説明

ターボ機械のシャフトの破損を検出するための装置

【課題】タービンの近くにセンサを設置する必要がなく、従来技術の問題を軽減することができる、ターボ機械のロータシャフトの破損を検出するための装置を提案すること。
【解決手段】本発明によれば、ターボ機械のシャフト(1)の破損を検出するための装置は、上流側端部(11)および下流側端部(22)を備えるシャフト(1)と、上流側端部(21)および下流側端部(22)を有し、シャフト(1)内部でシャフト(1)と同軸上に配置され、ロッド(2)の下流側端部(22)がシャフト(1)の下流側端部(11)に確実に締め付けられ、ロッド(2)の上流側端部(21)がシャフト(1)の上流側端部(11)に対して自由に回転できる、ロッド(2)と、ロッド(2)の上流側端部(21)とシャフト(1)の上流側端部(11)との回転速度の差を検出するのに適したセンサ(3)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に航空機用のターボ機械のシャフトの破損を検出するための装置に関する。本発明は、特にそのような検出を行うように構成された装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ機械は、圧縮機と、燃焼チャンバと、タービンとを備える。圧縮機は、燃焼チャンバに供給される空気の圧力を上昇させる働きをする。タービンは、燃焼チャンバから出る高温ガスから圧力エネルギの一部を取り出すことにより、またその圧力エネルギの一部を機械的エネルギに変換することにより、圧縮機に回転駆動を供給する働きをする。
【0003】
圧縮機およびタービンは、ステータを構成する固定の第1のセットの部品と、ステータに対して回転するように設定されるのに適し、ロータを構成する第2のセットの部品とから構成される。
【0004】
圧縮機のロータおよびタービンのロータは、回転シャフトにより確実に相互接続されるユニットを形成する。シャフトが破損した場合には、圧縮機のロータとタービンのロータとの間の機械的接続は絶たれる。そのような状況で、タービンのロータは突然、ロータにエネルギの一部を伝えることができずに、タービンのロータ自身で燃焼チャンバからのエネルギの全てを受けることになり、したがって、ロータは空転を始める。そのような空転または「過回転(overspeed)」の結果、危険を伴い、ターボ機械の自己破壊をかなり早めてしまう。
【0005】
このような過回転を防ぐために、緊急にさまざまな処置が必要である。まず、燃料供給を止めてエネルギの供給を遮断し、次に、タービンロータが受ける動力を低減するように散逸させる必要がある。動力の散逸は、タービンロータおよび/またはタービンステータの変形、摩擦、破壊により達成することができる。タービンロータのエネルギを散逸する技術の例は、米国特許第4,498,291号明細書、4,503,667号明細書、4,505,104号明細書に記載されている。
【0006】
緊急処置を効果的に行うために、シャフトが破損したことを出来る限り早急に検出し、緊急処置を行うことができる、特に燃料供給を遮断することができるターボ機械の部材に、早急にこの情報を転送することが必要である。
【0007】
ターボ機械のシャフトの破損を検出する公知の1つの装置は、1組の速度センサを使用することにある。各センサはシャフトの上流側端部または下流側端部近くにそれぞれ配置されている。シャフトが無傷の場合、2つのセンサにより測定される速度は実際には同じである。上流側速度センサにより測定された圧縮機のロータの速度と、下流側速度センサにより測定されたタービンロータの速度との差が大きすぎると、速度比較器によって、シャフトが破損したと判断される。次に、比較器はタービンロータの過回転を避けるのに必要な緊急処置を開始することができる。シャフトの破損を検出するためのそのような装置の例は、英国特許第2,256,486号明細書および米国特許第6,494,046号明細書に記載されている。
【0008】
それでも、タービンが燃焼チャンバのすぐ下流側に位置する場合、非常に高温に曝されるためタービン環境は厳しいので、速度センサをターボ機械のロータシャフトの下流側端部近くに埋め込むのは難しい。
【0009】
さらに、複数の速度センサを使用することで、比較的複雑でターボ機械の総重量を増加させる検出装置となってしまう。重量低減は、航空機分野においては常時生じる課題であることは公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,498,291号明細書
【特許文献2】米国特許第4,503,667号明細書
【特許文献3】米国特許第4,505,104号明細書
【特許文献4】英国特許第2,256,486号明細書
【特許文献5】米国特許第6,494,046号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、タービンの近くにセンサを設置する必要がなく、上述の問題を軽減することができる、ターボ機械のロータシャフトの破損を検出するための装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、以下のようなターボ機械のシャフトの破損を検出するための装置を導入することで達成される。装置は、上流側端部および下流側端部を有するシャフトと、上流側端部および下流側端部を有し、シャフト内部でシャフトと同軸上に配置され、ロッドの下流側端部がシャフトの下流側端部に確実に締め付けられ、ロッドの上流側端部がシャフトの上流側端部に対して自由に回転できる、ロッドと、ロッドの上流側端部とシャフトの上流側端部との回転速度の差を検出するのに適したセンサとを備える。
【0013】
シャフトが無傷の場合、ロッドは、シャフトの下流側端部に確実に締め付けられているロッドの下流側端部により、シャフトと同じ速度で回転駆動する。この回転がロッドの上流側端部およびシャフトの上流側端部に伝えられ、ロッドの上流側端部はシャフトと同じ速度で回転する。
【0014】
シャフトが破損している場合には、ロッドはシャフトの下流側端部と同じ速度で回転駆動を続ける。シャフトの下流側端部の回転がシャフトの上流側端部に正確に伝えられなくなるので、ロッドの上流側端部とシャフトの上流側端部との間で位相シフトが生じる。シャフトの上流側端部に対するロッドの上流側端部の速度を測定するセンサがこの位相シフトを検出し、この位相シフトがシャフトの破損を示すものとして判断される。
【0015】
有利には、ターボ機械のシャフトの破損を検出するための本発明の装置は、重量の低減を伴う。この装置は、ターボ機械のタービンの辺りにセンサを設置しなくてよい。シャフトの破損の検出をより良く制御するのに、タービン内のエネルギを散逸するための重い機械的手段を利用しなくてよい。
【0016】
有利には、ターボ機械のシャフトの破損を検出するための本発明の装置は、2つのセンサを必要とする従来技術の装置とは違い、1つのセンサのみを必要とするので、より単純である。さらに、センサにより検出された信号を処理するための電子手段は、例えば、速度比較器の使用が必要でなくなるので、同様により単純化される。
【0017】
添付図面を参照して、以下で本発明をより詳細に説明して、その他の特徴や利点をより明確に示す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ターボ機械の概略図である。
【図2】本発明のシャフトの破損検出装置の下流側端部の断面図である。
【図3】本発明のシャフトの破損検出装置の上流側端部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、ステータの一部を構成する固定ケーシング6、圧縮機7、燃焼チャンバ8、タービン9を備えるターボ機械の図を示す。圧縮機7は圧縮機ロータ71を含み、タービン9はタービンロータ91を含む。圧縮機ロータ71およびタービンロータ91は、シャフト1により相互接続されており、圧縮機ロータ71はシャフト1の上流側端部11に確実に締め付けられ、タービンロータ91はシャフト1の下流側端部12に確実に締め付けられている。「上流側」および「下流側」は、タービンを通過する流体流れの流れ方向に対して定義される。
【0020】
図2は、シャフト1の破損を検出するための本発明の装置の下流側端部を示す図である。装置は、一部分において、シャフト1と細長い部品であるロッド2により構成される。シャフト1は通常、管状形状、すなわち中空円筒形であり、ターボ機械の回転軸に対応する回転軸(X)を有する。
【0021】
ロッド2は、シャフト1の内部に配置され、同軸上でシャフトの長さに沿ってシャフトを貫通して延びる。シャフトの下流側端部12およびロッドの下流側端部22は互いに確実に締め付けられる。この締め付けを行うために、種々の手段23、例えば、接着剤、溶接、ボルト締め、ネジ締め付け、または機械的噛合いが考えられる。締め付けは、シャフト1の下流側端部12が拘束されてロッド2の下流側端部22と供回り(entrain rotation)するようにしなければならない。したがって、ピンまたはキーを使用することも可能である。
【0022】
ネジ締め付けを利用する場合、反対方向の回転によりネジが外れる危険があり、それにより、2つの部品が離れて、部品の一方の回転駆動が他方によって失われてしまうので、ネジ締め方向はシャフト1の回転がロッド2の下流側端部22とシャフト1の下流側端部12との間のネジ係合を強固にするような方向にするのが重要である。ネジ係合のために、シャフト1の下流側端部12は、ロッド2の下流側端部22に位置するネジ山と協働するタッピングを含んでもよい。
【0023】
機械的噛合いの手段による締め付けの場合、シャフト1の下流側端部12およびロッド2の下流側端部22は、相補的スプライン23を含んでもよい。スプライン23を使用することは、シャフト1の上流側端部11からロッド2を挿入して、締め付けることを容易にするという点で有利である。
【0024】
図3は、シャフト1の破損を検出するための本発明の装置の上流側端部を示す図である。装置は、シャフト1と、ロッド2と、シャフト1の上流側端部11に対するロッド2の上流側端部21の速度を測定するのに適したセンサ3とによって構成される。
【0025】
センサ3は、筐体38を備え、シャフト1の上流側端部11に確実に締め付けられる。この締め付けを行うために、種々の手段4、例えば、接着剤、溶接、ボルト締め、ネジ締め付け、機械的噛合いが考えられる。1つの可能な締め付け手段4は、センサ3に固定されたナット4により構成され、シャフト1の上流側端部11でネジ締めすることができる。図3は、この締め付けがネジ締め付けである一実施形態を示す図である。
【0026】
センサ3は、基本的にシャフト1と同軸の中空円筒形状である。センサ3の中空内部30は、ロッド2の上流側端部21を受け入れる働きをし、上流側端部は、センサ3に対して、およびシャフト1の上流側端部11に対して自由に回転する。
【0027】
図3に示されたセンサ3は、電磁誘導型のセンサである。筐体38の内部には、シャフト1およびロッド2と同軸上に配置された可動リング31を備える。この回転リング31は、回転対称な形状を有し、回転軸(X)の軸周りの回転に適しており、シャフトの下流側端部12とロッドの下流側端部22との間の上述した締め付け手段23と同じ締め付け手段24、例えば、スプライン24により、ロッド2の上流側端部21に結合されている。この締め付けは、ロッド2の上流側端部21が軸(X)周りの可動リング31に供回りするようにしなければならない。好ましくは、可動リング3はポリテトラフルオロエチレン(Teflon(登録商標))などの摩耗に耐える材料製である。可動リング31は、可動リング31に内蔵できる永久磁石を含む。
【0028】
筐体38内部に、センサ3はさらに導電巻線32を含み、この巻線32は銅線が好ましい。巻線32は、センサ3の筐体38に固定され、シャフト1およびロッド2と同軸上に配置される。巻線32は、可動リング31が回転している時に、シャフトの下流側端部12とロッドの下流側端部22との速度差の結果として、電流が導電巻線32で誘導されるように、可動リング31を取り巻く。
【0029】
シャフトが無傷の場合、ロッド2はシャフト1と同じ速度で供回りして、巻線32で電流が全く誘導されない。
【0030】
シャフト1が破損している場合、ロッド2は、シャフト1の下流側端部12と同じ速度で回転駆動を続ける。シャフト1の下流側端部12の回転がシャフト1の上流側端部11に正確に伝えられなくなるので、ロッド2の上流側端部21とシャフト1の上流側端部11との間で位相シフトが生じる。可動リング31と導電巻線32とを備えるアセンブリにより、シャフト1の上流側端部11に対するロッド2の上流側端部21の速度を測定するセンサ3は、巻線32で電流が誘導される際にこの位相シフトを検出する。
【0031】
ターボ機械のシャフト1の破損に対応するこの位相シフトが、信号処理電子手段に送信される警告信号を発して、ターボ機械への燃料供給を止める。これらの電子手段は、FADEC(全自動デジタル電子式制御装置)、またはFADECとは関係のない、FADECとは異なる燃料供給を止めるその他の何らかの装置としてもよい。例として、これらの電子手段は、誘導電流により自動的に動力が供給される、MEMS(微小電気機械システム)としてもよい。
【0032】
警告信号は、センサ3内で導電巻線32に近接して配置された無線送信機33により送信されてもよい。誘導により供給された電流は送信機に電力を供給する働きをする。
【0033】
センサ3はさらに、センサ3を封止し、ロッド2の上流側端部21を軸方向に保持するための上流側プラグ51を含む。センサ3に取り付けるために、プラグ51はセンサ3のネジ山35と協働するタッピング53を有する。
【0034】
ロッド2は剛体でも可撓体でもよい。ロッド2は例えば、任意で編組の中実のあるいは中空の金属芯により、場合により可撓性の保護鞘で補強した、例えばプラスチック材料またはゴム材料製の金属芯により構成してもよい。鞘も、鋼鉄などの金属製としてもよく、シリコーンなどの高温に耐えるポリマーで被覆してもよい。ロッド2の可撓性により、ロッド2をターボ機械のロータのシャフト1に沿って挿入するのが容易になる。
【0035】
この可撓性は、捩れや曲げの動きに関して、寄生の位相シフトを生じさせてしまう恐れのある障害となるのを避けるように、程度決めをしなければならない。
【0036】
図3は、センサ3がシャフト1に固定される好ましい実施形態を示すが、ロッド2に固定されるセンサ3もまた考えられる。また、シャフト1にもロッド2にも固定されないが、シャフト1の上流側端部11およびロッド2の上流側端部21から上流側に配置されるセンサ3も想定され得る。
【0037】
本発明はさらに、上述したシャフトの破損検出装置を含むターボ機械を提供する。
【符号の説明】
【0038】
1 シャフト
2 ロッド
3 センサ
4 締め付け手段(ナット)
6 固定ケーシング
7 圧縮機
8 燃焼チャンバ
9 タービン
11 シャフトの上流側端部
12 シャフトの下流側端部
21 ロッドの上流側端部
22 ロッドの下流側端部
23 締め付け手段(相補的スプライン)
24 締め付け手段(スプライン)
30 中空内部
31 回転可動リング
32 導電巻線
33 無線送信機
35 ネジ山
38 筐体
51 プラグ
53 タッピング
71 圧縮機ロータ
91 タービンロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側端部(11)および下流側端部(22)を有するシャフト(1)と、
上流側端部(21)および下流側端部(22)を有し、シャフト(1)内部でシャフト(1)と同軸上に配置され、ロッド(2)の下流側端部(22)がシャフト(1)の下流側端部(11)に確実に締め付けられ、ロッド(2)の上流側端部(21)がシャフト(1)の上流側端部(11)に対して自由に回転できる、ロッド(2)と、
ロッド(2)の上流側端部(21)とシャフト(1)の上流側端部(11)との回転速度の差を検出するのに適したセンサ(3)と
を備える、ターボ機械のシャフト(1)の破損を検出するための装置。
【請求項2】
センサ(3)が、シャフト(1)の上流側端部(11)に確実に締め付けられた筐体(38)を備えることを特徴とする、請求項1に記載のターボ機械のシャフト(1)の破損を検出するための装置。
【請求項3】
センサ(3)が、シャフト(1)と同軸の中空円筒形状であることを特徴とする、請求項2に記載のターボ機械のシャフト(1)の破損を検出するための装置。
【請求項4】
センサ(3)が、
シャフト(1)と同軸上に配置された永久磁石を含み、シャフト(1)の軸周りに回転可能であり、ロッド(2)の上流側端部(21)に結合された回転可動リング(31)と、
センサ(3)の筐体(38)に固定され、シャフト(1)と同軸の導電巻線(32)と
を備えることを特徴とする、請求項3に記載のターボ機械のシャフト(1)の破損を検出するための装置。
【請求項5】
巻線(32)が、可動リング(31)を取り巻くことを特徴とする、請求項4に記載のターボ機械のシャフト(1)の破損を検出するための装置。
【請求項6】
可動リング(31)とロッド(2)の上流側端部(21)とが、スプライン(24)により互いに結合されることを特徴とする、請求項4または5に記載のターボ機械のシャフト(1)の破損を検出するための装置。
【請求項7】
シャフト(1)の下流側端部(12)とロッド(2)の下流側端部(22)とが、相補的スプライン(23)を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のターボ機械のシャフト(1)の破損を検出するための装置。
【請求項8】
センサ(3)が、上流側プラグ(51)を含むことを特徴とする、請求項1〜7のうちいずれか1項に記載のターボ機械のシャフト(1)の破損を検出するための装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のターボ機械のシャフト(1)の破損を検出するための装置を含む、ターボ機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−121474(P2009−121474A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−289488(P2008−289488)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)
【Fターム(参考)】