説明

ディジタルPWM手段

【課題】 簡単な構成で、短いPWM信号周期でも高い分解能のPWM信号であって、加えて、スイッチング周波数のスペクトル強度を低減するPWM信号を出力するディジタルPWM手段を実現すること。
【解決手段】
2値以上を持つ信号を出力する手段であって、そのうちの1つの値が継続する時間と該値の繰り返す周期の比率が、入力信号に応じて変化するディジタルPWM手段であって、該値の繰り返す周期を固定しないで変化させることによって、簡単な構成で、短いPWM信号周期でも高い分解能のPWM信号であって、加えて、スイッチング周波数のスペクトル強度を低減するPWM信号を出力するディジタルPWM手段を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング用PWM信号の高精度化に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術(例えば下記特許文献1参照)を使用したPWM信号を図9に示す。入力信号Dataに対して、その数値に対応するデューティ比率を持つ波形を示している。本図では、波形の1周期を64分割して、この単位でData=−31から31の入力に対して、
デューティ比率が変化するようなっている。具体的には、Data=−31に対して最小のデューティ比率、Data=0に対して50%のデューティ比率、Data=31に対して最大のデューティ比率になるよう出力する様子を示している。
【0003】
本図においては、波形の低いレベルから高いレベルに立ち上がる部分から、次の立ち上がり部分までの1周期をPWM信号周期として、Dataの値に関わらず固定している。Data=−31から31までの入力信号値にしか対応できないので、6ビット分解能のPWM信号出力になっている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−88431
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の方法では、PWM信号の分解能がPWM信号の最小分解能に依存するという問題があった。PWM信号の分解能を上げるためには、PWM信号の周期を長くしてPWM信号として表現できる入力信号値の範囲を広げれば良いが、PWM信号周期を長くすると、本来の入力信号の周波数とPMW信号によるスイッチング周波数帯域が近づいて、PWM信号をローパスフィルタに通した時のS/N比が悪化するという不具合があり、PWM信号周期を長くできない。そのため、従来の方法では、短いPWM信号周期で高い分解能の信号を表現できないと言う問題があった。また、PWM信号周期が固定されているため、スイッチング周波数のスペクトル強度が強く、放射電磁雑音が大きいと言う問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明では、2値以上を持つ信号であって、そのうちの1つの値が継続する時間と、該値の繰り返す周期の比率が、入力信号に応じて変化するディジタルPWM手段であって、該値の繰り返す周期が変化するディジタルPWM手段にしたことによって、従来のPWM信号の最小分解能を超える分解能を表現するPWM信号を得ている。そのため、短い周期のPWM信号でも、高い分解能を表現できるようになっている。
【発明の効果】
【0007】
簡単な構成で、短いPWM信号周期でも高い分解能のPWM信号を表現できる。加えて、スイッチング周波数のスペクトル強度を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1はディジタルPWM手段の一実施形態を示す図である。アナログ信号、もしくは、多値のマルチビットディジタル信号(以降、MBD信号と略す)が入力信号として、ΔΣ変調手段21に入力される。ΔΣ変調手段21は、たとえば、10MHzのCLOCK信号入力毎、ΔΣ変調されたシングルビットストリーム信号(以降、SBS信号と略す)を出力する。この信号は、2値の出力信号、あるいは、それ以上の多値の出力信号の場合も可能である。このSBS信号が加算手段22に入力され、反転手段25の出力と足し合わされ、MBD信号として出力される。この出力が積分手段23に入力され、CLOCK入力毎、累積される。この積分手段23の出力は、比較手段24にて、入力信号値の大小に応じて2値を持つPWM信号に変換され出力される。このPWM信号出力は、遅延手段26に入力され、CLOCK1周期分遅れて反転手段25へ出力される。反転手段25では、入力信号論理を反転して加算手段22へ出力する。
【0009】
次に、図2に積分手段23の詳細を示す。入力信号をa(nT)とする。Tは、CLOCK信号の周期である。nは、クロックn個目の信号であることを示す。したがって、a(nT)は、時間n*Tでの、a信号の値を示す。積分手段23の入力であるa(nT)は、加算手段31にて遅延手段32の出力と足し合わされる。加算手段31の出力は、積分手段23の出力、すなわち、Σa(nT)として後段に出力される。加えて、遅延手段32へも入力され、CLOCK信号入力毎加算手段31出力を記憶して、その値を加算手段31へ出力する。これらの動作により、図2は全体として、入力信号a(nT)の積分を行うことになる。なお、必要に応じて、加算手段31の出力にリミッタを入れて、積分値の上限値、下限値を制限する場合もある。
【0010】
図3は、比較手段24の動作特性である。横軸を比較手段24の入力に、縦軸を比較手段24の出力にとっている。MBD信号が入力されて、その値がH以上ならば、+1を出力し、その値が−H以下ならば、−1を出力する。入力が−Hを超えて、+H直前までは、ヒステリシス特性があるため、2つの値は取りうる。すなわち、小さい値から大きい値に遷移するときは−1を、その逆の大きい値から小さい値に遷移するときは+1を出力する。
【0011】
さて図1にもどって、加算手段22、積分手段23、比較手段24、遅延手段26、反転手段25は、負帰還の閉ループを構成する。加算手段22の出力は、SBS信号の入力に対して、PWM信号出力の差を計算するので、両者の偏差を意味する。この偏差が積分手段23に入力されているので、閉ループとして動作した場合、偏差がゼロになる。すなわち、入力のSBS信号と出力のPWM信号が一致するような制御がかかる。したがって、SBS信号、さかのぼればΔΣ変調手段21の入力信号がPWM信号に変調されることになる。
【0012】
以下、閉ループの動作について詳細に説明する。PWM信号は、比較手段24に関する図3で説明したように−1、+1の値をとる。例えば、今、−1を出力しているとする。また、ΔΣ変調手段21の入力はゼロであり、SBS信号であるΔΣ変調手段21出力は、+1,−1を等確率に、かつ、ランダムに出力しているとする。このとき、加算手段22の反転手段25側入力は+1固定なので、加算手段22出力、すなわち、偏差は、+2、もしくは、0とをランダムに、かつ、等確率に発生出力する。平均すると1になる。この信号が積分手段23に入力されるので、概ね、積分手段23出力はCLOCK毎+1インクリメントする。比較手段24では、このインクリメントする値が+Hと等しくなった時、比較手段出力が+1になる。すなわちPWM信号出力が−1から+1へ反転する。+1になったことにより、今度は、偏差が−2、もしくは、0になり、平均的に−1になる。積分手段23では、CLOCK毎−1デクリメントして、比較手段24では、このデクリメントしている値が−Hと等しくなった時、比較手段出力が−1へ戻る。すなわち、PWM信号が−1に戻り、PWM信号の1周期が終了する。ΔΣ変調手段21の入力信号がゼロの場合、出力であるPWM信号は、+1が約2H個のCLOCK周期パルス幅、−1が約2H個のクロック周期パルス幅でデューティ50%のPWM信号となる。
【0013】
ΔΣ変調手段21の入力信号が変化する場合は、偏差が変化するため、ひいては、積分手段23の出力が変化するため、PWM出力信号の+1の幅、−1の幅が変化して、デューティ50%からずれる。また、+1の幅、−1の幅の合計、すなわち、PWM信号の1周期も、偏差、ひいては積分手段23出力に応じて変化する。したがって、PWM信号の周期は、従来例図9のように固定ではない。PWM信号の中心周期は図3の比較手段24の特性にあるパラメータHで決まるが、ゆらぎがある。この様子を図4に示す。あるHを定めると、PWM信号周期はToMAXとToMINの間をゆらいで変化する。
【0014】
図5は、図1のΔΣ変調手段の入力信号として、単一周波数の正弦波を入力させた場合のPWM信号出力のFFT結果である。以下のパラメータを使用した。
・ CLOCK周波数 12.5MHz
・ H=10
・ 入力信号周波数 1kHz
スイッチング周波数成分、すなわち、PWM信号周期成分は、約200kHzで幅を持ち、ゆらいでいることがわかる。また、低い周波数に行けば行くほど、特性カーブ、すなわち、ノイズ成分が−20dB/decで、左下がりになっている。したがって、PWM周期の成分から遠ざかるほど、高いS/N比を実現できていることがわかる。本波形では、12.5MHzのCLOCKに対して、約200kHzのスイッチング周波数であるので、CLOCK周期に対してPWM周期が約62.5倍しかない。従来例図9換算では、6ビット、1/64の分解能である。しかしながら、本実施例の図5の1kHz入力信号周波数では、入力信号ピークに対して、ノイズは100dB以下であり、1/10000の分解能があり、劇的に改善されていることがわかる。さらに低い周波数、例えば、1/10の100Hzを入力した場合には、さらに20dB改善され、すなわち、1/100000の分解能になる。
【0015】
上述のように、本実施例では、PWM信号周期、すなわち、2値のうち、例えば+1が現れる周期がゆらいで変化することによって、大幅にPWM信号出力の分解能が向上する。また、スイッチング周波数がゆらいでいるので、スペクトラムが拡散して放射電磁雑音を低減できる効果もある。
【0016】
図6は本発明であるディジタルPWM手段の他の一実施形態を示す図である。図6の中のディジタルPWM手段200は、図1にて説明した本発明実施形態のディジタルPWM手段の一部であって、加算手段22、積分手段23、比較手段24、遅延手段26、反転手段25からなる。図面を簡単化するためCLOCK信号を省略しているが、この部分は図1と同じ構成である。本実施形態は、このディジタルPWM手段200の外側に補償手段47を伴う負帰還の閉ループを設け、さらに高精度のPWM信号を出力できるようにしたものである。
【0017】
図6について詳細に説明する。加算手段42には、ディジタル信号である入力信号と反転手段45から入力があり、その加算結果を出力する。加算手段42の出力は、補償手段47に入力され、例えばPI(比例積分)補償され、出力される。この補償手段47の出力は、ディジタルPWM手段200に入力され、PWM信号が出力される。このPWM信号は、遅延手段46にて図示されないCLOCK信号周期分遅延されて、反転手段45へ入力される。反転手段45の出力は、加算手段42へ入力され、負帰還の閉ルーブを構成する。本実施形態のようにディジタルPWM手段200に加えて、もう1本の閉ループ制御を行うことにより、S/Nが10倍改善される。
【0018】
今までの実施形態の説明では、2値として、−1と+1を用いたが、これを0と1にレベルシフトさせても、効果は変わらない。
【0019】
図7は、本発明であるディジタルPWM手段の他の一実施形態を示す図である。図1に比較して、3値化手段58が追加になり、PWM信号出力が3値になっている。なお、簡単化のためCLOCK、ΔΣ変調手段21は、省略している。比較手段24出力は、図3にて説明したように+1,−1の2値になる。3値化手段58は、図8(a)に示す2値の比較手段24出力を受け、図8(b)のように、比較手段24出力の変化毎に一定時間の遅延時間を値0として挿入していく。したがって、3値になる。この遅延時間は、後段に接続される負荷駆動用スイッチング素子の遅延時間を想定して、数100nsから数μsに設定される。このスイッチング素子は直列に上下に接続されており、図8(c)、図8(d)の上側ON、下側ONの信号により、各々導通するよう制御される。
【0020】
図7では、後段に接続される負荷駆動用スイッチング素子の遅延時間を模擬する3値化手段58を含めて閉ループを構成しているので、遅延時間による誤差も含めて、加算手段22の入力信号に追随制御するPWM信号を出力する。3値である本実施形態においても図8(b)のように、例えば、+1のレベルがほぼ一定周期毎現れ、+1のレベルが継続する時間と+1のレベルが繰り返す周期の比率が、入力信号に応じて変化する。また、+1のレベルが繰り返す周期が、図1の実施形態と同様にゆらいで変化するので、効果も同等になる。
【0021】
今までの説明では、本発明の高分解能特性を強調するために加算手段22入力がSBS信号であるとして記述してきたが、MBD信号でも多ビットの高分解能信号であれば、本発明の効果を享受できる。
【0022】
以上、本発明者によってなされた発明の実施形態及び実施例を具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であるというのはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態におけるディジタルPWM手段を表したブロック図である。
【図2】図1にかかる積分手段の構成図である。
【図3】図1にかかる比較手段の動作特性図である。
【図4】図1にかかるPWM信号周期と比較手段パラメータHとの関係図である
【図5】図1にかかるPWM信号周波数解析特性図である。
【図6】本発明の他の実施形態におけるディジタルPWM手段を表したブロック図である。
【図7】本発明の他の実施形態におけるディジタルPWM手段を表したブロック図である。
【図8】図7にかかる信号の説明図である。
【図9】従来のPWM手段における入力データと出力波形の関係を表した波形図である。
【符号の説明】
【0024】
21 ΔΣ変調手段
22 加算手段
23 積分手段
24 比較手段
25 反転手段
26 遅延手段
31 加算手段
32 遅延手段
42 加算手段
45 反転手段
46 遅延手段
47 補償手段
58 3値化手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2値以上を持つ信号を出力する手段であって、そのうちの1つの値が継続する時間と該値の繰り返す周期の比率が、入力信号に応じて変化するディジタルPWM手段であって、該値の繰り返す周期が変化するディジタルPWM手段。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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