説明

チロシナーゼ阻害剤、美白剤および美白外用剤

【課題】チロシナーゼ阻害剤等を提供する。
【解決手段】繊維芽細胞増殖因子5若しくは繊維芽細胞増殖因子5Sの、全部若しくは一部からなるペプチド、該ペプチドの修飾ペプチドであってチロシナーゼ阻害活性を有するペプチド、またはそれらの塩を含むチロシナーゼ阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チロシナーゼ阻害剤、美白剤および美白外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor)の中で、繊維芽細胞増殖因子5(以下、「FGF−5」という)は、毛の成長に関与していることが報告されている(非特許文献1、特許文献1)。また、繊維芽細胞増殖因子5S(以下、「FGS−5S」という)などのFGF−5アンタゴニストは、FGF−5による毛の成長を抑制する効果を阻害することが知られ、育毛剤として記載されている(非特許文献2)。さらに、FGF−5の一部からなるポリペプチドで、毛の生育に対するFGF−5の抑制作用を阻害するポリペプチドがFGF−5アンタゴニストとして報告されている(特許文献2、非特許文献3)。
このようにFGF−5は、毛の成長およびその阻害に大きく関与していることが知られている。
【0003】
一方、皮膚のシミやソバカスは、日光の紫外線暴露による刺激等を原因としてメラノサイトが活性化され、メラノサイト中のチロシナーゼによってチロシンが活性化されメラニン色素が皮膚内に多量に生成され、異常沈着することにより発生する。このようなシミ・ソバカスの予防・治療には、コウジ酸や胎盤抽出物が広く用いられている。
しかしながら、コウジ酸を用いた化粧品については、コウジ酸による発ガン性が報告され、現在では、コウジ酸を用いた化粧品の製造及び輸入が中止されている。また、胎盤抽出物についても、安全性の面での課題が残っている。
すなわち、新しい種類の美白効果を有する美白剤が求められている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−293720号公報
【特許文献2】特開2000−344796号公報
【非特許文献1】J.Cell 78:1017−1025.
【非特許文献2】J.Invest. Dearmatol. 114:456−463.
【非特許文献3】J.Cell. Physiol. 197,272−283.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記課題を解決することを目的としたものであって、チロシナーゼ阻害剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題の下、発明者が鋭意検討した結果、FGF−5またはFGF−5S由来の特定のアミノ酸配列を有するペプチド等がチロシナーゼ阻害作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下の手段により達成された。
(1)繊維芽細胞増殖因子5若しくは繊維芽細胞増殖因子5Sの、全部若しくは一部からなるペプチド、該ペプチドの修飾ペプチドであってチロシナーゼ阻害活性を有するペプチド、またはそれらの塩を含むチロシナーゼ阻害剤。
(2)下記のアミノ酸配列のいずれかを含むペプチド、該ペプチドの修飾ペプチドであって前記ペプチドと同様のチロシナーゼ阻害活性を有する修飾ペプチド、またはそれらの塩を含むチロシナーゼ阻害剤。
(a)配列番号1もしくは2に記載のアミノ酸配列:または
(b)配列番号1もしくは2に記載のアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は挿入したアミノ酸配列であって、チロシナーゼ阻害活性を有するアミノ酸配列。
(3)配列番号1若しくは2に記載のアミノ酸配列を含むペプチド、該ペプチドの修飾ペプチドであって前記ペプチドと同様のチロシナーゼ阻害活性を有する修飾ペプチド、またはそれらの塩を含むチロシナーゼ阻害剤。
(4)配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチド、前記ペプチドの修飾ペプチドであって前記ペプチドと同様のチロシナーゼ阻害活性を有する修飾ペプチド、またはそれらの塩を含むチロシナーゼ阻害剤。
(5)(1)〜(4)のいずれか1項に記載のチロシナーゼ阻害剤を含有する美白剤。
(6)(1)〜(4)のいずれか1項に記載のチロシナーゼ阻害剤を含有する美白外用剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明のチロシナーゼ阻害剤は、チロシナーゼの作用を阻害させることができる。従って、チロシンから生成されるメラニン色素の生成を抑止することが可能になった。このため、メラニン色素の生成を抑止する美白剤として用いることが可能となった。具体的には、日焼け等によるシミ・ソバカスの予防または治療を目的とする、化粧料や医薬品、医薬部外品として用いることが可能になった。
さらに、本発明で用いるペプチドは、脱毛効果も有することから、脱毛効果を併せ持つ美白剤として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0009】
本発明におけるチロシナーゼ阻害剤は、チロシナーゼの作用を阻害することにより、メラノサイトにおけるメラニン色素の合成を阻害するものである。
本発明のチロシナーゼ阻害剤は、特定のペプチドを含有する。
本発明で用いるペプチドは、例えば、FGF−5またはFGF−5Sの、全部または一部からなり、チロシナーゼ阻害作用を有するペプチドである。ここで、本発明でいうペプチドとは、アミノ酸がペプチド結合したものをいい、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、ポリペプチド及びタンパク質も含む趣旨である。
本発明で用いるペプチドは、好ましくは、下記のアミノ酸配列のいずれかを含むペプチド、または、前記ペプチドの修飾ペプチドであって、前記ペプチドと同様のチロシナーゼ阻害活性を有する修飾ペプチドである。
(a)配列番号1(Leu Ser Gln Val His Arg)もしくは配列番号2(Pro Asp Gly Lys Val Asn Gly Ser His Glu Ala Asn Met)に記載のアミノ酸配列:または
(b)配列番号1もしくは2に記載のアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は挿入したアミノ酸配列であって、チロシナーゼ阻害活性を有するアミノ酸配列。
ここで、本発明のチロシナーゼ阻害活性剤は、上記いずれかのアミノ酸配列が本発明で用いるペプチドのアミノ酸配列の一部として含まれていればよく、チロシナーゼ阻害活性を発揮する限りは、上記(a)又は(b)に記載のアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端に追加のアミノ酸配列が付加されていてもよい。但し、本発明の一実施態様としては、上記(a)又は(b)に記載のアミノ酸配列のみから成るペプチドが提供される。
【0010】
上記した本発明で用いるペプチドの修飾ペプチドであって、上記した本発明で用いるペプチドと同様のチロシナーゼ阻害活性を有する修飾ペプチドも本発明の範囲内のものである。上記の修飾ペプチドにおいて、「修飾」という用語は、化学的修飾及び生物学的修飾を含めて最も広義に解釈しなければならない。修飾の例としては、例えば、アルキル化、エステル化、ハロゲン化、又はアミノ化などの官能基導入、酸化、還元、付加、又は脱離などによる官能基変換、糖化合物(単糖、二糖、オリゴ糖、若しくは多糖)又は脂質化合物などの導入、リン酸化、あるいはビオチン化などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0011】
また、上記の「1〜数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1〜10個、好ましくは1〜7個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個程度を意味する。
また、本発明で用いるペプチドにおいて、挿入又は置換されるアミノ酸の種類は特に限定されないが、L-アミノ酸であることが好ましい。挿入又は置換されるアミノ酸の個数及び位置も特に限定されない。
このように、アミノ酸で置換して得られるペプチドが置換前のペプチドと同様のチロシナーゼ阻害活性を有するためには、置換されるアミノ酸同士は互いに類似した性質を有するアミノ酸であることが好ましい場合がある。具体的には、ヒドロキシアミノ酸に属するアミノ酸同士、脂肪族アミノ酸に属するアミノ酸同士、酸性アミノ酸に属するアミノ酸同士、塩基性アミノ酸に属するアミノ酸同士の間で置換することが挙げられる。もちろん、チロシナーゼ阻害活性を有する限り他のアミノ酸で置換することも可能である。
本発明で用いるぺプチドのアミノ酸残基の数は、チロシナーゼ阻害活性を有する限り特に定めるものではないが、好ましくは5〜20であり、より好ましくは6〜15である。
【0012】
上記した(b)配列番号1もしくは2に記載のアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は挿入したアミノ酸配列を含むペプチド、又は修飾ペプチドがチロシナーゼ阻害活性を有するかどうかは、本明細書の実施例に詳細かつ具体的に記載した試験方法によって、又は上記試験方法に適宜の改変や修飾を加えることにより、当業者が容易に確認可能である。
【0013】
本発明で用いるペプチドを化学合成する場合、ペプチド合成の常法手段によって合成できる。例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法、酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。すなわち、本発明で用いるペプチドを構成し得るアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするペプチドを合成することができる。縮合方法や保護基の脱離としては、公知のいずれの手法を用いてもよい。
【0014】
反応後は、通常の精製法、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶などを組み合わせて本発明で用いるペプチドを精製することができる。また、本発明で用いるペプチドは、C末端が通常カルボキシル基(COOH)又はカルボキシレート(COO)であるが、C末端がアミド(−CONH)またはエステル(−COOR)であってもよい。さらに、本発明で用いるペプチドとしては、N末端のアミノ基が保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合した糖ペプチドなどの複合ペプチド等も採用できる。
【0015】
本発明で用いるペプチドの別の製造方法としては、本発明で用いるペプチドのアミノ酸配列をコードする遺伝子を利用して、遺伝子工学的手法により微生物細胞、植物細胞、動物細胞などの宿主において組み換えタンパク質(ペプチド)として生産する方法が挙げられる。得られた粗ペプチドは、ゲル濾過、逆相HPLC、イオン交換カラム精製など通常のタンパク質又はペプチド精製に用いられる手段を用いて精製することが可能である。
特に、FGF−5のアミノ酸配列およびそれらをコードするDNAの塩基配列が明らかであるので、これらの配列に基づいて、遺伝子組み換え技術を利用して作製することができる。FGF−5またはFGF−5Sとしては、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に定めるものではないが、例えばヒト、マウス及びラット由来のFGF−5またはFGF−5Sが挙げられる。これらの中では、ヒト由来のFGF−5またはFGF−5Sが好ましい。
【0016】
ヒト、マウス又はラット由来のFGF−5をコードするDNAは、公知の塩基配列(Zhan X. et al., Mol. Cell. Biol 8:3487-3495, 1988; Haubo. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:8022-8026, 1990; Hattori Y. et al., Biochim. Biophys. Acta 1306:31-33, 1996)に基づいて、PCR法又はハイブリダイゼーション等の当業者によく知られた遺伝子のクローニング法によって、染色体DNA又はcDNAライブラリーから、取得することができる。FGF−5は、FGF−5遺伝子によってコードされている。
一方、ヒト又はマウス由来のFGF−5SをコードするDNAは、公知の塩基配列(Ozawa K et al., J. Biel. Chem. 273:29262-29271, 1998)に基づいて、PCR法又はハイブリダイゼーション等の当業者によく知られた遺伝子のクローニング法によって、染色体DNA又はcDNAライブラリーから、取得することができる。FGF−5Sは、FGF−5遺伝子に遺伝子のエクソン1およびエクソン3によってコードされている。
より具体的には、本発明のチロシナーゼ阻害剤が含有するペプチドは、例えば、特開2002−29372号公報の段落番号0016〜0018の記載を参酌して合成することができる。
【0017】
本発明におけるチロシナーゼ阻害剤は、メラニン色素の合成を阻害することから、美白剤として用いることができる。美白剤として利用する場合、本発明のチロシナーゼ阻害剤自体を投与してもよいが、好ましくは、当業者に周知の方法によって製造可能な他の成分を含む美白剤として投与することができる。
例えば、薬理学的、製剤学的に許容し得る添加物を加えて製造することができる。具体的には、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等をあげることができる。さらに、本発明の美白剤には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、他の美白剤を1種又は2種以上配合してもよい。
本発明の美白剤の投与量は特に限定されず、有効成分の種類などに応じて適宜選択することができ、さらに使用者の体重や年齢、種類や症状、投与経路など通常考慮すべき種々の要因に応じて、適宜増減することができる。
また、美白剤は、美白内用剤であっても、美白外用剤であってもよいが、美白外用剤であることが好ましい。
【0018】
美白内用剤としては、注射剤、輸液剤等として、静脈注射により投与してもよいし、経口的に投与してもよい。美白内用剤の場合、成人一日あたり、例えば、0.0001〜10000mg、好ましくは0.001〜1000mgの範囲で用いることができる。
具体的には、医薬品、医薬部外品、美白を目的とした食品・飲料等として用いることができる。この場合の、本発明のチロシナーゼ阻害剤の配合量は、該美白内用剤全量に対して、固形分換算で、0.0000000001〜10.0重量%の範囲内で含有するのが好ましく、0.000000001〜5.0重量%の範囲内で含有するのがより好ましく、0.00000001〜1.0重量%の範囲内で含有するのがさらに好ましい。
【0019】
美白外用剤としては、噴霧剤、塗布剤または貼付剤等として用いることができる。外用剤として用いる場合、成人一日あたり、例えば、0.0001〜10000mg、好ましくは0.001〜1000mgの範囲で用いることができる。
具体的には、医薬品、医薬部外品、化粧料等として用いることができる。この場合の、本発明のチロシナーゼ阻害剤の配合量は、該美白外用剤全量に対して固形分換算で、0.0000000001重量%〜10.0重量%の範囲内で含有するのが好ましく、0.00000001重量%〜5.0重量%の範囲内で含有するのがより好ましく、0.00001重量%〜1.0重量%の範囲内で含有するのがさらに好ましい。
【0020】
特に本発明の美白剤は化粧料に用いることが好ましい。本発明の美白剤を、化粧料として用いる場合、通常の化粧料等に用いられる成分を必要に応じて適宜配合することができる。このような成分としては、上述したものの他、例えば、水、エタノール、油性成分、保湿剤、増粘剤、防腐剤、乳化剤、薬効成分、粉体、紫外線吸収剤、香料、乳化安定剤等が挙げられる。また、その剤型も任意に選択することができ、クリーム、軟膏、乳液、ローション、溶液、ゲル等が例示される。また、パック、パウダー、スティック等の形態とすることもできる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0022】
リコンビナント(recombinant)FGF−5タンパク質の調製
配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むリコンビナントFGF−5タンパク質(以下、「リコンビナントFGF−5タンパク質」という)は、文献J. Biol. Chem. 273,29262-29271に記載の方法により調整した。
具体的には、ICRマウス6週令メス個体(日本クレア製)より脳を摘出し、ここからRNAを抽出した。このRNAに、ランダムヘキサオリゴヌクレオチドをプライマーとして、M−MLV逆転写酵素(Moloney Murine Leukemia Virus、Invitrogen製、28025−013)によりcDNA混合物を得た。次に、得られたcDNA混合物から目的とする遺伝子をPCR反応により増幅した。この結果、リコンビナンFGF−5タンパク質に相当する大きさのDNAフラグメントを得た。これを、ゲル電気泳動によって分離して、ゲルから切り出した。得られたDNAフラグメントを、クローニングベクターとしてpET−3を用い、そのクローニングサイトに組み込むことによってプラスミドを構築した。このプラスミドをベクターとし、大腸菌BL21(DE3)pLysS株(カルビオバイオケム・ノババイオケム コーポレーション製、69451−3)を宿主として形質転換体を得た。該形質転換体を40mlのLuria−Bertani培地(LB培地)に植菌し、37℃、16時間培養し、その後新たなLB培地に移植して更に培養した。インヂューサーとして1mMのイソプロピルチオガラクトシド(Isopropyl thiogalactoside (IPTG) )を添加し、更に3時間培養した。培養後、6000回転15分間遠心し、菌体を得た。菌体を試験管にとり、氷浴中で、2分間超音波破砕を行なった。その後、12000回転で、1時間遠心し、リコンビナントFGF−5タンパク質を含有する上清液を採取した。
【0023】
次に、得られたリコンビナントFGF−5タンパク質を以下のようにして精製した。
ヘパリンセファロースを10mMのトリス−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁し、同溶液で洗浄した。この懸濁液に、最終濃度が0.5MになるようにNaClを添加し、前記リコンビナントFGF−5タンパク質を含有する上清液を添加し、4℃で、3時間穏やかに攪拌した。10mMのトリス−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した後、カラムに詰め、0.7MのNaCl含有10mMトリス−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した後、溶離液として2MのNaCl含有10mMトリス−HCl緩衝液(pH7.4)を用いて目的とするリコンビナントFGF−5タンパク質を溶出した。大腸菌4Lの培養液より、300μgのリコンビナントFGF−5タンパク質の部分精製品を得ることができた。精製標品をSDS−PAGEで分離し、純度を検定した後、−80℃で保存した。
【0024】
チロシナーゼ阻害活性
マウスB16メラノーマ細胞(大日本製薬(株)製、09−6322)を10質量%の牛胎児血清(FBS)(キャンサーインターナショナル製、CC3008−504)および0.5mMテオフィリン(和光純薬(株)、201−09931)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地)に懸濁した後、96穴の細胞培養用プレートに1ウエルあたり2x103個加え、炭酸ガスインキュベーター(5%、CO、37℃)中で2日間培養した。2日後、テオフィリンを含まないDMEM培地に交換し、前記リコンビナントFGF−5タンパク質の部分精製品を添加して更に3日間培養した。培養後、培養液を吸引することによって除去し、各ウエルに、1%トライトンX−100(TritonX−100)(ICNバイオメディカルス製、194854)含有(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(−))を90μl添加し、ウエルを十分振動させた後、475nmにおける吸光度を測定した(このサンプルの前記リコンビナントFGF−5タンパク質の部分精製品の最終濃度は、1.5x10−9Mであった。)。測定後、10mMのL−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)を加えて1時間反応させ、同様に475nmにおける吸光度を測定し、吸光度の変化量よりチロシナーゼ阻害活性を定量した(1)。
前記リコンビナントFGF−5タンパク質の部分精製品のメラノーマ細胞に対する細胞毒性は、前記リコンビナントFGF−5タンパク質の部分精製品を添加して3日間培養した後、各ウエルにWST−8液(和光純薬工業(株)製)5μlを添加し、更に3時間培養し、WST−8ホルマザンの産生量に伴う450nmの発色を測定して求めた(2)。
前記リコンビナントFGF−5タンパク質の部分精製品のチロシナーゼ阻害活性は、(1)の測定により得られたチロシナーゼ阻害活性について、(2)の測定により得られた披験サンプルの細胞毒性値で除すことによって、披験サンプルによる細胞毒性を補正して算出した。
【0025】
配列番号1および配列番号2に示す、ペプチド1およびペプチド2を、ペプチド合成機を用いた化学合成法により合成し、高速液体クロマトグラフィーにより精製した。ペプチドのアミノ酸配列は、プロテインシークエンサーにより解析し、最終純度80%以上の標品を得た。
これらのペプチドおよびコウジ酸(シグマ製、K3125−5G)についても同様にチロシナーゼ活性を測定した。これらのチロシナーゼ阻害活性測定サンプル中における最終濃度は、ペプチド1、ペプチド2、コウジ酸の順に、1mM、1mM、4.4mMとした。
【0026】
チロシナーゼ阻害活性結果を図1に示した。図1から明らかなとおり、前記リコンビナントFGF−5タンパク質の部分精製品(図1中に、FGF−5と表記)は、1.5x10−9Mの濃度で測定したにもかかわらず、26%の阻害活性を示した。また、1mMの濃度で測定したペプチド1では75%、1mMの濃度で測定したペプチド2では62%の阻害活性をそれぞれ示した。
一方、4.4mMの濃度で測定したコウジ酸では53%活性を阻害した。
すなわち、本発明におけるペプチドは、コウジ酸よりも著しく低い濃度でも高いチロシナーゼ阻害活性を示すことが明らかになった。
【0027】
DNA合成促進活性の測定
Balb/c3T3細胞(アメリカン タイプカルチャーコレクション製(ATCC)、CCL−163)4x10cells/500μlを48ウエル培養プレートに播種し、10質量%牛胎児血清(FBS)存在下、DMEM培地で24時間培養した。次に、細胞を同培地で洗浄後、0.3質量%の活性炭処理ウシ血清(CS)を含有するDMEM培地を添加してさらに48時間培養し、細胞を同調させた。反応液中にヘパリン5μg/ml(最終濃度)を添加した後、FGF−5を含有する被験液を添加し、16時間培養後、HTdR(3 H-methyl thymidine)(Moravek Biochemicals製)を添加し、更に4時間37℃、COインキュベーターで培養した。培養上清を吸引し、PBSで細胞を洗浄した後、1ウエルあたり、200μlの0.025% トリプシン(Trypsin)−0.02% EDTA2Na−PBSを加え、30℃、15〜20分間反応させて細胞をはがした。セルハーベスターで細胞をろ紙に回収し、ろ紙を乾燥後、トルエン系シンチレーター2ml/切片を添加して、細胞へのトリチウムチミジンの取り込みを液体シンチレーションカウンターで測定した(FGF−5の最終濃度は、2×10−7mMであった。)。
また、FGF−5を、ヘパリン(5μg/M)、ペプチド1(1.0mM)またはペプチド2(1.0mM)に変えて同様に行った。
その結果、図2に示すとおり、FGF−5、ペプチド1またはペプチド2は、それぞれ、DNA合成を促進した。
この結果、ペプチド1またはペプチド2は、FGF−5様の活性があることが明らかとなった。一方、FGF−5が毛周期を制御し、マウス皮下に投与することによって毛成長を阻害することは、上記非特許文献3(J. Cell. Physiol. 197,272-283)等によって示されている。従って、本発明におけるチロシナーゼ阻害剤は、脱毛効果を併せ持つ美白剤であることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明で用いるペプチドのチロシナーゼ活性阻害率を示す図である。
【図2】本発明で用いるペプチドのトリチウムチミジンの取り込み率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維芽細胞増殖因子5若しくは繊維芽細胞増殖因子5Sの、全部若しくは一部からなるペプチド、該ペプチドの修飾ペプチドであってチロシナーゼ阻害活性を有するペプチド、またはそれらの塩を含むチロシナーゼ阻害剤。
【請求項2】
下記のアミノ酸配列のいずれかを含むペプチド、該ペプチドの修飾ペプチドであって前記ペプチドと同様のチロシナーゼ阻害活性を有する修飾ペプチド、またはそれらの塩を含むチロシナーゼ阻害剤。
(a)配列番号1もしくは2に記載のアミノ酸配列:または
(b)配列番号1もしくは2に記載のアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は挿入したアミノ酸配列であって、チロシナーゼ阻害活性を有するアミノ酸配列。
【請求項3】
配列番号1若しくは2に記載のアミノ酸配列を含むペプチド、該ペプチドの修飾ペプチドであって前記ペプチドと同様のチロシナーゼ阻害活性を有する修飾ペプチド、またはそれらの塩を含むチロシナーゼ阻害剤。
【請求項4】
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチド、前記ペプチドの修飾ペプチドであって前記ペプチドと同様のチロシナーゼ阻害活性を有する修飾ペプチド、またはそれらの塩を含むチロシナーゼ阻害剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のチロシナーゼ阻害剤を含有する美白剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のチロシナーゼ阻害剤を含有する美白外用剤。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−99677(P2007−99677A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291552(P2005−291552)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度文部科学省「ベンチャー開発戦略研究センター」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】