説明

ダンパーマウント

【課題】充分な耐久性が確保されると共に、軸方向でのばね定数の低下を抑えつつ、軸直角方向のばね定数を低減することが可能とされた、新規な構造のダンパーマウントを提供すること。
【解決手段】ショックアブソーバ20にベアリング22を介して取り付けられるインナ部材12と、インナ部材12の外周側に離隔配置されて車両ボデー24に取り付けられるアウタ部材14が、筒状ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有するダンパーマウント10において、アウタ部材14がインナ部材12に対するベアリング22の取付位置(48)よりも上方に配置される一方、インナ部材12とアウタ部材14の間には、筒状ゴム弾性体16の上面で軸方向上方に向かって開口する内周すぐり部50が形成されていると共に、内周すぐり部50よりも外周側において筒状ゴム弾性体16の下面で軸方向下方に向かって開口する外周すぐり部52が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションのショックアブソーバを車両ボデーに対して防振支持させるダンパーマウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ストラット式のサスペンション機構では、ショックアブソーバを備えたストラットの上端部が、車両ボデーに対して、ダンパーマウントを介して防振連結乃至は防振支持されている。このダンパーマウントは、インナ部材と、その外周側に離隔配置されたアウタ部材が、筒状ゴム弾性体によって弾性連結された構造を有しており、インナ部材がショックアブソーバにベアリングを介して取り付けられるようになっていると共に、アウタ部材が車両ボデーに取り付けられるようになっている。例えば、特開2004−232824号公報(特許文献1)が、それである。
【0003】
ところで、車輪を支持するサスペンション機構と車両ボデーとの連結部分に装着されるダンパーマウントには、路面側からの入力を充分に低減する機能が求められる。より具体的には、路面側からの入力の車両ボデーへの伝達率を低くするために、ダンパーマウントの軸直角方向でのばね定数が低く設定されることが望ましい。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたダンパーマウントでは、インナ部材とアウタ部材が軸直角方向の投影において重なり合っていると共に、それらインナ部材とアウタ部材の間に筒状ゴム弾性体が連続的に配設されている。その結果、軸直角方向の振動入力時に、筒状ゴム弾性体がインナ部材とアウタ部材の間で圧縮されることから、軸直角方向の動的なばね定数が高くなる傾向にあって、軸直角方向でより低いばね定数を実現し得るダンパーマウントが要求される場合もあった。
【0005】
なお、軸直角方向における低いばね定数を実現するために、軸方向のばね定数を大幅に低く設定すると、軸方向の振動入力時にインナ部材とアウタ部材の相対変位量が大きくなって、筒状ゴム弾性体に亀裂が生じるおそれがあり、耐久性の低下が問題になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−232824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、充分な耐久性が確保されると共に、軸方向でのばね定数の低下を抑えつつ、軸直角方向のばね定数を低減することが可能とされた、新規な構造のダンパーマウントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、ショックアブソーバにベアリングを介して取り付けられるインナ部材と、該インナ部材の外周側に離隔配置されて車両ボデーに取り付けられるアウタ部材が、筒状ゴム弾性体によって弾性連結された構造を有するダンパーマウントにおいて、前記アウタ部材が前記インナ部材に対する前記ベアリングの取付位置よりも上方に配置される一方、該インナ部材と該アウタ部材の間には、前記筒状ゴム弾性体の上面で軸方向上方に向かって開口する内周すぐり部が形成されていると共に、該内周すぐり部よりも外周側において該筒状ゴム弾性体の下面で軸方向下方に向かって開口する外周すぐり部が形成されていることを、特徴とする。
【0009】
このような第1の態様に従う構造とされたダンパーマウントによれば、筒状ゴム弾性体の上面で軸方向上方に向かって開口する内周すぐり部と、筒状ゴム弾性体の下面で軸方向下方に向かって開口する外周すぐり部とが形成されて、筒状ゴム弾性体においてインナ部材とアウタ部材の間で軸直角方向に圧縮される部分が小さくされている。それ故、軸直角方向の振動入力時には筒状ゴム弾性体において剪断変形が支配的となって、軸直角方向のばねが柔らかくなることから、ロードノイズ等の路面側から入力される振動が車両ボデーに伝達されるのを抑えることができる。
【0010】
また、アウタ部材が、インナ部材に対するベアリングの取付位置よりも上方に配設されていることにより、筒状ゴム弾性体のゴムボリュームが確保されて、耐久性の向上が図られる。
【0011】
さらに、アウタ部材のインナ部材に対する配設位置が上方に設定されていることにより、軸直角方向の投影におけるインナ部材とアウタ部材の重なり合う部分が小さくされると共に、インナ部材とアウタ部材を径方向に大きく離隔させることなく、筒状ゴム弾性体のゴムボリュームを充分に確保することが可能となる。それ故、軸直角方向の振動入力時には、筒状ゴム弾性体において剪断変形を支配的に生ぜしめて、軸直角方向でのばねを柔らかくすることができると共に、軸方向の振動入力時には、筒状ゴム弾性体において圧縮変形を充分に生ぜしめて、軸方向で硬いばねを得ることができる。これらによって、軸方向ばねに対する軸直角方向ばねの比が小さくされており、路面側からの入力振動に対して優れた防振効果が発揮されると共に、充分な耐久性や操縦安定性が実現される。
【0012】
要するに、筒状ゴム弾性体に内周すぐり部と外周すぐり部を形成するだけでは、軸直角方向のばねを柔らかくするのに伴って、ゴムボリュームの減少による耐久性の低下や、軸方向のばねも柔らかくなってしまうといった問題が生じ得る。そこで、アウタ部材がインナ部材のベアリング取付位置に対して上方に配置されることにより、ゴムボリュームが軸方向で充分に確保されていると共に、筒状ゴム弾性体においてインナ部材とアウタ部材の間で軸方向に圧縮される部分が大きくされている。その結果、耐久性の低下が回避されると共に、軸方向のばねが必要以上に柔らかくなることなく、維持されているのである。
【0013】
加えて、内周すぐり部が筒状ゴム弾性体の上面で軸方向上方に向かって開口していると共に、外周すぐり部が筒状ゴム弾性体の下面で軸方向下方に向かって開口していることから、筒状ゴム弾性体の加硫成形用金型を上下に2分割されたものとすることができる。これにより、加硫成形後の脱型作業等を狭いスペースで行うことが可能とされて、生産性を高めることができ得る。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載されたダンパーマウントにおいて、前記インナ部材が外周側に向かって下傾する第1テーパ筒部を有すると共に、前記アウタ部材が外周側に向かって下傾する第2テーパ筒部を有しており、該インナ部材の外周端部と該アウタ部材の内周端部を直線的に繋ぐ線上に前記筒状ゴム弾性体が連続的に配設されているものである。
【0015】
第2の態様によれば、インナ部材が第1テーパ筒部を有していると共に、アウタ部材が第2テーパ筒部を有していることによって、軸方向の振動入力時に、筒状ゴム弾性体において圧縮変形がより支配的となって、内周すぐり部および外周すぐり部の形成によって軸方向ばねが柔らかくなるのを抑えることができる。一方、軸直角方向の振動入力時には、筒状ゴム弾性体において剪断変形がより支配的となることから、軸直角方向で柔らかいばねを得ることができて、振動絶縁効果が有利に発揮される。
【0016】
さらに、インナ部材の外周端部とアウタ部材の内周端部が、筒状ゴム弾性体によって、直線的に連続して弾性連結されていることにより、軸方向の振動入力時には、それらインナ部材の外周端部とアウタ部材の内周端部の間において、筒状ゴム弾性体が圧縮される。それ故、軸方向のばねが充分に硬く保たれて、優れた操縦安定性や耐久性が実現される。
【0017】
しかも、車両への装着状態では、車両ボデーの静的な支持荷重がインナ部材とアウタ部材の間に入力されることから、インナ部材の外周端部とアウタ部材の内周端部の間に固着された筒状ゴム弾性体が膨出変形する。これにより、筒状ゴム弾性体においてインナ部材とアウタ部材の間で圧縮される部分が大きく確保されて、軸方向のばねが柔らかくなるのを防ぐことで操縦安定性や耐久性の向上が図られる。
【0018】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載されたダンパーマウントにおいて、前記アウタ部材の内周端部に内フランジ部が設けられており、該内フランジ部と前記インナ部材の外周端部とを直線的に繋ぐ領域上に前記筒状ゴム弾性体が連続的に配設されているものである。
【0019】
第3の態様によれば、アウタ部材の内周端部に内フランジ部が設けられて、内フランジ部とインナ部材の間に筒状ゴム弾性体が連続的に配設されることによって、軸方向の振動入力時に、筒状ゴム弾性体において主として圧縮変形される部分を大きく確保することができる。それ故、軸方向ばねを比較的に硬く設定することが可能とされて、優れた操縦安定性や耐久性が実現される。
【0020】
特に、内フランジ部は略軸直角方向に広がっていることから、軸方向の振動入力時に、筒状ゴム弾性体がインナ部材とアウタ部材の間でより効率的に圧縮されて、軸方向のばねが軸直角方向のばねに比して硬くなる。
【0021】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか1つの態様に記載されたダンパーマウントにおいて、前記内周すぐり部の最深部と前記外周すぐり部の最深部とが、軸方向位置を同じとされているものである。
【0022】
第4の態様によれば、筒状ゴム弾性体において軸直角方向の投影でインナ部材とアウタ部材の両方と重なり合う部分がなくなる或いは極めて小さくされることから、軸直角方向の振動入力時に、筒状ゴム弾性体において剪断変形が支配的となって、柔らかいばねによる優れた防振性能が実現される。
【0023】
しかも、内周すぐり部の最深部と外周すぐり部の最深部との軸方向位置が同じとされていることによって、軸直角方向の振動入力時に筒状ゴム弾性体において剪断変形が支配的とされると共に、内周すぐり部と外周すぐり部の大きさが比較的に小さくされる。これにより、軸直角方向での充分に柔らかいばねが実現されると共に、ゴムボリュームが効率的に確保されて、耐久性の向上が図られる。
【0024】
本発明の第5の態様は、第1〜第3の何れか1つの態様に記載されたダンパーマウントにおいて、前記内周すぐり部の底部と前記外周すぐり部の底部とが、軸直角方向の投影において相互に重なり合っているものである。
【0025】
第5の態様によれば、筒状ゴム弾性体において軸直角方向でインナ部材とアウタ部材の間で圧縮される部分がなくなることから、軸直角方向の振動入力時に、筒状ゴム弾性体において剪断変形が支配的となって、柔らかいばねによる優れた防振性能が実現される。
【0026】
特に、車両への装着前の単体状態において、内周すぐり部の底部と外周すぐり部の底部がオーバーラップしていることにより、車両への装着によって筒状ゴム弾性体が弾性変形した後も、筒状ゴム弾性体において軸直角方向で圧縮される部分が小さくされて、軸直角方向での柔らかいばねが実現される。
【0027】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の何れか1つの態様に記載されたダンパーマウントにおいて、前記インナ部材が外周側に向かって下傾する第1テーパ筒部を有すると共に、前記アウタ部材が外周側に向かって下傾する第2テーパ筒部を有しており、該第1テーパ筒部の軸方向に対する傾斜角度:θ1 が、該第2テーパ筒部の軸方向に対する傾斜角度:θ2 よりも大きくされているものである。
【0028】
第6の態様によれば、車両ボデー側の取付構造に応じて設定される第2テーパ筒部の傾斜角度:θ2 に対して、第1テーパ筒部の傾斜角度:θ1 を大きくして、第1テーパ筒部をより水平に近付けることにより、軸方向での硬いばねと軸直角方向での柔らかいばねが実現される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、筒状ゴム弾性体の上面に開口する内周すぐり部と、内周すぐり部よりも外周側で筒状ゴム弾性体の下面に開口する外周すぐり部とが、形成されている。それ故、軸直角方向の振動入力時に、筒状ゴム弾性体において剪断変形が支配的となって、柔らかいばねによる振動絶縁効果が有効に発揮される。更に、アウタ部材が、ベアリングの取付位置よりも上方に配置されており、インナ部材に対して上方に位置している。これにより、ゴムボリュームを充分に確保しながら、インナ部材とアウタ部材の軸直角方向の離隔距離を小さくすることができて、軸方向のばねが柔らかくなるのを抑えることができる。従って、車両の操縦安定性や筒状ゴム弾性体の耐久性の向上が図られ得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態としてのダンパーマウントを、車両への非装着状態(単体状態)で示す縦断面図。
【図2】図1に示されたダンパーマウントを、車両への装着状態で示す縦断面図。
【図3】本発明の第2の実施形態としてのダンパーマウントを、車両への非装着状態(単体状態)で示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
図1には、本発明の第1の実施形態としてのダンパーマウント10が示されている。ダンパーマウント10は、全周に亘って略一定の縦断面形状を呈しており、後述するストラット58のショックアブソーバ64に取り付けられるインナ部材12と、同じく後述する車両ボデー60に取り付けられるアウタ部材14とが、筒状ゴム弾性体16によって連結された構造を有している。なお、図1には、ダンパーマウント10が車両装着前の単体状態で示されており、特に説明がない限り、上下方向とは、図1中の上下方向を言うものとする。
【0033】
より詳細には、インナ部材12は、全体として下方に向かって拡径する略筒状とされており、第1テーパ筒部26を備えている。第1テーパ筒部26は、下方に向かって次第に大径となるテーパ形状とされており、外周側に向かって略一定の角度で下傾する縦断面形状を呈している。なお、第1テーパ筒部26の軸方向に対する傾斜角度がθ1 とされている。
【0034】
また、インナ部材12の外周端部には、第1外周筒部28が設けられている。第1外周筒部28は、第1テーパ筒部26と一体形成されており、第1テーパ筒部26の外周端から下方に向かって延び出している。更に、第1外周筒部28の下端部が外周側に折り曲げられており、外周側に突出する下端突出部30が一体形成されている。
【0035】
さらに、第1テーパ筒部26の内周側には、取付部32が一体形成されている。取付部32は、縦断面において四半円弧状の湾曲形状を呈しており、上方に行くに従って次第に内周側に傾斜していると共に、上方に行くに従って水平に近付くように傾斜角度が連続的に変化している。また、インナ部材12の内周端部(上端部)には、略円筒形状を呈する内周筒部34が設けられており、取付部32の内周端から上方に向かって延び出すように一体形成されている。なお、取付部32の中間部分には、筒状ゴム弾性体16の加硫成形時におけるゴム材料の充填性等を考慮して、連通孔36が貫通形成されている。
【0036】
アウタ部材14は、全体として下方に向かって拡径する略筒状とされて、インナ部材12よりも大径とされており、第2テーパ筒部38を備えている。第2テーパ筒部38は、下方に向かって次第に大径となるテーパ形状とされており、外周側に向かって略一定の角度で下傾する縦断面形状を呈している。
【0037】
さらに、第2テーパ筒部38の軸方向に対する傾斜角度:θ2 が、後述する車両ボデー60の嵌合凹所68内面の傾斜角度と略同じに設定されていると共に、第1テーパ筒部26の軸方向に対する傾斜角度:θ1 が、第2テーパ筒部38の軸方向に対する傾斜角度:θ2 よりも大きくされている。
【0038】
また、アウタ部材14の外周端部には、第2外周筒部40が設けられている。この第2外周筒部40は、第2テーパ筒部38と一体形成されており、第2テーパ筒部38の外周端から下方に向かって延び出している。
【0039】
また、アウタ部材14の内周端部には、内フランジ部42が設けられている。この内フランジ部42は、第2テーパ筒部38と一体形成されており、第2テーパ筒部38の内周端から全周に亘って略軸直角方向で内周側に突出している。更に、内フランジ部42の内径寸法は、インナ部材12における下端突出部30の外径寸法よりも小さくされていると共に、インナ部材12における第1外周筒部28の外径寸法と略同じにされている。
【0040】
そして、インナ部材12とアウタ部材14は、図1に示されているように、同一中心軸上に配設されて、筒状ゴム弾性体16によって弾性連結されている。筒状ゴム弾性体16は、全体として厚肉大径で下方に向かって次第に拡径する略テーパ筒形状を有しており、内周部分にインナ部材12が加硫接着されていると共に、外周部分にアウタ部材14が加硫接着されている。なお、筒状ゴム弾性体16は、インナ部材12とアウタ部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。また、筒状ゴム弾性体16において、インナ部材12とアウタ部材14の内周端部間に配設された部分の端面を「上面」と称すると共に、インナ部材12とアウタ部材14の外周端部間で略軸直角方向に広がる端面を「下面」と称する。
【0041】
また、インナ部材12の内周面には、筒状ゴム弾性体16と一体形成された内周ゴム層44が被着形成されていると共に、アウタ部材14の外周面には、筒状ゴム弾性体16と一体形成された外周ゴム層46が被着形成されている。これにより、インナ部材12とアウタ部材14の表面が、ゴム弾性体(一体形成された筒状ゴム弾性体16,内周ゴム層44,外周ゴム層46)によって略全体を覆われている。
【0042】
さらに、ダンパーマウント10の車両装着前の単体状態では、インナ部材12に対するベアリング66(後述)の取付位置に対して、アウタ部材14が上方に外れて配置されている。なお、ベアリング66の取付位置(図1中のベアリング当接面48)は、インナ部材12の取付部32の上端下面を覆う内周ゴム層44の表面で規定されており、アウタ部材14がベアリング当接面48に対して、軸方向で上方に離隔している。
【0043】
また、筒状ゴム弾性体16には、内周すぐり部50が形成されている。内周すぐり部50は、インナ部材12とアウタ部材14の径方向間において、筒状ゴム弾性体16の上面で軸方向上方に向かって開口する環状の凹所であって、開口側に向かって拡開する縦断面形状を呈している。更に、内周すぐり部50は、図1に示された単体状態の縦断面において、インナ部材12の内周端部とアウタ部材14の内周端部を直線的に繋ぐ仮想線:l1 よりも下方に入り込むように形成されており、その最深部がインナ部材12における取付部32の上端部にまで至っている。
【0044】
また、筒状ゴム弾性体16には、外周すぐり部52が形成されている。外周すぐり部52は、インナ部材12とアウタ部材14の径方向間で内周すぐり部50よりも外周側に形成されて、筒状ゴム弾性体16の下面で軸方向下方に向かって開口する環状の凹所であって、開口側に向かって径方向で拡開する縦断面形状を呈している。更に、外周すぐり部52は、図1に示された単体状態の縦断面において、インナ部材12の外周端部とアウタ部材14の外周端部を直線的に繋ぐ仮想線:l2 よりも上方に入り込むように形成されており、その最深部がアウタ部材14の下端よりも上方まで至っている。
【0045】
なお、内周すぐり部50が筒状ゴム弾性体16の上面で軸方向上方に向かって開口していると共に、外周すぐり部52が筒状ゴム弾性体16の下面で軸方向下方に向かって開口していることによって、筒状ゴム弾性体16の加硫成形用金型として、上下に2分割されたものを採用することができる。それ故、筒状ゴム弾性体16の加硫成形工程において、金型の組立てや取外しに際して軸直角方向で必要とされる作業スペースを小さくすることができて、生産性の向上等が図られ得る。
【0046】
また、図1に示された単体状態の縦断面では、内周すぐり部50の最深部(最下点)と、外周すぐり部52の最深部(最上点)とが、軸方向位置を略同じ(図1中で軸直角方向に延びる仮想線:l3 上)とされている。これらによって、インナ部材12とアウタ部材14が径方向で相対変位した場合に、筒状ゴム弾性体16がインナ部材12とアウタ部材14の間で狭圧されることはなく、筒状ゴム弾性体16において剪断変形が支配的に生ずるようになっている。
【0047】
また、縦断面においてインナ部材12の外周端(下端)とアウタ部材14の内周端(上端)とを直線的に繋ぐ仮想線:l4 上には、筒状ゴム弾性体16が連続的に配設されており、インナ部材12の外周端とアウタ部材14の内周端が筒状ゴム弾性体16によって直線的に繋がれている。特に本実施形態では、アウタ部材14の内フランジ部42とインナ部材12の外周端とを直線的に繋ぐ領域に、筒状ゴム弾性体16が連続的に配設されており、インナ部材12の外周端がアウタ部材14の内周端部に対してある程度の幅で直線的に弾性連結されている。
【0048】
なお、ダンパーマウント10は、全周に亘って略一定の縦断面形状を呈することから、上述のl1 〜l4 に関する説明は、周上の任意の位置での縦断面において成立する。
【0049】
かくの如き構造とされたダンパーマウント10では、軸直角方向のばねが、軸方向のばねに比して、充分に柔らかくされている。
【0050】
すなわち、筒状ゴム弾性体16には、軸方向上方に向かって開口する内周すぐり部50と、内周すぐり部50よりも外周側において軸方向下方に向かって開口する外周すぐり部52が形成されている。これにより、筒状ゴム弾性体16において、インナ部材12とアウタ部材14の間で軸直角方向に挟み込まれる部分が小さくされており、軸直角方向の振動入力時に、筒状ゴム弾性体16に剪断変形が支配的に生じるようになっている。その結果、軸直角方向の振動入力時には、筒状ゴム弾性体16の剪断ばね成分が支配的となって、充分に柔らかいばね(低いばね定数)が実現される。
【0051】
しかも、内周すぐり部50が、インナ部材12の上端とアウタ部材14の上端とを直線的に結んだ線:l1 よりも下方まで達する深さで形成されていると共に、外周すぐり部52が、インナ部材12の下端とアウタ部材14の下端とを直線的に結んだ線:l2 よりも下方まで達する深さで形成されている。このように、車両装着前の単体状態では、筒状ゴム弾性体16の上下端面に開口する内周すぐり部50と外周すぐり部52が、何れも、インナ部材12とアウタ部材14の間まで入り込んでいる。それ故、筒状ゴム弾性体16がインナ部材12とアウタ部材14の間で軸直角方向に圧縮されるのを防いで、剪断ばね成分に基づいた柔らかいばねが実現される。
【0052】
さらに、内周すぐり部50の最深部と、外周すぐり部52の最深部が、互いに軸方向位置を同じ(図1におけるl3 上)とされている。これにより、軸直角方向投影でインナ部材12とアウタ部材14の両方と重なり合う領域に配された筒状ゴム弾性体16は、内周すぐり部50又は外周すぐり部52によって内周部分と外周部分に分断されている。それ故、軸直角方向の振動入力時に、筒状ゴム弾性体16では主として剪断変形が生じることとなって、軸直角方向の柔らかいばねを得ることができる。
【0053】
また、第2テーパ筒部38の軸方向に対する傾斜角度:θ2 が、車両ボデー60側の構造に応じて設定されていると共に、第1テーパ筒部26の軸方向に対する傾斜角度:θ1 が、第2テーパ筒部38の傾斜角度:θ2 よりも大きくされている。それ故、軸直角方向の振動入力時に、筒状ゴム弾性体16において剪断変形がより支配的となって、柔らかい軸直角方向ばねが実現される一方、軸方向の振動入力時に、筒状ゴム弾性体16において圧縮変形がより支配的となって、軸方向ばねの柔軟化が抑えられる。
【0054】
また、アウタ部材14がインナ部材12に対するベアリング66(後述)の取付位置(ベアリング当接面48)よりも上方に配設されており、インナ部材12に対して上方に偏倚していることで、インナ部材12とアウタ部材14の軸方向間距離が大きくされている。これにより、アウタ部材14の直径を抑えつつ、インナ部材12とアウタ部材14の間に配設される筒状ゴム弾性体16のゴムボリュームを大きくして、耐久性を確保することができる。その結果、筒状ゴム弾性体16においてインナ部材12とアウタ部材14の間で軸方向に圧縮される部分が大きくなって、軸方向のばねが硬く保たれることから、操縦安定性等の向上が図られる。
【0055】
さらに、インナ部材12の外周端部とアウタ部材14の内周端部を直線的に繋ぐ線:l4 上には、筒状ゴム弾性体16が連続して配設されている。これにより、軸方向の振動入力時に、筒状ゴム弾性体16において圧縮変形が支配的となって、圧縮ばね成分に基づいた硬いばね(高いばね定数)が実現される。
【0056】
しかも、アウタ部材14の内周端部には、軸直角方向に広がる内フランジ部42が形成されており、その内フランジ部42とインナ部材12の外周端部とを繋ぐ領域には、筒状ゴム弾性体16が連続して配設されている。これにより、内フランジ部42とインナ部材12との間で筒状ゴム弾性体16が圧縮されることから、軸方向振動の入力時に、筒状ゴム弾性体16において圧縮変形がより支配的となる。
【0057】
加えて、アウタ部材14の内フランジ部42の内周端部が、インナ部材12の下端突出部30と軸方向投影において重なり合っている。それ故、軸方向の振動入力時には、それら内フランジ部42と下端突出部30の間で筒状ゴム弾性体16が圧縮されて、硬いばねが得られる。
【0058】
なお、ダンパーマウント10は、図2に示されているように、ストラット58の上端部と車両ボデー60との連結部分に装着される。即ち、ストラット58の上端部がインナ部材12に挿通されて、ナット62によって固定されると共に、ストラット58のショックアブソーバ64に取り付けられたベアリング66が、インナ部材12の取付部32に下方から嵌入されて、取付部32の内周面に内周ゴム層44を介して重ね合わされる。一方、アウタ部材14は、車両ボデー60に設けられた嵌合凹所68に対して、外周ゴム層46を介して嵌着されている。これにより、ストラット58(ショックアブソーバ64)は、ベアリング66によって車両ボデー60(ダンパーマウント10)に対する捻りを許容された状態で、車両ボデー60によって防振支持されている。
【0059】
また、ストラット58の上端部において、インナ部材12よりも上方まで突出した部分には、ストッパ部材70が取り付けられている。このストッパ部材70は、ストッパプレート72の外周端部に対して、下方に突出する緩衝ゴム74が加硫接着された構造を有しており、ストッパプレート72がストラット58の上端部に固定されている。そして、ストッパプレート72の外周端部が、車両ボデー60における嵌合凹所68の上底壁部に対して、上下に所定距離を隔てて対向配置されており、ストッパプレート72と嵌合凹所68の上底壁部との緩衝ゴム74を介した当接を利用して、インナ部材12とアウタ部材14の軸方向での離隔変位量を制限するリバウンドストッパ手段が構成されている。
【0060】
かかる車両装着状態では、インナ部材12とアウタ部材14の間に車両ボデー60の静荷重が軸方向に及ぼされることから、インナ部材12の第1テーパ筒部26とアウタ部材14の第2テーパ筒部38が軸方向で接近変位する。これにより、インナ部材12とアウタ部材14を連結する筒状ゴム弾性体16は、インナ部材12とアウタ部材14の外周端部間において外周側および下側に膨出するように弾性変形することから、筒状ゴム弾性体16には、図2に示されているような膨出部76が形成される。それ故、軸方向振動の入力時に、筒状ゴム弾性体16においてインナ部材12とアウタ部材14の間で圧縮される部分が、より大きく確保されて、軸方向の硬いばねが有利に実現されることから、操縦安定性や耐久性の向上が実現される。
【0061】
また、ダンパーマウント10では、車両ボデー60の静荷重による筒状ゴム弾性体16の変形後にも、内周すぐり部50と外周すぐり部52が完全に潰れることはなく、それぞれが凹所状に残されており、軸直角方向のばねが柔らかくされている。
【0062】
図3には、本発明の第2の実施形態としてのダンパーマウント80が示されている。ダンパーマウント80では、筒状ゴム弾性体16に内周すぐり部82と外周すぐり部84が形成されている。なお、以下の説明において、前記第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位には、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0063】
内周すぐり部82と外周すぐり部84は、前記第1の実施形態に示された内周すぐり部50および外周すぐり部52に対して、それぞれ深さ寸法が大きくされており、内周すぐり部82の底部と外周すぐり部84の底部とが、軸直角方向の投影において相互に重なり合っている。換言すれば、内周すぐり部82の最深部の軸方向位置が図3中のl5 上とされていると共に、外周すぐり部84の最深部の軸方向位置が図3中のl6 上とされており、l5 がl6 よりも下方に位置している。
【0064】
このような内周すぐり部82および外周すぐり部84を備えたダンパーマウント80によれば、車両への装着後にも、筒状ゴム弾性体16において、インナ部材12とアウタ部材14の径方向間で圧縮される部分が、少なくされる。それ故、ロードノイズ等の軸直角方向の振動入力時に、剪断ばね成分に基づいた柔らかいばねによって、優れた防振効果(振動絶縁効果)が発揮される。
【0065】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記第1,第2の実施形態では、第1テーパ筒部26と第2テーパ筒部38が、何れも略平板形状とされて、全体に亘って傾斜角度が略一定とされていたが、それら第1,第2テーパ筒部は、軸方向に対して傾斜していれば、例えば、円弧状に湾曲していたり、多角状に屈曲していても良い。要するに、第1,第2テーパ筒部の傾斜角度は、連続的に或いは段階的に変化していても良い。なお、このように第1,第2テーパ筒部の傾斜角度が変化している場合には、傾斜角度の平均値が第1,第2テーパ筒部の傾斜角度とされる。
【0066】
また、内周すぐり部と外周すぐり部の具体的な縦断面形状は、特に限定されるものではなく、筒状ゴム弾性体の上下面に開口していれば良い。更に、それら内周すぐり部と外周すぐり部の位置関係や寸法関係も、内周すぐり部よりも外周側に外周すぐり部があれば、その他は前記実施形態の具体的な記載によって限定的に解釈されるべきではない。
【0067】
また、前記実施形態では、ベアリング当接面48によってベアリング66の取付位置が特定されていたが、アウタ部材14がベアリング66が取り付けられる予定の軸方向位置よりも上方に配置されていれば良いのであって、インナ部材12の取付部32は必須ではなく、ベアリング当接面48はなくても良い。
【符号の説明】
【0068】
10,80:ダンパーマウント、12:インナ部材、14:アウタ部材、16:筒状ゴム弾性体、26:第1テーパ筒部、38:第2テーパ筒部、42:内フランジ部、48:ベアリング当接面(ベアリングの取付位置)、50,82:内周すぐり部、52,84:外周すぐり部、60:車両ボデー、64:ショックアブソーバ、66:ベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショックアブソーバにベアリングを介して取り付けられるインナ部材と、該インナ部材の外周側に離隔配置されて車両ボデーに取り付けられるアウタ部材が、筒状ゴム弾性体によって弾性連結された構造を有するダンパーマウントにおいて、
前記アウタ部材が前記インナ部材に対する前記ベアリングの取付位置よりも上方に配置される一方、
該インナ部材と該アウタ部材の間には、前記筒状ゴム弾性体の上面で軸方向上方に向かって開口する内周すぐり部が形成されていると共に、該内周すぐり部よりも外周側で該筒状ゴム弾性体の下面で軸方向下方に向かって開口する外周すぐり部が形成されていることを特徴とするダンパーマウント。
【請求項2】
前記インナ部材が外周側に向かって下傾する第1テーパ筒部を有すると共に、前記アウタ部材が外周側に向かって下傾する第2テーパ筒部を有しており、該インナ部材の外周端部と該アウタ部材の内周端部を直線的に繋ぐ線上に前記筒状ゴム弾性体が連続的に配設されている請求項1に記載のダンパーマウント。
【請求項3】
前記アウタ部材の内周端部に内フランジ部が設けられており、該内フランジ部と前記インナ部材の外周端部とを直線的に繋ぐ領域上に前記筒状ゴム弾性体が連続的に配設されている請求項2に記載のダンパーマウント。
【請求項4】
前記内周すぐり部の最深部と前記外周すぐり部の最深部とが、軸方向位置を同じとされている請求項1〜3の何れか1項に記載のダンパーマウント。
【請求項5】
前記内周すぐり部の底部と前記外周すぐり部の底部とが、軸直角方向の投影において相互に重なり合っている請求項1〜3の何れか1項に記載のダンパーマウント。
【請求項6】
前記インナ部材が外周側に向かって下傾する第1テーパ筒部を有すると共に、前記アウタ部材が外周側に向かって下傾する第2テーパ筒部を有しており、該第1テーパ筒部の軸方向に対する傾斜角度:θ1 が、該第2テーパ筒部の軸方向に対する傾斜角度:θ2 よりも大きくされている請求項1〜5の何れか1項に記載のダンパーマウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−15187(P2013−15187A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148417(P2011−148417)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】