説明

ダイレクトメタノール型燃料電池用複合シート

【課題】メタノール拡散性に優れ、燃料カートリッジからのメタノール水溶液送出部が比較的小さな面積であっても、拡散浸透効果によってアノードに大面積でメタノールを供給することが可能なダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートを提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂層と、前記ポリオレフィン系樹脂層の少なくとも一方の主面に連続的に形成された吸水拡散性繊維織布層とを有するダイレクトメタノール型燃料電池用複合シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
メタノール拡散性に優れ、燃料カートリッジからのメタノール水溶液送出部が比較的小さな面積であっても、拡散浸透効果によってアノードに大面積でメタノールを供給することが可能なダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ノートPC、ビデオカメラ等の携帯用小型電子機器の多機能化に伴い、消費電力や連続使用時間が増加しており、携帯用小型電子機器に搭載される電池の高エネルギー密度化が強く要望されている。
【0003】
現在、携帯用小型電子機器の電源としては、主にリチウム二次電池が使用されているが、リチウム二次電池は、エネルギー密度600Wh/L程度で限界を迎えると予測されているため、リチウム二次電池に替わる電源として、固体高分子電解質膜を用いた燃料電池の早期実用化が期待されている。
【0004】
燃料電池の中でも、ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)は、燃料であるメタノール又はメタノール水溶液を、水素に改質せずに、そのままセル内部に供給して発電することが可能であり、活発な研究開発が行われている。また、ダイレクトメタノール型燃料電池は、メタノールの持つ理論エネルギー密度の高さ、システムの簡素化、燃料貯蔵のしやすさ等の面から、さらに注目を集めている。
ダイレクトメタノール型燃料電池では、一般的に、ポンプやファン等の拡散補器を用いてメタノール水溶液を供給する方法が行われている。
【0005】
しかしながら、ポンプやファン等の拡散補器を使用すると、システム全体の小型化が阻害されてしまうため、これら使用せずに、より簡素化、小型化した燃料供給システムが求められている。
【0006】
このような燃料供給システムとしては、毛管現象等の自然拡散を利用することにより、高効率でメタノール水溶液を供給する方法が研究されており、例えば、特許文献1には、多孔体からなる燃料浸透板を設置することにより、毛管現象を利用してメタノールをアノードへ導く方法が開示されている。また、特許文献2には、発泡体、繊維束、不織繊維等からなる燃料導入体が開示されており、ポリウレタン発泡体等の発泡体が用いられている。
【0007】
しかしながら、これらの方法では、メタノールの拡散性が不十分なため、燃料カートリッジからの液流路と浸透板との接触面を大きくする必要があり、小型化しにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−93540号公報
【特許文献2】特開2003−36866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、メタノール拡散性に優れ、燃料カートリッジからのメタノール水溶液送出部が比較的小さな面積であっても、拡散浸透効果によってアノードに大面積でメタノールを供給することが可能なダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂層と、前記ポリオレフィン系樹脂層の少なくとも一方の主面に連続的に形成された吸水拡散性繊維織布層とを有するダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートである。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ダイレクトメタノール型燃料電池に用いるシートを、ポリオレフィン系樹脂層と、上記ポリオレフィン系樹脂層の少なくとも一方の主面に連続的に形成された吸水拡散性繊維織布層とを有する構成とすることで、メタノールによる劣化や変形を防止しつつ、極めてメタノール拡散性の高い複合シートとなるため、より高電流密度での発電特性を実現可能なダイレクトメタノール型燃料電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明のダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートは、ポリオレフィン系樹脂層と、上記ポリオレフィン系樹脂層の少なくとも一方の主面に連続的に形成された吸水拡散性繊維織布層とを有する。
上記ポリオレフィン系樹脂は、疎水性を有することから、メタノールの拡散性能に寄与するとともに、得られるシートが強度の高いものとなる。
【0013】
上記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、α−オレフィンの単独重合体、α−オレフィンを主成分とする異種単量体との共重合体であり、具体的には例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンと1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等、炭素原子数4〜10のα−オレフィンとの共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタアクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタアクリル酸エステル共重合体、アイオノマー樹脂等が挙げられる。
これらのなかではポリプロピレンが好ましい。
【0014】
上記ポリオレフィン系樹脂の融点(DSCの吸熱ピーク温度による)の好ましい下限は98℃、好ましい上限は200℃である。上記ポリオレフィン系樹脂の融点が98℃未満であると、燃料電池ユニット自体の発熱で変形や溶融による構造破壊、機能劣化を生じることがある。上記ポリオレフィン系樹脂の融点が200℃を超えると、複合シートの加工温度が高くなるため、高温での複合化加工が必要になり製造装置及び製造コストが高くなる場合がある。
【0015】
上記ポリオレフィン系樹脂の数平均分子量の好ましい下限は3000、好ましい上限は60000である。数平均分子量を上記範囲内とすることで、メタノールの拡散性能に優れるダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートを得ることができる。本明細書において、数平均分子量とはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたものをいう。
【0016】
上記ポリオレフィン系樹脂層に用いられるポリオレフィン系樹脂としては、上述した組成を有するポリオレフィン系樹脂を単独で用いてもよく、上述した組成を有する2種以上のポリオレフィン系樹脂を併用してもよい。また、上記ポリオレフィン系樹脂層が2層以上である場合は、上記ポリオレフィン系樹脂は異なる組成のものとしてもよいが、変形等によるトラブルを抑制するため、同一の組成とすることが好ましい。
【0017】
本発明のダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートにおける上記ポリオレフィン系樹脂の含有量の下限は10重量%、上限は45重量%である。上記ポリオレフィン系樹脂の含有量が10重量%未満であると、メタノールの拡散性能が低下したり、メタノール透過抵抗が不十分となることで燃料電池の出力低下を引き起こすことがあり好ましくない。また、45重量%を超えるとメタノールの厚み方向への透過性が低下する。上記ポリオレフィン系樹脂の含有量の好ましい下限は15重量%、好ましい上限は40重量%である。なお、上記ポリオレフィン系樹脂の含有量は、単位面積あたりの含有量を表す。
上記ポリオレフィン系樹脂層には、本発明の本質を損なわない範囲内で、酸化防止剤、熱安定剤等の公知の添加剤を添加してもよい。
本発明の吸水拡散性繊維織布層に用いられる吸水拡散性繊維について説明する。
【0018】
以下、水、メタノール、メタノール水溶液、これらを包含してメタノール等ということがある。また、本発明における吸水拡散という語の吸水とは、水を吸うという限定的な意味だけではなく、メタノール等を吸うことも包含して指している。
【0019】
合成繊維が吸水拡散性繊維として用いられる場合、単糸の断面形状がW、Z、M、波型、等の異型断面繊維の原糸及び/又は加工糸、多孔質繊維(空孔率5%〜40%) の原糸及び/又は加工糸が用いられる。この場合単糸が2dtex以下の原糸及び/又は加工糸が用いられる。
【0020】
異型断面繊維の単糸の異型度は、1.2以上2.2以下、さらに1.4以上2.2以下が好ましい。1.2以上であると丸断面よりも吸水拡散性のバランスの優れたものとなり、2.2を超えると紡糸性等の製造安定性に劣るので好ましくない。ここでいう異型度は、異型繊維単糸の断面積と周長(周囲の長さ)を算出し、次に同じ断面積を持つ真円の半径を求め、そこからその真円の周長を算出し、次式により求められる。
異型度= 異型繊維の周長/ 異型繊維と同じ断面積の真円の周長
【0021】
メタノール等の通り道を多くして吸水拡散性を高めるには、図1のように異型度1.4以上2.2以下、好ましくは1.5以上で且つθ〜θが60°以上160°以下、好ましくは120°以上150°以下としたW型断面のフィラメントにするとよい。また、このW 型断面糸の単糸を0.3〜2dtexにしたものを用いた布帛はメタノール拡散性に優れる傾向がある。このW断面繊維が重なり合ったときにできる細かい毛細管により、毛管吸引力が大きくなるものと推測される。ここで、単糸繊度が0.3dtexよりも小さくなると紡糸が難しくなる傾向があり、2dtexより大きくなるとメタノール拡散性が悪化する傾向がある。
【0022】
吸水拡散性繊維は合成繊維であることが好ましい。合成繊維は繊維基質による吸水性が無いが物理的な要素、つまり捲縮によるメタノール等の保持性、単繊維間の毛管現象、異型断面による表面積増大効果等による吸水拡散性を持たせることができるからである。前記合成繊維としては特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのホモポリマー、これらポリマーとのポリエステル共重合体などの繊維形成性を有するポリエステル系重合体からなる繊維が好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。当該繊維素材の特性としては、ポリオレフィン系樹脂と溶融複合化工程で複合化されるため、該ポリオレフィン系樹脂を複合化する工程の加熱温度で溶融しないことが要求される。また、吸水拡散性繊維織布層の熱セット工程や熱プレス工程での加熱温度で完全に溶融しないことが要求される。前記温度で溶融してしまうと吸水拡散性に寄与する繊維断面形状が保たれないからである。また、80℃以下の燃料電池内の使用条件において、メタノール等に溶解しないことが必要である。市販で入手できるこのような合成繊維の吸水拡散性繊維としては、旭化成せんい株式会社社製のポリエステル系繊維、テクノファイン(登録商標)、東レ株式会社製のCEOα(セオ・アルファ)(登録商標)等があげられる。
【0023】
さらに合成繊維の原糸に捲縮加工を施して捲縮を与えると、メタノール等の保持性を高めた合成繊維を得ることができる。但しこの場合、低捲縮すなわち捲縮伸長率が15%以下であるとよい。高捲縮であると、メタノール等を保持するスペースは増すが、逆にメタノール等の拡散性が低下することになるからである。このように合成繊維の形状や糸加工条件を適切に選定すれば、吸水性と拡散性のバランスに優れたものとなる。さらに吸水拡散性繊維としてセルロース繊維と合成繊維によるセルロース複合糸を用いると、メタノール等との親和性が増し、より好ましい。
【0024】
また上記以外にも、繊維基質そのものが吸水性を有する繊維であるビスコースレーヨン、キュプラレーヨン等の再生セルロース繊維、木綿、麻、羊毛等天然繊維を紡績糸、長繊維糸、加工糸の形態で用いることができる。これらの繊維基質そのものによる吸水性が得られる繊維は、蒸気状のメタノール等も吸水拡散することができるため好ましい。その中でも、高い撚り係数値を持つ単繊維長が比較的長く緻密に紡績されている綿糸や再生セルロース長繊維糸は、高い吸水拡散性を得ることができる。再生セルロース長繊維において、単糸が10dtexを越えるものは膨潤が著しく繊維表面積が少なくなるため拡散性に劣るので好ましくない。
本発明の吸水拡散性繊維織布層を構成する繊維の総繊度は、20〜100dtex、好ましくは30〜90dtexである。
【0025】
また前記繊維は、無撚糸で用いられることもできるが、繊維の収束性を向上させるために、撚糸加工やインターレース加工が施されていたり、仮撚加工等が施されていることがより好ましい。撚糸加工する場合、10〜1500T/mが好ましく、100〜800T/mが特に好ましい。
【0026】
前記のような範囲で撚糸加工することで、吸水拡散性繊維の収束性が向上し、前記繊維長さ方向のメタノール拡散性は改良され、適度なメタノール等の保持性も確保できる。
【0027】
本発明の吸水拡散性繊維織布層の織物組織としては、平織、畳織、綾織、朱子織など公知の織組織が適用できる。何れの織組織を採用するかは所望の拡散方向性、要求物性などによって適宜決定することができるが、高密度で薄い織布を得やすいことから、特に平織組織とすることが好ましい。
【0028】
製織後の生機は、精練により繊維油剤等の不純物を除去された後、リラックス工程、及び、熱セット工程を経ることができる。さらに通常の幅出し熱セット工程等に加えて、熱プレス工程を経ることが好ましい。熱プレス加工により、前記吸水拡散性繊維織布の吸水拡散性をさらに改良することができる。
【0029】
前記吸水拡散性繊維織布層の繊維間に形成される空隙の大きさのバラツキが小さくできるため、ポリオレフィン系樹脂が熱溶融して含浸される際に含浸ムラが生じにくくなるだけでなく、含浸される厚み方向の深さのバラツキも小さくなり、ポリオレフィン系樹脂層の界面における凹凸が小さくなる。その結果、得られるダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートのメタノール拡散性が大幅に向上する。
【0030】
本発明のダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートの総厚みの上限は0.3mmが好ましく、より好ましい上限は0.2mmである。上記総厚みが0.3mmを超えると、メタノール拡散性が低下する。好ましい下限は0.01mmである。上記総厚みが0.01mmを下回るとメタノールの拡散にムラが生じやすい。より好ましい下限は0.05mm、より好ましい上限は0.17mmである。
【0031】
本発明のダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートの具体的構成としては、ポリオレフィン系樹脂層(A)、吸水拡散性繊維織布層(B)が、(A)/(B)又は(B)/(A)のように積層された2層構造であってもよく、また、(A)/(B)/(A)又は(B)/(A)/(B)のように積層された3層構造であってもよく、(A)/(B)/(A)/(B)の4層構造であってもよい。なかでも、燃料供給側の面を吸水拡散性繊維織布層(B)とすることが好ましい。
【0032】
本発明のダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートは、吸水拡散性繊維織布からなるシートとポリオレフィン系樹脂からなるシートとを熱融着によって一体的に積層してなることが好ましい。このような方法で得られるダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートは、吸水拡散性繊維織布層とポリオレフィン系樹脂層とが接合部で一体化した構造となり、その結果、メタノールの拡散性能を大幅に向上させることができる。特に積層界面は、多孔状になったポリオレフィン樹脂が吸水拡散性繊維織布を構成する繊維の間に含浸された構成であることが好ましい。
【0033】
上記吸水拡散性繊維織布からなるシートの坪量としては特に限定されないが、好ましい下限は30g/m、好ましい上限は85g/mである。上記吸水拡散性繊維織布からなるシートの坪量が30g/m未満であると、メタノール供給時にムラが生じることがあり、85g/mを超えると、十分なメタノール拡散効果が得られないことがある。
【0034】
上記吸水拡散性繊維織布からなるシートの厚みとしては特に限定されないが、好ましい下限は0.05mm、好ましい上限は0.18mmである。上記吸水拡散性繊維織布からなるシートの厚みが0.05mm未満又は0.18mmを超えると、十分なメタノール拡散効果が得られないことがある。
【0035】
上記ポリオレフィン系樹脂からなるシートの坪量としては特に限定されないが、好ましい下限は5g/m、好ましい上限は45g/mである。上記ポリオレフィン系樹脂からなるシートの坪量が5g/m未満であると、メタノール供給時にムラが生じることがあり、45g/mを超えると、メタノールの透過を阻害することがある。
【0036】
上記ポリオレフィン系樹脂からなるシートの厚みとしては特に限定されないが、好ましい下限は0.05mm、好ましい上限は0.75mmである。上記ポリオレフィン系樹脂からなるシートの厚みが0.05mm未満又は0.75mmを超えると、十分なメタノール拡散効果が得られないことがある。
【0037】
上記ポリオレフィン系樹脂からなるシートの形態としては、例えば、スパンボンド不織布シート、湿式抄紙不織布シート、湿式紡糸不織布シート、メルトブローン不織布シート等の不織布シート、フィルム延伸による多孔シート、発泡多孔シート等が挙げられる。
【0038】
また、上記吸水拡散性繊維織布からなるシートとポリオレフィン系樹脂からなるシートとを熱融着によって一体的に複合化することにより、ポリオレフィン系樹脂からなるシートが吸水拡散性繊維織布からなるシートとの接合部分において、空孔を塞ぐことなく、高い密着力で容易に融着固定することができる。
【0039】
上記熱融着する際の加工温度は、ポリオレフィン系樹脂の融点よりも高い温度で行われるが、上記ポリオレフィン系樹脂の融点よりも低い温度で融着させることもできる。
【0040】
本発明のダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、上述のように、吸水拡散性繊維織布からなるシートとポリオレフィン系樹脂からなるシートとを熱融着によって一体的に積層する方法が挙げられる。
【0041】
具体的には例えば、加熱された一対の加熱ローラの内部に、吸水拡散性繊維織布からなるシートとポリオレフィン系樹脂からなるシートとを重ねたシートを通過させ、ニッピング圧力を掛けながら、所定の速度で通過させる方法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、メタノール拡散性に優れ、燃料カートリッジからのメタノール水溶液送出部が比較的小さな面積であっても、拡散浸透効果によってアノードに大面積でメタノールを供給することが可能なダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートを提供することができる。
【0043】
また、高濃度メタノール水溶液の効率的な拡散供給が可能なだけでなく、薄層化することができ、さらに、繊維を利用した自然拡散を利用することでポンプやファン等の拡散補機を使用する必要がなくなるため、小型のダイレクトメタノール型燃料電池に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】代表的な吸水拡散性繊維を構成する単糸の断面形状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
(吸水拡散性繊維織布シート1の作製)
【0046】
経糸、緯糸共に、単糸断面形状がW型のポリエステルマルチフィラメント糸56dtex、30フィラメント(旭化成せんい株式会社製、テクノファイン(登録商標))を甘撚(約500T/m)で用い、平織組織に製織された生機を精練・リラックス工程にて40〜98℃の浴槽で油剤を除去し、乾熱による幅出しセットの後、ホットプレス機を用いて190℃30秒間の熱プレスセットを行い、経糸54本/2.54cm、緯糸54本/2.54cmに仕上げ、吸水拡散性織布シート1(厚み0.11mm、坪量48g/m)を得た。
【0047】
ここでシート厚みは、デジタル厚み計(ミツトヨ社製、測定部φ20mm)を用いて測定した。シート坪量は、25mm×200mmの試験片の重さを測定し1m当りの重量に換算した。以下、各シート厚み、各シート坪量は同様に測定した。
(吸水拡散性繊維織布シート2の作製)
【0048】
経糸54本/2.54cm、緯糸80本/2.54cmに仕上げる以外は吸水拡散性繊維織布シート1と同様にして、吸水拡散性繊維織布シート2(厚み0.11mm、坪量52g/m)を得た。
(吸水拡散性繊維織布シート3の作製)
【0049】
経糸108本/2.54cm、緯糸108本/2.54cmに仕上げる以外は吸水拡散性繊維織布シート1と同様にして、吸水拡散性繊維織布シート3(厚み0.15mm、坪量65g/m)を得た。
(実施例1)
【0050】
吸水拡散性繊維織布シート1のメタノール供給面とは反対側の主面に、ホモポリプロピレンからなる不織布シート(融点164℃、繊維断面円形、繊維径0.8〜8μm、坪量30g/m、厚み0.30mm)を載置し、ホットプレス機を用いて150℃で3秒間加熱することにより、熱融着させた。総厚み0.11mm、ポリプロピレン含有量が38重量%の複合シートを得た。
(実施例2)
【0051】
吸水拡散性繊維織布シート1のメタノール供給面となる主面に、ホモポリプロピレンからなる不織布シート(融点164℃、繊維断面円形、繊維径0.8〜8μm、坪量30g/m、厚み0.30mm)を載置し、ホットプレス機を用いて150℃で3秒間加熱することにより、熱融着させた。総厚み0.11mm、ポリプロピレン含有量が38重量%の複合シートを得た。
(実施例3)
【0052】
吸水拡散性繊維織布シート2のメタノール供給面とは反対側の主面に、ホモポリプロピレンからなる不織布シート(融点164℃、繊維断面円形、繊維径0.8〜8μm、坪量20g/m、厚み0.19mm)を載置し、ホットプレス機を用いて150℃で3秒間加熱することにより、熱融着させた。総厚み0.11mm、ポリプロピレン含有量が28重量%の複合シートを得た。
(実施例4)
【0053】
吸水拡散性繊維織布シート3のメタノール供給面とは反対側の主面に、高密度ポリエチレンからなる不織布シート(融点129℃、繊維断面円形、繊維径0.8〜8μm、坪量20g/m、厚み0.19mm)を載置し、ホットプレス機を用いて135℃で3秒間加熱することにより、熱融着させた。総厚み0.15mm、高密度ポリエチレン含有量が23.5重量%の複合シートを得た。
(実施例5)
【0054】
吸水拡散性繊維織布シート1のメタノール供給面とは反対側の主面に、ホモポリプロピレンからなる不織布シート(融点164℃、繊維断面円形、繊維径0.8〜8μm、坪量10g/m、厚み0.10mm)を載置し、ホットプレス機を用いて150℃で3秒間加熱することにより、熱融着させた。総厚み0.11mm、ポリプロピレン含有量が17重量%の複合シートを得た。
(比較例1)
【0055】
吸水拡散性繊維織布シート2のメタノール供給面とは反対側の主面に、ホモポリプロピレンからなる不織布シート(融点164℃、繊維断面円形、繊維径0.8〜8μm、坪量5g/m、厚み0.07mm)を載置し、ホットプレス機を用いて150℃で3秒間加熱することにより、熱融着させた。総厚み0.11mm、ポリプロピレン含有量が9重量%の複合シートを得た。
(比較例2)
【0056】
吸水拡散性繊維織布シート2のメタノール供給面とは反対側の主面に、ホモポリプロピレンからなる不織布シート(融点164℃、繊維断面円形、繊維径0.8〜8μm、坪量45g/m、厚み0.34mm)を載置し、ホットプレス機を用いて150℃で3秒間加熱することにより、熱融着させた。総厚み0.12mm、ポリプロピレン含有量が46重量%の複合シートを得た。
(比較例3)
吸水拡散性繊維織布シート3を用いた。
(比較例4)
吸水拡散性繊維織布シート2を用いた。
(比較例5)
吸水拡散性繊維織布シート1を用いた。
(比較例6)
ホモポリプロピレンからなる不織布シート(融点164℃、繊維断面円形、繊維径0.8〜8μm、坪量10g/m、厚み0.10mm、1層)を用いた。
(評価)
(メタノール透過拡散性試験)
【0057】
実施例及び比較例で得られたシートについて、シートを内径76mm、外径86mm、高さ20mmの円形枠状に載置し、第一層(メタノールIN側)面の5mm上から、マイクロピペットを用いて少量の青色インクで着色した特級メタノール試薬を10μL滴下した。滴下後、シート上を目視にて観察し、青色の部分をメタノールの浸透によるものと判断して以下の基準で評価した。
(メタノール透過性)
○:滴下面(表)と反対面(裏)の青色部分形状が楕円又は円形であり、かつ、裏の青色部分面積が表と同等以上の場合
ムラ:表裏の青色部分形状がモザイク状で、裏の青色部分面積が小さい場合
(メタノール透過抵抗)
メタノール試薬の滴下量を50μLとし、20秒以内に滴下完了させた際の、滴下反対面(裏)の液滴の生成状況を観察し、以下の基準で評価した。なお、当該試験は40℃90%RHの恒温恒湿環境下で行った。
○:液滴の生成なし
×:液滴の生成あり
液滴を生成する場合、メタノール透過抵抗が不十分であり、過度のメタノール供給による燃料電池出力の低下を引き起こす可能性があるため、不適と判断した。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、メタノール拡散性に優れ、燃料カートリッジからのメタノール水溶液送出部が比較的小さな面積であっても、拡散浸透効果によってアノードに大面積でメタノールを供給することが可能なダイレクトメタノール型燃料電池用複合シートを提供できる。
【0060】
また、高濃度メタノール水溶液の効率的な拡散供給が可能なだけでなく、薄層化することができ、さらに、繊維を利用した自然拡散を利用することでポンプやファン等の拡散補機を使用する必要がなくなるため、小型のダイレクトメタノール型燃料電池に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂層と、前記ポリオレフィン系樹脂層の少なくとも一方の主面に連続的に形成された吸水拡散性繊維織布層とを有することを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池用複合シート。
【請求項2】
吸水拡散性繊維織布からなるシートとポリオレフィン系樹脂からなるシートとを熱融着によって一体的に積層してなることを特徴とする請求項1記載のダイレクトメタノール型燃料電池用複合シート。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂の含有量が10〜45重量%である請求項1又は2記載のダイレクトメタノール型燃料電池用複合シート。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレンであることを特徴とする請求項1、2又は3記載のダイレクトメタノール型燃料電池用複合シート。

【図1】
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【公開番号】特開2011−258360(P2011−258360A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130638(P2010−130638)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】