説明

チューナブル帯域通過フィルタ

【課題】周波数シフトしつつ良好な通過帯域特性を実現するにためには、周波数調整ネジと結合調整ネジを用いて共振器の段毎にフィルタの調整を行う必要があるし、多くの部品が必要になる。
【解決手段】幅広面中央で2分割された方形導波管11,12によって挟持され所定の周波数で共振するよう設計された薄い金属板13から成るフィルタ素子と、金属板の長手延長方向に沿うように金属板の上または下の何れかに配置され、連結部が方形導波管の外部に突出した方形導波管に対して可動な誘電体板14とから構成され、誘電体板と金属板との相対位置関係を外部から変化させることで、誘電率による波長短縮の効果を利用して導波管の幅広面の長さを電気的に変化させ周波数シフトを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューナブル帯域通過フィルタ、特に、誘電体を用いて周波数をシフトできる高周波用のチューナブル帯域通過フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波からミリ波までの広い周波数領域で使用される帯域通過フィルタとして導波管フィルタが知られている。導波管フィルタは、低損失および高耐電力性を有し、衛星搭載や地球局等の通信機器で広く採用されている。
【0003】
この種の導波管フィルタの一つは、方形導波管をH面中央で2分割して、E面と平行に設けた薄い金属板を挟み込み、金属板の長手延長方向に沿うように金属板の下または上の少なくとも1ヵ所に比誘電率1.0以上の誘電体板を配置する。金属板は所定の周波数で通過帯域を有するように梯子様の形状に設計され、誘電体板の装荷はH面方向の電気長を可変とする効果をもたらす。従って、誘電体板の厚さや配置位置を可変とすることにより、通過帯域幅を一定としたままで、中心周波数を変化(周波数シフト)させることができる。
【0004】
しかし、この帯域通過フィルタでは、中心周波数を変えるためには、フィルタを構成している金属板あるいは誘電体板を他の金属板あるいは誘電体板と交換しなければならない。金属板あるいは誘電体板の形状が帯域通過フィルタに必要な結合係数を構成しているためである。
【0005】
一方、空胴半同軸共振器を利用したものであるが、帯域通過フィルタの内部に手を入れることなく、外部から中心周波数を可変とした技術が公知である。このチューナブルフィルタは、外導体は共振器の各段を構成する独立した複数の空洞部を有し、空洞部には保持部材に固定された誘電体を可動に挿設し、外導体の外部に突出した保持部材を連結部材と連結し、連結部材を摺動若しくは回転させることにより、誘電体と内導体との距離を変化させ、各共振器の周波数を一斉に変化させるようにしている。
【0006】
しかしながら、このチューナブルフィルタでは、良好な通過帯域特性を実現するにためには、周波数調整ネジと結合調整ネジを用いて共振器の段毎に上記のようなフィルタの調整を行う必要があるし、周波数シフトを実現するためには、保持部材、連結部材、ガイド、誘電体、駆動部といった多くの部品が必要になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4205654号
【特許文献2】WO2006−075439
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、単純な構成のチューナブル帯域通過フィルタを得ることができない点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、幅広面中央で2分割された方形導波管によって挟持され所定の周波数で共振するよう設計された薄い金属板から成るフィルタ素子と、金属板の長手延長方向に沿うように金属板の上または下の何れかに配置され、連結部が方形導波管の外部に突出した方形導波管に対して可動な誘電体板とから構成され、誘電体板と金属板との相対位置関係を外部から変化させることで、誘電率による波長短縮の効果を利用して導波管の幅広面の長さを電気的に変化させ周波数シフトを実現することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のチューナブル帯域通過フィルタは、予め設計されている共振器の電磁界分布に影響を与え、その共振周波数を変化させるための誘電体板をフィルタ全体に渡って配置し、外部の駆動部に連結して外部から一体的に動かすことで、誘電体板の位置もしくは角度を変化させることにより、中心周波数を任意かつ連続的に変えることが単純な構成により可能となるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のチューナブル帯域通過フィルタの実施例1の分解斜視図である。
【図2】図1における視矢Aから見た断面図である。
【図3】図1における視矢Bから見た断面図である。
【図4】誘電体板のフラップ運動を示す断面図である。
【図5】誘電体板のフラップ運動に伴う通過特性の測定結果を例示する図である。
【図6】本発明のチューナブル帯域通過フィルタの実施例2の分解斜視図である。
【図7】図6における視矢Cから見た断面図である。
【図8】誘電体板の上下運動に伴う通過特性の測定結果を例示する図である。
【図9】温度補正機能を具備したチューナブル帯域通過フィルタのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0012】
図1は本発明のチューナブル帯域通過フィルタの実施例1の分解斜視図であり、図2は図1における視矢Aから見た断面図、図3は図1における視矢Bから見た断面図である。 図1〜図3において、参照番号11,12はH面中央でE面と水平に2分割された方形導波管の上下各半分を示す。H面とは電磁波の伝播方向に沿う方形導波管の幅広面(図1では垂直面)をいい、E面とは電磁波の伝播方向に沿う方形導波管の幅狭面(図1では水平面)をいう。
【0013】
13は所定の周波数で共振するよう設計された薄い金属板であってフィルタ素子を構成し、図1では6つのウィンドウで梯子様の形状を成している。金属板13は導波管11,12によって上下から挟み込まれる。
【0014】
14は板状の誘電体板であって、誘電体板14は導波管12の内壁の左側または右側に、金属板13の長手延長方向(電磁波の伝播方向)に沿って配置される。誘電体板14の長さは、フィルタを構成する金属板13の初段から終段までの長さ以上であればよい。
【0015】
誘電体板14は、恰も竿と一体化した長い旗様の形状を成し、「竿」は方形導波管の外部に突出させて駆動部15と接続される連結部となる。駆動部15は、誘電体板14に「竿」を軸としたフラップ運動、若しくは電磁波の伝播方向に沿った平行移動を加えることができる。駆動部15には、例えば、ステッピングモーターを用いることができる。
【0016】
誘電体板14の誘電率は、1以上であって金属板13と協働して帯域通過フィルタを構成する。本チューナブル帯域通過フィルタは、方形導波管の伝播モードの一つであるTE10sモード(s=1,2,3,・・)を採用するため、共振周波数は、H面と電磁波伝搬方向の長さによって決定される。そこで、誘電体板14を挿設し、金属板13との角度を変えることでH面方向の電気長を可変とし、共振周波数を変化させている。即ち、各共振器の電磁界分布に影響を与え、共振周波数を変化させるのである。
【0017】
具体的な事例を以下に提示する。15GHz帯の方形導波管(a×b=15.8×7.9)を用いた6段チューナブル帯域通過フィルタについて考える。ここで、aはH面の電磁波伝播方向の長さ、bはE面の長さである。図1に示すようなチューナブル帯域通過フィルタに板状の誘電体板14(比誘電率2.6)を配置する。この誘電体板14は周波数シフトのためのものであり、その比誘電率は得ようとする特性によって決定すればよい。
【0018】
誘電体板14は、駆動部15によるフラップ運動により、E面との角度を0°から90°へと変化させる。その様子を、図1における視矢Aから見た断面図である図4(A),(B),(C)に示す。この結果、図5(A),(B),(C)に実測結果を示すように通過帯域幅を殆ど変えることなく、380MHzの周波数シフトを実現している。
【0019】
本チューナブル帯域通過フィルタは金属板13の近傍で電磁界が最も集中しており、誘電体板14を金属板13へ近づけると、誘電体板14のもつ波長短縮の効果が強く現れるため、方形導波管の幅広面が電気的に大きくみえるように働く。つまり、誘電体板14の位置が0°(図4(A))から90°(図4(C))へ移動するにつれて、誘電体板14は金属板13へと近づき、共振周波数は低い周波数へとシフトする。
【0020】
誘電体板14のフラップ運動によって、フィルタの結合係数は、幅広面が広くなる動きと中心周波数が低い方へシフトする動きが互いに打ち消し合う関係にあるため、通過帯域幅の変化量が小さいままに中心周波数をシフトするのである。また、誘電体板14の材質(比誘電率)を変えたり、誘電体板14を複数設けることで、更に中心周波数変化量を増やすことができる。なお、誘電体板14のフラップ運動の代りに、誘電体板14を電磁波伝播方向に沿って平行移動するようにしてもよい。
【0021】
このように、本チューナブル帯域通過フィルタは、導波管11,12と可動な誘電体板14から成るシンプルな構成であり、簡易に製作できる。このとき、誘電体板14は導波管11,12と接地する必要がないので製作が容易である。そして、導波管11,12の外部に突出した誘電体板14の「竿」を駆動部15に接続し、誘電体板14にフラップ運動もしくは平行移動を加えることで周波数変化を任意かつ連続的に実現することができる。
【実施例2】
【0022】
図6は本発明のチューナブル帯域通過フィルタの実施例2の分解斜視図であり、図7は図6における視矢Cから見た断面図である。
【0023】
図6,図7において、参照番号16,17はH面中央で2分割された方形導波管の上下各半分を示す。18は所定の周波数で共振するよう設計された金属板であってフィルタ素子を構成し、図6では6つのウィンドウで梯子様の形状を成す。金属板18は導波管16,17によって上下から挟み込まれる。
【0024】
この例では、誘電体板19はE面と平行に配置され、その中心部において支持棒21を介して駆動部20と接続されている。誘電体板19を駆動部20によって上下に動かすことで、幅広面の長さを電気的に変化させ、中心周波数を可変にすることができる。なお、誘電体板19は金属板18の上方に配置してもよい。
【0025】
実施例2の通過特性の実測結果を図8に示す。図8では、6段E面フィルタに設置した誘電体19(比誘電率2.6)を動かすことで、520MHzの周波数シフトを実現している。金属板18の近傍で電磁界が最も強くなっているため、中心周波数は、誘電体板19を金属板18に近づけた場合に低い周波数へ移動し、逆に金属板18から遠ざけた場合に高い周波数へ移動している。
【実施例3】
【0026】
上記の実施例1と実施例2を任意に組み合わせることで、更に大きな周波数シフト量をもつチューナブル帯域通過フィルタを実現することができる。
【実施例4】
【0027】
駆動部15によるフラップ運動または駆動部20による上下運動は、図9に示すように、コンピュータ制御に行なうことが可能である。例えば、金属板の材料特性に起因する温度による伸縮に対する補償用の誘電体を設ける場合、温度データ・周波数情報を収集して、補償用データを格納しているROMに入力し、その出力によってCPUが駆動部15へ制御信号を伝え、駆動部15は制御信号に応答して誘電体板14にフラップ運動を与える。
【符号の説明】
【0028】
11,12,16,17 導波管
13,18 金属板
14,19 誘電体板
15,20 駆動部
21 支持棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
H面中央で2分割した方形導波管によってE面と平行に挟み込まれた薄い金属板と、
前記金属板の長手延長方向に沿うように該金属板の下または上の少なくとも1ヵ所に配置された比誘電率1.0以上の誘電体板と、
該誘電体板と前記金属板との相対位置関係を外部から変化させるための駆動部とを備えることを特徴とするチューナブル帯域通過フィルタ。
【請求項2】
前記誘電体板は前記H面と平行に配置され、前記駆動部は前記金属板近傍を軸に前記誘電体板をフラップ動作させることにより前記金属板との相対角度を変化させることを特徴とする請求項1に記載のチューナブル帯域通過フィルタ。
【請求項3】
前記誘電体板は前記H面と平行に配置され、前記駆動部は該誘電体板を前記金属板の長手延長方向に平行移動させることにより前記金属板との相対重なり関係を変化させることを特徴とする請求項1に記載のチューナブル帯域通過フィルタ。
【請求項4】
前記誘電体は前記E面と平行に配置され、前記駆動部は該誘電体を前記金属板に対して垂直に上下させることにより前記金属板と遠近関係を変化させることを特徴とする請求項1に記載のチューナブル帯域通過フィルタ。
【請求項5】
前記駆動部にステッピングモーターを使用することを特徴とする請求項1〜4に記載のチューナブル帯域通過フィルタ。
【請求項6】
前記駆動部は所定の情報に基づきコンピュータ制御されて前記誘電体板と前記金属板との相対位置関係を変化させることを特徴とする請求項1〜5に記載のチューナブル帯域通過フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−9806(P2011−9806A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148168(P2009−148168)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年電子情報通信学会総合大会論文集
【出願人】(303013763)NECエンジニアリング株式会社 (651)
【Fターム(参考)】