通路出口と連通する出口側スイベルジョイントを具備させて冷却水の流れ方向を規定した請求項5に記載のタンデムアーク溶接用トーチ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のタンデムアーク溶接用トーチを備えたタンデムアーク溶接装置であって、
前記ノズル体の内面を清掃するブラシと、該ブラシを清掃運動させる駆動機と、を有する清掃装置を備え、
前記ノズル体を外向きに開放させた状態で、前記清掃装置のブラシ位置に該ノズル体の内面を移動させて該ノズル体内面を清掃する制御装置を具備させたことを特徴とするタンデムアーク溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−36241(P2010−36241A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205459(P2008−205459)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】