説明

ダブルクラッチ変速機

【課題】本発明は、2速と1速との間の変速をスムーズに行うとともに、構造を簡素にできるダブルクラッチ変速機を提供する。
【解決手段】ダブルクラッチ変速機20の第2の出力軸52は、1速用の駆動ギヤ41と噛み合う1速用の被動ギヤ61を、当該1速用の被動ギヤ61から第2の出力軸52への駆動力伝達のみを許容するワンウェイクラッチ装置122で支持する。第2の出力軸52は、1速用の被動ギヤ61に隣接する3速用の被動ギヤ63を回転自在に支持する。ワンウェイクラッチ装置122は、3速用の被動ギヤ63を選択的に第2の出力軸52に一体に回動可能に連結するシンクロナイザスリーブ76と軸心線方向に当接可能な側面121aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンなどの原動機の回転を外部に伝達する1速用の伝達経路中にワンウェイクラッチが設けられるダブルクラッチ変速機の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の自動変速機には、駆動ギヤと被動ギヤとが常時噛合う常時噛合い式のギヤ機構を用いるダブルクラッチ(ツインクラッチとも呼ばれる)変速機がある。
【0003】
ダブルクラッチ変速機内には、駆動ギヤと被動ギヤとが噛み合うことによって、各変速段用の伝達経路が設けられている。具体的には、ダブルクラッチ変速機は、一対の入力軸(第1の入力軸と、第2の入力軸)と、第1,2のクラッチとを備えている。
【0004】
第1のクラッチは、第1の入力軸とエンジンの出力軸とを接続可能であるとともに当該接続を解除可能である。第2のクラッチは、第2の入力軸とエンジンの出力軸とを接続可能であるとともに当該接続を解除可能である。
【0005】
また、ダブルクラッチ変速機は、被動ギヤを回動自在に支持する出力軸を備える。
【0006】
第1の入力軸より下流には、複数の変速段のうち奇数の変速段用の伝達経路が形成されている。また、第1の入力軸より下流では、例えばシンクロメッシュ機構などの同期装置によって、最適な被動ギヤと出力軸とが一体に係合され、それゆえ奇数の変速段のうち最適な伝達経路が選択される。第2の入力軸より下流には、偶数の変速段用の伝達経路が形成されている。また、第2の入力軸より下流では、例えばシンクロメッシュ機構などの同期装置によって、最適な被動ギヤと出力軸とが係合され、それゆえ、複数の変速段のうち最適な伝達経路が選択される。
【0007】
例えば自動車が3速で走行している状態では、第1のクラッチが接続されるとともに第2のクラッチが解除されている。そして、シンクロメッシュ機構によって3速用の伝達経路が選択されている。このことによって、ダブルクラッチ変速機内では、3速用の伝達経路が選択される。
【0008】
ダブルクラッチ変速機では、車速に応じて次の変速段に変速が予想される場合では、当該次の変速段の伝達経路が予め選択される。このことによって、第1,2のクラッチの動作のみで次の変速段に変速される。具体的には、自動車が3速で走行している状態では、第1のクラッチが接続されて第2のクラッチが解除されているとともに、シンクロメッシュ機構によって3速用の伝達経路が選択されている。このとき、車速が上昇し、それゆえ、変速段が4速に変速されることが予想される場合では、シンクロメッシュ機構によって予め4速用の伝達経路も選択される。このことによって、第1のクラッチを解除した後、第2のクラッチを接続するだけで、4速に変速される。
【0009】
一方、例えば右折する場合など、自動車を一旦停止させて直ぐに発進させる場合では、ダブルクラッチ変速機は、以下のような動作を行う。運転者がブレーキペダルを踏み込むなどして自動車が減速することに伴って、1速に向かって変速される。変速段が2速になった状態では、第2のクラッチが接続されて第1のクラッチが解除されるとともにシンクロメッシュ機構によって2速用の伝達経路が選択される。このとき、シンクロメッシュ機構によって、1速用の伝達経路も選択されている。そして、第2のクラッチが解除されて第1のクラッチが接続されることによって1速に変速される。さらに、さらなる減速に伴って、第1のクラッチが解除されて自動車が停止する。
【0010】
ついで、自動車が停車した後すぐに発進すべく運転者によってアクセルペダルが踏み込まれると、シンクロメッシュ機構によって1速用の伝達経路が選択された後第1のクラッチが接続される。そして、シンクロメッシュ機構は、同時に2速用伝達経路を選択する。2速用伝達経路が選択されると、第1のクラッチが解除されて、第2のクラッチが接続される。発進後は、車速に応じて変速段が変速される。
【0011】
しかしながら、自動車を一旦停止した後直ぐに発進する場合では、停止する直前から停止後発進した直後までの時間は、比較的短い。このため、上記したダブルクラッチ変速機の動作は、比較的短い時間内で行われる必要がある。この結果、自動車の停止要求(乗員によるブレーキペダルの踏み込み操作など)および発進要求(乗員によるアクセルペダルの踏み込み操作)に対してダブルクラッチ変速機の変速動作がもたついてしまう傾向にあり、それゆえ、自動車の反応(停止するまでの減速と発進後の加速)が運転者のブレーキペダル操作やアクセルペダル操作に対して遅れる傾向にある。
【0012】
さらに、変速段が1速や2速などの低速段にある状態では、運転者によるアクセルペダルの操作に対する反応が自動車に顕著にあらわれる。つまり、自動車の動作がぎくしゃくするようになる。
【0013】
このため、ダブルクラッチ変速機内において1速の回転を伝達する伝達経路内に、ワンウェイクラッチを設ける構造が提案されている。
【0014】
この種のダブルクラッチ変速機は、1速用の駆動ギヤと、当該駆動ギヤにエンジンの回転を伝達する入力軸との間にワンウェイクラッチが介装されている。
【0015】
ワンウェイクラッチは、インナレースとアウタレースとを備えており、インナレースが上記入力軸に回動自在に設けられるとともに、アウタレースに1速用の駆動ギヤが設けられている。インナレースは、シンクロメッシュ機構などの同期装置によって回転軸に一体に回転可能に連結される。ワンウェイクラッチは、インナレースとアウタレースが噛み合って一体に回転するとともに、インナレースに対するアウタレースの回転数が相対的に高い場合に噛み合いが解除されて空転する。
【0016】
1速が選択される状態では、シンクロメッシュ機構などの同期装置によって上記入力軸とインナレースとが一体に固定される。このことによって、インナレースとアウタレースとが一体に回転し、それゆえ、1速用の駆動ギヤが駆動される。このことによって、1速用の伝達経路が選択されるようになる。
【0017】
この構造であると、自動車が減速されていて変速段が1速に向かって変速される状態であって自動車が2速で走行している状態、つまり第2のクラッチが選択されて2速用の伝達経路が選択されている状態のときに、第2のクラッチを解除することなく第1のクラッチを接続することができる。
【0018】
この点について具体的に説明する。第1のクラッチを接続することによって、インナレースも回転するようになる。しかしながら、第2のクラッチも接続されていることによって、アウタレースの回転数がインナレースの回転数より大きい回転数で回転するようになり、それゆえ、ワンウェイクラッチが空転する状態となる。このことによって、第1,2のクラッチを同時に接続することができる。このため、2速から1速に変速する際には、単に第2のクラッチを解除するだけでよい。
【0019】
また、1速から2速に変速する際には、第1のクラッチの接続を解除することなく第2のクラッチを接続する。このため、1速から2速に変速する際には、単に、第2のクラッチを接続するだけでよい。
【0020】
このように、2速から1速、1速から2速の動作をより簡単にすることができる。さらに、この構造であると、1速で走行している状態において、アクセルペダルの踏み込みを弱めると、1速用の駆動ギヤに対して1速用の被動ギヤの回転数が大きくなり、それゆえ、ワンウェイクラッチの接続が解除される。このため、1速走行中の減速に起因するぎくしゃくした挙動が発生することが抑制される。
【0021】
しかしながら、ワンウェイクラッチと入力軸との間に同期装置を介装する構造であるので、1速用の伝達経路が複雑になるとともに、当該複雑化にともなってダブルクラッチ変速機の構造も複雑になる傾向にある(例えば、特許文献1参照)。
【0022】
これに対して、1速用の駆動ギヤと当該駆動ギヤに駆動力を伝達する入力軸との間に設けられるワンウェイクラッチを、同期装置を介装することなく入力軸に設けるダブルクラッチ変速機が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3531301号
【特許文献2】特開2007−57043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
一方、シンクロメッシュ機構は、被動ギヤと当該被動ギヤが設けられる出力軸とを一体にする(回転を同期させる)機能を有しており、当該機能を実現するために被動ギヤと噛み合うシンクロナイザスリーブを備えている。また、シンクロメッシュ機構は、同一軸上に向かい合って配置される2つの被動ギヤのうち一方を選択的に軸に係合する二方向タイプと、1種(例えば2速のみ、など)の被動ギヤのみを軸に係合する1方向タイプとがある。シンクロメッシュ機構は、いずれのタイプにおいても、シンクロナイザスリーブが軸方向に移動して被動ギヤと噛み合う。一般に、同軸上に設けられて互いに隣り合う一対の被動ギヤに対しては、2方向タイプのシンクロメッシュ機構が用いられている。
【0024】
一方、各変速段用の被動ギヤの配置の関係によっては、特許文献2に記載されたダブルクラッチ変速機のように1速用の被動ギヤがワンウェイクラッチを介して軸に設けられる構造を有するダブルクラッチ変速機であっても、1速用の被動ギヤに隣り合って別の被動ギヤが配置される構造がある。この構造では、1速用の被動ギヤに隣り合って配置される被動ギヤに対しては、1方向タイプのシンクロメッシュ機構が用いられるようになる。
【0025】
上記のように1方向タイプのシンクロメッシュ機構を用いる構造では、シンクロナイザスリーブが、予め設定された移動範囲をこえて移動することを防止するためのストッパが必要となる。
【0026】
このため、特許文献2のように1速用の被動ギヤと軸との間にワンウェイクラッチを介装する構造であっても、一方向タイプのシンクロメッシュ機構を用いる場合、別途にストッパが必要となるためダブルクラッチ変速機の構造が複雑になる傾向にある。
【0027】
本発明の目的は、2速と1速との間の変速をスムーズに行うとともに、構造を簡素にできるダブルクラッチ変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の請求項1に係るダブルクラッチ変速機では、原動機の駆動力を伝達する原動機駆動力伝達軸と、前記原動機駆動力伝達軸からの駆動力を選択的に伝達する第1及び第2のクラッチと、前記原動機駆動力伝達軸からの駆動力を前記第1のクラッチを介して伝達される第1の入力軸と、前記第1の入力軸に設けられて当該第1の入力軸と一体に回転する、少なくとも1速用の駆動ギヤを備える奇数段の駆動ギヤと、前記原動機駆動力伝達軸からの駆動力を前記第2のクラッチを介して伝達される第2の入力軸と、前記第2の入力軸に設けられて当該第2の入力軸と一体に回転する、少なくとも2速用の駆動ギヤを備える偶数段の駆動ギヤと、前記複数の駆動ギヤのうち少なくとも一つと相互に噛み合う被動ギヤを支持する出力軸と、前記出力軸の軸心線方向に移動して、前記被動ギヤを選択的に前記出力軸に一体に回動可能に連結するシンクロナイザスリーブとを備える。前記出力軸は、前記1速用の駆動ギヤと噛み合う1速用の被動ギヤを、当該1速用の被動ギヤから前記出力軸への駆動力伝達のみを許容するワンウェイクラッチ装置で支持する。前記出力軸は、前記1速用の被動ギヤに隣接する隣接被動ギヤを回転自在に支持する。前記ワンウェイクラッチ装置は、前記隣接被動ギヤを選択的に前記出力軸に一体に回動可能に連結する隣接シンクロナイザスリーブと前記軸心線方向に当接可能なストッパ部を備える。
【0029】
本願発明の請求項2に係るダブルクラッチ機では、請求項1に記載のダブルクラッチ変速機において、前記ワンウェイクラッチ装置は、前記1速用の被動ギヤから前記出力軸への駆動力伝達を実施するワンウェイクラッチ部と、前記ワンウェイクラッチ部に対して前記隣接シンクロナイザスリーブの配置側に位置し前記1速用の被動ギヤと前記出力軸との間に配置されたベアリング部とを備える。前記ベアリング部が前記ストッパ部である。
【0030】
本願の請求項3に係るダブルクラッチ装置では、請求項1または2に記載のダブルクラッチ変速機において、前記出力軸から前記ワンウェイクラッチ部にわたって、当該ワンウェイクラッチ部に潤滑油を導く油路が形成される。
【0031】
本願の請求項4に係る発明では、請求項3に記載のダブルクラッチ変速機において、前記油路は、前記出力軸から前記ワンウェイクラッチ部に向かって放射方向に延びて設けられる。
【発明の効果】
【0032】
ワンウェイクラッチ装置がストッパ部を備えることによって、ストッパを別途に設けることがなくなるので、ダブルクラッチ変速機の構造が複雑になることが抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の第1の実施形態に係るダブルクラッチ変速機を、図1〜3を用いて説明する。本実施形態のダブルクラッチ変速機は、一例として自動車に用いられている。図1は、自動車に搭載されるエンジン10と、本発明の1例であるダブルクラッチ変速機20と、デファレンシャル機構100とを示す概略図である。
【0034】
図1に示すように、ダブルクラッチ変速機20は、エンジン10とデファレンシャル機構100との間に介装されている。図2は、図1に示されたダブルクラッチ変速機20を展開して具体的に示す断面図である。ダブルクラッチ変速機20は、エンジン10の出力軸11より伝達される回転を変速するとともに、当該変速された回転をデファレンシャル機構100に伝達する
エンジン10は、本発明で言う原動機の一例である。なお、原動機は、エンジン10に限定されない。ダブルクラッチ変速機20が例えば電気自動車に用いられる場合では、原動機として電動モータが用いられてもよい。出力軸11は、本発明で言う原動機駆動力伝達軸の一例である。
【0035】
図1,2に示すように、ダブルクラッチ変速機20は、一例として、前進段に1速〜6速、後進段に1速の計7速の変速段を有する横置き車載式のダブルクラッチ変速機である。図2に示すように、ダブルクラッチ変速機20は、ケース21と、入力系30と、出力系50とを備えている。
【0036】
入力系30と出力系50とは、ケース21内に収容されており、互いに連結されている。入力系30は、エンジン10の出力軸11に連結されている。出力系50は、デファレンシャル機構100に連結されている。エンジン10の回転(エンジンの駆動力)は、当該エンジン10の出力軸11から入力系30に入力されるとともに、入力系30から出力系50に伝達されてデファレンシャル機構100に伝達される。
【0037】
入力系30について説明する。図1,2に示すように、入力系30は、クラッチ部31と、第1の入力軸32と、第2の入力軸33と、駆動ギヤ群34とを備えている。
【0038】
クラッチ部31は、第1,2の入力軸32,33とエンジン10の出力軸11とを接続可能とするとともに当該接続を解除可能とする。クラッチ部31は、第1のクラッチ35と、第2のクラッチ36とを備えている。このため、ケース21は、クラッチ部31が収容されるクラッチケース22と、第1,2の入力軸32,33などが収容される変速機ケース23とを備えている。クラッチケース22と変速機ケース23とは、互いに直列に並んでおり、一体に形成されている。第1,2のクラッチ35,36は、クラッチケース22内に収容されている。
【0039】
第1のクラッチ35は、出力軸11と第1の入力軸32との接続する機能および当該接続を解除する機能を有している。第1のクラッチ35は、エンジン10の出力軸11につながるプッシャプレート35aと、第1の入力軸32に接続される乾式のクラッチ板35bとを備えている。プッシャプレート35aとクラッチ板35bとは、互いに離れて(接触しないように)並んでいる。プッシャプレート35aを移動させることによってプッシャプレート35aをクラッチ板35bに押し当てて密接させることによって、出力軸11と第1の入力軸32が接続される。プッシャプレート35aがクラッチ板35bから離れることによって、出力軸11と第1の入力軸32との接続が解除される。
【0040】
第2のクラッチ36は、出力軸11と第2の入力軸33との接続する機能および当該接続を解除する機能を有している。第2のクラッチ36は、エンジン10の出力軸11につながるプッシャプレート36aと、第2の入力軸33に接続される乾式のクラッチ板36bとを備えている。プッシャプレート36aとクラッチ板36bとは、互いに離れて(接触しないように)並んでいる。プッシャプレート36aを移動させることによってプッシャプレート36aをクラッチ板36bに押し当てて密接させることによって、出力軸11と第2の入力軸33が接続される。プッシャプレート36aがクラッチ板36bから離れることによって、出力軸11と第2の入力軸33との接続が解除される。
【0041】
第1,2の入力軸32,33は、変速機ケース23内に収容されるとともに、当該変速機ケース23の略中央に配置されている。
【0042】
第1の入力軸32は、略円柱状であって、クラッチケース22の開口近くから、変速機ケース23内の深部、つまり第1,2のクラッチ35,36とは反対側の端壁24の近くまで延びている。第1の入力軸32の端壁24側の端部は、軸受17bによって回動に端壁24に支持されている。第1の入力軸32の一部はクラッチケース22内に位置しており、当該部位にクラッチ板35bが設けられている。また、第1の入力軸32内には、当該軸32の軸心線方向に延びる通孔15が形成されている。通孔15内には、潤滑油が通る。
【0043】
第2の入力軸33は、円筒状で、ニードルベアリング12を介して入力軸32の外周面に組み付けられている。言い換えると、第1の入力軸32は、第2の入力軸33内に収容されるとともに入力軸32,33の軸心線が同一になるように(同一軸心となるように)に配置されている。第1の入力軸32と第2の入力軸33との間には、ニードルベアリング12が設けられており、それゆえ、第1,2の入力軸32,33は、互いに回動自在となっている。第1の入力軸32内には、通孔15からニードルベアリング12に延びる通孔16が形成されており、潤滑油がニードルベアリング12に導かれるようになっている。
【0044】
第2の入力軸33は、第1の入力軸32のほぼ半分の長さを有し、第1の入力軸32の外周を、クラッチ35,36側の一端側から変速機ケース23内部のほぼ中央まで覆っている。第1の入力軸32と第2の入力軸33とが重なる部分は、軸受17aによって支持されている。軸受17aは、クラッチケース22と変速機ケース23との間を仕切る端壁25に組み付けられており、軸受17aと上述した軸受17b、更にニードルベアリング12により、第1,2の入力軸32,33は、それぞれ回動自在に支持されるとともに、互いにそれぞれの軸心回りに回動自在となっている。
【0045】
クラッチケース22内に突き出た第1の入力軸32の端部は、第1のクラッチ35に連結、具体的には第1のクラッチ35の第1のクラッチ板35bに連結されている。第2の入力軸33においてクラッチケース22内に位置する端部は、第2のクラッチ36の第2のクラッチ板36bに連結されている。
【0046】
第1のクラッチ35が接続されると、エンジン10から出力される回転力が第1の入力軸32へ伝わり、第2のクラッチ36が接続されると、エンジン10から出力される回転力が第2の入力軸33へ伝わる。つまり、第1,2のクラッチ35、36の作動により、エンジン10の回転力が第1の入力軸32と第2の入力軸33のいずれか一方へ択一的に伝達される。
【0047】
駆動ギヤ群34は、1速用の駆動ギヤ41と、2速用の駆動ギヤ42と、3速用の駆動ギヤ43と、5速用の駆動ギヤ44と、4速・6速兼用の駆動ギヤ45とを備えている。これら各駆動ギヤは、奇数段グループと、偶数段グループとに分けられている。奇数段グループは、1速用の駆動ギヤ41と、3速用の駆動ギヤ43と、5速用の駆動ギヤ44とを備えている。偶数段グループは、2速用の駆動ギヤ42と、4速・6速兼用の駆動ギヤ45とを備えている。奇数段グループの各駆動ギヤは、第1の入力軸32に設けられている。偶数段グループの各駆動ギヤは、第2の入力軸33に設けられている。
【0048】
奇数段グループについて説明する。第1の入力軸32において第2の入力軸33から突き出た軸部分32aであって軸受17bと隣接した地点(変速機の後端側)から、1速用の駆動ギヤ41、3速用の駆動ギヤ43、5速用の駆動ギヤ44の順で設けられている。3,5速用の駆動ギヤ43,44は、ともに環状であって軸心が第1の入力軸32の軸心と同じになるように(同一軸心となるように)配置されるとともに外周部に噛み合い歯が形成されており、第1の入力軸32に固定されて第1の入力軸32と一体に回動する。
【0049】
1速用の駆動ギヤ43は、軸部分32aの外周面に、工具で噛合い歯を創成した構造が用いられており、減速比が稼げるようにしてある。また、1速用の駆動ギヤ43と隣り合う駆動ギヤには、次の低速側のギヤすなわち3速用の駆動ギヤ43を配置し、1速ギヤの駆動ギヤ41の創成時、工具との干渉が短い距離で避けられ、駆動ギヤ間の距離の増加を抑制させている。
【0050】
偶数段グループについて説明する。第2の入力軸33のクラッチ部31と反対側の端部から、4速・6速兼用の駆動ギヤ45、2速用の駆動ギヤ42の順で設けられている。4速・6速兼用の駆動ギヤ45と2速用の駆動ギヤ42とは、ともに環状であって軸心が第2の入力軸33の軸心と同じになるように(同一軸心となるように)配置されるとともに外周部に噛み合い歯が形成されており、第2の入力軸33に固定されて第2の入力軸33と一体に回動する。
【0051】
上記のように、奇数段グループ46が第1の入力軸32に設けられ、偶数段グループが第2の入力軸33に設けられることによって、第1のクラッチ35が接続されるとエンジン10の回転力が奇数段の駆動ギヤ41,43,44へ伝わり、第2のクラッチ36が接続されるとエンジン10の回転力が偶数段の駆動ギヤ42、45へ伝わる。
【0052】
つぎに、出力系50について説明する。出力系50は、変速機ケース23内に収容されている。出力系50は、第1の出力軸51と、第2の出力軸52と、被動ギヤ群53と、シンクロメッシュ機構55〜59とを備えている。
【0053】
第1,2の出力軸51,52は、変速機ケース23内に配置されるとともに、第1,2の入力軸32,33と並んで配設されている。第1の出力軸51は、第1,2の入力軸32,33を挟んで一方側に配置されている。第2の出力軸52は第1,2の入力軸32、33を挟んで他方側に配置されている。
【0054】
第1,2の出力軸51,52は、いずれも第1,2のクラッチ35,36側の端部が端壁25の位置でそろうように配置されている。揃えられた第1,2の出力軸51、52の各軸端は、端壁25に組み込まれた各軸受26、27に回動自在に支持されている。また、第1,2の出力軸51、52の端壁24側の端部は、当該端壁24に組み込まれた各軸受28、29により回動自在に支持されている。
【0055】
第1の出力軸51の第1,2のクラッチ35,36側の端部には、出力ギヤ54が設けられている。第2の出力軸52の第1,2のクラッチ35,36側の端部には、出力ギヤ55が設けられている。これら出力ギヤ54、55は、変速機ケース23の側部に組み付けられたデファレンシャル機構100に噛合してある。
【0056】
デファレンシャル機構100は、変速機ケース23の側部に形成した外壁101内に、各要素、具体的にはピニオンギヤ102〜105の組み合わせで形成される差動ギヤ部107と、同差動ギヤ部107へ回転を入力するリングギヤ108(リダクションギヤ)と、差動ギヤ部107で分配された回転力を左右駆動輪(図示しない)へ伝える車軸109、110などを備えている。出力ギヤ54,55は、このデファレンシャル機構100のリングギヤ108に噛合させてある。出力ギヤ54,55は、第1の出力軸51の終減速比が、第2の出力軸52の終減速比よりも大きくなるように減速比が設定してある。
【0057】
被動ギヤ群53は、1速用の被動ギヤ61と、2速用の被動ギヤ62と、3速用の被動ギヤ63と、4速用の被動ギヤ64と、5速用の被動ギヤ65と、6速用の被動ギヤ66と、後進用の被動ギヤ67とを備えている。
【0058】
第1の出力軸51には、軸受28側から、5速用の被動ギヤ65、4速用の被動ギヤ64、後進用の被動ギヤ67の順で、3つの被動ギヤが設けられている。被動ギヤ65,64,67は、ともに環状であって軸心が第1の出力軸51の軸心と同じになるように(同一軸心となるように)配置されるとともに外周部に噛み合い歯が形成されており、ニードルベアリング13を用いて第1の出力軸51の外周面に回動自在に支持されている。5速用の被動ギヤ65は、5速用の駆動ギヤ44と噛み合う。4速用の被動ギヤ64は、4速・6速兼用の駆動ギヤ45と噛み合う。
【0059】
第2の出力軸52には、軸受29側から、1速用の被動ギヤ61、3速用の被動ギヤ63、6速用の被動ギヤ66、2速用の被動ギヤ62の順で、4つの被動ギヤが配置されている。第2の出力軸52は、本発明で言う出力軸の一例である。3速用の被動ギヤ63は、本発明で言う隣接被動ギヤの一例である。
【0060】
被動ギヤ63,66,62は、ともに環状であって軸心が第2の出力軸52の軸心が同じになるように(同一軸心となるように)配置されるとともに外周部に噛み合い歯が形成されており、ニードルベアリング13を用いて第2の出力軸52の外周面に回動自在に支持されている。3速用の被動ギヤ63は、3速用のギヤ43と噛み合う。6速用の被動ギヤ66は、4速・6速兼用の駆動ギヤ45と噛み合う。2速用の被動ギヤ62は、2速用の駆動ギヤ42と噛み合う。
【0061】
ここで、1速用の被動ギヤ61の支持構造について、説明する。図3は、図2中に示されるF3の範囲を拡大して示す断面図である。図3は、1速用の被動ギヤ61の支持構造を示している。図3に示すように、1速用の被動ギヤ61は、ワンウェイクラッチ装置120を介して第2の出力軸52に支持されている。第2の出力軸52には、環状の基部52aが嵌まって固定されており、当該基部52aは第2の出力軸52と一体に回動する。基部52aは、軸心が第2の出力軸52の軸心線が同じになるように(同一軸心になるように)配置されている。基部52aは、1速用の被動ギヤ61と第2の出力軸52との間をうめるスペーサの機能を有している。
【0062】
ワンウェイクラッチ装置120は、基部52a(第2の出力軸52)に対して1速用の被動ギヤ61を回動自由に支持する一対のベアリング121と、ワンウェイクラッチ122とを備えている。
【0063】
ワンウェイクラッチ122は、本発明で言うワンウェイクラッチ部として機能する。つまり、ワンウェイクラッチ122は、本発明で言うワンウェイクラッチ部の一例である。
【0064】
ワンウェイクラッチ122は、一例として、複数のスプラグ125と、各スプラグ125を保持する外側保持器124、内側保持器123となどを備えており、内側に基部52aが嵌まるように設けられている。また、ワンウェイクラッチ122は、軸心が第2の出力軸52の軸心と同じになるように(同一軸心になるように)配置されている。
【0065】
外側保持器124と内側保持器123とに支持された各スプラグ125は、被動ギヤ61と基部52aとの間に収容されており、基部52aに対して被動ギヤ61が一体に回転可能(一方向に一体に回転可能)に、かつ、所定の条件時(後で詳細に説明する)回転自由となるように支持している。被動ギヤ61は、軸心線が第2の出力軸52と重なるように(同軸になるように)配置されている。
【0066】
1速用の被動ギヤ61は、環状であって軸心が第2の出力軸52の軸心と同じになるように(同一軸心になるように)ワンウェイクラッチの外周面に組み付けられている。1速用の被動ギヤ61は、基部52aと一体に回動可能である。1速用の被動ギヤ61の外周部には、噛み合い歯が形成されている。1速用の被動ギヤ61は、1速用の駆動ギヤ41と噛み合っている。
【0067】
ワンウェイクラッチ122は、基部52aの回転数が被動ギヤ61の回転数よりも大きくなると、基部52aと被動ギヤ61との係合が解除される(空転する)。このため、通常時、自動車が1速で走行する場合ではワンウェイクラッチ122がロック(基部52aと被動ギヤ61とがスプラグ125を介して係合されて、基部52aと被動ギヤ61とが一体に回転可能となる状態)されており、それゆえ、第1の入力軸32の回転が第2の出力軸52に伝達される。
【0068】
第2の出力軸52と基部52aとには、ワンウェイクラッチ122に連通する通孔122bが形成されており、潤滑油がワンウェイクラッチ122に供給されるようになっている。連通孔122bは、第2の出力軸52内に形成される通孔200に連通している。連通孔122bは、例えば複数形成されている。図4は、図3に示されるF4−F4線に沿って示すダブルクラッチ変速機20を示している。図4は、第2の出力軸52の周囲を示している。なお、図4中、ワンウェイクラッチ122bは、一部を図示し、他の部位は2点鎖線で省略している。
【0069】
図4に示すように、各連通孔122bは、第2の出力軸52からワンウェイクラッチ122に向かって直線状に延びている。具体的には、通孔200は、第2の出力軸52の軸心線に沿って形成されており、各連通孔122bは、通孔200を中心として外側に向かって直線状に延びてかつ一例として周方向に略等間隔離間して配置されている(本発明で言う、出力軸からワンウェイクラッチ部に向かって放射方向に延びて設けられている。)。
【0070】
連通孔122bが第2の出力軸52からワンウェイクラッチ122に向かって放射状に形成されることによって、第2の出力軸52の回転に起因する遠心力を利用して潤滑油が連通孔122bを流動しやすくなるので、ワンウェイクラッチ122に効率よく供給される。
【0071】
連通孔200は、第2の出力軸52の軸心線に沿って形成されており、当該軸心線に沿って延びている。供給された潤滑油は、通孔200内に保持されるとともに、一部が連通孔122bを通ってワンウェイクラッチ122に潤滑油が供給される。通孔122bは、本発明で言う油路の一例である。
【0072】
なお、ワンウェイクラッチ122の構成は、上記に限定されない。要するに、ワンウェイクラッチ122は、1速で自動車を走行すべく第1の入力軸32の回転を第2の出力軸52に伝達可能であるとともに、第2の出力軸52の回転数が1速用の被動ギヤ61の回転数よりも大きい場合には解除されることによって第1の入力軸32の回転を第2の出力軸52に伝達しない機能を有していればよい。
【0073】
言い換えると、1速の回転を伝達すべく1速用の被動ギヤが設けられる出力軸(本実施形態で言う出力軸)が回転している場合であって、当該出力軸に対する1速用の被動ギヤの相対回転方向が逆方向である場合に、ワンウェイクラッチが解除されればよい(本発明で言う、被動ギヤから出力軸への駆動力伝達のみを許容するということ。)。
【0074】
ベアリング121は、本発明で言うベアリング部として機能する。つまり、ベアリング121は、本発明で言うベアリング部の一例である。ベアリング121は、ワンウェイクラッチ122の両側に配置されるとともに、1速用の被動ギヤ61と基部52aとの間に介装されており、1速用の被動ギヤ61を基部52aに回動可能に支持している。ベアリング121において第3の被動ギヤ63側に面する側面121aは、基部52aの側面と1速用の被動ギヤ61の側面と面一になる。
【0075】
ベアリング121の内輪121cは、基部52aに嵌められて基部52aに固定されており、基部52aと一体に回転する。ベアリング121の外輪121dは、1速用の被動ギヤ61に止め輪121bを介して固定されており、1速用の被動ギヤ61と一体に回転する。止め輪121bは、外輪121dから1速用の被動ギヤ61にまたがって設けられている。外輪121dは、内輪121dとの間に介装されるボール部材によって、内輪121dに対して回転自由となっている。
【0076】
このような被動ギヤ61〜67のレイアウトに合わせて、シンクロメッシュ機構70〜73が、第1,2の出力軸51、52に設けられている。
【0077】
具体的には、図2に示すように、第1の出力軸51において、4速用の被動ギヤ64と後進用の被動ギヤ67との間の軸部分に、シフト方向が二方向タイプの4速・後進選択用のシンクロメッシュ機構70が設けられている。また、5速用の被動ギヤ65を挟んだ軸受28側の軸部分に、シフト方向が一方向タイプの5速選択用のシンクロメッシュ機構71が設けられている。
【0078】
第2の出力軸52において、1速用の被動ギヤ61と3速用の被動ギヤ63間の軸部分に、シフト方向が一方向タイプの3速選択用のシンクロメッシュ機構72が設けられている。また、6速用の被動ギヤ66と2速用の被動ギヤ62と間の軸部分に、シフト方向が二方向タイプの6速・2速選択用のシンクロメッシュ機構73が設けられている。
【0079】
二方向タイプのシンクロメッシュ機構70,73は、同じ構造であってよい。二方向タイプのシンクロメッシュ機構70,73は、いずれも、一例として、キー式のシンクロメッシュ機構であり、シンクロナイザハブ75と、シンクロナイザスリーブ76と、シンクロナイザコーン77と、シンクロナイザリング78となどを備えている。
【0080】
シンクロメッシュ機構70,73は、当該シンクメッシュ機構が設けられる軸部分(第1,2の出力軸51,52のうち一方)にシンクロナイザハブ75をスプライン嵌合させて当該軸に一体に固定している。シンクロナイザスリーブ76は、内周壁面に、軸(第1,2の出力軸51,52のうち設けられる方)方向に延びるスプライン歯76aが形成されており、かつ、シンクロナイザハブ75にも軸(第1,2の出力軸51,52のうち設けられる方)方向に延びるスプライン溝75aが形成されている。これらスプライン歯75a,76aが互いに係合することによって、シンクロナイザハブ75の外周部に、シンクロナイザスリーブ76が一体に回動可能でかつ軸方向にスライド可能に組み付けられている。
【0081】
シンクロナイザハブ75の両側に配置された各ギヤには、それぞれシンクロナイザコーン77が形成されている。シンクロナイザコーン77は、ギヤと一体に回動可能である。シンクロナイザコーン77の外周のコーン面にそれぞれシンクロナイザリング78が、コーン面を内側に収容した状態で設けられている。シンクロナイザリング78の外周部には、軸方向に切り欠かれてシンクロナイザスリーブ76のスプライン歯76aと軸の回動方向に係合するとともに当該スプライン歯76aの軸方向の移動を可能とする歯78aが形成されている。
【0082】
また、シンクロナイザスリーブ76とシンクロナイザハブ75との間には、図示しないシンクロナイザキーが設けられている。シンクロナイザキーは、シンクロナイザスリーブ76と一体に回動可能であるとともに軸(第1,2の出力軸51,52)方向に移動可能である。
【0083】
この構造により、各シンクロメッシュ機構70,73において、シンクロナイザスリーブ76を軸方向のいずれかの方向へスライドすると、シンクロナイザキーによって押されたシンクロナイザリング78がシンクロナイザコーン77に当接することによる摩擦により、被動ギヤと出力軸との互いの回転速度差が減少される。
【0084】
その後、シンクロナイザリング78に当接して移動が停止されたシンクロナイザキーに対してさらに被動ギヤ側に移動するとともに、シンクロナイザスリーブ76のスプライン歯76aがシンクロナイザリング78の歯78aを通って被動ギヤ(コーン77に形成される歯77a)の歯に噛み合う。このことによって、第1,2の出力軸51,52と各変速段の被動ギヤとが係合され(同期噛合)、両者が一体で回転される。
【0085】
一方向タイプのシンクロメッシュ機構71,72は、同じ構造であってよい。シンクロメッシュ機構71,72は、二方向タイプのシンクロメッシュ機構70,73のうち、片側のシンクロナイザコーン77、シンクロナイザリング78を省いた構造である。シンクロメッシュ機構71のシンクロナイザスリーブ76は、シンクロナイザハブ75と5速用の被動ギヤ65との間で往復方向に移動可能である。シンクロナイザスリーブ76を被動ギヤ65へスライドさせると、摩擦により、回転速度差を減らしながら、シンクロナイザスリーブ76が被動ギヤ65と噛み合い、それゆえ、第1の出力軸51と5速用の被動ギヤ65とが係合される。
【0086】
シンクロメッシュ機構72のシンクロナイザスリーブ76は、シンクロナイザハブ75と3速用の被動ギヤ63との間で往復方向に移動可能である。シンクロナイザスリーブ76を3速用の被動ギヤ63へスライドさせると、摩擦により回転速度差を減らしながら、シンクロナイザスリーブ76が被動ギヤ63と噛み合い、それゆえ、第2の出力軸52と3速用の被動ギヤ63とが係合される。
【0087】
上記のように、本実施形態では、シンクロメッシュ機構70,71,72,73は、本発明で言う同期部を構成している。また、シンクロメッシュ機構72は、本発明で言うシンクロメッシュ機構の一例である。
【0088】
ワンウェイクラッチ装置120において3速用の被動ギヤ63側に面する側面は、具体的にはベアリング121の側面121aである。ベアリング121は、剛性が高い。また側面121aは、第2の出力軸52の軸方向に、シンクロナイザスリーブ76と重なる位置に配置されるとともに、側面121aと、基部52aの側面と、1速用の被動ギヤ61の側面とは、互いに面一になっており、それゆえ、シンクロナイザスリーブ76は、側面121aと当接可能になっている。側面121aと当接することによって、シンクロナイザスリーブ76は、それ以上移動することを抑制される。
【0089】
このため、側面121aは、本発明で言うストッパ部として機能する。言い換えると、ワンウェイクラッチ装置120は、ストッパ部を備えている。また、3速用のシンクロメッシュ機構72のシンクロナイザスリーブ76は、本発明で言う隣接シンクロナイザスリーブである。
【0090】
本実施形態では一例として、シンクロナイザスリーブ76と3速用の被動ギヤ63との噛み合いを解除すべくシンクロナイザスリーブ76を1速用の被動ギヤ61側に移動する場合のアクチュエータの動作は、当該シンクロナイザスリーブ76がワンウェイクラッチ装置120と接触しないように設定されている。
【0091】
しかしながら、シンクロナイザスリーブ76が1速用の被動ギヤ61側に、予め設定された移動範囲をこえて移動した場合には、シンクロナイザスリーブ76がストッパ部としての側面121aに当接する。このことによって、シンクロナイザスリーブ76の移動が停止される。
【0092】
2速用の被動ギヤ62においてシンクロメッシュ機構73と反対側の側部には、後進用のアイドラギヤ130が設けられている。アイドラギヤ130は、第1の出力軸51の後進用の被動ギヤ67と噛合っていて、シンクロメッシュ機構70により、後進用の被動ギヤ67を第1の出力軸51に係合させると、第1の出力軸51から、2速変速段の減速比、後退速段の減速比、さらには、第1の出力軸51の終減速比で減速された逆回転の出力が、デファレンシャル機構100へ伝達される。そして、被動ギヤ62の軸受面62aには空転する後進用の被動ギヤ67から負荷が加わるが、アイドラギヤ130の設置により幅寸法が増しており、ニードルベアリング13をアイドラギヤ130側に偏らせて配置することで、軸受面62aをバランスよく回動自在に支持している。
【0093】
更に、図2に示すように、第1の出力軸51の端壁24側の端部(退避した端部)には、パーキングギヤ140が設けられている。パーキングギヤ140は、シンクロメッシュ機構71のシンクロナイザハブ75の外周端側に一体に形成されている。すなわち、シンクロナイザハブ75の外周端を軸受28側に延長させ、その延長端部にパーキングギヤ140が一体に嵌合させ固定されている。
【0094】
シンクロナイザハブ75には、上述したようにシンクロナイザスリーブ76が軸方向に移動可能に取り付けられており、パーキングギヤ140のエンジン10側の端面は、シンクロナイザスリーブ76が第1の出力軸51の軸端側に移動した際に当接してシンクロナイザスリーブ76の移動を係止させる係止面となっている。
【0095】
なお、本実施形態では、一例として、シンクロメッシュ機構71のシンクロナイザスリーブ76は、パーキングギヤ140と当接しないように移動範囲が設定されており、予め設定される移動範囲をこえて移動した場合にパーキングギヤ140に当接することによって移動が停止されるようになっている。
【0096】
更にパーキングギヤ140の近傍には、変速機ケース23に組み付けられたロック用の爪部材(図示せず)がパーキングギヤ140に対して係脱可能に設けられている。シフトコントロールレバー(図示せず。)を操作してギヤをパーキングに設定すると、爪部材がパーキングギヤ140に係合し、第1の出力軸51がパーキングギヤ140とシンクロナイザハブ75を介してロックされる。出力軸51がロックされることにより、車軸109,110がロックされる。
【0097】
第1,2のクラッチ35,36の接・断動作や、各シンクロメッシュ機構70〜73のシフト選択動作は、制御装置の一例である例えばECUの指令により制御されるアクチュエータ(いずれも図示しない)によって行なわれる。そして、ダブルクラッチ変速機20は、ECUに設定された変速情報に従い、動力伝達が断たれるロスを最小限に抑えつつ自動変速が行なわれる。
【0098】
次に、ダブルクラッチ変速機20の動作を、自動車を発進させた後、所定の速度で走行する場合を一例にして説明する。停止している自動車を発進させるべく運転者がアクセルペダルを踏み込むと、まず、1速に設定される。1速の被動ギヤ61は、ワンウェイクラッチ装置120を介して第2の出力軸52に固定されているので、1速に設定するために、ECUから出力される変速指令で作動するアクチュエータにより、第1のクラッチ35が接続される。
【0099】
第1のクラッチ35が接続されることにより、1速の設定が完了する。これにより、エンジン10の出力は、第1の入力軸32、1速用の駆動ギヤ41、1速用の被動ギヤ61、ワンウェイクラッチ装置120、第2の出力軸52へ伝わる奇数系統の伝達ラインで変速される。このとき、ワンウェイクラッチ122は、基部52aと被動ギヤ61とが互いに係合した状態(噛み合った状態)である。そして、変速された回転出力が、出力ギヤ55から、デファレンシャル機構100へ伝達されて、左右の車軸109、110に伝わり、車両を1速で走行させる。なお、1速で走行する場合は、第2のクラッチ36は、解除されている。
【0100】
なお、自動車の停車状態では、シンクロメッシュ機構73のシンクロナイザスリーブ76は2速用に被動ギヤ62に噛み合っている状態が保たれている。これは、自動車が停車される場合では、後に自動車が発進された場合に1速、2速と変速されるためである。
【0101】
この1速で走行中、2速への変速指令が出力されると、アクチュエータの動作によってシンクロメッシュ機構73のシンクロナイザスリーブ76が2速側へスライドして、2速用の被動ギヤ62が現在の車速で回転している第2の出力軸52に係合される。これにより、次段となる2速変速段の駆動ギヤ42は、車速にシンクロして、2速の変速段が選択される。つまり、次段の変速準備が整う。
【0102】
その後、第1のクラッチ35を解除することなく、第2のクラッチ36が接続される。第2のクラッチ36が接続されることによって、第2の出力軸52は、2速の回転数で回転するようになる。つまり、第2の出力軸52の回転数は、第1の入力軸32の回転数より大きくなり、それゆえ、ワンウェイクラッチ122では、第2の出力軸52と一体に回転する基部52aの回転数が、第1の入力軸32と一体に回転する被動ギヤ61の回転数よりも大きくなる。
【0103】
この結果、ワンウェイクラッチ122が解除される(空転する状態)ので、第1,2のクラッチ35,36が同時に接続されている状態が生じても、エンジン10からの動力伝達は、第1の入力軸32から第2の入力軸33へ切り替わる。すると、エンジン10の出力は、第2の入力軸33、2速用の駆動ギヤ42、2速用の被動ギヤ62、第1の出力軸51へ伝わる偶数系統の伝達ラインで変速され、その変速した回転が出力ギヤ55から、デファレンシャル機構100へ出力される(2速シフト完了)。この2速への切り替えにより、即座に、車両は、2速走行へ切り替わる。2速に変速された後に、第1のクラッチ35が解除される。
【0104】
2速で走行中、3速への変速指令が出力されると、第2のクラッチ36が接続状態であり、かつ、第1のクラッチ35が解除された状態であるので、シンクロメッシュ機構72のシンクロナイザスリーブ76を3速側へスライドさせて、3速用の被動ギヤ63を、現在の車速で回転している第2の出力軸52に係合させる。これにより、次段となる3速変速段の駆動ギヤ43が車速にシンクロして、3速の変速段が選択される。つまり、次段の変速準備が整う。
【0105】
その後、第2のクラッチ36の接続を解除しながら、第1のクラッチ35の接続が行なわれ、エンジン10の動力伝達は、再び第2の入力軸33から第1の入力軸32へ切り替わる。すると、エンジン10からの出力は、第1の入力軸32、3速用の駆動ギヤ4、3速用の被動ギヤ63、第2の出力軸52へ伝わる奇数系統の伝達ラインで変速され、その変速した回転出力が出力ギヤ55から、デファレンシャル機構100へ伝達される(3速シフト完了)。この3速への切り替えにより、即座に、車両は、3速走行へ切り替わる。なお、2速以上の変速段であれば、第2の出力軸52の回転数(基部52aの回転数)は、第1の入力軸(被動ギヤ61の回転数)よりも大きくなるので、ワンウェイクラッチ122は解除される。
【0106】
シンクロメッシュ機構70,71,72,73および第1,2のクラッチ35,36により、上記と同様に、奇数変速グループ、偶数変速グループで変速段を交互に選択して、第1,2のクラッチ35,36を交互に切り替えることにより、残る4速、5速、6速の変速段のシフトも、上記した1速〜3速の変速操作時と同様、動力伝達ロスを最小限に抑えながら連続的に変速が行なわれる。
【0107】
なお、3速用の被動ギヤ63と第2の出力軸52との係合を解除すべくシンクロメッシュ機構72のシンクロナイザスリーブ76が1速用の被動ギヤ61側に移動される場合は、本実施形態では当該シンクロナイザスリーブ76の移動はワンウェイクラッチ装置120に接触しないように設定されているが、予め設定された移動範囲(ワンウェイクラッチ装置120と当接しないように設定された移動範囲)をこえて1速用の被動ギヤ61側に移動すると、シンクロナイザスリーブ76の移動は、ストッパ部としてのベアリング121の側面121aに当接することによって停止される。
【0108】
また、アクチュエータの動作によって、5速用の被動ギヤ65と第1の出力軸51との係合を解除すべくシンクロメッシュ機構71のシンクロナイザスリーブ76がパーキングギヤ140側に移動される場合において、当該シンクロナイザスリーブ76の移動が予め設定された移動範囲をこえた場合は、シンクロナイザスリーブ76がパーキングギヤ140のエンジン10側端面に当接することによってシンクロナイザスリーブ76の移動が停止される。
【0109】
また後進変速段への変速は、第1,2のクラッチ12、13が断動作となっている状態から、アクチュエータによってシンクロメッシュ機構70のシンクロナイザスリーブ76を後進速側へスライドして、後進用の被動ギヤ67と第1の出力軸51とを係合させる。これで、後進速の変速段が選択される。その後、第2のクラッチ36の接続が行なわれる。これにより、エンジン10からの出力は、第2の入力軸33、2速用の駆動ギヤ7、2速用の被動ギヤ62、該被動ギヤ62に取り付けられたアイドラギヤ60、後進用の被動ギヤ67、第1の出力軸51、出力ギヤ54を経て、デファレンシャル機構100へ伝わる。つまり、第1の出力軸51の回転は、2速変速段の減速比、後退速段の減速比、さらには第2の出力軸52の終減速比で減速された逆回転の出力となって、デファレンシャル機構100へ伝達され、車両を大きな減速比で後進させる。
【0110】
またパーキングロックは、パーキング操作に連動したアクチュエータの作動で、爪部材を係合側へ回動させて、同爪部材の先端の爪部を、パーキングギヤ140の外周の歯部に係合させることで行なわれる。この係合により、第1の出力軸51は、パーキングギヤ140とシンクロナイザハブ75を介してロックされ、車両は動かないように拘束される。
【0111】
つぎに、運転者のブレーキペダルの踏み込みなどによって自動車が停止する場合でのダブルクラッチ変速機20の動作を、自動車が3速で走行している状態から停止するまでを一例に説明する。
【0112】
自動車が3速で走行している状態では、第1のクラッチ35が接続されており、第2のクラッチ36が解除されている。そして、シンクロメッシュ機構72のシンクロナイザスリーブ76は、3速用の被動ギヤ63と噛み合っており、それゆえ、3速用の被動ギヤ63が第2の出力軸52と一体に回転している。
【0113】
自動車が3速で走行中に2速への変速指令が出力されると、アクチュエータの動作によってシンクロメッシュ機構73のシンクロナイザスリーブ76が2速用の被動ギヤ62側に移動されるとともに、当該シンクロナイザスリーブ76が2速用の被動ギヤ62と噛み合う。このことによって、2速用の被動ギヤ62が第2の出力軸52と一体となる。
【0114】
ついで、アクチュエータによって、第1のクラッチ35が解除されるとともに第2のクラッチ36が接続される。そして、シンクロメッシュ機構73が1速用の被動ギヤ61側に移動して3速用の変速段の設定が解除される。このことによって、自動車は2速で走行するようになる。自動車が2速で走行する状態になると、アクチュエータは、予め第1のクラッチ35を接続する。なお、ECUは、例えば自動車が減速されている状態であると判断すると、自動車が2速で走行している状態にあるとアクチュエータを操作して予め第1のクラッチ35を接続する。このとき、第1,2のクラッチ12,13が同時に接続されている状態となるが、第2の出力軸52が2速の回転数で回転しているため、ワンウェイクラッチ122が空転する。このため、自動車は2速で走行する状態が保たれる。
【0115】
ついで、自動車が2速で走行中に1速への変速指令が出力されると、アクチュエータの動作によって、第2のクラッチ36が解除される。第2のクラッチ36が解除されることによって、第1のクラッチ35のみが接続される状態となりかつ第2の出力軸52の回転数が減少し、それゆえ、被動ギヤ61が基部52aに係合されるので自動車が1速で走行するようになる。ついで、アクチュエータの動作によって第1のクラッチ35が解除された後、自動車が停車される。
【0116】
このように、自動車が減速されている場合では、2速での走行中に予め第1のクラッチ35を接続することによって、ダブルクラッチ変速機20の動作は、2速から1速への変速の際には第2のクラッチ36を解除する動作のみでよい。
【0117】
なお、自動車が停止した後、直ぐに発進する場合であっても、1速から2速への変速動作がスムーズになる。この点について具体的に説明する。
【0118】
自動車が停止した後、運転者がアクセルペダルを踏み込むことによって自動車が発進されると、アクチュエータの動作によって、第1のクラッチ35が接続される。第1のクラッチ35が接続されると、自動車は1速で走行を開始する。このとき、シンクロメッシュ機構73のシンクロナイザスリーブ76は上記理由により2速用の被動ギヤ62に噛み合っていることによって、2速用の被動ギヤ62が第2の出力軸52と一体になっている。
【0119】
ついで、2速への変速指令が出力されると、アクチュエータの動作によって、第2のクラッチ36が接続される。このことにより、基部52aの回転数が被動ギヤ61の回転数より大きくなるので、ワンウェイクラッチ122が解除される。このため、第1,2のクラッチ12,13が接続されているが、ワンウェイクラッチ122が空転することによって、自動車は2速で走行する。このように、1速から2速に変速する際には、第1のクラッチ35を接続した後に第2のクラッチ36を接続するだけでよい。
【0120】
以降は、各変速段への変速指令にしたがって第1,2のクラッチ35,36と各シンクロメッシュ機構が動作されることによって、車速に応じて変速が行われる。
【0121】
このように、2速から1速への変速の際のダブルクラッチ変速機20の動作は、第2のクラッチ36の解除動作のみでよい。さらに、1速から2速への変速の際のダブルクラッチ変速機20の動作は、第2のクラッチ36の接続動作のみでよい。このため、自動車が急停止し、かつ、停止後直ぐに発進する場合でのダブルクラッチ変速機20の動作が簡素化されるとともに当該簡素化に伴って動作時間が短縮される。この結果、急停止し、かつ、停止後急発進する場合の比較的短い時間であっても、ダブルクラッチ変速機20がもたつくことなく動作できるようになる。
【0122】
また、ワンウェイクラッチ装置120がストッパ部を備えることによって、シンクロナイザスリーブ76のストッパを別途に設けることがなくなるので、ダブルクラッチ変速機20の構造が複雑になることが抑制される。
【0123】
つまり、ダブルクラッチ変速機20は、2速と1速との間の変速をスムーズに行うとともに、構造を簡素にできる。
【0124】
さらに、ワンウェイクラッチ装置120のベアリング部121がストッパ部として機能することによって、ワンウェイクラッチ装置120において比較的剛性の高い部位をストッパ部として利用することができる。
【0125】
また、1速用の被動ギヤ61と第2の出力軸52との間にワンウェイクラッチ装置120が介装されることによって、1速で走行している際にアクセルペダルの操作を停止もしくは弱めると、第2の出力軸52の回転数が、1速用の被動ギヤ61の回転数よりも大きくなる。このため、ワンウェイクラッチ122が解除される。つまり、第1の入力軸32の回転が第2の出力軸52に伝達されなくなる。
【0126】
この結果、乗員のアクセルペダルの操作による減速感が伝達されなくなるので、自動車にぎくしゃくした挙動が発生することが抑制される。
【0127】
また、第2の出力軸52内に潤滑油を保持する通孔200が形成されるとともに、基部52aと第2の出力軸52aとに通孔200と連通するとともにワンウェイクラッチ122連通する通孔122bが形成されており、それゆえ、潤滑油が通孔200,122bを通ってワンウェイクラッチ122に潤滑油が供給されるので、ワンウェイクラッチ122が円滑に動作することを保つことができる。
【0128】
また、連通孔122bが第2の出力軸52からワンウェイクラッチ122に向かって放射方向に延びて形成されることによって、第2の出力軸52の回転に起因する遠心力を利用して潤滑油をワンウェイクラッチ122に効率よく供給することができる。
【0129】
つぎに、本発明の第2の実施形態に係るダブルクラッチ変速機を、図5を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同様の機能を有する構成は、同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態では、ワンウェイクラッチ装置120の構造が第1の実施形態と異なる。他の構造は、第1の実施形態と同様であってよい。上記異なる点について具体的に説明する。
【0130】
図5は、ダブルクラッチ変速機20において、ワンウェイクラッチ装置120の近傍を拡大して示す断面図である。図5に示すように、本実施形態のワンウェイクラッチ装置120は、1つのベアリング121と、ワンウェイクラッチ122と、ストッパプレート129とを備える構造である。本実施形態では、ベアリング121は、ワンウェイクラッチ122に対してシンクロメッシュ機構72と反対側に配置されている。
【0131】
なお、第2の出力軸52に対する1速用の被動ギヤ61の相対位置関係は、第1の実施形態と同様である。
【0132】
1速用の被動ギヤ61においてシンクロメッシュ機構72側には、ストッパプレート129が設けられている。ストッパプレート129は、第2の出力軸52の軸方向にシンクロナイザスリーブ76と当接できる大きさを有している。なお、ストッパプレート129は、ワンウェイクラッチ装置120が空転する際に、基部52aの回転を阻害しないように考慮されている。具体的には、基部52aの側面とストッパプレート129との間には、当該基部52aの回転が阻害されないように若干の隙間が形成されてもよい。
【0133】
ストッパプレート129は、シンクロナイザスリーブ76が、予め設定されている移動範囲をこえて1速用の被動ギヤ61に移動した際に当接することによって当該シンクロナイザスリーブ76の移動を停止する機能を有している。
【0134】
本実施形態であっても第1の実施形態と同様の機能を有している。さらに、本実施形態では、1つのベアリング121を用いる構造であるので、ワンウェイクラッチ装置120の第2の出力軸52の軸方向の長さは、第1の実施形態に比べて、ベアリング1つ分短くなる。
【0135】
この結果、第2の出力軸52を短くできるので、第1の実施形態と同様の効果が得られるとともにダブルクラッチ変速機20をコンパクトにすることができる。
【0136】
また、本実施形態では、一例として、内輪121cも止め輪121bを介して基部52aに固定されている。
【0137】
つぎに、本発明の第3の実施形態に係るダブルクラッチ変速機を、図6を用いて説明する。なお、第2の実施形態と同様の機能を有する構成は、同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態では、ワンウェイクラッチ装置120の構造が第2の実施形態と異なる。他の構造は、第2の実施形態と同様であってよい。上記異なる点について具体的に説明する。
【0138】
図6は、ダブルクラッチ変速機20において、ワンウェイクラッチ装置120の近傍を拡大して示す断面図である。図6に示すように、第2の実施形態に示された構造に対して、ベアリング121をシンクロメッシュ機構72側に配置してもよい。そして、ベアリング121を第1の実施形態と同様に配置する。具体的には、ベアリング121を、側面121aが第2の出力軸52の軸方向にシンクロナイザスリーブ76と重なるようにするとともに、側面121aと基部52aの側面と1速用の被動ギヤ61の側面とを互いに面一になるように配置する。
【0139】
このことによって、剛性の高いベアリング121の側面121aをストッパ部として利用できるので、別途にストッパプレート129を必要としなくなる。この結果、部品点数を少なくすることができるとともに第2の出力軸52の長さをストッパプレート129の厚み分さらに短くすることができるので、第2の実施形態の効果に加えて、ダブルクラッチ変速機20の構造をさらに簡素化できるとともに、ダブルクラッチ変速機20をさらにコンパクトにすることができる。
【0140】
なお、第1〜3の実施形態では、本発明で言う軸部の一例として、第1,2の出力軸51,52が用いられており、2つの出力軸を備える構造である。しかしながら、上記構造に限定されない。例えば、軸部が1つの出力軸であり、当該出力軸に全ての被動ギヤが設けられる構造であってもよい。または、軸部は、3つや4つなどの複数の出力軸であってもよい。
【0141】
なお、この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。更に、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るダブルクラッチ変速機が設けられる自動車において、エンジンとダブルクラッチ変速機とデファレンシャル機構とを示す概略図。
【図2】図1に示されたダブルクラッチ変速機20を展開して具体的に示す断面図。
【図3】図2中に示されるF3の範囲を拡大して示す断面図。
【図4】図3に示されるF4−F4線に沿って示されるダブルクラッチ変速機の断面図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るダブルクラッチ変速機において、ワンウェイクラッチ装置の近傍を拡大して示す断面図。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るダブルクラッチ変速機において、ワンウェイクラッチ装置の近傍を拡大して示す断面図。
【符号の説明】
【0143】
10…エンジン(原動機)、11…出力軸(原動機駆動力伝達軸)、32…第1の入力軸、33…第2の入力軸、35…第1のクラッチ、36…第2のクラッチ、41…1速用の駆動ギヤ、42…2速用の駆動ギヤ、52…第2の出力軸(出力軸)、61…1速用の被動ギヤ、62…2速用の被動ギヤ、63…3速用の被動ギヤ(隣接被動ギヤ)、76…シンクロナイザスリーブ、120…ワンウェイクラッチ装置、121a…側面(ストッパ部)、122b…連通孔(油路)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機の駆動力を伝達する原動機駆動力伝達軸と、
前記原動機駆動力伝達軸からの駆動力を選択的に伝達する第1及び第2のクラッチと、
前記原動機駆動力伝達軸からの駆動力を前記第1のクラッチを介して伝達される第1の入力軸と、
前記第1の入力軸に設けられて当該第1の入力軸と一体に回転する、少なくとも1速用の駆動ギヤを備える奇数段の駆動ギヤと、
前記原動機駆動力伝達軸からの駆動力を前記第2のクラッチを介して伝達される第2の入力軸と、
前記第2の入力軸に設けられて当該第2の入力軸と一体に回転する、少なくとも2速用の駆動ギヤを備える偶数段の駆動ギヤと、
前記複数の駆動ギヤのうち少なくとも一つと相互に噛み合う被動ギヤを支持する出力軸と、
前記出力軸の軸心線方向に移動して、前記被動ギヤを選択的に前記出力軸に一体に回動可能に連結するシンクロナイザスリーブと、
を具備し、
前記出力軸は、前記1速用の駆動ギヤと噛み合う1速用の被動ギヤを、当該1速用の被動ギヤから前記出力軸への駆動力伝達のみを許容するワンウェイクラッチ装置で支持し、
前記出力軸は、前記1速用の被動ギヤに隣接する隣接被動ギヤを回転自在に支持し、
前記ワンウェイクラッチ装置は、前記隣接被動ギヤを選択的に前記出力軸に一体に回動可能に連結する隣接シンクロナイザスリーブと前記軸心線方向に当接可能なストッパ部を具備する
ことを特徴とするダブルクラッチ変速機。
【請求項2】
前記ワンウェイクラッチ装置は、
前記1速用の被動ギヤから前記出力軸への駆動力伝達を実施するワンウェイクラッチ部と、
前記ワンウェイクラッチ部に対して前記隣接シンクロナイザスリーブの配置側に位置し前記1速用の被動ギヤと前記出力軸との間に配置されたベアリング部と
を具備し、
前記ベアリング部が前記ストッパ部である
ことを特徴とする請求項1に記載のダブルクラッチ変速機。
【請求項3】
前記出力軸から前記ワンウェイクラッチ部にわたって、当該ワンウェイクラッチ部に潤滑油を導く油路が形成される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のダブルクラッチ変速機。
【請求項4】
前記油路は、前記出力軸から前記ワンウェイクラッチ部に向かって放射方向に延びて設けられる
ことを特徴とする請求項3に記載のダブルクラッチ変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−223415(P2010−223415A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74635(P2009−74635)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】