説明

タービン軸の軸力測定方法及び過給機

【課題】(1)締結具を用いてコンプレッサインペラをタービン軸に固定する際に当該タービン軸に作用する軸力を高精度に測定する。(2)所望性能を満足するように過給機を組み立てる。(3)過給機の性能の個体差を縮小する。ことができるタービン軸の軸力測定方法及び過給機を提供する。
【解決手段】タービン軸2の一端側に形成されて先端にネジ部2dが形成された挿入部2bをコンプレッサインペラ4に挿入して、コンプレッサインペラ4をタービン軸2の一端と他端との間に形成された受け面2cにネジ部2dに螺着する締結ナット5で押圧固定する際のタービン軸2に作用する軸力を測定する方法であって、挿入部2bの表面に歪みゲージ6,7を予め設けた状態で挿入部2bをコンプレッサインペラ4に挿入して押圧固定し、歪みゲージ6,7が示す歪み量に基づいて前記軸力を測定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン軸の軸力測定方法及び過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1,2には、タービン軸が挿入されたコンプレッサインペラを締結具(ナット)で固定するターボ過給機が開示されている。このようなターボ過給機を組み立てる場合には、コンプレッサインペラとタービン軸との滑りが生じないよう、かつ、タービン軸に機械的ダメージを与えないように、タービン軸に作用する軸力が所定値となるように締結具を締め付ける必要がある。従来では、締結具(ナット)に作用するトルクをトルクレンチ等で計測することによって上記軸力を評価している。
【特許文献1】特開2006−9634号公報
【特許文献2】特開平5−79346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の軸力の評価手法は、精度の面で大きな問題がある。すなわち、上記トルクと軸力との関係は、コンプレッサインペラあるいは締結具(ナット)等の表面性の違いや締め付け作業を行う作業者の個体差等に起因して変動し、極端な場合には30パーセント程の大きな誤差を生じ得る。
このような誤差を解消するために、軸力を専用の測定器(軸力測定器)で評価することが考えられるが、現状では、過給機のタービン軸の組み立てに要求される軸力の設定精度を満足する性能を有する軸力測定器は実用化されていない。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、以下の点を目的とするものである。
(1)締結具を用いてコンプレッサインペラをタービン軸に固定する際に当該タービン軸に作用する軸力を高精度に測定する。
(2)所望性能を満足するように過給機を組み立てる。
(3)過給機の性能の個体差を縮小する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用する。
すなわち、本発明は、タービン軸の軸力測定方法に係る第一の解決手段として、タータービン軸の一端側に形成されて先端にネジ部が形成された挿入部をコンプレッサインペラに挿入して、前記コンプレッサインペラを前記タービン軸の一端と他端との間に形成された受け面に前記ネジ部に螺着する締結ナットで押圧固定する際の前記タービン軸に作用する軸力を測定する方法であって、前記挿入部の表面に歪みゲージを予め設けた状態で前記挿入部を前記コンプレッサインペラに挿入して該コンプレッサインペラを押圧固定し、前記歪みゲージが示す歪み量に基づいて前記軸力を測定する、という手段を採用する。
【0006】
また、タービン軸の軸力測定方法に係る第二の解決手段として、上記タービン軸の軸力測定方法に係る第一の解決手段において、前記挿入部の表面において前記タービン軸の軸心を挟んで対称な位置に歪みゲージをそれぞれ設け、各歪みゲージの歪み量に基づいて前記軸力を測定する、という手段を採用する。
【0007】
また、タービン軸の軸力測定方法に係る第三の解決手段として、上記タービン軸の軸力測定方法に係る第一または第二の解決手段において、前記タービン軸内に歪みゲージのリード線を軸端に引き出すための貫通孔を設け、該貫通孔から引き出されたリード線から歪み量を取得する、という手段を採用する。
【0008】
また、過給機に係る第一の解決手段として、ケーシングと、タービン軸の一端側に形成されて先端にネジ部が形成された挿入部を挿通されたコンプレッサインペラが前記タービン軸の一端と他端との間に形成された受け面に前記ネジ部に螺着した締結ナットで押圧固定されると共に前記タービン軸の他端にタービンインペラが固着された回動部と、該回動部を前記ケーシングに対して回動自在に支持する軸受け部とを備える過給機であって、前記タービン軸は、前記挿入部の表面に歪みゲージが設けられている、という手段を採用する。
【0009】
また、過給機に係る第二の解決手段として、上記過給機に係る第一の解決手段において、前記歪みゲージが、前記タービン軸の軸心を挟んで対称な位置に設けられている、という手段を採用する。
【0010】
また、過給機に係る第三の解決手段として、上記過給機に係る第一又は第二の解決手段において、前記タービン軸が、内部に前記歪みゲージのリード線を軸端に引き出すための貫通孔が設けられ、該貫通孔に前記歪みゲージのリード線が挿通されている、という手段を採用する。
【0011】
また、過給機に係る第四の解決手段として、上記過給機に係る第一から第三の解決手段のうちいずれかの解決手段において、前記歪みゲージが、前記タービン軸の挿入部に形成された面取り部に設けられている、という手段を採用する。
【0012】
また、過給機に係る第五の解決手段として、上記過給機に係る第四の解決手段において、前記面取り部が、前記タービン軸の軸方向において、前記コンプレッサインペラの最大径に対応した位置又はその近傍に設けられる、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、タービン軸に設けられた挿入部の表面に歪みゲージを予め設けた状態でコンプレッサインペラを挿入してこのコンプレッサインペラを押圧固定し、歪みゲージが示す歪み量に基づいて軸力を測定するので、歪みゲージによって検出された歪み量に基づいて軸力が間接的に測定される。このような本発明によれば、挿入部の歪み量は軸力を正確に反映する物理量なので、軸力を高精度に測定することが可能であり、この結果として所望性能の過給機を組み立てることが可能となると共に、多数の過給機を組み立てた場合の性能のばらつきを縮小することが可能である。
【0014】
また、タービン軸の軸心を挟んで対称な位置に設けた歪みゲージの歪み量に基づいて軸力を測定するので、コンプレッサインペラを締結具で固定する際にタービン軸に曲げ変形が生じても、検出された歪み量の平均値から軸力を測定する。これにより、曲げ方向の歪み成分が相殺され、軸方向の歪み成分のみから正確な軸力を測定することができる。
【0015】
また、タービン軸内に貫通孔を設け、該貫通孔から引き出されたリード線から歪み量を取得するので、歪みゲージが検出した歪み量を無線伝送するための送信機(テレメーター)等を設ける必要がない。これにより、安価かつ簡素な構成で高精度に軸力を測定することが可能となる。
【0016】
また、タービン軸の挿入部には面取り部が設けられ、該面取り部に貼付された歪みゲージが備えられるので、挿入部に歪みゲージを設けた状態でコンプレッサインペラを挿入することができる。これにより、締結具の締め付けにより発生する挿入部の歪み量を検出することができ、この検出された歪み量からタービン軸の軸力を測定することが可能となる。
【0017】
また、面取り部が、軸方向において、コンプレッサインペラの最大径に対応した位置又はその近傍に設けられるので、曲げ荷重がコンプレッサインペラに分散されて面取り部が曲げ変形し難いものとなる。これにより、軸方向に作用する軸力以外の荷重による歪み量を検出することなく、正確な軸力を測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る過給機Aの構成を示す断面図、図2は、本過給機Aにおける回動部1の一部断面図、図3は、回動部1の要部拡大図であって、図3(a)は、図2におけるIIIa矢視図であり、図3(b)は、図2における要部IIIbの拡大図であり、図3(c)は、図3(b)におけるIIIc矢視図である。ここで、図において、回動部1の中心軸(軸心)をPとする。
【0019】
図1に示すように、本過給機Aは、回動部1を軸受け部10を介してケーシング20に回転自在に装着したものである。
【0020】
回動部1は、図1及び図2に示すように、タービン軸2、タービンインペラ3、コンプレッサインペラ4、締結ナット5、一対の歪みゲージ6,7、スラストブッシュ8及び油切り9から構成されている。
【0021】
タービン軸2は、軸心が回動部1の中心軸P上に配置されて、軸受け部10に回動可能に支持される大径の被支持部2a及びコンプレッサインペラ4とスラストブッシュ8と油切り9とに挿入する小径の挿入部2bを備えている。また、被支持部2aと挿入部2bとの境界には、中心軸Pに垂直な受け面2cが形成されている。
【0022】
挿入部2bの外周面には、他端にネジ部2dが(図2参照)、また中心軸Pの方向において、コンプレッサインペラ4の最大径に対応した位置に二つの面取り部2eが形成されている(図3(a),(b)参照)。これら二つの面取り部2eは、軸心(中心軸P)を挟んで対称となるように、また、それぞれの平面が平行となるように形成されたものである。
【0023】
また、図2及び図3に示すように、挿入部2bの内部には、二つの面取り部2eと軸端2fとを貫通する貫通孔2gが形成されている。この貫通孔2gは、放電加工によって穿孔したものであり、軸端2fの中心から中心軸Pに沿って挿入部2bの略中央の分岐点Qまで穿孔した細孔2g1と各面取り部2eから分岐点Qまで穿孔した二つの細孔2g2からなる。
【0024】
図3(b)に示すように、細孔2g2は、軸端2f側に向かうに従って中心軸Pに向かうように、中心軸Pに対して傾斜させた状態で形成されており、二つの細孔2g2と細孔2g1との間のそれぞれの角度が鈍角になっている。
なお、この貫通孔2gは、挿入部2dの外径の約9mmであるのに対して、その孔径が約1mmとなっており、挿入部2bの剛性を十分に確保しつつ、後述の2つのリード線6a,7aを確実に挿通することができるものとなっている。
【0025】
図2に戻って、タービンインペラ3は、放射状に形成された複数の長翼及び短翼が交互に設けられたものであり、タービン軸2の一端に固着されている。具体的には、タービン軸2における被支持部2a側の端面に溶接により固着されている。
【0026】
コンプレッサインペラ4は、タービンインペラ3と同様に複数の長翼と短翼が交互に設けられたものであり、挿入孔4aに挿入部2bが挿入されてスラストブッシュ8と油切り9を介して締結ナット5により押圧固定されている。
【0027】
締結ナット5は、ネジ部2dに螺着しており、コンプレッサインペラ4とスラストブッシュ8と油切り9とを受け面2cに押圧してそれぞれをタービン軸2(挿入部2b)に固定している。この締結ナット5は、挿入部2bに軸力値F2が発生するように締め付けられている。この軸力値F2は、コンプレッサインペラ4がタービン軸2に対してスリップをすることがなく、かつ、タービン軸2が破損するおそれのない軸力値に設定されている。
【0028】
歪みゲージ6,7は、面取り部2eにタービン軸2(挿入部2b)に設けられて、それぞれのリード線6a,7aが貫通孔2gを挿通して軸端2fまで引き出されている。
図3(a),(b)に示すように、歪みゲージ6,7は、中心軸Pの軸方向においてコンプレッサインペラ4の最大径に対応した位置に中心軸Pを挟んで対称となるように、また、図3(c)に示すように、中心軸P方向の歪みが検出することができるように貼付されている。
【0029】
リード線6a,7aは、それぞれの一端を各面取り部2e側の開口から細孔2g2に沿って分岐点Qまで斜めに挿入し、さらに、軸端2fまで挿入したものである。この際、上述したように、二つの細孔2g2と細孔2g1との間のそれぞれの角度が鈍角になっているので、リード線6a,7aを貫通孔2gの途中で角部などに邪魔されることなく、円滑に進入させることができる。なお、貫通孔2gから引き出されたリード線6a,7aの一端は、不図示の歪み軸力変換器に接続されている。
【0030】
スラストブッシュ8は、後述のスラストベアリング15に回動部1の軸方向の荷重を伝えるものであり、回動部1を構成すると共に軸受け部10を構成する。このスラストブッシュ8は、フランジが形成された略円筒形状の部材であり、フランジ側の一方の端面が受け面2cに、他方の端面が油切り9に当接しており、コンプレッサインペラ4と同様に締結ナット5によってタービン軸2に押圧固定されている。
【0031】
油切り9は、後述のベアリングケーシング21に供給されるオイルOをシールプレート23と共にシールする部材である。この油切り9は、外周面に凹部が周状に形成された略円筒形状のものであり、一方の端面がスラストブッシュ8と、他方の端面がコンプレッサインペラ4に当接しており、締結ナット5によってタービン軸2に押圧固定されている。
【0032】
軸受け部10は、本実施形態においては、フルフロート式の浮動ブッシュ軸受構造となっており、スラストブッシュ8、ベアリングケーシング21、一対のフローティングメタル12A,12B、スラストベアリング15、一対のリテーニングリング13、軸受スペーサ14及びオイルOから構成されている。なお、ベアリングケーシング21は、軸受け部10を構成すると共にケーシング20を構成するものである。
【0033】
ベアリングケーシング21は、タービン軸2が挿通する軸挿通孔21aと車両から供給されるオイルOの流路21bとが形成されたものである。この流路21bは、オイルOがフローティングメタル12A,12Bとスラストブッシュ8とに供給された後に、主にタービンケーシング22側が冷却されるように構成されて、最後に外部に排出されるように形成されている。
【0034】
フローティングメタル12A,12Bは、周面に複数の貫通孔を備える円筒部材であり、上記タービン軸2(被支持部2a)の所定間隔を隔てた2点と後述のベアリングケーシング21との間に設けられている。
【0035】
リテーニングリング13は、断面がC字形状に形成されたものであり、軸挿通孔21aを形成する周壁に設けられた周溝に係止されて、フローティングメタル12Aの軸方向への移動を制限している。
軸受スペーサ14は、リング状の部材であり、軸挿通孔21aの周壁に係止してスラストブッシュ8と共にフローティングメタル12Bの軸方向への移動を制限している。
【0036】
スラストベアリング15は、中空円盤形状の部材であり、スラストブッシュ8を介してタービン軸2が挿通されている。そして、スラストブッシュ8のフランジ部をベアリングケーシング21及びフローティングメタル12Bと挟み込むようにして、ベアリングケーシング21に固定されている。このような構成により、スラストベアリング15は、タービン軸2のスラスト方向の荷重をスラストブッシュ8から受けるようになっている。
【0037】
このような軸受け部10は、過給機Aの稼動時にオイルOが絶えず供給されて、フローティングメタル12A,12Bの内周面上及び外周面上に油膜が形成・保持される。そして、フローティングメタル12A,12Bの内方で油膜を介してタービン軸2が回転し、タービン軸2の回転に伴って油膜を介してフローティングメタル12A,12Bが回転運動する。フローティングメタル12A,12Bの回転数は、例えばタービン軸2の回転数の数十%程度である。このような構成により、タービン軸2が高い回転数で回転しても回動自在に支持することができるようになっている。
【0038】
ケーシング20は、ベアリングケーシング21の一端にタービンケーシング22を、またベアリングケーシング21の他端にシールプレート23を、このシールプレート23にコンプレッサケーシング24を接合して構成されている。
【0039】
タービンケーシング22は、タービンインペラ3を収容する収容部22aと収容部22aに巻きつくように形成されたスクロール部22bを備え、ベアリングケーシング21と接合することによって車両から供給される排気ガスの流路を形成している。
【0040】
シールプレート23は、略円盤状の部材であり、略中央に形成された貫通口に油切り9を介してタービン軸2を挿通する。この貫通口には、リング状のシールリング23aが設けられており、このシールリング23aと上述した油切り9の外周面に設けられた凹部にシールリング23aが係合することによって、ベアリングケーシング21に供給されたオイルOがコンプレッサケーシングに漏出することを防止している。
【0041】
コンプレッサケーシング24は、コンプレッサインペラ4を収容する収容部24aと収容部24aに巻きつくように形成されたスクロール部24bを備え、ベアリングケーシング21と接合することによって車両に供給する空気の流路を形成している。
【0042】
次に、上記のような構成を備える過給機Aの組み立て手順について説明する。
過給機Aの組み立て時において、タービンケーシング22、シールプレート23、コンプレッサケーシング24等が取り付けられていないベアリングケーシング21にフローティングメタル12A,12Bを設ける。そして、タービンインペラ3が固着されたタービン軸2をタービンケーシング22側からコンプレッサケーシング24側までベアリングケーシング21に挿通させる。
【0043】
次に、タービン軸2の挿入部2bにスラストブッシュ8を挿入した後に、ベアリングケーシング21の内端面にスラストベアリング15を固定し、挿入部2bを油切り9に挿入する。
【0044】
次に、ベアリングケーシング21にシールプレート23を固定し、挿入部2bをコンプレッサインペラ4に挿入する。この際、歪みゲージ6,7は、面取り部2eに貼付されており、挿入部2bの外周面よりも外側に突出していないので、歪みゲージ6,7がコンプレッサインペラ4における挿入孔4aの形成面に干渉することはない。そして、ネジ部2dに締結ナット5を螺着させて、タービン軸2を固定した状態で締結ナット5をスパナによって締め込む。
また、締結ナット5をネジ部2dに螺着させた後に、軸端2fから引き出されたリード線6a,7aを歪み軸力変換器(不図示)に接続する。
【0045】
締結ナット5の端面がコンプレッサインペラ4に当接し、さらにスパナを締め込むとコンプレッサインペラ4と油切り9とスラストブッシュ8とが締結ナット5と受け面2cとに押圧されると共に挿入部2bが軸方向に引っ張られて、挿入部2bに軸方向の歪みεと軸力F(引張応力)が発生する。
【0046】
この際、タービン軸2は固定されており、スパナに加えられる力により全体的に見てタービン軸2に曲げ変形が生じる。ここで、面取り部2eは、曲げ荷重がコンプレッサインペラ4に分散されて曲げ変形の量が微小である。
【0047】
歪みゲージ6,7は、この際に生じる核面取り部2eの歪みεを検出して、リード線6a,7aに接続された歪み軸力変換器に各検出値εとεを伝送する。
【0048】
リード線6a,7aに接続された歪み軸力変換器(不図示)には、この特性曲線が示す歪みεと軸力Fとの関係を示すデータが予め記憶されており、二つの歪みゲージ6,7から歪みεの各検出値が入力されると入力された二つの検出値の平均値を算出して、この値に対応する軸力Fの測定値が歪み軸力変換器に備えられたモニターに示されるようになっている。
【0049】
図4は、挿入部2bに発生する軸力Fと歪みεの関係を示す特性曲線を示したものである。
この図4に示す特性曲線図は、予めタービン軸2と同等部品を用意し、挿入部2bについて引張試験を行って、軸力F(引張荷重)と歪みεとの関係を求めたものである。
【0050】
歪み軸力変換器は、リード線6a,7aから伝送された各検出値εとεの平均値を算出すると共に、図4に示す特性曲線図に基づいて、算出された平均値を軸力Fに換算して、この変換した軸力Fの軸力値F1をモニターに表示する。
【0051】
そして、歪みεが検出値ε2になるまで、すなわち、規定された軸力値F2まで締結ナット5を締め付けた後に、軸端2fから外側に引き出されたリード線6a,7aを切断し、タービンケーシング22をベアリングケーシング21に、コンプレッサケーシング24をシールプレート23に固定する。
このようにして組み立てられた過給機Aが車両に取り付けられて安定的に運転される。
【0052】
以上説明した通り、本発明によれば、タービン軸2に設けられた挿入部2bの表面に歪みゲージ6,7を予め設けた状態でコンプレッサインペラ4を挿入して押圧固定し、歪みゲージ6,7によって検出された歪み量εに基づいて軸力Fを測定するので、この歪み量εに基づいて軸力Fが間接的に測定される。このような本発明によれば、挿入部の歪み量εは、軸力を正確に反映する物理量なので、軸力Fを高精度に測定することが可能となる。
【0053】
従って、誤差を考慮して、規定された軸力値F2よりも低い軸力値で締結ナット5を締め込む必要がなくなり、コンプレッサインペラ4のスリップを完全に防止することができる。また、軸力Fの誤差を考慮して、タービン軸2に強度が高い材料を使用したり、タービン軸2の寸法を大きく構成したりする必要がなくなり、タービン軸2を最適に使用することが可能となる。さらに、過給機Aの性能の個体差を縮小することが可能となる。
【0054】
また、タービン軸2の中心軸P(軸心)を挟んで対称な位置に設けた歪みゲージ6,7が検出する歪み量εに基づいて軸力Fを測定するので、コンプレッサインペラ4を締結ナット5で固定する際にタービン軸2に曲げ変形が生じても二つの歪み量εの平均値から軸力Fを測定する。これにより、曲げ方向の歪み成分が相殺され、中心軸P方向の歪み成分のみから正確な軸力Fを測定することができる。
【0055】
また、タービン軸2の挿入部2bには面取り部2eが設けられ、面取り部2eに貼付された歪みゲージ6,7が備えられるので、挿入部2bに歪みゲージ6,7を設けた状態でコンプレッサインペラ4を円滑に挿入することができる。
また、歪みゲージ6,7がコンプレッサインペラ4の内面によって覆われて確実に保持される。つまり、回動部1を回転させた際に、歪みゲージ6,7が脱落することを防止することができる。
【0056】
また、二つの面取り部2eが、タービン軸2の中心軸P(軸心)を挟んで対称な位置に設けられるので、中心軸Pの外周面において互いの距離が最も離間したものとなる。これにより、一方の面取り部2eが他方の面取り部2eに影響することを最小限にすることができる。すなわち、ねじり応力の分布を線対称的なものとして、ねじり応力が一部に集中することを防止すると共に、二つの面取り部2eを設けない場合に比べて断面二次極モーメントの低下を最小限にすることができる。
さらに、面取り部2eを設けた部分の中心軸P周りの回転バランスの悪化を最小限に抑えることができる。
【0057】
また、面取り部2e、貫通孔2g(細孔2g1,2g2)、歪みゲージ6,7は、中心軸Pを中心として、対称的に設けられるので、回動部1の回転バランスを取り易いものとすることができる。
【0058】
また、タービン軸2内に貫通孔2gを設け、貫通孔2gから引き出されたリード線6a,7aから歪み量εを取得するので、歪みゲージ6、7が検出した歪み量εを無線伝送するための送信機(テレメーター)等を設ける必要がない。これにより、安価かつ簡素な構成で、高精度に軸力Fを測定することが可能となる。
【0059】
また、面取り部2eが、タービン軸2の軸方向において、コンプレッサインペラ4の最大径に対応した位置に設けられ、曲げ荷重がコンプレッサインペラ4に分散されて面取り部2eが曲げ変形し難いものとなる。これにより、軸方向に作用する軸力F以外の荷重による歪み量εを検出することなく、正確な軸力Fを測定することが可能となる。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下の変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、面取り部2eをタービン軸2の軸方向におけるコンプレッサインペラ4の最大径に対応した位置に(空気流入口の位置に対応した位置に対向するように)形成したが、これは、タービン軸2の曲がりの影響を避けて極めて正確に歪み量εを検出するようにしたためであり、コンプレッサインペラ4の最大径に対応した位置の近傍においても正確な検出値を得ることができるし、他の位置でも良好な検出値を得ることができる。
【0061】
(2)また、上記実施形態では、二つの歪みゲージを設けたが、1つの歪みゲージから歪み量εを検出して、軸力Fを求めることができる。さらに、歪みゲージを二つ以上設けて、各歪みゲージが検出した歪み量εから平均値を算出してこれにより軸力Fを求めてもよい。
(3)また、上記実施形態では、規定の軸力に到達した後にリード線6a,7aを切断したが、締結ナット5に収容部(例えば袋ナット)を用いてリード線6a,7aを収容し、メンテナンス時に歪み軸力変換器に再度接続して所定の軸力Fで締結ナット5を接続してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態において、過給機Aの概略構成図を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態において、回動部1の一部断面図である。
【図3】本発明の一実施形態において、回動部1の要部拡大図であって、図3(a)は、図2におけるIIIa矢視図であり、図3(b)は、図2における要部IIIbの拡大図であり、図3(c)は、図3(b)におけるIIIc矢視図である。
【図4】本発明の一実施形態において、挿入部2bに発生する軸力Fと歪みεの関係を示す特性曲線を示したものである。
【符号の説明】
【0063】
2…タービン軸
2b…挿入部
2e…面取り部
2f…端面
2g…貫通孔
3…タービンインペラ
4…コンプレッサインペラ
6,7…歪みゲージ
6a,7a…リード線
10…軸受け部
20…ケーシング
A…過給機
F…軸力
ε…歪み量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン軸の一端側に形成されて先端にネジ部が形成された挿入部をコンプレッサインペラに挿入して、前記コンプレッサインペラを前記タービン軸の一端と他端との間に形成された受け面に前記ネジ部に螺着する締結ナットで押圧固定する際の前記タービン軸に作用する軸力を測定する方法であって、
前記挿入部の表面に歪みゲージを予め設けた状態で前記挿入部を前記コンプレッサインペラに挿入して該コンプレッサインペラを押圧固定し、前記歪みゲージが示す歪み量に基づいて前記軸力を測定することを特徴とするタービン軸の軸力測定方法。
【請求項2】
前記挿入部の表面において前記タービン軸の軸心を挟んで対称な位置に歪みゲージをそれぞれ設け、各歪みゲージの歪み量に基づいて前記軸力を測定することを特徴とする請求項1記載のタービン軸の軸力測定方法。
【請求項3】
前記タービン軸内に歪みゲージのリード線を軸端に引き出すための貫通孔を設け、該貫通孔から引き出されたリード線から歪み量を取得することを特徴とする請求項1または2記載のタービン軸の軸力測定方法。
【請求項4】
ケーシングと、タービン軸の一端側に形成されて先端にネジ部が形成された挿入部を挿通されたコンプレッサインペラが前記タービン軸の一端と他端との間に形成された受け面に前記ネジ部に螺着した締結ナットで押圧固定されると共に前記タービン軸の他端にタービンインペラが固着された回動部と、該回動部を前記ケーシングに対して回動自在に支持する軸受け部とを備える過給機であって、
前記タービン軸は、前記挿入部の表面に歪みゲージが設けられていることを特徴とする過給機。
【請求項5】
前記歪みゲージは、前記タービン軸の軸心を挟んで対称な位置に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の過給機。
【請求項6】
前記タービン軸は、内部に前記歪みゲージのリード線を軸端に引き出すための貫通孔が設けられ、該貫通孔に前記歪みゲージのリード線が挿通されていることを特徴とする請求項4または5記載の過給機。
【請求項7】
前記歪みゲージは、前記タービン軸の挿入部に形成された面取り部に設けられていることを特徴とする4から6のうちいずれか一項に記載の過給機。
【請求項8】
前記面取り部は、前記タービン軸の軸方向において、前記コンプレッサインペラの最大径に対応した位置又はその近傍に設けられることを特徴とする請求項7記載の過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−209731(P2009−209731A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52312(P2008−52312)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】