ダイヤフラムポンプ
【課題】ピストンを可能な限り突出移動させてローリングダイヤフラムを伸展姿勢とするときに、折返部の開放で形成される湾曲部が歪んだ形状とならず、円滑に湾曲した期待通りの形状となるようにして、フラッシングモードでの液置換に要する液量や時間が軽減でき、液置換効率が改善されるダイヤフラムポンプを提供する。
【解決手段】ピストン2の外周面2eに沿う内周部3c、シリンダ1の内周面1rに沿う外周部3e、及びシリンダ1とピストン2との間の筒状空間部13にて折り返されることで形成される折返部3dを備えるフッ素樹脂製のローリングダイヤフラム3と、シリンダ1内にてローリングダイヤフラム3でて仕切られるポンプ室4とを持つダイヤフラムポンプにおいて、ローリングダイヤフラム3は、ピストン2の突出移動によって外周部3eが消失され、かつ、折返部3dの折り返しが開放されるときの姿勢に相当する伸展姿勢にて作製されたものである。
【解決手段】ピストン2の外周面2eに沿う内周部3c、シリンダ1の内周面1rに沿う外周部3e、及びシリンダ1とピストン2との間の筒状空間部13にて折り返されることで形成される折返部3dを備えるフッ素樹脂製のローリングダイヤフラム3と、シリンダ1内にてローリングダイヤフラム3でて仕切られるポンプ室4とを持つダイヤフラムポンプにおいて、ローリングダイヤフラム3は、ピストン2の突出移動によって外周部3eが消失され、かつ、折返部3dの折り返しが開放されるときの姿勢に相当する伸展姿勢にて作製されたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローリングダイヤフラムを備えるダイヤフラムポンプに係り、詳しくは、半導体、液晶、有機EL、太陽電池、LEDなどの製造プロセスにおいて、薬液を塗布する際や薬液を調合する際に好適に使用されるダイヤフラムポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のダイヤフラムポンプとしては、特許文献1において開示されたポンプ装置(ローリングダイヤフラムポンプ)が知られている。このローリングダイヤフラムポンプは、
シリンダと、
ピストンと、
ローリングダイヤフラムと、
シリンダ内においてローリングダイヤフラムによって仕切られ、かつ、ピストンの移動によって容積変化するポンプ室と、
及びローリングダイヤフラムの背面側においてシリンダとピストンとローリングダイヤフラムとで囲まれて形成される減圧室と、を有して構成されている。
前記ローリングダイヤフラムは、ピストンに支持される内周部及びピストン外周の折返部を経てシリンダに支持される外周部を有している。
【0003】
このようなダイヤフラムポンプにおいて、通常の駆動モードでは、ピストンが最も退入移動した吸入位置(前記特許文献1の図3を参照)と、突出移動した吐出位置(前記特許文献1の図4を参照)との間における往復移動により、流体を吸入して吐出するポンピング動作が行われる。
【0004】
ダイヤフラムポンプにおいては、薬液などの液体を置換する液置換時に、フラッシングモードという動かし方が行われることがある。フラッシングモードは、ポンプ室にある液体を完全なまでに排出させるために、ピストンを可能な限り突出側へ位置させて最大突出位置まで突出移動させるようになる。
前記フラッシングモードでは、ピストンを最大突出位置まで最大限に突出移動させるので、ローリングダイヤフラムの先端側に形成される折返部は、断面U字形状の折返し姿勢(屈曲姿勢)から引き延ばされて伸展された伸展姿勢に変化する。従って、折返部に滞留している液体をポンプ室側に移動させて排出させ易くなり、円滑な液置換を行うことができる。
【0005】
ところが、実際のフラッシングモードにおいては、薬液の置換(交換)に予想以上の大量の洗浄液又は置換時に投入する薬液が必要となって多くの時間も要しており、短時間で円滑に済むという効率の良い液置換が行えないことが多いという問題があった。
そこで、その原因を追究したところ、つぎのような現象のあることが分ってきた。それは、ピストンを最大突出位置に突出移動させたときには、図14に示すように、円滑な伸展姿勢となっているはずの湾曲部10に、部分的に逆方向に屈曲したようになって角部41や逆曲り部42を生じたり〔図14(a)参照〕、或いは直筒状であるべき内周部3cの根元側に盛り上がるような波打部43が形成されるようなったり〔図14(b)参照〕していることである。
【0006】
つまり、ローリングダイヤフラム3において、折返部3dなどが引き延ばされて(開放されて)円滑に湾曲変形して伸展姿勢になっているはずの湾曲部10が、歪んだ形状になることが知見されたのである。なお、湾曲部10とは、図14に示すように、ローリングダイヤフラム3が伸展姿勢になっているときにおいて、内周部3cと外周リング3部gとを繋ぐ部分のことである。湾曲部10は、図2に示すように、歪みなく湾曲して円滑に内周部3cと外周リング3部gとを繋ぐ部分となるのが、期待通り(正規)の形状である。
【0007】
このように、ピストンが最大突出位置にあるときの湾曲部10は、期待通りの円滑な湾曲形状による伸展姿勢(図2参照)とはならず、実際には図14(a)、(b)に示すような歪んだ形状になっていたため、折返部3dにある液がポンプ室から抜け出し難い状況になっていた。従って、前述したように、完全に液置換を行うには大量の洗浄液又は置換時に投入する薬液や多くの時間を必要としていた。
また、折返部にある液が十分に排出されずに滞留して凝集することがあり、そうなると製品不良や製品歩留りの低下を招く懸念もある。製品不良の例としては、半導体製造プロセスにおいて凝集した液が滞留異物となり、ウェハ欠陥のおそれが生じる、といったケースがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−019141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ローリングダイヤフラムを、ピストンが可能な限り突出移動されることで伸展姿勢とするときに、折返部の開放によって形成される湾曲部が歪んだ形状とならず、円滑に湾曲した期待通りの形状となるようにして、フラッシングモードにおいて液置換に要する液量や時間が軽減でき、液置換効率が改善されるダイヤフラムポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、シリンダ1内にて往復移動可能なピストン2に支持されて前記ピストン2の外周面2eに沿う内周部3c、前記シリンダ1に支持されて前記シリンダ1の内周面1rに沿う外周部3e、及び前記シリンダ1と前記ピストン2との間の筒状空間部13において折り返されることで前記内周部3cと前記外周部3eとに亘って形成される折返部3dを備えて可撓性を有する材料でなるローリングダイヤフラム3と、前記シリンダ1内において前記ローリングダイヤフラム3によって仕切られるとともに、前記ピストン2の突出移動で容積が減少し、かつ、前記ピストン2の退入移動で容積が増大するように容積変化するポンプ室4とを有するダイヤフラムポンプにおいて、
前記ローリングダイヤフラム3は、前記ピストン2の突出移動によって前記外周部3eが消失され、かつ、前記折返部3dの折り返しが開放されるときの姿勢に相当する伸展姿勢にて作製されたものであることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のダイヤフラムポンプにおいて、前記ローリングダイヤフラム3は、前記ピストン2が最も突出移動した最大突出位置fにあるときに前記伸展姿勢となる状態に設定されており、前記ピストン2は、前記最大突出位置fと前記最大突出位置fよりも前記退入移動した位置である吸入位置kとの間で往復移動可能に構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のダイヤフラムポンプにおいて、前記ピストン2を、これが前記最大突出位置fよりも前記退入移動した位置であって、かつ前記吸入位置kよりも前記突出移動した位置である吐出位置tと、前記吸入位置kとの間で往復移動させることが可能に構成されるとともに、前記ダイヤフラム3は、前記ピストン2が前記吐出位置t及びこれより前記吸入位置k側にあるときは前記折返部3dを有する折返し姿勢に維持されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載のダイヤフラムポンプにおいて、前記シリンダ1は、前記ピストン2を往復移動可能に収容するシリンダ本体1Aと、前記ポンプ室4への給排路6a,7aを備えるシリンダヘッド1Bとを有して構成されるとともに、前記ローリングダイヤフラム3は、前記外周部3eの先端側に続く厚肉の外周リング部3gを備えており、
前記シリンダ本体1Aと前記シリンダヘッド1Bとは、これら両者1A,1Bの間に前記外周リング部3gを挟み込んで連結一体化されていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のダイヤフラムポンプにおいて、前記ローリングダイヤフラム3は、前記外周リング部3gの内周端から径内側方向に延設される薄膜環状の取出部3fが前記外周部3eに繋がる構成とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、ローリングダイヤフラム3が伸展姿勢(図2,5参照)にて作製されているので、ピストン2がその往復移動範囲においていかなる位置にあっても、折返部3dは折返し姿勢(屈曲姿勢)と伸展姿勢との姿勢変更(形状変更)が円滑に行われる状態に維持される。
ピストン2が突出移動されて伸展姿勢になると、それによって形成される湾曲部10は、図14に示されるような歪んだ形状になることがなく、内周部3cと外周リング部3gとを滑らかに繋ぐ湾曲部10を有する期待通りの伸展姿勢のローリングダイヤフラム3となる。よって、折返部3dに溜まっている液体が突出移動方向へ流れようとすることを妨げる要素(角部41や逆曲り部42、波打部43など)がなく、スムーズに排出させることが可能となる。
その結果、ローリングダイヤフラム3を、ピストン2を可能な限り突出移動させることで伸展姿勢とするときに、折返部3dの開放によって形成される湾曲部10が歪んだ形状とならず、円滑に湾曲した期待通りの形状となるようにして、フラッシングモードにおいて液置換に要する液量や時間が軽減でき、液置換効率が改善されるダイヤフラムポンプPを提供することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、ピストン2を、ローリングダイヤフラム3が伸展姿勢になる最大突出位置fと折返し姿勢になる吸入位置kとの間で往復移動させることができるので、前述の作用によって、液置換時において洗浄効率及び液置換効率を向上させることができるのみならず、液移送時において液溜り現象に起因する不具合を抑制することができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、ピストン2を、ローリングダイヤフラム3が共に折返し姿勢になる吐出位置tと吸入位置kとの間でも往復移動させることができ、液置換時には、ピストン2を最大突出位置fと吸入位置kとの間で往復移動させ(フラッシングモードで動作させ)、液移送時には、ピストン2を吐出位置tと吸入位置kとの間で往復移動させる(通常モードで動作させる)ことができる。
ここで、通常モードにおいては、ローリングダイヤフラム3に折返部3dが形成される折返し姿勢が維持された状態でポンピング動作が行われて、ローリングダイヤフラム3(特に、膜状の部分)の断面形状が一定に維持されるので、各回のポンピング動作中において移送される液の流量を一定に保つことができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、シリンダ1の構成要素であるシリンダ本体1Aとシリンダヘッド1Bとの連結構造を用いて、ローリングダイヤフラム3の外周リング部3gを支持させることができるので、構造がより合理的なダイヤフラムポンプPを提供することができる。
また、請求項5のように、外周リング部3gの内周端から径内側方向に延設される薄膜環状の取出部3fが外周部3eに繋がる構成とすれば、薄膜部uにおける折返部3dと湾曲部10との形状変形がより穏やかに行われるようになり、折返し姿勢及び伸展姿勢の双方を安定的に形成させることができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ダイヤフラムポンプの構造を示す一部切欠きの側面図
【図2】自由状態のローリングダイヤフラムを示す一部切欠きの側面図
【図3】ピストンが吸入位置にあるときのポンプ要部の断面図
【図4】ピストンが吐出位置にあるときのポンプ要部の断面図
【図5】ピストンが最大突出位置にあるときのポンプ要部の断面図
【図6】通常モードでのポンプ要部を示し、(a)は起動に伴ってピストンが吐出位置へ復帰したときの断面図、(b)は吸入工程を終えてピストンが吸入位置にあるときの断面図
【図7】通常モードでのポンプ要部を示し、(a)は吐出工程を終えてピストンが吐出位置にあるときの断面図、(b)はサックバック工程を終えてピストンがサックバック位置にあるときの断面図
【図8】通常モードでのポンプ要部を示し、(a)はサックバック位置からピストンが吐出位置へ復帰したときの断面図、(b)は吸入工程を終えてピストンが吸入位置にあるときの断面図
【図9】フラッシングモードでのポンプ要部を示し、(a)は起動に伴ってピストンが吐出位置へ復帰したときの断面図、(b)は過吐出工程を終えてピストンが最大突出位置にあるときの断面図
【図10】フラッシングモードでのポンプ要部を示し、(a)は全吸入工程を終えてピストンが吸入位置にあるときの断面図、(b)はフラッシング工程を終えてピストンが最大突出位置にあるときの断面図
【図11】ダイヤフラムポンプにおける液置換の手順を示すフロー図
【図12】ダイヤフラムポンプを用いた液体ポンプシステムを示す模式図
【図13】従来の自由状態のローリングダイヤフラムを示す一部切欠きの側面図
【図14】(a)、(b)はそれぞれ従来の不都合例を示すポンプの要部図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明によるダイヤフラムポンプの実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0021】
〔実施形態1〕
図1にダイヤフラムポンプP及びそれを有するポンプ装置Aが、そして図12にポンプ装置Aを備える液体ポンプシステムBがそれぞれ示されている。ポンプ装置Aは、ダイヤフラムポンプ(ローリングダイヤフラムポンプとも呼ばれる)P、このダイヤフラムポンプPを駆動するリニアアクチュエータ(モータ)8などを備えて構成されている。なお、リニアアクチュエータ8の内部構造は公知(前述の特許文献1など)につき、詳細な説明や図示は省略する。
20は、ピストン位置検知用の係合ピン、25はアスピレータ(減圧手段)14(図12参照)に接続される空気吸出口である。このポンプ装置Aは、シリンダ1内で往復移動可能なピストン2をリニアアクチュエータ8で軸心C方向に往復駆動することにより、液体を吸入部6から吸入して吐出部7から吐出することができる。図1は、ピストン2が吐出位置tに位置した状態を示している。
【0022】
液体ポンプシステムBは、薬液タンク15、ポンプ装置A、フィルタ16、ノズル17、吸入側の開閉弁21、吐出側の開閉弁22、吸入側流路26、吐出側流路27などを有して構成されている。ポンプ装置Aの吸入部6と薬液タンク15とに亘る吸入側流路26の途中に吸入側の開閉弁21が配備され、ポンプ装置Aの吐出部7とノズル17とに亘る吐出側流路27には、吐出側の開閉弁22とフィルタ16とが配備されている。
また、吸入側の開閉弁21を駆動開閉する吸入側駆動機構28、吐出側の開閉弁22を駆動開閉する吐出側の駆動機構29、及びポンプ装置Aのそれぞれの駆動状態を司る制御装置30が設けられている。なお、31は薬液などの液体eの塗布対象(液体供給対象)としてのウェハである。
【0023】
ダイヤフラムポンプPは、図1,図3に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に往復移動可能に収容されるピストン2と、シリンダ1とピストン2とにわたって装備されるローリングダイヤフラム3と、シリンダ1内においてローリングダイヤフラム3で仕切られてなるポンプ室4と、シリンダ1に形成される吸入部6及び吐出部7などを備えて構成されている。
ピストン2は、軸心C方向にスライド移動可能にシリンダ1に収容されるとともに、出力用ネジ軸18を介してリニアアクチュエータ8に連動連結されている。そのピストン2の矢印イ方向への突出移動によりポンプ室4の容積が縮小され、ピストン2の矢印ロ方向への退入移動によりポンプ室4の容積が拡大される。次に、各部について説明する。
【0024】
シリンダ1は、図1,図3〜図5に示すように、リニアアクチュエータ8にボルト止めされるシリンダ本体1Aと、シリンダ本体1Aにローリングダイヤフラム3の外周リング部3gを介してボルト止めされるシリンダヘッド1Bとを備えて構成されている。
シリンダ本体1Aは、断面円形状のシリンダ内周面1aと、シリンダ内周面1aより大きい径及び断面積を有する断面円形状で、かつ、シリンダ内周面1aの突出側に形成されるローリング内周面(「シリンダの内周面」の一例)1rと、これらシリンダ内周面1aとローリング内周面1rとを繋ぐ傾斜内周面1kとを有している。シリンダ内周面1aとローリング内周面1rとは、互いに共通の軸心Cを有している。
【0025】
シリンダ本体1Aには、ピストン2と一体に動く係合ピン20を挿通させる長孔19が開口形成されるとともに、傾斜内周面1kに開口する前記空気吸出口25が形成されている。シリンダヘッド1Bは、ポンプ室4に開口して吸入部6に通ずる吸入路(給排路の一例)6a、及びポンプ室4に開口して吐出部7に通ずる吐出路(給排路の一例)7aを備えている。吸入路6aと吐出路7aとは、軸心C方向の位置及び径が互いに同じとなる直線管路に設定されている。なお、吸入部6及び吐出部7は、共に管継手構造として記載してあるが、その構成に限定されるものではない。
【0026】
ピストン2は、図1,図3〜図5に示すように、その移動方向(軸心C方向)中間部に形成される環状のパッキン溝2dと、それよりシリンダヘッド1B側の先端部2bと、その反対でピストン根元側の基端部2aと、先端部2bに形成されるネジ孔2cなどを有してシリンダ内周面1aに嵌合する直胴状のものに構成されている。
パッキン溝2dには、フッ素ゴムなどからなるOリング23と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂製であってOリング23の外周側に配備されるスリッパーリング24とが設けられている。基端部2aには、前述の係合ピン20が植設されている。
【0027】
ローリングダイヤフラム3は、図1〜図5に示すように、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂製であって、ネジ軸部3aと、フランジ頭部3bと、薄肉の内周部3cと、折返部3dと、薄肉の外周部3eと、薄膜環状の取出部3fと、外周リング部3gとを有して構成されている。
ネジ軸部3aは、ピストン2のネジ孔2cに挿入される円柱状の部分であり、その先端にフランジ頭部3bが形成されている。薄肉の内周部3cは、フランジ頭部3bの外端部からピストン2の外周面2eに沿う状態で、ピストン2根元側に向けて延設される薄肉で円筒状の部分である。
【0028】
ローリングダイヤフラム3の最も外周側には、軸心C方向に厚肉な外周リング部3gが形成されており、その外周リング部3gの内周端からは薄膜環状の取出部3fが径内側方向に延設されている。その取出部3fに続いて形成される薄肉の外周部3eは、ローリング内周面1rに沿う状態でピストン2根元側に向かって延設される薄肉で円筒状の部分である。
薄肉の内周部3cのピストン2根元側端と薄肉の外周部3eのピストン2根元側端とは、シリンダ1とピストン2との間の筒状空間部13において折り返される薄肉の折返部3dを介して一体化されている。折返部3dは、その断面形状がピストン2根元側に向けて凸となるU字状を呈している。ピストン2の移動に連れて折返部3dの形成位置が軸心C方向で移動することにより、ローリングダイヤフラム3が円滑に変形し、容積変化するポンプ室4の気密性(液密性)を維持する、という公知の構造が採られている。
【0029】
このローリングダイヤフラム3は、ネジ軸部3aをネジ孔2cに挿入及び螺合させることにより、フランジ頭部3bの外周部がピストン2の環状先端面2fに当接し、かつ、薄肉の内周部3cが先端部2bに密着外嵌する状態で、ピストン2に装着することができる。また、外周リング部3gは、シリンダ本体1Aとシリンダヘッド1Bとの間に挟持される状態でシリンダ1に一体的に装着されている。
【0030】
以上により、ダイヤフラムポンプPとして組み立てられた状態では、図1に示すように、ポンプ室4は、シリンダヘッド1Bとローリングダイヤフラム3とで囲まれてなる空間部分であり、ローリングダイヤフラム3の背面側(ピストン2根元側)には、ローリングダイヤフラム3とピストン2とシリンダ本体1Aとで囲まれ、かつ、前記空気吸出口25に連通するリング状の減圧室5が形成されている。
シリンダ本体1Aと外周リング部3gとの接合面間には、フッ素ゴムなどから成るOリング9が設けられており、シリンダヘッド1Bと外周リング部3gとの接合面間は、シリンダヘッド1Bに形成されているリップシール部(図示省略)を外周リング部3gの表面に押当てることでシールされている。
【0031】
さて、図3、図6(b)、8(b)、及び図10(a)は、ピストン2が最もピストン2根元側(リニアアクチュエータ8側)に移動した位置、即ち吸入位置kにあるときのダイヤフラムポンプPの要部を示しており、軸心C方向においてフランジ頭部3bの先端とシリンダ本体1Aの先端とがほぼ面一となる状態に設定されている。そして、ピストン2が吸入位置kにあるときは、ローリング内周面1rに沿う薄肉の外周部3eは軸心C方向の長さが比較的長くなっており、かつ、外周面2eに沿う薄肉の内周部3cは軸心C方向の長さが比較的短くなっている。
なお、吸入位置kは、必ずしも、ピストン2が最もピストン2根元側に移動した位置でなくても良く、それよりも手前の位置であっても良い。
【0032】
図1、図4、図6(a)、図7(a)、図8(a)、図9(a)は、ピストン2が吸入位置kからある程度矢印イ方向に離れた吐出位置tにあるときを示している。ここで、吐出位置tは、軸心C方向において、フランジ頭部3bの先端が、ポンプ室4に形成されている吸入路6a及び吐出路7aの開口孔のピストン2根元側周縁に到達する位置に設定されている。
ピストン2が吐出位置tにあるときは、ローリング内周面1rに沿う薄肉の外周部3eは軸心C方向の長さが比較的短く(吸入位置kのときより短く)なっており、かつ、外周面2eに沿う薄肉の内周部3cは軸心C方向の長さが比較的長く(吸入位置kのときより長く)なっている。
【0033】
そして、図5、図9(b)、図10(b)は、ピストン2が最も突出移動した最大突出位置(フラッシング位置)fにあるときを示しており、フランジ頭部3bの先端はシリンダヘッド1Bの内面12に当接せんばかりに近付き、ポンプ室4の容積が最少となるように設定されている。このピストン2が最大突出位置fにあるときは、薄肉の内周部3cの軸心C方向の長さがさらに長く(吐出位置tのときより長く)なり、折返部3d及び薄肉の外周部3eが消失して(形成されなくなって)、代わりに湾曲部10が形成される状態となっている。
【0034】
この湾曲部10は、取出部3f、外周部3e、及び折返部3d〔これら三者(3f,3e,3d)は、ピストン2が吸入位置kや吐出位置tなどにあるときに形成される〕が、ポンプ室4側の方向(矢印イ方向)に外周リング部3gから滑らかに続く湾曲面で単一の断面形状を呈するように変形することで形成されている。
つまり、ローリングダイヤフラム3は、ピストン2の突出移動に伴って内周部3cが伸びて折返部3dの位置もポンプ室4側に移動するように変形するので、ピストン2が吐出位置tを越えて突出移動すると、折返部3dのさらなるポンプ室4側への移動によって遂には外周部3eが消失する状態が現れる。
【0035】
そして、ピストン2が最大突出位置fに到達すると、ローリングダイヤフラム3は、ピストン2根元側に90度向き変更する姿勢にあった取出部3fが真っ直ぐ径内側に向き姿勢になり、外周部3eや折返部3dに代わって湾曲部10が現れる姿勢に変化する。即ち、ローリングダイヤフラム3は、ピストン2が最大突出位置fに到達すると、外周部3eや折返部3dを有する折返し姿勢(図3,4を参照)から、真っ直ぐ径内側に向く取出部3fや湾曲部10を有する伸展姿勢(図2,5を参照)に変化するのである。
外周リング部3gの内周端から径内側に向かうように形成されている取出部3fは、ローリングダイヤフラム3が折返し姿勢であるときには、90度向き変更する姿勢となって、外周リング部3gの内周端と外周部3eとを滑らかに繋ぐようになり、薄膜部uに屈曲部分が生じることがなく、円滑に形状変化できるようにされている。
【0036】
次に、ダイヤフラムポンプPの駆動方法について説明する。ここでは、薬液を吸入して吐出する通常の駆動方式(通常吐出時)を通常モード、そして、薬液を置換する際に行われる駆動方式をフラッシングモードとそれぞれ呼ぶこととする。
【0037】
〔駆動形態1〕(通常モード)
通常モードにおいては、まず、通常モード指令(ポンプ装置Aの起動など含む)により、図6(a)に示すように、ピストン2が吐出位置tに移動(又は維持)される原点復帰工程が行われる。
原点復帰工程の次は、ピストン2が退入移動されてポンプ室4の容積を拡大させる吸入工程が行われる。図6(b)は、ピストン2が矢印ロ方向に退入移動されて吸入位置kに位置する状態、即ち、吸入工程の終了状態を示している。このとき、吸入側の開閉弁21は開いた状態で、吐出側の開閉弁22は閉じた状態である。この吸入工程により、矢印ハで示すように、吸入部6から薬液がポンプ室4に吸入される。
【0038】
吸入工程が終わると、ピストン2が突出移動されてポンプ室4の容積を縮小する吐出工程が行われる。図7(a)は、ピストン2が矢印イ方向に突出移動されて吐出位置tに位置する状態、即ち、吐出工程の終了状態を示している。このとき、吸入側の開閉弁21は閉じた状態で、吐出側の開閉弁22は開いた状態である。この吐出工程により、矢印ニで示すように、ポンプ室4にある薬液は吐出部7から吐出されて行く。
吐出工程が終了すると、吐出位置tにあるピストン2を矢印ロ方向に少しだけ退入移動させるサックバック工程が行われる。図7(b)は、ピストン2が矢印ロ方向に退入移動されてサックバック位置sに位置する状態、即ち、サックバック工程の終了状態を示している。なお、サックバック工程とは、ノズル17(図12参照)から薬液eが液垂れするのを防止するために、吐出側流路27の薬液を一瞬吸い込む〔図7(b)の矢印ホ参照〕という公知の工程である。
【0039】
サックバック工程が終わると、ピストン2が突出移動されて吐出位置tに戻す第2原点復帰工程が行われる。図8(a)は、サックバック位置sから突出移動されたピストン2が吐出位置tに戻った状態、即ち、第2原点復帰工程の終了状態を示している。
第2原点復帰工程が終了すると、ピストン2が退入移動されてポンプ室4の容積を拡大させる吸入工程が行われる。この吸入工程では、吸入側の開閉弁21は開いた状態で、吐出側の開閉弁22は閉じた状態であり、吸入路6aからポンプ室4に液体が吸入される〔図8(b)の矢印ヘ参照〕。図8(b)は、ピストン2が矢印ロ方向に退入移動されて吸入位置kに位置した吸入工程の終了状態を示している。
【0040】
通常モードにおいては、起動直後の1回目には図6(a)〜図8(b)に示される一連の動作、即ち、原点復帰工程→吸入工程→吐出工程→サックバック工程→第2原点復帰工程→吸入工程がこの順で実行される。その後(2回目以降)は、図7(a)〜図8(b)に示される動作、即ち、吐出工程→サックバック工程→第2原点復帰工程→吸入工程がこの順で実行される。
薬液をウェハなどに供給し続けるときには、図6(b)と図7(a)とで示されるように、吸入工程と吐出工程とによるポンピング動作のみを繰り返し行うようにしても良い。なお、これら一連の作用の説明上、図6(b)と図8(b)とを別々に設けているが、図面としては同じものである。
このように、通常モードにおいて、吸入工程→吐出工程にかけては、ローリングダイヤフラム3に折返部3dが形成される折返し姿勢が維持された状態でポンピング動作が行われて、ローリングダイヤフラム3(特に、膜状の部分)の断面形状が一定に維持されるので、各回のポンピング動作中において移送される液の流量を一定に保つことができる。
【0041】
〔駆動形態2〕(フラッシングモード)
フラッシングモードは、ポンピング対象となる液体を置換する場合に行われる駆動方式である。例えば、ダイヤフラムポンプPにおいて移送する液体を薬液Aから薬液Bに置換する場合、図11に示すフロー図のように液置換が行われる。
【0042】
まず、吸入側流路26を薬液Aの入ったタンクから外す。そして、薬液Aを大方吐出し尽くして薬液Aがほとんど無くなるまで、空気を吸い込んで吐き出すポンピング動作(いわゆるポンプ空打ち)を継続して実行する「(1)薬液A追出し」が行なわれる。
このポンプ空打ちでは、ポンプ室4内に残存している薬液Aが空気に混ざってしぶきのようになって吐出され、ポンプ室4から追い出される。
【0043】
次に、吸入側流路26を洗浄液Aの入ったタンクに接続し、ポンプ室4内に洗浄液Aを導入できる状態に切り替える「(2)洗浄液Aに液置換」が行なわれる。
【0044】
次に、洗浄液Aを吸い込んでポンプ室4内に充填し、洗浄液Aがポンプ室4内の各部に馴染むまで(例えば、5分程度)放置する「(3)洗浄液A充填後放置」が行なわれる。
【0045】
次に、吸入側流路26を洗浄液Aの入ったタンクから外す。そして、洗浄液Aを大方吐出し尽くして洗浄液Aがほとんど無くなるまで、空気を吸い込んで吐き出すポンピング動作(いわゆるポンプ空打ち)を継続して実行する「(4)洗浄液A追出し」が行われる。
【0046】
次に、吸入側流路26を薬液Bの入ったタンクに接続し、ポンプ室4内に薬液Bを導入できる状態に切り替える「(5)薬液Bに液置換」が行われる。
【0047】
次に、薬液Bを吸い込んでポンプ室4内に充填し、薬液Bがポンプ室4内の各部に馴染むまで(例えば、5分程度)放置する「(6)薬液B充填後放置」が行なわれる。
【0048】
このような工程を経て、ポンピング対象の液体が薬液Aから薬液Bに置換され、その後は、前述の通常モードでダイヤフラムポンプPを駆動することにより、薬液Bがウェハなどに供給される。
【0049】
なお、「(3)洗浄液A充填後放置」の工程と「(4)洗浄液A追出し」の工程との間に、洗浄液Aを吸入して吐出する処理を数回行って、未だポンプ室4内に残存している可能性のある薬液Aを洗い流すようにしてもよい。また、薬液Bに置換後、通常モードでダイヤフラムポンプPを駆動する際に、開始からの数回は、吐出される薬液Bをウェハなどに供給せずに捨てる処理を行って、より完全なまでの液置換を行う、ということも可能である。
【0050】
前述のフラッシングモードでダイヤフラムポンプPを駆動することにより、後述する理由から、液置換に要する時間及び液量を軽減することができる。
【0051】
さて、フラッシングモードにおいては、前述の「(1)薬液A追出し」の工程と「(4)洗浄液A追出し」の工程では、ピストン2を次のように動作させる。
まず、フラッシングモード指令により、図9(a)に示すように、ピストン2が吐出位置tに移動(又は維持)される原点復帰工程が行われる。
【0052】
原点復帰工程の次は、吐出位置tにあるピストン2が突出移動されてポンプ室4の容積をさらに縮小させる過吐出工程が行われる。図9(b)は、ピストン2が矢印イ方向に最も(可能な限り)突出移動されて最大吐出位置(フラッシング位置)fに位置する状態、即ち、過吐出工程の終了状態を示している。このとき、吸入側の開閉弁21は閉じた状態で、吐出側の開閉弁22は開いた状態である。この過吐出工程により、矢印トで示すように、ポンプ室4にある薬液(又は洗浄液)の殆ど(ほぼ全部)が吐出部7から吐出されて行く。
【0053】
過吐出工程の次は、最大突出位置fにあるピストン2が退入移動されてポンプ室4の容積を拡大させる全吸入工程が行われる。図10(a)は、ピストン2が矢印ロ方向に退入移動されて吸入位置kに位置する状態、即ち、全吸入工程の終了状態を示している。このとき、吸入側の開閉弁21は開いた状態で、吐出側の開閉弁22は閉じた状態である。この全吸入工程により、吸入部6から薬液(又は洗浄液)がポンプ室4に吸入される〔図10(a)の矢印チ参照〕。この全吸入工程による吸入量は、前述した通常モードでの吸入工程による吸入量より明確に多い。
【0054】
全吸入工程の次は、吸入位置kにあるピストン2が最大突出位置fまで突出移動されて、ポンプ室4の容積を縮小させるフラッシング工程が行われる。図10(b)は、矢印イ方向に最も(可能な限り)突出移動されて最大突出位置(フラッシング位置)fに位置する状態、即ち、フラッシング工程の終了状態を示している。このとき、吸入側の開閉弁21は閉じた状態で、吐出側の開閉弁22は開いた状態である。
このフラッシング工程では、ピストン2が吸入位置kにあって容積最大となっているポンプ室4を、ピストン2の最大突出位置fへの突出移動によって一気に容積最小とするものであり、ポンプ室4に充填されている薬液(又は洗浄液)をほぼ全排出させることが可能である〔図10(b)の矢印リ参照〕。
【0055】
このフラッシングモードにおける「(1)薬液A追出し」の工程と「(4)洗浄液A追出し」の工程では、起動直後の1回目は図9(a)〜図10(b)に示される一連の動作、即ち、原点復帰工程→過吐出工程→全吸入工程→フラッシング工程がこの順で実行される。その後(2回目以降)は、図10(a)〜図10(b)に示される動作、即ち、全吸入工程→フラッシング工程がこの順で実行される。
次に、ローリングダイヤフラム3の作製方法や、液置換時における従来の不都合が解消される理由の詳細などについて説明する。
【0056】
従来のローリングダイヤフラム3は、例えばピストン2が吐出位置tにあるときに相当する姿勢、即ち、図13に示すように、フランジ頭部3bと外周リング部3gとの間の肉厚の薄い部分である薄膜部uに折返部3d及び外周部3eが形成されている折返し姿勢にて作製されていた。
この場合に、フッ素樹脂などの可撓性を有する材料製であるローリングダイヤフラム3は、ピストン2が吐出位置tと吸入位置kとの間で往復移動される状態であれば、換言すれば折返部3dを有する状態であれば、薄膜部uは円滑に変形する。
しかしながら、ピストン2が最大突出位置fに突出移動されると、元あった折返部3d近辺に、図14に示すように、角部41や逆曲り部42、波打部43などが生じてしまう問題があった。
【0057】
前述の問題について要因を鋭意追究した結果、従来における不具合は、ローリングダイヤフラム3の作製時の姿勢に1つの要因のあることが分った。即ち、従来の薄膜部uは、可撓性を有する材料製であるとはいえども、少なからず、図13に示す折返し姿勢の形状に戻ろうとする作製癖(曲り癖)が付いていたため、それが影響して、元あった折返部3d近辺に角部41や逆曲り部42、波打部43などが生じてしまうことが分かった。そこで、本発明によるダイヤフラムポンプPは、ローリングダイヤフラム3を、ピストン2の突出移動によって外周部3eが消失され、かつ、折返部3dの折り返しが開放されるときの姿勢、ピストン2が最大突出位置fにあるときの姿勢である伸展姿勢(図2参照)にて作製することを特徴としたものである。
【0058】
加えて、ローリングダイヤフラム3は、ピストン2が最も突出移動した状態(ピストン2が最大突出位置fにある状態)において伸展姿勢となるように設定されている。
【0059】
前述したように、図2に示す、伸展姿勢にあるローリングダイヤフラム3においては、折返部3d及び薄肉の外周部3eが形成されなくなる代わりに、緩やかで円滑な湾曲断面形状を呈する湾曲部10が形成されている。従って、ローリングダイヤフラム3は、薄肉の内周部3cと外周リング部3gとの間の部分が、円滑に形状変化する湾曲部10に形成される状態で作製されている。なお、11はピストン2に螺合するための雄ねじである。
【0060】
ローリングダイヤフラム3はフッ素樹脂製などの可撓性を有する材料製であるので、薄膜部uは容易に折返し変形することができる。なぜなら、折返部3d及び外周部3eが出現される薄膜部uの折返し姿勢(図3,4参照)は、作製時に出現されている湾曲部10の折れ曲りをさらにきつくする方向への変形であって、同じ方向に曲がることで円滑に変形させることができるからである。
この図2に示す伸展姿勢は、ピストン2の全移動領域における一方の終端(最大突出位置f)のときのものであり、湾曲部10に作製癖(曲り癖)が若干付いていたとしても、湾曲部10をその曲がり方向とは反対側に曲げ変形させることはないから、その作製癖によって歪な断面形状になるおそれもない。
【0061】
従って、伸展姿勢(図2,5参照)にて作製されたローリングダイヤフラム3を持つ本発明のダイヤフラムポンプPにおいては、ピストン2が、吸入位置k、吐出位置t、最大突出位置fを含むいかなる位置にあっても、薄膜部uは折返し姿勢や伸展姿勢などの断面形状が円滑に変形(変化)する状態に維持される。
特に、ピストン2が最大突出位置fに移動されても、薄膜部uは、図14に示されるような歪んだ形状になることがなく、円滑に湾曲変形する湾曲部10を有するという、期待通りの伸展姿勢のローリングダイヤフラム3となる。よって、折返部3dに溜まっている薬液が突出移動方向へ流れようとすることを妨げる要素(角部41や逆曲り部42、波打部43など)がなく、スムーズに排出させることが可能となる。
【0062】
このように改善されたダイヤフラムポンプPであるから、前述のフラッシングモードにおいては、ローリングダイヤフラム3は、ピストン2が最大突出位置fに突出移動されたときは、その薄膜部uが円滑に形状変化して滑らかな湾曲部10を有する期待通りの伸展姿勢に形成されている。
その結果、フラッシングモードで駆動した際に、液置換に要する液量や時間が軽減でき、液置換効率が改善されるダイヤフラムポンプPを提供することに成功している。
即ち、図11に示すフロー図の(1)薬液A追出しの工程において、ピストン2が最大突出位置fに突出移動された時に、折返部3dの開放によって形成される湾曲部10が歪んだ形状とならないので、液溜まり箇所が生じにくくなり、薬液Aがポンプ室4から速やかに追い出される。同様に、(4)洗浄液A追出しの工程においても、洗浄液Aがポンプ室4から速やかに追い出される。よって、これらの工程に要する液量や時間を削減することができる。
また、(3)洗浄液A充填後放置の工程において、湾曲部10の形状が滑らかな形状となっているので、ポンプ室4内に充填された洗浄液Aが速やかに湾曲部10に馴染む。同様に、(6)薬液B充填後放置の工程においても、ポンプ室4内に充填された薬液Bが速やかに湾曲部10に馴染む。よって、これらの工程における時間を削減することができる。
従って、液置換時において洗浄効率及び液置換効率を向上させることができる。
【0063】
〔別実施形態〕
前述の実施形態1においては、吐出位置tは最大突出位置(フラッシング位置)fよりもピストン2根元側に移動した位置に設定されていたが、吐出位置tは最大突出位置fと同じ位置であっても良い。即ち、ピストン2が吐出位置t(=最大突出位置f)に到達すると、ローリングダイヤフラム3が伸展姿勢になるようにしても良い。
この別実施形態において、ダイヤフラムポンプPを通常モードで駆動すると、ピストン2は、矢印イ方向に最も(可能な限り)突出移動された吐出位置t(=最大突出位置f)と吸入位置kとの間で往復移動する。そして、ピストン2が吐出位置tに突出移動された時に、折返部3dの開放によって形成される湾曲部10が歪んだ形状とならないので、液溜まり箇所が生じにくくなり、薬液が凝集して固化することを防止することができる。従って、液移送時において液溜り現象に起因する不具合を抑制することができる。
なお、前述の説明において、「作製」とは、削り出しによって作ることや、成形(型成形)によって作ることを含む概念である。
【符号の説明】
【0064】
1 シリンダ
1A シリンダ本体
1B シリンダヘッド
1r シリンダの内周面
2 ピストン
2e ピストンの外周面
3 ローリングダイヤフラム
3c 内周部
3d 折返部
3e 外周部
3f 取出部
3g 外周リング部
4 ポンプ室
6a,7a 給排路
13 筒状空間部
f 最大突出位置
k 吸入位置
t 吐出位置
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローリングダイヤフラムを備えるダイヤフラムポンプに係り、詳しくは、半導体、液晶、有機EL、太陽電池、LEDなどの製造プロセスにおいて、薬液を塗布する際や薬液を調合する際に好適に使用されるダイヤフラムポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のダイヤフラムポンプとしては、特許文献1において開示されたポンプ装置(ローリングダイヤフラムポンプ)が知られている。このローリングダイヤフラムポンプは、
シリンダと、
ピストンと、
ローリングダイヤフラムと、
シリンダ内においてローリングダイヤフラムによって仕切られ、かつ、ピストンの移動によって容積変化するポンプ室と、
及びローリングダイヤフラムの背面側においてシリンダとピストンとローリングダイヤフラムとで囲まれて形成される減圧室と、を有して構成されている。
前記ローリングダイヤフラムは、ピストンに支持される内周部及びピストン外周の折返部を経てシリンダに支持される外周部を有している。
【0003】
このようなダイヤフラムポンプにおいて、通常の駆動モードでは、ピストンが最も退入移動した吸入位置(前記特許文献1の図3を参照)と、突出移動した吐出位置(前記特許文献1の図4を参照)との間における往復移動により、流体を吸入して吐出するポンピング動作が行われる。
【0004】
ダイヤフラムポンプにおいては、薬液などの液体を置換する液置換時に、フラッシングモードという動かし方が行われることがある。フラッシングモードは、ポンプ室にある液体を完全なまでに排出させるために、ピストンを可能な限り突出側へ位置させて最大突出位置まで突出移動させるようになる。
前記フラッシングモードでは、ピストンを最大突出位置まで最大限に突出移動させるので、ローリングダイヤフラムの先端側に形成される折返部は、断面U字形状の折返し姿勢(屈曲姿勢)から引き延ばされて伸展された伸展姿勢に変化する。従って、折返部に滞留している液体をポンプ室側に移動させて排出させ易くなり、円滑な液置換を行うことができる。
【0005】
ところが、実際のフラッシングモードにおいては、薬液の置換(交換)に予想以上の大量の洗浄液又は置換時に投入する薬液が必要となって多くの時間も要しており、短時間で円滑に済むという効率の良い液置換が行えないことが多いという問題があった。
そこで、その原因を追究したところ、つぎのような現象のあることが分ってきた。それは、ピストンを最大突出位置に突出移動させたときには、図14に示すように、円滑な伸展姿勢となっているはずの湾曲部10に、部分的に逆方向に屈曲したようになって角部41や逆曲り部42を生じたり〔図14(a)参照〕、或いは直筒状であるべき内周部3cの根元側に盛り上がるような波打部43が形成されるようなったり〔図14(b)参照〕していることである。
【0006】
つまり、ローリングダイヤフラム3において、折返部3dなどが引き延ばされて(開放されて)円滑に湾曲変形して伸展姿勢になっているはずの湾曲部10が、歪んだ形状になることが知見されたのである。なお、湾曲部10とは、図14に示すように、ローリングダイヤフラム3が伸展姿勢になっているときにおいて、内周部3cと外周リング3部gとを繋ぐ部分のことである。湾曲部10は、図2に示すように、歪みなく湾曲して円滑に内周部3cと外周リング3部gとを繋ぐ部分となるのが、期待通り(正規)の形状である。
【0007】
このように、ピストンが最大突出位置にあるときの湾曲部10は、期待通りの円滑な湾曲形状による伸展姿勢(図2参照)とはならず、実際には図14(a)、(b)に示すような歪んだ形状になっていたため、折返部3dにある液がポンプ室から抜け出し難い状況になっていた。従って、前述したように、完全に液置換を行うには大量の洗浄液又は置換時に投入する薬液や多くの時間を必要としていた。
また、折返部にある液が十分に排出されずに滞留して凝集することがあり、そうなると製品不良や製品歩留りの低下を招く懸念もある。製品不良の例としては、半導体製造プロセスにおいて凝集した液が滞留異物となり、ウェハ欠陥のおそれが生じる、といったケースがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−019141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ローリングダイヤフラムを、ピストンが可能な限り突出移動されることで伸展姿勢とするときに、折返部の開放によって形成される湾曲部が歪んだ形状とならず、円滑に湾曲した期待通りの形状となるようにして、フラッシングモードにおいて液置換に要する液量や時間が軽減でき、液置換効率が改善されるダイヤフラムポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、シリンダ1内にて往復移動可能なピストン2に支持されて前記ピストン2の外周面2eに沿う内周部3c、前記シリンダ1に支持されて前記シリンダ1の内周面1rに沿う外周部3e、及び前記シリンダ1と前記ピストン2との間の筒状空間部13において折り返されることで前記内周部3cと前記外周部3eとに亘って形成される折返部3dを備えて可撓性を有する材料でなるローリングダイヤフラム3と、前記シリンダ1内において前記ローリングダイヤフラム3によって仕切られるとともに、前記ピストン2の突出移動で容積が減少し、かつ、前記ピストン2の退入移動で容積が増大するように容積変化するポンプ室4とを有するダイヤフラムポンプにおいて、
前記ローリングダイヤフラム3は、前記ピストン2の突出移動によって前記外周部3eが消失され、かつ、前記折返部3dの折り返しが開放されるときの姿勢に相当する伸展姿勢にて作製されたものであることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のダイヤフラムポンプにおいて、前記ローリングダイヤフラム3は、前記ピストン2が最も突出移動した最大突出位置fにあるときに前記伸展姿勢となる状態に設定されており、前記ピストン2は、前記最大突出位置fと前記最大突出位置fよりも前記退入移動した位置である吸入位置kとの間で往復移動可能に構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のダイヤフラムポンプにおいて、前記ピストン2を、これが前記最大突出位置fよりも前記退入移動した位置であって、かつ前記吸入位置kよりも前記突出移動した位置である吐出位置tと、前記吸入位置kとの間で往復移動させることが可能に構成されるとともに、前記ダイヤフラム3は、前記ピストン2が前記吐出位置t及びこれより前記吸入位置k側にあるときは前記折返部3dを有する折返し姿勢に維持されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載のダイヤフラムポンプにおいて、前記シリンダ1は、前記ピストン2を往復移動可能に収容するシリンダ本体1Aと、前記ポンプ室4への給排路6a,7aを備えるシリンダヘッド1Bとを有して構成されるとともに、前記ローリングダイヤフラム3は、前記外周部3eの先端側に続く厚肉の外周リング部3gを備えており、
前記シリンダ本体1Aと前記シリンダヘッド1Bとは、これら両者1A,1Bの間に前記外周リング部3gを挟み込んで連結一体化されていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のダイヤフラムポンプにおいて、前記ローリングダイヤフラム3は、前記外周リング部3gの内周端から径内側方向に延設される薄膜環状の取出部3fが前記外周部3eに繋がる構成とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、ローリングダイヤフラム3が伸展姿勢(図2,5参照)にて作製されているので、ピストン2がその往復移動範囲においていかなる位置にあっても、折返部3dは折返し姿勢(屈曲姿勢)と伸展姿勢との姿勢変更(形状変更)が円滑に行われる状態に維持される。
ピストン2が突出移動されて伸展姿勢になると、それによって形成される湾曲部10は、図14に示されるような歪んだ形状になることがなく、内周部3cと外周リング部3gとを滑らかに繋ぐ湾曲部10を有する期待通りの伸展姿勢のローリングダイヤフラム3となる。よって、折返部3dに溜まっている液体が突出移動方向へ流れようとすることを妨げる要素(角部41や逆曲り部42、波打部43など)がなく、スムーズに排出させることが可能となる。
その結果、ローリングダイヤフラム3を、ピストン2を可能な限り突出移動させることで伸展姿勢とするときに、折返部3dの開放によって形成される湾曲部10が歪んだ形状とならず、円滑に湾曲した期待通りの形状となるようにして、フラッシングモードにおいて液置換に要する液量や時間が軽減でき、液置換効率が改善されるダイヤフラムポンプPを提供することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、ピストン2を、ローリングダイヤフラム3が伸展姿勢になる最大突出位置fと折返し姿勢になる吸入位置kとの間で往復移動させることができるので、前述の作用によって、液置換時において洗浄効率及び液置換効率を向上させることができるのみならず、液移送時において液溜り現象に起因する不具合を抑制することができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、ピストン2を、ローリングダイヤフラム3が共に折返し姿勢になる吐出位置tと吸入位置kとの間でも往復移動させることができ、液置換時には、ピストン2を最大突出位置fと吸入位置kとの間で往復移動させ(フラッシングモードで動作させ)、液移送時には、ピストン2を吐出位置tと吸入位置kとの間で往復移動させる(通常モードで動作させる)ことができる。
ここで、通常モードにおいては、ローリングダイヤフラム3に折返部3dが形成される折返し姿勢が維持された状態でポンピング動作が行われて、ローリングダイヤフラム3(特に、膜状の部分)の断面形状が一定に維持されるので、各回のポンピング動作中において移送される液の流量を一定に保つことができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、シリンダ1の構成要素であるシリンダ本体1Aとシリンダヘッド1Bとの連結構造を用いて、ローリングダイヤフラム3の外周リング部3gを支持させることができるので、構造がより合理的なダイヤフラムポンプPを提供することができる。
また、請求項5のように、外周リング部3gの内周端から径内側方向に延設される薄膜環状の取出部3fが外周部3eに繋がる構成とすれば、薄膜部uにおける折返部3dと湾曲部10との形状変形がより穏やかに行われるようになり、折返し姿勢及び伸展姿勢の双方を安定的に形成させることができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ダイヤフラムポンプの構造を示す一部切欠きの側面図
【図2】自由状態のローリングダイヤフラムを示す一部切欠きの側面図
【図3】ピストンが吸入位置にあるときのポンプ要部の断面図
【図4】ピストンが吐出位置にあるときのポンプ要部の断面図
【図5】ピストンが最大突出位置にあるときのポンプ要部の断面図
【図6】通常モードでのポンプ要部を示し、(a)は起動に伴ってピストンが吐出位置へ復帰したときの断面図、(b)は吸入工程を終えてピストンが吸入位置にあるときの断面図
【図7】通常モードでのポンプ要部を示し、(a)は吐出工程を終えてピストンが吐出位置にあるときの断面図、(b)はサックバック工程を終えてピストンがサックバック位置にあるときの断面図
【図8】通常モードでのポンプ要部を示し、(a)はサックバック位置からピストンが吐出位置へ復帰したときの断面図、(b)は吸入工程を終えてピストンが吸入位置にあるときの断面図
【図9】フラッシングモードでのポンプ要部を示し、(a)は起動に伴ってピストンが吐出位置へ復帰したときの断面図、(b)は過吐出工程を終えてピストンが最大突出位置にあるときの断面図
【図10】フラッシングモードでのポンプ要部を示し、(a)は全吸入工程を終えてピストンが吸入位置にあるときの断面図、(b)はフラッシング工程を終えてピストンが最大突出位置にあるときの断面図
【図11】ダイヤフラムポンプにおける液置換の手順を示すフロー図
【図12】ダイヤフラムポンプを用いた液体ポンプシステムを示す模式図
【図13】従来の自由状態のローリングダイヤフラムを示す一部切欠きの側面図
【図14】(a)、(b)はそれぞれ従来の不都合例を示すポンプの要部図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明によるダイヤフラムポンプの実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0021】
〔実施形態1〕
図1にダイヤフラムポンプP及びそれを有するポンプ装置Aが、そして図12にポンプ装置Aを備える液体ポンプシステムBがそれぞれ示されている。ポンプ装置Aは、ダイヤフラムポンプ(ローリングダイヤフラムポンプとも呼ばれる)P、このダイヤフラムポンプPを駆動するリニアアクチュエータ(モータ)8などを備えて構成されている。なお、リニアアクチュエータ8の内部構造は公知(前述の特許文献1など)につき、詳細な説明や図示は省略する。
20は、ピストン位置検知用の係合ピン、25はアスピレータ(減圧手段)14(図12参照)に接続される空気吸出口である。このポンプ装置Aは、シリンダ1内で往復移動可能なピストン2をリニアアクチュエータ8で軸心C方向に往復駆動することにより、液体を吸入部6から吸入して吐出部7から吐出することができる。図1は、ピストン2が吐出位置tに位置した状態を示している。
【0022】
液体ポンプシステムBは、薬液タンク15、ポンプ装置A、フィルタ16、ノズル17、吸入側の開閉弁21、吐出側の開閉弁22、吸入側流路26、吐出側流路27などを有して構成されている。ポンプ装置Aの吸入部6と薬液タンク15とに亘る吸入側流路26の途中に吸入側の開閉弁21が配備され、ポンプ装置Aの吐出部7とノズル17とに亘る吐出側流路27には、吐出側の開閉弁22とフィルタ16とが配備されている。
また、吸入側の開閉弁21を駆動開閉する吸入側駆動機構28、吐出側の開閉弁22を駆動開閉する吐出側の駆動機構29、及びポンプ装置Aのそれぞれの駆動状態を司る制御装置30が設けられている。なお、31は薬液などの液体eの塗布対象(液体供給対象)としてのウェハである。
【0023】
ダイヤフラムポンプPは、図1,図3に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に往復移動可能に収容されるピストン2と、シリンダ1とピストン2とにわたって装備されるローリングダイヤフラム3と、シリンダ1内においてローリングダイヤフラム3で仕切られてなるポンプ室4と、シリンダ1に形成される吸入部6及び吐出部7などを備えて構成されている。
ピストン2は、軸心C方向にスライド移動可能にシリンダ1に収容されるとともに、出力用ネジ軸18を介してリニアアクチュエータ8に連動連結されている。そのピストン2の矢印イ方向への突出移動によりポンプ室4の容積が縮小され、ピストン2の矢印ロ方向への退入移動によりポンプ室4の容積が拡大される。次に、各部について説明する。
【0024】
シリンダ1は、図1,図3〜図5に示すように、リニアアクチュエータ8にボルト止めされるシリンダ本体1Aと、シリンダ本体1Aにローリングダイヤフラム3の外周リング部3gを介してボルト止めされるシリンダヘッド1Bとを備えて構成されている。
シリンダ本体1Aは、断面円形状のシリンダ内周面1aと、シリンダ内周面1aより大きい径及び断面積を有する断面円形状で、かつ、シリンダ内周面1aの突出側に形成されるローリング内周面(「シリンダの内周面」の一例)1rと、これらシリンダ内周面1aとローリング内周面1rとを繋ぐ傾斜内周面1kとを有している。シリンダ内周面1aとローリング内周面1rとは、互いに共通の軸心Cを有している。
【0025】
シリンダ本体1Aには、ピストン2と一体に動く係合ピン20を挿通させる長孔19が開口形成されるとともに、傾斜内周面1kに開口する前記空気吸出口25が形成されている。シリンダヘッド1Bは、ポンプ室4に開口して吸入部6に通ずる吸入路(給排路の一例)6a、及びポンプ室4に開口して吐出部7に通ずる吐出路(給排路の一例)7aを備えている。吸入路6aと吐出路7aとは、軸心C方向の位置及び径が互いに同じとなる直線管路に設定されている。なお、吸入部6及び吐出部7は、共に管継手構造として記載してあるが、その構成に限定されるものではない。
【0026】
ピストン2は、図1,図3〜図5に示すように、その移動方向(軸心C方向)中間部に形成される環状のパッキン溝2dと、それよりシリンダヘッド1B側の先端部2bと、その反対でピストン根元側の基端部2aと、先端部2bに形成されるネジ孔2cなどを有してシリンダ内周面1aに嵌合する直胴状のものに構成されている。
パッキン溝2dには、フッ素ゴムなどからなるOリング23と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂製であってOリング23の外周側に配備されるスリッパーリング24とが設けられている。基端部2aには、前述の係合ピン20が植設されている。
【0027】
ローリングダイヤフラム3は、図1〜図5に示すように、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂製であって、ネジ軸部3aと、フランジ頭部3bと、薄肉の内周部3cと、折返部3dと、薄肉の外周部3eと、薄膜環状の取出部3fと、外周リング部3gとを有して構成されている。
ネジ軸部3aは、ピストン2のネジ孔2cに挿入される円柱状の部分であり、その先端にフランジ頭部3bが形成されている。薄肉の内周部3cは、フランジ頭部3bの外端部からピストン2の外周面2eに沿う状態で、ピストン2根元側に向けて延設される薄肉で円筒状の部分である。
【0028】
ローリングダイヤフラム3の最も外周側には、軸心C方向に厚肉な外周リング部3gが形成されており、その外周リング部3gの内周端からは薄膜環状の取出部3fが径内側方向に延設されている。その取出部3fに続いて形成される薄肉の外周部3eは、ローリング内周面1rに沿う状態でピストン2根元側に向かって延設される薄肉で円筒状の部分である。
薄肉の内周部3cのピストン2根元側端と薄肉の外周部3eのピストン2根元側端とは、シリンダ1とピストン2との間の筒状空間部13において折り返される薄肉の折返部3dを介して一体化されている。折返部3dは、その断面形状がピストン2根元側に向けて凸となるU字状を呈している。ピストン2の移動に連れて折返部3dの形成位置が軸心C方向で移動することにより、ローリングダイヤフラム3が円滑に変形し、容積変化するポンプ室4の気密性(液密性)を維持する、という公知の構造が採られている。
【0029】
このローリングダイヤフラム3は、ネジ軸部3aをネジ孔2cに挿入及び螺合させることにより、フランジ頭部3bの外周部がピストン2の環状先端面2fに当接し、かつ、薄肉の内周部3cが先端部2bに密着外嵌する状態で、ピストン2に装着することができる。また、外周リング部3gは、シリンダ本体1Aとシリンダヘッド1Bとの間に挟持される状態でシリンダ1に一体的に装着されている。
【0030】
以上により、ダイヤフラムポンプPとして組み立てられた状態では、図1に示すように、ポンプ室4は、シリンダヘッド1Bとローリングダイヤフラム3とで囲まれてなる空間部分であり、ローリングダイヤフラム3の背面側(ピストン2根元側)には、ローリングダイヤフラム3とピストン2とシリンダ本体1Aとで囲まれ、かつ、前記空気吸出口25に連通するリング状の減圧室5が形成されている。
シリンダ本体1Aと外周リング部3gとの接合面間には、フッ素ゴムなどから成るOリング9が設けられており、シリンダヘッド1Bと外周リング部3gとの接合面間は、シリンダヘッド1Bに形成されているリップシール部(図示省略)を外周リング部3gの表面に押当てることでシールされている。
【0031】
さて、図3、図6(b)、8(b)、及び図10(a)は、ピストン2が最もピストン2根元側(リニアアクチュエータ8側)に移動した位置、即ち吸入位置kにあるときのダイヤフラムポンプPの要部を示しており、軸心C方向においてフランジ頭部3bの先端とシリンダ本体1Aの先端とがほぼ面一となる状態に設定されている。そして、ピストン2が吸入位置kにあるときは、ローリング内周面1rに沿う薄肉の外周部3eは軸心C方向の長さが比較的長くなっており、かつ、外周面2eに沿う薄肉の内周部3cは軸心C方向の長さが比較的短くなっている。
なお、吸入位置kは、必ずしも、ピストン2が最もピストン2根元側に移動した位置でなくても良く、それよりも手前の位置であっても良い。
【0032】
図1、図4、図6(a)、図7(a)、図8(a)、図9(a)は、ピストン2が吸入位置kからある程度矢印イ方向に離れた吐出位置tにあるときを示している。ここで、吐出位置tは、軸心C方向において、フランジ頭部3bの先端が、ポンプ室4に形成されている吸入路6a及び吐出路7aの開口孔のピストン2根元側周縁に到達する位置に設定されている。
ピストン2が吐出位置tにあるときは、ローリング内周面1rに沿う薄肉の外周部3eは軸心C方向の長さが比較的短く(吸入位置kのときより短く)なっており、かつ、外周面2eに沿う薄肉の内周部3cは軸心C方向の長さが比較的長く(吸入位置kのときより長く)なっている。
【0033】
そして、図5、図9(b)、図10(b)は、ピストン2が最も突出移動した最大突出位置(フラッシング位置)fにあるときを示しており、フランジ頭部3bの先端はシリンダヘッド1Bの内面12に当接せんばかりに近付き、ポンプ室4の容積が最少となるように設定されている。このピストン2が最大突出位置fにあるときは、薄肉の内周部3cの軸心C方向の長さがさらに長く(吐出位置tのときより長く)なり、折返部3d及び薄肉の外周部3eが消失して(形成されなくなって)、代わりに湾曲部10が形成される状態となっている。
【0034】
この湾曲部10は、取出部3f、外周部3e、及び折返部3d〔これら三者(3f,3e,3d)は、ピストン2が吸入位置kや吐出位置tなどにあるときに形成される〕が、ポンプ室4側の方向(矢印イ方向)に外周リング部3gから滑らかに続く湾曲面で単一の断面形状を呈するように変形することで形成されている。
つまり、ローリングダイヤフラム3は、ピストン2の突出移動に伴って内周部3cが伸びて折返部3dの位置もポンプ室4側に移動するように変形するので、ピストン2が吐出位置tを越えて突出移動すると、折返部3dのさらなるポンプ室4側への移動によって遂には外周部3eが消失する状態が現れる。
【0035】
そして、ピストン2が最大突出位置fに到達すると、ローリングダイヤフラム3は、ピストン2根元側に90度向き変更する姿勢にあった取出部3fが真っ直ぐ径内側に向き姿勢になり、外周部3eや折返部3dに代わって湾曲部10が現れる姿勢に変化する。即ち、ローリングダイヤフラム3は、ピストン2が最大突出位置fに到達すると、外周部3eや折返部3dを有する折返し姿勢(図3,4を参照)から、真っ直ぐ径内側に向く取出部3fや湾曲部10を有する伸展姿勢(図2,5を参照)に変化するのである。
外周リング部3gの内周端から径内側に向かうように形成されている取出部3fは、ローリングダイヤフラム3が折返し姿勢であるときには、90度向き変更する姿勢となって、外周リング部3gの内周端と外周部3eとを滑らかに繋ぐようになり、薄膜部uに屈曲部分が生じることがなく、円滑に形状変化できるようにされている。
【0036】
次に、ダイヤフラムポンプPの駆動方法について説明する。ここでは、薬液を吸入して吐出する通常の駆動方式(通常吐出時)を通常モード、そして、薬液を置換する際に行われる駆動方式をフラッシングモードとそれぞれ呼ぶこととする。
【0037】
〔駆動形態1〕(通常モード)
通常モードにおいては、まず、通常モード指令(ポンプ装置Aの起動など含む)により、図6(a)に示すように、ピストン2が吐出位置tに移動(又は維持)される原点復帰工程が行われる。
原点復帰工程の次は、ピストン2が退入移動されてポンプ室4の容積を拡大させる吸入工程が行われる。図6(b)は、ピストン2が矢印ロ方向に退入移動されて吸入位置kに位置する状態、即ち、吸入工程の終了状態を示している。このとき、吸入側の開閉弁21は開いた状態で、吐出側の開閉弁22は閉じた状態である。この吸入工程により、矢印ハで示すように、吸入部6から薬液がポンプ室4に吸入される。
【0038】
吸入工程が終わると、ピストン2が突出移動されてポンプ室4の容積を縮小する吐出工程が行われる。図7(a)は、ピストン2が矢印イ方向に突出移動されて吐出位置tに位置する状態、即ち、吐出工程の終了状態を示している。このとき、吸入側の開閉弁21は閉じた状態で、吐出側の開閉弁22は開いた状態である。この吐出工程により、矢印ニで示すように、ポンプ室4にある薬液は吐出部7から吐出されて行く。
吐出工程が終了すると、吐出位置tにあるピストン2を矢印ロ方向に少しだけ退入移動させるサックバック工程が行われる。図7(b)は、ピストン2が矢印ロ方向に退入移動されてサックバック位置sに位置する状態、即ち、サックバック工程の終了状態を示している。なお、サックバック工程とは、ノズル17(図12参照)から薬液eが液垂れするのを防止するために、吐出側流路27の薬液を一瞬吸い込む〔図7(b)の矢印ホ参照〕という公知の工程である。
【0039】
サックバック工程が終わると、ピストン2が突出移動されて吐出位置tに戻す第2原点復帰工程が行われる。図8(a)は、サックバック位置sから突出移動されたピストン2が吐出位置tに戻った状態、即ち、第2原点復帰工程の終了状態を示している。
第2原点復帰工程が終了すると、ピストン2が退入移動されてポンプ室4の容積を拡大させる吸入工程が行われる。この吸入工程では、吸入側の開閉弁21は開いた状態で、吐出側の開閉弁22は閉じた状態であり、吸入路6aからポンプ室4に液体が吸入される〔図8(b)の矢印ヘ参照〕。図8(b)は、ピストン2が矢印ロ方向に退入移動されて吸入位置kに位置した吸入工程の終了状態を示している。
【0040】
通常モードにおいては、起動直後の1回目には図6(a)〜図8(b)に示される一連の動作、即ち、原点復帰工程→吸入工程→吐出工程→サックバック工程→第2原点復帰工程→吸入工程がこの順で実行される。その後(2回目以降)は、図7(a)〜図8(b)に示される動作、即ち、吐出工程→サックバック工程→第2原点復帰工程→吸入工程がこの順で実行される。
薬液をウェハなどに供給し続けるときには、図6(b)と図7(a)とで示されるように、吸入工程と吐出工程とによるポンピング動作のみを繰り返し行うようにしても良い。なお、これら一連の作用の説明上、図6(b)と図8(b)とを別々に設けているが、図面としては同じものである。
このように、通常モードにおいて、吸入工程→吐出工程にかけては、ローリングダイヤフラム3に折返部3dが形成される折返し姿勢が維持された状態でポンピング動作が行われて、ローリングダイヤフラム3(特に、膜状の部分)の断面形状が一定に維持されるので、各回のポンピング動作中において移送される液の流量を一定に保つことができる。
【0041】
〔駆動形態2〕(フラッシングモード)
フラッシングモードは、ポンピング対象となる液体を置換する場合に行われる駆動方式である。例えば、ダイヤフラムポンプPにおいて移送する液体を薬液Aから薬液Bに置換する場合、図11に示すフロー図のように液置換が行われる。
【0042】
まず、吸入側流路26を薬液Aの入ったタンクから外す。そして、薬液Aを大方吐出し尽くして薬液Aがほとんど無くなるまで、空気を吸い込んで吐き出すポンピング動作(いわゆるポンプ空打ち)を継続して実行する「(1)薬液A追出し」が行なわれる。
このポンプ空打ちでは、ポンプ室4内に残存している薬液Aが空気に混ざってしぶきのようになって吐出され、ポンプ室4から追い出される。
【0043】
次に、吸入側流路26を洗浄液Aの入ったタンクに接続し、ポンプ室4内に洗浄液Aを導入できる状態に切り替える「(2)洗浄液Aに液置換」が行なわれる。
【0044】
次に、洗浄液Aを吸い込んでポンプ室4内に充填し、洗浄液Aがポンプ室4内の各部に馴染むまで(例えば、5分程度)放置する「(3)洗浄液A充填後放置」が行なわれる。
【0045】
次に、吸入側流路26を洗浄液Aの入ったタンクから外す。そして、洗浄液Aを大方吐出し尽くして洗浄液Aがほとんど無くなるまで、空気を吸い込んで吐き出すポンピング動作(いわゆるポンプ空打ち)を継続して実行する「(4)洗浄液A追出し」が行われる。
【0046】
次に、吸入側流路26を薬液Bの入ったタンクに接続し、ポンプ室4内に薬液Bを導入できる状態に切り替える「(5)薬液Bに液置換」が行われる。
【0047】
次に、薬液Bを吸い込んでポンプ室4内に充填し、薬液Bがポンプ室4内の各部に馴染むまで(例えば、5分程度)放置する「(6)薬液B充填後放置」が行なわれる。
【0048】
このような工程を経て、ポンピング対象の液体が薬液Aから薬液Bに置換され、その後は、前述の通常モードでダイヤフラムポンプPを駆動することにより、薬液Bがウェハなどに供給される。
【0049】
なお、「(3)洗浄液A充填後放置」の工程と「(4)洗浄液A追出し」の工程との間に、洗浄液Aを吸入して吐出する処理を数回行って、未だポンプ室4内に残存している可能性のある薬液Aを洗い流すようにしてもよい。また、薬液Bに置換後、通常モードでダイヤフラムポンプPを駆動する際に、開始からの数回は、吐出される薬液Bをウェハなどに供給せずに捨てる処理を行って、より完全なまでの液置換を行う、ということも可能である。
【0050】
前述のフラッシングモードでダイヤフラムポンプPを駆動することにより、後述する理由から、液置換に要する時間及び液量を軽減することができる。
【0051】
さて、フラッシングモードにおいては、前述の「(1)薬液A追出し」の工程と「(4)洗浄液A追出し」の工程では、ピストン2を次のように動作させる。
まず、フラッシングモード指令により、図9(a)に示すように、ピストン2が吐出位置tに移動(又は維持)される原点復帰工程が行われる。
【0052】
原点復帰工程の次は、吐出位置tにあるピストン2が突出移動されてポンプ室4の容積をさらに縮小させる過吐出工程が行われる。図9(b)は、ピストン2が矢印イ方向に最も(可能な限り)突出移動されて最大吐出位置(フラッシング位置)fに位置する状態、即ち、過吐出工程の終了状態を示している。このとき、吸入側の開閉弁21は閉じた状態で、吐出側の開閉弁22は開いた状態である。この過吐出工程により、矢印トで示すように、ポンプ室4にある薬液(又は洗浄液)の殆ど(ほぼ全部)が吐出部7から吐出されて行く。
【0053】
過吐出工程の次は、最大突出位置fにあるピストン2が退入移動されてポンプ室4の容積を拡大させる全吸入工程が行われる。図10(a)は、ピストン2が矢印ロ方向に退入移動されて吸入位置kに位置する状態、即ち、全吸入工程の終了状態を示している。このとき、吸入側の開閉弁21は開いた状態で、吐出側の開閉弁22は閉じた状態である。この全吸入工程により、吸入部6から薬液(又は洗浄液)がポンプ室4に吸入される〔図10(a)の矢印チ参照〕。この全吸入工程による吸入量は、前述した通常モードでの吸入工程による吸入量より明確に多い。
【0054】
全吸入工程の次は、吸入位置kにあるピストン2が最大突出位置fまで突出移動されて、ポンプ室4の容積を縮小させるフラッシング工程が行われる。図10(b)は、矢印イ方向に最も(可能な限り)突出移動されて最大突出位置(フラッシング位置)fに位置する状態、即ち、フラッシング工程の終了状態を示している。このとき、吸入側の開閉弁21は閉じた状態で、吐出側の開閉弁22は開いた状態である。
このフラッシング工程では、ピストン2が吸入位置kにあって容積最大となっているポンプ室4を、ピストン2の最大突出位置fへの突出移動によって一気に容積最小とするものであり、ポンプ室4に充填されている薬液(又は洗浄液)をほぼ全排出させることが可能である〔図10(b)の矢印リ参照〕。
【0055】
このフラッシングモードにおける「(1)薬液A追出し」の工程と「(4)洗浄液A追出し」の工程では、起動直後の1回目は図9(a)〜図10(b)に示される一連の動作、即ち、原点復帰工程→過吐出工程→全吸入工程→フラッシング工程がこの順で実行される。その後(2回目以降)は、図10(a)〜図10(b)に示される動作、即ち、全吸入工程→フラッシング工程がこの順で実行される。
次に、ローリングダイヤフラム3の作製方法や、液置換時における従来の不都合が解消される理由の詳細などについて説明する。
【0056】
従来のローリングダイヤフラム3は、例えばピストン2が吐出位置tにあるときに相当する姿勢、即ち、図13に示すように、フランジ頭部3bと外周リング部3gとの間の肉厚の薄い部分である薄膜部uに折返部3d及び外周部3eが形成されている折返し姿勢にて作製されていた。
この場合に、フッ素樹脂などの可撓性を有する材料製であるローリングダイヤフラム3は、ピストン2が吐出位置tと吸入位置kとの間で往復移動される状態であれば、換言すれば折返部3dを有する状態であれば、薄膜部uは円滑に変形する。
しかしながら、ピストン2が最大突出位置fに突出移動されると、元あった折返部3d近辺に、図14に示すように、角部41や逆曲り部42、波打部43などが生じてしまう問題があった。
【0057】
前述の問題について要因を鋭意追究した結果、従来における不具合は、ローリングダイヤフラム3の作製時の姿勢に1つの要因のあることが分った。即ち、従来の薄膜部uは、可撓性を有する材料製であるとはいえども、少なからず、図13に示す折返し姿勢の形状に戻ろうとする作製癖(曲り癖)が付いていたため、それが影響して、元あった折返部3d近辺に角部41や逆曲り部42、波打部43などが生じてしまうことが分かった。そこで、本発明によるダイヤフラムポンプPは、ローリングダイヤフラム3を、ピストン2の突出移動によって外周部3eが消失され、かつ、折返部3dの折り返しが開放されるときの姿勢、ピストン2が最大突出位置fにあるときの姿勢である伸展姿勢(図2参照)にて作製することを特徴としたものである。
【0058】
加えて、ローリングダイヤフラム3は、ピストン2が最も突出移動した状態(ピストン2が最大突出位置fにある状態)において伸展姿勢となるように設定されている。
【0059】
前述したように、図2に示す、伸展姿勢にあるローリングダイヤフラム3においては、折返部3d及び薄肉の外周部3eが形成されなくなる代わりに、緩やかで円滑な湾曲断面形状を呈する湾曲部10が形成されている。従って、ローリングダイヤフラム3は、薄肉の内周部3cと外周リング部3gとの間の部分が、円滑に形状変化する湾曲部10に形成される状態で作製されている。なお、11はピストン2に螺合するための雄ねじである。
【0060】
ローリングダイヤフラム3はフッ素樹脂製などの可撓性を有する材料製であるので、薄膜部uは容易に折返し変形することができる。なぜなら、折返部3d及び外周部3eが出現される薄膜部uの折返し姿勢(図3,4参照)は、作製時に出現されている湾曲部10の折れ曲りをさらにきつくする方向への変形であって、同じ方向に曲がることで円滑に変形させることができるからである。
この図2に示す伸展姿勢は、ピストン2の全移動領域における一方の終端(最大突出位置f)のときのものであり、湾曲部10に作製癖(曲り癖)が若干付いていたとしても、湾曲部10をその曲がり方向とは反対側に曲げ変形させることはないから、その作製癖によって歪な断面形状になるおそれもない。
【0061】
従って、伸展姿勢(図2,5参照)にて作製されたローリングダイヤフラム3を持つ本発明のダイヤフラムポンプPにおいては、ピストン2が、吸入位置k、吐出位置t、最大突出位置fを含むいかなる位置にあっても、薄膜部uは折返し姿勢や伸展姿勢などの断面形状が円滑に変形(変化)する状態に維持される。
特に、ピストン2が最大突出位置fに移動されても、薄膜部uは、図14に示されるような歪んだ形状になることがなく、円滑に湾曲変形する湾曲部10を有するという、期待通りの伸展姿勢のローリングダイヤフラム3となる。よって、折返部3dに溜まっている薬液が突出移動方向へ流れようとすることを妨げる要素(角部41や逆曲り部42、波打部43など)がなく、スムーズに排出させることが可能となる。
【0062】
このように改善されたダイヤフラムポンプPであるから、前述のフラッシングモードにおいては、ローリングダイヤフラム3は、ピストン2が最大突出位置fに突出移動されたときは、その薄膜部uが円滑に形状変化して滑らかな湾曲部10を有する期待通りの伸展姿勢に形成されている。
その結果、フラッシングモードで駆動した際に、液置換に要する液量や時間が軽減でき、液置換効率が改善されるダイヤフラムポンプPを提供することに成功している。
即ち、図11に示すフロー図の(1)薬液A追出しの工程において、ピストン2が最大突出位置fに突出移動された時に、折返部3dの開放によって形成される湾曲部10が歪んだ形状とならないので、液溜まり箇所が生じにくくなり、薬液Aがポンプ室4から速やかに追い出される。同様に、(4)洗浄液A追出しの工程においても、洗浄液Aがポンプ室4から速やかに追い出される。よって、これらの工程に要する液量や時間を削減することができる。
また、(3)洗浄液A充填後放置の工程において、湾曲部10の形状が滑らかな形状となっているので、ポンプ室4内に充填された洗浄液Aが速やかに湾曲部10に馴染む。同様に、(6)薬液B充填後放置の工程においても、ポンプ室4内に充填された薬液Bが速やかに湾曲部10に馴染む。よって、これらの工程における時間を削減することができる。
従って、液置換時において洗浄効率及び液置換効率を向上させることができる。
【0063】
〔別実施形態〕
前述の実施形態1においては、吐出位置tは最大突出位置(フラッシング位置)fよりもピストン2根元側に移動した位置に設定されていたが、吐出位置tは最大突出位置fと同じ位置であっても良い。即ち、ピストン2が吐出位置t(=最大突出位置f)に到達すると、ローリングダイヤフラム3が伸展姿勢になるようにしても良い。
この別実施形態において、ダイヤフラムポンプPを通常モードで駆動すると、ピストン2は、矢印イ方向に最も(可能な限り)突出移動された吐出位置t(=最大突出位置f)と吸入位置kとの間で往復移動する。そして、ピストン2が吐出位置tに突出移動された時に、折返部3dの開放によって形成される湾曲部10が歪んだ形状とならないので、液溜まり箇所が生じにくくなり、薬液が凝集して固化することを防止することができる。従って、液移送時において液溜り現象に起因する不具合を抑制することができる。
なお、前述の説明において、「作製」とは、削り出しによって作ることや、成形(型成形)によって作ることを含む概念である。
【符号の説明】
【0064】
1 シリンダ
1A シリンダ本体
1B シリンダヘッド
1r シリンダの内周面
2 ピストン
2e ピストンの外周面
3 ローリングダイヤフラム
3c 内周部
3d 折返部
3e 外周部
3f 取出部
3g 外周リング部
4 ポンプ室
6a,7a 給排路
13 筒状空間部
f 最大突出位置
k 吸入位置
t 吐出位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内にて往復移動可能なピストンに支持されて前記ピストンの外周面に沿う内周部、前記シリンダに支持されて前記シリンダの内周面に沿う外周部、及び前記シリンダと前記ピストンとの間の筒状空間部において折り返されることで前記内周部と前記外周部とに亘って形成される折返部を備えて可撓性を有する材料でなるローリングダイヤフラムと、前記シリンダ内において前記ローリングダイヤフラムによって仕切られるとともに、前記ピストンの突出移動で容積が減少し、かつ、前記ピストンの退入移動で容積が増大するように容積変化するポンプ室とを有するダイヤフラムポンプであって、
前記ローリングダイヤフラムは、前記ピストンの突出移動によって前記外周部が消失され、かつ、前記折返部の折り返しが開放されるときの姿勢に相当する伸展姿勢にて作製されたものであるダイヤフラムポンプ。
【請求項2】
前記ローリングダイヤフラムは、前記ピストンが最も突出移動した最大突出位置にあるときに前記伸展姿勢となる状態に設定されており、前記ピストンは、前記最大突出位置と前記最大突出位置よりも前記退入移動した位置である吸入位置との間で往復移動可能に構成されている請求項1に記載のダイヤフラムポンプ。
【請求項3】
前記ピストンを、これが前記最大突出位置よりも前記退入移動した位置であって、かつ前記吸入位置kよりも前記突出移動した位置である吐出位置と、前記吸入位置との間で往復移動させることが可能に構成されるとともに、前記ダイヤフラムは、前記ピストンが前記吐出位置及びこれより前記吸入位置側にあるときは前記折返部を有する折返し姿勢に維持されている請求項2に記載のダイヤフラムポンプ。
【請求項4】
前記シリンダは、前記ピストンを往復移動可能に収容するシリンダ本体と、前記ポンプ室への給排路を備えるシリンダヘッドとを有して構成されるとともに、前記ローリングダイヤフラムは、前記外周部の先端側に続く厚肉の外周リング部を備えており、
前記シリンダ本体と前記シリンダヘッドとは、これら両者の間に前記外周リング部を挟み込んで連結一体化されている請求項1〜3の何れか一項に記載のダイヤフラムポンプ。
【請求項5】
前記ローリングダイヤフラムは、前記外周リング部の内周端から径内側方向に延設される薄膜環状の取出部が前記外周部に繋がる構成とされている請求項4に記載のダイヤフラムポンプ。
【請求項1】
シリンダ内にて往復移動可能なピストンに支持されて前記ピストンの外周面に沿う内周部、前記シリンダに支持されて前記シリンダの内周面に沿う外周部、及び前記シリンダと前記ピストンとの間の筒状空間部において折り返されることで前記内周部と前記外周部とに亘って形成される折返部を備えて可撓性を有する材料でなるローリングダイヤフラムと、前記シリンダ内において前記ローリングダイヤフラムによって仕切られるとともに、前記ピストンの突出移動で容積が減少し、かつ、前記ピストンの退入移動で容積が増大するように容積変化するポンプ室とを有するダイヤフラムポンプであって、
前記ローリングダイヤフラムは、前記ピストンの突出移動によって前記外周部が消失され、かつ、前記折返部の折り返しが開放されるときの姿勢に相当する伸展姿勢にて作製されたものであるダイヤフラムポンプ。
【請求項2】
前記ローリングダイヤフラムは、前記ピストンが最も突出移動した最大突出位置にあるときに前記伸展姿勢となる状態に設定されており、前記ピストンは、前記最大突出位置と前記最大突出位置よりも前記退入移動した位置である吸入位置との間で往復移動可能に構成されている請求項1に記載のダイヤフラムポンプ。
【請求項3】
前記ピストンを、これが前記最大突出位置よりも前記退入移動した位置であって、かつ前記吸入位置kよりも前記突出移動した位置である吐出位置と、前記吸入位置との間で往復移動させることが可能に構成されるとともに、前記ダイヤフラムは、前記ピストンが前記吐出位置及びこれより前記吸入位置側にあるときは前記折返部を有する折返し姿勢に維持されている請求項2に記載のダイヤフラムポンプ。
【請求項4】
前記シリンダは、前記ピストンを往復移動可能に収容するシリンダ本体と、前記ポンプ室への給排路を備えるシリンダヘッドとを有して構成されるとともに、前記ローリングダイヤフラムは、前記外周部の先端側に続く厚肉の外周リング部を備えており、
前記シリンダ本体と前記シリンダヘッドとは、これら両者の間に前記外周リング部を挟み込んで連結一体化されている請求項1〜3の何れか一項に記載のダイヤフラムポンプ。
【請求項5】
前記ローリングダイヤフラムは、前記外周リング部の内周端から径内側方向に延設される薄膜環状の取出部が前記外周部に繋がる構成とされている請求項4に記載のダイヤフラムポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図4】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−96313(P2013−96313A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240280(P2011−240280)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】
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