説明

チロシンキナーゼ阻害剤が惹起する皮膚障害の予防剤および/または処置剤

【課題】EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が惹起する皮膚障害を予防、および処置する薬剤および医薬組成物を提供する。
【解決手段】サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤を有効成分とする、薬剤および医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の処置に伴う皮膚障害の予防および/または処置を目的とした、サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤を有効成分とする薬剤および医薬組成物並びにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮成長因子(EGF)は表皮および上皮細胞に対して分裂を誘導するサイトカインであり、細胞膜表面で受容体型チロシンキナーゼを構成する上皮成長因子受容体(EGFR)と結合し、EGFRを活性化する。EGFRは、多くのヒト上皮悪性腫瘍および悪性神経膠腫で過剰発現が認められており、腫瘍の維持、増殖に関与していることが明らかになりつつある。さらにEGFRの発現、あるいは過剰発現がみられる腫瘍は、発現のみられない腫瘍に比べて高転移性を示すこと、予後不良であることなどが報告されており、近年、抗癌剤の創薬ターゲットとして注目されてきた(非特許文献1、同2、同3参照)。EGFRの活性化を阻害する試みとして数多くのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤が開発され、その中で、ゲフィチニブ(Gefitinib;商標IRESSA)、エルロチニブ(Erlotinib;商標TARCEVA)が臨床で成功し、上市されている。
【0003】
ゲフィニチブは最初に上市されたEGFRチロシンキナーゼ阻害剤であり、非小細胞肺癌の治療剤として本邦でも臨床使用されている。ゲフィニチブは臨床上大変有用な抗癌剤であるが、急性肺障害、間質性肺炎、皮膚障害などの副作用が報告されており、この中で、皮膚障害の出現率は50%以上と非常に高い。実際に、日本人を対象に実施された第II相臨床試験では、67.2%に発疹が、49.0%にそう痒症が、33.3%に皮膚乾燥が認められたとの報告がある(非特許文献1参照)。これらの皮膚障害は重篤ではないものの、皮膚障害があらわれた場合には、休薬または対症療法を施す等の適切な処置を行うことが指導されている(非特許文献4参照)。したがって、これら皮膚障害の発生を予防すること、または皮膚障害を処置することは、ゲフィニチブによる癌化学療法を継続的に実施することに非常に重要であり、このような皮膚障害の予防剤または、処置剤が待望されている。
【0004】
ゲフィニチブが惹起する皮膚障害は、他のEGFRターゲット試薬で認められるのと同様であり、皮膚におけるEGFRシグナルの伝達阻害に起因していると報告されている(非特許文献2、同5参照)。それ故、ゲフィチニブで認められる皮膚障害は、他のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、例えば、エルロチニブ(TARCEVA)、CI1033、PKI166、GW2016、EKB569、C225(セツキシマブ)、ABX−EGF(panitumumab)、EMD−72000(matuzumab)、MDX−447(特許文献1、同2参照)でも惹起されると考えられる。したがって、上述のゲフィニチブ以外のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤においても、副作用である皮膚障害を臨床上予防し、または処置する薬剤は非常に有用である。
【0005】
現在、ゲフィニチブは臨床において、非小細胞肺癌を適応対象としているが、それは勿論のこと、それ以外の癌、例えば食道癌、胃癌、肝臓癌、胆のう・胆管癌、膵臓癌、結腸癌、直腸癌、頭頸部癌、肺癌、乳癌、子宮頸癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、睾丸腫瘍、骨・軟部肉腫、皮膚癌、悪性リンパ腫、白血病、脳腫瘍、その中でも特に、EGFRの過剰発現が認められる腫瘍の全て、例えば、乳癌、膀胱癌、肺癌、胃癌、黒色腫、神経膠芽細胞種等においても、理論上、EGFRが細胞の腫瘍転換性に関与することから、抗腫瘍作用を示す可能性がある(非特許文献3、同6、特許文献3、同4参照)。また、糖尿病性血管障害にEGFRチロシンキナーゼ阻害剤が有効であるとの報告(非特許文献7、同8、同9参照)もあり、癌以外の他の疾患へのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の適応もあり得る。
【0006】
一方、サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤は古くから知られている解熱鎮痛薬である。その薬理作用はプロスタグランジンの生成阻害であり、これにより解熱、鎮痛作用を発揮する。サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤としては、アセチルサリチル酸(アスピリン)、アスピリンアルミニウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸コリン、サリチルアミド、サザピリン、ジフルニサル、エテンザミド等がある。臨床上最も使用されているは、アセチルサリチル酸である。
【0007】
サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤を皮膚疾患に使用するものとしては、血液透析による皮膚疾患へのアセチルサリチル酸の使用(特許文献5参照)、アスピリンおよび合成副腎皮質ホルモンを含有する炎症性皮膚疾患への使用(特許文献6参照)が開示されているが、これら先行文献には抗癌剤の副作用としての皮膚障害に対するサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤の使用は開示されていない。さらに、本発明で示されたEGFRチロシンキナーゼ阻害剤による皮膚障害の予防および軽減効果についても開示されてない。
【0008】
【特許文献1】特表2005−529162号公報、p7
【特許文献2】特表2005−531488号公報、p3
【特許文献3】特開平8−325299公報、p3
【特許文献4】特表2005−528368号公報、p4
【特許文献5】特開2004−51522号公報
【特許文献6】特開平8−208487号公報
【非特許文献1】「医薬品インタビューフォーム(イレッサ錠250)」p1,アストラゼネカ社ホームページ(http://www.astrazeneca.co.jp/products/index2.html)
【非特許文献2】Vallbohmer Dら 「Epidermal growth factor receptor as a target for chemotherapy」 2005, Suppl 1: S19
【非特許文献3】Sainsbury, J.R.ら, 1985, Lancet 1:364
【非特許文献4】「イレッサ錠250 添付文書 第14版」p2, アストラゼネカ社ホームページ(http://www.astrazeneca.co.jp/products/index2.html)
【非特許文献5】Lee MWら 「Cutaneous side effects in non-small cell lung cancer patients treated with Iressa (ZD1829), an inhibitor of epidermal growth factor」Acta Derm Venereol. 2004; 84(1), p23
【非特許文献6】Pier Paolo Di Fioreら 「Overexpression of the human EGF receptor confers an EGF-dependent transformed phenotype to NIH 3T3 cells」Cell, 1987, Vol 51, p1063
【非特許文献7】Benterら「Diabetes-induced renal vascular dysfunction is normalized by inhibition of epidermal growth factor receptor tyrosine kinase」J. Vasc. Res., 2005, 42(4), p284
【非特許文献8】Yousif MHら「The role of tyrosine kinase-mediated pathways in diabetes-induced alterations in responsive of rat carotid artery」Auton Autacoid Pharmacol., 2005, 25(2), p69
【非特許文献9】Benterら「Epidermal growth factor receptor tyrosine kinase-mediated signalling contributes to diabetes-induced vascular dysfunction in the mesenteric bed」Br. J. Pharmacol., 2005, 145(6), p829
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤は癌化学療法剤として臨床上非常に有用な薬剤である。しかしながら、発疹等、皮膚障害の副作用の出現率が50%を超え、その場合には休薬や対症療法を施す等の処置が指導されている。このような皮膚障害の副作用出現により、投与計画の変更が余儀なくされ、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が潜在的に保持する抗癌作用が十分に発揮されてない事実があり、この点が重要な課題となっている。
【0010】
本発明は、上記のような医療ニーズの高い重要な課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の副作用である皮膚障害を予防、および/または処置する薬剤および医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の医療ニーズの高い重要な課題に鑑み、鋭意検討した結果、非ステロイド抗炎症薬であるサリチル酸誘導体に、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が惹起する皮膚障害を予防する効果があることを見出した。さらに、予防効果のみならず、軽減効果があることも見出した。これらの新規な知見に基づき、本発明者はEGFRチロシンキナーゼが惹起する皮膚障害の予防、および/または処置することを特徴とする、サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤を有効成分とする予防剤、処置剤および医薬組成物に係る発明を完成させた。
【0012】
本発明の予防剤、処置剤および医薬組成物を提供することによって、上述の課題は解決される。具体的には、本発明の予防剤、処置剤および医薬組成物を、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤による皮膚障害を未だ発症したことのない患者に投与する手段により、当該皮膚障害は予防される。さらには、本発明の予防剤、処置剤および医薬組成物を、当該皮膚障害を既に発症したが回復に至った患者に投与する手段により、当該皮膚障害の再発は予防される。または、本発明の予防剤、処置剤および医薬組成物を、当該皮膚障害を発現した患者に投与する手段により、当該障害が処置される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の予防剤、処置剤および医薬組成物を用いてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤により惹起される皮膚障害を予防し、かつ処置することが可能である。また、当該副作用が回避されることで、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の投与が継続でき、早期に十分な抗腫瘍効果の発現が期待できる。副作用の処置のみならず、それを予防することでEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の潜在的な抗癌効果をひきだす本発明の予防剤、処置剤および医薬組成物の提供は、癌治療に大きく貢献することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の第一の実施形態は、サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤を有効成分とする、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が惹起する皮膚障害の予防剤および/または処置剤を提供することにある。すなわち、本発明の第一の目的は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が惹起する皮膚障害を、サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤を有効成分として含む医薬組成物を併用することで、予防し、および/または処置し、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤による処置を必要とする疾患の患者に対し、継続してEGFRチロシンキナーゼ阻害剤による処置をすることにある。
【0015】
本発明の第二の実施形態は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤およびサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤を含有する医薬組成物を、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤による処置が必要な疾患の患者に提供することにある。すなわち、本発明の第二の目的は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤およびサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤を有効成分とする混合製剤によって、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤により惹起される皮膚障害を予防し、および/または処置し、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤による処置を必要とする疾患の患者に対し、継続してEGFRチロシンキナーゼ阻害剤による処置をすることにある。
【0016】
ここで、本発明に関するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤には、チロシンキナーゼ部位に直接作用するものに限られず、EGFRとそのリガンドの結合を阻害するもの、およびリガンドとの結合によってEGFRから伝達されるシグナル伝達を阻害するものを含み、抗体等の蛋白質やペプチド、低分子化合物を含む。具体例としては、以下に限定はされないが、ゲフィチニブ(IRESSA)、エルロチニブ(TARCEVA)、CI1033、PKI166、GW2016、EKB569、C225、ABX−EGF、EMD−72000、MDX−447が挙げられる。また、本発明に関するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤は、その医薬上許容される塩、水和物、溶媒和物および等価物を含み得る。
【0017】
本発明に関するサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤は、サリチル酸誘導体の抗炎症剤である。具体的には、以下に限定されないが、アセチルサリチル酸(アスピリン)、アスピリンアルミニウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸コリン、サリチルアミド、サザピリン、ジフルニサル、エテンザミドが挙げられる。また、本発明に関するサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤は、その医薬上許容される塩、水和物、溶媒和物および等価物を含み得る。特に好ましくは、本発明に関するサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤はアセチルサリチル酸(アスピリン)、またはその医薬上許容される塩、水和物、溶媒和物および等価物である。
【0018】
本発明に関するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の処置が必要な疾患は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の処置が有効な疾患である。現在臨床上適応が認められているのは癌のみであるが、今後有効性が認められる疾患も含み得る。たとえば、糖尿病性血管障害にEGFRチロシンキナーゼ阻害剤が有効であるとの報告もあり、本発明のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の処置が必要な疾患に含まれ得る。また、現在臨床上適応が認められているのは、癌の中でも非小細胞肺癌だが、それは勿論のこと、それ以外の癌、例えば、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆のう・胆管癌、膵臓癌、結腸癌、直腸癌、頭頸部癌、肺癌、乳癌、子宮頸癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、睾丸腫瘍、骨・軟部肉腫、皮膚癌、悪性リンパ腫、白血病、脳腫瘍、さらに好ましくは、EGFRが過剰発現されている腫瘍、例えば、以下に限定はされないが、乳癌、膀胱癌、肺癌、胃癌、黒色腫、神経膠芽細胞種等に対しても、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が有効であると予測可能であるので、本発明に関するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の処置が必要な疾患に含まれる。
【0019】
本発明に関するEGFRチロシンキナーゼが惹起する皮膚障害は、皮膚におけるEGFRシグナル伝達阻害に起因する皮膚障害であり、以下に限定されないが、皮膚炎、発疹、そう痒症、皮膚乾燥、ざ瘡を含む。
【0020】
好ましい本発明の第一の実施形態は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤ゲフィチニブ(商標IRESSA)により皮膚障害が惹起され、サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤であるアセチルサリチル酸を有効成分とする、当該皮膚障害の予防剤および/または処置剤である。さらに好ましい本発明の第一の実施形態は、ゲフィチニブが1mg−10g/回/日で経口投与された場合、アセチルサリチル酸が1mg−10g/回/日で経口投与されるように設計された予防剤および/または処置剤である。最も好ましい本発明の第一の実施形態は、ゲフィチニブが250mg/回/日で経口投与された場合、アセチルサリチル酸が80−100mg/回/日で経口投与されるように設計された予防剤および/または処置剤である。
【0021】
好ましい本発明の第二の実施形態は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤としてゲフィチニブ(商標IRESSA)、サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤としてアセチルサリチル酸を有効成分として含む、癌患者に使用される医薬組成物である。さらに好ましい本発明の第二の実施形態は、ゲフィチニブが1mg−10g/回/日で経口投与され、アセチルサリチル酸が1mg−10g/回/日で経口投与されるように設計された医薬組成物である。最も好ましい本発明の第二の実施形態は、ゲフィチニブが250mg/回/日で経口投与され、アセチルサリチル酸が80−100mg/回/日で経口投与されるように設計された医薬組成物である。
【0022】
なお、本発明に関して「予防」なる語は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤による皮膚障害を経験したことが無いヒトを含む哺乳動物に、当該皮膚障害を惹起させないようにすること、およびEGFRチロシンキナーゼ阻害剤による皮膚障害を経験したことがあるヒトを含む哺乳動物に、新たに当該皮膚障害を惹起させないようにすることを含む意味である。
【0023】
本発明に関するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、またはその医薬上許容される塩は、それぞれ単独で各種の投与単位形態に製剤化し、やはり各種の投与形態に製剤化したサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤、またはその医薬上許容される塩と、それぞれ別個または同時に投与することもできる。あるいは、両者を予め配合しておき、これらを各種の投与単位形態に製剤化した後投与することもできる。また、別々に投与するときは、当該EGFRチロシンキナーゼ阻害剤投与前、後の任意の時期に投与することができる。
【0024】
本発明に関するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤およびサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤を、ヒトを含む哺乳動物に投与する際に、治療目的に応じて各種の薬学的投与形態とすることができる。具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤;注射剤、坐剤、軟膏、パッチ剤等の非経口剤とすることができる。これらの投与剤は、医薬的に許容される担体等を用い、本分野で通常知られた慣用的な製剤方法により製剤化することができる。
【0025】
錠剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロール、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、コーンスターチ、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤などを使用できる。
【0026】
さらに、錠剤は必要に応じて通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。
【0027】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えば、ブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン、カンテン等の崩壊剤などを使用できる。
【0028】
カプセル剤は常法に従い、上記で例示した各種担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0029】
経口用液体製剤とする場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を用い、常法により、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合、矯味剤としては、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が、緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0030】
坐剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えば、ポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を使用できる。
【0031】
注射剤とする場合、液剤、乳剤および懸濁剤は殺菌され、且つ血液と等張であるのが好ましく、これらの形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば水、乳酸水溶液、エチルアルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレン化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を使用できる。なお、この場合、等張性の溶液を調製するに十分な量の食塩、ブドウ糖またはグリセリンを医薬製剤中に含有せしめてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。
【0032】
さらに、上記各製剤には必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や、他の医薬品を配合してもよい。本発明に関する製剤中に含まれるEGFRチロシンキナーゼ阻害剤およびサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤、またはそれらの医薬上許容される塩の量は特に限定されず、適宜選択することができるが、いずれも通常製剤中0.01〜70重量%程度とするのが好ましい。
【0033】
本発明の予防剤、処置剤および医薬組成物の投与方法は特に限定されず、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、患者の症状の程度に応じて適宜決定される。例えば、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤および乳剤は経口投与される。注射剤は単独でまたはブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、さらに必要に応じて単独で動脈内、筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。軟膏、パッチ剤は経皮投与される。
【0034】
本発明に関するサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤の投与量は、投与方法、患者の年齢、性別、その他、疾患の重症度、EGFRチロシンキナーゼの投与量により適宜選択できる。通常、サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤の投与量は1mg〜10g/日、好ましくは、10mg〜1g/日の範囲である。本発明に関するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の投与量も、同様に、投与方法、患者の年齢、性別、その他、疾患の重症度により適宜選択される。通常、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の投与量は1mg〜10g/日、好ましくは、10mg〜1g/日の範囲である。また、これら本発明の予防剤、処置剤および医薬組成物は1日1回または2〜4回程度に分けて投与することができる。
【0035】
また、本発明は、本発明の予防剤、処置剤および医薬組成物を使用した、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の処置が必要な疾患に対する治療方法も含み得る。
【実施例1】
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0037】
2000年から2004年の期間中、手術による根治的治療の対象とならない非小細胞肺癌の患者で、ゲフィチニブをまだ投与されてない患者40例を対象とした。表1にエントリーした患者のプロフィール、図1に試験デザインを示す。ゲフィチニブは250mgを一日一回経口投与とし、アスピリンは100mgを一日一回経口投与とした。試験開始二週間後、継続して投与できた患者を対象として副作用を判定し、同時に液性因子の解析も行った。ゲフィチニブ単独投与群は27例、アスピリン併用群は12例であった(表1)。副作用の判定は、医師が診断基準に基づき診断した。液性因子として、トロンボキサンA2の安定代謝産物であるトロンボキサンBと、血小板活性化の指標である可溶性p−セレクチンの患者の血漿中濃度を試験開始前と試験開始1週間および2週間後にキット(トロンボキサンB2:Immunotech社(Marselle、France)、可溶性p-セレクチン:BioSource International社(CA、USA))を用いて、エライザ法にて測定した。統計処理はt検定を用いて行った。
【0038】
その結果、ゲフィチニブ単独投与で血漿トロンボキサンBと可溶性p−セレクチンが上昇した。一方、アスピリン併用群では血漿トロンボキサンBは抑制されていたが、可溶性p−セレクチンの抑制は明らかではなかった(図2A、2B)。
また、アスピリン併用群で副作用の発生が少なかった(表2)。ゲフィチニブ単独投与群とアスピリン併用群での、副作用発現の比較(ゲフィチニブ単独投与群vsアスピリン併用群)は次の通りであり、全副作用:77.8% vs 58.3%、皮膚障害:74.1% vs 33.3%、下痢:18.5% vs 0%(表2)であった。効果について両群で明らかな違いはなかった(37.0 vs 33.3%)(表1)。
【0039】
アスピリン併用群でゲフィチニブ惹起皮膚障害の発現が低減された結果(表2)より、アスピリンがEGFRチロシンキナーゼ阻害剤惹起皮膚障害に対し予防効果を発揮することが示された。したがって、アスピリンは、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を投与されている患者の皮膚障害予防剤として有用である。
【0040】
また、ゲフィチニブ投与によりトロンボキサンBおよび可溶性p−セレクチンの血漿中濃度が上昇した結果(図2A、2B)より、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が惹起する皮膚障害が血小板の活性化を介している可能性が示唆された。この結果は、EGFRチロシンキナーゼ惹起皮膚障害の予防剤または処置剤としての血小板活性化阻害剤の利用、およびEGFRチロシンキナーゼ惹起皮膚障害の診断マーカーとしての血小板活性化マーカーの利用についての新たな発明の基礎となる。特に、上記予防剤または処置剤としてのトロンボキサン産生または作用阻害剤、または可溶性p−セレクチン産生または作用阻害剤の利用、更には、上記診断マーカーとしてのトロンボキサンB2、可溶性p−セレクチンの利用についての新たな発明の基礎となる。
【0041】
また上記の試験において、アスピリン併用群の一例について鼻出血のためアスピリン投与を一時中断したところ皮膚障害が発生した。その後、アスピリン投与を再開したところ皮膚障害は改善治癒した。この結果より、アスピリンはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤が惹起する皮膚障害に対し処置効果を発揮することが示された。したがって、アスピリンは、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を投与されている患者の皮膚障害処置剤として有用である。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の予防剤、処置剤および医薬組成物は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が惹起する皮膚障害に有効であることから、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の処置を必要とする疾患、特に癌の治療において、医薬として産業上利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】臨床研究デザインを示した図である。
【図2】薬剤のトロンボキサンB2および可溶性P−セレクチンの血漿濃度に及ぼす影響を示した図である。
【符号の説明】
【0046】
TxB2:トロンボキサンB2
sP-selectin:可溶性P-セレクチン
*:p<0.05
**:p<0.01
***:p<0.001
N.S.:有意差なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤を有効成分として含む、上皮成長因子受容体(以下、EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤が惹起する皮膚障害の予防剤および/または処置剤。
【請求項2】
サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤を有効成分として含有する、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が惹起する皮膚障害の予防用および/または処置用医薬組成物。
【請求項3】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が惹起する皮膚障害を発症する患者に用いられる、請求項1−2のいずれか一項に記載の予防剤および/または処置剤、または医薬組成物。
【請求項4】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤投与により、該投与前に比較し血漿中のトロンボキサンB2および/または可溶性p−セレクチンの濃度が上昇する患者に用いられる、請求項1−3のいずれか一項に記載の予防剤および/または処置剤、または医薬組成物。
【請求項5】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が、ゲフィチニブ(IRESSA)、エルロチニブ(TARCEVA)、CI1033、PKI166、GW2016、EKB569、C225、ABX−EGF、EMD−72000、MDX−447からなる群から選択される、請求項1−4のいずれか一項に記載の予防剤および/または処置剤、または医薬組成物。
【請求項6】
サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤が、アセチルサリチル酸(アスピリン)、アスピリンアルミニウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸コリン、サリチルアミド、サザピリン、ジフルニサル、エテンザミドからなる群から選択される、請求項1−5のいずれか一項に記載の予防剤および/または処置剤、または医薬組成物。
【請求項7】
皮膚障害が皮膚炎、発疹、そう痒症、皮膚乾燥、ざ瘡からなる群から選択される、請求項1−6のいずれか一項に記載の予防剤および/または処置剤、または医薬組成物。
【請求項8】
癌を有する患者に投与される、請求項1−7のいずれか一項に記載の予防剤および/または処置剤、または医薬組成物。
【請求項9】
癌が、乳癌、膀胱癌、肺癌、胃癌、黒色腫、神経膠芽細胞種からなる群から選択される、請求項8に記載の予防剤および/または処置剤、または医薬組成物。
【請求項10】
癌が、非小細胞肺癌である、請求項8に記載の予防剤および/または処置剤、または医薬組成物。
【請求項11】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤がゲフィチニブ(IRESSA)であり、サリチル酸系非ステロイド抗炎症剤がアセチルサリチル酸である、請求項1−10のいずれか一項に記載の予防剤および/または処置剤、または医薬組成物。
【請求項12】
ゲフィチニブ(IRESSA)が1mg−10g/日で経口投与され、アセチルサリチル酸が1mg−10g/日で経口投与されることを特徴とする、請求項11に記載の予防剤および/または処置剤、または医薬組成物。
【請求項13】
ゲフィチニブ(IRESSA)が250mg/回/日で経口投与され、アセチルサリチル酸が80−100mg/回/日で経口投与されることを特徴とする、請求項11に記載の予防剤および/または処置剤、または医薬組成物。
【請求項14】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が、EGFRアンタゴニストまたは抗EGFR抗体である、請求項1−4のいずれか一項に記載の予防剤および/または処置剤、または医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−246523(P2007−246523A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60415(P2007−60415)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【分割の表示】特願2006−73022(P2006−73022)の分割
【原出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(506090831)
【出願人】(506090842)
【出願人】(506090864)
【出願人】(506090875)
【Fターム(参考)】