説明

タンニンを利用した防食皮膜金属および防食皮膜形成方法

【課題】人体や環境に悪影響を及ぼすクロム化合物を使用しないで、金属基体の表面に改質したタンニンで形成した防食性を有する皮膜を形成できるタンニンを利用した防食皮膜金属および防食皮膜形成方法を提供するものである。
【解決手段】金属基体1の表面に密着して形成されたタンニンを主体とする第1防食皮膜2と、さらにその上に変性タンパク質またはタンパク質加水分解物を水溶化した化合物、あるいはポリアミンにより反応、改質した第2防食皮膜3を備えたタンニンを利用した防食皮膜金属である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の表面にタンニンを利用して優れた防食皮膜を形成した防食皮膜金属および防食皮膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属基体の表面を錆の発生から保護し、加えて表面への溶接性や印刷性などの機能性を付加する目的で、六価クロムを含む処理液で基体表面の化成処理が多く行われている。六価クロムは、化成処理作業が容易であるうえ、防錆性に優れ、皮膜損傷に伴い皮膜再生をする自己修復性を備えている非常に良好な処理剤である。
【0003】
しかしながら、六価クロムには毒性があるため、人体や環境に悪影響を与えることが問題となっており、昨今では欧州諸国をはじめとして排除の動きが活発化しており、優秀な代替処理剤が求められている。
【0004】
現在行なわれている代替技術としては、三価クロムを含む処理液で金属基体表面の化成処理を行っているのが一般的であるが、処理液自体に六価クロムを含む可能性があり、屋外での使用や、廃棄された暴露環境での経年変化により六価クロムに変わる可能性など問題が多い。
【0005】
また、有機防錆皮膜の代替技術としては、タンニン酸を主体とした処理液とCu,Fe,Ni,Mo,V,Ti,W,Zrなどの遷移金属やAl,Znなどの金属イオンを含む処理液で2段階に処理する防錆皮膜形成方法(特許文献1)が行なわれている。
【0006】
しかしながら、これらのタンニン酸を主体とした処理方法は、皮膜のベースとなるタンニン酸自体が改質されていないため、防食性能はタンニン酸自体の性質に大きく依存し、防食性能が不安定で、十分でなかった。
【特許文献1】特開2001−98392
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題を改善し、人体や環境に悪影響を及ぼす六価クロム化合物を含む全てのクロム化合物を使用しないで、金属基体の表面に改質したタンニンで形成した防食性を有する皮膜を利用した防食皮膜金属および防食皮膜形成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1記載のタンニンを利用した防食皮膜金属は、金属基体の表面に密着して形成されたタンニンを主体とする第1防食皮膜と、さらにその上に変性タンパク質またはタンパク質加水分解物を水溶化した化合物、あるいはポリアミンにより反応、改質した第2防食皮膜を備え、必要に応じてさらにこの上に前記第1防食皮膜と第2防食皮膜を繰り返し形成したことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項2記載のタンニンを利用した防食皮膜形成方法は、金属基体の表面にタンニンを主体とする第1処理液で処理して第1防食皮膜を形成した後、変性タンパク質またはタンパク質加水分解物を水溶化した化合物、あるいはポリアミンの何れか少なくとも1種からなる第2処理液で処理して、第1防食皮膜を改質した第2防食皮膜を形成し、必要に応じてさらにこの上に前記第1処理液と第2処理液で処理することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項3記載のタンニンを利用した防食皮膜形成方法は、第2処理液の変性タンパク質またはタンパク質加水分解物が平均分子量3000〜23000であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る請求項1記載のタンニンを利用した防食皮膜金属によれば、人体や環境に悪影響を与えることが問題となっている六価や三価のクロムなど有害な金属を全く含まず、金属基体の表面にタンニンを主体とする第1防食皮膜と、変性タンパク質、あるいはタンパク質加水分解物、あるいはポリアミンを主体とする第2防食皮膜を形成して、第1防食皮膜を改質することにより、優れた防食皮膜を得ることができる。
【0012】
本発明に係る請求項2記載のタンニンを利用した防食皮膜形成方法によれば、有害なクロムを使用せず、処理方法も水溶液に浸漬して乾燥するだけのクリーンで簡単な処理により優れた防食皮膜を形成することができる。
【0013】
また請求項3記載のタンニンを利用した防食皮膜形成方法によれば、第2処理液の変性タンパク質またはタンパク質加水分解物の平均分子量を規定することにより第1防食皮膜を形成するタンニンを効果的に架橋することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明方法では、まず金属と錯体を形成するタンニンを主体とする第1処理液を使い、金属基体の表面に第1防食皮膜を形成させる。この金属基体としては例えば、亜鉛、ニッケル、マグネシウム、鉄、アルミニウム、銅、またはこれらの合金が好ましい。
【0015】
第1処理液は、タンニンを主体とする水溶液で、主成分であるタンニンは大別すると縮合型タンニン(カテコール型タンニン)、加水分解型タンニン(ピロガロール型タンニン)の2つになる。どちらの種類のタンニンでも良いが、不純物を多く含むタンニンは基体表面に密着せず、化成処理効果は得られない。タンニンの濃度は化成処理する金属基体の形状により、その浸漬や水切れのし易さで決定する。
【0016】
またタンニン単体で溶液の調製をすると、おおよそpH=4前後になるが、この後、他の添加剤を加えることで、これを下回るpHにするとタンニン自体が不溶化し、析出するなどの不具合が生じてしまう。従って、まずタンニン単体で水溶液とし、その後の調製でこのpHを下回らないように調製を進めるなどの注意が必要である。
【0017】
最初の第1処理液による浸漬では、基体表面が酸化等により不活性になっていると化成処理はできないので、予め金属基体のめっき直後に処理、もしくは希酸による表面の活性化後に処理をすることが必要である。なお希酸を使用した場合には表面の酸を十分に取り除く必要がある。このタンニンを主体とする第1処理液に金属基体を浸漬して、この表面に第1防食皮膜を形成させた後、変性タンパク質またはタンパク質加水分解物、あるいはポリアミンを主体とする第2処理液に浸漬する。この場合、第1処理液で浸漬処理した後に、その表面が乾燥する前に第2処理液で浸漬処理を行う。
【0018】
この第2処理液を形成する変性タンパク質としては、カゼイン、ゼラチン、コラーゲンペプチドなどが用いられる。ここでタンパク質の変性とはペプチド鎖を切断することなく高次構造を破壊したもので、またタンパク質加水分解物は、水の作用によって化合物を分解させたもので、どちらもタンパク質の分子構造を破壊して分子の絡み合い、分子量を小さくしたものである。
【0019】
またカゼインは一般に牛乳から分離精製されるタンパク質で水や有機溶媒には不溶なので、水に溶けるように酵素や薬品の処理によって変性されたもの使用する。またコラーゲンは生体の組織に存在する繊維状のタンパク質で、水や有機溶媒に不溶なので、例えばこれを加熱変性させてゼラチンとし、さらに加水分解させてコラーゲンペプチドとして使用する。またこの他に、酵素分解や、酵母発酵、酸処理による分解も可能である。
【0020】
また変性タンパク質またはタンパク質加水分解物は、平均分子量が3000〜23000が望ましい。平均分子量が3000未満であると、アミノ酸類に近くなってしまい、構造的に架橋の効果が得られず、また23000を超えると粘調性が増加し、水に不溶化傾向になり、試料調製、処理操作性に支障が出てくると考えられるからである。
【0021】
またポリアミンとしては、アミノ基を2つ以上有するもので、例えばジアミン、トリアミン、テトラアミン、デンドリマー、ポリエチレンイミンなどを用いる。なお主成分の濃度は、金属基体の表面に先に処理するタンニンに対して分子同士が過不足なく反応し易いような含有量で決定する。
【0022】
この反応のメカニズムは、金属基体を浸漬して第1処理液に浸漬して表面に第1防食皮膜となるタンニン皮膜を形成した後、変性タンパク質またはタンパク質加水分解物、あるいはポリアミンを主体とする第2処理液に浸漬すると、タンニンの収斂(しゅうれん)性を利用してタンニンを主体とする第1防食皮膜が強固に架橋される。
【0023】
この収斂性を示す化合物の1つとして、天然物を代表したタンパク質がある。タンパク質の性質を損なわずに、ミクロンオーダーの皮膜形成が可能な程度に分子量を落とし、なおかつタンニンと過不足なく反応するように反応の場を水相に合わせることでタンニンの架橋を実現した。
【0024】
すなわちタンパク質を均一に溶解した水溶液を、第1防食皮膜となるタンニン皮膜と反応させると、タンニンはタンパク質分子内に含まれるアミノ基、カルボニル基、カルボキシル基などの官能基やリン酸カルシウム分子などと相まって速やかに反応し、お互いに結合し合うことで架橋する。
【0025】
もう1つの化合物としては、ポリアミンがある。ポリアミンを均一に溶解した水溶液を調製することが必要であるが、水に難溶なものの場合は、エマルジョン化などの工夫をすることで、タンニンと過不足なく反応するように反応の場を水相に合わせることが必要である。タンニンは、ポリアミン分子内に含むアミノ基と速やかに反応して架橋する。
【0026】
また第2処理液となるタンパク質またはタンパク質加水分解物を水溶化した化合物、あるいはポリアミンは、単独で使用しても混合して使用しても良い。なお各処理液の温度は、主に水溶液であるので、温度による粘性の変化、濃度変化、凍結や極端な蒸発、内容物の変質等がない範囲で特に限定されない。
【0027】
本発明により形成された防食皮膜の構成図を図1に示すと、金属基体1の表面に、変性タンパク質またはタンパク質加水分解物を水溶化した化合物、あるいはポリアミンにより反応、架橋したタンニンを主体とする第1防食皮膜2と、さらにその上にその処理液の変性タンパク質またはタンパク質加水分解物を水溶化した化合物、あるいはポリアミンがリッチな第2防食皮膜3が形成されている。
【0028】
この第2防食皮膜3は、ある程度厚く付くために第1防食皮膜2と反対側の表面には、まだ第1処理液と反応しうる能力を持っており、これを追加処理することにより、さらに強固な皮膜形成をすることが可能である。したがって、第1処理液と第2処理液との繰り返し処理が可能であり、重ねるごとに強固になる防食皮膜をつくることができる。図2は第2防食皮膜3の上に、さらに第1防食皮膜2が重ねて形成されたものである。
【0029】
これらの効果により、防食性は飛躍的に向上するとともに、天然物由来の安全な有機化合物を主体として形成された薄膜であるため、化成処理時や使用時に人体や環境に影響を与えることなく、また廃棄された場合でも問題はない。
【実施例】
【0030】
以下本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
金属基体として55×100×1mmのSPCC鋼板に亜鉛めっきを膜厚8μm 以上施した亜鉛めっき鋼板を試験片とした。試験片の表面は酸化により不活性となっているため、化成処理を始める前に希硝酸(1%以下)で活性化させ、さらにそれを水で十分に洗浄したものを速やかに処理した。
【0031】
この亜鉛めっき鋼板の試験片を、ミモザ(縮合型タンニン)を主体とする第1処理液(ミモザとして0.5%水溶液)に室温(約10℃)で30秒間浸漬し、続けて30秒間水洗した。この後、直ちにコラーゲンペプチドを主体とする第2処理液(コラーゲンペプチドとして0.5%水溶液)に同様な条件で試験片を浸漬、水洗した。これを室温で放置、乾燥させて本発明の防食処理を施した試験片(M1)を得た。
【0032】
[実施例2]
実施例1と同様の第1処理液で処理した後に、実施例1とは異なる第2処理液としてポリエチレンイミンを主体とする処理液に浸漬し、水洗した試験片(M2)を得た。
【0033】
[実施例3]
実施例1と同様の亜鉛めっき鋼板を試験片とし、これをタンニン酸(加水分解型タンニン)を主体とする第1処理液(タンニン酸として0.5%水溶液)、に浸漬した後、カゼインを主体とする第2処理液(カゼインとして0.5%水溶液)を使って、本発明の防食処理を施した試験片(T1)を得た。
【0034】
[実施例4]
実施例3で得られた試験片(T1)に、さらにもう一度、第1処理液に浸漬、水洗した試験片(T2)を得た。
【0035】
[実施例5]
実施例3と同様の第1処理液で処理した後に、実施例3とは異なる第2処理液としてジアミンを主体とする処理液に浸漬し、さらにもう一度、第1処理液に浸漬、水洗した試験片(T3)を得た。
【0036】
また、耐食性評価のための対照試験片としてミモザを主体とする第1処理液のみで化成処理した試験片(M0)の比較例1と、タンニン酸を主体とする第1処理液のみで化成処理した試験片(T0)の比較例2、およびこの試験片(T0)にさらにバナジウムイオン溶液で処理した従来の試験片(V0)の比較例3についても作成した。
【0037】
[耐食性評価]
上記方法で処理した各試験片の耐食性を評価するために、日本工業規格に基づく中性塩水噴霧試験(JIS Z 2371)を行った。装置は複合サイクル試験機を使用した。評価の方法は、試験時間の経過と試験片に発生した白さびの面積割合を求めた。白さびが少ないほど良好な防食皮膜である。表1に塩水噴霧試験をした結果をまとめて示した。
【0038】
【表1】



【0039】
表1の結果から、第1処理液としてミモザを使用した実施例1、2は第2防食皮膜を形成していない比較例1に比べて白さびの面積が100%になるまでの時間が96時間で優れた防食性を有していることが確認された。
【0040】
またタンニン酸を主体とする第1処理液で処理した実施例3、4は白さびの面積が15%になるまでの時間が161時間以上であり、これに対して第2防食皮膜を形成していない比較例2が161時間で55%にも達し、また従来のタンニン皮膜をバナジウムイオン溶液で処理した比較例3が20%に達しているのに比べて優れた防食性を有していることが確認された。また第1処理液を1回処理した実施例3と、2回処理した実施例4を比較すると、防食皮膜が厚膜化されてさらに効果が大きいことが確認できた。またジアミンを主体とする第2処理液に浸漬し第1処理液で2回処理した実施例5は最も耐食性に優れていた。
【0041】
[皮膜組成評価]
実施例1〜5で得た試験片について、マーカス型高周波グロー放電発光表面分析装置(GD−OES)で表面を分析した結果から、各元素量の最高濃度のスパッタリング時間(S)とその時の発光強度(U)を読み取った値を表2に示す。スパッタリング時間は、表面からの深さ方向の情報であるので、元素による時間の違いから積層構造の判断ができる。発光強度からは、該当元素のある程度の量的判断ができる。
【0042】
【表2】

【0043】
表2の結果から、若干のばらつきはあるものの、ミモザを主体とする第1処理液を使用した第1防食皮膜に第2処理液を施した実施例1、2、3は、相対的に皮膜の窒素量(N量)が上昇するものの、膜厚を示す炭素量(C量)に大きな差はなく、スパッタリング時間は変わらないことから、処理を重ねたことによる厚膜化よりも架橋による皮膜が強化されていることが確認された。
【0044】
また第2処理液を施したあとに、さらに第1処理液を施した実施例4は、炭素のスパッタリング時間が長くなっており、相対的な炭素量(C量)は上昇している。これは防食皮膜の厚膜化につながっていることが分かる。
【0045】
酸素量(O量)は処理液の種類でも変わり、際立った変化がなく均一な値になっているので、この化成処理とは関連は薄い。また亜鉛量(Zn量)は化成処理皮膜が載っている基材であり、大量に表面に溶け出すような不具合がないことが確認できた。以上の結果は、前述してきた理論を実証していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の防食皮膜の構成図である。
【図2】本発明の繰り返し処理した防食皮膜の構成図である。
【符号の説明】
【0047】
1 金属基体
2 第1防食皮膜
3 第2防食皮膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体の表面に密着して形成されたタンニンを主体とする第1防食皮膜と、さらにその上に変性タンパク質またはタンパク質加水分解物を水溶化した化合物、あるいはポリアミンにより反応、改質した第2防食皮膜を備え、必要に応じてさらにこの上に前記第1防食皮膜と第2防食皮膜を繰り返し形成したことを特徴とするタンニンを利用した防食皮膜金属。
【請求項2】
金属基体の表面にタンニンを主体とする第1処理液で処理して第1防食皮膜を形成した後、変性タンパク質またはタンパク質加水分解物を水溶化した化合物、あるいはポリアミンの何れか少なくとも1種からなる第2処理液で処理して、第1防食皮膜を改質した第2防食皮膜を形成し、必要に応じてさらにこの上に前記第1処理液と第2処理液で処理することを特徴とするタンニンを利用した防食皮膜形成方法。
【請求項3】
第2処理液の変性タンパク質またはタンパク質加水分解物が平均分子量3000〜23000であることを特徴とする請求項2記載のタンニンを利用した防食皮膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−111973(P2007−111973A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305232(P2005−305232)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(391041062)福島県 (42)
【Fターム(参考)】