説明

チェーンテンショナ

【課題】単純な構造で製作コストを低減し、チェーン張力過多によって生じるプランジャの収容方向の動きを規制せずプランジャの焼きつきを防止してチェーンへの負担や騒音を低減し、バックラッシュ量を小さくして始動時打音を低減するとともに、小型化が可能で、組み付け、取り外し、メンテナンスを容易に行うことができるチェーンテンショナを提供すること。
【解決手段】プランジャ120の外周に設けられた複数の凹凸溝121とテンショナボディ110のリング溝115に収容されCリング130によってラチェット機構を構成したチェーンテンショナ100において、リング溝115の両側壁がそれぞれ角度の異なる傾斜面に形成されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディにプランジャが摺動自在に挿入され、突出方向に付勢されて、チェーンの張力を適正に保持するチェーンテンショナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンルーム内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケット間に無端懸回したローラチェーン等の伝動チェーンを、走行案内シューによって摺動案内を行うチェーンガイド機構において、張力を適正に保持するために、固定されたテンショナボディから付勢力によって突出方向に突出するプランジャを有するチェーンテンショナによって走行案内シューを有するテンショナレバーを付勢するものが周知である。
【0003】
これらのチェーンテンショナにおいて、通常、付勢手段としてプランジャ収容穴に圧油を供給することで油圧ダンピングを働かせてプランジャの収容側への動きを規制しているが、エンジン始動時等には圧油が供給されるまでの間はダンピングが生じずプランジャが大きく後退し始動時打音の発生原因となるため、プランジャの外周に設けられた複数の凹凸溝とテンショナボディに設けられた係合部材によってラチェット機構を構成し、プランジャの収容側への動き規制するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3929680号公報(第4、5頁、図1乃至図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような公知のチェーンテンショナのラチェット機構は、エンジンの温度変化等で発生するチェーン張力過多によって生じるプランジャの収容方向の動きも規制してしまい、プランジャが焼き付いたり、チェーンが過大な張力のまま走行してチェーンへの負担や騒音が増加するという問題があった。
【0006】
そのため、チェーン張力過多によって生じるプランジャの収容方向の動きの想定される最大値にあわせてラチェット機構に所定のバックラッシュ量を設けることが行われているが、当該バックラッシュ量が大きいほど始動時打音の低減効果が少なくなるという問題があった。
【0007】
また、テンショナボディに設けられた係合部材が、テンショナボディの外部に突出部を有するカム機構で構成された場合、構造が複雑でテンショナボディの外形が大型化するとともに、組み付けや取り外し可能な形状とすることが困難であった。
【0008】
さらに、様々な使用条件によってラチェット機構の特性の異なるものを設計する必要があるが、チェーンテンショナ全体を使用条件に応じた特性に設計する必要があり、製作コストが増加するという問題があった。
【0009】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、単純な構造で製作コストを低減し、チェーン張力過多によって生じるプランジャの収容方向の動きを規制せずプランジャの焼きつきを防止してチェーンへの負担や騒音を低減し、バックラッシュ量を小さくして始動時打音を低減するとともに、小型化が可能で、組み付け、取り外し、メンテナンスが容易なチェーンテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本請求項1に係る発明は、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、該プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、前記プランジャ収容穴からプランジャを突出方向に付勢する付勢ばねを備え、前記プランジャの外周に設けられた複数の凹凸溝と前記テンショナボディに設けられた係合部材によってラチェット機構を構成するチェーンテンショナにおいて、前記係合部材が、弾性リングであり、前記プランジャ収容穴が、開放端部近傍の内周面に前記弾性リングを拡径可能に収容保持し、前記プランジャの突出方向側の突出側壁と収容方向側の収容側壁とをそれぞれ傾斜面とするように形成された円周状のリング溝を有し、前記突出側壁と収容側壁の傾斜面が、前記弾性リングを挟んでラチェット機構を構成する前記プランジャの凹凸溝の対応する傾斜面との相対角度をそれぞれ異なる傾斜となるように形成されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0011】
本請求項2に係る発明は、請求項1に記載されたチェーンテンショナの構成に加えて、前記弾性リングが、Cリングであることにより、前記課題を解決するものである。
【0012】
本請求項3に係る発明は、請求項1に記載されたチェーンテンショナの構成に加えて、前記弾性リングが、外周側にレバー部を延設した環状リングであることにより、前記課題を解決するものである。
【0013】
本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載されたチェーンテンショナの構成に加えて、前記突出側壁と前記プランジャの凹凸溝の対応する傾斜面との相対角度が、前記付勢ばねの突出方向への付勢力によって弾性リングが拡径して凹凸溝の凸部を乗り越える角度に設定されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0014】
本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載されたチェーンテンショナの構成に加えて、前記収容側壁と前記プランジャの凹凸溝の対応する傾斜面との相対角度が、チェーン始動時の前記プランジャに対する収容側への荷重によっては弾性リングが拡径して凹凸溝の凸部を乗り越えず、チェーン張力過多による前記プランジャに対する収容側への荷重によって弾性リングが拡径して凹凸溝の凸部を乗り越える角度に設定されていることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0015】
本請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載されたチェーンテンショナの構成に加えて、前記テンショナボディが、収容側端部からの一定部分を除いて円筒状の外形の取付挿入部を有し、該円筒状の外形の外周面に雄ねじ部が形成されていることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0016】
本請求項1に係る発明のチェーンテンショナは、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、該プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、プランジャ収容穴からプランジャを突出方向に付勢する付勢ばねを備え、プランジャの外周に設けられた複数の凹凸溝とテンショナボディに設けられた係合部材によってラチェット機構を構成するチェーンテンショナにおいて、係合部材が弾性リングであり、プランジャ収容穴が開放端部近傍の内周面に弾性リングを拡径可能に収容保持していることにより、弾性リングで構成された係合部材がプランジャ収容穴内に収容されてラチェット機構として作用するため、テンショナボディを小型化することができる。
【0017】
また、プランジャの突出方向側の突出側壁と収容方向側の収容側壁とをそれぞれ傾斜面とするように形成された円周状のリング溝を有し、突出側壁と収容側壁の傾斜面が弾性リングを挟んでラチェット機構を構成するプランジャの凹凸溝の対応する傾斜面との相対角度をそれぞれ異なる傾斜となるように形成されていることにより、リング溝の突出側壁と収容側壁の傾斜角度を設定するだけでプランジャの突出側、収納側双方向のラチェット機構の規制力を個別に容易に設定することができるため、単純な構造で多様な使用条件に応じた設計を行うことができ、製作コストを低減することができる。
【0018】
本請求項2に係る発明のチェーンテンショナは、請求項1に係るチェーンテンショナが奏する効果に加えて、弾性リングがCリングであることにより、テンショナボディの外部に突出部を設ける必要がなく、単純な構造でリング溝内での拡径や縮径が容易に行われるため、さらにテンショナボディを小型化することができるとともに、弾性の設定を容易に正確に行うことができるため、さらに製作コストを低減することができる。
【0019】
本請求項2に係る発明のチェーンテンショナは、請求項1に係るチェーンテンショナが奏する効果に加えて、弾性リングが外周側にレバー部を延設した環状リングであることにより、単純な構造でリング溝内での拡径や縮径が容易に行われるため、弾性の設定を容易に正確に行うことができるとともに、レバー部によって作業者の操作で簡単に拡径や縮径を行うことができるため、組み付け、取り外し、メンテナンスを容易に行うことができる。
【0020】
本請求項4に係る発明のチェーンテンショナは、請求項1乃至請求項3に係るチェーンテンショナが奏する効果に加えて、突出側壁とプランジャの凹凸溝の対応する傾斜面との相対角度が、付勢ばねの突出方向への付勢力によって弾性リングが拡径して凹凸溝の凸部を乗り越える角度に設定されていることにより、チェーンの伸び等に応じてプランジャが容易に突出することができるため、凹凸溝を細かくしリング溝の溝幅を小さくしてプランジャの収容側への動きを規制するラチェット機構のバックラッシュ量を小さくし、始動時打音をさらに低減することができる。
【0021】
本請求項5に係る発明のチェーンテンショナは、請求項1乃至請求項4のいずれかに係るチェーンテンショナが奏する効果に加えて、収容側壁とプランジャの凹凸溝の対応する傾斜面との相対角度が、チェーン始動時のプランジャに対する収容側への荷重によっては弾性リングが拡径して凹凸溝の凸部を乗り越えず、チェーン張力過多によるプランジャに対する収容側への荷重によって弾性リングが拡径して凹凸溝の凸部を乗り越える角度に設定されていることにより、チェーン張力過多によって生じるプランジャの収容方向の動きを規制することがないため、プランジャの焼きつきを防止してチェーンへの負担や騒音を低減することができるとともに、始動時の打音を低減することができる。
【0022】
本請求項6に係る発明のチェーンテンショナは、請求項1乃至請求項5のいずれかに係るチェーンテンショナが奏する効果に加えて、テンショナボディが収容側端部からの一定部分を除いて円筒状の外形の取付挿入部を有し、該円筒状の外形の外周面に雄ねじ部が形成されていることにより、テンショナボディの小型化が可能となるとともに、エンジンルームを開放することなく外から組み付けや取り外し可能とすることができ、組立やメンテナンスが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のチェーンテンショナの使用形態の説明図。
【図2】本発明の一実施例であるチェーンテンショナの側面図。
【図3】図2のチェーンテンショナのプランジャ突出時の力関係の説明図。
【図4】図2のチェーンテンショナのプランジャ突出時の動作説明図。
【図5】図2のチェーンテンショナのプランジャ収容時の力関係の説明図。
【図6】図2のチェーンテンショナのプランジャ収容時の動作説明図。
【図7】図2のチェーンテンショナのプランジャのバックラッシュの説明図。
【図8】本発明のチェーンテンショナの弾性リングの側面図。
【図9】本発明の他の実施例のチェーンテンショナの弾性リングの説明図。
【図10】本発明のさらに他の実施例のチェーンテンショナの弾性リングの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、該プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、プランジャ収容穴からプランジャを突出方向に付勢する付勢ばねを備え、プランジャの外周に設けられた複数の凹凸溝とテンショナボディに設けられた係合部材によってラチェット機構を構成するチェーンテンショナにおいて、係合部材が弾性リングであり、プランジャ収容穴が開放端部近傍の内周面に前記弾性リングを拡径可能に収容保持し、プランジャの突出方向側の突出側壁と収容方向側の収容側壁とをそれぞれ傾斜面とするように形成された円周状のリング溝を有し、突出側壁と収容側壁の傾斜面が弾性リングを挟んでラチェット機構を構成するプランジャの凹凸溝の対応する傾斜面との相対角度をそれぞれ異なる傾斜となるように形成され、単純な構造で製作コストを低減でき、チェーン張力過多によって生じるプランジャの収容方向の動きを規制せずプランジャの焼きつきを防止してチェーンへの負担や騒音を低減でき、バックラッシュ量を小さくして始動時打音を低減できるとともに、小型化が可能で、組み付け、取り外し、メンテナンスを容易に行うことができるという効果を奏するものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【0025】
本発明のチェーンテンショナのテンショナボディやプランジャの具体的な素材は、チェーンの張力を適正に保持するための強度を有するものであれば如何なるものでも良く、強度、加工性、経済性の観点から鋼材や鋳鉄等の鉄系材料を用いるのが好ましい。
また、本発明のチェーンテンショナの付勢手段は、ばね等の弾性部材や油圧等の高圧流体、あるいはそれらを組み合わせたもの等、如何なるものであっても良い。
【実施例1】
【0026】
以下に、本発明の実施例であるチェーンテンショナについて、図面に基づいて説明する。
本発明のチェーンテンショナ100は、例えばエンジンのタイミングシステムに使用される。
エンジンのタイミングシステムは、図1に示すように、エンジンブロックEに形成されるエンジンルーム内のクランク軸に取付けた駆動スプロケットS1とカム軸に取付けた従動スプロケットS2間に無端懸回した伝動チェーンCHを用いて、伝動チェーンCHの張力を適正に保持して伝動チェーンCHをガイドするテンショナレバーTと伝動チェーンCHの走行を案内する固定ガイド部材Gとが押接される。
【0027】
テンショナレバーTは、エンジンルームに取付軸Bで揺動自在に取付けられ、エンジンブロックEにエンジンルーム外から挿入固定されたチェーンテンショナ100により押圧付勢されており、固定ガイド部材Gはエンジンルームに取付軸B1、B2で固定されている。
【0028】
本発明の一実施例であるチェーンテンショナ100は、図2に示すように、テンショナボディ110と、該テンショナボディ110に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャ120と、弾性リングであるCリング130と、プランジャ120をテンショナボディ110から突出する方向に付勢するコイルばね140と、圧油の逆流を阻止するチェックバルブ150を有している。
【0029】
テンショナボディ110は、プランジャ120が摺動自在に挿入される一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴111を有し、該プランジャ収容穴111の開放端部近傍の内周面には、弾性リングであるCリング130を拡径可能に収容保持する円周状のリング溝115が設けられている。
【0030】
テンショナボディ110の外形は、プランジャ120収容方向の端部に工具を用いて回転させるためのボルトヘッド部114と、エンジンブロックEにエンジンルーム外から挿入するために円筒状に形成された取付挿入部112とからなり、該取付挿入部112にはエンジンブロックEに設けられた雌ねじ孔と螺合する雄ねじ部113が設けられている。
また、プランジャ収容穴111の底面から取付挿入部112のボルトヘッド部114近傍の側面からプランジャ収容穴111の底面に連通する圧油供給孔116が設けられている。
【0031】
プランジャ120は、テンショナボディ110のプランジャ収容穴111に摺動自在に挿入される円筒形状に構成されており、付勢手段であるコイルばね140を収容する一方が開放されたコイルばね収容孔127を有している。
プランジャ120の外周部には、テンショナボディ110のリング溝115に収容されたCリング130が係合してラチェット機構を構成する凹凸溝121が設けられている。
【0032】
Cリング130は、図8に示すように、円環の一部円弧部を開放部131として切欠きくことで縮径、拡径可能な断面円形の弾性材料で構成されており、自由状態(力が加わらず縮径、拡径していない状態)で、外周径DLがテンショナボディ110のプランジャ収容穴111の内径より大きく、内周径DSがプランジャ120の凹凸溝121の凸部分の外径より小さく形成されている。
【0033】
これらの構成部材を有するチェーンテンショナ100は、テンショナボディ110のプランジャ収容穴111にプランジャ120が収容され、プランジャ120のコイルばね収容孔127に収容されたコイルばね140によって、プランジャ120がテンショナボディ110から突出する方向に付勢されてチェーンの張力を適正に保持するように構成されている。
【0034】
プランジャ収容穴111の底部にはボルトヘッド部114近傍の側面から連通する圧油供給孔116が設けられており、チェックバルブ150を介して供給される圧油によってもプランジャ120をテンショナボディ110から突出する方向に付勢しつつ、プランジャ120が往復動の動きを緩衝するダンパとして機能する。
コイルばね140のプランジャ収容穴111の端面はチェックバルブ150に当接している。
【0035】
そして、図1に示すように、テンショナボディ110の取付挿入部112がエンジンブロックEにエンジンルーム外から挿入されてボルトヘッド部114を回転させることで雄ねじ部113によって、チェーンテンショナ100はエンジンブロックEに設けられた雌ねじ孔に螺合固定され、突出する方向に付勢されたプランジャ120の突出端がテンショナレバーTを伝動チェーンCH側に押圧することでチェーンの張力を適正に保持する。
【0036】
次に、チェーンテンショナ100のテンショナボディ110のリング溝115に収容されたCリング130とプランジャ120の凹凸溝121とで構成されるラチェット機構の動作について説明する。
【0037】
プランジャ120が突出方向に摺動した場合、図3に示すように、Cリング130がプランジャ120の凹凸溝121の突出側傾斜面121fとテンショナボディ110のリング溝115の突出側傾斜壁115fによって挟まれる状態となる。
【0038】
このとき、突出方向への付勢力F1は、凹凸溝121の突出側傾斜面121fからCリング130に対して、凹凸溝121の突出側傾斜面121fとCリング130の接触点の法線方向の分力Fhとして伝達され、該分力FhがさらにCリング130からリング溝115の突出側傾斜壁115fに伝達される際に、Cリング130とリング溝115の突出側傾斜壁115fの接触点の接線方向の前記分力Fhのさらなる分力F2がCリング130を拡径させる力として働く。
【0039】
このCリング130を拡径させる力として働く分力F2の大きさは、凹凸溝121の突出側傾斜面121fの角度θ1とリング溝115の突出側傾斜壁115fの角度θ2の関係で決まる。
【0040】
したがって、チェーンに張力が不足している状態、すなわち、コイルばね140の付勢力がほぼそのまま突出方向への付勢力F1となる状態で、図4に示すように、前記分力F2がCリング130を拡径させて凹凸溝121の凸部がCリング130を超えて前進できるように上記角度θ1、θ2が設定されることで、チェーンに適正な張力が付与される位置までプランジャ120が突出可能となる。
【0041】
プランジャ120が収容方向に摺動した場合、図5に示すように、Cリング130がプランジャ120の凹凸溝121の収容側傾斜面121rとテンショナボディ110のリング溝115の収容側傾斜壁115rによって挟まれる状態となる。
【0042】
このとき、収容方向への付勢力P1は、凹凸溝121の収容側傾斜面121rからCリング130に対して、凹凸溝121の収容側傾斜面121rとCリング130の接触点の法線方向の分力Phとして伝達され、該分力PhがさらにCリング130からリング溝115の収容側傾斜壁115rに伝達される際に、Cリング130とリング溝115の収容側傾斜壁115rの接触点の接線方向の前記分力Phのさらなる分力P2がCリング130を拡径させる力として働く。
【0043】
このCリング130を拡径させる力として働く分力P2の大きさは、凹凸溝121の収容側傾斜面121rの角度α1とリング溝115の収容側傾斜壁115rの角度α2の関係で決まる。
【0044】
したがって、チェーンの過大な張力によって収容方向への付勢力P1が発生した状態で、図6に示すように、前記分力P2がCリング130を拡径させて凹凸溝121の凸部がCリング130を超えて前進できるように、かつ、チェーン始動時に収容方向への付勢力P1が発生した状態での前記分力P2によるCリング130を拡径では凹凸溝121の凸部がCリング130を超えずにプランジャ120の摺動を停止できるように、上記角度α1、α2が設定される。
【0045】
このことで、チェーンの張力過多が解消される位置までプランジャ120が収容可能となり、プランジャが焼き付いたり、チェーンが過大な張力のまま走行してチェーンへの負担や騒音が増加することが防止されるとともに、チェーン始動時にプランジャ120の収容方向への移動を阻止でき、チェーン始動時の打音を低減することができる。
【0046】
さらに、リング溝115の突出側傾斜壁115fの角度θ2、収容側傾斜壁115rの角度α2は、リング溝115の加工時に容易に設定可能なため、共通のコイルばね140、Cリング130、プランジャ120およびテンショナボディ110を使用して多様な特性のチェーンテンショナ100を得ることが可能となる。
【0047】
また、図7に示すように、リング溝115が一定の幅を持って形成されることで、Cリング130がリング溝115の突出側傾斜壁115fまたは収容側傾斜壁115rと接触する位置の間隔Wの長さだけ、ラチェット機構が動作しないバックラッシュが存在するが、プランジャ120の突出方向および収容方向において最適な特性を付与することができるため、当該バックラッシュ分の間隔Wを小さくすることができ、チェーン始動時打音をさらに低減することができる。
【実施例2】
【0048】
次に、弾性リングの他の実施例について、図9に基づいて説明する。
本実施例では、弾性リングは外周側にレバー部231、232を延設した縮径、拡径可能な断面円形の弾性材料からなる環状リング230で構成されており、テンショナボディ210には、リング溝の一部の外周から外部まで連通する切欠きが設けられている。
【0049】
環状リンク230の環状部分の外周径および内周径は、前述したCリング130と同様に形成されている。
また、一方のレバー部231は切欠きを通って外部まで伸びるとともに、他方のレバー部232はL字状に形成され切欠き内で環状リング230の周方向の移動を規制するように構成されている。
【0050】
このことにより、外部まで伸びた一方のレバー部231を作業者が操作することで、簡単に拡径や縮径を行うことができるため、組み付け、取り外し、メンテナンスを容易に行うことができる。
【0051】
なお、この場合、レバー部231がテンショナボディ210の外部まで伸びるため、テンショナボディ210は、前述したエンジンブロックEにエンジンルーム外から挿入固定される形状ではなく、従来のチェーンテンショナと同様に、エンジンルーム内部で別途固定される形状とするのが好適である。
【実施例3】
【0052】
弾性リングのさらに他の実施例について、図10に基づいて説明する。
本実施例では、弾性リングは外周側にレバー部331、332を延設した縮径、拡径可能な断面円形の弾性材料からなる環状リング330で構成されており、テンショナボディ310には、リング溝の一部の外周から外部まで連通する切欠きが設けられている。
【0053】
環状リンク330の環状部分の外周径および内周径は、前述したCリング130と同様に形成されている。
また、両方のレバー部331、332は切欠きの途中でクランク状に曲げられ、その先端がテンショナボディ310の外部まで伸び、両方のレバー部331、332のクランク状に曲げられた部分が切欠き内で環状リング330の周方向の移動を規制するように構成されている。
【0054】
このことにより、外部まで伸びた両方のレバー部331、332の先端部を作業者が操作することで簡単に拡径や縮径を行うことができるため、組み付け、取り外し、メンテナンスを容易に行うことができる。
【0055】
なお、この場合も、両方のレバー部331、332がテンショナボディ310の外部まで伸びるため、テンショナボディ310は、前述したエンジンブロックEにエンジンルーム外から挿入固定される形状ではなく、従来のチェーンテンショナと同様に、エンジンルーム内部で別途固定される形状とするのが好適である。
【0056】
以上説明したように、本発明によれば、単純な構造で製作コストを低減でき、チェーン張力過多によって生じるプランジャの収容方向の動きを規制せずプランジャの焼きつきを防止してチェーンへの負担や騒音を低減でき、バックラッシュ量を小さくして始動時打音を低減できるとともに、小型化が可能で、組み付け、取り外し、メンテナンスを容易に行うことができるなど、その効果は甚大である。
【0057】
なお、上記実施例では、圧油をダンパとしてのみ用いプランジャ120の突出方向への付勢力にほぼ影響を与えないものとして説明したが、圧油の付勢力を加味した上でラチェット機構を最適に動作させるように設定しても良い。
【符号の説明】
【0058】
100 ・・・チェーンテンショナ
110、210、310 ・・・テンショナボディ
111 ・・・プランジャ収容穴
112 ・・・取付挿入部
113 ・・・雄ねじ部
114 ・・・ボルトヘッド部
115 ・・・リング溝
115f ・・・突出側傾斜壁
115r ・・・収容側傾斜壁
116 ・・・圧油供給孔
120 ・・・プランジャ
121 ・・・凹凸溝
121f ・・・突出側傾斜面
121r ・・・収容側傾斜面
127 ・・・コイルばね収容孔
130 ・・・Cリング
230、330 ・・・環状リング
131 ・・・開放部
231、331 ・・・レバー部
232、332 ・・・レバー部
140 ・・・コイルばね
150 ・・・チェックバルブ
E ・・・エンジンブロック
S1 ・・・駆動スプロケット
S2 ・・・従動スプロケット
CH ・・・伝動チェーン
T ・・・テンショナレバー
G ・・・固定ガイド部材
B ・・・取付軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、該プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、前記プランジャ収容穴からプランジャを突出方向に付勢する付勢ばねを備え、前記プランジャの外周に設けられた複数の凹凸溝と前記テンショナボディに設けられた係合部材によってラチェット機構を構成するチェーンテンショナにおいて、
前記係合部材が、弾性リングであり、
前記プランジャ収容穴が、開放端部近傍の内周面に前記弾性リングを拡径可能に収容保持し、前記プランジャの突出方向側の突出側壁と収容方向側の収容側壁とをそれぞれ傾斜面とするように形成された円周状のリング溝を有し、
前記突出側壁と収容側壁の傾斜面が、前記弾性リングを挟んでラチェット機構を構成する前記プランジャの凹凸溝の対応する傾斜面との相対角度をそれぞれ異なる傾斜となるように形成されていることを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記弾性リングが、Cリングであることを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項3】
前記弾性リングが、外周側にレバー部を延設した環状リングであることを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項4】
前記突出側壁と前記プランジャの凹凸溝の対応する傾斜面との相対角度が、前記付勢ばねの突出方向への付勢力によって弾性リングが拡径して凹凸溝の凸部を乗り越える角度に設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【請求項5】
前記収容側壁と前記プランジャの凹凸溝の対応する傾斜面との相対角度が、チェーン始動時の前記プランジャに対する収容側への荷重によっては弾性リングが拡径して凹凸溝の凸部を乗り越えず、チェーン張力過多による前記プランジャに対する収容側への荷重によって弾性リングが拡径して凹凸溝の凸部を乗り越える角度に設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【請求項6】
前記テンショナボディが、収容側端部からの一定部分を除いて円筒状の外形の取付挿入部を有し、
該円筒状の外形の外周面に雄ねじ部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のチェーンテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−27124(P2011−27124A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170222(P2009−170222)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【特許番号】特許第4480789号(P4480789)
【特許公報発行日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】