説明

ターボチャージャ用複列玉軸受ユニット

【課題】安価で、しかも低温時から高温時まで安定した性能を発揮させる為のチューニングを容易にできる構造を実現する。
【解決手段】外輪8の内周面に設けた複列の外輪軌道12a、12bと、1対の内輪9a、9bの外周面に設けた複列の内輪軌道13a、13bとの間に、両列毎に複数個ずつの玉10、10を設ける。これら各玉10、10を、ジルコニアを主成分とするセラミック製とする。窒化珪素系のセラミックに比べて安価で、且つ、高炭素クロム軸受鋼等の鉄系の合金との線膨張係数の差が小さいジルコニアを使用する事で、低温時から高温時まで安定した性能を発揮させる為のチューニングを容易に行える。又、前記各玉10、10の転動面と潤滑油との馴染み性を良好にして、低トルク化を図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンの過給器として利用するターボチャージャを構成するインペラとタービンとを両端部に設けた回転軸を、ハウジングに対し回転自在に支持する為に利用する、複列玉軸受ユニットの改良に関する。具体的には、優れた応答性(レスポンス)及び耐久性を有するターボチャージャを、低コストで実現すべく発明したものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力を、排気量を変えずに増大させる為、エンジンに送り込む空気を排気のエネルギにより圧縮するターボチャージャが、広く使用されている。このターボチャージャは、排気のエネルギを、排気通路の途中に設けたタービンにより回収し、このタービンをその端部に固定した回転軸により、給気通路の途中に設けたコンプレッサのインペラを回転させる。このインペラは、エンジンの運転に伴って数万乃至十数万min-1の速度で回転し、前記給気通路内の空気を圧縮してからエンジンに送り込む。従って、前記回転軸をハウジングに回転自在に支持する為の軸受ユニットは、耐高温性に加えて、大きな耐高速性能を要求される。又、アクセルペダルの踏み込みに伴う排気量の増大に応じ、直ちに前記回転軸の回転速度を上昇させる為に、この回転軸と共に回転する部分の慣性質量を低減すると共に、前記軸受ユニットの回転抵抗(動トルク)を低減する事が、従来から考えられている。例えば、前記慣性質量を低減する為に、前記タービンとして、耐熱鋼に比べて軽量な、セラミック製のものを使用する事が行われている。又、前記軸受ユニットとして、滑り軸受に比べて動トルクが小さく、且つ、必要なモーメント剛性を確保できる、複列玉軸受ユニットを使用する事が行われている。
【0003】
この様な、ターボチャージャ用複列玉軸受ユニットを記載した刊行物として、例えば特許文献1〜7がある。図1は、これら各特許文献1〜7に記載された構造とは異なるが、本発明を実施可能な複列玉軸受ユニット1を組み込んだターボチャージャの1例を、図2は、この複列玉軸受ユニット1を、それぞれ示している。このターボチャージャは、排気流路2を流通する排気により、回転軸3の一端(図1の右端)に固定したタービン4を回転させる。この回転軸3の回転は、この回転軸3の他端(図1の左端)に固定したインペラ5に伝わり、このインペラ5が給気流路6内で回転する。この結果、この給気流路6の上流端開口から吸引された空気が圧縮されて、ガソリン、軽油等の燃料と共にエンジンのシリンダ室内に送り込まれる。
【0004】
上述の様な回転軸3をハウジング7内に回転自在に支持する為の、前記複列玉軸受ユニット1は、それぞれが円筒状で互いに同心に配置された一体型の外輪8と、1対の内輪9a、9bと、複数個の玉10、10と、1対の保持器11、11とから成る。このうちの外輪8は、両端部内周面に複列の外輪軌道12a、12bを有する。又、前記両内輪9a、9bは、それぞれの外周面の一部でこれら両外輪軌道12a、12bに対向する部分に、それぞれ内輪軌道13a、13bを有する。又、前記各玉10、10は、前記両列の外輪軌道12a、12bと、前記両内輪軌道13a、13bとの間に、前記保持器11、11に保持された状態で、両列毎に複数個ずつ、転動自在に設けられている。これら両列に配置された前記各玉10、10により構成される1対の玉軸受は、それぞれアンギュラ型玉軸受で所定の方向の接触角を付与している。接触角の方向は、一般的には背面組み合わせ型(DB型)であるが、特許文献2に記載されている様に、正面組み合わせ型(DF型)とする場合もある。又、予圧に関しては、従来は付与する場合が多かったが、一部では付与しない(複列玉軸受ユニットの内部に正の隙間を設定する)事が、10年以上も前から行われている。又、日本国内で公然と実施された以後の出願に係る公開公報である、特許文献3〜5にも記載されている。
【0005】
尚、前記外輪8の外周面と前記ハウジング7の内周面との間には微小隙間14を介在させ、この微小隙間14内に、給油口15を通じて潤滑油(エンジンオイル)を送り込んでから、この潤滑油を前記複列玉軸受ユニット1の内部空間16内に供給する様にしている。前記微小隙間14内に一時滞留した潤滑油は、オイルフィルムダンパを構成して、前記回転軸1の高速回転時にも、前記複列玉軸受ユニット1が振動する事を防止する。尚、前記ハウジング7と前記外輪8との間には回り止め機構を設けて、このハウジング7内でこの外輪8が回転する事を阻止している。
【0006】
更に、高速回転時に於ける玉10、10の公転運動に伴う遠心力を低減して、外輪軌道12a、12bの耐久性向上を図ると共に、動トルクの低減を図るべく、これら各玉10、10を軽量化する為に、これら各玉10、10をセラミック製とする事も、例えば特許文献6、7に記載されている。これら各玉10、10を構成するセラミックの種類に就いて、特許文献6には特に記載されていないが、特許文献7には、βサイアロンが記載されている。又、この特許文献7には、このβサイアロンと比較するセラミックとして、アルミナ、窒化珪素が記載されている。尚、前記各玉10、10をセラミック製とする場合でも、前記外輪8及び前記両内輪9a、9bは、SUJ2の如き高炭素クロム軸受鋼、或いは高炭素クロム軸受鋼中のSi量を多くし、且つ、表面に浸炭窒化したもの等の、鉄系の硬質金属を使用する。
【0007】
上述の様に、前記各玉10、10をセラミック製とする事により、前記両外輪軌道12a、12bの耐久性向上、動トルクの低減を図れるが、βサイアロンを含めて窒化珪素系のセラミックは、高価である事に加えて、鉄系の合金との線膨張係数の差が大きい。この為、温度変化に伴う内部隙間の変化が大きくなり、低温時から高温時まで安定した性能を発揮させる為のチューニングが難しくなる。又、潤滑油との馴染み性も、必ずしも良好とは言えず、低トルク化を図る面から不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−70923号公報
【特許文献2】特開2007−71356号公報
【特許文献3】特開2008−298284号公報
【特許文献4】特開2009−203845号公報
【特許文献5】特開2009−264526号公報
【特許文献6】特開2008−267555号公報
【特許文献7】特開2010−1995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、安価で、且つ、低温時から高温時まで安定した性能を発揮させる為のチューニングを容易にでき、しかも低トルク化を図り易いターボチャージャ用複列玉軸受ユニットを実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のターボチャージャ用複列玉軸受ユニットは、内周面に複列の外輪軌道を有する円筒状の外輪と、それぞれの外周面に内輪軌道を有する、ぞれぞれが円筒状である1対の内輪と、これら両外輪軌道とこれら両内輪軌道との間に、両列毎にそれぞれ複数個ずつ、転動自在に設けられた玉とを備える。
特に、本発明のターボチャージャ用複列玉軸受ユニットに於いては、上記各玉がジルコニア(酸化ジルコニウム、ZrO2)を主成分とする(50質量%以上含む)セラミック製である。
【発明の効果】
【0011】
上述の様に本発明のターボチャージャ用複列玉軸受ユニットは、複数の玉を構成するセラミックとして、窒化珪素系のセラミックに比べ安価で、且つ、高炭素クロム軸受鋼等の鉄系合金との線膨張係数の差が小さいジルコニアを使用している。この為、低温時から高温時まで安定した性能を発揮させる為のチューニングを容易に行える構造を、低コストで得られる。
【0012】
しかも、酸化物系のセラミックであるジルコニアは、表面に酸素原子が存在するので、潤滑油との馴染み性が良好となる。即ち、ターボチャージャ用複列玉軸受ユニットの潤滑には、エンジンの可動部を潤滑する為の潤滑油を使用するが、窒化珪素やサイアロン等の窒化物系セラミックの場合、表面に酸素原子が存在しないか、存在しても極く少量に止まる。この為、各玉の転動面と潤滑油との馴染み性が必ずしも良好とは言えず、これら各玉の転動面と、外輪軌道及び内輪軌道との転がり接触部に存在する油膜の性状を、必ずしも良好にできない。
【0013】
これに対して本発明の場合には、前記ジルコニアを主成分とするセラミック製の各玉の転動面に、十分な量の酸素原子が存在するので、上述の様に、これら各玉の転動面と潤滑油との馴染み性を良好にできる。そして、これら各玉の転動面と外輪軌道及び内輪軌道との転がり接触部に存在する油膜の性状を良好にして、前記各玉の転動を安定して行わせる事ができる。この結果、本発明のターボチャージャ用複列玉軸受ユニットによれば、両端部にタービンとインペラとを固定した回転軸の回転抵抗を低減し、しかも、この回転軸が高速で回転する際の音響性能を良好に(騒音及び振動を低減)できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の対象となる複列玉軸受ユニットを組み込んだターボチャージャの1例を示す断面図。
【図2】同じく複列玉軸受ユニットを取り出した状態で示す断面図。
【図3】本発明の効果を確認する為の実験に使用した複列玉軸受ユニットの別例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の特徴は、複列玉軸受ユニット1を構成する玉10、10を、ジルコニアを主成分とするセラミック製にする点にある。図面に現れる構造に関しては、従来から知られている各種構造や、先に図1〜2により説明した構造と同様であるから、重複する説明は省略する。尚、本発明を実施する場合、図1〜2に示した様に、外輪8bを一体とし、内輪9a、9bを2分割式としても、或は、後述する図3に示す様に、外輪8a、8a及び内輪9c、9cを何れも別体としても良い。本発明を実施する場合に好ましくは、前記各玉10、10に予圧を付与しない。即ち、前記複列玉軸受ユニット1に、正の内部隙間を設ける。
【0016】
従って、図1〜2に示す様に、前記各玉10、10にDB型の接触角を付与している構造では、排気流路2側の圧力が高く、回転軸3に、タービン4側からインペラ5側に向かうスラスト荷重が加わる場合には、このタービン4側の列の玉10、10のみが、このスラスト荷重を支承しつつ、外輪軌道12b及び内輪軌道13bと転がり接触する。これに対して、給気流路6側の圧力が高く、前記回転軸3に、前記インペラ5側から前記タービン4側に向かうスラスト荷重が加わる場合には、このインペラ5側の列の玉10、10のみが、このスラスト荷重を支承しつつ、別の外輪軌道12a及び別の内輪軌道13aと転がり接触する。この様に、前記複列玉軸受ユニット1に正の内部隙間を設定している為、前記各玉10、10の転動面や、両外輪軌道12a、12b及び両内輪軌道13a、13bの表面に擦り傷等の損傷を生じさせる事なく、これら各軌道12a、12b、13a、13b同士の間に前記各玉10、10を組み込める。
【0017】
本例の場合には、前記各玉10、10を、何れもジルコニア製としている。ジルコニアは、従来からターボチャージャ用複列玉軸受ユニットを構成する玉として一般的に使用されていた窒化珪素(Si34)に比べて安価で、且つ、SUJ2の如き、前記外輪8及び前記内輪9a、9bを造る為、一般的に使用されている高炭素クロム軸受鋼等の鉄系の合金との線膨張係数の差が小さい。ターボチャージャを構成する回転軸3を回転自在に支持する前記複列玉軸受ユニット1は、水冷ジャケット17を備えたハウジング7内に設置され、更に給油口15から送り込まれる潤滑油により冷却されるとは言え、冬季、夏季、エンジンの運転開始直後、運転開始してから時間経過した後等の条件を考慮すれば、温度変化の範囲は100℃を大きく超える場合がある。一方、本例の場合には、前記複列玉軸受ユニット1に正の内部隙間を設けるとしているが、この内部隙間の値は、飽くまでも適正範囲に収める必要がある。即ち、この内部隙間の値が大き過ぎると、アクセルのON・OFFに伴う、前記回転軸3に加わるスラスト荷重の作用方向の変化により、この回転軸3が、振動等の好ましくない挙動を示す可能性がある。
【0018】
セラミックの線膨張係数は、鉄系合金の線膨張係数(例えば、SUS304の場合で、18.0×10-6/℃程度)よりも小さいので、前記内部隙間の値は、温度上昇に伴って大きくなる。従って、低温時にも正の内部隙間を確保し、且つ、温度上昇時にもこの内部隙間の値が過大にならない様にする為には、前記各玉10、10を構成する材料の線膨張係数と、前記外輪8及び前記内輪9a、9bを構成する鉄系合金の線膨張係数との間に、大きな差がない様にする必要がある。本例の場合に前記各玉10、10を構成するジルコニアの線膨張係数(10.5×10-6/℃程度)は、従来からターボチャージャ用複列玉軸受ユニットを構成する各玉を構成するセラミックとして使用されていた窒化珪素の線膨張係数(2.6×10-6/℃程度)に比べて大幅に大きく、前記鉄系合金の線膨張係数に近い。この為、温度変化に伴う内部隙間の変化量を少なく抑えて、低温時にも正の内部隙間を確保し、且つ、温度上昇時にもこの内部隙間の値が過大にならない様にできる。そして、低温時から高温時まで安定した性能を発揮させる為のチューニングを容易に行える。しかも、ジルコニアは窒化珪素に比べて安価な材料である為、このチューニングを容易にできる構造を、低コストで得られる。
【0019】
しかも、分子式「ZrO2」で表される、酸化物系のセラミックであるジルコニアは、分子式「Si34」で表される窒化珪素とは異なり、表面に酸素原子「O」が存在するので、潤滑油との馴染み性が良好となる。即ち、ターボチャージャ用複列玉軸受ユニットの潤滑には、シリンダの内周面とピストンの外周面との摺動部を初めとする、エンジンの可動部を潤滑する為の潤滑油を使用する。窒化珪素の場合、前記分子式から明らかな通り、それ自体には酸素原子が含まれない。Y23、Al23、MgO等の焼結助剤中には酸素分子が含まれるが、これらに含まれる酸素原子の量は(焼結助剤の含有量が少ない為)元々少量であるし、焼結後には窒化珪素粉末の粒界中に存在するガラス相中に残存するのみとなる。この為、各玉の転動面と潤滑油との馴染み性が必ずしも良好とは言えず、これら各玉の転動面と、外輪軌道及び内輪軌道との転がり接触部に存在する油膜の性状を、必ずしも良好にできない。
【0020】
これに対して本例の場合には、前記各玉10、10として、酸化物であるジルコニア製のものを使用している。上記分子式から明らかな通り、ジルコニア自体の分子中に酸素原子が多く含まれる。この為、前記各玉10、10の転動面と、前記両外輪軌道12a、12b及び前記両内輪軌道13a、13bとの転がり接触部に存在する油膜の性状を良好にして、前記各玉10、10の転動を安定して行わせる事ができる。この結果、本例の複列玉軸受ユニット1によれば、両端部にタービン4とインペラ5とを固定した前記回転軸3の回転抵抗を低減し、しかも、この回転軸3が高速で回転する際の音響性能を良好に(騒音を低減)できる。
【実施例1】
【0021】
本発明の効果を確認する為に行った実験に就いて説明する。この実験では、複列玉軸受ユニットの構造と、この複列玉軸受ユニットに組み込む各玉の材質とが、当該複列玉軸受ユニットの回転抵抗(動トルク)と音響特性とに及ぼす影響を判定した。この実験には、前述の図1〜2に示した構造を有する複列玉軸受ユニット1と、図3に示した構造を有する複列玉軸受ユニット1aとの2種類のものを使用した。このうちの図3に示した構造は、前述の特許文献3に記載されたものである。それぞれの構造の特徴は、図1〜2に示した構造に関しては前述の通り、外輪8を一体とし、内輪9a、9bを2分割式とした点にあり、図3に示した構造に関しては、外輪8a、8a及び内輪9c、9cを何れも別体とした点にある。何れの複列玉軸受ユニット1、1aに就いても、内部に正の隙間を設定している。又、それぞれの複列玉軸受ユニット1、1aで、玉10、10がSUJ2製のものと、窒化珪素製のものと、ジルコニア製のものとの3種類ずつ、合計6種類の試料を用意した。前記各玉10、10の外径、ピッチ円直径、軸方向ピッチ、接触角等、複列玉軸受ユニット1、1aとしての基本的諸元、試験時の環境温度、潤滑条件、回転部分の慣性質量等は、総ての試料で同じとした。
【0022】
上述した様な6種類の複列玉軸受ユニット1、1aに関して、外輪8、8aを固定すると共に、内輪9a、9b、9cに内嵌固定した回転軸3の端部にタービン4(図1参照)を固定した状態で、このタービン4に圧縮空気を吹き付け、前記回転軸3を15万min-1にまで加速した。そして、この回転軸3が15万min-1で定速回転する状態での音響の大小を聴覚により判定して、前記6種類の複列玉軸受ユニット1、1aに就いて、音響性能(振動特性も同じ)に関する順位付けした。その結果を、次の表1に示す。この表1中、「1」が最も音響性能が良好な試料を、「6」が最も音響性能が悪い試料を、それぞれ表している。
【0023】
【表1】

【0024】
上述の様な実験の結果を記載した表1から明らかな通り、音響性能に関しては、一体型の外輪8を使用すると共に、2分割型の内輪9a、9bを使用した図1〜2の構造が、外輪ケース18、内輪間座19等を含めて部品点数が多い、図3の構造よりも優れている。又、構造が同じである場合、玉10、10がジルコニアの場合に最も優れた音響特性を得られ、次いで窒化珪素とした場合の音響特性が良好で、SUJ2とした場合の音響特性が最も悪かった。
【0025】
そして、上述の様な順位付けの後、前記回転軸3を駆動装置から分離して惰性で回転させ、この回転軸3が停止するまでの時間の長短に関する順位付けを行った。その結果を、次の表2に示す。この表2中に記載した「1」〜「6」までの数字の意味は、上述した表1の場合と同様で、「1」が、停止するまでの時間が最も長かった試料を示している。尚、前記回転軸3が停止するまでの時間が長い程、当該複列玉軸受ユニットの動トルクが小さい事を表している。
【0026】
【表2】

【0027】
上述の様な実験の結果を記載した表2から明らかな通り、動トルクに関しては、複列玉軸受ユニット1、1aの構造の相違よりも、玉10、10の材質の影響が支配的であり、玉10、10がジルコニアの場合に動トルクが最も低く、次いで窒化珪素とした場合の動トルクが低く、SUJ2とした場合に最も動トルクが高かった。又、前記各玉10、10の材質が同じである場合には、図2の構造の動トルクが、図3の構造の動トルクよりも低かった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上の説明から明らかな通り、ターボチャージャ用の複列玉軸受ユニットを構成する為の玉を構成する為のセラミックとしては、ジルコニアが最も好ましい。但し、アルミナ(Al23)、イットリア(Y23)、チタニア(TiO2)等、他の金属酸化物の粉末を、単独又は混合したもの、これらとジルコニアの粉末とを混合したものを焼結して成る酸化物系セラミックに関しても、ジルコニア製の玉を使用した場合に近い効果を得られる。例えば、ジルコニア−アルミナ−イットリアの粉末を混合した酸化物系セラミックは、ジルコニア単独の場合と同様の効果を得られる。この場合に好ましい混合割合としては、1〜5モル%(より好ましくは2〜4モル%)のイットリアを含有するジルコニア50〜95質量%と、5〜50質量%(より好ましくは10〜30質量%、更に好ましくは15〜25質量%)のアルミナとを混合したものが好ましい。
【0029】
又、外輪及び内輪に関しては、複列玉軸受ユニットの製造コストを抑える為、SUJ2の如き高炭素クロム軸受鋼、SUS304の如きステンレス鋼、13Crステンレス鋼等の鉄系の硬質金属を使用する。又、外輪内周面の外輪軌道及び内輪外周面の内輪軌道の表面、好ましくは外輪及び内輪の表面全体に浸炭窒化処理等の表面硬化処理を施せば、前記外輪軌道及び前記内輪軌道の耐摩耗性を向上させる事ができる。
更に、前記各玉を転動自在に保持する為の保持器に関しては、真鍮の如き銅系合金等の金属製としても良いが、複列玉軸受ユニット全体としての軽量化や前記各玉との衝突音を低減する為に、ポリイミド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド等の合成樹脂製とする事もできる。合成樹脂製とする場合に好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、セラミックウィスカ等の繊維状補強材を混入する。
【符号の説明】
【0030】
1、1a 複列玉軸受ユニット
2 排気流路
3 回転軸
4 タービン
5 インペラ
6 給気流路
7 ハウジング
8、8a 外輪
9a、9b、9c 内輪
10 玉
11 保持器
12a、12b 外輪軌道
13a、13b 内輪軌道
14 微小隙間
15 給油口
16 内部空間
17 水冷ジャケット
18 外輪ケース
19 内輪間座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する円筒状の外輪と、それぞれの外周面でこれら両外輪軌道に対向する部分に内輪軌道を有する、それぞれが円筒状である1対の内輪と、これら両内輪軌道と前記両外輪軌道との間に、両列毎にそれぞれ複数個ずつ、転動自在に設けられた玉とを備えたターボチャージャ用複列玉軸受ユニットに於いて、これら各玉がジルコニアを主成分とするセラミック製である事を特徴とするターボチャージャ用複列玉軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−92916(P2012−92916A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241626(P2010−241626)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】