説明

ターゲット供給装置及び極端紫外光生成装置

【課題】ドロップレットターゲットの位置安定性を改善する。
【解決手段】ターゲット供給装置は、少なくとも液体ターゲット物質を内部に貯蔵するターゲット貯蔵部に相当するリザーバ41と、前記液体ターゲット物質が通過するための貫通孔であるノズル43が形成され、その貫通孔(ノズル43)が前記ターゲット貯蔵部(リザーバ41)の内部と連通し、且つ、少なくとも前記貫通孔(ノズル43)の前記ターゲット貯蔵部と(リザーバ41)は反対側且つその貫通孔周囲の領域のターゲット放出部表面が、前記液体ターゲット物質に対する接触角が90度よりも大きい物質からなるターゲット放出部と、を備えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、極端紫外(EUV)光を生成するために、レーザ光が照射されるターゲットを供給する装置に関する。さらに、本開示は、そのようなターゲット供給装置を用いて極端紫外(EUV)光を生成するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセスの微細化に伴って、半導体プロセスの光リソグラフィにおける転写パターンの微細化が急速に進展している。次世代においては、70nm〜45nmの微細加工、さらには32nm以下の微細加工が要求されるようになる。このため、たとえば32nm以下の微細加工の要求に応えるべく、波長13nm程度のEUV光を生成する極端紫外光生成装置と縮小投影反射光学系(reduced projection reflective optics)とを組み合わせた露光装置の開発が期待されている。
【0003】
極端紫外光生成装置としては、ターゲット物質にレーザ光を照射することによって生成されるプラズマを用いたLPP(Laser Produced Plasma)式の装置と、放電によって生成されるプラズマを用いたDPP(Discharge Produced Plasma)式の装置と、軌道放射光を用いたSR(Synchrotron Radiation)式の装置との3種類の装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0192154号明細書
【概要】
【0005】
本開示の1つの観点に係るターゲット供給装置は、少なくとも液体ターゲット物質を内部に貯蔵するターゲット貯蔵部と、前記液体ターゲット物質が通過するための貫通孔が形成され、その貫通孔が前記ターゲット貯蔵部の内部と連通し、且つ、少なくとも前記貫通孔の前記ターゲット貯蔵部とは反対側且つその貫通孔周囲の領域のターゲット放出部表面が、前記液体ターゲット物質に対する接触角が90度よりも大きい物質からなるターゲット放出部と、を備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本開示のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。
【図1】図1は、例示的なLPP式のEUV光生成装置の概略構成を示す図である。
【図2A】図2Aは、第1〜第4の実施形態に係るターゲット供給装置を含む静電引出型ドロップレット生成システムの構成を示す一部断面図である。
【図2B】図2Bは、図2Aの一部を拡大して示す拡大断面図である。
【図3】図3は、第1の実施形態に係るターゲット供給装置のノズルの一部を示す断面図である。
【図4】図4は、第2の実施形態に係るターゲット供給装置のノズルの一部を示す断面図である。
【図5】図5は、第3の実施形態に係るターゲット供給装置のノズルの一部を示す断面図である。
【図6】図6は、第4の実施形態に係るターゲット供給装置のノズルの一部を示す断面図である。
【図7】図7は、溶融スズに対する各種材料の接触角を示す表である。
【図8A】図8Aは、第5の実施形態に係るターゲット供給装置を含むドロップレット生成システムの構成を示す一部断面図である。
【図8B】図8Bは、第5の実施形態に係るターゲット供給装置を含むドロップレット生成システムの構成を示す一部断面図である。
【図9】図9は、第6の実施形態に係るターゲット供給装置の一部を示す断面図である。
【図10】図10は、第7の実施形態に係るターゲット供給装置の一部を示す断面図である。
【図11】図11は、第8の実施形態に係るターゲット供給装置の一部を示す断面図である。
【実施形態】
【0007】
<内容>
1.概要
2.用語の説明
3.極端紫外光生成装置の全体説明
3.1 構成
3.2 動作
4.静電引出型ドロップレット生成システム
4.1 構成
4.2 動作
4.3 課題の発見
4.4 ノズルの構造
5.溶融スズに対する各種材料の濡れ性
6.溶融スズとの反応性
7.その他のターゲット供給装置
【0008】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。以下に説明される実施形態は、本開示の一例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0009】
1.概要
LPP式のEUV光生成装置は、ターゲット供給装置から液体ターゲット物質を放出させ、液体ターゲット物質のドロップレットがプラズマ生成領域に到達した時にパルスレーザ光をドロップレットに照射し、液体ターゲット物質をプラズマ化することによってEUV光を生成する。
【0010】
EUV光生成装置において、ドロップレットターゲットがプラズマ生成領域に到達する際にドロップレットターゲットの安定性が悪いと、EUV光のパルスエネルギー及び発生位置安定性が悪化する可能性がある。この問題に関し、本願発明者らは、ターゲット供給装置のノズル部の濡れ性によって、プラズマ生成領域又はその付近に到達するドロップレットターゲットの安定性が変化すると推定した。
【0011】
例えば、ノズルを含むターゲット供給装置において、少なくともノズルのオリフィスの出口側且つオリフィス周囲の領域の表面が、液体ターゲット物質に対する接触角が90度よりも大きい物質で構成されるようにしてもよい。その場合には、ノズルのオリフィスから放出された液体ターゲット物質がオリフィスの出口側の周囲の領域に接触しても、オリフィスの出口側の周囲の領域は液体ターゲット物質に対する濡れ性が低いので、液体ターゲット物質の放出方向が安定する可能性が高い。
【0012】
2.用語の説明
本願において使用される幾つかの用語を以下に説明する。「チャンバ」は、LPP式のEUV光生成装置において、プラズマの生成が行われる空間を外部から隔絶するための容器である。「ターゲット供給装置」は、EUV光を生成するために用いられる溶融スズ等のターゲット物質をチャンバ内に供給する装置である。「EUV集光ミラー」は、プラズマから放射されるEUV光を反射してチャンバ外に出力するためのミラーである。「デブリ」は、チャンバ内に供給されたターゲット物質のうちプラズマ化されなかった中性粒子及びプラズマから放出されるイオン粒子を含み、EUV集光ミラー等の光学素子を汚染又は損傷する原因となる物質である。
【0013】
3.極端紫外光生成装置の全体説明
3.1 構成
図1に、例示的なLPP式のEUV光生成装置1の概略構成を示す。EUV光生成装置1は、レーザシステム3と共に用いることができる(以下、EUV光生成装置1及びレーザシステム3を含むシステムを、EUV光生成システム11と称する)。図1に示し、且つ、以下に詳細に説明するように、EUV光生成装置1は、チャンバ2を含むことができる。チャンバ2は、密閉可能であってもよい。また、EUV光生成装置1は、ターゲット供給装置(例えば、ドロップレット生成器26)をさらに含むことができる。ターゲット供給装置は、例えば、チャンバ2の壁を貫通するように取り付けられていてもよい。ターゲット供給装置から供給されるターゲットの材料は、スズ、テルビウム、ガドリニウム、リチウム、キセノン、又は、それらの内のいずれか2つ以上の組合せを含むことができるが、これらに限定されない。
【0014】
チャンバ2の壁には、少なくとも1つの貫通孔が設けられていてもよい。その貫通孔には、ウインドウ21が設けられていてもよく、ウインドウ21をレーザシステム3から出力されるパルスレーザ光32が透過してもよい。チャンバ2の内部には、例えば、回転楕円面形状の反射面を有するEUV集光ミラー23が配置されてもよい。EUV集光ミラー23は、第1の焦点及び第2の焦点を有する。EUV集光ミラー23の表面には、例えば、モリブデンとシリコンとが交互に積層された多層反射膜が形成されていてもよい。EUV集光ミラー23は、例えば、その第1の焦点が、プラズマ発生位置又はその近傍(プラズマ生成領域25)に位置し、その第2の焦点が、外部装置(例えば露光装置6)の仕様によって規定される所定の集光位置(中間焦点(IF)292)に位置するように配置されるのが好ましい。EUV集光ミラー23の中央部には、パルスレーザ光33が通過することができる貫通孔24が設けられていてもよい。
【0015】
EUV光生成装置1は、EUV光生成制御システム5をさらに含んでもよい。また、EUV光生成装置1は、ターゲットセンサ4をさらに含んでもよい。ターゲットセンサ4は、ターゲットの存在、軌道、位置の少なくとも1つを検出してもよい。ターゲットセンサ4は、撮像機能を有していてもよい。
【0016】
さらに、EUV光生成装置1は、チャンバ2内部と露光装置6内部とを連通する接続部29を含むことができる。接続部29内部には、アパーチャ(aperture)が形成された壁291を設けてもよい。壁291は、そのアパーチャがEUV集光ミラー23の第2の焦点位置に位置するように配置されてもよい。
【0017】
さらに、EUV光生成装置1は、レーザ光進行方向制御装置34、レーザ光集光ミラー22、ドロップレットターゲット27用のターゲット回収器28なども含むことができる。レーザ光進行方向制御装置34は、レーザ光の進行方向を制御するために、レーザ光の進行方向を規定する光学素子と、該光学素子の位置又は姿勢を調整するためのアクチュエータとを備えることができる。
【0018】
3.2 動作
図1を参照すると、レーザシステム3から出力されたパルスレーザ光31は、レーザ光進行方向制御装置34を経て、パルスレーザ光32としてウインドウ21を透過してチャンバ2内に入射してもよい。パルスレーザ光32は、少なくとも1つのレーザ光経路に沿ってチャンバ2内に進み、レーザ光集光ミラー22で反射されて、パルスレーザ光33として少なくとも1つのドロップレットターゲット27に照射されてもよい。
【0019】
ドロップレット生成器26は、ドロップレットターゲット27をチャンバ2内部のプラズマ生成領域25に向けて放出してもよい。ドロップレットターゲット27には、パルスレーザ光33に含まれている少なくとも1つのパルスが照射される。レーザ光が照射されたドロップレットターゲット27はプラズマ化し、そのプラズマからEUV光251が生成される。EUV光251は、EUV集光ミラー23によって集光され反射される。EUV集光ミラー23に反射されたEUV光252は、中間焦点292を通って露光装置6に出力されてもよい。なお、1つのドロップレットターゲット27に、パルスレーザ光33に含まれている複数のパルスが照射されてもよい。
【0020】
EUV光生成制御システム5は、EUV光生成システム11全体の制御を統括することができる。EUV光生成制御システム5は、ターゲットセンサ4によって撮像されたドロップレットターゲット27のイメージデータ等を処理することができる。また、EUV光生成制御システム5は、例えば、ドロップレットターゲット27を放出するタイミングの制御及びドロップレットターゲット27の放出方向の制御の少なくともいずれかを行うことができる。さらに、EUV光生成制御システム5は、例えば、レーザシステム3のレーザ発振タイミングの制御、パルスレーザ光32の進行方向の制御及びパルスレーザ光33の集光位置の制御の内の少なくとも1つを行うことができる。上述の様々な制御は単なる例示に過ぎず、必要に応じて他の制御を追加することもできる。
【0021】
4.静電引出型ドロップレット生成システム
4.1 構成
次に、ターゲット供給装置(例えば、図1に示すドロップレット生成器26)及びEUV光生成制御システム5によって構成される静電引出型ドロップレット生成システムについて説明する。
【0022】
図2Aは、第1〜第4の実施形態に係るターゲット供給装置を含み、静電気を利用してドロップレットターゲットを生成する静電引出型ドロップレット生成システムの構成を示す一部断面図である。図2Bは、図2Aに示す静電引出型ドロップレット生成システムの一部を拡大して示す拡大断面図である。
【0023】
図2Aに示すように、この静電引出型ドロップレット生成システムは、リザーバ41と、ヒータ42と、ノズル43と、ヒータ44と、引出電極45と、絶縁材料46と、EUV光生成制御システム5と、不活性ガスボンベ6とを含む。リザーバ41及びノズル43は、一体的に形成されてもよいし、別個に形成されてもよい。ここで、少なくともリザーバ41及びノズル43が、ターゲット供給装置を構成している。ターゲット供給装置は、ヒータ42と、ヒータ44と、引出電極45と、絶縁材料46との内の1つ以上をさらに含んでもよい。
【0024】
ターゲット物質としては、導電性を有する液体金属等が用いられてもよいが、各実施形態においては、融点が232℃であるスズ(Sn)が用いられる場合を一例として説明する。リザーバ41は、溶融したスズ(液体ターゲット物質)を貯蔵してノズル43に供給するターゲット貯蔵部に相当する。ヒータ42及び44は、リザーバ41の周りに取り付けられて、ターゲット物質であるスズが溶融状態を維持するようリザーバ41を加熱してもよい。また、ヒータ42及び44の少なくともいずれかは、リザーバ41の温度を検出するための図示しない温度センサを含んでもよい。
【0025】
ノズル43は、チャンバ2(図1)内の所定の領域に向けて液体ターゲット物質を放出するターゲット放出部に相当する。図2Bに示すように、ノズル43には、液体ターゲット物質を放出するための貫通孔(オリフィス)が形成されている。また図2Bに示すように、ノズル43は、液体ターゲット物質に電界を集中させるために、出口側の面から突き出た先端部を有してもよい。
【0026】
引出電極45は、ノズル43のオリフィスから液体ターゲット物質を引き出すために、ノズル43の出口側の面に対向して配置され、ターゲット物質を通過させるために中心に貫通孔が形成されている。また、ノズル43と引出電極45との間には、両者を電気的に絶縁するために絶縁材料46が設けられている。絶縁材料46はターゲット物質を通過させるために中心に貫通孔が形成されている。
【0027】
再び図2Aを参照すると、EUV光生成制御システム5は、パルス電圧生成器51と、圧力調節器52と、ドロップレットコントローラ53とを含んでいる。パルス電圧生成器51の一方の出力端子に接続された配線は、リザーバ41に形成された気密端子(フィードスルー)を介して液体ターゲット物質に接触している。また、パルス電圧生成器51の他方の出力端子に接続された配線は、引出電極45に接続されている。これにより、パルス電圧生成器51は、液体ターゲット物質と引出電極45と間にパルス電圧を印加することができる。ノズル43が金属製である場合には、パルス電圧生成器51は、ノズル43と引出電極45と間にパルス電圧を印加してもよい。
【0028】
圧力調節器52は、不活性ガスボンベ6から供給される不活性ガスの圧力を利用して、液体ターゲット物質をノズル43の先端まで押し出すように構成されてもよい。ドロップレットコントローラ53は、与えられたタイミングでドロップレットターゲット27が生成されるように、パルス電圧生成器51及び圧力調節器52を制御してもよい。
【0029】
4.2 動作
この静電引出型ドロップレット生成システムは、オンデマンドでドロップレット生成するシステムである。ドロップレットコントローラ53は、リザーバ41が、スズ(Sn)が溶融する温度232℃以上の所定の温度となるように、ヒータ42及び44を制御する。これにより、リザーバ41の中にスズが溶融状態に維持される。
【0030】
ドロップレットコントローラ53は、ドロップレット生成信号をパルス電圧生成器51に出力する。パルス電圧生成器51は、ドロップレット生成信号に応答して、溶融スズと引出電極45との間にパルス状の高電圧を印加する。この時、ノズル43の出口側の面から突き出た先端部から高電圧によるクーロン力で溶融スズが引き出され、先端部から引き離され、ドロップレットが生成される。ここで、必要な場合には、ドロップレットコントローラ53の制御の下で、圧力調節器52が、スズと反応しないガスを用いて溶融スズに対して圧力をかけることにより、溶融スズをノズル43の先端部から突出するように押し出してもよい。
【0031】
4.3 課題の発見
このような静電引出型ドロップレット生成システムにおいて、液体ターゲット物質に電界を集中させるために、ノズルの先端部の形状をテーパー状に突き出させてもよい。また、直径が10μm〜30μmであるドロップレットターゲットを生成するために、ノズルの先端部におけるオリフィスの直径が数μm以下であるとよい。
【0032】
このノズルのオリフィスの出口側且つオリフィス周囲の領域の表面が、液体ターゲット物質によって濡れてしまうと、液体ターゲット物質に所定の電界が集中しなくなる場合がある。結果としてドロップレットターゲットの生成確率が低下することがある。また、ドロップレットターゲットが生成されたとしてもドロップレットターゲットが放出される方向が不安定となり、ドロップレットターゲットの位置安定性が悪化する場合がある。つまり、ノズルのオリフィスの出口側且つオリフィス周囲の領域の表面が、液体ターゲット物質に対する濡れ性が高い状態であると、所望のドロップレットターゲットが生成できない場合がある。
【0033】
そこで、本開示の実施形態においては、少なくともオリフィスの出口側且つオリフィス周囲の領域の表面が、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い物質で構成されている。また、この物質は、ターゲット物質との反応性が低いことが望ましい。本願において、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い物質とは、具体的には、液体ターゲット物質に対する接触角が90度よりも大きい物質のことをいう。また、液体ターゲット物質に対する濡れ性が高い物質とは、具体的には、液体ターゲット物質に対する接触角が90度以下の物質のことをいう。
【0034】
4.4 ノズルの構造
図3は、第1の実施形態に係るターゲット供給装置のノズルの一部を示す断面図である。第1の実施形態においては、ノズル43の材料そのものが、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い物質で構成されている。
【0035】
図4は、第2の実施形態に係るターゲット供給装置のノズルの一部を示す断面図である。ノズルの材料として、液体ターゲット物質に対する濡れ性が高い材料を使用する場合には、少なくともオリフィスの出口側且つオリフィス周囲の領域の表面に、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い物質をコーティングしてもよい。従って、ノズルは、ノズル本体43aと、コーティング部43bとを含むことになる。あるいは、ノズル本体43aの全ての表面に、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い物質をコーティングしてもよい。
【0036】
ノズルは、電気的に絶縁性を有する材料又は半導体材料で作製されてもよい。ノズルの材料が絶縁材料又は半導体材料である場合には、ノズルの出口側の面から突き出た先端部を設けなくても、液体ターゲット物質に電界を集中させることができる。この場合においても、少なくともノズルのオリフィスの出口側且つオリフィス周囲の領域の表面を、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い状態とすればよい。
【0037】
図5は、第3の実施形態に係るターゲット供給装置のノズルの一部を示す断面図である。第3の実施形態においては、ノズル43cの材料は絶縁材料又は半導体材料であって、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い材料であってよい。従って、ノズル43cが、図2Aに示す絶縁材料46を兼ねることができる。
【0038】
図6は、第4の実施形態に係るターゲット供給装置のノズルの一部を示す断面図である。第4の実施形態においては、ノズルの材料には絶縁材料又は半導体材料であって、液体ターゲット物質に対する濡れ性が高い材料を使用してもよい。さらに、ノズルの少なくともオリフィスの出口側且つオリフィス周囲の領域の表面に、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い物質をコーティングしてもよい。従って、ノズルは、ノズル本体43dと、コーティング部43eとを含むことになる。あるいは、ノズル本体43dの全ての表面に、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い物質をコーティングしてもよい。コーティングされる物質も、絶縁材料又は半導体材料であることが望ましい。本実施形態においては、ノズル本体43d又はコーティング部43eが、図2Aに示す絶縁材料46を兼ねることができる。
【0039】
以上のように、少なくともノズルのオリフィスの出口側の周囲の領域の表面を、液体ターゲット物質に対する濡れ性が悪く、且つ、好ましくはターゲット物質との反応性が低い物質で構成することによって、ドロップレットターゲットの生成確率を向上させ、ドロップレットターゲットの位置安定性を改善することができる。
【0040】
5.溶融スズに対する各種材料の濡れ性
図7は、溶融スズに対する各種材料の接触角を示す表である。この資料は、「ぬれ性ハンドブック〜基礎・測定評価・データ〜」(監修:石井淑夫、小石眞純、角田光雄、発行所:株式会社テクノシステム)に基づいている。一般に、接触角θが0°<θ≦90°の範囲にある状態は浸漬濡れと呼ばれ、液体は固体に浸漬してやがて浸み込む。一方、接触角θが180°≧θ>90°の範囲にある状態は付着濡れと呼ばれ、濡れが進行しにくい。
【0041】
図7に示すように、炭化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、黒鉛、ダイアモンド、酸化珪素、酸化モリブデン(予備熱処理しないモリブデンの酸化物層)等は、180°≧θ>90°の範囲にある接触角θを有し、溶融スズに対する濡れ性が低い。この他に、酸化タングステン及び酸化タンタルも、酸化モリブデン等と同様に、180°≧θ>90°の範囲にある接触角θを有し、溶融スズに対する濡れ性が低いと考えられる。
【0042】
一方、アルミニウム、銅、シリコン、ニッケル、チタン、モリブデン(真空中予備熱処理)等の金属材料又は半導体単体材料は、0°<θ≦90°の範囲にある接触角θを有し、溶融スズに対して濡れ易い。タングステン及びタンタルは、真空中予備熱処理することによって、モリブデンと同様に濡れ性が良くなると考えられる。
【0043】
6.溶融スズとの反応性
次に、溶融スズと各種材料との反応性を以下に説明する。高融点材料であるタングステン、タンタル、モリブデンは、溶融スズとの反応性が低い。また、炭化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、黒鉛、ダイアモンド、酸化珪素、酸化モリブデンも、溶融スズとの反応性が低い。同様に、酸化タングステン及び酸化タンタルも、溶融スズとの反応性が低いと考えられる。
【0044】
従って、炭化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、黒鉛、ダイアモンド、酸化珪素、酸化モリブデン、酸化タングステン、又は、酸化タンタルを、ノズルの材料として使用してもよい。あるいは、上記材料を、少なくともノズルのオリフィスの出口側且つオリフィス周囲の領域の表面にコーティングしてもよいし、ノズルの外側表面全面にコーティングしてもよい。
【0045】
1つの例としては、各実施形態におけるノズルの材料として、モリブデンを使用する。そして、ノズルを高温中で酸素と反応させて酸化させることによって、ノズルの表面に酸化物(酸化モリブデン)の層を形成する。これによりノズルの表面を酸化物でコーティングしてもよい。さらに好ましくは、オリフィスの内側を除くノズルの外表面のみを酸化物でコーティングして、オリフィスの内側の溶融スズが直接接触する部分にはモリブデン金属を露出させるようにしてもよい。真空中で熱処理されたモリブデン金属表面の接触角は30°〜70°であるので、モリブデン金属の表面は濡れ性が高い。すなわち、オリフィスの内側は濡れ性が高いので、溶融スズがノズルに到達しやすくなる。あるいは、モリブデンと同様の高融点材料であるタングステン又はタンタルをノズルの材料として、少なくともオリフィスの出口側且つオリフィス周囲の領域の表面を酸化処理してもよい。
【0046】
別の例として、ノズルの材料は、溶融スズとほとんど反応しない非金属材料、例えば、炭化珪素、窒化珪素、酸化珪素(石英ガラス等)、酸化アルミニウム(サファイア)、黒鉛、ダイアモンド等でもよい。特に、静電引出型ドロップレット生成システムにおいては、誘電率が低い材料である石英ガラスや炭化珪素が好ましい。
【0047】
さらに別の例として、プラズマ生成時に発生するイオンによるスパッタ率が低いという観点からは、ノズルの材料としてダイアモンドが好ましい。さらに、オリフィスの内側の溶融スズが直接接触する部分には、溶融スズに対する濡れ性が高くて溶融スズとほとんど反応しない物質(例えば、モリブデン、タンタル、又は、タングステン)をコーティングしてもよい。そして、これらの金属の表面に付着している酸化物層を取り除く処理をすればよい。
【0048】
7.その他のターゲット供給装置
図8A及び図8Bは、第5の実施形態に係るターゲット供給装置を含むドロップレット生成システムの構成を示す一部断面図である。第5の実施形態においては、ターゲット供給装置のノズル本体に、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(lead) zirconate titanate)等の圧電体とその両端に形成された電極とを含むアクチュエータが配置されている。
【0049】
ノズルの材料は、金属材料、半導体材料、絶縁材料のいずれでもよいが、図8A及び図8Bには、絶縁材料又は半導体材料で作製されたノズルを用いる例が示されている。ノズルの先端部には、オリフィス43gが形成されている。ノズルの材料としては、液体ターゲット物質に対する濡れ性が高い材料が使用され、少なくともオリフィス43gの出口側の周囲の領域の表面に、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い物質がコーティングされているとよい。コーティングされる物質は、絶縁材料又は半導体材料であることが望ましい。つまり、第5の実施形態に係るノズルは、ノズル本体43dと、コーティング部43eと、アクチュエータ43fとを含んでいると言うことができる。
【0050】
また、EUV光生成制御システム5は、ドロップレットコントローラ53と、アクチュエータ用電源部54とを含んでいる。ドロップレットコントローラ53は、ドロップレット生成信号をアクチュエータ用電源部54に出力する。アクチュエータ用電源部54は、ドロップレット生成信号に応答して、アクチュエータ43fの電極にパルス状又は連続波の電圧を印加する。これにより、アクチュエータ43fの圧電体が収縮又は伸張する。
【0051】
図8Aに示すように、アクチュエータ43fに電圧を印加して、ノズル本体43dを外側から内側に向けて圧迫する。これにより、ノズル43d内の液体ターゲット物質にかかる圧力が一時的に上昇し、ノズルから液体ターゲット物質が放出されてドロップレットターゲット27が生成される。従って、本実施形態においては、図2Aに示す引出電極45、絶縁材料46及びパルス電圧生成器51は不要としてもよい。圧電体を用いたアクチュエータに限らず、高速でノズル内の液体ターゲット物質を加圧する機構を設けることによって、オンデマンドでドロップレットターゲット27を生成することが可能となる。
【0052】
図8Bにおいては、溶融スズと反応しない不活性ガス等で液体ターゲット物質を加圧することによって、ノズルから液体ターゲット物質のジェットを放出するようにしている。液体ターゲット物質を加圧する構成は図2Aに示したものと同様であってよい。図8Bにおいてはさらに、アクチュエータ43fを用いて、ノズルに振動を与える。このように、いわゆるコンティニュアスジェット法によってドロップレットを生成する。コンティニュアスジェット法とは、ノズルから放出されたジェットの分断周期を振動によって制御することで、略均一なドロップレットを得るドロップレット生成方法である。
【0053】
図9は、第6の実施形態に係るターゲット供給装置の一部を示す断面図である。LPP式のEUV光生成装置においては、プラズマ生成領域(図1に示すプラズマ生成領域25に相当)で発生するデブリがノズルに到達する可能性が高い。そこで、第6の実施形態においては、デブリ防御プレート47を配置して、ノズル43に到達するデブリの量を低減させてもよい。図9に示すように、デブリ防御プレート47はノズル43とプラズマ生成領域との間のドロップレットターゲット27の軌道上に配置されるとよい。デブリ防御プレート47は、引出電極45と共に、絶縁材料46aによって支持され、ドロップレットが通過する部分に貫通孔が形成されている。このデブリ防御プレート47は、耐スパッタ性の高い材料で構成されることが望ましい。ノズルのオリフィスの出口側且つオリフィス周囲の領域の表面が、液体ターゲット物質に対する接触角が90度よりも大きい物質で構成されるようにしているので、ドロップレットターゲットの位置安定性が向上する。結果として、デブリ防御プレートの貫通孔を小さくでき、ノズルに到達するデブリをさらに低減できる。
【0054】
図10は、第7の実施形態に係るターゲット供給装置の一部を示す断面図である。第7の実施形態においては、チャンバ2(図1)内の所定の領域に向けて液体ターゲット物質を放出するターゲット放出部として、ノズルの替わりにプレート48が用いられる。プレート48の材料としては、絶縁材料又は半導体材料であって、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い材料が使用される。図10に示すように、プレート48の出口側の面には、凹部が形成されており、凹部の中央部には、液体ターゲット物質を放出するための貫通孔(オリフィス)が形成されている。プレート48をこのような形状にしてオリフィス部を流れの方向に薄く形成すると、オリフィス部の溶融スズに接する面積が小さくなる。オリフィス部の接液面積が少ない方が流体に対する擾乱が少なく、ドロップレットの放出方向が安定すると推測される。
【0055】
図11は、第8の実施形態に係るターゲット供給装置の一部を示す断面図である。プレートの材料として、絶縁材料又は半導体材料であって、液体ターゲット物質に対する濡れ性が高い材料を使用してもよい。この場合には、少なくともオリフィスの出口側且つオリフィス周囲の領域の表面に、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い物質をコーティングしてもよい。従って、プレートは、プレート本体48aと、コーティング部48bとを含むことになる。あるいは、プレート本体48aの全ての外側表面に、液体ターゲット物質に対する濡れ性が低い物質をコーティングしてもよい。コーティングされる物質は、絶縁材料又は半導体材料であることが望ましい。
【0056】
上記の説明は、制限ではなく単なる例示を意図したものである。従って、添付の特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかであろう。
【0057】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体で使用される用語は、「限定的でない」用語と解釈されるべきである。例えば、「含む」又は「含まれる」という用語は、「含まれるものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。また、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される修飾句「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0058】
1…EUV光生成装置、 11…EUV光生成システム、 2…チャンバ、 21…ウインドウ、 22…レーザ光集光ミラー、 23…EUV集光ミラー、 24…貫通孔、 25…プラズマ生成領域、 251、252…EUV光、 26…ドロップレット生成器、 27…ドロップレットターゲット、 28…ターゲット回収器、 29…接続部、 291…壁、 292…中間焦点、 3…レーザシステム、 31〜33…パルスレーザ光、 34…レーザ光進行方向制御装置、 4…ターゲットセンサ、 41…リザーバ、 42、44…ヒータ、 43、43c…ノズル、 43a、43d…ノズル本体、 43b、43e…コーティング部、 43f…アクチュエータ、 43g…オリフィス、 45…引出電極、 46、46a…絶縁材料、 47…デブリ防御プレート、 48…プレート、 48a…プレート本体、 48b…コーティング部、 5…EUV光生成制御システム、 51…パルス電圧生成器、 52…圧力調節器、 53…ドロップレットコントローラ、 54…アクチュエータ用電源部、 6…不活性ガスボンベ、 6…露光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも液体ターゲット物質を内部に貯蔵するターゲット貯蔵部と、
前記液体ターゲット物質が通過するための貫通孔が形成され、その貫通孔が前記ターゲット貯蔵部の内部と連通し、且つ、少なくとも前記貫通孔の前記ターゲット貯蔵部とは反対側且つその貫通孔周囲の領域のターゲット放出部表面が、前記液体ターゲット物質に対する接触角が90度よりも大きい物質からなるターゲット放出部と、
を備えるターゲット供給装置。
【請求項2】
前記液体ターゲット物質に対する接触角が90度よりも大きい前記物質が、少なくとも前記貫通孔の出口側且つ貫通孔周囲の領域の表面にコーティングされた物質を含む、請求項1記載のターゲット供給装置。
【請求項3】
前記液体ターゲットが溶融スズを含み、
前記液体ターゲット物質に対する接触角が90度よりも大きい前記物質が、炭化珪素、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、黒鉛、ダイアモンド、酸化タングステン、及び、酸化タンタルの内のいずれか1つを含む、
請求項1記載のターゲット供給装置。
【請求項4】
前記液体ターゲットが溶融スズを含み、
前記液体ターゲット物質に対する接触角が90度よりも大きい前記物質が、炭化珪素、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、黒鉛、ダイアモンド、酸化タングステン、及び、酸化タンタルの内のいずれか1つを含む、
請求項2記載のターゲット供給装置。
【請求項5】
前記液体ターゲット物質に接触する前記ターゲット放出部の前記貫通孔の内表面が、前記液体ターゲット物質に対する接触角をθとして、0度<θ≦90度を満たす、請求項1記載のターゲット供給装置。
【請求項6】
前記液体ターゲット物質に接触する前記ターゲット放出部の前記貫通孔の内表面が、前記液体ターゲット物質に対する接触角をθとして、0度<θ≦90度を満たす、請求項2記載のターゲット供給装置。
【請求項7】
前記液体ターゲット物質が溶融スズを含み、
前記貫通孔の内表面が、モリブデン、タングステン、及び、タンタルの内のいずれか1つを含む物質からなる、
請求項5記載のターゲット供給装置。
【請求項8】
前記液体ターゲット物質が溶融スズを含み、
前記貫通孔の内表面が、モリブデン、タングステン、及び、タンタルの内のいずれか1つを含む物質からなる、
請求項6記載のターゲット供給装置。
【請求項9】
請求項1記載のターゲット供給装置を具備する極端紫外光生成装置。
【請求項10】
請求項2記載のターゲット供給装置を具備する極端紫外光生成装置。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−169359(P2012−169359A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27576(P2011−27576)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト/次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト(石特会計/EUV光源高信頼化技術開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(300073919)ギガフォトン株式会社 (227)
【Fターム(参考)】