説明

ディスクブレーキ・パッド、パッド用裏金、及びパッド用裏金の製造方法

【課題】板厚を厚くすることなく大きな剪断力に耐えることができ、かつ、摩擦部材との接着強度を大幅に向上させることのできるパッド用裏金及びその製造方法を提供する。
【解決手段】一方の平面に摩擦部材9を取り付けるための摩擦部材取付面10aを備えた、ディスクブレーキ・パッドに使用されるパッド用裏金であって、前記摩擦部材取付面10aに前記摩擦部材側に突出する複数の突起12を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両、産業用機械などの制動に用いられるディスクブレーキに組み込まれたディスクブレーキ・パッドに関する。
また、ディスクブレーキ・パッドの摩擦部材を支持するパッド用裏金、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に使用されている一般的なディスクブレーキは、回転する車軸側に取り付けられて車軸と共に回転する円板状のブレーキディスクと、車両本体側に取り付けられてブレーキディスクの周縁部をその両側面から挟み込むキャリパーとを備えている。このキャリパーには、ブレーキディスクを挟んで隙間を空けて対向配置される一対のディスクブレーキ・パッドが設けられている。このディスクブレーキ・パッドは、平板形状のパッド用裏金と、摩擦部材とを備えて成り、このパッド用裏金の一方の平面がキャリパー側に取り付けられ、パッド用裏金の他方の平面には有機系複合材からなる摩擦部材が接着剤を介して取り付けられている。
【0003】
上述のキャリパーは、運転者がブレーキペダルを踏み込むと、油圧によってブレーキディスクをその両側から挟み込むようになっている。これにより、摩擦部材が回転するブレーキディスクを挟圧し、ブレーキディスクの回転運動エネルギーを摩擦熱に変換し、ブレーキディスクの回転数、すなわち、車軸の回転数を減少させることになる。
【0004】
このようなディスクブレーキでは、ブレーキの制動力がディスクブレーキ・パッドに直接作用することになる。より詳細には、ブレーキディスクと摩擦部材の摺動により生じる制動力は、パッド用裏金の板厚方向に剪断力として作用すると共に、パッド用裏金から摩擦部材を剥離させる方向にも作用する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車等の制動特性は、摩擦部材の摩擦性能の向上によって年々高くなっており、パッド用裏金に作用する剪断力も大きくなる。パッド用裏金の強度を増すために、例えばパッド用裏金の板厚を厚くすると、厚みが増す分だけ材料費が嵩み、重量も重くなり、ディスクブレーキも大型化する。
一方、ディスクブレーキ・パッドは、自動車等において重要保安部品であるため、特にパッド用裏金と摩擦部材の接着強度は十分に確保する必要がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、板厚を厚くすることなく大きな剪断力に耐え得ることができ、かつ、摩擦部材との接着強度を向上させることのできるパッド用裏金及びそのパッド用裏金の製造方法を提供することを目的とする。また、このパッド用裏金を用いたディスクブレーキ・パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、一方の平面に摩擦部材を取り付けるための摩擦部材取付面を備えた、ディスクブレーキ・パッドに使用されるパッド用裏金であって、前記摩擦部材取付面に前記摩擦部材側に突出する複数の突起を形成したことを特徴とする。
この構成によれば、複数の突起によってパッド用裏金の板厚方向に対する断面係数を大きくすることができると共に、前記摩擦部材の内方に入り込む複数の突起が摩擦部材とかみ合って摩擦部材を剥離させようとする制動力に対抗することができる。
【0008】
また、前記突起は、前記摩擦部材取付面の反対側の面を押圧部材で押圧して、摩擦部材取付面側に押し出して形成してもよい。
この構成によれば、一般プレス加工等によって突起を形成することができる。
【0009】
この場合において、前記突起は、ファインブランキングプレスによる順送り加工によって形成することができる。
この構成によれば、パッド用裏金の摩擦部材取付面に凹凸やバリ等を発生させることがない。
【0010】
また、前記突起の頂部には、前記突起の突出方向と反対方向に窪む凹部が形成することができる。
この構成によれば、凹部に摩擦部材を入り込ませることができる。
【0011】
さらに、一方の平面に摩擦部材を取り付けるための摩擦部材取付面を備えた、ディスクブレーキ・パッドに使用されるパッド用裏金の製造方法であって、前記摩擦部材取付面の反対側の面を押圧部材で押圧して、前記摩擦部材取付面に前記摩擦部材側に突出する複数の突起を形成することを特徴とする。
この製造方法によれば、例えばプレスによる順送り加工によって、摩擦部材取付面に複数の突起を簡単に形成することができる。
【0012】
また、前記突起は、ファインブランキングプレスによる順送り加工によって形成することもできる。
この製造方法によれば、摩擦部材取付面に凹凸やバリ等を発生させずに複数の突起を形成することができる。
【0013】
他方、一方の平面が摩擦部材を取り付けるための摩擦部材取付面として使用されるパッド用裏金を備えたディスクブレーキ・パッドであって、前記摩擦部材取付面の反対側の面を押圧部材で押圧して、前記摩擦部材取付面に前記摩擦部材側に突出する複数の突起を形成し、前記摩擦部材取付面に前記摩擦部材を取り付けたことを特徴とする。
この構成によれば、摩擦部材取付面に摩擦部材を取り付けた状態において、突起が摩擦部材の内方に位置するようにディスクブレーキ・パッドを構成することができる。
【0014】
さらに、前記突起は、ファインブランキングプレスによる順送り加工によって形成されていてもよい。
この構成によれば、取り付けられる摩擦部材の取付平面とパッド用裏金の摩擦部材取付面の平面とを密着させ、接着強度の高いディスクブレーキ・パッドを構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、パッド用裏金の摩擦部材取付面の反対側の面を押圧部材で押圧して、前記摩擦部材取付面に前記摩擦部材側に突出する複数の突起を形成しているので、以下の効果を有する。
(1)パッド用裏金の板厚方向に対する断面係数が大きくなり、パッド用裏金に作用する剪断応力に十分に対抗することができる。
(2)複数の突起を押圧部材によって押し出すことにより、パッド用裏金の強度が大幅に強くなる。これにより、大きな剪断応力に対抗することができるので、パッド用裏金の板厚を厚くすることが必要なく、パッド用裏金の材料費を低減させることができる。また、パッド用裏金の板厚を厚くすることで問題となるディスクブレーキの大型化を防ぐことができる。
(3)摩擦部材を摩擦部材取付面に接着する際に、摩擦部材の内方に複数の突起が入り込むようになるので、この複数の突起が摩擦部材とかみ合って摩擦部材を剥離させようとする制動力に対抗することができる。
(4)摩擦部材とパッド用裏金との接着面積を広くすることができるので、接着強度を高めることができる。また、雨水等の進入等によって錆などの腐食が生じた場合であっても、接着強度をできるだけ高い状態で維持することができる。
(5)複数の突起の体積の分だけ摩擦部材の使用量を少なくすることができる。そのため、摩擦部材の材料費を低減させることができる。
【0016】
また、複数の突起は、ファインブランキングによる順送り加工によって形成されているので、突起を設けるための加工によって、摩擦部材取付面に凹凸やバリ等を発生させることがない。そのため、摩擦部材取付面の平面度を高めることができ、摩擦部材の取付面の平面と隙間なく密着することができる。そのため、摩擦部材取付面と摩擦部材とを接着剤等でより強く接着することができ、摩擦部材を剥離させようとする制動力に対抗することができる。
また、突起の頂部には、前記突起の突出方向と反対側の方向に窪む凹部が形成されているので、摩擦部材を摩擦部材取付面に溶着させる際に、摩擦部材がこの凹部に入り込むことになる。そのため、この凹部とこの凹部に入り込んだ摩擦部材が、摩擦部材を剥離させようとする制動力に対してさらに対抗することができるようになる。
【0017】
一方、パッド用裏金の製造方法において、前記摩擦部材取付面の反対側の面を押圧部材で押圧するときに、ファインブランキングによる順送り加工によって前記摩擦部材取付面の平面を拘束しながら前記摩擦部材取付面に突部を形成することができるので、摩擦部材取付面に凹凸やバリ等を発生させることがなく、摩擦部材取付面の平面度を高めることができる。これにより、摩擦部材取付面の平面に摩擦部材の平面とを隙間なく密着させることができ、摩擦部材取付面と摩擦部材とを接着剤等でより強く接着することができる。その結果、摩擦部材を剥離させようとする制動力に対抗することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係るパッド用裏金について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るパッド用裏金を使用したディスクブレーキの概要図である。
【0019】
自動車等に用いられるディスクブレーキ1は、図1に示すように、車軸5と共に回転可能なブレーキディスク2と、このブレーキディスク2の周縁部に配置されたキャリパー3とを備えている。
ブレーキディスク2は、図1に示すように、中央部にハブ2cを有する円板状に形成されており、この円板の外周縁部に後述する摩擦部材が摺動するための2つの平面部2a,2bを備えている。このブレーキディスク2の中央部のハブ2cには、板厚方向に貫通する4つの取付孔4が設けられており、この取付孔4が車軸5側から突出する4本のスタッド6に挿通されている。これにより、ブレーキディスク2は、車軸5と共に回転するようになっている。
キャリパー3は、図1に示すように、ブレーキディスク2の平面部2a,2bを外側から挟むように構成されており、その内側(平面部2a,2bと対向する側)には、ディスクブレーキ・パッド7がそれぞれ取り付けられている。また、キャリパー3の外側には、ディスクブレーキ・パッド7をブレーキディスク2の板厚方向へ移動可能に案内するためのブラケット8が設けられている。
【0020】
また、上述のキャリパー3には、油圧等で移動する図示しないピストンが設けられている。このピストンは、運転者がブレーキペダルを踏み込んだときに、ディスクブレーキ・パッド7をブレーキディスク2に向けて押圧するようになっており、押圧されたディスクブレーキ・パッド7は、ブラケット8によって案内されてそれぞれの平面部2a,2bとそれぞれ当接することになる。
【0021】
図2(a)はディスクブレーキ・パッド7の正面図、図2(b)はディスクブレーキ・パッド7の下側面図であって、その一部を断面で示した図、図2(c)は図2(b)の断面の一部拡大図である。このディスクブレーキ・パッド7は、摩擦部材9と、この摩擦部材9が取り付けられるパッド用裏金10とで構成されている。このディスクブレーキ・パッド7は、図2(a)に示すように、ブレーキディスク2の外周縁部の外形形状に合わせて湾曲した弓形形状に形成されている。
【0022】
摩擦部材9は、図2(b)に示すように、摺動平面9a及びこの摺動平面9aと反対側の面である取付面9bを有する平板状に形成されており、この摺動平面9aがブレーキディスク2の平面部2aまたは2bに押圧されて摺動するようになっている。
【0023】
図3(a)はディスクブレーキ・パッド7に使用されるパッド用裏金10の正面図、図3(b)はパッド用裏金10の下側面図であって、その一部を断面で示した図、図3(c)は図3(b)の断面の一部拡大図である。
パッド用裏金10は、図2(b)及び図3(b)に示すように、摩擦部材取付面10a及びこの摩擦部材取付面10aと反対側の面である取付面10bを有する平板状に形成されており、この摩擦部材取付面10aには、図2(a),(b),(c)に示すように、摩擦部材9の取付面9bが接着剤等を用いて接着されている。一方、パッド用裏金10の取付面10bは、キャリパー3に取付られている。
【0024】
このパッド用裏金10には、図3(a)及び図3(b)に示すように、板厚方向に貫通する4つのモールド孔11と、摩擦部材取付面10aから摩擦部材9の内方に向けて突出する複数の突起12とが形成されている。モールド孔11の内部には、図2(b)に示すように、モールドされる摩擦部材9が入り込むようになっている。
【0025】
突起12の外形形状は、図2(a)〜図2(c)に示すように、平面視において丸形状であり、突起12の側面側から見て、略矩形形状を成している。この突起12の角部は、C面取り又はR面取りを施していてもよく、故意に角張らせていてもよい。また、突起12は、この突起12の先端に向かって徐々に径が小さくなるように形成してあってもよい。この突起12は、詳細は後述するが、取付面10bの側から板厚方向に向けて打ち込まれるピン(押圧部材)によって形成されており、取付面10bには、このピンを打ち込むことにより形成される溝部13がある。この溝部13の凹んだ部分の体積と突起12の突出した部分の体積とは、ほぼ同じ体積になるように形成されている。なお、突起12の寸法としては、パッド用裏金10の大きさや板厚にもよるが、突起12の直径が4mm程度、突出長さが2mm〜5mm程度であることが好ましい。
【0026】
また、突起12の頂部には、詳細を図2(c)に示すように、摩擦部材取付面10aとほぼ平行な平面がそれぞれ形成されており、この頂部の平面には、突起12が突出する方向と反対側に向けて窪んだ凹部12aがそれぞれ形成されている。この凹部12aの角部は、C面取り又はR面取りを施していてもよく、故意に角張らせていてもよい。この凹部12aは、詳細は後述するが、突起12と同じ工程で同時に加工されている。
【0027】
このような突起12及び凹部12aの形状により、突起12は、摩擦部材9の内方に向けて入り込む(食い込む)ようになる。より詳細には、この摩擦部材9は、加熱されて摩擦部材取付面10aにモールドされており、パッド用裏金10の突起12に摩擦部材9が焼き付けられることにより、突起12と作用し、周辺にかかる圧力により、突起12が摩擦部材9に入り込み、摩擦部材9と突起12が強固に接着される。このことにより、パッド用裏金10と摩擦部材9が噛み合い、接着効果が拡大される。また、パッド用裏金10と摩擦部材9との接触面積が広くなり、剥離を防止することができる。
【0028】
一方、パッド用裏金は、図4及び図5に示すように、モールド孔11を設けずにディスクブレーキ・パッドに使用することができる。ここで、図4(a)はモールド孔を設けていないディスクブレーキ・パッド7の正面図、図4(b)はディスクブレーキ・パッド7の下側面図であって、その一部を断面で示した図である。また、図5(a)はディスクブレーキ・パッド7に使用されるパッド用裏金10の正面図、図5(b)はパッド用裏金10の下側面図であって、その一部を断面で示した図である。
【0029】
このようにパッド用裏金10の摩擦材取付面10aに突起12を設けることにより、パッド用裏金10全体の剛性が向上する。また、モールド孔11を設けないことにより、モールド孔11の断面に発生する錆の問題もなくなる。
【0030】
次に、パッド用裏金10を製造するための製造装置、および製造方法について説明する。図6(a)はファインブランキングプレスによる順送り加工に使用する製造装置(金型)の正面図、図6(b)は(a)の断面図である。また、図7(a)、(b)は、ファインブランキングプレスによる順送り加工における製造工程を示す概要図である。
【0031】
パッド用裏金10に形成されたモールド孔11、突起12、および凹部12aは、ファインブランキングプレスによる順送り加工によって形成されている。
ここで、ファインブランキングプレスによる順送り加工について簡単に説明する。この加工方法は、被加工材を高精度で打抜くことで部品を一気に仕上げることができるものであり、このファインブランキングプレスによる順送り加工によれば、通常のプレス加工による部品に必要な外枠や孔部分への切削加工やフライス加工などの二次加工をなくすことができる。
より詳細には、通常のプレス加工は、パンチとダイの組み合わせによって打抜きを行うものであり、パンチが下降しダイ上の材料に接触し加圧されると、材料は曲げを受けて変形し、次に剪断過程を経て破断を生じ、パンチが材料を通り抜けないうちに打抜きが完了する。そのため、「ダレ・かえり(バリ)が大きい」、「破断面が多く、剪断面が少ない」、「切断面が材料面に対して垂直でない」「抜いた製品の平面が平らでなく、湾曲している」などの問題点を有しており、多くの場合二次加工が必要になる。
これに対し、ファインブランキングプレスによる順送り加工は、打抜きされる材料の、剪断部分における材料の流れの制御を行って打抜く加工方法であり、クリアランスの極端に小さいパンチとダイにより、材料の内部に高い圧縮応力を生じさせ、材料の延性を高めて割れの発生を防ぎ、破断のない垂直で美しい剪断面を得ることができる。
【0032】
ファインブランキングプレスによる順送り加工の製造装置50は、図6(a)、(b)に示すように、上型51と下型52とを備えて成り、この上型51と下型52との間を、図6(a)の紙面左側から右側に矢印Xの方向に向けてコイル材53が順次送られてゆくようになっている。なお、上型51は固定されており、下型52は上下方向に移動可能になっている。また、コイル材53の上側面53aが、パッド用裏金10の摩擦部材取付面10aとなる。
【0033】
この製造装置50は、図6(b)に示すように、主に以下の部品を備えている。
(1)突起12を形成する部品
・下型52側に設けられて、コイル材53を押し出すためのダボパンチ54(ピン)。
・上型51側に設けられて、ダボパンチ54を受けるためのダボ受け55。
【0034】
(2)モールド孔11を形成する部品
・上型51側に設けられて、コイル材53を打ち抜くためのピアスパンチ57。
・下型52側に設けられて、コイル材53から打ち抜いた後のスクラップを押し出すためのイジェクターパンチ58。
・下型52側に設けられて、打ち抜いた後のスクラップを押し出す圧力をかけるためのピアスプレッシャーピン59。
【0035】
(3)コイル材53の位置決めをする部品
・下型52側に設けられ、打ち抜いたモールド孔11でコイル材53の送り方向をガイドし、モールド孔11のバリを潰すためのパイロット部材56。
【0036】
(4)パッド用裏金10の外形を形成する部品
・上型51側に設けられ、パッド用裏金10の外形を打ち抜くためのメインパンチ60。
・下型52側に設けられ、打ち抜いたパッド用裏金10を押し出す逆押さえ部材61。
・下型52側に設けられ、打ち抜いたパッド用裏金10を押し出す圧力をかけるためのカウンタープレッシャーピン62。
【0037】
(5)その他の部品
・コイル材53をガイドするための入り口ガイド部材63、及び出口ガイド部材64。
・上型51側の各パンチを位置決めするための上パンチプレート65。
・打ち抜いた部材を型から引き剥がすためのストリッパプレート66。
・製品加工を行うためのダイプレート67。
・イジェクターパンチの止め板である下パンチプレート68。
・下型52の移動を案内するガイドポスト69。
【0038】
パッド用裏金10は、図7(a)及び図7(b)に示すように、全部で3つの工程A,B,Cによって完成する。
第1工程Aでは、下型52が上方に向けて移動して、ダボパンチ54(ピン)及びダボ受け55によって突起12が形成されると共に、ピアスパンチ57によってモールド孔11が打ち抜かれる。この工程では、コイル材の上側面53a(摩擦部材取付面10a)が上型51によってその平面を拘束された状態で加工が行われることになる。これにより、上側面53aには、その平面の加工によって凹凸やバリなどが生じないことになる。また、突起12を形成する際に、凹部12aも同時に形成している。
【0039】
第2工程Bでは、コイル材53が1工程分送られた後に、モールド孔11に位置決め用のパイロット部材56が挿入され、コイル材53の位置が定められる。これは、順送りされたコイル材53の位置を精度良く決定するためのものである。なお、パッド用裏金10にモールド孔11を設けない場合には、コイル材53の位置決め用として、コイル材53における、パッド用裏金10の打ち抜き予定部の外側に孔(図示せず)を設け、この孔に挿入される、別のパイロット部材(図示せず)を下型52側に設け、この別のパイロット部材を上記孔に挿入して、コイル材53を位置決めすればよい。
【0040】
第3工程では、コイル材53がさらに1工程分送られた後に、第2工程におけるパイロット部材56でコイル材53の位置が定められ、その後、メインパンチ60及びダイプレート67と逆押さえ部材61とによってパッド用裏金10の外形がコイル材53から打ち抜かれる。
【0041】
次に、本発明の実施の形態に係るパッド用裏金10の強度試験結果について、図8(a)〜図8(h)を用いて説明する。なお、この試験では、パッド用裏金10の代わりに、図8に示す矩形形状(縦方向長さ60mm、横方向長さ190mm、板厚5.5mm)の試験片200a〜200hを用いている。試験内容としては、試験片200a〜200hの横方向の両側を下側から支持した状態で、試験片200a〜200hの中央部に上側から荷重をかけ、この中央部が下側に4mm撓むときの荷重Fa〜Fhを測定したものである。この試験における支持点は、横方向の両端部をその全長に亘って下側から支持しており、この支持点のピッチは、136mmである。
【0042】
図8(a)に示す試験片200aには、モールド孔11が横方向に4つ並べて設けられており、かつ、突起12は設けられていない。この試験片200aでの測定結果は、荷重Fa=474kgfであった。
図8(b)に示す試験片200bには、モールド孔11が中央部から遠い位置に2つ設けられており、かつ、突起12は設けられていない。この試験片200bでの測定結果は、荷重Fb=526kgfであった。
図8(c)に示す試験片200cには、モールド孔11が中央部から近い位置に2つ設けられており、かつ、突起12は設けられていない。この試験片200cでの測定結果は、荷重Fc=489kgfであった。
図8(d)に示す試験片200dには、モールド孔11及び突起12が設けられていない。この試験片200dでの測定結果は、荷重Fd=534kgfであった。
【0043】
図8(e)に示す試験片200eには、モールド孔11が横方向に4つ並べて設けられており、かつ、複数の突起12も設けられている。すなわち、試験片200aに複数の突起12を設けたものである。この試験片200eでの測定結果は、荷重Fe=663kgfであった。
図8(f)に示す試験片200fには、モールド孔11が中央部から遠い位置に2つ設けられており、かつ、複数の突起12も設けられている。すなわち、試験片200bに複数の突起12を設けたものである。この試験片200fでの測定結果は、荷重Ff=689kgfであった。
図8(g)に示す試験片200gには、モールド孔11が中央部から近い位置に2つ設けられており、かつ、複数の突起12も設けられている。すなわち、試験片200cに複数の突起12を設けたものである。この試験片200gでの測定結果は、荷重Fg=670kgfであった。
図8(h)に示す試験片200hには、モールド孔11は設けられていないが、複数の突起12は設けられている。すなわち、試験片200dに複数の突起12を設けたものである。この試験片200hでの測定結果は、荷重Fh=695kgfであった。
【0044】
これらの測定結果から、以下のことが判明した。
(1)突起12を設けることによる剛性の向上
複数の突起12を設けた場合と設けなかった場合とを比較すると、
(A)Fe−Fa=+189kgf(図8(a)と図8(e)参照)
(B)Ff−Fb=+163kgf(図8(b)と図8(f)参照)
(C)Fg−Fc=+181kgf(図8(c)と図8(g)参照)
(D)Fh−Fd=+161kgf(図8(d)と図8(h)参照)
となり、突起12を設けた方が全体的に強度が向上することが判明した。
【0045】
(2)モールド孔11をなくすことによる剛性の向上
モールド孔11のない場合とモールド孔11を4つにした場合とを比較すると、
(A)Fd>Fb>Fc>Fa(図8(a)〜図8(d)参照)
Fd−Fa=+60kgf
Fc−Fa=+15kgf
Fb−Fa=+52kgf
(B)Fh>Ff>Fg>Fe(図8(e)〜図8(h)参照)
Fh−Fe=+32kgf
Fg−Fe=+ 7kgf
Ff−Fe=+26kgf
となり、モールド孔11が少ない方が全体的に強度が向上することが判明した。
【0046】
(3)モールド孔11の位置と剛性との関係
中心線に対して対称に2つのモールド孔11を設ける場合であって、モールド孔11のピッチが大きい場合と小さい場合とを比較すると、上記(2)の(A),(B)より、モールド孔11が中央部から遠い位置(モールド孔11のピッチが大きくなる位置)にある方が強度が高いことが判明した。
【0047】
上述の結果から、パッド用裏金10の剛性を高めたい場合には、(1)突起12を設けること、(2)モールド孔11をなくすこと、(3)モールド孔11を設ける場合には、ピッチを大きくすること、が好ましいことが明確になった。
【0048】
本発明の実施の形態に係るパッド用裏金10によれば、複数の突起12を形成することにより、この複数の突起12が摩擦部材9とかみ合って摩擦部材9を剥離させようとする制動力に対抗することができる。
また、摩擦部材9とパッド用裏金10との接着面積を広くすることができるので、接着強度を高めることができる。これにより、雨水等の進入等によって錆などの腐食が生じた場合であっても、接着強度をできるだけ高い状態で維持することができる。
さらに、パッド用裏金10の板厚方向に対する断面係数が大きくなり、パッド用裏金10に作用する剪断応力に十分に対抗することができる。
本実施の形態では、パッド用裏金10の板厚を厚くする必要がないため、板厚を厚くして強度アップを図ったものに比べて、パッド用裏金10の材料費を約30%以上大幅に削減することができ、軽量化が図れる。
さらにまた、複数の突起12の体積分だけ摩擦部材9の使用量を少なくすることができるので、摩擦部材9のコストを低減させることができる。
【0049】
複数の突起12は、ファインブランキングプレスによる順送り加工によって摩擦部材取付面10aの平面を拘束しながら塑性変形させることにより形成されているので、突起12を設けるための加工によって、摩擦部材取付面10aに湾曲、凹凸、バリ等を発生させることがなく、加工前の平面の平面度をそのまま維持することができる。
さらに、複数の突起12の頂部には、突起12の突出方向と反対側の方向に窪む凹部12aが形成されているので、摩擦部材9を摩擦部材取付面10aに焼き付ける際に、摩擦部材9がこの凹部12aに入り込み、摩擦部材9と突起12とが噛み合うことにより、剥離させようとする制動力に対してさらに対抗することができる。
また、ファインブランキングプレスによる順送り加工によって突起12と凹部12aとを一つの工程で形成することができる。
さらにまた、モールド孔11を設けないことにより、モールド孔11の断面に発生する錆の問題をなくすことができる。
【0050】
以上、本発明を実施するための最良の形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
本実施の形態では、突起12が平面視において丸形状であったが、これに限定されず、それ以外の形状、例えば三角等の多角形、矩形、楕円形、台形、ひょうたん形等であってもよい。また、押圧部材で押圧する手段は、ファインブランキングプレスによる順送り加工に限定されず、例えば冷間プレス、熱間プレス等、一般プレス成形であってもよい。さらには、鍛造プレス加工などによって突起12を形成してもよい。プレス成形の場合には、いずれの場合も、パッド用裏金10に形成される突起12及び溝部13の各中心線が一致している。ただし、この実施の形態に限定されず、溝部13の中心線と突起12の中心線とがずれる形態であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係るパッド用裏金を使用したディスクブレーキの概要図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るパッド用裏金を使用したブレーキ・パッドであって、(a)は正面図、(b)は一部を断面で表した下側面図、(c)は(b)の突起を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るパッド用裏金であって、(a)は正面図、(b)は一部を断面で表した下側面図、(c)は(b)の突起を拡大して示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るパッド用裏金を使用したブレーキ・パッドであって、図2のモールド孔を設けていないものを示しており、(a)は正面図、(b)は一部を断面で表した下側面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るパッド用裏金であって、図3のモールド孔を設けていないものを示しており、(a)は正面図、(b)は一部を断面で表した下側面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るパッド用裏金をファインブランキングによる順送り加工によって製造するための金型の概要図であって、(a)は製造装置の正面図、(b)は(a)の断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るパッド用裏金をファインブランキングによる順送り加工によって製造したときのコイル材の概要図であって、(a)はコイル材が工程毎に加工されている状態を示す正面図、(c)は(b)の断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るパッド用裏金の試験を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ディスクブレーキ
2 ブレーキディスク
2a,2b 平面部
3 キャリパー
4 取付孔
5 車軸
6 スタッド
7 ディスクブレーキ・パッド
8 ブラケット
9 摩擦部材
9a 摺動平面
9b 取付面
10 パッド用裏金
10a 摩擦部材取付面
10b 取付面
11 モールド孔
12 突起
12a 凹部
13 溝部
50 製造装置
51 上型
52 下型
53 コイル材
53a コイル材の上側面
54 ダボパンチ(押圧部材)
55 ダボ受け
56 パイロット部材
57 ピアスパンチ
58 エジェクターパンチ
59 ピアスプレッシャーピン
60 メインパンチ
61 逆押さえ部材
62 カウンタープレッシャーピン
63 入り口ガイド部材
64 出口ガイド部材
65 上パンチプレート
66 ストリッパプレート
67 ダイプレート
68 下パンチプレート
69 ガイドポスト
200a〜200h 試験片
A 第1工程
B 第2工程
C 第3工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の平面に摩擦部材を取り付けるための摩擦部材取付面を備えた、ディスクブレーキ・パッドに使用されるパッド用裏金であって、前記摩擦部材取付面に前記摩擦部材側に突出する複数の突起を形成したことを特徴とするパッド用裏金。
【請求項2】
前記突起は、前記摩擦部材取付面の反対側の面を押圧部材で押圧して、摩擦部材取付面側に押し出して形成したことを特徴とする請求項1に記載のパッド用裏金。
【請求項3】
前記突起は、ファインブランキングプレスによる順送り加工によって形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパッド用裏金。
【請求項4】
前記突起の頂部には、前記突起の突出方向と反対方向に窪む凹部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のパッド用裏金。
【請求項5】
一方の平面に摩擦部材を取り付けるための摩擦部材取付面を備えた、ディスクブレーキ・パッドに使用されるパッド用裏金の製造方法であって、前記摩擦部材取付面の反対側の面を押圧部材で押圧して、前記摩擦部材取付面に前記摩擦部材側に突出する複数の突起を形成することを特徴とするパッド用裏金の製造方法。
【請求項6】
前記突起は、ファインブランキングプレスによる順送り加工によって形成されることを特徴とする請求項5に記載のパッド用裏金の製造方法。
【請求項7】
一方の平面が摩擦部材を取り付けるための摩擦部材取付面として使用されるパッド用裏金を備えたディスクブレーキ・パッドであって、前記摩擦部材取付面の反対側の面を押圧部材で押圧して、前記摩擦部材取付面に前記摩擦部材側に突出する複数の突起を形成し、これら突起を形成した前記摩擦部材取付面に前記摩擦部材を取り付けたことを特徴とするディスクブレーキ・パッド。
【請求項8】
前記突起は、ファインブランキングプレスによる順送り加工によって形成されていることを特徴とする請求項7に記載のディスクブレーキ・パッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−198481(P2007−198481A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17058(P2006−17058)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【特許番号】特許第3857300号(P3857300)
【特許公報発行日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(506029934)
【Fターム(参考)】