説明

タンパク質固定化膜、タンパク質の固定化方法およびバイオセンサ

【課題】生体試料中の特定成分を容易かつ高精度に定量することのできるタンパク質の固定化膜と固定化方法、およびディスポーザブルタイプのバイオセンサを提供する。
【解決手段】グリセロール脱水素酵素が光架橋性樹脂層を有する被固定化部材に固定されてなることを特徴とする、タンパク質固定化膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質固定化膜、タンパク質の固定化方法および当該タンパク質固定化膜を用いてなるバイオセンサに関し、特に、グリセロール脱水素酵素を光架橋性樹脂層を形成させることにより被固定化部材に固定化させてなるタンパク質固定化膜、タンパク質の固定化方法および当該タンパク質固定化膜を用いてなるバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液や血清などの生体試料中の特定成分について、試料液の希釈や撹拌などの操作を行うことなく高精度に定量する方法として提案されているバイオセンサの構造は、絶縁性基板にリード線をそれぞれ有する白金などからなる測定極および対極を埋設し、これらの電極系の露出部分を酸化還元酵素および電子受容体を担持した多孔体で覆ったものである。試料液を多孔体上に滴下すると、多孔体中の酸化還元酵素と電子受容体が試料液に溶解し、試料液中の基質との間で酵素反応が起こり、電子受容体が還元される。酵素反応終了後、この還元された電子受容体を電気化学的に酸化し、このとき得られる酸化電流値から試料液中の基質濃度を求めることがなされていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、上記以外の酸化還元酵素を目的部位に固定化する方法としては、次に説明するような4つのものがある(例えば、非特許文献1参照)。すなわち、第1の方法は、酸化還元酵素を含む材料液を対象物の目的部位に点着した後、材料液を乾燥させることにより対象物の目的部位に酸化還元酵素を固定化する方法である。第2の方法は、グルタルアルデヒドなどの架橋剤を用いて、対象物の目的部位に酸化還元酵素を固定化する方法である。第3の方法は、カルボキシメチルセルロース(CMC)などのポリマー中に酸化還元酵素を包括させた状態でポリマーとともに酸化還元酵素を固定化する方法である。第4の方法は、カーボンペーストなどの導電性成分中に酸化還元酵素を分散させたペーストを用い、このペーストを対象物の目的部位に塗りつけて酸化還元酵素を固定化する方法である。
【特許文献1】特開昭59−166852号公報
【非特許文献1】水谷文雄、「酵素薄膜修飾電極のセンサーへの応用」、分析化学、日本分析化学学会、1999年9月、第48巻、第9号、p809〜821
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようにバイオセンサに利用する酵素の固定化方法である共有結合法、包括法等においては、多くの特許および研究報告があるが、その多くは固定化方法が煩雑で反応条件が厳しく、固定化操作により酵素活性が低下する、膜の強度が低い、使用中に膜が膨潤する等の問題点があった。
【0005】
また、血液成分である血球やタンパク質が電極に吸着したり酵素反応を妨害したりすることによって、測定結果の精度に影響を与えていた。
【0006】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、生体試料中の特定成分を容易かつ高精度に定量することのできるタンパク質固定化膜を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の他の目的は、このようなタンパク質を固定化する方法を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、生体試料中の特定成分を容易かつ高精度に定量することのできるバイオセンサ、特にディスポーザブルタイプのバイオセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、アジド系感光基を有する光架橋性樹脂をグリセロール脱水素酵素と一体化させることによって、生体試料中の特定成分を容易かつ高精度に定量することのできるバイオセンサが製造できることを見出し、さらにこのようにして得られたバイオセンサはディスポーザブルタイプのバイオセンサにも十分適用できることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
すなわち、上記目的は、グリセロール脱水素酵素が光架橋性樹脂層を有する被固定化部材に固定されてなることを特徴とする、タンパク質固定化膜によって達成される。
【0011】
本発明の他の目的は、被固定化部材にグリセロール脱水素酵素を固定化する方法であって、前記被固定化部材に、紫外線照射により架橋するアジド系感光基を有する光架橋性樹脂、グリセロール脱水素酵素を含む光架橋性樹脂層を形成する段階、および前記光架橋性樹脂層に対して、グリセロール脱水素酵素を固定化する段階と、を有することを特徴とする、タンパク質の固定化方法によって達成される。
【0012】
本発明の別の目的は、本発明のタンパク質固定化膜を有するバイオセンサによって達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電極系を含めたディスポーザブルタイプのバイオセンサを構成することができ、試料液を添加することにより、極めて容易に生体試料中の特定成分の基質濃度を測定することができる。
【0014】
上記利点に加えて、反応層は電極系の表面にグリセロール脱水素酵素を光架橋性樹脂とともに水に溶解して塗布、乾燥そして紫外線を照射することで形成することができる。そして、この反応層に、試料液を滴下すると、電極の近傍で速やかにグリセロール脱水素酵素が溶けて反応し電極上に達し、測定の妨害となる試料中の血球等は光架橋性樹脂により防げるため、精度のよい測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の第一は、グリセロール脱水素酵素が光架橋性樹脂層を有する被固定化部材に固定されてなることを特徴とする、タンパク質固定化膜に関するものである。
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
本発明において、光架橋性樹脂層は、被固定化部材に形成されてなり、光架橋性樹脂、グリセロール脱水素酵素を含む。
【0018】
本発明に用いられる光架橋性樹脂は、グリセロール脱水素酵素、好ましくはグリセロール脱水素酵素および電子受容体を固定化できるものであれば特に制限されないが、アジド系感光基を有する、より好ましくは紫外線照射により架橋するアジド系感光基を有する高分子であることが好ましい。ここで、アジド系感光基を有する高分子とは、アジド基(−N)を有する感光性化合物を意味する。このようなアジド系感光基を有する高分子としては、例えば、ビニルアルコール系化合物、ビニルピロリドン系化合物、アクリルアミド系化合物、酢酸ビニル系化合物、アクリル酸(塩)系化合物および無水マレイン酸系化合物、ならびにこれらの誘導体などの、単量体を(共)重合することによって得られる高分子にアジド系感光基がペンダントしたものなどが挙げられる。なお、本発明によるアジド系感光基を有する高分子は、アジド基を有する上記化合物/誘導体を(共)重合することによって得てもあるいは上記化合物/誘導体を(共)重合して得られた(共)重合体にアジド基を付加することによって得てもいずれでもよい。この際、上記単量体は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。すなわち、本発明で好ましく使用される光架橋性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸などが挙げられる。また、このような高分子の重合度は、特に制限されないが、平均重合度が、通常、200〜5,000、より好ましくは300〜3,000である。
【0019】
これらのうち、アジド基を有する芳香環を有する化合物およびその誘導体を少なくとも単量体として使用して製造される高分子がより好ましい。ここで、アジド基を有する芳香環を有する化合物とは、芳香環にアジド基が結合している化合物(即ち、−Ph−N;Phは、フェニル基を表わす)およびその誘導体である。すなわち、このような高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール系化合物と上記した他の化合物との共重合体などが挙げられる。なお、光架橋性樹脂が紫外線照射により架橋するアジド系感光基を有する高分子である際の架橋反応における紫外線の照射については、紫外線照射により架橋を誘導できる波長による紫外線照射であれば特に制限されず、使用される光架橋性樹脂の種類によって適宜選択される。波長は、好ましくは300〜400nmである。また、紫外線露光量もまた、紫外線照射により架橋を誘導できる量であれば特に制限されず、膜厚によって適宜選択することができる。好ましくは、紫外線露光量は、10〜1000mJ/cm、より好ましくは20〜200mJ/cmである。
【0020】
本発明において、上記化合物の誘導体としては、特に制限されないが、上記した化合物の、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の塩の形態;上記した化合物の少なくとも一の水素原子を、スルホ基、スチリル基、ビニル基、メチル基等のアルキル基などで置換した形態のものが挙げられる。
【0021】
本発明において、光架橋性樹脂は、上記したように合成したものを使用してもあるいは上記したような構造を有する市販品を使用してもよい。前者の場合には、上記した単量体を、公知の方法であるいは当該方法を適宜修飾して、(共)重合することによって得られる。後者の場合に使用できる市販品としては、特に制限されず、バイオチップやバイオセンサ用途(タンパク質・酵素の固定化)に一般的に使用される光架橋性樹脂(感光性樹脂を含む)が使用される。具体的には、Biosurfine−AWP(東洋合成工業株式会社製;アジド系感光基をポリビニルアルコールにペンダントした水溶性の感光性樹脂)などが挙げられる。
【0022】
本発明において、光架橋性樹脂層中の光架橋性樹脂の含有量(濃度)は、特に制限されず、試料やその添加量、使用するグリセロール脱水素酵素や電子受容体の種類などによって適宜選択することができる。通常、光架橋性樹脂の含有量は、光架橋性樹脂層の総質量に対して、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは2〜25質量%である。
【0023】
また、本発明に用いられるグリセロール脱水素酵素は、補酵素結合型であれば特に制限されず、公知のグリセロール脱水素酵素が同様にして使用できる。具体的には、補酵素としては、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)などのニコチン化合物、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)などのフラビン化合物、PQQ(ピロロキノリンキノン)などのキノン化合物を有するものを、所望の用途によって適宜選択することができる。好ましくは、PQQ結合型グリセロール脱水素酵素が使用される。
【0024】
本発明において、光架橋性樹脂層中のグリセロール脱水素酵素の含有量は、特に制限されず、試料やその添加量、使用する光架橋性樹脂や電子受容体の種類などによって適宜選択することができる。通常、グリセロール脱水素酵素の含有量は、光架橋性樹脂の0.1〜4質量%水溶液1mlに対し、好ましくは0.1〜100,000活性単位、より好ましくは、10〜1,000活性単位の割合で存在する量である。
【0025】
本発明では、光架橋性樹脂層はさらに電子受容体を含むことが好ましい。これにより、以下に詳述するバンオセンサにおける反応層は、光架橋性樹脂層一層となるため、製造工程上好ましい。本発明に用いられる電子受容体には、酸化還元反応により生成した電子を受容できるものであれば特に制限されず、所望の用途によって適宜選択されうる。具体的には、フェリシアン化カリウム[K[Fe(CN)]]、フェロセンカルボン酸、2,6−ジクロロインドフェノールナトリウム、p−ベンゾキノン、p−ベンゾキノン誘導体、フェナジンメトサルフェート、フェナジンメトサルフェート誘導体、メチレンブルー、チオニン、インジゴカーミン、ガロシアニン、α−ナフトキノン、α−ナフトキノン誘導体、およびサフラニンなどが挙げられる。ここに、p−ベンゾキノン誘導体、フェナジンメトサルフェート誘導体、α−ナフトキノン誘導体としては、それぞれ、p−ベンゾキノン、フェナジンメトサルフェート、α−ナフトキノンの少なくとも1個の水素原子が、炭素数1または2のアルキル基で置換されたもの、炭素数1または2のアルコキシで置換されたもの、およびフッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子で置換されたものなどが挙げられる。具体的には、メトキシPMS(1-Methoxy-5-methylphenazinium methylsulfate)、2−メチル−p−ベンゾキノン(2-Methyl-p-benzoquinone)、2−メチル−α−ナフトキノン(2-Methyl-α-Naphthoquinone)などが挙げられる。これらのうち、フェリシアン化カリウム、メトキシPMS、p−ベンゾキノン、フェナジンメトサルフェート、2−メチル−p−ベンゾキノン、α-ナフトキノンが好ましく、フェリシアン化カリウム、メトキシPMSがより好ましい。
【0026】
本発明において、光架橋性樹脂層がさらに電子受容体を含む場合の、光架橋性樹脂層中の電子受容体の含有量(濃度)は、特に制限されず、使用するグリセロール脱水素酵素や対象とする試料の種類などによって適宜選択することができる。通常、電子受容体の含有量は、0.5〜10μlの試料を添加する場合には、光架橋性樹脂層の総質量に対して、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは2〜20質量%である。
【0027】
本発明において、上記グリセロール脱水素酵素及び光架橋性樹脂ならびに必要であれば電子受容体を含む光架橋性樹脂層が被固定化部材に形成される。この際、被固定化部材としては、特に制限されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、テフロン、セラミック、ガラスエポキシ、アクリル等の絶縁性樹脂により形成される。
【0028】
本発明のタンパク質固定化膜の製造方法(タンパク質の固定化方法)は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてもしくは適宜修飾して、またはこれらの方法を適宜組合わせて適用される。好ましくは、被固定化部材に、紫外線照射により架橋するアジド系感光基を有する光架橋性樹脂、グリセロール脱水素酵素ならびに必要であれば電子受容体を含む光架橋性樹脂層を形成する段階、および前記光架橋性樹脂層に対して、グリセロール脱水素酵素(場合によっては、電子受容体)を固定化する段階と、を有する。したがって、本発明の第二は、被固定化部材にグリセロール脱水素酵素を固定化する方法であって、前記被固定化部材に、紫外線照射により架橋するアジド系感光基を有する光架橋性樹脂、グリセロール脱水素酵素を含む光架橋性樹脂層を形成する段階、および前記光架橋性樹脂層に対して、グリセロール脱水素酵素を固定化する段階と、を有することを特徴とする、タンパク質の固定化方法である。
【0029】
以下、グリセロール脱水素酵素および電子受容体を、光架橋性樹脂層を有する被固定化部材に固定して、本発明のタンパク質固定化膜を製造する方法の好ましい実施形態を以下に記載する。なお、本発明は、下記好ましい実施形態に限定されるものではない。
【0030】
すなわち、(i)グリセロール脱水素酵素、電子受容体及び光架橋性樹脂を含む混合物を適当な溶剤に溶解し、これを被固定化部材上に塗布、乾燥して、塗布膜(光架橋性樹脂層)を形成した後、(ii)上記工程(i)で形成された塗布膜(光架橋性樹脂層)に紫外線を照射することにより、光架橋性樹脂中のアジド系感光基を介して、グリセロール脱水素酵素および電子受容体を光架橋性樹脂に架橋(固定化)する方法が使用できる。
【0031】
上記工程(i)は、グリセロール脱水素酵素、電子受容体及び光架橋性樹脂を含む塗布膜が形成できればよく、グリセロール脱水素酵素、電子受容体及び光架橋性樹脂の混合順序などは特に制限されず、個々の成分をそのままもしくは予め適当な溶剤に溶解したものを合わせる方法;3成分のうち2成分をそのままもしくは予め適当な溶剤に溶解したものと、残りの1成分をそのままもしくは予め適当な溶剤に溶解したものとを合わせる方法;および3成分をすべてそのままもしくは予め適当な溶剤に溶解する方法など、いずれの方法を使用してもよい。好ましくは、グリセロール脱水素酵素と電子受容体との組み合わせの混合液に、光架橋性樹脂を適当量加え、よく混合し、適量、好ましくは1〜10μlを電極上に直接塗布、乾燥する方法が使用できる。
【0032】
上記工程(i)において、溶剤は、グリセロール脱水素酵素、電子受容体及び光架橋性樹脂を含む混合物を溶解できるものであれば特に制限されない。具体的には、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、MOPSやHEPESのようなGOOD緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、グリシン−NaOH緩衝液、クエン酸緩衝液などが挙げられ、好ましくは、トリス−塩酸緩衝液である。また、被固定化部材上への塗布方法は、特に制限されず、スクリーン印刷法、沈積法、あるいはスプレー法、スピンコーティング法などの公知の方法が使用できる。
【0033】
下記工程(ii)でグリセロール脱水素酵素および電子受容体を光架橋性樹脂中のアジド系感光基を介して、光架橋性樹脂に架橋(固定化)する。このため、上記工程(i)では、グリセロール脱水素酵素および電子受容体の光架橋性樹脂への架橋(固定化)は可能な限り起こらないことが好ましい。このため、用いる光架橋性樹脂の性質にもよるが、本工程(i)は、通常、太陽光を避けて室内ランプ点灯下で行なうことが好ましく、より好ましくは紫外線カット等の処理を行った室内ランプ下で行なう。
【0034】
上記(i)の操作(溶解から乾燥までの操作を含む)条件は、所望の光架橋性樹脂層が形成できる条件であれば特に制限されない。具体的には、操作温度は、通常、1〜30℃であるが、酵素の活性を考慮すると、常温操作を避けることが好ましく、ゆえに、より好ましくは1〜15℃で、上記(i)の操作を行なうことが好ましい。また、乾燥時間は、所望の塗膜が得られれば特に制限されないが、通常5〜60分、より好ましくは10〜30分程度であることが好ましい。また、塗布膜の乾燥方法としては、自然乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥などがあるが、好ましくは酵素活性の損失が少なく短時間で行える減圧乾燥である。
【0035】
上記工程(i)において、被固定化部材上に形成される光架橋性樹脂層(塗膜)の厚みは、特に制限されず、一般的に使用される厚みが同様にして適用される。具体的には、被固定化部材上に形成される光架橋性樹脂層の厚みは、0.05〜100μm、より好ましくは0.1〜10μmであることが好ましい。
【0036】
次に、上記工程(i)で形成された塗布膜(光架橋性樹脂層)に紫外線を照射する[工程(ii)]。このような工程(ii)によって、形成された未架橋の光架橋性樹脂層に紫外線照射を行なうと、紫外線による架橋が起こり、光架橋性樹脂中のアジド系感光基を介して、グリセロール脱水素酵素および電子受容体が光架橋性樹脂に架橋(固定化)される。ここで、紫外線とは、10〜400nmの波長を有し、可視光線より短く軟X線より長い不可視光線の電磁波を意味する。上記工程(ii)で照射する紫外線の波長は、紫外線照射により架橋を誘導できる波長による紫外線照射であれば特に制限されず、使用される光架橋性樹脂の種類によって適宜選択されるが、通常、200〜400nm、より好ましくは280〜380nmの波長の紫外線が好ましく使用される。例えば、アジド系感光基をポリビニルアルコールにペンダントした水溶性の感光性樹脂である、Biosurfine−AWP(東洋合成工業株式会社製)を使用する場合には、300〜400nmの紫外線を照射することが好ましい。また、紫外線露光量もまた、紫外線照射により架橋を誘導できる量であれば特に制限されず、膜厚によって適宜選択することができる。好ましくは、紫外線露光量は、10〜1000mJ/cm、より好ましくは20〜200mJ/cmである。さらに、紫外線照射に使用される装置は、上記したような所望の紫外線を発生し得る装置であれば、特に制限されず、公知の紫外線照射装置が使用できる。
【0037】
上記工程(ii)において、紫外線照射条件は、十分量のグリセロール脱水素酵素および電子受容体が光架橋性樹脂に架橋(固定化)できる条件であれば特に制限されない。具体的には、照射温度は、具体的には、操作温度は、通常、1〜30℃であるが、酵素の活性を考慮すると、常温操作を避けることが好ましく、ゆえに、より好ましくは1〜15℃で、上記(ii)の操作を行なうことが好ましい。また、照射時間は、十分架橋(固定化)が達成できる条件であれば特に制限されにないが、通常5秒〜15分、より好ましくは20秒〜5分程度であることが好ましい。
【0038】
なお、上記好ましい実施形態では、グリセロール脱水素酵素および電子受容体を、光架橋性樹脂層を有する被固定化部材に固定して、本発明のタンパク質固定化膜を製造する方法について詳述したが、本発明は、グリセロール脱水素酵素を、光架橋性樹脂層を有する被固定化部材に固定し、また電子受容体は別の層(電子受容体層)として形成されてもよい。このような場合には、上記好ましい実施形態において、電子受容体を使用せずにグリセロール脱水素酵素のみを使用すればよい。電子受容体層の形成方法は、従来と同様の方法が使用でき、具体的には、上記(i)と同様の操作が使用できる。以下、電子受容体層の形成方法について簡単に説明する。
【0039】
すなわち、電子受容体及び高分子を含む混合物を適当な溶剤に溶解し、これを被固定化部材上に塗布、乾燥して、塗布膜(電子受容体層)を形成する。
【0040】
ここで、高分子としては、高分子は特に制限されず、適宜選択されうる。例えば、セルロース、グアーガム、スターチ、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、グアーガム、ゼラチン、タンニン酸、ペクチン、カゼイン、カラギナン、ファーセレラン、プルラン、コラーゲン、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、リグニンスルホン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、およびこれらの誘導体などが挙げられる。なお、血液などの体液に対する溶解性が優れる高分子として、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、およびこれらの誘導体が挙げられる。よって、血液などの体液を試料溶液として用いる場合には、これらの高分子を電子受容体層に含めるとよい。なお、上記の高分子は、1種のみが単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、上記以外の高分子が電子受容体層に含まれてもよいことは勿論である。
【0041】
電子受容体層における高分子の含有量については特に制限はなく、電子受容体層のサイズなどに応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、0.5〜10μLの試料溶液を添加して用いるバイオセンサの電子受容体層には、通常は0.01〜1000μg、好ましくは0.1〜100μg、より好ましくは0.3〜50μgの高分子が含まれる。
【0042】
また、上記で使用される溶剤は、電子受容体及び高分子を含む混合物を溶解できるものであれば特に制限されない。具体的には、pH緩衝剤が好ましく使用される。電子受容体層がpH緩衝剤を含むと、バイオセンサ10の感度がより一層向上しうる。この理由は以下の通りであると推測される。すなわち、試料溶液の添加により電子受容体層が溶解する際、試料溶液の組成によっては、電子受容体層のpHが変動する場合がある。pH変動の一例としては、電子受容体層において試料溶液中の中性脂肪が分解することによる脂肪酸の遊離に伴うpHの低下が挙げられる。ここで、バイオセンサのメカニズムは、酸化還元酵素により酸化される基質の量を間接的に定量するというものであるから、電子受容体層のpHが変動すると、当該酵素の種類によっては、電子受容体層のpHと酵素の最適pHとがずれてしまい、センサの測定感度の低下につながる場合がある。これに対し、電子受容体層がpH緩衝剤を含むと、かようなpH変動が抑制され、pH変動に伴うセンサの測定感度の低下が防止されるのである。ここで使用されるpH緩衝剤の種類は特に制限されず、用いる酵素の最適pHに応じて適宜選択されうるが、一例としては、グリシン−HCl、グリシン−NaOH、クエン酸−クエン酸ナトリウム、MES−NaOH、MOPS−NaOH、リン酸、Tris−HCl、酢酸などが挙げられる。なお、pH緩衝剤のpHは、6〜9であることが好ましい。また、これらのpH緩衝剤は、1種のみが単独で電子受容体層に含まれてもよいし、2種以上が併せて電子受容体層に含まれてもよい。また、上記以外のpH緩衝剤が電子受容体層に含まれてもよいことは勿論である。ゆえに、電子受容体層を形成するのに使用される溶剤としては、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、MOPSやHEPESのようなGOOD緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、グリシン−NaOH緩衝液、クエン酸緩衝液などの上記緩衝剤を含む水溶液が挙げられ、好ましくは、トリス−塩酸緩衝液である。また、被固定化部材上への塗布方法は、特に制限されず、スクリーン印刷法、沈積法、あるいはスプレー法、スピンコーティング法などの公知の方法が使用できる。
【0043】
また、電子受容体の具体例及び好ましい例は、上記したとおりである。電子受容体層における電子受容体の含有量についても特に制限はなく、試料溶液の添加量などに応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、0.5〜10μLの試料溶液を添加して用いるバイオセンサの電子受容体層には、通常は、0.01〜2000μg、好ましくは0.05〜1500μg、より好ましくは0.1〜1000μgの電子受容体が含まれるとよい。
【0044】
上記に加えて、電子受容体層は、上記に加えて界面活性剤を含んでもよい。電子受容体層に界面活性剤が含まれることにより、試料溶液中に脂溶性物質が含まれる場合であっても、当該脂溶性物質の電子受容体層への溶解が促進されうる。その結果、測定感度に優れるバイオセンサが提供されうる。電子受容体層が界面活性剤を含む場合に、使用できる界面活性剤の種類は特に制限されず、従来公知の界面活性剤が用いられうる。界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、および非イオン性界面活性剤に大きく分類されるが、これらのいずれが用いられてもよい。ここで、陽イオン性界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウム塩、ドデシルトリメチルアンモニウム塩などが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸塩、コール酸塩などが挙げられる。両性界面活性剤としては、レシチン、ホスファチジルエタノールアミン、リゾレシチンなどが挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、アシルソルビタン、アルキルグルコシド、トゥイーン(Tween)系界面活性剤、トリトン(Triton)系界面活性剤、Brij系界面活性剤などが挙げられる。ただし、これら以外の界面活性剤が用いられてもよいことは勿論である。なかでも、好ましくは非イオン性界面活性剤が、より好ましくはトゥイーン系やトリトン系の界面活性剤が用いられる。また、電子受容体層における界面活性剤の含有量については特に制限はなく、試料溶液中の脂溶性物質の量などに応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、0.5〜10μLの試料溶液を添加して用いるバイオセンサ10の電子受容体層には、通常は0.1〜500μg、好ましくは1〜100μg、より好ましくは1〜50μgの界面活性剤が含まれる。
【0045】
このようにして得られたタンパク質固定化膜は、アジド系感光基を有する光架橋性樹脂と、グリセロール脱水素酵素またはグリセロール脱水素酵素および電子受容体とを、十分一体化できる。このため、本発明のタンパク質固定化膜をバイオセンサに使用することによって、グリセロール脱水素酵素を介した生体試料中の特定成分と電子受容体との反応を効率よく行なうことができ、ゆえに、このようにして得られたバイオセンサは、生体試料中の特定成分を容易にかつ高精度で定量することができる。したがって、本発明の第三は、本発明のタンパク質固定化膜を有するバイオセンサを提供し、好ましくはグリセロール脱水素酵素および電子受容体が被固定化部材に対して固定化されたバイオセンサであって、上記グリセロール脱水素酵素および電子受容体が光架橋性樹脂層に固定化されていることを特徴とするバイオセンサ、特にディスポーザブルタイプのバイオセンサに関する。
【0046】
以下、本発明のバイオセンサを、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るバイオセンサの斜視図である。図2は、図1のバイオセンサの断面図である。なお、本発明のバイオセンサは、グリセロール脱水素酵素(および必要であれば、電子受容体;以下、同様)が固定化された光架橋性樹脂層を有することに特徴があり、他の部材(例えば、絶縁性基板、測定極、参照極、対極などの材質や大きさなど)およびこれらの形成方法については、公知の同様の部材および方法が適用できる。なお、下記説明では、反応層がグリセロール脱水素酵素および電子受容体双方が固定化された光架橋性樹脂層である例をとってなされているが、上述したように、光架橋性樹脂層はグリセロール脱水素酵素のみが固定化されていてもよい。このような場合には、反応層が、グリセロール脱水素酵素のみが固定化された光架橋性樹脂層と、上記光架橋性樹脂層上に形成されかつ電子受容体を含む電子受容体層との、2層構造を有する以外は、下記と同様であるためここでは説明を省略する。
【0047】
本発明のバイオセンサは、絶縁性基板1、ならびに当該絶縁性基板1に測定極2、参照極3及び対極4からなる電極系が形成される。また、電極系を部分的に覆い、各々の電極の電気化学的に作用する部分となる測定極作用部分2−1、参照極作用部分3−1、及び対極作用部分4−1を残すように、絶縁性ペーストを塗布/印刷し、加熱処理することにより絶縁層5が形成される。また、反応層6が、測定極作用部分2−1、参照極作用部分3−1、及び対極作用部分4−1を被覆するように形成される。この際、反応層6が、本発明におけるグリセロール脱水素酵素および電子受容体が固定化された光架橋性樹脂層に相当する。
【0048】
上記実施形態では、絶縁性基板1に測定極2、参照極3及び対極4が電極系として設けられていたが、これらの3要素すべてが設けられている必要は無く、少なくとも測定極2と対極3からなる電極系が絶縁性基板1に設けられていればよい。ただし、参照極を含めた3電極系であればより精度の高い測定が可能となるため、3電極系が好ましい。また、上述したように、反応層6は、グリセロール脱水素酵素、電子受容体およびアジド系感光基を有する光架橋性樹脂からなる水溶液(緩衝液)を電極系の表面に塗布、乾燥後、形成された塗布膜に紫外線を照射して架橋させることで、グリセロール脱水素酵素および電子受容体を光架橋性樹脂に固定化することによって形成される。本発明では、この反応層6に試料液を滴下して、所定の反応を行なわせ、当該反応を前記電極系で検知することにより、試料液中の基質濃度を測定することができる。
【0049】
また、反応層(光架橋性樹脂層)を形成した後、これを電極基板と挟む形で絶縁性のスペーサーを設置することも可能である。これにより、試料液を毛細管現象で供給できる。このようなバイオセンサは、濃度測定装置(図示略)に装着した上で試料を供給することによって、濃度測定装置において目的成分の測定を自動で行わせることができる。また、このようなバイオセンサに対する試料液の供給は、濃度測定装置に装着する前、あるいは装着した後のいずれであってもよい。
【0050】
本発明のバイオセンサは、いずれの形態で使用されてもよく特に制限されない。例えば、使い捨て用途としてのディスポーザブルタイプのバイオセンサ、少なくとも電極部分を人体に埋め込んで連続的に血糖値、ポリオールなどの所定の値を測定するためのバイオセンサなど、様々な用途に使用できる。以下、本発明のバイオセンサの用途の一実施形態として、本発明のバイオセンサ(グリセロール脱水素酵素としてPQQ結合型グリセロール脱水素酵素を使用)を用いて、ポリオールを定量する方法について詳述する。
【0051】
上記実施形態において、例えば、グリセロール脱水素酵素は、下記式に示されるように、グリセロールと酸化型電子受容体とを、対応する脱水素物と還元型電子受容体とに変換することができる。
【0052】
【化1】

【0053】
上記式において、酸化型電子受容体の減少、還元型電子受容体の増加、ジヒドロキシアセトンの量を測定することによって、簡便にグリセロールを定量することができる。また、本発明のバイオセンサを使用すると、このようにグリセロール等のポリオールを含む試料中のポリオール量が定量できるが、この際試料としては、食品、血清、血漿や全血等が好ましく使用できる。また、本発明のバイオセンサは、血清や血漿、全血等の中性脂肪測定にも使用することができる。すなわち、これらの試料に含まれる中性脂肪は、例えばリポプロテインリパーゼにより遊離脂肪酸とグリセロールに分解されるが、ここで生じたグリセロールを、グリセロール脱水素酵素を使用することにより、定量することができるからである。中性脂肪測定時には精神病治療患者、透析患者では遊離グリセロールが問題になるが、本発明のバイオセンサを用いてグリセロールを予め消去するか、もしくはその量を測定しておくことで真の中性脂肪値を求めることが可能である。なお、本発明のバイオセンサは溶液中に界面活性剤を含んでいてもポリオールを正確に定量することができる。
【0054】
以上、本発明のバイオセンサ10の構成について詳細に説明したが、上記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の知見を適宜参照して、種々の改良を施すことも可能である。従来公知の知見としては、例えば、特開平2−062952号公報、特開平5−87768号公報、特開平11−201932号公報などが挙げられる。
【実施例】
【0055】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、本発明において、グリセロール脱水素酵素の活性は、下記方法により測定した。
【0056】
(グリセロール脱水素酵素活性の測定方法)
グリセロール脱水素酵素活性は、50μM DCIP、0.2mM 5−メチルフェナジニウムメチルスルファート(PMS)、450mM グリセロールを含んだ0.1% トライトンX−100を含む10mM リン酸緩衝液pH 7.0中に、酵素溶液を加え、酵素と基質との反応をDCIPの600nmの吸光度変化によって追跡し、その吸光度の減少速度を酵素の反応速度とした。ここで、1分間に1μmolのDCIPが還元される酵素活性を1活性単位(U)とした。なお、DCIPのpH 7.0におけるミリモル吸光係数は16.3mM−1とした。
【0057】
実施例1
バイオセンサの一例として、グリセロール測定センサを以下のようにして作製した。図1は、グリセロール測定センサの一実施形態を示すものであり、各構成部分の分解斜視図である。図2は、図1のバイオセンサの断面図である。電極は、DEP Chip ER−N(有限会社バイオデバイステクノロジー製)を使用した。DEP Chip ER−Nは、絶縁性基板1の上に、それぞれカーボンからなる測定極2、参照極3、対極4が形成され、絶縁層5を挟んで、金からなる測定極作用部分2−1、銀塩化銀からなる参照極作用部分3−1、カーボンからなる対極作用部分4−1が形成されている。
【0058】
アジド系感光基を有する光架橋性樹脂としてBiosurfine−AWP(東洋合成工業株式会社製)の0.5質量%水溶液1mlに、PQQ結合型グリセロール脱水素酵素200Uと、電子受容体としてフェリシアン化カリウム及びメトキシPMSとを、それぞれ50mM及び1mMの濃度になるように添加、溶解して、混合溶液を得た。このようにして得られた混合用液を、上記電極の表面に、2μmの厚みとなるように塗布し、10分間、減圧乾燥後、300nm〜400nmの紫外線を20秒照射して、反応層6を形成した。なお、上記操作は10℃で行なった。この反応層6に、グリセロール標準液を滴下して2分後に、参照極を基準にして測定極の電位をアノード方向へ+450mVパルス電圧を印加し1秒後の電流を測定した。この場合、添加されたグリセロール標準液により光架橋性樹脂が電極上に安定で流動しにくく膨潤しにくいゲル層を形成し、PQQ結合型グリセロール脱水素酵素、フェリシアン化カリウムおよびメトキシPMSが溶解し、グリセロールとPQQ結合型グリセロール脱水素酵素が反応してメトキシPMSが還元され、その還元されたメトキシPMSとフェリシアン化カリウムが反応して、フェロシアン化カリウムを生成した。そこで、上記のパルス電圧の印加により、生成したフェロシアン化カリウムの濃度に基づく酸化電流が得られ、この電流値は基質であるグリセロール濃度に対応した。グリセロール標準液を滴下し応答電流を測定したところ、図3に示されるように、6mMという高濃度まで良好な直線が得られた。
【0059】
次に、血清にグリセロールを添加したものを試料液として使用する以外は、前記と同様にして実験を行ない、応答電流をグリセロール測定センサを用いて測定した。結果を図3に示す。図3に示されるように、試料液(図中、「血清(グリセロール含有)に相当」)についても、グリセロール標準液と同様、6mMという高濃度まで安定した応答電流が得られた。これは、光架橋性樹脂を使用することによって、一定の膜厚の安定なゲル層が形成でき、血清中に含まれるタンパク質等の電極上の反応における妨害を抑止・防止できるため、精度の高い応答電流が得られたものと考察される。
【0060】
図3に、この酸化電流値とグリセロール濃度との関係を示した。上記で示したように光架橋性樹脂層を設け、試料液としてグリセロール標準液を用いた場合と、グリセロール含有の血清を用いた場合である。両方の電流値ともほぼ同じ値を示し、近似直線もほぼ一致した。以上の結果から、このように光架橋性樹脂層を設けることで、電極上の反応を妨害する血清中のタンパク質等を排除できているものと考察される。また、電極上における光架橋性樹脂の濡れ性について評価したところ、グリセロール含有の血清を用いた場合でも、グリセロール標準液を用いた場合と変わらず、良い濡れ性を示した。
【0061】
なお、グリセロール脱水素酵素と電子受容体の組み合わせは前記実施例に限定されることはなく、本発明の主旨に合致するものであれば使用できる。一方、前記実施例においては、3電極系の場合について述べたが、対極と測定極からなる2電極系でも測定は可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態に係るバイオセンサの斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るバイオセンサの断面図である。
【図3】実施例1における、バイオセンサの応答特性図を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1 絶縁性基板、
2 測定極、
3 参照極、
4 対極、
5 絶縁層、
6 反応層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセロール脱水素酵素が光架橋性樹脂層を有する被固定化部材に固定されてなることを特徴とする、タンパク質固定化膜。
【請求項2】
前記光架橋性樹脂層はさらに電子受容体を含む、請求項1に記載のタンパク質固定化膜。
【請求項3】
前記光架橋性樹脂層は、紫外線の照射により架橋するアジド系感光基を有する高分子を含む、請求項1または2に記載のタンパク質固定化膜。
【請求項4】
前記アジド系感光基を有する高分子は、ビニルアルコール系化合物、ビニルピロリドン系化合物、アクリルアミド系化合物、酢酸ビニル系化合物、アクリル酸(塩)系化合物および無水マレイン酸系化合物、ならびにこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物から製造される、請求項3に記載のタンパク質固定化膜。
【請求項5】
前記アジド系感光基を有する高分子は、アジド基を有する芳香環を有する化合物およびその誘導体からなる群より選択される少なくとも一種のアジド系感光基を有する化合物から製造される、請求項3または4に記載のタンパク質固定化膜。
【請求項6】
被固定化部材にグリセロール脱水素酵素を固定化する方法であって、
前記被固定化部材に、紫外線照射により架橋するアジド系感光基を有する光架橋性樹脂、グリセロール脱水素酵素を含む光架橋性樹脂層を形成する段階、および
前記光架橋性樹脂層に対して、グリセロール脱水素酵素を固定化する段階と、
を有することを特徴とする、タンパク質の固定化方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のタンパク質固定化膜を有するバイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−268197(P2008−268197A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83196(P2008−83196)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【出願人】(503195850)有限会社アルティザイム・インターナショナル (31)
【Fターム(参考)】