説明

ティルティングパッド式ジャーナル軸受装置、およびそれを用いた蒸気タービン

【課題】簡略な構造により回転軸の不安定振動を低減する。
【解決手段】表面で回転軸2を支える複数個のパッド1と、複数個のパッドの背面に固定されたピボット5と、ピボット5を介して複数個のパッドを支えるハウジング3とを備えるティルティングパッド式ジャーナル軸受装置であって、回転軸2の荷重方向に設置された少なくとも1個のパッド1aに固定されたピボット5aの剛性が、他のパッド1bに固定されたピボット5bの剛性よりも大きいことを特徴とするティルティングパッド式ジャーナル軸受装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティルティングパッド式のジャーナル軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンに使われる軸受において、比較的平均面圧(軸受に掛る荷重を軸受の投影面積で除したもの)が低い場合にはティルティングパッド軸受が使われている。これは、他の形式の軸受(真円軸受や楕円軸受など)と比較し、油膜の圧力により生じる回転軸を振れ回す方向の力が小さく、軸受を起因とする不安定振動が発生しにくいためである。
【0003】
しかしながら、シールなど別の部位において回転軸を振れ回す方向の力が生じる場合には、特に平均面圧が小さい場合において、不安定振動が生じやすくなるという問題があった。これは、軸受の油膜による垂直方向の剛性と水平方向の剛性が等方(均一)的となると、回転軸を振れ回す力を打ち消すことができなくなるからである。
【0004】
この改善策としては軸受の油膜による垂直方向の剛性と水平方向の剛性との差(軸受ばね異方性)を大きくすればよい。特許文献1においては油膜自体の剛性に異方性を持たせるため、パッド内面の曲率半径,厚さ,幅,円弧角の寸法諸元を個別あるいは組み合わせて変更するとしている。
【0005】
また、軸受の剛性は回転軸とパッドとの間に形成される油膜の特性だけでなく、軸受の支持部材の剛性にも影響される。そこで、特許文献2においては、軸受を第1および第2の弾性支持装置により取り付け、これらの支持装置の剛性が合い異なることにより軸受の剛性に異方性を持たせることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−60320号公報
【特許文献2】特開昭61−248915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、それぞれの寸法諸元が軸受剛性に与える影響を調べるために、諸元に合わせた油膜の特性を数値解析により求める必要がある。
【0008】
また、特許文献2に記載された方法では、支持装置を2種類取り付ける必要があり、構造が複雑である。
【0009】
本発明の目的は、簡略な構造により回転軸の不安定振動を低減できるティルティングパッド式ジャーナル軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、回転軸を支える複数個のパッドと、複数個のパッドの背面に固定されたピボットと、ピボットを介して複数個のパッドを支えるハウジングとを備えるティルティングパッド式ジャーナル軸受装置において、回転軸の荷重方向に設置された少なくとも1個のパッドに固定されたピボットの剛性を、他のパッドに固定されたピボットの剛性よりも大きくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のティルティングパッド式ジャーナル軸受装置によれば、軸受パッドを支持する部材であるピボットの剛性を変えることにより軸受剛性に異方性を持たせる簡略な構造により回転軸の不安定振動を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例に係るティルティングパッド式ジャーナル軸受装置を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例である蒸気タービンの全体概略図である。
【図3】軸受剛性の異方性と安定性について説明する説明図である。
【図4】軸受の油膜ばねとピボットばねについて説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。なお、各図面を通し、同等の構成要素には同一の符号を付してある。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例を、以下図1乃至図4を用いて説明する。図1は本実施例に係るティルティングパッド式ジャーナル軸受装置の例を示す断面図である。図2は本発明の実施例である蒸気タービンの例を示す全体概略図である。図3は軸受剛性の異方性と安定性について説明する図である。図4は軸受の油膜ばねとピボットばねについて説明する図である。
【0015】
図1において、1a,1bはパッド、2は回転軸、3はハウジング、5a,5bはピボットを各々示す。
【0016】
図1に示すように、回転軸2の周りにパッド1aおよび1bが配設されている。パッド1aは、Wで示した回転軸2の荷重方向に設置されたパッドであり、回転軸2の荷重を主に支承する。それぞれのパッド1a,1bの背面には、ピボット5aおよび5bがそれぞれ固定されており、これらのピボットはハウジング3の内面に接している。よって、パッド1a,1bはそれぞれピボット5a,5bを介してハウジングに支えられている。
【0017】
ピボット5aのハウジング3と接する面は、曲率raの球面加工が施されている球形面であるため、パッド1aはピボット5aがハウジング3に接した状態で揺動可能である。
なお、ピボット5bのハウジングと接する面も同様に曲率rbの球面加工が施された球形面であり、ra>rbとなっている。
【0018】
図示しない給油口から潤滑油が供給されることにより、パッド1と回転軸2とで囲まれる空間には潤滑油が存在している。回転軸2が回転すると、それぞれのパッド1と回転軸2との間には潤滑油が巻き込まれることにより、油膜が形成される。油膜中に発生する圧力により回転軸2は持ち上げられるため、パッド1と直接接触することなく回転することができる。油膜中に発生する圧力は、図1中にWとして示した荷重方向に設置されたパッド1aにおけるものが最も大きく、その他のパッド1bにおけるものはそれと比して小さい。これらの油膜は、ばねや減衰の特性を持つため、回転軸2の振動に影響を与える。
【0019】
図2に示すような蒸気タービンの回転軸2においては、タービン6のタービン段落各段に設置されたシール(図示していない)において発生する流体力により回転軸2を振れ回すような振動が生じやすい。
【0020】
図3はシール流体力と軸受ばね異方性が軸振動の安定性に及ぼす影響について説明するものである。縦軸にシール流体力、横軸に軸受ばね異方性を取ると、軸振動の安定と不安定の境界は図中に実線で示すような右上がりの曲線となる。シール流体力は、シール部の形状などにより決まる。例えば、シール流体力がk1の場合に軸受ばね異方性がd1であるような軸受を取り付けると、軸は不安定となり振動が生じる。一方で、ばねの異方性がd2であるような軸受を取り付けた場合には、軸は安定化するため振動は生じない。このように、シール流体力が同一であれば、異方性が大きな軸受を取り付けたほうが安定性は向上する。
【0021】
ところで、図2において回転軸2を支える軸受4のばね特性は、油膜の特性だけでなく、ピボットの特性の影響も受ける。図4に示すように、油膜のばね11とピボットのばね12はパッド1を介して直列につながっている。パッド1の質量は、回転軸2の質量と比較して非常に小さいのでほとんど無視することができるため、これらのばねは単純に直列につながっていると考えても良い。つまり、ピボットのばね12を調節することにより、軸受4のばね特性を調節することができる。
【0022】
ピボットのばね12の調節は、ハウジングとの接触部に施された球面加工の曲率により調節することができる。曲率が大きいほうが変形が小さくなり、ばね剛性が大きい。
【0023】
本発明の実施例においては、荷重を主となって支えるパッド1aに固定されるピボット5aの曲率raを、他のパッド1bの曲率rbよりも大きくしているため、荷重に対し垂直方向の軸受ばね剛性と比較して荷重方向の軸受ばね剛性を高くすることができる。これにより、本実施例によればばね剛性の異方性の高い軸受を実現することができ、振動に対して安定的な蒸気タービンを実現することが可能となる。
【0024】
よって、本実施例のティルティングパッド式ジャーナル軸受によれば、荷重を主となって支えるパッド1aに固定されるピボット5aの曲率raを、他のパッド1bの曲率rbよりも大きくする簡略な構造で、回転軸の不安定振動を低減できる。また、図4において説明したように軸受ばね剛性の算出においては油膜ばねとピボットばねが直列になっているとして算出することができる。本実施例の構造によれば、ピボットばねの特性値を曲率に応じて変更するだけで良い。数値解析により油膜特性値を算出するのに比べ、数式によるピボットばね特性値の算出は簡単であるので、軸受ばね特性を変えるために油膜特性を変える他の方法に比べ、特性の算出も簡便である。
【0025】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、例えば荷重方向に設置するパッド1aは、1個に限定されるものではない。また、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1a,1b パッド
2 回転軸
3 ハウジング
4 軸受
5 ピボット
6 タービン
11,12 ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、該回転軸を支えるティルティングパッド式ジャーナル軸受装置と、前記回転軸に取り付けられたタービンと、該タービンの段落部に設けられたシールとを備えた蒸気タービンであって、
前記軸受装置は、
前記回転軸を支える複数個のパッドと、
前記複数個のパッドの各背面に固定されたピボットと、
前記ピボットを介して前記複数個のパッドを支えるハウジングとを備え、
前記複数個のパッドのうち、前記回転軸の荷重方向に設置された少なくとも1個の前記パッドに固定された前記ピボットの剛性が、他の前記パッドに固定された前記ピボットの剛性よりも大きいことを特徴とする蒸気タービン。
【請求項2】
請求項1に記載した蒸気タービンであって、
前記複数個の前記パッドにそれぞれ固定された前記ピボットの前記ハウジングと接する面は球形面であり、
前記複数個のパッドのうち、前記回転軸の荷重方向に設置された少なくとも1個の前記パッドに固定された前記ピボットの前記球形面の曲率が他の前記パッドに固定された前記ピボットの前記球形面の曲率よりも大きいことを特徴とする蒸気タービン。
【請求項3】
回転軸を支える複数個のパッドと、
前記複数個のパッドの各背面に固定されたピボットと、
前記ピボットを介して前記複数個のパッドを支えるハウジングとを備えるティルティングパッド式ジャーナル軸受装置であって、
前記回転軸の荷重方向に設置された少なくとも1個の前記パッドに固定された前記ピボットの剛性が、他の前記パッドに固定された前記ピボットの剛性よりも大きいことを特徴とするティルティングパッド式ジャーナル軸受装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたティルティングパッド式ジャーナル軸受装置であって、
前記パッドにそれぞれ固定された前記ピボットの前記ハウジングと接する面は球形面であり、
前記回転軸の荷重方向に設置された少なくとも1個の前記バッドに固定された前記ピボットの球形面の曲率が、他のパッドに固定されたピボットの球形面の曲率よりも大きいことを特徴とするティルティングパッド式ジャーナル軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−256773(P2011−256773A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131582(P2010−131582)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】