説明

テトラヒドロピランを溶媒とする塩化アルミニウム存在下での水素化ホウ素化合物による還元反応

【課題】カルボニル化合物及びカルボン酸誘導体を水素化ホウ素化合物およびアルミニウム塩の組成物により還元する方法における上記の問題点を解決し、安全かつ効率的にアルコール化合物等を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】カルボニル化合物、カルボン酸誘導体化合物等の還元方法において、テトラヒドロピラン中において水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩を含む組成物を用いることにより、反応溶媒と抽出溶媒を同一とすることができるため、反応工程の簡素化、エネルギーコストの低減などが実現できるようになり、また、溶媒として毒性の低いテトラヒドロピランを用いることにより、生体への安全性が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラヒドロピラン溶媒中においてカルボニル化合物及びカルボン酸誘導体等の有機化合物を還元し、アルコール化合物等を製造するために用いる水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩を含む組成物、及び該組成物を用いたアルコール化合物等の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化ホウ素化合物は安全で安定した化合物であるが、還元力が弱いことが知られており、従来は、アルデヒド化合物やケトン化合物などの比較的還元されやすいカルボニル化合物のプロトン性溶媒中での還元反応に利用されるに留まっていた。
【0003】
一方、水素化アルミニウム化合物は還元力が強く、非プロトン性溶媒中であっても、カルボニル化合物のみならず、エステル化合物、カルボン酸化合物、アミド化合物、ニトリル化合物、アミド化合物、ラクトン化合物を最も酸化状態の低い化合物まで還元できることが知られている。しかし、水素化アルミニウム化合物は還元力に優れている反面、湿気に不安定であり、反応系内に水が存在すると爆発的に反応するという問題点がある。
【0004】
このため、水素化ホウ素化合物の安全性と安定性を損なわず、かつ水素化アルミニウム化合物なみの還元力を有する化合物、組成物の開発が行われてきた。
【0005】
従来技術として、水素化ホウ素化合物に塩化アルミニウムを併用することにより、強い還元力を持つ化合物が得られることが知られている。
例えば、Journal of industrial and engineering chemistry 47 p1560 (1955)(非特許文献1)には水素化ホウ素ナトリウムと塩化アルミニウムの塩交換反応により水素化ホウ素アルミニウムが合成できる旨が記載されている。
【0006】
また、J. Am. Chem. Soc., 77 p3164 (1955)(非特許文献2)には、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)中、水素化ホウ素ナトリウムと塩化アルミニウムからなる組成物がエステル化合物、ニトリル化合物を還元できることが記載されている。
【0007】
さらに、J. Am. Chem. Soc., 78 p2582 (1956)(非特許文献3)には、ジエチレングリコール中、3倍モル量の水素化ホウ素ナトリウムと1倍モル量の塩化アルミニウムからなる組成物がカルボン酸化合物、エステル化合物、ニトリル化合物、ラクトン化合物を還元できることが記載されている。
【0008】
このような水素化ホウ素化合物を用いた従来の還元反応においては、還元反応後に水を加えて過剰のヒドリドを分解し、同時に生成物を有機層に、金属塩を水層に分液する処理が必要である。しかし、上記非特許文献中で溶媒として用いられているジグライムやジエチレングリコールは水と混和するため、容易に分液することができず、生成したアルコール等の回収が難しい。
また、反応液を濃縮し、抽出溶媒を加えることによって反応により生成したアルコール化合物等を得る場合には、高沸点のジグライム、ジエチレングリコールおよび蒸発潜熱の高い水を留去し、さらに反応溶媒と異なる抽出溶媒を用いなければならないため、反応工程の煩雑化やエネルギーコストが掛かるという点が問題となっている。
【0009】
【非特許文献1】Journal of industrial and engineering chemistry 47 p1560 (1955)
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 77 p3164 (1955)
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc., 78 p2582 (1956)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、水素化ホウ素化合物を用いた還元方法における上記の問題点を解決し、安全かつ効率的にアルコール化合物等を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意努力した結果、水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩を含む組成物を用いた還元反応において、溶媒にテトラヒドロピランを用いることにより、反応溶媒と抽出溶媒を同一のものとし、反応工程の簡素化、エネルギーコストの低減などが実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下の組成物及びアルコール化合物等の製造方法に関するものである。
[1]テトラヒドロピラン中に水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩を含むことを特徴とする組成物。
[2]水素化ホウ素化合物が水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素アンモニウム塩からなる群から選択される一種以上である前記1に記載の組成物。
[3]アルミニウム塩が塩化アルミニウム、臭化アルミニウムである前記1または2に記載の組成物。
[4]前記1〜3のいずれかに記載の組成物を用いて行うことを特徴とする有機化合物の還元方法。
[5]前記1〜3のいずれかに記載の組成物でアルデヒド化合物またはケトン化合物を還元するアルコール化合物の製造方法。
[6]前記1〜3のいずれかに記載の組成物でエステル化合物を還元するアルコール化合物の製造方法。
[7]前記1〜3のいずれかに記載の組成物でカルボン酸化合物を還元するアルコール化合物の製造方法。
[8]前記1〜3のいずれかに記載の組成物でカルボン酸塩化物を還元するアルコール化合物の製造方法。
[9]前記1〜3のいずれかに記載の組成物でアミド化合物を還元するアミン化合物の製造方法。
[10]前記1〜3のいずれかに記載の組成物でニトリル化合物を還元するアミン化合物の製造方法。
[11]前記1〜3のいずれかに記載の組成物でラクトン化合物を還元する環状エーテル化合物の製造方法。
[12]前記1〜3のいずれかに記載の組成物を用いて、前記5〜11にいずれかに記載の化合物の還元反応の後、水を加え、反応により生成した化合物をテトラヒドロピラン層へ抽出する前記5〜11のいずれかに記載の化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカルボニル化合物、カルボン酸誘導体化合物等の還元方法において、テトラヒドロピラン中において水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩を含む組成物を用いることにより、反応溶媒と抽出溶媒を同一とすることができるため、反応工程の簡素化、エネルギーコストの低減などが実現できるようになり、また、溶媒として毒性の低いテトラヒドロピランを用いることにより、生体への安全性が高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の具体的内容について詳細に説明する。
本発明は、水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩からなる組成物を用い、テトラヒドロピラン溶媒中にてカルボニル化合物、カルボン酸誘導体化合物を還元する方法に関する。
【0015】
[水素化ホウ素化合物]
本発明で使用される水素化ホウ素化合物は、下記式
【化1】

(式中、pは1または2の整数を表し、Mはp価の陽イオンとなり得る金属または原子団を表す。)で表される化合物である。
【0016】
p=1の場合、Mが金属である水素化ホウ素化合物としては、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムなどが挙げられる。また、Mが1価の陽イオンとなり得る水素化ホウ素化合物としては、有機アンモニウムを有する水素化ホウ素化合物(本願において水素化ホウ素アンモニウム等と言う。)、例えば、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム、水素化ホウ素テトラエチルアンモニウム、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム、水素化ホウ素トリメチルオクチルアンモニウム、水素化ホウ素トリメチルベンジルアンモニウムなどを用いることができ、これらの中でも、水素化ホウ素ナトリウムが好適に用いられる。p=2の場合の水素化ホウ素化合物としては、水素化ホウ素カルシウム、水素化ホウ素マグネシウム、水素化ホウ素亜鉛、水素化ホウ素スズ等を用いることができる。pは1の場合がより好ましい。
【0017】
[アルミニウム塩]
本発明で使用されるアルミニウム塩は、3価の無機アルミニウム塩化合物であり、具体的にはフッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどを用いることができる。中でも塩化アルミニウムが特に好ましい。
【0018】
[水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩との組成物]
次に、水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩との組成物について説明する。
水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩は任意の量比でテトラヒドロピラン中に溶解あるいは分散させる。
これは、水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩を予め混合したものをテトラヒドロピランに溶解あるいは分散させてもよいし、テトラヒドロピランにまず水素化ホウ素化合物を分散させた後にアルミニウム塩を溶解させる、もしくはテトラヒドロピランにまずアルミニウム塩を溶解させた後に水素化ホウ素化合物を分散させるいずれの方法でもよい。
1価の水素化ホウ素化合物3mol当量に対して3価のアルミニウム塩を1mol当量用いるのが好適である。
【0019】
水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩が、テトラヒドロピラン(THP)溶媒中でどのような組成物を形成しているのかは明らかになってはいないが、テトラヒドロピラン中で水素化ホウ素化合物(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)と塩化アルミニウムでは塩交換し、水素化ホウ素アルミニウムが生成しているものと推定される(下記反応式1)。
【0020】
【化1】

ただし、本発明はこのような反応を経ているか否かによって限定されるものではない。
【0021】
水素化ホウ素化合物の使用量は、還元する化合物により変わる。例えば、水素化ホウ素化合物として水素化ホウ素ナトリウムを用いる場合、1molの水素化ホウ素ナトリウムあたり4molのヒドリドがあるので、アルデヒド、ケトン化合物などのカルボニル化合物を還元する場合では少なくとも0.25mol量必要である。エステル化合物を還元する場合では0.5mol当量、カルボン酸化合物を還元する場合では0.75mol当量、カルボン酸塩化物を還元する場合では0.5mol当量、1級アミド化合物を還元する場合では0.75mol当量、2級アミド化合物を還元する場合では0.5mol当量、ニトリル化合物を還元する場合では0.5mol当量、ラクトン化合物を還元する場合では0.5mol当量の水素化ホウ素ナトリウムが用いられる。
【0022】
反応温度はテトラヒドロピランの融点(−45℃)〜還流温度の間で行うことができ、特に0〜88℃の間が好適である。
【0023】
本発明は種々の有機化合物の還元反応に用いることが出来る。一般的に、塩化アルミニウムによる還元が可能であれば、本発明が適用可能であるが、特に以下に挙げる化合物の還元反応に好適に用いることが出来る。
【0024】
[カルボニル化合物]
本発明で使用されるカルボニル化合物については特に制限はなく、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、3−フェニルプロピオンアルデヒド、プロピオンアルデヒド、バレロアルデヒド、シクロヘキサンサンカルボアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、グリオキザール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド化合物、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、バニリン、2−ナフタレンアルデヒド、テレフタルアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルルデヒド、1,2−ナフタレンジカルボアルデヒドなどの芳香族アルデヒド化合物、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、イソホロン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキシルアセトン、アセチルアセトン、アセト酢酸メチルなどの脂肪族ケトン化合物、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノンデオキシベンゾイン、アセトナフトフェノン、ブチロナフトフェノン、インデン−1−オン、フルオレン−9−オンなどの芳香族ケトン化合物などを用いることができる。
【0025】
[エステル化合物]
本発明で使用されるエステル化合物については特に制限はなく、蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ヘキサン酸メチル、オクチル酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸メチル、フェニル酢酸、アセト酢酸エチル、シュウ酸ジメチル、マロン酸ジエチル、コハク酸メジチル、マレイン酸ジメチル、グルタル酸ジエチルなどの脂肪族エステル化合物、安息香酸エチル、アニス酸メチル、2−ナフタレンカルボン酸メチル、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、トリメリット酸トリメチル、ピロメリット酸テトラメチルなどの芳香族エステル化合物などを用いることができる。
【0026】
[カルボン酸化合物]
本発明で使用されるカルボン酸化合物については特に制限はなく、蟻酸、酢酸、プロピオン、ブタン酸、酪酸、ヘキサン酸、オクチル酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、アセト酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸などの脂肪族カルボン酸化合物、安息香酸、アニス酸、2−ナフタレンカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族カルボン酸化合物などを用いることができる。
【0027】
[カルボン酸塩化物]
本発明で使用されるカルボン酸塩化物については特に制限はなく、蟻酸クロライド、酢酸クロライド、プロピオン酸クロライド、ブタン酸クロライド、酪酸クロライド、ヘキサン酸クロライド、オクチル酸クロライド、シクロヘキサンカルボン酸クロライド、フェニル酢酸クロライド、アセト酢酸クロライド、シュウ酸ジクロライド、マロン酸ジクロライド、コハク酸ジクロライド、マレイン酸ジクロライド、グルタル酸ジクロライドなどの脂肪族カルボン酸塩化物、安息香酸クロライド、アニス酸クロライド、2−ナフタレンカルボン酸クロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、フタル酸ジクロライド、トリメリット酸トリクロライド、ピロメリット酸テトラクロライドなどの芳香族カルボン酸化合物などを用いることができる。
【0028】
[アミド化合物]
本発明で使用されるアミド化合物については特に制限はなく、蟻酸アミド、酢酸アミド、N−メチル酢酸アミド、N,N‘−ジメチル酢酸アミド、酪酸アミド、N−ブチル酪酸アミド、N,N’−ジエチル酪酸アミド、アセト酢酸アミド、オキザミドのどの脂肪族第1、2級アミド化合物、ベンズアミド、N−エチルベンズアミド、N,N‘−ジエチルベンズアミド、テレフタラミドなどの芳香族アミド化合物などを用いることができる。
【0029】
[ニトリル化合物]
本発明で使用されるニトリル化合物については特に制限はなく、アセトニトリル、アクリロニトリル、プロピオニトリル、クロトノニトリル、バレロニトリル、マロノジニトリルなど脂肪族ニトリル化合物、ベンゾニトリル、トルニトリル、フタロニトリル、テレフタロニトリル、イソフタロニトリルなどの芳香族ニトリル化合物を用いることができる。
【0030】
[ラクトン化合物]
本発明で用いられるラクトン化合物については特に制限はなく、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのラクトン化合物を用いることができる。
【0031】
本発明では、還元反応後に水を加えることにより、無機物を水層に、生成したアルコール化合物等の生成物をテトラヒドロピラン層に抽出分離することができる。すなわち、テトラヒドロピランが反応溶媒と抽出溶媒を兼ねるので、反応生成物は反応溶媒を濃縮したり、別途抽出溶媒を加えたりすることなしに直接抽出分離することができ、反応工程の簡素化及びエネルギーコストの低減が可能となる。
【0032】
以上より、本発明で適用できる反応例を以下に示すことができる。
【化2】

(式中、R、R'及びR''は、それぞれ独立してアルキル基、アルケニル基、アリール基または水素原子を表す。)
【実施例】
【0033】
以下、本発明について代表的な例を示し具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
なお、実施例における各成分の分析にはガスクロマトグラフィー装置 6890N(アジレント・テクノロジー(株)製)を用い、分析カラムとしてDB−1カラム(J&W Scientific社製,長さ30m、直径0.32mm、膜厚1μm)を用いた。
【0034】
[実施例1:水素化ホウ素ナトリウム−塩化アルミニウム組成物の調製]
容量100mlのナスフラスコに氷冷下、撹拌子、水素化ホウ素ナトリウム1.13g(30mmol)、塩化アルミニウム1.33g(10mmol)、テトラヒドロピラン30mlを加え、1時間撹拌した。この溶液を以下、Al(BH43−THP溶液と略す。
【0035】
[実施例2:アルデヒドの還元]
実施例1で調製したAl(BH43−THP溶液に3−フェニルプロピオンアルデヒド8.65g(65mmol)を加え室温で2時間反応させた。反応後、水10mlを加えて反応を停止させ、テトラヒドロピラン層と水層との分液操作を行い、前者に抽出された3−フェニルプロパノールの生成をGCで確認した。収率94%であった。
【0036】
[実施例3:ケトンの還元]
実施例1で調製したAl(BH43−THP溶液にアセトフェノン7.2g(60mmol)を加え室温で4時間反応させた。反応後、水10mlを加えて反応を停止させ、テトラヒドロピラン層と水層との分液操作を行い、前者に抽出された1−フェニルエタノールの生成をGCで確認した。収率91%であった。
【0037】
[実施例4:エステルの還元]
実施例1で調製したAl(BH43−THP溶液にエステル(30mmol)、テトラヒドロピラン10mlを室温で加え、還流下8時間反応させた。反応後、水10mlを加えて反応を停止させ、テトラヒドロピラン層と水層との分液操作を行い、前者に抽出されたアルコールの生成をGCで確認した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
[実施例5:カルボン酸化合物の還元]
実施例1で調製したAl(BH43−THP溶液にカルボン酸(20mmol)、テトラヒドロピラン30mlを室温で加え、還流下8時間反応させた。反応後、水10mlを加えて反応を停止させ、テトラヒドロピラン層と水層との分液操作を行い、前者に抽出されたアルコールの生成をGCで確認した。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
[実施例6:カルボン酸塩化物(酸クロライド)の還元]
実施例1で調製したAl(BH43−THP溶液に安息香酸クロライド4.2g(30mmol)を氷冷下加え室温で2時間反応させた。反応後、水10mlを加えて反応を停止させ、テトラヒドロピラン層と水層との分液操作を行い、前者に抽出されたベンジルアルコールの生成をGCで確認した。収率74%であった。
【0042】
[実施例7:アミドの還元]
実施例1で調製したAl(BH43−THP溶液にアミド(30mmol)、テトラヒドロピラン30mlを室温で加え、還流下15時間反応させた。反応後、水10mlを加えて反応を停止させ、テトラヒドロピラン層と水層との分液操作を行い、前者に抽出されたアミンの生成をGCで確認した。結果を表3に示す。
【表3】

【0043】
[実施例8:ニトリルの還元]
実施例1で調製したAl(BH43−THP溶液にニトリル(30mmol)、テトラヒドロピラン10mlを室温で加え、還流下8時間反応させた。反応後、水10mlを加えて反応を停止させ、テトラヒドロピラン層と水層との分液操作を行い、前者に抽出されたアミンの生成をGCで確認した。結果を表4に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
[実施例9:ラクトン]
実施例1で調製したAl(BH43−THP溶液にラクトン(30mmol)のテトラヒドロピラン10mlを氷冷下1時間かけて加え、氷冷下で2時間、室温まで2時間かけて昇温し、室温で8時間反応させた。反応後、水10mlを加えて反応を停止させ、テトラヒドロピラン層と水層との分液操作を行い、前者に抽出された環状エーテルの生成をGCで確認した。結果を表5に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
[実施例10:水素化ホウ素カリウム−塩化アルミニウム組成物の調製およびエステル還元]
容量100mlのナスフラスコに氷冷下、撹拌子、水素化ホウ素カリウム1.61g(30mmol)、塩化アルミニウム1.33g(10mmol)、テトラヒドロピラン30mlを加え、1時間撹拌した。安息香酸メチル9.2g(60mmol)を加え還流下8時間反応させた。反応後、水10mlを加えて反応を停止させ、テトラヒドロピラン層と水層との分液操作を行い、前者に抽出されたベンジルアルコールの生成をGCで確認した。収率71%であった。
【0048】
[比較例1:塩化アルミニウム無添加、THP溶媒]
容量30mlのナスフラスコに撹拌子、3−フェニルプロピオンメチル1.34g(10mmol)、水素化ホウ素ナトリウム0.38g(10mmol)、テトラヒドロピラン10mlを加え、激しく撹拌しながら還流下2時間反応させた。反応液を一部サンプリングして、GCで分析したところ、3−フェニルプロパノールの生成は確認されなかった。
【0049】
[比較例2:塩化アルミニウム無添加、メタノール溶媒]
容量30mlのナスフラスコに撹拌子、3−フェニルプロピオンメチル1.34g(10mmol)、水素化ホウ素ナトリウム0.38g(10mmol)、メタノール10mlを加え、激しく撹拌しながら還流下2時間反応させたところ、反応液は均一になった。反応液を一部サンプリングして、GCで分析したところ、3−フェニルプロパノールの生成は確認されなかった。
【0050】
[比較例3:ジグライム溶媒中でのNaBH4−AlCl3還元]
容量100mlのナスフラスコに氷冷下、撹拌子、水素化ホウ素ナトリウム1.13g(30mmol)、塩化アルミニウム1.33g(10mmol)、ジグライム30mlを加え、1時間撹拌した。安息香酸メチル9.2g(60mmol)を加え還流下8時間反応させた。反応後、水2mlを加え過剰の水素化ホウ素リチウムを分解した。反応液は水とジグライム、生成物等の混和物であり、生成したベンジルアルコールを分離するためには、反応液をエバポレーターで留去した後、濃縮液に水10ml、酢酸エチル10mlを加え分液操作を行う必要があった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のカルボニル化合物、カルボン酸誘導体化合物等の還元方法において、テトラヒドロピラン中において水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩を含む組成物を用いることにより、反応溶媒と抽出溶媒を同一とすることができるため、反応工程の簡素化、エネルギーコストの低減などが実現できるようになり、また、溶媒として毒性の低いテトラヒドロピランを用いることにより、生体への安全性が高まる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラヒドロピラン中に水素化ホウ素化合物とアルミニウム塩を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
水素化ホウ素化合物が水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素アンモニウム塩からなる群から選択される一種以上である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アルミニウム塩が塩化アルミニウム、臭化アルミニウムである請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物を用いて行うことを特徴とする有機化合物の還元方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物でアルデヒド化合物またはケトン化合物を還元するアルコール化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物でエステル化合物を還元するアルコール化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物でカルボン酸化合物を還元するアルコール化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物でカルボン酸塩化物を還元するアルコール化合物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物でアミド化合物を還元するアミン化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物でニトリル化合物を還元するアミン化合物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物でラクトン化合物を還元する環状エーテル化合物の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物を用いて、請求項5〜11にいずれかに記載の化合物の還元反応の後、水を加え、反応により生成した化合物をテトラヒドロピラン層へ抽出する請求項5〜11のいずれかに記載の化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−1633(P2008−1633A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172568(P2006−172568)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】