説明

ターボチャージャ

【課題】簡単な構成により、タービンインペラ出口の流体の乱れを低減させてタービンの効率を向上できるようにしたターボチャージャを提供する。
【解決手段】排気ノズル27を備える可変容量型のターボチャージャである。排気ノズル27は、第1の排気導入壁31と第2の排気導入壁29との間に回動可能に設けられる複数のノズルベーン37と、これらノズルベーン37の回動動作を同期させる同期機構43と、を有する。同期機構43は、第2の排気導入壁29を貫通する各ノズルベーン37の支持軸29aにそれぞれ連結される複数のリンク部材51と、各リンク部材51に係合する係合部49を有し、リンク部材51を介してノズルベーン37を回動させるように回転可能な可動リング47と、を含む。係合部49は、可動リング47が回転した際、ノズルベーン37を第1の排気導入壁31側に変位させるような分力をリンク部材51に生じさせるテーパ形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単な構成によりタービンインペラ出口の排気ガスの乱れを低減させてタービンの効率向上を図れるようにしたターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
図13は本発明を適用する従来の可変容量型のターボチャージャの一例を示している。
このターボチャージャは、タービンハウジング5とコンプレッサハウジング7とがベアリングハウジング(軸受けハウジング)3を介して締結ボルト3a,3bにより一体的に組み立てられており、タービンハウジング5内に配置されるタービンインペラ4とコンプレッサハウジング7内に配置されるコンプレッサインペラ15が、ベアリングハウジング3にベアリング9を介して回転自在に支持されたタービン軸11により連結されている。
【0003】
また、上記ベアリングハウジング3のタービンハウジング側には、図14に拡大して示す如く、タービンハウジング5のタービンスクロール流路17に導入される排気ガスを前記タービンインペラ4に導くとともに、その圧力を可変とする可変ノズルユニット(排気ノズル)27が設けられる。
【0004】
可変ノズルユニット27は、ベアリングハウジング3側の前部排気導入壁としてのノズルリング29と、タービンハウジング5側の後部排気導入壁としてのシュラウドリング31とが所要の間隔を保持した状態で例えば周方向3箇所に設けた連結ピン33により一体に組み立てられている。更に、ノズルリング29の前面(ベアリングハウジング3側面)にはリング状の取付部材として取付リング35が固定されており、前記タービンハウジング5とベアリングハウジング3との組み立て時に、取付リング35をタービンハウジング5とベアリングハウジング3とで挟持することにより可変ノズルユニット27を固定している。更に、上記組立時に、可変ノズルユニット27は位置決めピン114によってベアリングハウジング3に対して位置決めされている。
【0005】
ノズルリング29とシュラウドリング31との相互間には複数のノズルベーン37が環状に配置されており、図13では、各ノズルベーン37の両側に固定したべ−ン軸39,41がノズルリング29とシュラウドリング31とを夫々貫通しており、ノズルベーン37は両持ちに支持されている。
【0006】
図13中、57,55,59は前記ノズルベーン37の開閉角度を調節するためのリンク式の伝達機構、17はコンプレッサハウジング7に形成されたタービンスクロール流路である。
【0007】
また、可変ノズルユニット27におけるシュラウドリング31とタービンハウジング5との間には隙間Sが設けられている。この隙間Sは本来不要なものであるが、タービンハウジング5が冷間時と熱間時との間で熱変形を起すこと、及び組み立て部品に精度上のばらつきがあること等のために設けられている。
【0008】
上記隙間Sがあると、タービンスクロール流路17の排気ガスが隙間Sを通してタービンインペラ出口19に無駄に漏出されてしまうことから、この隙間Sを閉塞するために、シュラウドリング31が下流側(タービンインペラ出口19側)へ延設された延設部123の外周面と、この延設部123に対向するタービンハウジング5の内面5aとの間にシール用ピストンリング121を配置して、ガスリークを防止すると共に熱変形を吸収するようにしたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0009】
特許文献1では図14に示すように、シュラウドリング31の延設部123の外周面に環状の凹溝122を設け、この凹溝122に、通常2枚のシール用ピストンリング121を夫々の切欠部が重ならないように位置をずらして配置することによりシール構造125を構成しており、前記シール用ピストンリング121は弾撥力によってその外周面をタービンハウジング5の内面5aに圧着することによりガスリークを防止している。
【特許文献1】特開2007−40251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図14に示したように従来のターボチャージャにおいては、隙間Sからのガスリークを防止するためにシール構造125を種々工夫することが行われているが、このようにシール構造125に工夫を凝らしてもタービンの効率を大幅に向上させることは困難であり、限界があった。
【0011】
このため、本発明者らは、上記ガスリークの問題以外にタービンの効率に影響を及ぼす要因について種々検討・試験を実施した結果、タービンインペラ出口19の排気ガスの乱れが大きいとタービンの効率が低下し、タービンインペラ出口19の排気ガスの乱れが小さいとタービンの効率が向上することを突き止めた。
【0012】
そして、図14に示す従来のシール構造125のように、シュラウドリング31の延設部123の外周面とタービンハウジング5の内面5aとの間にシール用ピストンリング121を備えた構成では、可変ノズルユニット27内の圧力P1に対して隙間S内の圧力P2が大きい(すなわち、P1<P2となっている)ために、隙間Sの排気ガスが矢印Aで示すようにベーン軸41と貫通孔124との隙間S3を通して可変ノズルユニット27側に流れることになる。
【0013】
ところで、ノズルベーン37とノズルリング29及びシュラウドリング31との間には、ノズルベーン37を回動可能にするためのクリアランスが予め存在しており、且つこのクリアランスの大きさにはターボチャージャによる個体差を有している。従って、P1<P2の圧力の差により各ノズルベーン37の各ベーン軸41はノズルリング29側へ押されて、各ノズルベーン37とシュラウドリング31との間に大きなクリアランスCが生じていることが判明した。
【0014】
本発明者らは、このように、各ノズルベーン37とシュラウドリング31との間に大きなクリアランスCが生じると、タービンインペラ出口19の排気ガスの乱れが大きくなり、これによってタービンの効率が低下するという知見を得た。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、簡単な構成により、タービンインペラ出口の流体の乱れを低減させてタービンの効率を向上できるようにしたターボチャージャを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
本発明のターボチャージャは、タービンインペラを回転可能に支持する軸受けハウジングと、前記タービンインペラに排気ガスを供給するスクロール通路が形成されたタービンハウジングと、前記スクロール通路内から前記タービンインペラ側に供給される前記排気ガスの圧力を可変とする排気ノズルと、を備える可変容量型のターボチャージャにおいて、前記排気ノズルは、前記タービンハウジング側の第1の排気導入壁と該第1の排気導入壁に対向配置される第2の排気導入壁との間に回動可能に設けられる複数のノズルベーンと、該複数のノズルベーンの回動動作を同期させる同期機構と、を有し、前記同期機構は、前記第2の排気導入壁を貫通する前記各ノズルベーンの支持軸にそれぞれ連結される複数のリンク部材と、前記各リンク部材に係合する係合部を有し、該リンク部材を介して前記ノズルベーンを回動させるように回転可能な可動リングと、を含み、前記係合部は、前記可動リングが回転した際、前記ノズルベーンを前記第1の排気導入壁側に変位させるような分力を前記リンク部材に生じさせるテーパ形状を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明のターボチャージャにおいては、前記各ノズルベーンは前記第1の排気導入壁を貫通する他の支持軸を有し、該他の支持軸の基端部には前記第1の排気導入壁に形成される支持穴を覆った状態とする鍔が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のターボチャージャによれば、可動リングを回転させることで係合部に係合された可動リングはノズルベーンを第1の排気導入壁側に変位させることが可能となる。このように係合部をテーパ形状とするといった簡便な構成によりノズルベーンと第1の排気導入壁との間のクリアランスを小さく保持することができ、タービンインペラ出口における流体の乱れを低減することでタービンの効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態では、可変容量型のターボチャージャについて説明する。なお、図面中、「F」は前方向を指し、「R」は後方向を指してある。図1は本実施形態におけるターボチャージャの全体構成を示す図であり、図2は本実施形態のターボチャージャに搭載される可変ノズルユニットの正面図、図3は図2におけるI−I線矢視における可変ノズルユニットの断面図であり、図4は可変ノズルユニットの背面図である。
【0020】
本実施形態に係るターボチャージャ1は、図1に示されるように、不図示のエンジンから導かれる排気ガスのエネルギを利用して、エンジンに供給される空気を過給するものである。また、ターボチャージャ1は、ベアリングハウジング(軸受けハウジング)3と、このベアリングハウジング3の前側周縁部に設けられるタービンハウジング5と、上記ベアリングハウジング3の後側周縁部に設けられるコンプレッサハウジング7と、を備えている。
【0021】
ベアリングハウジング3内には、複数のベアリング9が設けられており、複数のベアリング9には、前後方向に延びたタービン軸11が回転可能に設けられている。また、タービンハウジング5内には、タービンインペラ13が設けられており、このタービンインペラ13は、タービン軸11の一方側の端部に一体的に連結されている。さらに、コンプレッサハウジング7内には、コンプレッサインペラ15が設けられており、このコンプレッサインペラ15は、タービン軸11の他方側の端部に一体的に連結されている。
【0022】
タービンハウジング5における所定の位置には、排気ガスを取り入れるためのガス取入口(図示省略)が形成されており、このガス取入口はエンジンのシリンダ(図示略)に接続されるようになっている。また、タービンハウジング5の内部には、タービンスクロール流路17がタービンインペラ13を囲むように形成されており、このタービンスクロール流路17は、上記ガス取入口に連通されている。
【0023】
さらに、タービンハウジング5の前側(すなわち、タービンインペラ13の出口側)には、排気ガスを排出するタービンインペラ出口19が形成されており、このタービンインペラ出口19は、タービンスクロール流路17に連通されており、排気ガス浄化装置(図示略)に接続されるようになっている。
【0024】
コンプレッサハウジング7の後側(すなわち、コンプレッサインペラ15の入口側)には、空気を取り入れる空気取入口21が形成されており、この空気取入口21はエアクリーナー(図示略)に接続されるようになっている。また、ベアリングハウジング3とコンプレッサハウジング7との間には、圧縮された空気を昇圧する環状のディフューザ流路23がコンプレッサインペラ15を囲むように形成されており、このディフューザ流路23は空気取入口21に連通している。
【0025】
さらに、コンプレッサハウジング7の内部には、コンプレッサスクロール流路25がコンプレッサインペラ15を囲むように形成されており、このコンプレッサスクロール流路25は、ディフューザ流路23に連通している。そして、コンプレッサハウジング7の適宜位置には、圧縮された空気を排出する空気排出口(図示略)が形成されており、この空気排出口は、コンプレッサスクロール流路25に連通してあって、エンジンのシリンダに接続可能である。
【0026】
したがって、ガス取入口から取り入れられた排気ガスがタービンスクロール流路17を経由してタービンインペラ13側へ供給されると、排気ガスのエネルギによってタービンインペラ13を回転駆動させることができ、コンプレッサインペラ15がタービン軸11を介して連動して回転駆動させることができる。
【0027】
これにより、空気取入口21から取り入れた空気をコンプレッサインペラ15で圧縮して、ディフューザ流路23及びコンプレッサスクロール流路25を経由して空気排出口(不図示)から排出することができ、エンジンのシリンダへ供給される空気を過給することができる。
【0028】
また、本実施形態に係るターボチャージャ1においては、タービンハウジング5内にタービンインペラ13側へ供給される排気ガスの圧力(流量及び圧力)を可変する可変ノズルユニット(排気ノズル)27を備えている。
【0029】
図1,3に示すように、タービンハウジング5内には、上記可変ノズルユニット27の構成要素であるノズルリング(第2の排気導入壁)29がタービンインペラ13と同心上に設けられている。また、ノズルリング29に前後に対向する位置には、シュラウドリング(第1の排気導入壁)31がタービンインペラ13を囲むように設けられており、シュラウドリング31はノズルリング29と同心上に配置されている。
【0030】
また、シュラウドリング31とタービンハウジング5との間には、タービンハウジング5における熱変形及び組み立て部品に精度上のばらつきを吸収するために隙間Sが設けられている。そして、この隙間Sを通してタービンスクロール流路17の排気ガスがタービンインペラ出口19に無駄に漏出されてしまうのを防止すべく、シュラウドリング31におけるタービンインペラ出口19側へ延設された延設部123に形成された凹溝122に、延設部123の外周面と、この延設部123に対向するタービンハウジング5の内面5aとの間を密閉するシール用ピストンリング121を配置したシール構造125を備えている。
【0031】
図2、4に示すように、ノズルリング29とシュラウドリング31との間には、複数の連結ピン33が設けられている。各連結ピン33の一端部(後端部)は、ノズルリング29にそれぞれ一体的に連結され、各連結ピン33の他端部(前端部)は、シュラウドリング31にそれぞれ一体的に連結されている。また、各連結ピン33の一端部は、ノズルリング29から後方向(一方向)へそれぞれ突出してある。なお、図2においては、3本の連結ピン33がノズルリング29(シュラウドリング31)の周方向に沿って間隔をおいて配置されているが、連結ピン33の本数は3本に限られるものではない。
【0032】
ノズルリング29の後側には、取付リング35が複数の連結ピン33(連結ピン33の一端部)を介して一体的に設けられており、この取付リング35の外側周縁部は、タービンハウジング5とベアリングハウジング3に挟持されるようになっている(図1参照)。換言すると、ノズルリング29は、取付リング35を介してベアリングハウジング3に対して固定され、タービンハウジング5内に設けられる。
【0033】
ノズルリング29とシュラウドリング31の間には、複数のノズルベーン37が周方向に沿って等間隔に設けられており、各ノズルベーン37は、ノズルリング29の軸心(すなわち、シュラウドリング31の軸心又はタービン軸11の軸心)に平行な軸心周りにそれぞれ回動可能とされる。
【0034】
また、各ノズルベーン37の一端面(前端面)には、第1のベーン軸(支持軸)41がそれぞれ形成されており、各第1のベーン軸41は、シュラウドリング31に形成された第1の支持穴31aに回動可能にそれぞれ支持されている。さらに、各ノズルベーン37の他端面(後端面)には、第2のベーン軸39がそれぞれ形成されており、各第2のベーン軸39は、ノズルリング29に形成された第2の支持穴29aに回動可能に支持されている。また、上記第2の支持穴29aはノズルリング29を貫通した状態に形成されている。上記第1の支持穴31aは、同様にシュラウドリング31を貫通した状態に形成されている。
【0035】
上記第1のベーン軸41及び第2のベーン軸39の基端部には、上記第1の支持穴31a及び第2の支持穴29aを覆うように形成された鍔36が設けられている。このようにノズルベーン37に鍔36を設けることで、上記第1の支持穴31a及び第2の支持穴29aに異物が侵入することを防止することができる。特に、第1のベーン軸41側に設けられた鍔36は、後述するようにノズルベーン37がシュラウドリング31側に変位された際、第1の支持穴31aを覆った状態とされることで第1のベーン軸41及び第1の支持穴31aとの隙間からタービンスクロール流路17内の高圧の排気ガスが可変ノズルユニット27内に流れ込むのを防止することが可能となっている。
【0036】
また、図3,4に示すように、ノズルリング29の後側には、複数のノズルベーン37の回動動作を同期させる同期機構43が設けられている。
【0037】
具体的には、図3に示されるように、ノズルリング29の後側には、ガイドリング45が複数の連結ピン33を介して設けられており、このガイドリング45には、可動リング47が回動可能に設けられている。また、可動リング47は、ノズルリング29と同心上に位置してあって、可動リング47の内側には、ノズルベーン37と同数の同期用係合凹部(係合部)49が周方向に沿って等間隔に形成されている。そして、各第1のベーン軸41には、同期用伝達リンク(リンク部材)51の基端部が一体的にそれぞれ連結されている。各同期用伝達リンク51の先端部は、図4に示されるように、対応する同期用係合凹部49にそれぞれ係合してある。なお、図4中においてはガイドリング45の図示を省略している。
【0038】
可動リング47の内側には、複数の同期用係合凹部49の他に、駆動用係合凹部53が形成されている。また、図1に示したように、ベアリングハウジング3の前側下部には、ノズルリング29の軸心に平行な軸心周りに回動可能な駆動軸55が設けられており、この駆動軸55の一端部(後端部)には、駆動レバー57の基端部が一体的に連結され、この駆動レバー57には、シリンダ等のアクチュエータ(図示省略)が連動連結されている。そして、駆動軸55の他端部(前端部)には、駆動用伝達リンク59の基端部が一体的に連結され、駆動用伝達リンク59の先端部は、上記駆動用係合凹部53に係合されるようになっている。このような構成に基づいて、可動リング47は、上記同期用伝達リンク51を介してノズルベーン37を回動させるように回転可能となっている。
【0039】
図5は、図4中、J−J線矢視による可変ノズルユニットの断面構成図である。なお、説明を分かり易くするため、図5中においては取付リング35の図示を省略している。
図5に示されるように、可動リング47の周方向における上記同期用係合凹部49の内側面49aは、この可動リング47の内面側(ベアリングハウジング3側)に対して鋭角をなすテーパ形状をなす斜面となっている(ここで、傾斜面の傾斜角をθとする)。また、上述のように同期用係合凹部49に係合される同期用伝達リンク51の先端部であり、上記内側面49aに対応する外側面51aは、同様にテーパ状の傾斜面をなすように形成されている。なお、上記可動リング47は、上記駆動用係合凹部53に係合される駆動用伝達リンク59により、図5中矢印で示される方向に回動可能とされる。
【0040】
可変ノズルユニット27は、例えばエンジン回転数が高速域にある場合には、アクチュエータの駆動によって駆動レバー57を介して駆動用伝達リンク59を一方向へ回動させることにより、同期機構43を作動させつつ、複数のノズルベーン37を開く方向へ同期して回動させる。これにより、タービンインペラ13側へ供給される排気ガスの流量を多くすることで排気ガスの圧力を低くできる。
【0041】
また、可変ノズルユニット27は、エンジン回転数が低速域にある場合には、アクチュエータの駆動によって駆動レバー57を介して駆動用伝達リンク59を他方向へ回動させることにより、同期機構43を作動させつつ、複数のノズルベーン37を絞る方向へ同期して回動させる。これにより、タービンインペラ13側へ供給される排気ガスの流量を少なくして、排気ガスの圧力を高くできる。よって、エンジン回転数の低速域においても、タービンインペラ13の仕事量を十分に確保して高効率を発揮することができる。
【0042】
ここで、可変ノズルユニット27の動作について説明する。可変ノズルユニット27は、図6に示されるように可動リング47が矢印方向に回転されると、同期用係合凹部49の内側面49aと同期用伝達リンク51の先端部の外側面51aとが接触することで接触面が生じる。この接触面は、ノズルベーン37から離間するにつれて第1のベーン軸39の軸心に対する距離を小さくするテーパ形状とされている。
【0043】
この接触面には摩擦力が生じている。そのため、上記可動リング47を回転させる力が所定以上(すなわち、最大静止摩擦力以上の分力を生じさせる力)になると、同期用伝達リンク51の先端部の外側面51aと同期用係合凹部49の内側面49aとの間に滑りが生じる。
【0044】
本実施形態に係るターボチャージャ1は、同期用伝達リンク51が第2のベーン軸39の軸方向に移動可能に構成されるため、上記可動リング47を回転させることで同期用伝達リンク51にはノズルベーン37をシュラウドリング31側に変位させるような分力が生じることとなる。すなわち、接触面に滑りが生じ(同期用伝達リンク51が可動リング47に対して滑る)、図7に示されるように同期用伝達リンク51とともに同期用伝達リンク51に連結されるノズルベーン37をシュラウドリング31側に変位させることができる。よって、可変ノズルユニット27の動作中においては、各ノズルベーン37をシュラウドリング31側に変位させた状態に保持することができる。
本実施形態に係るターボチャージャ1によれば、図7に示されるように、各ノズルベーン37とシュラウドリング31との間のクリアランスCを、図6に示した可変ノズルユニット27の駆動前に比べて極めて小さなものとすることができる。
【0045】
なお、上記接触面のテーパ角度が小さく、すなわち上記内側面49aの傾斜角θを小さくすることで同期用伝達リンク51の滑りを生じさせるまでに必要となる可動リング47を回転させる力を低減することができる。一方、ノズルベーン37におけるシュラウドリング31側への変位量は、上記傾斜角θが小さくなると減少する。そのため、上記傾斜角θは、所望とされるノズルベーン37とシュラウドリング31との間のクリアランスC及び上記可動リング47を回転させる力に応じて適宜設定するのが好ましい。
【0046】
本発明者らは、従来のターボチャージャ(従来品)と、本実施形態に係るターボチャージャ1(本発明品)において、図8に示すようにタービンインペラ13の上流側と下流側との圧力の比が略同一となるようにした条件において、タービンインペラ出口19における径方向位置での排気ガスの速度分布を数値解析(3点)により求め、その結果を図9に示した。
【0047】
図9から明らかなように、本発明のターボチャージャ1では、従来のターボチャージャに比して半径方向における流速分布の偏差が少なく流速分布は半径方向に平坦化している。
このことは、本発明のターボチャージャ1は従来のターボチャージャに比して、タービンインペラ出口19における排気ガスの乱れが小さいことを意味している。
【0048】
さらに、本発明のターボチャージャ1と従来のターボチャージャにおいて、タービンの効率を数値解析して比較したところ、図10に示すように、本発明のターボチャージャ1によれば従来のターボチャージャに対してタービンの効率が約10%向上することが判明した。
【0049】
また、本発明者らは、従来のターボチャージャ(従来品)と、本実施形態に係るターボチャージャ1(本発明品)において、それぞれ図8のように圧力比がほぼ同一になるようにした図11の条件において、3つの異なる回転数a,b,cについて、タービンの効率を実測によって求め、その結果を図12に示した。上記実測による場合も、前記数値解析による場合の結果と同様に、本実施形態に係るターボチャージャ1の方が従来のターボチャージャに対してタービンの効率が約10%向上する結果が得られた。
【0050】
タービンスクロール流路17からの排気ガスは、可変ノズルユニット27のノズルベーン37間を通ってタービンインペラ4に導かれるが、この時の排気ガスの流れは3次元的で複雑な流れであるため、タービンインペラ出口19での排気ガスの乱れの要因を探ることは非常に困難である。
【0051】
タービンスクロール流路17からの排気ガスは、可変ノズルユニット27のノズルベーン37間を通ってタービンインペラ4に導かれるが、この時の排気ガスの流れは3次元的で複雑な流れであるため、タービンインペラ出口19での排気ガスの乱れの要因を探ることは非常に困難である。
【0052】
しかし、上述のように、ノズルベーン37をシュラウドリング31側へ変位させることで各ノズルベーン37とシュラウドリング31との間のクリアランスを極小にすることができ、タービンインペラ出口19における径方向位置での排気ガスの速度分布が平坦化されてタービンインペラ出口19での排気ガスの乱れが減少し、これによってタービンの効率が向上したと考えることができることから、上記各ノズルベーン37とシュラウドリング31との間のクリアランスがタービンインペラ出口19での排気ガスの乱れに影響を及ぼし、タービンの効率に影響を与える要因の1つであることが判明した。なお、本発明の形態では、各ノズルベーン37とノズルリング29との間のクリアランスは、所定量だけ増える(すなわち、ノズルベーン37とシュラウドリング31との間におけるクリアランスが減少した分だけ増える)が、そのような場合でも、ノズルベーン37とノズルリング29との間のクリアランスはタービンインペラ出口19での排気ガスの乱れ、さらにはタービン効率に対して殆ど影響を及ぼさないことが判明した。
【0053】
したがって、本発明では、上述したように、同期用係合凹部49の内側面49aをテーパ形状にするといった簡便な構成により、ノズルベーン37をシュラウドリング31側に変位させることにより各ノズルベーン37とシュラウドリング31との間のクリアランスを極小に保持し、これによってタービンインペラ出口19における流体の乱れを低減してタービンの効率を大幅に向上することができた。
【0054】
なお、本発明は上記形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】ターボチャージャの全体構成を示す図である。
【図2】ターボチャージャに搭載される可変ノズルユニットの正面図である。
【図3】図2におけるI−I線矢視における可変ノズルユニットの断面図である。
【図4】可変ノズルユニットの背面図である。
【図5】図4におけるJ−J線矢視における可変ノズルユニットの断面図である。
【図6】可変ノズルユニットの動作を説明するための図である。
【図7】可変ノズルユニットの動作を説明するための図である。
【図8】従来のターボチャージャ及び本発明のターボチャージャを数値解析により比較するためにタービンインペラの上流側と下流側との圧力比を略同一とした状態を示す線図である。
【図9】従来のターボチャージャ及び本発明のターボチャージャにおけるタービンインペラ出口での径方向位置における排気ガスの速度分布の数値解析の結果を比較して示した線図である。
【図10】従来のターボチャージャ及び本発明のターポチャージャにおけるタービンの効率の数値解析の結果を比較して示した線図である。
【図11】従来のターボチャージャ及び本発明のターボチャージャを実測により比較するためにタービンインペラの上流側と下流側との圧力比を略同一とした状態を示す線図である。
【図12】従来のターボチャージャと本発明のターボチャージャにおけるタービンの効率の実測の結果を比較して示した線図である。
【図13】従来のターボチャージャの一例を示す切断側面図である。
【図14】図12のノズル部近傍の切断側面図である。
【符号の説明】
【0056】
1…ターボチャージャ、3…ベアリングハウジング(軸受けハウジング)、4…タービンインペラ、5…タービンハウジング、13…タービンインペラ、17…タービンスクロール流路、27…可変ノズルユニット(排気ノズル)、29…ノズルリング(第2の排気導入壁)、31…シュラウドリング(第1の排気導入壁)、31a…第2の支持穴、36…鍔、37…ノズルベーン、39…第1のベーン軸(支持軸)、43…同期機構、47…可動リング、49…同期用係合凹部(係合凹部)、51…同期用伝達リンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンインペラを回転可能に支持する軸受けハウジングと、前記タービンインペラに排気ガスを供給するスクロール通路が形成されたタービンハウジングと、前記スクロール通路内から前記タービンインペラ側に供給される前記排気ガスの圧力を可変とする排気ノズルと、を備える可変容量型のターボチャージャにおいて、
前記排気ノズルは、前記タービンハウジング側の第1の排気導入壁と該第1の排気導入壁に対向配置される第2の排気導入壁との間に回動可能に設けられる複数のノズルベーンと、該複数のノズルベーンの回動動作を同期させる同期機構と、を有し、
前記同期機構は、前記第2の排気導入壁を貫通する前記各ノズルベーンの支持軸にそれぞれ連結される複数のリンク部材と、前記各リンク部材に係合する係合部を有し、該リンク部材を介して前記ノズルベーンを回動させるように回転可能な可動リングと、を含み、
前記係合部は、前記可動リングが回転した際、前記ノズルベーンを前記第1の排気導入壁側に変位させるような分力を前記リンク部材に生じさせるテーパ形状を有することを特徴とするターボチャージャ。
【請求項2】
前記各ノズルベーンは前記第1の排気導入壁を貫通する他の支持軸を有し、該他の支持軸の基端部には前記第1の排気導入壁に形成される支持穴を覆った状態とする鍔が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のターボチャージャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−1863(P2010−1863A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163253(P2008−163253)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】