説明

チェーン伝動装置

【解決手段】
炭素0.001〜0.10重量%、シリコン0.1〜3.0重量%、マンガン5.0〜18.0重量%、クロム0.01〜20.0重量%、アルミニウム0.001〜0.1重量%、残部鉄を含んでなり、積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m)を20以下の条件、又は、ε−Ms相を10〜50体積%という条件を満たす鋼を構成要素として使用したチェーン伝動装置。
【効果】 制振性に優れた鋼又は低延伸性の鋼を使用することにより、使用可能な寿命を顕著に延長でき、発生する騒音を顕著に低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のタイミングチェーン伝動装置或いは産業機械のチェーン伝動装置等に用いられる低騒音で高寿命なチェーン伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、チェーン伝動装置は、駆動力の授受の役目をするスプロケットの歯部とローラーチェーンのローラー部或いはサイレントチェーンの内股状のリングプレート部とが噛み合って動力を伝達する構造になっている。
この駆動力伝達のために相噛み合う部分は、噛み合う時に不可避的に発生する機械振動に起因する振動音が発生する。
使用中にチェーン材料が摩耗したり延伸したりすることによって寿命の低下を招くことになる。
これに対して、例えば、特許文献1によると、ローラーチェーンのローラー部の構造の工夫によって振動騒音を低減する技術が提案されている。
特許文献2によると、サイレントチェーンのチェーン内側噛み合い面の噛み合い時間を最適に調整する形状にして振動騒音と衝撃騒音を低減し、かつ、摩耗を低減させて耐久性を向上させる技術が開示されている。
特許文献3によると、チェーンの駆動力伝達のための相噛み合う部分を樹脂にすることによって機械振動音を低減する技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、チェーンの噛み合い部分の形状を最適にする技術は多くの特許によって提案されているが、駆動力伝達のためにチェーンのリングプレート或いはローラーとスプロケットの歯の構造や形状の工夫のみでは、接触による機械的振動の低減には限界があるので、抜本的な対策が求められている。
この部分を樹脂にする方法も提案されているが、製造コストや機械的性質の点で工業的な製品とはなり難い。
即ち、チェーン伝動装置用材料として、材料自体に振動吸収能があり、かつ、使用中の延伸を抑制できる機械的特性及び価格の面からの要請を満足する材料が今までに想到され得なかった。
【0004】
従来、耐食性や食品衛生の観点から、この分野ではチェーン伝動装置用材料にはJIS SUS 304(オーステナイト系ステンレス鋼)が用いられている。
JIS SUS304は、準安定オーステナイト相(以下、「準安定γ−相」という。)の金属組織を示し、応力負荷によって加工誘起α’−マルテンサイト相(以下、「α’−Ms相」という。)を生成して延伸する特徴を持つ材料である。
【0005】
一方、金属系の制振性材料としては、鋳鉄、Mn−Cu合金、Mg−Zr合金、Mg−Ni合金、Al−Zn合金、Fe−Al−Cr合金、Ni−Ti合金、Cu−Al−Ni合金等が知られている。
これらをチェーン用材料の観点から見れば、鋳鉄やMg系合金は強度が低いという欠点がある。
Mn−Cu系合金は所望の強度が得られないという欠点がある。
Fe−Al−Cr合金は歪によって振動減衰能が低下するという欠点がある。
これらの材料は、振動減衰能は比較的優れているが、高価な元素を多く含んでいるため合金材料の価格上昇となり上記のようなチェーン伝動装置用途には不適である。
【0006】
上記の問題を解決するために、例えば、特許文献4によれば、機械的強度が高く、振動減衰能を有する材料として、高強度高減衰能Fe−Cr−Mn合金及びその製造方法が開示されている。
この特許には、Cr重量パーセント9〜15重量%、Mn重量パーセント18〜26重量%、残部鉄からなり、イプシロン・マルテンサイト相が40体積%以上である高強度高減衰能Fe−Cr−Mn合金及びその製造方法が開示されている。
上記Fe−Cr−Mn合金は、組成的にステンレス鋼をベースとしたものである。
従って、その機械的性質はステンレス鋼とほぼ同等であり、かつ、制振性に優れているので制振性の観点からは上記の問題点を解決する発明である。
【0007】
しかしながら、特許文献4によって開示された技術によれば、イプシロン・マルテンサイト相が40体積%以上である高強度高減衰能Fe−Cr−Mn合金が、このような金属組織ではチェーン材料としての延性を発揮し得ない。
特許文献3によって開示された技術では、マンガン重量パーセント18〜26重量%と開示されているが、この材料を溶製する場合、マンガン成分が蒸発し易いため添加するマンガン合金の歩留まりが悪く、かつ、マンガンは鋼の溶製時に用いられる耐火物の溶損を著しく増大させるという難点があるので、溶製コストが高くなるために上記の工業的用途が極めて制限されるという問題点がある。
マンガン重量パーセントが18〜26重量%と高いので熱間又は冷間加工コストが高くなるという問題点がある。
【0008】
一方、本発明者らは、特許文献5に示すように、振動減衰能のある材料として、炭素重量パーセント0.05重量%以下、マンガン重量パーセント13〜18重量%、クロム重量パーセント9〜15重量%、ニッケル重量パーセント0.01〜6.0重量%、アルミニウム重量パーセント0.01〜0.05重量%、窒素重量パーセント0.01重量%以下、残部鉄からなる材料を冷間加工によって、マトリックスであるオーステナイト相(以下、「γ−相」という。)中にイプシロン・マルテンサイト相(以下、「ε−Ms相」という。)を10体積%以上生成させることを特徴とする高強度高減衰能Fe−Mn−Cr−Ni合金を提案している。
しかしながら、特許文献5においては、冷間加工による方法によって高強度高減衰能合金を推奨しているが、これは振動減衰能が安定して得られないばかりか、母材の延性を著しく低下させるので、上記記載の用途には使用できない。
【0009】
特許文献5においては、ニッケル重量パーセント0.01〜6.0重量%添加することによって、マンガン重量パーセント13〜18重量%とマンガン量を少なくすることができることが開示されている。
この技術は、ニッケル添加によってマンガン成分を低くすることで製造コストを低減するための対策技術ではあるが、高価なニッケルを添加して冷間加工性を向上しようとするものであり、原料コストに立てば、むしろ、コストが嵩むこととなる技術であり、総合的製造コストの原理原則に立ち返って検討し直すことが必要である。
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、制振性に優れ、かつ、延伸しにくい鋼として、熱処理或いは冷間加工によってε−Ms相が生成し易い度合いを示す積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m)(数式5、非特許文献1参照)(以下、「SFE」という。)に着目し、マンガンの効果をシリコンの微量添加によって一部置換えることによってマンガン量の低減ができることを見出し、その効果を実証する知見を得て特許文献6として出願している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−78087号公報
【特許文献2】特開2003−202056号公報
【特許文献3】特開2003−254392号公報
【特許文献4】特開2002−121651号公報
【特許文献5】特開2007−321243号公報
【特許文献6】特願2008−278829号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Pickering:Proc.Conf.Stainless Steels,Gothenburg,Sept.(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、自動車のタイミングチェーン伝動装置或いは産業機械のチェーン伝動装置等に用いられるチェーン伝動装置を提案するものであり、駆動力の授受の役目をするスプロケットの歯部とチェーンの内股状のリングプレート或いはチェーンローラーとが噛み合う部分、或いは、使用中に延伸する部分に、制振性に優れ、かつ、延伸しにくい鋼を使用することによって、低騒音で高寿命のチェーン伝動装置を提供することを目的とする。
[発明が解決しようとする課題:その1]
従来の技術においては、チェーン伝動装置の構成要素たるチェーン、及び/又は、スプロケットとして、制振性を具備しない鋼が使用されていたので、発生する騒音が顕著に高かった。
本発明が解決しようとする課題は、構成要素たるチェーン、及び/又は、スプロケットとして、制振性に優れた鋼を使用することにより、発生する騒音を顕著に低減することができるチェーン伝動装置を提供することである。
[発明が解決しようとする課題:その2]
従来の技術においては、チェーン伝動装置の構成要素たるチェーン、及び/又は、スプロケットとして、制振性を具備しない鋼が使用されていたので、使用可能な寿命が短かった。
本発明が解決しようとする課題は、構成要素たるチェーン、及び/又は、スプロケットとして、制振性に優れた鋼を使用することにより、使用可能な寿命を顕著に延長できるチェーン伝動装置を提供することである。
[発明が解決しようとする課題:その3]
従来の技術においては、チェーン伝動装置の構成要素たるチェーン、及び/又は、スプロケットとして、低延伸性を具備しない鋼が使用されていたので、使用中にチェーンが延伸するので使用可能な寿命が短かった。
本発明が解決しようとする課題は、構成要素たるチェーン、及び/又は、スプロケットとして、低延伸性の鋼を使用することにより、使用可能な寿命を顕著に延長できるチェーン伝動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のチェーン伝動装置は、「特許請求の範囲」の「請求項1」〜「請求項11」に記載した事項により特定される。
【0015】
[書類名]特許請求の範囲
[請求項1]
チェーン、及び/又は、スプロケットが、制振性に優れた鋼を含んで構成されることを特徴とするチェーン伝動装置。
[請求項2]
「制振性に優れた鋼」が、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄を含んでなり、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄の合計重量を基準として、
炭素の重量パーセント[%C]が0.001〜0.10[%]、
シリコンの重量パーセント[%Si]が0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量パーセント[%Mn]が5.0〜18.0[%]、
クロムの重量パーセント[%Cr]が0.01〜20.0[%]
アルミニウムの重量パーセント[%Al]が0.001〜0.10[%]
鉄の重量パーセント[%Fe]が残部であり、
X線回折法によって測定されたイプシロン・マルテンサイト相の体積パーセント[%ε−Ms相]が、
数式(1)を満足することを特徴とする鋼であることを特徴とするチェーン伝動装置。
[数式1]
10[体積%] ≦ [%ε−Ms相] ≦ 50[体積%] (1)
[請求項3]
「制振性に優れた鋼」が、
片持ち梁法によって測定した制振性を表す損失係数(η)が、数式(2)を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載したチェーン伝動装置。
[数式2]
0.005 ≦ η ≦ 0.10 (2)
[請求項4]
「制振性に優れた鋼」が、
ニッケルの重量パーセントを[%Ni]としたときに、
数式(3)によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m)が、
数式(4)を満足することを特徴とする鋼であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載したチェーン伝動装置。
[数式3]
SFE(mJ/m)=25.7+2×[%Ni]+410×[%C]−0.9×[%Cr]−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn] (3)
[数式4]
−20(mJ/m)≦ SFE ≦ 20(mJ/m) (4)
[請求項5]
「制振性に優れた鋼」が、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄に加えて、モリブデンを含んでなり、
モリブデンの重量パーセント[%Mo]が、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄の合計重量を基準として、0.01〜3.0[%]である鋼であることを特徴とする
請求項1乃至4の何れかに記載したチェーン伝動装置。
[請求項6]
「制振性に優れた鋼」が、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄を含んでなり、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄の合計重量を基準として、
炭素の重量パーセント[%C]が0.001〜0.10[%]、
シリコンの重量パーセント[%Si]が0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量パーセント[%Mn]が5.0〜18.0[%]、
クロムの重量パーセント[%Cr]が0.01〜20.0[%]
アルミニウムの重量パーセント[%Al]が0.001〜0.10[%]
鉄の重量パーセント[%Fe]が残部である鋼を、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、700〜950℃で、1〜60分間、熱処理する工程、
第4工程として、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/秒)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜20%の冷間加工を施す工程
を含んで構成される製造方法により製造された鋼であることを特徴とする
請求項1乃至5の何れかに記載したチェーン伝動装置。
[請求項7]
「制振性に優れた鋼」が、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、モリブデン、及び、鉄を含んでなり、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄の合計重量を基準として、
炭素の重量パーセント[%C]が0.001〜0.10[%]、
シリコンの重量パーセント[%Si]が0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量パーセント[%Mn]が5.0〜18.0[%]、
クロムの重量パーセント[%Cr]が0.01〜20.0[%]
アルミニウムの重量パーセント[%Al]が0.001〜0.10[%]
鉄の重量パーセント[%Fe]が残部、
モリブデンの重量パーセント[%Mo]が、0.01〜3.0[%]
である鋼を、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、700〜950℃で、1〜60分間、熱処理する工程、
第4工程として、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/秒)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜20%の冷間加工を施す工程
を含んで構成される製造方法により製造された鋼であることを特徴とする
請求項1乃至5の何れかに記載したチェーン伝動装置。
[請求項8]
チェーン、及び/又は、スプロケットが、低延伸性の鋼を含んで構成されることを特徴とするチェーン伝動装置。
[請求項9]
「低延伸性の鋼」が、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄を含んでなり、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄の合計重量を基準として、
炭素の重量パーセント[%C]が0.001〜0.10[%]、
シリコンの重量パーセント[%Si]が0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量パーセント[%Mn]が5.0〜18.0[%]、
クロムの重量パーセント[%Cr]が0.01〜20.0[%]
アルミニウムの重量パーセント[%Al]が0.001〜0.10[%]
鉄の重量パーセント[%Fe]が残部であり、
X線回折法によって測定されたイプシロン・マルテンサイト相の体積パーセント[%ε−Ms相]が、
数式(1)を満足することを特徴とする鋼であることを特徴とするチェーン伝動装置。
[数式1]
10[体積%] ≦ [%ε−Ms相] ≦ 50[体積%] (1)
[請求項10]
発生する騒音を低減する機能を発揮する請求項1乃至9の何れかに記載したチェーン伝動装置。
[請求項11]
使用可能な寿命を延長する機能を発揮する請求項1乃至10の何れかに記載したチェーン伝動装置。
【発明の効果】
【0016】
[発明の効果:その1]
本発明のチェーン伝動装置は、構成要素たるチェーン、及び/又は、スプロケットとして、制振性に優れた鋼を使用することにより、発生する騒音を顕著に低減することができる。
[発明の効果:その2]
本発明のチェーン伝動装置は、構成要素たるチェーン、及び/又は、スプロケットとして、制振性に優れた鋼を使用することにより、使用可能な寿命を顕著に延長できる。
[発明の効果:その3]
本発明のチェーン伝動装置は、構成要素たるチェーン、及び/又は、スプロケットとして、低延伸性の鋼を使用することにより、使用可能な寿命を顕著に延長できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[用語「チェーン伝動装置」の意味]
本発明において、用語「チェーン伝動装置」は、駆動力の伝達の機能を発揮するスプロケットとチェーンを含んで構成される狭義のチェーン伝動装置を包含する。
本発明において、用語「チェーン伝動装置」は、狭義のチェーン伝動装置のみならず、ローラーチェーン、サイレントチェーンを含んで構成される広義の伝動装置をも包含する。
通常、チェーン伝動装置は、駆動力の授受の役目をするギヤ状スプロケットの歯部とローラーチェーンのローラー部やサイレントチェーンの内股状のリングプレート部とが噛み合って動力を伝達する構造になっている。
この駆動力伝達のために相噛み合う部分は、噛み合う時に不可避的に発生する機械振動に起因する振動音が発生する。
【0018】
[用語「チェーン」の意味]
本発明において、用語「チェーン」は、特限定されるものではなく、チェーン一般を包含し、少なくとも、狭義のチェーンのみならず、ローラーチェーン、サイレントチェーンをも包含する。
通常、チェーン伝動装置は、駆動力の授受の役目をするギヤ状スプロケットの歯部とローラーチェーンのローラー部やサイレントチェーンの内股状のリングプレート部とが噛み合って動力を伝達する構造になっている。
この駆動力伝達のために相噛み合う部分は、噛み合う時に不可避的に発生する機械振動に起因する振動音が発生する。
【0019】
以下に、本発明に係わるチェーン伝動装置について具体的に説明する。
図1は、本発明に係わるチェーン伝動装置の駆動力伝達のために相噛み合う部分の一例の拡大図である。
本発明の請求項1及び8記載事項において、チェーン伝動装置の駆動力伝達のための相噛み合う部分、或いは、使用中に延伸する部分に制振性に優れ、又は、延伸しにくい鋼を使用することを主張している。
これは、駆動力伝達のためにスプロケットとチェーンプレートやチェーンローラーが相噛み合う時に不可避的に発生する機械振動及びそれに起因して発生する騒音をこの原因となる相噛み合う部分に使用されている制振性に優れた鋼の作用によって軽減させ、同時に機械振動によって生じる摩耗を軽減して長寿命化を計るためである。
本発明に係る制振性に優れた鋼は、応力負荷によってε−Ms相が生成し易い鋼組成及び製造方法となっている。従って、上記のε−Ms相(稠密六方格子)は、JIS SUS 304の場合に応力負荷によって生成するα’−Ms相(体心立方格子)と結晶構造が異なり応力によって母相のγ−相と類似の結晶構造なので、応力によって延伸し難い結晶構造となっている。
【0020】
本発明の請求項2及び9記載事項において、チェーン伝動装置の駆動力伝達のための相噛み合う部分、或いは、使用中に延伸する部分に使用する制振性に優れ、又は、延伸しにくい鋼の化学組成の内、シリコン重量パーセント0.01〜3.0重量%、マンガン重量パーセント5.0〜18.0重量%としている。
これは、良好な制振性発現能と低延伸性能を持ちながら、微量のシリコンを添加することによってマンガン量を低く抑えることができることを示してしいる。
即ち、請求項4記載事項において、熱処理或いは冷間加工によってε−Ms相が生成し易い度合いを示す積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m)(数式3)の関係式において、マンガンの項は−1.2×[%Mn]であり、シリコンの項は−13×[%Si]であることから、シリコンはマンガンの約十倍のSFEの低減効果があることを示している。
即ち、SFEを20mJ/m以下に保持した上で、微量の0.01〜3.0重量%のシリコン添加によってマンガン重量パーセントを5.0〜18.0重量%と少なく抑えられている。
【0021】
本発明の請求項2及び9記載事項において、チェーン伝動装置の駆動力伝達のための相噛み合う部分、或いは、使用中に延伸する部分に使用する、制振性に優れ、又は、延伸しにくい鋼のX線回折法によって測定されたε−Ms相の体積%が10〜50体積%であることを開示している。
これは、本発明の基本的な制振発現の必要条件である金属組織、ε−Ms相の定量的表現であり、10体積%未満では制振性が不十分となるためであり、50体積%を超えるとε−Ms相が相互に絡みあって逆に上記の制振性を低下させるためである。
好ましくは、ε−Ms相体積%が20〜40体積%である。
【0022】
本発明の請求項2及び9記載事項において、チェーン伝動装置の駆動力伝達のための相噛み合う部分、或いは、使用中に延伸する部分に使用する制振性に優れ、又は、延伸しにくい鋼の化学組成の内、クロム重量パーセント0.01〜20.0重量%としている。
これは、本発明の基本となるγ−相生成に関するものである。
図2に、Fe−Cr−Mn−Ni鋼の状態図を示した。
図2から明らかなように、クロム重量パーセントが20.0重量%を超える領域ではオーステナイト相(γ−相)とフェライト相(α−相)の2相が生成するので、クロム重量パーセントを20.0重量%以下、好ましくは、15.0重量%以下とする。
クロム組成比の下限については、積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m)(数式1)を20mJ/m以下とする条件を満たす範囲を設定することによって、クロムとマンガンの相乗効果によって効果的にγ−相を生成させる領域を広くとることができる。
ここで、特許文献4との比較で、ニッケルのγ−相生成の役割をマンガン及びクロムが効果的に果しているので、制振性発現の観点からは高価なニッケルは必ずしも必要なくなっている。即ち、本発明に於いては制振性発現以外の必要がない限りニッケルの意図的な添加の必要はない。
【0023】
本発明の請求項2及び9記載事項において、チェーン伝動装置の駆動力伝達のための相噛み合う部分、或いは、使用中に延伸する部分に使用する制振性に優れ、かつ、延伸しにくい鋼の化学組成の内、炭素重量パーセントを0.10重量%以下とするのは、振動減衰能を発現するγ−相とε−Ms相間の相互作用に悪影響を及ぼす固溶元素、特に、炭素重量パーセントの上限を定めることによって振動減衰能の向上及び安定を計るためであり、炭素重量パーセントが0.10重量%を越えると振動減衰能を示す損失係数(η)が低下しかつ不安定になるためである。
炭素と同様の影響を及ぼす窒素は、溶解製造時に大気中より0.020〜0.100重量%程度不可避的に混入して振動減衰能を低下させるものであるが、アルミニウム重量パーセントを0.01〜0.10重量%とすることによって鋼中の窒素をAlNの大きい介在物の形にすることによって制振性を阻害する作用をなくするためである。
即ち、アルミニウム重量パーセントが0.01重量%未満であると上記の鋼中窒素と結合するに必要なアルミニウム重量パーセントが不足する場合がり、0.10重量%を越えると過剰のアルミニウムによって鋼材の表面や内部にAl系の欠陥が発生しやすくなる危険があるためである。
【0024】
本発明の請求項3記載事項において、チェーン伝動装置の駆動力伝達のための相噛み合う部分、或いは、使用中に延伸する部分に使用する制振性に優れた鋼の片持ち梁方式によって測定された制振性鋼の損失係数(η)が0.005〜0.10であることを開示しているが、これは制振性に優れた鋼としての基本的な条件である。
ここで、本発明になる鋼の振動減衰能は振動歪依存性が大きいので、損失係数(η)測定方法は、振動歪みを約10−4以上にする必要があるため、これを可能にする方法として片持ち梁方式を選択した。
測定値においては、損失係数(η)が0.005未満であると制振性に優れた鋼としての振動減衰機能が不十分となるためであり、0.10を超えるための製造条件では鋼材の機械的性質が上記記載の用途に適さなくなるためである。
【0025】
本発明の請求項5記載事項において、チェーン伝動装置の駆動力伝達のための相噛み合う部分、或いは、使用中に延伸する部分に制振性に優れ、かつ、延伸しにくい鋼にモリブデンを0.01〜3.0重量%含有させて、700〜950℃に加熱熱処理後に急速冷却することを主張している。
これは、該鋼はオーステナイト組織なので、チェーン用材料としての強度或いは耐摩耗性が不足する場合があるので、この対応方法として、上記の重量%のモリブデンを含有させ、急速冷却することによってモリブデンの焼き入れ効果を利用することによって、所望の制振性、強度及び耐摩耗性を同時に得るためである。
補足的に説明すると、強度及び耐摩耗性を改善する方法として、炭素重量パーセント或いは窒素重量パーセントを上げる方法があるが、上記両元素は制振性を著しく阻害するので採用できない。
モリブデンは、ε−Ms相の生成を阻害せずに、かつ、制振性付与のために実施する焼き入れによって強度を増加させるというものであり、上記の目的に極めて好適な元素である。
【0026】
本発明の請求項6及び7記載事項において、請求項2で規定される化学組成を有する制振性に優れ、或いは、延伸しにくい鋼の製造方法に関して、1〜5時間、950〜1200℃に加熱する第1工程、仕上げ温度750〜950℃にて熱間加工する第2工程、700〜950℃で1〜60分間熱処理する第3工程、500℃から20℃までの温度領域を10〜30℃/secで急速冷却する第4工程及び、更に必要に応じて常温で1〜30%の範囲で冷間加工を施す第5工程を含んで構成される制振性に優れ、或いは、延伸しにくい鋼の製造方法を開示している。
ここで、重要な工程は、第3工程、第4工程及び第5工程である。
第3工程において、熱処理温度を700〜950℃としたのは、700℃未満の温度では冷間加工歪除去及びオーステナイト化が不十分であるために制振性発現が不十分となるためであり、950℃を超えるとオーステナイト結晶粒が粗大化して機械的性質が不良となるためである。
第4工程においては、γ−相からε−Ms相へ効果的に熱誘起ε−Ms相を生成させるため、及び、モリブデンの焼き入れ効果による強度向上を同時に達成させるために、500℃から常温までの冷却速度が重要であり、これを10〜50℃/secとした。
10℃/sec未満の冷却速度では熱誘起ε−Ms相の生成が不十分となる為である。
モリブデンを添加した鋼の場合は、急速冷却によるモリブデンの焼き入れ効果を発揮させて、所望の硬度、耐摩耗性の得ることができる。
第5工程において、この鋼を更に1〜20%の冷間加工を施すことによってε−Ms相の体積パーセントを増大させること又は冷間加工によって鋼の強度を上げる製造方法を開示している。
これは、用途によって必要な制振性や機械的性質或いは硬さを得るために必要に応じて選択することができる。
ここで、冷間加工率を1〜20%としたのは、20%を超えると生成するε−Ms相の体積パーセントが50体積%を超えるために逆に有効なε−Ms相の振動が阻害されるので制振性が低下するためである。
【0027】
以下、本発明を実験例によって説明する。
【0028】
[実験例1]
実験例1は、本発明の請求項1に関するものであり、本発明に係わる制振性に優れた鋼の騒音低減能の評価のための実験である。
図3は、チェーンの駆動力伝達のために、例えば、スプロケットとチェーンプレートが相噛み合う時に不可避的に発生する機械振動に起因して発生する騒音を模擬的に発生させる方法を示す。
即ち、実験例1では、本発明例として表2記載の本発明例1の材料及び比較例として市販炭素鋼を用いて、10mm角×400mm長さの形状として、糸で吊るしてハンマーで軽く叩くことによって発生する振動を先端に貼付けた加速度センサで計測した。
表1にその結果を示す。
各々、上段は自由減衰時間軸波形、下段は振動の共振周波数解析結果である。
表1において、自由減衰時間が短いことが、発生する機械振動を吸収して低騒音にする機能が優れていることを示している。
上記の方法によって発生する振動音の周波数解析によると、いずれの供試鋼とも200〜2000Hzの比較的高い共振周波数の重畳したものである。
本発明に係る制振性に優れた鋼は上記の共振周波数の帯域において良好な振動吸収能を発揮することが明らかになった。また、チェーンの騒音も同様の周波数帯域なので、本実験例によって本発明の有効性が確認できた。
【0029】
【表1】

【0030】
[実験例2]
実験例2は、本発明の請求項2、3、4及び9に関するものであり、本発明に係る制振性に優れ、或いは、延伸しにくい鋼の化学組成の特定に関する実験である。
実験例2として、表2に示す組成の鋼を溶製した。
ここで、表2に記載されていない元素について説明すると、窒素は、溶製時に不可避的に侵入するもので0.008〜0.100%の範囲とした。
リン(P)及び硫黄(S)はいずれも0.01%以下であった。
ニッケル(Ni)は、意図的には添加しなかった。
溶製した鋼を1000℃で2時間加熱し、仕上げ温度850℃で熱間加工して11mm厚の熱延板とした。
これを、真空中にて800℃、1時間の熱処理を行い常温の油中に急速冷却した。
このとき、500℃から常温までの冷却速度は20℃/秒であった。
これを、さらに制振性を付与するために10%の冷間圧延加工を施した。
この材料の積層欠陥エネルギーSFE(mJ/m)を数式3によって計算した。
鋼中のε−Ms相の体積%をX線回折法によって求め、更に片持ち梁方式によって損失係数(η)を測定した。この測定方法は一端をクランプで固定し振動部のサイズは10mm角×300mm長であり固定部を3G(3×980mm/sec)の加速度で衝撃を与え自由減衰時間及び振動周波数を測定して損失係数(η)を求めた。
このときの振動歪は10−4レベルであった。耐摩耗性の指標として上記の急速冷却後の該鋼の硬さ(Hv)を測定した。
表2に、総合評価として優良(◎ )、良好(○ )及び不可(×)の記号を付した。
【0031】
【表2】

【0032】
以下、表2について詳述する。
本発明例1〜15は、シリコン重量パーセントを本発明の推奨範囲内である0.5〜1.0重量%を添加した例である。
ここで、本発明例1〜3は、SFE値は、10mJ/m以下でありε−Ms相体積%は、本発明範囲内であるので損失係数(η)及び低温靭性は極めて良好である。
特に、本発明例3においては、シリコンを0.8重量%添加しているので、クロムが 7.0重量%でもSFEの条件を満たせば、極めて良好な損失係数(η)を示すことが確認できた。
次に、本発明例4〜12は、SFE値が10〜20mJ/m以下でありε−Ms相体積%は本発明の請求範囲内であるので、損失係数(η)は良好である。
特に、クロムについては、SFEの条件を満足する範囲である、7.0重量%(本発明例5、7及び9)、或いは、5.0重量%(本発明例12)においても良好な制振性発現が確認された。
本発明例13〜15及び比較例1は、本発明例1をベースにした化学組成に、鋼の強度及び耐摩耗性を改善することを目的にしてモリブデンを重量パーセントで0.1、2.0、3.0及び3・5重量%添加したものである。
これによると、モリブデンの添加によって、制振性は阻害されない。また、制振性付与のために行う急冷によって焼き入れ効果によって、硬さ(Hv)が向上している。しかし、比較例1のように、モリブデンを3.5重量%添加すると過多となり加工性が悪化する。
比較例2及び3については、SFE、ε−Ms相体積%及び損失係数(η)の指標からの判断では、良好(○)であるが、マンガン重量%が22.0及び19.0重量%と高いために材料が硬く冷間加工性が不良のために量産に当たっては製造コストが高くなるので総合評価は不可(×)となるものであり、これは実験例3の項において詳述する。
比較例4は、シリコン無添加のために制振性が不良である。
比較例5は、シリコン量が過大のため、材料が硬く加工コストが高くなるので実生産ができない。
比較例6は、マンガン量が不足しているため制振性が不良である。
比較例7は、クロム量が過大のため、母相がγ−相とα−相の2相域となっているために、ε−Ms相の生成量が少ないので損失係数(η)が不十分である。
比較例8は、アルミニウムが不足しているため、固溶窒素のAlNとしての固定が不十分なため、制振性が不十分である。
比較例9は、炭素量が過多であるので、制振性が不良である。
【0033】
[実験例3]
実験例3は、本発明の請求項2に関して、本発明に係る制振性に優れ、或いは、延伸しにくい鋼のマンガン量を冷間加工性の観点から評価したものである。
表3は、実験例2の表2記載の本発明例1(Mn:17%)、本発明例8(Mn:8%)、比較例2(Mn:22%)及びSUS304(Mn:1%)のマンガン(Mn)含有量の異なる鋼について、試験圧延機(ワークロール径85mmφの4段圧延機)によって、2.0mmから約0.03mm厚までの冷間圧延における中間熱処理回数と熱処理が必要となるまでの冷間圧延率を測定したものである。
本発明例1又は8は、2.0mmから約0.03mmまでに中間熱処理回数は3回であり、次の中間熱処理までの平均冷間圧延率は63〜70%である。
これに対して、比較例2(Mn:22%)は、9回の中間熱処理が必要となり、次の中間熱処理までの平均冷間圧延率は、35%である。
これは、冷間加工のコストが実生産における圧延コストが過大となるために実用化が阻害されていることが明白に示されている。
実施例1及び8は、SUS304と同等の冷間加工性であることが確認され、実生産可能との総合評価である。
【0034】
【表3】

【0035】
[実験例4]
実験例4は、本発明の請求項6及び7に関するものである。
即ち、制振性を発現するε−Ms相を効果的に生成させ、かつ、良好な強度と耐摩耗性を持つ鋼を得るための製造条件に関するもので、本発明の主要な要件を実証するものである。
表2に記載した本発明例14(Mo:2.0%)の材料を用いた。
これを1000℃で2時間加熱し、仕上げ温度850℃で熱間加工して10mm厚の熱延鋼板とした。
これを、真空中で800℃×1時間の熱処理を行った。
これらを表3の処理条件で冷却或いは冷間加工を行った。
表4に、これらの機械的性質、損失係数(η)及び 硬さ(Hv)の測定結果を示す。
総合評価は、良好(○)及び不可(×)で表示した。
【0036】
表4について詳細に説明する。
試験No.1−1〜1−5は、800℃で熱処理後に油中に急速冷却した場合である。
試験No.2−1〜2−5は、800℃で熱処理後に空冷した場合である。
油中に急冷した場合は、急冷によってε−Ms相が生成しているので、軽加工で優れた制振性とモリブデン効果によって硬さが上昇して所望の強度と耐摩耗性を得ることができる。
一方、空冷した場合は、冷間加工度を上げてゆくことによって制振性は付与されるが逆に延性が低下することになり、制振性、延性及び強度・耐摩耗性を全て満足させる製造条件を見出し難い。
【0037】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、自動車のタイミングチェーン伝動装置や産業機械のチェーン伝動装置等に用いられる低騒音高寿命チェーン伝動装置を提案するものであり、チェーンの駆動力の授受の役目をするギヤ状スプロケットの歯部分とチェーンローラーやチェーンの内股状のリングプレートとが噛み合う部分、或いは、使用中に延伸する部分に制振性に優れ、かつ、延伸しにくい鋼を使用することによって、低騒音で高寿命のチェーン伝動装置を提供するので、産業上の貢献が大きい。
本発明により、制振性に優れ、かつ、延伸しにくい鋼を製造するためには必須な元素であるマンガンの組成比を顕著に低減することが実現できることから、製造コストを顕著に低減することを可能としているので産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のチェーンの駆動力伝達のために相噛み合う部分の拡大図
【図2】Fe−Mn−Cr−Ni鋼の状態図
【図3】機械振動音の発生模擬的試験方法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーン、及び/又は、スプロケットが、「制振性に優れた鋼」を含んで構成されることを特徴とするチェーン伝動装置。
【請求項2】
「制振性に優れた鋼」が、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄を含んでなり、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄の合計重量を基準として、
炭素の重量パーセント[%C]が0.001〜0.10[%]、
シリコンの重量パーセント[%Si]が0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量パーセント[%Mn]が5.0〜18.0[%]、
クロムの重量パーセント[%Cr]が0.01〜20.0[%]
アルミニウムの重量パーセント[%Al]が0.001〜0.10[%]
鉄の重量パーセント[%Fe]が残部であり、
X線回折法によって測定されたイプシロン・マルテンサイト相の体積パーセント[%ε−Ms相]が、
数式(1)を満足することを特徴とする鋼であることを特徴とするチェーン伝動装置。
[数式1]
10[体積%] ≦ [%ε−Ms相] ≦ 50[体積%] (1)
【請求項3】
「制振性に優れた鋼」が、
片持ち梁法によって測定した制振性を表す損失係数(η)が、数式(2)を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載したチェーン伝動装置。
[数式2]
0.005 ≦ η ≦ 0.10 (2)
【請求項4】
「制振性に優れた鋼」が、
ニッケルの重量パーセントを[%Ni]としたときに、
数式(3)によって計算される積層欠陥エネルギー(SFE)(mJ/m)が、
数式(4)を満足することを特徴とする鋼であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載したチェーン伝動装置。
[数式3]
SFE(mJ/m)=25.7+2×[%Ni]+410×[%C]−0.9×[%Cr]−77×[%N]−13×[%Si]−1.2×[%Mn] (3)
[数式4]
−20(mJ/m)≦ SFE ≦ 20(mJ/m) (4)
【請求項5】
「制振性に優れた鋼」が、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄に加えて、モリブデンを含んでなり、
モリブデンの重量パーセント[%Mo]が、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄の合計重量を基準として、0.01〜3.0[%]である鋼であることを特徴とする
請求項1乃至4の何れかに記載したチェーン伝動装置。
【請求項6】
「制振性に優れた鋼」が、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄を含んでなり、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄の合計重量を基準として、
炭素の重量パーセント[%C]が0.001〜0.10[%]、
シリコンの重量パーセント[%Si]が0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量パーセント[%Mn]が5.0〜18.0[%]、
クロムの重量パーセント[%Cr]が0.01〜20.0[%]
アルミニウムの重量パーセント[%Al]が0.001〜0.10[%]
鉄の重量パーセント[%Fe]が残部である鋼を、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、700〜950℃で、1〜60分間、熱処理する工程、
第4工程として、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/秒)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜20%の冷間加工を施す工程
を含んで構成される製造方法により製造された鋼であることを特徴とする
請求項1乃至5の何れかに記載したチェーン伝動装置。
【請求項7】
「制振性に優れた鋼」が、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、モリブデン、及び、鉄を含んでなり、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄の合計重量を基準として、
炭素の重量パーセント[%C]が0.001〜0.10[%]、
シリコンの重量パーセント[%Si]が0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量パーセント[%Mn]が5.0〜18.0[%]、
クロムの重量パーセント[%Cr]が0.01〜20.0[%]
アルミニウムの重量パーセント[%Al]が0.001〜0.10[%]
鉄の重量パーセント[%Fe]が残部、
モリブデンの重量パーセント[%Mo]が、0.01〜3.0[%]
である鋼を、
第1工程として、950〜1200℃で、1〜5時間、加熱する工程、
第2工程として、加工仕上がり温度750〜950℃で、熱間加工する工程、
第3工程として、700〜950℃で、1〜60分間、熱処理する工程、
第4工程として、500℃から20℃までの温度領域を、10〜50(℃/秒)の冷却速度で急速冷却する工程、
第5工程として、必要に応じて、冷間加工率1〜20%の冷間加工を施す工程
を含んで構成される製造方法により製造された鋼であることを特徴とする
請求項1乃至5の何れかに記載したチェーン伝動装置。
【請求項8】
チェーン、及び/又は、スプロケットが、低延伸性の鋼を含んで構成されることを特徴とするチェーン伝動装置。
【請求項9】
「低延伸性の鋼」が、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄を含んでなり、
炭素、シリコン、マンガン、クロム、アルミニウム、及び、鉄の合計重量を基準として、
炭素の重量パーセント[%C]が0.001〜0.10[%]、
シリコンの重量パーセント[%Si]が0.01〜3.0[%]、
マンガンの重量パーセント[%Mn]が5.0〜18.0[%]、
クロムの重量パーセント[%Cr]が0.01〜20.0[%]
アルミニウムの重量パーセント[%Al]が0.001〜0.10[%]
鉄の重量パーセント[%Fe]が残部であり、
X線回折法によって測定されたイプシロン・マルテンサイト相の体積パーセント[%ε−Ms相]が、
数式(1)を満足することを特徴とする鋼であることを特徴とするチェーン伝動装置。
[数式1]
10[体積%] ≦ [%ε−Ms相] ≦ 50[体積%] (1)
【請求項10】
発生する騒音を低減する機能を奏する発揮する請求項1乃至9の何れかに記載したチェーン伝動装置。
【請求項11】
使用可能な寿命を延長する機能を発揮する請求項1乃至10の何れかに記載したチェーン伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−220514(P2011−220514A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102659(P2010−102659)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(506223646)有限会社TKテクノコンサルティング (15)
【出願人】(510108364)有限会社MTS (7)
【出願人】(000148162)株式会社川島製作所 (90)
【Fターム(参考)】