説明

テラヘルツ波分光計測装置及び方法

【課題】所望の周波数のテラヘルツ波を発生させ、これを低損失で所望の部位まで効率よく伝搬させて、被測定物を分光計測することができるテラヘルツ波分光計測装置及び方法を提供する。
【解決手段】 異なる2波長の光1,2を出射する2波長光源12と、2波長の光から光差周波発生(DFG)によりそれらの差周波数分に相当するテラヘルツ波3を発生する非線形光学材料14と、非線形光学材料を入射端面に密着又は近接又は挿入して発生したテラヘルツ波を出射端面まで内部を伝送する可撓性の細長い中空伝送管16と、被測定物を透過したテラヘルツ波の強度を計測するテラヘルツ波検出器20とを備える。中空伝送管16は、中赤外乃至、遠赤外伝搬用の可撓性の中空ファイバである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を発生・伝搬させて被測定物を分光計測するテラヘルツ波分光計測装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願において、およそ0.1〜100THzの周波数を有する電磁波、すなわちこの領域の遠赤外線及びサブミリ波を「テラヘルツ波」と呼ぶ。
【0003】
テラヘルツ波の発生手段として、2つの異なる波長のレーザ光を非線形光学結晶へ入射してそれらの差周波数分のテラヘルツ波を発生させる差周波発生法が既に知られている(例えば特許文献1,2)。
また、発生したテラヘルツ波の伝送手段として、ガラスないしプラスチックキャピラリの内側に銀鏡反応で銀を成膜した中空ファイバ、強誘電体をクラッドに用いたPVDF中空ファイバが知られている(例えば非特許文献1)。
【0004】
特許文献1は、主としてミリ波からテラヘルツ波における電磁波を用いてセンシングなどを行うための、低消費電力かつ小型で持ち運び可能な集積モジュールとすることを目的とする。
この高周波電気信号制御装置は、図12に示すように、高周波電気信号の発生器50であってレーザ光51a、51bをそのレーザ光よりも低い周波数の電磁波52に変換する素子を備える。また、レーザ光51a、51bを発生させるレーザ装置53a、53b、レーザ光51a、51bを伝搬させて発生器50に導くための光導波路54、発生器50、及び信号を伝搬させるための伝送路55、57を同一基板上に集積化したものである。
【0005】
特許文献2は、テラヘルツ波を任意の場所に容易に照射可能であるとともに、既存のシステムや装置を有効利用することによって容易に実用化を図ることを可能にすることを目的とする。
このシステムは、図13に示すように、2つの波長のレーザ光を同時に発振可能であるとともに該波長を可変することのできる2波長発振レーザ装置60と、2波長発振レーザ装置から出力された2つの波長のレーザ光を伝送する光ファイバ61と、上記光ファイバにより伝送された2つの波長のレーザ光を用いて差周波発生によりテラヘルツ波を発生する波長変換手段63とを有するものである。
【0006】
非特許文献1は、図14に示す装置を用い、重水素ランプの光をミラーを介して中空ファイバに導き、その伝送損失を試験したものである。
【0007】
【特許文献1】特開2005−017644号公報、「高周波電気信号制御装置及びセンシングシステム」
【特許文献2】特開2006−171624号公報、「テラヘルツ波発生システム」
【0008】
【非特許文献1】Y.Matsuura and M.Miyagi,“Aluminum−coated hollow glass fibers for ArF−excimer laser light fabricated by metallorganic chemical−vapor deposition”,Applied Optics,vol.38,No.12,20 April 1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
テラヘルツ波は、光波帯とミリ波・サブミリ波と呼ばれるRF帯の中間に位置し、光波と電波の両方の特性を有する。そのため、テラヘルツ帯において活性である物質の特性解明、特に分光計測に非常に有効なデバイスとして期待されている。
しかし、テラヘルツ波は、水蒸気や水分による吸収が大きいため空気中では発生と同時に急速に減衰してしまう問題点がある。そのため、従来は、テラヘルツ波を用いた被測定物の自由空間中での分光計測が困難であった。
【0010】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、所望の周波数のテラヘルツ波を発生させ、これを低損失で所望の部位まで効率よく伝搬させて、被測定物を分光計測することができるテラヘルツ波分光計測装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、異なる2波長の光を出射する2波長光源と、
前記2波長の光から光差周波発生によりそれらの差周波数分に相当するテラヘルツ波を発生する非線形光学材料と、
該非線形光学材料が入射端面に密着又は近接又は挿入され、発生したテラヘルツ波を出射端面まで内部を伝送する可撓性の細長い中空伝送管と、
該被測定物を透過したテラヘルツ波の強度を計測するテラヘルツ波検出器と、を備え、
前記中空伝送管は、中赤外乃至、遠赤外伝搬用の可撓性の中空ファイバである、ことを特徴とするテラヘルツ波分光計測装置が提供される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記中空伝送管は、中赤外乃至、遠赤外伝搬用の可撓性の中空形状のファイバであり、その両端がテラヘルツ波を通し水分を通さないように密閉され、内部にテラヘルツ波の吸収の少ないガスが密封または真空状態にされている。
【0013】
前記中空伝送管は、内部に金属面を有する金属中空ファイバや、PVDF(polyvinylidene Fluoride)製中空ファイバである。
【0014】
また、前記非線形光学材料は、DAST結晶(4−N,N−dimethylamino−4−N’−methyl−stylbazolium tosylate)、MNA(2−methyl−4−nitroaniline)、LiNbO、KTP、GaAs、LiIO、GaSe、GaP、GaN、ZnSe、ZnTe、又はZGPである。
【0015】
また、前記被測定物が充填され、前記中空伝送管とテラヘルツ波検出器との間に、中空伝送管に近接して同軸に位置決めされる中空試料管を備え、該中空試料管は中赤外乃至、遠赤外伝搬用の可撓性の中空ファイバの両端がテラヘルツ波を通し水分を通さない不透過膜で密閉されている。
【0016】
前記中空伝送管と平行な回転中心軸と、該回転中心軸から一定の半径を隔て周方向に間隔を隔て複数の前記中空試料管を収容する複数の中空貫通穴とを有する試料回転台を備え、該試料回転台を回転中心軸を中心に一定の角度ピッチで旋回させて、複数の前記中空試料管を順次中空伝送管とテラヘルツ波検出器との間に同軸に位置決めする、ことが好ましい。
【0017】
前記中空伝送管の出射端側に位置し中空伝送管と平行に複数の中空試料管を位置決めする試料移動台を備え、該試料移動台が順次スライドして、複数の前記中空試料管を順次中空伝送管とテラヘルツ波検出器との間に同軸に位置決めする、ことが好ましい。
【0018】
また本発明によれば、異なる2波長の光から非線形光学材料を用いてそれらの差周波数分に相当するテラヘルツ波を発生させ、
可撓性の前記中空伝送管を用いて発生したテラヘルツ波を入射端面から出射端面まで伝送し、
出射端面から出射したテラヘルツ波を被測定物に照射し、
該被測定物を透過または反射したテラヘルツ波の強度を計測する、ことを特徴とするテラヘルツ波分光計測方法が提供される。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記可撓性の中空伝送管を人又は動物の体内に挿入して、体内の測定対象部位を2次元で分光計測イメージングする。
【0020】
また、前記可撓性の中空伝送管を人又は動物の体内に挿入して、体内の測定対象物質を吸引して中空伝送管内に充填し、分光計測する。
【0021】
また、前記可撓性の中空伝送管の出射端部を固定し、測定対象物を2次元的に移動させて、分光計測する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
上記本発明の装置及び方法によれば、2波長光源と非線形光学材料とにより、異なる2波長の光から光差周波発生(DFG)によりそれらの差周波数分に相当するテラヘルツ波を発生するので、2波長の各々を可変波長にすることにより、所望の周波数のテラヘルツ波を容易に発生させることができる。
【0023】
また、可撓性の細長い中空伝送管の入射端面が非線形光学材料に密着又は近接しており、この中空伝送管は、中赤外乃至、遠赤外伝搬用の中空形状の可撓性のファイバであり、両端がテラヘルツ波を通し水分を通さないように密閉され、内部にテラヘルツ波の吸収の少ないガスが密封または真空状態にされているので、有機非線形光学材料で発生したテラヘルツ波を出射端面まで少ない損失で伝送することができる。
【0024】
従って本発明によれば、所望の周波数のテラヘルツ波を発生させ、これを低損失で所望の部位まで効率よく伝搬させて、被測定物を分光計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0026】
図1は、本発明によるテラヘルツ波分光計測装置の第1実施形態図である。この図において、本発明のテラヘルツ波分光計測装置10は、2波長光源12、非線形光学材料14、可撓性の細長い中空伝送管16、及びテラヘルツ波検出器20を備える。
【0027】
2波長光源12は、異なる2波長の光を出射する。
この例において、2波長光源12は、2つのバルクKTP結晶12a,12b、ミラーM1,M2,M3、及びレーザ発振器13からなる2波長光パラメトリック発振器であり、波長λ、λの2波長のレーザ光1,2を出射する。このうち、波長λは例えば1250〜1650nmで可変とし、折り返し配置にした2つのKTP結晶12a,12bの角度をガルバノスキャナで制御することによりλの波長を所望のテラヘルツ周波数に合わせて1250〜1650nmで可変できるようになっている。
この構成により、0.01THzの間隔でテラヘルツ周波数を連続的又はパルス的に発生させることができる。
なお本発明は異なる2波長の光1,2を出射できる限りで、この構成に限定されない。
【0028】
図1において、2波長光源12からの波長λ、λの2波長のレーザ光1,2は、ミラーM4,M5とレンズLを介して非線形光学材料14の表面に対し垂直に入射する。なお、本発明において、ミラーM4,M5とレンズLは必須ではなく、これらを後述するように光ファイバに置き換えることができ、あるいは省略することもできる。
【0029】
非線形光学材料14は、2波長λ、λの光1,2から光差周波発生(DFG)によりそれらの差周波数分に相当するテラヘルツ波3を発生する。
非線形光学材料14は、DAST結晶(4−N,N−dimethylamino−4−N’−methyl−stylbazolium tosylate)、MNA(2−methyl−4−nitroaniline)、LiNbO、KTP、LiIO、GaSe、GaP、GaN、ZnSe、ZnTe、またはZGPが好ましく、特にDAST結晶が好ましい。
【0030】
DAST結晶は、DASTの飽和エタノール溶液を冷却する再結晶法で約2cm角、厚さ1mm以上の結晶が製造可能である。この矩形平板面上に分子の分極方向(a軸)を有し、外部からa軸偏光の励起電界を印加すると分極波が生じ、非線形光学効果から励起電界と異なる周波数の光が発生する。従って、このDAST結晶を広帯域テラヘルツ帯の発生に用いることができる。
【0031】
可撓性の細長い中空伝送管16は、可撓性の中赤外乃至、遠赤外伝搬用の中空ファイバである。例えば、内側に金属を成膜した金属中空ファイバや、PVDF(Polyvinylidene Fluoride)製のPVDF中空ファイバなどである。
【0032】
中空伝送管16は、非線形光学材料14に入射端面16aが密着又は近接し、発生したテラヘルツ波3を出射端面16bまで伝送する。非線形光学材料14と入射端面16aの間隔は、皆無又は短いほど好ましい。
【0033】
また、中空伝送管16の両端はテラヘルツ波を通し水分を通さないように不透過膜で密閉され、内部にテラヘルツ波の吸収の少ないガスが密封または真空状態にされている。この不透過膜には、市販のラップおよびポリシートを用いることができる。また、不透過膜以外のテラヘルツ波を通す部材(光学素子や非線形光学材料)で密封してもよい。
また、テラヘルツ波の吸収の少ないガスとして、乾燥空気、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、等を用いることができる。
【0034】
18a,18bは、出射端面16bから出射したテラヘルツ波3を反射して伝搬路を制御し、被測定物4に照射する方向にビームを制御する。
18a,18bは、この例では凹面鏡であるが、ビーム形状を制御する小型レンズであってもよいが、これを省略してもよい。また、17は、テラヘルツ波以外の光をカットするローパスフィルタであるが、これを省略してもよい。
【0035】
テラヘルツ波検出器20は、例えばSiボロメータであり、被測定物4を透過し凹面鏡19で反射集光されたテラヘルツ波3の強度を計測する。
【0036】
なお、図1において、11は制御記録装置(例えばPC)であり、2波長光源12を制御し、計測されたテラヘルツ波3の強度を記録するとともに、必要な解析を行う。また9は表示装置であり、計測結果及び解析結果を表示するようになっている。
【0037】
上述した装置を用いて、本発明によるテラヘルツ波分光計測方法によれば、異なる2波長の光1,2から非線形光学材料14を用いてそれらの差周波数分に相当するテラヘルツ波3を発生させ、可撓性の中赤外乃至、遠赤外伝搬用の中空伝送管16を用いて発生したテラヘルツ波3を入射端面16aから出射端面16bまで伝送し、出射端面16bから出射したテラヘルツ波3を被測定物4に照射し、被測定物4を透過したテラヘルツ波3の強度を計測する。
【0038】
図2は、本発明によるテラヘルツ波分光計測装置の第2実施形態図であり、(A)は全体構成図、(B)(C)は中空伝送管の断面図、(D)はその部分斜視図である。
図2Aにおいて、本発明のテラヘルツ波分光計測装置10は、2波長光源12、非線形光学材料14、中空伝送管16、中空試料管22及びテラヘルツ波検出器20を備える。
図2B、図2Dにおいて、非線形光学材料14は、中空伝送管16の入射端部内に気密に取り付けられている。光学系18は、ビーム形状を制御する小型レンズであり、必要に応じて取り付けることができ、中空伝送管16の出射端部内に気密に取り付けられている。なお、小型レンズを出射端16bの外側に設けてもよい。
図2Cにおいて、17a,17b,17cは、密封のためのTHz帯透過性膜(例えばラップ、フィルムなど)である。
【0039】
中空試料管22は、可撓性の中赤外乃至、遠赤外伝搬用の中空ファイバの両端がテラヘルツ波を通し水分を通さない不透過膜で密閉されている。なお中空試料管22には、中空伝送管16と同一のものを用いることが好ましい。
また、中空試料管22は、内部に被測定物が充填され、かつ中空伝送管16とテラヘルツ波検出器20との間に、中空伝送管22に近接して同軸に位置決めされる。内部に充填される被測定物としては、気体、粉体、DNA、菌等を封入することができる。
その他の構成は図1と同様である。
【0040】
上述した構成により、非線形光学材料14で発生したテラヘルツ波3を中空伝送管16で低損失で伝送し、中空試料管22に入射させ、中空試料管22内において被測定物(気体、粉体、DNA、菌等)に照射しながら低損失で伝送し、テラヘルツ波検出器20で被測定物を透過したテラヘルツ波の強度を計測することができる。
【0041】
図3は、本発明によるテラヘルツ波分光計測装置の第3実施形態図である。
図3Aにおいて、本発明のテラヘルツ波分光計測装置は、図2の構成に加えてさらに試料回転台24を備える。
試料回転台24は、中空伝送管16と平行な回転中心軸24aと、回転中心軸24aから一定の半径を隔て周方向に間隔を隔てた複数の中空貫通穴24bとを有する。中空貫通穴24bは、中空試料管22を中空伝送管16と平行に収容するようになっている。
この構成により、試料回転台24を回転中心軸24aを中心に一定の角度ピッチで旋回させて、複数の中空試料管22を順次中空伝送管16とテラヘルツ波検出器20(図示せず)との間に同軸に位置決めすることができ、多数の中空試料管22の分光計測を効率よく行うことができる。
【0042】
図3Bにおいて、本発明のテラヘルツ波分光計測装置は、図2の構成に加えてさらに試料移動台25を備える。
試料移動台25は、中空伝送管16の出射端側に位置し中空伝送管16と平行に複数の中空試料管22を位置決めする。またこの試料移動台25が順次スライドして、複数の中空試料管22を順次中空伝送管16とテラヘルツ波検出器との間に同軸に位置決めするようになっている。
この構成により、多数の中空試料管22の分光計測を効率よく行うことができる。
【0043】
図4は、中空伝送管16及び中空試料管22におけるテラヘルツ波3の伝搬模式図である。
図4Aに示すように、中空伝送管16及び中空試料管22(後述の例では銀中空ファイバ)の内部でテラヘルツ波3は反射しながら伝搬する。粉体などを分光計測する場合、反射点に存在する物質によって特定の周波数のみが吸収され、そのスペクトル構造が明らかになる。
伝搬角θは、数1の式(1)で表される。(5THz、TE11モードは88°)
また、反射回数nは伝搬角θに依存し、数1の式(2)で表される。Lは中空伝送管16及び中空試料管22の長さであり、aは中空伝送管16及び中空試料管22の内径であり、kは自由空間中でのテラヘルツ波の波数であり、uはベッセル関数の根を示す。
【0044】
【数1】

【0045】
図4Bは、テラヘルツ波3の周波数と反射回数の関係図である。この図において、中空伝送管16及び中空試料管22として後述する銀中空ファイバ(内径1mm)を用い、10cm長と5cm長のファイバに対し、主要伝搬モードのTE11における反射回数を示している。
この図から、例えば、10cm長の場合に5THzのテラヘルツ波3は約4回反射することがわかる。銀中空ファイバ(内径1mm)の内容積は80μLであることから、非常に微量の試料を用いて、粉体を含む被測定物の分光計測ができることがわかる。
なお、上記長さは一例であり、必要に応じて、任意の長さの銀中空ファイバを用いることができる。
【0046】
図5は、本発明によるテラヘルツ波分光計測装置の第4実施形態図である。この図において、本発明のテラヘルツ波分光計測装置10の2波長光源12は、可変波長の第1レーザ光1を発振する第1レーザ発振装置32と、可変波長の第2レーザ光2を発振する第2レーザ発振装置34と、第1レーザ光1と第2レーザ光2を同一光路に結合する方向性結合器36と、同一光路の第1レーザ光1と第2レーザ光2を非線形光学材料まで導く可撓性の光ファイバ38とを有する。30は、第1レーザ発振装置32と第2レーザ発振装置34を制御する制御装置(例えばPC)である。
中空伝送管16は、光ファイバ38の先端部に取り付けられ、非線形光学材料14(図示せず)は、中空伝送管16の入射端面に密着又は近接、ないしは挿入して取り付けられている。
この構成により、この図に示すように、可撓性の中空伝送管16を人又は動物5の体内に挿入して、体内の測定対象部位(この例では胃)を2次元で分光計測イメージングすることができる。
なお、この場合、テラヘルツ波検出器は、中空伝送管16の出射端面に対峙して一体化するか、人又は動物5の外部で計測するのがよい。
【0047】
また、可撓性の中空伝送管16(又は中空試料管22)を人又は動物5の体内に挿入して、体内の測定対象物質を吸引して中空伝送管16(又は中空試料管22)内に充填し、これを上述した装置を用いて分光計測してもよい。
【0048】
上述した装置及び方法により、人又は動物5の体内の測定対象部位をテラヘルツ波3を用いて容易に分光計測することができる。
【0049】
図6は、本発明によるテラヘルツ波分光計測装置の第5実施形態図である。この図において、本発明のテラヘルツ波分光計測装置10は、第4実施形態の装置に更に2次元ステージ40を備え、可撓性の中空伝送管16の出射端部を固定し、測定対象物4を2次元的に移動させて、分光計測する。
【0050】
この装置及び方法により、測定対象物4の2次元分光計測を容易に実施することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例を説明する。
図1に示した装置を用いて、中空伝送管16によるテラヘルツ波3の伝搬特性を試験した。中空伝送管16として、可撓性のある内径1mmのガラスキャピラリ内部に銀をコーティングした銀中空ファイバを用いた。また、非線形光学材料14として、厚さ0.8mmのDAST結晶を長さ6cmのカップリング用銀中空ファイバの端面に接するように配置して、銀中空ファイバを接続した。a軸偏光の1.3μm帯二波長光をTHz帯励起光としてc軸方向へ入射し、光差周波発生(DFG)で2〜15THz帯を発生させて伝搬特性の周波数依存性及び曲げの伝搬特性をSiボロメータで計測した。
【0052】
図7は、長さ30.5cm、曲げ角0°の銀中空ファイバの試験結果であり、(A)はDASTからのテラヘルツ波の出力強度、(B)は銀中空ファイバの透過特性である。
この図から2〜15THzのテラヘルツ波に対して急峻な吸収特性は見られず、テラヘルツ波帯で上述したデバイスへの適用ができることが確認された。
【0053】
次に曲げ角0°の場合を1とし、曲線の円弧長さを一定として角度を変化させた試験を実施した。この場合の透過特性を図8に示す。
この図から14.5THzでは角度が大きくなるにつれ透過特性が低下するが、5THzから10THzまでは曲げによる付加損は小さく(最大1dB程度)、十分実用化できることが確認された。
【0054】
図9は、銀中空ファイバ内に呼気を吹き入れて計測した結果であり、水と水蒸気の透過特性と比較している。
この図において、この帯域全体の包絡線は水(破線)の透過特性に近似しており、また、細かな構造は水蒸気(下端の図)のスペクトルに極似していることがわかる。
このことから、この帯域(2〜15THz)で測定されるのは主として水と水蒸気であり、大気中の水蒸気による吸収が非常に大きいことがわかる。
【0055】
図10は、銀中空ファイバ内にハイドロフルオロカーボン(HFC)を入れて計測した結果であり、計算上の吸収ピーク(下側の縦線)と比較している。なお、この例は、HFC−134aの場合を示している。
この図から、吸収ピークの測定値と計算値がよく一致しており、ハイドロフルオロカーボンの分光計測が可能であることがわかる。なお、同様に、HFC−152aの場合にも、同様の結果が得られた。
【0056】
図11は、銀中空ファイバ内にエタノール(CHCHOH)を入れて計測した結果であり、計算上の吸収ピーク(下側の縦線)と水及び水蒸気の透過特性と比較している。
この図から、6THz付近の吸収は水、エタノール、水蒸気の3種類の吸収特性が重なりあったような特性を示している。また、13THz付近の吸収は計算値で求めた振動モードにほぼ一致し、全領域にわたるスペクトルの微細構造はわずかに含まれる水蒸気によるものと推測される。特に13THzでの吸収特性は水と水蒸気の影響が少なく、エタノールの検出に適しているといえる。
【0057】
また、市販のラップ及びポリシートを用い、両端を封入することにより、テラヘルツ波を通し水分を通さないようにできることも試験により確認された。
【0058】
上述した本発明の装置及び方法によれば、2波長光源12と有機非線形光学材料14とにより、異なる2波長の光1,2から光差周波発生(DFG)によりそれらの差周波数分に相当するテラヘルツ波3を発生するので、2波長1,2を可変波長にすることにより、所望の周波数のテラヘルツ波3を容易に発生させることができる。
【0059】
また、可撓性の細長い中空伝送管16の入射端面16aが非線形光学材料14に密着又は近接しており、この中空伝送管は、可撓性の中赤外乃至、遠赤外伝搬用の中空ファイバの両端がテラヘルツ波を通し水分を通さないように密閉され、内部にテラヘルツ波の吸収の少ないガスが密封または真空状態にされているので、非線形光学材料で発生したテラヘルツ波3を出射端面まで少ない損失で伝送することができる。
従って、本発明によれば、所望の周波数のテラヘルツ波を発生させ、発生したテラヘルツ波を低損失で任意の場所まで伝搬させることが可能となり、光ファイバでDAST結晶へ励起光を入射するシステムの構築により、全ファイバでの測定システムの実現が可能になるという優れた効果を奏す。
【0060】
なお、本発明は上述した実施例及び実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明によるテラヘルツ波分光計測装置の第1実施形態図である。
【図2】本発明によるテラヘルツ波分光計測装置の第2実施形態図である。
【図3】本発明によるテラヘルツ波分光計測装置の第3実施形態図である。
【図4】中空伝送管及び中空試料管におけるテラヘルツ波の伝搬模式図である。
【図5】本発明によるテラヘルツ波分光計測装置の第4実施形態図である。
【図6】本発明によるテラヘルツ波分光計測装置の第5実施形態図である。
【図7】長さ30.5cm、曲げ角0°の銀中空ファイバの試験結果である。
【図8】曲線の円弧長さを一定として角度を変化させた試験結果である。
【図9】銀中空ファイバ内に呼気を吹き入れて計測した結果である。
【図10】銀中空ファイバ内にハイドロフルオロカーボン(HFC)を入れて計測した結果である。
【図11】銀中空ファイバ内にエタノール(CHCHOH)を入れて計測した結果である。
【図12】特許文献1の集積モジュールの模式図である。
【図13】特許文献2のテラヘルツ波発生システムの模式図である。
【図14】非特許文献1の試験装置の模式図である。
【符号の説明】
【0062】
・ レーザ光、3 テラヘルツ波、4 被測定物、5 人又は動物、
10 テラヘルツ波分光計測装置、11 制御記録装置(PC)、
12 2波長光源、12a,12b バルクKTP結晶、
13 レーザ発振器、14 有機非線形光学材料、
16 中空伝送管、16a 入射端面、16b 出射端面、
18 光学系、18a,18b 凹面鏡、20 テラヘルツ波検出器、
22 中空試料管、24 試料回転台、
24a 回転中心軸、24b 中空貫通穴、
25 試料移動台、30 制御装置(PC)、
32 第1レーザ発振装置、34 第2レーザ発振装置、
36 方向性結合器、38 光ファイバ、40 2次元ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる2波長の光を出射する2波長光源と、
前記2波長の光から光差周波発生によりそれらの差周波数分に相当するテラヘルツ波を発生する非線形光学材料と、
該非線形光学材料が入射端面に密着又は近接又は挿入され、発生したテラヘルツ波を出射端面まで内部を伝送する可撓性の細長い中空伝送管と、
該被測定物を透過したテラヘルツ波の強度を計測するテラヘルツ波検出器と、を備え、
前記中空伝送管は、中赤外乃至、遠赤外伝搬用の可撓性の中空ファイバである、ことを特徴とするテラヘルツ波分光計測装置。
【請求項2】
前記中空伝送管は、中赤外乃至、遠赤外伝搬用の可撓性の中空形状のファイバであり、その両端がテラヘルツ波を通し水分を通さないように密閉され、内部にテラヘルツ波の吸収の少ないガスが密封または真空状態にされている、ことを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波分光計測装置。
【請求項3】
前記中空伝送管は、内部に金属面を有する金属中空ファイバや、PVDF(polyvinylidene Fluoride)製中空ファイバである、ことを特徴とする請求項2に記載のテラヘルツ波分光計測装置。
【請求項4】
前記非線形光学材料は、DAST結晶(4−N,N−dimethylamino−4−N’−methyl−stylbazolium tosylate)、MNA(2−methyl−4−nitroaniline)、LiNbO、KTP、GaAs、LiIO、GaSe、GaP、GaN、ZnSe、ZnTe、又はZGPである、ことを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波分光計測装置。
【請求項5】
前記被測定物が充填され、前記中空伝送管とテラヘルツ波検出器との間に、中空伝送管に近接して同軸に位置決めされる中空試料管を備え、該中空試料管は中赤外、乃至遠赤外伝搬用の可撓性の中空ファイバの両端がテラヘルツ波を通し水分を通さない不透過膜で密閉されている、ことを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波分光計測装置。
【請求項6】
前記中空伝送管と平行な回転中心軸と、該回転中心軸から一定の半径を隔て周方向に間隔を隔て複数の前記中空試料管を収容する複数の中空貫通穴とを有する試料回転台を備え、該試料回転台を回転中心軸を中心に一定の角度ピッチで旋回させて、複数の前記中空試料管を順次中空伝送管とテラヘルツ波検出器との間に同軸に位置決めする、ことを特徴とする請求項5に記載のテラヘルツ波分光計測装置。
【請求項7】
前記中空伝送管の出射端側に位置し中空伝送管と平行に複数の中空試料管を位置決めする試料移動台を備え、該試料移動台が順次スライドして、複数の前記中空試料管を順次中空伝送管とテラヘルツ波検出器との間に同軸に位置決めする、ことを特徴とする請求項5に記載のテラヘルツ波分光計測装置。
【請求項8】
異なる2波長の光から非線形光学材料を用いてそれらの差周波数分に相当するテラヘルツ波を発生させ、
可撓性の前記中空伝送管を用いて発生したテラヘルツ波を入射端面から出射端面まで伝送し、
出射端面から出射したテラヘルツ波を被測定物に照射し、
該被測定物を透過または反射したテラヘルツ波の強度を計測する、ことを特徴とするテラヘルツ波分光計測方法。
【請求項9】
前記可撓性の中空伝送管を人又は動物の体内に挿入して、体内の測定対象部位を2次元で分光計測イメージングする、ことを特徴とする請求項8に記載のテラヘルツ波分光計測方法。
【請求項10】
前記可撓性の中空伝送管を人又は動物の体内に挿入して、体内の測定対象物質を吸引して中空伝送管内に充填し、分光計測することを特徴とする請求項8に記載のテラヘルツ波分光計測方法。
【請求項11】
前記可撓性の中空伝送管の出射端部を固定し、測定対象物を2次元的に移動させて、分光計測することを特徴とする請求項8に記載のテラヘルツ波分光計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−241340(P2008−241340A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79405(P2007−79405)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】