説明

チロシナーゼ活性阻害剤および美白化粧料

【課題】シロウリの抽出物について酸化され難く安定であり、しかも安全性の高い有効成分を見出し、それを用いて新規なチロシナーゼ活性阻害剤、メラニン産生抑制剤または美白化粧料とすることである。
【解決手段】シロウリ(Cucumis melo ver. conomon)の果皮または果実などを被抽出材料として抽出されたエタノール可溶性成分もしくは前記シロウリの果実の搾汁液またはそれらの加水分解物を有効成分として含有するチロシナーゼ活性阻害剤とする。また、このチロシナーゼ活性阻害剤の含有量が0.1〜10質量%であるメラニン産生抑制剤、またはチロシナーゼ活性阻害剤を含有する美白化粧料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チロシナーゼ活性阻害剤およびこのチロシナーゼ活性阻害剤を含有するメラニン産生抑制剤並びに美白化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヒトの皮膚のシミ、ソバカスや日焼けによる皮膚色素沈着は、皮膚内に存在する色素細胞であるメラノサイトの活性化によりメラニンの産生が亢進された結果、皮膚内においてメラニンが全体的もしくは局所的に蓄積されることで生じる。
【0003】
したがって、皮膚の色素沈着を制御するためには、メラニン産生酵素活性の阻害や、メラニン産生過程の阻害、産生されたメラニンを分解等により淡色化することなどの機構を制御する美白成分の発見が求められている。
【0004】
化粧品分野では、前述のような知見に基づいて、例えばアスコルビン酸類、コロイド硫酸やグルタチオンに代表される硫黄化合物、過酸化水素、ハイドロキノン、カテコール等の種々の美白成分が提案されてきた。
【0005】
しかしながら、アスコルビン酸類については、化粧料への配合において製品中で酸化されやすく不安定であり、変色および変臭の原因となる問題がある。
【0006】
また、グルタチオンおよびコロイド硫黄は、著しい異臭を放つ点で問題があり、過酸化水素水は保存上の安定性および使用上の安全性に問題がある。
【0007】
また、ハイドロキノンおよびカテコール等の化学合成品は、皮膚刺激、アレルギー性等の使用上の安全性に問題がある。そこで、酸化され難く安定であり、しかも安全性の高い天然原料を有効成分とする美白剤の開発が望まれている。
【0008】
ここで、本願の発明者らが注目した美白成分を得るための素材であるシロウリは、古くから食用として栽培され、主に漬物の素材として栽培されてきた中国由来の食用植物である。
【0009】
このようなシロウリからのアルコールその他の有機溶媒を抽出溶媒とする抽出物は、セラミダーゼ活性阻害作用が知られており、細胞の増殖抑制、分化誘導,アポトーシスの調節に有効であり、ガンの治療や予防などに用いられるセラミダーゼ活性阻害剤として知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2005/051406
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記したシロウリの抽出物については、ガンの治療や予防などに用いられるセラミダーゼ活性の阻害以外の有効性については未だ知られておらず、更なる有効な用途開発が求められている。
【0012】
また、酸化され難く安定であり、しかも安全性の高い天然原料を有効成分とする美白剤は得られていない。
【0013】
そこで、この発明の課題は、シロウリの抽出物について新たな有効な特性を見出し、その特性を利用して、酸化され難く安定であり、しかも安全性の高い天然原料を有効成分とする美白性有効成分を見出し、それを用いて産業上の利用価値の高い新規な化粧料とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明では、シロウリ(Cucumis melo ver. conomon)を被抽出材料として抽出されたエタノール可溶性成分またはその加水分解物を有効成分として含有するチロシナーゼ活性阻害剤としたのである。
【0015】
上記したように構成されるこの発明に係るチロシナーゼ活性阻害剤は、シロウリ(Cucumis melo ver. conomon)を被抽出材料として抽出されたエタノール可溶性成分により、チロシナーゼ活性を阻害する作用を有することが、後述の実験結果から判明した。
【0016】
すなわち、エタノール可溶性成分によって、細胞内でメラニンの原料となるアミノ酸の一種であるチロシンに酸価酵素であるチロシナーゼが作用しなくなり、また、たとえ一部のチロシンにチロシナーゼが作用してドーパが生成しても、チロシナーゼがドーパに充分作用しなくなっているので、ドーパキノンが生成しない。これによって、最終的にはメラニンの生成量は充分に抑制される。
【0017】
このようなチロシナーゼ活性を阻害する作用を有する被抽出材料としては、シロウリ(Cucumis melo ver. conomon)の果皮または果実であるものが好ましい。
【0018】
また、このようなチロシナーゼ活性を阻害する作用を有する被抽出材料のエタノール可溶性成分またはその加水分解物を有効成分として含有するチロシナーゼ活性阻害剤であれば、当然にチロシナーゼ活性阻害剤を含有するメラニン産生抑制剤とすることができる。
【0019】
このようなメラニン産生抑制剤においては、充分なチロシナーゼ活性阻害作用が奏されるように、前記チロシナーゼ活性阻害剤の含有量を0.1〜10質量%とすることが好ましい。使用目的によっては微量に添加しても効果はあるが、10質量%を越えて多量に配合してもそれ以上の効果が期待できず添加効率からみて実用的でない。
【0020】
また、同様にしてこのようなチロシナーゼ活性阻害剤を含有する美白化粧料とすることもでき、チロシナーゼ活性阻害剤の含有量が0.1〜10質量%である美白化粧料とすることが好ましい。前記同様に充分な美白作用が奏されるように、前記チロシナーゼ活性阻害剤の含有量を0.1〜10質量%とすることが好ましいが、使用目的によっては微量に添加しても効果はあり、また10質量%を越えて多量に配合してもそれ以上の効果が期待できずに添加効率からみて実用的でない。
【発明の効果】
【0021】
この発明は、シロウリ(Cucumis melo ver. conomon)を被抽出材料として抽出されたエタノール可溶性成分またはその加水分解物を有効成分として含有するチロシナーゼ活性阻害剤としたので、シロウリの抽出物について新たな有効な特性が見出され、その特性を利用して、酸化され難く安定であり、しかも安全性の高い天然原料を有効成分とする美白性有効成分となり、それを用いて産業上の利用価値の高い新規な化粧料を製造できる利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、シロウリ(Cucumis melo ver. conomon)を被抽出材料として抽出されたエタノール可溶性成分またはその加水分解物を有効成分として含有する。
【0023】
ここで、被抽出材料として使用する原料は、ウリ科に属する植物であるシロウリ(学名:Cucumis melo ver. conomon)であるが、そのようなシロウリの交配種および変種を用いることもできる。特に、伝統野菜として大阪府で普及し「玉造黒門越瓜」と通称されるものは所期した好ましい効果が得られる被抽出材料である。玉造黒門越瓜は、江戸時代に大坂城の玉造門付近で作られていたものであり、果実が太く長く、濃緑色に8〜9条の白色の縦縞があるのが特徴のものである。
【0024】
抽出原料として使用し得るシロウリの植物体の部位としては、花、花穂、果皮、果実、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根あるいは全草等が挙げられるが、特に果皮、果実を用いることが好ましく、種子は含まなくてもよい。
【0025】
また、シロウリの果実の搾汁液、すなわちシロウリの果実を磨り潰したもの、シロウリ果実の果汁、果実を磨り潰したもの、もしくはこれらをろ過したろ液または遠心分離した上清などのように搾汁液を固液分離して得られた液体も有効成分として採用できる。
【0026】
この発明において使用するシロウリ抽出物は、シロウリから抽出されたもののうち、最終的な抽出段階でエタノール可溶性を示すものであればよく、実際の製造方法としては、エタノール以外の抽出溶媒を用いて抽出されたものであってもよい。
例えば、エタノールまたはそれ以外の抽出溶媒として、メタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級(炭素数1〜5)アルコール系溶媒、エチレングリコールなどの多価アルコール、酢酸エチル、n−ヘキサンなどの有機溶媒からなる非極性の溶媒、または水や水性溶媒(前記アルコール系溶媒を含有する水溶液を含む)などの極性溶媒が使用可能なものとして挙げられる。
このようにシロウリ抽出物は、その抽出溶媒や抽出手段を特に限定して得られるものではなく、シロウリ由来の成分のうち、エタノール可溶性の抽出成分が含有されているものであればよく、製造工程では必要に応じて周知な抽出溶媒や手段を用いることができる。
【0027】
例えば、抽出原料であるシロウリの5〜20倍量(質量比)のエタノール(好ましい濃度は10〜99.5vol%、より好ましくは40〜99.5vol%、さらには70〜95vol%程度)等の低級アルコール系または水性溶媒系その他の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温または還流加熱下で可溶性成分を溶出させた後、濾過して抽出残渣を除去する抽出工程により抽出液を得ることができる。
【0028】
得られた抽出液は、そのまま用いることもできるが、希釈もしくは濃縮、乾燥して用いても良い。また、濃縮もしくは乾燥物をさらに適当な溶剤に溶解または懸濁して用いることもでき、濃縮もしくは乾燥物の分画を用いることもでき、さらにまた、粗精製物もしくは精製物を得るために精製等の処理を施しても良い。
【0029】
すなわち、この発明においていう「抽出物」には、シロウリを抽出原料として得られる抽出液、抽出液の希釈液もしくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物のいずれもが含まれる。また、「加水分解抽出物」についても同様である。
【0030】
この発明におけるシロウリ加水分解抽出物は、上述のシロウリ抽出物を加水分解したものをいい、抽出過程において抽出と同時に加水分解したものであってもよい。
加水分解は、例えば、酸(塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、有機酸等)またはアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等)を添加し、必要に応じて加熱することにより可能であり、または微生物を用いた発酵による加水分解を採用することもできる。
【0031】
分画は、代謝変換、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、クロマトグラフィー(イオン交換、親水性吸着、疎水性吸着、サイズ排除、配位子交換、アフィニティー等)を用いた分画、ろ紙やメンブランフィルター、限外濾過膜等を用いたろ過、加圧または減圧、加温または冷却、乾燥、pH調整、脱臭、脱色、長時間の静置保管等が挙げられる他、これらを任意に選択し組合せた処理を行うことが可能である。
得られた抽出液ならびに加水分解抽出物は、そのままでもチロシナーゼ活性阻害剤、メラニン産生抑制剤または美白剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液または乾燥物とすることもできる。
【0032】
以上のようにして得られるシロウリ抽出物ならびにシロウリ加水分解抽出物は、チロシナーゼ活性阻害作用、メラニン産生抑制作用または美白作用を有しているため、それらの作用を利用してチロシナーゼ活性阻害剤、メラニン産生抑制剤または美白剤の有効成分として用いることができる。
【0033】
この発明でいうチロシナーゼ活性阻害剤中の有効成分として含有量は、エタノール可溶性成分またはその加水分解物の乾燥質量として、好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜0.5質量%である。
【0034】
この発明でいうシロウリ抽出物ならびにシロウリ加水分解抽出物が有する美白作用は、例えば、チロシナーゼ阻害作用またはメラニン産生抑制作用に基づいて発揮される。ただし、シロウリ抽出物ならびにシロウリ加水分解抽出物が有する美白作用は、この作用に基づいて発揮される美白作用に限定されるものではない。
【0035】
この発明のチロシナーゼ活性阻害剤、メラニン産生抑制剤または美白化粧料は、シロウリ抽出物もしくはシロウリ加水分解抽出物のみからなるものであっても良く、またはシロウリ抽出物もしくはシロウリ加水分解抽出物から製剤化したものであっても良い。
【0036】
なお、この発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、必要に応じてチロシナーゼ活性阻害作用を有する他の天然抽出物を併用し、有効成分として適量を配合することができる。また、この発明のメラニン産生抑制剤も同様に、必要に応じてメラニン産生抑制作用を有することが知られている他の天然抽出物を有効成分として併用することができる。また、この発明の美白剤も同様に、必要に応じて美白作用を有する他の天然抽出物を有効成分として併用することができる。
【0037】
この発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、シロウリ抽出物ならびにシロウリ加水分解抽出物が有するチロシナーゼ活性阻害作用を通じて、チロシナーゼの活性を阻害することができる。これにより、皮膚の黒化、シミ、ソバカスなどを予防、治療または改善することができる。ただし、この発明のチロシナーゼ活性阻害剤は、これらの用途以外にもチロシナーゼ活性阻害作用を発揮することに意義のある種々の用途に使用可能である。
【0038】
この発明のメラニン産生抑制剤は、シロウリ抽出物ならびにシロウリ加水分解抽出物が有するメラニン産生抑制作用を通じ、メラニンの産生を阻害する。これにより、皮膚の黒化、シミ、ソバカスなどを予防、治療または改善することができる。ただし、この発明のメラニン産生抑制剤は、これらの用途以外にもメラニン産生抑制作用を発揮することに意義のある種々の用途に用いることができる。
【0039】
この発明の美白化粧料は、シロウリ抽出物ならびにシロウリ加水分解抽出物が有する美白作用を通じて、皮膚の黒化、シミ、ソバカスなどを予防、治療または改善することができる。ただし、本発明の美白剤は、これらの用途以外にも美白作用を発揮することに意義のある種々の用途に用いることができる。
【0040】
この発明で使用するチロシナーゼ活性阻害剤、メラニン生成抑制剤、美白化粧料、化粧料組成物の形態としては、液状、固形状、粉末状、ペースト状、ゲル状等いずれの形状でも良く、最終的な製品を構成する上で最適な形状を任意に選択できる。
【0041】
シロウリ抽出物を配合し得る化粧料組成物としては、特に限定されるものではなく、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディーシャンプーなどが挙げられる。
シロウリ抽出物ならびにシロウリ加水分解抽出物の化粧料における配合量は、化粧料組成物の種類、品質、期待される作用の程度に応じ、前記した有効成分量を目安にして適量を配合することができる。
【0042】
この発明のチロシナーゼ活性阻害剤、メラニン生成抑制剤、美白剤、美白化粧料は、シロウリ抽出物ならびにシロウリ加水分解抽出物が有するチロシナーゼ活性阻害作用もしくはメラニン生成抑制作用を妨げない限り、通常の美白化粧料の製造に用いられる主剤、助剤またはその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、防腐・防バイ剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、キレート剤、清涼剤、安定化剤、乳化剤、増泡剤、増粘剤、消臭・脱臭剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、創傷治療剤、抗酸化・活性酸素除去剤、酵素、ホルモン類、動・植物性蛋白質およびその分解物、動・植物性多糖類およびその分解物、動・植物性糖蛋白質およびその分解物、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料、精製水(電子水、小クラスター化等)などを併用することができる。
このように必要に応じて周知成分を併用することによって、より一般性のある製品となり、また併用された他の有効成分との間の相乗作用においては、通常期待される以上の優れた効果をもたらす場合のあることも予想される。
【0043】
なお、この発明のチロシナーゼ活性阻害剤、メラニン生成抑制剤、美白剤または美白化粧料は、ヒトに対して適用されるものであるが、必要に応じそれぞれの作用効果を期待してヒト以外の動物に対しても施用可能である。
【実施例】
【0044】
〔実施例1〕(玉造黒門越瓜抽出物Aの製造)
玉造黒門越瓜48.35Kgの果実全体を材料として細分し、5〜10倍量(質量比)の抽出溶媒としてエタノール(95vol%)に浸漬し、還流加熱下で可溶性成分を溶出させた後、ろ過して抽出残渣を除去し、濃縮して玉造黒門越瓜抽出物Aを得た。このように抽出溶媒としてエタノールを用いたときの各抽出物の収率は2.74%であった。
【0045】
〔実施例2〕(玉造黒門越瓜抽出物Bの製造)
玉造黒門越瓜40.55Kgの果実からタネを抜いたものを材料として細分し、5〜10倍量(質量比)の抽出溶媒としてエタノール(95vol%)に浸漬し、還流加熱下で可溶性成分を溶出させた後、ろ過して抽出残渣を除去し、濃縮して玉造黒門越瓜抽出物Bを得た。このように抽出溶媒としてエタノールを用いたときの各抽出物の収率は2.51%であった。
【0046】
〔実施例3〕(玉造黒門越瓜加水分解抽出物Aの製造)
玉造黒門越瓜45.75Kgの果実全体を材料として細分し、5〜10倍量(質量比)の前記抽出溶媒であるエタノール(95vol%)に浸漬し、そこに0.1倍量の10%水酸化カリウム水溶液を添加し、還流加熱下で可溶性成分を溶出ならびに加水分解させた後、ろ過して抽出残渣を除去し、0.1倍量の10%クエン酸水溶液により中和して、濃縮して玉造黒門越瓜加水分解抽出粗製物を得た。その粗製物に、5倍量のエタノールを入れて攪拌し、ろ過して抽出残渣を除去し、濃縮して玉造黒門越瓜加水分解抽出物Aを得た。このように抽出溶媒としてエタノールを用いたときの各抽出物の収率は2.03%であった。
【0047】
〔実施例4〕(玉造黒門越瓜加水分解抽出物Bの製造)
玉造黒門越瓜42.60Kgの果実からタネを抜いたものを材料として細分し、5〜10倍量(質量比)の前記抽出溶媒であるエタノール(95vol%)に浸漬し、そこに0.1倍量の10%水酸化カリウム水溶液を添加し、還流加熱下で可溶性成分を溶出ならびに加水分解させた後、ろ過して抽出残渣を除去し、0.1倍量の10%クエン酸水溶液により中和して、濃縮して玉造黒門越瓜加水分解抽出粗製物を得た。その粗製物に、5倍量のエタノールを入れて攪拌し、ろ過して抽出残渣を除去し、濃縮して玉造黒門越瓜加水分解抽出物Bを得た。このように抽出溶媒としてエタノールを用いたときの各抽出物の収率は2.16%であった。
【0048】
〔試験1〕(マッシュルーム由来チロシナーゼ活性阻害作用試験)
実施例1および実施例2の玉造黒門越瓜抽出物AおよびB、ならびに実施例3および実施例4の玉造黒門越瓜加水分解抽出物AおよびBについて、以下の方法でチロシナーゼ活性阻害作用を試験した。
試験管に、Mcllvaine 緩衝液(pH6.8)0.3mL、0.3mg/mLのチロシン溶液0.15mL、玉造黒門越瓜抽出物もしくは玉造黒門越瓜加水分解抽出物10mgを100質量%DMSO1mLに溶解して得た試料溶液0.5mLを加え、さらにチロシナーゼ溶液(マッシュルーム由来,2500unit/mL,Sigma社製)0.05mLを加えて、37度で15分間インキュベーションした。反応終了後、吸光光度計で475nmにおける吸光度を測定した。
【0049】
同様の操作と吸光度測定を、酵素溶液を添加せずにMcllvaine 緩衝液(pH6.8)を用いて行った。さらに、試料溶液を添加せず、試料溶液の溶媒のみについても同様の測定を行った。得られた結果から、下記の式によりチロシナーゼ活性阻害率(%)を算出した。
【0050】
チロシナーゼ活性阻害率(%)={1−(A−B)/(C−D)}×100
ただし、上記式において、Aは「酵素溶液添加・試料添加時の吸光度」を、Bは「酵素溶液無添加・試料添加時の吸光度」を、Cは「酵素溶液添加・試料無添加時の吸光度」を、Dは「酵素溶液無添加・試料無添加時の吸光度」を示した。
【0051】
次に、試料溶液の濃度を段階的に減少させて上記阻害率の測定を行い、各濃度におけるチロシナーゼ活性阻害率(%)を求めた。結果を表1に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果からも明らかなように、玉造黒門越瓜抽出物AおよびB、ならびに玉造黒門越瓜加水分解抽出物AおよびBは、マッシュルーム由来のチロシナーゼ活性阻害作用を有し、チロシナーゼ活性阻害剤として有効成分を含有することが確認された。さらに、シロウリ抽出物において加水分解処理することによりチロシナーゼ活性に対する阻害効果が向上することが確認された。
【0054】
〔試験2〕(メラニン産生抑制作用試験)
実施例1および実施例2の玉造黒門越瓜抽出物AおよびB、ならびに実施例3および実施例4の玉造黒門越瓜加水分解抽出物AおよびBについて、以下の方法でヒトメラノサイトに対するメラニン産生抑制作用を試験した。
【0055】
正常ヒトメラノサイト(NHEM,クラボウ社製)を、25cmの培養フラスコで、Medium254培地(クラボウ社製)、5%二酸化炭素および95%空気の下にて5日間培養した。培養後、トリプシン処理をして細胞を集め、4×10個を、Medium254培地5mlを入れた25cmの培養フラスコに播種し、24時間培養した。その後、「玉造黒門越瓜抽出物もしくは玉造黒門越瓜加水分解抽出物」(以下、シロウリ抽出物と称する場合がある。)を溶解させたMedium254培地5mlで7日間培養を行った。培養後、トリプシン処理をして細胞を集め、培地を遠心分離により除き、細胞を0.1%TritonX‐100含有PBS(−)0.25mlで超音波処理により破砕した。
【0056】
その後、10%DMSO含有1N水酸化ナトリウム溶液0.5mlを加え80度で2時間反応させ、反応液を常温に戻し、吸光光度計で470nmにおける吸光度を測定した。また、測定した細胞数より単位細胞あたりの吸光度を算出した。以下、この吸光度を「単位細胞あたりの試料添加時の吸光度」という。
【0057】
シロウリ抽出物を添加しない場合も上記と同様に細胞を処理し、470nmにおける吸光度を測定した。以下、この吸光度を「単位細胞あたりの試料無添加時の吸光度」という。
測定した吸光度に基づいて下記の計算式によりメラニン産生抑制率(%)を算出した。
【0058】
メラニン産生抑制率(%)={(A−B)/A}×100
(上記式中、「A」は単位細胞あたりの試料無添加時の吸光度を、「B」は単位細胞あたりの試料添加時の吸光度を表す。)
【0059】
試料濃度を段階的に変更して、メラニン産生抑制率(%)を測定した結果を表2に示した。
【0060】
【表2】

【0061】
表2の結果からも明らかなように、玉造黒門越瓜抽出物AおよびB、ならびに玉造黒門越瓜加水分解抽出物AおよびBは、ヒトメラノサイトに対してメラニン産生抑制作用を有し、メラニン産生抑制剤として有効成分を含有することが確認された。さらに、シロウリ抽出物は、加水分解処理することによりメラニン産生抑制効果が向上することが確認された。
【0062】
[実施例5〜14、比較例1〜3]および[試験3:(美白効果の判定)]
以下の表3に示す配合割合(合計100質量%)で玉造黒門越瓜抽出物AおよびB、ならびに玉造黒門越瓜加水分解抽出物AおよびBを配合した化粧料組成物(美白化粧料:実施例5〜14、比較例1〜3)を調製し、シミ、ソバカスや色黒等の悩みを持つ被験者を一群20名とし、各化粧料を毎日、朝と夜、3ヶ月間塗布作用させ、3ヶ月後に累積塗布効果を以下の判定基準により自己判定させ、さらに判定結果を以下の基準で評価し、表4に示した。
【0063】
【表3】

【0064】
著効:色素沈着がほとんど目立たなくなった。
有効:薄くなった。
やや有効:やや薄くなった。
無効:変化なし。
【0065】
〔評価〕
◎:被験者のうち著効、有効の示す割合(有効率)が80%以上
○:被験者のうち著効、有効の示す割合(有効率)が60%以上80%未満
△:被験者のうち著効、有効の示す割合(有効率)が40%以上60%未満
×:被験者のうち著効、有効の示す割合(有効率)が40%未満
【0066】
【表4】

【0067】
表4の結果からも明らかなように、所定量(0.005質量%以上)の玉造黒門越瓜抽出物ならびに玉造黒門越瓜加水分解抽出物を配合した実施例では、少なくとも40%以上、60%または80%の被験者が著効または有効を実感しており、シロウリ抽出物ならびにシロウリ加水分解抽出物本来の皮膚の美白に有用な生理活性を発揮できる美白化粧料であることが確認できた。
【0068】
以下に、所定のシロウリ抽出物ならびにシロウリ加水分解抽出物を有効成分とする美白化粧料の実施例として、化粧料の代表的な処方例を示す。各行右端の数値は配合割合(質量%)である。
【0069】
〔実施例15〕(化粧水1)
シロウリ抽出物 0.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 10.0
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余
【0070】
〔実施例16〕(化粧水2)
シロウリ抽出物 0.1
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 10.0
エタノール 5.0
ハイドロキノン 1.0
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余
【0071】
〔実施例17〕(乳液1)
シロウリ加水分解抽出物 2.0
グリセリン 5.0
1,3−プロパンジオール 7.0
カルボキシビニルポリマー 0.3
スクワラン 5.0
セタノール 0.8
L−アルギニン 0.3
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余
【0072】
〔実施例18〕(乳液2)
シロウリ加水分解抽出物 1.5
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 7.0
カルボキシビニルポリマー 0.3
スクワラン 5.0
セタノール 0.8
L−アルギニン 0.3
カンゾウエキス 0.1
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余
【0073】
〔実施例19〕(クリーム1)
シロウリ加水分解抽出物 10.0
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 10.0
カルボキシビニルポリマー 0.3
スクワラン 5.0
セタノール 2.0
ミツロウ 3.0
L−アルギニン 0.3
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余
【0074】
〔実施例20〕(クリーム2)
シロウリ抽出物 5.0
グリセリン 5.0
1,3−ブチレングリコール 10.0
1,2−ペンタンジオール 2.0
カルボキシビニルポリマー 0.3
スクワラン 5.0
L−アスコルビン酸−2−リン酸エステルナトリウム塩 3.0
セタノール 2.0
ミツロウ 3.0
L−アルギニン 0.3
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロウリ(Cucumis melo ver. conomon)を被抽出材料として抽出されたエタノール可溶性成分もしくは前記シロウリの果実の搾汁液またはそれらの加水分解物を有効成分として含有するチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項2】
被抽出材料が、シロウリ(Cucumis melo ver. conomon)の果皮または果実である請求項1に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のチロシナーゼ活性阻害剤を含有するメラニン産生抑制剤。
【請求項4】
請求項3に記載のチロシナーゼ活性阻害剤の含有量が0.1〜10質量%であるメラニン産生抑制剤。
【請求項5】
請求項1または2に記載のチロシナーゼ活性阻害剤を含有する美白化粧料。
【請求項6】
請求項5に記載のチロシナーゼ活性阻害剤の含有量が0.1〜10質量%である美白化粧料。

【公開番号】特開2011−256147(P2011−256147A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133880(P2010−133880)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(592215011)東洋ビューティ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】