説明

チルト装置、記録装置

【課題】ラチェットギアと係合爪との係合によりチルト角を保持するチルト装置において、チルト部のチルト動作に伴って押しボタンが小刻みに振動することを防止する。
【解決手段】チルト装置20は、ラチェット歯23a及び係合爪24bを備えたラチェット機構によりチルト部のチルト角を保持する。可動部材24を押し下げることによりラチェット歯23aと係合爪24bとの係合を解除する押しボタン21は、押圧ばね25により上下動ストロークにおける上限位置いっぱいに位置決めされており、非操作状態においては上方へ移動することのできる移動しろ(ガタ)が排除され、チルト動作に伴い可動部材24が小刻みに動いても、押しボタン21が小刻みに振動することが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器本体に対してチルト可能に設けられるチルト部のチルト角を保持するチルト装置、および当該チルト装置を備えた、ファクシミリやプリンタ等に代表される記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器には各種情報を表示する情報表示部(例えば、液晶表示部などにより構成される)及び各種操作設定を行う為の操作ボタンや電源ボタン等を備えた操作設定部をチルトパネルに備え、チルト機構を介してユーザが情報の視認や操作設定を行い易い任意のチルト角で保持できるようになっている。
【0003】
チルト機構は、例えば特許文献1に示されるようにラチェットギアと係合爪とを備えたラチェット機構を備えて構成され、このラチェット機構によって一定方向へのパネル回動は許容し、その逆方向へのパネル回動は制限して、小刻みにチルト角を調整可能とするとともに任意のチルト角を保持できるようになっている。
【特許文献1】特開2007−164331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の様に構成されたチルト機構において、チルトパネルを、その回動が許容される方向にチルトさせると、これに伴い係合爪がラチェットギア上で小刻みに飛び跳ねる。このため、ラチェットギアと係合爪との係合状態を解除する為に係合爪と係合する押しボタンを設けた場合には、係合爪の前記飛び跳ね動作に同期して押しボタンが小刻みに振動し、装置の外観上好ましくない結果を招く。また、押しボタンの不要な上下動に伴って当該押しボタンの摺動摩擦抵抗が次第に大きくなり、押しボタンの操作感が早期に低下してしまう虞もある。
【0005】
そこで本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであり、その目的は、ラチェットギアと係合爪との係合によりチルト角を保持するチルト装置において、ラチェットギアと係合爪との係合状態を解除する為に係合爪と係合する押しボタンを設けた際に、チルト部のチルト動作に伴って前記押しボタンが小刻みに振動することを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るチルト装置は、機器本体に対して回動可能なチルト部の回動中心まわりに沿って複数の歯部を備えたチルト角保持部材、および前記歯部と係合/係合解除可能な係合爪を備えた可動部材を備えて構成され、前記歯部と前記係合爪との係合により前記チルト部のチルト角を保持するチルト角保持手段と、所定の上下動ストロークを有し、押下されることにより前記可動部材を変位させ或いは姿勢変化させて、前記係合爪を前記歯部から退避させる押しボタンと、前記押しボタンが押下されない非操作状態において、前記押しボタンの上下動ストロークにおける上限位置に当該押しボタンを位置決めする位置決め手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本態様によれば、係合爪を歯部から退避させる押しボタンは、位置決め手段によって上下動ストロークにおける上限位置に位置決めされており、すなわち非操作状態(押しボタンが押下されない状態)においては上限位置いっぱいに位置決めされたことにより上方へ移動することのできる移動しろ(ガタ)が存在せず、この為係合爪(可動部材)が飛び跳ねても、押しボタンが小刻みに振動することを防止できる。
【0008】
本発明の第2の態様に係るチルト装置は、機器本体に対して回動可能なチルト部の回動中心まわりに沿って複数の歯部を備えたチルト角保持部材、および前記歯部と係合/係合解除可能な係合爪を備えた可動部材を備えて構成され、前記歯部と前記係合爪との係合により前記チルト部のチルト角を保持するチルト角保持手段と、所定の上下動ストロークを有し、押下されることにより前記可動部材を変位させ或いは姿勢変化させて、前記係合爪を前記歯部から退避させる押しボタンと、前記押しボタンが押下されない非操作状態において、前記可動部材と、前記押しボタンと、の間に間隔を形成するよう前記押しボタンを位置決めする位置決め手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、係合爪を歯部から退避させる押しボタンは、位置決め手段によって係合爪を備える可動部材との間に間隔が形成されるよう位置決めされており、すなわち非操作状態(押しボタンが押下されない状態)においては前記可動部材が前記押しボタンと干渉することなく動作できる空間が形成されており、この為係合爪(可動部材)が飛び跳ねても押しボタンが小刻みに振動することを防止できる。
【0010】
本発明の第3の態様に係るチルト装置は、第1のまたは第2の態様において、前記位置決め手段と前記押しボタンとが一部材で構成されていることを特徴とする。
本態様によれば、前記位置決め手段と前記押しボタンとが一部材で構成されているので、チルト装置を構造簡単にして且つ低コストに構成することができる。
【0011】
本発明の第4の態様に係るチルト装置は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記チルト角保持部材が、円筒状部材または円柱状部材の外周に沿って前記歯部を備えて構成されるとともに、前記機器本体に対し固定状態で設けられ、前記可動部材が、前記チルト角保持部材が遊挿される穴部の内側に前記係合爪を備えて構成され、前記チルト部において前記押しボタンのストローク方向に変位することにより、前記係合爪の前記歯部に対する係合及び係合解除の切り替えを行うよう設けられ、前記可動部材を、前記係合爪が前記歯部に係合する方向に付勢する第1付勢部材と、前記可動部材と前記押しボタンとの間に介在し、前記押しボタンを前記上限位置に向けて付勢する、前記位置決め手段を構成する第2付勢部材と、を備えて構成されていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、可動部材と押しボタンとの間に介在する第2付勢部材により押しボタンが常に上限位置に向けて付勢されるので、押しボタンが上下動ストロークにおける上限位置いっぱいに確実に位置決めされ、チルト動作に伴う押しボタンの微動が確実に防止される。
【0013】
本発明の第5の態様に係るチルト装置は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記チルト角保持部材が、円筒状部材または円柱状部材の外周に沿って前記歯部を備えて構成されるとともに、前記チルト部に対し固定状態で設けられ、前記可動部材が、前記係合爪及び前記押しボタンと係合可能なボタン係合部を備えるとともに回動可能に設けられ、前記押しボタンにより前記ボタン係合部が押されることにより、回動して前記係合爪を前記歯部から離間させるよう設けられ、前記チルト角保持部材を回動可能に支持する、前記機器本体に対し固定状態で設けられるホルダ部材と、前記可動部材を、前記係合爪が前記歯部に係合する方向に付勢する第1付勢部材と、弾性変形することにより前記押しボタンの押し込み抵抗を発生させる、前記位置決め手段を構成する弾性変形部、および前記押しボタンを一体的に備えて成るボタン部材と、を備えて構成されていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、弾性変形することにより押しボタンの押し込み抵抗を発生させる、前記位置決め手段を構成する弾性変形部、および前記押しボタンを一体的に備えて成るボタン部材と、を備えているので、部品点数が削減され、チルト装置を構造簡単にして且つ低コストに構成することができる。
【0015】
本発明の第6の態様に係る記録装置は、被記録媒体に記録を行う記録手段と、各種情報を表示する情報表示部及び各種操作設定を行う操作設定部を備えたチルト部のチルト角を保持する、第1から第5の態様のいずれかに係る前記チルト装置とを備えたことを特徴とする。本態様によれば、被記録媒体に記録を行う記録装置において、上記第1から第5の態様のいずれかと同様な作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1〜図14を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
[本発明の第1実施形態]
以下では先ず、図1〜図7を参照しながら本発明の第1実施形態について説明する。ここで、図1及び図2は本発明の第1実施形態に係るインクジェット複合機1Aの外観斜視図、図3は本発明の第1実施形態に係るチルト装置20の斜視図、図4は同分解斜視図、図5は同断面斜視図、図6(A)、(B)は同断面図、図7(A)はラチェット歯23aと係合爪24bとの係合部分の拡大図、図7(B)はラチェット歯23aと係合爪24bとの圧接により生じる力の作用方向を説明する図である。
【0017】
図1及び図2において被記録媒体に記録を行う記録装置の一例としてのインクジェット複合機1Aは、被記録媒体に記録を実行する記録手段(図示せず)を備えたインクジェットプリンタ機構(図示せず)と、スキャナ機構(図示せず)とを併せ持った複合機であり、符号1aは上記インクジェットプリンタ機構及びスキャナ機構を備えた装置本体を示し、また符号2は装置本体1aの上部に設けられ、スキャナ機構の原稿台(図示せず)を開閉する原稿台カバー2を示している。
【0018】
符号4は装置底部に設けられ、装置手前側に引き出すことで用紙(図示せず)をセット可能となる用紙カセットを示しており、また符号5は装置手前側に引き出すことで展開状態となり、記録の行われた用紙をスタック可能な状態となる引き出し式用紙スタッカを示している。
【0019】
更に符号3は画像データなどが記憶された記憶媒体(図示せず)を挿入する記憶媒体挿入部を示していて、インクジェット複合機1Aは、記憶媒体挿入部3に挿入された記憶媒体に記憶された画像データを、外部コンピュータによらず、単独でインクジェット記録可能な所謂スタンドアロン型プリンタとして構成されている。
【0020】
そして装置手前側中央部には、チルト部としてのチルトパネルユニット10Aが設けられている。チルトパネルユニット10Aは、プレビュー画像やユーザインタフェースなどの各種情報を表示する、液晶モニタなどで構成される情報表示部11と、各種設定を行うタッチボタンが複数配列されて成る操作設定部12と、を備えている。
【0021】
チルトパネルユニット10Aは後述するチルト装置20を介してインクジェット複合機1Aの装置本体1aに対して回動(チルト)可能に設けられており、またそのチルト角が、チルト装置20によって例えば図2に示すような角度に保持されるようになっていて、ユーザにとって視認性及び操作性の良好な任意の角度で保持できるようになっている。
【0022】
図1において符号21はチルト装置20を構成する押しボタンを示しており、チルトパネルユニット10Aを図1の垂直姿勢から図2に示すような傾斜姿勢にチルトさせた後、押しボタン21を押下することによりチルト角の保持状態が解除され、図1の垂直姿勢に戻ることができるようになっている。
【0023】
続いて図3〜図6を参照しながらチルト装置20について詳説する。
本実施形態に係るチルト装置20は、プリンタ本体側に固定状態で設けられる支持部材22及びこの支持部材22の軸22aに装着されるラチェット部材23と、チルトパネルユニット10Aの基体を構成するフレーム14Aに対しスライド可能に設けられる可動部材24及び押しボタン21を備えている。また可動部材24と押しボタン21との間には押圧ばね25が、また可動部材24とフレーム14Aとの間には押圧ばね26が、それぞれ設けられている。
【0024】
支持部材22の軸22aは、チルトパネルユニット10Aの回動中心を形成する軸であり、この軸22aに固定状態で装着されるラチェット部材23は、円筒状部材の外周に沿って「歯部」としてのラチェット歯23aを複数備えて構成されている。
【0025】
可動部材24は、ラチェット部材23が遊挿される穴部24aを有するとともに、その穴部24aの内側に係合爪24bを備えている。また可動部材24は円筒部24cを有しており、この円筒部24cが、フレーム14Aに形成されたホルダ15に遊挿されるようになっている。
【0026】
可動部材24は、円筒部24cがホルダ15に遊挿されることにより、図3〜図5の上下方向、即ち押しボタン21のストローク方向にスライド可能となっており、スライドすることにより(押しボタン21が操作されることにより)、係合爪24bのラチェット歯23aに対する係合及び係合解除の切り替えを行う。
【0027】
また、穴部24aにラチェット部材23が遊挿されることで、可動部材24はラチェット部材23(軸22a)を軸として回転可能となり、即ちチルトパネルユニット10Aがラチェット部材23(軸22a)を軸として回転可能となっている。
【0028】
押しボタン21は側方に突起21aを備えており、チルトパネルユニット10Aのフレーム内側を規制面(図6において符号Srで示す)に突起21aが当接することにより、その上下動ストロークの上限位置が定まるようになっている。尚、押しボタン21の上下動ストロークの下限位置は、当該押しボタン21を押し込んだ際に可動部材24における円筒部24cの下端部がホルダ15における内底面15aに当接し、且つ押しボタン21が可動部材24の上部に当接することにより定まる。
【0029】
可動部材24における円筒部24cには、その内側の凹部24dに第1付勢部材としての押圧ばね26が配設され、この押圧ばね26が、ホルダ15における内底面15aとの間で付勢力を発揮することにより、可動部材24を、係合爪24bがラチェット歯23に係合する方向に付勢する。
【0030】
また可動部材24の上部と押しボタン21(より詳しくはその内部に形成された凹部21b)との間には、押しボタン21を上下動ストロークの上限位置に向けて付勢する、第2付勢部材および位置決め手段としての押圧ばね25が設けられ、押しボタン21は、常に上限位置に向けて付勢された状態となり、上限位置いっぱいに位置決めされて上方への移動しろ(ガタ)が無いように設けられている。
【0031】
以上がチルト装置20の構成であり、以下チルト装置20の動作について説明する。図6(A)はチルトパネルユニット10Aが垂直姿勢の状態(図1の状態)、即ちチルトされていない状態を示しており、符号Spはチルトパネルユニット10Aのパネル上面を示している。
【0032】
ラチェット歯23a及び係合爪24bは、可動部材24の図6の反時計回り方向への回動、即ちチルトパネルユニット10Aを装置手前側方向にチルトさせる方向の回動は許容する歯形に形成されている。
【0033】
従ってチルトパネルユニット10Aを図6の反時計回り方向にチルトさせる場合には、図6(A)から図6(B)への変化に示すように係合爪24bがラチェット歯23aを容易に乗り越えながら、ラチェット部材23の外周面に沿って動くようになっている。尚このとき、係合爪24bは2つのラチェット歯23aの間の谷に入り込みながら動くので、可動部材24は、ラチェット部材23の半径方向に小刻みに動く。
【0034】
そして任意のチルト角でチルトパネルユニット10Aから手を離しても、ラチェット歯23a及び係合爪24bは、可動部材24の図6の時計回り方向への回動、即ちチルトパネルユニット10Aが垂直姿勢(図6(A))に戻る方向への回動は拘束する歯形に形成されているので、ラチェット歯23aと係合爪24bとの係合により、そのチルト角が確実に保持される。
【0035】
以上の通り、ラチェット歯23a及び係合爪24bを備えて成るラチェット機構は、チルトパネルユニット10Aのチルト角を保持するチルト角保持手段を構成する。そしてこのチルト角保持手段により、チルトパネルユニット10Aのチルト角が小刻みに調整できるようになっている。
【0036】
一方、チルトパネルユニット10Aを垂直姿勢(図6(A))に戻したい場合には、押しボタン21を上限位置から下限位置に向けて押下する。すると、可動部材21が変位し、係合爪24bがラチェット歯23aとの係合を解除し(ラチェット歯23aから離間し)、これによりチルトパネルユニット10Aを垂直姿勢に戻すことができる。
【0037】
ここで、チルトパネルユニット10Aをチルトさせる際、上述した通り係合爪24bは2つのラチェット歯23aの間の谷に入り込みながら動く(飛び跳ねながら動く)ので、可動部材24が、ラチェット部材23の半径方向に小刻みに動く。このため、仮に可動部材24と押しボタン21とを直接係合させると、チルトパネルユニット10Aのチルト動作に伴って押しボタン21が小刻みに振動して装置の外観上好ましくない状態となる。また、押しボタン21の不要な上下動に伴って押しボタン21の摺動摩擦抵抗が次第に大きくなり、押しボタン21の操作感が早期に低下してしまう虞もある。
【0038】
しかしながら本実施形態においては、押しボタン21を押下しない非操作状態において、押しボタン21が押圧ばね25により上下動ストロークにおける上限位置いっぱいに位置決めされており、すなわち非操作状態においては上方へ移動することのできる移動しろ(ガタ)が排除されている。このため、チルト動作に伴い可動部材24が小刻みに動いても、押しボタン21が小刻みに振動(微動)することが防止されている。
【0039】
尚、押圧ばね25を介して可動部材24の小刻みな動きを吸収するので、押しボタン21の非操作状態において当該押しボタン21と可動部材24とが直接接触することは好ましくなく、所定の間隔を空けて配置されていることが好ましい。
【0040】
次に、ラチェット歯23aの歯形について図7を参照しながら詳説する。図7(A)に示すように、ラチェット歯23a及び係合爪24bは、チルトパネルユニット10Aの自重を支えることができる他、ボタン操作などの際に所定の押圧力(図6(B)において符号Fで示す)が掛かってもチルト角を保持できる形状を成している。しかしながらこのチルト角の保持が厳格であると、想定外の大きな押圧力Fが加わった際に、ラチェット歯23aや係合爪24b、或いはチルトパネルユニット10Aの側が破損する虞がある。
【0041】
そこで本実施形態では、ラチェット歯23aにおいて係合爪24bと接してチルト角を保持する側の歯面(図7(A)、(B)において符号Pで示す)を、歯面Pの基端側端部(図7(B)において符号Qで示す)を通るラチェット部材23の半径線(図7(A)、(B)において符号rで示す)に対し開き角(図7(B)において符号αで示す)を成す傾斜面により形成した。
【0042】
以下、更に詳説する。図7(A)、(B)において半径線rは、ラチェット部材23(軸22a)の軸中心位置c(即ち、チルトパネルユニット10Aの回動中心)を通る半径線であり、図7(B)において線sは、歯面Pを外側に延長した線を示している。図示するように、歯面Pは、当該歯面Pの基端側端部Qを通る半径線rに対し開き角α(α>0°)を成す傾斜面により形成されている。尚、本実施形態では、係合爪24b側においてラチェット歯23aの歯面Pと接する歯面は、歯面Pと平行に形成されている。
【0043】
ここで、符号Fpはチルトパネルユニット10Aに所定の押圧力Fが加えられた際に係合爪24bがラチェット歯23aから受ける反力を示しており、この反力Fpは歯面Pに垂直な方向を向いている。また符号Faは、反力Fpの、可動部材24のスライド可能方向に平行な方向の分力を示しており、符号Fbは、可動部材24が押圧ばね26により付勢される付勢力を示している。
【0044】
ここで仮に、歯面Pが符号P’で示すように半径線rに対して所定の開き角を形成しない場合、即ちラチェット歯23aが鋭角歯である場合には、分力Faは付勢力Fbと同じ方向を向き、チルトパネルユニット10Aに加わる押圧力Fが増加するほどラチェット歯23aと係合爪24bとの係合状態が強固なものとなる。故にこの場合、前記押圧力Fが大きくなり過ぎると、ラチェット歯23aや係合爪24b、或いはチルトパネルユニット10Aの側が破損する虞がある。
【0045】
これに対し本実施形態では上述の通り歯面Pを半径線rに対して所定の開き角α(α>0°)を形成するような傾斜面で形成したので、反力Fpの分力Faは図7(B)に示す通り付勢力Fbとは逆方向を向く。
【0046】
従ってラチェット歯23aと係合爪24bとにより所定のチルト角が保持された状態で所定の押圧力Fを超える大きな押圧力Fがチルトパネルユニット10Aに上から加わると、分力Faが付勢力Fbに勝り、その結果係合爪24bが歯面Pに接しながら同図右方向に滑り、ラチェット歯23aと係合爪24bとの係合が解除されて、係合爪24bが一段下に下がることが可能となっている。また、付勢力Fbが、その様な付勢力の大きさに設定されている。
【0047】
従ってチルトパネルユニット10Aに所定の押圧力Fを超える大きな押圧力Fが掛かっても、各構成要素の破損を確実に回避することが可能となっている。また、所定の押圧力Fが掛かっても各構成要素の破損を招かないようにする為にラチェット歯23aや係合爪24bなどを大型化せずに済むので、装置全体の大型化を回避することができる。
【0048】
尚、ラチェット歯23aと係合爪24bとの係合が解除される際の押圧力Fを基準負荷とすると、この基準負荷は、例えばラチェット歯23aや係合爪24bなどの各構成部位の強度を基準として予め設定することができ、或いは、チルトパネルユニット10Aのボタン操作時にユーザから受ける押圧力に所定の余裕を加えた値を基準として、予め求めることができる。
【0049】
尚、以上説明したラチェット歯23a及び係合爪24bの形状の他にも、チルトパネルユニット10Aに掛かる押圧力Fが所定の大きさに達するまではチルト角を保持可能(ラチェット歯23aと係合爪24bとの係合状態を維持可能)であるとともに、チルトパネルユニット10Aに一定以上の押圧力Fが加わった際に、係合爪24bがラチェット歯23aから離れる方向の力が生じる形状を成していれば、ラチェット歯23a或いは係合爪24bはどのような形状であっても構わない。
【0050】
また、この様なラチェット歯23a及び係合爪24bの形状は、上述の通りチルトパネルユニット10Aに所定の押圧力Fを超える大きな押圧力が掛かった際の破損を防止する為の形状であり、上述したチルト動作に伴う押しボタン21の小刻みな振動を防止する為の必須の構成要素では無い。従ってチルト動作に伴う押しボタン21の小刻みな振動を防止することのみを目的とする場合には、ラチェット歯23aは、例えば図7(B)において符号P’で示すような歯面を備えていても構わない。
【0051】
[本発明の第2実施形態]
続いて図8〜図14を参照しながら本発明の第2実施形態について説明する。ここで、図8及び図9は本発明の第2実施形態に係るインクジェット複合機1Bの外観斜視図、図10及び図11は本発明の第2実施形態に係るチルト装置30の斜視図、図12は同分解斜視図、図13及び図14は同断面である。尚、図8及び図9において、上述した第1実施形態(図1及び図2)と同様の構成要素については同一符号を付してあり、以下その説明は省略する。
【0052】
図8及び図9に示すインクジェット複合機1Bは、チルトパネルユニット10Bを備えており、このチルトパネルユニット10Bが、後述するチルト装置30を介してインクジェット複合機1Bの装置本体1aに対して回動(チルト)可能に設けられており、またそのチルト角が、例えば図9に示すような角度に保持されるようになっている。
【0053】
符号31は押しボタンを示しており、上述した第1実施形態とは異なり、この押しボタン31はチルトパネルユニット10Bの側ではなく装置本体1aの側に設けられている(つまり、パネルとともにチルトしない構造となっている)。
【0054】
以下、図10〜図14を参照しながらチルト装置30について詳説する。
本実施形態に係るチルト装置30は、プリンタ装置本体1a側に固定状態で設けられ、ベースとなるホルダ部材38と、このホルダ部材38に回動可能に支持されるラチェット部材33と、ホルダ部材38に回動可能に支持される可動部材34と、押しボタン部材31と、開きばね35、36と、ホルダ部材38に設けられるダンパー37と、ダンパー37をホルダ部材38に保持するホルダ部材39と、を備えて構成されている。
【0055】
ラチェット部材33は、チルトパネルユニット10Bの回動軸32を受け入れる穴33cを有する円筒状部材である。回動軸32及び穴33cは、図13及び図14に示すように平面視略D形の形状を成しており、これによりラチェット部材33がチルトパネルユニット10Bに対して固定状態で装着され、チルトパネルユニット10Bのチルト動作に伴ってラチェット部材33がホルダ部材38において回動するようになっている。
【0056】
ラチェット部材33は、外周に沿ってラチェット歯33aを複数備えており、このラチェット歯33aが、後述する可動部材34の係合爪34aと係合することにより、チルトパネルユニット10Bが所定のチルト角で保持される。即ち、ラチェット歯33a及び係合爪34aが、チルトパネルユニット10Bを所定のチルト角で保持するチルト角保持手段を構成する。
【0057】
一方、係合爪34aを備える可動部材34は、回動軸34b、34bを介してホルダ部材38に回動可能に設けられており、回動することにより、係合爪34aのラチェット歯33aに対する係合及び係合解除を行う。尚、第1付勢部材としての巻きばね35はホルダ部材38と可動部材34との間で付勢力を発揮することにより、可動部材34を、係合爪34aがラチェット歯33aに係合する方向に付勢する。
【0058】
押しボタン部材31は、図11に示すように(インクジェット複合機1Bの)装置本体1aを構成する装置フレーム16に固定される固定部31dから上方に延びるアーム部31cと、このアーム部31cの上部に設けられ、装置フレーム16に形成された軸受部16aに支持される支持軸31bと、この支持軸31bから延びる弾性変形可能な弾性変形部31eと、この弾性変形部31eに接続される押しボタン部31aと、のこれらを一体的に備えるよう樹脂材料により形成されている。
【0059】
押しボタン部31aは、当該押しボタン部31aを押下しない非操作状態において、図13に示すように可動部材34のボタン係合部34cとの間に所定の隙間を形成するよう配置されている。そして押しボタン部31aが押下されると、図13から図14への変化に示すように弾性変形部31eの弾性変形による押し込み抵抗を伴って前記隙間分押しボタン部31aが下方に下がり、ボタン係合部34cと接する。
【0060】
そして更に押しボタン部31aが押下されると、当該押しボタン部31aがボタン係合部34cを上方から押して、可動部材34が回動してラチェット歯33aと係合爪34aとの係合が解除されるようになっている。
【0061】
尚、ラチェット部材33にはギア部33bが形成されており、このギア部33bが、ダンパー37と係合するようになっているとともに、巻きばね36により、ラチェット部材33が図13及び図14の反時計回り方向、即ちチルトパネルユニット10が垂直姿勢(図8の姿勢)に戻る方向に付勢されている。
【0062】
このため、チルトパネルユニット10Bをチルトさせた状態で押しボタン部31aを押下し、チェット歯33aと係合爪34aとの係合を解除すると、チルトパネルユニット10Bは巻きばね36の付勢力及びチルトパネルユニット10Bの自重により、垂直姿勢に確実に戻るようになっている。またこのとき、ダンパー37による減衰効果によって、垂直姿勢に戻る際の回動速度が規制されるようになっている。
【0063】
尚、押しボタン部材31は、支持軸31bが、装置フレーム16に形成された軸受部16aに支持されている為、押しボタン部31aは弾性変形部31eによって可動部材34(ボタン係合部34c)との間に所定の間隔が形成された状態となっている。即ち、弾性変形部31eが、押しボタン部31aと可動部材34との間に所定の間隔を形成するよう押しボタン部31aを位置決めする位置決め手段を構成する。また、弾性変形部31eが、押しボタン部31aをその上下動ストロークにおける上限位置いっぱいに位置決めする位置決め手段を構成する。
【0064】
以上のように構成されたチルト装置30によれば、押しボタン部31aを押下しない非操作状態において、係合爪34aを備える可動部材34のボタン係合部34cと、押しボタン部31aとの間に間隔が形成されるよう構成されており、即ち可動部材34(ボタン係合部34c)が押しボタン31と干渉することなく動くことのできる空間が形成されている。従って係合爪34aがラチェット歯33aとの間で飛び跳ねても、押しボタン部31aが小刻みに振動することを防止できる。
【0065】
また、押しボタン部31aの非操作状態において当該押しボタン部31aを位置決めする位置決め手段としての弾性変形部31eが、押しボタン部31aと樹脂成形により一体的に形成されているので、装置の低コスト化を図られている。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインクジェット複合機の外観斜視図。
【図2】本発明の第1実施形態に係るインクジェット複合機の外観斜視図。
【図3】本発明の第1実施形態に係るチルト装置の斜視図。
【図4】本発明の第1実施形態に係るチルト装置の分解斜視図。
【図5】本発明の第1実施形態に係るチルト装置の断面斜視図。
【図6】(A)、(B)は本発明の第1実施形態に係るチルト装置の断面図。
【図7】(A)はラチェット歯と係合爪との係合部分の拡大図、(B)はラチェット歯と係合爪との圧接により生じる力の作用方向を説明する図。
【図8】本発明の第2実施形態に係るインクジェット複合機の外観斜視図。
【図9】本発明の第2実施形態に係るインクジェット複合機の外観斜視図。
【図10】本発明の第2実施形態に係るチルト装置の斜視図。
【図11】本発明の第2実施形態に係るチルト装置の斜視図。
【図12】本発明の第2実施形態に係るチルト装置の分解斜視図。
【図13】本発明の第2実施形態に係るチルト装置の断面図。
【図14】本発明の第2実施形態に係るチルト装置の断面図。
【符号の説明】
【0067】
1A、1B インクジェット複合機、1a 装置本体、2 原稿台カバー、3 記憶媒体挿入部、4 用紙カセット、5 引き出し式用紙スタッカ、10A、10B チルトパネルユニット、11 情報表示部、12 操作設定部、14A フレーム、15 ホルダ、16 装置フレーム、
20 チルト装置、21 押しボタン、21a 突起、21b 凹部、22 支持部材、22a 軸、23 ラチェット部材、23a ラチェット歯、24 可動部材、24a 穴部、24b 係合爪、24c 円筒部、24d 凹部、25、26 押圧ばね、
30 チルト装置、31 押しボタン部材、31a 押しボタン部、31b 支持軸、31c アーム部、31d 固定部、32 回動軸、33 ラチェット部材、33a ラチェット歯、33b ギア部、34 可動部材、34a 係合爪、34b 回動軸、34c ボタン係合部、35、36 開きばね、37 ダンパー、38、39 ホルダ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器本体に対して回動可能なチルト部の回動中心まわりに沿って複数の歯部を備えたチルト角保持部材、および前記歯部と係合/係合解除可能な係合爪を備えた可動部材を備えて構成され、前記歯部と前記係合爪との係合により前記チルト部のチルト角を保持するチルト角保持手段と、
所定の上下動ストロークを有し、押下されることにより前記可動部材を変位させ或いは姿勢変化させて、前記係合爪を前記歯部から退避させる押しボタンと、
前記押しボタンが押下されない非操作状態において、前記押しボタンの上下動ストロークにおける上限位置に当該押しボタンを位置決めする位置決め手段と、
を備えたことを特徴とするチルト装置。
【請求項2】
機器本体に対して回動可能なチルト部の回動中心まわりに沿って複数の歯部を備えたチルト角保持部材、および前記歯部と係合/係合解除可能な係合爪を備えた可動部材を備えて構成され、前記歯部と前記係合爪との係合により前記チルト部のチルト角を保持するチルト角保持手段と、
所定の上下動ストロークを有し、押下されることにより前記可動部材を変位させ或いは姿勢変化させて、前記係合爪を前記歯部から退避させる押しボタンと、
前記押しボタンが押下されない非操作状態において、前記可動部材と、前記押しボタンと、の間に間隔を形成するよう前記押しボタンを位置決めする位置決め手段と、
を備えたことを特徴とするチルト装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のチルト装置において、前記位置決め手段と前記押しボタンとが一部材で構成されていることを特徴とするチルト装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のチルト装置において、前記チルト角保持部材が、円筒状部材または円柱状部材の外周に沿って前記歯部を備えて構成されるとともに、前記機器本体に対し固定状態で設けられ、
前記可動部材が、前記チルト角保持部材が遊挿される穴部の内側に前記係合爪を備えて構成され、前記チルト部において前記押しボタンのストローク方向に変位することにより、前記係合爪の前記歯部に対する係合及び係合解除の切り替えを行うよう設けられ、
前記可動部材を、前記係合爪が前記歯部に係合する方向に付勢する第1付勢部材と、
前記可動部材と前記押しボタンとの間に介在し、前記押しボタンを前記上限位置に向けて付勢する、前記位置決め手段を構成する第2付勢部材と、を備えて構成されている、
ことを特徴とするチルト装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のチルト装置において、前記チルト角保持部材が、円筒状部材または円柱状部材の外周に沿って前記歯部を備えて構成されるとともに、前記チルト部に対し固定状態で設けられ、
前記可動部材が、前記係合爪及び前記押しボタンと係合可能なボタン係合部を備えるとともに回動可能に設けられ、前記押しボタンにより前記ボタン係合部が押されることにより、回動して前記係合爪を前記歯部から離間させるよう設けられ、
前記チルト角保持部材を回動可能に支持する、前記機器本体に対し固定状態で設けられるホルダ部材と、
前記可動部材を、前記係合爪が前記歯部に係合する方向に付勢する第1付勢部材と、
弾性変形することにより前記押しボタンの押し込み抵抗を発生させる、前記位置決め手段を構成する弾性変形部、および前記押しボタンを一体的に備えて成るボタン部材と、を備えて構成されている、
ことを特徴とするチルト装置。
【請求項6】
被記録媒体に記録を行う記録手段と、
各種情報を表示する情報表示部及び各種操作設定を行う操作設定部を備えたチルト部のチルト角を保持する、請求項1から5のいずれか1項に記載の前記チルト装置と、
を備えたことを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−5941(P2010−5941A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168437(P2008−168437)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】