説明

ダイナミックマイクロホン

【課題】振動雑音を相殺する信号の共振周波数、共振鋭度、信号レベルを、相殺すべき振動雑音に対応して電気的に連続的に調整することを可能にし、振動雑音を効果的に低減できるダイナミックマイクロホンを得る。
【解決手段】ダイナミックマイクロホンユニット3の振動を検出して振動雑音を相殺する信号を出力する振動ピックアップ5と、マイクロホンユニット3および振動ピックアップ5を支持するマイクロホンケース1を備え、振動ピックアップ5は、マイクロホンユニットケース36の振動を検出し振動に対応した信号を出力する積層セラミック圧電子からなり、積層セラミック圧電子の静電容量とインダクタ6のインダクタンスにより上記振動雑音と同様の加速度に対する応答信号を得る共振回路を構成し、共振回路は、応答信号が上記振動雑音信号と逆向きに出力されるように接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動雑音低減構造および振動雑音低減回路を備えたダイナミックマイクロホンに関するもので、振動をキャンセルするための振動センサとして圧電素子を用い、圧電素子の静電容量を利用して振動雑音低減回路を構成したことを特徴とするものである。
【背景技術】
【0002】
ダイナミックマイクロホンは、振動板にボイスコイルが接着され、マグネットやヨーク、ポールピースなどで構成される磁気回路中の磁気ギャップに上記ボイスコイルが配置されることによって構成されている。振動板が音波を受けて振動すると、振動板とともにボイスコイルも振動し、ボイスコイルが磁気ギャップ内の磁束と交差する向きに振動することにより、ボイスコイルから音波に対応した音声出力信号を得ることができる。
【0003】
手持ち型のダイナミックマイクロホンは、マイクロホンケースに対して手が擦れることにより、あるいは握る時の振動、置くときの振動などによって不愉快な振動雑音を生じやすい。振動雑音は、マイクロホンケースや磁気回路構成部材などの固定部分に対して、振動板とボイスコイルからなる可動部分が、音波以外の振動によって相対移動することによって生じる。そこで、手持ち型のダイナミックマイクロホンとしては、振動雑音の影響が比較的目立ちにくい無指向性ダイナミックマイクロホンが広く用いられている。
【0004】
一方、単一指向性のダイナミックマイクロホンを手持ち型マイクロホンとして使用したいという要望がある。単一指向性ダイナミックマイクロホンの指向特性を分析すると、無指向性成分と双指向性成分を合わせたものであることは知られている。単一指向性ダイナミックマイクロホンの上記双指向性成分は質量制御であることから、振動板の共振周波数は収音帯域の下限付近である100〜200Hzに設定される。図10は、一般的な単一指向性ダイナミックマイクロホンの振動等価回路を示している。図10において、m0は振動板の質量、s0は振動板のスチフネス、r1は無指向性成分を得るための音響抵抗、m1は双指向性成分を得るための音響質量を示している。これらの回路定数を適宜の値に設定することにより、上記共振周波数を目指す値に設定している。
【0005】
単一指向性ダイナミックマイクロホンでは、上記のように振動板の共振周波数は収音帯域の下限付近に設定されるため、単一指向性ダイナミックマイクロホンを手持ちで使用すると、ハンドリングノイズと称する振動雑音が発生しやすいという難点がある。ボイスコイルの素材として銅被覆アルミニウム線(CCAW)のような軽い素材を用いて可動部の質量を軽くすると振動雑音を軽減することができる。その半面、振動板の共振周波数が上昇するため、振動板のスチフネスを低下させて(コンプライアンスを高めて)低域限界を所望の周波数まで下げるように設計される。また、マイクロホンの振動雑音対策として、ショックマウントを介してマイクロホンユニットを支持したものもあるが、ショックマウントを用いただけでは、低い周波数の振動雑音を低減することはできない。
【0006】
このように、マイクロホンには、基本構成のままで素材を工夫しても、あるいはショックマウントの類を用いても、振動雑音の問題を解決することができないため、振動雑音を能動的に低減しあるいはキャンセルするための構造ないしは仕組みを付加せざるを得ない。以下に、能動的に振動雑音を低減しあるいはキャンセルするようにしたマイクロホンの従来例について説明する。
【0007】
特許文献1には、マイクロホンケース内にショックマウントを介してマイクロホンユニットを支持するとともに、マイクロホンケースに加わる振動を検出するショックセンサと、ショックセンサの検出信号に基づいてマイクロホンユニットからの電気音響変換信号を減衰して出力する信号処理部を備えたマイクロホンが記載されている。
【0008】
特許文献2には、振動の伝搬経路を振動板側と磁気回路側に分け、振動板と磁気回路の相対速度差を減少させて振動雑音をキャンセルさせるマイクロホンが記載されている。具体的には、振動板の周縁部の上面と下面にそれぞれ第1弾性体と第2弾性体を配置し、振動板13をその周縁部上面の第1弾性体を介してユニットケースに取り付けるとともに、磁気回路部の一端側を振動板周縁部下面に配置されている第2弾性体に当接させて上記磁気回路部をユニットケース内に収納したものである。ユニットケースに与えられる振動速度は、主として振動板の周縁部上面の第1弾性体を介して振動板の周縁部下面の第2弾性体に伝わり、磁気回路部に伝えられる。このように、振動速度が固体伝搬する経路を限定することにより、ユニットケースを擦ったときに生じる振動雑音を広い範囲にわたって軽減することができる、というものである。
【0009】
特許文献3には、振動雑音をダイナミック型の振動ピックアップで検出し、マイクロホンユニットで発生する振動雑音を上記検出信号で相殺(キャンセル)するようにしたダイナミックマイクロホンが記載されている。より具体的には、マイクロホンユニットと連通する空気室内に音響素子としての振動検出ユニットを配置し、この振動検出ユニットの振動板の振動による上記空気室内の圧力変化をマイクロホンユニットの振動板の背面側に伝達し、外部振動による振動板の変位を抑えるようにしたもの、すなわち、振動雑音を能動的に相殺するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−331987号公報
【特許文献2】特開平10−145882号公報
【特許文献3】特開平11−196389号公報
【0011】
特許文献1記載の発明によれば、外部振動が加わると出力信号レベルを減衰させ、出力される雑音のレベルも減衰させるというものであるから、外部振動によって出力信号レベルが低下するという難点がある。
【0012】
特許文献2記載の発明によれば、外部振動が加わると、振動板と磁気回路とを平行移動させて双方の相対速度差を減少させるというものであるから、狙い通りに振動雑音を減少させるには、振動板などの可動部の質量、磁気回路の質量、弾性体の弾性係数など、機械インピーダンスを適正な値に設計し調整する必要があり、設計および調整に多大な時間と労力を要する難点がある。加えて、温度などの環境条件の変化によって上記係数ないしは値が変動すると、振動雑音を狙い通りに減少させることができないことがある。
【0013】
特許文献3記載の発明によれば、ダイナミック型の振動ピックアップから、マイクロホンユニットの振動雑音に合わせた出力が得られるように上記振動ピックアップを設計しかつ製造する必要があり、設計および調整に多大な時間と労力を要する難点がある。また、特許文献2記載の発明と同様に、機械インピーダンスを適正な値に設計し調整する必要があり、設計および調整に多大な時間と労力を要する難点がある。また、温度などの環境条件の変化によって機械インピーダンスが変動し、振動雑音を狙い通りに減少させることができないことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ダイナミックマイクロホンの振動雑音を能動的に相殺するには、振動雑音と、これを相殺する信号との間で、共振周波数、共振鋭度、信号レベルの各要素を合わせる必要がある。上記3つの要素を電気的にかつ連続的に調整することができれば、設計および調整がきわめて容易になり好都合である。
【0015】
本発明は、以上説明した従来技術に鑑みてなされたもので、振動雑音を能動的に相殺するに当たり、振動雑音を相殺するための相殺信号の共振周波数、共振鋭度、信号レベルの各要素を、相殺すべき振動雑音に対応して電気的に連続的に調整することを可能にし、もって、振動雑音を効果的に低減することができるダイナミックマイクロホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ダイナミックマイクロホンユニットと、このダイナミックマイクロホンユニットの振動を検出して上記ダイナミックマイクロホンユニットから出力される振動雑音を相殺する信号を出力する振動ピックアップと、上記ダイナミックマイクロホンユニットおよび上記振動ピックアップを支持するマイクロホンケースと、を備え、上記振動ピックアップは、マイクロホンユニットケースと一体に支持されて上記マイクロホンユニットケースの振動を検出し振動に対応した信号を出力する積層セラミック圧電子からなり、上記積層セラミック圧電子は、その静電容量を利用して、上記積層セラミック圧電子に接続されたインダクタのインダクタンスとともに上記マイクロホンユニットの振動雑音と同様の加速度に対する応答信号を得る共振回路を構成し、上記共振回路は、上記応答信号が上記マイクロホンユニットから出力される振動雑音信号と逆向きに出力されるように上記マイクロホンユニットに接続されていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
マイクロホンケースが振動すると、この振動がマイクロホンユニットケースに伝わり、マイクロホンユニットケースと実質一体の磁気回路構成部材が振動する。この磁気回路構成部材の振動に対し、振動板とボイスコイルを含む可動部がその慣性力によって相対移動し、振動雑音を発生する。一方、マイクロホンユニットケースの上記振動は振動ピックアップにも伝わり、振動ピックアップが振動することによって上記振動に対応した信号を出力する。振動ピックアップは、その出力信号がマイクロホンユニットから出力される振動雑音信号と逆向きに出力されるように上記マイクロホンユニットに接続されているため、マイクロホンユニットから出力される振動雑音信号を打ち消すように作用する。加えて、上記振動ピックアップは静電容量の大きい積層セラミック圧電子からなり、その静電容量とインダクタのインダクタンスとによって、上記振動雑音が存在する低い周波数帯域で共振する共振回路を構成することができるため、上記振動雑音信号を効果的に相殺することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るダイナミックマイクロホンの実施例の主要部を示す縦断面図である。
【図2】上記実施例中のマイクロホンユニットと振動ピックアップとコネクタの部分を示す縦断面図である。
【図3】上記ダイナミックマイクロホンの実施例の電気的な接続例を示す回路図である。
【図4】上記ダイナミックマイクロホンの実施例の音響等価回路図である。
【図5】本発明に用いられる振動ピックアップとしての積層セラミック圧電子の例を示す縦断面図である。
【図6】上記実施例における共振周波数調整の様子を示すグラフである。
【図7】上記実施例における共振鋭度調整の様子を示すグラフである。
【図8】上記実施例における共振信号出力レベル調整の様子を示すグラフである。
【図9】上記実施例におけるマイクロホンユニットの振動雑音とこの振動雑音を共振回路で相殺したときの信号を示すグラフである。
【図10】従来一般のダイナミックマイクロホンの音響等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るダイナミックマイクロホンの実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0020】
図1、図2において、符号1はマイクロホンケースを示している。マイクロホンケース1は円筒形状をしていて、一端部(図1、図2において上端部)にダイナミックマイクロホンユニット3、振動ピックアップ5などが組み付けられている。ダイナミックマイクロホンユニット3は、扁平な皿状のヨーク32と、ヨーク32の内底面中央に固着された円形のマグネット31と、マグネット31の上面に固着されたポールピース331と、ポールピース331を取り囲んでヨーク32の上端面に固着されたリング状のヨーク332で構成された磁気回路を有している。
【0021】
上記磁気回路の一部に、ポールピース331の外周面とヨーク332の内周面で囲まれた円筒状の磁気ギャップがあり、この磁気ギャップ内に、振動板34に固着されたボイスコイル35が配置されている。振動板34は、球面の一部を切り取った形のセンタードームと、断面が部分円弧形でセンタードームの周囲を取り囲むサブドームからなり、サブドームの外周縁部がユニットケース36と実質一体の部材に固着されている。ボイスコイル35は上記センタードームとサブドームとの境界の稜線に沿って接着されている。振動板34は音波を受けるとボイスコイル35とともに音波に対応して前後方向(図1、図2において上下方向)に振動し、ボイスコイル35が上記磁気ギャップ内の磁束を横切ることによって発電し、音波に対応した音声信号を出力する。
【0022】
マイクロホンケース1によるマイクロホンユニット3の支持構造は以下のとおりである。マイクロホンユニット3の磁気回路構成部材の一つであるヨーク32の底部外周縁部は支持円筒37の上端部内周側に嵌合されるとともに、この上端部内周に形成されている段部で支持されている。支持円筒37は下方に延びていて、支持円筒37のほぼ下半分の外周面に中間筒41が嵌合され、中間筒41の外周面に外筒42が嵌合されて、これら支持円筒37、中間筒41、外筒42が一体に結合されている。外筒42の外周側に所定の間隔をおいてマイクロホンケース1があり、外筒42とマイクロホンケース1との間にショックマウント11,12が介在している。外筒42は中間筒41よりも下方に大きく延びていて、この外筒42が下方に延びた部分とマイクロホンケース1との間に第1のショックマウント11が介在し、外筒42の上端部とマイクロホンケース1の上端部との間に第2のショックマウント12が介在している。このようにして、結果的には、マイクロホンユニット3がショックマウント11,12を介してマイクロホンケース1内に支持されている。
【0023】
上記支持円筒37の内周面側には二つの有底筒38,39が腹合わせ状に、すなわち双方の底部が互いに遠ざかる向きにして嵌合され、有底筒38,39に囲まれた空間40が形成されている。有底筒38が上側、有底筒39が下側に配置され、有底筒38,39の底部にはそれぞれ開口381,391が形成され、これらの開口381,391は音響抵抗45,46によって覆われている。
【0024】
有底筒39の下方には、マイクロホンユニットケース36と実質一体の中間筒41によって支持された振動ピックアップ5が配置されている。振動ピックアップ5は、マイクロホンユニットケース36の振動を検出し、振動に対応した信号を出力する積層セラミック圧電子51からなる。積層セラミック圧電子51は、図5に示すように、例えばステンレス鋼からなる電極基板55と、電極基板55の両面に固着されたセラミック圧電子56と、各セラミック圧電子56の表面に例えば銀で成膜した電極57を有してなる。積層セラミック圧電子51に圧力がかかってセラミック圧電子56が歪むと、圧電子56が発電し、電極基板55と電極57から圧力に応じた信号を出力する。積層セラミック圧電子51として、例えばセラミック圧電子を用いた積層型小型スピーカを用いることができる。積層型小型スピーカはその静電容量が高いので、後で説明するマイクロホンユニット3の振動雑音と同様の加速度に対する応答信号を得る共振回路を構成するのに好都合である。
【0025】
振動ピックアップ5を構成する積層セラミック圧電子51は、その周縁部、図5に示す構成の積層セラミック圧電子51の例では電極基板55の周縁部が前記中間筒41によって支持されることによりマイクロホンユニットケース36と実質一体に支持されている。積層セラミック圧電子51の周縁部は全周がマイクロホンユニットケース36と実質一体に支持されていてもよいが、図示の実施例では、積層セラミック圧電子51の周縁部の一部が中間筒41に固着されて片持ち的に支持されている。また、積層セラミック圧電子51に伝達される振動によって積層セラミック圧電子51が大きくたわみ、大きな振動検出信号が出力されるように、積層セラミック圧電子51の両面に錘52が固着されている。
【0026】
前記外筒42の下端部内周には回路基板7が嵌合され固着されている。回路基板7の上面側にはインダクタ6が実装され、インダクタ6は、回路基板7と振動ピックアップ5との間に形成されている空間に位置している。回路基板7の下面には二つの可変抵抗VR1,VR2が実装されている。可変抵抗VR1,VR2の抵抗値を調整することにより、積層セラミック圧電子51とインダクタ6を含む共振回路の共振鋭度、信号レベルを調整することができる。図示されていないが、回路基板7には可変容量コンデンサが実装されていて、可変容量コンデンサの静電容量を変えることにより、上記共振回路の共振周波数を調整することができるようになっている。共振回路の共振周波数の調整は、インダクタ6を可変インダクタとしてそのインダクタンスを変えることによっても可能であるが、図示の実施例におけるインダクタ6は固定インダクタンスである。共振回路およびその等価回路については後で説明する。
【0027】
前記マイクロホンユニット3は単一指向性ダイナミックマイクロホンユニットで、振動板34の背面側の空間は、ヨーク32に形成された適宜数の孔321を介してヨーク32と有底筒38との間の空間に連通するとともに、音響抵抗45と開口381を経て空間40に連通し、さらに、音響抵抗46と開口391を経て有底筒39の外部の前記中間筒41で囲まれた空間に連通している。振動板34の背面側空間の音響抵抗を適宜の値に設定することにより、マイクロホンユニット3の指向性を単一指向性にすることができる。
【0028】
図2に示すように、マイクロホンケース1の後端部(図2において下端部)にはマイクロホンコネクタ8が組み付けられている。マイクロホンコネクタ8は、一般的には、アースピンと、ホット側の信号ピンと、コールド側の信号ピンを有する3ピンタイプの規格化されたコネクタである。
【0029】
図3は上記実施例の回路構成を示す。図3において、符号Aはマイクロホンユニット3の範囲を、Bはマイクロホンユニット3の振動雑音と同様の加速度に対する応答信号を得る共振回路の範囲を示している。符号Pは振動ピックアップ5の起電力を、Lはインダクタ6のインダクタンスを、VR1とVR2は前記可変抵抗を示している。振動ピックアップ5、インダクタ6、可変抵抗VR1はマイクロホンユニット3とともに直列に接続され、これら直列接続の両端がマイクロホンユニット3の出力端子となっている。振動ピックアップ5、インダクタ6、可変抵抗VR1を含む範囲が共振回路の範囲で、この共振回路に並列に可変抵抗VR2が接続されている。
【0030】
図4は、上記実施例の回路構成を音響等価回路で表したものである。図4においてjωm0は外部からの振動によってマイクロホンユニット3から出力される振動雑音を示す。m0はマイクロホンユニット3の振動板の質量、s0は上記振動板のスチフネス、r0は音響抵抗を示しており、これら振動板の質量m0、スチフネスs0、音響抵抗r0および振動雑音jωm0の直列回路の範囲Aがマイクロホンユニット3の範囲である。共振回路Bの範囲は、上記のように、振動ピックアップ5、インダクタ6、可変抵抗VR1の直列回路に、可変容量コンデンサCが直列に付加された構成になっている。また、この共振回路には可変抵抗VR2が並列に接続されている。振動ピックアップ5は外部からの振動によってjωmwの信号を出力する。mwは、振動ピックアップ5の錘52を含む質量を示す。
【0031】
図4に矢印で示すように、マイクロホンユニット3から出力される振動雑音の極性と、共振回路の振動ピックアップ5から出力される振動検出信号の極性は互いに逆向きになり、上記振動雑音が振動検出信号で相殺(キャンセル)されるように、接続されている。
【0032】
前述のように、振動ピックアップ5を構成する積層セラミック圧電子は比較的大きな静電容量を持っている。図5に示すように、電極基板55の両側の圧電子56はそれぞれ電極基板55と電極57との間に0.5μF程度の静電容量を持ち、両面の圧電子56を合わせた静電容量は1.0μF程度になる。この積層セラミック圧電子51の静電容量およびこれに直列に接続されているコンデンサCの静電容量と、インダクタ6のインダクタンスLとによって共振回路が構成されている。この共振回路の共振周波数は上記静電容量とインダクタンスLによって決まる。積層セラミック圧電子51の静電容量は例えば上記のように1.0μF程度と大きな静電容量であることから、上記共振回路の共振周波数をマイクロホンユニット3から出力される振動雑音のように低い周波数帯域に容易に合わせることができる。
【0033】
また、積層型セラミックスピーカとして用いられる積層セラミック圧電子を振動ピックアップとして用いると、積層セラミック圧電子は弾性制御であることから共振周波数以下の加速度に対する応答は平坦でかつ高い出力レベルを得ることができる。したがって、以上説明したような実施例の構成にすることにより、ダイナミックマイクロホンの振動雑音と同様の加速度に対応する応答特性を得ることができる。
【0034】
上記実施例において、図4に示す可変容量コンデンサCの容量を変えることにより上記共振回路の共振周波数を調整することができる。可変容量コンデンサCとしては、いわゆるバリコン(バリアブルコンデンサ)のように連続的に容量を変えることができるものを用いるとよい。図6は可変容量コンデンサCの容量を変えることによって共振回路の共振周波数が変わる様子をグラフで表したもので、横軸は周波数(Hz)を、縦軸は出力レベル(dBV)を示している。曲線aは可変容量コンデンサCの容量が大きい場合、曲線bは可変容量コンデンサCの容量が小さい場合を示している。可変容量コンデンサCの容量を変えて共振回路の共振周波数を調整することにより、共振周波数をマイクロホンユニット3から出力される振動雑音の周波数帯域に合わせ、振動雑音を効果的に相殺することができる。なお、インダクタ6を可変インダクタにすれば、インダクタ6を可変することによって共振周波数を調整することができ、可変容量コンデンサCを付加する必要はない。
【0035】
図4に示す可変抵抗VR1の抵抗値を変えることにより上記共振回路の共振鋭度すなわち共振周波数付近のピークの鋭さを変えることができる。図7は可変抵抗VR1の抵抗値を変えることによって共振回路の共振鋭度が変わる様子をグラフで表したもので、横軸は周波数(Hz)を、縦軸は出力レベル(dBV)を示している。可変抵抗VR1の抵抗値を低い値から高い値に変化させることにより、共振鋭度が曲線a、曲線b、曲線cの順に鈍くなっている。マイクロホンユニット3から出力される振動雑音のピーク周辺の鋭度ないしは周波数帯域に応じて上記共振鋭度を調整することにより、上記振動雑音を効果的に相殺することができる。
【0036】
図4に示す可変抵抗VR2の抵抗値を変えることにより上記共振回路の出力レベルを変えることができる。図8は可変抵抗VR2の抵抗値を変えることによって共振回路の出力レベルが変わる様子をグラフで表したもので、横軸は周波数(Hz)を、縦軸は出力レベル(dBV)を示している。可変抵抗VR2の抵抗値を高い値から低い値に変化させることにより、共振回路の出力レベルが曲線a、曲線b、曲線cの順に平行移動しながら低下している。マイクロホンユニット3から出力される振動雑音のレベルに対応した共振回路の出力レベルとなるようにVR2を調整することにより、上記振動雑音を効果的に相殺することができる。
【0037】
図9は、上記実施例において、共振回路によるマイクロホンユニットの振動雑音の相殺効果を示している。図9の曲線aは、マイクロホンユニットの振動雑音を、曲線bは上記振動雑音を共振回路で相殺したあとのマイクロホンユニットの出力信号を示す。図9からわかるように、曲線aで示す振動雑音のピーク付近を相殺して、曲線bで示すように低いレベルまで効果的に低減することができる。なお、図9では振動雑音を共振回路で相殺したあとのマイクロホンユニットの出力信号の400Hz付近にピークが見られる。このピークは、機械的な共振によるピークで、マイクロホンユニット全体を、図1に示す例におけるショックマウント11,12を介し支持して防振することにより消去することができる。ただし、上記ピークが存在していても音質にそれほど悪い影響を与えるものではないから、例えば体積に制限のあるワイヤレスマイクロホンなどの場合は、ショックマウントを介在させることなくマイクロホンユニットをマイクロホンケースで直接的に支持する構造であってもよい。
【0038】
以上説明したように、本発明の実施例によれば、振動ピックアップ5を使用してマイクロホンユニットの振動雑音を能動的に相殺するに当たり、振動ピックアップ5として静電容量の大きい積層セラミック圧電子51を用い、その静電容量を利用して共振回路を構成し、この共振回路の出力信号で上記振動雑音を相殺するようにした。したがって、比較的低い周波数帯域にあるマイクロホンユニットの振動雑音を効果的に相殺することができる。また、振動雑音を相殺するための相殺信号の共振周波数、共振鋭度、信号レベルの各要素を、相殺すべき振動雑音に対応して電気的に連続的に調整することを可能にしたため、マイクロホンユニットの振動雑音によく似た相殺信号を得ることが容易であり、振動雑音を効果的に低減することができるダイナミックマイクロホンを得ることができる。
【0039】
相殺信号の共振周波数、共振鋭度、信号レベルの各要素の調整は、例えば、加速度を調整可能な加振機に対象となるマイクロホンを装着し、加振機を作動させ、マイクロホンの出力を観察しながら行う。振動雑音の出力が最小になるように可変コンデンサC,インダクタ6、可変抵抗VR1,VR2をそれぞれ調整する。上記加振機は、ある程度の周波数帯ないしは周波数の幅を持った信号を入力し、この入力信号に対応した周波数帯で加振機を駆動する。上記調整はマイクロホンの製造工程の最終工程近くで行われ、製造後は上記各調整位置が半永久的に維持される。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明はダイナミックマイクロホン、特に単一指向性ダイナミックマイクロホンの振動雑音を相殺することを想定しているが、その他の形式のマイクロホン、例えばコンデンサ型マイクロホンに、本発明で用いられている振動ピックアップおよび共振回路を付加してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 マイクロホンケース
3 マイクロホンユニット
5 振動ピックアップ
6 インダクタ
34 振動板
35 ボイスコイル
36 ユニットケース
37 支持円筒
38 内筒
51 積層セラミック圧電子
52 錘
55 電極基板
56 圧電子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイナミックマイクロホンユニットと、このダイナミックマイクロホンユニットの振動を検出して上記ダイナミックマイクロホンユニットから出力される振動雑音を相殺する信号を出力する振動ピックアップと、上記ダイナミックマイクロホンユニットおよび上記振動ピックアップを支持するマイクロホンケースと、を備え、
上記振動ピックアップは、マイクロホンユニットケースと一体に支持されて上記マイクロホンユニットケースの振動を検出し振動に対応した信号を出力する積層セラミック圧電子からなり、
上記積層セラミック圧電子は、その静電容量を利用して、上記積層セラミック圧電子に接続されたインダクタのインダクタンスとともに上記マイクロホンユニットの振動雑音と同様の加速度に対する応答信号を得る共振回路を構成し、
上記共振回路は、上記応答信号が上記マイクロホンユニットから出力される振動雑音信号と逆向きに出力されるように上記マイクロホンユニットに接続されているダイナミックマイクロホン。
【請求項2】
ダイナミックマイクロホンユニットは単一指向性ダイナミックマイクロホンユニットである請求項1記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項3】
積層セラミック圧電子は、円形の電極基板の面にセラミックが固着されて上記セラミックから信号が出力されるように構成され、上記電極基板の周縁部がマイクロホンユニットケースに支持されている請求項1または2記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項4】
積層セラミック圧電子は、電極基板の両面にセラミックが固着されて両面のセラミックから信号が出力されるように構成されている請求項3記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項5】
電極基板の面に固着されているセラミックには錘が固着されている請求項3または4記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項6】
共振回路には可変コンデンサが直列に接続され、上記可変コンデンサの容量を変えることにより上記共振回路の共振周波数を変えることができる請求項1乃至5のいずれかに記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項7】
インダクタは可変インダクタであって、この可変インダクタのインダクタンスを変えることにより共振回路の共振周波数を変えることができる請求項1乃至5のいずれかに記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項8】
共振回路には可変抵抗が直列に接続され、上記可変抵抗の抵抗値を変えることにより上記共振回路の共振鋭度を変えることができる請求項1乃至7のいずれかに記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項9】
共振回路には可変抵抗が並列に接続され、上記可変抵抗の抵抗値を変えることにより上記共振回路の信号レベルを変えることができる請求項1乃至8のいずれかに記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項10】
マイクロホンユニットケースは、ショックマウントを介してマイクロホンケース内に支持されている請求項1乃至9のいずれかに記載のダイナミックマイクロホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−120008(P2012−120008A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269015(P2010−269015)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】