説明

ダイヤモンド被覆構造体及びその製造方法

【課題】 ダイヤモンド皮膜と多孔性基材表面との間にボイドがないか、極めて少なく、また、多孔性基材表面にダイヤモンドの連続的な皮膜が形成された、生産性良く製造できるダイヤモンド被覆構造体、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のダイヤモンド被覆構造体は、多孔性基材が、一次粒子径が1〜20nmのナノダイヤモンド粒子を核として成長したダイヤモンド皮膜によって被覆されている。本発明のダイヤモンド被覆構造体は、一次粒子径が1〜20nmのナノダイヤモンド粒子を主体とする分散溶液を多孔性基材に付着させた後、ナノダイヤモンド粒子を核として成長させて製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド被覆構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは硬度、弾性率が地球上の物質の中で最も大きいため、多孔性基材をダイヤモンドで被覆した構造体は、硬度及び弾性率が大きいものであることが期待できる。
【0003】
また、ダイヤモンドは熱伝導性、絶縁性にも優れているため、多孔性基材をダイヤモンドで被覆した構造体は、放熱材料又は電気絶縁材料としての応用が期待できる。
【0004】
このようなダイヤモンドによって被覆する方法として、「形のある物品の上へのダイヤモンドの化学蒸着のための方法であって、(a)液体中の研磨粉末(ダイヤモンド粉末、粒径:約0.25〜1μm)の懸濁液中に該形のある物品を配置すること[ここで、該粉末の材料は該形のある物品の材料の硬さよりも大きい硬さを有する]、(b)該形のある物品の表面が研磨されたようになるのに十分な時間の間、該形のある物品を含む該懸濁液を撹拌すること、(c)該形のある物品を該懸濁液から取り出しそして該形のある物品を乾燥すること、及び(d)該化学蒸着によって該形のある物品の上に該ダイヤモンドを蒸着させることのステップを含んで成る方法。」が知られている(特許文献1)。実際、特許文献1においては、0.25μmのダイヤモンドペーストの懸濁液を使用し、CVD法によりグラファイト繊維又は炭化ケイ素繊維をダイヤモンドで被覆したことを開示している。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の方法によりグラファイト繊維等の基材表面を被覆しようとしても、ダイヤモンド粉末と基材表面との間にボイドが発生しやすいため、所望の電気絶縁性能を得ることができなかった。また、特許文献1に開示の方法により基材表面に連続的な皮膜を形成するのが困難であるため、十分な放熱性能を得ることが困難であった。なお、連続的な皮膜を形成するために、CVD法による蒸着時間を長くすることはできるが、この場合にはダイヤモンド被覆構造体の生産性が悪くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平8−503026号公報(請求項1、4、5、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の問題点を解決するためになしたものであり、ダイヤモンド皮膜と多孔性基材表面との間にボイドがないか、極めて少なく、また、多孔性基材表面にダイヤモンドの連続的な皮膜が形成された、生産性良く製造できるダイヤモンド被覆構造体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1にかかる発明は、「多孔性基材が、一次粒子径が1〜20nmのナノダイヤモンド粒子を核として成長したダイヤモンド皮膜によって被覆されているダイヤモンド被覆構造体。」である。
【0009】
本発明の請求項2にかかる発明は、「構造体の表面粗さが50nm以下である、請求項1に記載のダイヤモンド被覆構造体。」である。
【0010】
本発明の請求項3にかかる発明は、「多孔性基材が直径10μm以下の繊維からなる繊維シートである、請求項1又は請求項2に記載のダイヤモンド被覆構造体。」である。
【0011】
本発明の請求項4にかかる発明は、「(1)一次粒子径が1〜20nmのナノダイヤモンド粒子を主体とする分散溶液を調製する工程、(2)前記分散溶液を多孔性基材に付与し、多孔性基材にナノダイヤモンド粒子を付着させる工程、(3)前記ナノダイヤモンド粒子を核として成長させ、多孔性基材をダイヤモンド皮膜によって被覆する工程、とを含む、ダイヤモンド被覆構造体の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1にかかる発明は、成長核となるナノダイヤモンド粒子の一次粒子径が1〜20nmと非常に小さいことによって、ダイヤモンド皮膜が成長した場合に多孔性基材との間にボイドが発生しにくいこと、ナノダイヤモンド粒子の一次粒子径が非常に小さいことによって、多孔性基材上に付着できるナノダイヤモンド粒子数が非常に多く、その密度を高めることができる結果、生産性良く、連続的なダイヤモンド皮膜を形成できることを見出したものである。
【0013】
本発明の請求項2にかかる発明は、構造体の表面粗さが50nm以下と非常に平滑であるため、ダイヤモンド皮膜量が少なく、生産性良く製造できたものである。つまり、一次粒子径が1〜20nmのナノダイヤモンド粒子を核としているため、表面粗さが50nmを超えるということは、ダイヤモンド皮膜を構成するグレインの粗大化が進み、緻密なダイヤモンド皮膜が形成されていないことを意味するため、構造体の表面粗さが50nm以下であると、必要最低限の量の緻密なダイヤモンド皮膜で被覆された、生産性良く製造されたダイヤモンド被覆構造体である。
【0014】
本発明の請求項3にかかる発明は、多孔性基材が直径10μm以下の繊維からなる繊維シートであるため、ダイヤモンドの特性を十分に発揮できるものである。つまり、直径10μm以下の繊維は表面積が非常に広く、この繊維を被覆したダイヤモンド皮膜の表面積も非常に広いため、ダイヤモンドの特性を十分に発揮できるものである。
【0015】
本発明の請求項4にかかる発明は、一次粒子径が1〜20nmのナノダイヤモンド粒子を主体とする分散溶液を使用しているため、請求項1のダイヤモンド被覆構造体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例における中和紡糸法を説明する模式的断面図
【図2】(a)実施例において使用した沿面放電素子の平面図 (b)実施例において使用した沿面放電素子の断面図
【図3】放熱性試験方法を説明する模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のダイヤモンド被覆構造体(以下、単に「被覆構造体」と表記することがある)は、一次粒子径が1〜20nmのナノダイヤモンド粒子を核として使用している点に、特に特徴がある。このような非常に細かいナノダイヤモンド粒子を核とすることによって、ダイヤモンド皮膜が成長した場合に多孔性基材との間にボイドが発生しにくく、また、多孔性基材に付着できるナノダイヤモンド粒子数が非常に多く、しかも高い密度で多孔性基材上に付着できることから、生産性良く、連続的なダイヤモンド皮膜を形成できる。
【0018】
ナノダイヤモンド粒子は前述のような作用を奏するように、一次粒子径は1〜20nmであるが、より前記作用を奏するように、一次粒子径は1〜10nmであるのが好ましく、2〜7nmであるのがより好ましく、3〜5nmであるのが更に好ましい。なお、「一次粒子径」はナノダイヤモンド粒子の大きさのことをいい、濃度が2mass%のナノダイヤモンド粒子の分散溶液を、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子株式会社製)を用い、動的光散乱による粒度分布測定により得られる値をいう。
【0019】
このようなナノダイヤモンド粒子は、例えば、爆発法により製造したナノダイヤモンド粗凝膠体を、セラミックビーズ又は金属ビーズを用いる高速回転湿式ミリングによって解砕する方法によって得ることができる。
【0020】
本発明の被覆構造体は多孔性基材がダイヤモンド皮膜によって被覆されたものであるが、ダイヤモンド皮膜は前述のようなナノダイヤモンド粒子を核として成長したものである。その成長は、例えば、CVD法により成長することができる。なお、CVD法としては、熱フィラメント法、プラズマ法(例えば、直流、高周波、マイクロ波など)、電子サイクロトロン共鳴プラズマ法などを例示できる。
【0021】
本発明の被覆構造体を構成する基材は多孔性であるため、ダイヤモンドの性能を十分に発揮することができる。つまり、基材が多孔性であることによって多孔性基材の表面積は広く、これをダイヤモンド皮膜で被覆した被覆構造体はダイヤモンド皮膜の表面積が広いため、ダイヤモンドの性能を十分に発揮することができる。この多孔性基材としては特に限定するものではないが、例えば、織物、編物、不織布などの繊維シート、発泡体、多孔フィルムなどを挙げることができる。これらの中でも表面積の広い繊維シートが好適であり、この繊維シートが直径10μm以下の繊維からなると、繊維の表面積が広いことによってダイヤモンド皮膜の表面積も広くなるためより好適であり、繊維シートが不織布であると、繊維間に適度な空隙があり、有効に繊維表面のダイヤモンド皮膜を利用できるため、更に好適である。なお、繊維直径は小さい方がより表面積が広くなるため、5μm以下であるのがより好ましく、2μm以下であるのが更に好ましく、1μm以下であるのが更に好ましい。なお、繊維直径の下限は特に限定するものではないが、取り扱い性の点から10nm以上であるのが好ましい。なお、繊維シートを構成する繊維はダイヤモンド皮膜による性能(例えば、熱伝導性)に優れるように、L/D[=長さ(単位:μm)/繊維直径(単位:μm)]が100以上の長繊維であるのが好ましい。したがって、直径2μm以下の長繊維からなる不織布であるのが好ましく、直径1μm以下の長繊維からなる不織布であるのが最も好ましい。なお、このような直径2μm以下の長繊維からなる不織布は、例えば、静電紡糸法、紡糸液に対してガスを作用させ、ガスの剪断力によって紡糸液を延伸し、繊維化する方法により製造することができる。本発明における「繊維直径」は繊維の横断面形状が円形である場合にはその直径を意味し、横断面形状が非円形である場合には横断面積と同じ面積を有する円の直径を意味する。
【0022】
本発明の被覆構造体は表面粗さが50nm以下である程度に平滑であるのが好ましい。本発明においては、一次粒子径が1〜20nmのナノダイヤモンド粒子を核としているため、表面粗さが50nmを超えるということは、ダイヤモンド皮膜を構成するグレインの粗大化が進み、緻密なダイヤモンド皮膜が形成されていないことを意味するが、構造体の表面粗さが50nm以下であると、必要最低限の量の緻密なダイヤモンド皮膜で被覆された、生産性良く製造されたダイヤモンド被覆構造体である。より好ましい表面粗さは20nm以下であり、更に好ましくは10nm以下である。表面粗さの下限は特に限定するものではないが、ナノダイヤモンド粒子の一次粒子径が1〜20nmであることから、1nm以上である。本発明の表面粗さ(Sa)は、原子間力顕微鏡(Nano−R:Pacific nanotechnology社製)を用いて、ノンコンタクトモードで、ダイヤモンド被覆構造体の200nm×200nmエリアを、Siプローブ(ナノワールド社製)を使用して測定した平均粗さをいう。なお、ダイヤモンド被覆構造体が傾いていたり、曲率を有する場合には、レベリングを行い、ダイヤモンド被覆構造体の表面を水平面に補正した後に平均粗さを測定する。
【0023】
このような本発明の被覆構造体は、例えば、次のような方法により製造することができる。
【0024】
まず、(1)一次粒子径が1〜20nmのナノダイヤモンド粒子を主体とする分散溶液を調製する工程を実施する。このような分散溶液は、例えば、爆発法により製造したナノダイヤモンド粗凝膠体を、セラミックビーズ又は金属ビーズを用いる高速回転湿式ミリングによって解砕する方法によって得ることができる。なお、「主体とする」とは一次粒子径が1〜20nmであるダイヤモンド粒子を90mass%以上含むことを意味する。一次粒子径が1〜20nmであるダイヤモンド粒子が多ければ多いほど、ダイヤモンド皮膜が成長した場合に多孔性基材との間にボイドが発生しにくく、また、ダイヤモンド粒子が高い密度で多孔性基材上に付着でき、均一な厚さのダイヤモンド皮膜を形成できるため、95mass%以上であるのが好ましく、98mass%以上であるのがより好ましく、99.9mass%以上であるのが更に好ましい。
【0025】
なお、「爆発法」とは酸素欠如型の軍事用爆薬組成物CompositionBを水などの不活性媒体中で爆発させて生成した煤を集め、熱濃硝酸による酸化によって無定形炭素を取り除く方法である。そのため、分散溶液を構成する溶媒はナノダイヤモンド粗凝膠体を製造する際に使用した水などの不活性媒体である。
【0026】
本発明のナノダイヤモンド分散溶液の濃度は、分散溶液が安定に存在するように、10mass%以下であるのが好ましく、5mass%以下であるのがより好ましく、1mass%以下であるのが更に好ましい。また、ナノダイヤモンド粒子を多孔性基材に対して高密度で付着させるために、0.001mass%以上であるのが好ましく、0.01mass%以上であるのがより好ましく、0.05mass%以上であるのが更に好ましい。
【0027】
次に、(2)前記分散溶液を多孔性基材に付与し、多孔性基材にナノダイヤモンド粒子を付着させる工程を実施する。この工程は、例えば、多孔性基材を分散溶液に浸漬した後に乾燥する方法、引き上げ法などにより分散溶液を多孔性基材にコーティングした後に乾燥する方法、分散溶液を多孔性基材に散布した後に乾燥する方法により実施することができる。多孔性基材にナノダイヤモンド粒子を高密度で付着させるという点から、多孔性基材を分散溶液に浸漬した後に乾燥する方法により付着させるのが好ましい。なお、乾燥はナノダイヤモンド粒子が高密度で付着した状態を維持したまま行うことができる方法であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、熱風乾燥機、オーブン、真空オーブン、マイクロ波照射により実施することができる。
【0028】
なお、多孔性基材を分散溶液に浸漬した際には、ナノダイヤモンド分散溶液におけるナノダイヤモンド粒子の分散状態を維持できるように、超音波を作用させるのが好ましい。この超音波はナノダイヤモンド粒子の分散状態を維持できるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、超音波洗浄装置、ホーン形高出力超音波装置などを使用できる。
【0029】
そして、(3)前記ナノダイヤモンド粒子を核として成長させ、多孔性基材をダイヤモンド皮膜によって被覆する工程を実施して、本発明の被覆構造体を製造することができる。本発明においては、一次粒子径が1〜20nmのナノダイヤモンド粒子を核として成長するため、ダイヤモンド皮膜と多孔性基材との間にボイドを発生することなく成長する。この工程は、例えば、CVD法により実施することができる。CVD法としては、熱フィラメント法、プラズマ法(例えば、直流、高周波、マイクロ波など)、電子サイクロトロン共鳴プラズマ法などを例示できる。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
(1)4.6±0.8nmの一次粒子を98.8mass%、59.4±22.8nmの凝集体を1.2mass%含む水分散ナノダイヤモンドコロイド(株式会社 ナノ炭素研究所製 ナノアマンド5.0mass%)を100倍希釈し、0.05mass%のナノダイヤモンド水分散液を調製した。
【0032】
(2)テトラエトキシシラン、エタノール、水及び1規定の塩酸を、1:5:2:0.003のモル比で混合し、温度78℃で10時間の還流操作を行い、次いで、溶媒をロータリーエバポレーターにより除去して濃縮した後、温度60℃に加熱して、粘度が2ポイズのゾル溶液を形成した。得られたゾル溶液を紡糸液として用い、特開2005−264374号公報に開示の静電紡糸装置1を用いてゲル状シリカ繊維ウエブを作成した。つまり、図1の対向電極5として、図2(a)(b)の沿面放電素子25を使用した。詳細を以下に示す。
【0033】
紡糸ノズル2:内径0.4mmの金属製注射針(先端カット)
紡糸ノズル2と対向電極5との距離:200mm
対向電極5及びイオン発生電源(両電極を兼ねる):ステンレス板(誘起電極28)上に厚さ1mmのアルミナ膜(誘電体基板26)を溶射し、その上に直径30μmのタングステンワイヤ(放電電極27)を10mmの等間隔で張った沿面放電素子25(タングステンワイヤ面を紡糸ノズル2と対向させると共に接地し、ステンレス板26とタングステンワイヤ間に交流高電圧電源29により50Hzの交流高電圧を印加)
第1高電圧電源7:−16kV
第2高電圧電源8:±5kV(交流沿面のピーク電圧:5kV、50Hz)
水平方向の気流30a:25cm/sec.
鉛直方向の気流30b:15cm/sec.
紡糸室31の雰囲気:温度25℃、湿度40%RH以下
連続紡糸時間:30分以上
【0034】
次に、得られたゲル状シリカ繊維ウエブを温度500℃で焼成することにより、シリカ繊維ウエブを作製した。
【0035】
一方、繊維間接着に用いる接着用無機系ゾル溶液として、テトラエトキシシラン、エタノール、水及び1規定の硝酸を、1:7.2:7:0.0039のモル比で混合し、温度25℃、攪拌条件300rpmで15時間反応させた。反応後、酸化ケイ素の固形分濃度が0.25%となるようにエタノールで希釈し、シリカゾル希薄溶液(接着用無機系ゾル溶液)とした。
【0036】
次いで、このシリカゾル希薄溶液に前記シリカ繊維ウエブを浸漬した後、吸引により余剰のゾル溶液を除去し、シリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを作製した。
【0037】
続いて、シリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを110℃の雰囲気中に30分間保持した後、800℃で焼成することによって、シリカ長繊維からなる不織布(=多孔性基材、目付:23g/m、繊維径:1μm)を作製した。
【0038】
そして、このシリカ長繊維不織布を20×20mmの大きさに切断した後、前記ナノダイヤモンド水分散液中に浸漬し、30分間、超音波処理を行った。処理後、ナノダイヤモンド水分散液からシリカ長繊維不織布(多孔性基材)を取り出し、100mlの純水で洗浄し、120℃の熱風乾燥機で1時間乾燥し、シリカ長繊維不織布(多孔性基材)にナノダイヤモンド粒子を付着させた。
【0039】
(3)次いで、前記ナノダイヤモンド粒子の付着したシリカ長繊維不織布(多孔性基材)に、マイクロ波プラズマCVD法によってダイヤモンド皮膜でシリカ長繊維不織布を被覆し、本発明のダイヤモンド被覆構造体を製造した。このCVD法の条件は、原料ガス流量:CH=0.1sccm、H=100.0sccm、合成圧力:7kPa、マイクロ波出力:400W、時間:30min.とした。
【0040】
(比較例1)
粒径106.0±41.1nmの爆発法ナノダイヤモンド凝集体(Amati International社製)の0.05mass%水分散液を用いた以外は、実施例1と同じ方法でダイヤモンド被覆構造体を製造した。この構造体においては、シリカ長繊維不織布に定着するナノダイヤモンド粒子の数が少なく、連続的なダイヤモンド皮膜を形成できなかった。
【0041】
(比較例2)
マイクロ波プラズマCVD法によるダイヤモンド成膜時間を12時間とした以外は、比較例1と同じ方法でダイヤモンド被覆構造体を製造した。CVDを長時間行ったことで連続的なダイヤモンド皮膜を形成できた。
【0042】
(比較例3)
粒径106.0±41.1nmの爆発法ナノダイヤモンド凝集体(Amati International社製)の1.0mass%水分散液を用いた以外は、実施例1と同じ方法でダイヤモンド被覆構造体を製造した。この構造体においては、シリカ長繊維不織布に定着する凝集体の数が増え、連続的なダイヤモンド皮膜を形成できた。
【0043】
(比較例4)
粒径0.25〜1μmのミクロダイヤモンド(EID社製)の0.05mass%水分散液を用いた以外は、実施例1と同じ方法でダイヤモンド被覆構造体を製造しようとしたが、ミクロダイヤモンド粒子を定着させることはできなかった。
【0044】
(表面粗さの評価)
原子間力顕微鏡(Nano−R:Pacific nanotechnology社製)を用いて、実施例1及び比較例1〜4のダイヤモンド被覆構造体の200nm×200nmエリアにおける表面粗さ(Sa)を測定した。この結果は表1に示す通りであった。なお、測定はノンコンタクトモードで行い、プローブにはSiプローブ(ナノワールド社製)、背面アルミコートPPP−NCHRを用いた。
【0045】
(電気絶縁性の評価)
まず、エポキシ当量450−500のビスフェノール形エポキシ樹脂100重量部に対して、硬化剤であるジシアンジアミド(DICY)を5重量部添加し、ワニスを調製した。
【0046】
次いで、このワニスに実施例1、比較例1〜4並びにナノダイヤモンド粒子を付着させていないシリカ長繊維不織布(比較例5)をそれぞれ浸漬した後、145〜160℃で2時間乾燥し、プリプレグを調製した。その後、プリプレグ全体に対して均一に3kgf/cmの圧力を印加し、厚さ0.23±0.03mmの複合体試料をそれぞれ作製した。
【0047】
そして、各複合体試料を一対の円柱電極(直径:10mm、試料に接する面における周縁は半径3.0mmの丸みを付けてある)により、200gfの圧力ではさみ、各複合体試料が水平な状態で置いた後、印加電圧として60Hzの交流電圧を使用し、10kV/60sec.の速度で前記一対の円柱電極に印加し、絶縁破壊電圧を測定した。この結果は表1に示す通りであった。なお、シリカ長繊維不織布とダイヤモンド皮膜との間にボイドが発生している場合、また、ダイヤモンド被覆構造体とワニスとの間にボイドが発生している場合に、電気絶縁性が悪くなり、絶縁破壊電圧が低くなる。
【0048】
(熱伝導性の評価)
図3に示すような方法で熱伝導性を評価した。つまり、水冷装置Cの上に、実施例1及び比較例1〜5を用いた前記複合体試料H、及び抵抗Rとして、縦10mm×横10mm×高さ10mmのステンレス(SUS304)を順に載置した。
【0049】
次いで、定電流源を使用し、抵抗Rに対して100Wの熱量を与えた時の、10分後における抵抗Rの上昇温度を放射温度計で測定した。この結果は表1に示す通りであった。なお、複合体試料の熱伝導性が高ければ高い程、水冷装置Cによって冷やされるため、抵抗Rの上昇温度は低くなる。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、本発明の被覆構造体は絶縁破壊電圧の高い、電気絶縁性能の優れるものであった。これは、シリカ長繊維不織布とダイヤモンド皮膜との間にボイドが発生していないこと、及びダイヤモンド被覆構造体の表面が平滑であることによって、ダイヤモンド被覆構造体とワニスとの間にボイドが発生していないためであると考えられた。
【0052】
また、本発明の被覆構造体は抵抗の上昇温度が低い、熱伝導性に優れるものであった。これはシリカ長繊維不織布表面が連続的なダイヤモンド皮膜によって緻密に被覆されているためであると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のダイヤモンド被覆構造体は電気絶縁性能、熱伝導性等に優れるものであるため、放熱材料又は電気絶縁材料として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 静電紡糸装置
2 紡糸ノズル
3 繊維回収容器
4 捕集部材
5 対向電極
5a イオン
6 ゾル溶液供給機
7 第1高電圧電源
8 第2高電圧電源
9 吸引機
25 沿面放電素子
26 誘電体基板
27 放電電極
28 誘起電極
29 交流高電圧電源
30a 水平方向の気流
30b 鉛直方向の気流
31 紡糸室
H 複合体試料
C 水冷装置
R 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性基材が、一次粒子径が1〜20nmのナノダイヤモンド粒子を核として成長したダイヤモンド皮膜によって被覆されているダイヤモンド被覆構造体。
【請求項2】
構造体の表面粗さが50nm以下である、請求項1に記載のダイヤモンド被覆構造体。
【請求項3】
多孔性基材が直径10μm以下の繊維からなる繊維シートである、請求項1又は請求項2に記載のダイヤモンド被覆構造体。
【請求項4】
(1)一次粒子径が1〜20nmのナノダイヤモンド粒子を主体とする分散溶液を調製する工程、
(2)前記分散溶液を多孔性基材に付与し、多孔性基材にナノダイヤモンド粒子を付着させる工程、
(3)前記ナノダイヤモンド粒子を核として成長させ、多孔性基材をダイヤモンド皮膜によって被覆する工程、
とを含む、ダイヤモンド被覆構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−248586(P2010−248586A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100462(P2009−100462)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】