説明

タンパク質又はポリペプチドの同定方法

【課題】 微量のタンパク質、ポリペプチドの同定方法を提供する。
【解決手段】 液体クロマトグラフ−質量分析装置/質量分析装置(LC−MS/MS)を用いるタンパク質又はポリペプチドの同定方法において、内径50〜300μm、長さ3〜25cmのカラムに気相中250℃以上の反応温度でエンドキャップ剤を反応させた化学修飾型シリカゲル又は多孔質ガラスを充填した液体クロマトグラフを使用する50fmol以下のタンパク質又はポリペプチドの同定方法。移動相の流速は、0.1〜5.0μL/minとすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に微量に含まれるタンパク質又はポリペプチドを液体クロマトグラフ−質量分析装置/質量分析装置(以下、LC−MS/MSと略記する)で同定する同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポストゲノムシークエンシング時代に突入した現在の重要な課題は、転写因子などの極微量なタンパク質及びペプチドの分離・同定であり、どこまで微量なタンパク質を同定できるかに関して熾烈な競争が展開されている。
【0003】
実際にプロテオーム解析に質量分析装置(MS)を用いる場合、試料が極微量であったり、複雑な混合物であったりすることが多いため、二次元電気泳動や液体クロマトグラフ(LC)による効果的な分離が必要になる(例えば非特許文献1、2参照)。一般的に、プロテオーム解析に使用される液体クロマトグラフ−質量分析装置(LC−MS)では、高感度化のために移動相を超低流速(数nL/min)としている。また、この流速に対応した内径75μm程度のキャピラリーカラムと、イオン源としてエレクトロスプレーインターフェースとを組み合わせて使用している。
【非特許文献1】ラピッド コミュニケーションズ マス スペクトロメトリー(Rapid Commun.Mass Spectrom.)2001;15;1685-1692 (1688頁、1〜32行)
【非特許文献2】プロテオミクス.(Proteomics.)2002 Apr;2(4):447-54. (448頁、2.3項)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プロテオーム解析で使用されるLCカラムの充填剤には、シラノール基がオクタデシル基等の炭化水素基で修飾された化学修飾型シリカゲルが多く使用されている。化学修飾型シリカゲルは試料に対する吸着性があるので、試料濃度がある程度高濃度である場合には殆ど問題にならないが、ごく微量の場合には試料成分がカラム内で化学修飾型シリカゲルにトラップされて溶出せず、このため分析ができない場合がある。
【0005】
本発明の目的は、従来液体クロマトグラフで溶出されないため同定できなかった50fmol(50×10-15mol)以下の微量のタンパク質、ポリペプチド等を同定する同定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等が検討を行ったところ、化学修飾型シリカゲル表面には未反応のシラノール基が残存しており、試料成分がシラノール基と非特異的吸着するためトラップされて試料成分が溶出しない現象が生じるのではないかと想到するに到った。そこで、所定の方法でエンドキャップ剤を反応させた残存シラノール基が少ない化学修飾型シリカゲル又は多孔質ガラス充填剤を使用すると共に、これらの充填量の少ないカラムを使用してみたところ、微量成分であってもカラム内でトラップされることなく溶出し、質量分析装置による微量タンパク質等の同定が可能となることを見出し本発明を完成するに到った。
【0007】
即ち、上記課題を解決する本発明は以下に記載するものである。
【0008】
〔1〕 液体クロマトグラフ−質量分析装置/質量分析装置を用いるタンパク質又はポリペプチドの同定方法において、液体クロマトグラフが気相中250℃以上の反応温度でエンドキャップ剤を反応させた化学修飾型シリカゲル又は多孔質ガラスを充填した内径50〜300μm、長さ3〜25cmのカラムを備えていることを特徴とする50fmol以下のタンパク質又はポリペプチドの同定方法。
【0009】
〔2〕 ポリペプチドが、タンパク質又はポリペプチドをタンパク質分解酵素で切断した断片ペプチドである〔1〕に記載のタンパク質又はポリペプチドの同定方法。
【0010】
〔3〕 タンパク質又はポリペプチドをタンパク質分解酵素で消化した断片ペプチドを、液体クロマトグラフ−質量分析装置/質量分析装置に供して液体クロマトグラフの各溶出成分のマススペクトルを得る工程と、データベースに登録されている既知の断片ペプチドのマススペクトルを参照して測定して得られたマススペクトルと最も適合する断片ペプチドのデータからタンパク質又はポリペプチドが有するアミノ酸配列を決定する工程と、既知のタンパク質又はポリペプチドのアミノ酸配列とマススペクトルにより決定したアミノ酸配列とを比較して配列の一致度が最も高い既知のタンパク質又はポリペプチドを選択することによりタンパク質又はポリペプチドを同定する工程とを有する〔1〕に記載のタンパク質又はポリペプチドの同定方法。
【0011】
〔4〕 液体クロマトグラフ−質量分析装置/質量分析装置を用いる断片ペプチド又はペプチドの同定方法において、液体クロマトグラフが気相中250℃以上の反応温度でエンドキャップ剤を反応させた化学修飾型シリカゲル又は多孔質ガラスを充填した内径50〜300μm、長さ3〜25cmのカラムを備えていることを特徴とする50fmol以下の断片ペプチド又はペプチドの同定方法。
【0012】
〔5〕 断片ペプチド、ペプチド、又はこれらの混合物を、液体クロマトグラフ−質量分析装置/質量分析装置に供して液体クロマトグラフの各溶出成分のマススペクトルを得る工程と、データベースに登録されている既知の断片ペプチド又はペプチドのマススペクトルを参照して測定して得られたマススペクトルと最も適合する断片ペプチド又はペプチドのデータから断片ペプチド又はペプチドが有するアミノ酸配列を決定する工程とを有する〔4〕に記載の断片ペプチド又はペプチドの同定方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明においてはシラノール基の残存率が少ない化学修飾型シリカゲル充填剤を使用した所定形状のカラムを備えた液体クロマトグラフで断片ペプチド混合物を分離した後質量分析装置−質量分析装置(MS/MS)により質量分析する。そのため、従来の方法ではカラムから溶出せずLC−MS/MSによる分析ができなかった50fmol以下の微量タンパク質、ポリペプチド、断片ペプチド又はペプチドを同定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において液体クロマトグラフのカラムに充填する充填剤は、第1工程においてオクタデシル基等の化学修飾基を導入し、第2工程において気相中250℃以上でエンドキャップ剤を反応させた化学修飾型シリカゲル又は多孔質ガラスとする。以下、充填剤の製造方法につき詳細に説明する。
【0015】
まず第1工程において、シリカゲル又は多孔質ガラスに化学修飾剤を反応させることによりシリカゲル又は多孔質ガラス表面のシラノール基に化学修飾基を化学結合させる。
【0016】
化学修飾するシリカゲルの性状は特に制限されないが、粒子径1〜1000μm、より好ましくは2〜50μm、細孔径0〜10000Å、より好ましくは60〜1000Å、比表面積1〜1000m2/g、より好ましくは10〜600m2/gのものが好適に使用できる。なお、シリカゲルは、細孔径0Å、即ち、実質的に無細孔のものも使用し得る。
【0017】
多孔質ガラスとしては、従来から液体クロマトグラフ用充填剤として使用されているいずれのものも用いることができ、粒子径1〜1000μm、より好ましくは2〜50μm、細孔径0〜10000Å、より好ましくは60〜1000Å、比表面積1〜1000m2/g、より好ましくは10〜600m2/gのものが好適に使用できる。なお、多孔質ガラスとしては、主成分としてSiO280〜99質量%を含有し、SiO2以外の主な成分がNa2O、B23、Al23の1種又は2種以上であるものを使用し得る。
【0018】
化学修飾剤としては、オクタデシル基、オクチル基、n−ブチル基等の炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアルキル基、フェニル基等の炭素数6〜50、より好ましくは6〜16のアリール基、更に炭素数1〜50、より好ましくは1〜18のアルキル基の水素原子の1又は2以上がシアノ基、水酸基、カルボキシル基、酸アミド基、イミド基、スルホン基、アミノ基又はグリセロイル基に置換された置換アルキル基から選ばれる基を化学修飾基として1〜3個有するクロロシランやアルコキシシラン又は上記化学修飾基を複数個、例えば6〜100個有するシクロシロキサンやポリシロキサンが使用される。なお、上記アルコキシシランのアルコキシ基としてはメトキシ基等の炭素数1〜3の低級アルコキシ基が好適である。また、シクロシロキサンとしてはケイ素原子3〜50が酸素原子を介してリングを形成したものが好ましい。ポリシロキサンはケイ素原子を2〜50有するものが好ましい。化学修飾剤としては、表1に示すものが具体的に挙げられる。
【0019】
【表1】

【0020】
上述した第1工程の化学修飾剤のうちでは、ジメチルオクタデシルクロロ(メトキシ)シラン等のモノクロロシラン化合物やモノアルコキシシラン化合物を用いることもできるが、メチルオクタデシルジクロロシラン等のジクロロシラン化合物、オクタデシルトリクロロシラン等のトリクロロシラン化合物、メチルオクタデシルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン化合物、オクタデシルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン化合物又は1,3,5,7−テトラオクタデシル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン等のシクロシロキサン化合物、ポリシロキサン化合物を用いることが好ましい。第2工程のエンドキャッピングにおいては、後述するように反応温度が高いほど反応が進み、残存シラノール基が少なくなるが、この反応の際に反応温度が高いほど既にシリカゲルに化学結合されている化学修飾基の脱離が生じ易くなる。しかし、第1工程において化学修飾剤としてジもしくはトリクロロシラン化合物、ジもしくはトリアルコキシシラン化合物又はシクロシロキサン化合物やポリシロキサン化合物を用いることにより、上述したエンドキャッピング時における化学修飾基の脱離を良好に防止できるものであり、この脱離防止の効果はモノクロロあるいはモノアルコキシシラン化合物よりも上記化合物を用いたときの方が大きい。
【0021】
上述したシリカゲル又は多孔質ガラスに対する化学修飾剤の反応は公知の方法、条件を採用することができ、シリカゲル又は多孔質ガラスと化学修飾剤とを溶媒中で反応させることにより化学修飾を行なう。この場合、溶媒としてはトルエン等の化学修飾剤と反応せずかつ反応温度において熱的に安定なものを使用することができる。また、反応温度は通常0〜400℃の範囲であり、時間は30分〜72時間の範囲である。
【0022】
第2工程では、第1工程で得た化学修飾型シリカゲル又は多孔質ガラスを溶媒を用いない気相反応によってエンドキャップするものである。即ち、第1工程で得た化学修飾型シリカゲル又は多孔質ガラスにエンドキャップ剤を気相中において250℃以上の温度で反応させ、残存シラノール基をエンドキャップする。
【0023】
第2工程の反応温度が250℃より低いとシラノール基の残存量が多くなる。また、温度の上限は特に制限されないが、温度が高くなり過ぎると残存シラノール基は少なくなるが、既にシリカゲル又は多孔質ガラスに化学結合されている化学修飾基の脱離が多くなる場合があるので、その上限は500℃とすることが好ましい。なお、より好ましい反応温度は250〜450℃であり、特に250〜400℃が好ましい。反応時間は30分〜96時間程度とするが、12〜48時間とすることが望ましい。
【0024】
反応雰囲気は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。また、エンドキャップ剤の導入量は、適宜選定され、特に限定されるものではないが、0.001〜5ミリモル/ml、特に0.01〜1ミリモル/mlが通常である。なお、エンドキャップ剤は250〜420℃においてガス状のもの及び液状のものをそのまま導入できる。
【0025】
第2工程で用いるエンドキャップ剤としては、種々のシラザン化合物、シラン化合物、シロキサン化合物等を用いることができ、具体的には、下記式(1)のジシラザン、式(2)のハイドロジエンシラン、式(3)のアルコキシシラン、式(4)のジシラン、式(5)のシロキサンを用いることができる。
【0026】
【化1】

【0027】
このようなエンドキャップ剤としては、例えばヘキサメチルジシラザン、ペンタメチルジシロキサン、ジエチルメチルシラン、トリエチルシラン、トリメチルメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン等を好適に用いることができる。
【0028】
また、エンドキャップ剤としてはその1分子が2個以上の残存シラノール基と反応する化合物(以下橋かけ状エンドキャップ剤という)を好ましく用いることができ、これにより化学修飾基の周囲の複数の残存シラノール基にエンドキャップ剤が橋かけ状に化学結合した構造を有し、残存シラノール基の影響が著しく少ない充填剤を得ることができる。このような橋かけ状エンドキャップ剤としては、下記式(6)のシクロシロキサン、式(7)のハイドロジェンシロキサン、式(8)のアルコキシシラン、式(9)のシロキサンを用いることができる。
【0029】
【化2】

【0030】
上記橋かけ状エンドキャップ剤として具体的には、例えばヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,3−ジメトキシテトラメチルジシロキサン等が挙げられるが、特にヘキサメチルシクロトリシロキサンが好ましい。
【0031】
更に、第2工程においては、一度の反応によってエンドキャッピングを完了することもできるが、2度以上のエンドキャップ反応を順次行なわせることができ、これにより残存シラノール基の影響をいっそう減少させることができる。ここで、2度のエンドキャップ反応を順次行なう場合、1度目の反応のエンドキャップ剤としては上述した橋かけ状エンドキャップ剤、特にヘキサメチルシクロトリシロキサンを用い、2度目の反応のエンドキャップ剤としてはヘキサメチルジシラザンを用いることが好適であり、これにより残存シラノール基の影響を著しく少なくすることができる。
【0032】
充填剤を充填するキャピラリーカラムの内径は、50〜300μmとするが、より好ましくは75〜150μmである。キャピラリーカラムの長さは3〜25cmとすることが好ましい。
【0033】
本発明において同定の対象とする試料は、50fmol以下のタンパク質若しくはポリペプチド、又は50fmol以下の断片ペプチド、ペプチド、若しくはこれらの混合物である。これらタンパク質等をLC−MS/MSで分析することにより対応するマススペクトルが得られる。
【0034】
更に、同定方法としては、下記の方法が例示される。
【0035】
試料がタンパク質又はポリペプチドである場合には、予めタンパク質消化酵素により断片化して断片ペプチド混合物としてもよい。これらの試料をLC−MS/MSに供する際には、適当な溶媒、好ましくは移動相と同じ溶媒に溶解して試料溶液とする。
【0036】
次いで、上述した充填剤を充填した所定形状のキャピラリーカラムを備えたLC−MS/MSに試料を導入する。LCの移動相には通常化学修飾型シリカゲルを使用した逆相クロマトグラフで使用される溶離液を制限なく使用できる。また、移動相の組成を徐々に変化させるグラジエントを使用することもできる。
【0037】
移動相の流速は、0.1〜5.0μL/minとすることが好ましく、0.2〜2.0μL/minとすることがより好ましい。
【0038】
上述した条件で液体クロマトグラフにより断片ペプチド混合物を分離した後、キャピラリーカラムから溶出する各成分をMS/MSに導き各断片ペプチドのマススペクトルを得る。MS/MSによるマススペクトルを測定するに際しては、エレクトロスプレーインターフェース(ESI)により断片ペプチドをイオン化し、開裂させてプリカーサーイオンとする。
【0039】
LC−MS/MSとしては、イオン源としてESIを備えた公知の装置を使用することができる。
【0040】
各断片ペプチドのマススペクトルを得た後、データーベースに登録されている断片ペプチドのマススペクトルを参照して、得られたマススペクトルと一致するものを検索する。データーベースに登録してある断片ペプチドのマススペクトルには、実測により得たスペクトルの他、断片ペプチドの構造から予測した仮想的なスペクトルを使用することも可能である。
【0041】
試料がタンパク質又はポリペプチドである場合には、例えば以下の方法によりタンパク質を同定できる。まず、各断片ペプチドのプロダクトイオンマススペクトルから、データベースに登録されているタンパク質の中で最も適合する部分アミノ酸配列の探索を行う。次いで、各断片ペプチドについてマススペクトルにより決定したアミノ酸配列とデータベースに登録してあるタンパク質又はポリペプチドのアミノ酸配列との一致度(スコア)と、各タンパク質にヒットした断片ペプチド数から、測定データと最も適合するタンパク質又はポリペプチドを選択し、試料タンパク質又はポリペプチドであると同定する。
【実施例】
【0042】
製造例1
下記第1工程及び第2工程により液体クロマトグラフ用充填剤を製造した。
【0043】
(第1工程)シリカゲルの化学修飾
細孔径約100Å、平均粒子径約3μmの球形シリカゲル10gを120℃で6時間真空乾燥した。次いで、ナスフラスコにこのシリカゲルと乾燥トルエン40ml、ジメチルオクタデシルモノクロロシラン20mM、ピリジン20mMを加え、油浴中トルエン還流下で16時間反応させた。グラスフィルター(G−4)を用いてシリカゲルを濾別し、トルエン150mlで洗浄濾過した。更に、メタノール150ml、更にアセトン100mlでシリカゲルを洗浄濾過した後、120℃で6時間真空乾燥を行なった。
【0044】
(第2工程)エンドキャッピング
第1工程で化学修飾したシリカゲル3gとオクタメチルシクロテトラシロキサン2.9mMとを密閉容器に入れ、容器内部を窒素で置換し密閉した。次に、この容器を恒温槽内において温度360℃で46時間加熱した。得られたシリカゲルをグラスフィルターを用いてトルエンで洗浄濾過し、更にメタノールで洗浄濾過してから120℃で2時間真空乾燥を行なった。
【0045】
実施例1
(1)肝タンパク質の分離、精製
ラットの肝臓から採取したタンパク質をBradford法により定量した。その後、タンパク質100mg当り200pmolのCy5(DMF溶液、1ml)を0℃で添加し、氷上にて30分間ラベリング反応を行った。反応終了後に過剰量のLysin溶液(10mM Lysis buffer 溶液,1ml)を添加して10分間保持し、反応を終了させた。更に、等倍のx2 サンプルバッファー(8M ウレア、4%(w/v) CHAPS、20mg/ml DTT、2%(v/v) Pharmalytes)を添加して10分間氷上に保持した。
【0046】
次いで、得られたサンプルの2次元電気泳動を行った。1次元目電気泳動は、Multiphore II(アマシャム バイオサイエンス社)にて、IPG(Immobilized pH Gradient) Strips (24cm, pI3-10L)(アマシャム バイオサイエンス社)を用いて行った。サンプルはカップローディングホルダーからタンパク質100mgを添加した。フォーカシングは、トータルで40kVh行った。電気泳動後、平衡化溶液(50mM Tris, pH8.8、6Mウレア、30%グリセロール、2%SDS)に0.25%(w/v) DTTを添加したA液及び4.5% (w/v) ヨードアセトアミドを添加したB液で各々10分間ずつ平衡化を行った。
【0047】
引き続き、2次元目電気泳動を行った。2次元目電気泳動は、Ettan DALT IIシステム(アマシャム バイオサイエンス社)にて、12%均一ゲルを低蛍光ガラスに挟んで自作したものを用いて行った。泳動は、3W(15℃)で1晩実施した。
【0048】
泳動後のゲルは、直ちにMaster Imager(アマシャム バイオサイエンス社)にて画像の取り込みを行い(Cy5の励起波長:625nm, 蛍光波長:680nm)、電気泳動の状態を確認した。Cy画像により状態を確認した後、酢酸/メタノール溶液で30分間固定化し、続けて室温でSypro Ruby溶液に1晩浸漬しゲルを染色した。染色したゲルをMaster Imagerにて画像の取り込みを行った(Sypro Rubyの励起波長: 480nm, 蛍光波長:630nm)。取り込んだ画像のスポット認識及び同一ゲル内のCy間での定量比較解析等は、Decyder-DIAソフト(アマシャム バイオサイエンス社)で行った。ゲル間のスポットマッチングは、Decyder-BVAソフト(アマシャム バイオサイエンス社)でにて実施し、ピッキングするスポットのゲル上のXY座標を決定した。ピッキングしたスポットの2次元電気泳動ゲル上の位置を図1に示す。
(2)タンパク質の同定
(1)でピッキングしたスポットA〜Eのゲルプラグを、トリプシン(プロメガ社)で酵素消化(室温、1晩)した。消化したペプチド断片をゲル内からアセトニトリル水溶液(アセトニトリル/水/ギ酸=50/45/5)で抽出した。製造例1で得られた化学修飾型シリカゲルを充填した長さ15cm、内径75μmのカラムを装着した液体クロマトグラフ(ウォーターズ社製、CapLC)により以下の溶出条件でペプチド断片を分離した。
【0049】
〔液体クロマトグラフの溶出条件〕
・カラム温度:室温
・移動相:A液 95/5 水/アセトニトリル 0.1%蟻酸
B液 5/95 水/アセトニトリル 0.1%蟻酸
・グラジェント条件:
──────────────────
時間 (min) 移動相組成比(A/B)
──────────────────
3 5/95
35 40/60
36 80/20
41 80/20
──────────────────

・流速:2.5μL/min
【0050】
引き続き分離したペプチドをESI型質量分析装置(マイクロマス社製)によりMS/MSを行い、タンパク質の同定に供した。
【0051】
MSデータ解析用ソフトとしてMascot(マトリックス社)を用いて、得られたMS/MSデータをNCBInrのデータベースに対して該当するタンパク質を検索した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
比較例1
実施例1でピッキングしたスポットA〜E中のタンパク質について、液体クロマトグラフィーで比較カラム(LC Packings社製 PepMap100、カラムの形状:75μmID x 15cm、充填剤:オクタデシルシリル基を化学修飾したシリカゲルを使用、粒径3μm、ポアサイズ10nm)を用いた以外は、実施例1と同一の条件で同定を行った。このカラムの充填剤は、液相法でエンドキャップしたものである。結果を表3に示す。比較例1においてはスポットA、D、Eのタンパク質については同定することができなかった。
【0054】
【表3】

【0055】
表2及び表3の比較により明らかなように、比較例1でデータベース中の配列と一致したペプチド数は実施例1に比較して少なく、スコアも低い値であった。
【0056】
また、実施例1においては、蛍光ラベルで得られたゲル画像では殆ど検出限界に近いA、D、Eスポットの微量なタンパク質の同定が可能であった。
【0057】
実施例2
標準タンパク質(Bovin Serum Albumin (BSA) (P02769) Mr: 71244; pI: 5.82)のトリプシン消化物を、0.1%ギ酸水溶液を用いて任意の濃度に希釈した。実施例1と同一の条件で、LC-MS/MSによる分析を行った。
【0058】
比較例2
標準タンパク質(Bovin Serum Albumin (BSA) (P02769) Mr: 71244; pI: 5.82)のトリプシン消化物を、0.1%ギ酸水溶液を用いて任意の濃度に希釈した。実施例1と同一の条件で、LC-MS/MSによる分析を行った。
【0059】
実施例2及び比較例2で得られたスコアとシークエンスカバー率をそれぞれ図2及び3に示す。なお、図2に示すスコアの値は各断片ペプチドについてのスコアを加算したものであり、スコアの値が高い程タンパク質同定における過誤の確率が低いことをしめしている。
【0060】
実施例2では、サンプル量が20fmol程度であってもスコアとシーケンスカバー率は高い値であった。従って、実施例2においては比較例2より少ないサンプル量でタンパク質の同定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1で行った2次元電気泳動のスポットとピッキング位置を示す図面代用写真である。
【図2】実施例2及び比較例2で得られたスコアを示すグラフである。
【図3】実施例2及び比較例2で得られたシークエンスカバー率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフ−質量分析装置/質量分析装置を用いるタンパク質又はポリペプチドの同定方法において、液体クロマトグラフが気相中250℃以上の反応温度でエンドキャップ剤を反応させた化学修飾型シリカゲル又は多孔質ガラスを充填した内径50〜300μm、長さ3〜25cmのカラムを備えていることを特徴とする50fmol以下のタンパク質又はポリペプチドの同定方法。
【請求項2】
ポリペプチドが、タンパク質又はポリペプチドをタンパク質分解酵素で切断した断片ペプチドである請求項1に記載のタンパク質又はポリペプチドの同定方法。
【請求項3】
タンパク質又はポリペプチドをタンパク質分解酵素で消化した断片ペプチドを、液体クロマトグラフ−質量分析装置/質量分析装置に供して液体クロマトグラフの各溶出成分のマススペクトルを得る工程と、データベースに登録されている既知の断片ペプチドのマススペクトルを参照して測定して得られたマススペクトルと最も適合する断片ペプチドのデータからタンパク質又はポリペプチドが有するアミノ酸配列を決定する工程と、既知のタンパク質又はポリペプチドのアミノ酸配列とマススペクトルにより決定したアミノ酸配列とを比較して配列の一致度が最も高い既知のタンパク質又はポリペプチドを選択することによりタンパク質又はポリペプチドを同定する工程とを有する請求項1に記載のタンパク質又はポリペプチドの同定方法。
【請求項4】
液体クロマトグラフ−質量分析装置/質量分析装置を用いる断片ペプチド又はペプチドの同定方法において、液体クロマトグラフが気相中250℃以上の反応温度でエンドキャップ剤を反応させた化学修飾型シリカゲル又は多孔質ガラスを充填した内径50〜300μm、長さ3〜25cmのカラムを備えていることを特徴とする50fmol以下の断片ペプチド又はペプチドの同定方法。
【請求項5】
断片ペプチド、ペプチド、又はこれらの混合物を、液体クロマトグラフ−質量分析装置/質量分析装置に供して液体クロマトグラフの各溶出成分のマススペクトルを得る工程と、データベースに登録されている既知の断片ペプチド又はペプチドのマススペクトルを参照して測定して得られたマススペクトルと最も適合する断片ペプチド又はペプチドのデータから断片ペプチド又はペプチドが有するアミノ酸配列を決定する工程とを有する請求項4に記載の断片ペプチド又はペプチドの同定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−10495(P2007−10495A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−191906(P2005−191906)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000173566)財団法人化学物質評価研究機構 (14)
【Fターム(参考)】