説明

チェーンカバー

【課題】内燃機関のクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するタイミングチェーンを覆うチェーンカバーにおいて振動減衰効果を向上させたチェーンカバーを提供する。
【解決手段】チェーンカバー15の外壁15aには、補強用のリブ18とともに上下方向に延びる補強用及び振動減衰用のメインリブ20が形成されている。メインリブ20の内部のリブ内側面に囲まれたリブ内空間には、同リブ内空間の水平断面形状と略同様の円形断面を有する棒状の剛性棒30が配設されている。リブ内空間における剛性棒30とリブ内側面との間の微小間隔(クリアランス)にはメインリブ20の上部にチェーンカバー15の内側まで貫通形成された連通孔を通じてタイミングチェーン14から飛散した潤滑油が導入される。このリブ内空間に導入された潤滑油は、リブ内側面と剛性棒30の外周面との間にこの潤滑油からなる油膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するタイミングチェーンを覆うチェーンカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においてはクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達させるためにタイミングチェーンが利用されており、こうしたタイミングチェーンの周囲にはその動力伝達を円滑にする潤滑油が外部へ飛散することを防止するためのチェーンカバーが取り付けられている。上記チェーンカバーにおいては、その肉厚を薄くすることにより軽量化と省スペース化とが図られている一方、こうした薄い肉厚によりチェーンカバー固有の共振周波数を低下させてしまい、燃料の爆発や機械的な動作により内燃機関に生じる低い周波数の振動に対して共振を起こしやすくなり、共振を起こした場合には騒音を増加させてしまう問題がある。
【0003】
そこで上述する問題を抑制すべく、チェーンカバーにおいては従来から内燃機関から伝達される振動による共振を抑制される構造として、特許文献1に記載のような構造が知られている。特許文献1に記載の構造は、チェーンカバーの剛性を高めるように形成された環状のリブと、その環状のリブに蓋状に取り付けられた減衰プレートとから形成された閉空間の内部に潤滑油を滞留させることにより特定の周波数に対して高い制振性を発現する。
【0004】
また、上述するチェーンカバーなどと同様に内燃機関に取り付けられるオイルパンにあっては、内燃機関から伝達される振動による共振を抑制すべく、特許文献2に記載のような構造が知られている。特許文献2に記載の構造は、オイルパンの内側壁にインナパンがその外側壁を押し付けられるように嵌合され、それらオイルパンの内側壁とインナパンの外側壁との略平行な2面の間に潤滑油による油膜が形成されている。これによれば、内燃機関からの振動によりオイルパンの内側壁が振動するときには、略平行な2面に挟まれた層状の油膜が有する動粘性によりそれら2面の相対的な距離の変動が抑えられるようになり、オイルパンの内側壁に生じる共振が減衰される。
【特許文献1】特開2000−8950号公報
【特許文献2】特開2000−199453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の構造は、一つの閉空間が特定の周波数に対応する構造であることから、広い周波数範囲に対応した制振性を得るためにはチェーンカバーに多数の閉空間が必要になり、こうした多数の閉空間を形成することによりチェーンカバーの構造が一層複雑になってしまう。しかも上述する閉空間には環状のリブが必要であるために、そもそも複雑な形状を有するチェーンカバーにあっては多数の閉空間を形成し難い問題がある。また、特許文献2に記載の構造は、広い平面を有するオイルパンには適用可能であるものの、複雑な形状を有して広い平面の少ないチェーンカバーなどには適用することが難しい。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、内燃機関のクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するタイミングチェーンを覆うチェーンカバーにおいて振動減衰効果を向上させたチェーンカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、内燃機関のクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するタイミングチェーンを覆うカバー本体を備えたチェーンカバーであって、前記カバー本体に形成されたリブと、前記リブの内部に形成された空間であるリブ内空間に収容された剛性体と、前記リブ内空間と外部との間を連通して前記リブの内側面と前記剛性体との間に油膜を形成する油を前記リブ内空間へ導入する導入孔とを備えたことを要旨とする。
【0008】
このような構成によれば、カバー本体に形成されたリブによりチェーンカバーの剛性が高められることから同チェーンカバー固有の共振周波数を高めることができる。それゆえ、チェーンカバーが共振し難い周波数帯域が低周波数側に広くなる分だけ、内燃機関から伝達される振動による共振が抑制されるようになる。また、リブの内側面と剛性体との間に形成される油膜により、リブの内側面と剛性体の側面とが急速に接近する場合においては、急速に接近する2面の間に配置された油が接近速度に応じた抵抗力を生じるスクイズ効果により、振動抑制機能が発揮される。この結果、上述するリブの剛性により低い周波数帯域における共振が抑制され、上述する油膜のスクイズ効果により高い周波数帯域を含めた広い範囲における共振が抑制される。そのため、1つのリブと1つの剛体とからなる簡単な構造により少ない占有スペースで広い周波数範囲に対応した防振性を得ることができるため、対象周波数ごとに防振部材を設ける必要がなく、限られたスペースにおいて高い振動減衰効果を得ることができ、ひいてはチェーンカバーとして振動減衰効果を向上させることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記導入孔が前記タイミングチェーンと対向する面である前記カバー本体の内側面と前記リブ内空間との間を連通し、前記タイミングチェーンの側から前記カバー本体の内側面に飛散した潤滑油を前記カバー本体の内側面から前記リブ内空間へ導入することを要旨とする。
【0010】
このような構成によれば、タイミングチェーンに供給した潤滑油の外部への飛散をこのようなカバーにより防止することができ、かつタイミングチェーンなどが飛散させた潤滑油がカバー本体の内側面を流れて導入孔からリブ内空間に導入されるようになる。これにより、内側面と剛性体との間へ常時潤滑油の供給がなされるようになり、このようなチェーンカバーの実現を容易にすることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記導入孔が前記リブ内空間の鉛直方向上方と外部とを連通することを要旨とする。
このような構成によれば、リブ内部のリブ内空間に導入された潤滑油が同リブ内空間に滞留されるようになり、リブの内側面と剛性体との間に常時潤滑油による油膜が形成されるようになる。これにより、内側面と剛性体との間の潤滑油の保持が容易となり、このようなチェーンカバーの実現を容易にすることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記リブは、前記カバー本体に直線状に形成されてその長手方向の一端が開口された同長手方向に延びる孔を有し、前記開口が蓋体により閉じられることにより前記長手方向に延びる前記リブ内空間を形成しており、前記剛性体が、前記開口から前記リブ内空間に挿入可能に形成された前記長手方向に延びる棒状であることを要旨とする。
【0013】
このような構成によれば、リブ内空間への剛性体の配置がきわめて容易になり、このようなカバーの実現を容易にする。
請求項5に記載の発明は、前記剛性体がパイプ状であることを要旨とする。
【0014】
このような構成によれば、剛性体の形成の自由度が高められ、このようなカバーの実現を容易にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体化したチェーンカバーについてその一実施形態を図1〜図4に従って説明する。図1は、内燃機関のエンジンブロックに取り付けられた状態のチェーンカバーを、同チェーンカバーを挟んで内燃機関の反対側から見た正面構造を示す図であり、図2は、図1における2−2線断面構造を示す図である。
【0016】
図1に示されるように、内燃機関の回転軸であるクランクシャフト11と、各一対のカムシャフト12,13とには環状のタイミングチェーン14が所定の張力をもってそれらを結ぶかたちに巻き掛けられており、クランクシャフト11の回転が伝達される各カムシャフト12,13がクランクシャフト11の回転に同期して回転されるようになっている。このタイミングチェーン14は、図示しないオイルパンに滞留されている機関用の潤滑油にて潤滑されており、同タイミングチェーン14の張力は油圧式テンショナにて調整される。
【0017】
エンジンブロックにおけるタイミングチェーン14の側(正面側)には、タイミングチェーン14を覆うようにカバー本体であるチェーンカバー15が固定されている。図2に示されるように、チェーンカバー15は、その外周部17の内側に形成された合わせ面17bを通じてエンジンブロックに固定されるとともに、タイミングチェーン14の回転に伴ってそのタイミングチェーン14から飛び散る潤滑油を外部に飛散させないようにしている。そして内燃機関の運転により回転されるタイミングチェーン14から飛散した潤滑油は、チェーンカバー15の内側である内壁15bに付着した後に同内壁15bに沿って流れ落ち、チェーンカバー15の下方に設けられたオイルパンに戻るようになっている。
【0018】
図1に示されるように、チェーンカバー15の下側中央にはクランクシャフト11の挿通される挿通孔16が形成されている。チェーンカバー15の外壁15aにおける挿通孔16の上方には、外壁15aの広範囲にわたる2本のリブ18が正面側から見てX字状に交差するように外壁15aから突出しており、2本のリブ18の交点には上下方向に延びる1つのメインリブ20が形成されている。チェーンカバー15は軽量化と省スペース化との要請から外壁15a(内壁15b)の肉厚が薄く形成されており、上記リブ18及びメインリブ20によりその剛性が補償されている。
【0019】
図2に示されるように、上記メインリブ20は上部に開口を有して上下方向に延びる有底筒状に形成されており、外壁15aから外側へ突出してメインリブ20の上下方向略全幅にわたる外壁凸部20aと、内壁15bから内側へ膨らんでメインリブ20の上下方向略全幅にわたる内壁凸部20bとを有する。これら外壁凸部20aと内壁凸部20bとにより挟まれたメインリブ20の内部には、水平方向における断面が円形状のリブ内側面21がメインリブ20の上下方向の略全幅にわたり形成されている。メインリブ20の開口部には上蓋23が取り付けられており、メインリブ20の内部には前記リブ内側面21とこの上蓋23とにより囲まれた内部空間であるリブ内空間が形成されている。
【0020】
こうした構成により、チェーンカバー15の外壁15aは2本の補強用のリブ18とメインリブ20とによりその剛性が高められる。また、チェーンカバー15が大きな騒音を発するか否かの指標であるチェーンカバー15固有の共振周波数は、こうしたリブによる補強のなされていない場合(例えば図4においてNL1)に比べて高くされる(例えば図4においてNL2)。そして、このチェーンカバー15の共振周波数が内燃機関などから伝達される振動の周波数帯域よりも高くなることにより、チェーンカバー15は内燃機関
からの振動による共振を抑制することができる。
【0021】
また本実施形態では、チェーンカバー15においてメインリブ20は、その外壁凸部20aが外壁15aから外側に大きく突出される一方、その内壁凸部20bの内壁15bから内側への突出が小さくされて、リブ内空間の内壁15b側への突出が小さく形成されている。これにより相対向するタイミングチェーン14と内壁15bとの間の距離を短くすることができるようになる。また、タイミングチェーン14やそれが巻き掛けられるスプロケットにその可動に伴う異常な振動を生じたときであれ、それらと内壁15bの突出が小さいチェーンカバー15とが接するおそれや、接したときに双方に生じる磨耗や欠損のおそれなどが低減されて、このようなチェーンカバー15を有する内燃機関としての信頼性も向上される。
【0022】
メインリブ20のリブ内空間には、同リブ内空間の断面形状と略同様の円形断面を有する円柱状の剛性体である剛性棒30が上部の開口部からの挿入により収容されている。剛性棒30は、例えばチェーンカバー15と同様の金属材料から形成され、リブ内空間に配置された状態においてその外側面とリブ内側面21との間に微小間隔(クリアランス)が形成されるようにされている。なお、チェーンカバー15が静止している場合においてはリブ内側面21と剛性棒30との間の周方向に形成されるクリアランスは、その周方向において略均等の間隔を有するようになっている。
【0023】
図3に示されるように、メインリブ20の上部における内壁15bには、メインリブ20のリブ内空間とチェーンカバー15の内側とを連通される導入孔25(図3参照)が貫通形成されている。内燃機関の運転中にタイミングチェーン14から飛散してチェーンカバー15の内壁15bに付着した潤滑油の一部は、内壁15bを流れ落ちる際にこの導入孔25を通じてメインリブ20のリブ内空間に導入される。リブ内空間に導入された潤滑油は、リブ内側面21と剛性棒30の側面との間のクリアランスに侵入して同クリアランスに沿ってリブ内空間全体に広がり、リブ内側面21と剛性棒30の外側面との間にこの潤滑油からなる油膜を形成する。すなわちリブ内側面21と剛性棒30の外側面との間には、剛性棒30の周方向に略均等に形成されたクリアランスによって、略同じ微小な厚みを有する油膜が同周方向に形成される。また、上記導入孔25がリブ内空間における上部に形成されていることから同リブ内空間には潤滑油が常時滞留する。
【0024】
次に、このようなチェーンカバー15に生じる共振について説明する。
図3は、図2の3−3線断面におけるチェーンカバー15の模式図であり、(a)は外壁15aが振動により外側に膨らんだときの態様を示し、(b)は外壁15aが振動により内側にへこんだときの態様を示している。なお説明の便宜上、メインリブ20の上部(図3において上側)に配設される上蓋23を省略するとともに、各部材の大きさや形状などを説明に適する態様に変更している。
【0025】
図3(a)において、チェーンカバー15が外側に膨らんだとき、メインリブ20はそれに応じて変形されるが、リブ内空間の剛性棒30はその周囲に形成されたクリアランスがなくなるまではリブ内側面21からの応力が直接には伝達されない。すなわち、メインリブ20が外側に膨らむように変形するものの剛性棒30は変形されない。
【0026】
このとき、リブ内空間の上部と下部とにおいては、剛性棒30の前側(矢印Fの向き)の外周面である前側外周面30aとリブ内側面21の前側の内周面である前側内周面21aとが所定のクリアランスよりも接近する。それとともに剛性棒30の後側(矢印Bの向き)の外周面である後側外周面30bとリブ内側面21の後側の内周面である後側内周面21bとが所定のクリアランスよりも離間する。一方、リブ内空間の長手方向中央部においては、剛性棒30の前側外周面30aとリブ内側面21の前側内周面21aとが所定の
クリアランスよりも離間して、それとともに剛性棒30の後側外周面30bとリブ内側面21の後側内周面21bとが所定のクリアランスよりも接近する。
【0027】
上述するように、こうしたクリアランスには油膜が形成されていることから、クリアランスの減少に伴ってそこに充填され油膜を形成している潤滑油は、リブ内空間をクリアランスの増加している方向に流動される。すなわちリブ内空間の上部において潤滑油は、リブ内空間の長手方向中央部の方向(図において下向き矢印)や、剛性棒30の後側外周面30bの方向(図において左向き矢印)などに流動する。また、リブ内空間の下部においては、リブ内空間の長手方向中央部の方向(図において上向き矢印)や、剛性棒30の後側外周面30bの方向(図において左向き矢印)などに流動する。さらに、リブ内空間の中央部においては、リブ内空間の上下の方向(部分拡大図において上向き及び下向き矢印)の方向や、剛性棒30の前側外周面30aの方向(部分拡大図において右向き矢印)などに流動する。
【0028】
このとき、クリアランスを所定の速度で相対的に減少させる2面を形成することとなる剛性棒30及びリブ内側面21の各周面の各部分には、そのクリアランスから流出させられる潤滑油の動粘性により、クリアランスを減少させる方向に対する抵抗力が生じる。例えば、クリアランスに油膜を有する2面が急速に接近してその2面の間のクリアランスが急速に減少するような場合、一般にはその接近速度に比例した抵抗力が油膜から発生する(スクイズ効果)。上述の通り前側外周面30aと前側内周面21aとが急速に接近し、後側外周面30bと後側内周面21bとが急速に接近することから、急速に接近する各部分においては剛性棒30とリブ内側面21との間の油膜がスクイズ効果を発生させる。このようなスクイズ効果の発生によって、リブ内側面21の振動であるチェーンカバー15の振動が剛性棒30とリブ内側面21との間の油膜により強制的に減衰されるようになり、チェーンカバー15における外側へ膨らもうとする振動が抑制される。
【0029】
また、図3(b)において、チェーンカバー15が内側にへこんだとき、メインリブ20はそれに応じて変形されるが、このときもリブ内空間の剛性棒30はその周囲に形成されたクリアランスがなくなるまではリブ内側面21からの応力が直接には伝達されない。すなわち、メインリブ20が内側に膨らむように変形するものの剛性棒30は変形されない。
【0030】
このとき、リブ内空間の長手方向上部と下部においては、剛性棒30の後側外周面30bとリブ内側面21の後側内周面21bとが所定のクリアランスよりも接近するとともに、剛性棒30の前側外周面30aとリブ内側面21の前側内周面21aとが所定のクリアランスよりも離間する。一方、リブ内空間の長手方向中央部においては、剛性棒30の後側外周面30bとリブ内側面21の後側内周面21bとが所定のクリアランスよりも離間して、それとともに剛性棒30の前側外周面30aとリブ内側面21の前側内周面21aとが所定のクリアランスよりも接近する。
【0031】
ここでも、クリアランスの減少に伴ってそこに充填され油膜を形成している潤滑油は、リブ内空間をクリアランスの増加している方向に流動される。すなわちリブ内空間の上部において潤滑油は、リブ内空間の長手方向中央部の方向(図において下向き矢印)や、剛性棒30の前側外周面30aの方向(図において右向き矢印)などに流動する。また、リブ内空間の下部においては、リブ内空間の長手方向中央部の方向(図において上向き矢印)や、剛性棒30の前側外周面30aの方向(図において右向き矢印)などに流動する。さらに、リブ内空間の中央部においては、リブ内空間の上下の方向(部分拡大図において上向き及び下向き矢印)の方向や、剛性棒30の後側外周面30bの方向(部分拡大図において左向き矢印)などに流動する。
【0032】
このとき、クリアランスを所定の速度で相対的に減少させる2面を形成することとなる剛性棒30及びリブ内側面21の各周面の各部分には、スクイズ効果が生じてリブ内側面21と剛性棒30との間に生じている振動が強制的に減衰されるようになり、すなわちチェーンカバー15における内側へ凹む振動が抑制されるようになる。
【0033】
これにより、大きな騒音の要因となる低い周波数よりも高い周波数に共振周波数が変化されたチェーンカバー15は、そこに生じる高い周波数への共振についてもさらに減衰されるようになり、図4のグラフNL3に示すように、共振により生じる騒音の音圧が抑制されるようになる。すなわち、このチェーンカバー15は、リブにより共振周波数を高めることによる騒音の抑制効果と、高められた共振周波数における共振の抑制による騒音の抑制効果との二つの騒音の抑制効果により、そこから放射される騒音が効率よく抑制されるようになる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態のチェーンカバーによれば、以下に列記するような効果が得られるようになる。
(1)上記実施形態によれば、チェーンカバー15に形成されたメインリブ20がチェーンカバー15の剛性を高めることによりチェーンカバー15の共振周波数を高くすることができる。それゆえチェーンカバー15は内燃機関からの振動による共振を抑制することができる。またメインリブ20のリブ内空間に収容された剛性棒30がリブ内側面21と剛性棒30との間に油膜を形成するために、チェーンカバー15が振動するときには、剛性棒30とリブ内側面21との間の距離の増減が抑制される。これらの結果、メインリブ20の剛性により低い周波数帯域における共振が抑制され、剛性棒30とリブ内側面21との間の油膜により高い周波数帯域を含めた広い範囲における共振が抑制される。そのため、1つのメインリブ20と1つの剛性棒30とからなる簡単な構造により少ない占有スペースで広い周波数範囲に対応した防振性を得ることができるため、対象周波数ごとに防振部材を設ける必要がなく、限られたスペースにおいて高い振動減衰効果を得ることができ、ひいてはチェーンカバー15として振動減衰効果を向上させることができる。
【0035】
(2)上記実施形態によれば、タイミングチェーン14が飛散させた潤滑油が導入孔25からリブ内空間に導入されるようになる。これにより、リブ内側面21と剛性棒30との間へ常時潤滑油の供給がなされるようになる。
【0036】
(3)上記実施形態によれば、導入孔25がリブ内空間の鉛直方向上方とチェーンカバー15の内側とを連通することから、リブ内空間に導入された潤滑油が同リブ内空間に滞留されるようになり、リブの内側面と剛性体との間に常時潤滑油による油膜が形成されるようになる。
【0037】
(4)上記実施形態によれば、剛性棒30がメインリブ20の上部の開口部からの挿入によりリブ内空間に収容されていることから、リブ内空間への剛性体の配置が極めて容易になる。
【0038】
なお、上記実施形態は、例えば以下のような態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、円柱状の剛性棒30を用いたが、剛性体としては円柱状に限られるものではなく、例えばパイプのような形状のものでもよい。これにより、このようなチェーンカバーを形成するときの自由度が高められる。
【0039】
・上記実施形態では、剛性棒30はチェーンカバー15と同様の部材により形成されたが、これに限らず、剛性体としては所定の剛性を有するとともに内燃機関からの振動や熱に耐えることができる材料によるものであれば、他の金属や特殊な樹脂などから形成されたものであってもよい。これにより、このようなチェーンカバーの構成の自由度が高めら
れる。
【0040】
・上記実施形態では、剛性棒30は断面円形状に形成されたがこれに限らず、剛性体としてはその断面形状が楕円形状や多角形状および凹みを有するような形状などとしてもよい。このような多様な断面形状の剛性体であれリブ内空間の断面形状がそれら剛性体に適合するような断面形状となるようにリブの内側面が形成されることにより、剛性体と内側面との間に油膜が形成されるようになり、このようなチェーンカバーの形状や位置などにおける自由度が高められる。
【0041】
・上記実施形態では、剛性棒30がメインリブ20上部の開口部から挿入されるかたちでメインリブ20のリブ内空間に配置されるようにしたが、これに限らず、剛性体がリブ内空間に配置される方法はどのような方法でもよい。すなわちこのようなチェーンカバーにおけるメインリブの構造や構造体の設置方法などの自由度が高められる。
【0042】
・上記実施形態では、メインリブ20のリブ内空間とチェーンカバー15の内側とを連通させる導入孔25がメインリブ20の上部に形成されたが、導入孔はチェーンカバーの内側から潤滑油をリブ内空間に導入することができるものであれば必ずしもメインリブの上部に設けられなくてもよい。例えば導入孔がメインリブの中央部や下部に設けられた場合であれ、クリアランスに潤滑油が浸透して油膜を形成することができる。これにより、チェーンカバーにおけるメインリブの形成や配置の自由度が高められる。
【0043】
・上記実施形態では、メインリブ20は直線状に形成されたが、そのリブ内空間に剛性体を収容することができるものであれば、その形状については特に制限はない。例えば、円弧状に形成されたものであっても、上部が広く下部が狭くなっておりそこに楔状の剛性体を配置するようなかたちであってもよい。これによりチェーンカバーにおけるメインリブの形成や配置の自由度が高められる。
【0044】
・上記実施形態では、メインリブ20はチェーンカバー15の縦方向略中央に形成されたが、これに限らず、メインリブはチェーンカバーにおいて例えば障害物を避けるなどのために、上下左右のいずれかの方向に偏るかたちで設けられてもよい。また、メインリブ20はチェーンカバー15に対して上下方向に延びるかたちに形成されたが、これに限らず、メインリブは例えば斜め方向や横方向などいずれの方向に延びるかたちに形成されてもよい。これらのことによりチェーンカバーにおけるメインリブの形成や配置の自由度が高められる。
【0045】
・上記実施形態では、チェーンカバー15の内側とリブ内空間とを連通するかたちで導入孔25を形成したが、これに限らず、リブ内空間に潤滑油が供給されてクリアランスに油膜が形成されるのであれば、チェーンカバー15の外側とリブ内空間とを連通するかたちで導入孔が形成されてもよい。これによりチェーンカバーにおけるメインリブの形成や配置の自由度が高められる。
【0046】
・上記実施形態では、メインリブ20は外壁15aに大きく突出するように形成されたが、これに限らず、メインリブは外壁と内壁とに同様に突出するようなかたちに形成されても、内壁側に大きく突出するようなかたちに形成されてもよい。これにより、チェーンカバーにおけるメインリブの形成や配置の自由度が高められる。
【0047】
・上記実施形態では、チェーンカバー15をダブルオーバーヘッドカムシャフト(DOHC)構造を有する内燃機関に適用したが、これに限らず、チェーンカバー15をシングルオーバーヘッドカムシャフト(SOHC)構造を有する内燃機関に適用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施形態のチェーンカバーについてその正面構造を示す正面図。
【図2】同実施形態におけるチェーンカバーの図1の2−2線における断面の構造を示す断面図。
【図3】同実施形態における振動抑制構造を示す模式図であって、(a)はチェーンカバーの壁面が振動により前側に移動したときの図、(b)はチェーンカバーの壁面が振動により後側に移動したときの図。
【図4】同実施形態におけるチェーンカバーから放射される騒音の音圧と共振周波数との関係。
【符号の説明】
【0049】
11…クランクシャフト、12,13…カムシャフト、14…タイミングチェーン、15…チェーンカバー、15a…外壁、15b…内壁、16…挿通孔、17…外周部、17b…合わせ面、18…補強用のリブ、20…メインリブ、20a…外壁凸部、20b…内壁凸部、21…リブ内側面、21a…前側内周面、21b…後側内周面、23…蓋体としての上蓋、25…導入孔、30…剛性棒、30a…前側外周面、30b…後側外周面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するタイミングチェーンを覆うカバー本体を備えたチェーンカバーであって、
前記カバー本体に形成されたリブと、
前記リブの内部に形成された空間であるリブ内空間に収容された剛性体と、
前記リブ内空間と外部との間を連通して前記リブの内側面と前記剛性体との間に油膜を形成する油を前記リブ内空間へ導入する導入孔とを備えたことを特徴とするチェーンカバー。
【請求項2】
前記導入孔が、前記タイミングチェーンと対向する面である前記カバー本体の内側面と前記リブ内空間との間を連通し、前記タイミングチェーンの側から前記カバー本体の内側面に飛散した潤滑油を前記カバー本体の内側面から前記リブ内空間へ導入する
請求項1に記載のチェーンカバー。
【請求項3】
前記導入孔が、前記リブ内空間の鉛直方向上方と外部とを連通する
請求項1又は2に記載のチェーンカバー。
【請求項4】
前記リブは、前記カバー本体に直線状に形成されてその長手方向の一端が開口された同長手方向に延びる孔を有し、前記開口が蓋体により閉じられることにより前記長手方向に延びる前記リブ内空間を形成しており、
前記剛性体が、前記開口から前記リブ内空間に挿入可能に形成された前記長手方向に延びる棒状である
請求項1〜3のいずれか一項に記載のチェーンカバー。
【請求項5】
前記剛性体がパイプ状である
請求項1〜4のいずれか一項に記載のチェーンカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−43571(P2010−43571A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206905(P2008−206905)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】