ターゲット分子の評価方法
【課題】高選択性で低ノイズの新規なターゲット分子の物性値の評価方法を提供する。
【解決手段】マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法において、基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、交流電圧の周波数を変更した際に基板電極上に結合したプローブ分子に備えられたマーカーから得られる信号あるいは信号の平均値を用いて、ターゲット分子のストークス半径または分子量、プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度、結合速度定数、解離速度および解離速度定数の少なくともいずれか一つを決定する。
【解決手段】マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法において、基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、交流電圧の周波数を変更した際に基板電極上に結合したプローブ分子に備えられたマーカーから得られる信号あるいは信号の平均値を用いて、ターゲット分子のストークス半径または分子量、プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度、結合速度定数、解離速度および解離速度定数の少なくともいずれか一つを決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の実施形態は、DNAチップ等のバイオチップに利用される、評価対象(ターゲット分子)の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノをキーワードとして、ナノテクノロジーが多くの人々の関心を集めている。
【0003】
このナノテクノロジーの中でも、半導体微細加工技術(半導体ナノテクノロジー)とバイオテクノロジーとの融合領域であるナノバイオテクノロジーは、既存の問題を根底から解決できる可能性を持つ新分野として、多くの研究開発が精力的に行われるようになってきている。
【0004】
このナノバイオテクノロジーの中でも特に、DNAチップ(またはDNAマイクロアレイ)に代表され、ガラス、シリコン、プラスチック、金属等で形成された基板上に、DNA、蛋白質等の生体高分子からなる多数の異なった被検体を高密度に整列化してスポット状に配置したバイオチップは、臨床診断や薬物治療等の分野で、核酸や蛋白質の試験を簡素化でき、特に遺伝子解析に有効な手段として注目されている(非特許文献1および2参照)。
【0005】
更に、近年では、固体基板上に、機能性分子や機能性分子と結合させた分子を結合させて、部分的に機能性表面(評価部)を形成し、マイクロマシニング技術やマイクロセンシング技術と組み合わせて、微小なターゲットを評価する技術のもとに作製される、「MEMS」や「μTAS」と呼ばれるデバイスが、従来の評価感度や評価時間を大幅に向上させるものとして注目されている。「MEMS」は、マイクロエレクトロメカニカルシステム(Micro Electro Mechanical Systems)の略であり、半導体の加工技術をもとに非常に微細なものを作る技術、またはその技術を用いて作製された精密微細機器を意味し、一般に、機械、光学、流体等の複数の機能部分を複合化、微細化したシステムを意味する。また、「μTAS」は、マイクロトータルアナリシスシステム(Micro Total Analysis System)の略であり、マイクロポンプ、マイクロバルブ、センサ等を小型、集積、一体化した化学分析システムを意味する。これらのデバイスは、一般に、特定の機能を有する機能性分子や、この機能性分子と結合させた分子を、基板上に自己組織的に固定(結合)させた機能性表面を有している。そして、これらのデバイスにおいては、機能性表面での反応を電気的または光学的に評価する手法が多く取られている。
【0006】
中でも、光学的に評価する手法は、評価対象であるターゲットを蛍光色素等の光学的なラベルで修飾し、光学的な強度から、ターゲットを定量的に評価する手法で、その感度の高さから、DNAチップ等に幅広く利用されている。
【0007】
しかしながら、この手法では、ターゲットをラベルで修飾する手順が不可欠であり、ラベリングや洗浄等の煩雑な工程が必要となる。また、ラベルのみの混入による誤評価や、プローブとの特異的な結合の結果でない、単に非特異的に評価部に付着したターゲットも評価してしまう問題があった。
【0008】
したがって、ターゲットにラベルを修飾する必要が無く(ノンラベルで)、非特異吸着したターゲットの誤評価等を回避して、高選択性で低ノイズの評価技術の開発が望まれているのが現状である。
【0009】
ラベルフリーのターゲット分子を評価する方法としては、マーカーを荷電性プローブ分子に修飾し、このプローブ分子を電極に固定して電場で駆動し、マーカーからの信号で駆動状態をモニターし、ターゲット分子がプローブ分子と特異的に結合した際に、プローブの駆動状態が変化し、この変化をプローブに修飾したマーカーで評価する方法が知られている(非特許文献3,特許文献1,2参照)。荷電性プローブ分子が電場に引き寄せられたり、反発したりして、プローブ分子の先端に付けたマーカーと基板との距離が変化することで発生するマーカーからの信号の変化を観察することがこの手法の原理である。駆動周波数としては、電場のもととなる電気二重層の形成が可能な周波数帯(おおよそ1MHz以下)であれば、駆動電位に同期したマーカーからの信号を観察することで、ターゲット分子の評価が可能である。
【特許文献1】特願2004−238696(請求の範囲)
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/069932号明細書(クレーム)
【特許文献3】特開2005−283560号公報(請求の範囲)
【非特許文献1】T. G. Drummond et al.,「電気化学的DNAセンサー(Electrochemical DNA sensors)」,ネイチャーバイオテクノロジー(Nature Biotech.),2003年,第21巻,第10号,p.1192-1199
【非特許文献2】J. Wang,「DNAバイセンサーから遺伝子チップまでのサーベイと纏め(SURVEY AND SUMMARY From DNA biosensors to gene chips)」,Nucleic Acids Research, 2000年,第28巻,第16号,p.3011-3016
【非特許文献3】U. Rant et al.,「金属表面上のDNA層の動的電気的スイッチング(Dynamic Electrical Switching of DNA Layers on a Metal Surface)」,Nano Lett.,2004年,第4巻,第12号,p.2441-2445
【非特許文献4】A. Ulman,「自己組織化モノレイヤーの形成(Formation and Structure of Self-Assembled Monolayers)」,Chem. Rev.,1996年,第96巻,第4号,p.1533-1554
【非特許文献5】U. Rant et al.,「電気的操作中の金属表面上の1本鎖、2本鎖DNAの異なる動特性(Dissimilar Kinetic Behavior of Electrically Manipulated Single- and Double-Stranded DNA Tethered to a Gold Surface)」,Biophysical Journal,2006年,第90巻,p.3666-3671
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以下の実施形態は、従来評価ターゲットに必要不可欠であった、インターカレーターや蛍光色素、酸化還元マーカー等の修飾無しに、ラベルフリーでターゲット分子を高選択性かつ低ノイズで評価する技術を提供することを目的としている。更に他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書に開示された一実施態様によれば、マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法であって、基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、前記交流電圧の周波数を変更した際に前記基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられた前記マーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値を用いて、前記ターゲット分子のストークス半径または分子量を決定する、ターゲット分子の評価方法が提供される。
【0012】
本明細書に開示された他の一実施態様によれば、マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法であって、基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、前記交流電圧の周波数を変更した際に前記基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられた前記マーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値を用いて、前記プローブ分子と前記ターゲット分子との間の結合速度、前記プローブ分子と前記ターゲット分子との間の結合速度定数、前記プローブ分子と前記ターゲット分子との間の解離速度および、前記プローブ分子と前記ターゲット分子との間の解離速度定数の少なくともいずれか一つを決定する、ターゲット分子の評価方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本明細書に開示された種々の実施形態によれば、高選択性で低ノイズの新規なターゲット分子の評価方法が実現する。すなわち、ターゲット分子へのマーカーの修飾を必要とせず、ターゲット分子への修飾に用いられるマーカーの評価用マーカーが幾分でも残存することによる評価への悪影響、非特異吸着したターゲットの誤評価等を防止できる評価方法が実現する。
【0014】
上記実施形態に係る高選択性、低ノイズ分子評価方法と評価装置は、ナノバイオテクノロジーの分野に極めて有用であり、DNAチップや蛋白質チップ等のバイオチップに好適な、評価方法とその方法を用いた評価装置を提供することができる。
【0015】
特に、上記実施形態は、ターゲット分子のストークス半径、プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度、結合速度定数、解離速度および解離速度定数を決定するのに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、種々の実施の形態を図、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0017】
本明細書に開示されるターゲット分子の評価方法では、基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与えて、基板電極上に結合したプローブ分子に備えられたマーカーから得られる信号の観察により、プローブ分子に結合したターゲット分子を評価する。この際、交流電圧の周波数を変更してマーカーの信号挙動を観察する。この交流電圧の周波数を、マーカーの信号挙動の元になるプローブ分子の運動(たとえば伸縮運動)を起こさせる周波数と言う意味で、駆動周波数と呼び、このようなプローブ分子の運動を起こさせることをプローブ分子を駆動すると言うことがある。
【0018】
基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与えて、基板電極上に結合したプローブ分子に備えられたマーカーから得られる信号の観察により、プローブ分子に結合したターゲット分子を評価する方法は、たとえば特許文献3に開示されている。
【0019】
この方法では、ターゲット分子の高選択性で低ノイズの新規な評価が可能である。具体的には、ターゲット分子へのマーカーの修飾を必要とせず、ターゲット分子への修飾に用いられる評価用マーカーが幾分でも残存することによる評価への悪影響、非特異吸着したターゲット分子の誤評価等を防止できる評価方法が実現する。
【0020】
これらの低ノイズ分子評価方法と評価装置は、ナノバイオテクノロジーの分野に極めて有用であり、DNAチップや蛋白質チップ等のバイオチップに好適な、評価方法とその方法を用いた評価装置を提供することができる。
【0021】
なお、ここで、「評価」とは、プローブ分子やターゲット分子の有無の検出、相違の検出および定量ならびに、ストークス半径、プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度、結合速度定数、解離速度、解離速度定数等の物性値の決定を意味する。
【0022】
(ターゲット分子評価装置)
上記のターゲット分子を評価する方法は、基板上に設けられた基板電極と対向電極と、基板電極上に結合し、マーカーを備え、ターゲット分子と結合し得るプローブ分子と、基板電極と対向電極との間に電圧を印加するための電圧印加手段と、マーカーからの信号を検出する信号検出手段とを含むターゲット分子評価装置を用いて評価することができる。信号検出手段には、蛍光検出手段の場合の蛍光を発光/消光させるための光照射手段のように補助的手段が含まれる場合もある。このような基板電極や対向電極は水溶液中に浸漬して使用される。
【0023】
以下、主に、マーカーの蛍光の発光/消光を観察する場合について説明するが、後述するとおり、信号は蛍光に限られるわけではない。
【0024】
上記装置において、プローブ分子を基板電極に結合せしめ、クエンチング効果でマーカーが消光した状態となし、電圧を印加することによりマーカーを発光/消光させ、その発光/消光挙動を観察することにより、プローブ分子と結合したターゲット分子を評価できる。マーカーの発光/消光は、マーカーと基板電極との距離が変化することにより可能になるものと考えられている。マーカーは基板電極から離れると発光/消光し、基板電極に近づきあるいは接触すると消光する。このようなマーカーの運動は、プローブ分子がプラスまたはマイナスに帯電し得ることで可能になると考えられる。例えば、プローブ分子がマイナスに帯電している場合は、基板電極の電位を負にすることによりマーカーが基板電極から離れ、基板電極の電位を正にするとマーカーが基板電極に近づく。
【0025】
図1−A〜Cに、そのような挙動を模式的に示す。図1−Aは、プローブ分子1が基板電極2と結合し、縮まった状態を示す模式図、図1−Bは、プローブ分子1が基板電極2と結合し、横に倒れた状態を示す模式図、図1−Cは、プローブ分子1が基板電極2から伸長した状態を示す模式図である。図1−A,Bの場合にマーカー3は基板電極に近づきあるいは接触し、図1−Cの場合には、マーカー3は基板電極から離れる。恐らくこのような挙動が生じているものと考えられる。なお、本明細書において、プローブ分子について「伸縮」を説明する場合の「伸縮」は図1−A〜Cのような挙動を意味するものと考えられているが、マーカーと基板電極との間の距離が変化する挙動であればどのような挙動でもこの「伸縮」の範疇に属する。したがって、「伸縮」が上記の挙動に限られるわけではない。
【0026】
(ターゲット分子)
ターゲット分子としては、蛋白質、DNA、RNA、抗体、天然または人工の1本鎖のヌクレオチド体、天然または人工の2本鎖のヌクレオチド体、アプタマー、抗体を蛋白質分解酵素で限定分解して得られる産物、蛋白質に対して親和性を有する有機化合物、蛋白質に対して親和性を有する生体高分子、これらの複合体およびそれらの任意の組み合わせよりなる群から選ばれたものまたはこれらを含むものが好ましい。プラスまたはマイナスに帯電したイオン性ポリマーを含んでいてもよい。なお、上記複合体の例としては、DNAとマイナスに帯電したポリマーとの結合体等、上記の物質と他の物質との結合体を挙げることができる。ターゲット分子としては、上記のほかに、血漿蛋白、腫瘍マーカー、アポ蛋白、ウイルス、自己抗体、凝固・線溶因子、ホルモン、血中薬物、核酸、HLA抗原、リポ蛋白、糖蛋白、ポリペプチド、脂質、多糖類、リポ多糖類等が挙げられる。
【0027】
ここで、「ヌクレオチド体」とは、モノヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドよりなる群のいずれか一つまたはその混合物を意味する。このような物質は、マイナスに帯電していることが多い。1本鎖あるいは2本鎖を用いることができる。なお、蛋白質、DNA、ヌクレオチド体が混在していてもよい。また、生体高分子には、生体に由来するものの他、生体に由来するものを加工したもの、合成された分子も含まれる。
【0028】
ここで、上記「産物」とは、抗体を蛋白質分解酵素で限定分解して得られるものであり、本明細書に開示された実施形態の趣旨に合致する限り、抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントや抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片、さらにはその誘導体等どのようなものを含めることもできる。
【0029】
抗体としては、たとえば、モノクローナルな免疫グロブリンIgG抗体を使用することができる。また、IgG抗体に由来する断片として、たとえばIgG抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントを使用することもできる。更に、そのようなFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片などを使用することもできる。蛋白質に対して親和性を有する有機化合物として使用可能な例を挙げると、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)等の酵素基質アナログや酵素活性阻害剤、神経伝達阻害剤(アンタゴニスト)などがある。蛋白質に対して親和性を有する生体高分子の例としては、蛋白質の基質または触媒となる蛋白質、分子複合体を構成する要素蛋白質同士等を挙げることができる。
【0030】
(プローブ分子)
プローブ分子は、基板電極と結合し得るものであれば、本明細書に開示された実施形態の趣旨に反しない限り、どのようなものでもよいが、マーカーを、「ターゲット分子」との結合前に備えたものであることが好ましい。
【0031】
プローブ分子は、ターゲット分子に対して特異的に結合する性質を有することが好ましい。特異的に結合する性質を有することにより、ターゲット分子の高選択性と低ノイズの精密な評価がより容易になる。結合の種類および結合箇所については特に制限はないが、結合力が特に弱い結合は避けた方がよいであろう。
【0032】
プローブ分子は、交流電圧の印加により、マーカーと基板電極との距離を変化させる機能を有するものであることが一般的である。先述のごとく、交流電圧の印加によって、マーカーと基板電極との間の距離の変化を生ぜしめるためには、プローブ分子がプラスまたはマイナスに帯電し得ることが好ましい。このようなプローブ分子を荷電性プローブ分子と呼ぶ場合がある。
【0033】
プローブ分子の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、等が挙げられるが、これらの中でも線状が好ましい。
【0034】
このようなプローブ分子の種類には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、病気の治療、診断等への応用等の観点からは生体分子等が好適に挙げられる。具体的には、蛋白質、DNA、RNA、抗体、天然または人工の1本鎖のヌクレオチド体、天然または人工の2本鎖のヌクレオチド体、アプタマー、抗体を蛋白質分解酵素で限定分解して得られる産物、蛋白質に対して親和性を有する有機化合物、蛋白質に対して親和性を有する生体高分子、これらの複合体、プラスまたはマイナスに帯電したイオン性ポリマーおよびそれらの任意の組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも一つの物質を含むものが好ましい。伸縮を行い易い場合や、プローブ分子としてターゲット分子と特異的に結合し易い場合が多いからである。
【0035】
正に帯電したイオンポリマーとしては、例えば、主鎖にグアニジド結合を用いてプラスに帯電させたDNA(グアニジンDNA)、ポリアミン等が好適に挙げられる。負に帯電したイオンポリマーとしては、例えば、マイナスに帯電した天然のヌクレオチド体、ポリヌクレオチド、ポリリン酸等が好適に挙げられる。これらの分子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
ここで、上記「ヌクレオチド体」、「産物」、「抗体」、「蛋白質に対して親和性を有する有機化合物」、「蛋白質に対して親和性を有する生体高分子」等の持つ意味は既に説明した通りである。
【0037】
プローブ分子として、天然のヌクレオチド体や人工のヌクレオチド体を使用することができる。人工のヌクレオチド体には、完全に人工のものも、天然のヌクレオチド体から誘導されるものも含まれる。人工のヌクレオチド体を使用すれば、検出の感度を上げたり、安定性を向上させたりすることができるため有利な場合がある。
【0038】
また、1本鎖ヌクレオチド体でも、互いに相補的な関係にある1本鎖ヌクレオチド体の対である2本鎖ヌクレオチド体でもよい。なお、伸長や収縮のし易さからすると1本鎖ヌクレオチド体が好ましく、基板電極上で横たえたり、立ち上げたりするには2本鎖ヌクレオチド体が好ましい場合が多い。電極毎に異なるヌクレオチド体を使用することもできる。ヌクレオチド体鎖の長さは1残基以上あればよい。すなわち、モノヌクレオチド鎖でもよい。
【0039】
プローブ分子は、また、モノクローナル抗体や蛋白質分解酵素で限定分解して得られる産物を使用することもできる。抗原抗体反応に類する反応によって生じる結合を利用でき、ターゲット分子と特異的に結合するプローブ分子としても機能するので有用である。
【0040】
プローブ分子としては、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメント、もしくはモノクローナル抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片を使用することも好ましい。なお、モノクローナル抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片とは、モノクローナル抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントを細分化した断片やその誘導体を意味する。
【0041】
さらに、プローブ分子として、IgG抗体、IgG抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメント、IgG抗体もしくはIgG抗体Fabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片を使用することがより好ましい。なお、IgG抗体Fabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片とは、IgG抗体Fabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントを細分化した断片やその誘導体を意味する。アプタマーであることも好ましい。一般的に分子量の小さいものの方が検出感度がよいことが、これらが好まれる理由である。
【0042】
基板電極との結合の容易性の観点からは、プローブ分子が、チオール基(−SH)またはジスルフィド結合(−S−S−)を有するポリヌクレオチドであること、チオール基(−SH)またはジスルフィド結合(−S−S−)を有するポリヌクレオチドを含むことが好ましく、末端にチオール基(−SH)またはジスルフィド結合(−S−S−)を有する、DNA、RNA、これらと蛋白質との複合体等が特に好ましい。なお、DNAおよびRNAは、一本鎖であってもよいし、二本鎖であってもよい。
【0043】
プローブ分子の大きさまたは長さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、プローブ分子がポリヌクレオチドである場合、少なくとも6塩基であるのが好ましい。
【0044】
(電極)
基板電極は、プローブ分子と結合することができ、基板電極と対向電極との間に与えられた交流電圧により、基板電極上に結合したプローブ分子に備えられたマーカーから得られる信号が変化し得れば、本明細書に開示された実施形態の趣旨に反しない限りどのようなものでもよく、その形状にも特別な制限はない。この場合の結合には、共有結合、配位結合のような化学的結合の他、生物学的結合、静電気的結合、物理吸着、化学吸着等、本明細書に開示された実施形態の趣旨に反しない限りどのような結合を使用することもできる。外部電場によるプローブ分子の運動の安定性からは、化学結合が好ましく、化学結合の中でも、硫黄原子(S)を含む結合が結合の容易性、制御性等の点で好ましく、具体的には、チオール基(−SH)、ジスルフィド結合(−S−S−)等を用いたSと基板電極との結合が好ましい。
【0045】
例えば、基板表面に電極を設け、その電極表面にプローブ分子と結合し得る構造部分(プローブ分子結合部)を設けることで基板電極とすることができる。基板電極は単層であっても多層であってもよく、層状以外の構造を有していてもよい。
【0046】
この場合の基板の材質については特に制限はなく、例えば、ガラス(たとえば石英ガラス)、セラミックス、プラスチック、金属、シリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、サファイア、等が好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
基板電極の形状、構造、大きさ、表面性状、数等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。形状としては、例えば、平板状、円状、楕円状等が挙げられる。表面性状としては、例えば、光沢面、粗面等が挙げられる。大きさとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
【0048】
基板電極は、その表面に絶縁膜を被覆して基板電極の一部のみが露出するようにして、基板電極の大きさ、形状等を適宜所望の程度に調節してもよい。基板の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、一つであってもよいし、2以上であってもよい。
【0049】
この場合の絶縁膜としては、その材質、形状、構造、厚み、大きさ等については特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができるが、材質としては、例えば、レジスト材料が好適に挙げられる。レジスト材料としては、例えば、g線レジスト、i線レジスト、KrFレジスト、ArFレジスト、F2レジスト、電子線レジスト等が挙げられる。
【0050】
基板電極の材質は導電性を有する限り特に制限はなく、目的に応じて任意に定めることができる。たとえば、金属、合金、導電性樹脂、炭素化合物、等が挙げられる。金属としては、例えば、金、白金、銀、銅、亜鉛、等が挙げられる。合金としては、例えば、前記金属として例示したものの2種以上の合金等が挙げられる。導電性樹脂としては、例えば、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリp−フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、等が挙げられる。炭素化合物としては、例えば、導電性カーボン、導電性ダイヤモンド、等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。Auに代表される貴金属は化学的に安定であり、好ましく使用できる。生体高分子をプローブ分子として使用する場合に、基板電極への固定が容易に行えるからである。基板上には複数個の基板電極を設けてもよい。
【0051】
特にプローブ分子結合部を設けなくてもプローブ分子と結合し得る場合は、表面にプローブ分子結合部を設ける必要はない。プローブ分子がヌクレオチド体よりなり、そのチオール基を介して、Au層と直接結合できる場合を例示すると、ポリッシュしたAu電極と室温で24時間反応させて、図2に示すように、サファイア基板4上に設けたAu電極(基板電極2)に、マーカー3と天然の1本鎖オリゴヌクレオチド構造を持つ感応部5とターゲット分子結合部6とを持つプローブ分子1(マーカー3と感応部5とターゲット分子結合部6とから構成される部分)とターゲット分子7とが結合した状態を挙げることができる。感応部5は伸縮する機能を有する部分を意味し、ターゲット分子結合部6は、この場合の評価対象であるターゲット分子と結合する部分を意味する。ターゲット分子結合部6がターゲット分子と特異的に結合する機能を有していれば、プローブ分子がターゲット分子7と特異的に結合することになる。1本鎖オリゴヌクレオチド構造の下部にあるSは、プローブ分子がチオール基を介して、Au電極2と直接結合していることを表している。なお、チオール基と結合する電極表面としてAu以外の公知の金属を使用することもできる。図2では、オリゴヌクレオチド鎖の末端にモノクローナルな免疫グロブリンIgGのFabフラグメントを、ターゲット分子)対して特異的に結合する性質を有するターゲット分子結合部6として固定してある。
【0052】
図2の左側はプローブ分子が伸長した状態、右側はプローブ分子が縮まった状態を表す。縮まった状態のプローブ分子は、Au電極2と対向電極8との間に外部電場印加装置9により所定の電位差を印加することにより、伸長した状態とすることができる。
【0053】
このとき、光照射装置10から光11を照射すると蛍光12が得られる。図2では、プローブ分子と結合したターゲット分子を評価対象としている。プローブ分子そのもの(すなわち、ターゲット分子と結合する前のプローブ分子そのもの)を対象とする場合には、プローブ分子にターゲット分子を結合させずに蛍光の発光/消光を評価する。
【0054】
図2において、チオール基とマーカーとは予め1本鎖オリゴヌクレオチドに導入しておいた。チオール基とマーカーとは、1本鎖の末端に導入することが望ましく、チオール基を5’末端に導入した場合はマーカーを3’末端に導入することが好ましく、またこの反対でもよい。この例では、オリゴヌクレオチド鎖は、直径1mmの円形状のAu電極上に固定した。
【0055】
基板電極の一部としてプローブ分子結合部を設ける場合、その材料としては、プローブ分子と結合できる限り、どのようなものでもよく、例えば、プローブ分子と化学結合または分子間力により結合できる分子を挙げることができる。プローブ分子結合部がプローブ分子と結合した後のプローブ分子結合部とプローブ分子とよりなる部分をプローブ分子と考えることもできる。プローブ分子結合部が伸縮し得るものであれば、プローブ分子結合部と結合する前のプローブ分子が伸縮機能を有しなくてもよい。
【0056】
なお、一般的に基板電極とプローブ分子との結合は定量的であることが理想的であるが、結合によっては、かなり大きな解離速度定数を有するものもあり得る。この解離速度定数があまり大きいと、たとえは緩衝液での洗浄の際に、結合が徐々に減少することになる。この意味で、一般的に、基板電極とプローブ分子との結合における解離速度定数が10-5以下であることが好ましい。
【0057】
このような基板電極を媒体である水溶液に浸漬し、水溶液中に配した対向電極との間に交流電場を印加すると、プローブ分子が伸縮することができるようになる。
【0058】
基板電極を基板上に設ける場合、基板電極と基板との密着性を向上させる目的で、これらの間に密着層を設けてもよい。密着層の材質、形状、構造、厚み、大きさ等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、材質としては、例えば、クロム、チタン等が挙げられ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
【0059】
対向電極は、基板電極と対向して配置され、これらに電位を直接印加するための電極である。対向電極の形状や材料については特に制限はなく、公知の形状と公知の材料とから適宜選択することができる。たとえば、白金ワイヤ、白金板,白金コイル、金ワイヤ等を上げることができる。対向電極の数についても制限はなく複数個あってもよい。
【0060】
ターゲット分子評価装置には、二電極法に代えて、参照電極を使用する三電極法を採用してもよい。参照電極は、基板電極と対向電極との間の電位を調整するための電極である。参照電極の形状や材料については特に制限はなく、公知の形状と公知の材料とから適宜選択することができる。たとえば、銀−塩化銀(Ag/AgCl)、水銀−塩化水銀(Hg/Hg2Cl2:飽和カロメル電極)等を上げることができる。参照電極の数についても制限はなく複数個あってもよい。
【0061】
(電圧印加手段、信号検出手段)
電圧印加手段や、信号検出手段には特に制限はなく、公知の手段から適宜選択すれば十分である。
【0062】
電圧印加手段で与えられる交流電圧は、段階的または連続的な変更を含むものでることが好ましい。その波形には特に制限はないが、通常サイン波または矩形波が採用される。電圧値についてはプローブ分子と基板との結合を切断しないように調整された電位幅を使用することが好ましく、Sと基板電極との結合の場合には絶対値を0.5 V以下にすることが好ましい。ここで、「交流電圧」には直流成分が含まれていてもよい。したがって平均値が0Vである場合も、正の値である場合も、負の値である場合もあり得る。交流電圧の周波数についても特に制限はないが、電場のもととなる電気二重層の形成が可能な周波数帯(1 MHz以下)が望ましい。
【0063】
検出される信号が蛍光の場合には、蛍光を発光/消光させるための光照射手段が補助的手段として必要である。このような光照射手段としては蛍光マーカーに対応した可視光や紫外線が使用される。
【0064】
検出される信号が酸化還元電流の場合には酸化還元マーカーの酸化還元電位をはさんで交流電圧を印加し、酸化還元電流を観察することが望ましい。
【0065】
(マーカー)
プローブ分子中におけるマーカーの数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくとも一つであり、2以上であってもよい。プローブ分子中におけるマーカーの位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、プローブ分子が線状である場合にはその末端等が挙げられ、プローブ分子がポリヌクレオチドである場合またはポリヌクレオチドを含む場合には、3’末端であってもよいし、5’末端であってもよい。
【0066】
マーカーは、場合によってはターゲット分子の一部として共有結合により付加されていてもよいが、ターゲット分子と結合する前のプローブ分子の一部として共有結合により付加されていてもよく、あるいは、隣接する相補的結合の間に挿入(インタカレーション)されている例のようにヌクレオチド体等の中に含有されていてもよく、あるいはヌクレオチド体等の一部に置換により組み込まれていてもよい。マーカーは、ターゲット分子の先端の近傍に存在するようにされるのが好ましい。
【0067】
マーカーは、基板電極と対向電極との間に交流電圧が与えられた場合に信号を発し得るものであり、本明細書に開示された実施形態の趣旨に反しないものであればどのようなものでもよい。この場合の信号には、任意の物理的信号、化学的信号または生物学的信号を含めることができるが、その中でも、電磁波および酸化還元電流が好ましく、電磁波とりわけ光の作用で励起されて生じる蛍光マーカーが好ましい。
【0068】
蛍光マーカーとしては、例えば、蛍光色素、金属、半導体ナノスフィアー、等が好適に挙げられる。
【0069】
蛍光色素は、基板電極が金属である場合には、その金属と相互作用している間(例えば、金属の近傍に位置している間)は、吸収可能な波長の光が照射されても発光せず、金属と相互作用しなくなった時(例えば、金属とは離接している時)には、吸収可能な波長の光が照射されるとその光エネルギーにより発光可能であり、発光/消光部として特に好適に使用可能である。蛍光色素としては、特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができるが、例えば、図6で表される化合物等が好適に挙げられる。
【0070】
このようなマーカーとして好適に使用できるものの例を挙げると、インドカルボシアニン3(商標Cy3)などがある。
【0071】
マーカーが酸化還元マーカーである場合は、上記信号が酸化還元電流である。このような酸化還元マーカーは、メチレンブルー(C16H18ClN3S:図7参照)、フェロセン(C10H10Fe:図8参照)。
【0072】
(交流電圧の周波数の変更)
図3のターゲット分子評価装置を用いて、得られる蛍光信号の挙動を観察した。図3は、基板4上の基板電極にマーカーの付いたプローブ分子1が結合しており、光照射手段10によって励起された蛍光が蛍光検出手段13によって検出される様子を示している。
【0073】
このような状態で印加する電圧の周波数を変更し、蛍光からの信号の周波数特性を記録したものを図10に示す。図10は、ssDNA(シングルストランドのDNA)について、サイン波の交流電圧を印加し、その周波数を変更したときの蛍光信号の振幅強度の変化を示すグラフである。この場合、駆動周波数を上げることにより、ssDNAは高速に操作される。さらに周波数を上げるとssDNAは駆動周波数に追随できなくなり、振幅強度が減少し、やがてほぼ零(バックグラウンドレベル)になる。このssDNAの周波数特性は、分子に固有の特性であるため、この分子特性を変えるような分子間相互作用、例えば、相補鎖DNAとのハイブリダイゼーションや他の分子との結合などが発生した場合、周波数特性の変化として、検出することが可能であり、生体分子評価に用いられことをすでに示した。(特許文献1,2,3、非特許文献3)
図12は、特定のターゲットと結合するプローブ分子を先端に付着させたdsDNA(ダブルストランドのDNA)と、そのプローブ分子にターゲットが結合した状態について、サイン波の交流電圧を印加し、その周波数を変更したときの蛍光信号の振幅強度の変化を示すグラフである。ターゲットの結合前後の信号を信号が半分になる点(カットオフ周波数)で比較すると、ターゲットの結合により、カットオフ周波数のシフトが観察される。
【0074】
また、図4は、ssDNA(シングルストランドのDNA)とdsDNA(ダブルストランドのDNA)とについて、サイン波の交流電圧を印加し、その周波数を変更したときの蛍光強度の平均値の様子を示すグラフである。この場合にはssDNAがプローブ分子に該当し、dsDNAにおける相補DNAがターゲット分子に該当する。なお、ここで蛍光強度は、交流電圧の印加により発光/消光する蛍光強度を平均した値である。
【0075】
図4より、ssDNAの場合は検討範囲内では蛍光強度がわずかに減少するのに対し、dsDNAではある値を超えると蛍光強度が急激に増大することが判明した。これは、ssDNAが立ち上がりの時間に比べ、立ち下りの時間が短いのに対して、dsDNAは反対に、立ち上がりの時間が立ち下りの時間より短い。従って、周波数を上げるに従って、ssDNAは立ち下りが優位になり、平均の蛍光強度が減少する。反対に、dsDNAは立ち上がりが優位になり、平均の蛍光強度は増加する。(非特許文献5参照)
この結果より、与える電圧の周波数を変更することにより、得られる信号の挙動が、プローブ分子やターゲット分子の種類に応じて種々変化し得ると考えることができる。このような特性を纏めて周波数特性と呼ぶことができる。
【0076】
したがって、この周波数特性を利用すれば、別途各種のデータを集積しておけば、得られる信号の観察により、ターゲット分子の評価が可能になると考えられる。この評価の種類には、分子量の相違、形状の相違(たとえばバルキーな分子とそうでない分子との相違や、線状分子と枝分かれ分子との相違)、フレキシビリティの相違(dsDNAでのニックやスニップスの存在)、電荷の相違を含めることができる。また、単位面積あたりに付着したプローブ分子やターゲット分子の量に応じて、周波数の変更に対する信号の挙動の変化が異なることが考えられるので、単位面積あたりに付着したプローブ分子やターゲット分子の量の定量、すなわち、プローブ分子やターゲット分子の濃度の定量も可能になるものと考えられる。
【0077】
さらに、分子のサイズ、プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度、結合速度定数、解離速度、解離速度定数等の物性値の決定を行うこともできる。なお、この場合の分子のサイズは、分子の立体的形状や、電荷等に影響されるものと考えられるので、たとえばストークス半径に代表されるような実効サイズであると考えられる。検討の結果、実効サイズとしてはストークス半径が好ましいことが判明した。
【0078】
このような実効サイズ(たとえばストークス半径)については、上記のマーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法において、基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、交流電圧の周波数を変更した際に基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられたマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値を用いて決定することができる。
【0079】
信号、あるいは、信号の平均値を用いて実効サイズを決定する方法はどのようなものでもよい。具体的には、実効サイズが既知の1以上のターゲット分子を用い、これらをマーカーを備えたプローブ分子に結合させ、あるいは結合させずに、交流電圧の周波数を変更した際にマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値を求め、これらのデータを下に、ある周波数における、信号の変化と実効サイズの関係を求めておけば、未知のターゲット分子Xを用いた場合に、マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子Xについてマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値と、ターゲット分子と結合していないマーカーを備えたプローブ分子についてそのマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値とを比較し、あるいは、マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子Xについてマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値と、マーカーを備えたプローブ分子に結合した既知の他の種類のターゲット分子についてマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値とを比較することにより、実効サイズを決定することができる。
【0080】
この場合、一般論で考えれば、精度よく実効サイズを求めたい場合には、マーカーとプローブ分子とは同一のものを使用した方が好ましいであろう。また、ターゲット分子Xの形状は既知のターゲット分子の形状に類似したものが好ましいであろう。しかしながら、後述する実施例に示すように、相異なるプローブ分子や相異なる形状のターゲット分子を使用した場合にも良好な線形の関係が得られているところから見て、その影響は小さいと考えられる。また、マーカーやプローブ分子の種類については、その相違による補正手段が考えられれば、その影響を小さくすることが可能である。マーカーの場合には、種類を変えることにより発光する蛍光の強度が変化するので影響が大きい場合もあるが、プローブ分子の種類については、そのような影響は少なく、種類を変えることの自由度は大きいと考えられる。
【0081】
より具体的な実効サイズの決定方法については実施例で詳述する。
【0082】
プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度、結合速度定数、解離速度、解離速度定数の決定についても、上記のマーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法において、基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、交流電圧の周波数を変更した際に基板電極上に結合したプローブ分子に備えられたマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値を用いて決定することができる。
【0083】
具体的には、マーカーを備えたプローブ分子に、ターゲット分子を連続的に供給して、ターゲット分子をプローブ分子に結合させ、その際マーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値の経時的変化を観察することにより、プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度や結合速度定数を求めることができる。また、マーカーを備えたプローブ分子にターゲット分子を結合させた状態に対し、溶媒等の適切な媒体を連続的に供給して、ターゲット分子をプローブ分子から脱離させ、その際マーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値の経時的変化を観察することにより、プローブ分子とターゲット分子との間の脱離速度や脱離速度定数を求めることができる。なお、上記において「連続的に供給」は、マーカーから得られる信号を測定する際には中断しておいても差し支えない場合が多い。本明細書に記載した実施形態においては、このような中断のある場合も「連続的に供給」の範疇に含められる。
【0084】
これらの物性の決定における周波数の変更の仕方には特に制限はなく、適宜選択して、マーカーの有用な信号挙動が観察されるかどうかを調べればよい。図4のdsDNAの場合のように大きな変化が予測される場合には、異なる周波数への一回の段階的な変更で十分であるときもあり得る。多段階の変更により、どの周波数でどのような信号変化が観察されるかを調べることも有用である。更に、周波数の変更を連続的に行えば、より詳細な信号の変化が得られる。
【実施例】
【0085】
次に実施例および比較例を詳述する。
【0086】
[実施例1](周波数特性を用いたターゲット分子のサイズの違いの検出)
図3に、本明細書に開示された実施形態に必要な装置構成図を示す。図3は、基板4上の金電極(基板電極、図示せず)に、蛍光色素(蛍光ラベル、すなわちマーカー)3を分子中に有するプローブ分子1を固定(結合)させ、このプローブ分子に光ファイバー(入射光ファイバー)10を用いて、蛍光色素が励起され、発光/消光を生じ得る波長の光を照射すると共に、蛍光色素からの発光/消光を検知する光ファイバー(受光ファイバー)13を備えた状態の装置の一例を説明するための概略説明図である。
【0087】
金電極には溶液電位に対して高周波駆動可能なAC電源とオフセット電位印加用のDC電源が接続されていた。
【0088】
ここでは、サイズ(実効値)の異なった分子をターゲットとして、その違いを評価する方法の実施例を示す。
【0089】
図11の左側には分子を種類と分子量が示されており、右側には、ターゲット分子のサイズ(実効値)としてDLS法で得たHydrodynamic diameter(溶液中の付着イオンを含んだ実効直径)が示されている。Hydrodynamic diameterの加重平均がストークス半径の2倍である。
【0090】
プローブ分子として、一端にチオール基(−SH)を有し、他端に上記蛍光色素としての蛍光シアニン色素(Cy3)を有する1本鎖のDNA(72塩基プローブDNA:ss−72mer−probe−DNA)を用い、非特許文献4に記載された方法によって、上記DNAを自己組織化により、金電極(0.5 mmφ)上に硫黄原子を介して固定(結合)し、金電極上に上記DNAによる分子膜を形成した。さらに、ターゲット分子と特異的に結合するプローブ分子を一端に有する相補鎖DNAと基板に固定された上記DNAをハイブリダイズさせ、2本鎖DNAを形成した。ハイブリダイゼーションの条件は、相補鎖DNAを1μM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、相補鎖DNAを含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、基板上に蛍光色素とプローブ分子を有する2本鎖DNAを形成した。異なった分子量のターゲットとして、アンチジゴキシゲニンFabフラグメント(AD−Fab)、アンチビオチンF(ab’)2フラグメント(AB−F(ab’)2)、アンチジゴキシゲニンIgG(AD−IgG)、アンチビオチンIgG(AB−IgG)(図14右参照)を用い、AD−Fab、AD−IgGのプローブ分子として、ジゴキシゲニン、AB−F(ab’)2とAB−IgGのプローブ分子としてビオチンを用いている。
【0091】
ここで、DNAを固定した金電極と対向電極である白金電極との間に交流電場(サイン波)、E=−0.15±0.25 Vrms)を印加しながら、蛍光ラベルからの信号を観察した。交流電場の周波数を変化させ、10Hzの低周波から150kHzの高周波まで交流電場で駆動したときの蛍光ラベルの信号の振幅強度(各周波数で信号の最大値から最小値を引いた値の規格値)を記録した。測定には緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)を使用した。一例としてジゴキシゲニンプローブ分子の結果を、図12の結合前としてプロットした。
【0092】
次に、基板に固定された上記2本鎖DNAのプローブ分子にターゲット分子(AD−IgG)を結合させた。結合の条件は、ターゲット分子を50 nM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、ターゲット分子を含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、この後、上記測定法と同様に交流電場の周波数を変化させて、蛍光ラベル(蛍光色素)からの信号の振幅強度を記録した。結果は図12の結合後としてプロットした。
【0093】
図12より明らかなように、ターゲット結合前と結合後は高周波側で全く異なった振る舞いをしており、カットオフ周波数に違いがあることがわかる。図13には、異なった分子量のターゲット分子を用いて、上記実験を行い、カットオフ周波数のシフト量とターゲット分子の分子量との関係をプロットしたものである。図13より明らかなように、分子の実効サイズの違いにより変化量に差があることが分かる。
【0094】
従って、蛍光ラベルからの信号の駆動周波数特性を観察することにより、対象溶液中のターゲット分子の分子サイズの違いを検出することが可能となる。この場合、ターゲット分子をラベリングする必要はない。
【0095】
[実施例2](信号の平均値を用いた2本鎖DNAの検出)
次に、蛍光信号の周波数特性の平均値を用いて、相補鎖DNAを検出する実施例を示す。
【0096】
本実施例においても、実施例1と同様図3の装置構成図を用いた。
【0097】
プローブ分子として、一端にチオール基(−SH)を有し、他端に上記蛍光色素としての蛍光シアニン色素(Cy3)を有する1本鎖のDNA(48塩基プローブDNA:ss−48mer−probe−DNA)を用い、非特許文献4に記載された方法によって、上記DNAを自己組織化により、金電極(0.5mmφ)上に硫黄原子を介して固定(結合)し、金電極上に上記DNAによる分子膜を形成した。
【0098】
ここで、DNAを固定した金電極と対向電極である白金電極との間に交流電場(サイン波)、E=−0.15±0.25 Vrms)を印加しながら、蛍光ラベルからの信号を観察した。交流電場の周波数を変化させ、100Hzの低周波から150kHzの高周波まで交流電場で駆動したときの蛍光ラベルの信号の平均値(実際には駆動周波数よりも十分に低い周波数1Hzの信号)を記録した。測定には緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)を使用した。結果を図4のssDNAとしてプロットした。
【0099】
次に、基板に固定された上記DNAをノンラベルの相補鎖DNAと特異的にハイブリダイズさせ、2本鎖DNAを形成した。ハイブリダイゼーションの条件は、相補鎖DNAを1μM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、相補鎖DNAを含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、この後、上記測定法と同様に交流電場の周波数を変化させて、蛍光ラベル(蛍光色素)からの信号を記録した。結果は図4のdsDNAとしてプロットした。図4より明らかなように、ssDNAとdsDNAは高周波側で全く異なった振る舞いをしていることが理解される。
【0100】
このとき、相補鎖DNAが評価したいターゲット分子であった場合には、蛍光ラベルからの信号の駆動周波数特性を観察することにより、対象溶液中のターゲット分子の有無の検出が可能となる。この場合、ターゲット分子をラベリングする必要は無い。
【0101】
蛍光ラベルからの信号は、ssDNAやdsDNAの分子の運動特性を反映した独特のものであるため、対象ターゲットを評価する上で、他のコンタミ物質の共存による影響や非特異吸着したターゲットの誤評価等を回避できることによる、高選択性や低ノイズと言った利点がある。
【0102】
本実施例では、蛍光ラベルからの信号の平均値として1Hzの信号を記録しているが、駆動周波数に比べて十分低い周波数であればどの周波数を用いてもよく、連続(DC)で記録してもよい。また、DNAの駆動周波数特性を100Hzから150kHzまで詳細に測定しているが、図4から明らかなように有意差のある任意の2点以上の周波数を観察することによってもターゲット分子の評価が可能である。また、あらかじめターゲット分子の結合前後のシグナルの変化が予想できる場合、または、予備実験により変化が既知の場合は、結合前後のシグナルを評価する必要はなく、ターゲット分子の結合に相当する実験後のみのシグナルを評価し、ターゲット分子の有無を評価することができる。
【0103】
更に、本実施例ではプローブ分子をssDNA、ターゲット分子をその相補鎖DNAとしているが、プローブ分子とプローブ分子−ターゲット分子結合体の駆動周波数特性に違いがあるものであれば、どのようなものでも対象となることは言うまでもない。
【0104】
[実施例3](信号の平均値を用いたターゲット分子有無の検出)
図2に必要な装置構成図を示す。図2は、基板4上の金電極2に、蛍光色素(蛍光ラベル、すなわちマーカー)3とターゲット分子7と特異的に結合するターゲット分子結合部6を分子中に有するプローブ分子1を固定(結合)させ、このプローブ分子に光ファイバー(入射光ファイバー)10を用いて、蛍光色素が励起され、発光/消光を生じ得る波長の光を照射すると共に、蛍光色素からの発光/消光を検知する光ファイバー(受光ファイバー、図示せず)を備えた状態の装置の一例を説明するための概略説明図である。
【0105】
金電極には溶液電位に対して高周波駆動可能なAC電源とオフセット電位印加用のDC電源が接続されていた。
【0106】
プローブ分子として、一端にチオール基(−SH)を有し、他端に上記蛍光色素としての蛍光シアニン色素(Cy3)を有する1本鎖のDNA(48塩基プローブDNA:ss−48mer−probe−DNA)を用い、非特許文献4に記載された方法によって、上記DNAを自己組織化により、金電極(0.5mmφ)上に硫黄原子を介して固定(結合)し、金電極上に上記DNAによる分子膜を形成した。さらに、ターゲット分子(アンチジゴキシゲニン)と特異的に結合するプローブ分子(ジゴキシゲニン:図9参照)を一端に有する相補鎖DNAと基板に固定された上記DNAをハイブリダイズさせ、2本鎖DNAを形成した。ハイブリダイゼーションの条件は、相補鎖DNAを1μM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、相補鎖DNAを含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、基板上に蛍光色素とプローブ分子を有する2本鎖DNAを形成した。
【0107】
ここで、DNAを固定した金電極と対向電極である白金電極との間に交流電場(サイン波)、E=−0.15±0.25 Vrms)を印加しながら、蛍光ラベルからの信号を観察した。交流電場の周波数を変化させ、100Hzの低周波から150kHzの高周波まで交流電場で駆動したときの蛍光ラベルの信号の平均値(実際には駆動周波数よりも十分に低い周波数1Hzの信号)を記録した。測定には緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)を使用した。結果を図5のAntiDig結合前としてプロットした。
【0108】
次に、基板に固定された上記2本鎖DNAのプローブ分子とターゲット分子を結合させた。結合の条件は、ターゲット分子を50 nM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、ターゲット分子を含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、この後、上記測定法と同様に交流電場の周波数を変化させて、蛍光ラベル(蛍光色素)からの信号を記録した。結果は図5のAntiDig結合後としてプロットした。図5より明らかなように、ターゲット結合前と結合後は高周波側で全く異なった振る舞いをしていることが理解される。
【0109】
このとき、蛍光ラベルからの信号の駆動周波数特性を観察することにより、対象溶液中のターゲット分子の有無の検出が可能となる。この場合、ターゲット分子をラベリングする必要は無い。
【0110】
蛍光ラベルからの信号は、ターゲット結合前後の分子の運動特性を反映した独特のものであるため、対象ターゲットを評価する上で、他のコンタミ物質の共存による影響や非特異吸着したターゲットの誤評価等を回避できることによる、高選択性や低ノイズと言った利点がある。
【0111】
本実施例では、蛍光ラベルからの信号の平均値として1Hzの信号を記録しているが、駆動周波数に比べて十分低い周波数であればどの周波数を用いてもよく、連続(DC)で記録してもよい。また、DNAの駆動周波数特性を100Hzから150kHzまで詳細に測定しているが、図5から明らかなように有意差のある任意の2点以上の周波数を観察することによってもターゲット分子の評価が可能である。また、あらかじめターゲット分子の結合前後のシグナルの変化が予想できる場合、または、予備実験により変化が既知の場合は、結合前後のシグナルを評価する必要はなく、ターゲット分子の結合に相当する実験後のみのシグナルを評価し、ターゲット分子の有無を評価することができる。
【0112】
更に、本実施例ではプローブ分子をジゴキシゲニン付きDNA、ターゲット分子をアンチジゴキシゲニンとしているが、プローブ分子とプローブ分子−ターゲット分子結合体の駆動周波数特性に違いがあるものであれば、どのようなものでも対象となることは言うまでもない。
【0113】
[実施例4](信号の平均値を用いたターゲット分子のサイズの違いの検出)
次に、サイズ(実効値)の異なった分子をターゲットとして、その違いを蛍光信号の平均値を用いて評価する方法の実施例を示す。図11の左側には分子を種類と分子量が示されており、右側には、ターゲット分子のサイズ(実効値)としてDLS法で得たHydrodynamic diameter(溶液中の付着イオンを含んだ実効直径)が示されている。Hydrodynamic diameterの加重平均がストークス半径の2倍である。
【0114】
本実施例においても、実施例3と同様図2の装置構成図を用いた。特に記載しない限り、その使用条件も実施例3と同様である。
【0115】
プローブ分子として、一端にチオール基(−SH)を有し、他端に上記蛍光色素としての蛍光シアニン色素(Cy3)を有する1本鎖のDNA(72塩基プローブDNA:ss−72mer−probe−DNA)を用い、非特許文献4に記載された方法によって、上記DNAを自己組織化により、金電極(2 mmφ)上に硫黄原子を介して固定(結合)し、金電極上に上記DNAによる分子膜を形成した。さらに、ターゲット分子と特異的に結合するプローブ分子を一端に有する相補鎖DNAと基板に固定された上記DNAをハイブリダイズさせ、2本鎖DNAを形成した。ハイブリダイゼーションの条件は、相補鎖DNAを1μM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、相補鎖DNAを含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、基板上に蛍光色素とプローブ分子を有する2本鎖DNAを形成した。異なった分子量のターゲットとして、アンチジゴキシゲニンFabフラグメント(AD−Fab)、アンチビオチンF(ab’)2フラグメント(AB−F(ab’)2)、アンチビオチンIgG(AB−IgG)(図14右参照)を用い、AD−Fabのプローブ分子として、ジゴキシゲニン、AB−F(ab’)2とAB−IgGのプローブ分子としてビオチンを用いている。
【0116】
ここで、DNAを固定した金電極と対向電極である白金電極との間に交流電場(サイン波)、E=−0.15±0.25 Vrms)を印加しながら、蛍光ラベルからの信号を観察した。交流電場の周波数を変化させ、100Hzの低周波から150kHzの高周波まで交流電場で駆動したときの蛍光ラベルの信号の平均値(実際には駆動周波数よりも十分に低い周波数1Hzの信号)を記録した。測定には緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)を使用した。結果を図14のターゲット分子結合前(DNA−tag)としてプロットした。なお、これらのターゲット分子の形状を図14の右側に模式的に示した。
【0117】
次に、基板に固定された上記2本鎖DNAのプローブ分子とターゲット分子を結合させた。結合の条件は、ターゲット分子を50 nM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、ターゲット分子を含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、この後、上記測定法と同様に交流電場の周波数を変化させて、蛍光ラベル(蛍光色素)からの信号(平均値)を記録した。結果は図14のターゲット結合後(DNA−D&AD−Fab,DNA−B&AB−F(ab’)2、DNA−B&AB−IgG)としてプロットした。なお、DNA−Dは、プローブ分子がジゴキシゲニン(D)であるDNA−tagを、DNA−Bは、プローブ分子がアンチビオチン(B)であるDNA−tagを意味する。
【0118】
図14より明らかなように、ターゲット結合前と結合後は高周波側で全く異なった振る舞いをしており、さらに分子の実効サイズの違いにより変化量に差があることが分かる。
【0119】
従って、蛍光ラベルからの信号の駆動周波数特性を観察することにより、対象溶液中のターゲット分子の分子サイズの違いを検出することが可能となる。この場合、ターゲット分子をラベリングする必要は無い。
【0120】
具体例として、図14の低周波(800Hz)における蛍光ラベルからの信号(平均値)LF−Favgと高周波(100kHz)における蛍光ラベルからの信号(平均値)HF−Favgの比(HF−Favg/LF−Favg)と分子量との関係を図15に示す。比較のため、実施例1で示した、周波数特性の振幅強度のカットオフ周波数のシフト量もあわせて示す。この図から、プローブ分子が異なるにも拘わらず、また、ターゲット分子の種類や形状が大幅に異なるにも拘わらず、信号の変化量と分子量の関係を一義的に与えることが示された。
【0121】
従って、たとえば、同一のマーカーと同一のプローブ分子とについて、本実施例のターゲット分子とは異なるターゲット分子(ターゲット分子X)を使用して、同様の蛍光ラベルからの信号(平均値)を得た場合に、図15の関係を使用して、ターゲット分子Xの分子量を決定することができる。
【0122】
蛍光ラベルからの信号は、ターゲット結合前後の分子の運動特性を反映した独特のものであるため、対象ターゲットを評価する上で、他のコンタミ物質の共存による影響や非特異吸着したターゲットの誤評価等を回避できることによる、高選択性や低ノイズと言った利点がある。
【0123】
本実施例では、蛍光ラベルからの信号の平均値として1Hzの信号を記録しているが、駆動周波数に比べて十分低い周波数であればどの周波数を用いてもよい。また、DNAの駆動周波数特性を100Hzから150kHzまで詳細に測定しているが、図14から明らかなように有意差のある任意の2点以上の周波数を観察することによってもターゲット分子の評価が可能である。また、あらかじめターゲット分子の結合前後のシグナルの変化が予想できる場合、または、予備実験により変化が既知の場合は、結合前後のシグナルを評価する必要はなく、ターゲット分子の結合に相当する実験後のみのシグナルを評価し、ターゲット分子の分子量(実効サイズ)を評価することができる。
【0124】
更に、本実施例ではプローブ分子をジゴキシゲニンやビオチン、ターゲット分子をアンチジゴキシゲニンFabフラグメント、アンチビオチンF(ab’)2フラグメントやアンチビオチンとしているが、プローブ分子とプローブ分子−ターゲット分子結合体の駆動周波数特性に違いがあるものであれば、どのようなものでも対象となることは言うまでもない。
【0125】
[実施例5](信号の平均値を用いたターゲット分子の経時変化の検出)
本実施例においても、実施例4と同様図2の装置構成図を用いた。特に記載しない限り、その使用条件も実施例4と同様である。
【0126】
プローブ分子として、一端にチオール基(−SH)を有し、他端に上記蛍光色素としての蛍光シアニン色素(Cy3)を有する1本鎖のDNA(72塩基プローブDNA:ss−72mer−probe−DNA)を用い、非特許文献4に記載された方法によって、上記DNAを自己組織化により、金電極(0.5mmφ)上に硫黄原子を介して固定(結合)し、金電極上に上記DNAによる分子膜を形成した。さらに、ターゲット分子と特異的に結合するプローブ分子を一端に有する相補鎖DNAと基板に固定された上記DNAをハイブリダイズさせ、2本鎖DNAを形成した。ハイブリダイゼーションの条件は、相補鎖DNAを1μM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、相補鎖DNAを含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、基板上に蛍光色素とプローブ分子を有する2本鎖DNAを形成した。ターゲット分子として、アンチビオチンIgG(AB−IgG)を使用し、AB−IgGのプローブ分子としてビオチンを用いている。
【0127】
ここで、DNAを固定した金電極と対向電極である白金電極との間に交流電場(サイン波)、E=−0.15±0.25 Vrms)を印加しながら、蛍光ラベルからの信号を観察した。交流電場の周波数を変化させ、100Hzの低周波から150kHzの高周波まで交流電場で駆動したときの蛍光ラベルの信号の平均値(実際には駆動周波数よりも十分に低い周波数1Hzの信号)を記録した。測定には緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)を使用した。結果を図16のターゲット結合前(AB−IgGとの結合前)としてプロットした。
【0128】
次に、基板に固定された上記2本鎖DNAのプローブ分子とターゲット分子を結合させた。結合の条件は、ターゲット分子を50 nM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持した。
【0129】
この後、ターゲット分子を含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて所定時間(ここでは20分)連続的に洗浄し、この後、上記測定法と同様に交流電場の周波数を変化させて、蛍光ラベル(蛍光色素)からの信号を記録した。結果を図16のターゲット結合後(結合後の1回目の掃引)としてプロットした。図16より明らかなように、ターゲット結合前後の変化が高周波側で観察できる。
【0130】
さらに、同様の条件で所定時間(20分)連続的に洗浄した後、再度、同様の測定を行い、合計8回の測定を行った。結果をそれぞれ、図16に結合後の2回目の掃引〜結合後の8回目の掃引としてプロットした。
【0131】
図16より明らかなように、ビオチンとアンチビオチンIgGの結合が時間の経過とともに解け、信号がアンチビオチンIgG結合前のものに近づいて行くのが観察できる。図17は、図16の高周波側50kHzのデータを時間経過でプロットしたものである。この図より、ビオチンとアンチビオチンIgGの解離速度を求めることができる。ビオチンとアンチビオチンIgGの解離速度定数は0.0223 min−1であった。
【0132】
なお、上記は、マーカーを備えたプローブ分子にターゲット分子を結合させた状態に対し、溶媒等の適切な媒体を連続的に供給して、ターゲット分子をプローブ分子から脱離させ、その際マーカーから得られる信号の平均値の経時的変化を観察することにより、プローブ分子とターゲット分子との間の脱離速度や脱離速度定数を求めるものであるが、マーカーを備えたプローブ分子に、ターゲット分子を連続的に供給して、ターゲット分子をプローブ分子に結合させ、その際マーカーから得られる信号の平均値の経時的変化を観察することにより、プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度や結合速度定数を求めることもできる。
【0133】
蛍光ラベルからの信号は、ターゲット結合前後の分子の運動特性を反映した独特のものであるため、対象ターゲットを評価する上で、他のコンタミ物質の共存による影響や非特異吸着したターゲットの誤評価等を回避できることによる、高選択性や低ノイズと言った利点がある。
【0134】
本実施例では、蛍光ラベルからの信号の平均値として1Hzの信号を記録しているが、駆動周波数に比べて十分低い周波数であればどの周波数を用いてもよい。また、DNAの駆動周波数特性を100Hzから150kHzまで詳細に測定しているが、図16から明らかなように有意差のある任意の2点以上の周波数を観察することによってもターゲット分子の評価が可能である。
【0135】
更に、本実施例ではプローブ分子をビオチン、ターゲット分子をアンチビオチンとしているが、プローブ分子とプローブ分子−ターゲット分子結合体の駆動周波数特性に違いがあるものであれば、どのようなものでも対象となることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1−A】プローブ分子の挙動を示す模式図である。
【図1−B】プローブ分子の挙動を示す模式図である。
【図1−C】プローブ分子の挙動を示す模式図である。
【図2】プローブ分子の各部位の挙動を示す模式図である。実施例3で使用したターゲット分子評価装置の模式図でもある。
【図3】実施例1で使用したターゲット分子評価装置の模式図である。
【図4】交流電圧の周波数を変更した場合におけるマーカーの信号の平均値の挙動を示すグラフである。
【図5】実施例3における、交流電圧の周波数を変更した場合のマーカーの信号の平均値の挙動を示すグラフである。
【図6】蛍光色素の一例としてCy3の構造図。
【図7】酸化還元マーカーの一例としてメチレンブルーの構造図。
【図8】酸化還元マーカーの一例としてフェロセンの構造図。
【図9】実施例3に記載のジゴキシゲニンの構造図。
【図10】蛍光ラベルからの信号の振幅強度の周波数特性。
【図11】実施例1,4で用いた分子量の異なるターゲット分子とその実効サイズ(溶液中の直径)を表している。
【図12】実施例1における、交流電圧の周波数を変更した場合のマーカーの信号の振幅強度の挙動を示すグラフである。
【図13】図12から得られる蛍光ラベルからの信号(振幅強度)のカットオフ周波数のシフト量と分子量との関係を示すグラフである。
【図14】実施例4における、交流電圧の周波数を変更した場合のマーカーの信号挙動を示すグラフである。
【図15】図14から得られる蛍光ラベルからの信号(平均値)の高周波特性と低周波特性の比と分子量との関係を示すグラフである。(比較のために図13も併記。)
【図16】実施例5における、交流電圧の周波数を変更した場合のマーカーの信号挙動を示すグラフである。
【図17】図16から得られる蛍光ラベルからの信号(平均値)の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0137】
1 プローブ分子
2 基板電極
3 マーカー
4 基板
5 感応部
6 ターゲット分子結合部
7 ターゲット分子
8 対向電極
9 外部電場印加装置
10 光照射装置
11 光
12 蛍光
13 蛍光検出手段
【技術分野】
【0001】
以下の実施形態は、DNAチップ等のバイオチップに利用される、評価対象(ターゲット分子)の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノをキーワードとして、ナノテクノロジーが多くの人々の関心を集めている。
【0003】
このナノテクノロジーの中でも、半導体微細加工技術(半導体ナノテクノロジー)とバイオテクノロジーとの融合領域であるナノバイオテクノロジーは、既存の問題を根底から解決できる可能性を持つ新分野として、多くの研究開発が精力的に行われるようになってきている。
【0004】
このナノバイオテクノロジーの中でも特に、DNAチップ(またはDNAマイクロアレイ)に代表され、ガラス、シリコン、プラスチック、金属等で形成された基板上に、DNA、蛋白質等の生体高分子からなる多数の異なった被検体を高密度に整列化してスポット状に配置したバイオチップは、臨床診断や薬物治療等の分野で、核酸や蛋白質の試験を簡素化でき、特に遺伝子解析に有効な手段として注目されている(非特許文献1および2参照)。
【0005】
更に、近年では、固体基板上に、機能性分子や機能性分子と結合させた分子を結合させて、部分的に機能性表面(評価部)を形成し、マイクロマシニング技術やマイクロセンシング技術と組み合わせて、微小なターゲットを評価する技術のもとに作製される、「MEMS」や「μTAS」と呼ばれるデバイスが、従来の評価感度や評価時間を大幅に向上させるものとして注目されている。「MEMS」は、マイクロエレクトロメカニカルシステム(Micro Electro Mechanical Systems)の略であり、半導体の加工技術をもとに非常に微細なものを作る技術、またはその技術を用いて作製された精密微細機器を意味し、一般に、機械、光学、流体等の複数の機能部分を複合化、微細化したシステムを意味する。また、「μTAS」は、マイクロトータルアナリシスシステム(Micro Total Analysis System)の略であり、マイクロポンプ、マイクロバルブ、センサ等を小型、集積、一体化した化学分析システムを意味する。これらのデバイスは、一般に、特定の機能を有する機能性分子や、この機能性分子と結合させた分子を、基板上に自己組織的に固定(結合)させた機能性表面を有している。そして、これらのデバイスにおいては、機能性表面での反応を電気的または光学的に評価する手法が多く取られている。
【0006】
中でも、光学的に評価する手法は、評価対象であるターゲットを蛍光色素等の光学的なラベルで修飾し、光学的な強度から、ターゲットを定量的に評価する手法で、その感度の高さから、DNAチップ等に幅広く利用されている。
【0007】
しかしながら、この手法では、ターゲットをラベルで修飾する手順が不可欠であり、ラベリングや洗浄等の煩雑な工程が必要となる。また、ラベルのみの混入による誤評価や、プローブとの特異的な結合の結果でない、単に非特異的に評価部に付着したターゲットも評価してしまう問題があった。
【0008】
したがって、ターゲットにラベルを修飾する必要が無く(ノンラベルで)、非特異吸着したターゲットの誤評価等を回避して、高選択性で低ノイズの評価技術の開発が望まれているのが現状である。
【0009】
ラベルフリーのターゲット分子を評価する方法としては、マーカーを荷電性プローブ分子に修飾し、このプローブ分子を電極に固定して電場で駆動し、マーカーからの信号で駆動状態をモニターし、ターゲット分子がプローブ分子と特異的に結合した際に、プローブの駆動状態が変化し、この変化をプローブに修飾したマーカーで評価する方法が知られている(非特許文献3,特許文献1,2参照)。荷電性プローブ分子が電場に引き寄せられたり、反発したりして、プローブ分子の先端に付けたマーカーと基板との距離が変化することで発生するマーカーからの信号の変化を観察することがこの手法の原理である。駆動周波数としては、電場のもととなる電気二重層の形成が可能な周波数帯(おおよそ1MHz以下)であれば、駆動電位に同期したマーカーからの信号を観察することで、ターゲット分子の評価が可能である。
【特許文献1】特願2004−238696(請求の範囲)
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/069932号明細書(クレーム)
【特許文献3】特開2005−283560号公報(請求の範囲)
【非特許文献1】T. G. Drummond et al.,「電気化学的DNAセンサー(Electrochemical DNA sensors)」,ネイチャーバイオテクノロジー(Nature Biotech.),2003年,第21巻,第10号,p.1192-1199
【非特許文献2】J. Wang,「DNAバイセンサーから遺伝子チップまでのサーベイと纏め(SURVEY AND SUMMARY From DNA biosensors to gene chips)」,Nucleic Acids Research, 2000年,第28巻,第16号,p.3011-3016
【非特許文献3】U. Rant et al.,「金属表面上のDNA層の動的電気的スイッチング(Dynamic Electrical Switching of DNA Layers on a Metal Surface)」,Nano Lett.,2004年,第4巻,第12号,p.2441-2445
【非特許文献4】A. Ulman,「自己組織化モノレイヤーの形成(Formation and Structure of Self-Assembled Monolayers)」,Chem. Rev.,1996年,第96巻,第4号,p.1533-1554
【非特許文献5】U. Rant et al.,「電気的操作中の金属表面上の1本鎖、2本鎖DNAの異なる動特性(Dissimilar Kinetic Behavior of Electrically Manipulated Single- and Double-Stranded DNA Tethered to a Gold Surface)」,Biophysical Journal,2006年,第90巻,p.3666-3671
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以下の実施形態は、従来評価ターゲットに必要不可欠であった、インターカレーターや蛍光色素、酸化還元マーカー等の修飾無しに、ラベルフリーでターゲット分子を高選択性かつ低ノイズで評価する技術を提供することを目的としている。更に他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書に開示された一実施態様によれば、マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法であって、基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、前記交流電圧の周波数を変更した際に前記基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられた前記マーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値を用いて、前記ターゲット分子のストークス半径または分子量を決定する、ターゲット分子の評価方法が提供される。
【0012】
本明細書に開示された他の一実施態様によれば、マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法であって、基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、前記交流電圧の周波数を変更した際に前記基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられた前記マーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値を用いて、前記プローブ分子と前記ターゲット分子との間の結合速度、前記プローブ分子と前記ターゲット分子との間の結合速度定数、前記プローブ分子と前記ターゲット分子との間の解離速度および、前記プローブ分子と前記ターゲット分子との間の解離速度定数の少なくともいずれか一つを決定する、ターゲット分子の評価方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本明細書に開示された種々の実施形態によれば、高選択性で低ノイズの新規なターゲット分子の評価方法が実現する。すなわち、ターゲット分子へのマーカーの修飾を必要とせず、ターゲット分子への修飾に用いられるマーカーの評価用マーカーが幾分でも残存することによる評価への悪影響、非特異吸着したターゲットの誤評価等を防止できる評価方法が実現する。
【0014】
上記実施形態に係る高選択性、低ノイズ分子評価方法と評価装置は、ナノバイオテクノロジーの分野に極めて有用であり、DNAチップや蛋白質チップ等のバイオチップに好適な、評価方法とその方法を用いた評価装置を提供することができる。
【0015】
特に、上記実施形態は、ターゲット分子のストークス半径、プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度、結合速度定数、解離速度および解離速度定数を決定するのに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、種々の実施の形態を図、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0017】
本明細書に開示されるターゲット分子の評価方法では、基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与えて、基板電極上に結合したプローブ分子に備えられたマーカーから得られる信号の観察により、プローブ分子に結合したターゲット分子を評価する。この際、交流電圧の周波数を変更してマーカーの信号挙動を観察する。この交流電圧の周波数を、マーカーの信号挙動の元になるプローブ分子の運動(たとえば伸縮運動)を起こさせる周波数と言う意味で、駆動周波数と呼び、このようなプローブ分子の運動を起こさせることをプローブ分子を駆動すると言うことがある。
【0018】
基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与えて、基板電極上に結合したプローブ分子に備えられたマーカーから得られる信号の観察により、プローブ分子に結合したターゲット分子を評価する方法は、たとえば特許文献3に開示されている。
【0019】
この方法では、ターゲット分子の高選択性で低ノイズの新規な評価が可能である。具体的には、ターゲット分子へのマーカーの修飾を必要とせず、ターゲット分子への修飾に用いられる評価用マーカーが幾分でも残存することによる評価への悪影響、非特異吸着したターゲット分子の誤評価等を防止できる評価方法が実現する。
【0020】
これらの低ノイズ分子評価方法と評価装置は、ナノバイオテクノロジーの分野に極めて有用であり、DNAチップや蛋白質チップ等のバイオチップに好適な、評価方法とその方法を用いた評価装置を提供することができる。
【0021】
なお、ここで、「評価」とは、プローブ分子やターゲット分子の有無の検出、相違の検出および定量ならびに、ストークス半径、プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度、結合速度定数、解離速度、解離速度定数等の物性値の決定を意味する。
【0022】
(ターゲット分子評価装置)
上記のターゲット分子を評価する方法は、基板上に設けられた基板電極と対向電極と、基板電極上に結合し、マーカーを備え、ターゲット分子と結合し得るプローブ分子と、基板電極と対向電極との間に電圧を印加するための電圧印加手段と、マーカーからの信号を検出する信号検出手段とを含むターゲット分子評価装置を用いて評価することができる。信号検出手段には、蛍光検出手段の場合の蛍光を発光/消光させるための光照射手段のように補助的手段が含まれる場合もある。このような基板電極や対向電極は水溶液中に浸漬して使用される。
【0023】
以下、主に、マーカーの蛍光の発光/消光を観察する場合について説明するが、後述するとおり、信号は蛍光に限られるわけではない。
【0024】
上記装置において、プローブ分子を基板電極に結合せしめ、クエンチング効果でマーカーが消光した状態となし、電圧を印加することによりマーカーを発光/消光させ、その発光/消光挙動を観察することにより、プローブ分子と結合したターゲット分子を評価できる。マーカーの発光/消光は、マーカーと基板電極との距離が変化することにより可能になるものと考えられている。マーカーは基板電極から離れると発光/消光し、基板電極に近づきあるいは接触すると消光する。このようなマーカーの運動は、プローブ分子がプラスまたはマイナスに帯電し得ることで可能になると考えられる。例えば、プローブ分子がマイナスに帯電している場合は、基板電極の電位を負にすることによりマーカーが基板電極から離れ、基板電極の電位を正にするとマーカーが基板電極に近づく。
【0025】
図1−A〜Cに、そのような挙動を模式的に示す。図1−Aは、プローブ分子1が基板電極2と結合し、縮まった状態を示す模式図、図1−Bは、プローブ分子1が基板電極2と結合し、横に倒れた状態を示す模式図、図1−Cは、プローブ分子1が基板電極2から伸長した状態を示す模式図である。図1−A,Bの場合にマーカー3は基板電極に近づきあるいは接触し、図1−Cの場合には、マーカー3は基板電極から離れる。恐らくこのような挙動が生じているものと考えられる。なお、本明細書において、プローブ分子について「伸縮」を説明する場合の「伸縮」は図1−A〜Cのような挙動を意味するものと考えられているが、マーカーと基板電極との間の距離が変化する挙動であればどのような挙動でもこの「伸縮」の範疇に属する。したがって、「伸縮」が上記の挙動に限られるわけではない。
【0026】
(ターゲット分子)
ターゲット分子としては、蛋白質、DNA、RNA、抗体、天然または人工の1本鎖のヌクレオチド体、天然または人工の2本鎖のヌクレオチド体、アプタマー、抗体を蛋白質分解酵素で限定分解して得られる産物、蛋白質に対して親和性を有する有機化合物、蛋白質に対して親和性を有する生体高分子、これらの複合体およびそれらの任意の組み合わせよりなる群から選ばれたものまたはこれらを含むものが好ましい。プラスまたはマイナスに帯電したイオン性ポリマーを含んでいてもよい。なお、上記複合体の例としては、DNAとマイナスに帯電したポリマーとの結合体等、上記の物質と他の物質との結合体を挙げることができる。ターゲット分子としては、上記のほかに、血漿蛋白、腫瘍マーカー、アポ蛋白、ウイルス、自己抗体、凝固・線溶因子、ホルモン、血中薬物、核酸、HLA抗原、リポ蛋白、糖蛋白、ポリペプチド、脂質、多糖類、リポ多糖類等が挙げられる。
【0027】
ここで、「ヌクレオチド体」とは、モノヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドよりなる群のいずれか一つまたはその混合物を意味する。このような物質は、マイナスに帯電していることが多い。1本鎖あるいは2本鎖を用いることができる。なお、蛋白質、DNA、ヌクレオチド体が混在していてもよい。また、生体高分子には、生体に由来するものの他、生体に由来するものを加工したもの、合成された分子も含まれる。
【0028】
ここで、上記「産物」とは、抗体を蛋白質分解酵素で限定分解して得られるものであり、本明細書に開示された実施形態の趣旨に合致する限り、抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントや抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片、さらにはその誘導体等どのようなものを含めることもできる。
【0029】
抗体としては、たとえば、モノクローナルな免疫グロブリンIgG抗体を使用することができる。また、IgG抗体に由来する断片として、たとえばIgG抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントを使用することもできる。更に、そのようなFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片などを使用することもできる。蛋白質に対して親和性を有する有機化合物として使用可能な例を挙げると、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)等の酵素基質アナログや酵素活性阻害剤、神経伝達阻害剤(アンタゴニスト)などがある。蛋白質に対して親和性を有する生体高分子の例としては、蛋白質の基質または触媒となる蛋白質、分子複合体を構成する要素蛋白質同士等を挙げることができる。
【0030】
(プローブ分子)
プローブ分子は、基板電極と結合し得るものであれば、本明細書に開示された実施形態の趣旨に反しない限り、どのようなものでもよいが、マーカーを、「ターゲット分子」との結合前に備えたものであることが好ましい。
【0031】
プローブ分子は、ターゲット分子に対して特異的に結合する性質を有することが好ましい。特異的に結合する性質を有することにより、ターゲット分子の高選択性と低ノイズの精密な評価がより容易になる。結合の種類および結合箇所については特に制限はないが、結合力が特に弱い結合は避けた方がよいであろう。
【0032】
プローブ分子は、交流電圧の印加により、マーカーと基板電極との距離を変化させる機能を有するものであることが一般的である。先述のごとく、交流電圧の印加によって、マーカーと基板電極との間の距離の変化を生ぜしめるためには、プローブ分子がプラスまたはマイナスに帯電し得ることが好ましい。このようなプローブ分子を荷電性プローブ分子と呼ぶ場合がある。
【0033】
プローブ分子の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、等が挙げられるが、これらの中でも線状が好ましい。
【0034】
このようなプローブ分子の種類には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、病気の治療、診断等への応用等の観点からは生体分子等が好適に挙げられる。具体的には、蛋白質、DNA、RNA、抗体、天然または人工の1本鎖のヌクレオチド体、天然または人工の2本鎖のヌクレオチド体、アプタマー、抗体を蛋白質分解酵素で限定分解して得られる産物、蛋白質に対して親和性を有する有機化合物、蛋白質に対して親和性を有する生体高分子、これらの複合体、プラスまたはマイナスに帯電したイオン性ポリマーおよびそれらの任意の組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも一つの物質を含むものが好ましい。伸縮を行い易い場合や、プローブ分子としてターゲット分子と特異的に結合し易い場合が多いからである。
【0035】
正に帯電したイオンポリマーとしては、例えば、主鎖にグアニジド結合を用いてプラスに帯電させたDNA(グアニジンDNA)、ポリアミン等が好適に挙げられる。負に帯電したイオンポリマーとしては、例えば、マイナスに帯電した天然のヌクレオチド体、ポリヌクレオチド、ポリリン酸等が好適に挙げられる。これらの分子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
ここで、上記「ヌクレオチド体」、「産物」、「抗体」、「蛋白質に対して親和性を有する有機化合物」、「蛋白質に対して親和性を有する生体高分子」等の持つ意味は既に説明した通りである。
【0037】
プローブ分子として、天然のヌクレオチド体や人工のヌクレオチド体を使用することができる。人工のヌクレオチド体には、完全に人工のものも、天然のヌクレオチド体から誘導されるものも含まれる。人工のヌクレオチド体を使用すれば、検出の感度を上げたり、安定性を向上させたりすることができるため有利な場合がある。
【0038】
また、1本鎖ヌクレオチド体でも、互いに相補的な関係にある1本鎖ヌクレオチド体の対である2本鎖ヌクレオチド体でもよい。なお、伸長や収縮のし易さからすると1本鎖ヌクレオチド体が好ましく、基板電極上で横たえたり、立ち上げたりするには2本鎖ヌクレオチド体が好ましい場合が多い。電極毎に異なるヌクレオチド体を使用することもできる。ヌクレオチド体鎖の長さは1残基以上あればよい。すなわち、モノヌクレオチド鎖でもよい。
【0039】
プローブ分子は、また、モノクローナル抗体や蛋白質分解酵素で限定分解して得られる産物を使用することもできる。抗原抗体反応に類する反応によって生じる結合を利用でき、ターゲット分子と特異的に結合するプローブ分子としても機能するので有用である。
【0040】
プローブ分子としては、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメント、もしくはモノクローナル抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片を使用することも好ましい。なお、モノクローナル抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片とは、モノクローナル抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントを細分化した断片やその誘導体を意味する。
【0041】
さらに、プローブ分子として、IgG抗体、IgG抗体のFabフラグメントまたは(Fab)2フラグメント、IgG抗体もしくはIgG抗体Fabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片を使用することがより好ましい。なお、IgG抗体Fabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントに由来する断片とは、IgG抗体Fabフラグメントまたは(Fab)2フラグメントを細分化した断片やその誘導体を意味する。アプタマーであることも好ましい。一般的に分子量の小さいものの方が検出感度がよいことが、これらが好まれる理由である。
【0042】
基板電極との結合の容易性の観点からは、プローブ分子が、チオール基(−SH)またはジスルフィド結合(−S−S−)を有するポリヌクレオチドであること、チオール基(−SH)またはジスルフィド結合(−S−S−)を有するポリヌクレオチドを含むことが好ましく、末端にチオール基(−SH)またはジスルフィド結合(−S−S−)を有する、DNA、RNA、これらと蛋白質との複合体等が特に好ましい。なお、DNAおよびRNAは、一本鎖であってもよいし、二本鎖であってもよい。
【0043】
プローブ分子の大きさまたは長さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、プローブ分子がポリヌクレオチドである場合、少なくとも6塩基であるのが好ましい。
【0044】
(電極)
基板電極は、プローブ分子と結合することができ、基板電極と対向電極との間に与えられた交流電圧により、基板電極上に結合したプローブ分子に備えられたマーカーから得られる信号が変化し得れば、本明細書に開示された実施形態の趣旨に反しない限りどのようなものでもよく、その形状にも特別な制限はない。この場合の結合には、共有結合、配位結合のような化学的結合の他、生物学的結合、静電気的結合、物理吸着、化学吸着等、本明細書に開示された実施形態の趣旨に反しない限りどのような結合を使用することもできる。外部電場によるプローブ分子の運動の安定性からは、化学結合が好ましく、化学結合の中でも、硫黄原子(S)を含む結合が結合の容易性、制御性等の点で好ましく、具体的には、チオール基(−SH)、ジスルフィド結合(−S−S−)等を用いたSと基板電極との結合が好ましい。
【0045】
例えば、基板表面に電極を設け、その電極表面にプローブ分子と結合し得る構造部分(プローブ分子結合部)を設けることで基板電極とすることができる。基板電極は単層であっても多層であってもよく、層状以外の構造を有していてもよい。
【0046】
この場合の基板の材質については特に制限はなく、例えば、ガラス(たとえば石英ガラス)、セラミックス、プラスチック、金属、シリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、サファイア、等が好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
基板電極の形状、構造、大きさ、表面性状、数等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。形状としては、例えば、平板状、円状、楕円状等が挙げられる。表面性状としては、例えば、光沢面、粗面等が挙げられる。大きさとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。
【0048】
基板電極は、その表面に絶縁膜を被覆して基板電極の一部のみが露出するようにして、基板電極の大きさ、形状等を適宜所望の程度に調節してもよい。基板の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、一つであってもよいし、2以上であってもよい。
【0049】
この場合の絶縁膜としては、その材質、形状、構造、厚み、大きさ等については特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができるが、材質としては、例えば、レジスト材料が好適に挙げられる。レジスト材料としては、例えば、g線レジスト、i線レジスト、KrFレジスト、ArFレジスト、F2レジスト、電子線レジスト等が挙げられる。
【0050】
基板電極の材質は導電性を有する限り特に制限はなく、目的に応じて任意に定めることができる。たとえば、金属、合金、導電性樹脂、炭素化合物、等が挙げられる。金属としては、例えば、金、白金、銀、銅、亜鉛、等が挙げられる。合金としては、例えば、前記金属として例示したものの2種以上の合金等が挙げられる。導電性樹脂としては、例えば、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリp−フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、等が挙げられる。炭素化合物としては、例えば、導電性カーボン、導電性ダイヤモンド、等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。Auに代表される貴金属は化学的に安定であり、好ましく使用できる。生体高分子をプローブ分子として使用する場合に、基板電極への固定が容易に行えるからである。基板上には複数個の基板電極を設けてもよい。
【0051】
特にプローブ分子結合部を設けなくてもプローブ分子と結合し得る場合は、表面にプローブ分子結合部を設ける必要はない。プローブ分子がヌクレオチド体よりなり、そのチオール基を介して、Au層と直接結合できる場合を例示すると、ポリッシュしたAu電極と室温で24時間反応させて、図2に示すように、サファイア基板4上に設けたAu電極(基板電極2)に、マーカー3と天然の1本鎖オリゴヌクレオチド構造を持つ感応部5とターゲット分子結合部6とを持つプローブ分子1(マーカー3と感応部5とターゲット分子結合部6とから構成される部分)とターゲット分子7とが結合した状態を挙げることができる。感応部5は伸縮する機能を有する部分を意味し、ターゲット分子結合部6は、この場合の評価対象であるターゲット分子と結合する部分を意味する。ターゲット分子結合部6がターゲット分子と特異的に結合する機能を有していれば、プローブ分子がターゲット分子7と特異的に結合することになる。1本鎖オリゴヌクレオチド構造の下部にあるSは、プローブ分子がチオール基を介して、Au電極2と直接結合していることを表している。なお、チオール基と結合する電極表面としてAu以外の公知の金属を使用することもできる。図2では、オリゴヌクレオチド鎖の末端にモノクローナルな免疫グロブリンIgGのFabフラグメントを、ターゲット分子)対して特異的に結合する性質を有するターゲット分子結合部6として固定してある。
【0052】
図2の左側はプローブ分子が伸長した状態、右側はプローブ分子が縮まった状態を表す。縮まった状態のプローブ分子は、Au電極2と対向電極8との間に外部電場印加装置9により所定の電位差を印加することにより、伸長した状態とすることができる。
【0053】
このとき、光照射装置10から光11を照射すると蛍光12が得られる。図2では、プローブ分子と結合したターゲット分子を評価対象としている。プローブ分子そのもの(すなわち、ターゲット分子と結合する前のプローブ分子そのもの)を対象とする場合には、プローブ分子にターゲット分子を結合させずに蛍光の発光/消光を評価する。
【0054】
図2において、チオール基とマーカーとは予め1本鎖オリゴヌクレオチドに導入しておいた。チオール基とマーカーとは、1本鎖の末端に導入することが望ましく、チオール基を5’末端に導入した場合はマーカーを3’末端に導入することが好ましく、またこの反対でもよい。この例では、オリゴヌクレオチド鎖は、直径1mmの円形状のAu電極上に固定した。
【0055】
基板電極の一部としてプローブ分子結合部を設ける場合、その材料としては、プローブ分子と結合できる限り、どのようなものでもよく、例えば、プローブ分子と化学結合または分子間力により結合できる分子を挙げることができる。プローブ分子結合部がプローブ分子と結合した後のプローブ分子結合部とプローブ分子とよりなる部分をプローブ分子と考えることもできる。プローブ分子結合部が伸縮し得るものであれば、プローブ分子結合部と結合する前のプローブ分子が伸縮機能を有しなくてもよい。
【0056】
なお、一般的に基板電極とプローブ分子との結合は定量的であることが理想的であるが、結合によっては、かなり大きな解離速度定数を有するものもあり得る。この解離速度定数があまり大きいと、たとえは緩衝液での洗浄の際に、結合が徐々に減少することになる。この意味で、一般的に、基板電極とプローブ分子との結合における解離速度定数が10-5以下であることが好ましい。
【0057】
このような基板電極を媒体である水溶液に浸漬し、水溶液中に配した対向電極との間に交流電場を印加すると、プローブ分子が伸縮することができるようになる。
【0058】
基板電極を基板上に設ける場合、基板電極と基板との密着性を向上させる目的で、これらの間に密着層を設けてもよい。密着層の材質、形状、構造、厚み、大きさ等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、材質としては、例えば、クロム、チタン等が挙げられ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
【0059】
対向電極は、基板電極と対向して配置され、これらに電位を直接印加するための電極である。対向電極の形状や材料については特に制限はなく、公知の形状と公知の材料とから適宜選択することができる。たとえば、白金ワイヤ、白金板,白金コイル、金ワイヤ等を上げることができる。対向電極の数についても制限はなく複数個あってもよい。
【0060】
ターゲット分子評価装置には、二電極法に代えて、参照電極を使用する三電極法を採用してもよい。参照電極は、基板電極と対向電極との間の電位を調整するための電極である。参照電極の形状や材料については特に制限はなく、公知の形状と公知の材料とから適宜選択することができる。たとえば、銀−塩化銀(Ag/AgCl)、水銀−塩化水銀(Hg/Hg2Cl2:飽和カロメル電極)等を上げることができる。参照電極の数についても制限はなく複数個あってもよい。
【0061】
(電圧印加手段、信号検出手段)
電圧印加手段や、信号検出手段には特に制限はなく、公知の手段から適宜選択すれば十分である。
【0062】
電圧印加手段で与えられる交流電圧は、段階的または連続的な変更を含むものでることが好ましい。その波形には特に制限はないが、通常サイン波または矩形波が採用される。電圧値についてはプローブ分子と基板との結合を切断しないように調整された電位幅を使用することが好ましく、Sと基板電極との結合の場合には絶対値を0.5 V以下にすることが好ましい。ここで、「交流電圧」には直流成分が含まれていてもよい。したがって平均値が0Vである場合も、正の値である場合も、負の値である場合もあり得る。交流電圧の周波数についても特に制限はないが、電場のもととなる電気二重層の形成が可能な周波数帯(1 MHz以下)が望ましい。
【0063】
検出される信号が蛍光の場合には、蛍光を発光/消光させるための光照射手段が補助的手段として必要である。このような光照射手段としては蛍光マーカーに対応した可視光や紫外線が使用される。
【0064】
検出される信号が酸化還元電流の場合には酸化還元マーカーの酸化還元電位をはさんで交流電圧を印加し、酸化還元電流を観察することが望ましい。
【0065】
(マーカー)
プローブ分子中におけるマーカーの数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくとも一つであり、2以上であってもよい。プローブ分子中におけるマーカーの位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、プローブ分子が線状である場合にはその末端等が挙げられ、プローブ分子がポリヌクレオチドである場合またはポリヌクレオチドを含む場合には、3’末端であってもよいし、5’末端であってもよい。
【0066】
マーカーは、場合によってはターゲット分子の一部として共有結合により付加されていてもよいが、ターゲット分子と結合する前のプローブ分子の一部として共有結合により付加されていてもよく、あるいは、隣接する相補的結合の間に挿入(インタカレーション)されている例のようにヌクレオチド体等の中に含有されていてもよく、あるいはヌクレオチド体等の一部に置換により組み込まれていてもよい。マーカーは、ターゲット分子の先端の近傍に存在するようにされるのが好ましい。
【0067】
マーカーは、基板電極と対向電極との間に交流電圧が与えられた場合に信号を発し得るものであり、本明細書に開示された実施形態の趣旨に反しないものであればどのようなものでもよい。この場合の信号には、任意の物理的信号、化学的信号または生物学的信号を含めることができるが、その中でも、電磁波および酸化還元電流が好ましく、電磁波とりわけ光の作用で励起されて生じる蛍光マーカーが好ましい。
【0068】
蛍光マーカーとしては、例えば、蛍光色素、金属、半導体ナノスフィアー、等が好適に挙げられる。
【0069】
蛍光色素は、基板電極が金属である場合には、その金属と相互作用している間(例えば、金属の近傍に位置している間)は、吸収可能な波長の光が照射されても発光せず、金属と相互作用しなくなった時(例えば、金属とは離接している時)には、吸収可能な波長の光が照射されるとその光エネルギーにより発光可能であり、発光/消光部として特に好適に使用可能である。蛍光色素としては、特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができるが、例えば、図6で表される化合物等が好適に挙げられる。
【0070】
このようなマーカーとして好適に使用できるものの例を挙げると、インドカルボシアニン3(商標Cy3)などがある。
【0071】
マーカーが酸化還元マーカーである場合は、上記信号が酸化還元電流である。このような酸化還元マーカーは、メチレンブルー(C16H18ClN3S:図7参照)、フェロセン(C10H10Fe:図8参照)。
【0072】
(交流電圧の周波数の変更)
図3のターゲット分子評価装置を用いて、得られる蛍光信号の挙動を観察した。図3は、基板4上の基板電極にマーカーの付いたプローブ分子1が結合しており、光照射手段10によって励起された蛍光が蛍光検出手段13によって検出される様子を示している。
【0073】
このような状態で印加する電圧の周波数を変更し、蛍光からの信号の周波数特性を記録したものを図10に示す。図10は、ssDNA(シングルストランドのDNA)について、サイン波の交流電圧を印加し、その周波数を変更したときの蛍光信号の振幅強度の変化を示すグラフである。この場合、駆動周波数を上げることにより、ssDNAは高速に操作される。さらに周波数を上げるとssDNAは駆動周波数に追随できなくなり、振幅強度が減少し、やがてほぼ零(バックグラウンドレベル)になる。このssDNAの周波数特性は、分子に固有の特性であるため、この分子特性を変えるような分子間相互作用、例えば、相補鎖DNAとのハイブリダイゼーションや他の分子との結合などが発生した場合、周波数特性の変化として、検出することが可能であり、生体分子評価に用いられことをすでに示した。(特許文献1,2,3、非特許文献3)
図12は、特定のターゲットと結合するプローブ分子を先端に付着させたdsDNA(ダブルストランドのDNA)と、そのプローブ分子にターゲットが結合した状態について、サイン波の交流電圧を印加し、その周波数を変更したときの蛍光信号の振幅強度の変化を示すグラフである。ターゲットの結合前後の信号を信号が半分になる点(カットオフ周波数)で比較すると、ターゲットの結合により、カットオフ周波数のシフトが観察される。
【0074】
また、図4は、ssDNA(シングルストランドのDNA)とdsDNA(ダブルストランドのDNA)とについて、サイン波の交流電圧を印加し、その周波数を変更したときの蛍光強度の平均値の様子を示すグラフである。この場合にはssDNAがプローブ分子に該当し、dsDNAにおける相補DNAがターゲット分子に該当する。なお、ここで蛍光強度は、交流電圧の印加により発光/消光する蛍光強度を平均した値である。
【0075】
図4より、ssDNAの場合は検討範囲内では蛍光強度がわずかに減少するのに対し、dsDNAではある値を超えると蛍光強度が急激に増大することが判明した。これは、ssDNAが立ち上がりの時間に比べ、立ち下りの時間が短いのに対して、dsDNAは反対に、立ち上がりの時間が立ち下りの時間より短い。従って、周波数を上げるに従って、ssDNAは立ち下りが優位になり、平均の蛍光強度が減少する。反対に、dsDNAは立ち上がりが優位になり、平均の蛍光強度は増加する。(非特許文献5参照)
この結果より、与える電圧の周波数を変更することにより、得られる信号の挙動が、プローブ分子やターゲット分子の種類に応じて種々変化し得ると考えることができる。このような特性を纏めて周波数特性と呼ぶことができる。
【0076】
したがって、この周波数特性を利用すれば、別途各種のデータを集積しておけば、得られる信号の観察により、ターゲット分子の評価が可能になると考えられる。この評価の種類には、分子量の相違、形状の相違(たとえばバルキーな分子とそうでない分子との相違や、線状分子と枝分かれ分子との相違)、フレキシビリティの相違(dsDNAでのニックやスニップスの存在)、電荷の相違を含めることができる。また、単位面積あたりに付着したプローブ分子やターゲット分子の量に応じて、周波数の変更に対する信号の挙動の変化が異なることが考えられるので、単位面積あたりに付着したプローブ分子やターゲット分子の量の定量、すなわち、プローブ分子やターゲット分子の濃度の定量も可能になるものと考えられる。
【0077】
さらに、分子のサイズ、プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度、結合速度定数、解離速度、解離速度定数等の物性値の決定を行うこともできる。なお、この場合の分子のサイズは、分子の立体的形状や、電荷等に影響されるものと考えられるので、たとえばストークス半径に代表されるような実効サイズであると考えられる。検討の結果、実効サイズとしてはストークス半径が好ましいことが判明した。
【0078】
このような実効サイズ(たとえばストークス半径)については、上記のマーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法において、基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、交流電圧の周波数を変更した際に基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられたマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値を用いて決定することができる。
【0079】
信号、あるいは、信号の平均値を用いて実効サイズを決定する方法はどのようなものでもよい。具体的には、実効サイズが既知の1以上のターゲット分子を用い、これらをマーカーを備えたプローブ分子に結合させ、あるいは結合させずに、交流電圧の周波数を変更した際にマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値を求め、これらのデータを下に、ある周波数における、信号の変化と実効サイズの関係を求めておけば、未知のターゲット分子Xを用いた場合に、マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子Xについてマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値と、ターゲット分子と結合していないマーカーを備えたプローブ分子についてそのマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値とを比較し、あるいは、マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子Xについてマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値と、マーカーを備えたプローブ分子に結合した既知の他の種類のターゲット分子についてマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値とを比較することにより、実効サイズを決定することができる。
【0080】
この場合、一般論で考えれば、精度よく実効サイズを求めたい場合には、マーカーとプローブ分子とは同一のものを使用した方が好ましいであろう。また、ターゲット分子Xの形状は既知のターゲット分子の形状に類似したものが好ましいであろう。しかしながら、後述する実施例に示すように、相異なるプローブ分子や相異なる形状のターゲット分子を使用した場合にも良好な線形の関係が得られているところから見て、その影響は小さいと考えられる。また、マーカーやプローブ分子の種類については、その相違による補正手段が考えられれば、その影響を小さくすることが可能である。マーカーの場合には、種類を変えることにより発光する蛍光の強度が変化するので影響が大きい場合もあるが、プローブ分子の種類については、そのような影響は少なく、種類を変えることの自由度は大きいと考えられる。
【0081】
より具体的な実効サイズの決定方法については実施例で詳述する。
【0082】
プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度、結合速度定数、解離速度、解離速度定数の決定についても、上記のマーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法において、基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、交流電圧の周波数を変更した際に基板電極上に結合したプローブ分子に備えられたマーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値を用いて決定することができる。
【0083】
具体的には、マーカーを備えたプローブ分子に、ターゲット分子を連続的に供給して、ターゲット分子をプローブ分子に結合させ、その際マーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値の経時的変化を観察することにより、プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度や結合速度定数を求めることができる。また、マーカーを備えたプローブ分子にターゲット分子を結合させた状態に対し、溶媒等の適切な媒体を連続的に供給して、ターゲット分子をプローブ分子から脱離させ、その際マーカーから得られる信号、あるいは、信号の平均値の経時的変化を観察することにより、プローブ分子とターゲット分子との間の脱離速度や脱離速度定数を求めることができる。なお、上記において「連続的に供給」は、マーカーから得られる信号を測定する際には中断しておいても差し支えない場合が多い。本明細書に記載した実施形態においては、このような中断のある場合も「連続的に供給」の範疇に含められる。
【0084】
これらの物性の決定における周波数の変更の仕方には特に制限はなく、適宜選択して、マーカーの有用な信号挙動が観察されるかどうかを調べればよい。図4のdsDNAの場合のように大きな変化が予測される場合には、異なる周波数への一回の段階的な変更で十分であるときもあり得る。多段階の変更により、どの周波数でどのような信号変化が観察されるかを調べることも有用である。更に、周波数の変更を連続的に行えば、より詳細な信号の変化が得られる。
【実施例】
【0085】
次に実施例および比較例を詳述する。
【0086】
[実施例1](周波数特性を用いたターゲット分子のサイズの違いの検出)
図3に、本明細書に開示された実施形態に必要な装置構成図を示す。図3は、基板4上の金電極(基板電極、図示せず)に、蛍光色素(蛍光ラベル、すなわちマーカー)3を分子中に有するプローブ分子1を固定(結合)させ、このプローブ分子に光ファイバー(入射光ファイバー)10を用いて、蛍光色素が励起され、発光/消光を生じ得る波長の光を照射すると共に、蛍光色素からの発光/消光を検知する光ファイバー(受光ファイバー)13を備えた状態の装置の一例を説明するための概略説明図である。
【0087】
金電極には溶液電位に対して高周波駆動可能なAC電源とオフセット電位印加用のDC電源が接続されていた。
【0088】
ここでは、サイズ(実効値)の異なった分子をターゲットとして、その違いを評価する方法の実施例を示す。
【0089】
図11の左側には分子を種類と分子量が示されており、右側には、ターゲット分子のサイズ(実効値)としてDLS法で得たHydrodynamic diameter(溶液中の付着イオンを含んだ実効直径)が示されている。Hydrodynamic diameterの加重平均がストークス半径の2倍である。
【0090】
プローブ分子として、一端にチオール基(−SH)を有し、他端に上記蛍光色素としての蛍光シアニン色素(Cy3)を有する1本鎖のDNA(72塩基プローブDNA:ss−72mer−probe−DNA)を用い、非特許文献4に記載された方法によって、上記DNAを自己組織化により、金電極(0.5 mmφ)上に硫黄原子を介して固定(結合)し、金電極上に上記DNAによる分子膜を形成した。さらに、ターゲット分子と特異的に結合するプローブ分子を一端に有する相補鎖DNAと基板に固定された上記DNAをハイブリダイズさせ、2本鎖DNAを形成した。ハイブリダイゼーションの条件は、相補鎖DNAを1μM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、相補鎖DNAを含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、基板上に蛍光色素とプローブ分子を有する2本鎖DNAを形成した。異なった分子量のターゲットとして、アンチジゴキシゲニンFabフラグメント(AD−Fab)、アンチビオチンF(ab’)2フラグメント(AB−F(ab’)2)、アンチジゴキシゲニンIgG(AD−IgG)、アンチビオチンIgG(AB−IgG)(図14右参照)を用い、AD−Fab、AD−IgGのプローブ分子として、ジゴキシゲニン、AB−F(ab’)2とAB−IgGのプローブ分子としてビオチンを用いている。
【0091】
ここで、DNAを固定した金電極と対向電極である白金電極との間に交流電場(サイン波)、E=−0.15±0.25 Vrms)を印加しながら、蛍光ラベルからの信号を観察した。交流電場の周波数を変化させ、10Hzの低周波から150kHzの高周波まで交流電場で駆動したときの蛍光ラベルの信号の振幅強度(各周波数で信号の最大値から最小値を引いた値の規格値)を記録した。測定には緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)を使用した。一例としてジゴキシゲニンプローブ分子の結果を、図12の結合前としてプロットした。
【0092】
次に、基板に固定された上記2本鎖DNAのプローブ分子にターゲット分子(AD−IgG)を結合させた。結合の条件は、ターゲット分子を50 nM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、ターゲット分子を含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、この後、上記測定法と同様に交流電場の周波数を変化させて、蛍光ラベル(蛍光色素)からの信号の振幅強度を記録した。結果は図12の結合後としてプロットした。
【0093】
図12より明らかなように、ターゲット結合前と結合後は高周波側で全く異なった振る舞いをしており、カットオフ周波数に違いがあることがわかる。図13には、異なった分子量のターゲット分子を用いて、上記実験を行い、カットオフ周波数のシフト量とターゲット分子の分子量との関係をプロットしたものである。図13より明らかなように、分子の実効サイズの違いにより変化量に差があることが分かる。
【0094】
従って、蛍光ラベルからの信号の駆動周波数特性を観察することにより、対象溶液中のターゲット分子の分子サイズの違いを検出することが可能となる。この場合、ターゲット分子をラベリングする必要はない。
【0095】
[実施例2](信号の平均値を用いた2本鎖DNAの検出)
次に、蛍光信号の周波数特性の平均値を用いて、相補鎖DNAを検出する実施例を示す。
【0096】
本実施例においても、実施例1と同様図3の装置構成図を用いた。
【0097】
プローブ分子として、一端にチオール基(−SH)を有し、他端に上記蛍光色素としての蛍光シアニン色素(Cy3)を有する1本鎖のDNA(48塩基プローブDNA:ss−48mer−probe−DNA)を用い、非特許文献4に記載された方法によって、上記DNAを自己組織化により、金電極(0.5mmφ)上に硫黄原子を介して固定(結合)し、金電極上に上記DNAによる分子膜を形成した。
【0098】
ここで、DNAを固定した金電極と対向電極である白金電極との間に交流電場(サイン波)、E=−0.15±0.25 Vrms)を印加しながら、蛍光ラベルからの信号を観察した。交流電場の周波数を変化させ、100Hzの低周波から150kHzの高周波まで交流電場で駆動したときの蛍光ラベルの信号の平均値(実際には駆動周波数よりも十分に低い周波数1Hzの信号)を記録した。測定には緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)を使用した。結果を図4のssDNAとしてプロットした。
【0099】
次に、基板に固定された上記DNAをノンラベルの相補鎖DNAと特異的にハイブリダイズさせ、2本鎖DNAを形成した。ハイブリダイゼーションの条件は、相補鎖DNAを1μM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、相補鎖DNAを含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、この後、上記測定法と同様に交流電場の周波数を変化させて、蛍光ラベル(蛍光色素)からの信号を記録した。結果は図4のdsDNAとしてプロットした。図4より明らかなように、ssDNAとdsDNAは高周波側で全く異なった振る舞いをしていることが理解される。
【0100】
このとき、相補鎖DNAが評価したいターゲット分子であった場合には、蛍光ラベルからの信号の駆動周波数特性を観察することにより、対象溶液中のターゲット分子の有無の検出が可能となる。この場合、ターゲット分子をラベリングする必要は無い。
【0101】
蛍光ラベルからの信号は、ssDNAやdsDNAの分子の運動特性を反映した独特のものであるため、対象ターゲットを評価する上で、他のコンタミ物質の共存による影響や非特異吸着したターゲットの誤評価等を回避できることによる、高選択性や低ノイズと言った利点がある。
【0102】
本実施例では、蛍光ラベルからの信号の平均値として1Hzの信号を記録しているが、駆動周波数に比べて十分低い周波数であればどの周波数を用いてもよく、連続(DC)で記録してもよい。また、DNAの駆動周波数特性を100Hzから150kHzまで詳細に測定しているが、図4から明らかなように有意差のある任意の2点以上の周波数を観察することによってもターゲット分子の評価が可能である。また、あらかじめターゲット分子の結合前後のシグナルの変化が予想できる場合、または、予備実験により変化が既知の場合は、結合前後のシグナルを評価する必要はなく、ターゲット分子の結合に相当する実験後のみのシグナルを評価し、ターゲット分子の有無を評価することができる。
【0103】
更に、本実施例ではプローブ分子をssDNA、ターゲット分子をその相補鎖DNAとしているが、プローブ分子とプローブ分子−ターゲット分子結合体の駆動周波数特性に違いがあるものであれば、どのようなものでも対象となることは言うまでもない。
【0104】
[実施例3](信号の平均値を用いたターゲット分子有無の検出)
図2に必要な装置構成図を示す。図2は、基板4上の金電極2に、蛍光色素(蛍光ラベル、すなわちマーカー)3とターゲット分子7と特異的に結合するターゲット分子結合部6を分子中に有するプローブ分子1を固定(結合)させ、このプローブ分子に光ファイバー(入射光ファイバー)10を用いて、蛍光色素が励起され、発光/消光を生じ得る波長の光を照射すると共に、蛍光色素からの発光/消光を検知する光ファイバー(受光ファイバー、図示せず)を備えた状態の装置の一例を説明するための概略説明図である。
【0105】
金電極には溶液電位に対して高周波駆動可能なAC電源とオフセット電位印加用のDC電源が接続されていた。
【0106】
プローブ分子として、一端にチオール基(−SH)を有し、他端に上記蛍光色素としての蛍光シアニン色素(Cy3)を有する1本鎖のDNA(48塩基プローブDNA:ss−48mer−probe−DNA)を用い、非特許文献4に記載された方法によって、上記DNAを自己組織化により、金電極(0.5mmφ)上に硫黄原子を介して固定(結合)し、金電極上に上記DNAによる分子膜を形成した。さらに、ターゲット分子(アンチジゴキシゲニン)と特異的に結合するプローブ分子(ジゴキシゲニン:図9参照)を一端に有する相補鎖DNAと基板に固定された上記DNAをハイブリダイズさせ、2本鎖DNAを形成した。ハイブリダイゼーションの条件は、相補鎖DNAを1μM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、相補鎖DNAを含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、基板上に蛍光色素とプローブ分子を有する2本鎖DNAを形成した。
【0107】
ここで、DNAを固定した金電極と対向電極である白金電極との間に交流電場(サイン波)、E=−0.15±0.25 Vrms)を印加しながら、蛍光ラベルからの信号を観察した。交流電場の周波数を変化させ、100Hzの低周波から150kHzの高周波まで交流電場で駆動したときの蛍光ラベルの信号の平均値(実際には駆動周波数よりも十分に低い周波数1Hzの信号)を記録した。測定には緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)を使用した。結果を図5のAntiDig結合前としてプロットした。
【0108】
次に、基板に固定された上記2本鎖DNAのプローブ分子とターゲット分子を結合させた。結合の条件は、ターゲット分子を50 nM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、ターゲット分子を含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、この後、上記測定法と同様に交流電場の周波数を変化させて、蛍光ラベル(蛍光色素)からの信号を記録した。結果は図5のAntiDig結合後としてプロットした。図5より明らかなように、ターゲット結合前と結合後は高周波側で全く異なった振る舞いをしていることが理解される。
【0109】
このとき、蛍光ラベルからの信号の駆動周波数特性を観察することにより、対象溶液中のターゲット分子の有無の検出が可能となる。この場合、ターゲット分子をラベリングする必要は無い。
【0110】
蛍光ラベルからの信号は、ターゲット結合前後の分子の運動特性を反映した独特のものであるため、対象ターゲットを評価する上で、他のコンタミ物質の共存による影響や非特異吸着したターゲットの誤評価等を回避できることによる、高選択性や低ノイズと言った利点がある。
【0111】
本実施例では、蛍光ラベルからの信号の平均値として1Hzの信号を記録しているが、駆動周波数に比べて十分低い周波数であればどの周波数を用いてもよく、連続(DC)で記録してもよい。また、DNAの駆動周波数特性を100Hzから150kHzまで詳細に測定しているが、図5から明らかなように有意差のある任意の2点以上の周波数を観察することによってもターゲット分子の評価が可能である。また、あらかじめターゲット分子の結合前後のシグナルの変化が予想できる場合、または、予備実験により変化が既知の場合は、結合前後のシグナルを評価する必要はなく、ターゲット分子の結合に相当する実験後のみのシグナルを評価し、ターゲット分子の有無を評価することができる。
【0112】
更に、本実施例ではプローブ分子をジゴキシゲニン付きDNA、ターゲット分子をアンチジゴキシゲニンとしているが、プローブ分子とプローブ分子−ターゲット分子結合体の駆動周波数特性に違いがあるものであれば、どのようなものでも対象となることは言うまでもない。
【0113】
[実施例4](信号の平均値を用いたターゲット分子のサイズの違いの検出)
次に、サイズ(実効値)の異なった分子をターゲットとして、その違いを蛍光信号の平均値を用いて評価する方法の実施例を示す。図11の左側には分子を種類と分子量が示されており、右側には、ターゲット分子のサイズ(実効値)としてDLS法で得たHydrodynamic diameter(溶液中の付着イオンを含んだ実効直径)が示されている。Hydrodynamic diameterの加重平均がストークス半径の2倍である。
【0114】
本実施例においても、実施例3と同様図2の装置構成図を用いた。特に記載しない限り、その使用条件も実施例3と同様である。
【0115】
プローブ分子として、一端にチオール基(−SH)を有し、他端に上記蛍光色素としての蛍光シアニン色素(Cy3)を有する1本鎖のDNA(72塩基プローブDNA:ss−72mer−probe−DNA)を用い、非特許文献4に記載された方法によって、上記DNAを自己組織化により、金電極(2 mmφ)上に硫黄原子を介して固定(結合)し、金電極上に上記DNAによる分子膜を形成した。さらに、ターゲット分子と特異的に結合するプローブ分子を一端に有する相補鎖DNAと基板に固定された上記DNAをハイブリダイズさせ、2本鎖DNAを形成した。ハイブリダイゼーションの条件は、相補鎖DNAを1μM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、相補鎖DNAを含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、基板上に蛍光色素とプローブ分子を有する2本鎖DNAを形成した。異なった分子量のターゲットとして、アンチジゴキシゲニンFabフラグメント(AD−Fab)、アンチビオチンF(ab’)2フラグメント(AB−F(ab’)2)、アンチビオチンIgG(AB−IgG)(図14右参照)を用い、AD−Fabのプローブ分子として、ジゴキシゲニン、AB−F(ab’)2とAB−IgGのプローブ分子としてビオチンを用いている。
【0116】
ここで、DNAを固定した金電極と対向電極である白金電極との間に交流電場(サイン波)、E=−0.15±0.25 Vrms)を印加しながら、蛍光ラベルからの信号を観察した。交流電場の周波数を変化させ、100Hzの低周波から150kHzの高周波まで交流電場で駆動したときの蛍光ラベルの信号の平均値(実際には駆動周波数よりも十分に低い周波数1Hzの信号)を記録した。測定には緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)を使用した。結果を図14のターゲット分子結合前(DNA−tag)としてプロットした。なお、これらのターゲット分子の形状を図14の右側に模式的に示した。
【0117】
次に、基板に固定された上記2本鎖DNAのプローブ分子とターゲット分子を結合させた。結合の条件は、ターゲット分子を50 nM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、ターゲット分子を含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、この後、上記測定法と同様に交流電場の周波数を変化させて、蛍光ラベル(蛍光色素)からの信号(平均値)を記録した。結果は図14のターゲット結合後(DNA−D&AD−Fab,DNA−B&AB−F(ab’)2、DNA−B&AB−IgG)としてプロットした。なお、DNA−Dは、プローブ分子がジゴキシゲニン(D)であるDNA−tagを、DNA−Bは、プローブ分子がアンチビオチン(B)であるDNA−tagを意味する。
【0118】
図14より明らかなように、ターゲット結合前と結合後は高周波側で全く異なった振る舞いをしており、さらに分子の実効サイズの違いにより変化量に差があることが分かる。
【0119】
従って、蛍光ラベルからの信号の駆動周波数特性を観察することにより、対象溶液中のターゲット分子の分子サイズの違いを検出することが可能となる。この場合、ターゲット分子をラベリングする必要は無い。
【0120】
具体例として、図14の低周波(800Hz)における蛍光ラベルからの信号(平均値)LF−Favgと高周波(100kHz)における蛍光ラベルからの信号(平均値)HF−Favgの比(HF−Favg/LF−Favg)と分子量との関係を図15に示す。比較のため、実施例1で示した、周波数特性の振幅強度のカットオフ周波数のシフト量もあわせて示す。この図から、プローブ分子が異なるにも拘わらず、また、ターゲット分子の種類や形状が大幅に異なるにも拘わらず、信号の変化量と分子量の関係を一義的に与えることが示された。
【0121】
従って、たとえば、同一のマーカーと同一のプローブ分子とについて、本実施例のターゲット分子とは異なるターゲット分子(ターゲット分子X)を使用して、同様の蛍光ラベルからの信号(平均値)を得た場合に、図15の関係を使用して、ターゲット分子Xの分子量を決定することができる。
【0122】
蛍光ラベルからの信号は、ターゲット結合前後の分子の運動特性を反映した独特のものであるため、対象ターゲットを評価する上で、他のコンタミ物質の共存による影響や非特異吸着したターゲットの誤評価等を回避できることによる、高選択性や低ノイズと言った利点がある。
【0123】
本実施例では、蛍光ラベルからの信号の平均値として1Hzの信号を記録しているが、駆動周波数に比べて十分低い周波数であればどの周波数を用いてもよい。また、DNAの駆動周波数特性を100Hzから150kHzまで詳細に測定しているが、図14から明らかなように有意差のある任意の2点以上の周波数を観察することによってもターゲット分子の評価が可能である。また、あらかじめターゲット分子の結合前後のシグナルの変化が予想できる場合、または、予備実験により変化が既知の場合は、結合前後のシグナルを評価する必要はなく、ターゲット分子の結合に相当する実験後のみのシグナルを評価し、ターゲット分子の分子量(実効サイズ)を評価することができる。
【0124】
更に、本実施例ではプローブ分子をジゴキシゲニンやビオチン、ターゲット分子をアンチジゴキシゲニンFabフラグメント、アンチビオチンF(ab’)2フラグメントやアンチビオチンとしているが、プローブ分子とプローブ分子−ターゲット分子結合体の駆動周波数特性に違いがあるものであれば、どのようなものでも対象となることは言うまでもない。
【0125】
[実施例5](信号の平均値を用いたターゲット分子の経時変化の検出)
本実施例においても、実施例4と同様図2の装置構成図を用いた。特に記載しない限り、その使用条件も実施例4と同様である。
【0126】
プローブ分子として、一端にチオール基(−SH)を有し、他端に上記蛍光色素としての蛍光シアニン色素(Cy3)を有する1本鎖のDNA(72塩基プローブDNA:ss−72mer−probe−DNA)を用い、非特許文献4に記載された方法によって、上記DNAを自己組織化により、金電極(0.5mmφ)上に硫黄原子を介して固定(結合)し、金電極上に上記DNAによる分子膜を形成した。さらに、ターゲット分子と特異的に結合するプローブ分子を一端に有する相補鎖DNAと基板に固定された上記DNAをハイブリダイズさせ、2本鎖DNAを形成した。ハイブリダイゼーションの条件は、相補鎖DNAを1μM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持後、相補鎖DNAを含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて洗浄し、基板上に蛍光色素とプローブ分子を有する2本鎖DNAを形成した。ターゲット分子として、アンチビオチンIgG(AB−IgG)を使用し、AB−IgGのプローブ分子としてビオチンを用いている。
【0127】
ここで、DNAを固定した金電極と対向電極である白金電極との間に交流電場(サイン波)、E=−0.15±0.25 Vrms)を印加しながら、蛍光ラベルからの信号を観察した。交流電場の周波数を変化させ、100Hzの低周波から150kHzの高周波まで交流電場で駆動したときの蛍光ラベルの信号の平均値(実際には駆動周波数よりも十分に低い周波数1Hzの信号)を記録した。測定には緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)を使用した。結果を図16のターゲット結合前(AB−IgGとの結合前)としてプロットした。
【0128】
次に、基板に固定された上記2本鎖DNAのプローブ分子とターゲット分子を結合させた。結合の条件は、ターゲット分子を50 nM含んだ緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが200 mM,pH7.3)中で1時間保持した。
【0129】
この後、ターゲット分子を含まない緩衝溶液(Trisが10 mM,NaClが50 mM,pH7.3)にて所定時間(ここでは20分)連続的に洗浄し、この後、上記測定法と同様に交流電場の周波数を変化させて、蛍光ラベル(蛍光色素)からの信号を記録した。結果を図16のターゲット結合後(結合後の1回目の掃引)としてプロットした。図16より明らかなように、ターゲット結合前後の変化が高周波側で観察できる。
【0130】
さらに、同様の条件で所定時間(20分)連続的に洗浄した後、再度、同様の測定を行い、合計8回の測定を行った。結果をそれぞれ、図16に結合後の2回目の掃引〜結合後の8回目の掃引としてプロットした。
【0131】
図16より明らかなように、ビオチンとアンチビオチンIgGの結合が時間の経過とともに解け、信号がアンチビオチンIgG結合前のものに近づいて行くのが観察できる。図17は、図16の高周波側50kHzのデータを時間経過でプロットしたものである。この図より、ビオチンとアンチビオチンIgGの解離速度を求めることができる。ビオチンとアンチビオチンIgGの解離速度定数は0.0223 min−1であった。
【0132】
なお、上記は、マーカーを備えたプローブ分子にターゲット分子を結合させた状態に対し、溶媒等の適切な媒体を連続的に供給して、ターゲット分子をプローブ分子から脱離させ、その際マーカーから得られる信号の平均値の経時的変化を観察することにより、プローブ分子とターゲット分子との間の脱離速度や脱離速度定数を求めるものであるが、マーカーを備えたプローブ分子に、ターゲット分子を連続的に供給して、ターゲット分子をプローブ分子に結合させ、その際マーカーから得られる信号の平均値の経時的変化を観察することにより、プローブ分子とターゲット分子との間の結合速度や結合速度定数を求めることもできる。
【0133】
蛍光ラベルからの信号は、ターゲット結合前後の分子の運動特性を反映した独特のものであるため、対象ターゲットを評価する上で、他のコンタミ物質の共存による影響や非特異吸着したターゲットの誤評価等を回避できることによる、高選択性や低ノイズと言った利点がある。
【0134】
本実施例では、蛍光ラベルからの信号の平均値として1Hzの信号を記録しているが、駆動周波数に比べて十分低い周波数であればどの周波数を用いてもよい。また、DNAの駆動周波数特性を100Hzから150kHzまで詳細に測定しているが、図16から明らかなように有意差のある任意の2点以上の周波数を観察することによってもターゲット分子の評価が可能である。
【0135】
更に、本実施例ではプローブ分子をビオチン、ターゲット分子をアンチビオチンとしているが、プローブ分子とプローブ分子−ターゲット分子結合体の駆動周波数特性に違いがあるものであれば、どのようなものでも対象となることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1−A】プローブ分子の挙動を示す模式図である。
【図1−B】プローブ分子の挙動を示す模式図である。
【図1−C】プローブ分子の挙動を示す模式図である。
【図2】プローブ分子の各部位の挙動を示す模式図である。実施例3で使用したターゲット分子評価装置の模式図でもある。
【図3】実施例1で使用したターゲット分子評価装置の模式図である。
【図4】交流電圧の周波数を変更した場合におけるマーカーの信号の平均値の挙動を示すグラフである。
【図5】実施例3における、交流電圧の周波数を変更した場合のマーカーの信号の平均値の挙動を示すグラフである。
【図6】蛍光色素の一例としてCy3の構造図。
【図7】酸化還元マーカーの一例としてメチレンブルーの構造図。
【図8】酸化還元マーカーの一例としてフェロセンの構造図。
【図9】実施例3に記載のジゴキシゲニンの構造図。
【図10】蛍光ラベルからの信号の振幅強度の周波数特性。
【図11】実施例1,4で用いた分子量の異なるターゲット分子とその実効サイズ(溶液中の直径)を表している。
【図12】実施例1における、交流電圧の周波数を変更した場合のマーカーの信号の振幅強度の挙動を示すグラフである。
【図13】図12から得られる蛍光ラベルからの信号(振幅強度)のカットオフ周波数のシフト量と分子量との関係を示すグラフである。
【図14】実施例4における、交流電圧の周波数を変更した場合のマーカーの信号挙動を示すグラフである。
【図15】図14から得られる蛍光ラベルからの信号(平均値)の高周波特性と低周波特性の比と分子量との関係を示すグラフである。(比較のために図13も併記。)
【図16】実施例5における、交流電圧の周波数を変更した場合のマーカーの信号挙動を示すグラフである。
【図17】図16から得られる蛍光ラベルからの信号(平均値)の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0137】
1 プローブ分子
2 基板電極
3 マーカー
4 基板
5 感応部
6 ターゲット分子結合部
7 ターゲット分子
8 対向電極
9 外部電場印加装置
10 光照射装置
11 光
12 蛍光
13 蛍光検出手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法であって、
基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、
前記交流電圧の周波数を変更した際に前記基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられた前記マーカーから得られる信号を用いて、前記ターゲット分子のストークス半径または分子量を決定する、ターゲット分子の評価方法。
【請求項2】
マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法であって、
基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、
前記交流電圧の周波数を変更した際に前記基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられた前記マーカーから得られる信号の振幅強度を用いて、前記ターゲット分子のストークス半径または分子量を決定する、ターゲット分子の評価方法。
【請求項3】
マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法であって、
基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、
前記交流電圧の周波数を変更した際に前記基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられた前記マーカーから得られる信号の平均値を用いて、前記ターゲット分子のストークス半径または分子量を決定する、ターゲット分子の評価方法。
【請求項4】
前記評価が、前記マーカーを備えた前記プローブ分子に結合した前記ターゲット分子について前記マーカーから得られる信号の平均値と、前記ターゲット分子と結合していない前記マーカーを備えた前記プローブ分子または前記プローブ分子とは異なるプローブ分子について前記マーカーから得られる信号の平均値との比較と、前記マーカーを備えた前記プローブ分子に結合した前記ターゲット分子についての前記マーカーから得られる信号の平均値と、前記マーカーを備えた前記プローブ分子または前記プローブ分子とは異なるプローブ分子に結合した他の種類のターゲット分子についての前記マーカーから得られる信号の平均値との比較との少なくともいずれ一方を行うことを含む、請求項3に記載のターゲット分子の評価方法。
【請求項5】
マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法であって、
基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、
前記交流電圧の周波数を変更した際に前記基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられた前記マーカーから得られる信号の平均値を用いて、前記プローブ分子と前記ターゲット分子との間の結合速度、結合速度定数、前記プローブ分子と前記ターゲット分子との間の解離速度および、解離速度定数の少なくともいずれか一つを決定する、ターゲット分子の評価方法。
【請求項6】
前記評価が、マーカーから得られる信号の平均値の経時的変化の観察を含む、請求項5のいずれかに記載のターゲット分子の評価方法。
【請求項7】
前記マーカーが蛍光マーカーであり、前記信号が当該蛍光マーカーの発光/消光である、請求項1〜6のいずれかに記載のターゲット分子の評価方法。
【請求項8】
前記ターゲット分子が蛋白質である、請求項1〜7のいずれかに記載のターゲット分子の評価方法。
【請求項1】
マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法であって、
基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、
前記交流電圧の周波数を変更した際に前記基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられた前記マーカーから得られる信号を用いて、前記ターゲット分子のストークス半径または分子量を決定する、ターゲット分子の評価方法。
【請求項2】
マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法であって、
基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、
前記交流電圧の周波数を変更した際に前記基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられた前記マーカーから得られる信号の振幅強度を用いて、前記ターゲット分子のストークス半径または分子量を決定する、ターゲット分子の評価方法。
【請求項3】
マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法であって、
基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、
前記交流電圧の周波数を変更した際に前記基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられた前記マーカーから得られる信号の平均値を用いて、前記ターゲット分子のストークス半径または分子量を決定する、ターゲット分子の評価方法。
【請求項4】
前記評価が、前記マーカーを備えた前記プローブ分子に結合した前記ターゲット分子について前記マーカーから得られる信号の平均値と、前記ターゲット分子と結合していない前記マーカーを備えた前記プローブ分子または前記プローブ分子とは異なるプローブ分子について前記マーカーから得られる信号の平均値との比較と、前記マーカーを備えた前記プローブ分子に結合した前記ターゲット分子についての前記マーカーから得られる信号の平均値と、前記マーカーを備えた前記プローブ分子または前記プローブ分子とは異なるプローブ分子に結合した他の種類のターゲット分子についての前記マーカーから得られる信号の平均値との比較との少なくともいずれ一方を行うことを含む、請求項3に記載のターゲット分子の評価方法。
【請求項5】
マーカーを備えたプローブ分子に結合したターゲット分子の評価方法であって、
基板上に設けられた基板電極と対向電極との間に交流電圧を与え、
前記交流電圧の周波数を変更した際に前記基板電極上に結合した前記プローブ分子に備えられた前記マーカーから得られる信号の平均値を用いて、前記プローブ分子と前記ターゲット分子との間の結合速度、結合速度定数、前記プローブ分子と前記ターゲット分子との間の解離速度および、解離速度定数の少なくともいずれか一つを決定する、ターゲット分子の評価方法。
【請求項6】
前記評価が、マーカーから得られる信号の平均値の経時的変化の観察を含む、請求項5のいずれかに記載のターゲット分子の評価方法。
【請求項7】
前記マーカーが蛍光マーカーであり、前記信号が当該蛍光マーカーの発光/消光である、請求項1〜6のいずれかに記載のターゲット分子の評価方法。
【請求項8】
前記ターゲット分子が蛋白質である、請求項1〜7のいずれかに記載のターゲット分子の評価方法。
【図1−A】
【図1−B】
【図1−C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図15】
【図17】
【図2】
【図11】
【図12】
【図14】
【図16】
【図1−B】
【図1−C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図15】
【図17】
【図2】
【図11】
【図12】
【図14】
【図16】
【公開番号】特開2010−127804(P2010−127804A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303621(P2008−303621)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(506034592)テクニッシェ ウニヴェルシテート ミュンヘン (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(506034592)テクニッシェ ウニヴェルシテート ミュンヘン (3)
【Fターム(参考)】
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