説明

テープ状酸化物超電導線材の製造方法及び熱処理装置

【課題】比較的簡易な構成によって、超電導特性の向上したテープ状酸化物超電導線材を製造すること。
【解決手段】熱処理装置10の熱処理炉11には、表面に超電導原料溶液が付着されたテープ状基材20が収容される。テープ状基材20は、隣り合うテープとの間に間隙をもって巻き回わされた、パンケーキ状である。パンケーキ状に巻き回されたテープ状基材20の上面側には、ガス供給管12が配置される。ガス供給管12は、テープ状基材20の側面方向からテープ状基材20の表面に平行にガスを噴出(供給)する。これにより、テープ状基材20の両面に同時に超電導層が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープ状酸化物超電導線材の製造方法及び熱処理装置に関し、特に中間層が形成された配向金属基材上に、MOD(Metal-organic Deposition)法を用いて超電導層を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MOD法を用いて超電導層を形成することが提案されている(特許文献1,2参照)。MOD法は、先ず、酸化物中間層が形成されたテープ状の基材を、超電導原料溶液(有機金属塩を有機溶媒に溶解させたもの)に浸し、この基材を超電導原料溶液から引き上げること(いわゆるディップコート法)により、基材の表面に超電導膜を付着させる。次に、仮焼及び本焼を行うことにより、酸化物超電導層を形成する。MOD法は、非真空中でも長尺の基材に連続的に酸化物超電導層を形成できるので、PLD(Pulse Laser Deposition)法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の気相法よりも、プロセスが簡単で低コスト化が可能であることから、注目されている。
【0003】
特許文献1,2には、表面に超電導原料溶液が付着された基材を熱処理する、バッチ方式の熱処理装置が開示されている。バッチ方式の熱処理装置は、reel-to-reel方式の熱処理装置と比較して、炉内の雰囲気をコントロールし易いので安定した超電導層を形成できるといった利点がある。また、バッチ方式の熱処理装置は、reel-to-reel方式の熱処理装置と比較して、小型の装置で、短時間で焼成を完了できるといった利点がある。因みに、reel-to-reel方式の熱処理装置は、線材送り出し機構及び巻き取り機構をトンネル形状の熱処理炉の両端に設置し、線材を一定速度で炉内を移動させることによって焼成を行うものである。
【0004】
特許文献1,2に開示された熱処理装置の構成を簡単に説明する。この熱処理装置は、表面に超電導原料が付着された基材を円筒体に巻回する。基材が巻回された円筒体は、回転駆動機構によって回転駆動される。円筒体には、多数の貫通孔が形成されている。基材は、円筒体に巻回された状態において、基材の表面方向に設けられたヒータによって加熱される。また、基材の表面方向からは不活性ガス、酸素ガス及び水蒸気などからなる雰囲気ガスが基材に向けて噴出され、この雰囲気ガスは円筒体に形成された貫通孔を介して排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−188755号公報
【特許文献2】特開2009−48817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1,2に開示された熱処理装置は、超電導線材を長尺化するために、円筒体に基材を巻回させ、さらに雰囲気ガスを均一に循環させるために、円筒体外部から噴出された雰囲気ガスを円筒体内部を介して排出する構成を採用している。この結果、円筒体が大型化するので、装置全体の構成も比較的大型化する欠点がある。
【0007】
また、製造されるテープ状酸化物超電導線材の超電導特性がさらに向上されることが望まれる。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、比較的簡易な構成によって、超電導特性の向上したテープ状酸化物超電導線材を製造できる製造方法及び熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のテープ状酸化物超電導線材の製造方法の一つの態様は、熱処理炉内に、表面に超電導原料溶液が付着された熱処理対象のテープ状基材を収容し、当該テープ状基材を加熱するステップと、前記熱処理炉内にガスを供給するステップと、前記熱処理炉内のガスを前記熱処理炉外へ排出するガス排出するステップと、を含むテープ状酸化物超電導線材の製造方法であって、前記ガスを供給するステップでは、前記テープ状基材の側面から前記ガスを供給する。
【0010】
本発明の熱処理装置の一つの態様は、表面に超電導原料溶液が付着された熱処理対象のテープ状基材を収容し、ヒータによって内部を加熱する熱処理炉と、前記熱処理炉内にガスを供給するガス供給手段と、前記熱処理炉内のガスを前記熱処理炉外へ排出するガス排出手段と、を有するテープ状酸化物超電導線材の熱処理装置であって、前記ガス供給手段は、前記テープ状基材の側面から前記ガスを供給する。
【0011】
また、本発明においては、前記テープ状基材は、隣り合うテープとの間に間隙をもって巻き回わされた、パンケーキ状とされている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、テープ状基材の両面に付着された超電導原料溶液を同時に焼成してテープ状基材の両面に同時に超電導層を形成できるので、小型の装置によって短時間で、超電導特性の向上したテープ状酸化物超電導線材を製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態の熱処理装置の要部構成を示す図
【図2】パンケーキ状に巻き回されたテープ状基材のイメージを示す図
【図3】ガスの流れとテープ状基材との関係の説明に供する、テープ状基材の拡大図
【図4】実施の形態の熱処理装置を用いて製造された酸化物超電導線材の構成を示す図
【図5】従来の熱処理装置を用いて製造された酸化物超電導線材の構成を示す図
【図6】テープ状基材を保持するための構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1に、本発明の実施の形態に係る熱処理装置の要部構成を示す。熱処理装置10は、バッチ式で超電導原料溶液の焼成を行うものである。熱処理装置10は、熱処理炉11と、ガス供給管12と、ガス排出管13と、を有する。
【0016】
熱処理炉11は、周囲にヒータ14が配置されており、内部をヒータ14によって加熱する。
【0017】
熱処理炉11には、表面に超電導原料溶液が付着されたテープ状基材20が収容される。テープ状基材20は、隣り合うテープとの間に間隙をもって巻き回わされた、パンケーキ状(換言すれば、同心円状)とされている。なお、図1では、テープ状基材20の形状を分かり易くするために、テープ状基材20のみが略線的な斜視図とされており、他の部分は略線的な断面図とされている。
【0018】
図2に、パンケーキ状に巻き回されたテープ状基材20のイメージを示す。図2は、テープ状基材20を、上面側又は下面側(ガス供給管12側又はガス排出管13側)から見た図である。本実施の形態の場合、テープ状基材20の厚さは、ほぼ100[μm]である。ここで、テープ状基材20の厚さとは、基板、中間層及び超電導層が積層された積層方向の厚さのことである。一方、隣り合うテープとの間の間隙は、200[μm]とされている。この間隙は、ガス供給管12から噴出されるガスの流速などにもよるが、100[μm]以上であることが好ましい。このようにすることで、テープ状基材20の表面にムラ無くガスを当てることができるので、テープ状基材20の表面に均一な超電導特性の超電導層を焼成できるようになる。
【0019】
ガス供給管12は、図1に示すように、パンケーキ状に巻き回されたテープ状基材20の上面側に配置される。ガス供給管12におけるテープ状基材20と対向する位置には、複数のガス噴出孔が形成されており、図中の矢印で示す方向にガスが噴出される。因みに、ガス供給管12は、不活性ガス、酸素ガス又は水蒸気等からなる雰囲気ガスを生成するガス生成部に接続されており、ガス供給管12からはこの雰囲気ガスが噴出される。
【0020】
図3は、ガスの流れと、テープ状基材20との関係を示すための、テープ状基材20の拡大図である。図からも分かるように、ガスはテープ状基材20の側面方向からテープ状基材20の表面に略平行に噴出(供給)される。つまり、図1のように、パンケーキ状に巻き回されたテープ状基材20全体を見ると、テープ状基材20の上面から下面へとガスが供給されているように見えるが、実際には、ガスは、テープ状基材20の側面方向から供給され、テープ状基材20の幅方向に流れる。
【0021】
なお、本実施の形態の場合、一例として、テープ状基材20として、厚さがほぼ100[μm]であり、幅がほぼ5[mm]のものを用いた。一般に、テープ状基材20の幅は、2〜30[mm]である。幅方向に均一に結晶化された超電導層を形成させるためには、テープ状基材20の幅が狭い方がよく、10[mm]以下が好ましく、5[mm]以下がより好ましい。また、本実施の形態では、一例として、テープ状基材20の長手方向の長さが500[m]のものを用いた。
【0022】
ガス排出管13は、図1に示すように、パンケーキ状に巻き回されたテープ状基材20の下面側に配置される。ガス排出管13におけるテープ状基材20と対向する位置には、複数のガス排出孔が形成されており、図中の矢印で示す方向にガスが排出される。
【0023】
実際上、熱処理炉11の形状は、基本的にはパンケーキ状に巻き回されたテープ状基材20を収容できるものであればよいが、テープ状基材20の外形に合うように、円筒形状とすることが好ましい。また、ガス供給管12は、テープ状基材20に対向する全面にガスを供給できるように、パンケーキ状に巻き回されたテープ状基材20の上面外形に合うように、ドーナッツ形状又は円盤形状とすることが好ましい。このように、ガス供給管12の形状を、パンケーキ状に巻き回されたテープ状基材20の外形に合わせるようにしたことにより、テープ状基材20の全体に対して、一様なガス供給ができるようになる。さらに、ガス排出管13についてもガス供給管12と同様に、パンケーキ状に巻き回されたテープ状基材20の下面外径に合うようにドーナッツ形状又は円盤形状とすることが好ましい。この結果、超電導特性の均一化を図り易くなる。
【0024】
図4に、本実施の形態の熱処理装置10を用いて製造された酸化物超電導線材の構成を示す。酸化物超電導線材は、先ず、基板31の両面に中間層32−1、32−2が形成される。基板31は、例えば、ニッケル(Ni)、ニッケル合金、ステンレス鋼又は銀(Ag)である。基板31の厚さは、例えば、50〜200[μm]である。
【0025】
中間層32−1、32−2は、それぞれ、第1中間層及び第2中間層からなる。具体的には、中間層32−1、32−2は、先ず、テンプレートとしてIBAD法によりGdZrを第1の中間層として成膜し、次にこの第1の中間層の上にスパッタリング法によりCeOを第2の中間層として成膜する。なお、中間層32−1、32−2の構成は、これに限らず、1層あるいは複数層の2軸配向性を持つ無機材料薄膜層であればよい。中間層32−1、32−2の厚さは、例えば、1[μm]である。
【0026】
次に、中間層32−1、32−2の上に、イットリウム(Y)のトリフルオロ酢酸塩(Y-TFA)、バリウム(Ba)のトリフルオロ酢酸塩(Ba-TFA)及び銅(Cu)のナフテン酸塩を、有機溶媒中に、Y:Ba:Cuのモル比が1:b:3(但し、b<2)で溶解した混合溶液を超電導原料溶液としてディップコート法により塗布した後、最高温度450[°C]、水蒸気分圧5[%]の条件で仮焼し、この塗布及び仮焼工程を所定回数繰り返す。なお、用いる超電導原料溶液は、上述したものに限らず、例えば、Re:Ba:Cuのモル比が1:2:3となるように調整されたものでもよい。ここで、Reは、イットリウム(Y)、ホルミウム(Ho)、ネオジム(Nd)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)、Gd(ガドリニウム)からなる群から選ばれた金属を示す。
【0027】
このようにして作成された仮焼工程後の基材が、パンケーキ状に巻き回されて、テープ状基材20として、熱処理装置10に収容される。つまり、テープ状基材20は、基板31上に1層あるいは複数層の2軸配向性を持つ無機材料薄膜層からなる中間層32−1、32−2を形成し、この中間層32−1、32−2上に、Y系(123)超電導層を構成する金属元素を含む金属有機酸塩または有機金属化合物を有機溶媒中に溶解した混合溶液(超電導原料溶液)を塗布した後に、熱処理(本焼)したものである。また、前記混合溶液中の金属元素を含む金属有機酸塩は、オクチル酸塩、ナフテン酸塩、ネオデカン酸塩または三酢酸塩のいずれか1種よりなるものである。
【0028】
熱処理装置10は、例えば、750[°C]、水蒸気分圧13[%]の雰囲気中で熱処理を施すことにより、超電導層(YBCO超電導層)33−1、33−2を形成する。
【0029】
次いで、超電導層33−1、33−2の上に、例えばスパッタリング法により、Agよりなる保護層34−1、34−2を形成する。
【0030】
以上説明したように、本実施の形態によれば、隣り合うテープとの間に間隙をもってパンケーキ状に巻き回されたテープ状基材20を熱処理炉11に収容し、テープ状基材20の側面からガスを供給したことにより、図4に示したように、両面に同時に超電導層33−1、33−2を有する酸化物超電導線材を製造できる。
【0031】
つまり、特許文献1、2に記載された方法及び装置では、図5に示すように、片面にしか超電導層33−1を形成することはできないが、本実施の形態の方法及び装置によれば、両面に超電導層33−1、33−2をできるので、図5の構成と比較して、ほぼ2倍の超電導特性(臨界電流密度)を得ることができるようになる。
【0032】
また、特許文献1、2に記載された方法及び装置と比較して、テープ状基材を巻回するための円筒体を必要としないので、装置全体を小型化することができる。
【0033】
さらに、バッチ方式による焼成を行うので、reel-to-reel方式の焼成を行う場合と比較して、炉内の雰囲気をコントロールし易いので安定した超電導層を形成でき、かつ、短時間で酸化物超電導線材を製造できる。
【0034】
なお、上述の実施の形態では、基材をパンケーキ状とした場合について述べたが、例えば基材を蛇行させた形状としてもよい。要は、隣り合うテープ間で間隙を有するようにして配置した状態で、テープ状基材の側面からガスを供給すればよい。但し、パンケーキ状にすることにより、スペースの限られた熱処理炉内に長尺のテープ状基材を収容でき、かつ、基材にかかるストレスを小さくできるといったメリットがある。
【0035】
上述の実施の形態では、熱処理炉11でのテープ状基材20の保持の仕方については言及しなかったが、例えば、パンケーキの中心部分に嵌り込むような保持部材を用いて固定すればよい。因みに、テープ状基材20の基板31がハステロイ等の硬い材料で形成されている場合には、テープ状基材20を保持する箇所が少なくてもテープ状基材20が重力により下方向にダレル可能性は小さいが、基板31がニッケルタングステン等の軟らかい材料で形成されている場合にはダレが生じるおそれがあるので、保持する箇所を多くするとよい。例えば、図6に示すように、テープ状基材20の間隔に応じた溝41が形成された細い丸棒40に、この溝に嵌り込むようにテープ状基材20を載置し、丸棒40の両端を熱処理炉11に固定すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明にかかるテープ状酸化物超電導線材の製造方法及び熱処理装置は、MOD法を用いて超電導層を形成する場合に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 熱処理装置
11 熱処理炉
12 ガス供給管
13 ガス排出管
14 ヒータ
20 テープ状基材
31 基板
32−1、32−2 中間層
33−1、33−2 超電導層
34−1、34−2 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理炉内に、表面に超電導原料溶液が付着された熱処理対象のテープ状基材を収容し、当該テープ状基材を加熱するステップと、
前記熱処理炉内にガスを供給するステップと、
前記熱処理炉内のガスを前記熱処理炉外へ排出するガス排出するステップと、
を含むテープ状酸化物超電導線材の製造方法であって、
前記ガスを供給するステップでは、前記テープ状基材の側面から前記ガスを供給する、 テープ状酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記テープ状基材は、
隣り合うテープとの間に間隙をもって巻き回わされた、パンケーキ状とされている、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記間隙は、100[μm]以上である、
請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記テープ状基材は、基板としてニッケル合金が用いられている、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記テープ状基材は、
基板上に1層あるいは複数層の2軸配向性を持つ無機材料薄膜層からなる中間層を形成し、この中間層上に、Y系(123)超電導層を構成する金属元素を含む金属有機酸塩または有機金属化合物を有機溶媒中に溶解した混合溶液を塗布した後に、仮焼したものである、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合溶液中の金属元素を含む金属有機酸塩は、オクチル酸塩、ナフテン酸塩、ネオデカン酸塩または三酢酸塩のいずれか1種よりなる、
請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
表面に超電導原料溶液が付着された熱処理対象のテープ状基材を収容し、ヒータによって内部を加熱する熱処理炉と、
前記熱処理炉内にガスを供給するガス供給手段と、
前記熱処理炉内のガスを前記熱処理炉外へ排出するガス排出手段と、
を有するテープ状酸化物超電導線材の熱処理装置であって、
前記ガス供給手段は、前記テープ状基材の側面から前記ガスを供給する、
テープ状酸化物超電導線材の熱処理装置。
【請求項8】
前記テープ状基材は、
隣り合うテープとの間に間隙をもって巻き回わされた、パンケーキ状とされている、
請求項7に記載の熱処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−9218(P2012−9218A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142804(P2010−142804)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】